以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の画像形成装置の概略構成図である。
この画像形成装置100は、回転軸10aを中心にして時計回りに回転する筒状の感光体10を備え、この感光体10の周囲には、帯電器20、露光装置30、現像器40、転写ロール50、クリーニング装置60、および除電ランプ70が備えられている。
また、この画像形成装置100には、本発明の一実施形態である定着装置1が備えられている。
図1では、記録用紙Pが図の右から左に向かって搬送されており、記録用紙Pは、感光体10と転写ロール50の間に送り込まれる。図1に示す画像形成装置100では、感光体10と転写ロール50によって挟み込まれた領域が転写領域Tになる。
画像形成装置100には、非接触帯電方式が採用されており、図1に示す帯電装置20はスコロトロン帯電器である。このスコロトロン帯電器は、コロナ放電を利用する帯電器の一種である。なお、帯電器はスコロトロン帯電器に限らず、スコロトロン帯電器を採用することも出来る。また、非接触帯電方式に限らず、接触式の帯電ロール、帯電ブラシ、帯電ブレードなど公知の帯電器を採用することができる。
露光装置30は、感光体10の表面に向けて、画像情報に基づくレーザ光を照射し、露光を行うものである。
現像器40は、トナー粒子およびトナー粒子よりも微粒子の外添剤を含む現像剤を収容した現像剤収容体41と、現像剤収容体41中のトナー粒子を担持して感光体10の表面に対向した状態で回転する現像ロール42を有する。感光体表面には、この現像器40によってトナー像が形成される。
図1に示す画像形成装置100において画像形成が行われる際には、まず、感光体表面にトナー像を形成するトナー像形成サイクルが実行される。このトナー像形成サイクルでは、感光体表面が、帯電器20によって一様に帯電された後、露光装置30によって画像情報に基づくレーザー光が照射され、感光体表面に静電潜像が形成される。この静電潜像は、現像器40によって現像され、感光体表面にはトナー像が形成され、トナー像形成サイクルが終了する。
トナー像形成サイクルによって感光体表面に形成されたトナー像は、転写領域Tにおいて、感光体表面から記録用紙Pの表面に転写される。
続いて、転写されることにより未定着トナー像を担持した記録用紙Pは定着装置1に送られる。この定着装置1は、未定着トナー像を記録用紙Pに定着させる。このトナー像が定着された記録用紙Pは、この画像形成装置100に備えられた排出トレイ(不図示)に排出される。
定着装置1の詳細については、後述する。
一方、感光体10には、転写領域Tにおいて記録用紙Pの表面へ移行することができなかった残留トナーや、その残留トナーに付着していた外添剤粒子や、帯電の際に生じた放電生成物が残留している。
図1に示すクリーニング装置60は、感光体10が回転することで、感光体10に残留した残留物を掻き取る。
クリーニング装置60によって、クリーニングされた感光体10は、除電ランプ70によって除電され、次のトナー像形成サイクルが実行される。
次に、図1に示す定着装置1について図2を用いて説明する。
図2は、図1に示す定着装置の概略断面図である。
図2に示す定着装置1には、回転軸15の回転により矢印A方向に回転する加圧ロール14と、その加圧ロール14に押圧されて矢印B方向に従動する、管の形状を有するベルト13が備えられている。このベルト13は、本発明のベルトの一実施形態である。このベルト13については、後で詳述する。
この加圧ロール14は円柱状の構造体であって、弾力性あるいは柔軟性を有する樹脂で構成されており、例えば、ポリウレタン樹脂、その他の樹脂を採用することができる。
また、ベルト13の内周側をステンレス製の支持体12が押圧することにより、ベルト13と加圧ロール14とが当接して記録媒体である記録用紙Pが挿通されるニップ部16が形成される。このニップ部16は、略平面状に形成される。
なお、この支持体12の材料は、ステンレス製の他にも、耐久性および耐熱性の良い材料であれば採用可能であり、例えば、鉄やアルミなどが挙げられる。
また、この定着装置1には、ベルト13を加熱する加熱源であるハロゲンランプ11がベルト13の周内に備えられている。
ここで、ハロゲンランプ11は、ニップ部16に近い位置に配されており、ベルト13および支持体12を効率良く加熱する。
この定着装置1は、ハロゲンランプ11からの輻射熱により、ベルト13を直接加熱するとともに支持体12を介して熱伝導により間接的にベルト13を加熱する。ニップ部16では、支持体12からの熱伝導によりベルト13へ熱が供給される。
