JP4849359B2 - 多層ポリイミド管状物及びその製造方法並びに樹脂管状物の製造装置 - Google Patents

多層ポリイミド管状物及びその製造方法並びに樹脂管状物の製造装置 Download PDF

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本発明は、複写機や、プリンター等の電子写真画像形成装置の部材、あるいは医療用チューブなどに好適に使用される多層ポリイミド管状物及びその製造方法並びに樹脂管状物の製造装置に関する。
ポリイミドは耐熱性、寸法安定性、機械的特性等の優れた特性を有する。このため、複写機やレーザービームプリンター等の電子写真画像形成装置において画像形成、転写、定着プロセスの部材として、また熱ラミネーター用ベルトあるいは医療用カテーテルや内視鏡チューブなどとして、多くの用途に展開されている。以下、複写機やレーザービームプリンターなどの転写ベルト及び定着ベルトとして使用されるポリイミド管状物について、例を挙げて説明する。
電子写真技術を利用したカラーレーザープリンター等の画像形成装置では、図1に示されるように、感光ドラム23の表面に基本色(イエロー、マゼンタ、シアン、及びブラック)のトナーにより画像が形成された後、そのトナー像は一度中間転写ベルト21上に転写され、さらに、複写紙25に再転写された後に定着装置26で熱定着される。このような方式は、中間転写ベルト方式と呼ばれ、世の中に広く普及している。なお、図1に示す電子写真画像形成装置において、ポリイミド管状物は、中間転写ベルト21、感光ドラム23、及び定着ベルト26として使用されている。また、図1において、符号22はベルトプーリーを示し、符号24は露光走査装置を示している。
ところで、中間転写ベルト21には、表面が静電的に帯電して感光ドラム上のトナー像を静電吸着する帯電特性と、表面が除電されてトナー像を複写紙上に再転写するという帯電特性と相反する除電特性とが要求される。このため、中間転写ベルトでは表面抵抗率あるいは体積抵抗率が重要な特性になり、各抵抗率の精密な制御が要求される。このような要求を満たすために、過去に「10Ω/□〜1013Ω/□の表面電気抵抗値を示す第1熱硬化性ポリイミド樹脂層と、第1熱硬化性ポリイミド樹脂層の裏側に配置され第1熱硬化性ポリイミド樹脂層の表面電気抵抗値よりも大きな表面電気抵抗値を示す第2熱硬化性ポリイミド樹脂層とを有し、体積電気抵抗値が第1熱硬化性ポリイミド樹脂層の表面電気抵抗値よりも小さいポリイミド管状物」が提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、このようなポリイミド管状物は、例えば、適量の導電性物質を含有する2種類のポリイミド前駆体を遠心成形法によって2層構造に成形した後、第1熱硬化性ポリイミド樹脂層と第2熱硬化性ポリイミド樹脂層とを同時に閉環イミド化して製造される(特許文献1参照)。さらに詳細に述べると、このポリイミド管状物の製造方法では、先ず、第1熱硬化性ポリイミド樹脂層の原料が遠心成形装置のシリンダーに投入された後、遠心成形装置が回転駆動させられる。遠心成形装置が回転駆動させられると、遠心成形装置内で第1熱硬化性ポリイミド樹脂層の原料の全体の厚みが時間の経過と共に均一化されていく。そして、第1熱硬化性ポリイミド樹脂層の原料の全体の厚みが十分に均一化されたと思われる時点から外部加熱が開始され、第1熱硬化性ポリイミド樹脂層の原料が、最終的に100〜120度Cで約30分加熱される。その後、第1熱硬化性ポリイミド樹脂層の原料は冷却され、遠心成形装置の回転が停止される。続いて、第2熱硬化性ポリイミド樹脂層の原料が同様の条件で塗布、加熱、冷却される。そして、このようにして得られたポリイミド前駆体管状物は、遠心成形装置から剥離された後に芯体に挿入されてから別の加熱装置に入れられて、徐々に昇温されながら加熱されてイミド化される。
また、中間転写ベルトから複写紙上に再転写されたトナー像を熱定着する方式としては近年、図2に示されるフィルム定着方式が主流であり、例えば、特許文献2に開示された方法や装置がよく利用されている。このフィルム定着方式では、電源を入れてから待ち時間なく印刷でき、薄膜のポリイミド管状物が用いられているため消費電力が小さい。このため、このフィルム定着方式は、環境にやさしい定着方式として全世界の人々に受け入れられている。図2に示される定着装置は、主に、定着ベルト1(ポリイミド管状物)と、定着ベルト1の内側に配置されるベルトガイド2と、ベルトガイド2の中央付近に配置されるセラミックヒーター3と、セラミックヒーター3上に設置されるサーミスタ5と、加圧ローラ4とを備える。そして、この定着装置では、定着ベルト1を介してセラミックヒーター3と圧接させた加圧ローラー4との間に、トナー像が形成された複写紙7が順次送り込まれると、トナーが加熱溶融させられて複写紙上に定着される。なお、図2において、符号9は定着されたトナーであり、符号6は加圧ローラーの芯金部であり、Nは定着ベルト1と加圧ローラー4とのニップ面である。
なお、フィルム定着方式では、複写紙上のトナーをなるだけ短時間で熱定着させる必要があるため、セラミックヒーター3で発生した熱量を効率よく利用してトナーを熱定着させなければならない。このため、フィルム定着方式が採用される場合、定着ベルト1には高い熱伝導性が要求される。このような要求に対して、本願出願人は、シームレスポリイミドフィルム(定着ベルト)の原料として、窒化ホウ素などの熱伝導性微粒子が均一に分散されたポリイミド樹脂を採用することを提案している(特許文献3参照)。
ところで、図1の符号23で示されるポリイミド管状物からなる感光ドラムは、プリンターの小型化、あるいは軽量化に対応するために開発された背面露光方式と呼ばれている技術に必要とされる。この背面露光方式では、光走査系が感光ドラムの内側に収納された状態で、帯電、露光、現像、転写等の画像形成プロセスが行われる。この技術により電子写真画像形成装置の小形化、軽量化、低価格化が期待されている。そして、この方式では上述したように光走査系が感光ドラム23(ポリイミド管状物)の内側に配置されるため、感光ドラム23には光の透過性、機械的特性、外表面の平滑性などの特性が要求される。そして、このような感光ドラムとして波長660nmの光を85%以上透過するポリイミド樹脂を利用した感光ドラムが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
また、本出願人は、上述した定着ベルトや中間転写ベルト及び感光ドラム等を製造する方法として、芯体の外面にポリイミド前駆体溶液を塗布した後、芯体の外面に沿って所定の内径を有する外型ダイスを通過させ、芯体の表面に所定の厚みのポリイミド前駆体被膜を成形し、加熱などの手段でイミド化させた後、金型と芯体を分離してポリイミド管状物を得る方法を提案している(例えば、特許文献5参照)。
特開2004−29769号公報 特開平6−258969号公報 特開平7−186162号公報 特開平5−249705号公報 特開平7−178741号公報
しかしながら、従来の製造技術では、前述した中間転写ベルトや定着ベルトあるいは感光ドラム等に要求される電気抵抗率、熱伝導性、光の透過性等の基本的な特性と、機械的特性あるいは表面平滑性等の一般的な特性とを兼ね備えたポリイミド管状物を得ることは極めて難しい。
例えば、特許文献1に係る製造方法では、第1熱硬化性ポリイミド樹脂層の原料と第2熱硬化性ポリイミド樹脂層の原料とを異ならせてポリイミド管状物を製造することが可能であるが、遠心成形装置で熱硬化性ポリイミド樹脂層の原料をそれぞれ個別に成形し、イミド化の中間段階まで加熱した後に冷却する工程を繰り返す必要があり、また、その後は、遠心成形装置からポリイミド前駆体管状物を取り出して、そのポリイミド前駆体管状物に芯体を挿入し最終のイミド化処理を行う必要があるため、非常に繁雑である。このため、このような製造方法は工業的な生産には不向きであるといわざるを得ない。また、この製造方法は、ポリイミド前駆体溶液を遠心成形した後、加熱して1層目のイミド化反応を中間段階で停止させ、次いで2層目を積層する製造方法であるため、最初に形成されるポリイミド前駆体管状物のイミド化反応が進み過ぎると、第1熱硬化性ポリイミド樹脂層と第2熱硬化性ポリイミド樹脂層との層間接着力が低下してしまうおそれがある。また、この製造方法は、内径の小さい管状物の製造が難しい等の多くの問題を抱えている。
また、特許文献3に係る製造方法では、熱伝導性の改善は図れるものの機械的特性が反比例的に低下し、定着ベルトの座屈、端部からの破れなどの問題が新たに発生する。このため、ポリイミド管状物の機械的特性と熱伝導性(熱伝導性微粒子の混合割合)とのバランスを取る必要がある。したがって、電子写真画像形成装置の高速化に対しては妥協せざるを得なかった。
