以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の構成を示す概略図であり乗員が搭乗した状態を示す図、図2は本発明の第1の実施の形態における車両の制御システムの構成を示すブロック図である。なお、図1において、(a)は正面図、(b)は側面図である。また、図1において、矢印U−D、L−R及びF−Bは、車両の上下方向、左右方向及び前後方向をそれぞれ示している。
図において、10は、本実施の形態における車両であり、乗員Pが搭乗する搭乗部11と、該搭乗部11の下方に配設された車輪12と、該車輪12に回転駆動力を付与する回転駆動装置52と、車輪12を支持するリンク機構30を作動させるアクチュエータ装置53とを有し、倒立振り子の姿勢制御を利用して車体の前後方向の姿勢を制御する。すなわち、前記車両10は車体を前後に傾斜させることができる。
また、前記車輪12は、左右一対の左側の車輪12L及び右側の車輪12Rから成り、旋回時には、左右の車輪12L及び12Rにキャンバー角を付与するとともに、搭乗部11を含む車体を旋回内輪側へ傾斜させることによって、旋回性能の向上と乗員Pの快適性の確保とを図ることができるようになっている。すなわち、前記車両10は車体を横方向(左右方向)にも傾斜させることができる。なお、左右の車輪12L及び12Rを統合的に説明する場合には、車輪12として説明する。また、左右の車輪12L及び12Rは、リンク機構30によって支持され、該リンク機構30は、後述される連結リンク40を介して、搭乗部11に連結されている。そして、アクチュエータ装置53は、前記リンク機構30を作動させることによって、車体を傾斜させる。
前記搭乗部11は、座席11a、アームレスト11b、フットレスト11c及びケース11dを備える。前記座席11aは、車両10の走行中に乗員Pが着座するための部位であり、乗員Pの尻部を支持する座面部11a1と、乗員Pの背部を支持する背面部11a2とを備える。また、前記フットレスト11cは、乗員Pの足部を支持するための部位であり、座席11aの前方側(矢印F側)下方に配設される。さらに、前記アームレスト11bは、乗員Pの上腕部を支持するための部位であり、前記座席11aの左右両側(矢印L側及び矢印R側)にそれぞれ配設される。
そして、一対のアームレスト11bの一方(矢印R側)には、操縦装置としてのジョイスティック装置51が配設されている。乗員Pは、ジョイスティック装置51を操作して、車両10の走行状態(例えば、進行方向、走行速度、旋回方向、旋回半径等)を指示する。なお、乗員Pが操作して走行状態を指示することができる装置であれば、ジョイスティック装置51に代えて他の装置、例えば、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を操縦装置として使用することもできる。
また、車両10がリモートコントロールによって操縦される場合には、前記ジョイスティック装置51に代えて、コントローラからの走行指令を有線又は無線で受信する受信装置を操縦装置として使用することができる。また、車両10があらかじめ決められた走行指令データに従って自動走行する場合には、前記ジョイスティック装置51に代えて、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶媒体に記憶された走行指令データを読み取るデータ読取り装置を操縦装置として使用することができる。
さらに、座席11aの後方側(矢印B側)には、ケース11dが配設され、座席11aの底面側(矢印D側)には、図示されないバッテリー装置が配設されている。該バッテリー装置は、回転駆動装置52及びアクチュエータ装置53の駆動源である。また、ケース11d内には、制御装置70、及び、図示されない各種センサ装置、インバータ装置等が収納されている。
前記車両10は、車両制御装置としての制御装置70を有する。該制御装置70は、車両10の各部を制御するための制御装置であり、図2に示されるように、CPU71、ROM72及びRAM73を備える。そして、前記CPU71、ROM72及びRAM73は、バスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、該入出力ポート75には、ジョイスティック装置51等の複数の装置が接続されている。
ここで、前記CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置である。また、前記ROM72は、CPU71により実行される制御プログラム、固定値データ等を格納する書き換え不能な不揮発性のメモリである。さらに、前記RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のワークデータ、フラグ等を書き換え可能に記憶するためのメモリである。
ジョイスティック装置51は、前述のように、車両10を運転する際に乗員Pが操作する装置であり、乗員Pにより操作される操作レバーと、該操作レバーの操作状態を検出するための前後センサ51a及び左右センサ51bと、前記前後センサ51a及び左右センサ51bの検出結果を処理してCPU71に出力する図示されない処理回路とを備える。
前記前後センサ51aは、操作レバーの前後方向(矢印F−B方向)への操作状態(操作量)を検出するためのセンサである。そして、CPU71は、前後センサ51aの検出結果(操作レバーの前後操作量)に基づいて、回転駆動装置52の駆動状態を制御する。これにより、車両10は、乗員Pが指示した走行速度で走行する。
また、前記左右センサ51bは、操作レバーの左右方向(矢印L−R方向)への操作状態(操作量)を検出するためのセンサである。そして、CPU71は、左右センサ51bの検出結果(操作レバーの左右操作量)に基づいて、回転駆動装置52及びアクチュエータ装置53の駆動状態をそれぞれ制御する。これにより、車両10は、乗員Pが指示した旋回半径で旋回される。
すなわち、操作レバーが左右方向に操作されると、CPU71は、左右センサ51bの検出結果に基づいて、旋回方向と旋回半径とを判断し、左右の車輪12L及び12Rが旋回内側へ傾斜されるように、アクチュエータ装置53を駆動制御するとともに、旋回半径に応じて左右の車輪12L及び12Rが差動されるように、回転駆動装置52を駆動制御する。その結果、左右の車輪12L及び12Rにキャンバー角が付与されるとともに、搭乗部11が旋回内輪側へ傾斜され、旋回性能の向上と乗員Pの快適性の確保とが達成される。
