JP4847977B2 - 磁心用粉末および圧粉磁心並びにそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
また、高密度成形された圧粉磁心の内部(軟磁性粉末の粒子内部)には多くの歪み(残留歪み)等が導入される。この歪みは圧粉磁心の保磁力を高め、ヒステリシス損失を増加させると共に圧粉磁心の応答性を低下させ得る。このような歪み等を除去するために圧粉磁心に焼鈍等の加熱処理がなされる。
もっとも、この圧粉磁心は、結局、耐熱温度の低いエポキシ樹脂をバインダとして使用しているため、加圧成形した圧粉磁心に対して高温域での焼鈍等を行い難いか、または焼鈍等を行うとすると、圧粉磁心の構成粒子の結合が弱まり、圧粉磁心の強度の低下が考えられる。
ところが、従来の圧粉磁心は、あくまでも軟磁性粉末の構成粒子が塑性変形によるアンカー効果などにより機械的結合をしているに過ぎず、圧粉磁心の強度(例えば、圧環強度)は必ずしも充分ではなかった。確かに、超高圧成形した圧粉磁心は高密度で高強度ではあったが、現状ではさらなる強度向上が望まれている。
(1)本発明の磁心用粉末は、軟磁性粉末と、該軟磁性粉末の粒子表面を被覆する第1被覆層および該第1被覆層をさらに被覆する第2被覆層からなる表面皮膜と、からなる磁心用粉末であって、前記第1被覆層は、加熱硬化型のシリコーン樹脂を含む第1溶液に前記軟磁性粉末を接触させる第1接触工程と該第1接触工程後の軟磁性粉末を前記第1溶液中のシリコーン樹脂がゲル化する第1変態温度以上の第1乾燥温度で乾燥させる第1乾燥工程とを有する第1被覆層形成工程を経て形成され、前記第2被覆層は、加熱硬化型のシリコーン樹脂を含む第2溶液に前記第1被覆層の被覆された軟磁性粉末を接触させる第2接触工程と該第2接触工程後の軟磁性粉末を該第2溶液中のシリコーン樹脂がゲル化する第2変態温度未満の第2乾燥温度で乾燥させる第2乾燥工程とを有する第2被覆層形成工程を経て形成され、加圧成形されることにより比抵抗および強度に優れた圧粉磁心が得られることを特徴とする。
本発明の磁心用粉末では、先ず第1被覆層形成工程の第1乾燥工程で、第1接触工程後の軟磁性粉末は第1変態温度以上に加熱される。このため、軟磁性粉末の粒子に付着した加熱硬化型のシリコーン樹脂はより硬質なシリコーン樹脂皮膜となって軟磁性粉末の粒子表面を被覆する。この段階で、ある程度、比抵抗および耐熱性に優れる絶縁皮膜がほぼ完成されると思われる。
なお、本明細書では、第1被覆層または第2被覆層を問わず、加熱硬化型のシリコーン樹脂を適宜、単に「シリコーン樹脂」と称する。
また、この比較的軟質の第2被覆層が、磁心用粉末の加圧成形時に既に形成されていた第1被覆層からなる硬質の絶縁皮膜を保護する役割を果すと思われる。その結果、第1被覆層による構成粒子表面の絶縁性は少なくとも確保され、充分で安定した比抵抗の圧粉磁心が得られる。
こうして最終的に磁心用粉末を加圧成形したときでも、少なくとも第1被覆層からなる耐熱性のある絶縁皮膜が確実に確保されつつ、しかも第2被覆層によって粉末粒子間の結合が強固になされ、比抵抗および圧環強度等に優れる強固な圧粉磁心が得られることになったと思われる。
本発明で用いた加熱硬化型のシリコーン樹脂を加熱すると、その温度の上昇と共に粘度が低下するが、隣接するシリコーン樹脂のもつ官能基間で架橋し合い、次第にゾルの粘度が上昇する。そしてある程度反応が進むと、ゲル化が起こり、その粘度は急激に上昇する。このように、シリコーン樹脂の粘度が急上昇するときの温度が変態温度である。この変態温度は、使用するシリコーン樹脂の種類によって異なる。シリコーンのゲル化反応は、系の温度、加熱による粘度低下による流動性の度合い、加熱する時間によりその進み方が左右されるため、加熱温度のみで定義することは困難であるが、所定の加熱温度でのゲル化の度合いにより、再現よく定めることができる。
