JP4845064B2 - 化成処理のための組成物およびその組成物による化成皮膜を備える部材 - Google Patents

化成処理のための組成物およびその組成物による化成皮膜を備える部材 Download PDF

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Description

本発明は、自然環境に有害な6価クロムの溶出が抑制された化成皮膜を形成することが可能な化成処理のための組成物およびその処理により形成された化成皮膜を有する部材に関し、具体的には、化成処理のための組成物、その組成物を調製するための濃厚組成物、およびその組成物により形成された化成皮膜を有する部材の製造方法に関するものである。
近年、RoHS(Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment、電気・電子機器有害物質使用規制)指令や、ELV(End of Life Vehicles 使用済み自動車)指令など環境に配慮した指令により、有害物質(鉛、水銀、カドミウム、6価クロムなど)の使用を規制することが求められてきている。
この流れを受け、亜鉛めっき部材などの金属表面を有する部材の防食用の化成皮膜として有効なクロメート皮膜は、6価クロムを含むクロム酸塩を用いる化成処理のための組成物(以下、化成処理のための組成物を「化成処理液」という。)ではなく、3価クロムを含む化成処理液によって形成するようになってきている。従来の6価クロムを含む化成処理液により得られる化成皮膜は、皮膜中に可溶性の6価クロムが含まれる。このため、そのような皮膜は上記の指令による規制の対象となる。
このように3価クロムを含む化成処理液によるクロメートは一般的となったが、この化成処理液によって得られた化成皮膜から、ごく微量であるが6価クロムが検出されることが明らかになってきた。その皮膜からの溶出量は、計測方法にも依存するが、おおむね0.1μg/cm以下であり、6価クロムを含む化成処理液によって得られた化成皮膜からの溶出量に比べるとはるかに小さい。
しかしながら、環境負荷を低減する動きは今後さらに厳しくなることが予想されるため、この3価クロムを含む化成処理液によって得られた化成皮膜(以下、単に「化成皮膜」という。)から溶出する6価クロムの濃度を低減する手段が検討されてきている。
特許文献1には、化成皮膜を形成した金属部品を、6価クロムの還元処理工程において所定濃度の還元処理溶液中に所定設定時間浸漬し、これを乾燥させて6価クロムの溶出量を低減させる方法が開示されている。この手段で好適に使用される還元剤はL−アスコルビン酸である。
特許文献2には、化成処理液に6価クロムを3価クロムに還元する還元剤を添加する方法が開示されている。この手段で好適に使用される還元剤は重亜硫酸ナトリウムであり、還元剤の添加は、支持塩の添加の前後に行うこととされている。
特開2005−240084号公報 特開2006−28547号公報
しかしながら、3価クロムを含む化成処理液によって得られた化成皮膜から6価クロムが溶出する理由についてはいまだ明確になっていない。このため、上記のような還元剤を添加することが6価クロム溶出を抑制する最適手段であるかは不明である。
また、6価クロム溶出を抑制する効果は長期にわたり実現されることが必要であるところ、特許文献2では化成皮膜形成直後の溶出量のみが評価されており、特許文献1でも通常環境で10日程度保持された後の溶出量が評価されているにすぎない。したがって、長期にわたって6価クロム溶出を抑制する効果が維持されるかは不明である。この点に関し、本発明者が6価クロム溶出の促進試験環境として高温多湿環境(80℃、100%RH)に保管した後の化成皮膜について溶出量の測定を行った。その結果、6価クロムの溶出を抑制することについて有意な物質(以下、そのような物質を「溶出抑制剤」と総称する。)と従来認識されていた物質では、短期間(1日程度)の間に急速に6価クロムが溶出してしまうことが明らかになった。しかも、このような従来技術に係る溶出抑制剤を化成処理液に添加すると、得られた化成皮膜が黄色や茶色などに着色することが明らかになった。
そこで、本発明では、化成皮膜についての新たな6価クロム溶出抑制手段、特に高温多湿環境に保管されたときにも6価クロムの溶出を抑制することができ、しかも、耐食性と外観とに優れる化成皮膜を形成することが可能な化成処理手段を提供することを目的とする。
上記課題に対して本発明者が検討したところ、化成皮膜の耐食性を確保するために化成処理液にしばしば添加されるコバルトイオンなど水溶性コバルト含有物質の含有量を低減させると、その化成処理液により得られる化成皮膜からの6価クロム溶出量が低減することが確認された。しかしながら、水溶性コバルト含有物質の含有量を低減させると当然ながら化成皮膜の耐食性が低下するため、耐食性の向上に効果のある水溶性コバルト含有物質を含有させたときに特に6価クロムの溶出を抑制することが可能であって、しかも外観の劣化をもたらしにくい成分について本発明者は鋭意検討した。
その結果、以下の知見を得た。
(1)水溶性コバルト含有物質を含有する化成処理液に溶出抑制剤としてピロガロール化合物を含有させると、得られた化成皮膜は高い耐食性と優れた外観とを備えるとともに、皮膜からの6価クロムの溶出量が特に少なくなる。
(2)ピロガロール化合物を含有する化成処理液は、他の溶出抑制剤を含有する化成処理液に比べて、液の安定性に優れる、具体的には未溶解成分が発生したり分解・副生成物が生成したりすることが生じにくい。
(3)ピロガロール化合物を含有する化成処理液にさらに有機ホスホン酸化合物を含有させると、ピロガロール化合物の含有量を低下させたり、水溶性コバルト含有物質の含有量を低下させたりしても、その化成処理液から得られた化成皮膜は、高い耐食性と優れた外観とを備えるとともに、皮膜からの6価クロムの溶出量が特に少なくなる。
上記知見に基づき提供される本発明の一態様は、全組成物に対して、コバルト換算で0.1g/L以上3.0g/L以下の水溶性コバルト含有物質、ピロガロール換算で0.05g/L以上3.0g/L以下のピロガロール化合物、およびクロム換算で1.5g/L以上の水溶性3価クロム含有物質を含有し、前記水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対する前記ピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率が0.015以上10以下である酸性組成物であって、当該組成物を部材の金属表面と接触させることにより当該金属表面に形成された化成皮膜における、80℃,100%RHの環境に72時間暴露したときの6価クロム濃度が、EN15205に準拠した分析方法で得られる濃度として0.050μg/cm未満であることを特徴とする化成処理のための組成物である。
本発明は、上記の化成処理のための組成物と部材の金属表面とを接触させることを特徴とする化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法も提供する。
