JP4858946B2 - 乳化剤又は可溶化剤 - Google Patents
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Description
その結果、微生物が水中において天然油脂を最小のエネルギーで効率的に取り込むための乳化及び可溶化プロセスを活用した新しい乳化及び可溶化手段を開発するに至った。すなわち、特に微生物が量産するバイオサーファクタントは、生体由来の天然界面活性剤であり、生体への影響がマイルドであるばかりでなく、基本的に酵素反応によって生成されるため、分子構造が均一であり、分子の配向性が高いため、バイオサーファクタントの自己集合体である、両連続構造あるいはリオトロピック液晶の形成能も極めても高くかつ容易であるとの新知見を得た。そして、このようなバイオサーファクタントの自己集合体を利用することにより、極めて少ない機械的外力で、分散粒子が微細でかつ長期間分散状態を安定に保持可能な乳化あるいは可溶化組成物を製造できることを確認し、本発明を完成させたものである。
(1) バイオサーファクタントが自己集合体を形成していることを特徴とする、乳化又は可溶化剤。
(2) バイオサーファクタントの自己集合体が、両連続構造であることを特徴とする、上記(1)に記載の乳化又は可溶化剤。
(3) バイオサーファクタントの自己集合体が、リオトロピック液晶であることを特徴とする、上記(1)に記載の乳化又は可溶化剤。
(4) 前記バイオサーファクタントが下記一般式1で表されるマンノシドリピド系化合物であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の乳化又は可溶化剤。
本発明において使用するバイオサーファクタントは、微生物が量産する天然界面活性剤であり、生体への影響がマイルドであるばかりでなく、基本的に酵素反応によって生成されるため、分子構造が均一であり、分子の配向性が高いため、バイオサーファクタントの自己集合体である、両連続構造あるいはリオトロピック液晶の形成能も極めても高くかつ容易である。そして、このようなバイオサーファクタントの自己集合体は、極めて少ない機械的外力で、分散粒子が微細でかつ長期間分散状態を安定に保持可能な乳化あるいは可溶化組成物を製造できる点で、画期的なものである。
本発明において使用するバイオサーファクタントとは、生物由来の両親媒性物質であり、界面活性作用を有するものである。例えば、微生物が産生するバイオサーファクタントとしては、糖脂質系のもの、コリノミコール酸(Corynomycolic acid)等の脂肪酸系のもの、エマルサン(Emulsan)、リポサン(Liposan)等のバイオポリマー系のもの、サーファクチン、ビィスコシン等のリポペプタイド系のもの等、種々のものが知られており、これらは通常の界面活性剤に比べ、1)複数の官能基や光学活性を有する点、2)嵩高い構造や複雑な構造を有する点、3)生理活性(抗微生物、抗腫瘍作用など)を有する点、および4)生分解性や安全性が高い点を有することを特徴とする。
本発明において使用するバイオサーファクタントとしては、例えば、トレハロースリピド系化合物、ラムノースリピッド系化合物、サクシノイルトレハロースリピド系化合物、ソフォロースリピド系化合物、セロビオースリピド系化合物、マルトースリピド系化合物、ポリオールリピド系化合物、グルコースリピド系化合物、フルクトースリピド系化合物、グルコシドリピド系化合物、マンノシドリピド系化合物、ラムノースリピド系化合物、シュークロースリピド系化合物、アルカノイル−N−グルカミドリピド系化合物等の各種化合物を挙げることができる。また、本発明において、これらの誘導体もバイオサーファクタントとして使用することができる。
界面活性剤の性質は、その親水性と疎水性のバランスに依存する。特に界面活性剤の親水性と疎水性のバランスが釣り合った場合、多量の油や水を可溶化することが可能な両連続構造を形成する。両連続構造とは、水相と油相が両方とも連続的である界面活性剤の自己集合構造のことである。このような両連続構造は、水相や油相に対して超低界面張力状態をとる。従って、室温付近の熱エネルギーやわずかな外力によって、簡便かつ容易に微細なエマルションを得ることができる。また、この微細なエマルションは、さらに、油脂、油性物質や水、水性媒体を所定量添加することや、温度を変化させることによって、界面活性剤の親水性と疎水性のバランスを変化させ、分散安定化することも可能である。
