JP4843862B2 - 弾性表面波装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願発明は、弾性表面波装置に関し、詳しくは、反射器を備えた弾性表面波装置の群遅延時間偏差特性を改善するための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話などの移動体通信機器においては、同じ周波数帯域で多くのチャンネルを多重化でき、かつ秘匿性に優れたCDMA方式(符号分割多重方式)が着目(注目)されている。一方、従来より、携帯電話などの移動体通信機器の帯域通過フィルタとして、弾性表面波フィルタが広く使用されている。
【0003】
ところで、上記のCDMA方式では、各チャンネルの送信信号を各チャンネル固有の拡散符号でもって拡散処理するため、1チャンネル当たりの占有帯域幅が大きくなる。したがって、このような通信分野の帯域通過フィルタとして弾性表面波フィルタを適用するためには、通過帯域が広く、群遅延時間偏差が小さくかつ平坦で、しかも通過帯域の左右端(両端)近傍では大きな減衰量を示す信号選択度に優れたフィルタ特性を備えていることが必要となる。
【0004】
また、当然のことながら、携帯電話などの移動体通信機器においては、携帯性のために小型化が望まれている。したがって、弾性表面波フィルタとしても、信号選択度に優れたフィルタ特性をもち、かつ、小型のものが必要となる。
【0005】
ところで、従来の弾性表面波フィルタには、例えば、圧電基板上に入力側のインタデジタルトランスジューサ(以下、入力IDTという)と、出力側のインタデジタルトランスジューサ(以下、出力IDTという)とを所定の間隔をおいて対向配置した構成のものがある。そして、入力IDTと出力IDTは、一般に、弾性表面波の伝搬方向に対して直交配置された多数の電極指を互いに間挿し合うように配設したくし歯状電極から形成されている。
【0006】
このような従来構成の弾性表面波フィルタにおいては、入力IDTあるいは出力IDTの各電極指の長さを一定の規則で異ならせるなどして重み付けをすれば、通過帯域の左右端(両端)で大きな減衰量を示す急峻なフィルタ特性を得ることが可能である。しかし、入力IDTあるいは出力IDTを重み付けするためには、極めて多くの電極指数が必要となり、その結果、弾性表面波の伝搬方向の長さが長くなり、十分な小型化を図ることができなくなる。
【0007】
そこで、弾性表面波の伝搬方向の長さを短くしてフィルタ全体の小型化を図るとともに、急峻なフィルタ特性を得るために、例えば、次のような弾性表面波フィルタが提案されている。
【0008】
特開平11−186865号公報(以下、従来技術1という)には、圧電基板上に互いに平行する上下2つのトラックを並設し、各トラックにそれぞれ入力IDT、出力IDT、及び複数の電極指からなるグレーティング構造の反射器を配置し、上下の入力IDT同士、及び上下の出力IDT同士を並列接続した構成を有する弾性表面波フィルタが開示されている。
【0009】
この従来技術1の弾性表面波フィルタにおいては、上下の入力IDTで発生した弾性表面波を各々の反射器で反射して上下の出力IDTで受信して取り出すことにより、各IDTの電極指数が増加するのを抑えるとともに、通過帯域近傍において急峻な減衰特性を得るようにしている。
【0010】
また、特開2000−124762号公報(以下、従来技術2という)には、弾性表面波の伝搬路を結合する結合器を挟んで、一方側に入力IDTと出力IDTとを上下に並設し、また、結合器の他方側に2つの反射器を上下に並設して構成された弾性表面波フィルタが開示されている。なお、この弾性表面波フィルタにおいても、複数の電極指からなるグレーティング構造を有する反射器が用いられている。
【0011】
