次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係る移植機の全体的な構成を示す側面図、図2は同じく平面図である。
図3は移植部の背面図、図4は移植爪の側面図、図5は移植機の動力伝達機構を示すスケルトン図である。
図6は動力断接手段およびカム機構の一部断面平面図、図7は動力断接手段とカム機構と潅水機構の側面図である。
図8はカム機構の側面図、図9は潅水機構の平面図、図10はカム機構の側面図である。
図11は動力断接手段に備える駆動スプロケットの位置保持機構の側面図である。
まず、本発明の一実施例に係る移植機の全体的な構成について説明する。
図1、図2に示すように、移植機1においては、機体フレーム2の前部上にエンジン3が載置され、前後中途部上に走行用トランスミッション4Aと植付用トランスミッション4Bとを備えるミッションケース5が配設されている。機体フレーム2の後部上にはハンドル部材となるハンドルフレーム6が連設され、これが機体フレーム2より後方へ略水平方向に延設されている。そして、該ハンドルフレーム6の前後中途部上に苗供給部7が備えられ、後部に運転操作部9が構成されている。
前記機体フレーム2の前部には左右方向に延設された前輪支持軸10が左右中途部で支持されている。前輪支持軸10の左右両側には前輪支持フレーム11・11の一端が取り付けられ、該前輪支持フレーム11・11の他端に前輪12・12が回転自在に支持されている。
また、前記機体フレーム2の前後中途部付近では、ミッションケース5の走行用トランスミッション4Aから後輪駆動軸13が左右方向に突出されている。後輪駆動軸13の左右両側には駆動ケース14の一端が連設され、該駆動ケース14の後端に後輪15が回転自在に支持されている。
そして、前記前輪支持フレーム11と駆動ケース14とがリンク機構を介して連結されるとともに、機体フレーム2の下部に設けられた油圧シリンダ16と駆動ケース14とがリンク機構を介して連結されて、該油圧シリンダ16の伸縮動作により前輪支持フレーム11と駆動ケース14とがそれぞれ前輪支持軸10と後輪駆動軸13とを中心に回動可能とされている。これにより、走行機体が昇降可能とされている。
また、前記ハンドルフレーム6上の苗供給部7では、複数の苗搬送ポット17が長円形状に連設され、水平面上を回転可能とされている。各苗搬送ポット17はその底部に開閉可能な蓋体を有し、移植部20上方の適宜位置まで搬送されると、蓋体を開いて底部を開口し、該苗搬送ポット17内に保持された苗を落下させて移植部20に供給するように構成されている。
前記苗供給部7の左右側方および上方には苗載台18・18・19が配置されている。各苗載台18はハンドルフレーム6に取り付けられ、これに移植用の苗が載置されている。苗載台18上の苗は、移植作業時に作業者により苗載台18から順次空になった苗搬送ポット17に補給される。
前記移植部20は苗供給部7の下方であって、ミッションケース5の後方に配置されている。移植部20には左右一対の移植爪21L・21Rが設けられ、各移植爪21L・21Rが駆動機構30・30により前後開閉かつ上下昇降可能とされている。移植爪21L・21Rは上昇されるときに閉じられて、上昇端で前記苗供給部の苗搬送ポットから落下する苗を保持し、その先端が下降され圃場面に突入されて下降端に達したときに開かれて、苗を圃場面に植え付けるように構成されている。
そして、このように苗を苗供給部7の苗搬送ポット17から移植部20の左右の各移植爪21L・21Rに供給し、該移植爪21L・21Rで圃場面に植え付けたあとに、左右の移植爪21L・21Rの後方に配設された覆土輪23・23により苗の根部に土をよせて覆土が行われる。こうして、移植機1による一つの苗の移植が完了となる。
次に、前記移植部20の構成について詳細に説明する。図3、図4に示すように、移植部20には、苗を苗供給部7から圃場面へ搬送する左右一対の移植爪21L・21Rや、移植爪21L・21Rをそれぞれ駆動させる駆動機構30・30が設けられている。駆動機構30・30は、移植爪21L・21Rの左右一側にそれぞれ配置されたロータリケース32・32、移植爪21L・21Rの左右他側に配置された昇降ガイド33・33、これらを連結するアームやリンクなどから構成されている。
