JP2002012662A - ポリシアノアリールエーテルおよびその製造方法 - Google Patents

ポリシアノアリールエーテルおよびその製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 優れた耐熱性、耐加水分解性及び耐候性を有
する工業的に汎用性の高い新規なポリシアノアリールエ
ーテルおよびこの製造方法を提供する。 【解決手段】 下記式(1): 【化1】 ただし、R1は、置換基を有してもよい炭素原子数1〜
12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1
〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子
数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい
炭素原子数1〜12のアルキルチオ基、置換基を有して
もよい炭素原子数6〜20のアリール基、置換基を有し
てもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、置換
基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールアミノ
基または置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のア
リールチオ基を表わし;R2は、2価の有機基を表わ
し;ならびにnは重合度を表わす、で示されるポリシア
ノアリールエーテル。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規なポリシアノ
アリールエーテルおよびこの製造方法に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】現在、材料革命が全世界的な規模で進行
しているが、プラスチックをはじめとする合成高分子材
料がその中心を占め、その成形・加工性やコスト面から
いまや金属材料や無機材料を凌駕している。
【0003】このようなプラスチックは、一般的に、身
の回りの日用品などに広く使われている汎用プラスチッ
ク;機械特性や耐熱性などの性能面で一段と優れた性能
を有するエンジニアリングプラスチック;ならびにこの
エンジニアリングプラスチックよりもう一段上の性能を
有するスーパーエンジニアリングプラスチックに分類さ
れる。これらのうち、エンジニアリングプラスチック
は、耐熱性(連続使用温度が約100℃以上)及び高機
械特性(強度や弾性率など)を合わせ持つ高性能高分子
材料であり、自動車、電子情報、精密機械などの産業分
野に不可欠の材料として定着し、目覚しい発展を遂げつ
つあり、ポリアミド(ナイロン)、アセタール樹脂、ポ
リカーボネート、ポリエステル及び変性ポリフェニレン
エーテルが五大エンジニアリングプラスチックと呼ばれ
ている。
【0004】また、スーパーエンジニアリングプラスチ
ックは、耐熱性及び機械特性の面で在来のエンジニアリ
ングプラスチックを上回る、より高度な性能を指向する
ことを目的としたものであり、旧来の汎用プラスチック
やエンジニアリングプラスチックに次いで、電子情報、
精密機械や宇宙航空などの広い産業分野における技術革
新の担い手となる素材として、注目されている。
【0005】このスーパーエンジニアリングプラスチッ
クは、芳香族骨格からなる高分子を基本構造としてお
り、これらに関連する材料として、アラミド(芳香族ポ
リアミド)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、
ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトンやポリ
エーテルイミドなどがあり、現在、続々と工業化されて
いる。
【0006】一方、芳香族ポリエーテルニトリル類(P
EN)は、優れた耐熱性、耐加水分解性及び耐候性を有
するスーパーエンジニアリングプラスチックとして期待
される材料の一つである。この芳香族ポリエーテルニト
リル類(PEN)は、上記特性に加えて、極性基である
シアノ基を有するため、ガラス繊維などとの接着性にも
優れ、複合材料用マトリックスとして使用されている。
しかしながら、現在製造されているPENは、可溶性に
乏しいため、フィルムなどへの展開が困難であるという
問題を抱えている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の
目的は、優れた耐熱性、耐加水分解性及び耐候性を有す
る工業的に汎用性の高い新規なポリシアノアリールエー
テルおよびこの製造方法を提供することである。
【0008】本発明の他の目的は、上記特性に加えて、
可溶性が改善されたポリシアノアリールエーテルおよび
この製造方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記問題
を克服するために鋭意検討を行なった結果、芳香族ポリ
エーテルニトリルにフッ素原子を導入することによっ
て、主鎖間の凝集力が弱められ、これにより可溶性を付
与できることを知得した。また、本発明者らは、このよ
うにして得られたポリシアノアリールエーテルは低いC
−F結合の分極率を有するため、上述の諸性能の向上に
加え、透明性の向上や吸湿性の低下が期待でき、さら
