前述したように、車速が約70km/h以上の高速域では、回生ブレーキ性能が悪い為、ダイナミックブレーキや機械式ブレーキを併用せざるを得ない状態である。
そこで、このようなダイナミックブレーキや機械式ブレーキを使用することなく、高速域におけるブレーキトルクを大きくしてブレーキ性能を高める場合、誘導電動機の誘起電圧又は電流を増大させる方法がある。
誘導電動機で誘起電圧を増大させる場合、VVVFインバータの使用上の上限電圧がほぼ架線電圧に制限されるのと、変電所から架線に送電される架線電圧に制約されることから、架線電圧より大幅に高い誘起電圧で架線に回生することができない。
誘導電動機の電流を増大させる場合、VVVFインバータと誘導電動機の電流容量に制約されるため、不可能である。
何れにしても、電動車の高速域における回生ブレーキ性能を改善することができず、エネルギー損失を覚悟で機械式ブレーキを使用せざるを得なかった。
このように、ダイナミックブレーキや機械式ブレーキを併用する場合、電動車に蓄積された運動エネルギーを熱として大気に放出するため、回生電力の回収率が低下すること、機械式ブレーキのメンテナンスに余分な費用や作業が必要となること、等の問題がある。
電動車の力行において、図10に示すように、車速が約50km/hに達すると、電流一定、電圧一定、電力一定で周波数のみ増すので、電動機トルクは速度の増加と共に減少する。更に加速されると、V/F比が低下するため磁束量が減少する(弱め界磁)ので、誘導電動機の停動トルク値が速度の増加に応じて次第に低下し、VVVFインバータは、電動機トルクが停動トルクを越えないように制御されるようになり、加速性に劣るという問題がある。
本発明の目的は、特殊な高電圧大容量のスイッチング素子を用いたインバータに依存することなく、既存のインバータを有効活用しつつ、ブレーキ性能を高めること、回生電力の架線への回生率を向上させること、力行する際の加速性を高めること等である。
請求項1の鉄道車両の電力制御装置は、駆動用の三相誘導電動機と、走行時に架線の直流を三相交流に変換して誘導電動機に供給可能で且つブレーキ時に誘導電動機で生成した電力を直流に変換して架線に回生可能な可変電圧・可変周波数型の第1インバータと、第1インバータをPWM制御するインバータ制御手段とを備えた鉄道車両の電力制御装置において、前記架線に対して第1インバータと並列接続され且つ前記インバータ制御手段で制御される可変電圧・可変周波数型の第2インバータと、前記第1インバータの交流側電力線と誘導電動機の間に設けられた2次巻線と、第2インバータの交流側電力線に接続された1次巻線とを備え且つ少なくともブレーキ時に誘導電動機の誘起電圧の昇圧を可能とする為の電圧添加用変圧器とを有し、前記インバータ制御手段は、ブレーキ時に高速域から所定速度に減速するまでは、第1,第2インバータを作動させ、所定速度以下の速度域で減速する際には第1インバータのみを作動させ、第1インバータのみ作動するときに第2インバータを制御して電圧添加用変圧器の1次巻線を短絡することにより2次巻線の電圧降下を生じないようにすることを特徴としている。
第1インバータのみを作動させる場合には、電圧添加用変圧器の2次巻線の電圧降下が生じないように、第2インバータは電圧添加用変圧器の1次巻線を必ず短絡する必要がある。この短絡に当たっては、第2インバータを構成する複数のスイッチング素子のうち、限られた素子に電流が集中しないように、各スイッチング素子の負担が等しくなるように制御する。そこで、以後の説明において、第1インバータのみを作動させる場合には、第2インバータは電圧添加用変圧器の1次巻線を短絡するという短絡条件が満たされているものとする。
鉄道車両が高速域から回生電力が前述した約100%になる所定速度に減速される際には、インバータ制御手段は第1インバータをPWM制御するだけでなく、第2インバータも同時にPWM制御する。これら2つの第1,第2インバータの出力電圧は、電圧添加用変圧器(3相変圧器)を介して重畳され、誘導電動機の誘起電圧は、第1インバータのみが作動する場合よりも、第2インバータによって電圧添加用変圧器の2次巻線電圧の分だけ高くすることが出来る。
このように、誘導電動機の誘起電圧は、高速域から回生電力が前述した約100%になる所定速度に減速するまで第2インバータを作動させる分だけ高くなるので、ブレーキトルク一定で、回生電力を増加させることができる。それ故、鉄道車両の高速域のブレーキ時における誘導電動機のブレーキトルクを一定に保持できるため、このブレーキトルクを一定に維持した状態で回生ブレーキを作動させることができ、ブレーキ性能が高まる。
鉄道車両が回生電力が前述した約100%になる所定速度以下の車速で減速される際には、インバータ制御手段は第1インバータのみをPWM制御する。
この場合には、インバータ制御手段は第2インバータを制御して電圧添加用変圧器の1次巻線を短絡するので、変圧器による電圧降下を防止して、第1インバータによるブレーキ動作に悪影響を及ぼすものではない。
請求項2の鉄道車両の電力制御装置は、請求項1において、前記インバータ制御手段は、加速走行時に第1インバータ出力電圧が最大値になるまでは、第1インバータのみを作動させ、更に加速する際には第1,第2インバータを作動させ、第1インバータのみ作動するときに第2インバータを制御して電圧添加用変圧器の1次巻線を短絡することにより2次巻線の電圧降下が生じないようにすることを特徴としている。
この電力制御装置においては、インバータ制御手段は、ブレーキ時及び力行時共、全速度域に亙って第1インバータと第2インバータを作動させる。ここで、請求項1における第1インバータの出力電圧E1と第2インバータの出力電圧E2を図3に夫々示し、請求項2における第1インバータの出力電圧E1と第2インバータの出力電圧E2を図2に示す。
第1インバータの出力電圧E1は、零から最大電圧E1M(図2の力行時においては「約100%」、図3の回生時においては「約110%」)まで速度に比例して増加する。第1インバータの出力電圧E1が最大電圧E1Mに到達した時点の速度をV1Mとし、周波数をF1Mとする。第1インバータは以後、出力電圧E1が一定で、周波数F1のみが変化する。この時点から、第2インバータが動作を開始し、第2インバータの出力電圧E2は実速度Vと第1インバータの最大電圧における速度V1Mとの速度差に比例して増加する。尚、第1インバータと第2インバータの周波数は等しく(F1=F2)、電圧の位相は同期しているものとする。