また、背面露光感光ドラムとして利用するポリイミド管状物には高い光透過率が必要とされるため、ポリイミド前駆体の重合において酸二無水物成分として2,2−ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)や2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)等が、ジアミン成分として4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)やビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)等が用いられる必要がある。しかし、このようなポリイミド前駆体から得られる透明性ポリイミドは機械的特性が極端に低く、光の透過性と機械的特性とを両立することは不可能に近い。
また、特許文献5に係る製造方法を利用して多層ポリイミド管状物を製造するためには、先ず、ポリイミド前駆体溶液を成形した後に加熱し、ポリイミド被膜が半硬化状態になるまでに処理した後、先の処理をもう一度繰り返す必要がある。このように、製造工程が煩雑となると共に製造工程が増えることにより、異物の混入や欠陥も増大するおそれがある。さらに半硬化ポリイミド被膜の表面にポリイミド前駆体溶液を積層して成形する場合、ポリイミド前駆体溶液のはじき現象や液ダレ等の問題が生じやすく、また二層間の接着力も不安定になる等多くの問題が生じるおそれがある。
本発明の課題は、上述した従来の問題を解決し、電子写真画像形成装置の高速化や、小型化、軽量化を実現することができる多層ポリイミド管状物を提供することにある。また、本発明の別の課題は、製造コストを低く維持したままそのような多層ポリイミド環状物を製造することができる多層ポリイミド管状物の製造方法及び製造装置を提供することにある。
本発明に係る多層ポリイミド管状物の製造方法は、ポリイミド前駆体溶液重ね塗り工程及びイミド化工程を備える。ポリイミド前駆体溶液重ね塗り工程では、芯体の外面に第1ポリイミド前駆体溶液と第2ポリイミド前駆体溶液とが重ねて塗布される。なお、ここにいう「第1ポリイミド前駆体溶液」とは、第1ポリイミド前駆体の溶液である。また、ここにいう「第2ポリイミド前駆体溶液」とは、第2ポリイミド前駆体の溶液である。イミド化工程では、第1ポリイミド前駆体溶液及び第2ポリイミド前駆体溶液から溶媒が除去されると共に第1ポリイミド前駆体及び第2ポリイミド前駆体がイミド化される。
なお、この多層ポリイミド管状物を定着ベルトや中間転写ベルト等として利用できるようにするためには、イミド化工程において、少なくとも管状物としての強度を保持できる状態まで第1ポリイミド前駆体及び第2ポリイミド前駆体を処理して半硬化ポリイミド管状物を調製した後、その半硬化ポリイミド管状物の外面に導電性プライマーを塗布して乾燥し、続いてその上にフッ素樹脂をコーティングした後、それを加熱処理することによりイミド化反応の完結処理とフッ素樹脂の焼成処理とを同時に行うのが好ましい。
そして、この製造方法は、次に紹介する本発明に係る製造装置を用いて実施すると効率的に実施することができる。
本発明に係る多層樹脂管状物の製造装置は、第1円筒壁、第2円筒壁、第1樹脂等溶液配送部、及び第2樹脂等溶液配送部を備える。なお、第1円筒壁及び第2円筒壁の内径は、円柱形又は円筒形の芯体が所定の隙間をもって通過できるように設計される。また、ここにいう「樹脂等溶液配送部」とは、加圧装置やポンプ等である。第1円筒壁は、開口を有する。なお、第1円筒壁において開口は一部の円筒部分が除去されて形成されていてもよいし全周に亘って均一に複数形成されていてもよい。第2円筒壁は、開口を有する。なお、第2円筒壁において開口は一部の円筒部分が除去されて形成されていてもよいし全周に亘って均一に複数形成されていてもよい。また、第2円筒壁の内周径は、第1円筒壁の内周径よりも小さい。そして、この第2円筒壁は、軸が第1円筒壁の軸に沿うように第1円筒壁の下側に配置される。第1樹脂等溶液配送部は、第1樹脂溶液又は第1樹脂前駆体溶液を第1円筒壁の開口に配送する。第2樹脂等溶液配送部は、第2樹脂溶液又は第2樹脂前駆体溶液を第2円筒壁の開口に配送する。なお、樹脂等溶液配送部は、樹脂溶液又は樹脂前駆体溶液を直接的に円筒壁の開口に配送してもよいし(例えば、樹脂等貯留タンクから延びるパイプ等が直接円筒壁の開口に接続されている場合等)、樹脂溶液又は樹脂前駆体溶液を、円筒壁の開口の前等に設けられる樹脂プール部に一旦に配送し、間接的に円筒壁の開口に配送してもよい。
この多層樹脂管状物の製造装置では、第1樹脂等溶液配送部及び第2樹脂等溶液配送部により第1円筒壁の開口及び第2円筒壁の開口から所定の吐出速度で第1樹脂溶液又は第1樹脂前駆体溶液、及び第2樹脂溶液又は第2樹脂前駆体溶液が吐出された状態で円柱形又は円筒形の芯体が第1円筒壁及び第2円筒壁の軸に沿って第1円筒壁及び第2円筒壁を通過すると、その芯体に所定厚みの二層樹脂等溶液管状被膜が形成される。なお、芯体を第1円筒壁及び第2円筒壁の軸に沿って第1円筒壁及び第2円筒壁に通過させる方法としては、第1円筒壁及び第2円筒壁を固定し、芯体の軸端に取り付けられる吊紐を介して芯体を所定の速度で引き上げる方法や、芯体を固定し、第1円筒壁及び第2円筒壁を所定の速度で芯体に沿って移動させる方法等が考えられる。
なお、この多層樹脂管状物の製造装置は配送タイミング制御機構をさらに備えるのが好ましい。配送タイミング制御機構は、第1樹脂等溶液配送部による第1樹脂溶液又は第1樹脂前駆体溶液の第1円筒壁の開口への配送を第2樹脂等溶液配送部による第2樹脂溶液又は第2樹脂前駆体溶液の第2円筒壁の開口への配送よりも遅らせる。配送タイミング制御機構として、例えば、2つの電動弁と、それらの電動弁の開放タイミングを独立して制御することができる制御装置とから成るものが考えられる。このようにすれば、芯体が第2円筒壁を通過した後に第1円筒壁を通過する場合、樹脂溶液や樹脂前駆体溶液の吐出開始時に第1樹脂溶液又は第1樹脂前駆体溶液が下に垂れて第2樹脂溶液又は第2樹脂前駆体溶液と混じってしまうことを回避することができる。
発明に係る多層ポリイミド管状物の製造方法では、ポリイミド前駆体溶液重ね塗り工程において、芯体の外面に第1ポリイミド前駆体溶液と第2ポリイミド前駆体溶液とが重ねて塗布される。つまり、この製造方法では、ポリイミド前駆体溶液の塗布工程が一工程化されていることになる。このため、この製造方法では、互いに隣接するポリイミド前駆体溶液の一部分を混和した状態にすることができる。そして、イミド化工程において、一部分が混和された状態にされた隣接する2つのポリイミド前駆体溶液層が溶媒除去されると共にイミド化されると、その境界部分には第1ポリイミド樹脂と第2ポリイミド樹脂とが互いに絡み合って混在するポリイミド樹脂混在層が形成される。このため、この製造方法では、イミド化工程が完結するまでポリイミド前駆体管状物等を芯体から一切取り外すことなく多層ポリイミド管状物を製造することができる。したがって、この製造方法を利用すれば、従来の製造方法よりも加工工程を大幅に簡略化、短縮化することができる。つまり、従来の製造方法よりも低い製造コストで多層ポリイミド管状物を製造することができる。また、本発明に係る製造方法では、多層ポリイミド管状物の原材料としてポリイミド前駆体溶液が採用されるため、導電性微粒子や熱伝導性微粒子あるいはフッ素樹脂粒子等を予めポリイミド前駆体溶液に混合しておくことができる。このため、本製造方法を利用すれば、ポリイミド樹脂層中の微粒子の混合分散の精度を向上させることができ、品質の高い多層ポリイミド管状物を製造することができる。
また、本発明に係る多層樹脂管状物の製造装置では、第1樹脂等溶液配送部及び第2樹脂等溶液配送部により第1樹脂溶液又は第1樹脂前駆体溶液、及び第2樹脂溶液又は第2樹脂前駆体溶液が第1円筒壁の開口及び第2円筒壁の開口に配送される。このため、この多層樹脂管状物の製造装置では、常に新しい樹脂溶液又は樹脂前駆体溶液を芯体に塗布することができる。したがって、この多層樹脂管状物の製造装置では、樹脂溶液や樹脂前駆体溶液に異物や気泡などの混入がなく、高い歩留まりで高品質の多層樹脂管状物を製造することができる。また、この多層樹脂管状物の製造装置が配送タイミング制御機構をさらに備え、芯体が第2円筒壁を通過した後に第1円筒壁を通過する場合は、樹脂溶液又は樹脂前駆体溶液の吐出開始時に第1樹脂溶液又は第1樹脂前駆体溶液が下に垂れて第2樹脂
溶液又は第2樹脂前駆体溶液と混じってしまうことを回避することができる。
