図1において符号10は自動変速機を示し、ベルト式の無段変速機(CVT)からなる。自動変速機(以下「変速機」という)10は車両(図示せず)に搭載され、エンジン(駆動源)Eの出力を変速し、ディファレンシャル機構Dを介して左右の駆動輪(前輪)WL,WRに伝達する。
変速機10は、互いに平行に設けられた入力軸12と出力軸14と中間軸16を有し、ディファレンシャル機構Dと共に変速機ケース10a内に収容される。入力軸12は、エンジンEのクランクシャフトCSにカップリング機構CPを介して連結される。
入力軸12上には、ドライブプーリ20が設けられる。ドライブプーリ20は、入力軸12に相対回転自在で軸方向移動不能に設けられた固定側ドライブプーリ半体20aと、固定側ドライブプーリ半体20aに対して相対回転不能で軸方向移動自在に設けられた可動側ドライブプーリ半体20bからなる。
可動側ドライブプーリ半体20bの側方には、供給された作動油の圧力に応じてドライブプーリ20のプーリ幅を設定するドライブ側プーリ幅設定機構22が設けられる。
ドライブ側プーリ幅設定機構22は、可動側ドライブプーリ半体20bの側方に設けられたシリンダ壁22aと、シリンダ壁22aと可動側ドライブプーリ半体20bとの間に形成されたシリンダ室22bと、シリンダ室22b内に設けられて可動側ドライブプーリ半体20bを常時固定側ドライブプーリ半体20aに近づける方向に付勢するリターンスプリング22cとを有する。
シリンダ室22b内の作動油の圧力(油圧)が上昇されると、可動側ドライブプーリ半体20bが固定側ドライブプーリ半体20aに近づき、ドライブプーリ20のプーリ幅が狭められる一方、作動油の圧力が低下されると、可動側ドライブプーリ半体20bが固定側ドライブプーリ半体20aから離れてプーリ幅は広げられる。
出力軸14には、ドリブンプーリ24が設けられる。
ドリブンプーリ24は、出力軸14に相対回転不能でその軸方向移動不能に設けられた固定側ドリブンプーリ半体24aと、固定側ドリブンプーリ半体24aに対して相対回転不能で出力軸14の軸方向移動自在に設けられた可動側ドリブンプーリ半体24bからなる。可動側ドリブンプーリ半体24bの側方には、供給された作動油の圧力に応じてドリブンプーリ24のプーリ幅を設定するドリブン側プーリ幅設定機構26が設けられる。
ドリブン側プーリ幅設定機構26は、可動側ドリブンプーリ半体24bの側方に設けられたシリンダ壁26aと、シリンダ壁26aと可動側ドリブンプーリ半体24bとの間に形成されたシリンダ室26bと、シリンダ室26b内に設けられて可動側ドリブンプーリ半体24bを常時固定側ドリブンプーリ半体24aに近づける方向に付勢するリターンスプリング26cとを有する。
シリンダ室26b内の作動油の圧力が上昇されると、可動側ドリブンプーリ半体24bが固定側ドリブンプーリ半体24aに近づき、ドリブンプーリ24のプーリ幅が狭められる一方、低下されると、可動側ドリブンプーリ半体24bが固定側ドリブンプーリ半体24aから離れてプーリ幅は広げられる。
ドライブプーリ20とドリブンプーリ24との間には金属製のVベルト30が巻き掛けられる。Vベルト30は多数のエレメントが図示しないリング状部材により連結され、各エレメントに形成されたV字面がドライブプーリ20のプーリ面とドリブンプーリ24のプーリ面と接触し、両側から強く押圧された状態でエンジンEの動力をドライブプーリ20からドリブンプーリ24に伝達する。
入力軸12上には遊星歯車機構32が設けられる。遊星歯車機構32は、入力軸12にスプライン嵌合されて入力軸12と一体に回転するサンギヤ34と、固定側ドライブプーリ半体20aと一体に形成されたリングギヤ36と、入力軸12に対して相対回転自在に設けられたプラネタリキャリヤ40と、プラネタリキャリヤ40に回転自在に支承された複数のプラネタリギヤ42とを有する。
各プラネタリギヤ42は、サンギヤ34とリングギヤ36の双方と常時噛合する。サンギヤ34とリングギヤ36との間にはFWD(フォワード)クラッチ(前進用摩擦係合要素)44が設けられ、プラネタリキャリヤ40と変速機ケース10aとの間にはRVS(リバース)ブレーキ(後進用摩擦係合要素)46が設けられる。