第2インバータの出力電圧E2が最大電圧E2Mに到達以後において、出力電圧E2が一定で、周波数F2のみが実速度Vに比例して増加する。電圧添加用変圧器の大きさは、第2インバータの出力電圧E2の最大電圧E2Mと、この最大電圧E2Mに到達した時点の速度V2M、即ち最大電圧における速度V2Mのときの最大周波数F2Mの比、つまりE2M/F2Mで決まる。前述した請求項1及び請求項2において、第2インバータの出力電圧E2は、その時の実速度Vではなく、実速度Vと第1インバータの最大電圧における速度V1Mの速度差に比例して変化する。
従って、電圧添加用変圧器の磁束密度は、最大電圧における速度V2Mで最大となる。第2インバータは以後、出力電圧E2が一定で、周波数F2のみが変化する。この最大電圧における速度V2M以上の速度域では弱め界磁領域であるので、電圧添加用変圧器において弱め界磁となり、磁束密度は低下する。最大電圧における速度V2M以下の速度域では、第2インバータの出力電圧E2を、その時の実速度Vではなく、実速度Vと第1インバータの出力電圧E1が最大電圧E1Mに到達した時点の速度V1Mとの速度差に比例して変更するようにしているので、速度V1Mにおいて、出力電圧E2=0であり、電圧添加用変圧器の磁束密度は零となる。
従って、この電圧添加用変圧器は、本来、E2/F=E2M/F2M=一定の条件で使用出来るが、非常に余裕のある条件で使用されていることになる。周波数F2の変化「零からF2M」に比例して、出力電圧E2を「零からE2M」に変化させる条件で使用可能である。別の見方をすれば、後述する請求項3の条件で使用可能なことを示唆している。
請求項3の鉄道車両の電力制御装置は、駆動用の三相誘導電動機と、走行時に架線の直流を三相交流に変換して誘導電動機に供給可能で且つブレーキ時に誘導電動機で生成した電力を直流に変換して架線に回生可能な可変電圧・可変周波数型の第1インバータと、第1インバータをPWM制御するインバータ制御手段とを備えた鉄道車両の電力制御装置において、前記架線に対して第1インバータと並列接続され且つ前記インバータ制御手段で制御される可変電圧・可変周波数型の第2インバータと、前記第1インバータの交流側電力線と誘導電動機の間に設けられた2次巻線と、第2インバータの交流側電力線に接続された1次巻線とを備え且つ少なくともブレーキ時に誘導電動機の誘起電圧の昇圧を可能とする為の電圧添加用変圧器とを有し、前記インバータ制御手段は、ブレーキ時及び加速時共、全速度域に亙って第1インバータと第2インバータを作動させることを特徴としている。
この請求項3のように、第1インバータと第2インバータとを同期させて、全速度域に亙って作動させるような制御方式を採用すれば、全く同じゲートパルス信号を第1インバータと第2インバータとに与えればよいので、1つのインバータ制御手段を設け、第1インバータと第2インバータを夫々作動させるゲート駆動回路を個別に設ければよい。それ故、インバータ制御手段の簡素化を図ることができる。
一方、VVVFインバータのPWM制御では、一般に、変調波である三角波と、120度の位相差を持つU相,V相,W相の正弦波との切り合い点を夫々求める。そして、各相に対応するように上下に夫々直列接続された2つのIGBTについて、各相の正弦波が三角波より大きい場合には、対応する相の上側のIGBTにゲートパルス信号を与える。また、各相の正弦波が三角波より小さい場合には、下側のIGBTにゲートパルス信号を与える。従って、VVVFインバータの出力端子の電位は、DCLINK電圧と零電圧の間を変化する矩形波電圧となる。
この場合、三角波との切り合い点が各相毎に異なるので、各相の出力端子には夫々異なる矩形波電圧が得られる。従って、3相誘導電動機のU相とV相端子間には、VVVFインバータのU相の矩形波とV相の矩形波との差の電圧が加わり、V−W端子間にはV相の矩形波とW相の矩形波との差の電圧が加わり、W−U端子間にはW相の矩形波とU相の矩形波との差の電圧が加わる。
速度が零の場合には、3相誘導電動機に要求される加速トルクを得るために必要なスリップ周波数に対応する周波数の電圧を加圧し、V/F一定で加速する。変調波の三角波は低速域におけるトルク脈動を避けるために、最初はkHzオーダーの非同期三角波を使用し、加速に応じて同期方式に切替え、9パルスモード→3パルスモード→1パルスモードに順次パルス数を減らして行く。
即ち、請求項3の場合には、請求項1、2のように、第1インバータと第2インバータとに異なったゲートパルス信号を与えるのではなく、走行を開始するときから、第1インバータと第2インバータとに全く同じゲートパルス信号を同時に与えれば良いことになる。
更に、請求項1,2においては、第1インバータの動作中において、電圧添加用変圧器による電圧降下が生じないように、第2インバータのゲートにパルス信号を与えて1次巻線短絡を行ない、巻線に短絡電流を流しておく必要があるのに対して、請求項3によれば、この様な短絡制御の必要が無くなり、合理的なブレーキ制御及び力行制御が可能になる。それ故、回生時に関する第1インバータの出力電圧E1と第2インバータの出力電圧E2は、実施例に係る図6に示すようになり、また力行時の第1インバータの出力電圧E1と第2インバータの出力電圧E2は実施例に係る図5に示すようになる。
請求項4の鉄道車両の電力制御装置は、駆動用の三相誘導電動機と、走行時に架線の直流を三相交流に変換して誘導電動機に供給可能で且つブレーキ時に誘導電動機で生成した電力を直流に変換して架線に回生可能な可変電圧・可変周波数型のインバータと、インバータをPWM制御するインバータ制御手段とを備えた鉄道車両の電力制御装置において、前記インバータの交流側電力線にY接続された変圧器1次巻線を前記2次巻線と誘導電動機と並列に接続し且つ少なくともブレーキ時に誘導電動機の誘起電圧の昇圧を可能とする為の電圧添加用変圧器を備えたことを特徴としている。