本発明に係る変態温度を定義するとすれば次のようになる。すなわち、一定時間でシリコーン樹脂の粘度が急上昇しゾルからゲルへ転移する加熱温度が変態温度となる。このような変態温度の具体例として、例えば、信越化学工業(株)社製のKR−242Aの場合、保持時間700秒のときの変態温度は150℃、また、保持時間120秒のときの変態温度は200℃である。
また、第1被覆層中のシリコーン樹脂は、大部分が架橋してゲル化した状態にあると思われるが、架橋していない部分が当然に残存していてもよい。逆に、第2被覆層中のシリコーン樹脂は、架橋が進行しておらず、大部分がゾル状態にあるとおもわれるが、一部が架橋してゲル化していても良い。結局、本発明では、シリコーン樹脂のゲル化の程度やそれに伴う硬質または軟質の程度は、第1被覆層と第2被覆層との間の相対的なものに過ぎないことを断っておく。
さらに、本発明でいう第1被覆層と第2被覆層は、磁心用粉末の段階では峻別できるとしても、その磁心用粉末を加圧成形した粉末成形体をさらに加熱した圧粉磁心になると、両者の区別は困難な場合が多いと思われる。すなわち、第2被覆層は第1被覆層と独立して粒子間の結合をするとは限らない。特に、両者の原料となる加熱硬化型のシリコーン樹脂溶液が実質的に同一の場合、最終的な圧粉磁心を分析すると、第1被覆層と第2被覆層は一体となって硬化したシリコーン樹脂被膜を形成している場合もあると考えられる。従って、本発明の磁心用粉末、特に圧粉磁心において、第1被覆層と第2被覆層という区別はプロダクト・バイ・プロセス的に構造を特定するための便宜上のものに過ぎないことを断っておく。
また、変態温度以上の乾燥温度で一度しか被覆処理を行わなかった磁心用粉末からなる圧粉磁心は、皮膜が硬質なため、加圧成形の際に、磁心用粉末の変形に対して皮膜の追従が困難となり、皮膜中に亀裂を生じ易くなる。このため、皮膜内(皮膜中)を起点とする破壊が生じ得る(凝集破壊)。また、皮膜が硬質なために、三重点や粒界などに多くの隙間が存在する状態になって、粉末粒子間の結合が弱まり、圧粉磁心の強度が低下し易くなる。
このようにして観ると、第1被覆層と第2被覆層との峻別自体は困難でも、それらの形成過程に帰因する相違が、圧粉磁心の微視的な形態または特性として間接的にしろ現れているといえる。従って、このような観点からすれば、本発明の圧粉磁心と従来の圧粉磁心とを区別することは比較的容易である。
本発明は、上記以外に、磁心用粉末の製造方法としても把握できる。すなわち、本発明は、加熱硬化型のシリコーン樹脂を含む第1溶液に軟磁性粉末を接触させる第1接触工程と該第1接触工程後の軟磁性粉末を前記第1溶液中のシリコーン樹脂がゲル化する第1変態温度以上の第1乾燥温度で乾燥させる第1乾燥工程とを経て該軟磁性粉末の粒子表面に第1被覆層を形成する第1被覆層形成工程と、加熱硬化型のシリコーン樹脂を含む第2溶液に前記第1被覆層の被覆された軟磁性粉末を接触させる第2接触工程と該第2接触工程後の軟磁性粉末を該第2溶液中のシリコーン樹脂がゲル化する第2変態温度未満の第2乾燥温度で乾燥させる第2乾燥工程とを経て前記第1被覆層上にさらに第2被覆層を形成する第2被覆層形成工程とからなり、前述した本発明に係る磁心用粉末が得られることを特徴とする磁心用粉末の製造方法ともいえる。