FWDクラッチ44は、シリンダ室44bに作動油が供給されるとき、クラッチピストン44aをリターンスプリング44cのばね力に抗して図1で左方に移動させることにより、サンギヤ34側の摩擦板とリングギヤ36側の摩擦板とを係合させてサンギヤ34とリングギヤ36とを結合することで係合(インギヤ)され、車両を前進走行可能にする。
RVSブレーキ46は、シリンダ室46bに作動油が供給され、ブレーキピストン46aをリターンスプリング46cのばね力に抗して図1で左方に移動させることにより、変速機ケース10a側の摩擦板とプラネタリキャリヤ40側の摩擦板とを係合させて変速機ケース10aとプラネタリキャリヤ40とを結合することで係合(インギヤ)され、車両を後進走行可能にする。
FWDクラッチ44が係合されると、リングギヤ36はサンギヤ34に対して相対回転不能となり、RVSブレーキ46が係合されると、プラネタリキャリヤ40は変速機ケース10aに対して相対回転不能となるため、入力軸12が回転した状態でFWDクラッチ44を係合させると、リングギヤ36はサンギヤ34と一体となってサンギヤ34と共に回転し、ドライブプーリ20は入力軸12と同一の方向に回転(順方向回転)する。このとき、各プラネタリギヤ42は自転することなく、サンギヤ34とリングギヤ36と一体となって入力軸12のまわりを回転(公転)する。
一方、入力軸12が回転した状態でRVSブレーキ46を係合させると、サンギヤ34が入力軸12と一体となって回転する一方、各プラネタリギヤ42は自転してリングギヤ36をサンギヤ34とは反対の方向に回転させる。それによりドライブプーリ20は入力軸12とは反対の方向に回転(逆方向回転)する。
尚、FWDクラッチ44とRVSブレーキ46が共に非係合(アウトギヤ)となっているときには、入力軸12とサンギヤ34が回転するのみで、エンジンEの回転はドライブプーリ20には伝達されない。
出力軸14には、中間軸ドライブギヤ50とスタートクラッチ52が設けられる。スタートクラッチ52はシリンダ室52bに作動油が供給され、クラッチピストン52aをリターンスプリング52cのばね力に抗して移動させることにより、出力軸14側の摩擦板と中間軸ドライブギヤ50側の摩擦板とを係合させて出力軸14と中間軸ドライブギヤ50とを結合する。
スタートクラッチ52が係合されると、中間軸ドライブギヤ50は出力軸14に対して相対回転不能となるため、出力軸14が回転した状態でスタートクラッチ52を係合させると、中間軸ドライブギヤ50は出力軸14と一体となって出力軸14と共に回転する。
中間軸16には、中間軸ドリブンギヤ54とディファレンシャルドライブギヤ56とが設けられる。中間軸ドリブンギヤ54とディファレンシャルドライブギヤ56は共に中間軸16上に固定して設けられ、中間軸ドリブンギヤ54は中間軸ドライブギヤ50と常時噛合する。
ディファレンシャルドライブギヤ56は、ディファレンシャル機構DのディファレンシャルケースDcに固定されたディファレンシャルドリブンギヤ60と常時噛合する。
ディファレンシャル機構Dには左右のアクスルシャフトASL,ASRが固定されると共に、その端部には左右の駆動輪WL,WRが取り付けられる。ディファレンシャルドリブンギヤ60はディファレンシャルドライブギヤ56と常時噛合し、中間軸16の回転に伴ってディファレンシャルケースDc全体が左右のアクスルシャフトASL,ASRまわりに回転する。
上記両シリンダ室22b,26bに供給される作動油の圧力を制御し、Vベルト30の滑りが発生することのないプーリ側圧をドライブプーリ20のシリンダ室22bとドリブンプーリ24のシリンダ室26bとに与えた状態で入力軸12にエンジンEの回転を入力すると、その回転は、入力軸12→ドライブプーリ20→Vベルト30→ドリブンプーリ24→出力軸14と伝達される。
このとき、ドライブプーリ20とドリブンプーリ24の両プーリ側圧を増減させることによってプーリ幅を変化させ、Vベルト30の両プーリ20,24に対する巻き掛け半径を変化させることにより、巻き掛け半径の比(プーリ比)に応じた所望の変速比を無段階で得ることができる。