この従来技術2の弾性表面波フィルタでは、結合器を最適化することにより、入力IDTから出射された弾性表面波を結合器を介して2つの反射器で共に反射し、その反射した弾性表面波を再び結合器を介して出力IDTに到達させており、各IDTの電極指数が増加することを抑えるとともに、通過帯域近傍において急峻な減衰特性が得られるようにしている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来技術1,2のいずれの弾性表面波フィルタにおいても、反射器を構成する各電極指は、図7に示すように、弾性表面波の伝搬方向に沿って等しい配列ピッチProで形成されており、いわゆる正規型のグレーティング構造となっているため、通過帯域の左右端(両端)において急峻な減衰特性を得ることができても、信号の通過帯域内で群遅延時間偏差が小さい平坦なフィルタ特性を確保することは必ずしも十分にはできていないのが実情である。
【0013】
すなわち、正規型の反射器において、弾性表面波の音速をV、各電極指の配列ピッチをPro、反射帯域の中心周波数をfoとすると、次の関係がある。
fo=V/(2・Pro)
【0014】
ここで、従来の正規型の反射器においては、反射帯域の中心周波数foでは、ブラッグ反射の効果が最も大きくなるため、各電極指の部分的な反射波を合成して求まる等価的な反射位置は、反射器の入出射端に近付き、その結果、反射器内での等価的な弾性表面波の伝搬時間が短くなる。これに対して、中心周波数foから外れた反射帯域端の周波数では、ブラッグ反射の効果が小さくなり、その結果、等価的な反射位置は、反射器の入出射端から遠ざかるために、弾性表面波の伝搬時間が長くなる。
【0015】
したがって、電極指が等しい配列ピッチで形成された従来の正規型の反射器においては、図8(a)に示すように、反射帯域の中心周波数fo近傍で反射係数の群遅延時間が短く、これから外れた反射帯域端では反射係数の群遅延時間が長くなり、反射係数の群遅延時間特性は凹型になる。
【0016】
このような反射器を用いて弾性表面波を1回以上折り返す構造の弾性表面波フィルタを構成した場合には、反射係数の群遅延時間特性の影響を受けて、フィルタを通過する信号の群遅延時間特性も、図8(b)に示すように凹型になり、群遅延時間偏差が小さい平坦なフィルタ特性を確保することができなくなるという問題点がある。
【0017】
一方、反射器の反射帯域が弾性表面波フィルタの信号通過帯域に対して十分に広い場合には、反射係数の群遅延時間特性は、弾性表面波フィルタの通過帯域全体では比較的平坦なものになる。しかし、入力IDTあるいは出力IDTにおいては、電気音響変換の群遅延時間特性が凹型になっていることがあり、その場合には、フィルタを通過する信号の群遅延時間特性も図8(b)に示すように凹型になり、この場合も同様に、群遅延時間偏差が小さい平坦なフィルタ特性を確保することができないという問題点がある。
【0018】
つまり、従来の正規型の反射器においては、その反射係数の群遅延時間特性は、フィルタの通過帯域において凹型〜平坦な特性を示すので、フィルタを通過した信号の群遅延時間特性を平坦にするためには、入力IDTあるいは出力IDTの電気音響変換の群遅延時間特性を平坦〜凸型にする必要があり、フィルタの設計上、大きな制約を受けるという問題点がある。
【0019】
本願発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、通過帯域が広く、群遅延時間偏差が小さくかつ平坦で、しかも通過帯域の左右端(両端)近傍では大きな減衰量を示す、信号選択度に優れ、しかも、設計の自由度の大きい弾性表面波装置を提供することを課題とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するための具体的な手段について説明するにあたって、まず、課題解決のための基本的な考え方及び原理について説明する。
【0021】
前述のごとく、各電極指が等しい配列ピッチProで形成された正規型のグレーティング構造を有する反射器においては、反射帯域の中心周波数fo近傍で群遅延時間が短く、これから外れた高周波側あるいは低周波側の反射帯域端では群遅延時間が長くなるため、反射係数の群遅延時間特性が凹型になってしまい、信号の通過帯域で群遅延時間偏差が小さくかつ平坦なフィルタ特性を確保することが困難になる。