さらに本発明は、圧粉磁心の製造方法としても把握できる。すなわち、本発明は、前述の本発明に係る磁心用粉末を金型に充填する充填工程と、該金型内の磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、該成形工程後に得られた粉末成形体を、前記第2変態温度以上で前記第1被覆層の耐熱温度以下の温度で加熱する加熱工程とを備え、比抵抗および強度に優れた圧粉磁心が得られることを特徴とする圧粉磁心の製造方法ともいえる。
本発明の磁心用粉末、圧粉磁心またはそれらの製造方法は、上述の構成に加えて、次に列挙する構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上が付加されると好適である。なお、下記から選択された構成は、複数の発明に重畳的かつ任意的に付加可能であることを断っておく。また、便宜上、圧粉磁心または磁心用粉末自体とそれらの製造方法とを区別して記載するが、下記に示したいずれの構成も、カテゴリーを越えて相互に適宜組合わせ可能である。例えば、軟磁性粉末の組成に関する構成であれば、磁心用粉末自体や圧粉磁心自体にも、それらの製造方法にも関連することはいうまでもない。また、一見、「方法」に関する構成のように見えても、プロダクトバイプロセスとして理解すれば、「物」に関する構成ともなり得る。
(i)少なくとも第1被覆層は、ゲル化したシリコーン樹脂皮膜である。
(ii)第1被覆層および第2被覆層から形成される表面皮膜は、圧粉磁心中でゲル化したシリコーン樹脂からなる絶縁皮膜となる。
(iii)第1被覆層形成工程と第2被覆層形成工程で用いるシリコーン樹脂は同一または同種である。
(iv)軟磁性粉末は、該軟磁性粉末全体を100質量%としたときに0.2〜4質量%好ましくは0.8〜3質量% のケイ素(Si)と残部が鉄(Fe)と不可避不純物および/または改質元素とからなる。
(v)軟磁性粉末は、粒径の下限が20μm、50μmさらには80μmであり、粒径の上限が300μm、250μmさらには230μmである。
(vi)軟磁性粉末は、水アトマイズ粉またはガスアトマイズ粉またはガス水アトマイズ粉である。
(vii)軟磁性粉末全体を100質量%としたときの第1被覆層形成工程におけるシリコーン樹脂の配合量は、0.1〜1質量%である。
(viii)軟磁性粉末全体を100質量%としたときの第2被覆層形成工程におけるシリコーン樹脂の配合量は、0.1〜1質量%である。
(ix)第1被覆層の膜厚は0.3〜3.5μmである。
(x)第2被覆層の膜厚は0.3〜3.5μmである。
(xi)圧粉磁心は、真密度(ρ0)に対する嵩密度(ρ)の比である密度比(ρ/ρ0:%)が96%以上、97%以上さらには98%以上である。
(xii)圧粉磁心の比抵抗は、300μΩm以上、700μΩm以上、1000μΩm以上、2000μΩm以上、3000μΩm以上、4000μΩm以上、5000μΩm以上さらには10000μΩm以上である。
(xiii)圧粉磁心の圧環強度は、20MPa以上、30MPa以上、40MPa以上、50MPa以上さらには60MPa以上である。
(ixv)圧粉磁心は、電動機または発電機の界磁または電機子を構成する鉄心である。
(xv)その電動機は自動車用である。
(i)第1溶液と第2溶液とは実質的に同一である。
(ii)第1溶液または第2溶液の溶媒は有機溶媒(例えば、アセトン)である。
(iii)第2溶液はカップリング剤(特に、シランカップリング剤)を含む。
(iv)第1乾燥温度は、150〜300℃さらには200〜270℃である。
(v)第2乾燥温度は、50〜150℃さらには80〜120℃である。
(vi)加熱工程は、成形工程後の粉末成形体内の残留歪みまたは残留応力を除去するために焼鈍する焼鈍工程である。
(vii)加熱工程の加熱温度(または焼鈍温度)の下限は400℃〜900℃さらには500〜800℃である。