上記のようにエンジンEの回転が入力軸12から出力軸14に伝達されている状態でスタートクラッチ52を係合させると、中間軸ドライブギヤ50が出力軸14と連結されて一体となって回転し、出力軸14に伝達された回転がさらに中間軸ドライブギヤ50から中間軸ドリブンギヤ54に伝達され、中間軸16が回転する。中間軸16の回転はディファレンシャル機構DとアクスルシャフトASL,ASRを介して左右の駆動輪WL,WRに伝達され、それを駆動する。
一方、スタートクラッチ52が非係合の状態では中間軸ドライブギヤ50と出力軸14とは連結されず、出力軸14の回転動力は中間軸ドライブギヤ50に伝達されないので、左右の駆動輪WL,WRは駆動されない。
上記したドライブプーリ20などのプーリ幅やFWDクラッチ44あるいはRVSブレーキ46の係合(インギヤ)・非係合(アウトギヤ)などは、それらのシリンダ室22b,26b,44b,46b,52bに供給される作動油の圧力(油圧)を制御することで行われる。
図2は変速機10の油圧回路を示す。以下、図2を参照して変速機10の油圧回路を説明する。
図2において、油圧ポンプPはエンジンEにより駆動され、油タンク70内の作動油を汲み上げて油路72に作動油を吐出する。レギュレータバルブ74は油圧ポンプPの吐出圧を車両の走行状態に応じて調整し、ライン圧(高圧制御油圧)PHの作動油を油路76に供給する。
クラッチレデューシングバルブ80は油路76から分岐した分岐油路82のライン圧PHを減圧し、クラッチ制御圧(低圧制御油圧)CRからなる作動油を油路84に供給する。
ドライブプーリ制御リニアソレノイドバルブ86は通電電流の大きさに応じた量でバルブスプール86aを移動させ、油路84から分岐した油路90の分岐油路90aの油圧(クラッチ制御圧CR)を調圧して得られるドライブプーリ制御圧DRCを油路92に供給する。ドライブプーリ制御バルブ94は、油路76の油圧(ライン圧PH)を調圧して得られるプーリ側圧DRを油路96を介してドライブプーリ20のシリンダ室22bに供給する。
ドリブンプーリ制御リニアソレノイドバルブ100は通電電流の大きさに応じた量でバルブスプール100aを移動させ、油路90の分岐油路90bの油圧(クラッチ制御圧CR)を調圧して得られるドリブンプーリ制御圧DNCを油路102に供給する。ドリブンプーリ制御バルブ104は、油路76の油圧(ライン圧PH)を調圧して得られるプーリ側圧DNを油路106を介してドリブンプーリ24のシリンダ室26bに供給する。
高圧制御シフトバルブ110は、ドライブプーリ制御リニアソレノイドバルブ86がドライブプーリ制御圧DRCを生成する際に油路112に排出する作動油の圧力と、ドリブンプーリ制御リニアソレノイドバルブ100がドリブンプーリ制御圧DNCを生成する際に油路114に排出する作動油の圧力とのうち高圧の方の圧力が高圧制御圧PHCとして油路116経由でレギュレータバルブ74の油室74cに供給する。
シフトソレノイドバルブ(電磁バルブ)120は、油路90からの分岐油路122とそれに接続された油路124の間に介挿され、ソレノイドが通電されない(消磁・オフ)ときには油路122,124を連通させ、通電される(励磁・オン)ときには分岐油路122を閉塞すると共に、油路124をドレン(図2にxで示す)に接続する。シフトソレノイドバルブ120は通常の車両の走行・停止時にはオフされる。
RVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126は、バルブスプール126aとそれを常時図2の右方に付勢するリターンスプリング126bとを有し、シフトソレノイドバルブ120がオフで分岐油路122と油路124とが連通されているとき、油路84、油路90、分岐油路122、シフトソレノイドバルブ120、油路124とそれに接続される油路130を経由して油室126cにクラッチ制御圧CRを供給する。
このときRVSインヒビタバルブ126のバルブスプール126aは、リターンスプリング126bのばね力に抗して図2の左方に移動し、後述するマニュアルバルブ132に接続される油路134と、RVSブレーキ46のシリンダ室46bに接続される油路136とを連通させる(この状態では後進走行が可能となる)。
