以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施の形態における車両の構成を示す右側面図、図2は本発明の実施の形態における車両のリーン機構の構成を示す図、図3は本発明の実施の形態における車両の構成を示す背面図である。なお、図3において、(a)は車体が直立している状態を示す図、(b)は車体が傾斜している状態を示す図である。
図において、10は、本実施の形態における車両であり、車体の駆動部としての本体部20と、乗員が搭乗して操舵する操舵部としての搭乗部11と、車体の前方において幅方向の中心に配設された前輪である操舵可能な操舵輪としての車輪12Fと、後輪として後方に配設された駆動輪であって操舵不能な非操舵輪としての左側の車輪12L及び右側の車輪12Rとを有する。
車輪12F、車輪12L及び右側の車輪12Rが取り付けられる部分であり、搭乗部11などの車両10の車輪以外の本体部分を車体として定義する。
さらに、前記車両10は、車体を左右に傾斜させる、すなわち、リーンさせるためのリーン機構、すなわち、車体傾斜機構として、左右の車輪12L及び12Rを支持するリンク機構30と、該リンク機構30を作動させるアクチュエータである傾斜用アクチュエータ装置としてのリーンモータ25とを有する。
なお、車両10のリーン機構については、特許請求の範囲においては「傾斜部」と上位概念的に表見している。また、特許請求の範囲における「操舵輪」が、本実施例における車輪12Fに相当し、「車両幅方向に配置された一対の車輪」が左右の車輪12L及び12Rに相当する。
なお、前記車両10は、前輪が左右二輪であって後輪が一輪の三輪車であってもよいし、前輪及び後輪が左右二輪の四輪車であってもよいが、本実施の形態においては、図に示されるように、前輪が一輪であって後輪が左右二輪の三輪車である場合について説明する。また、操舵輪が駆動輪として機能してもよいが、本実施の形態においては、操舵輪は駆動輪として機能しないものとして説明する。また、車両幅方向に配置された一対の車輪が操舵輪とされてもよい。
本発明に係る車両10においては、基本的に、旋回時には、左右の車輪12L及び12Rの路面18に対する角度、すなわち、キャンバ角を変化させるとともに、搭乗部11及び本体部20を含む車体を旋回内輪側へ傾斜させることによって、旋回性能の向上と乗員の快適性の確保とを図ることができるようになっている。
すなわち、前記車両10は車体を横方向(左右方向)にも傾斜させることができる。なお、図2及び3(a)に示される例においては、左右の車輪12L及び12Rは路面18に対して直立している、すなわち、キャンバ角が0度になっている。また、図3(b)に示される例においては、左右の車輪12L及び12Rは路面18に対して右方向に傾斜している、すなわち、キャンバ角が付与されている。
前記リンク機構30は、左側の車輪12L及び該車輪12Lに駆動力を付与する電気モータ等から成る左側の回転駆動装置51Lを支持する左側の縦リンクユニット33Lと、右側の車輪12R及び該車輪12Rに駆動力を付与する電気モータ等から成る右側の回転駆動装置51Rを支持する右側の縦リンクユニット33Rと、左右の縦リンクユニット33L及び33Rの上端同士を連結する上側の横リンクユニット31Uと、左右の縦リンクユニット33L及び33Rの下端同士を連結する下側の横リンクユニット31Dと、本体部20に上端が固定され、上下に延在する中央縦部材21とを有する。
また、左右の縦リンクユニット33L及び33Rと上下の横リンクユニット31U及び31Dとは回転可能に連結されている。さらに、上下の横リンクユニット31U及び31Dは、その中央部で中央縦部材21と回転可能に連結されている。なお、左右の車輪12L及び12R、左右の回転駆動装置51L及び51R、左右の縦リンクユニット33L及び33R、並びに、上下の横リンクユニット31U及び31Dを統合的に説明する場合には、車輪12、回転駆動装置51、縦リンクユニット33及び横リンクユニット31として説明する。
そして、駆動用アクチュエータ装置としての前記回転駆動装置51は、いわゆるインホイールモータであって、固定子としてのボディが縦リンクユニット33に固定され、前記ボディに回転可能に取り付けられた回転子としての回転軸が車輪12の軸に接続され、前記回転軸の回転によって車輪12を回転させる。なお、前記回転駆動装置51は、インホイールモータ以外の種類のモータであってもよい。
また、前記リーンモータ25は、電気モータ等を含む回転式の電動アクチュエータであって、固定子としての円筒状のボディと、該ボディに回転可能に取り付けられた回転子としての回転軸とを備えるものであり、前記ボディが取付フランジ22を介して本体部20に固定され、前記回転軸がリンク機構30の上側の横リンクユニット31Uに固定されている。