【0022】
これに対し、弾性表面波装置の通過帯域端よりも通過帯域中央側の反射係数の群遅延時間が長くなるように反射器を予め設定して、反射係数の群遅延時間特性が凸型になるようにすれば、弾性表面波装置全体の群遅延時間偏差を低減することが可能になる。
【0023】
そして、このような反射器を構成するためには、各電極指の部分的な反射波を合成して求まる等価的な反射位置を、通過帯域の中央側では反射器の弾性表面波の入出射端から遠ざけ、通過帯域端側では入出射端に近付けるようにすればよい。
【0024】
さらに、そのためには、反射器を構成する各電極指を、従来のように等しい配列ピッチProを有する正規型にするのではなく、通過帯域の中央から両端までの周波数の違いに応じて適切な配列ピッチとなるように、配列ピッチを変化させればよい。
【0025】
ところで、「弾性表面波素子技術ハンドブック」(日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会編)によれば、次の関係が示されている。
【0026】
いま、弾性表面波の音速をV、反射器の反射帯域における中心周波数をfo、中心周波数foに対応する配列ピッチをProとすると、
fo=V/(2・Pro) (1)
となる。
【0027】
また、正規型の反射器の電極指の1本当たりの反射係数をγ、反射帯域をΔfrとすると、これはストップバンドに対応するので、
Δfr≒2|γ|/π・fo (2)
となる。
【0028】
反射器を用いた弾性表面波装置では、IDTの電気音響変換の帯域(つまり、信号の通過帯域)が反射器の反射帯域Δfr内に含まれるように設定する必要がある。IDTの電気音響変換帯域の中心周波数をfi、IDTの各電極指の各配列ピッチをPiとすると、
fi=V/(2・Pi) (3)
で与えられるので、配列ピッチProは、以下の範囲に設定することが必要になる。
(1−|γ|/π)・Pi<Pro<(1+|γ|/π)・Pi (4)
【0029】
また、反射係数の群遅延時間特性を予め凸型にするためには、周波数に応じて配列ピッチを変更し、通過帯域の中央よりも上側(高周波側)では配列ピッチを短くし、また、通過帯域の中央よりも下側(低周波側)では配列ピッチを長くすることが必要になる。
すなわち、通過帯域上端に対応する配列ピッチをPr1、通過帯域下端に対応する配列ピッチをPr2としたときに、
Pr1<Pro<Pr2 (5)
の条件を満たすことが必要になる。
【0030】
なお、通過帯域の中央から高周波側あるいは低周波側の群遅延時間偏差が特に問題とされる場合には、通過帯域の上端又は下端の周波数に対応する配列ピッチをPr1として、上記(5)の条件の代わりに、
Pr1<Pro、又はPr1>Pro (6)
の条件を満たすようにすればよい。
【0031】
また、IDT内の弾性表面波の音速Viと反射器内での弾性表面波の音速Vrとが異なる場合には、
Pro’=Pro・(Vr/Vi) (7)
として、式(4)のProをPro’に置き換えればよい。
【0032】
本願発明は、上記の観点からなされたものであり、本願発明(請求項1)の弾性表面波装置は、
圧電基板上に、入力側と出力側の各IDTとともに、少なくとも一方のIDTに隣接して反射器が配設されている弾性表面波装置において、
前記反射器を構成する電極指における弾性表面波装置の通過帯域中央に対応する配列ピッチをPro、通過帯域上端に対応する配列ピッチをPr1、通過帯域下端に対応する配列ピッチをPr2とし、また、電極指の反射係数をγ、前記IDTを構成する電極指の配列ピッチをPiとしたときに、前記反射器は、次の[1],[2]の条件:
[1] (1−|γ|/π)・Pi<Pro<(1+|γ|/π)・Pi
[2] Pr1<Pro<Pr2