この電力制御装置においては、実施例の図7に示すように、電圧添加用変圧器を接続し、電動機電圧をインバータ電圧よりも昇圧させると、電圧を上げた分だけ電動機のV/F一定領域を拡げることができる。インバータの電流と電動機電流の関係は、インバータ電圧と電動機電圧の逆比となる。インバータは図11の最大電流を流す能力があるので、全速度域における回生時に上記の最大電流に維持するように変圧器の巻線比を設定すると、例えば図8に示す特性とすることができる。
一定トルク領域が僅かながら広がり、電動機電圧を昇圧した分、停動トルクの制約を受けない速度域が広がる。図11では、高速域でのトルクが電動機の停動トルクの影響を受けるので、速度に対して大幅に低下しているが、図8の特性では、停動トルクの影響を受けない領域が広がり、電力一定領域が拡がるので、高速域のトルクが図11と比較して低下が少なくなり、高速域のブレーキ特性を改善できる。
請求項1の発明によれば、この鉄道車両の電力制御装置が、駆動用の三相誘導電動機と、可変電圧・可変周波数型の第1インバータと、インバータ制御手段とを備えている。前記架線に対して第1インバータと並列接続された可変電圧・可変周波数型の第2インバータと、第1インバータの交流側電力線と電動機との間の2次巻線と、第2インバータの交流側電力線に接続された1次巻線とを備え且つ少なくともブレーキ時に電動機の誘起電圧の昇圧を可能とする為の電圧添加用変圧器とを設け、インバータ制御手段は、ブレーキ時に高速域から所定速度に減速するまでは、第1,第2インバータを作動させる。
従って、高速側から所定速度に減速するまで第2インバータを作動させ、電圧添加用変圧器を介して誘導電動機の誘起電圧の昇圧を可能にすることが出来るので、ブレーキトルク一定で、回生電力を増加させることができる。それ故、鉄道車両の高速域のブレーキ時における誘導電動機のブレーキトルクを一定に保持できるため、このブレーキトルクを一定に維持した状態で回生ブレーキを作用させることができ、ブレーキ性能を格段に高めることができる。
第2インバータを作動させて誘導電動機の誘起電圧の昇圧を可能とすることから、架線に回生する電力の回生率または回収率を大幅に向上させることができる。この場合、第2インバータは特殊な高電圧大容量のスイッチング素子を使用した高価なインバータでなくてもよく、安価に構成することができる。
このように改善されたブレーキトルク特性により、ブレーキ性能が改善されるので、鉄道車両の全速度域において、ダイナミックブレーキや機械式ブレーキを使用することなく、回生ブレーキを効果的に作用させることができる為、ブレーキ時における省エネを発揮できる理想の鉄道車両を実現させることができる。
しかも、インバータ制御手段は、所定速度以下の速度域で減速する際には第1インバータのみを作動させるのと同時に、第2インバータで電圧添加用変圧器の1次巻線を短絡することにより変圧器による電圧降下を生じさせないようにするので、第1インバータによるブレーキ動作に何ら悪影響を及ぼすことがない。
請求項2の発明によれば、前記インバータ制御手段は力行時に所定速度に加速するまでは、第1インバータのみを作動させるのと同時に、第2インバータで電圧添加用変圧器の1次巻線を短絡することにより変圧器による電圧降下を生じさせないようにするので、第1インバータによる良好な加速性に何ら悪影響を及ぼすことがない。そして、インバータ制御手段は所定速度以上で加速する際には第1,第2インバータを作動させるので、誘導電動機に供給される電圧を、第2インバータと変圧器を作動させる分だけ増大させることができ、加速性を格段に向上させることができる。その他請求項1と同様の効果を奏する。
請求項3の発明によれば、インバータ制御手段は、ブレーキ時及び力行時共、全速度域に亙って第1インバータと第2インバータを作動させるため、請求項1、2のように、第1インバータと第2インバータとに異なったゲートパルス信号を与えるのではなく、走行を開始するときから、第1インバータと第2インバータとに全く同じゲートパルス信号を同時に与えれば良いことになる。
更に、請求項1,2では、第1インバータの動作中において、電圧添加用変圧器の電圧降下が生じないように、第2インバータのゲートにパルス信号を与えて巻線短絡を行ない、巻線に短絡電流を流しておく必要があるのに対して、請求項3によれば、この様な短絡の必要が無くなり、合理的なブレーキ制御及び力行制御が可能になる。
しかも、前記のように、3相誘導電動機側から見ると、恰も1.4倍の駆動電圧が供給され、1.4倍の耐圧を有する半導体素子で構成された単一のVVVFインバータで駆動される電力制御装置と等価と見做すことができる。
請求項4の発明によれば、インバータの電圧、電流容量を最大限使用して、回生領域を拡げるために、インバータと電動機の間に電圧添加用変圧器を挿入し、巻線比分電動機電圧を上げている。電動機電流はインバータ電流に対して、変圧器の逆比で決まりインバータ電流より少ない電流が流れる。
これにより、ブレーキ時に電動機電圧をインバータ電圧よりも昇圧させ、V/F一定領域を拡げることができ、電動機電圧を昇圧した分、停動トルクの制約を受けない電力一定領域を拡げることでき、高速域におけるトルクを高め、高速域におけるブレーキ特性を改善することができる。また、電流が減少した分、力行時の加速トルクが低下するけれども、V/F一定領域が拡がり、従来方式では加速トルクが減少する領域においても、加速度一定に維持できるので力行の加速性能は影響を受けない。
この実施例の鉄道車両の電力制御装置は、誘導電動機に3相交流を供給可能な可変電圧・可変周波数型の主インバータに加えて、可変電圧・可変周波数型の副インバータを架線に対して主インバータと並列接続し、電圧添加用変圧器の1次巻線を副インバータに接続し且つ2次巻線を主インバータに接続し、その2次巻線電圧を主インバータの出力電圧に直列に添加して、鉄道車両の高速域でのブレーキトルクや回生電力の回収率を向上でき、しかも高速域の加速性を向上できるように構成してある。