なお、リーンモータ25の回転軸は、本体部20を傾斜させる傾斜軸として機能し、中央縦部材21と上側の横リンクユニット31Uとの連結部分の回転軸と同軸になっている。そして、リーンモータ25を駆動して回転軸をボディに対して回転させると、本体部20及び該本体部20に固定された中央縦部材21に対して上側の横リンクユニット31Uが回動し、リンク機構30が作動する、すなわち、屈伸する。これにより、本体部20を傾斜させることができる。なお、リーンモータ25は、その回転軸が本体部20及び中央縦部材21に固定され、そのボディが上側の横リンクユニット31Uに固定されていてもよい。
また、リーンモータ25は、リンク機構30によるリーン角の変化を検出するリーン角センサ125を備える。該リーン角センサ125は、リーンモータ25においてボディに対する回転軸の回転角を検出する回転角センサであって、例えば、レゾルバ、エンコーダ等から成る。前述のように、リーンモータ25を駆動して回転軸をボディに対して回転させると、本体部20及び該本体部20に固定された中央縦部材21に対して上側の横リンクユニット31Uが回動するのであるから、ボディに対する回転軸の回転角を検出することによって、中央縦部材21に対する上側の横リンクユニット31Uの角度の変化、すなわち、リンク角の変化を検出することができる。
なお、リーンモータ25は、回転軸をボディに対して回転不能に固定する図示されないロック機構を備える。該ロック機構は、メカニカルな機構であって、回転軸をボディに対して回転不能に固定している間には電力を消費しないものであることが望ましい。前記ロック機構によって、回転軸をボディに対して所定の角度で回転不能に固定することができる。
前記搭乗部11は、本体部20の前端に図示されない連結部を介して連結される。該連結部は、搭乗部11と本体部20とを所定の方向に相対的に変位可能に連結する機能を有していてもよい。
また、前記搭乗部11は、座席11a、フットレスト11b及び風よけ部11cを備える。前記座席11aは、車両10の走行中に乗員が着座するための部位である。また、前記フットレスト11bは、乗員の足部を支持するための部位であり、座席11aの前方側(図1における右側)下方に配設される。
さらに、搭乗部11の後方若しくは下方又は本体部20には、図示されないバッテリ装置が配設されている。該バッテリ装置は、回転駆動装置51及びリーンモータ25のエネルギー供給源である。また、搭乗部11の後方若しくは下方又は本体部20には、図示されない制御装置、インバータ装置、各種センサ等が収納されている。
そして、座席11aの前方には、操縦装置41が配設されている。該操縦装置41には、乗員が操作して操舵方向、操舵角等の操舵指令情報を入力する操舵装置としてのハンドル41a、速度メータ等のメータ、インジケータ、スイッチ等の操縦に必要な部材が配設されている。
なお、特許請求の範囲においては、ハンドル41aを「操作入力部」として上位概念的に表記している。
乗員は、前記ハンドル41a及びその他の部材を操作して、車両10の走行状態(例えば、進行方向、走行速度、旋回方向、旋回半径等)を指示する。なお、前記操舵装置として、ハンドル41aに代えて他の装置、例えば、ステアリングホイール、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等の装置を使用することもできる。
なお、車輪12Fは、サスペンション装置(懸架装置)の一部である前輪フォーク17を介して搭乗部11に接続されている。前記サスペンション装置は、例えば、一般的なオートバイ、自転車等において使用されている前輪用のサスペンション装置と同様の装置であり、前記前輪フォーク17は、例えば、スプリングを内蔵したテレスコピックタイプのフォークである。
本発明に係る車両10においては、ハンドル41aの操作に応じて操舵輪としての車輪12Fが操舵角を制御するモードや、車輪12Fの操舵角をハンドル41aの操作とは無関係に回動自在な状態とするモードなど幾つかのモードを有している。ここで、車輪12Fの操舵軸(不図示)と路面の交点Pと操舵輪の接地点Oとの間には、所定のトレールLTがあり、後者のモードにおける旋回時には、回動自在な状態である車輪12Fは、左右の車輪12L及び12Rのキャンバ角に追随する形で、自動的に操舵される。また、本実施形態に係る車両10においては、車輪12Fの操舵軸と路面の交点Pが、前記操舵輪の接地点Oより前方である。
なお、車輪12Fの回動とは、車両10が走行しているときにおける車輪12F自体の回転のことではなく、車輪12Fの操舵軸の回動に基づく車輪12Fの動作のことを言う。