に、C−F結合の結合解離エネルギーがC−H結合より
大きく、耐熱性や耐放射線性の向上も期待でき、ゆえ
に、フッ素原子を導入することにより、本来有している
性能を損なうことなく、可溶性を付与することが可能で
あり、従来のPENに優る新しい高性能材料の開発が期
待でき、加えて、フッ素原子を導入することによって、
材料の誘電率を低減させることが可能であり、電子材料
としての応用も期待できることをも知得した。
【0010】上記知見に基づいて本発明を完成するに至
った。
【0011】すなわち、これらの諸目的は、下記(1)
〜(8)により達成される。
【0012】(1)下記式(1):
【0013】
【化4】
【0014】ただし、R1は、置換基を有してもよい炭
素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい
炭素原子数1〜12のアルコキシ基、置換基を有しても
よい炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を
有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルチオ基、置
換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基、
置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオ
キシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のア
リールアミノ基または置換基を有してもよい炭素原子数
6〜20のアリールチオ基を表わし;R2は、2価の有
機基を表わし;ならびにnは重合度を表わす、で示され
るポリシアノアリールエーテル。
【0015】(2)前記式(1)において、R1は置換
基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ
基を表わす、上記(1)に記載のポリシアノアリールエ
ーテル。
【0016】(3)前記式(1)において、R1は置換
基を有してもよいフェノキシを表わす、上記(2)に記
載のポリシアノアリールエーテル。
【0017】(4)前記式(1)において、R2は下記
式:
【0018】
【化5】
【0019】のいずれかを表わす、上記(1)〜(3)
のいずれか一に記載のポリシアノアリールエーテル。
【0020】(5)下記式(2):
【0021】
【化6】
【0022】ただし、R1は、置換基を有してもよい炭
素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい
炭素原子数1〜12のアルコキシ基、置換基を有しても
よい炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を
有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルチオ基、置
換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリール基、
置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオ
キシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のア
リールアミノ基または置換基を有してもよい炭素原子数
6〜20のアリールチオ基を表わす、で示されるテトラ
フルオロベンゾニトリル誘導体を、下記式(3):
【0023】
【化7】
【0024】ただし、R2は、2価の有機基を表わす、
で示されるジヒドロキシ化合物と塩基性触媒の存在下で
重合することからなる、上記(1)または(2)に記載
のポリシアノアリールエーテルの製造方法。
【0025】(6)前記テトラフルオロベンゾニトリル
誘導体とジヒドロキシ化合物との重合を200℃以下の
温度で重合する、上記(5)に記載の方法。
【0026】(7)前記塩基性触媒は炭酸カリウム、炭
酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムまた
はフッ化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1
種である、上記(5)または(6)に記載の方法。
【0027】(8)前記ジヒドロキシ化合物は下記式:
【0028】
【化8】
【0029】のいずれかである、上記(5)〜(7)の
いずれか一に記載の方法。
【0030】
【発明の実施の形態】本発明のポリシアノアリールエー
テルは、下記式(1):
【0031】
【化9】
【0032】で示される新規な化合物である。
【0033】上記式(1)において、R1は、置換基を
有してもよい炭素原子数1〜12のアルキル基、例え
ば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチ
ル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、
ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘ
プチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデ
シル及び2−エチルヘキシル、好ましくはメチル、エチ
