以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
第1実施形態
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るコイル部品の製造方法に用いるバレル装置1は、円柱状または角柱状のシリンダケーシング1aを有し、その中空の内部に、バレル容器2が、その軸芯回りに矢印A方向(またはその逆方向)に回転自在に収容してある。
ケーシング1aには、入口管3と出口管4とが、バレル容器2を挟んでケーシング1aの反対側に、それぞれ形成してある。入口管3からは乾燥用気体がケーシング1aの内部に入り込み、出口管4からケーシング内部の空気を排出可能になっている。
バレル容器2の内部における軸芯位置には、スプレーノズル5が軸方向に沿って配置してあり、ノズル5から、バレル容器2の内部に貯留してある多数のコア部品10に向けてスラリー6を吹き付け可能になっている。バレル容器2は、矢印A方向に回転するために、バレル容器2の内部に貯留してあるコア部品10は、バレル容器2の鉛直方向直下よりも回転方向A側に偏って集められ、バレル容器2の回転により撹拌される。
ノズル5は、バレル容器2の鉛直方向直下よりも回転方向A側に偏って集められるコア部品10の集合に向けてスラリー6を噴霧することができるようになっている。なお、ノズル5からのスラリーの噴霧方向を自由に変えられるようにしても良い。バレル容器2の下方に位置するケーシング1aには、図示省略してある排出パイプが接続してあり、余分なスラリー6を排出可能になっている。
バレル容器2の壁には、外部と内部とを連通する多数の孔が形成してあり、ケーシング1aの下方に貯留してあるスラリー6は、バレル容器2の内部にも侵入し、そのスラリー7にコア部品10を浸漬することができる。また、バレル容器2の壁には、外部と内部とを連通する多数の孔が形成してあることから、ケーシング1aに形成してある入口管3から出口管4へと、ケーシング1aの内部を流れる乾燥用気体がバレル容器2の内部にも流通するようになっている。
次に、図1に示すバレル装置を用いて、コイル部品を製造する方法について説明する。まず、図2に示すコア部品10を準備する。この実施形態のコア部品10は、Mn−Znフェライト、パーマロイなどの軟磁性金属、金属圧粉などの導電性磁性材で構成してあり、ドラムコア形状を有している。
このコア部品10は、円柱または角柱状の巻芯部12と、その巻芯部12の軸方向に沿って両側に一体的に形成してある一対の鍔部14とを有する。鍔部14の外径は、巻芯部12の外径よりも大きく、巻芯部12の外周には、鍔部14にて囲まれた凹部16が形成してあり、その凹部16に、後で、図5に示すように、コイル30が巻回される。
この実施形態では、巻芯部12の外径は、0.6〜1.2mmであり、巻芯部12の軸方向幅Wは、0.3〜1.0mm、鍔部14の外径は、2.0〜3.0mmであり、鍔部14の厚みは0.2〜0.3mm、鍔部14の外周表面から巻芯部12の外周表面までの深さをDは、0.5〜1.0mmである。しかも本実施形態では、D/Wが1以上、好ましくは1.0〜1.5である。なお、鍔部14の形状は、円形の他、四角形、八角形などでもよい。
このようなコア部品10を、図1に示すバレル容器2の内部に多数収容し、まず、ノズル5からスラリー6を吹き付ける。その際に、バレル容器2を回転させ、コア部品10を撹拌しながら、ノズル5からスラリー6を吹き付ける。
スラリー6は、ガラス粉末と、バインダ樹脂と、溶剤とを含む。または、さらにその他の添加物とを含んでいてもよい。アルカリ金属酸化物等のその他の添加物は、ガラス粉末中に既に含まれているのが通常である。添加物を混ぜ込んだガラスを作成し、これを砕いて粉末にしたものをガラス粉末として用いてスラリーを形成している。ガラス塗膜の軟化点を変えるためには、ガラス粉末に最初から含まれている添加物の量や種類が異なるガラス粉末を用いればよい。
