JP4892779B2 - 燃料電池システムの起動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池の起動を制御する起動制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池は、アノードに供給された水素と、カソードに供給された酸素との電気化学反応によって発電する。アノード、カソードに供給されたガスは、燃料電池内の流路を流れ、発電に使用された後、外部に排出される。アノードから排出されるガス(以下、アノードオフガスと呼ぶ)中には、発電で消費されなかった水素が残留している場合がある。水素は可燃性ガスであるため、通常、アノードオフガスは燃焼または酸化触媒による酸化処理を施された上で排出される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、燃料電池の起動時には、酸化触媒の暖機が完了しておらず、未処理のまま水素が排出されることがあった。酸化触媒が未暖機時に、水素の供給量を低減して水素の排出を防止しようとすれば、燃料電池の出力低下、起動処理の長時間化という別の課題を招く。また、この出力低下を補償するために、大容量のバッテリが必要となり、装置の大型化を招く可能性もある。
【0004】
一方、水素は、可燃性ガスではあるものの、有毒ガスではない。従って、未処理のまま水素が排出されたとしても、高濃度にならなければ、ほとんど実害はない。本願は、かかる観点から、未処理のまま排出される水素の高濃度化を抑制する技術を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
本発明の一形態としての起動制御装置は、燃料電池と、該燃料電池から排出されるアノードオフガス中の水素を酸化処理する酸化処理部と、を備える燃料電池システムの起動を制御する起動制御装置であって、
該燃料電池システムの起動および停止に関する指令を入力する入力部と、
起動の指令に対し、停止の指令の入力後、前記起動の指令が入力されるまでの経過時間が基準時間以下となる条件Aと、所定の期間内における前記起動の指令の繰り返し数が最大許容回数以上となる条件Bの少なくとも一方を満足する場合に前記燃料電池システムの起動を禁止する起動禁止部と、を備え、
前記基準時間は、前記酸化処理部から排出された未処理の水素が十分に拡散したとみなすことができる値に設定され、
前記最大許容回数は、前記酸化処理部から排出された未処理の水素の量が少なくはないとみなせる値に設定される起動制御装置である。
この起動制御装置によれば、燃料電池システムから未処理のまま排出される水素の高濃度化を抑制することができる。
上記起動制御装置において、
前記最大許容回数は、前記経過時間に応じて設定されるようにしてもよい。
また、上記起動制御装置において、
前記最大許容回数は、前記経過時間および前記酸化処理部の温度に応じて設定されるようにしてもよい。
本発明の他の形態としての起動制御装置では、燃料電池の起動を一定条件下で規制することにより、上記課題の解決を図った。つまり、本発明では、燃料電池の起動を制御する起動制御装置において入力部、履歴記憶部、起動禁止部を備える構成とした。入力部は、燃料電池の起動および停止に関する指令を入力するユニットである。履歴記憶部は、入力された指令の過去の履歴を記憶するユニットである。起動禁止部は、起動の指令に対し、この履歴に基づいて所定の条件下で燃料電池の起動を禁止する。
【0006】
未処理の水素は、燃料電池を含むシステム全体の暖機が完了していない起動時に排出されやすい。燃料電池が起動され、運転が継続されれば、暖機が進むにつれて未処理の水素の排出量が低減する。かかる場合には、排出された水素が十分に拡散するため、局所的な高濃度状態は生じない。これに対し、燃料電池の起動および停止が繰り返し行われる場合には、水素の濃度が高まりやすい。短期間に起動および停止が繰り返されると、システムの暖機が進行せず、未処理の水素が排出されやすい状態が継続されるからである。
【0007】