また、この定着装置1は、矢印C方向から送られる、未定着のトナー像を担持した記録媒体である記録用紙Pを、ニップ部16で挟持して加熱および加圧することによりそのトナー像を記録用紙Pに定着させる。
ここで、トナー像を記録用紙Pに定着させる際、加圧ロール14とベルト13との両者の搬送速度が略同一となり、紙しわやカールの発生が防止される。
したがって、封筒のような多層構造の被記録媒体を適用した場合にも、しわやカールを生じさせることがなく、搬送性や定着性が良好となる。
次に、ベルト13の詳細について説明する。
図3は、上述した本発明の一実施形態であるベルトの層構造を示す図である。
図3に示すように、ベルト13は、表面層131と下層132との2層構造の膜を形成している。
この表面層131は、フッ素系樹脂の1つであるテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂で構成されており、この表面層131の厚さは30μmである。なお、この表面層131は、1〜50μm程度の厚さでありながら離型性かつ耐久性を維持しつつ輻射透過性を有する材料であることが好ましく、具体的には、ポリイミド樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)などのフッ素系樹脂が挙げられる。
一方、下層132は、光を吸収する粒子であるカーボンブラックが添加されたポリイミド樹脂であり、下層132の厚さは75μmである。
なお、この下層132の厚さは、30〜100μm程度であることが好ましい。下層132の厚さが30μm以下ではベルト13の機械的強度が失われる。このため、ベルト13の回転動作が不安定になる。
一方、下層132の厚さが100μm以上では、ベルト13の可とう性が失われるためニップ部16の領域が減少し、未定着トナー像の定着性が低下する。
ここで、下層132に添加されたカーボンブラックの平均粒径は、0.1μm以下が望ましい。この平均粒径が0.1μmより大きくなると、輻射吸収率の向上は期待できる反面、支持体12に接する下層132の表面に凹凸面が生じやすくなる。その結果、ベルト13の摺動性や耐摩耗性の低下を招くだけでなく、機械的強度の低下も招くことになる。
なお、下層132のポリイミド樹脂に添加されて光を吸収する粒子としては、カーボンブラックの他にも、輻射吸収性を有するフィラーであれば採用可能であり、例えば、カーボンナノチューブ、亜鉛粉末なども挙げられる。
次に、ベルト13の製造方法について説明する。
このベルト13の製造方法は、大きく分けて5つの工程からなる。
具体的には、このベルト13の製造方法は、ベルト13を形成するための型枠となるステンレス製の円筒状芯体の表面にポリイミド前駆体溶液を塗布して、その円筒状芯体表面上に下層132を形成する下層形成工程と、その下層132を乾燥させる下層乾燥工程と、乾燥後の下層132の上層に表面層131を形成する表面層形成工程と、下層132および表面層131を焼成する焼成工程と、下層132および表面層131を焼成した後に形成されるベルト13を円筒状芯体から剥離する剥離工程とを有している。
以下、ベルト13の製造方法を工程毎に分けて詳細に説明する。
まず、下層形成工程について説明する。
この下層形成工程では、最初に、カーボンブラックを2.0質量%含有するポリイミドワニス(商品名:Uワニス/宇部興産(株)製)からなるポリイミド前駆体を非プロトン系極性溶剤に溶解してポリイミド前駆体溶液を調製する。
次に、ポリイミド前駆体溶液で満たされた塗布槽に円筒状芯体の外径よりも大きな孔を設けた環状体を浮かべ、この孔を通して円筒状芯体をポリイミド前駆体溶液に浸漬し、次いで、引き上げる。この際、円筒状芯体が環状体に接触しないように注意する。こうするとにより、円筒状芯体表面上に下層132が塗布される。このような塗布法を浸漬塗布法という。
ここで、ポリイミド前駆体としては、上記ポリイミドワニスの他にも、ポリイミド系の樹脂を生成する、従来公知のものと知られている前駆体であれば採用可能である。
また、非プロトン系極性溶剤としては、NMP(N−メチル-2-ピロリドン)、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等の従来公知のものが採用可能である。
なお、ポリイミド前駆体溶液の濃度、粘度等は形成する膜厚、塗布速度などに応じて適宜選択し、また、ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じて導電性を持つ粒子や光を吸収する光吸収性粒子を加えてもよい。