前記左右の各駆動機構30においては、機体フレーム2上のフレーム31に左右方向に突設された支点軸34の一端がロータリケース32内に突入されて、該支点軸34にロータリケース32が回転自在に支持されている。該ロータリケース32の外側側面の支点軸34外周部には従動スプロケット35が固設され、該スプロケット35を介してロータリケース32に植付用トランスミッション4Bからの動力が伝達されて、該ロータリケース32が支点軸34を中心として回転駆動するように構成されている。
前記ロータリケース32内では支点軸34に外嵌された第一歯車と、ロータリケース32に回転可能に軸支された第二歯車と、スプロケット35と反対側に突出された出力軸36に外嵌された第三歯車とが直列的に配置され、これらの歯車が順に噛合されている。そして、ロータリケース32外で出力軸36にアーム37の一端が固設されている。
ここで、前記第一歯車と第三歯車とは歯数が二対一となるように形成され、ロータリケース32が支点軸34に対して一回転すると、アーム37はロータリケース32とは逆方向に一回転する構成とされている。これにより、植付用トランスミッション4Bからの動力によりロータリケース32が回転駆動するとき、アーム37が機体に対して支点軸34を中心に回転揺動されるようになっている。
そして、前記アーム37の他端に連結軸39の一端が固設され、該連結軸39上に条幅に合わせて移植爪支持体40の一側(前側)が軸受を介して回転自在に支持されている。移植爪支持体40は左右のプレートから構成されており、左右のプレート間の連結軸39上に開閉カム41が固設されている。
前記移植爪支持体40の他側(後側)には苗供給部7からの苗を受ける漏斗状のカップ40aが形成され、該カップ40a下部に移植爪21が配置されている。カップ40aの前後中心から同距離だけ離れた前後位置には支点軸43・43が左右水平方向に設けられ、各支点軸43・43に移植爪21L(21R)の前後一端がそれぞれ支持されている。
前記移植爪21L(21R)は前後略対称に形成したくちばし状の爪部21a・21aからなり、これらを前後に合わせることで閉じた状態となって苗を保持し、前後に離間させることで開いた状態となって苗を落下させることができるように構成されている。前後の爪部21a・21aは、その上部がカップ40aの前後中央で左右両側に設けられた枢支軸44・44で枢支されて、前後に連結されている。そして、枢支軸44・44とカップ40a上部との間にばね49・49がその付勢力で枢支軸44・44を持ち上げるように介装され、これにより移植爪21が前後に爪部21a・21aを合わせて閉じられている。
また、前記移植爪21のうち開閉カム41側の爪部21aを支持する支点軸43上には当接アーム45の一端が枢支され、該当接アーム45の他端にローラ46が開閉カム41の外周に当接するように設けられている。こうして、爪部21aが開閉カム41の回転時にその外周形状に応じて回動する当接アーム45によって回動可能とされている。
なお、当接アーム45と爪部21a上部との間には爪開閉量調節機構47が設けられており、該爪開閉量調節機構47は当接アーム45と爪部21aの両者間にボルト48を螺装し、該ボルト48を回動することにより両者の間隔を調節して、爪部21aの回動量を調節できるように構成されている。
このようにして、爪部21aはばね49・49により移植爪21を閉じるように付勢されるとともに、その回動が当接アーム45にローラ46を介して当接する開閉カム41により規制されている。つまり、移植爪21は常に閉じ方向に付勢されるが、開閉カム41により当接アーム45を介して爪部21aが一時的に回動されることによって強制的に開くように開閉制御されている。
また、前記移植爪支持体40の前部に上方に延出する延出部40bが形成され、該延出部40bに昇降ガイド33に向かって突出するように支持軸50が設けられている。支持軸50の突出端にはローラ51が設けられ、これが上下方向に延設された昇降ガイド33内に転動可能に嵌入されて、昇降時に移植爪21をガイドするように構成されている。