このように、本実施の形態における車両10では、左右の車輪12L及び12Rにキャンバー角を付与して、キャンバースラストを発生させることで、車両10を旋回させる。そのため、左右の車輪12L及び12Rの中心線は互いに平行に保持されており、左右に操舵(だ)されることはない。なお、必要に応じて操舵機構を設けてもよい。
前記回転駆動装置52は、左右の車輪12L及び12Rを回転可能に支持する支持装置であるとともに、左右の車輪12L及び12Rを回転駆動させるための駆動装置であり、左の車輪12Lに回転駆動力を付与する左側回転駆動装置52Lと、右の車輪12Rに回転駆動力を付与する右側回転駆動装置52Rとから成る。なお、左側回転駆動装置52Lと右側回転駆動装置52RとをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する図示されない駆動回路及び駆動源を備えていてもよい。そして、左側回転駆動装置52Lと右側回転駆動装置52Rとを統合的に説明する場合には、回転駆動装置52として説明する。
また、前記アクチュエータ装置53は、リンク機構30を屈伸させるための駆動装置であり、リンク機構30の前方側(矢印F側)に配設される前側アクチュエータ装置53Fとリンク機構30の後方側(矢印B側)に配設される後側アクチュエータ装置53Bとを含む。なお、前側アクチュエータ装置53Fと後側アクチュエータ装置53BとをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する図示されない駆動回路及び駆動源を備えていてもよい。そして、前側アクチュエータ装置53Fと後側アクチュエータ装置53Bとを統合的に説明する場合には、アクチュエータ装置53として説明する。また、車両10は、必ずしも前側アクチュエータ装置53F及び後側アクチュエータ装置53Bの両方を備える必要はなく、前側アクチュエータ装置53F又は後側アクチュエータ装置53Bのいずれか一方のみを備えていてもよい。
なお、本実施の形態では、前記アクチュエータ装置53が伸縮式の電動アクチュエータ装置であって、外周面に螺(ら)旋状の雄ねじが形成されたねじ軸と、内周面に螺旋状の雌ねじが形成され、前記ねじ軸に螺合するナットとから成るすべりねじ伝動装置(Sliding Power Screw Device)を備える。該すべりねじ伝動装置は、電動モータ等によってねじ軸及びナットの一方を回転させることにより、ねじ軸とナットとを軸方向に相対的に移動させる装置である。なお、前記すべりねじ伝動装置においては、ねじ軸とナットとの間にボールが介在しておらず、ねじ軸のねじ面とナットのねじ面との間にはある程度のすべり摩擦が発生する。
また、前記入出力ポート75には、他の入出力装置54が接続されている。該他の入出力装置54は、例えば、車両10の走行状態(走行速度、走行距離等)を検出する検出装置、該検出装置により検出された走行状態を表示して乗員Pに報知する表示装置、車両10に作用する加速度を検出する加速度センサ等が含まれる。
次に、前記回転駆動装置52の構造について詳細に説明する。なお、左側回転駆動装置52Lと右側回転駆動装置52Rとは実質的に同一の構造を有するので、ここでは、右側回転駆動装置52Rについてのみ説明し、左側回転駆動装置52Lについての説明は省略する。
図3は本発明の第1の実施の形態における回転駆動装置の構成を示す図である。なお、図において、(a)は正面図、(b)は側面図である。
右側回転駆動装置52Rは、右の車輪12Rに回転駆動力を付与するための駆動装置であり、電動モータである。また、右側回転駆動装置52Rは、いわゆるインホイールモータとして構成され、図3に示されるように、車両10の外方側(矢印R側)にはハブ52aが配設され、車両10の内方側(矢印L側)には上部軸支プレート52b及び下部軸支プレート52cが、それぞれ配設されている。
前記ハブ52aは、右の車輪12Rのホイール12Raがハブナット及びハブボルトにより締結固定される部材であり、図3(a)に示されるように、右側回転駆動装置52Rの図示されない駆動軸の軸心Oと同心の円板状に形成されている。そして、右側回転駆動装置52Rの駆動軸が回転駆動されると、その回転が、ハブ52aを介して、ホイール12Ra伝達され、右の車輪12Rが回転駆動される。
上部軸支プレート52b及び下部軸支プレート52cは、右側回転駆動装置52Rとともに車輪支持体を構成し、後述される上部リンク31及び下部リンク32の端部をそれぞれ軸支するための部材であり、右側回転駆動装置52Rの側面(矢印L側面)に溶接固定されている。また、上部軸支プレート52b及び下部軸支プレート52cには、上部リンク31及び下部リンク32を軸支するための貫通孔(こう)52b1及び52c1がそれぞれ穿(せん)設されている。
なお、上部軸支プレート52b及び下部軸支プレート52cは、図3(b)に示されるように、それぞれ一対が所定間隔を隔てつつ、互いに対向して配設されている。本実施の形態においては、前記所定間隔(矢印F−B方向寸法)が互いに等しい寸法になるように、設定されている。
また、本実施の形態においては、上部軸支プレート52bの貫通孔52b1と下部軸支プレート52cの貫通孔52c1とを結ぶ仮想線が、右側回転駆動装置52Rの軸心Oと直交するように構成されている。これにより、後述されるように、リンク機構30を4節の平行リンク機構として構成することができる。
次に、前記リンク機構30の構造について詳細に説明する。
図4は本発明の第1の実施の形態におけるリンク機構の上部リンク及び下部リンクの構成を示す図、図5は本発明の第1の実施の形態におけるリンク機構の連結リンクの構成を示す図、図6は本発明の第1の実施の形態におけるリンク機構の構成を示す正面図、図7は本発明の第1の実施の形態におけるリンク機構の構成を示す上面図である。なお、図4において、(a)は正面図、(b)は上面図であり、図5において、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は上面図である。
本実施の形態におけるリンク機構30は、図6に示されるように、上部リンク31及び下部リンク32を有する。前記上部リンク31及び下部リンク32は、左側回転駆動装置52L及び右側回転駆動装置52Rに両端が軸支され、前記左側回転駆動装置52L及び右側回転駆動装置52Rとともに4節のリンク機構を構成する部材であり、図4に示されるように、互いに同一の形状及び寸法を備える、正面形状が略矩(く)形の板状部材である。