また、円筒状芯体を塗布槽から引き上げる際の引き上げ速度としては、100〜1500mm/min程度であることが好ましい。この浸漬塗布法に好ましいポリイミド前駆体溶液の固形分濃度は10〜40質量%、粘度は1〜10000Pa・sである。
なお、円筒状芯体表面上に下層が塗布される塗布方法としては、上述した浸漬塗布法の他にも、円筒状芯体を回転させながらその表面にポリイミド前駆体溶液を吐出する流し塗り法や円筒状芯体を回転させながらその表面にポリイミド前駆体溶液を吐出する際にブレードで皮膜をレベリングするブレード塗布法も採用可能である。
次に、下層乾燥工程について説明する。
下層乾燥工程では、下層形成工程で得られた下層132中のポリイミド前駆体のイミド化率が20〜70%の範囲となるように、下層132を120℃で60分間乾燥する。この場合、イミド化率を20〜70%の範囲に制御するには、熱イミド反応による制御を行う。熱イミド反応による制御は、熱的条件を調整することでイミド化率を制御する方法である。
また、このような乾燥を行うことにより、下層132中に過度に残留する非プロトン系極性溶剤が除去される。
この下層乾燥工程を行った結果、乾燥後の下層132の厚さは、75μmであった。
なお、イミド化率を20〜70%に制御する条件としては、120〜160℃の温度範囲であり、この温度条件下で30〜90分程度の時間をかけて下層132を乾燥させる。
また、非プロトン系極性溶剤中の溶存気体が気泡となることを低減させるために、乾燥温度については、時間内において段階的に上昇させたり、一定速度で上昇させることもできる。
その際、非プロトン系極性溶剤に他の溶剤を添加させることにより、熱反応の促進化を図ることが可能となることから、設定温度を低くしたり、乾燥時間を短縮することができる。すなわち、ポリイミド前駆体の主溶剤としては、通常、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いることが多いが、NMPだけでは熱反応に対する阻害現象が起こる。そのため、γブチルラクトン、MEK、ブチルセルソロブ、もしくはシクロヘキサノンを熱反応を促進するための溶剤としてNMPに添加する。こうすると、上述した120〜160℃の温度条件をさらに低温側にシフトすることができるとともに、乾燥時間もより短時間に設定することができる。
なお、熱反応を促進する溶剤の添加量は、通常、NMP等の主溶剤に対して20〜30質量%程度が適している。これよりも少ない添加量では熱反応促進効果が不充分であり、これよりも多い添加量ではポリイミド前駆体の不溶化現象が発生して好ましくないからである。
また、上述した熱イミド反応を制御する方法の他にも、化学イミド反応を制御する方法によって、イミド化率を20〜70%に制御することも可能である。
次に、表面層形成工程について説明する。
表面層形成工程では、下層132の表面上にフッ素樹脂ディスパージョン(三井デュポンフロロケミカル社製:ENA−165−1)を塗布して30μmの厚さの表面層131を形成する。
ここで、フッ素樹脂としては、フッ素樹脂ディスパージョンの他にも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体(EFA)、ポリエチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、フッ化ビニル(PVF)等が採用可能であり、特に耐熱性、機械特性等の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体(EFA)が好適である。
次に、焼成工程について説明する。
この焼成工程では、下層132およびその下層132上に積層された表面層131を有する円筒状芯体を焼成炉内で焼成する。ここで、焼成の温度条件として、毎分2℃の上昇速度で380℃まで徐々に円筒状芯体を加熱していき、その後、380℃の状態を20分間保つ。
次に、剥離工程について説明する。
焼成工程の後、表面層131と下層132との2層構造からなる膜を円筒状芯体から剥離する。
以上説明した5つ工程により、図3に示すベルト13が得られる。
ここで、上述した各工程を経て外径30mmのベルトを製造し、各箇所の外径寸法をレーザ外径測定機によって測定したところ、外径値のバラツキ幅は55μm以下であった。
なお、本発明のベルトは、必要に応じて、端部の切断加工、穴あけ加工、テープ巻き付け加工等が施されてもよい。