を共に満たし、かつその電極指が前記IDTの電極指と平行となるように形成され、さらに、前記Pr1及びPr2の形成領域が共にProの形成領域よりも弾性表面波の入出射端に近い位置に配設されていることを特徴としている。
【0033】
反射器が、上記[1],[2]の条件を共に満たし、かつ、前記Pr1及びPr2の形成領域が共にProの形成領域よりも弾性表面波の入出射端に近い位置に配設されていることにより、通過帯域の上端及び下端の双方において反射係数の群遅延時間の偏差が大きい場合に、この偏差を小さくして、通過帯域の広い範囲で群遅延時間偏差特性を平坦化することが可能になる。しかも、反射器の特性を変更するだけで対応することができるため、装置全体としての設計の自由度を確保することができる。
【0034】
また、請求項2記載の弾性表面波装置は、請求項1記載の発明の構成において、前記反射器の配列ピッチが、Pr1〜Pro〜Pr2の範囲で連続的に変化していることを特徴としている。
【0035】
反射器の配列ピッチを、Pr1〜Pro〜Pr2の範囲で連続的に変化させることにより、反射器で反射される弾性表面波の周波数分布に応じて、適切な群遅延時間を細かく設定することができる。
【0036】
また、請求項3記載の弾性表面波装置は、請求項1または2記載の発明の構成において、圧電基板上に弾性表面波の伝搬路を結合する結合器が設けられ、この結合器を挟んで、一方側に前記入力側と出力側の各IDTが並設され、また、結合器の他方側に前記反射器が並設されていることを特徴としている。
【0037】
上述のように構成された弾性表面波装置においても、通過帯域が広く、群遅延時間偏差が小さくかつ平坦で、また、通過帯域の左右端(両端)近傍では大きな減衰量を示す信号選択度に優れたフィルタ特性が得られ、しかも、小型化が可能となる。
【0038】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0039】
[実施形態1]
図1は本願発明の一実施形態(実施形態1)に係る弾性表面波装置(弾性表面波フィルタ)の構成を示す図である。
この実施形態1の弾性表面波フィルタにおいては、圧電基板1上に互いに平行する上下2つのトラック2a,2bが並設されており、各トラック2a,2bにそれぞれ入力IDT3a,3b、出力IDT4a,4b、及び反射器5a,5bが順次配置されている。そして、上下の入力IDT3a,3b同士、及び上下の出力IDT4a,4b同士が直列接続されている。
【0040】
この場合の圧電基板1としては、例えば、水晶、四硼酸リチウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ランガサイト基板などの単結晶基板や、酸化亜鉛、五酸化タンタル、窒化アルミニウムなどの薄膜を基板上に形成した薄膜圧電基板などを用いることが可能である。
【0041】
また、入力IDT3a,3b、出力IDT4a,4b及び反射器5a,5bは、いずれも圧電基板1上に金属膜(Cu,Alなど)からなるストリップライン状の電極パターンを形成することにより構成されている。入力IDT3a,3bと出力IDT4a,4bとは、共に弾性表面波の伝搬方向に対して直交配置された2本1組のダブルストッリップ形の電極指を互いに間挿し合うように配設してなるくし歯状電極から形成されており、2本1組の各電極指は、いずれも等しい配列ピッチPiとなるように設定されている。
【0042】
一方、反射器5a,5bは、グレーティング構造を有する複数の電極指から形成されている。但し、各反射器5a,5bは、従来のように電極指が等しい配列ピッチProを有する正規型のものではなく、電極指の配列ピッチPrを変化させた構造を有している。
【0043】
すなわち、この実施形態1の弾性表面波フィルタにおいては、前述の式(4),式(5)の条件:すなわち、
(1−|γ|/π)・Pi<Pro<(1+|γ|/π)・Pi (4)
Pr1<Pro<Pr2 (5)