ここでは、本発明の実施の形態について説明する。図3には、本発明の一実施形態に係る多層ポリイミド管状物の断面図を示す。この多層ポリイミド管状物30は、二層構造を有する多層ポリイミド管状物であって、主に、第1ポリイミド樹脂層33及び第2ポリイミド樹脂層31とから構成されている。そして、この多層ポリイミド管状物30では、第1ポリイミド樹脂層33と第2ポリイミド樹脂層31との間に、第1ポリイミド樹脂層33を形成するポリイミド樹脂と第2ポリイミド樹脂層31を形成するポリイミド樹脂とが混在した状態(2液が接触し相溶しあった状態)となっているポリイミド樹脂混在層32が存在する。なお、本実施の形態において、多層ポリイミド管状物に3以上のポリイミド樹脂層が形成されていてもかまわない。
本発明の実施の形態に係る多層ポリイミド管状物30は、ポリイミド前駆体溶液を原料として用いた場合、その自由な組み合わせにより、それぞれの原料が有する特性を保持することができる。
本発明の実施の形態に係る多層ポリイミド管状物30において、第1ポリイミド樹脂層33及び第2ポリイミド樹脂層31の少なくともいずれかのポリイミド樹脂層は微粒子を含むことが好ましい。微粒子の添加によって多層ポリイミド管状物30に新たな特性を付加できるからである。なお、微粒子は導電性微粒子、熱伝導性微粒子及びフッ素樹脂微粒子より成る群から選ばれる少なくとも1つの微粒子であることが好ましい。
例えば、多層ポリイミド管状物30を中間転写ベルト等として用いる場合、導電性微粒子をいずれかのポリイミド樹脂層31,33に添加するのが好ましい。導電性微粒子の添加によって半導電性領域の表面抵抗率や体積抵抗率等の精密な電気特性を調整できるからである。また、多層ポリイミド管状物30の各ポリイミド樹脂層31,33において導電性微粒子の種類や混合量などを変化させることによって多層ポリイミド管状物30に必要な電気特性と機械的特性あるいは表面特性とを併せて付与することができるからである。導電性微粒子としてはカーボンブラック、カーボンナノファイバー、グラファイト、金属粉末、ニッケルファイバーなどの微粒子を用いることができる。
また、例えば、多層ポリイミド管状物30を定着ベルト等として用いる場合、窒化硼素などの熱伝導性微粒子をいずれかのポリイミド樹脂層31,33に添加するのが好ましい。フィルム定着装置(図2参照)では複写紙上に形成されたトナー像を高速で熱定着するためにセラミックヒーターの発熱量を効率よくトナーの定着に伝える必要があるが、そのためには、定着ベルトの熱伝導率は高い方が好ましいからである。そして、例えば、熱伝導性微粒子を大量に混合したポリイミド樹脂層と、熱伝導性微粒子を少量混合した又は微粒子を全く混合しないポリイミド樹脂層とを組み合せて積層することによって、高い熱伝導性と機械的特性とを兼ね備えた定着ベルトが実現できる。なお、本実施の形態に係る多層ポリイミド管状物30では前者が第1ポリイミド樹脂層33であり後者が第2ポリイミド樹脂層31であるのが好ましい。なお、このような熱伝導性微粒子としては、絶縁性の無機微粒子が好ましく、例えば、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、チタン酸カリウム、窒化アルミ、マイカ、シリカ、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。これらの中でも、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、窒化アルミはより好ましい熱伝導性微粒子である。
なお、熱伝導性微粒子の含有量は、通常10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%である。単層ポリイミド管状物では、熱伝導性微粒子の含有量が30%を超えると機械的特性が低下し、あるいは管状物表面の粗度が粗くなり定着ベルトとして使用することができなかったが、本発明に係る多層ポリイミド管状物30は、導電性微粒子を含有するポリイミド層の外面及び内面の少なくとも一方の面上に熱伝導性微粒子の含有量の少ない(0〜10重量%含有)ポリイミド樹脂層を形成することによって、機械的特性を低下させることなく熱伝導性を改善できる。なお、熱伝導性微粒子の平均粒子径は、1〜20μmの範囲であり、好ましくは5〜15μmである。
また、本発明の実施の形態に係る多層ポリイミド管状物30ではいずれかのポリイミド樹脂層にフッ素樹脂微粒子が含まれることが好ましい。ポリイミド前駆体溶液中にあらかじめフッ素樹脂微粒子を混合した後にそのポリイミド前駆体溶液を成形し、そのポリイミド前駆体をフッ素樹脂の融点以上の温度でイミド化させると、ポリイミド樹脂層の片面または両表面に、突起部を有するフッ素樹脂層が形成され、離型性及び低摩擦性に優れた多層ポリイミド管状物を得ることができるからである。ポリイミド樹脂層にフッ素樹脂微粒子を含有させた場合、そのポリイミド樹脂層の機械的特性は、熱伝導性微粒子を混合した場合と同じように混合量に比例して低下する。しかし、一例として、芯体上にまずポリイミド前駆体溶液のみを成形し、その外面にフッ素樹脂微粒子を混合したポリイミド前駆体溶液を重ねて成形し、その後フッ素樹脂の融点以上の温度でイミド化を完結させることによって、突起部を有するフッ素樹脂層が形成され、離型性に優れ、且つ高い機械的特性を有する多層ポリイミド管状物を作製することができる。
ポリイミド前駆体溶液に混合するフッ素樹脂微粒子としては、特に限定されるものではなく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)が挙げられる。なお、これらの混合物がフッ素樹脂微粒子として用いられてもよい。また、フッ素樹脂微粒子の混合量はポリイミド前駆体溶液の固形分に対して3〜50重量%に設定することが好ましい。特に好ましくは10〜40重量%である。また、フッ素樹脂微粒子の平均粒径は0.1〜25μmの範囲であるのが好ましい。より好ましい平均粒子径は、1.0〜15μmの範囲である。
また、本発明の実施の形態に係る多層ポリイミド管状物では、各ポリイミド樹脂層を異なる原料から作製することができる。本発明の実施の形態に係る多層ポリイミド管状物のポリイミド樹脂層は芳香族テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンとを原料として得られる。例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とパラフェニレンジアミン(PPD)とからなるポリイミド樹脂は剛直で優れた機械的特性を有するが引張伸びが小さく、また各単量体の価格が高い。一方、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とからなるポリイミド樹脂は引張伸びも大きく柔軟な特性を持ち、且つ各単量体の価格も安価である。したがって、これらの2種類のポリイミド樹脂を多層化することによって、製造原価を低く抑えつつ、定着ベルトや、中間転写ベルト、感光ドラムに必要な特性を備えた多層ポリイミド管状物を得ることができる。
また、4、4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル等と、2,2−ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物あるいは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)等とから得られるポリイミド樹脂は、高い光透過特性を有するが、機械的特性及びガラス転移温度が低いという欠点を持ち合わせている。これらの透明性ポリイミドと、上述したBPDAとPPDとからなる剛直なポリイミドとを多層化することによって、光透過率、機械的特性、及び耐熱性の高い多層ポリイミド管状物を得ることができる。
また、本発明の実施の形態に係る多層ポリイミド管状物30は、被膜成形ダイスのサイズを変更することにより各層の被膜厚みを自由に選択することができるため、各ポリイミド樹脂層が有する特性に強弱をつけることができる。各ポリイミド樹脂層の厚みは3μm〜500μmの範囲が好ましく、より好ましくは5μm〜300μmの範囲である。
また、本発明の実施の形態に係る多層ポリイミド管状物の内径は、特に限定されるものではないが、0.1mm〜1000mmの範囲内であることが好ましい。電子写真画像形成装置の部材として用いられる多層ポリイミド管状物は内径が10mm〜500mmの範囲内であることが好ましく、医療用カテーテル等として用いられる多層ポリイミド管状物は内径が0.5mm〜10mmの範囲内であることが好ましい。