このスラリー6中におけるガラス粉末に対するバインダ樹脂の含有量は、本実施形態では、初期と終期で変化し、初期時には、好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは15〜25重量%である。
また、スラリー6中におけるガラス粉末に対するバインダ樹脂の含有量は、塗布工程の終期には、好ましくは2〜10重量%、さらに好ましくは3〜8重量%である。スラリー6に含まれるバインダ樹脂はポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコール樹脂変性体、またはこれらの混合物であることが好ましい。その理由は、これらを含むガラス塗膜がフェライトコアなどの部品10との密着性に優れているからなどの理由による。
スラリー6に含まれるバインダ樹脂の含有量を切り替える方法としては、特に限定されないが、バインダ樹脂の含有量が異なる2種類以上のスラリー6を準備しておき、スプレー塗布の途中で、スラリー6の種類を変えればよい。あるいは、スラリー6に含まれるガラス粉末に対するバインダ樹脂の含有量を徐々に小さくするために、ガラス粉末を、徐々にスラリーに加えていくことでも良い。
また、本実施形態では、塗布工程の最終には、たとえばスラリー6に含まれるその他の添加物の種類を変化させたり、添加量を変化させたりする。あるいは、最初からガラス粉末中に含まれる添加物の種類や量の異なるガラス粉末を用いる。そのようにすることで、図4に示すガラス塗膜20の表層6cに位置する外側ガラス塗膜成分の軟化点を、その表層6cよりも内側に位置する第1下地膜6aおよび第2下地膜6bを構成する内側ガラス塗膜成分の軟化点よりも高く設定させる。
具体的には、外側ガラス塗膜成分の軟化点は、内側ガラス塗膜成分の軟化点よりも、好ましくは30〜100°C、さらに好ましくは50〜80°C高く設定される。外側ガラス塗膜成分と内側ガラス塗膜成分の軟化点の差が小さすぎると外側ガラス塗膜成分の軟化が進みすぎてしまい、差が大きすぎると外側ガラス塗膜成分をガラス化するために、内側ガラス塗膜成分に対して、必要以上の熱を加えなくてはならないからである。なお、ガラス塗膜成分の軟化点は、たとえば示差熱分析により測定される。
表層6cに位置する外側ガラス塗膜成分の軟化点を高く設定するための方法としては、スラリー6に含まれるその他の添加物の種類を変化させたり、添加量を変化させたりする以外に、ガラス粉末の種類を変化させても良い。ガラス粉末の種類が異なる場合というのは、鉛系やビスマス系のように、ガラス自体が異なる場合もあれば、添加物の量や種類が異なる場合もある。
スラリー6におけるガラス塗膜成分を切り替える方法は、スラリー6に含まれるバインダ樹脂の含有量を切り替える方法と同様にして行うことができる。スラリー6に含まれるその他の添加物としては、Na2 O、K2 O、CaO等のアルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物などが例示される。
図3はバインダ樹脂が相対的に多く含まれるスラリー6により塗布初期に形成される第1下地膜6aが形成された状態を示し、図4は、その第1下地膜6aの表面にバインダ樹脂が相対的に少なく含まれるスラリー6により形成される第2下地膜6bと、第1下地膜6aおよび第2下地膜6bよりも軟化点が高く設定してある表層6cが形成された状態を示す。
スラリー6におけるガラス塗膜成分を切り替えるタイミングについては、たとえば第1下地膜6aの膜厚t1、第2下地膜6bの膜厚t2および表層6c膜厚t3などにより決定される。たとえば第1下地膜6a、第2下地膜6bおよび表層6cからなるガラス塗膜20の合計膜厚をtcとした場合に、好ましくはt1/tcが1/8〜1/2であり、t2/tcが1/8〜1/2であり、t3/tcが1/8〜1/2となるように、スラリーにおけるガラス塗膜成分が切り替えられる。特に、t3/tcは、さらに好ましくは1/8〜1/5である。