(viii)充填工程は高級脂肪酸系潤滑剤を内面に塗布した金型へ前記磁心用粉末を充填する工程であり、成形工程は磁心用粉末と該金型の内面との間に前記高級脂肪酸系潤滑剤とは別の金属石鹸皮膜が生成される成形温度と成形圧力で加圧成形する温間高圧成形工程である。
(1)本明細書でいう「圧粉磁心」はその形態を問わない。つまり、圧粉磁心は、機械加工等が適宜なされる素材またはバルク状であっても良いし、最終的な形状またはそれに近い構造部材自体であっても良い。
「不可避不純物」は、軟磁性粉末の原料(溶湯など)に含まれる不純物、粉末形成時に混入等する不純物などがあり、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。本発明に係る軟磁性粉末の場合であれば、例えば、C、S、Cr、P、Mn等がある。
なお当然ながら、軟磁性粉末は基本元素(例えば、Fe、CoおよびNi)の種類および組成が重要であるため、改質元素や不可避不純物の割合は特に限定されない。従って、不可避不純物は勿論のこと、改質元素が含まれない軟磁性粉末およびその磁心用粉末を用いた圧粉磁心も、本発明の範囲内であることに変わりはない。
なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係る磁心用粉末や圧粉磁心のみならず、それらの製造方法にも、適宜適用できる。また、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
磁心用粉末は、粒子表面が本発明に係る表面皮膜で被覆された軟磁性粉末からなる。
(1)軟磁性粉末
軟磁性粉末は、通常、8属遷移元素(Fe、Co、Ni等)などの強磁性元素を主成分とする。中でも、取扱性、入手性、コスト等から、Feをベースとするものが好ましい。
主成分であるFeに、Siを含有させたFe−Si合金粉末が圧粉磁心の原料粉末によく用いられる。Siは粉末粒子の電気抵抗率を高め、圧粉磁心の比抵抗を向上させ、渦電流損失を低減させるからである。
軟磁性粉末は、複数の粉末を混合した混合粉末でも良い。例えば、純鉄粉とFe−49Co−2V(パーメンジュール)粉、純鉄粉とFe−3Si粉、センダスト(Fe−9Si−6Al)粉と純鉄粉等の混合粉末であっても良い。
一方、ガスアトマイズ粉の粒子が略球状をしている擬球状粉である。各粒子の形状が略球状をしているため、軟磁性粉末を加圧成形した際に、各粉末粒子間の攻撃性が低くなり、絶縁皮膜の破壊等が抑制され、比抵抗の高い圧粉磁心が安定して得られ易い。
軟磁性粉末の粒子表面に形成される表面皮膜は、第1被覆層および第2被覆層からなる。第1被覆層は軟磁性粉末の粒子表面に付着したシリコーン樹脂が変化したシリコーン樹脂皮膜からなる。第2被覆層は、その第1被覆層上に付着したシリコーン樹脂が未だ完全にはゲル化していない状態、いいかえるなら、ゾル状態のシリコーン樹脂が少なくとも一部残存している状態である。勿論、前述した通り、加圧成形後の加熱によってその第2被覆層もゲル化が進行した硬質な絶縁皮膜となる。
本発明の場合、上記の表面皮膜または絶縁皮膜は、主に加熱硬化型のシリコーン樹脂によって形成される。このシリコーン樹脂皮膜は、構成粒子の表面を被覆する絶縁皮膜として機能するのみならず、構成粒子間の結合するバインダとしても機能し得る。