なお、上部リンク31及び下部リンク32の両端に穿設される貫通孔33R及び33Lは、左側回転駆動装置52L及び右側回転駆動装置52Rの上部軸支プレート52bの貫通孔52b1及び下部軸支プレート52cの貫通孔52c1に軸支される部位であり、上部リンク31及び下部リンク32の長手方向(図4左右方向)中央部に穿設される貫通孔33Cは、図5に示されるような連結リンク40に軸支される部位である。
このように、本実施の形態においては、2枚の上部リンク31及び2枚の下部リンク32の両端を、それぞれ左側回転駆動装置52L及び右側回転駆動装置52Rの上部軸支プレート52b及び下部軸支プレート52cに軸支することによって、リンク機構30が構成される。
また、連結リンク40は、リンク機構30と搭乗部11とを連結するための部材であり、図5に示されるように、連結部材41と乗員支持部材42とを備える。前記連結部材41は、上部リンク31と下部リンク32との連結部となる部材であり、図5(b)に示されるように、側面形状が略U字状であり、図6に示されるように、その上端部が乗員支持部材42に接続されている。
なお、図5(a)に示されるように、連結部材41の上方(矢印U側)に穿設される貫通孔43aは、上部リンク31の貫通孔33Cに軸支される部位であり、連結部材41の下方(矢印D側)に穿設される貫通孔43bは、下部リンク32の貫通孔33Cに軸支される部位である。
乗員支持部材42は、搭乗部11の座席11aを底面側(矢印D側)から支持するための部材であり、図5(a)に示されるように、正面形状が略U字の一対の部材が、図5(b)及び(c)に示されるように、棒状体により連結され、一体化されている。
また、図6及び7に示されるように、上部リンク31の両端が左側回転駆動装置52L及び右側回転駆動装置52Rの上部軸支プレート52bに回転可能に軸支され、下部リンク32の両端が左側回転駆動装置52L及び右側回転駆動装置52Rの下部軸支プレート52cに回転可能に軸支されることにより、上部リンク31、下部リンク32、左側回転駆動装置52L及び右側回転駆動装置52Rによる4節のリンク機構30が、平行リンクとして構成される。なお、図6及び7では、図面を簡略化して理解を容易とするために、アームレスト11bやフットレスト11cなどの図示が省略されるとともに、左右の車輪12L及び12R、連結リンク40等は断面が示されている。
本実施の形態においては、一対のモータ装置である左側回転駆動装置52L及び右側回転駆動装置52Rが左右の車輪12L及び12Rに回転駆動力を付与する装置として機能するので、例えば、デファレンシャル装置を設けるとともに該デファレンシャル装置と左右の車輪12L及び12Rとを等速ジョイントにより連結するといった複雑な構造を採用することなく、左右の車輪12L及び12Rを差動させることができる。
また、左側回転駆動装置52L及び右側回転駆動装置52Rが車輪12L及び12Rの駆動源及び支持体としての機能を兼ね備えるので、部品点数を削減することができ、構造を簡素化することができる。その結果、車両10の軽量化を図ることができ、さらに、部品コスト及び組立コストの削減を図ることができる。
さらに、連結リンク40は、連結部材41が上部リンク31及び下部リンク32に軸支されるとともに、乗員支持部材42が搭乗部11の座席11aを底面側から支持する。これにより、リンク機構30の屈伸に伴って、連結リンク40を傾斜させることができ、その結果、搭乗部11を旋回内輪側へ傾斜させることができる。
さらに、図7に示されるように、リンク機構30の前方側(矢印F側)及び後方側(矢印B側)には、前側アクチュエータ装置53F及び後側アクチュエータ装置53Bがそれぞれ配設されている。前側アクチュエータ装置53F及び後側アクチュエータ装置53Bは、リンク機構30を屈伸させるための駆動装置であり、その両端が4節のリンク機構30の互いに隣り合わない支持軸に接続されている。
図6に示されるように、前側アクチュエータ装置53Fの下端側(本体部側)は、右側回転駆動装置52Rの下部軸支プレート52cに支持軸80Fcを介して軸支される。一方、前側アクチュエータ装置53Fの上端側(ロッド側)は、左側回転駆動装置52Lの上部軸支プレート52bに支持軸80Fbを介して軸支される。これにより、前側アクチュエータ装置53Fは、4節のリンク機構30の対角線上にたすき掛けされる。
また、後側アクチュエータ装置53Bの下端側(本体部側)が、左側回転駆動装置52Lの下部軸支プレート52cに支持軸80Bdを介して軸支される。一方、後側アクチュエータ装置53Bのその上端側(ロッド側)が右側回転駆動装置52Rの上部軸支プレート52bに支持軸80Baを介して軸支される。これにより、後側アクチュエータ装置53Bは、4節のリンク機構30の対角線上にたすき掛けされる。また、前側アクチュエータ装置53F及び後側アクチュエータ装置53Bは、互いに交差するように配設される。
このように、前側アクチュエータ装置53F及び後側アクチュエータ装置53Bの両端を4節のリンク機構30の互いに隣り合わない支持軸に接続した、すなわち、4節のリンク機構30の対角線上にたすき掛けしたので、力の作用点(例えば、図6に示されるような前側アクチュエータ装置53Fであれば、支持軸80Fb及び支持軸80Fc)から回転中心(前側アクチュエータ装置53Fの両端が接続されない残りの支持軸80Fa及び支持軸80Fd)までの距離を最大として、その分、リンク機構30の屈伸に必要な駆動力を小さくすることができる。
その結果、リンク機構30の屈伸をスムーズに、すなわち、高速高精度に行うことができるとともに、アクチュエータ装置53に要求される駆動性能を低く抑えることができるので、アクチュエータ装置53やその駆動源などを小型化して、軽量化と部品コストの削減とを図ることができる。
ところで、前記力の作用点から回転中心までの距離を長くするために、アーム部材をリンク機構30に更に設ける場合には、前記アーム部材の分だけ重量が嵩(かさ)むとともに、リンク機構30の屈伸時にアーム部材やアクチュエータ装置53がリンク機構30の外形よりも外方に突出するので、小型化を図ることができない。
これに対し、本実施の形態のように、アクチュエータ装置53の両端をリンク機構30の対角線上にたすき掛けすると、アーム部材を設けなくても、前記力の作用点から回転中心までの距離を最大とすることができるとともに、リンク機構30の屈伸時にアクチュエータ装置53がリンク機構30の外形から外方に突出することを回避して、小型化を図ることができる。