本発明は、部材の金属表面への化成処理用組成物を製造するための液状組成物も提供する。
その液状組成物の一例は、全組成物に対して、コバルト換算で0.5g/L以上60g/L以下の水溶性コバルト含有物質、ピロガロール換算で0.25g/L以上60g/L以下のピロガロール化合物、およびクロム換算で7.5g/L以上の水溶性3価クロム含有物質を含有し、前記水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対する前記ピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率が0.015以上10以下であることを特徴とする組成物である。
上記の発明によれば、水溶性3価クロム含有物質および水溶性コバルト含有物質を含む化成処理液によって得られた耐食性および外観に優れた化成皮膜からの6価クロム溶出量を、高温多湿環境に暴露させた後も特に低いレベルに抑制することが可能である。
実施例における試験No.1−1〜1−12の結果を示すグラフである。
1.化成処理のための組成物
本発明に係る化成処理のための組成物(化成処理液)は、コバルト換算で0.1g/L以上3.0g/L以下の水溶性コバルト含有物質、ピロガロール換算で0.05g/L以上3.0g/L以下のピロガロール化合物、およびクロム換算で1.5g/L以上の水溶性3価クロム含有物質を含有し、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対するピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率が0.015以上10以下である酸性組成物である。
金属表面を有する部材に本発明に係る化成処理液を接触させる処理を行うことで、6価クロムの溶出が抑制され耐食性に優れた化成皮膜が形成される。処理温度は、濃度やpHなどにも依存するため、一義的に決定することはできない。温度が20℃以上の場合には10秒間以上接触させる処理を行うことが好ましく、40℃以上の場合には5〜50秒間の接触が特に好ましい。接触方法は特に限定されず、金属表面を有する部材を本発明に係る化成処理液に浸漬させたり、その部材に化成処理液をスプレー噴霧させたりすればよい。
以下に本発明に係る化成処理液の成分について詳しく説明する。
(1)水溶性3価クロム含有物質
本発明に係る化成処理液は少なくとも一種の水溶性3価クロム含有物質を含有する。水溶性3価クロム含有物質は、3価クロム(Cr3+)およびこれを含有する水溶性物質からなる群から選ばれる。3価クロムを含有する水溶性物質として、Cr[HO] 3+が例示される。
水溶性3価クロム含有物質を化成処理液に含有させるために配合される物質、つまり水溶性3価クロム含有物質の原料物質として、水中で3価クロム含有物質を生成することが可能な水溶性化合物(以下「水溶性3価クロム化合物」という。)を用いることが好ましい。
水溶性3価クロム化合物を例示すれば、塩化クロム、硫酸クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロム等の3価クロム塩の他、クロム酸や重クロム酸塩等の6価クロム化合物を還元剤により3価に還元した化合物が挙げられる。水溶性3価クロム化合物は一種の化合物のみで構成されていてもよいし、複数種類で構成されていてもよい。なお、本発明に係る化成処理液に対して6価クロム化合物が原材料として積極的に添加されていないため、本発明に係る化成処理液は6価クロムを実質的に含有していない。
水溶性3価クロム化合物の含有量は、化成処理膜の形成のしやすさの観点からクロム換算で1.5g/L以上とすることが好ましい。上限は特に限定されないが、過度に多く含有させることは経済性の観点や廃液処理の観点から問題を生ずるおそれがあるため、7g/L程度を上限とすることが好ましい。
(2)水溶性コバルト含有物質
本発明に係る化成処理液は少なくとも一種のコバルト含有物質を含有する。水溶性コバルト含有物質は、コバルトイオン(Co2+)およびこれを含有する水溶性物質からなる群から選ばれる。水溶性コバルト含有物質として、Co[HO] 2+、コバルトイオンとカルボン酸化合物との配位化合物などが例示される。
水溶性コバルト含有物質を化成処理液に含有させるために配合される物質、つまり水溶性コバルト含有物質の原料物質として、水中でコバルト含有物質を生成することが可能な水溶性化合物(以下「水溶性コバルト化合物」という。)を用いることが好ましい。
水溶性コバルト化合物を例示すれば、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、リン酸コバルト、酢酸コバルトが挙げられる。水溶性コバルト化合物は一種の化合物のみで構成されていてもよいし、複数種類で構成されていてもよい。
水溶性コバルト含有物質の含有量は、コバルト換算で3.0g/L以下とすることが好ましい。3.0g/Lを超えて添加すると、耐食性を向上させる効果よりも、ピロガロール化合物(詳細は後述。)を含有させても6価クロム溶出量を増加させる効果のほうが優勢になってしまう場合がある。したがって、水溶性コバルト含有物質を含有させる場合には、コバルト換算で3.0g/L以下、好ましくは1.5g/L以下の範囲で、用途により決定される耐食性を確保する目的を達成できる最小限の含有量とすることが好ましい。一般的な用途に適用される場合には、水溶性コバルト含有物質の含有量をコバルト換算で0.1g/L以上とすることが好ましく、JIS H 8502に準拠した塩水噴霧試験を120時間行った後においても、得られた化成皮膜における白錆面積率を全体の5%以下とすることが可能となる。この程度の耐食性を安定的に得るためには水溶性コバルト含有物質の含有量をコバルト換算で0.3g/L以上とすることが好ましい。自動車用部品など耐食性に対する要求が厳しい用途に適用される場合には、水溶性コバルト含有物質の含有量をコバルト換算で0.5g/L以上とすることが好ましく、耐食性に対する用途が特に厳しい場合には1.0g/L以上とすればよい。
(3)ピロガロール化合物
本発明に係る化成処理液は、その化成処理液により得られた化成皮膜から6価クロムが溶出することを抑制するために、ピロガロール化合物を有する。本発明において、「ピロガロール化合物」とは、ピロガロールおよび炭素数が3以下のアルキルピロガロールから選ばれる一種または二種以上の化合物を意味する。5−メチルピロガロールや5−エチルピロガロールのようなアルキルピロガロールも、アルキル基の炭素数が3以下であれば、ピロガロールと同等の性能を示す。
ピロガロール化合物は、化成処理液に水溶性コバルト含有物質が存在するときに特に優れた6価クロム溶出機能を発揮し、さらに、他のトリフェノール化合物、例えば没食子酸に比較して、化成処理液に対する溶解度が高く、しかも副生成物を形成しにくい。その上、得られた化成皮膜の外観が劣化しにくい。
水溶性コバルト含有物質が含まれる化成処理液にピロガロール化合物を含有させると、その化成処理液から得られた化成皮膜からの6価クロム溶出量が特に低減される理由は明らかでない。ピロガロール化合物は6価クロムに対して例えば還元剤として直接作用するのではなく、コバルトイオンに対して例えば配位するなどして、コバルトイオンと3価クロムとが作用して6価クロムが生成することを抑制している可能性がある。
