JP4887237B2 - 斜出射電子線プローブマイクロx線分析方法およびそれに用いられるプログラム、並びに、斜出射電子線プローブマイクロx線分析装置 - Google Patents
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EPMAは電子線を試料に照射すると、その照射領域に存在する各元素がそれぞれ固有のエネルギーや波長を有する特性X線を放出することを利用する。
電子線により励起された特性X線のエネルギースペクトラムや波長分布を分析することにより、照射領域に存在する元素を知ることができる。
これは、試料から放出される特性X線には、試料内部と試料表面の薄層との両方から放出される特性X線が含まれ、しかも試料内部から放出されるX線強度が、試料表面の薄層から放出される特性X線に比べて強いので、薄層から放出される特性X線のみを選択的に抽出して分析できないからである。
しかし、低エネルギー電子線の使用は検出可能な元素を限定してしまうため、例えば、検出すべき元素が未知であり全ての元素を検出対象とする必要がある場合などには適切でない。
この斜出射EPMAは、電子線の照射方向に対し、試料内部から発せられる特性X線が全反射現象により試料表面から放出されない角度範囲に試料を傾斜させ、試料表面に存在する薄層から放出される特性X線のみを検出し分析するものである(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1および非特許文献2参照)。
斜出射EPMAでは、試料表面の薄層から放出されX線検出器に入射する特性X線の試料表面に対する角度(特性X線の取出角度)を制御することが重要であり、このために試料ホルダを傾斜させる方法、X線検出器(エネルギー分散型X線検出器(Energy Dispersive X-ray Spectrometer:EDS)および波長分散型X線検出器(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer:WDS))を移動させる方法、試料ステージを上下に移動させる方法などが考えられている。
市販のEPMA装置における取出角度の制御方法として、試料ステージを傾斜させる方法、又は、試料ステージを上下移動させる方法が容易である。
つまり、通常、EPMA装置にセットされた試料の表面は必ずしも完全な水平とはならず、セットを行う度に僅かな傾斜(狂い)が生じるため、EPMA装置にセットされた試料表面の傾斜角度が精密に制御(補正)されていなければ、試料ステージの傾斜角度を精密に制御しても実際のX線取出角度に変動が生じてしまう。
以下に試料表面の傾斜角度が制御されない場合の問題例を記す。
ある試料におけるX線取出角度と分析膜厚の相関を求めたとする。求めた相関関係から、X線取出角度が(A)のときに分析膜厚が(B)となることが分かるが、試料のセットをやり直すと、X線取出角度が(A)のときに分析膜厚が(C)になってしまう。
これは、試料のセットをやり直したことにより試料表面の傾斜角度が変動し、X線取出角度(A)を再現するべく試料ステージを傾斜させても、実際のX線取出角度は(A)とはならず(A')になってしまうからである。
つまり、以前に求めたX線取出角度と分析膜厚の相関が使えなくなる問題が生じる。
斜出射EPMAで組成定量分析を行う際には、精度の点から検量線法が望ましい。つまり組成が既知である複数の試料と被分析試料とで組成定量を行う。
このとき、複数の試料間では試料表面の傾斜角度に相対的な差が生じているので、各試料のX線取出角度も自ずと異なることになる。
全試料のX線取出角度が等しくなければ各試料の分析膜厚も異なり、正確な組成定量が行えない。
また、試料表面の傾斜角度とは、試料ステージを傾斜させる前における所定の基準面に対する試料表面の傾斜角度を意味する。
しかし、一致させられた取出角度が真に正しい絶対的な取出角度であるか、それとも複数の試料間における取出角度を一致させるために便宜的に設定された取出角度に過ぎないのかは定かでない。
したがって、任意に定めた1つの試料を基準として複数の試料間の相対的な傾斜角度の差を求め、便宜的に複数の試料間の取出角度の一致を図る上記手法は、特性X線の取出角度と分析膜厚との相関データを求めるような場合には必ずしも適切とは言えない。
図1は実施例による斜出射電子線プローブマイクロX線分析方法に用いられる斜出射電子線プローブマイクロX線分析装置の概略的な説明図、図2は図1に示される斜出射電子線プローブマイクロX線分析装置における波長分散型X線検出器の配置を概略的に示す説明図、図3はAl−Kα線の強度測定結果を示すグラフ図である。
制御部8は入力部9を介して入力された情報に基づいて所定の基準面に対する試料4の表面の傾斜角度を求め、求められた傾斜角度が相殺されるように試料ステージ2を傾斜させて特性X線Cの取出角度を設定する。