ガラス塗膜20の合計膜厚tcは、好ましくは5〜30μmである。薄すぎると、ガラス塗膜としての効果が少なく、厚すぎると、応力により塗膜が剥がれるおそれがあると共に経済的ではない。
第1下地膜6aおよび第2下地膜6bに含まれるガラス粉末の軟化点は300℃以上800℃以下であることが好ましい。また、表層6cに含まれるガラス粉末の軟化点は300℃以上920℃以下であることが好ましい。このような軟化点をもつガラス粉末を使用することにより、バインダ樹脂の熱分解温度からガラスの軟化点までの温度領域を狭くするか、無くすることが可能となる。そのために、焼成工程においてガラスの軟化点まで昇温する間のガラス粉層の形状を保持できるので好ましい。また、300℃以上と規定したのは、多くのガラス粉末の軟化点が300℃以上であることによる。
本実施形態では、表層6cに含まれるガラス粉末の軟化点は、第1下地膜6aおよび第2下地膜6bに含まれるガラス粉末の軟化点に対して、同じでも良いが、好ましくは30〜100°C高いことが好ましい。なお、ガラス粉末自体の軟化点は、たとえば示差熱分析により測定される。
第1下地膜6a、第2下地膜6bおよび表層6cに含まれるガラス粉末の平均粒径(メジアン径)は、同じであっても異なっていても良く、特に限定されないが、好ましくは、0.1μm以上10μm以下の範囲である。ガラス粉末としては、シリカ系ガラスの中からシリカ−ボロン系のガラスが好ましく、たとえばホウ珪酸鉛系ガラス、ホウ珪酸ビスマス系ガラス、ホウ珪酸亜鉛系ガラス等の非晶質ガラス粉末や結晶化ガラス粉末等がよい。
溶剤は、水を含むことが好ましい。溶剤は水100%でもよいが、ガラス粉末の表面と水との接触角が大きいときは、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、IBA(イソブチルアルコール)等の水溶性のアルコールを一定の割合で混ぜることにより、ガラス粉末の凝集や沈降を抑制することが好ましい。
図1に示すバレル容器2を回転させて部品10を容器2内で撹拌させながら、これらの部品10にノズル5からスラリー6を吹き付ける。部品10に吹き付けられたスラリー6は、各部品10の表面を覆い、余分なスラリー6は、図示省略してあるパイプを通して排出される。バレル容器2を回転させて部品10にノズル5からスラリー6を吹き付ける処理時間は、特に限定されないが、たとえば30〜180分程度である。
スプレー時のスラリー6の温度は、溶剤の組成にもよるが40℃以上100℃以下が好ましい。沸点の低い溶剤を使用する場合は、上記温度範囲内で温度を下げることが好ましい。
被処理対象である部品10の量が少ない場合は、部品10と比重及び体積の近いボールをメディアとしてバレル容器2内に投入し、メディア及び部品10の量を一定に保ってもよい。
次に、スラリーをスプレーしながら同時にガラス塗膜の乾燥処理を行う。乾燥処理では、入口管3から乾燥用気体をケーシング1aの内部に流し込み、出口管4から排出させる。図4に示すように、部品10の表面に塗布された第1下地膜6a、第2下地膜6bおよび表層6cからなるガラス塗膜20を乾燥させる。この乾燥処理に用いる乾燥用気体は、たとえば温度50〜100°Cの空気である。スプレー終了後さらに乾燥処理を、たとえば5〜30分行ってもよい。
スラリー6をノズル5から吐出する時の周速度Vs1は、好ましくは0.01m/sec以上0.1m/sec以下であり、好ましくは0.01m/sec以上0.08m/sec以下、さらに好ましくは0.01m/sec以上0.06m/sec以下である。
