以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
フェライトコア
本発明に係るフェライトコアの形状は、図1に示したドラム型のほか、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、トロイダル型、ポット型、カップ型等を例示することができる。本実施形態では、図1に示すように、フェライトコア1はドラムコア形状を有しており、コア部2の表面全体に被覆層10が形成された構成を有している。
コア部
コア部2は、円柱または角柱状の巻芯部4と、その巻芯部4の軸方向に沿って両側に一体的に形成してある一対の鍔部5とを有する。鍔部5の外径は、巻芯部4の外径よりも大きく、巻芯部4の外周には、鍔部5にて囲まれた凹部6が形成してある。そして、その凹部6にワイヤ30を巻回することでコイル部品とされる。
コア部2の寸法は、特に制限されないが、本実施形態では、巻芯部4の外径は0.6〜1.2mmであり、巻芯部4の軸方向幅は0.3〜1.0mm、鍔部5の外径は2.0〜3.0mmであり、鍔部5の厚みは0.2〜0.3mm、鍔部5の外周表面から巻芯部4の外周表面までの深さは、0.5〜1.0mmである。なお、鍔部5の形状は、円形の他、四角形、八角形などでもよい。
コア部2は、本実施形態に係るフェライト組成物で構成してある。
本実施形態に係るフェライトコアは、25℃,50℃及び59℃における磁束密度(Bs)と電力損失(Pcv)から得られる品質係数である、Pcv/Bsが、被覆層形成後に、2未満、好ましくは1.9未満となるように組成比を決定している。すなわち、環境温度あるいは使用温度が、室温付近もしくは外気温付近から従来の電源用トランスの動作温度より低い温度範囲(25〜59℃、好ましくは25〜50℃)の範囲にある部品として好適である。しかも、電力損失の低減と高い飽和磁束密度とを両立しているため、省電力を実現することができる。
本実施形態に係るフェライトコアは、被服層形成後の飽和磁束密度(Bs)は、25℃では450mT以上、好ましくは460mT以上とすることができ、50℃では430mT以上、好ましくは435mT以上とすることができ、59℃では420mT以上、好ましくは425mT以上とすることができる。これにより、高い飽和磁束密度を維持しつつ、電力損失を低減することができ、省電力を実現することができる。
本実施形態に係るフェライト組成物は、主成分が、酸化鉄をFe2 O3 換算で52.5〜55.5モル%、酸化亜鉛をZnO換算で8.0〜19.0モル%を含有し、残部が酸化マンガンで構成される。
酸化鉄の含有量が少ない場合には、電力損失(Pcv)が増加し、磁束密度(Bs)が減少する。また多すぎると磁束密度(Bs)の増加は見られるものの、電力損失(Pcv)の増加が顕著である。
酸化亜鉛の含有量が少ない場合には、磁束密度(Bs)の増加は見られるものの、電力損失(Pcv)の増加が顕著である。また多すぎると磁束密度(Bs)が減少する。
本実施形態に係るフェライト組成物は、上記の組成範囲の主成分に加え、副成分として、酸化ケイ素および酸化カルシウムを含有している。このような副成分を含有させることで、電力損失の絶対値を小さくし、かつ高い飽和磁束密度を得ることができる。
酸化ケイ素の含有量は、主成分100重量%に対して、SiO2 換算で、50〜300ppmである。酸化ケイ素の含有量が多くても少なすぎても、高周波数領域での電力損失が劣化する傾向にある。
酸化カルシウムの含有量は、主成分100重量%に対して、CaO換算で、110〜1120ppmである。酸化カルシウムの含有量が多くても少なすぎても、高周波数領域での電力損失が劣化する傾向にある。
また、本実施形態に係るフェライト組成物は、上記主成分および副成分の他に、CdおよびPbを含有している。このような成分を所定の範囲に制御することにより、高周波数領域での電力損失の劣化を防止することができる。
Pbの含有量は、主成分100重量%中に、7ppm以下、好ましくは2〜7ppmである。その含有量が、主成分100重量%中に、7ppmを超えると、高周波数領域での電力損失が劣化する傾向にある。
Cdの含有量は、主成分100重量%中に、7ppm以下、好ましくは2〜7ppmである。その含有量が、主成分100重量%中に、7ppmを超えると、高周波数領域での電力損失が劣化する傾向にある。
PbおよびCdは、主成分原料である酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン中に含まれることがある。主成分中のPbおよびCdの含有量が所定の範囲を超えると、高周波数領域での電力損失が劣化する傾向にあることが、本願発明者らによって見出された。そこで、本発明では、原料中のCdおよびPdの含有量を厳密に管理し、上記の範囲内となるようにする。なお、PbおよびCdの含有量を所定の範囲に制御する方法は、特に限定されない。