また、前側アクチュエータ装置53F及び後側アクチュエータ装置53Bを互いに交差するように配設したので、前側アクチュエータ装置53F及び後側アクチュエータ装置53Bを互いに同方向に延在するように配設する場合と比較すると、リンク機構30をいずれの方向へも均等に屈伸させることができ、車両10の旋回動作の安定性を確保することができる。
例えば、1つのアクチュエータ装置53を4節のリンク機構30の対角線上にたすき掛けするようにした場合、リンク機構30を中立位置から一方の方向(例えば、右旋回に対応)へ屈伸させるために、アクチュエータ装置53を伸長させると、その伸長に伴って、力の作用方向とリンク機構30の節との成す角度が漸次0度に近付く。
つまり、アクチュエータ装置53からリンク機構30に作用する力のうちのリンク機構30の節を回転させるための力成分、すなわち、1つの節の回転中心と力の作用点とを接続する仮想線に対して直交する方向の力成分の割合が減少される。
一方、リンク機構30を中立位置から他の方向(左旋回に対応)へ屈伸させるために、アクチュエータ装置53を収縮させると、その収縮に伴って、力の作用方向とリンク機構30の節との成す角度が漸次90度に近付く。
つまり、アクチュエータ装置53からリンク機構30に作用する力のうちのリンク機構30の節を回転させるための力成分、すなわち、1つの節の回転中心と力の作用点とを接続する仮想線に対して直交する方向の力成分の割合が増加される。
このように、リンク機構30を屈伸させる場合、アクチュエータ装置53を伸長させる工程では、短縮させる工程よりも大きな駆動力が必要とされる。言い換えれば、アクチュエータ装置53を短縮させる工程は、伸長させる工程よりも少ない駆動力でリンク機構30を屈伸させることができる。
したがって、アクチュエータ装置53を一対備える場合、これら一対のアクチュエータ装置53を互いに同方向に延在するように配設したのでは、リンク機構30を1つの方向へ屈伸させる、すなわち、アクチュエータ装置53を伸長させる工程と、他の方向へ屈伸させる、すなわち、アクチュエータ装置53を短縮させる工程とに要する駆動力がそれぞれ異なることとなるため、リンク機構30の屈伸量や屈伸速度を両方向、すなわち、右旋回及び左旋回で高精度に一致させることが困難となる。
その結果、リンク機構30の屈伸、すなわち、車両10の旋回動作が不安定となり、乗員Pの操作感や旋回性能の悪化を招くという不具合が生じる。さらに、アクチュエータ装置53の作動制御が複雑化して、制御コストの増大を招く。
これに対し、本実施の形態においては、一対のアクチュエータ装置53を互いに交差するように配設したので、リンク機構30のいずれの方向への屈伸も、同じ駆動力で行うことができ、屈伸動作(旋回性能)の安定性を確保することができるとともに、CPU71の制御コストの削減を図ることができる。
なお、本実施の形態においては、図6に示されるように、アクチュエータ装置53の本体部側がロッド側よりも下方に位置するように配設されている。これにより、重量が嵩む部位を車両10の下方に位置させ、該車両10の重心位置を下げることができるので、その分、旋回性能の向上を図ることができる。
次に、前記構成の車両10の動作について説明する。ここでは、旋回制御処理の動作についてのみ説明する。
図8は本発明の第1の実施の形態におけるリンク機構の屈伸動作を説明する模式図、図9は本発明の第1の実施の形態における車両の旋回制御処理の動作を示すフローチャートである。なお、図8において、(a)はリンク機構が中立位置にある状態、(b)はリンク機構が屈伸している状態を示している。
図8(a)に示されるように、リンク機構30が中立位置にある場合、左右の車輪12L及び12Rのキャンバー角は0度である。また、連結リンク40の傾斜角も0度である。そして、前側アクチュエータ装置53Fが伸長駆動されると、図8(b)に示されるように、リンク機構30が屈伸され、左右の車輪12L及び12Rに所定のキャンバー角θR及びθLが付与されるとともに、連結リンク40に所定の傾斜角θが付与される。
なお、本実施の形態においては、リンク機構30が平行リンク機構として構成されているので、キャンバー角θR及びθL並びに傾斜角θはすべて同一の値となる。また、前側アクチュエータ装置53Fが伸長駆動(収縮駆動)される場合には、後側アクチュエータ装置53Bは収縮駆動(伸長駆動)されるが、ここでは、説明の都合上、後側アクチュエータ装置53Bについての説明を省略する。
そして、旋回制御処理が開始されると、CPU71は、まず、乗員Pによる旋回指示があるか否か、すなわち、ジョイスティック装置51の操作レバーが左右方向に操作されているか否かを判断する(ステップS1)。
なお、旋回制御処理は、制御装置70の電源が投入されている間、CPU71によって繰り返し(例えば、0.2〔ms〕間隔で)実行される処理であり、旋回時において、左右の車輪12L及び12Rに旋回内側へのキャンバー角を付与するとともに、搭乗部11を旋回内側へ傾斜させて、旋回内輪側に重心を移動させることで、旋回性能の向上と乗員Pの快適性の確保とを図る処理である。
そして、旋回指示があるか否かを判断して、旋回指示がない場合、すなわち、ジョイスティック装置51の操作レバーが左右方向に操作されていない場合、乗員Pが旋回指示を行っていないということであるので、CPU71は旋回制御処理を終了する。
一方、旋回指示があるか否かを判断して、旋回指示がある場合、すなわち、ジョイスティック装置51の操作レバーが左右方向に操作されている場合、CPU71は車速を検出し(ステップS2)、続いて、旋回指示量を検出する(ステップS3)。なお、車速は図示されない車速センサの検出信号に基づいて検出され、旋回指示量は左右センサ51bの検出信号に基づいて検出される。
続いて、CPU71は、検出した旋回指示量に基づいて、モータの差動量、すなわち、右側回転駆動装置52Rと左側回転駆動装置52Lとの差動量を算出する(ステップS4)。この場合、旋回指示量に対応する旋回半径で車両10が旋回することができるように、左の車輪12Lと右の車輪12Rとの旋回半径の差に対応する右側回転駆動装置52Rと左側回転駆動装置52Lとの差動量を算出する。
続いて、CPU71は、検出した車速及び旋回指示量に対応する旋回半径で車両10を旋回させた際に発生する横加速度、すなわち、遠心力を算出し、該遠心力と釣り合う車体の傾斜角として、搭乗部11の傾斜角θ、又は、左右の車輪12L及び12Rのキャンバー角θL及びθRを算出する(ステップS5)。