図4に示すように、乾燥処理後の部品10の表面には、第1下地膜6a、第2下地膜6bおよび表層6cからなるガラス塗膜20が形成される。乾燥処理後の第2下地膜6bに対する第1下地膜6aの引っ掻き試験による塗膜強度の比は2倍以上である。2倍以上に設定することで、第2下地膜6bにおける犠牲膜としての効果(後述)が向上する。
引っ掻き試験は、ロードセルに連結されたナイフエッジ(デザインナイフ/コクヨ製HA-F30用替刃)を、試験用コア部品の表面に形成された各下地膜6aおよび6bまたは表層6cに垂直に押し当てて、引っ掻き試験を行い、コア部品の表面が露出するまでの力をロードセルにより測定することで行う。たとえばバインダ樹脂の含有量が5重量%である場合には塗膜強度が約7Nであるのに対して、バインダ樹脂の含有量が25重量%および30重量%である場合には、約22N程度になる。
乾燥処理後には、部品10は、バレル容器2から取り出され、焼成(硬化)処理される。焼成条件は、ガラス塗膜20に含まれるガラス粉末の軟化点などに応じて決定され、第1下地膜6aおよび第2下地膜6bを構成する内側ガラス塗膜成分の軟化点よりも高い温度で、且つ表層6cを構成する外側ガラス塗膜成分の軟化点よりも低い温度で、ガラス塗膜20を焼成する。具体的には、焼成温度は、好ましくは600〜800°Cであり、焼成時間は、5〜30分である。ガラス塗膜20の膜厚は、焼成後においては、好ましくは2〜30μm、さらに好ましくは5〜20μmである。焼成前に脱バインダ処理を行っても良い。脱バインダ処理は、熱処理温度が焼成処理に比較して低いため、部品本体の酸化を心配する必要が無く、空気中で行っても良い。
焼成は、酸素分圧0.1%以下での窒素ガス雰囲気下で焼成を行うことが好ましい。酸素分圧を低くすることで、たとえばMn−Zn系フェライトなどのコア部品の酸化を防止することができる。Mn−Zn系フェライトは、酸化されるとヘマタイトが形成され、特性劣化の原因となる。また、Ni−Zn系フェライトにおいても、組成によっては酸化の課題を有する。
なお、酸素分圧を低くするのは、焼成時においてガラス塗膜6aが軟化するまででよい。ガラス塗膜6aが軟化した後は、部品10は、酸素分圧が高い状態、たとえば空気中で焼成しても良い。焼成の後には、部品10は冷却される。
その後に、図5に示すように、各コア部品10における一方の鍔部14の端面に、銀、チタン、ニッケル、クロム、銅などで構成された一対の端子電極32を、印刷、転写、浸漬、スパッタ、メッキ法などで形成する。端子電極32は、コア部品10が導電性であっても、ガラス塗膜20のために絶縁されている。
その後に、巻芯部12の周囲にワイヤ30を巻回し、そのワイヤの両端を、それぞれ端子電極32に熱圧着、超音波やレーザなどによる溶接、はんだ法などで接続し、コイル部品が完成する。なお、図5では、説明の容易化のために、第1下地膜6a、第2下地膜6bおよび表層6cを区別して描いてあるが、焼成後には、これらは区別が付かない状態に一体化してガラス化される。ただし、焼成の条件などによっては脱バインダ処理時に発生した気泡がガラス硬化膜内に残り、気泡の数や大きさによって、第1下地膜と第2下地膜と表層との区別がつく場合もある。なお、ガラス化とは、連続された非晶質な個体膜で、結晶と同程度の剛性を持つ状態になることと定義される。
本実施形態に係るコイル部品の製造方法では、バレル容器2の内部で複数の部品10を動かしながら、複数の部品10に、スラリー6を吹き付けて部品10の表面にガラス塗膜20を形成する。そのため、一度に多量の部品10の表面に対して、ほぼ均一にガラス塗膜20を形成することができる。すなわち、大量生産が可能になる。