水素の濃度が高まりやすいか否かは、起動および停止がどの程度頻繁に行われていたか、つまり、これらの指令に関する過去の履歴に基づいて判断することができる。本発明では、指令の履歴に基づいて、所定の条件下で燃料電池の起動を禁止することにより、水素の高濃度化を回避することができる。
【0008】
本発明において、過去の履歴は、上述の判断を行うのに必要な範囲で記憶すれば足りる。燃料電池の運転状態を長期間にわたって記憶するものとしてもよいし、例えば、前回の運転停止からの経過時間のように短期間の履歴を記憶するものとしてもよい。過去の履歴は、ディジタル化されたデータとして記憶するものとしてもよいし、アナログデータ、例えば、積分回路等における電圧値の形等で記憶するものとしてもよい。
【0009】
所定の条件は、履歴の記憶態様に応じて、水素の高濃度化を抑制可能な範囲で実験等によって適宜設定することができる。
【0010】
一例として、本発明において、起動の指令の時間的密度に関するパラメータを履歴として記憶し、その時間的密度が所定以上の場合に起動を禁止する態様を採ることができる。時間的密度とは、所定の時間内における起動指令の割合をいう。時間密度が高い程、頻繁に起動と停止とが繰り返し実行されていることになる。
【0011】
時間密度に関するパラメータとしては、例えば、停止の指令の入力後、起動の指令が入力されるまでの経過時間を用いることができる。経過時間が短い程、時間的密度が高いことを意味する。従って、この経過時間が所定値以下の場合に起動を禁止すればよい。過去の履歴としては、この経過時間は、直前の停止指令からの経過時間のみを記憶してもよいし、過去一定期間において、停止指令、起動指令が入力される度に、経過時間を求め、この変遷または累積値を記憶するものとしてもよい。
【0012】
時間密度に関する他のパラメータとしては、例えば、所定の期間内における起動の指令の繰り返し数を用いることができる。繰り返し数が多い程、時間的密度が高いことを意味する。従って、繰り返し数が所定値以上の場合に起動を禁止すればよい。繰り返し数を求める基準となる所定の期間は、予め設定された一定の期間としてもよいし、燃料電池の運転状態に応じて変動する期間としてもよい。後者の態様としては、例えば、システムの暖機が完了して正常に運転が開始された後の停止指令から起算する方法が挙げられる。より具体的には、起動の指令が入力される度に繰り返し数を累積し、暖機が完了した時点で繰り返し数をリセットして累積を再開する態様が相当する。
【0013】
パラメータとして、上記繰り返し数と、経過時間とを併せて用いるものとしてもよい。例えば、上記繰り返し数に基づいて起動の禁止を判断する基準となる所定値を経過時間が短い程、小さく設定することができる。所定値は、経過時間に応じて連続的に低減させてもよいし、段階的に小さくしてもよい。経過時間が短い場合には、水素が十分に拡散していないと考えられるため、所定値を小さくして起動を禁止しやすくすることにより、高濃度化を適切に回避することができる。
【0014】
本発明は、アノードオフガス中の水素を酸化処理する酸化処理部を備えている燃料電池に有効活用することができる。酸化処理としては、例えば、酸化触媒による酸化反応が挙げられる。このような酸化処理部を有する燃料電池に本発明を適用する場合、燃料電池の起動を禁止するための所定の条件は、酸化処理部の酸化処理能力に関与する物理状態に応じて設定することが好ましい。未処理の水素が排出される量は、この物理状態に関与しているからである。物理状態としては、酸化処理部の温度、圧力などが挙げられる。
【0015】
物理状態に応じた条件設定としては、例えば、酸化処理部の温度が高くなる程、禁止が生じにくくする態様を挙げることができる。先に例示した繰り返し数と所定値との大小関係で起動の禁止を判断する場合には、この態様は、温度が高くなる程、所定値を大きくすることにより実現可能である。また、酸化処理部の温度が暖機済みと判断される程度に高い場合など、物理状態が所定の状態にある時には、燃料電池の起動を無条件に許可する態様を採ってもよい。
【0016】