一方、シフトソレノイドバルブ120がオンで油室126cが油路130、油路124、シフトソレノイドバルブ120を介してドレンに接続されているときには、バルブスプール126aはリターンスプリング126bのばね力により図2の右方へ移動した状態(図2に示す状態)となる。このとき油路134はバルブスプール126aにより遮断され、油路136はドレンに接続される(この状態では後進走行が不能となる)。
即ち、シフトソレノイドバルブ(電磁バルブ)120は、RVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126に油路(第3の油路)130を介して接続され、RVSブレーキ(後進用摩擦係合要素)46から作動油が排出されるとき、オフされた状態ではRVSインヒビタバルブ126を、油路(第2の油路)136が油路(第1の油路)134を介してマニュアルバルブ132のドレン(x)に接続される第1位置と、オンされた状態では油路(第2の油路)136がRVSインヒビタバルブ126のドレン(x)に直ちに接続される第2位置のいずれかに付勢可能なように構成される。
油路134にはオリフィス134aが設けられる。オリフィス134aの特性は、RVSブレーキ46が係合されるときのショックを抑制するように油圧応答性が緩やかとなる如く設定される。
マニュアルバルブ132はバルブスプール132aを備え、バルブスプール132aは車両の運転席内のセレクトレバー140(図1)にコントロールワイヤ(図示せず)を介して連結され、運転者のセレクトレバー140の操作で選択されたP,R,N,D,Sの中のいずれかのポジション(レンジ)に応じた位置に移動する。
バルブスプール132aがNまたはPポジションに位置しているとき、油路84がバルブスプール132aにより閉塞される。このときFWDクラッチ44のシリンダ室44bは油路142を介してドレンに接続され、RVSブレーキ46のシリンダ室46bも油路136、RVSインヒビタバルブ126、油路134を介してドレンに接続されるので、FWDクラッチ44とRVSブレーキ46は共に非係合状態となる。
また、マニュアルバルブ132がDまたはSポジション(車両の前進走行に対応するポジション)に位置しているとき、FWDクラッチ44のシリンダ室44bが油路142を介して油路84に接続される一方、RVSブレーキ46のシリンダ室46bは油路136、RVSインヒビタバルブ126、油路134を介してドレンに接続されるので、FWDクラッチ44は係合状態となり、RVSブレーキ46は非係合状態となる。
また、マニュアルバルブ132がRポジション(車両の後進走行に対応するポジション)に位置しているとき、RVSブレーキ46のシリンダ室46bが油路(第2の油路)136、RVSインヒビタバルブ126、油路(第1の油路)134を介して油路84に接続され、FWDクラッチ44のシリンダ室44bは油路142を介してドレンに接続されるので、RVSブレーキ46は係合状態となり、FWDクラッチ44は非係合状態となる。
スタートクラッチ制御リニアソレノイドバルブ144は通電電流の大きさに応じた量でバルブスプール144aを移動させ、油路84から分岐した分岐油路146の油圧(クラッチ制御圧CR)を調圧して得られるスタートクラッチ制御圧CCをスタートクラッチ52のシリンダ室52bに接続される油路150に供給する。
ルブリケーションバルブ152は潤滑油路154の分岐油路154aと油タンク70に延びる排出油路156に接続され、潤滑が必要な部位に作動油を潤滑油として供給する。
尚、ルブリケーションバルブ152の油室152aは油路160、油路124を介してシフトソレノイドバルブ120に接続され、シフトソレノイドバルブ120をオン・オフすることにより、潤滑圧(潤滑油圧)の設定圧を高低の二段階に切換え自在に構成される。
図1の説明に戻ると、エンジンEのカム軸(図示せず)付近などにはクランク角センサ170が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流には絶対圧センサ172が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力すると共に、冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ174が設けられ、エンジン冷却水温TWに応じた出力を生じる。