シリコーン樹脂がゲル化する変態温度はシリコーン樹脂の種類によって異なるため一概に特定することはできないが、ほぼ150〜300℃程度である。この温度に加熱することで軟磁性粉末の粒子表面に付着したシリコーン樹脂は硬質なシリコーン樹脂皮膜となる。このシリコーン樹脂皮膜は、温度の上昇に伴い、シロキサン結合が進行するため、焼鈍等の高温加熱処理を行うことで部分的な架橋から全体的な架橋となり、皮膜強度が向上する。また、このシリコーン樹脂皮膜は耐熱性に優れるため、成形後の圧粉磁心に対して焼鈍等の高温加熱を行っても破壊等されず、前記の架橋が一層進行して、磁心用粉末の粒子同士の結合が強化される。
熱硬化型のシリコーン樹脂が本発明に適している。
シリコーン樹脂のシラン化合物の官能基数は、1から最大で4つまである。本発明で用いるシリコーン樹脂の官能基数に制限はない。もっとも、3または4の官能性シラン化合物を有するコーティング用シリコーンを用いると、架橋密度が高くなり好ましい。
また、本発明の第1被覆層形成工程と第2被覆層形成工程とで使用されるシリコーン樹脂は同一種である必要はないが、同一種のものを使用する方が低コスト化や工程の簡素化などを図れるので好ましい。
軟磁性粉末の粒子表面上の表面皮膜は、前述した第1被覆層形成工程および第2被覆層形成工程により形成される。両工程はいずれも接触工程と乾燥工程とからなる点で共通するが、少なくとも乾燥温度が第1乾燥工程と第2乾燥工程との間で異なる点で相違する。この相違により、少なくとも加圧成形前の磁心用粉末の段階では、軟磁性粉末の表面に形成される第1被覆層と第2被覆層とが質的に異なると思われる。
もっとも、このような重要な相違はあるが、第1被覆層形成工程と第2被覆層形成工程との間で、それぞれの接触工程および乾燥工程は内容的に共通する。そこで以下に説明する内容は、特に断らない限り、第1被覆層形成工程または第2被覆層形成工程に当てはまることを断っておく。
接触工程は、軟磁性粉末(第1被覆層が設けられた軟磁性粉末をも含めて、適宜、単に「軟磁性粉末」という。)とシリコーン樹脂の溶液とを接触させる工程である。シリコーン樹脂が液状またはゾル状であれば、それをそのまま本発明でいう溶液として用いてもよい。
この溶液の濃度は、使用するシリコーン樹脂や溶媒によって一概にはいえないが、施工のし易さや乾燥時間等を考慮して決定すれば良い。例えば、溶媒にアセトンを用いた場合であれば、溶液の濃度を1〜10(質量%)さらには2〜6(質量%)とすると、生産性、皮膜の物質性の点で好ましい。
シランカップリング剤は、溶液全体に対して5〜15(質量%)さらには8〜12(質量%)であると好ましい。
勿論、シランカップリング剤は第2溶液のみならず、第1溶液に配合してもよい。もっとも、軟磁性粉末がFe−Si粉末の場合、シリコーン樹脂との密着性は前述したように優れるため、敢てシランカップリング剤を入れるまでもない。従って、シランカップリング剤を一方(特に第2溶液)のみに配合することで、被覆層の密着性とコストの両立を図れる。このシランカップリング剤を除き、第1溶液と第2溶液とを同じように調製することで、工程管理等が容易になる。
乾燥工程は、接触工程後の軟磁性粉末を加熱乾燥させる工程である。乾燥温度、乾燥時間、乾燥雰囲気等の乾燥条件は、用いるシリコーン樹脂や溶媒などによって適宜選択される。本発明に関して乾燥工程中で重要となるのは、乾燥温度である。
本発明の磁心用粉末に関する最大の特徴は、第2乾燥温度を第1乾燥温度よりも低くした点にある。これにより、軟磁性粉末の表面に、先ずは内層となる第1被覆層が比較的硬質に形成され、次にその外側に比較的軟質な第2被覆層が形成される。この磁心用粉末を加圧成形した際、第1被覆層は第2被覆層により保護されると共に第2被覆層自体は磁心用粉末の粒子間の隙間を充填するように塑性流動し、その後の加熱処理により各磁心用粉末の粒子間を非常に強固に結合させる。
本発明の圧粉磁心は、上記の磁心用粉末を所望形状に加圧成形した粉末成形体を加熱処理し、軟磁性粉末の表面にシリコーン樹脂皮膜を形成してなる。