このような構成において、移植部20では植付用トランスミッション4Bから駆動機構30に動力が伝達される際に、移植爪21L(21R)は上昇端で閉じられ、前後の爪部21a・21aの間に苗供給部からの苗が供給され保持される。この状態で移植爪21L(21R)がロータリケース32の回動に伴って昇降ガイド33に沿って下降され、下降端に至ると、圃場の土壌表面部に爪部21aが突入した状態で開閉カム41の回動により当接アーム45を介して爪部21aが支点軸43を中心として前後に回動されて、移植爪21L(21R)が開かれ、圃場面に苗が植え付けられる。植付後、更なるロータリケース32の回動によって移植爪21L(21R)は上昇され、上昇端に至るまでの過程で開閉カム41の回転により閉じられる。これが繰り返され、移植爪21L(21R)による苗の植付が行われる。
続いて、前記移植機の動力伝達機構について説明する。図5に示すように、駆動源となるエンジン3の動力は出力軸61から走行用トランスミッション4Aの入力軸62にプーリやベルトを介して伝達される。走行用トランスミッション4Aに入力された動力は、ギヤ機構などを介して変速されたあと、前記後輪駆動軸13に伝達され、さらに駆動ケース14に備えられたスプロケットやチェーンなどを介して後輪15に伝達される。
また、走行用トランスミッション4Aで変速された動力はその出力軸63から植付用トランスミッション4Bの入力軸64にプーリやベルトを介して伝達される。植付用トランスミッション4Bに入力された動力はギヤ機構などで変速されたあと、植付用駆動軸65に伝達される。植付用駆動軸65はミッションケース5の後上部から左右方向に突出され、該植付用駆動軸65を介して植付用トランスミッション4Bから苗供給部7と移植部20とに動力が伝達可能とされている。
すなわち、植付用トランスミッション4Bからの動力は、植付用駆動軸65の一端からスプロケットやチェーンなどからなる減速機構66やギヤ機構67を介して苗供給部7の入力軸68に伝達され、該入力軸68から駆動スプロケットと従動スプロケットとを介してこれらに巻回された長円形状に連設された苗搬送ポット17・17・・・に伝達される。こうして、苗搬送ポット17・17・・・が長円軌跡を描くように搬送され、前述のように適宜位置で苗搬送ポット17から移植部20の移植爪21L・21Rに苗が供給可能とされている。
また、植付用トランスミッション4Bからの動力は、植付用駆動軸65の他端からスプロケットやチェーンを介して移植部の左右の各移植爪21L・21Rに対し設けられた前記駆動機構30・30に伝達され、各駆動機構30により移植爪21L・21Rそれぞれに伝達される。こうして、移植爪21L・21Rが昇降ガイド33に沿って昇降可能とされるとともに、その昇降位置に応じて適宜開閉可能に、つまり上昇端では閉じて苗搬送ポット17から落下する苗を受けて保持し、下降端では開いて苗を圃場面に植え付けることができるように構成されている。
このような動力伝達機構において、植付用トランスミッション4Bと左右の移植爪21L・21Rの駆動機構30・30との間に、駆動機構30・30への動力の断接を行う左右一対の動力断続手段72・72が設けられ、動力断続手段72・72により左右の移植爪21L・21Rの駆動時期を変更することができるように構成されている。
次に、前記動力断続手段72・72について説明する。図6、図7に示すように、前記左右の動力断続手段72・72は植付用駆動軸65、本実施例では植付用駆動軸65に一体的に連結された延長軸65aに設けられている。延長軸65aは左右の駆動機構30・30の前方に配置され、該延長軸65aの左右両側に駆動機構30・30に動力を伝達するための伝動体として駆動スプロケット73・73が配置されている。駆動スプロケット73・73は延長軸65aに相対回転自在に遊嵌され、駆動機構30・30のロータリケース32・32に設けられた従動スプロケット35・35とチェーン74・74を介して連動連結されている。
前記左右の各駆動スプロケット73の左右一側にはクラッチ体75が配置されている。クラッチ体75は延長軸65aに相対回転不能に嵌合され、軸方向に摺動可能とされている。クラッチ体75は円錐形状の当接部75aと、該当接部75aの頂部に中央が位置する円盤形状の係合部75bとを備えて構成されている。係合部75bは係合孔75cを有して駆動スプロケット73側に配置され、該係合孔75cに駆動スプロケット73から突設される係合体となるクラッチピン73aがクラッチ体75の摺動位置に応じて係合可能とされている。