化成処理液中のピロガロール化合物の濃度は0.05g/L以上3.0g/L以下とする。ピロガロール化合物の濃度を0.05g/L以上とすることで、後述するように、この化成処理液から得られた化成皮膜を80℃,100%RHの環境に72時間暴露したときの6価クロム濃度が、EN15205に準拠した分析方法で得られる濃度として0.050μg/cm未満とすることが安定的に実現される。ただし、3.0g/L超の場合には処理外観が黄色よりも濃くなって茶色っぽくなる上に、後述する濃厚液において未溶解分が発生しやすくなったりする。
また、処理外観を好適に保つ観点からは水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対するピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率(以下、この比を「Pr/Co比」という。)を10以下とする。Pr/Co比と処理外観との関係は定かではないが、Pr/Co比を過度に大きくすると、水溶性コバルト含有物質と相互作用しないピロガロール化合物が化成処理液または化成皮膜中に多くなり、これが外観の低下をもたらしているものと推測される。ピロガロール化合物による上記の6価クロム溶出抑制機能を安定的に得る観点から、Pr/Co比は0.015以上とすることが好ましい。
なお、副生成物の影響を安定的に抑制する観点からは、化成皮膜の形成面積が増加するにつれて、すなわち化成処理液の老化が進行するにつれて、化成処理液中のピロガロール化合物濃度を低下させることが好ましい。
このような水溶性コバルト含有物質を含有する化成処理液における溶出を耐食性や外観のバランスを保ちつつ抑制することができるのはピロガロール化合物のみであり、ピロガロール化合物と同様にトリフェノール構造を有する化合物であってもピロガロール化合物以外では耐食性と概観とを高度に両立させることはきわめて困難である。
例えばそのようなピロガロール化合物以外のトリフェノール構造を有する化合物の一つとして没食子酸を溶出抑制剤として用いると、溶出抑制剤としての濃度を同一、かつ水溶性コバルト含有物質のコバルト換算濃度を同一にしたときの6価クロム溶出量は没食子酸の方が多く、しかもその傾向は高温高湿環境への暴露時間が長くなれば長くなるほど顕著となる。その上、没食子酸を用いると外観の低下が顕著である。上記のPr/Co比と同様の比率として水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対する没食子酸の含有量の比率を0.5よりも低い値としなければ外観を維持することができない。このため、耐食性と外観とを両立させることは没食子酸では不可能である。
また、処理の安定性の観点からは、3価クロムのモル濃度/ピロガロール化合物のモル濃度が1〜200の範囲であることが好ましく、4〜50の範囲であれば特に好ましい。
(4)有機ホスホン酸化合物
本発明に係る化成処理液は、有機ホスホン酸化合物を含有してもよい。
ここで、「有機ホスホン酸化合物」とは、有機ホスホン酸ならびにそのイオンおよび塩からなる群から選ばれる一種以上からなる化合物を意味し、「有機ホスホン酸」とは、示性式がR−P(=O)(OH)である(Rは有機基)、ホスホン基に有機基が結合したものを意味する。
有機ホスホン酸として、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン1,2,4−トリカルボン酸、アミノ(トリメチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が例示される。
これらの有機ホスホン酸の塩として、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸4ナトリウム塩、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸3ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム塩、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7ナトリウム塩が例示される。これらの塩は化成処理液中ではナトリウムイオンが乖離している場合が多い。
上記の有機ホスホン酸化合物を含有する化成処理液は、高温多湿環境に保管されたときにも6価クロムの溶出を抑制することができ、しかも、耐食性と外観とに特に優れる化成皮膜を形成することが可能である。
有機ホスホン酸化合物は、ピロガロール化合物による6価クロム溶出量を低減させる能力を促進する機能、および水溶性コバルト含有物質による耐食性を向上させる機能のそれぞれを促進する機能を有する。本発明において、有機ホスホン酸化合物が有する前者の機能を「溶出抑制促進機能」、後者の機能を「耐食性向上促進機能」という。これらの機能のいずれかに着目することで、次のように、異なる組成の化成処理液が提供される。
(i)溶出抑制促進機能に着目した組成
有機ホスホン酸化合物の溶出抑制促進機能に着目することで、次の組成を有する化成処理液が提供される。すなわち、全処理液に対して、コバルト換算で1.0g/L以上3.0g/L以下の水溶性コバルト含有物質、ピロガロール換算で1.0g/L以下のピロガロール化合物、クロム換算で1.5g/L以上の水溶性3価クロム含有物質、およびピロガロール化合物のピロガロール換算含有量に対する含有量比率が10超、好ましくは15以上となるように有機ホスホン酸化合物を含有し、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対するピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率が0.1以上10以下である酸性の化成処理液である。以下、有機ホスホン酸化合物を含有させない上記の化成処理液を「化成処理液1」といい、有機ホスホン酸化合物の溶出抑制促進機能に着目したこの化成処理液を「化成処理液2」という。
かかる化成処理液2では、有機ホスホン酸化合物の溶出抑制促進機能に基づき、ピロガロール化合物の含有量を相対的に低下させている。ピロガロール化合物は、他のトリフェノール化合物、例えば没食子酸やタンニン酸に比べて、外観不良を起こしにくいものの、過度に含有されると、やはり外観不良をもたらす可能性が高まる。したがって、化成処理液におけるピロガロール化合物の含有量を可能な限り低下させることは、6価クロムの溶出を抑制しつつ、高い耐食性および優れた外観を高度に達成した化成皮膜を形成しうる化成処理液を得るという課題を達成するための手段のひとつである。また、化成処理液におけるピロガロール化合物の含有量が過度に高くなると、これを形成するための濃厚液(詳細は後述。)においてピロガロール化合物が析出しやすくなったり、化成処理液において不溶性の副生成物が形成されやすくなったりする。これらの観点からも、ピロガロール化合物の含有量は可能な限り少なくすることが好ましい。