次に、本発明の実施の形態に係る多層ポリイミド管状物では、ポリイミド樹脂層が芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で重合させた結果得られるポリイミド前駆体をイミド化したものであることが好ましい。ポリイミド前駆体溶液を利用すれば、微粒子を均一に分散できるだけでなく、粘度や固形分濃度の調整により各ポリイミド樹脂層の厚みを幅広く設定でき、さらに、常温で液状成形でき、且つ比較的コンパクトな設備で成形が可能であるからである。
ポリイミド前駆体溶液は、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させて得ることができる。芳香族テトラカルボン酸二無水物の代表例としては、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,3′,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2′−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカル
ボキシフェニル)スルホン二無水物等があげられる。
また、芳香族ジアミンの代表例としては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3′−ジクロロベンジジン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニルジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド−3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、4,4′−ジアミノフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、m−キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルヘプタメチレンジアミン等があげることができる。
これら芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンは、単独であるいは混合して使用することができる。また、ポリイミド前駆体溶液まで完成させてそれらのポリイミド前駆体溶液を混合して使用することもできる。
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを溶解させる有機極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、ピリジン、ジメチルテトラメチレンスルホン、テトラメチレンスルホン、炭酸プロピレン、γーブチロラクトン等があげられる。なお、これらの溶媒は、単独で使用されてもよいし混合されて使用されてもよい。
上記ポリイミド前駆体溶液は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で通常は90度C以下で反応させることによって得られ、溶媒中の固形分濃度は、製造する多層ポリイミド管状物の仕様や加工条件によって設定されるが、通常は10〜50重量%の範囲内である。
また、有機極性溶媒中で芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させると、その重合状況によって溶液の粘度が上昇するが、使用に際しては希釈により所定の粘度に調整して使用することができる。製造条件や作業条件によって異なるが、通常1〜5000ポイズの粘度で使用される。本発明の実施の形態ではポリイミド前駆体溶液を積層して成形するためポリイミド前駆体溶液の粘度は500〜2000ポイズの範囲内であることが好ましく、より好ましくは800〜1500ポイズである。また、ポリイミド前駆体溶液を積層して成形する場合の各ポリイミド前駆体溶液の粘度は、ほぼ同じ粘度であることが好ましく、下層に成形するポリイミド前駆体溶液の粘度が高い方がより好ましい。
次に、本発明に係る実施の形態において多層ポリイミド管状物の内面及び外面の少なくとも一方の面が離型性層で被覆されていることが好ましい。多層ポリイミド管状物を定着ベルトや中間転写ベルトとして使用する場合、未定着のトナーを除去しやすく、特に定着ベルトとして使用される場合では溶融したトナーのベルト表面への付着(オフセット)を防止できるからである。離型性層はPTFE、PFA、FEPなどのフッ素樹脂からなることが最も好ましい。なお、これらのフッ素樹脂は単体で使用されてもよいし混合されて使用されてもよい。
そして、本発明の実施の形態に係る多層ポリイミド管状物は、主に、ポリイミド前駆体溶液重ね塗り工程及びイミド化工程を経て製造される。ポリイミド前駆体溶液重ね塗り工程では、円柱形または円筒形の芯体の外面に第1ポリイミド前駆体溶液と第2ポリイミド前駆体溶液とが重ねて塗布される。イミド化工程では、第1ポリイミド前駆体溶液及び第2ポリイミド前駆体溶液から溶媒が除去されると共に第1ポリイミド前駆体及び第2ポリイミド前駆体がイミド化される。なお、このとき、イミド化は、加熱によって実現されてもよいし化学的処理によって実現されてもよい。このような製造方法では、ポリイミド前駆体溶液の芯体への塗布が一回で済むため熱効率を高めることができると共に処理時間を短縮することができ、また、イミド化工程において第1ポリイミド前駆体と第2ポリイミド前駆体とが一体化されるため品質の高い多層ポリイミド管状物が作製される。
そして、このような製造方法を実施するのに、図4に示されるような被膜成形装置が用いられるのが好ましい。
この被膜成形装置50は、図4に示されるように、主に、第1被膜成形ダイス54、第2被膜成形ダイス55、第1加圧タンク58、第2加圧タンク59、第1溶液バルブ60、第2溶液バルブ61、第1主管、第2主管、第1分配管62、第2分配管63、第1分配器64、第2分配器65、第1加圧バルブ68、及び第2加圧バルブ69から構成される。
第1被膜成形ダイス54は、中空の円筒成形体である。また、第2被膜成形ダイス55は第1被膜成形ダイス54と同様に中空の円筒成形体である。なお、被膜成形ダイス54,55の内径は、目的とする多層ポリイミド管状物の内径や厚みの仕様により決定される。なお、その際、芯体の外径、芯体の引き上げ速度、ポリイミド前駆体溶液の粘度あるいはスリット開口66,67からの吐出速度などを考慮する必要がある。また、第2被膜成形ダイス55の内周径は第1被膜成形ダイス54の内周径よりも若干小さくされている。そして、第1被膜成形ダイス54は、軸が第2被膜成形ダイス55の軸と沿うように第2被膜成形ダイス55の下側に近接して配置される。なお、第1被膜成形ダイス54及び第2被膜成形ダイス55には、内周壁に所定の間隙で全周に渡ってスリット開口66,67が複数形成されている。このようにスリット開口66,67を形成すると、円周方向の吐出むらがなく、均一な厚さの溶液成形層を形成できるからである。また、スリット開口の幅は、0.5mm〜5mmの範囲内であることが好ましい。また、第1被膜成形ダイス54及び第2被膜成形ダイス55には外周壁に複数の液投入口が形成されており、その液投入口には複数の分配管62,63が接続される。また、被膜成形ダイスが3以上重ねられる場合、下段に位置する被膜成形ダイスの内径が小さく、上段に位置する被膜成形ダイスの内径が大きくなることが必要である。
第1加圧タンク58及び第2加圧タンク59は、ポリイミド前駆体溶液56,57を貯蔵するための貯蔵容器である。そして、これらの加圧タンク58,59には、それぞれの上蓋に加圧バルブ68,69が取り付けられており、また、それぞれの下方に溶液バルブ60,61が取り付けられている
第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69には加圧空気ボンベ等が取り付けられ、第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69が開状態となると、加圧タンク58,59内部を加圧する。なお、このとき、溶液バルブ60,61が開状態となっていると、加圧タンク58,59に貯蔵されるポリイミド前駆体溶液が被膜成形ダイス54,55の中空空間に送出される。
第1溶液バルブ60及び第2溶液バルブ61は、開閉式の電動弁である。なお、これらの溶液バルブ60,61は図示しないタイミング制御装置に通信接続されており、このタイミング制御装置の運転開始ボタンが押されると、先ず、第1溶液バルブ60が開状態となり、その後所定時間が経過した後に第2溶液バルブ61が開状態となる。
第1分配器62及び第2分配器63は1つの入口と複数の出口を有しており、その入口には主管が接続され、出口には分配管62,63が接続される。つまり、この分配器62,63は、加圧タンク68,69から主管を通って配送されるポリイミド前駆体溶液を複数経路に分配する役割を担う。