この他、本実施形態に係るフェライト組成物には、原料中の不可避的不純物元素の酸化物が数ppm〜数百ppm程度含まれ得る。
具体的には、B、C、S、Cl、As、Se、Br、Te、Iや、Li、Na、Mg、Al、K、Ga、Ge、Sr、In、Sn、Sb、Ba、Bi等の典型金属元素や、Sc、Ti、V、Cr、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素が挙げられる。
また、コア部2の熱膨張係数は、フェライト組成物の組成により変化するが、おおむね9×10−6 /℃〜10×10−6 /℃程度である。
被覆層
被覆層10の材質としては、コア部2の熱膨張係数以下である熱膨張係数を有するものであれば、特に制限されず、たとえば、ガラス組成物、SiO2 、B2 O3 、ZrO2 等が例示される。なお、被覆層10は複数の材質から構成されていてもよいし、複数の層からなる積層構造を有していてもよい。
本実施形態では、被覆層10はガラス組成物から構成されることが好ましい。ガラス組成物としては、コア部2の表面に非晶質の状態で形成されるもの、あるいは結晶化ガラスとして形成されるものであれば特に制限されず、たとえば、Si−B系ガラス(ホウケイ酸ガラス)、無アルカリガラス、鉛系ガラス等が例示される。
ガラス組成物の熱膨張係数は、ガラス組成物に含有される成分の組成や、各成分の含有量等により変化する。したがって、ガラス組成物の熱膨張係数が、コア部2の熱膨張係数以下となるように、成分の組成や含有量を適切に設定する必要がある。
被覆層10は、電力損失の改善効果が得られる程度に被覆されていれば特に限定されないが、コア部2の表面の少なくとも一部に形成されていればよく、コア部2の表面積に対して、被覆層が形成される割合(被覆率)を、好ましくは50〜100%、より好ましくは90〜100%とする。被覆率が高くなるほど、コア部2の欠け等を防止する保護層としての役割も大きくなる。
なお、図1では、被覆率が100%の場合を示している。また、コア部2において、ワイヤ等が巻回される部分(本実施形態では凹部6)付近に被覆層10が形成されていると、より高い効果が得られやすい。
被覆層10の厚みは、電力損失の改善効果が得られる程度の厚みであれば特に限定されないが、好ましくは0μm超50μm以下、より好ましくは5μm以上25μm以下である。被覆層10が形成されていれば、電力損失が改善されるが、被覆層が厚くなりすぎると、電力損失の改善効果に対する寄与が少なく、製造コストが増加する傾向にある。また、被覆層がある程度の厚みを有していると、コア部の保護層としての機能を果たすこともできる。そのため、被覆層10の厚みは上記の範囲内であることが好ましい。
さらに、被覆層10が絶縁性を有していれば、コア部2が導電性であっても、巻回されるワイヤとの絶縁を確保することができる。
次に、本実施形態に係るフェライトコアとして、被覆層10がガラス組成物で構成されているフェライトコアの製造方法の一例を説明する。
まず、コア部2を構成するフェライト組成物の原料を準備するため、出発原料(主成分の原料および副成分の原料)を、所定の組成比となるように秤量して混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、たとえば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。なお、平均粒径が0.1〜3μmの出発原料を用いることが好ましい。
主成分の原料としては、酸化鉄(α−Fe2 O3 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マンガン(Mn3 O4 )、あるいは複合酸化物などを用いることができる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。なお、主成分中の酸化マンガンの含有量はMnO換算で計算されるが、主成分の原料としては、Mn3 O4 が好ましく用いられる。
副成分の原料としては、主成分の原料の場合と同様に、酸化物だけではなく複合酸化物や焼成後に酸化物となる化合物を用いればよい。酸化ケイ素(SiO2 )の場合には、SiO2 を用いることが好ましい。また、酸化カルシウム(CaO)の場合には、炭酸カルシウム(CaCO3 )を用いることが好ましい。
なお、CdおよびPbについては、主成分の原料である酸化鉄、酸化亜鉛および酸化マンガンに含まれることがある。そのため、CdおよびPbの含有量の異なる種々の酸化鉄、酸化亜鉛および酸化マンガン原料の使用量を調整することで、CdおよびPbの含有量を調整することができる。