ル、プロピル及びブチル;置換基を有してもよい炭素原
子数1〜12のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エト
キシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、ペンチ
ルオキシ、ヘキシルオキシ、2−エチルヘキシルオキ
シ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウ
ンデシルオキシ、ドデシルオキシ、フルフリルオキシ及
びアリルオキシ、好ましくはメトキシ、エトキシ、プロ
ポキシ、イソプロポキシ及びブトキシ;置換基を有して
もよい炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、例え
ば、メチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジ
エチルアミノ、プロピルアミノ、n−ブチルアミノ、s
ec−ブチルアミノ及びtert−ブチルアミノ、好ま
しくはメチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ及
びジエチルアミノ;置換基を有してもよい炭素原子数1
〜12のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチル
チオ、プロピルチオ及びn−ブチルチオ、sec−ブチ
ルチオ、tert−ブチルチオ及びiso−プロピルチ
オ、好ましくは、メチルチオ、エチルチオ及びプロピル
チオ;置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリ
ール基、例えば、フェニル、ベンジル、フェネチル、o
−,m−若しくはp−トリル、2,3−若しくは2,4
−キシリル、メシチル、ナフチル、アントリル、フェナ
ントリル、ビフェニリル、ベンズヒドリル、トリチル及
びピレニル、好ましくはフェニルならびにo−,m−及
びp−トリル;置換基を有してもよい炭素原子数6〜2
0のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、ベンジル
オキシ、ヒドロキシ安息香酸及びそのエステル類(例え
ば、メチルエステル、エチルエステル、メトキシエチル
エステル、エトキシエチルエステル、フルフリルエステ
ル及びフェニルエステルなど;以下、同様)由来の基、
ナフトキシ、o−,m−若しくはp−メチルフェノキ
シ、o−,m−若しくはp−フェニルフェノキシ、フェ
ニルエチニルフェノキシ、ならびにクレソチン酸及びそ
のエステル類由来の基、好ましくはフェノキシ及びナフ
トキシ;置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のア
リールアミノ基、例えば、アニリノ、o−,m−若しく
はp−トルイジノ、1,2−若しくは1,3−キシリジ
ノ、o−,m−若しくはp−メトキシアニリノならびに
アントラニル酸及びそのエステル類由来の基、好ましく
はアニリノ及びo−,m−若しくはp−トルイジノ;ま
たは置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリー
ルチオ基、例えば、フェニルチオ、フェニルメタンチ
オ、o−,m−若しくはp−トリルチオならびにチオサ
リチル酸及びそのエステル類由来の基、好ましくはフェ
ニルチオを表わす。これらのうち、置換基を有してもよ
いアリールオキシ基、アリールチオ基およびアリールア
ミノ基が好ましく、さらに、フェノキシ、フェニルチオ
及びアニリノがR1として最も好ましい。
【0034】また、上記式(1)において、R1が置換
基を有するアルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ
基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、
アリールアミノ基またはアリールチオ基を表わす際に使
用できる置換基としては、目的物の所望の特性に応じて
適宜選択でき、特に制限されるものではないが、例え
ば、炭素原子数1〜12のアルキル基、例えば、メチ
ル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブ
チル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、
イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オ
クチル、ノニル、デシル、ウンデシル及びドデシル;ハ
ロゲン原子、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素;
シアノ基、ニトロ基ならびにカルボキシエステル基など
が挙げられる。これらのうち、好ましくはメチル及びカ
ルボキシエステル基である。
【0035】さらに、上記式(1)において、R2は、
2価の有機基を表わし、例えば、下記式で示される基が
挙げられる。
【0036】
【化10】
【0037】これらのうち、下記式:
【0038】
【化11】
【0039】で示される2価の有機基がR2として好ま
しく、特に下記式:
【0040】
【化12】
【0041】で示される2価の有機基がR2として好ま
しい。