つまり、第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69が開いた状態で、タイミング制御装置の運転開始ボタンが押されると、第1ポリイミド前駆体溶液56が第1分配器64により複数の経路に分配された後、第1被膜成形ダイス54に供給され、スリット開口部66から吐出される。そして、少し遅れて、第2ポリイミド前駆体溶液57が第2分配器65により複数の経路に分配された後、第2被膜成形ダイス55に供給され、スリット開口部67から吐出される。
次に溶液成形の過程を説明する。被膜成形装置50の被膜成形ダイス54,55の内側に、吊紐70を通し、芯体51の上端部に吊紐を固定する。そして、その吊紐70を駆動モーター(図示せず)に結び、芯体51を所定の速度で引き上げることができるようにする。そして、第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69を開いて、各加圧タンク58,59に加圧空気を送り込み、タイミング制御装置の運転開始ボタンを押す。すると、先ず、第1溶液バルブ60が開状態となり、第1ポリイミド前駆体溶液56が第1被膜形成ダイス54のスリット開口66から吐出される。そして、これと同時に芯体51を所定の速度で引き上げると、芯体51の外面に第1ポリイミド前駆体溶液被膜52が形成される。なお、このとき、第1ポリイミド前駆体溶液56の吐出量及び芯体51の引き上げ速度の少なくとも一方を制御すると、第1ポリイミド前駆体溶液56を一定の厚みで溶液成形することができる。そして、第1溶液バルブ60が開状態になってから少し経過した後、第2溶液バルブ61が開状態となり、第2ポリイミド前駆体溶液57が第2被膜形成ダイス55のスリット開口67から吐出される。すると、第1ポリイミド前駆体溶液被膜52の上に第2ポリイミド前駆体溶液被膜53が形成される。つまり、この被膜成形装置50では、第1ポリイミド前駆体溶液56により多層ポリイミド管状物30の第1ポリイミド樹脂層33(内層)が形成され、第2ポリイミド前駆体溶液57により多層ポリイミド管状物30の第2ポリイミド樹脂層31(外層)が形成されることになる。なお、このとき、第2ポリイミド前駆体溶液57の吐出量及び芯体51の引き上げ速度の少なくとも一方を制御すると、第2ポリイミド前駆体溶液57を一定の厚みで溶液成形することができる。なお、好ましい実施の形態では、スリット開口66,67から一定量のポリイミド前駆体溶液を吐出させると共に、芯体51の引き上げ速度を逐次制御する。このようにすれば、ポリイミド前駆体溶液被膜の厚みを精度よく一定とすることができる。
なお、このような溶液成形では、スリット開口部から吐出されるポリイミド前駆体溶液の粘度及び吐出力により、芯体51に自動調芯的な応力が加わるため、ポリイミド前駆体溶液被膜を均一な厚みに成形することができる。
なお、本発明の実施の形態で使用される芯体51は、イミド化のための加熱に耐えられる耐熱性を有していれば特に限定されるものではない。金属は加工性、及び芯体の寸法精度などから判断し好ましい材料である。また、芯体外面は離型剤で覆われていることが好ましい。離型剤とは、例えば、セラミックスコーティング、フッ素樹脂コーティング、シリコーンコーティング等である。
なお、この後、少なくとも管状物としての強度を保持できる状態までポリイミド前駆体溶液被膜52,53を処理して半硬化ポリイミド管状物を作製し、その半硬化ポリイミド管状物の外面に、導電性プライマーを塗布して乾燥し、次いでフッ素樹脂をコーティングした後に加熱処理してイミド化反応の完結処理とフッ素樹脂の焼成処理とを同時に行ってもよい。多層ポリイミド管状物30を定着ベルト等として使用する場合、熱定着時の溶融したトナーのオフセットを防止するために、フッ素樹脂などの離型性材料を被覆することが必須である。したがって、フッ素樹脂の焼成温度も330度Cを越える必要がある。つまり、ポリイミド前駆体のイミド化とフッ素樹脂の焼成とを同一工程で処理することによって、工程の簡略化と電気エネルギーの効率とを高めて定着ベルトを安価に製造できる。なお、本発明の実施の形態において、「半硬化ポリイミド」とは、イミド化が完結するに至らない段階のポリイミドであって、ポリイミド前駆体成形層の厚み収縮率が50〜95%のものをいう。なお、厚み縮小率は下記の式(1)で求めることができる。
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(定着ベルトの作製)
(株)IST製Pyre−ML RC5063ポリアミック酸溶液に、熱伝導性微粒子である窒化硼素(三井化学(株)MBN−010T)を、先のポリアミック酸溶液の固形分に対して38重量%になるように混合した後、粘度を1000ポイズに調整して第1ポリイミド前駆体溶液56を調製した。なお、Pyre−ML RC5063の固形分は17.5重量%であった。次に、(株)IST製Pyre−ML RC5063ポリアミック酸溶液に、何らの微粒子も混合せずに粘度1000ポイズに調整して第2ポリイミド前駆体溶液57を調製した。
また、芯体51として外径24mm長さ500mmのアルミニウム製円筒状芯体の表面を酸化珪素被膜で被覆したものを用意した。なお、この芯体51の平均表面粗度Rzは、JIS−B0601の測定方法で、1.2μmであった。
また、被膜成形装置として上述した被膜成形装置50を用いた。なお、本実施例において、第1被膜成形ダイス54の内径は25.4mmであり、第2被膜成形ダイス55の内径は25.6mmである。また、各被膜成形装置54,55の内周壁に形成されるスリット開口66,67のサイズは、3.0±0.05mmである。また、分配器64,65には、6本の分配管62,63が接続されている。
以下、本実施例に係る定着ベルトの製造について詳述する。
被膜成形装置50の第1加圧タンク58に第1ポリイミド前駆体溶液56を投入し、第2加圧タンク59に第2ポリイミド前駆体溶液57を投入した。そして、先ず、芯体51の軸が鉛直方向を向くように芯体51を吊紐70で吊して第1被膜成形ダイス54の内孔に挿入した後、芯体51の最上端部が第1被膜成形ダイス54のスリット開口66とほぼ同位置となるように芯体51を配置した。次に、第1加圧タンク58内に第1加圧バルブ68から0.05MPaの圧力を加えながら第1溶液バルブ60を開き、第1ポリイミド前駆体溶液56を第1被膜成形ダイス54まで圧送した。なお、本実施例において、第1ポリイミド前駆体溶液56は、第1分配器64まで送られると、その後、6本の第1分配管62に分配され、第1被膜成形ダイス54の所定の箇所から第1被膜成形ダイス54の内空間に配送される。そして、これと同時に芯体51を600mm/分の速度でY方向に引き上げ、芯体51の最上端から30mm下の位置が第1スリット開口66を通過した時点で第1スリット開口66から第1ポリイミド前駆体溶液56を20g/分で吐出させ、芯体51の外面に約500μmの厚みで第1ポリイミド前駆体溶液56の溶液成形を開始した。
一方、第2加圧タンク59に貯蔵されている第2ポリイミド前駆体溶液57も第1ポリイミド前駆体溶液56と同様に、第2加圧タンク59内に第2加圧バルブ69から0.05MPaの圧力を加えながら第2溶液バルブ61を開き、第2被膜成形ダイス55まで圧送した。なお、本実施例において、第2ポリイミド前駆体溶液57も、第1ポリイミド前駆体溶液56と同様に、第2分配器65まで送られると、その後、6本の第2分配管63に分配され、第2被膜成形ダイス55の所定の箇所から第2被膜成形ダイス55の内空間に配送される。そして、芯体51の表面に成形された第1ポリイミド前駆体溶液56の成形開始位置が第2スリット開口67を通過した直後に、第2ポリイミド前駆体溶液57を第2スリット開口67から4g/分の速度で吐出させ、第1ポリイミド前駆体溶液56の成形層の上に約100μmの厚みで第2ポリイミド前駆体溶液57の溶液成形を開始した。
第1ポリイミド前駆体溶液56及び第2ポリイミド前駆体溶液57を芯体51の表面に2層に積層して溶液成形を継続し、芯体51の最下端から約30mm上の位置が第2スリット開口67の位置を通過した時点で、両加圧タンク58,59からポリイミド前駆体溶液56,57の圧送を停止し、芯体51に約440mmの長さで積層成形された溶液成形層を得た。その後、被膜成形装置50から芯体51を取り外し、芯体51をそのままオーブンに入れ、120度Cで60分間乾燥後、200度Cの温度まで40分間で昇温させ、同温度で20分間保持して、イミド化の中間段階の半硬化ポリイミド管状物を得た。なお、この半硬化ポリイミド管状物の厚み収縮率は88%であった。