前記クラッチ体75の駆動スプロケット73と反対側にはクラッチバネ76が配置されている。クラッチバネ76は延長軸65aに嵌合され、当接部75aに接して設けられている。該クラッチバネ76によりクラッチ体75は駆動スプロケット73側に付勢され、係合孔75cでクラッチピン73aと係合する係合位置まで摺動されるようになっている。すなわち、クラッチ体75は通常ではクラッチピン73aと係合しない空転位置ではなく、係合位置に保持されるようになっている。
よって、クラッチ体75が係合孔75cでクラッチピン73aとが係合する場合には、クラッチ体75と駆動スプロケット73とが一体となり、延長軸65a(植付用駆動軸65)とともに一体的に回転する。この状態が動力接続状態であり、植付用駆動軸65から駆動機構30に動力が伝達されて、移植爪21L(21R)が駆動されることになる。一方、クラッチ体75が係合孔75cでクラッチピン73aと係合しない場合には、駆動スプロケット73は延長軸65a(植付用駆動軸65)に対し空転する。この状態が動力切断状態であり、植付用駆動軸65から駆動機構30に動力は伝達されず、移植爪21L(21R)は停止した状態に維持される。このようにして、左右の動力断続手段72・72が構成されている。
またさらに、図6、図11に示すように、左の移植爪21Lの駆動機構30に連動連結する駆動スプロケット73にはピン77が側方に突出するように立設され、該ピン77にブラケット78が回動可能に支持されている。そして、該ブラケット78と機体フレーム2に設けられたアーム25との間にバネ79が介挿されて、その付勢力により駆動スプロケットを所定の回転位置に保持することにより、クラッチ体75とクラッチピン73aが係合解除状態のとき、移植爪21Lが上昇端、すなわち苗供給部7から苗を供給される苗供給位置に維持されるように構成されている。なお図示しないが、右の移植爪21Rの駆動機構30に連動連結する駆動スプロケット73も前記同様の構造を有して、クラッチ体75とクラッチピン73aが係合解除状態のとき、移植爪21Lが上昇端に位置した状態に維持されるように構成されている。このように構成される駆動スプロケット73の位置保持機構によって、二つの移植爪21が同時に圃場面に突き刺さることがなく、作業開始時に一方の移植爪21L(21R)が下降位置であっても、寸動などさせて上昇させれば、他方は下降することがなく、移植爪21L(21R)を損傷させることを回避できる。
以上のように、苗供給部7から供給される苗を圃場面に植え付ける左右一対の移植爪21L・21Rと、各移植爪21L・21Rを駆動する左右の駆動機構30・30とを備え、各駆動機構30に駆動源となるエンジン3からの動力を一本の植付用駆動軸65を介して伝達して、左右の移植爪21L・21Rを駆動する移植機において、前記植付用駆動軸65、ここでは延長軸65aの両側に、各移植爪21L・21Rの駆動機構30・30に対応する動力断接手段72・72を設けたことから、左右の移植爪21L・21Rを独立して駆動することが可能となり、動力断接手段72・72で植付用駆動軸65から左右の各駆動機構30・30への動力を適宜断接することによって、左右の移植爪21L・21Rによる植付位置を機体の進行方向に対し適宜ずらして苗を植え付けることができる。したがって、左右の移植爪21L・21Rによる植付後の苗と苗との間に十分な間隔を確保して苗を生育することが可能となり、苗の生育にばらつきが生じるの防止することができる。
また、前記動力断接手段72は植付用駆動軸65、ここでは延長軸65aに軸方向に相対回転不能かつ摺動可能に設けたクラッチ体75と、延長軸65a上に遊嵌した駆動スプロケット(伝動体)73に設けたクラッチピン(係合体)73aとを係合可能に備え、該駆動スプロケット(伝動体)73を駆動機構30と連動連結して構成したことから、クラッチ体75とクラッチピン(係合体)73aとを係合または係合解除することで、駆動スプロケット(伝動体)73と延長軸65aとを相対回転不能または相対回転可能として、延長軸65aから駆動機構30への動力を断接し、左右の各移植爪21L・21Rを駆動または停止させることが可能となる。