しかしながら、一般に界面活性剤の親水基と疎水基のバランスを釣り合わせて両連続構造を得るためには、温度や助溶媒、助界面活性剤の比率などの諸条件の探索が必須であり、非常に手間がかかる。さらに、実用系においては、多種多様な油成分のエマルションの調製が要求されるため、そのつど相図を作成して、両連続構造領域を決定することもあまり現実的ではない。したがって、なるべく少ない成分数で、例えば水と界面活性剤のみの相図上の幅広い領域で、両連続構造を形成するような界面活性剤が必要となる。
この方法は、界面活性剤が形成するリオトロッピク液晶中に乳化粒子となる分散相を分散保持させることにより、エマルションの生成及び安定化を行うものである。しかしながら、上記したように、工業レベルで使用させる合成界面活性剤は、分子構造が均一でないものが多く、分子の配向性が低いため、一般にリオトロピック液晶形成能が低い。
これまでにもバイオサーファクタントの乳化物に関連した技術はあるが、これらはバイオサーファクタントの両連続構造やリオトロピック液晶などの自己集合体を活用していない点で、本技術とは全く異なっている。
これは、両連続構造は、超低界面張力状態であるため、容易に多量の油を内部に可溶化せしめることができるからであり、このような油相や水相に対する低界面張力状態の活用により、わずかな外力や室温付近の熱エネルギーのみで、微細なエマルションの調製が可能となる。
本発明において両連続構造を形成するためのバイオサーファクタントの濃度は特に制限されないが、好ましくは7×10-4wt%から57wt%未満である。また、上記使用する混合乃至攪拌手段に特に制限はない。
また、本発明においては、さらに油脂又は油性物質及び水又は水性媒体を添加することや、温度を変化させることによって、界面活性剤の親水性と疎水性を釣り合った状態から変化させ、得られた微細なエマルションをさらに安定化することもできる。この際に与える温度変化としては、好ましくは室温から20℃以下、及び室温から40℃以上であるが、特にこれに限定されるものではない。これにより、わずかな外力で微細かつ安定なエマルションを得ることができる。
本明細書にいう油性物質は、化粧料に一般的に使用される温度2 5 ℃ で液状の天然もしくは合成の油溶性の化合物、例えば炭化水素含有油、エステル油、シリコーン油、含フッ素化合物油などを使用することができる。炭化水素含有油としては、例えばホホバ油、オリーブ油、ヒマシ油、大豆油、パーム油、ゴマ油、コーン油、菜種油、ヒマワリ油、綿実油、アプリコット油、アボカド油、又は穀物胚芽油などが挙げられる。また、エステル油としては、ラノリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、その他の脂肪酸のエステルを使用することができ、具体的には、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、アジピン酸ジイソプロピル、イソノナン酸イソノニル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ラウリン酸2−ヘキシルデシル、パルミチン酸2−オクチルデシル、2−オクチルドデシルミリスタート又はラクタート、コハク酸ジ(2−エチルヘキシル) 、リンゴ酸ジイソステアリル、トリイソステアリン酸グリセリル又はトリイソステアリン酸ジグリセリルなどが挙げられる。さらに、エマルション燃料として用いる場合には、油性物質として、軽油、灯油、重油、動植物油等の燃料油が挙げられる。
また、水性媒体とは、水又は水に炭素数1〜4の低級アルコール、グリコールなどが溶解あるいは分散された水溶液をいう。この水性媒体には、その他の水溶性、水分散性の成分、例えば、皮膜形成剤、その他種々の添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、例えば、パラベン等の防腐剤、増粘剤、金属イオン封鎖剤、各種塩などを用いることができる。