車輪12Fが回動自在な状態で車両10が走行するモードについて説明する。図4は本発明の実施形態における車両10の模式図であり、左右の車輪12L及び12Rにキャンバ角が付与され、リーン制御によって車両10が旋回している状態を示している。ここで、車両10の重量をm、重力加速度をg、車両10のリーン制御におけるリーン角をθ、また旋回時の車両10の速度をV、旋回半径をRとすると、F1及びF2は下式(1)及び(2)によって表すことができる。
また、幾何学的な関係により、下式(3)、(4)が成立する。
車両10が、前記のような条件で旋回している時には下式(5)が成立する。
これに式(1)乃至(4)を代入して整理を行うと、車両旋回半径Rは、下式(6)によって求めることができる。
式(6)は、本発明に係る車両10においては、旋回時の車速Vと、車両10のリーン角θとを決めてやることで、車両10の進行方向を決めることができることを示している。
ハンドル41aの説明に戻る。ハンドル41aは、図示されない操舵軸部材の上端に接続され、該操舵軸部材の上端は、搭乗部11が備える図示されないフレーム部材に対して回転可能に取り付けられている。前記操舵軸部材は、上端が下端よりも後方に位置するように斜めに傾斜した状態で、前記フレーム部材に取り付けられている。
そして、前記操舵軸部材の上端のフレーム部材に対する回転角、すなわち、乗員がハンドル41aを操作して入力した操舵角指令値としてのハンドル角は、入力操舵角検出手段としてのハンドル操作角センサ123によって検出される。該ハンドル操作角センサ123は、例えば、エンコーダ等から成る。
また、前記操舵軸部材の上端と下端との間には、操舵用アクチュエータ装置としての操舵モータ65が配設されており、車輪12Fを操舵輪としてハンドル41aの操作に応じて操舵角を制御するモードでは、該操舵モータ65が、前記ハンドル操作角センサ123によって検出されたハンドル角に基づいて、前記操舵軸部材の下端を回転させる。なお、該操舵軸部材の下端は、前記フレーム部材に対して回転可能に取り付けられ、かつ、前輪フォーク17の上端に接続されている。
そして、前記操舵軸部材の下端の前記フレーム部材に対する回転角、すなわち、操舵モータ65が出力し、前輪フォーク17を介して車輪12Fに伝達される操舵角は、出力操舵角検出手段としての前輪操舵角センサ124によって検出される。該前輪操舵角センサ124は、例えば、操舵モータ65においてボディに対する回転軸の回転角を検出する回転角センサであって、レゾルバ、エンコーダ等から成る。なお、前輪である車輪12Fの車軸と後輪である左右の車輪12L及び12Rの車軸との距離、すなわち、ホイールベースはLH である。
また、車輪12Fの操舵角をハンドル41aの操作とは無関係に回動自在な状態とするモードでは、前記操舵モータ65の制御を停止することで、車輪12Fの操舵角を回動自在とする。なお、車輪12Fの操舵角を回動自在とする方法として、例えば前記操舵モータ65を0トルクに制御しても良いし、前記操舵モータ65と前記操舵軸部材とを、クラッチなどにより、切り離しても良い。
さらに、車両10は、駆動力発生指令を入力する駆動指令装置としてのアクセル45を操縦装置41の一部として備える。アクセル45は乗員の踏み込み度合いに応じて、回転駆動装置51に駆動力を発生させる指令としての駆動力発生指令を入力する装置である。また、車両10は、ブレーキ46は乗員が踏み込むことによって、車両10に制動力を付与するものである。
また、シフトスイッチ47は、車両10の走行モードを乗員が選択するためのスイッチであり、本実施形態では、ドライブレンジ、ニュートラルレンジ、リバースレンジ、パーキングレンジの少なくとも4つの走行モードを有している。これらの走行モードは、一般的なオートマチックトランスミッションを備える自動車などと同様のものである。
また、車輪12Fの車軸を支持する前輪フォーク17の下端には、車両10の走行速度である車速を検出する車速検出手段としての車速センサ122が配設されている。該車速センサ122は、車輪12Fの回転速度に基づいて車速を検出するセンサであり、例えば、エンコーダ等から成る。
次に、本発明に係る車両10のシステムについて説明する。図5は本発明の実施形態における車両10のシステム構成を示すブロック図である。図5において、ECUはElectronic Control Unitの略であり、CPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなどからなる汎用の情報処理機構である。
車両ECU100は、図示されている車両ECU100と接続される各構成と協働・動作する。また、車両ECU100は、本発明の車両10における種々の制御処理は、車両ECU100内のROMなどの記憶手段に記憶保持されるプログラムやデータに基づいて実行されるものである。