また、前記動力断接手段72の駆動スプロケット73(伝動体)にその位置保持機構を設け、該駆動スプロケット73に設けたクラッチピン(係合体)73aとクラッチ体75とが係合解除状態のとき、該位置保持機構により駆動スプロケット73(伝動体)の位置を保持し、駆動機構30を介して前記移植爪21L・21Rをその上昇端となる苗供給位置に維持するように構成したことから、動力断接手段72により非駆動側とされる移植爪21L(21R)が圃場面に突き刺さるのを防止して、移植爪21L(21R)の損傷を回避することができる。また、苗供給部7から移植爪21L(21R)への苗の供給が良好となる。さらに、クラッチ体75とクラッチピン(係合体)73aとの係合状態の切替を確実に行うことができる。
そして、前記左右の動力断続手段72・72のクラッチ体75とクラッチピン73aとの係合状態を切り替え、植付用駆動軸65から左右の各駆動機構30への動力を断接するためのカム機構80が延長軸65aに設けられている。前記カム機構80は、前記延長軸65aと平行に配置して駆動されるカム軸81と、該カム軸81上に左右のクラッチ体75・75と対向するように設けた左右のカム82L・82Rとを備え、該カム軸81に左右のカム82L・82Rを相対回転不能に取り付けて構成されている。
前記カム82L・82Rは突出部82La・82Raと切欠部82Lb・82Rbとを備え、側面視で略半月状に形成されている。そして、該カム82L・82Rはカム軸81の回転に伴って一体的に回転される際に、突出部82La・82Raで係合位置にあるクラッチ体75・75の当接部75a・75aに当接し、さらなる回転によりクラッチ体75・75をクラッチバネ76・76の付勢力に抗して駆動スプロケット73と反対側に押しながら空転位置まで摺動させて、クラッチ体75とクラッチピン73aとの係合を解除させるようになっている。
左右のカム82L・82Rはカム軸81周りに互いの位相を180度ずらしてカム軸81に固定され、カム軸81の回転によって一方のカム82L(82R)が突出部82La(82Ra)でクラッチ体75の当接部75aと当接し、クラッチ体75とクラッチピン73aとを係合解除状態とする回転位置となる場合に、他方のカム82R(82L)は切欠部82Rb(82Lb)のためにクラッチ体75に作用しないので、クラッチ体75がクラッチバネ76の付勢力により摺動されて当接部75aが移動し、クラッチ体75とクラッチピン73aとを係合状態とする回転位置となるように配置されている。
ここで、左右のカム82L・82Rのうち、一方のカム82L(82R)はキー85を介してカム軸81に位相角度変更可能、かつ、着脱可能に取り付けられている。詳しくは、カム軸81上の左右一側にキー溝を穿設してキー85が嵌合され、該キー85に係合可能なキー溝81a・81bが左右一方のカムのボス部82dの内周に180度位置をずらして設けられて、該カム82L(82R)がキー85を介してカム軸81に着脱可能に取り付けられている。こうして、本実施例では左右のカム82L・82Rはカム軸周りに互いの位相を180度ずらして取り付けているが、カム軸周りに同位相にも取付可能とされている。但し、位相の変更機構はキーを用いる構成に限定するものではなく、カム82とカム軸81をスプライン嵌合、またはセレーション嵌合などで嵌合して、位相をずらせる構成とすることも可能である。
そして、前記植付用駆動軸65の延長軸65aの左右中途部に第一ギヤ83が固設されるとともに、カム軸81の左右中途部に第二ギヤ84が固設され、該第一ギヤ83と第二ギヤ84とが噛合されている。第一ギヤ83と第二ギヤ84とはそのギヤ比が1対2となるように形成され、該第一ギヤ83と第二ギヤ84を介して延長軸65aからカム軸81に動力が伝達されるときに、カム軸81が延長軸65a(植付用駆動軸65)の半分の回転速度で回転するように構成されている。
このような構成において、延長軸65aが一回転する場合、第一ギヤ83と第二ギヤ84を介してカム軸81が半回転し、図8(a)に示すように、左右一方のカム82L(82R)が突出部82Laでクラッチ体75の当接部75aに当接しつつ、クラッチ体75をクラッチバネ76に抗して軸方向に空転位置まで摺動させて、クラッチ体75とクラッチピン73aとの係合を解除させる。これにより、クラッチ体75と駆動スプロケット73との固定が解かれて、延長軸65aに対して駆動スプロケット73が空転状態となり、駆動機構30への動力が切断されて左右一方の移植爪21L(21R)が停止される。