次に、原料混合物の仮焼きを行い、仮焼き材料を得る。仮焼きは、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。こうした仮焼きは、好ましくは800〜1100℃の温度で、通常1〜3時間程度行う。仮焼きは、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気や純酸素雰囲気で行っても良い。なお、主成分の原料と副成分の原料との混合は、仮焼きの前に行なってもよく、仮焼き後に行なってもよい。
次に、仮焼き材料の粉砕を行い、粉砕材料を得る。粉砕は、仮焼き材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。仮焼き材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、仮焼き材料の平均粒径が、好ましくは1〜2μm程度となるまで行う。
次に、粉砕材料の造粒(顆粒)を行い、造粒物を得る。造粒は、粉砕材料を適度な大きさの凝集粒子とし、成形に適した形態に変換するために行われる。こうした造粒法としては、たとえば、加圧造粒法やスプレードライ法などが挙げられる。スプレードライ法は、粉砕材料に、ポリビニルアルコールなどの通常用いられる結合剤を加えた後、スプレードライヤー中で霧化し、低温乾燥する方法である。
次に、造粒物を所定形状に成形し、成形体を得る。造粒物の成形としては、たとえば、乾式成形、湿式成形、押出成形などが挙げられる。乾式成形法は、造粒物を、金型に充填して圧縮加圧(プレス)することにより行う成形法である。成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜決定すればよいが、本実施形態ではドラムコア形状とされる。
次に、成形体の本焼成を行い、焼結体(コア部2)を得る。本焼成は、多くの空隙を含んでいる成形体の粉体粒子間に、融点以下の温度で粉体が凝着する焼結を起こさせ、緻密な焼結体を得るために行われる。このような本焼成は、好ましくは900〜1300℃の温度で、通常2〜5時間程度行う。本焼成は、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気で行っても良い。
次に得られたコア部2に対して、図2に示すバレル装置を用いて、コア部2の表面に、ガラス組成物、バインダ樹脂等から構成される熱処理前の被覆層10aを形成する。
図2に示すバレル装置20は、円柱状または角柱状のシリンダケーシング20aを有し、その中空の内部に、バレル容器22が、その軸芯回りに矢印A方向(またはその逆方向)に回転自在に収容してある。
ケーシング20aには、入口管23と出口管24とがそれぞれ形成してある。入口管23からは乾燥用気体がケーシング20aの内部に入り込み、出口管24からケーシング内部の空気を排出可能になっている。
バレル容器22の内部における軸芯位置には、スプレーノズル25が軸方向に沿って配置してあり、ノズル25から、バレル容器22の内部に貯留してある多数のコア部2に向けてスラリー26を吹き付け可能になっている。バレル容器22は、矢印A方向に回転するために、コア部2は、図2に示すような状態で存在し、バレル容器22の回転により撹拌される。
ノズル25は、コア部2の集合に向けてスラリー26を噴霧することができるようになっている。なお、ノズル25からのスラリーの噴霧方向を自由に変えられるようにしても良い。また、ケーシング20aには、図示省略してある排出パイプが接続してあり、余分なスラリー26を排出可能になっている。
バレル容器22の壁には、外部と内部とを連通する多数の孔が形成してあり、ケーシング20aの下方に貯留してあるスラリー26は、バレル容器22の内部にも侵入し、そのスラリー26にコア部2を浸漬することができる。また、乾燥用気体が入口管23からケーシング20aを通り出口管24へと流通する際には、バレル容器22の内部にも流通するようになっている。
熱処理前の被覆層10aを形成するために、まず、コア部2を、図2に示すバレル容器22の内部に多数収容する。そして、バレル容器22を回転させ、コア部2の集合を撹拌しながら、ノズル25からスラリー26を吹き付けて、熱処理前の被覆層10aを形成する。
スラリー26は、上述したガラス組成物を粉砕して得られるガラス粉末と、バインダ樹脂と、溶剤とを含む。さらにその他の添加物を含んでいてもよい。ガラス組成物は、該組成物を構成する酸化物、ハロゲン化物等の非酸化物等の原料を混合、溶融し、急冷して非晶質とすればよい。また、ガラス組成物として、結晶化ガラスを用いてもよい。本実施形態では、ガラス粉末としてSi−B系ガラスを用いる。ガラス粉末の平均粒径(メジアン径)は、特に限定されないが、好ましくは、0.1μm以上10μm以下の範囲である。