さらに、本発明に係る車両10においては、車両ECU100から出力される指令値に基づいて回転駆動装置51R、回転駆動装置51Lを制御する回転駆動装置ECU101、及び、車両ECU100から出力される指令値に基づいてリーンモータ25の制御を行うリーンモータECU102、及び、車両ECU100から出力される指令値に基づいて操舵モータ65の制御を行う操舵モータECU103を備えている。
なお、特許請求の範囲に記載された「操舵輪制御部」などは、上記のような各ECUによる制御動作を上位概念的に表現したものである。
車速センサ122は車両10の車速を検出するものであり、車速センサ122によって検出した車速データは車両ECU100に入力される。
また、ハンドル操作角センサ123はハンドル41aのハンドル角を検出するものであり、ハンドル操作角センサ123によって検出されたハンドル41aのハンドル角データは車両ECU100に入力される。
また、前輪操舵角センサ124は前輪12Fの操舵角を検出するものであり、前輪操舵角センサ124によって検出された車輪12Fの操舵角データは車両ECU100に入力される。
また、リーン角センサ125は、車両10の傾き量を検出するものであり、リーン角センサ125によって検出された車両10の傾き量データは車両ECU100に入力される。
また、アクセルポジションセンサ145は乗員によるアクセル45の踏み込み量を検出するものであり、アクセルポジションセンサ145によって検出されたアクセル45の踏み込み量デーは車両ECU100に入力される。
また、ブレーキポジションセンサ146は乗員によるブレーキ46の踏み込み量を検出するものであり、ブレーキポジションセンサ146によって検出されたブレーキ46の踏み込み量デーは車両ECU100に入力される。
また、シフトスイッチポジションセンサ147は、シフトスイッチ47がドライブレンジ、ニュートラルレンジ、リバースレンジのどのポジションにあるのかを検出するものであり、シフトスイッチポジションセンサ147によって検出されたポジションは車両ECU100に入力される。
また、カメラ149は、車両10の前方の動画像データを取得して、取得した動画像データを車両ECU100に送信する。車両ECU100では、カメラ149から送信された動画像データを画像解析することで、車両10に関する予測を行ったり推定を行ったりする。本実施形態では、このような目的のためにカメラ149を用いるようにしているが、レーダーなどを用いるようにしてもよい。
ジャイロセンサ150は、少なくとも車両10のロール角、ロールレイト、ヨーレイトを検出して、検出したデータを車両ECU100に送信する。車両ECU100では、受信したロール角、ロールレイト、ヨーレイトの各データを車両10の制御に供する。
以上のように、車両ECU100に入力された各データは、回転駆動装置51R、回転駆動装置51L、リーンモータ25、操舵モータECU103の制御に利用される。
次に、以上のように構成される車両10による走行モードについて説明する。本発明に係る車両10は、走行安定性を向上させるために、低速時には、操舵輪である車輪12Fを積極的に操舵させるが、高速時には操舵輪の操舵角を回動自在な状態として、車輪12L及び12Rのリーン制御に倣わせるようにする。なお、低速時、高速時の両方において、必要に怖じて車輪12L及び12Rのリーン制御を行うようにする。以下、車両10の低速時の走行モードを第1モード、高速時の走行モードを第2モードと呼ぶ。
さらに、本発明に係る車両10においては、車両10が低速で走行しているとき、車両10で外乱が検出されたような場合には、第1モードとは異なる第3モードで走行を行う。また、車両10が高速で走行しているとき、車両10で外乱が検出されたような場合には、第2モードとは異なる第4モードで走行を行う。
以下、まず、外乱が検出されていない場合の第1モードと第2モードについて説明する。
図6は本発明の実施形態における車両10による走行を概念的に説明する図である。図6においては、ハンドル41aのハンドル角を右に60°とし、車速を0km/hから上げていった場合を例に説明する。また、以下、第1モードと第2モードとの切り替えの境界の車速が、15km/hの場合を例にとり説明するが、境界値がこれに限定されるものではない。
なお、本実施形態においては、第1モードと第2モードとの切り替えを車速センサ122により検出された車両10の車速に基づいて行っているが、このような切り替えは、車速センサ122により検出された車速以外のパラメータに基づいて行うようにしてもよく、結果として低車速時に第1モード、高速時に第2モードに切り替われば良い。
また、本実施形態においては、ハンドル角δHに対する前輪操舵角δW(δW1は車輪12F(前輪)の初期操舵角)及びリーン角θの関係には、下式(7)及び(8)の関係を規定している。
ただし、k
1及びk