本発明は、上述した起動制御装置としての態様に関わらず種々の態様で構成可能である。例えば、上述の起動制御装置と燃料電池とを組み合わせて燃料電池システムとして構成してもよい。また、燃料電池の起動制御方法などの態様で構成することも可能である。本発明は、排出される水素の高濃度化を抑制するという観点から、定置型の燃料電池システムに、特に有効に活用できる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、実施例に基づき次の項目に分けて説明する。
A.システム構成:
B.起動制御処理:
C.起動可否判定:
D.効果:
E1.第1変形例:
E2.第2変形例:
【0018】
A.システム構成:
図1は実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。このシステムは、燃料電池13およびバッテリ14を並列に接続し、出力端子(図中の+,−)から所定電圧の直流を出力する。本実施例では、定置型のシステムとして構成されている。移動体等の電源として搭載されるシステムとして構成しても構わない。
【0019】
燃料電池13は、空気中の酸素と燃料ガス中の水素との電気化学反応によって発電を行う。燃料電池13には、種々のタイプを適用可能であるが、本実施例では、固体高分子型を用いるものとした。
【0020】
燃料ガスは、水素供給源10から燃料電池13のアノードに供給される。水素供給源10は種々の構成を適用可能である。例えば、水素ガスを貯蔵する高圧ボンベ、水素吸蔵合金を利用した貯蔵タンク、および原料の改質によって水素を生成する改質装置などを利用することができる。燃料ガスおよび空気の供給は、それぞれバルブ11,12によって調整される。このバルブの開度は、後述する制御ユニットによって電磁的に制御される。
【0021】
燃料ガスは、燃料電池13に用意された流路を流れつつ、発電に利用され、排出口から排出される。アノードからの排出ガス、即ちアノードオフガス中には、発電に消費されない水素が残留している可能性があるため、水素処理部15で酸化処理された上で外部に放出される。水素処理部15には、水素を酸化するのに適した酸化触媒が担持されている。触媒を用いた一般の反応と同様、水素処理部15での酸化反応速度は、触媒の温度に依存する。触媒の温度が比較的低い状態では、反応速度が比較的低いため、アノードオフガス中の水素の一部は未処理のまま排出される可能性がある。
【0022】
本願のシステムの運転は、制御ユニット23によって制御される。制御ユニット23は、内部にCPU、RAM,ROMおよび動作の同期をとるためのクロック等を備えるマイクロコンピュータとして構成されている。制御ユニット23には、制御用に種々の信号が入出力される。例えば、水素処理部15の内部温度を検出する温度センサ16からの信号が入力される。また、ユーザが燃料電池システムの起動および停止を指示するための操作回路からの信号が入力される。
【0023】
操作回路には、システムを停止するための停止スイッチ17と、起動するための起動スイッチ18が設けられている。停止スイッチ17は、操作時に回路を遮断するよう構成されている。起動スイッチ18は、操作時に回路を一時的に接続し、その後遮断するよう構成されている。起動スイッチ18には制御ユニット23によって制御されるリレー19が並列に設けられている。起動スイッチ18が操作されると、これをトリガーとしてリレー19がオンとなり、起動スイッチ18の接点が離れた後は、リレー19によってシステムは稼働状態に維持される。本実施例では、停止スイッチ17,起動スイッチ18によって指令が入力される場合を例示するが、電子的なコマンドを制御ユニット23に入力する態様を採っても構わない。
【0024】
バッテリ14の電源間には、スイッチ20、21とともに、積分回路22が介設されている。積分回路22は、抵抗RとコンデンサCとの組み合わせで実現される回路である。スイッチ21をオフにした状態でスイッチ20をオンにすると、積分回路22の時定数に従って、コンデンサCの端子電圧が上昇する。制御ユニット23は、スイッチ20がオンになった後の経過時間を表す信号としてこの端子電圧を入力する。スイッチ21をオンにすると、コンデンサCは放電され、端子電圧はリセットされる。制御ユニット23は、次に示す制御処理によって、この端子電圧を利用してシステムの起動を制御する。
【0025】
B.起動制御処理:
図2は起動制御ルーチンのフローチャートである。起動スイッチ18および停止スイッチ17の操作に応じて制御ユニット23が実行する処理である。この処理では、制御ユニット23は、これらのスイッチからの信号を入力し(ステップS10)。操作されたスイッチに応じた処理を行う。
【0026】
停止スイッチ17が押されたと判断された場合には(ステップS12)、操作後の経過時間Tstspの計時を開始する(ステップS14)。先に説明した通り、本実施例では、積分回路22を用いて経過時間Tstspの計測が行われる。従って、制御ユニット23は、ステップS14の処理として、積分回路22のスイッチ20をオンにする。フローチャートへでは別処理として記載したが、スイッチ20のオンは、停止スイッチ17の操作と並行して行われる。スイッチ20として、電源がオフされた状態で回路が閉となるタイプの接点を利用すれば、この並行動作は比較的容易に実現可能である。この経過時間Tstspは、次に起動スイッチ18が操作されるまでの過去の履歴を表す情報の一種であり、システムの起動時に起動可否判定に用いられる。なお、本実施例では、積分回路22を利用して経過時間Tstspを計時しているが、制御ユニット23のクロックを利用して、ディジタル信号として計時を行ってもよい。この場合は、停止スイッチ17の操作後もバッテリ14等を電源として制御ユニット23を継続的に動作させ続けることが可能な回路構成としておく必要がある。積分回路22を利用した構成でも、かかる回路構成を採ることは可能である。但し、実施例の構成を採れば、停止スイッチ17の操作後の消費電力を、積分回路22に流れ込む微小電力に抑制することができる利点がある。
【0027】
起動スイッチ18が押されたと判断された場合には(ステップS12)、システムを起動してもよい状態にあるか否かの起動可否判定を行う(ステップS16)。この判定は、経過時間Tstspに基づいて行われる。処理内容は、後述する。起動可と判定された場合には(ステップS18)、起動処理としてリレー19をオンにするとともに、経過時間Tstspをリセットする(ステップS22)。起動不可と判断された場合には(ステップS18)、起動禁止処理として、リレー19をオフにする(ステップS20)。経過時間Tstspの値は維持される。このように、本願では、起動スイッチ18の動作時に無条件にシステムを起動するのではなく、経過時間Tstsp等で表される過去の履歴によってはシステムの起動を禁止することがある。
【0028】
C.起動可否判定:
図3は起動可否判定処理ルーチンのフローチャートである。図2中のステップS16における処理を詳述したものである。この処理が開始されると、制御ユニットは、変数Cstを値1だけインクリメントする(ステップS32)。変数Cstは、起動スイッチ18の操作回数を示す変数(以下、繰り返し数と呼ぶ)である。起動可否判定処理ルーチンは起動スイッチ18の操作に対応して行われる処理であるから、このルーチンが実行される度に変数Cstが値1ずつ増加する。
【0029】
但し、変数Cstは無限に大きくなる訳ではない。本実施例では、システムが正常に起動した時点で変数Cstを0にリセットするものとした。システムの稼働状態が所定の期間継続した時点で正常に起動したものと判断される。この判断は、起動制御処理(図2)ではなく、制御ユニット23がシステムの運転状態を制御する別のルーチンで行うものとした。
【0030】
次に、制御ユニット23はシステムが停止された後の経過時間Tstspの検出を行う(ステップS34)。積分回路22の端子電圧を読み込み、これを予め用意されたマップまたは関数によって経過時間Tstspに換算する。経過時間Tstspは、直前に停止スイッチ17が操作された後、起動スイッチ18が操作されるまでの時間に相当する。
【0031】
制御ユニット23は、こうして得られた経過時間Tstspに基づいて起動操作の最大許容回数Crefを求める(ステップS36)。最大許容回数Crefは、図示する通り、経過時間Tstspのマップとして予め用意されている。経過時間Tstspが短い程、最大許容回数Crefは小さく、経過時間Tstspが増大するにつれて最大許容回数Crefは段階的に増加する。最大許容回数Crefの設定根拠は後述する。
