しかしながら、特許文献1に記載の被覆方法の場合には、芯材の形状が単純な平板形状の場合を想定したものであり、特許文献2に記載の被覆方法の場合には、芯材が単純な直方体の形状を想定したものである。このため、芯材の表面に凹凸を有する場合、特に、凸部の高さが高い(凸部を構成する傾斜面の傾斜角度が大きい)場合、上記方法では、圧力不足により樹脂フィルムが伸展(伸張)しきれず、樹脂フィルムを芯材に密着させることができないことがある。そこで、このような表面形状の芯材に樹脂フィルムを倣わせるためには、チャンバ内に大きな圧力を印加することが好ましいが、この際に、樹脂フィルムが裂けるおそれがある。
また、特許文献3に記載の被覆方法で行った場合であっても、被覆時には凹部の開口周縁に樹脂フィルムが接触して固定(拘束)された後、凹部に被覆される樹脂フィルム部分が真空引きにより伸展(伸張)する。このため、この部分には大きな引張り歪みが作用し、樹脂フィルムが裂けるおそれがある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、芯材の表面が凹凸を有した表面であっても、樹脂フィルムが裂けることなく、樹脂フィルムをこの表面に、被覆することができる樹脂フィルムの被覆方法及び被覆装置を提供することにある。
上記課題を解決すべく、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、以下の(1)及び(2)の方法を被覆前に採用することにより、樹脂フィルムを好適に芯材表面に被覆できるとの新たな知見を得た。
(1)被覆時に、樹脂フィルムのうち伸展(伸張)が大きい樹脂フィルム部分に比べ、伸展が小さい樹脂フィルム部分をより高温に加熱する。
(2)樹脂フィルムが芯材に接触しないように樹脂フィルムに圧力を作用させて、より高温に加熱した、被覆時に伸展が小さい樹脂フィルム部分を予め伸展させる(この時点では、被覆時に伸展が大きい樹脂フィルム部分を、あまり伸展させない)。
そして、(1)及び(2)により、部分的に伸展した樹脂フィルムを芯材に被覆すれば、被覆時に、伸展が大きい樹脂フィルム部分は伸展の余裕代(余力)があるために、過度の引張り歪みが作用することなく、樹脂フィルムを芯材表面に被覆できるという新たな知見である。
本発明は、この新たな知見によりなされたものであり、本発明に係る樹脂フィルムの被覆方法は、一対のチャンバにより形成された内部空間に芯材を配置し、該芯材の表面に樹脂フィルムを被覆する樹脂フィルムの被覆方法であって、前記芯材として、前記芯材表面に凸部が形成され、該凸部に、傾斜角度の異なる少なくとも2つの傾斜面と、該2つの傾斜面により形成された稜線とを有した芯材を準備する工程と、前記芯材を一対のチャンバのうち一方のチャンバ内に配置する工程と、前記一対のチャンバ間において内部空間を仕切るように、前記芯材表面に対向する位置に前記樹脂フィルムを配置する工程と、前記稜線から前記傾斜角度の大きい傾斜面側に被覆される第一の樹脂フィルム部分に比べて、前記稜線から前記傾斜角度の小さい傾斜面側に被覆される第二の樹脂フィルム部分が、高温となるように樹脂フィルムを加熱する工程と、前記一方のチャンバ内の圧力を、前記他方のチャンバ内の圧力よりも相対的に高くすることにより、前記樹脂フィルムが他方のチャンバ側に膨らむように、前記樹脂フィルムを伸展させる工程と、前記伸展した樹脂フィルムに向かって前記芯材を移動させることにより、前記芯材の凸部の少なくとも前記稜線を、前記樹脂フィルムに接触させる工程と、前記一方のチャンバ内の圧力を、前記他方のチャンバ内の圧力よりも相対的に低くすることにより、前記樹脂フィルムを前記芯材の表面形状に倣わせて、前記樹脂フィルムを前記芯材表面に被覆する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