しかも、本実施形態に係るコイル部品の製造方法では、コア部品10を直接に覆っている第1下地膜6aよりも、ガラス塗膜20の表面に近い側に位置する第2下地膜6bで、ガラス塗膜20の強度が低いように、ガラス塗膜20を形成する。そのため、ガラス塗膜20を形成する際に、製品同士が接触し、ぶつかり合ったとしても、ガラス塗膜20の表面に位置する第2下地膜bが犠牲膜となり、欠けたりすることはあるが、コア部品10を直接に覆っている第1下地膜6aは残ることになる。第1下地膜6aは、バインダ樹脂を多く含むため、コア部品10との密着性にも優れている。
すなわち、本実施形態に係る方法では、仮に表層6cおよび第2下地膜6bが欠けたとしても、第2下地膜6bが残り、コア部品10の表面が完全に露出することが少ない。また、第1下地膜6aが残れば、ガラス塗膜20の焼成処理による熱のために、周囲の第2下地膜2が軟化して、膜厚の薄い部分が補修され、熱処理後には、比較的に均一な膜厚のガラス硬化膜20’(図5参照)が得られる。
また、本実施形態では、ガラス塗膜20の表面側でバインダ濃度が低くなり、ガラス塗膜20を焼成することなどで焼成処理した後には、バインダ濃度が低い第2下地膜6bおよび表層6cは、バインダ濃度が高い第1下地膜6aよりも脆くなく機械的強度が高くなる。たとえばバインダ樹脂の含有量が30重量%の第1下地膜では、焼成後の引っ掻き試験による膜強度が10Nであるのに対して、バインダ樹脂の含有量が5重量%の第2下地膜6bおよび表層6cでは、焼成後の引っ掻き試験による膜強度が35Nと高くなる。
さらに本実施形態では、ガラス塗膜20を形成する際に、コア部品10にガラス塗膜20を塗布形成する初期から終期に向かう途中で、急に、ガラススラリーの種類を変化させる。このようにすることで、ガラス塗膜20における膜厚方向の塗膜強度の変化が急激になり、第2下地膜6bにおける犠牲膜としての効果が向上する。
特に本実施形態では、焼成の過程でガラス塗膜の表層6cの全体又は少なくとも表層6cの表面は軟化点が焼成温度よりも高いことから軟化しないか、もしくは軟化の初期段階の粘度が低い状態にしか至らないと考えられ、そのため、部品10同士のくっつきや焼成炉への付着によるガラス塗膜20の欠けや膜厚バラツキを有効に防止することができる。また、ガラス塗膜20への異物の付着をも有効に防止することができる。しかも、必ずしも理由は明らかではないが、表層6cのガラス塗膜成分も、それよりも内側に位置する第1および第2下地膜6a,6bと同様にガラス化されて硬化することが確認されている。内側に位置する第1および第2下地膜6a,6bガラス化に影響を受けるためと考えられる。
第2実施形態
この実施形態では、図4に示すガラス塗膜20の第1下地膜6aと第2下地膜6bとで、塗膜強度差を設けるために、スラリー6中に含まれるバインダの種類を、スプレー塗布の途中で変化させる以外は、第1実施形態と同様であり、同様な作用効果を奏するので、重複する説明は省略する。
この実施形態では、たとえば第1下地膜6aに含まれるバインダ樹脂に比較して、第2下地膜6bに含まれるバインダ樹脂の分子量を小さくしてある。一般に、バインダ樹脂の分子量が大きいと、そのバインダ樹脂を含むスラリーによる塗膜の強度が高くなる。ただし、分子量が高すぎると、スラリー化が困難になり、スプレー塗布が困難になる傾向にある。
そこで、下記の組み合わせが好ましい。すなわち、第1下地膜に含まれるバインダ樹脂が、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂であり、第2下地膜に含まれるバインダ樹脂がエチルセルロース樹脂またはアクリル樹脂である。
第3実施形態
この実施形態では、図4に示すガラス塗膜20の第1下地膜6aと第2下地膜6bとで、塗膜強度差を設けるために、スラリー6中に含まれるガラス粒子の粒径を、スプレー塗布の途中で変化させる以外は、第1実施形態と同様であり、同様な作用効果を奏するので、重複する説明は省略する。
