JP4875252B2 - ポリシアノアリールエーテルおよびその製造方法 - Google Patents

ポリシアノアリールエーテルおよびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なポリシアノアリールエーテルおよびこの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、材料革命が全世界的な規模で進行しているが、プラスチックをはじめとする合成高分子材料がその中心を占め、その成形・加工性やコスト面からいまや金属材料や無機材料を凌駕している。
【0003】
このようなプラスチックは、一般的に、身の回りの日用品などに広く使われている汎用プラスチック;機械特性や耐熱性などの性能面で一段と優れた性能を有するエンジニアリングプラスチック;ならびにこのエンジニアリングプラスチックよりもう一段上の性能を有するスーパーエンジニアリングプラスチックに分類される。これらのうち、エンジニアリングプラスチックは、耐熱性(連続使用温度が約100℃以上)及び高機械特性(強度や弾性率など)を合わせ持つ高性能高分子材料であり、自動車、電子情報、精密機械などの産業分野に不可欠の材料として定着し、目覚しい発展を遂げつつあり、ポリアミド(ナイロン)、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル及び変性ポリフェニレンエーテルが五大エンジニアリングプラスチックと呼ばれている。
【0004】
また、スーパーエンジニアリングプラスチックは、耐熱性及び機械特性の面で在来のエンジニアリングプラスチックを上回る、より高度な性能を指向することを目的としたものであり、旧来の汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチックに次いで、電子情報、精密機械や宇宙航空などの広い産業分野における技術革新の担い手となる素材として、注目されている。
【0005】
このスーパーエンジニアリングプラスチックは、芳香族骨格からなる高分子を基本構造としており、これらに関連する材料として、アラミド(芳香族ポリアミド)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトンやポリエーテルイミドなどがあり、現在、続々と工業化されている。
【0006】
一方、芳香族ポリエーテルニトリル類(PEN)は、優れた耐熱性、耐加水分解性及び耐候性を有するスーパーエンジニアリングプラスチックとして期待される材料の一つである。この芳香族ポリエーテルニトリル類(PEN)は、上記特性に加えて、極性基であるシアノ基を有するため、ガラス繊維などとの接着性にも優れ、複合材料用マトリックスとして使用されている。しかしながら、現在製造されているPENは、可溶性に乏しいため、フィルムなどへの展開が困難であるという問題を抱えている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、優れた耐熱性、耐加水分解性及び耐候性を有する工業的に汎用性の高い新規なポリシアノアリールエーテルおよびこの製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、上記特性に加えて、可溶性が改善されたポリシアノアリールエーテルおよびこの製造方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題を克服するために鋭意検討を行なった結果、芳香族ポリエーテルニトリルにフッ素原子を導入することによって、主鎖間の凝集力が弱められ、これにより可溶性を付与できることを知得した。また、本発明者らは、このようにして得られたポリシアノアリールエーテルは低いC−F結合の分極率を有するため、上述の諸性能の向上に加え、透明性の向上や吸湿性の低下が期待でき、さらに、C−F結合の結合解離エネルギーがC−H結合より大きく、耐熱性や耐放射線性の向上も期待でき、ゆえに、フッ素原子を導入することにより、本来有している性能を損なうことなく、可溶性を付与することが可能であり、従来のPENに優る新しい高性能材料の開発が期待でき、加えて、フッ素原子を導入することによって、材料の誘電率を低減させることが可能であり、電子材料としての応用も期待できることをも知得した。
【0010】
上記知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、これらの諸目的は、下記(1)〜(8)により達成される。
【0012】
(1)下記式(1):
【0013】
【化4】
【0014】
ただし、R1は、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルチオ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールアミノ基または置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表わし;R2は、2価の有機基を表わし;ならびにnは重合度を表わす、
で示されるポリシアノアリールエーテル。
【0015】
(2)前記式(1)において、R1は置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基を表わす、上記(1)に記載のポリシアノアリールエーテル。
【0016】
(3)前記式(1)において、R1は置換基を有してもよいフェノキシを表わす、上記(2)に記載のポリシアノアリールエーテル。
【0017】
(4)前記式(1)において、R2は下記式:
【0018】
【化5】
【0019】
のいずれかを表わす、上記(1)〜(3)のいずれか一に記載のポリシアノアリールエーテル。
【0020】
(5)下記式(2):
【0021】
【化6】
【0022】
ただし、R1は、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルチオ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールアミノ基または置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表わす、