本発明によれば、樹脂フィルムを加熱する工程において、前記稜線から前記傾斜角度の小さい傾斜面側に被覆される第二の樹脂フィルム部分を、前記稜線から前記傾斜角度の大きい傾斜面側に被覆される第一の樹脂フィルム部分に比べて高温に加熱する。これにより、この第二の樹脂フィルムを、第一の樹脂フィルム部分よりも伸展(伸張)させ易くする。
次に、前記樹脂フィルムを伸展させる工程において、前記樹脂フィルムを他方のチャンバ側に膨らませたときに、第一の樹脂フィルム部分に比べて、第二の樹脂フィルム部分が高温に加熱されているためより大きく伸展する。従って、この場合には、第二の樹脂フィルム部分の肉厚は、第一の樹脂フィルム部分の肉厚よりも薄くなる。
この状態で、樹脂フィルムに接触させる工程において、稜線を樹脂フィルムに接触させるので、樹脂フィルムは、稜線により拘束される。特に、樹脂フィルムの裏面側に接着剤等の粘着材が塗布されている場合には、樹脂フィルムへの拘束力はより大きくなる。これにより、稜線を挟んで、第一の樹脂フィルム部分の伸展と、第二の樹脂フィルム部分の伸展とが、相互に影響を及ぼし難くなる。
この状態で、チャンバ内に圧力を作用させて、前記樹脂フィルムを前記芯材の表面形状に倣わせて、前記樹脂フィルムを前記芯材表面に被覆する。このときに、第一の樹脂フィルム部分の伸展は、上述の伸展工程において、第一の樹脂フィルム部分の伸展に比べて小さいので、充分に伸展の余裕代(余力)を有している。従って、傾斜角度の大きい傾斜面側の芯材の表面は、小さい傾斜面側の芯材表面に比べて、より大きな進展が要求されるところ、この第一の樹脂フィルム部分の伸展の余裕代により、第一の樹脂フィルム部分に過剰な引張り歪みを作用させることなく伸展させることができ、芯材の表面に樹脂フィルムを被覆することが可能となる。
なお、ここで、本発明にいう「樹脂フィルム」とは、フィルム状の樹脂ばかりでなく、シート状の樹脂も含む概念である。また、「樹脂フィルムの伸展(伸張)」とは、樹脂フィルムの厚さが薄くなるように延びることである。
被覆される芯材の凸部は、例えばアンダーカットの形状や、芯材の平面部分に対して垂直方向に延在した側面を有した形状など、2つの異なる傾斜面を有していれば、その凸部の形状は特に限定されるものではない。
さらに、本発明に係る樹脂フィルムの被覆方法は、前記芯材を準備する工程において、前記傾斜角度の大きい傾斜面が内側に配置され、前記傾斜角度の小さい傾斜面が外側に配置されるように、前記凸部を前記芯材表面の外側周部に形成することにより、前記芯材表面に凹部が形成された芯材を準備し、前記樹脂フィルムを加熱する工程において、前記稜線より内側に被覆される樹脂フィルム部分(前記第一の樹脂フィルム部分)よりも、前記稜線よりも外側に被覆される樹脂フィルム部分(前記第二の樹脂フィルム部分)が高温になるように、前記樹脂フィルムを加熱することがより好ましい。
本発明によれば、樹脂フィルムに接触させる工程において、前記芯材の凸部の少なくとも稜線に、前記樹脂フィルムが接触し、樹脂フィルムがこの部分で拘束される。そして、樹脂フィルムの被覆時には、前記稜線より内側に被覆されるフィルム部分(第一の樹脂フィルム部分)に伸展の余裕代があるので、稜線よりも内側の凹部に樹脂フィルムを容易に伸展させることができる。これにより、樹脂フィルムに過剰の引張り歪みを作用させることなく、芯材の表面に、樹脂フィルムを被覆することができる。
さらに、前記樹脂フィルムを加熱する工程において、樹脂フィルムの伸展度合いに差を設けることができるのであれば、樹脂フィルムの加熱温度は、特に限定されるものではないが、前記樹脂フィルムを加熱する工程において、前記第二の樹脂フィルム部分を、樹脂フィルムの樹脂の軟化点温度以上(ガラス転移温度)以上に加熱することが好ましく、第一の樹脂フィルム部分は、軟化点温度未満で加熱することが好ましい。これにより、伸展工程において、第二の樹脂フィルム部分の伸展をより大きくすることができ、第一の樹脂フィルム部分により大きい伸展の余裕代を持たせることができる。