また、本発明のベルトの製造工程で用いられる円筒状芯体の材料としては、本実施形態で用いたステンレスの他にも、アルミニウムや銅等の金属も採用可能である。また、金属製の円筒状芯体表面にポリイミド前駆体の塗布液を直接塗布した場合には、焼成工程において、下層のポリイミド樹脂皮膜が円筒状芯体表面に接着してしまう可能性がある。そのため、円筒状芯体の表面は離型性を有することが好ましい。円筒状芯体の表面が離型性を有するためには、円筒状芯体表面をクロムやニッケルでメッキしたり、表面をフッ素系樹脂やシリコーン樹脂で被覆したり、もしくはポリイミド樹脂が接着しないよう、表面に種々の離型剤を塗布することが有効である。さらに、円筒状芯体自体を離型性を有するフッ素系樹脂によって形成することも有効である。
以下、実施例および比較例を用意して、それらの試験評価を行って本発明のベルトの効果を確認する。そこで、まず、試験対象となるベルトの実施例および比較例について説明し、続いて、実際に行った各試験内容について説明し、得られた結果について評価を行う。
(実施例1)
まず、カーボンブラックを2.0質量%含有するポリイミドワニスからなるポリイミド前駆体を非プロトン系極性溶剤に溶解してポリイミド前駆体溶液を調製した。
次に、ポリイミド前駆体溶液で満たされた塗布槽に上述した円筒状芯体を浮かべ、この孔を通して円筒状芯体をポリイミド前駆体溶液に浸漬した。次いで、この円筒状芯体を引き上げ、カーボンブラックを2.0質量%含有するポリイミド樹脂からなる下層を形成した。なお、引き上げる際、下層の厚みが75μmとなるように塗布槽からの引き上げ速度を調整した。
そして、熱風オーブン内における乾燥条件として、120℃の温度で60分の乾燥時間を設定し、下層を乾燥させた。
続いて、下層の表面上にフッ素樹脂ディスパージョン(三井デュポンフロロケミカル社製:ENA−165−1)を厚さ30μmとなるように塗布し、熱風オーブンにおいて毎分2℃の速度で380℃まで加熱し、380℃の状態で20分間の焼成を行い、表面層を形成した。このようにして、下層に輻射吸収性を有するベルトが得られた。
(実施例2)
本実施例では、カーボンブラックを1.5質量%添加した厚さ75μmのポリイミド樹脂を下層とし、離型性を有する厚さ30μmのPFAを表面層とし、これらの点を除き、実施例1と同じ条件でベルトを作製した。
(実施例3)
本実施例では、カーボンブラックを1.75質量%添加した厚さ75μmのポリイミド樹脂を下層とし、離型性を有する厚さ30μmのPFAを表面層とし、これらの点を除き、実施例1と同じ条件でベルトを作製した。
(実施例4)
本実施例では、カーボンブラックを1.0質量%添加した厚さ75μmのポリイミド樹脂を下層とし、離型性を有する厚さ30μmのPFAを表面層とし、これらの点を除き、実施例1と同じ条件でベルトを作製した。
(実施例5)
本実施例では、カーボンブラックを1.25質量%添加した厚さ75μmのポリイミド樹脂を下層とし、離型性を有する厚さ30μmのPFAを表面層とし、これらの点を除き、実施例1と同じ条件でベルトを作製した。
(実施例6)
本実施例では、カーボンブラック5.0質量%添加した厚さ75μmのポリイミド樹脂を下層とし、離型性を有する厚さ30μmのPFAを表面層とし、これらの点を除き、実施例1と同じ条件でベルトを作製した。
(実施例7)
本実施例では、カーボンブラック10質量%添加した厚さ75μmのポリイミド樹脂を下層とし、離型性を有する厚さ30μmのPFAを表面層とし、これらの点を除き、実施例1と同じ条件でベルトを作製した。
(比較例1)
本比較例では、厚さ75μmのポリイミド樹脂を下層とし、離型性を有する厚さ30μmのPFAを表面層とし、この表面層にカーボンブラックを1.5質量%添加した。これらの点を除き、実施例1と同じ条件でベルトを作製した。
(比較例2)
本比較例では、厚さ75μmのポリイミド樹脂を下層とし、離型性を有する厚さ30μmのPFAを表面層とし、この表面層にカーボンブラックを4.0質量%添加した。これらの点を除き、比較例1と同じ条件でベルトを作製した。
以上により得られた、実施例および比較例のベルトを評価するために、引張破断強度および引裂き強度試験、摩耗特性試験、表面粗さ試験、輻射温昇試験、輻射吸収測定試験を行った。
先ず、引張破断強度および引裂き強度試験について説明する。