具体的には、化成処理液2におけるピロガロール化合物の含有量は、ピロガロール換算で1.0g/L以下である。なお、Pr/Co比の下限が0.1であって水溶性コバルト含有物質のコバルト含有量の下限が1.0g/Lであるから、化成処理液2におけるピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の下限は0.1g/Lとなる。上記の有機ホスホン酸化合物を含有させない化成処理液1では、ピロガロール化合物のピロガロール換算含有量は0.05g/L以上3.0g/L以下であるから、化成処理液2におけるピロガロール化合物の最大含有量は化成処理液1におけるピロガロール化合物の最大含有量の1/3となっている。
化成処理液2における有機ホスホン酸化合物の含有量は、ピロガロール化合物のピロガロール換算含有量に対する含有量比率(以下、この比率を「OP/Pr比」という。)が10超、好ましくは15以上となるように設定される。OP/Pr比が10以下の場合には、有機ホスホン酸化合物の溶出抑制促進機能が安定的に発現されないときがあり、このとき、得られた化成皮膜における6価クロム溶出量が多くなってしまう。
このOP/Pr比を10超、好ましくは15以上とする場合には、水溶性コバルト含有物質がコバルト換算で1.0g/L以上3.0g/L以下であって、Pr/Co比が0.1〜10の範囲において、化成処理液2を部材の金属表面と接触させることによりその金属表面に形成された化成皮膜における、80℃,100%RHの環境に216時間暴露したときの6価クロム濃度が、EN15205に準拠した分析方法で得られる濃度として0.030μg/cm以下とすることが安定的に実現される。
このように、有機ホスホン酸化合物の溶出抑制促進機能に着目して調製された化成処理液2によれば、ピロガロール化合物含有量を化成処理液1よりも少なくしても、6価クロム溶出量をさらに低減することが実現される。
(ii)耐食性向上促進機能に着目した組成
有機ホスホン酸化合物の耐食性向上促進機能に着目することで、次の組成を有する化成処理液が提供される。すなわち、全処理液に対して、コバルト換算で0.1g/L以上1.0g/L未満の水溶性コバルト含有物質、ピロガロール換算で1.0g/L以下のピロガロール化合物、クロム換算で1.5g/L以上の水溶性3価クロム含有物質、および水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対する含有量比率が10超、好ましくは12.5以上となるように有機ホスホン酸化合物を含有し、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対する前記ピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率が0.1以上10以下である酸性の化成処理液である。以下、有機ホスホン酸化合物の耐食性向上促進機能に着目したこの化成処理液を「化成処理液3」という。
かかる化成処理液3では、有機ホスホン酸化合物の耐食性向上促進機能に基づき、水溶性コバルト含有物質の含有量を相対的に低下させている。上記のとおり、水溶性コバルト含有物質は、これを含有する化成処理液から形成された化成皮膜からの6価クロム溶出を促進する機能を有しているため、可能な限り少なくすることが好ましい。しかしながら、得られた化成皮膜の耐食性を向上させる優れた機能を有しているため、自動車部品など優れた耐食性が求められる部材に適用される化成皮膜のための化成処理液においては、水溶性コバルト含有物質を全く添加しないことは困難である。したがって、化成処理液における水溶性コバルト含有物質の含有量を可能な限り低下させつつ、耐食性を高める成分を配合することは、6価クロムの溶出を抑制しつつ、高い耐食性および優れた外観を高度に達成した化成皮膜を形成しうる化成処理液を得るという課題を達成するための手段の他のひとつである。また、水溶性コバルト含有物質の原料となる水溶性コバルト化合物は、化成処理液における材料の中では比較的高価である。したがって、この化合物の使用量を減らすことは化成処理液のコスト競争力を高めることになる。この観点からも、水溶性コバルト含有物質の含有量は可能な限り少なくすることが好ましい。
具体的には、化成処理液3における水溶性コバルト含有物質の含有量は、コバルト換算で0.1g/L以上1.0g/L未満である。上記の有機ホスホン酸化合物を含有させない化成処理液1では、コバルト換算で0.1g/L以上3.0g/L以下であるから、化成処理液3における水溶性コバルト含有物質の最大含有量は化成処理液1における水溶性コバルト含有物質の最大含有量の1/3未満となっている。なお、Pr/Co比の下限が0.1であって水溶性コバルト含有物質のコバルト含有量の下限が0.1g/Lであるから、化成処理液2におけるピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の下限は0.01g/Lとなる。
化成処理液3における有機ホスホン酸化合物の含有量は、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対する含有量比率(以下、この比率を「OP/Co比」という。)が10超、好ましくは12.5以上となるように設定される。OP/Co比が10以下の場合には、有機ホスホン酸化合物の耐食性向上促進機能が安定的に発現しないときがあり、このとき、水溶性コバルト含有物質を1.0g/L未満としたことに起因して、得られた化成皮膜における耐食性が低下してしまう。
このOP/Co比を10超、好ましくは12.5以上とする場合には、水溶性コバルト含有物質がコバルト換算で0.1g/L以上1.0g/L未満であって、Pr/Co比が0.1〜10の範囲において、化成処理液3を部材の金属表面と接触させることによりその金属表面に形成された化成皮膜における、80℃,100%RHの環境に216時間暴露したときの6価クロム濃度が、EN15205に準拠した分析方法で得られる濃度として0.030μg/cm以下とすることが安定的に実現される。さらに、化成処理液3から形成された化成皮膜が形成された部材についてJIS H 8502に準拠して192時間塩水噴霧試験を行ったときの部材表面に発生する白錆面積率が5%未満となることが安定的に実現される。
このように、有機ホスホン酸化合物の耐食性向上促進機能に着目して調製された化成処理液3によれば、水溶性コバルト含有物質の含有量を化成処理液1よりも少なくしても、耐食性を高めることが実現される。
(5)その他の成分
本発明に係る化成処理液は、上記の物質に加え、金属イオン、有機酸およびその陰イオン、無機酸およびその陰イオン、無機コロイド、シランカップリング剤、硫黄化合物、ならびにフッ素化合物からなる群から選ばれる一種または二種以上を含んでもよい。また、ワックスなどポリマー、腐食抑制剤、ジオール、トリオール、アミンなどの界面活性剤、可塑性分散、染料、顔料、金属色素生成剤などの色素生成剤、乾燥剤および分散剤からなる群から選ばれる一種または二種以上の材料をさらに含有していてもよい。