次に、半硬化ポリイミド管状物をフッ素樹脂用導電性プライマー液(デュポン社製:テフロン(登録商標)855−003)に浸漬して引き上げ、半硬化ポリイミド管状物の外面にフッ素樹脂用導電性プライマー液を4μmの厚みにコーティングした後、その半硬化ポリイミド管状物を200度Cの温度で30分間乾燥し、再び常温まで冷却し、プライマーコーティング半硬化ポリイミド管状物を得た。
また、PTFE樹脂とPFA樹脂とを7:3の重量割合で混合したフッ素樹脂ディスパーション(デュポン社製:テフロン(登録商標)855−510)(固形分濃度45重量%)に大日精化工業(株)製の酸化チタン水分散液EP677を20重量%と、カーボンブラックの一種であるライオン(株)製ケッチンブラック水性分散液2重量%を添加して混合ディスパージョンを作製した。そして、プライマーコーティング半硬化ポリイミド管状物を混合ディスパージョンに浸漬して引き上げ、プライマーコーティング半硬化ポリイミド管状物の外面に混合ディスパージョンを20μmの厚みにコーティングした後、そのプライマーコーティング半硬化ポリイミド管状物を200度Cで10分、320度Cで40分、400度Cで20分間加熱し(このとき、ポリイミド前駆体のイミド化と、フッ素樹脂の焼成とが同時に行われる)、次いで芯体の外周に形成されている管状物を芯体から分離して目的とする多層ポリイミド管状物(定着ベルト)を製作した。ちなみに、この多層ポリイミド管状物は、窒化硼素を含有する約50μm厚みのポリイミド内層と約8μm厚みのポリイミド外層とからなる2層構造の多層ポリイミド管状物の外面に、プライマー層及びフッ素樹脂離型層が形成されたものとなっており、定着ベルトとして用いることができる。なお、この多層ポリイミド管状物の内径は24mmであり、また、この多層ポリイミド管状物のフッ素樹脂層を含む総厚みは約80μmであり、また、この多層ポリイミド管状物の平均表面粗度(Rz)は1.25μmであった。
そして、第1ポリイミド前駆体溶液56から成形された第1ポリイミド層と第2ポリイミド前駆体溶液57から成形された第2ポリイミド層との境界部分を顕微鏡で観察した結果、2つのポリイミドが互いに混和したような模様を有する層が確認された。また、この2つの層は、強固に接着し剥離できない状態で一体化していた。また、この多層ポリイミド管状物の引張強度は32kgf/mmであり定着ベルトの用途として十分な機械的特性を有していた。
この多層ポリイミド管状物(定着ベルト)を図2に示すプリンターの定着装置26に組み込み、毎分24枚の複写速度で通紙耐久テストを行なった結果、良好な熱伝導性により鮮明な画像を得ることができた。また、第2ポリイミド前駆体溶液57から成形されたポリイミド単体層の機械的特性により、20万枚の通紙定着でも問題なく鮮明な画像を得ることができた。
(中間転写ベルトの作製)
(株)IST製Pyre−ML RC5063ポリアミック酸溶液に、カーボンブラック(三菱化学(株)製商品名MA78)を、先のポリアミック酸溶液の固形分に対して16.5重量%になるように混合した後、粘度を1200ポイズに調整して第1ポリイミド前駆体溶液56を調製した。なお、Pyre−ML RC5063の固形分は17.5重量%であった。次に、(株)IST製Pyre−ML RC5063ポリアミック酸溶液に、カーボンブラック(MA78)を、先のポリアミック酸溶液の固形分に対して15重量%になるよう混合し、粘度1200ポイズに調整して第2ポリイミド前駆体溶液57を調製した。
また、芯体51として、外径229mm長さ500mmのアルミニウム製円筒状芯体の表面を酸化珪素被膜で被覆したものを用意した。なお、この芯体51の平均表面粗度Rzは、JIS−B0601の測定方法で、1.8μmであった。
また、被膜成形装置として上述した被膜成形装置50を用いた。なお、本実施例において、第1被膜成形ダイス54の内径は231mmであり、第2被膜成形ダイス55の内径は231.4mmである。また、各被膜成形装置54,55の内周壁に形成されるスリット開口66,67のサイズは、3.5±0.05mmである。また、分配器64,65には、12本の分配管62,63が接続されている。
以下、本実施例に係る中間転写ベルトの製造について詳述する。
被膜成形装置50の第1加圧タンク58に第1ポリイミド前駆体溶液56を投入し、第2加圧タンク59に第2ポリイミド前駆体溶液57を投入した。そして、先ず、芯体51の軸が鉛直方向を向くように芯体51を吊紐70で吊して第1被膜成形ダイス54の内孔に挿入した後、芯体51の最上端部が第1被膜成形ダイス54のスリット開口66とほぼ同位置となるように芯体51を配置した。次に、第1加圧タンク58内に第1加圧バルブ68から0.05MPaの圧力を加えながら第1溶液バルブ60を開き、第1ポリイミド前駆体溶液56を第1被膜成形ダイス54まで圧送した。なお、本実施例において、第1ポリイミド前駆体溶液56は、第1分配器64まで送られると、その後、12本の第1分配管62に分配され、第1被膜成形ダイス54の所定の箇所から第1被膜成形ダイス54の内空間に配送される。そして、これと同時に芯体51を600mm/分の速度でY方向に引き上げ、芯体51の最上端から50mm下の位置が第1スリット開口66を通過した時点で第1スリット開口66から第1ポリイミド前駆体溶液56を20g/分で吐出させ、芯体51の外面に約500μmの厚みで第1ポリイミド前駆体溶液56の溶液成形を開始した。
一方、第2加圧タンク59に貯蔵されている第2ポリイミド前駆体溶液57も第1ポリイミド前駆体溶液56と同様に、第2加圧タンク59内に第2加圧バルブ69から0.05MPaの圧力を加えながら第2溶液バルブ61を開き、第2被膜成形ダイス55まで圧送した。なお、本実施例において、第2ポリイミド前駆体溶液57も、第1ポリイミド前駆体溶液56と同様に、第2分配器65まで送られると、その後、12本の第2分配管63に分配され、第2被膜成形ダイス55の所定の箇所から第2被膜成形ダイス55の内空間に配送される。そして、芯体51の表面に成形された第1ポリイミド前駆体溶液56の成形開始位置が第2スリット開口67を通過した直後に、第2ポリイミド前駆体溶液57を第2スリット開口67から約8g/分の速度で吐出させ、第1ポリイミド前駆体溶液56の成形層の上に約200μmの厚みで第2ポリイミド前駆体溶液57の溶液成形を開始した。
第1ポリイミド前駆体溶液56及び第2ポリイミド前駆体溶液57を芯体51の表面に2層に積層して溶液成形を継続し、芯体51の最下端から約50mm上の位置が第2スリット開口67の位置を通過した時点で、両加圧タンク58,59からポリイミド前駆体溶液56,57の圧送を停止し、芯体51に約400mmの長さで積層成形された溶液成形層を得た。その後、被膜成形装置50から芯体51を取り外し、芯体51をそのままオーブンに入れ、120度Cで40分間乾燥後、200度Cの温度まで40分間で昇温させ、同温度で20分間保持して、さらにその後、320度Cまで20分間で昇温させ30分間保持し、350度Cまで15分間で昇温させ同温度で20分間加熱してイミド化を完結させた後、その芯体51をオーブンから取り出し冷却した。その後、その芯体51から多層ポリイミド管状物を取り外した。この多層ポリイミド管状物の厚みは70±3μmであり、また、この多層ポリイミド管状物の内径は229mmであった。そして、この多層ポリイミド管状物を380mmの長さにカットし、A3サイズ用の多層ポリイミド管状物とした。
この多層ポリイミド管状物の50V電圧印加時の外表面の表面抵抗率は1×10〜1×10Ω/□であり、体積抵抗率は3×108〜1×109Ω/cmであって、バラツキの小さい電気特性を有する多層ポリイミド管状物が得られた。また、厚みの均一性及び周長なども良好であった。そして、この多層ポリイミド管状物は機械的特性にも優れており、図1のタンデム型レーザービームプリンターに組み込み中間転写ベルトとして使用した結果、色ズレや色ムラが発生することなく、鮮明なカラー画像を得ることができた。また、連続して印刷を行った場合でも画像の欠陥は見られなかった。
(感光ドラム用透明多層ポリイミド管状物の作製)
(株)IST製Pyre−ML RC5063ポリアミック酸溶液に、何らの微粒子も混合せずに粘度1000ポイズに調整して第1ポリイミド前駆体溶液56を調製した。なお、Pyre−ML RC5063の固形分は17.5重量%であった。次に、第2ポリイミド前駆体溶液57を下記の条件で合成した。