この引張破断強度および引裂き強度試験は、カーボンブラックの添加量の適否をベルトの機械的強度の観点から評価するための試験である。下層にカーボンブラックを添加した場合、添加量によっては、ベルトの機械的強度を低下させるおそれがある。したがって、引張破断強度および引裂き強度試験は、カーボンブラックの適切な添加量を見定めるうえで重要な試験である。
まず、引張破断強度および引裂き強度試験の準備として、実施例および比較例のベルトをダンベルカッターにより打ち抜いて、サンプルを得た。サンプルの形状・寸法は、JIS規格K6301−A形による。
各サンプルの厚さは105μmである。試験機として、アイコーエンジニアリング(株)MODEL−1305Dを使用した。試験条件は、クロスヘッドとして10mm/min、ロードセルとして50Kgとし、サンプルが切断するまで引張った。
この引張破断強度および引裂き強度試験では、サンプルが切断することにより、引張り強度(N/mm2)および引裂き強度(N/mm)の値が得られる。
各ベルトにおけるサンプル片の試験回数は3回とした。
測定結果は、3回の測定の最大荷重の平均値をとり、その平均値をベルトの引張り強度および引裂き強度とした。
次に、スラスト摩耗試験について説明する。
このスラスト摩耗試験は、カーボンブラックの添加したベルトのすべり摩擦による摩耗特性を評価するための試験である。このスラスト摩耗試験では、すべり摩擦による摩耗特性を測定する加熱型スラスト磨耗試験機を用いて行った。本発明におけるベルトの下層表面は、支持体に接して摺動するため、下層表面の耐摩耗性を評価することは重要である。
まず、実施例1から実施例7までのベルトについて、下層表面のスラスト摩耗を行った。
ここで、実施例1から実施例7までのベルトの各サンプル(縦40x横40x厚さ0.1mm3)を150℃で加熱した環境下において、順次、円筒(SUS304、外径/内径=11.5/9.6mm)を荷重8.0kgfで接触させ、回転数188rpm、摺動速度0.225m/secで150分間摺動させた後の下層内面の質量変化(比摩耗量)を計測した。ここで、下層内面とは、支持体と接触する面をいう。
次に、比較例1および比較例2について、PFAの表面層のスラスト摩耗試験を行った。
比較例1および比較例2のサンプルのサイズは、それぞれ、縦40mm×横40mm×厚さ0.1mmとした。比較例1および比較例2のスラスト摩耗試験では、荷重1.0kgf(9.8N)で接触させ、回転数400rpm、摺動速度0.479m/secで30分間摺動させた点を除いて、実施例で行ったスラスト摩耗試験と同じ内容であった。
次に、表面粗さ試験について説明する。
この表面粗さ試験は、ベルトのカーボンブラックの添加量によるPFAの表面層の表面粗さと下層の内面粗さとを評価するために行った。この表面粗さ試験は表面粗さ計(東京精密(株) 三次元粗さ計 M5−A−004)によって算術平均粗さ(Ra)の測定を行った。
ここで、算術平均粗さ(Ra)の測定位置は、ベルト端部から10、20、30、60、122、184、214、224、234mmの計9点とした。また、各測定位置での表面粗さの値を合計し、その平均値を表面粗さの値とした。
次に、輻射温昇試験について説明する。
輻射温昇試験は、ハロゲンランプの輻射熱により各サンプルを加熱し、表面温度が常温から170℃に達するまでの時間を測定した。
次に、輻射吸収測定について説明する。
この輻射吸収測定の試験は、表面層と下層のどちらの層に輻射光の吸収層を備えた方が輻射熱吸収特性の効果があるかを調べるために有用な試験である。
この波長900nmの輻射光の吸収率の測定として、サンプルの反射スペクトルおよび透過スペクトルを測定し、波長900nmの輻射光の吸収率を算出した。
まず、ベルトを縦20mm×横20mm程度のサンプル片にした。測定装置として、島津製作所社製のUV−3101PC型自記分光光度計を用いた。測定条件として、スリット幅は、30nm、測定速度は、約4points/secとし、光源にはハロゲンランプを用い、検出器として、PbS(860nm以上)を用いた。入射角は7°とした。
なお、定着装置の輻射源としては通常ハロゲンランプが用いられた。ここで、ハロゲンランプの輻射エネルギーの80〜90%程度は赤外領域のものであるため、ベルトの輻射光の吸収特性はこの波長帯域の輻射光である波長900nmに対する吸収率を調べればよい。
以上、上述した試験を行った結果をまとめて表1に示した。
なお、表1において、カーボンブラックの含有量の少ないサンプルの実施例から序列されており、続いて、比較例1、比較例2の順に序列されている。
ここで、表中、PIはポリイミド樹脂の下層、CBはカーボンブラック、PFAはフッ素樹脂の表面層を意味する。