図1に示すように、鉄道車両である電動車2は、図示外の変電所から架線1に給電される直流をパンタグラフ3で集電し、高速遮断器5と高周波成分を阻止するフィルタリアクトル6を介してDCLINK(給電ライン)4に供給し、VVVF制御(可変電圧可変周波数制御)が可能な第1インバータに相当する主インバータ7により、V(電圧)/F(周波数)一定の3相交流に変換するようになっている。そして、3相交流用の誘導電動機10は主インバータ7から供給される3相交流の電圧と周波数により、誘導電動機10の負荷に対応した滑りを持った回転周波数で駆動され、電動車2は力行やブレーキが可能に構成されている。
次に、力行時に誘導電動機10の駆動力を制御し且つブレーキ時に誘導電動機10を減速することにより生成した電力を架線1に回生する電力制御装置18について説明する。
図1に示すように、電力制御装置18は、主インバータ7と、第2インバータに相当する副インバータ8と、主インバータ7の出力電圧に副インバータ8の出力電圧を添加する電圧添加用の3相変圧器9と、架線電圧を検出する第1電圧検出器12と、DCLINK4に供給されるDCLINK電圧を検出する第2電圧検出器13と、主インバータ7の交流側電力線L1,L2の電流を検出するU1,V1電流検出器14,15と、副インバータ8の交流側電力線L4,L5の電流を検出するU2,V2電流検出器16,17と、主及び副インバータ7,8を夫々PWM制御するインバータ制御装置11(これがインバータ制御手段に相当する)等を備えている。
主インバータ7は、6つのスイッチング素子S1〜S6をブリッジ状に接続した可変電圧・可変周波数型の一般的なVVVFインバータであるので、その詳しい説明を省略する。また、副インバータ8は主インバータ7と同様に、6つのスイッチング素子S11〜S16をブリッジ状に接続した構成のインバータであるため、その詳しい説明を省略する。これらスイッチング素子S1〜S6、S11〜S16は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)からなっている。また、各スイッチング素子S1〜S6、S11〜S16の各々には、還流ダイオードが夫々接続されている。
主インバータ7の直流側入力線7AはDCLINK4に接続されるとともに、副インバータ8の直流側入力線8AもDCLINK4に接続されている。副インバータ8は架線1に対して主インバータ7と並列接続されている。図1に示すように、電圧添加用の3相変圧器9は、主インバータ7と誘導電動機10の間に設けられている。
主インバータ7の交流側電力線L1〜L3は電圧添加用変圧器9の2次巻線Ua,Va,Waの左側端子に夫々接続され、電圧添加用変圧器9の2次巻線Ua,Va,Waの右側端子に誘導電動機10の電力線L7〜L9が夫々接続されている。副インバータ8の交流側電力線L4〜L6は電圧添加用変圧器9の1次巻線Ub,Vb,Wbの左側端子に夫々接続され、電圧添加用変圧器9の1次巻線Ub,Vb,Wbの右側端子はスター結線されている。このように、副インバータ8の交流側電力線L4〜L6と誘導電動機10とは、3相変圧器9の1次巻線Ub,Vb,Wbと2次巻線Ua,Va,Waを介して磁気的に結合されている。
インバータ制御装置11は、入出力インターフェイスとマイクロコンピュータを有し、図示外の車速センサからの速度情報と、第1,第2電圧検出器12,13の電圧情報と、主インバータ7用のU1,V1電流検出器14,15の電流情報及び副インバータ8用のU2,V2電流検出器16,17の電流情報を受け、運転士により操作されたマスターコントローラの運転操作又はブレーキ操作に基づいて、主インバータ7の各スイッチング素子S1〜S6と、副インバータ8の各スイッチング素子S11〜S16とを、運転状態に応じて夫々PWM制御する。
次に、このように構成された電力制御装置18の作動について説明する。
先ず、説明の都合上、運転士によりマスターコントローラが操作され、力行指令が与えられ、電動車2が加速する力行時の作動について、図2に基づいて説明する。但し、図2において、電動機のトルク、電力、電流、電圧は、従来方式における力行時(図10参照)の最大値を100%として表してある。
図2において、電動車2の車速が所定速度に相当する約50km/hに達するまでは、図10に基づいて従来技術の欄で説明したように、インバータ制御装置11により主インバータ7のみが作動するように制御される。この場合、インバータ制御装置11は、使用しない副インバータ8の各スイッチング素子S11〜S16を制御して、電圧添加用変圧器9の1次巻線(Ub,Vb,Wb)を短絡させる。これにより、電圧添加用変圧器9の2次巻線(Ua,Va,Wa)の電圧降下が生じないので、主インバータ7による加速に悪影響を及ぼさないようになっている。
即ち、車速が所定速度の約50km/hに達するまでの速度域では、従来と同様に、誘導電動機10の3つの電機子コイルにおいて、電流一定で、電圧は電圧/周波数を一定として徐々に増加するため、トルク一定(約100%)で、電力は電圧の上昇と共に増加する。速度50km/hで1パルスモードとなり、以後において主インバータ7は電圧一定で、周波数だけが変えられる。
しかし、インバータ制御装置11は、電動車2の車速を所定速度以上に加速する為に、主インバータ7に加えて、副インバータ8を3パルスモードにより同時に作動するように制御する。次に、電動車2の高速域の作動について、図4を参照しながら説明する。
図4の最上段に、主インバータ7用にインバータ制御装置11で発生された1パルスモードの第1正弦被変調波(UA相,VA相,WA相)と、副インバータ8用にインバータ制御装置11で発生された3パルスモードの第2正弦被変調波(UB相,VB相,WB相)と、同期3パルスモード用の三角形の変調波CWが示されている。
それ故、UA相,VA相,WA相の各第1正弦被変調波は同期3パルスモード用の変調波CWとの交点が無いので1パルスとなる。第2正弦被変調波の振幅は副インバータ8が3パルスのパルス幅制御状態にあるので、第1正弦被変調波の振幅より小さく、第2正弦被変調波(UB相,VB相,WB相)は変調波CWと複数箇所で交差するようになっている。そこで、インバータ制御装置11により、主インバータ7の各スイッチング素子S1〜S6が第1正弦被変調波と変調波CWの交点に応じてPWM制御されるとともに、副インバータ8の各スイッチング素子S11〜S16が第2正弦被変調波と変調波CWの交点に応じてPWM制御される。
