ここでは、本発明の実施の形態について説明する。図4には、本発明の一実施形態に係る複合管状物の断面図を示す。この複合管状物30は、2層構造を有する複合管状物であって、ポリイミド樹脂層31及びフッ素樹脂層32とから構成されている。
本発明の実施の形態に係る複合管状物30において、ポリイミド樹脂層31は微粒子を含むことが好ましい。微粒子の添加によって複合管状物30に新たな特性を付加できるからである。なお、微粒子は導電性微粒子、熱伝導性微粒子及びフッ素樹脂微粒子より成る群から選ばれる少なくとも1つの微粒子であることが好ましい。
複合管状物30を定着ベルトとして用いる場合、窒化硼素などの熱伝導性微粒子をポリイミド樹脂層31に添加するのが好ましい。フィルム定着装置(図3参照)では、複写紙上に形成されたトナー像を高速で熱定着するためにセラミックヒーターの発熱を効率よくトナーに伝える必要があるが、そのためには、定着ベルトの熱伝導率は高い方が好ましいからである。なお、このような熱伝導性微粒子としては、無機微粒子が好ましく、例えば、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、チタン酸カリウム、窒化アルミ、マイカ、シリカ、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。これらの中でも、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、窒化アルミはより好ましい熱伝導性微粒子である。
なお、熱伝導性微粒子の含有量は、通常10重量%以上60重量%以下、好ましくは20重量%以上50重量%以下である。この範囲であると、機械的特性を低下させることなく熱伝導性を改善できる。なお、熱伝導性微粒子の平均粒子径は、1μm以上20μm以下の範囲であり、好ましくは5μm以上15μm以下である。
また、本発明の実施の形態に係る複合管状物30は、図5に示す塗膜成形装置50の塗膜成形ダイス54,55のサイズを変更することによって各層31,32の被膜厚みを自由に選択することができる。このため、この複合管状物は、特性に強弱をつけることができる。ポリイミド樹脂層の厚みは3μm以上500μm以下の範囲が好ましく、5μm以上300μm以下の範囲がより好ましい。フッ素樹脂層の厚みは3μm以上300μm以下の範囲が好ましく、5μm以上100μm以下の範囲がより好ましい。
また、本発明の実施の形態に係る複合管状物30の内径は、特に限定されるものではないが、0.1mm以上1,000mm以下の範囲内であることが好ましい。なお、電子写真画像形成装置の部材として用いられる複合管状物は内径が10mm以上500mm以下の範囲内であることが好ましい。
次に、本発明の実施の形態に係る複合管状物30では、ポリイミド樹脂層31が芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で重合させた結果得られるポリイミド前駆体溶液をイミド化したものであることが好ましい。このようなポリイミド前駆体溶液を利用すれば微粒子を均一に分散できるだけでなく、粘度や固形分濃度の調整によりポリイミド樹脂層の厚みを幅広く設定することができ、また、このようなポリイミド前駆体溶液は常温で液状成形することができると共に比較的コンパクトな設備で成形が可能であるからである。
上述のポリイミド前駆体溶液は、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で反応させることにより得られる。芳香族テトラカルボン酸二無水物の代表例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス[3,4−(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホキシド二無水物、チオジフタル酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物や9,9−ビス[4−(3,4’−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物等が挙げられる。また、これらをメタノール、エタノールなどアルコール類と反応させてエステル化合物としてもよい。