また、本発明に係る樹脂フィルムの被覆方法において、前記樹脂フィルムを加熱する工程と、前記樹脂フィルムを伸展させる工程とを、順次行ってもよいが、前記樹脂フィルムを加熱する工程と、前記樹脂フィルムを伸展させる工程と、を同時に行うことがより好ましい。これらの工程を同時に行うことにより、一連の被覆時間をより短くすることができる。
また、前記樹脂フィルムを被覆する工程において、前記一方のチャンバ内を減圧すると共に、前記他方のチャンバ内を加圧することがより好ましい。本発明によれば、芯材が配置されている一方のチャンバを減圧することにより、芯材と樹脂フィルムとの間の空気を好適に脱気することができる。
本願では、前記被覆方法を好適に行うための被覆装置をも開示する。本発明に係る被覆装置は、表面に凸部が形成され、該凸部に、傾斜角度の異なる少なくとも2つの傾斜面と、該2つの傾斜面により形成された稜線とを有した芯材の表面に、樹脂フィルムを被覆する被覆装置であって、前記芯材を配置するための内部空間が形成された一対のチャンバと、前記一対のチャンバのうち一方のチャンバ内に前記芯材を載置する載置台と、前記一対のチャンバ間において内部空間を仕切るように、前記載置台に対向する位置に前記樹脂フィルムをセットするフィルムセット部と、前記稜線から前記傾斜角度の大きい傾斜面側に被覆される第一の樹脂フィルム部分を加熱する第一の加熱部と、前記稜線から前記傾斜角度の小さい傾斜面側に被覆される第二の樹脂フィルム部分を加熱する第二の加熱部と、を前記他方のチャンバ内に有し、前記第二の加熱部が前記第一の加熱部よりも高温に発熱する加熱部と、前記一方のチャンバ内の圧力と前記他方のチャンバ内の圧力とに、相対的に差圧が発生するように、前記一対のチャンバ内の圧力を調整する圧力調整部と、前記載置台を前記他方のチャンバ側に移動させる載置台移動部と、を少なくとも備えることを特徴とする。
本発明によれば、前記第二の加熱部が第一の加熱部よりも高温に発熱するので、前記稜線から前記傾斜角度の大きい傾斜面側に被覆される第一の樹脂フィルム部分に比べて、前記稜線から前記傾斜角度の小さい傾斜面側に被覆される第二の樹脂フィルム部分を高温に加熱することができる。これにより、圧力調整部により、前記一方のチャンバ内の圧力を、前記他方のチャンバ内の圧力よりも相対的に高くすることで、第二の樹脂フィルム部分を、第一の樹脂フィルム部分に比べてより伸展させることができる。さらに、被覆時に、載置台移動部により、前記稜線を前記樹脂フィルムに接触させることができる。その後、圧力調整部により、前記一方のチャンバ内の圧力を、前記他方のチャンバ内の圧力よりも相対的に低くすることで、伸展の余裕代を持たせた第一の樹脂フィルム部分を伸展させて、芯材の表面に樹脂フィルムを被覆することができる。
さらに、本発明に係る被覆装置は、前記芯材として、前記傾斜角度の大きい傾斜面が内側に配置され、前記傾斜角度の小さい傾斜面が外側に配置されるように、前記凸部を前記芯材表面の外側周部に形成することにより、前記芯材表面に凹部が形成された芯材に、前記樹脂フィルムを被覆するための装置であり、前記第一の加熱部は、前記稜線より内側に被覆される樹脂フィルム部分(前記第一の樹脂フィルム部分)を加熱するように配置され、前記第二の加熱部は、前記稜線よりも外側に被覆される樹脂フィルム部分(前記第二の樹脂フィルム部分)を加熱するように配置されていることがより好ましい。
本発明によれば、前記稜線より内側に被覆される樹脂フィルム部分(第一の樹脂フィルム部分)に比べて、前記稜線よりも外側に被覆される樹脂フィルム部分(第二の樹脂フィルム部分)をより高温に加熱することにより、第二の樹脂フィルム部分を、圧力調整部により伸展させることができる。これにより、第一の樹脂フィルム部分が、被覆時に伸展の余裕代を持たせることができるので、傾斜角度の大きい傾斜面も、樹脂フィルムが裂けることなく、フィルムを被覆することができる。