2は定数であり、本実施形態ではk
1=60/30、k
2=60/40としているが、本発明がこれらに限定されるものではない。k
1は、仮想的なリーンギア比であり、k
2は仮想的な操舵ギア比のようなものであり、車両10の運転操作がしやすいものであれば任意の数値を選定することができる。
また、図6において、点線は車輪12Fの操舵角δWを示しており、実線は車両10におけるリーン角θを示している。
ハンドル角δH=60°で車速を0km/hから上げて行くと、第1モードによる車両10の走行が開始される。0km/hからの立ち上がりにおいては、操舵輪としての車輪12Fは40°の操舵角で操舵され、車輪12Fの操舵角は漸減される。一方、車両10におけるリーン角θは0から漸増されていく。なお、操舵輪12Fの漸減、及び、車両10のリーン角の漸増は、それぞれ1次関数である場合を例に説明しているが、1次関数に限定されるものではない。また、車両10におけるリーン角θが所定速度(例えば3km/h)まで、0のまま推移し、その後漸増してもよい。なお、特許請求の範囲に記載された漸増には、このように、リーン角θが所定速度(例えば3km/h)まで、0のまま推移する本実施形態の内容も含む。
境界値である15km/hにおいて第1モードから第2モードへと切り替わるが、切り替わるタイミング以降の第2モードでは、操舵輪である車輪12Fの操舵角を回動自在な状態となり、リーン角θは式(8)により規定される30°となる。以降、さらに車速Vが上がっていっても、高速時の第2モードではリーン角θのみによって車両10の旋回を制御し、車輪12Fについては操舵角を回動自在な状態として、リーン角θに基づく旋回に倣うようにする。
なお、第1モードから第2モードへと切り替わる際の境界値となる車両10の速度、又は、第2モードから第1モードへと切り替わる際の境界値となる車両10の速度を、特許請求の範囲においては、「所定速度」と表現している。
次に、以上のような車両10の制御のより詳細な説明を行う。図7は本発明の実施形態に係る車両10の制御フローチャートを示す図である。
図7において、ステップS100で処理が開始されると、続いて、ステップS101では、車速Vが検出され、ステップS102では、ハンドル41aのハンドル角δHが検出される。また、次のステップS103においては、シフトスイッチポジションセンサ147からシフトスイッチ47で指定されるモードが検出される。
ステップS104では、シフトスイッチ47による指定が、リバース又はパーキングであるか否かが判定される。
ステップS104における判定がYESであればステップS106に進み、NOであればステップS105に進む。
ステップS105では、車速V<15km/hであるか否かが判定される。ステップS105における判定がYESであれば(すなわち低速であれば)、ステップS106に進み、NOであれば(高速であれば)ステップS112に進む。
ステップS106では、外乱検出1のサブルーチンが実行される。このサブルーチンでは、外乱が検出されないと場合、モードフラグとして「第1モード」がセットされ、外乱が検出されると場合、モードフラグとして「第3モード」がセットされる。
外乱検出1のサブルーチンにおける検出処理については、特許請求の範囲で「第1種の外乱」の検出と上位概念的に表現している。また、外乱検出1のサブルーチンについては、後に詳しく説明する。
ステップS107では、モードフラグが「第1モード」であるか否かが判定される。なお、ここでは、外乱検出1のサブルーチンにおいて、外乱が検出されない場合のモードフラグである「第1モード」がセットされ、ステップS107の判定がYESであったものとして説明する。ステップS107の判定がYESでときには、続いてステップS108に進む。
ステップS108では、第1モードに基づく車輪12R、Lのリーン制御1を行い、ステップS109では、第1モードに基づく車輪12Fの操舵制御1を行う。
ステップS105における判定がNOであるときに進むステップS112では、外乱検出2のサブルーチンが実行される。このサブルーチンでは、外乱が検出されない場合、モードフラグとして「第2モード」がセットされ、外乱が検出されると場合、モードフラグとして「第4モード」がセットされる。
外乱検出2のサブルーチンにおける検出処理については、特許請求の範囲で「第2種の外乱」の検出と上位概念的に表現している。また、外乱検出2のサブルーチンについては、後に詳しく説明する。
ステップS113では、モードフラグが「第2モード」であるか否かが判定される。なお、ここでは、外乱検出2のサブルーチンにおいて、外乱が検出されない場合のモードフラグである「第2モード」がセットされ、ステップS113の判定がYESであったものとして説明する。ステップS113の判定がYESでときには、続いてステップS114に進む。