また、芳香族ジアミンの代表例としては、パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン(MPDA)、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニル、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)、2,2−ビス−(4−アミノフェニル)プロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(33DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(44DDS)、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(34ODA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(133APB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(134APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPSM)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等の芳香族ジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。
これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンは、単独で使用されてもよいし、混合されて使用されてもよい。また、ポリイミド前駆体溶液まで完成させてそれらのポリイミド前駆体溶液を混合して使用することもできる。また、化学イミド化剤等を用いてイミド化されていてもよい。
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを溶解させる有機極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、ピリジン、ジメチルテトラメチレンスルホン、テトラメチレンスルホン、γーブチロラクトン等が挙げられる。なお、これらの溶媒は、単独で使用されてもよいし、混合されて使用されてもよい。
また、このようなポリイミド前駆体溶液は、通常、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で90度C以下の温度で反応させることによって得られる。そして、このポリイミド前駆体溶液中の固形分濃度は、製造する複合ポリイミド管状物の仕様や加工条件によって設定されるが、通常は10重量%以上50重量%以下の範囲内である。
また、有機極性溶媒中で芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させると、その重合状況によって溶液の粘度が上昇するが、複合管状物の製造に際しては希釈により所定の粘度に調整して使用することができる。また、粘度は、複合管状物の製造条件や作業条件によって異なるが、通常は1ポイズ以上10,000ポイズ以下で使用される。本発明の実施の形態では重ね塗りして成形するためポリイミド前駆体溶液の粘度は200ポイズ以上5,000ポイズ以下の範囲内であることが好ましく、400ポイズ以上4,000ポイズ以下の範囲内であることがより好ましい。また、ポリイミド前駆体溶液の粘度は、フッ素樹脂分散液の粘度よりも高いことが好ましい。
本発明の実施の形態に係る複合管状物30において、フッ素樹脂層32としては、フッ素樹脂分散液のフッ素樹脂が被膜化されたものであることが好ましい。フッ素樹脂は、とくに限定されるものではないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。本発明の複合管状物を定着ベルト等として使用する場合、フッ素樹脂層は、未定着のトナーを除去しやすく、溶融したトナーのベルト表面への付着(オフセット)を防止する働きをする。なお、これらのフッ素樹脂は単体で使用されてもよいし、混合されて使用されてもよい。
複合管状物30を定着ベルト等として用いる場合、熱伝導性向上のために窒化硼素などの微粒子を添加したり、耐磨耗性向上のためにウイスカー形状の微粒子をフッ素樹脂層32に添加したりしてもよい。フィルム定着装置(図3参照)では複写紙上に形成されたトナー像を高速で熱定着するためにセラミックヒーターの発熱量を効率よくトナーの定着に伝える必要があるが、そのためには、定着ベルトの熱伝導率は高い方が好ましいからである。また、種々の複写紙(紙、厚紙、OHPシート等)の連続通紙によっても画像の劣化が起きるのを防止するため、定着ベルト、とくにフッ素樹脂層の耐磨耗性は高い方が好ましい。なお、このような微粒子としては、無機微粒子が好ましく、例えば、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、チタン酸カリウム、窒化アルミ、マイカ、シリカ、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。これらの中でも、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、窒化アルミはより好ましい熱伝導性微粒子である。