で示されるテトラフルオロベンゾニトリル誘導体を、下記式(3):
【0023】
【化7】
【0024】
ただし、R2は、2価の有機基を表わす、
で示されるジヒドロキシ化合物と塩基性触媒の存在下で重合することからなる、上記(1)または(2)に記載のポリシアノアリールエーテルの製造方法。
【0025】
(6)前記テトラフルオロベンゾニトリル誘導体とジヒドロキシ化合物との重合を200℃以下の温度で重合する、上記(5)に記載の方法。
【0026】
(7)前記塩基性触媒は炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムまたはフッ化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記(5)または(6)に記載の方法。
【0027】
(8)前記ジヒドロキシ化合物は下記式:
【0028】
【化8】
【0029】
のいずれかである、上記(5)〜(7)のいずれか一に記載の方法。
【0030】
【発明の実施の形態】
本発明のポリシアノアリールエーテルは、下記式(1):
【0031】
【化9】
【0032】
で示される新規な化合物である。
【0033】
上記式(1)において、R1は、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル及び2−エチルヘキシル、好ましくはメチル、エチル、プロピル及びブチル;置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシ、フルフリルオキシ及びアリルオキシ、好ましくはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ及びブトキシ;置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、プロピルアミノ、n−ブチルアミノ、sec−ブチルアミノ及びtert−ブチルアミノ、好ましくはメチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ及びジエチルアミノ;置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ及びn−ブチルチオ、sec−ブチルチオ、tert−ブチルチオ及びiso−プロピルチオ、好ましくは、メチルチオ、エチルチオ及びプロピルチオ;置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基、例えば、フェニル、ベンジル、フェネチル、o−,m−若しくはp−トリル、2,3−若しくは2,4−キシリル、メシチル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、ビフェニリル、ベンズヒドリル、トリチル及びピレニル、好ましくはフェニルならびにo−,m−及びp−トリル;置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、ベンジルオキシ、ヒドロキシ安息香酸及びそのエステル類(例えば、メチルエステル、エチルエステル、メトキシエチルエステル、エトキシエチルエステル、フルフリルエステル及びフェニルエステルなど;以下、同様)由来の基、ナフトキシ、o−,m−若しくはp−メチルフェノキシ、o−,m−若しくはp−フェニルフェノキシ、フェニルエチニルフェノキシ、ならびにクレソチン酸及びそのエステル類由来の基、好ましくはフェノキシ及びナフトキシ;置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールアミノ基、例えば、アニリノ、o−,m−若しくはp−トルイジノ、1,2−若しくは1,3−キシリジノ、o−,m−若しくはp−メトキシアニリノならびにアントラニル酸及びそのエステル類由来の基、好ましくはアニリノ及びo−,m−若しくはp−トルイジノ;または置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、フェニルメタンチオ、o−,m−若しくはp−トリルチオならびにチオサリチル酸及びそのエステル類由来の基、好ましくはフェニルチオを表わす。これらのうち、置換基を有してもよいアリールオキシ基、アリールチオ基およびアリールアミノ基が好ましく、さらに、フェノキシ、フェニルチオ及びアニリノがR1として最も好ましい。
【0034】
また、上記式(1)において、R1が置換基を有するアルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアミノ基またはアリールチオ基を表わす際に使用できる置換基としては、目的物の所望の特性に応じて適宜選択でき、特に制限されるものではないが、例えば、炭素原子数1〜12のアルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル及びドデシル;ハロゲン原子、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素;シアノ基、ニトロ基ならびにカルボキシエステル基などが挙げられる。これらのうち、好ましくはメチル及びカルボキシエステル基である。
【0035】
さらに、上記式(1)において、R2は、2価の有機基を表わし、例えば、下記式で示される基が挙げられる。
【0036】
【化10】
【0037】
これらのうち、下記式:
【0038】
【化11】
【0039】
で示される2価の有機基がR2として好ましく、特に下記式:
【0040】
【化12】
【0041】
で示される2価の有機基がR2として好ましい。
【0042】
さらに、上記式(1)において、nは重合度を表わし、具体的には、5〜1000、好ましくは10〜500である。なお、本発明のポリシアノアリールエーテルは、上記式(1)の構成単位の同一の繰り返し単位からなるものであっもまたは異なる繰り返し単位からなるものであってもよく、後者の場合には、その繰り返し単位はブロック状であっもまたはランダム状であってもよい。