それ故、主インバータ7の各接続点U1a,V1a,W1aの電位は、図4に示す180°幅の矩形波電圧が出力される。そこで、主インバータ7の接続点U1a−V1a間、接続点V1a−W1a間、接続点W1a−U1a間には、夫々の接続点における差電位が与えられ、図示の120°幅の矩形波電圧が出力される。更に、主インバータ7からの出力点(U1相,V1相,W1相)電位と、スター接続された仮想負荷の中性点間の差電位であるU1相電圧,V1相電圧,W1相電圧が図示のように出力される。
一方、副インバータ8の接続点U2a,V2a,W2aにおける電位は、図4に示す矩形波2パルス列で示される。この副インバータ8の波形と主インバータ7の波形を比較すると、主インバータ7は矩形波1パルスで、この中間部が零電位でこの部分は、変調波CWと各相の被変調波の切り合いに関連する。副インバータ8の出力電圧を上げる方向に制御すれば零電位幅は減少し、最終的に零電位幅は零となり、第1インバータと一致し、120°幅の1パルス波形となる。
そこで、副インバータ8の接続点U2a−V2a間、接続点V2a−W2a間、接続点W2a−U2a間には、図示の矩形波電圧が夫々出力される。更に、副インバータ8からの出力点(U2相,V2相,W2相)電圧と、電圧添加用変圧器9の1次巻線中性点間の差電位であるU2相電圧,V2相電圧,W2相電圧が図示のように出力される。
副インバータ8の相電圧は電圧添加用変圧器9を介してその2次巻線(Ua,Va,Wa)に巻線比でステップダウンされた電圧が(ここでは、2次/1次=0.4)出力され、主インバータ7の相電圧に加算され、誘導電動機10のU相電圧と、V相電圧と、W相電圧とが夫々得られる。そして、最終的に、図4の最下段に示すように、誘導電動機10のU相−V相端子間電圧、V相−W相端子間電圧、W相−U相端子間電圧が得られる。
ところで、図4に示すように、これら誘導電動機10のU相−V相端子間、V相−W相端子間、W相−U相端子間には、主インバータ7により誘導電動機10に供給される本来の端子間電圧に、副インバータ8により供給される電圧の40%が加算された端子間電圧が加圧される。図4において、その重畳電圧の振幅を「加算電圧λE」として記載する。この場合、主インバータ7に対して加算される副インバータ8の割合は、電圧添加用変圧器9の巻線比(2次巻線/1次巻線)をλとし、主インバータ相電圧をEとすれば、副インバータ8による加算電圧は加速制御の最終段階、即ち1パルスの状態でλEとなる。
それ故、電動車2が所定速度以上の高速域においては、電圧添加用変圧器の巻線比λ=0.4とすれば、誘導電動機10に供給される電圧を、主インバータ7による供給電圧(図2の出力電圧E1:100%)に対して最大40%(図2の出力電圧E2:40%)だけ増大させることができる。
このように、図2に示すように、電動車2の車速が所定速度50km/h以上約70km/hまでの高速域、つまり「電圧V/周波数F一定」の加速領域が、副インバータ8による加算電圧可能な範囲において、電圧特性及び電力特性が直線状に延びている。その為、電動機トルクを一定とするトルク特性が高速域に及ぶようになり、加速性を向上することができる。
但し、この場合、電圧の増加分(重畳分λE)が「約40%」であるので、別の見方をすれば、所定速度までの到達時間が決められている場合に、定トルク域が高速まで延びた場合、到達時間は短縮される。そこで、到達時間が同じで良いのであれば、時間が短縮された分、加速トルク、つまり電動機電流を減らして良いことになる。
次に、電動車2が、例えば約100km/hの高速域において、ブレーキ操作された場合の回生ブレーキ作動について説明する。但し、図3において、電動機のトルク、電力、電流、電圧は、従来方式力行時の最大値を100%として表してある。
図3の内容について補足説明すると、主インバータ7の最大電圧E1Mは110%、副インバータ8の最大電圧に対応する速度V2M点における値は40%、従ってV2M点における主,副インバータ7,8の夫々の最大電圧の和、最大電圧E2Mは150%となる。電力はV2M点以上の高速域においても、電流に余裕があるので電流が100%に到達するまでは直線的に延長可能で、高速域から100%一定の回生ブレーキ力が期待出来ることを示している。
この場合、前述したように、電動車2が高速域においては、インバータ制御装置11により主インバータ7は1パルスで周波数制御され、副インバータ8がPWM制御されている。この両インバータ7,8の制御においては、インバータ制御装置11は、誘導電動機10の電圧及び電流情報、速度情報、第1電圧検出器12で検出された架線電圧情報、第2電圧検出器13により検出されたDCLINK4の電圧情報を受け、マスコンからの減速度指令に基づいて、インバータ制御装置11のコンピュータにより演算された実際の減速度が一致するように、必要なゲートパルス信号を主,副インバータ7,8に対して出力する。
そこで、このように回生ブレーキ操作されたブレーキ時にも同様に、車速が所定速度に減速されるまで、インバータ制御装置11は、マスコンからの減速度指令と、第1,第2電圧検出器12,13からの電圧情報、U1,V1電流検出器14,15からの電流情報、U2,V2電流検出器16,17からの電流情報に基づいて演算した実際の減速度とが一致するように、必要なゲートパルス信号を主,副インバータ7、8に対して出力する。
但し、副インバータ8は、車速が約100km/hの高速域から所定速度まで減速するのに応じて、パルスモードが力行とは逆に1パルス、3パルス、9パルスから徐々に変更されて、そのパルス幅が100%から零になるように制御される。
回生ブレーキに入る前の条件としては、(a)力行、(b)惰行(励磁あり)、(c)惰行(励磁なし)の3ケースが考えられる。
ケース(a),(b)では主,副インバータ7,8が動作中で電動機10の回転磁界は既に存在している。
ケース(c)では主,副インバータ7,8は作動していないので、電動機10の回転磁界は存在していない。この場合、先ず回転周波数に等しい周波数で主,副インバータ7,8を立ち上げ、電動機10に電圧を加え、励磁電流を流し、回転磁界を発生させる必要がある。