試料室13に収容される試料ステージ2は、X軸ステージ2a、Y軸ステージ2b、Z軸ステージ2c、回転ステージ2dおよび傾斜ステージ2eとから構成されており、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動でき、かつ、任意の方向に傾斜・回転できる構成となっている。
X軸ステージ2a、Y軸ステージ2b、Z軸ステージ2c、回転ステージ2dおよび傾斜ステージ2eは、駆動部3としてのパルスモータ(図示せず)でそれぞれ駆動される。
試料4は、試料ホルダ15にセットされたうえで図示しない試料出入口から試料ステージ2上に運ばれる。
電磁対物レンズ19の近傍には、光学対物レンズ20が配置され、光学反射鏡21によって反射された試料像は試料室13に装着された光学顕微鏡5に入射するように構成されている。
光学顕微鏡5は焦点調整を行う際に利用されるもので、光学顕微鏡5の焦点調整とZ軸ステージ2cの移動は連動しており、光学顕微鏡5の像が鮮明になるように調整することにより試料4の高さ調整が行われる。
上述の駆動部3、電子線走査部6、X線検出部7、入力部9および表示部11は、バスライン22を介して制御部8に接続され、制御部8の制御の下に一連の動作を行う。
また、図示しないが、鏡筒12、試料室13および分光室14は真空排気装置と接続されており、制御部8は真空排気装置の制御も行う。
なお、図1では1つのWDS24しか示されていないが、図2に示されるようにWDS24は試料室の周囲にチャンネル1(CH1)〜チャンネル5(CH5)まで5つ設けられている。
EDS23が用いられる場合、EDS23の入射口23aと電子線Eが照射された試料4の表面とを結ぶ線が試料4の表面に対してなす角度を特性X線Cの取出角度と定義することができる。
チャンネル1〜5の分光室14には分光するX線の波長範囲に応じて種類の異なる分光結晶がそれぞれ収容されている。
WDS24が用いられる場合、分光結晶25の中心と電子線Eが照射された試料4の表面とを結ぶ線が試料4の表面に対してなす角度を特性X線Cの取出角度と定義することができる。
試料(1)〜(3)の元素濃度は以下の表1に示されるとおりである。
・Al−Kα:2CH−TAP
・Ga−Kα:3CH−LIFH
・As−Lα:2CH−TAP
・Si−Kα:2CH−TAP
・In−Lα:3CH−PETH
・P−Kα:3CH−PETH
試料(1)〜(3)を試料ホルダ15にセットし、各試料について斜出射電子線プローブマイクロX線分析装置1に搭載されている光学顕微鏡5により、水平方向に1.5mm離れた各試料の上端と下端、すなわち特性X線Cの取出方向に沿った試料の両端に対して焦点調整を行い、Z方向(鉛直方向)の高低差ΔZを求め、以下の式(1)により、各試料を試料ホルダ15にセットする
際に生じた試料(1)〜(3)の表面における傾斜角度θをそれぞれ求める。
tanθ=ΔZ/L・・・(1)
また、このような光学顕微鏡5を用いて求められた試料表面の傾斜角度は、試料ホルダ15の試料載置面(試料ステージ2)を基準とした絶対的な傾斜角度である。
θ1=θ2−(θ3+θ4)・・・(2)
これにより、試料(1)および(2)に基づいて正確な検量線を作成することができ、試料(3)の定量分析を良好に行うことができる。
実施例2は、試料(1)の表面を基準として、試料(1)に対する試料(2)および(3)の相対的な傾斜角度の差を測定することにより、試料(1)〜(3)の取出角度を便宜的に一致させるものである。
試料(1)〜(3)を試料ホルダ15にセットし、試料(1)を基準として試料(1)〜(3)間の相対的な傾斜角度の差をレーザー角度測定器により測定する。結果は以下の表3に示す通りである。
実施例2で設定された取出角度が真に正しい1°であるのかどうかは、基準とされた試料(1)の表面における絶対的な傾斜角度(試料ホルダ15の試料載置面を基準とした傾斜角度)が不明であるため定かでないが、試料(1)〜(3)の取出角度は一致させられる。
このため、試料(1)および(2)によって信頼性の高い検量線を作成でき、試料(3)の定量分析を良好に行うことができる。
実施例3では、上述の実施例2の方法で試料(1)の表面を基準とする試料(1)〜(3)間の相対的な傾斜角度の差を求めると共に、基準とされた試料(1)の表面における絶対的な傾斜角度、すなわち試料ホルダ15の試料載置面に対する傾斜角度を上述の実施例1の方法で求める。
試料(1)の表面における絶対的な傾斜角度が求められるので、試料(1)に対する試料(2)および(3)の相対的な傾斜角度の差に試料(1)の表面の絶対的な傾斜角度をそれぞれ加算することにより、試料(2)および(3)の絶対的な傾斜角度を求めることができる。
よって、上述の実施例1の式(2)を用いることにより、試料表面の傾斜が相殺されるように試料ステージ2を傾斜させるうえで適切となる試料ステージ2の傾斜角度を求めることができる。結果は以下の表4に示すとおりである。
上述の実施例3では実施例1に記載の光学顕微鏡を用いる手法で試料(1)の絶対的な傾斜角度を求めた。
これに対し、実施例4では、取出角度と特性X線強度との相関関係が予め既知のGaAs試料を用い、Ga−Kα線強度がある強度になるとき、特性X線の取出角度が0.5°になっていると決めてしまう方法を用いて、GaAs試料表面の絶対的な傾斜角度を求める。