一般式16で示すn16=10のものを主成分とするMEL−Aを0-100wt%となるように試験管中に測りとり、蒸留水2mLを加えて1分間ボルテックス処理した。平衡状態に達するまで3日間静置した後、それぞれの溶液の相状態を、目視観察や偏光顕微鏡(ニコン社製のECLIPSE E600)観察によって検討した。その結果、希薄溶液における2.7×10-4wt%から57wt%まで(領域I)の非常に幅広い領域において、粘度が小さく流動性に富むMEL-Aの両連続構造が確認された。また、57wt%から87wt%までの領域において、溶液の粘度が著しく上昇したことから、MEL-Aのリオトロピック液晶が形成したものと考えられる。特に、64wt%から87wt%の領域(領域III)においては、図2に示すように偏光観察からヘキサゴナル液晶に特有のアンギュラー構造が観察されたことから、ヘキサゴナル液晶領域であることが判明した。一方、57wt%から64wt%の領域(領域II)においては、偏光観察では何も観察されなかったことから、光学的に異方性を示さない液晶であるキュービック液晶が形成した。以上より、バイオサーファクタントであるMEL−Aは、強度の外力を必要としない乳化法の開発に必要な両連続構造やリオトロピック液晶を、少ない成分数で簡便かつ幅広い領域において形成することが判明した。
実施例1のように得られたMEL−Aの各種の分子集合構造を活用した乳化を試みた。まず、希薄系における両連続構造形成領域(領域I)であるMEL−Aの0.1wt%溶液5mLに和光純薬社製の大豆油を100μL添加して、ボルテックスミキサーで1分間わずかな外力を与えることによって乳化した。その結果、図3(b)に示すようなエマルションが得られ、その粒子径を大塚電子社製の動的光散乱測定装置(DLS-7000)を用いて測定したところ、607.9nmとなり、ナノサイズの微細なO/Wエマルションであった(図3(a))。また、このエマルションは少なくとも半年以上は、分散安定であった。大豆油の代わりに、東京化成工業社製のn-ヘキサデカンを用いた場合にも、容易にエマルションが形成し(図4(b))、その粒子径は680nmであり(図4(a))、分散安定性も少なくとも半年以上は良好であった。
また、MEL-Aの両連続構造領域(領域I)の20wt%水溶液において、各種油の可溶化量を調べた。その結果、可溶化限界量は、大豆油(和光純薬社製)では系全体に対して35wt%、流動パラフィン(和光純薬社製)では22wt%、n-ヘキサデカン(東京化成工業社製)では18wt%、ジメチルポリシロキサン(信越化学工業社製)では12wt%、デカメチルシクロペンタシロキサン(東レ・ダウコーニンング社製)では28wt%と多量の油を可溶化できることが判った。さらに、MEL-Aの両連続構造を採取して、室温付近の熱エネルギーのみで、自発的に乳化が生じるかについて検証した。その結果を光学顕微鏡(ニコン社製のECLIPSE E600)したものを図5に示す。なお、温度は東海ヒット社製のサーモプレート(MATS-55SFT)を用いて、30℃から36℃の範囲で制御した。図5より、室温付近のわずかな熱エネルギーである34℃および36℃付近において、自発的にエマルションが得られることが判明した。また、このエマルションは、高温の60℃および低温の10℃において、少なくとも半年以上は分散安定であった。
実施例1から、MEL-Aは、幅広い濃度領域で両連続構造を形成するばかりでなく、濃厚領域においても、少ない成分で簡便にリオトロピック液晶を形成することが判明した。そこで、次にMEL-Aのリオトロピック液晶(領域II及び領域III)を活用した乳化を試みた。まず、領域IIにおけるMEL-Aの60wt%溶液(キュービック液晶)に、150μLの水を添加して、1分間、60℃でボルテックスした。その結果、図6に示すようなキュービック液晶中に水が分散したエマルションが得られることが判った。さらに、このエマルションは、少なくとも半年以上は安定であった。また、領域IIIにおけるヘキサゴナル液晶を用いても同様に安定なエマルションを得ることが可能であった。