まず、各試験ごとに得られた結果およびその結果の評価について説明する。
引張破断強度および引裂き強度試験の結果およびその結果の評価について説明する。
表1に示す、引張破断強度の結果から、実施例1から実施例6、比較例1、および比較例2のベルトのサンプルについては、引張破断強度が330N/mm2を超えており、この程度の引張破断強度を有していれば、カーボンブラックを含有したことによる機械的強度の劣化による影響は無視できると考えられる。
一方、実施例7の機械的強度は、他の実施例や比較例に比べて低下していた。
したがって、引張破断強度の結果から、ベルトの強度を保持し、破損の発生を抑制するためには、下層へのカーボン添加量は5.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下が好ましいと考えられる。
また、表1に示す、引裂き強度の結果から、実施例1から実施例6、比較例1、および比較例2のベルトのサンプルについては、引裂き強度が150N/mmを超えており、この程度の引裂き強度を有していれば、カーボンブラックを含有したことによる機械的強度の劣化による影響は無視できると考えられる。
一方、実施例7の機械的強度は、他の実施例や比較例に比べて低下していた。
ここで、引裂き強度が弱いと、ベルトが回転に伴い伸びやすくなり、ベルトの正常な回転が妨げられる。そのため、ベルトに亀裂等の破損が発生したり、紙しわや画像不良の原因となる。
したがって、ベルトの強度を保持し破損の発生を抑制するためには、下層へのカーボンブラックの添加量は、5.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下であると考えられる。
次に、スラスト磨耗試験の結果およびその結果の評価について説明する。
表1に示す比磨耗量は、実施例1から実施例5においては、カーボンブラック無添加の下層内面と同程度であったが、実施例6の比磨耗量は若干増加した。また、実施例7の比摩耗量は、カーボンブラックの過剰な添加により増加した。
したがって、下層にカーボンブラックを添加する場合、ベルトの摺動による耐摩耗性を維持するには、カーボンブラックの添加量は5.0質量%以下であることが好ましく、更に2.0質量%以下であることがより好ましいと考えられる。
次に、表面粗さ試験の結果およびその結果の評価について説明する。
まず、実施例1から実施例7までは、下層の内面粗さの結果であり、カーボンブラックの添加量が5.0質量%を超えると、内面粗さは大きくなる。実施例7では、実施例1と比較して、内面粗さの値が3倍になった。
ところで、ベルトの内面と支持体との摺動抵抗が大きくなると、ベルトを回転させるためのトルクが増大し、加圧ロールの駆動トルクが大きくなり、ベルトの磨耗や加圧ロールを駆動するためのギヤ等が破損するおそれがある。よって、ベルトの内面粗さの値は小さいことが望ましい。
したがって、実施例7よりも実施例6の方が好ましく、更には、実施例1から実施例5までの方がより好ましいと考えられる。
一方、比較例1および比較例2の表面粗さ試験の結果は以下の通りである。
比較例1のサンプルの表面粗さは1.4μm(算術平均粗さRa:JIS B06011994に準ずる)、比較例2のサンプルの表面粗さは2.2μm(算術平均粗さRa:JIS B06011994に準ずる)であった。
比較例1や比較例2のベルト13を定着装置1に組み込み、初期摩耗量を調べるために所定の枚数の記録用紙をプリントアウトするランニングテストを実施すると、表面層131の凹凸は通紙により削りとられやすく、比較例2のベルト13の方が比較例1のベルト13よりも初期摩耗量は多かった。
したがって、PFAの表面層が良好な定着性や初期摩耗を抑制するためには、表面粗さが2.2μm以下であることが望ましいと考えられる。
次に、輻射温昇試験の結果およびその結果の評価について説明する。
表1に示す輻射温昇は、ベルトの表面温度が常温から170℃に達するまでの時間を表している。
この輻射温昇試験の結果により、速い温昇特性を得るためには、下層にカーボンブラックを添加した場合、実施例1が最も温昇時間が速く、以下、実施例6および実施例7、実施例2、実施例5、実施例4の順に遅くなっていった。また、表面層にカーボンブラックを添加した場合、比較例1よりも比較例2の方が温昇時間は速くなった。
ここで、実施例1、比較例1、比較例2のサンプルについて、時間経過に伴う輻射温昇速度について考察する。
図4は、実施例1、比較例1、および比較例2のサンプルの輻射熱による温昇速度を示す図である。