本発明によれば、芯材の表面が凹凸状の表面であっても、樹脂フィルムに過度の引張り歪みを作用させることなく、樹脂フィルムを、芯材表面に被覆することができる。
以下、図面を参照して、本発明を2つの実施の形態に基づき説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態に係る被覆方法のうち、芯材及び樹脂フィルムを配置する工程を説明するための模式的断面図であり、第一実施形態において、樹脂フィルムを好適に被覆するための被覆装置も合わせてしている。図2は、本発明の第一の実施形態に係る樹脂フィルムの被覆方法のうち、樹脂フィルムを加熱する工程における加熱部、樹脂フィルム、及び芯材の配置状態を説明するための模式的斜視図である。図3は、本発明の第一の実施形態に係る樹脂フィルムの被覆方法のうち、樹脂フィルムを伸展させる工程を説明するための模式的断面図である。
図1に示すように、被覆装置1Aは、上チャンバ2a(他方のチャンバ)と、下チャンバ(一方のチャンバ)2bと、からなる一対のチャンバ2を備えている。上チャンバ2aには、上チャンバ2aを上下方向に移動させるための上チャンバ移動装置3aが接続されている。上チャンバ移動装置3aを駆動して、上チャンバ2aを下チャンバ2bに向かって下降させたときに、図3に示すように、一対のチャンバ2の内部には、芯材20を配置するための密閉された内部空間が形成される。
下チャンバ2bは固定されており、その内部には、芯材20を載置する載置台5Aが配置されている。載置台5Aの載置面は、芯材20を安定して載置可能なように、芯材20の形状に合わせた表面形状となっている。載置台5Aには、載置台5Aをチャンバ2内において、上下方向に昇降させて移動させるための載置台移動装置(載置台移動部)3bが連結されている。
また、被覆装置1Aは、樹脂フィルム10をセットするフィルムセット部4と、樹脂フィルム10を加熱する加熱部8とをさらに備えている。フィルムセット部4は、上チャンバ2aと下チャンバ2bとの間において、載置台5Aと対向する位置(下チャンバ2bの開口を覆う位置)に樹脂フィルム10をセットするように構成されている。これにより、図3に示すように、樹脂フィルム10は、チャンバ2内の内部空間を仕切ることができる。
ここで、図2に示すように、樹脂フィルム10が被覆される芯材20は、金属製であり、その芯材の表面には凸部20Aが形成されている。この凸部20Aは、少なくとも2つの傾斜角度の異なる傾斜面22,23を有しており、この2つの傾斜面22,23により形成された稜線21を有している。さらに、2つの傾斜面22,23のうち少なくとも一方の傾斜面23が、他方の傾斜面22に比べて傾斜角度が大きくなっている。この傾斜角度とは、芯材20の凸部20A以外の平面(樹脂フィルムの表面(裏面)と略平行な面)と、傾斜面との成す角度である。従って、傾斜角度が大きい傾斜面23は、傾斜角度が小さい傾斜面22に比べて急勾配となっている。
本実施形態は、このような芯材20に樹脂フィルム10を被覆するものであり、加熱部8の装置構成がこれまでのものと大きく相違する。すなわち、稜線21を挟んで、傾斜角度の大きい傾斜面23側に被覆される樹脂フィルム10の部分(第一の樹脂フィルム部分)10Aと、傾斜角度の小さい傾斜面22側に被覆される樹脂フィルム10の部分(第二の樹脂フィルム部分)10Bとの加熱温度に差を持たせるように構成されている。
具体的には、加熱部8は、上チャンバ2a内に配置されており、第一の加熱部8Aと第二の加熱部8Bとを備えている。第二の加熱部8Bは、第一の加熱部8Aに比べて、高温に発熱するように構成されている。また、図2に示すように、第一の加熱部8Aは、稜線21から傾斜角度の大きい傾斜面23側に被覆される樹脂フィルム10の部分(第一の樹脂フィルム部分)10Aを加熱するように配置されている。第二の加熱部8Bは、稜線21から傾斜角度の小さい傾斜面22側に被覆される樹脂フィルム10の部分(第二の樹脂フィルム部分)10Bを加熱するように配置されている。