金属イオンとしては、Ni、Na、K、Ag、Au、Ru、Nb、Ta、Pt、Pd、Fe、Ca、Mg、Zr、Sc、Ti、Mn、Cu、Zn、Sn、Y、Nb、Mo、Hf、Ta、VおよびWのイオンが例示され、タングステン酸イオンのように酸素酸イオンの形で存在していてもよい。
有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸;トリカルバリル酸等のトリカルボン酸;グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸等のヒドロキシカルボン酸;およびグリシン、アラニン等のアミノカルボン酸が例示される。
無機酸としては、塩化水素酸、フッ化水素酸、臭化水素酸などのハロゲン化水素酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸(オルトリン酸)、ポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ウルトラリン酸、次亜リン酸、および過リン酸が例示され、特にハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸およびリン酸(オルトリン酸)からなる群から選ばれる一種または二種以上が陰イオンとして含有されることが好ましい。
これらの酸および/または酸イオンの化成処理液中濃度は、特に限定されない。一般的には、3価クロムおよび上記の金属イオンの合計モル濃度に対するこれらの合計モル濃度の比率として、0.1〜10であり、好ましくは、0.5〜3である。
無機コロイドとして、シリカゾル、アルミナゾル、チタンゾル、ジルコニアゾルが例示され、シランカップリング剤として、ビニルトリエトキシシランおよびγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。
硫黄化合物には、亜硫酸、その塩、重亜硫酸、およびその塩のほか、−SH(メルカプト基)、−S−(チオエーテル基)、>C=S(チオアルデヒド基、チオケトン基)、−COSH(チオカルボシル基)、−CSSH(ジチオカルボシル基)、−CSNH(チオアミド基)、−SCN(チオシアネート基、イソチオシアネート基)を含む有機物または無機物が例示され、具体的には、チオグリコール酸アンモン、チオグリコール酸、チオマレイン酸、チオアセトアミド、ジチオグリコール酸、ジチオグリコール酸アンモン、ジチオジグリコール酸アンモン、ジチオジグリコール酸、システィン、サッカリン、チアミン硝酸塩、N,N−ジエチル−ジチオカルバミン酸ソーダ、1,3−ジエチル−2−チオ尿素、ジピリジン、N−チアゾール−2−スルファミルアマイド、1,2,3−ベンゾトリアゾール、2−チアゾリン−2−チオール、チアゾール、チオ尿素、チオゾール、チオインドキシル酸ソーダ、o−スルホンアミド安息香酸、スルファニル酸、オレンジ−2、メチルオレンジ、ナフチオン酸、ナフタレン−α−スルホン酸、2−メルカプトベンゾチアゾール、1−ナフトール−4−スルホン酸、シェファー酸、サルファダイアジン、ロダンアンモン、ロダンカリ、ロダンソーダ、ロダニン、硫化アンモン、硫化ソーダ、硫酸アンモン、チオグリセリン、チオ酢酸、チオ酢酸カリウム、チオ二酢酸、3,3−チオジプロピオン酸、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびチオセミカルバジドが例示される。
(6)溶媒、pH
本発明に係る化成処理液の溶媒は水を主成分とする。水以外の溶媒としてアルコール、エーテル、ケトンなど水への溶解度が高い有機溶媒を、ピロガロール化合物の溶解度を高める観点から混在させてもよい。この場合には、化成処理液全体の安定性の観点から、その比率は全溶媒に対して10体積%以下とすることが好ましい。
また、化成処理液は化成処理を進行させる観点から酸性とされ、したがってpHは7未満とされる。このほか、化成処理液の安定性の確保の観点から、pHは1から3とすることが好ましく、1.5から2.5とすることがさらに好ましい。
2.化成処理液を調製するための濃厚組成物
上記の化成処理液の主要成分が5から20倍程度に濃縮された組成を有する水性の組成物(以下、「化成処理用濃厚液」という。)を用意すれば、各成分の含有量を個別に調製する手間が省ける上に、保管が容易であるから、好ましい。この化成処理用濃厚液を調製する場合には、上記の各成分の溶解度も考慮してその含有量に上限が設定される。
具体的には全組成物に対して、コバルト換算で0.5g/L以上60g/L以下の水溶性コバルト含有物質、ピロガロール換算で0.25g/L以上60g/L以下のピロガロール化合物、およびクロム換算で7.5g/L以上の水溶性3価クロム含有物質を含有し、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対するピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率が0.015以上10以下である組成物を準備すれば、所定の溶媒、通常は水を用いて5〜20倍の適切な倍率で希釈する工程を含む調製工程によって、上記の本発明に係る化成処理液1を容易に得ることが実現される。
また、全組成物に対して、コバルト換算で5g/L以上60g/L以下の水溶性コバルト含有物質、ピロガロール換算で20g/L以下のピロガロール化合物、クロム換算で7.5g/L以上の水溶性3価クロム含有物質、およびピロガロール化合物のピロガロール換算含有量に対する含有量比率が10超、好ましくは15以上となるように有機ホスホン酸化合物を含有し、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対するピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率が0.1以上10以下である組成物を準備すれば、所定の溶媒、通常は水を用いて5〜20倍の適切な倍率で希釈する工程を含む調製工程によって、上記の本発明に係る化成処理液2を容易に得ることが実現される。
さらに、全組成物に対して、コバルト換算で0.5g/L以上20g/L未満の水溶性コバルト含有物質、ピロガロール換算で20g/L以下のピロガロール化合物、クロム換算で7.5g/L以上の水溶性3価クロム含有物質、および水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対する含有量比率が10超、好ましくは12.5以上となるように有機ホスホン酸化合物を含有し、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対するピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率が0.1以上10以下である組成物を準備すれば、所定の溶媒、通常は水を用いて5〜20倍の適切な倍率で希釈する工程を含む調製工程によって、上記の本発明に係る化成処理液3を容易に得ることが実現される。