なお、微粒子の含有量は、通常、10重量%以上60重量%以下であり、好ましくは20重量%以上50重量%以下である。微粒子の含有量がこの範囲内であると、フッ素樹脂層の非粘着性を低下させることなく種々の物性を改善できるからである。なお、微粒子の平均粒子径は、通常、1μm以上20μm以下の範囲であり、好ましくは5μm以上15μm以下である。
上述のようなフッ素樹脂分散液を利用すれば、粘度や固形分濃度の調整によりフッ素樹脂層の厚みを幅広く設定することができ、また、このようなフッ素樹脂分散液は常温で液状成形できるからである。また、このようなフッ素樹脂分散液は、フッ素樹脂層に新しい機能を付与するために、種々の性能を有する微粒子を添加しやすいため、好ましい。
フッ素樹脂分散液中のフッ素樹脂は、平均粒子径が0.1μm以上15μm以下の粒子であることが好ましい。フッ素樹脂の平均粒子径がこの範囲内であると、焼成によって被膜化されたフッ素樹脂にクラックが入りにくく、また表面粗度が高くなりすぎないからである。また、被膜の形成しやすさの点で、平均粒子径については、バイモダル(二並数)又はマルチモダル(多並数)であることがより好ましい。
また、フッ素樹脂分散液には、被膜の形成しやすさの点で、フッ素樹脂の熱分解温度よりも低い温度で揮散又は熱分解する揮散等樹脂粒子が添加されているのが好ましい。フッ素樹脂分散液を乾燥・焼成するときに、フッ素樹脂粒子への結着(バインダー)効果を維持しながら徐々に揮散等樹脂粒子が揮散又は熱分解することにより収縮による被膜のひび割れを防止することができるからである。
また、フッ素樹脂分散液の分散液は、フッ素樹脂を分散できるものであれば、特に限定されるものではないが、ポリイミド前駆体溶液との重ね塗りを良好に行うため、ポリイミド前駆体に対して溶解力の高いものであることが好ましい。そのような分散液としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、ピリジン、ジメチルテトラメチレンスルホン、テトラメチレンスルホン、γーブチロラクトン等が挙げられる。なお、これらの溶媒は、単独で使用されてもよいし、混合されて使用されてもよい。
また、フッ素樹脂分散液は、複合管状物の製造に際しては希釈により所定の粘度に調整して使用することができる。製造条件や作業条件によって異なるが、フッ素樹脂分散液は、通常、1ポイズ以上10,000ポイズ以下の粘度で使用される。本発明の実施の形態ではフッ素樹脂分散液はポリイミド前駆体溶液と重ね塗りして成形されるため、フッ素樹脂分散液の粘度は200ポイズ以上5,000ポイズ以下の範囲内であることが好ましく、400ポイズ以上4,000ポイズ以下の範囲内であることがより好ましい。また、フッ素樹脂分散液の粘度は、ポリイミド前駆体溶液の粘度よりも高いことが好ましい。
そして、本発明の実施の形態に係る複合管状物30は、主に、重ね塗り工程と被膜化工程を経て製造される。重ね塗り工程では、円柱形または円筒形の芯体の外面にポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液とが重ねて塗布された後、加熱等によりポリイミド前駆体溶液およびフッ素樹脂分散液中の溶媒や分散液が除去される。被膜化工程では、ポリイミド前駆体がイミド化されると共にフッ素樹脂が被膜化される。このような複合管状物の製造方法では、ポリイミド前駆体溶液の芯体への塗布が1回で済むため熱効率を高めることができると共に処理時間を短縮することができ、品質の高い複合管状物が作製される。なお、被膜化工程では、すべての溶媒が除去されている必要はない。
なお、重ね塗り工程では、フッ素樹脂分散液がポリイミド前駆体溶液の塗布膜の長さと同じ長さもしくは、それより短く塗布されることが好ましい。このようにすると、フッ素樹脂分散液が直接芯体に触れることがなく、芯体に直接フッ素樹脂薄膜が形成されないため、芯体からの複合管状物の分離が容易になるからである。ちなみに、フッ素樹脂分散液をポリイミド樹脂前駆体溶液より長く塗布した場合には、被膜化工程においてポリイミド前駆体溶液中の溶媒や縮合水の蒸気が芯体とポリイミド樹脂層31の境界面に密封されイミド転化後のポリイミド樹脂層31に膨れや偏肉が発生し満足な複合管状物が製造できない。