この実施形態では、たとえば第1下地膜6aに含まれるガラス粒子の粒径に比較して、第2下地膜6bに含まれるガラス粒子の粒径を小さくすることで、ガラス塗膜20の膜厚方向に強度差を生じさせ、ガラス塗膜20の外表面に対して内表面の塗膜強度を高くすることができる。たとえば第1下地膜に含まれるガラス粒子の粒径を0.75〜1.5μmとし、第2下地膜に含まれるガラス粒子の粒径を0.3〜0.7μmとすることが好ましい。
第4実施形態
この実施形態では、図4に示すガラス塗膜20の第1下地膜6aと第2下地膜6bとで、塗膜強度差を設けるために、スラリー6中に含まれるガラス粒子の種類を、スプレー塗布の途中で変化させる以外は、第1実施形態と同様であり、同様な作用効果を奏するので、重複する説明は省略する。
この実施形態では、たとえば第1下地膜6aに含まれるガラス粒子に比較して、第2下地膜6bに含まれるガラス粒子の種類を、強度が弱いものを選択することで、ガラス塗膜20の膜厚方向に強度差を生じさせ、ガラス塗膜20の外表面に対して内表面の塗膜強度を高くすることができる。
第5実施形態
この実施形態では、図4に示すガラス塗膜20の第1下地膜6aと第2下地膜6bとを同じガラス塗膜成分で構成する以外は、第1実施形態と同様であり、同様な作用効果を奏するので、重複する説明は省略する。
この実施形態では、たとえば第2下地膜6bを、第1下地膜6aと同じガラス塗膜成分とする。あるいは、第1下地膜6aを、第2下地膜6bと同じガラス塗膜成分としてもよい。
しかも、この実施形態では、下地膜6a,6bおよび表層6cに含まれるガラス粉末は、好ましくは、0.75〜1.5μm、さらに好ましくは1.0〜1.5μmの間に平均粒径(メジアン径)のピークが存在するものが用いられる。第1〜第4実施形態に比較して、大きな平均粒径のガラス粉末が用いられる。
ガラス粉末の粒径分布は、平均粒径のピークがシャープであることが好ましく、平均粒径±0.2μmの範囲内のガラス粉末が、ガラス粉末の全体の70重量%以上であることが好ましい。
この実施形態に係るコイル部品の製造方法では、0.75〜1.5μmの間に平均粒径のピークが存在するガラス粉末を用いているために、ガラス塗膜20を熱処理して脱バインダ処理する際に、バインダがガラス塗膜20から抜けやすくなり、ガラス塗膜20中のバインダ濃度を高めることができる。バインダ濃度を高くすることで、焼成前のガラス塗膜20の塗膜強度が高くなる。そのため、ガラス塗膜20を形成する際に、製品同士が接触して衝突し合ったとしても、ガラス塗膜20が欠けたりすることを有効に防止することができる。
なお、この実施形態では、表層6cに含まれるバインダの濃度は、下地膜6a,6bに比較して低くしても良い。すなわち、表層6cに含まれるバインダの濃度を、下地膜6a,6bに比較して、第1実施形態における第1下地膜6aと第2下地膜6bとの関係と同様に低くしてもよい。その場合には、表層6cが犠牲膜となる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえば、上述した実施形態では、スプレーと同時に乾燥処理を行なったが、第1下地膜6a、第2下地膜6bおよび表層6cをスプレー塗布により連続して形成した後に乾燥処理を行ってもよい。また第1下地膜6aおよび第2下地膜6bを形成した後に、乾燥処理を行い、その後に表層6cを形成して乾燥処理を行っても良い。また、第1下地膜6aと第2下地膜6bとの間に、乾燥処理を行っても良い。
さらに、上述した実施形態では、焼成前の状態で、第1下地膜6aと第2下地膜6bと表層6cとの各境界が明確であるが、かならずしも明確でなくても良い。スラリーの成分が徐々に変化する場合などには、これらの境界は必ずしも明確ではない。
また、本発明の方法により処理される部品本体としては、コイル部品のコア部品10に限らず、トランス等のインダクティブデバイスのコアでもよい。また、コアの材質は、特に限定されず、例えばフェライト、アルミナ、鉄などからなるものであってもよい。さらに、本発明の方法で処理される部品としては、バリスタ、サーミスタ、コンデンサ、コイル等のセラミック積層チップ部品、Nd−Fe系金属磁石などでもよい。