図4において、グラフAは、下層にカーボンブラックを2.0質量%添加したベルト(実施例1)であり、グラフBは、表面層にカーボンブラックを4.0質量%添加したベルト(比較例2)であり、グラフCは、表面層にカーボンブラックを1.5質量%添加したベルト(比較例1)である。
グラフAで示した実施例1とグラフBで示した比較例2の温昇特性は、同程度の温昇特性を有した。一方、グラフCで示した比較例1の温昇特性は、グラフAおよびグラフBと比較して温昇速度が遅い結果であった。
ここで、室温から170℃までの輻射温昇試験を実施したが、測定温度範囲をさらに高温まで拡げると、実施例1から実施例5、比較例1、比較例2の熱応答時間の差はさらに大きくなることが予想される。
ここで、実施例1および比較例2は、輻射熱による温昇時間は共に速いが、カーボンブラック4.0質量%を表面層に添加した比較例2は、表面層への過剰なカーボンブラックの添加であって、表面層の表面粗さの増加や表面層の微細なクラックを招くという懸念がある。したがって、比較例2のベルトでは、安定した定着性を得ることが困難になる。
また、比較例2のベルトの表面粗さは、比較例1のベルトと比較して大きいため、長期にわたる通紙において摩耗しやすい。さらに、比較例2のベルトの表面層にカーボンブラックを添加した場合、比較例2のベルトの表面層の膜厚は通紙による摩耗に伴って薄くなり、その結果、比較例2のベルトの吸収特性は低下する。
したがって、安定した熱吸収特性を得るためには、下層にカーボンブラックを添加したベルトの方が表面層にカーボンブラックを添加したベルトよりも温昇時間が速く、かつベルト特性を低下することなく安定した良好な画像が得ることができる。
以上より、良好なベルトを得るためには表面層のカーボンブラックの添加量は4.0質量%以下が好ましく、更に、下層のカーボンブラックの添加量は1.25質量%以上がより好ましいと考えられる。
次に、波長900nmの輻射光の吸収測定試験の結果およびその結果の評価について説明する。
表1に示す、実施例4および実施例5では、波長900nmにおける下層への輻射光に対して、下層の吸収率が80%未満では下層内部で十分な赤外光が吸収されないことがわかった。その結果、輻射光は表面層側へ透過しやすくなり、温昇応答が遅れた。
図5は、実施例1および比較例1のベルトの輻射光の吸収率の結果を示す図である。
実施例1および比較例1の輻射光の吸収率の測定の結果から、実施例1(グラフD)のベルトの下層にカーボンブラックを添加した結果の方が、比較例1(グラフE)のベルトの表面層にカーボンブラックを添加した結果よりも吸収率が良いと考えられる。
したがって、本発明のベルトに採用される下層は波長900nmの赤外光に対して吸収率を80%以上とする必要がある。
波長900nmの輻射光の吸収率が80%以上であると、記録媒体に効率良く熱を伝導させることができ、実用的なレベルに達する。
波長900nmの輻射光の吸収率が88%以上であると、輻射温昇が急激にあがるため、さらに熱伝導率が向上し記録媒体に効率良く熱を伝導させることができる。
波長900nmの輻射光の吸収率が90%以上であると、輻射温昇が十分なレベルに達し、さらに熱伝導率が向上し記録媒体に効率良く熱を伝導させることができる。
波長900nmの輻射光の吸収率が92%以上であると、輻射温昇が最高のレベルに達し、さらに熱伝導率が向上し記録媒体に効率良く熱を伝導させることができる。
以上の実験結果より、波長900nmの輻射光の吸収率は、少なくとも80%以上必要であり、88%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、92%以上が更に好ましいと考えられる。
また、比較例2のベルトの表面層にカーボンブラックを添加した場合の方の波長900nmの輻射光の吸収率は88%であり、比較例1のベルトの表面層にカーボンブラックを添加した場合の吸収率は78%であった。比較例2の方が比較例1に比べて高い吸収率を示した。
次に、下層131にカーボンブラックを添加した実施例1と、表面層131にカーボンブラックを添加した比較例2とを対比して考察する。
実施例1と比較例2とでは、双方において高い輻射光の吸収率を示し、透過してきた赤外光をほぼ完全に吸収する。