そして、このような複合管状物の製造方法を実施するための具体例としては、成形ダイスを重ねて落下させる方法、円筒状芯体の外面あるいは内面にディスペンサーやスプレー装置などを用いて重ねて塗布する方法、図5に示されるような塗膜成形装置を用いる方法などが挙げられるが、図5に示されるような塗膜成形装置50を用いることが特に好ましい。
塗膜成形装置50は、図5に示されるように、主に、第1塗膜成形ダイス54、第2塗膜成形ダイス55、第1加圧タンク58、第2加圧タンク59、第1バルブ60、第2バルブ61、第1主管、第2主管、第1分配管62、第2分配管63、第1分配器64、第2分配器65、第1加圧バルブ68、及び第2加圧バルブ69から構成される。
第1塗膜成形ダイス54は、中空の円筒成形体である。また、第2塗膜成形ダイス55は第1塗膜成形ダイス54と同様に中空の円筒成形体である。なお、塗膜成形ダイス54,55の内径は、目的とする複合管状物の内径や厚みの仕様により決定される。なお、その際、芯体の外径、芯体の引き上げ速度、ポリイミド前駆体溶液の粘度あるいはスリット開口66,67からの吐出速度などを考慮する必要がある。また、そして、第2塗膜成形ダイス55は、軸が第1塗膜成形ダイス54の軸と沿うように第1塗膜成形ダイス54の上側に近接して配置される。なお、第1塗膜成形ダイス54及び第2塗膜成形ダイス55には、内周壁に所定の間隙で全周に渡ってスリット開口66,67が複数形成されている。このようにスリット開口66,67を形成すると、円周方向の吐出むらがなく、均一な厚さの液成形層を形成できるからである。また、スリット開口の幅は、0.5mm以上5mm以下の範囲内であることが好ましい。また、第1塗膜成形ダイス54及び第2塗膜成形ダイス55には外周壁に少なくとも1つ以上の液投入口が形成されており、その液投入口には複数の分配管62,63が接続される。
第1加圧タンク58及び第2加圧タンク59は、ポリイミド前駆体溶液56,フッ素樹脂分散液57を貯蔵するための貯蔵容器である。そして、これらの加圧タンク58,59には、それぞれの上蓋に加圧バルブ68,69が取り付けられており、また、それぞれの下方にバルブ60,61が取り付けられている。
第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69には加圧空気ボンベ等が取り付けられ、第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69が開状態となると、加圧タンク58,59内部を加圧する。なお、このとき、バルブ60,61が開状態となっていると、加圧タンク58に貯蔵されるポリイミド前駆体溶液が塗膜成形ダイス54の中空空間に、加圧タンク59に貯蔵されるフッ素樹脂分散液が塗膜成形ダイス55の中空空間に送出される。
第1バルブ60及び第2バルブ61は、開閉式の電動弁である。なお、これらのバルブ60,61は図示しないタイミング制御装置に通信接続されており、このタイミング制御装置の運転開始ボタンが押されると、先ず、第1バルブ60が開状態となり、その後所定時間が経過した後に第2バルブ61が開状態となる。
第1分配器62及び第2分配器63は1つの入口と複数の出口を有しており、その入口には主管が接続され、出口には分配管62,63が接続される。つまり、この分配器62,63は、加圧タンク68,69から主管を通って配送されるポリイミド前駆体溶液を複数経路に分配する役割を担う。
つまり、第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69が開いた状態で、タイミング制御装置の運転開始ボタンが押されると、ポリイミド前駆体溶液56が第1分配器64により複数の経路に分配された後、第1塗膜成形ダイス54に供給され、スリット開口部66から吐出される。そして、少し遅れて、フッ素樹脂分散液57が第2分配器65により複数の経路に分配された後、第2塗膜成形ダイス55に供給され、スリット開口部67から吐出される。
次に液成形の過程を説明する。塗膜成形装置50の塗膜成形ダイス54,55の内側に、吊紐70を通し、芯体51の上端部に吊紐を固定する。そして、その吊紐70を駆動モーター(図示せず)に結び、芯体51を所定の速度で引き上げることができるようにする。そして、第1加圧バルブ68及び第2加圧バルブ69を開いて、各加圧タンク58,59に加圧空気を送り込み、タイミング制御装置の運転開始ボタンを押す。すると、先ず、第1バルブ60が開状態となり、ポリイミド前駆体溶液56が第1塗膜形成ダイス54のスリット開口66から吐出される。そして、これと同時に芯体51を所定の速度で引き上げると、芯体51の外面にポリイミド前駆体溶液塗膜52が形成される。