さらに、上述した実施形態では、ガラス塗膜20を絶縁膜として用いたが、その他の用途、たとえば緩衝膜として用いることも可能である。緩衝膜を付けることで、部品10が硬い場合に、部品10を取り扱う工具の摩耗を低減することができる。また、ガラス塗膜20を焼成して得られるガラス硬化膜20’は、部品10を保護するための膜として用いても良い。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1
図1に示すバレル容器2の外径が200mmのバレル装置1を準備し、図2に示すコア部品10に対してガラス塗膜を形成した。コア部品10は、Mn−Zn系のフェライトで構成され、鍔14の直径が3mm、顎14の厚みが0.25mm、寸法Dが0.8mm、寸法Wが0.6mmであった。
まず、軟化点が740℃で平均粒径が1.0μmのシリカ系のガラス粉末を作製し、当該ガラス粉末とポリビニルアルコール樹脂とを所定の重量比で混合した。さらに、得られた固形成分(ガラス粉末及びポリビニルアルコールの混合物)と溶剤とを所定の重量比で混合し、16時間ボールミルでかき混ぜて第1スラリーを準備した。溶剤としては、水とエタノールを8:2で混合したものを用いた。第1スラリー中のガラス粉末に対するバインダ樹脂の含有量は、25重量%であった。第1スラリーにより形成される塗布膜の軟化点は、740℃であった。
また、軟化点が740℃で平均粒径が1.0μmのシリカ系のガラス粉末を作製し、当該ガラス粉末とポリビニルアルコール樹脂とを所定の重量比で混合した。さらに、得られた固形成分(ガラス粉末及びポリビニルアルコールの混合物)と溶剤とを所定の重量比で混合し、16時間ボールミルでかき混ぜて第2スラリーを準備した。溶剤としては、水とエタノールを8:2で混合したものを用いた。第2スラリー中のガラス粉末に対するバインダ樹脂の含有量は、10重量%であった。第2スラリーにより形成される塗布膜の軟化点は、740℃であった。
さらに、軟化点が780℃で平均粒径が1.0μmのシリカ系のガラス粉末を作製し、当該ガラス粉末とポリビニルアルコール樹脂とを所定の重量比で混合した。さらに、得られた固形成分(ガラス粉末及びポリビニルアルコールの混合物)と溶剤とを所定の重量比で混合し、16時間ボールミルでかき混ぜて表層用スラリーを準備した。溶剤としては、水とエタノールを8:2で混合したものを用いた。表層用スラリー中のバインダ樹脂の含有量は、10重量%であった。表層用スラリーにより形成される塗布膜の軟化点は、780℃であり、第1スラリーおよび第2スラリーに比較して、40℃高く、30〜100℃の範囲で高いことが確認された。
次に、図1に示すバレル装置1のバレル容器2内に部品10を900g投入し、部品10の表面に、まず、上述した第1スラリーを用いたスプレー処理により、膜厚t1が10μmの第1下地膜6aを形成した。引き続き、第2スラリーを用いたスプレー処理により、膜厚t2が10μmの第2下地膜6bを形成した。さらに引き続き、表層用スラリーを用いたスプレー処理により、膜厚t3が5μmの表層6cを形成した。
ガラス塗膜20の合計膜厚tcは25μmであった。バレル容器2の回転スピードは5rpm(周速0.05m/s)でスラリー吐出量、コーティング時間は適宜調整した。スプレーと同時に、温風温度70℃で乾燥処理した。
その後に、バレル容器2から部品10を取り出し、得られた部品10を760℃で1時間焼成した。その焼成温度は、下地膜6a,6bの軟化点よりも高く、表層6cの軟化点の温度よりも低い温度であった。