の条件が共に満たされるように各反射器5a,5bが構成されている。特に、この実施形態1においては、各反射器5a,5bの配列ピッチは、図2に示すように、入出射端(図1中の左端)から弾性表面波の伝搬方向に沿って連続的に変化するように設定されている。
なお、図2において、横軸は反射器5a,5bの入出射端からの各位置を電極指の本数で示し、また、縦軸は、反射器5a,5bの配列ピッチPrをIDT3a,3b,4a,4bの配列ピッチPiで割ることにより正規化して示している。
【0044】
すなわち、この実施形態1の弾性表面波フィルタにおいては、各反射器5a,5bの左端と右端に位置する電極指の配列ピッチPr2が中心周波数foに対応する配列ピッチProよりも大きく(Pro<Pr2)、また、反射器5a,5bの中央に位置する電極指の配列ピッチPr1が中心周波数foに対応する配列ピッチProよりも小さく(Pr1<Pro)なるように、配列ピッチを連続的に変化させており、配列ピッチの変化は図2に示すように、V字状になっている。
【0045】
これにより、通過帯域中央の中心周波数foよりも高い周波数の弾性表面波に対しては、配列ピッチが小さい電極指のブラッグ反射の効果が大きくなる。同様に、通過帯域中央の周波数foよりも低い周波数の弾性表面波に対しては、配列ピッチの大きい電極指のブラッグ反射の効果が大きくなる。
【0046】
このため、各電極指の部分的な反射波を合成して求まる等価的な反射位置は、通過帯域の中央側では反射器の弾性表面波の入出射端から遠ざかり、通過帯域の両端側では入出射端に近付くことになる。
その結果、反射器5a,5bにおける弾性表面波装置の通過帯域の両端側よりも通過帯域中央側の反射係数の群遅延時間が長くなり、反射器の反射係数の群遅延時間特性が凸型になる。
【0047】
このように、この実施形態1の弾性表面波フィルタにおいては、反射器5a,5bにおける反射係数の群遅延時間特性が凸型に設定されているので、反射器5a,5bへの入力前、もしくは、反射器5a,5bからの出力後に弾性表面波が群遅延時間偏差を生じる場合にも、群遅延時間偏差が小さくなるように補正され、弾性表面波フィルタ全体の群遅延時間偏差が低減される。
【0048】
しかも、この実施形態1の構成では、上下のトラック2a,2bそれぞれにおいて、入力IDT3a,3bで同時に発生した弾性表面波を、各反射器5a,5bで反射し、出力IDT4a,4bで受信して取り出すことにより、各IDT3a,3b,4a,4bの電極指数の増加を抑えることが可能になるとともに、通過帯域近傍において急峻な減衰特性を得ることが可能になる。したがって、信号選択度に優れたフィルタ特性を得ることができる。
【0049】
[実施形態2]
図3は本願発明の他の実施形態(実施形態2)に係る弾性表面波フィルタ(弾性表面波装置)の構成を示す図である。
この実施形態2の弾性表面波フィルタは、圧電基板1上に、弾性表面波の伝搬路を結合する結合器6が設けられるとともに、この結合器6を挟んで、一方側(図中左側)に入力IDT3と出力IDT4とが上下に並設され、かつ、結合器6の他方側(図中右側)に2つの反射器5a,5bが上下に並設された構造を有している。
【0050】
上記の結合器6は、弾性表面波の伝搬方向に対して直交する多数の電極を所定ピッチで配列することにより形成されている。また、入力IDT3と出力IDT4は、実施形態1の場合と同様、弾性表面波の伝搬方向に対して直交配置された2本1組のダブルストリップ形の電極指が互いに間挿し合うように配設されたくし歯状電極から形成されている。また、反射器5a,5bについても、実施形態1の場合と同様、グレーティング構造を有する複数の電極指から形成されており、その電極指の配列ピッチは、前述の式(4),式(5)の条件を満たすとともに、図2に示すように、入出射端から弾性表面波の伝搬方向に沿ってV字状に連続的に変化するように設定されている。
【0051】
したがって、この実施形態2の弾性表面波フィルタにおいても、反射器5a,5bにおける弾性表面波装置の通過帯域の両端側よりも、通過帯域の中央側の反射係数の群遅延時間が長くなり、反射器の反射係数の群遅延時間特性は凸型になる。したがって、弾性表面波フィルタ全体の群遅延時間偏差を低減することができる。