なお、このとき、第1ポリイミド前駆体溶液56の吐出量及び芯体51の引き上げ速度の少なくとも一方を制御すると、ポリイミド前駆体溶液56を一定の厚みで液成形することができる。そして、第1バルブ60が開状態になってから少し経過した後、第2バルブ61が開状態となり、フッ素樹脂分散液57が第2塗膜形成ダイス55のスリット開口67から吐出される。このようにすると、芯体51にフッ素樹脂分散液が直接芯体に塗布されることがない。このため、被膜化工程において、上部にフッ素樹脂の薄膜塗膜が形成されずガス抜けがよく、最終的に芯体から複合管状物を分離しやすく好ましい。すなわち、ポリイミド前駆体溶液塗膜52の上にフッ素樹脂分散液塗膜53が形成される。つまり、この塗膜成形装置50では、ポリイミド前駆体溶液56により複合管状物30のポリイミド樹脂層31(内層)が形成され、フッ素樹脂分散液57により複合管状物30のフッ素樹脂層32(外層)が形成されることになる。なお、このとき、フッ素樹脂分散液57の吐出量及び芯体51の引き上げ速度の少なくとも一方を制御すると、フッ素樹脂分散液57を一定の厚みで液成形することができる。なお、好ましい実施の形態では、スリット開口66,67から一定量のポリイミド前駆体溶液を吐出させると共に、芯体51の引き上げ速度を逐次制御する。このようにすれば、ポリイミド前駆体溶液塗膜の厚みを精度よく一定とすることができる。最後に、第2バルブ61が閉状態となり、フッ素樹脂分散液57の第2塗膜形成ダイス55のスリット67からの吐出が停止される。そして、第2バルブ61が閉状態になってから少し経過した後、第1バルブ60が閉状態となり、ポリイミド前駆体溶液56が第1塗膜成形ダイス54のスリット開口66から吐出が停止される。このようにすれば、芯体51にフッ素樹脂分散液が直接芯体に塗布されることがないため、被膜化工程において、下部にフッ素樹脂の薄膜塗膜が形成されずガス抜けがよく、最終的に芯体から複合管状物30を分離しやすく好ましい。
なお、このような液成形では、スリット開口66,67から吐出される液の粘度及び吐出力により、芯体51に自動調芯的な応力が加わるため、塗膜を均一な厚みに成形することができる。
なお、本発明の実施の形態で使用される芯体51の材料は、イミド化のための加熱に耐えられる耐熱性を有していれば特に限定されるものではない。加工性、及び芯体の寸法精度などから金属材料は好ましい材料である。また、芯体51の外面は離型剤で覆われていることが好ましい。離型剤とは、例えば、セラミックスコーティング、フッ素樹脂コーティング、シリコーンコーティング等である。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は下記の実施例によって限定解釈されるものではない。なお、実施例及び比較例で作製した複合管状物の断面観察は下記の方法で行った。
(1)シートの作製
作製された複合管状物を1cm×1cmの大きさに切断して作製する。
(2)シート埋め込み
切断したシートを、複合管状物の周方向に平行な辺で揃えて4枚重ね、サンプルクリップI(ビューラー社製)でシートが動かないように固定した。そして、サンプルクリップIで固定したシートを試料埋込機Simplimet2000(ビューラー社製)に設置し、エポメットG(ビューラー社製)を入れて複合管状物のシートを埋め込んだ試料を作製した。
(3)試料研磨
シートの断面が平滑になるようにシートを埋め込んだ試料を試料研磨機ECOMET(ビューラー社製)で研磨した。なお、この際、少しずつ研磨砥粒の番手を上げていき、研磨砥粒径1μmの酸化アルミ:αポリッシングアルミナNo.1(C)(ビューラー社製)により最終の仕上げを行った。
(4)複合管状物断面のフッ素原子マッピング
研磨した試料を低真空型電子顕微鏡SEMEDX3TypeN((株)日立サイエンスシステムズ製)にセットし、シートの断面を倍率1500倍に拡大した後、その断面映像においてフッ素原子マッピングを行った。なお、フッ素原子マッピングとは、内殻電子の励起スペクトル(内殻電子励起スペクトル)中のフッ素原子に固有の損失エネルギーをエネルギーフィルタで選択して像モードにすることにより、各元素の分布像を得る手法である。
1.ポリイミド前駆体溶液の調製