3000mLの3つ口セパラブルフラスコに、攪拌羽を取り付けた攪拌棒と、窒素ガス導入管とを取り付けて反応容器とした。なお、反応はすべて窒素雰囲気下で行なった。そして、先ず、ポリイミド前駆体溶液の濃度が33重量%となるように、ジアミン成分として4、4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)(和歌山精化工業(株)製,商品名“セイカキュアーS”)203.86g(0.822モル)と、反応溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)(三菱ガス化学(株)製)1,005gとを反応容器に投入した。次に、44DDSがDMACに完全に溶解した後、テトラカルボン酸二無水物成分として2,2−ビス[4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)(上海市合成樹脂研究所製,商品名“BPADA”)107.93g(0.208モル)と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)(三菱化学(株)製,商品名“BPDA”)183.07g(0.623モル)とを固体のままで添加し、40度Cで12時間反応させ、粘度900ポイズの粘稠な透明ポリイミドの前駆体溶液(以下、この透明ポリイミドの前駆体溶液を第2ポリイミド前駆体溶液57という)を得た。
また、芯体51として、外面の平均表面粗さ(Rz)が1μm以下になるように研磨加工された外径30mm長さ500mmのアルミニウム製円筒状芯体を酸化珪素膜で被覆したものを用意した。なお、酸化珪素膜の形成は、研磨後のアルミニウム製円筒状芯体を酸化珪素コーティング剤に浸漬した後に引き上げて370度Cで30分加熱することにより実現することができる。
また、被膜成形装置として上述した被膜成形装置50を用いた。なお、本実施例において、第1被膜成形ダイス54の内径は31.1mmであり、第2被膜成形ダイス55の内径は32.3mmである。また、各被膜成形装置54,55の内周壁に形成されるスリット開口66,67のサイズは、3.0±0.05mmである。また、分配器64,65には、6本の分配管62,63が接続されている。
以下、本実施例に係る定着ベルトの製造について詳述する。
被膜成形装置50の第1加圧タンク58に第1ポリイミド前駆体溶液56を投入し、第2加圧タンク59に第2ポリイミド前駆体溶液57を投入した。そして、先ず、芯体51の軸が鉛直方向を向くように芯体51を吊紐70で吊して第1被膜成形ダイス54の内孔に挿入した後、芯体51の最上端部が第1被膜成形ダイス54のスリット開口66とほぼ同位置となるように芯体51を配置した。次に、第1加圧タンク58内に第1加圧バルブ68から0.05MPaの圧力を加えながら第1溶液バルブ60を開き、第1ポリイミド前駆体溶液56を第1被膜成形ダイス54まで圧送した。なお、本実施例において、第1ポリイミド前駆体溶液56は、第1分配器64まで送られると、その後、6本の第1分配管62に分配され、第1被膜成形ダイス54の所定の箇所から第1被膜成形ダイス54の内空間に配送される。そして、これと同時に芯体51を600mm/分の速度でY方向に引き上げ、芯体51の最上端から30mm下の位置が第1スリット開口66を通過した時点で第1スリット開口66から第1ポリイミド前駆体溶液56を14g/分で吐出させ、芯体51の外面に約350μmの厚みで第1ポリイミド前駆体溶液56の溶液成形を開始した。
一方、第2加圧タンク59に貯蔵されている第2ポリイミド前駆体溶液57も第1ポリイミド前駆体溶液56と同様に、第2加圧タンク59内に第2加圧バルブ69から0.05MPaの圧力を加えながら第2溶液バルブ61を開き、第2被膜成形ダイス55まで圧送した。なお、本実施例において、第2ポリイミド前駆体溶液57も、第1ポリイミド前駆体溶液56と同様に、第2分配器65まで送られると、その後、6本の第2分配管63に分配され、第2被膜成形ダイス55の所定の箇所から第2被膜成形ダイス55の内空間に配送される。そして、芯体51の表面に成形された第1ポリイミド前駆体溶液56の成形開始位置が第2スリット開口67を通過した直後に、第2ポリイミド前駆体溶液57を第2スリット開口67から24g/分の速度で吐出させ、第1ポリイミド前駆体溶液56の成形層の上に約600μmの厚みで第2ポリイミド前駆体溶液57の溶液成形を開始した。
第1ポリイミド前駆体溶液56及び第2ポリイミド前駆体溶液57を芯体51の表面に2層に積層して溶液成形を継続し、芯体51の最下端から約30mm上の位置が第2スリット開口67の位置を通過した時点で、両加圧タンク58,59からポリイミド前駆体溶液56,57の圧送を停止し、芯体51に約440mmの長さで積層成形された溶液成形層を得た。その後、被膜成形装置50から芯体51を取り外し、芯体51をそのままオーブンに入れ、120度Cで40分間乾燥後、200度Cの温度まで40分間で昇温させ、同温度で20分間保持して、さらにその後、320度Cまで20分間で昇温させ30分間保持してイミド化を完結させた後、その芯体51をオーブンから取出し冷却した。その後、その芯体51から多層ポリイミド管状物を取り外して、その多層ポリイミド管状物を特
性を測定した。
この多層ポリイミド管状物の総厚みは85±3μmであり、第1ポリイミド前駆体溶液56から形成された第1ポリイミド樹脂層の厚みは約35μmであった。また、この多層ポリイミド管状物の引張強度は、24.0kgf/mmであった。また、この多層ポリイミド管状物の波長550nmおよび780nmの光透過率は、それぞれ74.2%、84.8%であり、背面露光などの用途に必要とされる光の透過率と機械的特性とが兼ね備えられた透明の多層ポリイミド管状物を作製することができた。
(フッ素樹脂混合多層ポリイミド管状物の作製)
(株)IST製Pyre−ML RC5063ポリアミック酸溶液に、何らの微粒子も混合せずに粘度1000ポイズに調整して第1ポリイミド前駆体溶液56を調製した。なお、Pyre−ML RC5063の固形分は17.5重量%であった。次に、(株)IST製Pyre−ML RC5063ポリアミック酸溶液に、平均粒子径3.0μmのPTFE粉末(融点327度C,デュポン社製商品名Zonyl MP1100)を、先のポリアミック酸溶液の固形分に対して30重量%になるように添加して攪拌し、先のポリアミック酸溶液中にPTFE粉末を均一に分散させた後、250メッシュのステンレス金網を用いて粗い異物を濾過して第1ポリイミド前駆体溶液56とした。
また、芯体51として実施例1で用いた外径24mmで長さ500mmのアルミニウム製円筒状芯体を用意した。
また、被膜成形装置として上述した被膜成形装置50を用いた。なお、本実施例において、第1被膜成形ダイス54の内径は24.8mmであり、第2被膜成形ダイス55の内径は25.6mmである。また、各被膜成形装置54,55の内周壁に形成されるスリット開口66,67のサイズは、3.0±0.05mmである。また、分配器64,65には、6本の分配管62,63が接続されている。
以下、本実施例に係るフッ素樹脂混合多層ポリイミド管状物の製造について詳述する。
被膜成形装置50の第1加圧タンク58に第1ポリイミド前駆体溶液56を投入し、第2加圧タンク59に第2ポリイミド前駆体溶液57を投入した。そして、先ず、芯体51の軸が鉛直方向を向くように芯体51を吊紐70で吊して第1被膜成形ダイス54の内孔に挿入した後、芯体51の最上端部が第1被膜成形ダイス54のスリット開口66とほぼ同位置となるように芯体51を配置した。次に、第1加圧タンク58内に第1加圧バルブ68から0.05MPaの圧力を加えながら第1溶液バルブ60を開き、第1ポリイミド前駆体溶液56を第1被膜成形ダイス54まで圧送した。なお、本実施例において、第1ポリイミド前駆体溶液56は、第1分配器64まで送られると、その後、6本の分配管62に分配され、第1被膜成形ダイス54の所定の箇所から第1被膜成形ダイス54の内空間に配送される。そして、これと同時に芯体51を600mm/分の速度でY方向に引き上げ、芯体51の最上端から30mm下の位置が第1スリット開口66を通過した時点で第1スリット開口66から第1ポリイミド前駆体溶液56を8g/分で吐出させ、芯体51の外面に約200μmの厚みで第1ポリイミド前駆体溶液56の溶液成形を開始した。
一方、第2加圧タンク59に貯蔵されている第2ポリイミド前駆体溶液57も第1ポリイミド前駆体溶液56と同様に、第2加圧タンク59内に第2加圧バルブ69から0.05MPaの圧力を加えながら第2溶液バルブ61を開き、第2被膜成形ダイス55まで圧送した。なお、本実施例において、第2ポリイミド前駆体溶液57も、第1ポリイミド前駆体溶液56と同様に、第2分配器65まで送られると、その後、6本の分配管63に分配され、第2被膜成形ダイス55の所定の箇所から第2被膜成形ダイス55の内空間に配送される。そして、芯体51の表面に成形された第1ポリイミド前駆体溶液56の成形開始位置が第2スリット開口67を通過した直後に、第2ポリイミド前駆体溶液57を第2スリット開口67から16g/分の速度で吐出させ、第1ポリイミド前駆体溶液56の成形層の上に約400μmの厚みで第2ポリイミド前駆体溶液57の溶液成形を開始した。