【0043】
また、本発明のポリシアノアリールエーテルの製造方法については以下に詳述するが、この記載から、式(1)で示されるポリシアノアリールエーテルの末端は、フッ素原子を含むベンゼン環側がフッ素であり、酸素原子(R2)側が水素原子であると、即ち、式(1)で示されるポリシアノアリールエーテルは下記式(4):
【0044】
【化13】
【0045】
で示されるポリマーであると考えられる。
【0046】
本発明のポリシアノアリールエーテルは、下記式(2):
【0047】
【化14】
【0048】
で示されるテトラフルオロベンゾニトリル誘導体を、下記式(3):
【0049】
【化15】
【0050】
で示されるジヒドロキシ化合物と塩基性触媒の存在下で重合することによって、製造される。この際、上記式(2)におけるR1及び上記式(3)におけるR2の定義は、上記式(1)におけるR1及びR2の定義と同様である。
【0051】
本発明において、式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体は、公知の方法によって製造できるが、例えば、式:R1H[式中、R1は上記式(1)における定義と同様である]で示される化合物を有機溶媒中で塩基性化合物の存在下で2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾニトリル(本明細書中、「PFBN」とも称する)と反応させることによって得られる。
【0052】
上記反応において、式:R1Hで示される化合物およびPFBNは、それぞれ、単一の化合物として使用されてもあるいは2種以上の式:R1Hで示される化合物および/またはPFBNの混合物の形態で使用されてもよいが、精製工程やポリマーの物性などを考慮すると、単一の化合物として使用されることが好ましい。なお、後者の場合には、使用される複数または単一のPFBNのモル数の合計が、複数または単一の式:R1Hで示される化合物のモル数の合計に等しいまたはほぼ等しいことが好ましいが、具体的には、式:R1Hで示される化合物の使用量が、PFBN 1モルに対して、好ましくは0.1〜5モル、より好ましくは0.5〜2モルである。
【0053】
上記反応において使用できる有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、ニトロメタン及びメタノール等の極性溶媒;ならびにこれらの極性溶媒とトルエンやキシレン等の非極性溶媒との混合溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独でまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、有機溶媒におけるPFBNの濃度は、1〜40質量%、好ましくは、5〜30質量%である。この際、トルエンや他の同様の溶媒を反応の初期段階に使用する際には、反応中に副生する水を、重合溶媒に関係なく、トルエンの共沸物として除去できる。
【0054】
また、上記反応において使用される塩基性化合物は、反応を促進させるために生成するフッ化水素を捕集するよう作用するものであることが望ましい。このような塩基性化合物としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、フッ化カリウム、トリエチルアミン、トリブチルアミン及びピリジンなどが挙げられる。この際、塩基性化合物の使用量は、使用されるPFBN 1モルに対して、0.1〜5モル、好ましくは0.5〜2モルである。
【0055】
さらに、上記反応における反応条件は、R1Hで示される化合物とPFBNとの反応が効率よく進行するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、反応は、好ましくは反応系を撹拌状態に保ちながら、通常、20〜180℃、好ましくは40〜160℃の温度で行なわれる。また、反応時間は、他の反応条件や使用する原料などにより異なるが、通常、1〜48時間、好ましくは2〜24時間である。さらに、反応は、常圧下または減圧下いずれで行ってもよいが、設備面から、常圧下で行うことが望ましい。このような反応によって得られる生成物は、反応混合物に蒸留水を注加し、ジクロロメタン、ジクロロエタンまたは四塩化炭素等の抽出剤で抽出した後、有機層を抽出物から分離し、抽出剤を留去することにより得られる。さらに、この生成物を、必要であれば、メタノールまたはエタノール等で再結晶化することによって、結晶として得てもよい。
【0056】
このようにして合成された式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体は、上述したように、さらに式(3)のジヒドロキシ化合物と塩基性触媒の存在下で重合に供されることによって、目的の式(1)のポリシアノアリールエーテルが製造される。この際、式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体は、上記したような抽出、再結晶化、クロマトグラフィー及び蒸留等の精製工程をへた後使用されてもまたは精製工程を行なわずにそのまま使用してもよいが、次工程の収率などを考慮すると精製された後使用することが好ましい。
【0057】
上記反応において使用される式(3)のジヒドロキシ化合物は、目的産物である式(1)のポリシアノアリールエーテルの構造に従って選択される。本発明において好ましく使用される式(3)のジヒドロキシ化合物としては、以下にしめされるように、2,2−ビス(4−ビドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−へキサフルオロプロパン(以下、「6FBA」という)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル(以下、「DPE」という)、ハイドロキノン(以下、「HQ」という)、ビスフェノールA(以下、「BA」という)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下、「HF」という)、フェノールフタレイン(以下、「PP」という)、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下、「MHF」という)、1,4−ビス(ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下、「CHB」という)、および4,4’−ジヒドロキシビフェニル(以下、「BP」という)が挙げられる。