変速機10においてドライブプーリ20の付近の適宜位置にはNDRセンサ(回転数センサ)176が設けられてドライブプーリ20の回転数に応じたパルス信号を出力すると共に、ドリブンプーリ24の付近の適宜位置にはNDNセンサ(回転数センサ)180が設けられ、ドリブンプーリ24の回転数を示すパルス信号を出力する。中間軸16の中間軸ドリブンギヤ54の付近には車速センサ182が設けられ、中間軸ドリブンギヤ54の回転数を通じて車速Vを示すパルス信号を出力する。
また、セレクトレバー140の付近にはセレクトレバーポジションセンサ184が設けられ、運転者によって選択されたP,R,N,D,Sの中のポジションに応じた信号を出力すると共に、油圧回路において油タンク70の内部には温度センサ186が配置され、作動油の温度(油温)TATFに応じた出力を生じる。
車両の運転席のアクセルペダル付近には、アクセル開度センサ190が設けられ、運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度APに比例する信号を出力する。
上記したセンサ出力はシフトコントローラ192に送られる。シフトコントローラ192はマイクロコンピュータを備え、センサ出力に基づいて油圧回路において上記した制御を実行すると共に、ポジションがRからDに切り替えられるとき、所定の条件が成立する場合、シフトソレノイドバルブ120をオンしてRVSブレーキ46からの作動油の排出を速めるR−Dインヒビタ動作を実行する。
図3はシフトコントローラ192のその動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは所定時間、例えば10msecごとに実行される。
以下説明すると、S10においてフラグF_RVSJDGのビットが1にセットされているか否か判断する。
図4は図3フロー・チャートの処理を説明するタイム・チャートである。
同図に示す如く、フラグF_RVSJDGは、Rが確定するか、ポジションが未確定かつエンジン回転数NEとドライブプーリ回転数NDRの関係がRVSブレーキ46が係合(インギヤ)したのと同様の状態にあるとき、そのビットが1にセットされる。
このようにS10の判断はポジションがRにあるか否かを確認する処理である。例えば図4タイム・チャートで時刻t1にある場合、S10の判断は否定されてS12に進み、R−Dインヒビタ動作を開始すべきか否か判断する。
これは、ポジションがP,R以外にあり、車速が低く(例えば10km/h以下)、エンジン回転数NEが低く(例えば2000rpm以下)、作動油の温度TATFが低く(例えば30℃以下)、アクセルペダルがOFF(操作されていない)で、ポジションRが一旦は確立されたこと(具体的にはポジションRがタイマTMRDLUBS(図4)で規定される所定時間の間継続されていた場合)からなるR−Dインヒビタ動作開始条件の有無を判断することで行う。
次いでS14に進み、上記した6種の条件の全てが満足されたか否か判断し、肯定されるときはS16に進み、R−Dインヒビタ動作を実行する。
具体的には、シフトソレノイドバルブ120のソレノイドを励磁(オン)し、油路124,130の作動油の圧力を零にする。その結果、RVSインヒビタバルブのスプール126aは図2において右に移動し、油路136がRVSインヒビタバルブ126のドレン(xで示す)に接続される。
即ち、シフトソレノイドバルブ120がオフされる場合には作動油は油路134のオリフィス134aを介してマニュアルバルブ132に送られ、そのドレン(x)から排出されるが、オンされることで作動油はオリフィス134aを通過せず、その前のRVSインヒビタバルブ126からドレンされる結果、その分だけ作動油の排出を速めることができる。
図5と図6を参照して図2の処理を説明すると、前記した如く、マニュアルバルブ132からRVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126を介してRVSブレーキ46に作動油を供給する、あるいはそれから作動油を排出させるとき、油圧の応答性はRVSブレーキ46とRVSインヒビタバルブ126の油路134、例えばそこに設けられるオリフィス134aによって決定される。