従って、樹脂フィルム10を加熱する際には、加熱部8は、第二の樹脂フィルム部分10Bを、第一の樹脂フィルム部分10Aに比べて、高温に加熱することができる。なお、樹脂フィルム10を伸展させる(膨らませる)際に、樹脂フィルム10が加熱部8に接近するため、上述した樹脂フィルム10の加熱状態に変化が生じるおそれがある。この場合、樹脂フィルム10を伸展させる工程から芯材20を樹脂フィルム10に接触させる工程(後述する図4参照)までの工程を迅速に行うことが望ましい。しかしながら、より安定的に樹脂フィルムの軟化状態を確保したい場合には、図3に示すように、樹脂フィルム10を膨らませた(伸展させた)状態であっても、加熱部8は、第二の樹脂フィルム部分10Bを、第一の樹脂フィルム部分10Aに比べて、高温に加熱するように、第一の加熱部8Aと第二の加熱部8Bの発熱量(加熱温度)が設定されていることが好ましい。この場合には、後述するように、樹脂フィルム10の加熱と、伸展を同時に行ってもよい。
ここで、加熱部8としては、樹脂フィルム10を加熱することができるのであれば、特にその加熱方法は限定されず、例えば、電気ヒータの場合には、第二の加熱部の電熱線に通電される電流が、第一の加熱部のものに比べて、大きくなるように構成されている。また、上チャンバ移動装置3a及び載置台移動装置3bは、シリンダとビストンからなる機構や、回転運動を直動運動に変換する機構など、を挙げることができ、上チャンバ2a及び載置台5Aを上下方向に移動させることができるものであれば、特に、その機構は限定されるものではない。
さらに、被覆装置1Aは、チャンバ内を大気圧以上に加圧することができる圧空装置6と、チャンバ内を大気圧以下の負圧にすることができる真空装置7とを備えている。これらは、三方弁9a,9bを介して、上及び下チャンバ2a,2bに連通している。各装置6,7には、圧力を安定して供給するためのアキュミュレータタンク6a,7aが設けられている。圧空装置6は、タンク6aにコンプレッサ6bを接続しており、真空装置7は、タンク7bに真空ポンプ7cが接続されている。なお、本実施形態では、これら装置6,7,9a,9bが、本発明でいう圧力調整部に相当するが、この装置構成に限定されるものではなく、(1)上チャンバ2a内の圧力を、下チャンバ2b内の圧力よりも相対的に高くすること、及び、(2)上チャンバ2a内の圧力を、下チャンバ2b内の圧力よりも相対的に低くすることの両方の圧力調整が可能であれば、圧空装置6のみ、または真空装置7のみで構成されていてもよい。
このように構成された被覆装置1Aを用いた樹脂フィルム10の被覆方法を、図1〜3に、加え、図4及び5も参照しながら、以下に説明する。図4は、本発明の第一の実施形態に係る樹脂フィルムの被覆方法のうち、芯材を樹脂フィルムに接触させる工程を説明するための模式的断面図である。図5は、本発明の第一の実施形態に係る樹脂フィルムの被覆方法のうち、芯材表面に樹脂フィルムを被覆する工程を説明するための模式的断面図である。
まず、上述した芯材20を準備し、図1に示すように、芯材20を一対チャンバ2のうち下チャンバ2b内の載置台5Aの上に配置する。次に、フィルムセット部4Aを用いて、上チャンバ2aと下チャンバ2bと間において内部空間を仕切るように、芯材表面に対向する位置に樹脂フィルム10を配置する。なお、樹脂フィルム10の裏面(芯材20と接触する面)には、粘着剤として接着剤が塗布されている。これにより、後述する被覆時(図5参照)に、芯材20の表面に樹脂フィルム10を接着することができる。
そして、これらを配置した状態で、上チャンバ移動装置3aを可動させ、上チャンバ2aを下チャンバ2bに向かって移動させる(図3参照)。これにより、上及び下チャンバ2a、2bには、内部空間として、樹脂フィルム10によりそれぞれ、独立した閉空間が形成されることになる。なお、チャンバ2内の圧力が変化しないように、三方弁9a,9bは、閉弁状態となっている。