それ故、主,副インバータ7,8により電動機10に回転周波数の電圧を加え励磁電流を流し、回転周波数の回転磁界を発生させる。
ブレーキ指令が与えられ、インバータ周波数が回転子の回転周波数より下げられると、磁界回転周波数<回転子回転周波数となり、誘導電動機10の回転子コイルに両者の差周波数の電圧が誘起される。この誘起電圧により回転子にその抵抗分により制限される電流が流れ、電動機電機子と回転子の間の空隙に回転磁界を発生させる。この回転磁界を打ち消すように電機子に電流が流れ、これにより回転子にブレーキトルクが発生すると同時に電機子電流は、主インバータ7と直列に挿入された電圧添加用変圧器9の2次巻線、主インバータを通して、一部は電圧添加用変圧器9の2次巻線、1次巻線、副インバータ8を通して架線1に回生される。
最高速度における副インバータ8の電圧分担はDCLINK4の電圧に対して、変圧器9の巻線比(Ua巻数/Ub巻数、本実施例では0.4)に対応した値で、速度の低下と共に、先ず副インバータ8を制御して分担電圧を零まで下げ、その後、主インバータ7側により速度零まで制御される。
このことは、図9の従来技術で説明したように、主インバータ7の回生時においては、誘導電動機10は「約110%」の電圧を誘起した。これに対して、本案の回生時においては、副インバータ8が主インバータ7と同時に作動することにより、図4の最下段に示すように、誘導電動機10のU相−V相端子間、V相−W相端子間、W相−U相端子間の各々には、主インバータ7の出力電圧(図3の出力電圧E1:110%)に副インバータ8の出力電圧が電圧添加用変圧器9の2次巻線による「加算電圧λE(図3の出力電圧E2:40%)」が重畳された、より高い電圧、つまり「約150%」もの大きな電圧を加圧することが出来る。従って、誘導電動機10の電機子コイルには、この約150%もの大きな電圧が誘起されるようになる。
それ故、図3に示すように、ブレーキトルクが約100%でほぼ一定で、電力を約200%のほぼ最大限まで増加させることができる。その結果、車速が約100km/hの高速域における回生ブレーキトルクを約100%で一定に保持できるため、回生によるフルブレーキを全速度域において使用可能となる。
また、電圧添加用変圧器9の巻線比(変圧比)がλであるので、主インバータ7に流れる電流をIとすれば、副インバータ8に流れる電流はλIの電流容量でよく、副インバータ8は高電圧且つ大容量のスイッチング素子で構成する必要がなく、副インバータ8の製作コストの低減、省エネが期待され、且つ主インバータ7については経済的に有利な従来と同様のインバータを使用することができる。
加えて、このように改善されたトルク特性により、回生ブレーキ性能が改善されたので、電動車2の全速度域に亙って、機械式ブレーキを使用することなく、回生ブレーキを効果的に作用させることができるため、回生ブレーキ使用時における省エネを発揮できる理想の電動車2を実現させることができる。更に、機械式ブレーキの使用頻度や使用時間が格段に少なくなり、メンテナンス作業が簡単化する。
その後、所定速度以下に減速され、副インバータ8による電圧分担が零になると、図3に示すように、従来と同様に、インバータ制御装置11により主インバータ7のみが所定の回生制御パターンによりPWM制御され、走行速度が徐々に減速する。このとき、インバータ制御装置11は、使用しない副インバータ8の各スイッチング素子S11〜S16を制御して、電圧添加用変圧器9の1次巻線(Ub,Vb,Wb)を短絡させる。
これにより、電圧添加用変圧器9の2次巻線(Ua,Va,Wa)の電圧降下が生じないので、主インバータ7によるブレーキ動作に悪影響を及ぼさないようになっている。その後、主インバータ7のパルスモードが力行とは逆に同期1パルス、3パルス、9パルスから非同期へと徐々に変更されて、そのパルス幅が100%から零になるように減速に応じて制御される。但し、電動車2の速度が、例えば5km/h以下の極低速に減速された以降においては、機械式ブレーキに切換える。
このように、駆動用の三相誘導電動機10と、可変電圧・可変周波数型の主インバータ7と、電圧添加用変圧器9の2次巻線(Ua,Va,Wa)と、インバータ制御装置11とを備え、可変電圧・可変周波数型の副インバータ8と、電圧添加用変圧器9の1次巻線(Ub,Vb,Wb)とを備え、インバータ制御装置11は、ブレーキ時に高速域から所定速度に減速するまでは、主,副インバータ7,8を作動させるので、高速域から所定速度に減速するまで副インバータ8を作動させた増加分(λEである約40%)だけ電動機誘起電圧が高くなり、ブレーキトルク一定で、回生電力を増加させることができる。それ故、電動車2の高速域のブレーキ時における誘導電動機10のブレーキトルクを一定に保持できる為、このブレーキトルクを一定に維持した状態で回生ブレーキを作用させることができ、ブレーキ性能を格段に高めることができる。
また、副インバータ8を作動させた電圧増加分(約40%)だけ誘導電動機10の誘起電圧が高くなることから、架線1に回生する電動車2の運動エネルギーの回生率または回収率を大幅に向上させることができる。この場合、副インバータ8は特殊な高電圧且つ大容量のスイッチング素子を使用した高価なインバータでなくてもよく、安価に構成することができる。
更に、このように改善されたブレーキトルク特性により、ブレーキ性能が改善されるので、電動車2の極低速まで、機械式ブレーキを使用することなく、回生ブレーキを効果的に作用させることができるため、省エネ且つ経済的なインバータを実現することできるとともに、回生時における省エネを発揮できる理想の電動車2を実現させることができる。
また、インバータ制御装置11は加速時に主インバータ7出力電圧が最大値になるまでは、主インバータ7のみを作動させるのと同時に、副インバータ8を制御して電圧添加用変圧器の1次巻線を短絡することにより2次巻線による電圧降下を生じさせないようにするので、主インバータ7による良好な加速性に何ら悪影響を及ぼすことがない。
一方、加速時における高速域においては、副インバータ8を作動させる分だけ誘導電動機10に供給される電圧が約40%も高くなり、電圧特性及び電力特性が改善され、電動機トルクを一定とする電動機トルク特性が高速域に及ぶようになり、加速性を格段に向上させることができる。