スラリー26に含まれるバインダ樹脂はポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコール樹脂変性体、またはこれらの混合物であることが好ましい。このようにすることで、形成される熱処理前の被覆層10aは、コア部2との密着性に優れる。
溶剤は、水を含むことが好ましい。溶剤は水のみでもよいが、ガラス粉末の表面と水との接触角が大きいときは、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、イソブチルアルコール(IBA)等の水溶性のアルコールを一定の割合で混ぜることにより、ガラス粉末の凝集や沈降を抑制することが好ましい。
コア部2に吹き付けられたスラリー26は、各コア部2の表面を覆い焼成前被覆層10aを形成する。この時、余分なスラリー26は、図示省略してある排出パイプを通して排出される。ノズル25からスラリー26を吹き付ける処理時間は、特に限定されないが、たとえば30〜180分程度である。また、スプレー時のスラリー26の温度は、溶剤の組成にもよるが40℃以上100℃以下が好ましい。沸点の低い溶剤を使用する場合は、上記温度範囲内で温度を下げることが好ましい。
次に、スラリー26をスプレーしながら同時に熱処理前の被覆層10aの乾燥処理を行う。乾燥処理では、入口管23から乾燥用気体をケーシング20aの内部に流し込み、出口管24から排出させる。この乾燥処理に用いる乾燥用気体は、たとえば温度50〜100℃の空気である。スプレー処理後、さらに乾燥処理を、たとえば5〜30分行ってもよい。
乾燥処理後、熱処理前の被覆層10aが形成されたコア部2は、バレル容器22から取り出され、熱軟化処理される。熱処理条件は、熱処理前の被覆層10aに含まれるガラス粉末の軟化点などに応じて決定される。具体的には、熱処理温度は、好ましくは600〜800℃であり、熱処理時間は、5〜120分である。
Mn−Zn系フェライトの場合、熱処理は、酸素分圧0.1%以下での窒素ガス雰囲気下で焼成を行うことが好ましい。コア部2の酸化は、特性劣化の原因となるため、酸素分圧を低くすることで、酸化を防止することができるからである。
熱処理後、コア部2の表面には、ガラス化した被覆層10が形成され、図1に示すフェライトコア1が得られる。なお、本実施形態では、ガラス化とは、連続された非晶質な個体膜で、結晶と同程度の剛性を持つ状態になることと定義される。
その後に、図3に示すように、各コア部2における一方の鍔部5の端面に、銀、チタン、ニッケル、クロム、銅などで構成された一対の端子電極32を、印刷、転写、浸漬、スパッタ、メッキ法などで形成する。端子電極32は、コア部2が導電性であっても、被覆層10が存在しているために絶縁されている。
その後に、巻芯部4の周囲にワイヤ30を巻回し、そのワイヤの両端を、それぞれ端子電極32に熱圧着、超音波やレーザなどによる溶接、はんだ法などで接続し、本発明の一実施形態に係るコイル部品が完成する。
本実施形態に係るフェライトコアでは、飽和磁束密度(Bs)を高く維持しつつ、高周波領域(たとえば、1MHz以上)においても電力損失(Pcv)を低減でき、結果として品質係数(Pcv/Bs)を改善することができる。また、特に被覆層をガラス組成物で構成することで、被覆層をコア部の表面に容易に形成することができる。また、ガラス組成物が絶縁性である場合には、コア部が導電性であっても、巻回されるワイヤ等との絶縁性を確保することができる。
本実施形態に係るフェライトコアにおいて、品質係数(Pcv/Bs)を改善することができる理由に関しては、必ずしも明らかではないが、たとえば以下のように考えることができる。
フェライトコアには、残留応力として内的な圧縮応力がすでに加えられている場合がある。このような残留応力は、フェライト組成物の焼成・冷却時の収縮に起因する応力や、焼成・冷却時におけるフェライト組成物中の成分、特にZnO成分の蒸発等により生じる応力等が原因となっていると考えられる。
そこで、コア部2の表面の少なくとも一部に、コア部2の熱膨張係数以下である熱膨張係数を有する被覆層10を形成することで、熱が加えられ、冷却される過程で、被覆層10の熱膨張がコア部2の熱膨張以下であるため、被覆層10にはコア部2の熱膨張に起因する引張応力が生じる。そして、この引張応力が、コア部2の残留応力(圧縮応力)をキャンセルするのではないかと考えられ、そのためにフェライトコアの電力損失Pcvを改善することができるのではないかと考えられる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえば、上述の実施形態においては、焼成されたコア部に対して、熱処理前の被覆層を形成し、これを熱処理して被覆層を形成したが、コア部の焼成と被覆層の熱処理とを同時に行ってもよい。このようにすることで、工程を簡略化できる。