次に、上チャンバ2aに配置された加熱部8を用いて、樹脂フィルム10を加熱する。具体的には、図2に示すように、稜線21から傾斜角度の大きい傾斜面23側に被覆される樹脂フィルムの部分(第一の樹脂フィルム部分)10Aを第一の加熱部8Aで加熱し、稜線21から傾斜角度の小さい傾斜面22側に被覆される樹脂フィルムの部分(第二の樹脂フィルム部分)10Bを、第二の加熱部8Bで加熱する。第一の加熱部8Aに比べて、第二の加熱部8Bの方が、発熱温度の高い(発熱量が多い)。これにより、第二の樹脂フィルム部分10Bは、第一の樹脂フィルム部分10Aに比べて、高温に加熱される。
さらに、図3に示すように、三方弁9a、9bを操作して、圧空装置6から圧空を下チャンバ2b内に供給する。これにより、下チャンバ2b内の圧力は、上チャンバ2a内の圧力よりも相対的に高くなる。この結果、樹脂フィルム10を上チャンバ側に膨らむように、伸展(伸張)させることができる。
この際に、第二の樹脂フィルム部分10Bは、第一の樹脂フィルム部分10Aに比べて、高温に加熱されているため、第二の樹脂フィルム部分10Bは、第一の樹脂フィルム部分10Aに比べて、大きく伸展することになる(図3の実線の矢印参照)。すなわち、第一の樹脂フィルム部分10Aの肉厚は、第二の樹脂フィルム部分10Bのものに比べて相対的に厚くなっており、この結果、第一の樹脂フィルム部分10Aは、その後の被覆工程(図5参照)において、伸展するための余裕代を有することになる。
ここでは、第二の樹脂フィルム部分10Bは、軟化点温度以上、第一の樹脂フィルム部分10Aは、軟化点温度未満の温度に加熱されば、より好適に、第二の樹脂フィルム部分10Bをより大きく伸展させることができる。
なお、各工程を明確に説明するために、樹脂フィルム10を加熱する工程と、加熱した樹脂フィルムを上チャンバ2a側に膨らむように伸展させる工程と、分けて連続して行った。しかしながら、膨らんだ状態で、第二の樹脂フィルム部分10Bが相対的に高温に加熱されているのであれば、すなわち、膨らんだ状態で、第二の樹脂フィルム部分10Bが第一の樹脂フィルム部分10Aに比べて相対的に伸展するのであれば、これらの2つ工程を同時に行ってもよいことは勿論である。
次に、図4に示すように、載置台移動装置3bを用いて、載置台5Aを上昇させる。これにより、膨らんだ樹脂フィルム10に向かって芯材20が移動する。そして、芯材20の凸部20Aの少なくとも稜線21に樹脂フィルム10の裏面に接触させる。この結果、樹脂フィルム10は、稜線21により拘束される。これにより、稜線21を挟んで、第一の樹脂フィルム部分10Aの伸展と、第二の樹脂フィルム部分10Bの伸展とが、相互に影響を及ぼし難くなる。なお、本実施形態では、樹脂フィルム10の裏面に接着剤を塗布しているので、稜線21による拘束力は、より大きくなる。
次に、膨らんだ状態の樹脂フィルム10を変形させて、芯材20の表面に被覆し接着する。具体的には、図5に示すように、下チャンバ2b内の圧力を、上チャンバ2a内の圧力よりも相対的に低くすることにより、樹脂フィルム10を芯材20の表面形状に倣わせて、樹脂フィルム10を芯材表面に被覆する。
本実施形態では、三方弁9a、9bを操作して、上チャンバ2aに圧空装置6の圧空を供給して大気圧よりも圧力が高い加圧状態とする(図5の実線の矢印参照)。一方、真空装置7を作動させて、下チャンバ2内の空気を吸引し、下チャンバ2b内は、大気圧よりも圧力が低い減圧状態にする(図5の破線の矢印参照)。これにより、芯材20と樹脂フィルム10との間に空気が入り難くなる。但し、この方法に限らず、上チャンバ2aのみを加圧状態してもよく、下チャンバ2bのみを減圧状態にしてもよい。