なお、水溶性コバルト含有物質については、化成処理用濃厚液におけるコバルト換算含有量を15g/L以上33g/L以下とすれば、適当な濃縮率を確保しつつ、化成処理用濃厚液を保管している間に水溶性コバルト含有物質の原料となる水溶性コバルト化合物が析出する可能性が特に少なくなるため、好ましい。
3.化成皮膜中の6価クロムの分析方法
本実施の形態に係る化成皮膜の単位表面積あたりの6価クロム濃度は、EN(European Norm)15205:2006に記載されるジフェニルカルバジッド比色法に基づく、次の分析方法によって求める。
化成皮膜の表面が50±5cmになるように被検部材を切断し、この切断後の部材をビーカーに入れる。このとき、EN15205:2006とは異なり、切断後の部材のあらかじめの加熱は行わず、室温のままとする。イオン交換カラムを通過させることや蒸留などによって1μS/cm未満にされた水55mLをこのビーカーに入れて、沸石は添加せず、ビーカー開口部をフィルムで覆った状態で加熱し、10分間煮沸する。煮沸後、ビーカーを空冷して室温にし、部材を取り出して50mLに定容する。この定容後の溶液に、75%オルソリン酸およびジフェニルカルバジッド溶液をそれぞれ1mL添加する。このジフェニルカルバジッド溶液は、1,5−ジフェニルカルバジッド1.0gを70mLアセトンに溶解し、これを100mLにメスアップすることで調製する。なお、このジフェニルカルバジッド溶液は冷暗所に保管し、調製後4週間以内のもののみを使用する。上記の添加後の液体は10分間静置され、その後、吸光度の測定を行う。一方、クロム酸カリウム0.113gを1000mLの水に溶解させた標準溶液を用意し、これに対して、上記の75%オルソリン酸およびジフェニルカルバジッド溶液をそれぞれ1mL添加し、10分間静置後吸光度を測定する。この標準溶液の吸光度に基づいて試験溶液の6価クロム濃度を算出し、その結果から被検部材の単位面積当たりの6価クロム濃度を求める。
ここで、上記の分析に供する化成皮膜を高温多湿の環境に所定期間暴露して、化成皮膜から6価クロムが溶出しやすい状態としてから分析する。高温多湿環境への暴露としては、具体的には、化成皮膜が形成された部材ごと、80℃で100%RHに保持された恒温槽に72時間保管する。このように6価クロムの形成がある程度促進された状態の化成皮膜を分析することで長期間にわたる溶出抑制の効果を確実に把握することが可能となる。なお、化成皮膜が形成された部材を含む製品は、東南アジアなどにおいて高温多湿環境に置かれる場合もあるため、このような高温多湿環境への暴露は、加速試験だけでなく、現実の使用環境の再現の側面をも有する。
本発明に係る溶出抑制物質を含む化成処理液による処理が施された部材に対して、上記の分析前処理としての高温多湿環境への暴露、具体的には80℃で100%RHの環境下に72時間保持を行い、その後上記の分析方法を行うと、単位表面積あたりの6価クロム濃度として0.050μg/cm未満を安定的に得ることが実現される。
さらに、保持時間を144時間とした場合にも、ピロガロール化合物の濃度を0.05g/L以上とすれば上記の分析による6価クロム濃度を0.050μg/cm未満とすることが安定的に実現される。
このように、ピロガロール化合物を用いることにより、苛酷な環境であっても、長期にわたって6価クロムの溶出を抑制することが実現される。
本発明に係る溶出抑制物質であるピロガロール化合物を含む化成処理液による処理を行わない、すなわち通常の化成処理液による処理を行って得られる化成皮膜における単位表面積あたりの6価クロム濃度は、上記の分析前処理および分析方法を行った結果として、典型的には0.10μg/cm以上であるから、本発明に係る化成処理により、通常の化成皮膜に比べて溶出量を1/2以下にすることが実現されることとなる。
なお、他の分析方法、例えばJIS H8625やいわゆるVOLVO法を用いた場合には、溶出処理が異なるため当然に6価クロム濃度として得られる数値は異なる。しかしながら、いずれの分析方法を用いても、本実施の形態に係る化成処理を施せば、施さない場合に比べて、6価クロム濃度を大幅に低減させることが実現される。
4.化成処理が行われる部材
本発明に係る化成処理は、3価クロムを含む化成処理液によるクロメート皮膜における6価クロムの溶出を抑制するためのものであるから、化成処理が行われる部材の素材は、このクロメート皮膜を形成できる金属表面を有する部材であれば特に制限されない。好ましい素材は金属であり、特に、亜鉛系のめっきが施された鋼板が特に好ましい。この亜鉛系めっきの組成は、純亜鉛でもよいし、例えばアルミニウムを含有する亜鉛合金でもよい。めっき方法は電気めっきでも溶融めっきでもよく、溶融めっきの場合には合金化処理がめっき後に施されてもよい。
なお、上記の部材を本発明に係る化成処理液により処理して化成皮膜を形成したあとに、さらに6価クロムの溶出を抑制するための処理液による後処理を行ったり、耐食性や耐疵付き性を高めるための仕上げ剤による処理を行ったりしてもよい。
以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1
公知の3価クロムを含む化成処理液に対して水溶性コバルト化合物の添加量およびピロガロール化合物の添加量を変化させたものを用いて化成処理を行い、その効果を評価した。
(1)試験部材の準備
まず、水溶性3価クロム化合物として塩化クロムをクロム換算含有量で2.6g/L、ならびに水溶性コバルト化合物としての硝酸コバルトおよび溶出抑制剤を表1に示されるように含有する化成処理液を、硝酸および水酸化ナトリウムを用いて、そのpHが2.0になるように調製した。なお、表1におけるコバルト換算含有量とは、配合した硝酸コバルトのコバルト換算含有量を意味するが、配合した硝酸コバルトは化成処理液に全て溶解しているので、化成処理液の水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に等しい。
続いて、常法に従って電気亜鉛めっきが施された鋼板(5cm×5cm×t1mm、表面積50cm)に対して公知のアルカリ脱脂洗浄を行い、水洗後、硝酸浸漬(67.5%硝酸3ml/L、液温は常温、浸漬時間10秒間)を行うことで表面を活性化させた。この試験部材をさらに常温で10秒間水洗した後、表1の組成を有する40℃に維持された化成処理液(pHはいずれも2.0)に40秒間浸漬させた。処理液から引き上げた試験部材を、水洗(常温、10秒間)後、80±10℃で10分間乾燥させた。
Figure 0004845064
(2)評価方法
乾燥後の試験部材または化成処理液もしくはその化成処理液の濃厚液について、以下の評価を行った。
A)6価クロム溶出量
まず、乾燥後の試験部材を、80℃で100%RHに維持した恒温槽に所定期間保管し、化成皮膜からの6価クロムの溶出を促進させた。続いて、前述のEN15205に基づく評価方法により、所定期間保管した試験部材上に形成された化成皮膜に含まれる6価クロムの濃度を測定した。
判定基準は次のとおりである:
A(優):保管時間144時間での6価クロム濃度が0.050μg/cm未満、
B(良):保管時間72時間での6価クロム濃度が0.050μg/cm未満、