また、脱バインダ工程において、スラリーに含まれるバインダ樹脂の有機成分が揮発しやすいように、ガラス粉末の粒径を特定の範囲としてもよい。このようにすることで、熱処理前の被覆層自体の強度を高めて、熱処理前の被覆層形成時におけるコア部の欠け等を防止することができる。
また、熱処理前の被覆層を形成する工程において、たとえばスラリーに含まれるバインダ樹脂の量を変化させることで、熱処理前の被覆層の表面付近の強度を、該被覆層のコア部との境界付近の強度よりも弱くなるようにしてもよい。このようにすることで、該被覆層の表面付近が犠牲膜の役割を果たし、コア部の欠け等を効果的に防止することができる。
さらに、熱処理前の被覆層を複数層とし、コア部に近い層に含まれるガラス組成物の軟化点よりも、該被覆層の表面側の層に含まれるガラス組成物の軟化点を高くしてもよい。そして、熱処理工程において、熱処理温度を、コア部に近い層に含まれるガラス組成物の軟化点より高く、かつ被覆層の表面側の層に含まれるガラス組成物の軟化点よりも低くする。このようにすることで、被覆層の表面側の層を犠牲膜とすることができ、コア部の欠け等を効果的に防止することができる。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1
まず、主成分の原料として、Fe2 O3 、ZnOおよびMn3 O4 を準備した。副成分の原料として、SiO2 およびCaCO3 を準備した。
なお、CdおよびPbについては、主成分の原料である酸化鉄、酸化亜鉛および酸化マンガンに含まれる。そのため、最終的に得られるサンプルが表1〜表3に記載のCd量およびPb量を含有するよう、CdおよびPbの含有量の異なる種々の酸化鉄、酸化亜鉛および酸化マンガン原料の使用量を調整して準備した。
次に、準備した主成分の原料の粉末を秤量し、さらに、副成分の原料の粉末を表1に示す量となるように秤量した後、ボールミルで5時間湿式混合して原料混合物を得た。
次に、得られた原料混合物を、空気中において950℃で2時間仮焼した後、ボールミルで20時間湿式粉砕して、平均粒径が1.5μmである粉砕材料を得た。
次に、この粉砕材料を乾燥した後、該粉砕材料100重量%に、バインダとしてのポリビニルアルコールを1.0重量%添加して造粒し、20メッシュの篩で整粒して顆粒とした。この顆粒を196MPa(2ton/cm2 )の圧力で加圧成形して、トロイダル形状(寸法=外径22mm×内径12mm×高さ6mm)の成形体を得た。
得られた成形体について、蛍光X線分析を行い、フェライトコアの組成を測定し、表1に示す量と一致していることを確認した。
次に、これら各成形体を、酸素分圧を適宜制御しながら、1270℃で2.5時間焼成して、焼結体としてのコア部を得た。
次に被覆層を形成するためのガラス組成物の粉末を準備した。ガラス組成物としてはSi−B系ガラスを用いた。Si−B系ガラスは、ガラス成分を構成する酸化物等の原料を混合・溶融し、その後急冷して作製した。
本実施例では、Si−B系ガラス中の成分の組成、含有量等を変化させて、熱膨張係数を変化させたガラス組成物A〜Dを用いた。ガラス組成物Aの熱膨張係数は6×10−6 /℃、ガラス組成物Bの熱膨張係数は13×10−6 /℃、ガラス組成物Cの熱膨張係数は8×10−6 /℃、ガラス組成物Gの熱膨張係数は10×10−6 /℃であった。
なお、コア部およびガラス組成物の熱膨張係数は、TMAにより測定した。
次に、熱処理前の被覆層を形成するために用いられるスラリーを作製した。まず、得られたガラス組成物の粉末とPVAとを所定の重量比で混合した。さらに、得られた固形成分(ガラス粉末およびPVAの混合物)と溶剤とを所定の重量比で混合し、ボールミルで混合してスラリーを準備した。溶剤としては、水とエタノールを8:2で混合したものを用いた。スラリー中のガラス粉末に対するバインダ樹脂の含有量は10重量%であった。
次に、バレル装置のバレル容器内にコア部を投入し、コア部の表面全体に、上述したスラリーを用いたスプレー処理により、被覆層を形成した。また、スプレーと同時に、温風温度70℃で乾燥処理した。
その後に、バレル容器から、熱処理前の被覆層が形成されたコア部を取り出し、このコア部を750℃で1時間熱処理して、ガラス化した被覆層がコア部の表面全体に形成されたフェライトコア(トロイダル形状)を得た。