続いて、CPU71は、算出した傾斜角が許容範囲内の値であるか否かを判断する(ステップS6)。そして、算出した傾斜角が許容範囲内である場合、CPU71は、算出した差動量に基づいて、モータの回転数を制御する(ステップS8)。すなわち、右側回転駆動装置52R及び左側回転駆動装置52Lの駆動制御を行い、前記右側回転駆動装置52R及び左側回転駆動装置52Lの回転数を制御する。
また、算出した傾斜角が許容範囲内でない場合、例えば、算出した傾斜角が、車体の転倒を招く傾斜角である場合、アクチュエータ装置53によってリンク機構30を屈伸させることができる限界傾斜角、すなわち、構造上動作可能な傾斜角を超えている場合等には、CPU71は、車体の傾斜角を再度算出した後(ステップS7)、算出した差動量に基づいて、モータの回転数を制御する。この場合、車体の転倒を招かず、かつ、構造上動作可能な傾斜角であって、既に算出された傾斜角に最も近い値を、再算出値としての車体の傾斜角に採用する。
続いて、CPU71は、算出した車両10の傾斜角に基づいて、アクチュエータ装置53を駆動制御して、すなわち、アクチュエータ装置53の伸縮量の制御を行い(ステップS9)、旋回制御処理を終了する。
このように、本実施の形態においては、リンク機構30を屈伸させ、左右の車輪12L及び12Rを共に旋回内側へ傾斜させることができるので、横力によるキャンバースラストを発生させ、旋回力の向上を図ることができる。
また、リンク機構30の屈伸に伴って、搭乗部11に連結される連結リンク40を、左右の車輪12L及び12Rの傾斜と同時に、前記左右の車輪12L及び12Rと同方向へ傾斜させることができるので、旋回時に、搭乗部11を旋回内側へ傾斜させ、車両10の重心位置を旋回内輪側、すなわち、車両10の重心位置を旋回内輪(図8(b)に示される例における左の車輪12L)の上方へ移動させることができるので、その分、車両重量のより多くを旋回内輪に作用させ、該旋回内輪の接地荷重を増加させることができる。
その結果、遠心力に対する対抗力を増加させることができるので、旋回内輪の浮き上がりを防止するとともに、旋回外輪と旋回内輪との接地荷重比を均一化して、旋回性能の向上を図ることができる。
また、旋回時に搭乗部11を旋回内輪側へ傾斜させることができるので、搭乗部11の傾斜によって、座面部11a1上の乗員Pを横方向へ滑動させる力成分の減少を図るとともに、その分、乗員Pの尻部を座面部11a1に押し付ける方向の力成分を増加させることができる。つまり、乗員Pの尻部を座面部11a1に押し付ける力として横加速度である遠心力を作用させることができるので、その分、乗員Pに遠心力を体感させにくくすることができる。
このように、旋回時の遠心力による乗員Pの負担や不快感を軽減することができ、直進走行時と同様の姿勢のままで旋回を行うことができるので、乗員Pの快適性及び操作性の向上を図ることができる。
また、旋回時に旋回内輪の浮き上がりを防止するべく、乗員P自身が旋回内輪側へ姿勢を傾けて、又は、体重を移動させて、遠心力に対抗する必要がないので、高度な運転技術がなくても、車両10を安定して走行させることができ、直進時と同様の姿勢のままで運転操作を行うことができる。その結果、乗員Pの操作負担の軽減と快適性の向上とを図ることができる。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図10は本発明の第2の実施の形態における車両の概略の構成を示す背面図、図11は本発明の第2の実施の形態におけるリンク機構のスライド接続部の概略の構成を示す斜視図、図12は本発明の第2の実施の形態におけるリンク機構のスライド接続部の概略の構成を示す上面図、図13は本発明の第2の実施の形態における車両の姿勢を説明する図である。図13において、(a)は通常の状態を示す図、(b)は故障が発生した状態を示す図、(c)は故障に対処した状態を示す図である。
前記第1の実施の形態においては、車両10が直進して走行するような通常の状態では、図13(a)に示されるように、車体を直立した姿勢に維持するが、車両10が旋回して走行する場合には、アクチュエータ装置53を駆動させてリンク機構30を作動させ、図13(b)に示されるように、車体を横方向に傾斜させるようになっている。そして、再び直進して走行するようになると、アクチュエータ装置53を駆動させてリンク機構30を作動させ、図13(a)に示されるように、車体を直立した姿勢に復帰させる。
ところで、世の中に存在するあらゆる装置、機器等は、いかに高品質のものであっても、故障、不具合等の発生から逃れられないものであるところ、図13(b)に示されるように、車体を横方向に傾斜させた状態において、アクチュエータ装置53に故障、不具合等が発生すると、リンク機構30を作動させることができず、図13(a)に示されるような車体を直立した姿勢に復帰させることができなくなってしまう。
車体を横方向に傾斜したままの状態であると、乗員Pが直進するような操縦を行っても、車両10は、自然と傾斜した方向に旋回するように走行するので、走行性、快適性、安全性等の面で支障が生じることになる。
そこで、本実施の形態においては、リンク機構30と、車輪12を支持する支持装置としての回転駆動装置52との間に、リンク接続部としてのスライド接続部90を配設することによって、アクチュエータ装置53に故障、不具合等が発生した際には、リンク機構30を回転駆動装置52に対してスライド可能にして、車体の自重によって車体の姿勢を自律的に補正することができるようになっている。これにより、図13(b)に示されるように、車体を横方向に傾斜させた状態でアクチュエータ装置53を作動させることができなくなっても、図13(c)に示されるように、車体の姿勢をより適切な姿勢に回復させることができる。なお、図13において、直線αは車体の上下方向の中心線を示し、直線βは鉛直方向を示し、矢印γは車体の自重によって作用する力を示している。
具体的には、図10〜12に示されるように、リンク機構30は上下方向に延在する右側壁部材35R及び左側壁部材35Lを有し、2枚の上部リンク31及び2枚の下部リンク32の両端は、それぞれ支持軸80を介して、前記右側壁部材35R及び左側壁部材35Lに軸支されている。これにより、4節のリンク機構30が平行リンクとして構成される。なお、本実施の形態においては、回転駆動装置52の上部軸支プレート52b及び下部軸支プレート52cは省略されている。また、リンク機構30を屈伸させるための駆動装置であるアクチュエータ装置53の両端は、4節のリンク機構30の互いに隣り合わない支持軸80に接続されている。