ステップS114では、第2モードに基づく車輪12R、Lのリーン制御2を行い、ステップS115では、第2モードに基づく車輪12Fの操舵制御2を行う。
ステップS118では、処理を終了する。
車両10に対する外乱が検出されない場合の第1モード、第2モードに基づく車輪12R、Lのリーン制御や、車輪12Fの操舵制御については以下で例示的に説明する。以下の例では、車両10の車速V1(初期車速)からV2(モード切り替え時車速)となる場合について説明する。また、例として、V1=0km/h、V2=15km/hに説明するが、本発明がこれに限られるものではない。
図8は本発明の実施形態に係る車両10によるリーン制御の例を説明する図である。以下、本実施形態における車両10においては、車両のハンドル角δHに基づいて車両10のリーン角θを決定する。なお、図8、9、10、12において、図面右側にはハンドル41aのハンドル角が図示されており、それに対応する車速と角度(リーン角θ、操舵角δW)の関係がグラフ化されている。
図8に示す第2モード(すなわち、車速がV2以上である場合)においては、先に説明した式(8)に基づいて、リーン角θが決定される。
そして、上記のようなリーン角θに基づいて、第1モード下におけるリーン角θ’は、下式(9)によって求めるようにする。
以上のように車輪12R、Lのリーン制御においては、車速がV2となるまでは、1次関数的に増加するようにし、車速V2より速い車速では一定となるように制御している。本実施形態に係る車両10のリーン制御では、ハンドル角δ
Wからリーン角θを式(8)又は(9)で求めるようにしている。なお、式(9)は車速Vの1次関数としているが、漸増する関数であれば、これに限られるものではない。
次に、前輪12Fの第1モード及び第2モードに係る操舵制御について説明する。図9は本発明の実施形態に係る車両10の前輪の初期操舵角(V1時)を決定する際の概念図である。図10は本発明の実施形態に係る車両10の前輪のモード切り替え時の目標操舵角(V2時)を決定する際の概念図である。
以下、車輪12Fの初期操舵角をδW1とし、モード切り替え時の車輪12Fの目標操舵角をδW2とする。
V1時における車輪12Fの初期操舵角δW1は、ハンドル角δHから、式(7)によって求めるようにする。一方、V2時における車輪12Fの目標操舵角δW2は、車輪12Fの操舵角を回動自在とするタイミングでのリーン角θに倣うように制御する。
切り替え時の目標操舵角δW2の算出方法を、図11を参照して説明する。図11は本発明の実施形態に係る車両10の前輪のモード切り替え時の目標操舵角の算出処理のフローチャートを示す図である。
図11において、ステップS200で、切り替え時目標操舵角算出処理が開始されると、続いて、ステップS201では、式(8)からハンドル角δHとリーン角θの関係を求め、さらに、車速V2時の旋回半径Rを算出する。ここで、半径Rは、式(6)を用いれば、下式(10)のように表すことができる。
ステップS202では、予測した旋回半径から前輪(車輪12F)の目標操舵角δ
W2を算出する。図13は操舵角δ
W2で旋回時の車両の10の車輪の関係を示す図であるが、図13に示す目標操舵角δ
W2と旋回半径RとホイールベースL
Hとの関係から、目標操舵角δ
W2は下式(11)により求めることができる。
ステップS203で、切り替え時目標操舵角算出処理を終了する。
以上のように求められるモード切り替え時の目標操舵角算まで、車輪12Fを操舵する。図12は本発明の実施形態に係る車両10の前輪の初期操舵角δW1から目標操舵角δW2への遷移を示す図である。
図12の実線に示すように、初期操舵角δW1から目標操舵角δW2への遷移させるようにしてもよいが、これ限らず、例えば点線で示すように遷移させるようにすることもできる。
そして、車速がV2より高い状態では、車輪12Fの操舵角を回動自在な状態とする。
以上、本発明に係る車両10では、車両の車速が所定車速より低いとき、操舵輪制御部が、操作入力部(ハンドル41a)からの入力に応じて、操舵輪(12F)の舵角を制御すると共に、傾斜部(リーン機構)が、操作入力部(ハンドル41a)からの入力に応じて、車体を傾斜させる第1モードで走行し、車両の車速が所定車速以上であるとき、操舵輪制御部が、操舵輪(12F)を操作入力部(ハンドル41a)とは無関係に回動自在な状態とする制御を行うと共に、傾斜部(リーン機構)が、操作入力部(ハンドル41a)からの入力に応じて、前記車体を傾斜させる第2モードで走行するので、全車速域において、走行安定性を確保することが可能となる。
また、本発明に係る車両10では、第1モードでは、車速の上昇に伴い、車体の傾斜角が漸増し、第2モードにおける前記所定車速での車体の傾斜角となるように制御するので、車両10の乗員にとって違和感なくモード間の移行を行うことができる。