従って、Rポジションが選択されたときのRVSブレーキ46の係合時のショック抑制のため、油圧応答性が緩やかとなるようにオリフィス134aの特性を設定すると、RからDポジションに切り替えられたとき、図5に破線で示すように作動油の排出も緩慢となり、FWDクラッチ44と共に係合される、いわゆる共噛みが生じてエンジンEの負荷が増大し、図5に破線で示す如く、エンジン回転数NEが低下してアイドル安定性が損なわれる。
この発明の実施例の特徴は上記した不都合を解消し、RVSブレーキ46の係合時のショック抑制のために油圧応答性が緩やかとなるように油路134のオリフィス134aの特性が設定されるときも、上記したR−Dインヒビタ動作を実行することで、作動油の排出を図5に実線で示すように速め、エンジンEの負荷の増大を抑制して図5に実線で示すようにエンジン回転数NEの低下を防止し、アイドル安定性が損なわれるのを防止するようにしたことにある。
従って、R−Dインヒビタ動作は、図6に示す如く、RからD(あるいはRからS)にポジションが変化された場合のみ実行され、PからDあるいはRからPにポジションが変化された場合は実行されない。
従って、図3フロー・チャートにおいてはS10で否定されてS12に進み、そこの開始条件でポジションがP,R以外にあるとき、S16に進むように構成される。
図3フロー・チャートの説明に戻ると、S14で否定されるときはS18に進み、R−Dインヒビタ動作が実行中か否か判断し、肯定されるときはS20に進み、その動作が終了したか否か判断する。
図4に示す如く、R−Dインヒビタ動作はタイマTMRDLUBで規定される要求時間(例えば250msec)、即ち、そのタイマ値が零に達するまで実行されることから、S20の判断はタイマTMRDLUBの値が零に達したか否か判定することで行われる。
次いでS22に進み、R−Dインヒビタ動作が終了、換言すればS20でタイマTMRDLUBの値が零に達したか否か判断し、否定されるときはS16に進んでR−Dインヒビタ動作を継続する。
他方、S22で肯定されるときはS24に進み、潤滑圧制御を実行する。即ち、図2に示す油圧回路にあっては、エアレーション対策や油温上昇抑制のため、走行状態によって潤滑圧を低減する潤滑圧制御を実行するが、その制御をシフトソレノイドバルブ120を介して実行する。尚、潤滑圧制御はこの発明の要旨と直接の関連を有しないため、説明は省略する。
一方、S10で否定されるときはS26に進み、セレクトレバーポジションセンサ184の出力からRポジションが確定したか否か判断し、否定されるときはS28に進み、RVSブレーキ46の係合(インギヤ)を遅延させる。
これについて図4タイム・チャートを参照して説明すると、ポジションがNからDに切り替えられる間に、エンジン回転数NEとドライブプーリ回転数NDRの関係がRVSブレーキ46係合相当となることから、時刻t2でフラグF_RVSJDGのビットが1にセットされてしまう。
このとき、図示の如く、タイマTMRDLUBの値が零に達していず、従ってR−Dインヒビタ動作が実行されているときは、RVSブレーキ46の係合を遅延させ、所定時間(具体的には図4タイム・チャートのTMRDLUBRHで規定さされる継続時間)、R−Dインヒビタ動作を継続させることとする。従ってS28で肯定されるときはS18に進む。
他方、S28で否定されるときはS30に進み、RVSブレーキ46の係合(インギヤ)の前条件が成立したか否か判断する。
即ち、運転者がセレクトレバー140をPからDと操作した場合、途中でRを通過するが、運転者が意図しているのはDであることから、RVSブレーキ46の係合を禁止する。
具体的には図4タイム・チャートに示す如く、セレクトレバーポジションセンサ184の出力からセレクトレバー140がRに移動された時点からの時間経過を前記したタイマTMRDLUBSで計測し、タイマ値が零に達するまでの所定時間の間ポジションRが継続されたとき、フラグF_RDLUBSのビットを1にセットされる。