MEL−Aの代わりに、ラムノースリピド系化合物としてRL−4、ソフォロースリピド系化合物としてSL−5、トレハロースリピド系化合物としてTL−1(m20=14、n20=16のもの)、セロビオースリピド系化合物としてCL−C(R221がOHで、X=4のもの)、グルコシドリピド系化合物としてドデシル−β−D−グルコシド(GL−1)、マンノシド系リピド化合物としてドデシル−β−D−マンノシド(ML−1)、または、アルカノイル−N−メチルグルカミドリピド系化合物としてドデシル−N−メチルグルカミドを用いて、それぞれ実施例と同様の操作を行ったところ、実施例と同様、わずかな外力で安定なエマルションを調製することができた。なお、これらのバイオサーファクタントは、北本大、“オレオサイエンス”、1(1)、17−31(2001)記載の方法によって微生物培養液より調製した。
Claims (13)
- 下記一般式1で表されるマンノシドリピド系化合物であるバイオサーファクタントを、水又は水性媒体に対し2.7×10-4wt%以上、57wt%未満の割合で混合し、平衡状態に達するまで静置することにより、両連続構造である自己集合体を形成させたことを特徴とする、乳化又は可溶化剤。
- 前記マンノシドリピド系化合物が、下記一般式2で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の乳化又は可溶化剤。
- 下記一般式3または4で表されるラムノースリピド系化合物であるバイオサーファクタントを、水又は水性媒体に対し2.7×10-4wt%以上、57wt%未満の割合で混合し、平衡状態に達するまで静置することにより、両連続構造である自己集合体を形成させたことを特徴とする、乳化又は可溶化剤。
- 下記一般式6または7で表されるソフォロースリピド系化合物であるバイオサーファクタントを、水又は水性媒体に対し2.7×10-4wt%以上、57wt%未満の割合で混合し、平衡状態に達するまで静置することにより、両連続構造である自己集合体を形成させたことを特徴とする、乳化又は可溶化剤。
- 下記一般式8で表されるトレハロースリピド系化合物であるバイオサーファクタントを、水又は水性媒体に対し2.7×10-4wt%以上、57wt%未満の割合で混合し、平衡状態に達するまで静置することにより、両連続構造である自己集合体を形成させたことを特徴とする、乳化又は可溶化剤。
- 下記一般式11で表されるサクシノイルトレハロースリピド系化合物であるバイオサーファクタントを、水又は水性媒体に対し2.7×10-4wt%以上、57wt%未満の割合で混合し、平衡状態に達するまで静置することにより、両連続構造である自己集合体を形成させたことを特徴とする、乳化又は可溶化剤。
- 下記一般式12で表されるセロビオースリピド系化合物であるバイオサーファクタントを、水又は水性媒体に対し2.7×10-4wt%以上、57wt%未満の割合で混合し、平衡状態に達するまで静置することにより、両連続構造である自己集合体を形成させたことを特徴とする、乳化又は可溶化剤。
- 下記一般式14で表されるグルコシドリピド系化合物であるバイオサーファクタントを、水又は水性媒体に対し2.7×10-4wt%以上、57wt%未満の割合で混合し、平衡状態に達するまで静置することにより、両連続構造である自己集合体を形成させたことを特徴とする、乳化又は可溶化剤。
- 下記一般式15で表されるアルカノイル−N−メチルグルカミドリピド系化合物であるバイオサーファクタントを、水又は水性媒体に対し2.7×10-4wt%以上、57wt%未満の割合で混合し、平衡状態に達するまで静置することにより、両連続構造である自己集合体を形成させたことを特徴とする、乳化又は可溶化剤。
- 請求項1〜9のいずれかに記載の乳化剤又は可溶化剤を、油脂または油性物質と混合して乳化あるいは可溶化を行うことを特徴とする、乳化あるいは可溶化組成物の製造方法。
- 請求項10に記載の方法により得られた乳化あるいは可溶化組成物に対し、さらに油脂又は油性物質若しくは水又は水性物質を添加するか、あるいは加熱又は冷却することにより安定化させることを特徴とする、安定化された乳化あるいは可溶化組成物の製造方法。
- 請求項10又は11に記載の方法により得られた、乳化あるいは可溶化組成物。
- 請求項12に記載の乳化あるいは可溶化組成物を含有することを特徴とする、化粧品、医薬品、食品または燃料。
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