また、本発明に係る車両10では、第2モードにおける所定車速での車体の傾斜角に基づく旋回半径を予測し、旋回半径から、所定車速での操舵輪(12F)の舵角を算出し、算出された舵角となるように制御するので、車両10の乗員にとって違和感なくモード間の移行を行うことができる。
また、本発明に係る車両10では、操作入力部(ハンドル41a)は、操作される角度である入力操舵角を検出し、第2モードでは、傾斜部(リーン機構)が前記入力操舵角に対し、一定の仮想ギヤ比で車体を傾斜するので、車両10の乗員の意図にあった操舵が可能となる。
また、本発明に係る車両10では、操舵輪(12F)が前輪であるので、第2モードにおいて、より適切に操舵輪(12F)である前輪が回動し、リーン角θに基づく旋回に倣うようになる。
また、本発明に係る車両10では、傾斜部(リーン機構)は、一対の車輪(12R、12L)を傾斜させることにより、車体を傾斜させるので、一対の車輪(12R、12L)のキャンバスラストが利用でき、車両10を適切に旋回させることが可能となる。
また、本発明に係る車両10では、車両を後退させるときには、第1モードで走行するので、車両10の後退時でも安定した走行が可能となる。
次に、車両10に対する外乱が検出された場合の第3モード、第4モードに基づく車輪12R、Lのリーン制御や、車輪12Fの操舵制御については以下で例示的に説明する。
図14は車両10に対して外乱が生じた場合の課題を説明する図であり、図14(A)は車両10の模式的鳥瞰図であり、図14(B)は左右の車輪12L及び12Rを中心としてみた車両10の模式図である。
図14(A)、図14(B)は、一対の車輪12L、12Rのうち、例えば車輪12Lが段差などに乗り上げることによって、車両10に対して外乱が生じた場合を示している。このような外乱の原因としては、車両10が段差に乗り上げたり、車両10が横風を受けたりするといった事象を挙げることができる。
車両10に対して外乱が生じると、図14(B)に示すように車両10のバランスが崩れ、走行が不安定となってしまう、という問題があった。
そこで、本発明に係る車両10は、車両10が低速で走行しているとき、車両10で外乱が検出されたような場合には、第1モードとは異なる、外乱による影響を低減する第3モードで走行を行うように設定され、
また、本発明に係る車両10は、車両10が高速で走行しているとき、車両10で外乱が検出されたような場合には、第2モードとは異なる、外乱による影響を低減する第4モードで走行を行うように設定されている。
車両1に対する外乱の有無については、車両10の車速が15km/h未満である低速時には、図7のフローチャートにおける外乱検出1のサブルーチンにより、また、車両10の車速が15km/h以上である高速時には、図7のフローチャートにおける外乱検出2のサブルーチンにより、判定される。
まず、外乱検出1のサブルーチンについて説明する。図15は本発明の実施形態に係る車両10の外乱検出1のサブルーチンのフローチャートを示す図である。
図15において、ステップS300で、外乱検出1のサブルーチンが開始されると続いて、ステップS301でジャイロセンサ150によってロール角を検出し、続くステップS302でジャイロセンサ150によってロールレイトを検出し、続くステップS303でジャイロセンサ150によってヨーレイトを検出する。
ステップS304では、カメラ149によって取得される動画像データによって、車輪の予定軌跡が段差などの障害物を通過するかを推定する。図16は本発明の実施形態に係る車両10のカメラ149で取得される動画像データに基づく推定処理の概念を説明する図である。
車両10の走行軌跡の推定方法としては、例えば、車速センサ122で検出した車速とジャイロセンサ150で検出したヨーレイトとに基づいて自車の将来の走行軌跡を推定する方法を挙げることができる。このような方法では、現在の車速とヨーレイトから車両10の旋回半径が算出できるため、現在の自車進行方向に算出した旋回半径の円弧を連ねることで自車の将来の走行軌跡を推定することができる。
ステップS305では、1)実ロール角(ジャイロセンサ150に基づく)と目標ロール角(ハンドル角δHに基づく)との差が閾値より大きいか、又は、2)ロールレイト(ジャイロセンサ150に基づく)が閾値より大きいか、又は、3)車両10の片輪が段差を通過するか推定されている、のいずれかが真であるか否かが判定される。
ステップS305における判定の結果がYESであれば、外乱が生じたものと判定しステップS306で(モードフラグ)=(第3モード)とする。一方、ステップS305における判定の結果がNOであれば、外乱は生じていないものと判定しステップS307で(モードフラグ)=(第1モード)とする。ステップS308で、元のルーチンにリターンする。