被覆層の厚みは、3〜25μm程度であった。なお、被覆層の厚みは、被覆層形成前後の寸法より算出した。
また、被覆率は、98〜100%程度であった。なお、被覆率は、20個の試料について目視により観察し、被覆層の形成が不完全であった試料について、被覆面積を測定することにより算出した。
<電力損失(Pcv)>
得られたトロイダルコアサンプルに、1次巻線および2次巻線を3回ずつ巻回し、1MHz−50mTの条件において、25℃、50℃及び59℃での電力損失(Pcv)を算出した(単位:kW/m3 )。測定は、B−Hアナライザー(岩崎通信機株式会社製SY−8217)を用いて行った。結果を表1〜6に示すが、被覆層形成前(表1)では、Pcvは1500kW/m3 以下を良好とし、被服層形成後(表2)では、Pcvは1000kW/m3 以下を良好とした。
<飽和磁束密度(Bs)>
得られたトロイダルコアサンプルに、巻線を60回巻回した後、B−Hカーブトレーサー(理研電子株式会社製Model BHS40)を用いて2kA/mの磁場を印加したときの飽和磁束密度Bsを25℃、50℃、59℃および100℃において測定した(単位:mT)。結果を表1および2に示す。本実施例では、飽和磁束密度(Bs)は25℃では450mT以上、50℃では430mT以上、59℃では420mT以上を良好とした。
また、表1および表2には、高周波数領域(1MHz)におけるコア部および被覆層形成後のフェライトコアの品質係数を示すPcv/Bsを示した。Pcvが小さいほど、あるいは、Bsが大きいほど、このPcv/Bsは小さくなる。したがって、Pcv/Bsの値が小さいほど、電力損失の低減と高い飽和磁束密度とを両立できるため好ましい。また、表2では、被覆層形成後のフェライトコアのPcv/Bsは、2.0未満を良好とした。
また、表2、4および6では、被覆層形成前のコア部サンプルの電力損失(Pcv)の値と、被覆層形成後のフェライトコアの電力損失(Pcv)の値から算出した、被覆層形成前後における電力損失(Pcv)の向上率(変化率)を示した。なお、本実施例では、向上率(変化率)が19%以上のものを良好とし、より好ましくは20%以上のものとした。
表1より、試料2〜6および試料8〜14では、25℃、50℃及び59℃での、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)、飽和磁束密度(Bs)およびPcv/Bsの特性のいずれもが好ましい範囲内であることが確認できた。
表2の試料2a〜6aおよび9a〜14aは、フェライト組成物の主成分組成が本願の発明の範囲内にある試料2〜6および9〜14をコア部とし、該コア部の熱膨張係数(10×10−6 /℃)よりも小さい熱膨張係数(6×10−6 /℃)を持つガラスAにより、該コア部の表面を被覆した。
このような試料2a〜6aでは、被覆層を形成する前の試料2〜6に比べ、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低減されていることが確認でき、さらに試料9a〜14aにおいても、被覆層を形成する前の試料9〜14に比べ、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低減されていることが確認できた。すなわちコア部サンプル(試料2〜6および試料9〜14)に比べ、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料2a〜6aおよび試料9a〜14a)では、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が20〜30%程度向上することが確認できた。
さらに、ガラスAからなる被覆層をコア部の表面に形成する前後で、高い飽和磁束密度(Bs)が維持されており、その結果、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料2a〜6aおよび試料9a〜14a)では、Pcv/Bsで表される品質係数が向上することが確認された。
しかし、フェライト組成物の主成分組成が本願の発明の範囲内にない試料1、7、8および15をコア部として用いた場合には、ガラスAからなる被覆層をコア部の表面に形成しても、被覆層の形成の前後において、飽和磁束密度(Bs)を高く維持しつつ、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善する効果が十分に得られないことが確認できた(試料1a、7a、8aおよび15a)。
これらの結果から、コア部を形成するフェライト組成物が本願の発明の範囲内にある場合には、コア部以下の熱膨張係数を持つ被覆層をコア部の表面に形成することにより、飽和磁束密度(Bs)を高く維持しつつ、高周波領域(たとえば、1MHz以上)においても電力損失(Pcv)を低減でき、結果として品質係数(Pcv/Bs)を改善することができることが確認できた。