【0032】
制御ユニット23は、以上で求められた経過時間Tstsp、繰り返し数Cst、最大許容回数Crefを総合的に考慮して、システムの起動可否を判断する(ステップS38)。本実施例では、次の条件A,Bの少なくとも一方を満足する場合に起動を許可し(ステップS42)、その他の場合には起動を禁止するものとした(ステップS40)。
条件A…経過時間Tstsp>基準時間Tref;
条件B…繰り返し数Cst<最大許容回数Cref;
【0033】
条件Aは、主として水素処理部15で処理されないまま排出された水素の拡散性を考慮して設定された条件である。システムの起動時には、水素処理部15の暖機が完了しておらず、未処理の水素が排出される可能性がある。排出された水素は、時間とともに拡散する。従って、システムが停止された後、十分に時間が経過していれば、システムの再起動によって未処理の水素が排出されたとしても、水素の濃度は高くならない。基準時間Trefはこの判断基準となる時間であり、排出された水素が十分に拡散したとみなすことができる値に設定される。この時間は、未暖機時にシステムから排出される水素量、システムが使用されている環境等を考慮して、実験等によって適切な値を選択すればよい。例えば、水素の拡散性が低い室内に設置されたシステムでは、基準時間Trefを特に大きく設定しておくことが好ましい。
【0034】
条件Bは、主として未処理のまま排出される水素量を考慮して設定された条件である。未処理の水素量は、システムの起動回数に応じて増大すると考えられる。従って、短期間の間に起動が繰り返し行われれば、水素が十分に拡散しないまま多量の水素が排出されることになる。条件Bは、かかる観点から、起動の繰り返し数Cstが比較的低い場合、即ち、排出される水素量が比較的少ないとみなせる場合にのみ、システムの起動を許可するための条件である。
【0035】
起動の繰り返し数Cstが許容範囲か否かは、その操作が行われた期間に依存する。一定数の操作であっても排出された水素が十分に拡散する程の長期間に亘って行われた場合と、短期間に行われた場合とでは、起動可否に対する判定は相違する。本実施例では、かかる観点から、操作の最大許容回数Crefを経過時間Tstspのマップで設定している(ステップS36参照)。経過時間Tstspが短い場合には、短期間に繰り返して操作が行われていることを意味するから、最大許容回数Crefを低くして、繰り返し数に基づく起動の禁止を厳しくする。経過時間Tstspが長い場合には、長期間に亘って操作が行われていることを意味するから、最大許容回数Crefを高くして、繰り返し数に基づく起動の禁止を緩和する。最大許容回数Crefは、未暖機時にシステムから排出される水素量、システムが使用されている環境等を考慮して、経過時間Tstspごとに実験等によって適切な値を選択すればよい。もちろん、最大許容回数Crefは、経過時間Tstspに依存しない一定値を用いても構わない。
【0036】
なお、本実施例では、繰り返し操作が行われた時間間隔を、直前の停止操作からの経過時間Tstspで代表させて最大許容回数Crefを設定している。繰り返し操作の時間間隔は一定とは限らないことを考慮すると、比較的長期間に亘る過去の履歴に基づいて最大許容回数Crefを設定する態様を採ることも望ましい。例えば、停止操作から起動操作までの時間間隔を過去の一定期間、または過去の一定回数だけサンプリングし、この平均値、合計値等に基づいて最大許容回数Crefを設定する方法を採ることができる。一定期間は、予め設定された固定の期間としてもよいし、正常運転している状態のシステムが停止された時点を始期としてもよい。
【0037】
D.効果:
以上で説明した本実施例のシステムによれば、起動操作が繰り返し行われた場合でも、未処理のまま排出される水素量を抑制し、水素の濃度が高まることを回避することができる。
【0038】
図4は水素の排出量の抑制効果を示す説明図である。スイッチ操作、起動可否判定に用いられる変数Cst,Crefおよび排出される水素量の時間変化を模式的に示した。
【0039】