【0042】さらに、上記式(1)において、nは重合
度を表わし、具体的には、5〜1000、好ましくは1
0〜500である。なお、本発明のポリシアノアリール
エーテルは、上記式(1)の構成単位の同一の繰り返し
単位からなるものであったもまたは異なる繰り返し単位
からなるものであってもよく、後者の場合には、その繰
り返し単位はブロック状であったもまたはランダム状で
あってもよい。
【0043】また、本発明のポリシアノアリールエーテ
ルの製造方法については以下に詳述するが、この記載か
ら、式(1)で示されるポリシアノアリールエーテルの
末端は、フッ素原子を含むベンゼン環側がフッ素であ
り、酸素原子(R2)側が水素原子であると、即ち、式
(1)で示されるポリシアノアリールエーテルは下記式
(4):
【0044】
【化13】
【0045】で示されるポリマーであると考えられる。
【0046】本発明のポリシアノアリールエーテルは、
下記式(2):
【0047】
【化14】
【0048】で示されるテトラフルオロベンゾニトリル
誘導体を、下記式(3):
【0049】
【化15】
【0050】で示されるジヒドロキシ化合物と塩基性触
媒の存在下で重合することによって、製造される。この
際、上記式(2)におけるR1及び上記式(3)におけ
るR2の定義は、上記式(1)におけるR1及びR2の定
義と同様である。
【0051】本発明において、式(2)のテトラフルオ
ロベンゾニトリル誘導体は、公知の方法によって製造で
きるが、例えば、式:R1H[式中、R1は上記式(1)
における定義と同様である]で示される化合物を有機溶
媒中で塩基性化合物の存在下で2,3,4,5,6−ペ
ンタフルオロベンゾニトリル(本明細書中、「PFB
N」とも称する)と反応させることによって得られる。
【0052】上記反応において、式:R1Hで示される
化合物およびPFBNは、それぞれ、単一の化合物とし
て使用されてもあるいは2種以上の式:R1Hで示され
る化合物および/またはPFBNの混合物の形態で使用
されてもよいが、精製工程やポリマーの物性などを考慮
すると、単一の化合物として使用されることが好まし
い。なお、後者の場合には、使用される複数または単一
のPFBNのモル数の合計が、複数または単一の式:R
1Hで示される化合物のモル数の合計に等しいまたはほ
ぼ等しいことが好ましいが、具体的には、式:R1Hで
示される化合物の使用量が、PFBN 1モルに対し
て、好ましくは0.1〜5モル、より好ましくは0.5
〜2モルである。
【0053】上記反応において使用できる有機溶媒とし
ては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N
−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ベンゾニト
リル、ニトロベンゼン、ニトロメタン及びメタノール等
の極性溶媒;ならびにこれらの極性溶媒とトルエンやキ
シレン等の非極性溶媒との混合溶媒などが挙げられる。
これらの有機溶媒は、単独でまたは2種以上の混合物の
形態で使用されてもよい。また、有機溶媒におけるPF
BNの濃度は、1〜40質量%、好ましくは、5〜30
質量%である。この際、トルエンや他の同様の溶媒を反
応の初期段階に使用する際には、反応中に副生する水
を、重合溶媒に関係なく、トルエンの共沸物として除去
できる。
【0054】また、上記反応において使用される塩基性
化合物は、反応を促進させるために生成するフッ化水素
を捕集するよう作用するものであることが望ましい。こ
のような塩基性化合物としては、例えば、炭酸カリウ
ム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウ
ム、フッ化カリウム、トリエチルアミン、トリブチルア
ミン及びピリジンなどが挙げられる。この際、塩基性化
合物の使用量は、使用されるPFBN 1モルに対し
て、0.1〜5モル、好ましくは0.5〜2モルであ
る。
【0055】さらに、上記反応における反応条件は、R
1Hで示される化合物とPFBNとの反応が効率よく進
行するものであれば特に制限されるものではないが、例
えば、反応は、好ましくは反応系を撹拌状態に保ちなが
ら、通常、20〜180℃、好ましくは40〜160℃
の温度で行なわれる。また、反応時間は、他の反応条件
や使用する原料などにより異なるが、通常、1〜48時
間、好ましくは2〜24時間である。さらに、反応は、
常圧下または減圧下いずれで行ってもよいが、設備面か
ら、常圧下で行うことが望ましい。このような反応によ
って得られる生成物は、反応混合物に蒸留水を注加し、
ジクロロメタン、ジクロロエタンまたは四塩化炭素等の
抽出剤で抽出した後、有機層を抽出物から分離し、抽出
剤を留去することにより得られる。さらに、この生成物
を、必要であれば、メタノールまたはエタノール等で再
結晶化することによって、結晶として得てもよい。
【0056】このようにして合成された式(2)のテト
ラフルオロベンゾニトリル誘導体は、上述したように、
さらに式(3)のジヒドロキシ化合物と塩基性触媒の存
在下で重合に供されることによって、目的の式(1)の
ポリシアノアリールエーテルが製造される。この際、式
(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体は、上記
したような抽出、再結晶化、クロマトグラフィー及び蒸