よって、GaAs試料の取出角度が0.5°となったときの試料ステージの傾斜角度をみることにより、GaAs試料の表面の絶対的な傾斜角度を求めることができる。
GaAs試料の取出角度が0.5°となったときの試料ステージ2の傾斜角度を入力部9を介して制御部8に入力することにより、制御部8にGaAs試料の表面における絶対的な傾斜角度を算出させることができる。なお、この場合、試料ステージ2が傾斜させられる前の初期状態の取出角度(本実施例では40°)が制御部8に予め入力されているものとする。
θ5=θ7−(θ6+0.5)・・・(3)
後は、上述の実施例1の式(2)を用いることにより、試料表面の傾斜が相殺されるように試料ステージ2を傾斜させるうえで適切となる試料ステージ2の傾斜角度を求めることができる。
上述の実施例4では、取出角度と特性X線強度との相関関係が予め既知のGaAs試料を用い、Ga−Kα線強度がある強度になるとき、特性X線の取出角度が0.5°になっていると決めてしまう方法を用いて、GaAs試料表面の絶対的な傾斜角度を求めた。
実施例5も実施例4に類似するもので、Si試料のSi−Kα線強度のX線取出角度依存性測定を行い、臨界角度を求め、その角度を1.02度と決めてしまう方法を用いて、Si試料表面の絶対的な傾斜角度を求める。そして求められたSi試料表面の絶対的な傾斜角度に基づいて試料(1)〜(3)の表面の絶対的な傾斜角度を求め、各試料について適切な試料ステージ2の傾斜角度を求める。
実施例6も上述の実施例4および5に類似するもので、GaInP(30nm)/AlGaInP試料を用いてAl−Kα線の強度測定を行い、下地からの信号であるAl−Kα線強度が消失する角度を0.3°と決めてしまう方法を用いて、GaInP/AlGaInP試料表面の絶対的な傾斜角度を求める。
そして求められたGaInP/AlGaInP試料表面の絶対的な傾斜角度に基づいて試料(1)〜(3)の表面の絶対的な傾斜角度を求め、各試料について適切な試料ステージ2の傾斜角度を求める。参考までにAl−Kα線の強度測定結果を図3に示す。
2・・・試料ステージ
2a・・・X軸ステージ
2b・・・Y軸ステージ
2c・・・Z軸ステージ
2d・・・回転ステージ
2e・・・傾斜ステージ
3・・・駆動部
4・・・試料
5・・・光学顕微鏡
6・・・電子線走査部
7・・・X線検出部
8・・・制御部
9・・・入力部
10・・・二次電子検出部
11・・・表示部
12・・・鏡筒
13・・・試料室
14・・・分光室
15・・・試料ホルダ
16・・・電子銃
17・・・収束レンズ
18・・・走査コイル
19・・・電磁対物コイル
20・・・光学対物レンズ
21・・・光学反射鏡
22・・・バスライン
23・・・エネルギー分散型X線検出器(EDS)
23a・・・入射口
24・・・波長分散型X線検出器(WDS)
25・・・分光結晶
26・・・X線検出器
C・・・特性X線
E・・・電子線
S・・・二次電子
Claims (4)
- 試料ステージに載置された試料に電子線を照射し、試料内部から発せられる特性X線が試料表面での全反射現象により検出されない角度以下に試料ステージを傾斜させて特性X線の取出角度を設定することにより試料の表層から発せられる特性X線のみをX線検出器で選択的に検出する斜出射電子線プローブマイクロX線分析方法において、所定の基準面に対する試料表面の傾斜角度を求める工程と、求められた傾斜角度が相殺されるように試料ステージを傾斜させて特性X線の取出角度を設定する工程を備え、試料が複数であるとき、試料表面の傾斜角度を求める前記工程は、任意の1つの試料の表面を基準面として複数の試料間の相対的な傾斜角度の差を求めると共に、試料ステージを所定の基準面として任意の1つの試料における絶対的な傾斜角度を求め、複数の試料間の相対的な傾斜角度の差と前記任意の1つの試料の絶対的な傾斜角度から、複数の試料について試料ステージを基準面とする絶対的な傾斜角度を求める工程であり、前記任意の1つの試料の絶対的な傾斜角度は、所定の試料における所定の元素について予め求められた特性X線の取出角度と特性X線の強度との相関関係に基づいて求められる斜出射電子線プローブマイクロX線分析方法。
- 前記任意の1つの試料の絶対的な傾斜角度は、前記相関関係から導き出された所定の特性X線強度が得られる所定の取出角度に基づいて求められる請求項1に記載の斜出射電子線プローブマイクロX線分析方法。
- 前記任意の1つの試料の絶対的な傾斜角度は、前記相関関係から導き出された特性X線強度の臨界角度に基づいて求められる請求項1に記載の斜出射電子線プローブマイクロX線分析方法。
- 前記任意の1つの試料の絶対的な傾斜角度は、前記相関関係から導き出された特性X線強度の消失角度に基づいて求められる請求項1に記載の斜出射電子線プローブマイクロX線分析方法。
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