最上段に示す通り、それぞれ時刻t1,t2,t3,t4において、4回の起動操作が行われた場合を考える。それぞれ停止操作から起動操作が行われるまでの経過時間は、Tstsp1、Tstsp2、Tstsp3とする。
【0040】
2段目に繰り返し数Cstおよび最大許容回数Crefの変化を示した。実線で示す通り、起動操作が行われる度に、繰り返し数Cstは増加する。4回目の起動操作の後、期間Tdrvが経過した時点で、正常運転に入ったと判断され、繰り返し数Cstはリセットされる。
【0041】
一方、一点鎖線で示す通り、最大許容回数Crefは、経過時間Tstsp1、Tstsp2、Tstsp3に応じて変動する。1回目の起動時には、最大許容回数Crefは3に設定され、2回目、3回目は経過時間Tstsp1、Tstsp2が短いため、それに応じて最大許容回数Crefも低減する。4回目の起動時には、経過時間Tstsp3が比較的長いため、最大許容回数Crefは大きくなる。なお、図では、繰り返し数Cstとの区別を容易にするため、最大許容回数Crefを下側にずらして示したが、整数値に設定して構わない。また、最大許容回数Crefの設定は、説明の便宜上のものであり、これに限定されるものではない。繰り返し数Cstが最大許容回数Crefよりも小さい場合に起動は許可されるから、1回目および4回目の起動のみが許可されることになる。
【0042】
最下段に排出される水素量の推移を実線で示した。1回目の起動によって排出水素量が徐々に増大する。運転が停止されると、水素量は一定値となる。この間に排出された水素は拡散する。2回目、3回目の起動時には、システムの起動が禁止されるから、水素は排出されない。その後、4回目の起動によって再び水素量は増大する。触媒が暖機され、正常運転に入る頃、水素は排出されなくなり、水素量は一定値となる。比較例としてシステムの起動を無条件に許可した場合の水素量を破線で示した。2回目、3回目の操作でも水素が排出されるため、排出水素量は、非常に多くなる。図4は、排出される水素の総量のみを示しており、拡散性は考慮されていないが、比較例の起動制御によれば、多量の水素が短期間に排出されることにより、水素濃度が高くなる可能性が推測される。これに対し、本実施例の起動制御によれば、水素の排出量を抑制するとともに、高濃度化を抑制することができる。
【0043】
E1.第1変形例:
図5は変形例としての起動可否判定処理ルーチンのフローチャートである。実施例では、起動操作の過去の履歴、即ち操作の繰り返し数、停止操作からの経過時間に基づいて起動可否を判定する場合を例示した。変形例では、水素処理部15の温度を考慮した判定例を示す。
【0044】
変形例の処理が開始されると、制御ユニット23は、水素処理部15の温度Tempを検出する(ステップS30)。温度Tempは、図1に示した温度センサ16によって検出される。そして、この温度Tempが所定の基準温度Tstを上回っている場合には(ステップS31)、無条件でシステムの起動を許可する(ステップS42)。基準温度Tstは、水素処理部15の暖機が完了したか否かの判断基準となる温度である。温度Tempが基準温度Tstを上回っている場合には、水素処理部15で水素の処理が十分に行われ、未処理の水素が排出される可能性が低いため、無条件で起動を許可しても差し支えないと判断するのである。
【0045】
温度Tempが基準温度Tst以下の場合には、実施例と同様の処理により、起動の可否を判定する(ステップS32〜S42)。但し、最大許容回数Crefは、経過時間Tstspの他、温度Tempを考慮して設定される(ステップS36A)。つまり、図示する通り、変形例のマップでは、温度Tempもパラメータに含まれる。Temp1は温度Tempが比較的低い場合のマップであり、Temp2は温度Tempが比較的高い場合のマップである。温度Tempが高い程、水素処理部15での水素浄化能力は高いから、未処理の水素が排出される可能性は低い。従って、温度Tempが比較的高い場合には、最大許容回数Crefを大きく設定することにより、システムの起動を禁止する条件を緩和する。ここでは、Temp1,Temp2の2段階のマップを例示したが、更に多段階のマップを用意してもよい。基準温度に対する単一のマップを用意し、このマップから得られる最大許容回数Crefを、温度Tempに応じて修正する態様を採るものとしてもよい。