留等の精製工程をへた後使用されてもまたは精製工程を
行なわずにそのまま使用してもよいが、次工程の収率な
どを考慮すると精製された後使用することが好ましい。
【0057】上記反応において使用される式(3)のジ
ヒドロキシ化合物は、目的産物である式(1)のポリシ
アノアリールエーテルの構造に従って選択される。本発
明において好ましく使用される式(3)のジヒドロキシ
化合物としては、以下にしめされるように、2,2−ビ
ス(4−ビドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,
3−へキサフルオロプロパン(以下、「6FBA」とい
う)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル(以
下、「DPE」という)、ハイドロキノン(以下、「H
Q」という)、ビスフェノールA(以下、「BA」とい
う)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオ
レン(以下、「HF」という)、フェノールフタレイン
(以下、「PP」という)、9,9−ビス(3−メチル
−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下、「MH
F」という)、1,4−ビス(ヒドロキシフェニル)シ
クロヘキサン(以下、「CHB」という)、および4,
4’−ジヒドロキシビフェニル(以下、「BP」とい
う)が挙げられる。
【0058】
【化16】
【0059】上記反応において、式(2)のテトラフル
オロベンゾニトリル誘導体および式(3)のジヒドロキ
シ化合物は、それぞれ、単一の化合物として使用されて
もあるいは2種以上の式(2)のテトラフルオロベンゾ
ニトリル誘導体および/または式(3)のジヒドロキシ
化合物の混合物の形態で使用されてもよいが、精製工程
やポリマーの物性などを考慮すると、単一の化合物とし
て使用されることが好ましい。なお、後者の場合には、
使用される複数または単一の式(2)のテトラフルオロ
ベンゾニトリル誘導体のモル数の合計が、複数または単
一の式(3)のジヒドロキシ化合物のモル数の合計に等
しいまたはほぼ等しいことが好ましいが、具体的には、
式(3)のジヒドロキシ化合物の使用量は、式(2)の
テトラフルオロベンゾニトリル誘導体1モルに対して、
0.1〜5モル、好ましくは1〜2モルである。
【0060】上記反応は、有機溶剤中で行なわれてまた
は無溶剤下で行なわれてもよいが、有機溶剤中に行われ
ることが好ましい。前者の場合、使用できる有機溶剤と
しては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、N,
N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ベンゾニ
トリル、ニトロベンゼン、ニトロメタン及びメタノール
等の極性溶媒;ならびにこれらの極性溶媒とトルエンや
キシレン等の非極性溶媒との混合溶媒などが挙げられ
る。これらの有機溶剤は、単独でまたは2種以上の混合
物の形態で使用されてもよい。また、有機溶剤における
式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体の濃度
は、1〜50質量%、好ましくは、5〜20質量%であ
る。この際、トルエンや他の同様の溶剤を反応の初期段
階に使用する際には、反応中に副生する水を、重合溶剤
に関係なく、トルエンの共沸物として除去できる。
【0061】また、本発明において、式(2)のテトラ
フルオロベンゾニトリル誘導体および式(3)のジヒド
ロキシ化合物の反応は、塩基性触媒の存在下で行なうこ
とを必須とする。塩基性触媒は、式(3)のジヒドロキ
シ化合物による重縮合反応を促進するよう、式(3)の
ジヒドロキシ化合物をより反応性の高いアニオンに変え
る作用を有するものが好ましく、具体的には、炭酸カリ
ウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシ
ウムまたはフッ化カリウムなどが挙げられる。また、塩
基性触媒の使用量は、式(2)のテトラフルオロベンゾ
ニトリル誘導体と式(3)のジヒドロキシ化合物との反
応が良好に進行できる量であれば特に制限されるもので
はないが、式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘
導体 1モルに対して、通常、0.1〜5モル、好まし
くは0.5〜2モルである。
【0062】さらに、上記重合反応における反応条件
は、式(2)のテトラフルオロベンゾニトリル誘導体と
式(3)のジヒドロキシ化合物との反応が効率よく進行
するものであれば特に制限されるものではないが、例え
ば、重合温度は、好ましくは200℃以下、より好まし
くは20〜150℃、最も好ましくは40〜100℃で
ある。このように低温度で反応することで、特別の設備
を必要とすることなく、副反応を抑制し、ポリマーのゲ
ル化を防止することができる。また、重合時間は、他の
反応条件や使用する原料などにより異なるが、好ましく
は、1〜48時間、より好ましくは2〜24時間であ
る。さらに、重合反応は、常圧下または減圧下いずれで
行ってもよいが、設備面から、常圧下で行うことが望ま
しい。
【0063】上記重合反応終了後は、反応溶液より蒸発