別の見方をすれば、同じ速度までの加速時間が同じで良いとするのであれば、副インバータ8の使用による高速域の加速トルクが大となるので設定の速度に到達するまでの加速時間が短くなる、従ってこの分加速トルク即ち電動機電流、インバータ電流を減らして良いことになる。
次に、前記実施例を部分的に変更した変更形態について説明する。
1)第1変更形態:電圧添加用変圧器9の2次巻線/1次巻線の巻線比λは、0.4に限るものではなく、所望の割合の巻線数を用いるようにしてもよい。
2)第2変更形態:ブレーキ時、加速時における所定速度は、50km/hに限るものではなく、副インバータ8の動作特性や電圧添加用変圧器9の構成に応じて、適宜変更することが可能である。
3)第3変更形態:主、副インバータ7,8を所定速度を境にして、低速域は主インバータ7、高速域は副インバータ8と分ける必要はなく、両インバータ7,8を関連させて、全速度域に亘って同時に作動させる方法を採用しても良い。
ところで、主インバータ7の出力電圧E1は、零から最大電圧E1M(図2の力行時においては「約100%」、図3の回生時においては「約110%」)まで速度に比例して増加する。主インバータ7の出力電圧E1が最大電圧E1Mに到達した時点の速度をV1Mとし、周波数をF1Mとする。主インバータ7は以後、出力電圧E1が一定で、周波数F1のみが変化する。この時点から、副インバータ8が動作を開始し、副インバータ8の出力電圧E2は、実速度Vと主インバータの最大電圧E1Mに到達した時点の速度V1Mとの速度差に比例して増加する。
副インバータ8の出力電圧E2が最大電圧E2Mに到達以後において、出力電圧E2が一定で、周波数F2のみが速度V2に比例して増加する。電圧添加用変圧器9の大きさは、副インバータ8の出力電圧E2の最大電圧E2Mと、この最大電圧E2Mに到達した時点の速度V2M、即ち最大電圧における速度V2Mのときの最大周波数F2Mの比、つまりE2M/F2Mで決まる。前述した請求項1及び請求項2において、副インバータ8の出力電圧E2は、その時の実速度Vではなく、実速度Vと主インバータ7の最大電圧における速度V1Mの速度差に比例して変化する。
従って、電圧添加用変圧器9の磁束密度は、副インバータ8の最大電圧における速度V2Mで最大となる。この速度V2Mより高速域では弱め界磁領域であるので、電圧添加用変圧器9においては、磁束密度は低下する。最大電圧における速度V2Mより低速域では、副インバータ8の出力電圧E2を、その時の実速度Vではなく、実速度Vと主インバータ7の最大電圧における速度V1Mとの速度差に比例して変更するようにしているので、速度V1Mにおいて、出力電圧E2=0であり、電圧添加用変圧器の磁束密度は零となる。
従って、この電圧添加用変圧器9は、本来、E2/F=E2M/F2M=一定の条件で使用出来るが、非常に余裕のある条件で使用されていることになる。周波数F2の変化「零からF2M」に比例して、出力電圧E2を「零からE2M」に変化させる条件で使用可能である。別の見方をすれば、後述する請求項3の条件(第4変更形態)で使用可能なことを示唆している。
4)第4変更形態:インバータ制御装置11は、ブレーキ時及び力行時共、全速度域に亙って主インバータ7と副インバータ8を同時に作動させるようにしてもよい。ここで、加速制御を行なう場合の主インバータ7の出力電圧E1と副インバータ8の出力電圧E2を図5に夫々示し、回生制御を行なう場合の主インバータ7の出力電圧E1と副インバータ8の出力電圧E2を図6に夫々示す。
この第4変更形態のように、主インバータ7と副インバータ8とを同期させて、全速度域に亙って作動させるような制御方式を採用すれば、全く同じゲートパルス信号を主インバータ7と副インバータ8とに与えればよいので、1つのインバータ制御手段を設け、主インバータ7と副インバータ8を夫々作動させるゲート駆動回路を個別に設ければよい。それ故、インバータ制御手段の簡素化を図ることができる。
一方、VVVFインバータのPWM制御では、一般に、変調波である三角波と、120度の位相差を持つU相,V相,W相の正弦波との切り合い点を夫々求める。そして、各相に対応するように上下に夫々直列接続された2つのIGBTについて、各相の正弦波が三角波より大きい場合には、対応する相の上側のIGBTにゲートパルス信号を与える。また、各相の正弦波が三角波より小さい場合には、下側のIGBTにゲートパルス信号を与える。従って、VVVFインバータの出力端子の電位は、DCLINK4の電圧と零電圧の間を変化する矩形波電圧となる。
この場合、三角波との切り合い点が各相毎に異なるので、各相の出力端子には夫々異なる矩形波電圧が得られる。従って、3相誘導電動機10のU相とV相のU−V端子間には、VVVFインバータのU相の矩形波とV相の矩形波との差の電圧が加わり、V−W端子間にはV相の矩形波とW相の矩形波との差の電圧が加わり、W−U端子間にはW相の矩形波とU相の矩形波との差の電圧が加わる。
速度が零の場合には、3相誘導電動機10に要求される加速トルクを得るのに必要なスリップ周波数に対応する周波数の電圧を加圧し、V/F一定で加速する。変調波の三角波は低速域におけるトルク脈動を避けるために、最初はkHzオーダーの非同期三角波を使用し、加速に応じて同期方式に切替え、9パルスモード→3パルスモード→1パルスモードに順次パルス数を減らして行く。
即ち、回生時及び力行時共、全速度域に亙って主インバータ7と副インバータ8を同時に作動させる場合には、前述した実施例のように、主インバータ7と副インバータ8とに異なったゲートパルス信号を与えるのではなく、走行を開始するときから、主インバータ7と副インバータ8とに全く同じゲートパルス信号を同時に与えれば良いことになる。
更に、前記の実施例においては、主インバータ7の動作中において、電圧添加用変圧器9の電圧降下が生じないように、副インバータ8のゲートにパルス信号を与えて巻線短絡を行ない、巻線に短絡電流を流しておく必要があるのに対して、この第4変更形態によれば、短絡制御の必要が無くなり、合理的なブレーキ制御及び力行制御が可能になる。それ故、回生時に関する主インバータ7の出力電圧E1と副インバータ8の出力電圧E2は図6に示すようになり、また力行時に関する主インバータ7の出力電圧E1と副インバータ8の出力電圧E2は図5に示すようになる。