複合管状物の内層となるポリイミド前駆体溶液としてポリイミド前駆体溶液(ポリイミドワニス「RC5063」(株)I.S.T社製)を用意した。このポリイミド前駆体溶液はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中で3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物「BPDA」と、パラフェニレンジアミン「PPD」を重合したものであり、固形分濃度は17.5wt%であった。熱伝導性微粒子である窒化硼素(三井化学(株)MBN−010T)がポリイミド前駆体溶液の固形分に対して30重量%含有されるようにポリイミド前駆体溶液に熱伝導性微粒子を混合した後、このポリイミド前駆体溶液の粘度を800ポイズに調整した。なお、粘度は、東京計器製のE型粘度計VISCONIC EH Dを用いて、測定環境温度23±0.2度C、回転数0.5rpm(ずり速度1.92s−1)の条件下で測定した。
2.フッ素樹脂分散液の調製
(1)原料
次に、複合管状物の外層となるフッ素樹脂分散液を、次の原料を用いて調製した。
(1−1)フッ素樹脂粒子
平均粒子径が8μmであるテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粒子(ソルベイソレクシス製)を使用した。
(1−2)揮散等樹脂粒子分散液
平均粒子径が0.13μmであるスチレン−メタ(アクリル)酸エステル共重合樹脂粒子の水性分散液であるポリゾールAP−691T(昭和高分子製、不揮発分:55重量部)335gをN−メチル−2−ピロリドン500gで希釈して使用した。
(1−3)溶媒
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を使用した。
(1−4)増粘及びチキソトロピー性付与剤
架橋型アクリル系樹脂のジュンロンPW−110(日本純薬製)を使用した。
(2)調製
100gのフッ素樹脂粒子と、167gの揮散等樹脂粒子分散液とを混合した。なお、このとき、揮散等樹脂粒子分散液の不揮発分は、フッ素樹脂粒子100重量部に対して37.8重量部存在することになる。そして、この混合物に、チキソトロピー性付与剤28gをNMP191gに添加したものを43.8g添加して、フッ素樹脂分散液を作製した。なお、このフッ素樹脂分散液の粘度は、750ポイズであった。また、この粘度は、東京計器製のE型粘度計VISCONIC EH Dを用いて、23±0.2度C、回転数0.5rpm(ずり速度1.92s−1)の条件下で測定した。
次に、塗膜成形用の芯体として、外径18mm、長さ500mmのアルミニウム製円筒状芯体の表面を酸化珪素塗膜で被覆したものを用意した。なお、この芯体の平均表面粗度Rzは、JIS−B0601の測定方法に従って測定したところ1.2μmであった。
塗膜成形装置として上述した塗膜成形装置50を用いて芯体にポリイミド前駆体溶液とフッ素樹脂分散液を重ねて塗膜した後、その芯体をそのままオーブンに入れ、60度C、80度C、100度Cでそれぞれ30分、120度Cで60分、ポリイミド前駆体溶液の塗膜およびフッ素樹脂分散液の塗膜を乾燥させ、ポリイミド前駆体溶液の塗膜およびフッ素樹脂分散液の塗膜から溶媒を除去した。そして、その後、芯体上に形成されたポリイミド前駆体被膜およびフッ素樹脂被膜を200度C、250度C、300度C、350度及び400度Cで順次30分ずつ焼成して、複合管状物を得た。
得られた複合管状物の断面を上述の方法に従って低真空型電子顕微鏡で倍率1500倍に拡大し、フッ素原子マッピングを行ったところ、図1に示されるようにフッ素元素が存在する領域とフッ素元素が存在しない領域との境界線1と、厚み方向に平行な直線2との交点が3ヵ所あることが確認できた。
(比較例1)
実施例1で用いられた芯体を、軸を中心として回転させながら、ノズルを芯体長手方向に移動させて芯体表面にポリイミド前駆体溶液を吐出させ、芯体表面にポリイミド前駆体溶液を塗布した。その後、芯体の上から、管状物被膜厚みに必要な間隔を有する外型リングを挿入し、その外型リングを自由落下させて、均一なポリイミド前駆体溶液塗膜を得た。そして、得られたポリイミド前駆体溶液塗膜を90度Cで30分乾燥し、そのポリイミド前駆体溶液塗膜から溶媒を除去してポリイミド前駆体被膜を形成した後、そのポリイミド前駆体被膜の上に、先と同様の方法で、フッ素樹脂分散液塗膜を成形した。次に、その芯体をそのままオーブンに入れ、60度C、80度C、100度Cでそれぞれ30分、120度Cで60分加熱することにより、フッ素樹脂分散液塗膜を乾燥させて、フッ素樹脂分散液塗膜から分散液を除去し、フッ素樹脂被膜を形成した。続いて、ポリイミド前駆体被膜およびフッ素樹脂被膜を200度C、250度C、300度C、350度及び400度Cで順次30分ずつ焼成して、複合管状物を得た。
得られた複合管状物の断面を上述の方法に従って低真空型電子顕微鏡で倍率1500倍に拡大し、フッ素原子マッピングを行ったところ、図2に示されるようにフッ素元素が存在する領域とフッ素元素が存在しない領域との境界線1と、厚み方向に平行な直線2との交点は1ヵ所しかないことが確認できた。