等により溶媒の除去を行ない、必要により留出物を洗浄
することによって、所望のポリマーが得られる。また
は、反応溶液をポリマーの溶解度が低い溶媒中に加える
ことにより、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物を
濾過により分離することによって、ポリマーを得てもよ
い。
【0064】
【実施例】つぎに、実施例を参照しながら、本発明をさ
らに詳細に説明する。
【0065】なお、下記実施例において、物性の評価
は、つぎのようにして行なった。
【0066】下記実施例で合成されたモノマー及びポリ
マーの化学構造は、FT−IR(日本分光社製、FT−
IR350)、ならびに1H−及び19F−NMR(Va
rian社製、Unity 500、操作条件は、1
−NMRでは500MHz;および19F−NMRでは4
70MHzであった)を用いて、CDCl3を溶媒とし
て測定・確認した。なお、4,4’−ジフルオロベンゾ
フェノンを、19F−NMR測定用の内部標準として使用
した。
【0067】還元粘度の測定は、Ostwald−Fe
nske粘度計を用い、0.5g/100mlの濃度で
かつ25℃の温度でジメチルアセトアミド(DMAc)
中で行なった。
【0068】ガラス転移温度(Tg)および溶融温度
(Tm)は、窒素雰囲気中、20℃/分の昇温速度で、
示差走査型熱量計(Perkin−Elmer社製、D
SC7)を用いて測定した。
【0069】熱安定性は、窒素雰囲気中、20℃/分の
昇温速度で、熱重量測定装置(Perkin−Elme
r社製、TGA7)を用いて測定した。
【0070】分子量は、ポリスチレンを標準物質として
用いて、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によっ
て測定した。この際、10mM/リットル LiBrを
含むNMP溶液を展開溶媒として使用し、流速は0.7
ml/分、およびカラム温度は40℃にて測定した。
【0071】溶解性は、試料ポリマーを溶媒中に20質
量%の濃度となるように仕込み、その溶解性の違いを観
察し、その溶解性によって以下のように分類した。+
+:室温で溶解、+:一部溶解、±:膨潤、−:不溶。
【0072】フィルム形成性は、試料ポリマーをトルエ
ン中に20質量%の濃度となるように仕込み、20質量
%トルエン溶液(ポリマーによっては、分散液)をガラ
ス基板上にバーコートし、そのフィルム形成性、剛性及
び色相を観察した。なお、そのフィルム形成性について
は、以下のように分類した。++:優秀、+:良好、
±:悪い、−:極めて悪い。
【0073】合成例1:4−フェノキシ−2,3,5,
6−テトラフルオロベンゾニトリル(PtFBN)の合
成 下記反応を以下のようにして行なった。
【0074】
【化17】
【0075】詳しくは、還流管及びディーンスタークト
ラップ(Dean-Stark trap)を備えた100ml容のフラ
スコに、5.0g(53.2ミリモル)のフェノール、
3.67g(26.6ミリモル)の炭酸カリウム(K2
CO3)、60mlのN−メチル−2−ピロリジノン
(NMP)および15mlのトルエンを仕込んだ。この
混合液を、窒素気流下、130℃で2時間、共沸脱水を
行ない、フェノールのカリウム塩を合成した。量論量
(約1ml)の水を確認した後、トルエンを留去し、除
冷した。反応液の温度が100℃に到達したところで、
10.26g(53.2ミリモル)の2,3,4,5,
6−ペンタフルオロベンゾニトリルを反応液に添加し、
この温度を維持しながら8時間反応させた。反応終了
後、蒸留水を50ml加えた後、ジクロロメタンを用い
て抽出した。さらに、有機層を集めて、水洗し、硫酸ナ
トリウムで乾燥し、ジクロロメタンを留去することによ
って、褐色の油状粗生成物を得た。
【0076】つぎに、この粗生成物を102℃/0.4
mmHgで減圧蒸留した後、エタノールで再結晶化して
白色結晶を得た。この際の収率は40%であった。ま
た、得られた生成物の溶融温度は68℃であり、そのI
R(KBr)スペクトル、1H−NMR(CDCl3)ス
ペクトル及び19F−NMR(CDCl3)スペクトル
を、それぞれ、図1、図2及び図3に示す。なお、19
−NMRスペクトルにおいて、19F化学シフトは、4,
4’−ジフルオロベンゾフェノン=−110.1ppm
に相当するppmで示される。
【0077】実施例1:2F−PEN−6FBAの合成 下記重合反応を以下のようにして行なった。
【0078】
【化18】
【0079】詳しくは、還流管及びディーンスタークト
ラップ(Dean-Stark trap)を備えた25ml容のフラス
コに、0.377g(1.12ミリモル)の2,2−ビ
ス(4−ビドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,
3−へキサフルオロプロパン(6FBA)、0.171
g(1.24ミリモル)の炭酸カリウム、2.5mlの
N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)および2.5
mlのトルエンを仕込んだ。この混合液を、窒素気流
下、130℃で2時間、共沸脱水を行ない、6FBAの
カリウム塩を合成した。量論量(約0.04ml)の水
を確認した後、トルエンを留去し、放冷した。反応液の
温度が80℃に到達したところで、0.300g(1.