傾斜角度の小さい傾斜面22側の芯材表面は、傾斜面22が緩やかであるので、被覆時には、第二の樹脂フィルム部分10Bを第一の樹脂フィルム部分10Aに比べて、さらに大きく伸展させる必要がない。従って、既に伸展した樹脂フィルム部分10Bで、傾斜角度の小さい傾斜面22側の芯材表面を被覆しても、このフィルム部分に、過剰な引張り歪みが作用する必要がない。
一方、傾斜角度の大きい傾斜面23側の芯材表面は、傾斜面23の勾配が急であるので、被覆時には、第一の樹脂フィルム部分10Aを第二の樹脂フィルム部分10Bに比べて大きく伸展させる必要がある。従って、第一の樹脂フィルム部分10Aは、第二の樹脂フィルム部分10Bに比べて伸展する余裕代があるので、第一の樹脂フィルム部分10Aをより大きく伸展させたとしても、第一の樹脂フィルム部分10Aに、過剰な引張り歪みが作用することなく、伸展させることができる。
このようにして、芯材20の表面に過剰な引張り歪みを作用させることなく、すなわち、樹脂フィルムが局所的に薄くなることもなく、接着剤を介して樹脂フィルム10を、芯材20の表面に被覆することができる。そして、チャンバ2内を大気圧に調整し、上チャンバ2aを開いて、樹脂フィルム10が被覆された芯材20を取り出す。
本実施形態では、芯材として、金属材料からなる芯材を用いたが、この金属は、例えば、鋼、鋳鉄、アルミニウム合金、又はチタン合金などを挙げることができ、加熱部からの熱により変形等することがなく、凸部を形成することができるのであれば、特に、その材料は金属材料に限定されるものではなく、例えば、熱硬化性樹脂などの高分子樹脂などであってもよい。
また、樹脂フィルムは、0.1mm〜1mm程度の厚さが好ましく、伸展させることができるのであれば、特にその材料は限定されるものではない。加熱部の熱によって、伸展しやすいことを考慮すると、例えば、PP,PA、PET等の樹脂などの熱可塑性樹脂が好ましい。
以下に、本発明に係る第二の実施形態について、図6〜10を参照して説明する。第二の実施形態では、第一の実施形態に比べて、芯材の形状(これを載置する載置台の形状)、及び、樹脂フィルムを加熱する加熱部の構成が相違する。従って、この相違する点のみを詳細に説明し、第一の実施形態と同じ機能を有する部材及び機器は、同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図6は、本発明の第二の実施形態に係る樹脂フィルムの被覆方法のうち、芯材及び樹脂フィルムを配置する工程を説明するための模式的断面図であり、図7は、本発明の第二の実施形態に係る樹脂フィルムの被覆方法のうち、樹脂フィルムを加熱する工程における加熱部、樹脂フィルム、及び芯材の配置状態を説明するための模式的斜視図である。また、図8は、本発明の第二の実施形態に係る樹脂フィルムの被覆方法のうち、樹脂フィルムを伸展させる工程を説明するための模式的断面図である。
被覆装置1Bを用いて、樹脂フィルム10を芯材30の表面に被覆する。図6及び7に示すように、芯材30は、芯材表面の外側周部には、凸部30Aが形成されている。凸部30Aは、第一実施形態と同様に、傾斜角度の小さい傾斜面32と、傾斜角度の大きい傾斜面33と、これらの傾斜面32,33により形成された稜線31と、を有している。
具体的には、凸部30Aは、傾斜角度の大きい傾斜面33が内側(芯材表面中央向き)に配置され、傾斜角度の小さい傾斜面32が外側(芯材表面の外側向き)に配置されるように形成されている。そして、これらの傾斜面32,33により、凸部30Aの頂部には、4辺からなる稜線31が形成されている。このようして、芯材表面の外側周部に連続した凸部30Aを形成することにより、芯材表面に凹部34が形成されることになる。
図8に示すように、第一の加熱部8Cは、傾斜角度の大きい傾斜面33側に被覆される樹脂フィルム、すなわち、稜線21より内側に被覆される樹脂フィルム部分(第一の樹脂フィルム部分)10Cを加熱するように、配置されている。また、第二の加熱部8Dは、傾斜角度の小さい傾斜面32側に被覆される樹脂フィルム、すなわち、稜線21よりも外側に被覆される樹脂フィルム部分(第二の樹脂フィルム部分)10Dを加熱するように配置されている。また、第一の実施形態と同様に、第二の加熱部8Dは、第一の加熱部8Cよりも高温に発熱する。