このとき、左右他方のカム82R(82L)は、図8(b)に示すように、切欠部82Rb(82Lb)にてクラッチ体75の当接部75aから離間する。同時に、クラッチ体75がクラッチバネ76の付勢力により空転位置から係合位置まで摺動され、該クラッチ体75とクラッチピン73aとが係合される。これにより、クラッチ体75と駆動スプロケット73とが嵌合固定されて、駆動スプロケット73が延長軸65aと一体的に回転されることになり、駆動機構30に動力が伝達されて他方の移植爪21R(21L)が駆動される。
そして、延長軸65aがさらに一回転するうちに、カム軸81もさらに半回転され、該カム軸81上の左右のカム82L・82Rが前記と反対の回転位置まで回転され、左右一方のカム82L側でクラッチ体75とクラッチピン73aとが係合され、他方のカム82Rでクラッチ体75とクラッチピン73aとの係合が解除される。つまり、前記と反対に左右一方の移植爪21L(21R)が駆動され、他方の移植爪21R(21L)の駆動が停止される。
このようにして、本実施例の移植機1では左右の移植爪が延長軸65aの回転に伴って、一方の移植爪21L(21R)が上下一往復した後に動力断続手段72により動力を断たれて停止され、他方の移植爪21R(21L)が動力断続手段72により動力を伝達されて駆動されるように、左右の移植爪21L・21Rが交互に駆動され、一方の移植爪21L(21R)による苗移植位置に対して他方の21R(21L)による苗移植位置を走行機体の進行方向に半ピッチずらして苗を植える、いわゆる千鳥植えが行われるようになっている。なお、このように駆動される移植部20に対して、苗供給部7は前記減速機構66により同調して駆動するように構成されている。
以上のように、前記移植機1において、前記植付用駆動軸65、ここでは延長軸65aに連動するカム機構80を設け、該カム機構80により動力断接手段72のクラッチ体75を摺動させて、該クラッチ体75とクラッチピン(係合体)73aとの係合状態を切り替え、延長軸65aから左右の各駆動機構30への動力を断接するように構成したことから、カム機構80の形状に応じて、左右の移植爪21L・21Rの駆動時期を変更して、左右の各移植爪21L・21Rによる植付位置を走行機体の進行方向に任意のピッチ間隔だけずらして、苗を植え付けることができる。
また、前記カム機構80は、前記延長軸65aと平行に配置して駆動されるカム軸81に、左右のクラッチ体75・75と対向するように左右のカム82L・82Rを設けて構成し、各カム82L・82Rは突出部82La・82Raと切欠部82Lb・82Rbとを備えて略半月状に形成して、該突出部82La・82Raでクラッチ体75に当接して当該クラッチ体75とクラッチピン(係合体)73aとの係合状態を切り替えるように構成したことから、カム機構80を簡単な構造で構成して、左右のカム82L・82Rにより動力の断接状態を切り替えることができる。また、カム機構80を従来の移植機にもトランスミッションを変更することなく設けることが可能となり、コストを抑制することができる。
また、前記左右のカム82L・82Rを、前記カム軸周りに互いの位相を180度ずらして、カム軸81に相対回転不能に取り付けることから、左右のカム82L・82Rにより動力の断接状態を切り替えて左右の移植爪21L・21Rを交互に駆動させることが可能となり、一方の移植爪21L(21R)による苗植付位置に対して、他方の移植爪21R(21L)による苗植付位置を走行機体の進行方向に半ピッチずらして苗を植える、いわゆる千鳥植えを行うことができる。
また、前記カム軸81上の左右一側に設けたカム82L(82R)を、位相角度変更可能、かつ、着脱可能なことから、左右のカム82L・82Rをカム軸周りに同位相に取り付けることが可能となり、左右の各移植爪21L・21Rによる植付位置を走行機体の進行方向に対しずらさずに苗を左右同時に植える、いわゆる並木植えを行うこともできる。また、一本のカム軸81上で位相を変更できるので、左右の移植爪の昇降の位相合わせも容易に行うことができる。
さらに、前記移植機1において移植部20は前記左右一対の移植爪21L・21Rを各移植爪21L・21Rの駆動機構30・30に対応する動力断接手段72・72とともに、植付用駆動軸65の軸方向に複数組並設して構成することもできるようになっている。よって、各組で左右の移植爪21L・21Rを前記構成で交互に駆動することができるため、移植機1を二条の植付だけでなく四条や六条、八条などの複数条の植付にも対応させることが可能となる。