【0052】
しかも、この実施形態2の弾性表面波フィルタにおいては、結合器6を最適化することにより、入力IDT3から出射された弾性表面波が結合器6を介して上下の反射器5a,5bで共に反射され、反射した弾性表面波は再び結合器6を介して出力IDT4に全て到達し、入力IDT3には戻らないようにすることが可能になるため、各IDT3,4の電極指数の増加が抑制されるとともに、通過帯域近傍において急峻な減衰特性となる。したがって、信号選択度に優れたフィルタ特性を得ることができる。
【0053】
なお、上記の実施形態1,2に対して、次のような変形例や応用例を考えることができる。
各反射器の電極指の配列ピッチは、図2に示すようにV字状に変化させる場合に限らず、例えば、図4に示すように、通過帯域内の周波数に適合するように、種々の態様に変化させることが可能である。
【0054】
すなわち、図4(a)では、配列ピッチを入出射端の位置から伝搬方向に沿って順にPr2→Pr1→Proと段階的に変化させている。また、同図(b)では、配列ピッチを入出射端の位置から伝搬方向に沿って順にPr1→Pr2→Proと段階的に変化させている。また、同図(c)では、配列ピッチを入出射端の位置から伝搬方向に沿ってPr2→Pro→Pr2→Proと連続的に変化させている。さらに、同図(d)に示すように配列ピッチの変化が途中で途切れたような形状にすることも可能である。
【0055】
また、実施形態1,2では、前述の式(4),式(5)の条件が共に満たされるように各反射器5a,5bを構成したが、反射帯域の中央から高周波側あるいは低周波側の群遅延時間偏差が特に問題となる場合には、前述の式(4),式(6)の条件が共に満たされるように反射器5a,5bを構成することも可能である。
【0056】
例えば、図4(e)では、配列ピッチを入出射端の位置から伝搬方向に沿って順にPr1→Proと連続的に変化させている。同図(f)では配列ピッチを入出射端の位置から伝搬方向に沿って順にPr2→Proと連続的に変化させている。なお、同図(e),(f)では連続的に変化させているが、段階的に変化させることも可能である。
【0057】
また、上記の実施形態1,2の弾性表面波フィルタ(弾性表面波装置)においては、出力IDT4a,4b,4の一方の側(右側)にのみ反射器5a,5bを設けているが、入力IDT3a,3b,3の左側にさらに反射器を設けた構成とすることも可能である。
【0058】
さらにまた、実施形態1,2の弾性表面波フィルタにおいては、反射器5a,5bとして、2本一組の電極指を備えてなるものを用いているが、これに限らず、例えば、1本ずつの電極指を弾性表面波の伝搬方向に対して直交するように配置した構成、あるいは3本以上を1組として配置した構成、それらを組み合わせた構成など、種々の構成のものを用いることが可能である。しかも、入力IDT3a,3b,3と出力IDT4a,4b,4の少なくともどちらか一方の電極指に対して重み付けをすることも可能である。
【0059】
[実施例]
上記の実施形態1の構成(図1)を有する弾性表面波フィルタのフィルタ特性を調べるために、次の条件でフィルタを製作した。
【0060】
圧電基板1として回転Y板の水晶基板を用い、この基板上にアルミニウム膜を電極膜として入力IDT3a,3b、出力IDT4a,4b、及び反射器5a,5bを形成した後、各電極膜を酸化亜鉛で被覆した。
ここに、酸化亜鉛の厚さは、0.3λ(λは弾性表面波の波長)、アルミニウムの厚さは0.02λである。
【0061】
また、入力IDT3a,3bは、共にダブルストリップ形の電極指と一方向性電極を内部に分布配置した間引き型とし、また、出力IDT4a,4bはダブルストリップ形の電極指による間引き型とした。また、各IDT3a,3b,4a,4bのダブルストリップ形の電極指の数は162対とした。
【0062】