以下に図6〜8に加え、図9及び10をさらに参照して、このように構成された被覆装置1Bを用いた芯材30に樹脂フィルム10を被覆する。図9は、本発明の第二の実施形態に係る樹脂フィルムの被覆方法のうち、芯材を樹脂フィルムに接触させる工程を説明するための模式的断面図である。図10は、本発明の第二の実施形態に係る樹脂フィルムの被覆方法のうち、芯材表面に樹脂フィルムを被覆する工程を説明するための模式的断面図である。
まず、図6に示すように、芯材30を準備し、芯材30を一対チャンバ2のうち下チャンバ2b内の載置台5Bの上に配置する。フィルムセット部4を用いて、一対のチャンバ2間において内部空間を仕切るように、芯材表面と対向する位置に樹脂フィルム10を配置する。上チャンバ2aを下チャンバ2bに向かって移動させる。なお、樹脂フィルムの裏面には、接着剤が塗布されている。
図7に示すように、第一の樹脂フィルム部分10Cを第一の加熱部8Cで加熱し、第二の樹脂フィルム部分10Dを、第二の加熱部8Dで加熱する。これにより、第二の樹脂フィルム部分10Dは、第一の樹脂フィルム部分10Cに比べて、高温に加熱される。
図8に示すように、三方弁9a、9bを操作して、圧空装置6により、下チャンバ2b内の圧力を、上チャンバ2a内の圧力よりも相対的に高くする。この際に、第二の樹脂フィルム部分10Dは、第一の樹脂フィルム部分10Cに比べて、高温に加熱されているため、傾斜角度の小さい傾斜面32側に被覆される樹脂フィルム部分10Dは、第一の樹脂フィルム部分10Cに比べて、大きく伸展することになる(図8の実線の矢印参照)。なお、第一の実施形態において示したように、加熱工程と伸展工程とを同時に行ってもよい。
次に、図9に示すように、載置台5Bを上昇させて、芯材30の凸部30Aの稜線31に樹脂フィルム10を接触させる。この結果、樹脂フィルム10は、稜線31により拘束される。これにより、稜線31を挟んで、第一の樹脂フィルム部分10Cの伸展と、第二の樹脂フィルム部分10Dの伸展とが、相互に影響を及ぼし難くなる。
次に、図10に示すように、下チャンバ2b内の圧力を、上チャンバ2a内の圧力よりも相対的に低くすることにより(図10の実線及び破線の矢印参照)、樹脂フィルム10を芯材20の表面形状に倣わせて、樹脂フィルム10を芯材表面に被覆する。
傾斜角度の小さい傾斜面32側の芯材表面は、傾斜面32が緩やかであるので、被覆時には、第二の樹脂フィルム部分10Dを第一の樹脂フィルム部分10Cに比べて、さらに大きく伸展させる必要がない。従って、既に伸展した樹脂フィルム部分10Dで、傾斜角度の小さい傾斜面32側の芯材表面を被覆しても、このフィルム部分に、過剰な引張り歪みが作用する必要がない。
一方、傾斜角度の大きい傾斜面33側の芯材表面、すなわち凹部34の表面は、傾斜面33の勾配が急であるので、被覆時には、第一の樹脂フィルム部分10Cを第二の樹脂フィルム部分10Dに比べて大きく伸展させる必要がある。従って、第一の樹脂フィルム部分10Cは、第二の樹脂フィルム部分10Dに比べて伸展する余裕代があるので、第一の樹脂フィルム部分10Cをより大きく伸展させたとしても、第一の樹脂フィルム部分10Cに、過剰な引張り歪みが作用することなく、伸展させることができる。第一の樹脂フィルム部分10Cを、稜線31よりも内側の凹部34に容易に被覆することができる。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
例えば、本実施形態では、矩形状の芯材に樹脂フィルムを被覆したが、表面に凸部を有するものであれば、芯材の外形はこれに限定されるものではなく、例えば、円盤状や、菱形上の芯材であってもよい。