そして、前記右側壁部材35R及び左側壁部材35Lの外側の面には、右リンク側スライドユニット92R及び左リンク側スライドユニット92Lがそれぞれ配設されている。なお、右側壁部材35R及び左側壁部材35L、並びに、右リンク側スライドユニット92R及び左リンク側スライドユニット92Lを統合的に説明する場合には、各々、側壁部材35及びリンク側スライドユニット92として説明する。
また、上部軸支プレート52b及び下部軸支プレート52cが省略された右側回転駆動装置52R及び左側回転駆動装置52Lには、右スライドユニット取付部材55R及び左スライドユニット取付部材55Lがそれぞれ配設されている。そして、前記右スライドユニット取付部材55R及び左スライドユニット取付部材55Lには、右車輪側スライドユニット91R及び左車輪側スライドユニット91Lがそれぞれ配設されている。なお、右スライドユニット取付部材55R及び左スライドユニット取付部材55L、並びに、右車輪側スライドユニット91R及び左車輪側スライドユニット91Lを統合的に説明する場合には、各々、スライドユニット取付部材55及び車輪側スライドユニット91として説明する。
そして、前記右リンク側スライドユニット92Rと右車輪側スライドユニット91Rとは互いにスライド可能に係合して右スライド接続部90Rの構成部材として機能し、前記左リンク側スライドユニット92Lと左車輪側スライドユニット91Lとは互いにスライド可能に係合して左スライド接続部90Lの構成部材として機能する。また、右スライド接続部90Rは、右リンク側スライドユニット92Rと右車輪側スライドユニット91Rとをスライド不能にロックするための右ロックユニット93Rを備え、左スライド接続部90Lは、左リンク側スライドユニット92Lと左車輪側スライドユニット91Lとをスライド不能にロックするための左ロックユニット93Lを備える。なお、右スライド接続部90R及び左スライド接続部90L、並びに、右ロックユニット93R及び左ロックユニット93Lを統合的に説明する場合には、各々、スライド接続部90及びロックユニット93として説明する。
ここで、前記スライド接続部90は、車輪側スライドユニット91とリンク側スライドユニット92とが相互に上下方向にスライド可能なものであればいかなる種類の装置であってもよいが、例えば、リニアシステム、リニアガイドウェイシステム等と称されるものであることが望ましい。この場合、図11に示されるように、車輪側スライドユニット91は、上下方向に延在するレール又はガイドウェイと称される案内機構であり、リンク側スライドユニット92は、案内機構と係合し、かつ、該案内機構に沿ってスライドする、すなわち、摺(しゅう)動するキャリッジと称される摺動体である。
そして、前記案内機構の案内面と摺動体の摺動面との間には、ボール又はローラから成る複数の転動体が介在する。これにより、摺動体の摺動面が案内機構の案内面に対して転がり案内されるので、摺動体であるリンク側スライドユニット92は、案内機構である車輪側スライドユニット91に沿って上下方向にスムーズにスライドすることができる。なお、前記転動体を省略し、摺動体の摺動面が案内機構の案内面に対してすべり案内されるようにしてもよい。また、車輪側スライドユニット91が摺動体であり、リンク側スライドユニット92が案内機構であるようにしてもよい。
さらに、前記ロックユニット93は、いわゆる電磁ロック機構によって、リンク側スライドユニット92と車輪側スライドユニット91とをスライド不能にロックする装置であり、通常の状態ではリンク側スライドユニット92と車輪側スライドユニット91とをスライド不能にロックしており、制御装置70からの指令によって電流が供給されるとロックを解除する。これにより、リンク側スライドユニット92が車輪側スライドユニット91に沿って上下方向にスライドすることができる。
なお、本実施の形態では、車体が備えるリンク機構にスライドユニットを配設する構成としたが、リンク機構自体に直接スライドユニットを配設せず、車体自体に配設する構成としてもよい。
また、アクチュエータ装置53は、前記第1の実施の形態と同様に、駆動用のパルスモータ等の電動モータを備えた伸縮式の電動アクチュエータ装置である。また、この電動アクチュエータ装置53は、すべりねじ伝動装置で、ねじ部にはある程度のすべり摩擦が発生するものとする。そのため、アクチュエータ装置53に故障、不具合等が発生し、アクチュエータ装置53が停止させられた場合、電動モータによってねじ部を回転させることができないので、アクチュエータ装置53は伸縮不能となる。したがって、該アクチュエータ装置53が接続されているリンク機構30は、屈伸不能となる。
なお、その他の点の構成については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
次に、本実施の形態における車両10の動作について説明する。ここでは、旋回中にアクチュエータ装置53の異常を検出した場合の動作についてのみ説明し、その他の点の動作については、前記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
図14は本発明の第2の実施の形態における車両の横方向の姿勢角を検出する動作を説明する図、図15は本発明の第2の実施の形態における車体の傾斜角とジョイスティック装置の入力量との関係を示す図、図16は本発明の第2の実施の形態における本来の車両の移動軌跡と実際の車両の移動軌跡との関係を示す図、図17は本発明の第2の実施の形態におけるアクチュエータ装置を停止させた場合の車両の姿勢を示す図、図18は本発明の第2の実施の形態におけるスライド接続部のロックを解除した場合の車両の姿勢を示す図、図19は本発明の第2の実施の形態におけるロックを解除した場合のスライド接続部の動作を説明する図、図20は本発明の第2の実施の形態における旋回中にアクチュエータ装置の異常を検出した場合の車両の姿勢の変化を示す第1の図、図21は本発明の第2の実施の形態におけるスライド接続部のスライド量の限界を説明する図、図22は本発明の第2の実施の形態における旋回中にアクチュエータ装置の異常を検出した場合の車両の姿勢の変化を示す第2の図、図23は本発明の第2の実施の形態における旋回中にアクチュエータ装置の異常を検出した場合の動作を示すフローチャートである。なお、図14において、(a)は距離センサによって姿勢角を検出する動作を説明する第1の図、(b)は距離センサによって姿勢角を検出する動作を説明する第2の図であり、図19において、(a)はロックを解除する前の状態、(b)はロックを解除した後の状態を示し、図20において、(a)は目標姿勢角が0度である場合の動作を説明する図、(b)は目標姿勢角が所定角度である場合の動作を説明する図であり、図22において、(a)は通常の状態、(b)は旋回中にアクチュエータ装置を停止させた状態、(c)はロックを解除した状態、(d)は車体が直立した姿勢に復帰した状態を示す。