また、上側のトラック2aにおける入力IDT3aと出力IDT4aとの距離は10.00λ、出力IDT4aと反射器5aとの距離は0.75λとした。
また、下側のトラック2bにおける入力IDT3bと出力IDT4bとの距離は10.50λ、出力IDT4bと反射器5aとの距離は0.50λとした。
さらに、各反射器5a,5bは、電極指数を300本とし、電極指の配列ピッチを図2のように変化させた。
【0063】
このような条件で製作した弾性表面波フィルタのフィルタ特性を調べた結果を図5に示す。
また、従来品との比較のため、基本的には図1と同じ配置構成で、反射器5a,5bのみが正規型のものである弾性表面波フィルタについて同様にフィルタ特性を調べた。その結果を図6に示す。なお、この場合の正規型の反射器の配列ピッチは、各IDT3a,3b,4a,4bのダブルストリップ形の電極指の配列ピッチPiと同じに設定した。
【0064】
本願発明の弾性表面波フィルタ(弾性表面波装置)においては、反射器5a,5bにおける反射係数の群遅延時間特性が、図5(a)に示すように凸型となっている。したがって、この反射器5a,5bを用いた弾性表面波フィルタ全体の群遅延時間は、図5(b)に実線で示すように、偏差が小さく比較的平坦になる。なお、図5(b)の破線は挿入損失特性を示している。
【0065】
一方、従来の弾性表面波フィルタにおいては、正規型の反射器5a,5bにおける反射係数の群遅延時間特性が、図6(a)に示すように緩やかな凹型となっている。したがって、このような反射器5a,5bを用いた弾性表面波フィルタ全体の群遅延時間は、図6(b)に実線で示すような凹型となり、その偏差が大きくなる。なお、図6(b)の破線は挿入損失特性を示している。
【0066】
また、図5及び図6に示したデータに基づいて、本願発明の実施例の弾性表面波フィルタと、従来構成の弾性表面波フィルタとについて、1dB通過帯域における群遅延時間偏差を比較した。その結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1より、本願発明の実施例の反射器5a,5bでは、反射係数の群遅延時間が凸型で、偏差が大きいのに対して、従来の正規型の反射器5a,5bにおける反射係数の群遅延時間は緩やかな凹型のために偏差が小さく、その結果として、フィルタ全体の信号通過に伴う群遅延時間偏差は、本願発明の実施例のものが0.04μsと小さくなるのに対して、従来のものでは群遅延時間偏差が0.09μsと大きくなっており、本願発明の弾性表面波フィルタにおいては、通過帯域の群遅延時間偏差が大幅に低減されることがわかる。
【0069】
なお、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0070】
【発明の効果】
請求項1の弾性表面波装置のように、反射器を構成する電極指における弾性表面波装置の通過帯域中央に対応する配列ピッチをPro、通過帯域上端に対応する配列ピッチをPr1、通過帯域下端に対応する配列ピッチをPr2とし、また、電極指の反射係数をγ、前記IDTを構成する電極指の配列ピッチをPiとしたとき、反射器は、
[1] (1−|γ|/π)・Pi<Pro<(1+|γ|/π)・Pi
[2] Pr1<Pro<Pr2
の条件を共に満たし、かつその電極指が前記IDTの電極指と平行となるように形成され、さらに、前記Pr1及びPr2の形成領域が共にProの形成領域よりも弾性表面波の入出射端に近い位置に配設されていると、通過帯域の上端及び下端の双方において反射係数の群遅延時間の偏差が大きい場合に、群遅延時間の偏差を小さくして、通過帯域の広い範囲で群遅延時間偏差特性を平坦化することができる。しかも、IDTの電気音響特性に依存せずに、反射器の特性を変更するだけで対応することが可能であることから、装置全体の設計の自由度を確保することができる。
【0071】