【0046】
変形例の起動可否判定を行えば、水素処理部15の処理能力を考慮することができる。このため、システムの起動を不必要に禁止することなく、排出される水素量を抑制することができる。
【0047】
E2.第2変形例:
実施例および第1変形例では、過去の履歴として、操作の繰り返し数等を考慮して起動可否を判定する場合を例示した。これに対し、過去における起動時間も含めて起動可否を判定してもよい。水素の排出量は、システムが起動状態にある時間に依存するからである。例えば、過去の一定時間のうち、システムが起動状態にある時間が占める割合に基づいて起動可否を判定する態様を採ることができる。この割合が高い場合には、過去に排出された水素の量が多いと判断できるため、起動を禁止する。
【0048】
以上、本発明の種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができることはいうまでもない。例えば、以上の制御処理はソフトウェアで実現する他、ハードウェア的に実現するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例としての燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】起動制御ルーチンのフローチャートである。
【図3】起動可否判定処理ルーチンのフローチャートである。
【図4】水素の排出量の抑制効果を示す説明図である。
【図5】変形例としての起動可否判定処理ルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
10…水素供給源
11,12…バルブ
13…燃料電池
14…バッテリ
15…水素処理部
16…温度センサ
17…停止スイッチ
18…起動スイッチ
19…リレー
20…スイッチ
21…スイッチ
22…積分回路
23…制御ユニット
Claims (4)
- 燃料電池と、該燃料電池から排出されるアノードオフガス中の水素を酸化処理する酸化処理部と、を備える燃料電池システムの起動を制御する起動制御装置であって、
該燃料電池システムの起動および停止に関する指令を入力する入力部と、
起動の指令に対し、停止の指令の入力後、前記起動の指令が入力されるまでの経過時間が基準時間以下となる条件Aと、所定の期間内における前記起動の指令の繰り返し数が最大許容回数以上となる条件Bの少なくとも一方を満足する場合に前記燃料電池システムの起動を禁止する起動禁止部とを備え、
前記基準時間は、前記酸化処理部から排出された未処理の水素が十分に拡散したとみなすことができる値に設定され、
前記最大許容回数は、前記酸化処理部から排出された未処理の水素の量が少なくはないとみなせる値に設定される起動制御装置。 - 請求項1記載の起動制御装置であって、
前記最大許容回数は、前記経過時間に応じて設定される起動制御装置。 - 請求項1記載の起動制御装置であって、
前記最大許容回数は、前記経過時間および前記酸化処理部の温度に応じて設定される起動制御装置。 - 燃料電池と、該燃料電池から排出されるアノードオフガス中の水素を酸化処理する酸化処理部と、を備える燃料電池システムの起動を制御する起動制御方法であって、
該燃料電池の起動および停止に関する指令を入力する工程と、
起動の指令に対し、停止の指令の入力後、前記起動の指令が入力されるまでの経過時間が基準時間以下となる条件Aと、所定の期間内における前記起動の指令の繰り返し数が最大許容回数以上となる条件Bの少なくとも一方を満足する場合に前記燃料電池システムの起動を禁止する工程とを備え、
前記基準時間は、前記酸化処理部から排出された未処理の水素が十分に拡散したとみなすことができる値に設定され、
前記最大許容回数は、前記酸化処理部から排出された未処理の水素の量が少なくはないとみなせる値に設定される起動制御方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
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