第1ポリイミド前駆体溶液56及び第2ポリイミド前駆体溶液57を芯体51の表面に2層に積層して溶液成形を継続し、芯体51の最下端から約30mm上の位置が第2スリット開口67の位置を通過した時点で、両加圧タンク58,59からポリイミド前駆体溶液56,57の圧送を停止し、芯体51に約440mmの長さで積層成形された溶液成形層を得た。その後、被膜成形装置50から芯体51を取り外し、芯体51をそのままオーブンに入れ、120度Cで60分間乾燥後、200度Cの温度まで40分間で昇温させ、同温度で20分間保持し、さらにその後、400度Cの温度まで20分で昇温し、同温度で15分間加熱してイミド化を完了させた。そして、その芯体51を室温まで冷却させた後、芯体51から多層ポリイミド管状物を取り外した。
得られた多層ポリイミド管状物の厚みは58±3μmであり、また、この多層ポリイミド管状物の内径は24mmであった。また、この多層ポリイミド管状物の外層ポリイミド層の表面にはPTFE樹脂が溶融して析出しているため、この多層ポリイミド管状物は高い滑り性を有する。そしてこの多層ポリイミド管状物の両端部を240mm(A4サイズ)の長さにカットした後、図2に示される定着装置26に組み込み、毎分10枚の条件下で画像定着を行った結果、良好な画像が得られた。また、この多層ポリイミド管状物は、27kgf/mmの引張強度を有し、フッ素樹脂を混合した単層ポリイミド管状物の引張強度20kgf/mmと比較して約1.4倍の強度を示す。
実施例1において(株)IST製Pyre−ML RC5063ポリアミック酸溶液にカーボンブラック(三菱化学(株)製商品名MA78)を、先のポリアミック酸溶液の固形分に対して16.5重量%になるように混合した後、粘度を1200ポイズに調整して第2ポリイミド前駆体溶液57を調製した以外は実施例1と同様の条件で定着ベルトを作製した。
この多層ポリイミド管状物の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図5に掲載した。この写真では、最外層102(試料の傾きの加減で映し出されている)、第1ポリイミド樹脂層(窒化硼素含有)103、ポリイミド混在層(白色の破線に挟まれる部分)101、及び第2ポリイミド樹脂層104が確認される。なお、白色の太い実線で示した境界線101a付近では、分子レベルで第1ポリイミド樹脂と第2ポリイミド樹脂とが混在しているものと考えられる。
また、この2つの層は、強固に接着し剥離できない状態で一体化していた。また、この多層ポリイミド管状物の引張強度は32kgf/mmであり定着ベルトの用途として十分な機械的特性を有していた。
(比較例1)
実施例1において第1ポリイミド前駆体溶液56と第1被膜成形ダイス54のみを使用して単層ポリイミド管状物を作製した以外は実施例1と同様の条件で定着ベルトを作製した。この単層ポリイミド管状物は、窒化ホウ素の混合量が多いため熱伝導率が高く毎分24枚の複写速度に十分対応できた。しかし、窒化ホウ素の混合量起因して外面の平均表面粗度Rzが5.6となり、フッ素樹脂をコーティングしているにもかかわらずトナーのオフセットが発生した。また、この単層ポリイミド管状物は、試験途中で端部から破壊し、とても定着ベルトとして使用できるものではなかった。なお、この単層ポリイミド管状物の引張強度15.5kgf/mmであった。
(比較例2)
実施例3で用いた第1ポリイミド前駆体溶液56の中に実施例3で用いた芯体51を400mmの長さまで浸漬して引き上げ、芯体51の外面に第1ポリイミド前駆体溶液56を付着させた後、内径30.7mmのリング状ダイスを芯体51の上から挿入し自重で落下走行させて芯体51の外面に第1ポリイミド前駆体溶液56を溶液成形した。そして、この芯体51を120度Cで40分、200度Cで30分間加熱し半硬化ポリイミド管状物を得た。
次に、実施例3で合成した第2ポリイミド前駆体溶液57中に、半硬化ポリイミド管状物を芯体51に挿入したまま、380mmの長さまで浸漬して引き上げ、半硬化ポリイミド管状物の外面に第2ポリイミド前駆体溶液57を付着させた後、内径31.8mmのリング状ダイスを芯体51の上から挿入し自重で落下走行させて半硬化ポリイミド管状物の外面に第2ポリイミド前駆体溶液57を溶液成形した。そして、この芯体51をそのままオーブンに入れ、120度Cで40分乾燥させ、続いて200度Cの温度まで30分で昇温し同温度で20分間保持し、さらに320度Cの温度まで20分で昇温して同温度で30分加熱し、イミド化を完結させた。その後、芯体51をオーブンから取り出し冷却した。そして、その芯体51から透明な多層ポリイミド管状物を取り外しその物性を測定した。
第1ポリイミド前駆体溶液56から形成される第1ポリイミド層の厚みは約32μmであった。また、この多層ポリイミド管状物の総厚みは、85±4μmであった。また、この多層ポリイミド管状物は、26.0kgf/mmの引張強度を有し、機械的特性の面では実施例3の多層ポリイミド管状物よりも優れていた。しかし、この多層ポリイミド管状物の波長550nmおよび780nmの光透過率はそれぞれ52.2%、75.3%であり、この多層ポリイミド管状物は、光の透過特性の面では実施例3の多層ポリイミド管状物よりも劣っていた。これは、第1ポリイミド前駆体及び第2ポリイミド前駆体のイミド化が個別に行われる結果、第1ポリイミド前駆体の熱処理時間が長くなって、ポリイミド独特の黄変現象が発生したことに起因するものと考えられる。また、第1ポリイミド層と第2ポリイミド層との境界部分は断面視において円弧線状であり、混在層は見られなかった。ただし、背面露光印刷テスト中に層間の剥離が認められることはなかった。また、この多層ポリイミド管状物では、第2ポリイミド前駆体溶液57のハジキ現象が局部的に観察された。
本発明に係る多層ポリイミド管状物はポリイミドの優れた機械的特性と共に導電性、熱伝導性あるいは光透過性などの特性を併せ持つことが可能なポリイミド管状物であり、電子写真画像形成装置の中間転写ベルト、熱定着ベルト、感光ドラムの部材として、あるいは医療用カテーテルチューブ等として有用である。
タンデム型カラーレーザービームプリンターの模式的概略図である。 レーザービームプリンターのフィルム定着装置の模式的部分断面図である。 本発明の実施形態に係る二層構造管状物の模式的部分断面図である。 本発明に係る被膜成形装置の模式的概略図である。 実施例5に係る多層ポリイミド管状物の断面構造。
21 中間転写ベルト
22 ベルトプーリー
23 感光ドラム
24 露光走査装置
25 複写紙
26 定着装置
30 多層ポリイミド管状物
31 第2ポリイミド樹脂層
32 ポリイミド樹脂混和層
33 熱伝導性ポリイミド樹脂層
50 被膜成形装置
51 芯体
52 内層ポリイミド前駆体溶液成形層
53 外層ポリイミド前駆体溶液成形層
54 第1被膜成形ダイス
55 第2被膜成形ダイス
56 第1ポリイミド前駆体溶液
57 第2ポリイミド前駆体溶液
58 第1加圧タンク
59 第2加圧タンク
64 第1分配器
65 第2分配器
66 第1スリット開口部
67 第2スリット開口部
70 吊紐
Y 芯体の引き上げ方向

Claims (3)

  1. 芯体の外面に第1ポリイミド前駆体の溶液である第1ポリイミド前駆体溶液と、第2ポリイミド前駆体の溶液である第2ポリイミド前駆体溶液とを重ねて塗布するポリイミド前駆体溶液重ね塗り工程と、
    前記第1ポリイミド前駆体溶液及び前記第2ポリイミド前駆体溶液から溶媒を除去すると共に前記第1ポリイミド前駆体及び前記第2ポリイミド前駆体をイミド化するイミド化工程と
    を備える多層ポリイミド管状物の製造方法。
  2. 開口を有し、内周径が第1円筒壁の内周径よりも小さく、軸が前記第1円筒壁の軸に沿うように前記第1円筒壁の下側に配置される第2円筒壁と、
    第1樹脂溶液又は第1樹脂前駆体溶液を前記第1円筒壁の開口に配送する第1樹脂等溶液配送部と、
    第2樹脂溶液又は第2樹脂前駆体溶液を前記第2円筒壁の開口に配送する第2樹脂等溶液配送部と
    を備える多層樹脂管状物の製造装置。
  3. 前記第1樹脂等溶液配送部による前記第1樹脂溶液又は前記第1樹脂前駆体溶液の前記第1円筒壁の開口への配送を前記第2樹脂等溶液配送部による前記第2樹脂溶液又は前記第2樹脂前駆体溶液の前記第2円筒壁の開口への配送よりも遅らせる配送タイミング制御機構をさらに備える
    請求項に記載の多層樹脂管状物の製造装置。
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