請求項2の弾性表面波装置のように、反射器の配列ピッチを、Pr1〜Pro〜Pr2の範囲で連続的に変化させるようにした場合、請求項1記載の発明から得られる効果に加えて、反射器で反射される弾性表面波の周波数の分布に応じた適切な群遅延時間を細かく設定することが可能になるという効果が得られる。
【0072】
また、請求項3の弾性表面波装置の発明によれば、通過帯域が広く、群遅延時間偏差が小さくかつ平坦な特性が得られるだけでなく、通過帯域の左右端(両端)近傍では大きな減衰量を示すような、信号選択度に優れ、しかも小型の弾性表面波装置を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本願発明の実施形態1に係る弾性表面波フィルタ(弾性表面波装置)の構成を示す図である。
【図2】 本願発明の実施形態1に係る弾性表面波フィルタを構成する反射器の、弾性表面波の入出射端から伝搬方向に沿う電極指の配列ピッチの変化を示す図である。
【図3】 本願発明の実施形態2に係る弾性表面波フィルタの構成を示す図である。
【図4】 本願発明の弾性表面波フィルタを構成する反射器の電極指の配列ピッチの変化の態様を示す図である。
【図5】 本願発明の実施形態1に対応する実施例にかかる弾性表面波フィルタのフィルタ特性を示す図であって、(a)は反射器における反射係数の群遅延時間を示す図、(b)はこの反射器を用いた弾性表面波フィルタ全体の通過帯域の群遅延時間と挿入損失を示す図である。
【図6】 従来の弾性表面波フィルタ(弾性表面波装置)のフィルタ特性を示す図であって、(a)は正規型の反射器における反射係数の群遅延時間を示す図、(b)はこの反射器を用いた弾性表面波フィルタ全体の通過帯域の群遅延時間と挿入損失を示す図である。
【図7】 従来の弾性表面波フィルタの、正規型の反射器の弾性表面波の入出射端から伝搬方向に沿う電極指の配列ピッチの変化を示す図である。
【図8】 従来の正規型の反射器を備えた弾性表面波フィルタの特性を説明する図であって、(a)は正規型反射器の反射係数の群遅延時間特性を模式的に示す図、(b)はフィルタ全体の通過帯域の群遅延時間特性を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1 圧電基板
2a,2b トラック
3,3a,3b 入力IDT
4,4a,4b 出力IDT
5a,5b 反射器
6 結合器
Pro 電極指の通過帯域中央に対応する配列ピッチ
Pr1 電極指の通過帯域端(上端)に対応する配列ピッチ
Pr2 電極指の通過帯域端(下端)に対応する配列ピッチ
Pi IDTを構成する電極指の配列ピッチ
Claims (3)
- 圧電基板上に、入力側と出力側の各IDTとともに、少なくとも一方のIDTに隣接して反射器が配設されている弾性表面波装置において、
前記反射器を構成する電極指における弾性表面波装置の通過帯域中央に対応する配列ピッチをPro、通過帯域上端に対応する配列ピッチをPr1、通過帯域下端に対応する配列ピッチをPr2とし、また、電極指の反射係数をγ、前記IDTを構成する電極指の配列ピッチをPiとしたときに、前記反射器は、次の[1],[2]の条件:
[1] (1−|γ|/π)・Pi<Pro<(1+|γ|/π)・Pi
[2] Pr1<Pro<Pr2
を共に満たし、かつその電極指が前記IDTの電極指と平行となるように形成され、さらに、前記Pr1及びPr2の形成領域が共にProの形成領域よりも弾性表面波の入出射端に近い位置に配設されていること
を特徴とする弾性表面波装置。 - 前記反射器の配列ピッチが、Pr1〜Pro〜Pr2の範囲で連続的に変化していることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
- 圧電基板上に弾性表面波の伝搬路を結合する結合器が設けられ、この結合器を挟んで、一方側に前記入力側と出力側の各IDTが並設され、また、結合器の他方側に前記反射器が並設されていることを特徴とする請求項1または2記載の弾性表面波装置。
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