表2の試料1b〜15bは、試料1a〜15aで用いたガラスAに代えて、コア部よりも大きい熱膨張係数(13×10−6 /℃)を持つガラスBを用いた以外は、試料1a〜15aと同様にフェライトコアを作成し、同様の評価を行った。
試料1b〜15bでは、コア部を形成するフェライト組成物のTspが本願の発明の範囲内にあるか否かに関係なく、ガラスBの被覆層の形成前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が得られず、むしろ悪化していることが確認できた。
すなわち、コア部より大きい熱膨張係数を持つ被覆層によりコア部を被覆した場合には、被覆層の形成の前後において電力損失(Pcv)の改善効果は得られないことが確認できた。
また、表2の試料3cおよび3dでは、試料4aで用いたガラスAに代えて、コア部より小さい熱膨張係数(8×10−6 /℃)を持つガラスC、またはコア部と同じ熱膨張係数(10×10−6 /℃)を持つガラスDを用いた以外は、試料3aと同様にフェライトコアを作成し、同様の評価を行った。
試料3cおよび3dでは、コア部を形成するフェライト組成物のTspが本願の発明の範囲内にある試料4のコア部サンプルを用い、コア部の熱膨張係数以下の熱膨張係数を持つ被覆層により、コア部を被覆しているため、3aと同様に、被覆層の形成前後において高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が得られることが確認できた。
実施例2
コア部を形成するフェライト組成物中の副成分であるSiO2 とCaOの含有量を表3のように変動させた以外は、実施例1の試料3と同様にコア部となるサンプルを作成し、同様の評価を行った(試料16〜24)。結果は表3に示す。
次に、表3に示すフェライト組成物をコア部とし、ガラスAまたはガラスBにより、コア部の表面に被覆層を形成したフェライトコア(トロイダル形状)を得た。得られたフェライトコアサンプルに対し、実施例1と同様の評価を行った(試料16a〜24aおよび試料16b〜24b)。結果は表4に示す。
表3より、フェライト組成物中の副成分であるSiO2 およびCaOの含有量が本願の発明の範囲内にある試料3、17、18および21〜23では、副成分の含有量が本願の発明の範囲内にない試料16、19、20および24に比べて、特に、高周波数領域(1MHz)における、25℃、50℃及び59℃での電力損失(Pcv)が低いことが確認できた。
表4の試料3a、17a、18aおよび21a〜23aは、フェライト組成物中の副成分であるSiO2 およびCaOの含有量が本願の発明の範囲内にある試料3、17、18および21〜23をコア部とし、該コア部より小さい熱膨張係数を持つガラスAにより、該コア部の表面を被覆した。
このような試料3a、17a、18aおよび21a〜23aでは、被覆層を形成する前の試料3、17、18および21〜23に比べ、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低減されていることが確認できた。すなわち、コア部サンプル(試料3、17、18および21〜23)に比べ、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料3a、17a、18aおよび21a〜23a)では、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が20〜30%程度向上することが確認できた。
さらに、ガラスAからなる被覆層をコア部の表面に形成する前後で、高い飽和磁束密度(Bs)が維持されており、その結果、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料3a、17a、18aおよび21a〜23a)では、Pcv/Bsで表される品質係数が向上することが確認された。
しかし、フェライト組成物中の副成分であるSiO2 およびCaOの含有量が本願の発明の範囲内にない試料16、19、20および24をコア部として用いた場合には、ガラスAからなる被覆層を形成しても、被覆層の形成の前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が十分に得られないことが確認できた(試料16a、19a、20aおよび24a)。