【0058】
【化16】
【0059】
上記反応において、式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体および式(3)のジヒドロキシ化合物は、それぞれ、単一の化合物として使用されてもあるいは2種以上の式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体および/または式(3)のジヒドロキシ化合物の混合物の形態で使用されてもよいが、精製工程やポリマーの物性などを考慮すると、単一の化合物として使用されることが好ましい。なお、後者の場合には、使用される複数または単一の式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体のモル数の合計が、複数または単一の式(3)のジヒドロキシ化合物のモル数の合計に等しいまたはほぼ等しいことが好ましいが、具体的には、式(3)のジヒドロキシ化合物の使用量は、式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体1モルに対して、0.1〜5モル、好ましくは1〜2モルである。
【0060】
上記反応は、有機溶剤中で行なわれてまたは無溶剤下で行なわれてもよいが、有機溶剤中に行われることが好ましい。前者の場合、使用できる有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、ニトロメタン及びメタノール等の極性溶媒;ならびにこれらの極性溶媒とトルエンやキシレン等の非極性溶媒との混合溶媒などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、有機溶剤における式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体の濃度は、1〜50質量%、好ましくは、5〜20質量%である。この際、トルエンや他の同様の溶剤を反応の初期段階に使用する際には、反応中に副生する水を、重合溶剤に関係なく、トルエンの共沸物として除去できる。
【0061】
また、本発明において、式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体および式(3)のジヒドロキシ化合物の反応は、塩基性触媒の存在下で行なうことを必須とする。塩基性触媒は、式(3)のジヒドロキシ化合物による重縮合反応を促進するよう、式(3)のジヒドロキシ化合物をより反応性の高いアニオンに変える作用を有するものが好ましく、具体的には、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムまたはフッ化カリウムなどが挙げられる。また、塩基性触媒の使用量は、式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体と式(3)のジヒドロキシ化合物との反応が良好に進行できる量であれば特に制限されるものではないが、式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体 1モルに対して、通常、0.1〜5モル、好ましくは0.5〜2モルである。
【0062】
さらに、上記重合反応における反応条件は、式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体と式(3)のジヒドロキシ化合物との反応が効率よく進行するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、重合温度は、好ましくは200℃以下、より好ましくは20〜150℃、最も好ましくは40〜100℃である。このように低温度で反応することで、特別の設備を必要とすることなく、副反応を抑制し、ポリマーのゲル化を防止することができる。また、重合時間は、他の反応条件や使用する原料などにより異なるが、好ましくは、1〜48時間、より好ましくは2〜24時間である。さらに、重合反応は、常圧下または減圧下いずれで行ってもよいが、設備面から、常圧下で行うことが望ましい。
【0063】
上記重合反応終了後は、反応溶液より蒸発等により溶媒の除去を行ない、必要により留出物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。または、反応溶液をポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることにより、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物を濾過により分離することによって、ポリマーを得てもよい。
【0064】
【実施例】
つぎに、実施例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。
【0065】
なお、下記実施例において、物性の評価は、つぎのようにして行なった。
【0066】
下記実施例で合成されたモノマー及びポリマーの化学構造は、FT−IR(日本分光社製、FT−IR350)、ならびに1H−及び19F−NMR(Varian社製、Unity 500、操作条件は、1H−NMRでは500MHz;および19F−NMRでは470MHzであった)を用いて、CDCl3を溶媒として測定・確認した。なお、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを、19F−NMR測定用の内部標準として使用した。
【0067】