1000個の部品10について、目視により、ガラス塗膜20におけるコア部品10の表面が見える欠陥(素地見え欠陥)がある部品10の個数を調べた。素地見え欠陥がある部品10の発生率は、0.0%であった。また、引っ掻き試験による第2下地膜に対する第1下地膜の膜強度(焼成前)の比は、2.0倍であり2倍以上であった。
さらに、同じ個数の部品10について、焼成後のガラス硬化膜20’の膜厚バラツキを測定したところ、平均膜厚が10μmに対して、膜厚のバラツキを示す標準偏差σは、0.90であり、膜厚のバラツキも少ないことが確認できた。
また、同じ個数の部品10について、焼成後のガラス塗膜20に対するゴミなどの異物の付着を測定したところ、異物の付着が観察された部品の割合は、0.1%であり、異物の付着が少ないことが確認された。
実施例2
表層用スラリーにより形成される塗布膜の軟化点が、850℃となるように、第1スラリーおよび第2スラリーに比較して、軟化点が90℃高い表層用スラリーが用いられた以外は、実施例1と同様にして、複数のコア部品10を作製し、素地見え欠陥の発生率を調べた。素地見え欠陥がある部品10の発生率は、0.0%であった。
なお、実施例1と異なる軟化点を持たせるために、表層用スラリーは、以下のようにして作製した。すなわち、第2スラリーに対して、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物の添加量を減らしたスラリーを表層用スラリーとして用いた。
また、同じ個数の部品10について、焼成後のガラス硬化膜20’の膜厚バラツキを測定したところ、平均膜厚が10μmに対して、膜厚のバラツキを示す標準偏差σは、0.93であり、膜厚のバラツキが少ないことが確認された。
また、同じ個数の部品10について、焼成後のガラス硬化膜20に対するゴミなどの異物の付着を測定したところ、異物の付着が観察された部品の割合は、0.1%であり、異物の付着が少ないことが確認された。
比較例1
表層用スラリーおよび第2スラリーを用いないで、第1スラリーのみを用いて、合計膜厚tc=20μmの第1下地膜をコア部品10の表面に形成した以外は、実施例1と同様にして、複数のコア部品10を作製し、素地見え欠陥の発生率を調べた。素地見え欠陥がある部品10の発生率は、2.2%であった。
また、焼成前の状態で、引っ掻き試験による第1下地膜の塗膜強度を調べたところ28Nであった。また、焼成後には、引っ掻き試験による第1下地膜の膜強度を調べたところ32Nであった。
さらに、同じ個数の部品10について、焼成後のガラス硬化膜20’の膜厚バラツキを測定したところ、平均膜厚が10μmに対して、膜厚のバラツキを示す標準偏差σは、2.8であり、膜厚のバラツキが大きいことが確認された。
また、同じ個数の部品10について、焼成後のガラス硬化膜20’に対するゴミなどの異物の付着を測定したところ、異物の付着が観察された部品の割合は、70%であり、異物の付着が多いことが確認された。
比較例2
表層用スラリーおよび第1スラリーを用いないで、第2スラリーのみを用いて、合計膜厚tc=20μmの第2下地膜をコア部品10の表面に形成した以外は、実施例1と同様にして、複数のコア部品10を作製し、素地見え欠陥の発生率を調べた。素地見え欠陥がある部品10の発生率は、20.7%であった。
また、焼成前の状態で、引っ掻き試験による第1下地膜の塗膜強度を調べたところ14Nであった。また、焼成後には、引っ掻き試験による第1下地膜の塗膜強度を調べたところ35Nであった。
さらに、同じ個数の部品10について、焼成後のガラス塗膜20の膜厚バラツキを測定したところ、平均膜厚が10μmに対して、膜厚のバラツキを示す標準偏差σは、2.2であり、膜厚のバラツキが大きいことが確認された。
また、同じ個数の部品10について、焼成後のガラス塗膜20に対するゴミなどの異物の付着を測定したところ、異物の付着が観察された部品の割合は、70%であり、異物の付着が多いことが確認された。