これらの結果から、コア部を形成するフェライト組成物中の副成分であるSiO2 およびCaOの含有量が本願の発明の範囲内にある場合には、コア部以下の熱膨張係数を持つ被覆層をコア部の表面に形成することにより、飽和磁束密度(Bs)を高く維持しつつ、高周波領域(たとえば、1MHz以上)においても電力損失(Pcv)を低減でき、結果として品質係数(Pcv/Bs)を改善することができることが確認できた。
試料16b〜24bでは、コア部を形成するフェライト組成物中の副成分であるSiO2 およびCaOの含有量が本願の発明の範囲内にあるか否かに関係なく、ガラスBの被覆層の形成前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が得られず、むしろ悪化していることが確認できた。
すなわち、コア部より大きい熱膨張係数を持つ被覆層によりコア部を被覆した場合には、フェライト組成物中の副成分であるSiO2およびCaOの含有量に関係なく、被覆層の形成の前後において電力損失(Pcv)の改善効果は得られないことが確認できた。
実施例3
コア部を形成するフェライト組成物中のCdとPbの含有量を、フェライト組成物の主成分原料である酸化鉄、酸化亜鉛および酸化マンガンに含まれる量から調整し、表5のように変動させた以外は、実施例1の試料3と同様にコア部となるサンプルを作成し、同様の評価を行った(試料25〜34)。結果は表5に示す。
次に、表5に示すフェライト組成物をコア部とし、ガラスAまたはガラスBにより、コア部の表面に被覆層を形成したフェライトコア(トロイダル形状)を得た。得られたフェライトコアサンプルに対し、実施例1および2と同様の評価を行った(試料25a〜34aおよび試料25b〜34b)。結果は表6に示す。
表5より、フェライト組成物中のCdとPbの含有量が本願の発明の範囲内にある試料3、25〜28および30〜33では、副成分の含有量が本願の発明の範囲内にない試料29および34に比べて、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低いことが確認できた。
表6の試料3a、25a〜28aおよび30a〜33aは、フェライト組成物中のCdとPbの含有量が本願の発明の範囲内にある試料3、25〜28および30〜33をコア部とし、該コア部より小さい熱膨張係数を持つガラスAにより、該コア部の表面を被覆した。
このような試料3a、25a〜28aおよび30a〜33aでは、被覆層を形成する前の試料3、25〜28および30〜33に比べ、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低減されていることが確認できた。すなわち、コア部サンプル(試料3、25〜28および30〜33)に比べ、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料3a、25a〜28aおよび30a〜33a)では、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が20〜24%程度向上することが確認できた。
さらに、ガラスAからなる被覆層をコア部の表面に形成する前後で、高い飽和磁束密度(Bs)が維持されており、その結果、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料3a、25a〜28aおよび30a〜33a)では、Pcv/Bsで表される品質係数が向上することが確認された。
しかし、フェライト組成物中のCdとPbの含有量が本願の発明の範囲内にない試料29および34をコア部として用いた場合には、ガラスAからなる被覆層を形成しても、被覆層の形成の前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が十分に得られないことが確認できた(試料29aおよび34a)。
これらの結果から、コア部を形成するフェライト組成物中のCdとPbの含有量が本願の発明の範囲内にある場合には、コア部以下の熱膨張係数を持つ被覆層をコア部の表面に形成することにより、飽和磁束密度(Bs)を高く維持しつつ、高周波領域(たとえば、1MHz以上)においても電力損失(Pcv)を低減でき、結果として品質係数(Pcv/Bs)を改善することができることが確認できた。
試料25b〜34bでは、コア部を形成するフェライト組成物中のCdとPbの含有量が本願の発明の範囲内にあるか否かに関係なく、ガラスBの被覆層の形成前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が得られず、むしろ悪化していることが確認できた。
すなわち、コア部より大きい熱膨張係数を持つ被覆層によりコア部を被覆した場合には、フェライト組成物中のCdとPbの含有量に関係なく、被覆層の形成の前後において電力損失(Pcv)の改善効果は得られないことが確認できた。