還元粘度の測定は、Ostwald−Fenske粘度計を用い、0.5g/100mlの濃度でかつ25℃の温度でジメチルアセトアミド(DMAc)中で行なった。
【0068】
ガラス転移温度(Tg)および溶融温度(Tm)は、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、示差走査型熱量計(Perkin−Elmer社製、DSC7)を用いて測定した。
【0069】
熱安定性は、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、熱重量測定装置(Perkin−Elmer社製、TGA7)を用いて測定した。
【0070】
分子量は、ポリスチレンを標準物質として用いて、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。この際、10mM/リットル LiBrを含むNMP溶液を展開溶媒として使用し、流速は0.7ml/分、およびカラム温度は40℃にて測定した。
【0071】
溶解性は、試料ポリマーを溶媒中に20質量%の濃度となるように仕込み、その溶解性の違いを観察し、その溶解性によって以下のように分類した。++:室温で溶解、+:一部溶解、±:膨潤、−:不溶。
【0072】
フィルム形成性は、試料ポリマーをトルエン中に20質量%の濃度となるように仕込み、20質量%トルエン溶液(ポリマーによっては、分散液)をガラス基板上にバーコートし、そのフィルム形成性、剛性及び色相を観察した。なお、そのフィルム形成性については、以下のように分類した。++:優秀、+:良好、±:悪い、−:極めて悪い。
【0073】
合成例1:4−フェノキシ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル(PtFBN)の合成
下記反応を以下のようにして行なった。
【0074】
【化17】
【0075】
詳しくは、還流管及びディーンスタークトラップ(Dean-Stark trap)を備えた100ml容のフラスコに、5.0g(53.2ミリモル)のフェノール、3.67g(26.6ミリモル)の炭酸カリウム(K2CO3)、60mlのN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)および15mlのトルエンを仕込んだ。この混合液を、窒素気流下、130℃で2時間、共沸脱水を行ない、フェノールのカリウム塩を合成した。量論量(約1ml)の水を確認した後、トルエンを留去し、除冷した。反応液の温度が100℃に到達したところで、10.26g(53.2ミリモル)の2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾニトリルを反応液に添加し、この温度を維持しながら8時間反応させた。反応終了後、蒸留水を50ml加えた後、ジクロロメタンを用いて抽出した。さらに、有機層を集めて、水洗し、硫酸ナトリウムで乾燥し、ジクロロメタンを留去することによって、褐色の油状粗生成物を得た。
【0076】
つぎに、この粗生成物を102℃/0.4mmHgで減圧蒸留した後、エタノールで再結晶化して白色結晶を得た。この際の収率は40%であった。また、得られた生成物の溶融温度は68℃であり、そのIR(KBr)スペクトル、1H−NMR(CDCl3)スペクトル及び19F−NMR(CDCl3)スペクトルを、それぞれ、図1、図2及び図3に示す。なお、19F−NMRスペクトルにおいて、19F化学シフトは、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン=−110.1ppmに相当するppmで示される。
【0077】
実施例1:2F−PEN−6FBAの合成
下記重合反応を以下のようにして行なった。
【0078】
【化18】
【0079】
詳しくは、還流管及びディーンスタークトラップ(Dean-Stark trap)を備えた25ml容のフラスコに、0.377g(1.12ミリモル)の2,2−ビス(4−ビドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−へキサフルオロプロパン(6FBA)、0.171g(1.24ミリモル)の炭酸カリウム、2.5mlのN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)および2.5mlのトルエンを仕込んだ。この混合液を、窒素気流下、130℃で2時間、共沸脱水を行ない、6FBAのカリウム塩を合成した。量論量(約0.04ml)の水を確認した後、トルエンを留去し、放冷した。反応液の温度が80℃に到達したところで、0.300g(1.12ミリモル)の合成例1で得られたPtFBNを反応液に添加し、この温度を維持しながら20時間反応させた。
【0080】
反応終了後、この溶液を、ブレンダーで激しく撹拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出したポリマーを濾別し、蒸留水及びメタノールで洗浄した後、減圧乾燥した。このようにして回収されたポリマーを、30wt/vol%の濃度になるように、ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、この溶液をメタノール中に攪拌下でゆっくり注加し、再沈殿法により精製した。完全に固化するまで放置した後、沈殿・固化したポリマーを濾過し、減圧乾燥した。この際の収率は86.0%であった。また、得られた生成物のガラス転移温度は163.0℃であり、そのIR(フィルム)スペクトル、1H−NMR(CDCl3)スペクトル及び19F−NMR(CDCl3)スペクトルを、それぞれ、図4、図5及び図6に示す。なお、19F−NMRスペクトルにおいて、19F化学シフトは、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン=−110.1ppmに相当するppmで示される。
【0081】
実施例2