まず、CPU71は、横方向の姿勢角θを取得する(ステップS11)。なお、該姿勢角θは、前記第1の実施の形態で説明した傾斜角θであり、鉛直方向を示す直線βに対する車体の上下方向の中心線αの角度である。
前記姿勢角θは、他の入出力装置54が車体の姿勢を検出する姿勢センサを含む場合には、該姿勢センサから取得することができる。また、図14に示されるように、レーザセンサ等から成る距離センサ95を利用して取得することもできる。
例えば、該距離センサ95をリンク機構30の下部リンク32の上面に配設し、前記距離センサ95から上部リンク31までの距離δ1によって姿勢角θを取得することができる。この場合、図14(a−1)及び(a−2)に示されるように、左右の車輪12L及び12Rのキャンバー角が大きくなるほど、すなわち、姿勢角θが大きくなるほど、距離δ1が短くなるので、距離δ1を検出することによって姿勢角θを取得することができる。
また、例えば、距離センサ95をリンク機構30の上部リンク31の上面又は連結リンク40の下面に配設し、前記上部リンク31と連結リンク40との間の距離δ2によって姿勢角θを取得することができる。この場合、図14(b−1)及び(b−2)に示されるように、左右の車輪12L及び12Rのキャンバー角が大きくなるほど、すなわち、姿勢角θが大きくなるほど、距離δ2が長くなるので、距離δ2を検出することによって姿勢角θを取得することができる。
さらに、例えば、アクチュエータ装置53の伸縮量によって姿勢角θを取得することができる。前記第1の実施の形態で説明したように、アクチュエータ装置53を伸縮させてリンク機構30を屈伸させることによって車体の傾斜を変化させるのであるから、アクチュエータ装置53の伸縮量を検出することによって姿勢角θを取得することができる。
続いて、CPU71は、アクチュエータ装置53の異常をチェックする(ステップS12)。すなわち、アクチュエータ装置53に何らかの故障、不具合等が発生しているかについて診断する。
具体的には、ジョイスティック装置51の操作レバーによる左右方向への旋回指示量、すなわち、ジョイスティック装置51の横方向の入力量xと、既に取得した横方向への姿勢角θとに基づいてチェックする。例えば、図15に示されるように、入力量xと姿勢角θとが一次関数的な関係にあるとすると、次の式(1)が成立する。
θ=ax ・・・式(1)
なお、図15において、縦軸は前記姿勢角、すなわち、傾斜角θを示し、横軸は前記入力量xを示している。
なお、図15における線εは前記式(1)を示し、範囲ζは前記式(2)及び(3)の範囲を示している。したがって、θS が範囲ζ内にあればアクチュエータ装置53は正常であり、範囲ζ外にあればアクチュエータ装置53は正常でない、と言える。
また、ジョイスティック装置51の入力量に対応する車両10の移動軌跡に基づいて、アクチュエータ装置53の異常をチェックすることもできる。例えば、図16に示されるように、ジョイスティック装置51の入力量に対応する本来の移動軌跡ηに、実際の移動軌跡κが一致しない場合、本来の移動軌跡ηと実際の移動軌跡κとの車両10の進行方向Yに関する差分Δyと横方向Xに関する差分Δxとが、次の式(4)及び(5)を満足すれば、アクチュエータ装置53は正常であると考えられる。
なお、図16において、縦軸は車両10の進行方向Yを示し、横軸は車両10の横方向Xを示している。また、前記実際の移動軌跡κは、例えば、GPS(Global Positioning System)センサ等のように車両10の現在位置を測定する車両位置測定センサと、一般の自動車等に搭載されている車両用ナビゲーション装置が備えるものと同様の地図データベースとに基づいて取得することができる。
さらに、アクチュエータ装置53からのエラー信号によって、アクチュエータ装置53の異常をチェックすることもできる。例えば、アクチュエータ装置53が制御装置としての図示されないECU(Electronic Control Unit)を内蔵する場合、該ECUは、通常、アクチュエータ装置53の故障、不具合等を検出するとエラー信号を発信する。そこで、該エラー信号を検出した場合に、アクチュエータ装置53が正常でないと判断することができる。
続いて、CPU71は、チェックの結果に基づいてアクチュエータ装置53が異常であるか否かを判断し(ステップS13)、異常でない場合には再び前記ステップ11に戻って横方向の姿勢角θを取得し、前述の動作を繰り返す。また、異常である場合には、アクチュエータ装置53を停止させる(ステップS14)。この場合、例えば、アクチュエータ装置53へ供給される電流を遮断するので、アクチュエータ装置53の電動モータが停止し、アクチュエータ装置53は伸縮不能となる。そのため、リンク機構30は、図17に示されるように、屈伸して平行四辺形となったままで固定状態となる。
続いて、CPU71は、リンク接続部のロック解除を行う(ステップS15)。この場合、車体の傾斜方向と反対方向に位置するリンク接続部としてのスライド接続部90、すなわち、図18における右側に位置する右スライド接続部90Rのロックを解除する。なお、他方のスライド接続部90、すなわち、左スライド接続部90Lのロックは解除しない。
具体的には、CPU71は、右ロックユニット93Rを作動させて右リンク側スライドユニット92Rと右車輪側スライドユニット91Rとのロックを解除させ、右リンク側スライドユニット92Rと右車輪側スライドユニット91Rとをスライド可能な状態とする。なお、左ロックユニット93Lによるロックは解除させないので、左リンク側スライドユニット92Lと左車輪側スライドユニット91Lとはスライド不能な状態に維持される。
すると、車体の自重によって、図18における矢印γで示されるような力がリンク機構30に作用するので、図19に示されるように、右車輪側スライドユニット91Rが右リンク側スライドユニット92Rに沿って下方にスライドし、リンク機構30の右側壁部材35Rが右側回転駆動装置52Rの右スライドユニット取付部材55Rに対して下方に変位する。そのため、車体は図18における時計回り方向に回転し、車体の上下方向の中心線αは鉛直方向を示す直線βに接近し、姿勢角θは減少する。