12ミリモル)の合成例1で得られたPtFBNを反応
液に添加し、この温度を維持しながら20時間反応させ
た。
【0080】反応終了後、この溶液を、ブレンダーで激
しく撹拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出
したポリマーを濾別し、蒸留水及びメタノールで洗浄し
た後、減圧乾燥した。このようにして回収されたポリマ
ーを、30wt/vol%の濃度になるように、ジメチ
ルアセトアミド(DMAc)に溶解し、この溶液をメタ
ノール中に攪拌下でゆっくり注加し、再沈殿法により精
製した。完全に固化するまで放置した後、沈殿・固化し
たポリマーを濾過し、減圧乾燥した。この際の収率は8
6.0%であった。また、得られた生成物のガラス転移
温度は163.0℃であり、そのIR(フィルム)スペ
クトル、1H−NMR(CDCl3)スペクトル及び19
−NMR(CDCl3)スペクトルを、それぞれ、図
4、図5及び図6に示す。なお、19F−NMRスペクト
ルにおいて、19F化学シフトは、4,4’−ジフルオロ
ベンゾフェノン=−110.1ppmに相当するppm
で示される。
【0081】実施例2 実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)
の6FBAの代わりに0.358g(1.12ミリモ
ル)のPPを使用する以外は、実施例1と同様にして反
応を行なうことによって、2F−PEN−PPを生成物
として得た。この際の収率は94.9%であり、また、
得られた生成物のガラス転移温度は235.0℃であっ
た。
【0082】実施例3 実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)
の6FBAの代わりに0.256g(1.12ミリモ
ル)のBAを使用する以外は、実施例1と同様にして反
応を行なうことによって、2F−PEN−BAを生成物
として得た。この際の収率は86.8%であり、また、
得られた生成物のガラス転移温度は143.6℃であっ
た。
【0083】実施例4 実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)
の6FBAの代わりに0.394g(1.12ミリモ
ル)のHFを使用する以外は、実施例1と同様にして反
応を行なうことによって、2F−PEN−HFを生成物
として得た。この際の収率は93.5%であり、また、
得られた生成物のガラス転移温度は232.2℃であっ
た。
【0084】実施例5 実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)
の6FBAの代わりに0.123g(1.12ミリモ
ル)のHQを使用する以外は、実施例1と同様にして反
応を行なうことによって、2F−PEN−HQを生成物
として得た。この際の収率は85.5%であり、また、
得られた生成物のガラス転移温度は145.9℃であっ
た。
【0085】実施例6 実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)
の6FBAの代わりに0.394g(1.12ミリモ
ル)のCHBを使用する以外は、実施例1と同様にして
反応を行なうことによって、2F−PEN−CHBを生
成物として得た。この際の収率は87.4%であり、ま
た、得られた生成物のガラス転移温度は151.8℃で
あった。
【0086】実施例7 実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)
の6FBAの代わりに0.301g(1.12ミリモ
ル)のDPEを使用する以外は、実施例1と同様にして
反応を行なうことによって、2F−PEN−DPEを生
成物として得た。この際の収率は87.1%であり、ま
た、得られた生成物のガラス転移温度は142.0℃で
あった。
【0087】実施例8 実施例1において、0.377g(1.12ミリモル)
の6FBAの代わりに0.209g(1.12ミリモ
ル)のBPを使用する以外は、実施例1と同様にして反
応を行なうことによって、2F−PEN−BPを生成物
として得た。この際の収率は90.7%であり、また、
得られた生成物のガラス転移温度は179.4℃であっ
た。
【0088】また、実施例1〜8で得られた各生成物の
還元粘度、分子量およびガラス転移温度を表1に示し、
熱物性特性を表2に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】実施例9 実施例1〜8で得られたポリマーについて、溶解性を評
価したところ、表3に示す結果が得られた。
【0092】
【表3】
【0093】実施例10 実施例1、3、5及び7で得られたポリマーについて、
フイルム形成性を評価したところ、表4に示す結果が得
られた。
【0094】
【表4】
【0095】
【発明の効果】上述したように、本発明のポリシアノア
リールエーテルは、高い機械的強度及び強靭性、優れた