最後に、前記移植爪21L・21Rへ潅水を行うための潅水機構について説明する。図7、図9に示すように、潅水機構は、機体フレーム2に設ける水タンク90・90や潅水ポンプ91・91、移植爪21L・21Rの内部に挿入される潅水管92・92、これらの部材間を連結するパイプやホースなどの連通部材を備えて構成されている。潅水ポンプ91・91は左右の移植爪21L・21Rに対応するように一対設けられ、前記カム軸81の左右両外側に設けられたカム82L・82Rの前方に配置され、シリンダ91aが固定プレート93に固定されている。固定プレート93は、機体フレーム2の一部にステーなどを介して立設された支持フレーム94の上端に固定されている。
前記潅水ポンプ91はシリンダ91a内にスプリングを収納してロッド91bを伸長方向に付勢し、該ロッド91bの先端をシリンダの上部からカム82L(82R)に向かって突出させ、該ロッド91bの先端にローラ95を回転自在に支持して、固定プレート93上に配置されている。そして、ローラ95がカム軸81上のカム82L(82R)と当接され、該カム82L(82R)の回転に応じてローラ95が上下動され、つまりローラ95を介してロッド91bが伸縮されて、潅水ポンプ91が駆動されるように構成されている。
また、前記潅水ポンプ91のシリンダ91aの下部には、水タンク90から水を吸入するための吸入口91cと、潅水管92へ水を吐出するための吐出口91dとが設けられてシリンダ91a内の吸入弁と吐出弁とに接続している。潅水ポンプ91は吸入口91cで水タンク90と潅水ホース96を介して連通され、吐出口91dで潅水管92と潅水ホース97を介して連通されている。図4に示すように、潅水管92は移植爪支持体40に支持されて、管口が下方を向くように移植爪21L(21R)内に挿入されている。
このような構成において、植付用駆動軸65から動力が伝達されてカム軸81が回転されると、これに伴ってカム82L(82R)も回転され、該カム82L(82R)に当接するローラ95が上下動される。この際、ローラ95がカム82L(82R)の切欠部82Lb(82Rb)と当接する場合には、ロッド91bが伸長状態となり、水タンク90から潅水ホース96を介して潅水ポンプ91に水が吸入される。
この状態から、図10(a)に示すように、カム82L(82R)の回転によりローラ95がカム82L(82R)の切欠部82Lb(82Rb)と突出部82La(82Ra)との間に形成された切替部82Lc(82Rc)に至ると、該切替部82Lc(82Rc)によりローラ95が押圧され、ロッド91bが徐々に収縮される。これにより、潅水ポンプ91から潅水ホース97を介して潅水管92へ向けて水が吐出され、移植爪21L(21R)内で潅水が開始される。図10(b)に示すように、ローラ95が突出部82La(82Ra)に達すると、ロッド91bが圧縮状態となり、潅水ポンプ91からの水の突出が停止し、潅水が終了される。
そして、一対の潅水ポンプ91・91は、カム機構80にて前述のように交互に駆動される左右の移植爪21L・21Rのうち、駆動側の移植爪21L(21R)に対応するものだけが、該移植爪21L(21R)に連動して駆動するように構成されている。なお、潅水ポンプ91の駆動時期はカム82L・82Rにより移植爪21L(21R)が上昇端から下降を開始し、下降端に達するまでの間に潅水が開始、終了するように設定されている。
このように構成することにより潅水機構では、前記動力断続手段72・72を作動させるカム機構80を灌水ポンプ91・91の駆動機構と兼用することができるようになっている。そして、駆動側の移植爪21L(21R)に対応する潅水ポンプ91が駆動され、植付時に水タンク90内の水を移植爪21L(21R)内に挿入した灌水管92に送水することにより灌水が行われて、移植爪21L(21R)による苗の植付時に苗が土中に安定して保持可能とされるとともに、植付直後の給水作業も不要とされている。さらに、潅水によって植付時に開く移植爪21L・21Rからの苗の滑り出しを良くし、また移植爪21L・21Rの内周面に付着した土を除去することが可能とされている。