しかし、比較例2における表面層に多量のカーボンブラックを添加した場合、上述したように、表面粗さの増加により表面層の表面の微細クラックを招きやすくなる。そのため、比較例2におけるベルトの表面の凹凸は、連続した通紙により摩耗量の増加を招く。その結果、比較例2のベルトの表面層は、磨耗していくために輻射光の吸収率は低下する。また、ベルトの表面の凹凸を押さえるため、表面層のカーボンブラックの添加量を少量にし、下層についてはカーボンブラックを無添加とした場合(例えば、比較例1)、ベルトの輻射光の吸収率は低下することとなる。
ここで、実施例2のベルトの下層と比較例1のベルトの表面層とでは、カーボンブラックの添加量が同程度の質量%である。この実施例2とこの比較例1を比較すると、実施例2の方が、温度上昇の立ち上りにおいて迅速に応答できることを確認した。この結果からも、ベルトとしては、ハロゲンランプからの輻射熱をベルトに吸収させやすくするため、カーボンブラックを下層に含むことが好ましいと考えられる。
また、本発明の一実施形態であるベルトは、表面層よりも輻射光の吸収率が高い下層を備えることで、表面層に輻射吸収性を有する粒子を含有させずに済む。このため、表面層の強度低下や磨耗量の増加を防ぐことができるので、耐摩耗性が向上し、ベルトの亀裂等の破損を防止することができる。
したがって、高い輻射吸収特性を保持しつつ安定した輻射吸収特性を得るためには、下層にカーボンブラックを添加したベルトの方が迅速な温昇応答ができ、かつベルトの特性を低下することなく良好な画像を得ることができる。
さらに、上記下層の上に形成する表面層は、トナー離型性と輻射透過性を兼ね備えたものであることが好ましい。
本発明のベルトにおいて使用した表面層の樹脂はトナー離型性を有するPFAであるが、このPFAに限定されるものではなく、PTFE、ETFE等のフッ素樹脂であってもよい。
また、表面層へ過剰なフィラーを添加すると表面層の表面粗さの増加及び表面クラックを招くため、添加量はごく少量の範囲に限定される。さらに、過剰なフィラー粒子の添加は表面層の強度低下や磨耗量の増加を招き、定着性が安定した良好な画像が得られないため、表面層は輻射透過性を有する材料であることが好ましい。
実施例1のベルトにおいて、カーボン無添加の表面層(PFA)を下層から分離し、PFA単層のみについて輻射吸収測定を実施した。その結果、PFA表面層の輻射吸収測定は7%で輻射光の大半を透過することが分かり、上記トナー離型性と輻射透過性を兼ね備えたものであると言える。
次に、これらの試験結果の総合的な評価について説明する。
上記結果と考察により、トナー離型性と輻射透過性を兼ね備えた表面層は、測定波長900nmの赤外光に対して吸収率10%以下であることが好ましい。
上記表面層における波長900nmの輻射光の吸収率が10%以下であると、表面層が劣化しにくくなる。さらに、上記表面層は、波長900nmの輻射光の吸収率が7%以下であることが好ましい。
波長900nmの輻射光の吸収率が7%以下であると、表面層の劣化がさらに抑制される。また、この程度の吸収率では、ベルト表面の劣化は観察されず、通常一般に市販されているベルトとはなんら遜色ない表面状態であり、耐久性は十分に確保されている。
また、下層におけるカーボンブラックの含有量は、実施例のサンプルに応じて1.25質量%以上〜5質量%未満であることが好ましい。
この含有量が1.25質量%以下の場合、下層132の機械的強度は確保されるが、カーボンブラックを添加することによる輻射吸収性や熱伝導性は確保されなくなる。
一方、カーボンブラックの含有量が5質量%を越えた場合、下層の強度が不十分となり、下層132の機械的強度や耐摩耗性といった特性を確保できず、ベルト13の破損のおそれが生じる。
したがって、下層におけるカーボンブラックの含有量を1.25質量%以上〜5質量%未満の範囲内とすることにより、輻射光の吸収率及び熱伝導率の向上が図られる。また、磨耗や破損しにくいベルトが実現される。
表1の結果から、表面層に輻射吸収層を配置するよりも、下層に輻射吸収層を配置した方が、耐摩耗性及び熱効率が高いことを確認した。
以上説明したように、本発明によれば、輻射吸収率や熱伝導率の向上を図りつつ耐摩耗性や破損防止の工夫が施されたベルト、およびそのベルトを備えた定着装置を提供することができる。
したがって、長期に亘り紙しわや画像不良の発生が抑えられて高品質な画像が得られる。
特に、本発明のベルトは、複写機、プリンタ等の画像形成装置に用いられるベルトとして必要な機械的強度、耐摩耗性を確保した上で、高い熱吸収性と熱伝導性を有する。また、複写機、プリンタ等の定着速度の高速化が実現される。
なお、本発明の一実施形態である定着装置1では、白黒用画像形成装置に用いたものを例に挙げて説明したが、周知のカラー用画像形成装置に用いても同様の効果が得られる。