(1)加圧成形方法
圧粉磁心は、通常、磁心用粉末を成形用金型(単に「金型」という。)に充填する充填工程と、金型内の磁心用粉末を加圧成形する成形工程とによって成形される。本発明では、磁心用粉末の加圧成形方法を問わないが、高密度で高磁束密度の圧粉磁心を得るためには、超高圧成形が可能な金型潤滑温間高圧成形法を用いると好ましい。この金型潤滑温間高圧成形法は、高級脂肪酸系潤滑剤を内面に塗布した金型へ前記磁心用粉末を充填する充填工程と、磁心用粉末と金型の内面との間に高級脂肪酸系潤滑剤とは別の金属石鹸皮膜が生成される成形温度と成形圧力で加圧成形する温間高圧成形工程とからなる。この金型潤滑温間高圧成形法の詳細については、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報など多の公報に詳細が記載されている。この金型潤滑温間高圧成形法によれば、金型寿命を延しつつ、高密度な圧粉磁心を容易に得ることが可能となる。
このように加圧成形された粉末成形体中の磁心用粉末の第2被覆層をさらに加熱して硬質化させることで、軟磁性粉末の各粒子が強固に結合した高強度の圧粉磁心が得られる。この加熱工程は、基本的には、第2被覆層中のゲル化していないシリコーン樹脂をゲル化する工程であり、それが可能な範囲であれば、加熱温度、加熱時間、加熱雰囲気は問わない。
なお、ゲル化したシリコーン樹脂皮膜をその耐熱温度を超えて高温で加熱すると、シリコーン樹脂皮膜が多少変質することもあり得る。もっとも、このような場合も本発明に含まれる。そして、シリコーン樹脂皮膜は耐熱性が高いため、本発明の圧粉磁心は、焼鈍工程後でもその比抵抗は高く維持され得る。
本発明の圧粉磁心は、絶対値としての密度、比抵抗、強度などは問わないが、当然ながら、高密度、高比抵抗、高強度であると好ましい。
(i)密度
磁心用粉末を高密度成形した場合、軟磁性粉末の真密度(ρ0)に対する、圧粉磁心の嵩密度(ρ)の比である密度比(ρ/ρ0)が96%以上、97%以上、98%以上さらに99%以上と高くなる程、より高い磁束密度が得られる。また、本発明の圧粉磁心を構成する軟磁性粉末のSi含有量を比較的少なくすることで、より高い磁束密度を発揮する。
比抵抗は、基本的に形状に依存しない圧粉磁心ごとの固有値である。同形状の圧粉磁心であれば比抵抗が大きいほど、渦電流損失の低減を図れる。この比抵抗は、絶縁皮膜の種類、絶縁皮膜の量(膜厚)、焼鈍の有無等によって異なるが、比抵抗が500μΩm以上、1000μΩm以上、2000μΩm、3000μΩm以上、4000μΩm、5000μΩmさらには10000μΩm以上であると好ましい。
圧粉磁心の強度は、実用性を考えると非常に重要である。従来の圧粉磁心では、絶縁皮膜で被覆された構成粒子が塑性変形によって主に機械的に結合されているだけであり、その強度は必ずしも充分ではなかった。本発明では、圧粉磁心が高密度であると共に、加熱された磁心用粉末の第2被覆層の影響により、従来よりも圧粉磁心の構成粒子間の結合がより強化される。圧粉磁心の強度は種々の方法により測定され得るが、代表的な指標として圧環強度がある。この圧環強度が20MPa以上、30MPa以上、40MPa以上、50MPa以上さらには60MPa以上であると好ましい。
本発明の圧粉磁心は、各種の電磁機器、例えば、モータ、アクチュエータ、トランス、誘導加熱器(IH)、スピーカ、リアクトル等に利用できる。具体的には、電動機または発電機の界磁または電機子を構成する鉄心に用いられると好ましい。中でも、低損失で高出力(高磁束密度)が要求される駆動用モータ用の鉄心として本発明の圧粉磁心は好適である。ちなみに、このような駆動用モータは、例えば、自動車等に用いられる。