電気的特性を有し、通常使用される種々の溶媒に対して
優れた溶解性、ならびに耐熱性、耐炎性等の優れた熱安
定性、ならびに優れた被覆形成性を有するので、耐熱性
材料、航空宇宙複合材料マトリックス、原子炉用複合材
料マトリックス、電気絶縁材料、電磁シールド用複合材
料マトリックス、燃料電池用高分子電解質(セパレータ
ー)前駆体および導波路等の光学材料など工業的に汎用
性の高い材料である。
【0096】また、本発明のポリシアノアリールエーテ
ルは、テトラフルオロベンゾニトリル誘導体をジヒドロ
キシ化合物との共重縮合反応に供することによって、特
別な設備を必要とすることなく、容易にかつ効率よく製
造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、合成例1で得られたPtFBNのIRスペ
クトルである。
【図2】は、合成例1で得られたPtFBNの1H−N
MRスペクトルである。
【図3】は、合成例1で得られたPtFBNの19F−N
MRスペクトルである。
【図4】は、実施例1で得られた2F−PEN−6FB
AのIRスペクトルである。
【図5】は、実施例1で得られた2F−PEN−6FB
Aの1H−NMRスペクトルである。
【図6】は、実施例1で得られた2F−PEN−6FB
Aの19F−NMRスペクトルである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 伊藤 正自 茨城県つくば市観音台1丁目25番地12 株 式会社日本触媒内 Fターム(参考) 4J005 AA24 BA00 BB02

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記式(1): 【化1】 ただし、R1は、置換基を有してもよい炭素原子数1〜
    12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1
    〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子
    数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい
    炭素原子数1〜12のアルキルチオ基、置換基を有して
    もよい炭素原子数6〜20のアリール基、置換基を有し
    てもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、置換
    基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールアミノ
    基または置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のア
    リールチオ基を表わし;R2は、2価の有機基を表わ
    し;ならびにnは重合度を表わす、で示されるポリシア
    ノアリールエーテル。
  2. 【請求項2】 該式(1)において、R1は置換基を有
    してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基を表
    わす、請求項1に記載のポリシアノアリールエーテル。
  3. 【請求項3】 下記式(2): 【化2】 ただし、R1は、置換基を有してもよい炭素原子数1〜
    12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1
    〜12のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子
    数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい
    炭素原子数1〜12のアルキルチオ基、置換基を有して
    もよい炭素原子数6〜20のアリール基、置換基を有し
    てもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、置換
    基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールアミノ
    基または置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のア
    リールチオ基を表わす、で示されるテトラフルオロベン
    ゾニトリル誘導体を、下記式(3): 【化3】 ただし、R2は、2価の有機基を表わす、で示されるジ
    ヒドロキシ化合物と塩基性触媒の存在下で重合すること
    からなる、請求項1に記載のポリシアノアリールエーテ
    ルの製造方法。
  4. 【請求項4】 該テトラフルオロベンゾニトリル誘導体
    とジヒドロキシ化合物との重合を200℃以下の温度で
    重合する、請求項3に記載の方法。
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