なお、車両10は、車体が最大限傾斜した状態でも転倒することがないように設計されている。つまり、車体が最大限傾斜した状態であっても、乗員Pを含めた車体の横方向に関する重心位置が、左の車輪12Lの接地点と右の車輪12Rの接地点との間の範囲内に位置するようになっている。したがって、車体の自重による力は、図18に示されるような状態では、左の車輪12Lの接地点よりも右側においてリンク機構30に作用する。つまり、車体の自重による力のリンク機構30への作用点は、左の車輪12Lの接地点よりも右側に位置する。
また、図18に示されるような状態では、左スライド接続部90Lがロックされているので、リンク機構30の左端は左側回転駆動装置52L及び左の車輪12Lと一体化され、右スライド接続部90Rがロックが解除されているので、リンク機構30の右端は下方向に自由に変位可能であり、かつ、リンク機構30が平行四辺形となったままで固定されているのであるから、リンク機構30と左側回転駆動装置52Lと左の車輪12Lとは、該左の車輪12Lの接地点(図18における下端点)を支点として時計回り方向に回転可能な一体的に構成されたリンク部材、として把握することができる。
したがって、図18に示されるような状態では、リンク機構30と左側回転駆動装置52Lと左の車輪12Lとから成るリンク部材に対し、その支点よりも右側に位置する作用点において下向きの力が作用するので、前記リンク部材は、時計回り方向に回転する。そのため、リンク機構30に接続された搭乗部11を含む車体全体は、時計回り方向に回転し、姿勢角θが減少する。
続いて、CPU71は、目標姿勢角であるか否かを判断する(ステップS16)。すなわち、車体の姿勢角θがその目標値である目標姿勢角となったか否かを判断する。該目標姿勢角は、車両10が直進している場合には0度(走行路面に対して鉛直)であるが、車両10が旋回を継続している場合には0度以上の角度であって、車速及び旋回半径に応じて決定される。したがって、車両10が直進している場合には、車体が図20(a−2)に示されるような姿勢になると目標姿勢角であると判断され、車両10が旋回を継続している場合には、車体が図20(b−2)に示されるような姿勢になると目標姿勢角であると判断される。
そして、目標姿勢角であるか否かを判断して目標姿勢角でない場合、CPU71は、限界まで動いたか否かを判断する(ステップS17)。すなわち、右車輪側スライドユニット91Rの右リンク側スライドユニット92Rに対する変位量が、図21に示されるような変位量の最大値LMax に到達したか否かを判断する。該最大値LMax は、車輪側スライドユニット91とリンク側スライドユニット92との構造によって設定される値である。
なお、スライド接続部90は、車輪側スライドユニット91のリンク側スライドユニット92に対する変位量を検出する図示されない光センサ、回転数センサ、位置センサ等のセンサを備えているので、該センサの検出した変位量に基づいて、CPU71は、右車輪側スライドユニット91Rの右リンク側スライドユニット92Rに対する変位量が最大値LMax に到達したか否かを判断することができる。また、前記ステップS11で取得した横方向の姿勢角θと前記最大値LMax とに基づいて、現在の姿勢角θを推定することもできる。
そして、限界まで動いたか否かを判断して限界まで動いていない場合、すなわち、右車輪側スライドユニット91Rの右リンク側スライドユニット92Rに対する変位量が最大値LMax に到達していない場合、前記ステップS15に戻り、前述の動作を繰り返す。
また、限界まで動いたか否かを判断して限界まで動いている場合、及び、目標姿勢角であるか否かを判断して目標姿勢角である場合、CPU71は、リンク接続部のロックを行い(ステップS18)、処理を終了する。
この場合、右側に位置する右スライド接続部90Rをロックする。これにより、右リンク側スライドユニット92Rと右車輪側スライドユニット91Rとがロックされ、スライド不能な状態となり、車体の姿勢角θが固定される。したがって、該車体の姿勢角θが、図20(a−2)及び(b−2)に示されるように、目標姿勢角となっている場合には、目標姿勢角のままで固定される。また、車体の姿勢角θが目標姿勢角となっていない場合であっても、前記車体の姿勢角θが、取り得る角度のうちで最も目標姿勢角に近い角度で固定される。
このように、本実施の形態においては、リンク機構30と、車輪12を支持する回転駆動装置52との間にスライド接続部90を配設し、所定条件で、すなわち、アクチュエータ装置53に異常が生じると、スライド接続部90のロックを解除するようになっている。これにより、アクチュエータ装置53に異常が生じても、車体の自重によって車体の姿勢を自律的に補正して、鉛直状態に近付けることができる。したがって、車体の姿勢は、図22(a)〜(d)に示されるように変化し、車体を傾斜させて旋回している間にアクチュエータ装置53の故障、不具合等が発生しても、図22(d)に示されるような安定した姿勢に戻すことができる。
つまり、旋回中のように車体を横方向に傾斜させた状態において、アクチュエータ装置53に異常が生じてリンク機構30を作動させることができなくなっても、傾斜方向と反対側に配設されたスライド接続部90のロックを解除することによって、車体を直立した姿勢又はそれに近い姿勢、すなわち、より適切な姿勢に回復させることができる。したがって、アクチュエータ装置53に異常が生じても、走行性、快適性、安全性等の面で回復を図ることができる。
なお、本実施の形態においては、アクチュエータ装置53はすべりねじ伝動装置を備えるものであって、該すべりねじ伝動装置のねじ軸97とナット98との間にはボールが介在していない場合について説明したが、アクチュエータ装置53は前記すべりねじ伝動装置に代えて、ねじ軸とナットとの間にボールが介在するボールねじ伝動装置を備えるものであってもよい。この場合には、アクチュエータ装置53が、ねじ軸とナットとの相互の回転を禁止するロック装置を備え、電動モータによってねじ軸又はナットを回転させることができなくなったときに、前記ロック装置を作動させてねじ軸とナットとの相互の回転を禁止する必要がある。
また、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
例えば、本実施の形態では、リンク機構を屈伸させるためのアクチュエータを伸縮式のアクチュエータとしたが、回転式のアクチュエータを用いても良い。回転式のアクチュエータを使用した場合、伸縮式のような長さスペースが不要となるため、構造の小型化を図ることができる。