(磁心用粉末の製造)
(1)軟磁性粉末および溶液
原料粉末(軟磁性粉末)として、Fe−1%Si(単位:質量%)の組成をもつ市販のアトマイズ粉を用意した。
シリコーン樹脂の溶液は、市販のシリコーン樹脂(MOMENTIVE社製、「YR3370」)を50倍の有機溶媒(アセトン)で溶解して得た。このシリコーン樹脂の変態温度は30分保持の場合150℃である。この溶液を第1溶液とした。
第2溶液は、第1溶液と同じものと、第1溶液にシランカップリング剤(信越化学工業社製/KBM−403)をシリコーン樹脂10に対して1の割合(シリコーン樹脂:シランカップリング剤=10:1)で添加したものとの2種類を用意した。
上記の溶液(第1溶液)と軟磁性粉末とを混合し、撹拌した(第1接触工程)。この撹拌は、超音波撹拌装置を用いて45℃x40分の条件でおこなった。
なお、溶液と軟磁性粉末の割合は、軟磁性粉末100質量%に対してシリコーン樹脂が0.3質量%の割合となるようにした。こうして撹拌混合した軟磁性粉末および溶液を容器ごと加熱装置に入れて、大気雰囲気中で250℃(第1乾燥温度)x30分の条件で加熱乾燥させた(第1乾燥工程)。得られた粉末の塊を乳鉢を用いて解砕した。
こうして軟磁性粉末の粒子表面が第1被覆層で被覆された一次粉末を得た。
この1次粉末に対して、第1被覆層形成工程と同様の処理(第2接触工程および第2乾燥工程)を行い、得られた粉末の塊を乳鉢を用いて解砕した。こうして、軟磁性粉末の粒子表面上の第1被覆層をさらに第2被覆層で被覆した磁心用粉末を得た。なお、第2溶液には、シランカップリング剤を含むものと、含まないものとをそれぞれ使用し、また、第2乾燥温度は100℃とした。
(a)各試験片形状に応じたキャビティを有する超硬製の金型を用意した。この金型をバンドヒータで予め130℃に加熱しておいた。また、この金型の内周面には、予めTiNコート処理を施し、その表面粗さを0.4Zとした。
こうして、試験片1(第2溶液へのシランカップリング剤の添加の無し)と試験片2(第2溶液へのシランカップリング剤の添加有り)となる2種の圧粉磁心を得た。
上記の実施例に対して、第1被覆層形成工程を第2被覆層形成工程で置換した(要するに第2被覆層形成工程を2回繰返した)磁心用粉末を製造し、試験片C1となる圧粉磁心を作製した。
上記のリング状試験片を用いて圧環強度および比抵抗を測定した。圧環強度は、JIS
Z 2507に準ずる方法により測定した。比抵抗は、デジタルマルチメータ(メーカ:(株)エーディーシー、型番:R6581)を用いて4端子法により測定した。
各試験片に関する測定結果を、各試験片の製造条件と共に表1に示す。また、表1の各データに基づいてプロットした、比抵抗と圧環強度との相関図を図1に示す。
さらに、試験片2、試験片C2および試験片C3の圧粉磁心を電子顕微鏡で観察した反射電子組織像を図2に示す。
先ず、表1および図1から、本発明に係る試験片1または試験片2の圧粉磁心は、圧環強度と比抵抗のいずれにも優れることが分る。特に、第2被覆層を形成する第2溶液中にシランカップリング剤を配合した試験片2は、比抵抗が著しく向上していることが分る。
一方、試験片C2の写真から、軟磁性粉末の粒界や三重点にできる隙間が少なくなっていることも分かる。その皮膜が軟質であるため、加圧成形の際に、構成粒子間の隙間へその絶縁皮膜が流動して充填されたためと思われる。こうして、試験片C2では、軟磁性粉末の粒子間に接触・短絡が生じて比抵抗が低くなる一方、圧環強度は高くなったと思われる。