また、3相誘導電動機10側から見ると、恰も電源電圧が1.4倍の駆動電圧が供給され、1.4倍の耐圧を有する半導体素子で構成された単一のVVVFインバータで駆動される電力制御装置と等価に構成することができる。
次に、本発明の実施例2について、図7,図8に基づいて説明する。
図7に示すように、この鉄道車両の電力制御装置18Aは、前記実施例の電力制御装置18における副インバータ8と、電流検出器16,17を省略すると共に、電圧添加用変圧器9Aの1次巻線Ub,Vb,Wbの接続部位を変更したものであるので、前記実施例と同様の構成要素については同一符号を付して説明を省略し、異なる構成についてのみ説明する。
前記電圧添加用変圧器9AのY接続された1次巻線Ub,Vb,Wbの端部は、前述の実施例1の主インバータ7と同一のインバータ70の交流側電力線L1,L2,L3のうちの2次巻線Ua,Va,Waよりもインバータ70側の部分に夫々接続されて、前記2次巻線Ua,Va,Waと誘導電動機10と並列に接続されている。電圧添加用変圧器9Aは、1次巻線Ub,Vb,Wbと2次巻線Ua,Va,Waとを備え、少なくともブレーキ時(回生時)に誘導電動機10の誘起電圧の昇圧を可能にすることが出来る。
図7の電圧添加用変圧器9Aは、図7−1に示す単巻変圧器と同等のものであり、この単巻変圧器に基づいて説明する。電圧添加用変圧器9Aの3相の巻線はY接続され、変圧器9Aの中間タップは、インバータ70の交流側電力線L1,L2,L3に接続され、電動機10の電力線L7,L8,L9は、電圧添加用変圧器9Aの出力端子に接続され、電動機電圧を(Ua巻数+Ub巻数)/Ub巻数の巻線比(本実施例の場合、1.4)で昇圧させる。
尚、インバータ制御装置11によりインバータ70を制御する制御方式は、他の実施例と同様である。
この電力制御装置18Aにおいては、図7に示すように電圧添加用変圧器9Aを接続し、回生時に電動機電圧をインバータ電圧よりも昇圧させると、電圧を上げた分だけV/F一定領域を拡げることができる。インバータ70の電流と電動機電流の関係は、インバータ電圧と電動機電圧の逆比となる。インバータは図11の電動機電流の最大電流(従来技術では、電圧添加用変圧器9Aがないので電動機電流=インバータ電流である)を流す能力があるので、全速度域における回生時に上記の最大電流に維持するように電圧添加用変圧器9の巻線比を設定すると、例えば図8に示す特性とすることができる。尚、巻線比は、2次/1次=0.4に設定してもよいが、これに限定されるものではない。
一定トルク領域が僅かながら広がり、電動機電圧を昇圧した分、停動トルクの制約を受けない速度域が広がる。従来技術に係る図11では、高速域でのトルクが電動機10の停動トルクの影響を受けるので速度に対して大幅に低下しているが、図8に示す本実施例の特性では、停動トルクの影響を受けない領域が広がり、一定電力領域が使用できるので、高速域のトルクが図11と比較して低下が少なくなり、高速域のブレーキ特性を改善できる。
この電力制御装置18Aによれば、インバータ70の交流側電力線L1,L2,L3と誘導電動機10の間に、前記のような電圧添加用変圧器9Aを設けたので、少なくとも回生時に電動機電圧10をインバータ電圧よりも昇圧させ、V/F一定領域を拡げることができる。電動機電圧を昇圧した分、停動トルクの制約を受けない領域を拡げることでき、高速域におけるトルクを高め、高速域におけるブレーキ特性を改善することができる。
即ち、上記の単巻変圧器である電圧添加用変圧器9Aの中間タップにインバータ70の3相出力電圧を加えれば、電圧添加用変圧器9Aの出力端子には巻線比倍された電圧が誘起し、この電圧が電動機10の端子電圧となる。無励磁での惰行状態にある場合、回転周波数と等しい周波数の3相交流電圧をインバータ70により電動機10に加えれば電機子巻線に励磁電流が流れ、回転磁界を発生する。
インバータ周波数が電動機10の回転周波数に等しい場合、電動機10の回転子とインバータ70により電動機10の電機子と回転子の間の空隙に発生する回転磁界の回転速度が等しく、回転子と回転磁界の相対速度が零で、回転子巻線を磁束が切ることはないので、巻線に電圧(速度電圧)は誘起せず、電動機10に加えられる電圧に対応した励磁電流のみ流れる。
回生指令がある場合は、インバータ70の周波数は回転子の回転周波数より低い値に設定される、回転子巻線はインバータ周波数と回転周波数の差の周波数で切られ、巻線には周波数差(滑り周波数、回生時には滑り<0、力行時には滑り>0)に比例した電圧を誘起し、回転子の巻線(2次巻線)に電流が流れる。この電流と空隙の磁界の間に力が働き、回転を下げる(ブレーキ力)方向に作用する。
同時に、この電流により空隙に磁界を発生、電機子巻線(1次巻線)にはこの磁界を打ち消す方向に電流が流れる。この電流は、電動機10のトルクに関連する電流なので、トルク電流と呼ばれ、前述の励磁電流と区別される。電機子巻線に実際に流れる電流は、励磁電流とトルク電流の合成で、電動機に加えられる電圧に対して、トルク電流は同位相、励磁電流はπ/2(90度)遅れで、両者のベクトル合成で求められる。
力行の場合、インバータ周波数を回転周波数よりも大きくする(滑り>0)、回転子巻線には回生とは逆方向に電流がながれ、空隙の磁界との間に働く力も逆方向で回転を上げる方向の力(加速力)となる。電動機電流はインバータ電流に対して、電圧添加用変圧器9Aの逆比で決まりインバータ電流より少ない電流が流れる。電流が減少した分、力行時の加速トルクが低下するけれども、V/F一定領域が拡がり、従来方式では加速トルクが減少する領域においても、加速度一定に維持できるので力行の加速性能は影響を受けない。
尚、本発明は以上説明した実施例1,2に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施例1,2に種々の変更を付加して実施することができ、本発明はそれらの変更形態をも包含するものである。