図7の元のルーチンに戻り、ステップS107で、外乱検出1のサブルーチンにおいて、外乱が検出され、モードフラグとして「第3モード」がセットされ、ステップS107の判定がNOであったものとして説明する。ステップS107の判定がNOでときには、続いてステップS110に進む。
ステップS110は、第3モードにおける車輪12R、Lの制御を、また、ステップS111では第3モードにおける車輪12Fの制御を行う。
ここで、ステップS110で行われる車輪12R、Lのリーン制御は、第1モードのリーン制御1と同様のものとする。ステップS111で行われる車輪12Fの操舵制御は、第2モードの操舵制御2と同様のものである。
第3モードは、第1モードと異なり、車輪12Fをハンドル41aの操作量とは無関係に回動自在な状態とする制御を行うことを最大の特徴としている。図17は本発明の実施形態に係る車両10の第3モードの動作例を示す図である。第3モードでは、車輪12Fが回動自在な状態となるため、車輪12R、Lのうちの片輪が段差に乗り上げるなどの外乱が生じても、車輪12Fは傾斜した方向に動き、走行を安定させることが可能となる。
次に、車両10の車速が15km/h以上である高速時の外乱検出2のサブルーチンについて説明する。図18は本発明の実施形態に係る車両10の外乱検出2のサブルーチンのフローチャートを示す図である。
図18において、ステップS400で、外乱検出2のサブルーチンが開始されると続いて、ステップS401では、前輪操舵角センサ124によって、車輪12Fの舵角(前輪操舵角δW)が検出される。続く、ステップS402では、ジャイロセンサ150によってヨーレイトを検出する。
ステップS403では、カメラ149によって取得される動画像データによって、走行軌跡を推定し、車輪の予定軌跡が段差などの障害物を通過するかを推定する。
ステップS404では、段差などの障害物を通過するかが推定された場合、車輪12Fへの衝撃を推定する。このような衝撃の推定方法としては、一例として、車両10の車速と、段差の高さと、衝撃との関係をマップ化しておき、このマップに基づいて推定を行う方法を挙げることができる。
ステップS405では、1)舵角変化が閾値より大きいか、又は、2)衝撃の推定値が閾値より大きいか、のいずれかが真であるか否かが判定される。
ステップS405における判定の結果がYESであれば、外乱が生じたものと判定しステップS406で(モードフラグ)=(第4モード)とする。一方、ステップS405における判定の結果がNOであれば、外乱は生じていないものと判定しステップS407で(モードフラグ)=(第2モード)とする。ステップS408で、元のルーチンにリターンする。
図7の元のルーチンに戻り、ステップS113で、外乱検出2のサブルーチンにおいて、外乱が検出され、モードフラグとして「第4モード」がセットされ、ステップS113の判定がNOであったものとして説明する。ステップS113の判定がNOでときには、続いてステップS116に進む。
ステップS116は、第4モードにおける車輪12R、Lの制御を、また、ステップS117では第4モードにおける車輪12Fの制御を行う。
ここで、ステップS116で行われる車輪12R、Lのリーン制御は、第2モードのリーン制御2と同様のものとする。ステップS117行われる車輪12Fの操舵制御は、第4モード独自のものであり、車輪12Fの舵角保持制御、又は舵角補正制御のいずれかを行う。
舵角保持制御は、車輪12Fの舵角を変更せず固定する制御であり、ステップS405で、衝撃の推定値が閾値より大きいと判定され、第4モードとなった場合に実行される制御である。図19は本発明の実施形態に係る車両10の第4モードにおける舵角保持制御の動作例を示す図である。
一方、舵角補正制御は、車輪12Fの舵角を外乱検出直前の状態に戻すように補正する制御であり、ステップS405で、舵角変化が閾値より大きいと判定され、第4モードとなった場合に実行される制御である。図20は本発明の実施形態に係る車両10の第4モードにおける舵角補正制御の動作例を示す図である。
第4モードでは、外乱が予測される場合には車輪12Fの舵角保持制御を実行し、外乱が生じてしまった場合には、車輪12Fの舵角補正制御を実行するので、車輪12R、Lのうちの片輪が段差に乗り上げるなどの外乱が生じても、車輪12Fは状況に応じて適正な舵角とされるので、走行が安定することとなる。
以上のように、本発明に係る車両10は、外乱検出した場合の第3モードや、第4モードを有し、このような本発明に係る車両10によれば、段差に乗り上げる、或いは、横風を受ける、などといった突発的な外乱が生じたとしても、走行が不安定となったりすることを軽減することができ、走行安定性を確保することが可能となる。