さらに、構成粒子間の三重点や粒界に多くの隙間が存在している。これは磁心用粉末の粒子上に形成された皮膜が硬質なため、加圧成形の際にその皮膜があまり流動せず、構成粒子間の隙間が充填されなかったためと思われる。こうして、試験片C3の圧粉磁心は、比抵抗が高くて圧環強度が低いものになったと思われる。
これら試験片C2や試験片C3に対して、試験片2は白い部分が多くなり、かつ、構成粒子間の隙間も少ない。これは磁心用粉末の粒子表面に比較的硬質な第1被覆層からなる絶縁皮膜が確実に形成されていると共に、磁心用粉末の粒子間の隙間に比較的軟質な第2被覆層が確実に充填されていたためと思われる。こうして、試験片2の圧粉磁心では、軟磁性粉末の粒子間に接触・短絡が生じることもなく、かつ、磁心用粉末の粒子同士が強固に結合して、比抵抗および圧環強度の両方が高いものになったと思われる。
Claims (7)
- 軟磁性粉末と、該軟磁性粉末の粒子表面を被覆する第1被覆層および該第1被覆層をさらに被覆する第2被覆層からなる表面皮膜と、からなる磁心用粉末であって、
前記第1被覆層は、加熱硬化型のシリコーン樹脂を含む第1溶液に前記軟磁性粉末を接触させる第1接触工程と該第1接触工程後の軟磁性粉末を前記第1溶液中のシリコーン樹脂がゲル化する第1変態温度以上の第1乾燥温度で乾燥させる第1乾燥工程とを有する第1被覆層形成工程を経て形成され、
前記第2被覆層は、加熱硬化型のシリコーン樹脂を含む第2溶液に前記第1被覆層の被覆された軟磁性粉末を接触させる第2接触工程と該第2接触工程後の軟磁性粉末を該第2溶液中のシリコーン樹脂がゲル化する第2変態温度未満の第2乾燥温度で乾燥させる第2乾燥工程とを有する第2被覆層形成工程を経て形成され、
加圧成形されることにより比抵抗および強度に優れた圧粉磁心が得られることを特徴とする磁心用粉末。 - 前記シリコーン樹脂は、シロキサン結合(−Si−O−Si−結合)を主鎖とし置換基を側鎖とした分子構造をしており、3官能性または4官能性を有する請求項1に記載の磁心用粉末。
- 前記側鎖には、メチル基またはフェニル基が含まれる請求項1または2に記載の磁心用粉末。
- 請求項1に記載した磁心用粉末を加圧成形した粉末成形体からなり、
比抵抗および強度に優れることを特徴とする圧粉磁心。 - 加熱硬化型のシリコーン樹脂を含む第1溶液に軟磁性粉末を接触させる第1接触工程と該第1接触工程後の軟磁性粉末を前記第1溶液中のシリコーン樹脂がゲル化する第1変態温度以上の第1乾燥温度で乾燥させる第1乾燥工程とを経て該軟磁性粉末の粒子表面に第1被覆層を形成する第1被覆層形成工程と、
加熱硬化型のシリコーン樹脂を含む第2溶液に前記第1被覆層の被覆された軟磁性粉末を接触させる第2接触工程と該第2接触工程後の軟磁性粉末を該第2溶液中のシリコーン樹脂がゲル化する第2変態温度未満の第2乾燥温度で乾燥させる第2乾燥工程とを経て前記第1被覆層上にさらに第2被覆層を形成する第2被覆層形成工程とからなり、
請求項1に記載の磁心用粉末が得られることを特徴とする磁心用粉末の製造方法。 - 請求項1に記載の磁心用粉末を金型に充填する充填工程と、
該金型内の磁心用粉末を加圧成形する成形工程と、
該成形工程後に得られた粉末成形体を、前記第2変態温度以上で前記第1被覆層の耐熱温度以下の温度で加熱する加熱工程とを備え、
比抵抗および強度に優れた圧粉磁心が得られることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。 - 前記加熱工程は、前記成形工程後の粉末成形体内の残留歪みまたは残留応力を除去するために焼鈍する焼鈍工程である請求項6に記載の圧粉磁心の製造方法。
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