実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)の6FBAの代わりに0.358g(1.12ミリモル)のPPを使用する以外は、実施例1と同様にして反応を行なうことによって、2F−PEN−PPを生成物として得た。この際の収率は94.9%であり、また、得られた生成物のガラス転移温度は235.0℃であった。
【0082】
実施例3
実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)の6FBAの代わりに0.256g(1.12ミリモル)のBAを使用する以外は、実施例1と同様にして反応を行なうことによって、2F−PEN−BAを生成物として得た。この際の収率は86.8%であり、また、得られた生成物のガラス転移温度は143.6℃であった。
【0083】
実施例4
実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)の6FBAの代わりに0.394g(1.12ミリモル)のHFを使用する以外は、実施例1と同様にして反応を行なうことによって、2F−PEN−HFを生成物として得た。この際の収率は93.5%であり、また、得られた生成物のガラス転移温度は232.2℃であった。
【0084】
実施例5
実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)の6FBAの代わりに0.123g(1.12ミリモル)のHQを使用する以外は、実施例1と同様にして反応を行なうことによって、2F−PEN−HQを生成物として得た。この際の収率は85.5%であり、また、得られた生成物のガラス転移温度は145.9℃であった。
【0085】
実施例6
実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)の6FBAの代わりに0.394g(1.12ミリモル)のCHBを使用する以外は、実施例1と同様にして反応を行なうことによって、2F−PEN−CHBを生成物として得た。この際の収率は87.4%であり、また、得られた生成物のガラス転移温度は151.8℃であった。
【0086】
実施例7
実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)の6FBAの代わりに0.301g(1.12ミリモル)のDPEを使用する以外は、実施例1と同様にして反応を行なうことによって、2F−PEN−DPEを生成物として得た。この際の収率は87.1%であり、また、得られた生成物のガラス転移温度は142.0℃であった。
【0087】
実施例8
実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)の6FBAの代わりに0.209g(1.12ミリモル)のBPを使用する以外は、実施例1と同様にして反応を行なうことによって、2F−PEN−BPを生成物として得た。この際の収率は90.7%であり、また、得られた生成物のガラス転移温度は179.4℃であった。
【0088】
また、実施例1〜8で得られた各生成物の還元粘度、分子量およびガラス転移温度を表1に示し、熱物性特性を表2に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
実施例9
実施例1〜8で得られたポリマーについて、溶解性を評価したところ、表3に示す結果が得られた。
【0092】
【表3】
【0093】
実施例10
実施例1、3、5及び7で得られたポリマーについて、フイルム形成性を評価したところ、表4に示す結果が得られた。
【0094】
【表4】
【0095】
【発明の効果】
上述したように、本発明のポリシアノアリールエーテルは、高い機械的強度及び強靭性、優れた電気的特性を有し、通常使用される種々の溶媒に対して優れた溶解性、ならびに耐熱性、耐炎性等の優れた熱安定性、ならびに優れた被覆形成性を有するので、耐熱性材料、航空宇宙複合材料マトリックス、原子炉用複合材料マトリックス、電気絶縁材料、電磁シールド用複合材料マトリックス、燃料電池用高分子電解質(セパレーター)前駆体および導波路等の光学材料など工業的に汎用性の高い材料である。
【0096】
また、本発明のポリシアノアリールエーテルは、テトラフルオロベンゾニトリル誘導体をジヒドロキシ化合物との共重縮合反応に供することによって、特別な設備を必要とすることなく、容易にかつ効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、合成例1で得られたPtFBNのIRスペクトルである。
【図2】は、合成例1で得られたPtFBNの1H−NMRスペクトルである。
【図3】は、合成例1で得られたPtFBNの19F−NMRスペクトルである。
【図4】は、実施例1で得られた2F−PEN−6FBAのIRスペクトルである。
【図5】は、実施例1で得られた2F−PEN−6FBAの1H−NMRスペクトルである。
【図6】は、実施例1で得られた2F−PEN−6FBAの19F−NMRスペクトルである。

Claims (4)

  1. 下記式(1):
    ただし、Rは、フェノキシ、フェニルチオ、またはアニリノであり;Rは、下記式:
    で示される2価の有機基のいずれかを表わし;ならびにnは重合度を表わし、5〜1000である、で示されるポリシアノアリールエーテル。
  2. 該式(1)において、Rフェノキシである、請求項1に記載のポリシアノアリールエーテル。
  3. 下記式(2):
    ただし、Rは、フェノキシ、フェニルチオ、またはアニリノである、で示されるテトラフルオロベンゾニトリル誘導体を、下記式(3):
    ただし、Rは、下記式:
    で示される2価の有機基のいずれかを表わす、で示されるジヒドロキシ化合物と塩基性触媒の存在下で重合することからなる、請求項1または2に記載のポリシアノアリールエーテルの製造方法。
  4. 該テトラフルオロベンゾニトリル誘導体とジヒドロキシ化合物との重合を150℃以下の温度で重合する、請求項3に記載の方法。
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