従って、S30の判断はそのフラグF_RDLUBSのビットを判定することで行われ、そのフラグのビットが1にセットされている場合、RVSブレーキ46の係合の前条件が成立したと判断し、S32に進み、図2においてRVSブレーキ46に作動油を供給して係合させる。
この実施例に係る自動変速機の制御装置にあっては、車両に搭載されると共に、運転者の選択自在な少なくともP,R,N,Dのポジションと、作動油供給源(油タンク70、油圧ポンプP、レギュレータバルブ74など)から作動油を供給されるとき、前記車両を前進走行可能にするFWDクラッチ(前進用摩擦係合要素)44と後進走行可能にするRVSブレーキ(後進用摩擦係合要素)46とを少なくとも備える自動変速機10において、前記作動油供給源と前記FWDクラッチ(前進用摩擦係合要素)44とRVSブレーキ(後進用摩擦係合要素)46の間に配置され、前記ポジションDが選択されるときは前記FWDクラッチ(前進用摩擦係合要素)44に作動油を供給する一方、前記ポジションRが選択されたときは前記RVSブレーキ(後進用摩擦係合要素)46に作動油を供給するマニュアルバルブ132と、前記マニュアルバルブ132と前記RVSブレーキ(後進用摩擦係合要素)46の間に介挿され、前記マニュアルバルブ132に油路(第1の油路)134を介して接続されると共に、前記RVSブレーキ(後進用摩擦係合要素)46に油路(第2の油路)136を介して接続されるRVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126と、前記RVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126に油路(第3の油路)130を介して接続され、前記RVSブレーキ(後進用摩擦係合要素)46から作動油が排出されるとき、前記RVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126を、前記油路(第2の油路)136が前記油路(第1の油路)134を介して前記マニュアルバルブ132のドレン(x)に接続される第1位置と、前記油路(第2の油路)136が前記RVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126のドレン(x)に接続される第2位置のいずれかに付勢可能なシフトソレノイドバルブ(電磁バルブ)120と、前記ポジションがRからDに切り替えられたとき、所定の条件が成立する場合、前記RVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126を前記第2位置に付勢するように前記シフトソレノイドバルブ(電磁バルブ)120の動作を制御する制御手段(シフトコントローラ192,S10からS16)とを備える如く構成した。
これにより、ポジションがRからDに切り替えられたとき、所定の条件が成立する場合、RVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126を油路(第2の油路)136がRVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126のドレン(x)に接続される第2位置に付勢することで、作動油の排出を速めることができ、よってFWDクラッチ44と共に係合される共噛みを回避でき、エンジンEの負荷の増大を抑制してアイドル安定性が損なわれるのを防止することができる。
一方、RVSインヒビタバルブ(切換バルブ)126がマニュアルバルブ132に油路(第1の油路)134を介して接続されると共に、RVSブレーキ(後進用摩擦係合要素)46に油路(第2の油路)136を介して接続されるように構成することで、油路(第1の油路)134の特性をオリフィス134aなどを設けることで作動油の供給を緩慢にさせ、RVSブレーキ(後進用摩擦係合要素)46の係合時のショックを効果的に抑制することも可能となる。
また、前記所定の条件が少なくとも前記作動油の温度TAFTを含む如く構成したので、油圧の特性に最も影響を与える作動油の温度TATFを含めることで、例えば作動油の温度が低いときに第2の位置に付勢することが可能となり、アイドル安定性が損なわれるのを一層良く防止することができる。