C(不良):保管時間72時間での6価クロム濃度が0.050μg/cm以上。
B)耐食性
JIS H 8502に準拠して、塩水噴霧試験を行い、24時間ごとに目視で白錆の発生の有無を確認し、白錆が発生していた場合にはその白錆面積率を測定した。
判定基準は次のとおりである:
A(優):192時間後の観察における白錆面積率が5%未満、
B(良):192時間後の観察における白錆面積率が5%以上であるが、120時間後の観察における白錆面積率が5%以下、
C(不良):120時間後の観察における白錆面積率が5%超。
C)外観
乾燥後の試験部材の表面の色調を目視で観察し、次の判定基準で評価した:
A(優):青色〜白銀色、
B(良):薄黄色〜黄色、
C(不良):茶色〜紫黒色。
D)溶解性評価
上記の方法による化成処理液の調整過程での目視での観察結果に基づき、溶解性について次の判定基準で評価した:
A(良):溶出抑制剤は容易に溶解した、
B(不良):溶出抑制剤は容易には溶解しない。
なお、この評価は、上記の化成処理液の10倍濃縮液に相当する液体(濃厚液)を別途作成し、この濃厚液についても同様の目視での観察結果に基づく溶解性の評価を行った。
(3)評価結果
評価結果を表2に示す。また、試験番号1−1から1−12の結果を図1として示した。
図1における「◎」は6価クロム溶出量、耐食性および外観のいずれについても「優」であった結果を示しており、「○」は6価クロム溶出量および耐食性については「優」であったが外観については「良」であった結果を示している。また、「×」は6価クロム溶出量および耐食性については「優」または「良」であったが外観については「不良」であった結果を示しており、「*」は耐食性及び外観の双方について「不良」であった結果を示している。試験番号1−1、1−2および1−4〜1−10については、溶出量、耐食性、外観のいずれも「良」または「優」となった。
また、図1における点線は、それぞれ、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量が3.0g/L、ピロガロール化合物のピロガロール換算含有量が0.05g/Lおよび3.0g/L、ならびにP/C比が10を示している。これらの点線および水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量が1.0g/L(図1中y軸)に囲まれる領域に水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量およびピロガロール化合物のピロガロール換算含有量があるとき、溶出量、耐食性および外観のいずれの評価においても良好な結果が得られることが本実施例により確認された。
なお、溶解性評価に関し、没食子酸を溶出抑制剤とする濃厚液では、調整後にも不溶分が残留するものがあった。
Figure 0004845064
実施例2
公知の3価クロムを含む化成処理液に対して、水溶性コバルト化合物の添加量を1.0〜3.0g/Lの範囲で変化させるとともに、ピロガロール化合物および有機ホスホン酸化合物の添加量を変化させたものを用いて化成処理を行い、その効果を評価した。
(1)試験部材の準備
まず、水溶性3価クロム化合物として塩化クロムをクロム換算含有量で2.0g/L、ならびに水溶性コバルト化合物としての硝酸コバルト、溶出抑制剤としてのピロガロール、および有機ホスホン酸化合物としての1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸を表3に示されるように含有する化成処理液を、硝酸および水酸化ナトリウムを用いて、そのpHが2.0になるように調製した。なお、表3におけるコバルト換算含有量とは、配合した硝酸コバルトのコバルト換算含有量を意味するが、配合した硝酸コバルトは化成処理液に全て溶解しているので、化成処理液の水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に等しい。
続いて、常法に従って電気亜鉛めっきが施された鋼板(5cm×5cm×t1mm、表面積50cm)に対して公知のアルカリ脱脂洗浄を行い、水洗後、硝酸浸漬(67.5%硝酸3ml/L、液温は常温、浸漬時間10秒間)を行うことで表面を活性化させた。この試験部材をさらに常温で10秒間水洗した後、表3の組成を有する40℃に維持された化成処理液(pHはいずれも2.0)に40秒間浸漬させた。処理液から引き上げた試験部材を、水洗(常温、10秒間)後、80±10℃で10分間乾燥させた。
Figure 0004845064
(2)評価方法
乾燥後の試験部材について、以下の評価を行った。
A)耐食性
JIS H 8502に準拠して、塩水噴霧試験を行い、24時間ごとに目視で白錆の発生の有無を確認し、白錆が発生していた場合にはその白錆面積率を測定した。
判定基準は次のとおりである:
A:192時間後の観察における白錆面積率が5%未満、
B:192時間後の観察における白錆面積率が5%以上であるが、120時間後の観察までは白錆の発生が実質的に認められない、
C:120時間後の観察において白錆が実質的に発生していることが認められるが、その白錆面積率は5%以下、
D:120時間後の観察における白錆面積率が5%超。
なお、白錆面積率が1%程度であれば、その白錆は偶発的なものであり、その試験部材の特性としては白錆を発生させないと判断されるべきであるから、そのような場合には、「白錆の発生が実質的に認められない」と判断した。
B)6価クロム溶出量
まず、乾燥後の試験部材を、80℃で100%RHに維持した恒温槽に所定期間保管し、化成皮膜からの6価クロムの溶出を促進させた。続いて、前述のEN15205に基づく評価方法により、所定期間保管した試験部材上に形成された化成皮膜に含まれる6価クロムの濃度を測定した。
判定基準は次のとおりである:
A:保管時間216時間での6価クロム濃度が0.030μg/cm未満、
B:保管時間216時間での6価クロム濃度が0.030μg/cm以上。
C)外観
乾燥後の試験部材の表面の色調を目視で観察し、次の判定基準で評価した:
A(優):青色〜白銀色、
B(良):薄黄色〜黄色、
C(不良):茶色〜紫黒色。
(3)評価結果
評価結果を表3に示した。これらの結果はいずれも、実施例1における評価基準では「良」または「優」と判定される結果であるが、2−1および2−2ならびに2−13、2−14および2−19では216時間での6価クロム溶出量が0.030μg/cm以上となり、上記の実施例2の評価基準では「B」にランクされた。具体的には、2−1および2−2ではOP/Pr比が10以下であることから有機ホスホン酸化合物による溶出抑制促進機能がやや乏しかった。2−13、2−14および2−19ではPr/Co比が0.05以下であるため、ピロガロール化合物の6価クロム溶出抑制機能がやや乏しかった。
実施例3
公知の3価クロムを含む化成処理液に対して、水溶性コバルト化合物の添加量を0.10〜0.50g/Lの範囲で変化させるとともに、ピロガロール化合物および有機ホスホン酸化合物の添加量を変化させたものを用いて化成処理を行い、その効果を評価した。
(1)試験部材の準備
まず、水溶性3価クロム化合物として塩化クロムをクロム換算含有量で2.0g/L、ならびに水溶性コバルト化合物としての硝酸コバルト、溶出抑制剤としてのピロガロール、および有機ホスホン酸化合物としての1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸を表4に示されるように含有する化成処理液を、硝酸および水酸化ナトリウムを用いて、そのpHが2.0になるように調製した。なお、表4におけるコバルト換算含有量とは、配合した硝酸コバルトのコバルト換算含有量を意味するが、配合した硝酸コバルトは化成処理液に全て溶解しているので、化成処理液の水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に等しい。
続いて、常法に従って電気亜鉛めっきが施された鋼板(5cm×5cm×t1mm、表面積50cm)に対して公知のアルカリ脱脂洗浄を行い、水洗後、硝酸浸漬(67.5%硝酸3ml/L、液温は常温、浸漬時間10秒間)を行うことで表面を活性化させた。この試験部材をさらに常温で10秒間水洗した後、表3の組成を有する40℃に維持された化成処理液(pHはいずれも2.0)に40秒間浸漬させた。処理液から引き上げた試験部材を、水洗(常温、10秒間)後、80±10℃で10分間乾燥させた。
Figure 0004845064
(2)評価方法
乾燥後の試験部材について、以下の評価を行った。
A)耐食性
JIS H 8502に準拠して、塩水噴霧試験を行い、24時間ごとに目視で白錆の発生の有無を確認し、白錆が発生していた場合にはその白錆面積率を測定した。
判定基準は次のとおりである:
A:192時間後の観察における白錆面積率が5%未満、
B:192時間後の観察における白錆面積率が5%以上であるが、120時間後の観察までは白錆の発生が実質的に認められない、
C:120時間後の観察において白錆が実質的に発生していることが認められるが、その白錆面積率は5%以下、
D:120時間後の観察における白錆面積率が5%超。
なお、白錆面積率が1%程度であれば、その白錆は偶発的なものであり、その試験部材の特性としては白錆を発生させないと判断されるべきであるから、そのような場合には、「白錆の発生が実質的に認められない」と判断した。
B)6価クロム溶出量
まず、乾燥後の試験部材を、80℃で100%RHに維持した恒温槽に所定期間保管し、化成皮膜からの6価クロムの溶出を促進させた。続いて、前述のEN15205に基づく評価方法により、所定期間保管した試験部材上に形成された化成皮膜に含まれる6価クロムの濃度を測定した。
判定基準は次のとおりである:
A:保管時間216時間での6価クロム濃度が0.030μg/cm未満、
B:保管時間216時間での6価クロム濃度が0.030μg/cm以上。
C)外観
乾燥後の試験部材の表面の色調を目視で観察し、次の判定基準で評価した:
A(優):青色〜白銀色、
B(良):薄黄色〜黄色、
C(不良):茶色〜紫黒色。
(3)評価結果
評価結果を表4に示した。3−19以外の結果は、実施例1における評価基準では「良」または「優」と判定される結果であるが、3−1から3−4および3−10では、塩水噴霧試験を120時間行った後の観察で白錆の発生が実質的に認められ、上記の実施例2の評価基準では「C」にランクされた。これは、OP/Co比が10以下であることから有機ホスホン酸化合物による耐食性向上促進機能がやや乏しかったためと考えられる。
なお、3−17および3−18に示されるように、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量が0.40g/L以上となると、有機ホスホン酸化合物を含有しなくとも、塩水噴霧試験を120時間実施した後においても白錆が実質的に発生しない程度の耐食性が確保される。この結果から、有機ホスホン酸化合物を含有させる場合には、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量を0.40g/L未満とすることで、有機ホスホン酸化合物を配合したことの利益が効率的に享受されることが理解される。
また、上記の実験では、3−1における耐食性の判定は「D」となった。このように、有機ホスホン酸化合物を含有させない化成処理液において水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量が少ない場合には、得られた化成皮膜の耐食性が安定せず、短時間で白錆が発生してしまう場合もある。このため、前述のように、有機ホスホン酸化合物を含有させない化成処理液では、通常、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量を0.30g/L程度として、部材の耐食性が低くなってしまう可能性を少なくしている。しかしながら本実施例において示したように、有機ホスホン酸化合物を適切な含有量で配合することにより、水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量が0.10g/L程度と低い場合でも、高い耐食性を有する化成皮膜を安定的に得ることが実現される。

Claims (3)

  1. 全組成物に対して、
    コバルト換算で0.1g/L以上3.0g/L以下の水溶性コバルト含有物質、
    ピロガロール換算で0.05g/L以上3.0g/L以下のピロガロール化合物、および
    クロム換算で1.5g/L以上の水溶性3価クロム含有物質を含有し、
    前記水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対する前記ピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率が0.015以上10以下である酸性組成物であって、
    当該組成物を部材の金属表面と接触させることにより当該金属表面に形成された化成皮膜における、80℃,100%RHの環境に72時間暴露したときの6価クロム濃度が、EN15205に準拠した分析方法で得られる濃度として0.050μg/cm未満であること
    を特徴とする化成処理のための組成物。
  2. 請求項1に記載される化成処理のための組成物に部材の金属表面を接触させることを特徴とする化成皮膜をその表面に備える部材の製造方法。
  3. 部材の金属表面への化成処理用組成物を製造するための液状組成物であって、全組成物に対して、
    コバルト換算で0.5g/L以上60g/L以下の水溶性コバルト含有物質、
    ピロガロール換算で0.25g/L以上60g/L以下のピロガロール化合物、および
    クロム換算で7.5g/L以上の水溶性3価クロム含有物質を含有し、
    前記水溶性コバルト含有物質のコバルト換算含有量に対する前記ピロガロール化合物のピロガロール換算含有量の比率が0.015以上10以下であること
    を特徴とする組成物。
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