JP4821079B2 - 弾性表面波用のくし型電極部、弾性表面波装置、通信装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、携帯電話等の小型通信装置に好適な、フィルタ機能と良好な伝送特性を有する弾性表面波用のくし型電極部、それを有する弾性表面波装置およびそれを用いた通信装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、弾性表面波装置(以下、SAWフィルタという)は、小型化、高周波化、量産性に優れていることから、携帯電話をはじめとする、無線の通信装置に多く使用されるようになってきた。特に、TDMA、CDMA等のデジタル通信方式における通信装置の第一IFフィルタにおいては、小型化に加え広帯域、かつ高減衰量であって、平坦位相特性の優れたものが要求されている。
【0003】
トランスバーサル型のSAWフィルタは、他のデバイスに比べて周波数−位相特性が直線的である点で優れており、上記通信装置に好適に用いることができるものとして注目されている。
【0004】
しかしながら、トランスバーサル型のSAWフィルタでは、横モードスプリアスや回折損が発生し、伝送特性の劣化という問題がある。そこで、それらの問題を回避するために、特開平11−298286号公報においては、弾性表面波の主伝搬方向の逆速度面が凹となる圧電基板に、くし型電極部(以下、IDTという)、グレーティング電極の開口の両側に開口部よりも幅広の電極指を有するグレーティング電極を配置して、上記問題を抑制している。
【0005】
また、特開平10−224177号公報では、水晶基板上に、第1と第2のSAW共振子の間に結合共振子を相互に平行となるように横に配置した上で、全体の共振周波数を計算して、3個の固有モードを得た上で、さらに3個の共振周波数を等間隔に配置して、横多重モードフィルタの通過比帯域幅を1000ppm程に広帯域化した横多重モードフィルタが開示されている。
【0006】
さらに、特開平6−164297号公報においては、すだれ状変換器電極(IDT)のバスバーから平行に多数連接された電極指の電極首部の電極幅を、菱形重み付けが施された電極実部の電極幅に比べて長さ1.5/λ以上にわたって狭くしたラブ波型の弾性表面波共振子が開示されている。
【0007】
また、特開平10−173467号公報では、圧電基板の主面上に弾性表面波の伝搬方向に沿って2個以上のIDTを配置しそれぞれが互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対のくし形電極から構成されるトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、ダミー電極同士を横に結ぶ連結線を少なくとも1つ設け、電極指のオーミックロスを軽減したトランスバーサル型SAWフィルタが開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の各公報に記載のSAWフィルタに用いられたIDTでは、グレーティング領域において、弾性表面波の音響反射が生じ、上記音響反射により時間的に遅れて到達した弾性表面波の影響で、通過帯域における出力信号の波形にリプル(波形の乱れ)が発生するという問題を生じているものもある。特に、上記問題は、時間遅れ信号の影響を受け易いトランスバーサル型SAWフィルタにおいて顕著に現れる。
【0009】
また、特開平11−298286号公報や特開平6−164297号公報においては、グレーティング領域を、反射を防ぐために交差領域のピッチとほぼ同一として、グレーティング領域のストリップ線幅とストリップギャップ幅との比を変化させて形成している。よって、上記形成方法では、ストリップ線幅やストリップギャップ幅を太くしたり細くしたりするため、用いる通過帯域の周波数が高くなるにつれレジストの解像度や、エッチング時の抜け不良などに起因して歩留りが低下し易いという問題を生じている。さらに、特開平6−164297号公報においては、電極指の電極首部の電極幅を狭くしたことに起因する抵抗損失に基づく性能劣化という問題も生じている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の弾性表面波用のIDTは、上記課題を解決するために、圧電基板上に、基端側のバスバー部とバスバー部から延びる電極指とが弾性表面波が発生するように各電極指を互いに交差して設けられ、バスバー部に、グレーティング(格子窓)領域が、上記各電極指からの弾性表面波に対する音響反射を低減するために上記各電極指のピッチと異なるピッチのストリップを有するように設けられていることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、圧電基板上に、互いに交差した各電極指を有するので、圧電基板や各電極指によって決まる通過帯域および非通過帯域が設定され、フィルタ機能を発揮できる。
【0012】
また、上記構成では、グレーティング領域を、バスバー部に設けたので、互いに交差した各電極指に対し近接し、弾性表面波の伝搬方向にほぼ平行に配置することができる。また、上記構成では、各電極指からの弾性表面波に対する音響反射を低減するために上記各電極指のピッチと異なるピッチのストリップを有するようにグレーティング領域を設けたので、通過帯域における出力信号の波形に対する、上記音響反射に起因するリプル(波形の乱れ)の発生を抑制できる。
【0013】
上記IDTにおいては、グレーティング領域は、通過帯域の中心周波数の波長のn倍(nは正の整数)、かつバスバー部における弾性表面波の伝搬方向の長さ未満で、グレーティング領域の各ストリップでの弾性表面波の反射波が互いに打ち消しあうように設定されていることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、グレーティング領域のピッチに対応している、グレーティング領域の弾性表面波の伝搬速度(以下、音速という)を上記のように調整することにより、音響反射をほぼ無くすことが可能となり、上記音響反射に起因するリプル(波形の乱れ)の発生をより完全に抑制できる。
【0015】
上記IDTでは、1波長に整数本のストリップを配置した等周期グレーティングにおける、弾性表面波発生領域(各電極指の交差領域)にて発生する弾性表面波の音速と最も近い音速を有する、グレーティングの、1波長の長さ当たりのストリップの本数をm2 本としたとき、グレーティング領域は、1波長の長さ当たりのストリップの本数m1 (m1 は0より大きい実数)が、0≦m2 −4≦m1 ≦m2 +8の条件式を満たすように設定されていることが望ましい。
【0016】
上記構成によれば、グレーティング領域の音速を、各電極指の部分よりもわずかに遅くすることにより、横モードスプリアスを抑制できる。逆に、わずかに速くすることにより、圧電基板上を伝搬する弾性表面波に対する回折損の発生(リプルの発生)を抑えることができる。
【0017】
上記IDTでは、グレーティング領域は、ストリップをn波長でm本(n,mは整数)としたとき、(n,m)が、n/m≠(0.5の整数倍)となるように設定されていることが望ましい。上記構成によれば、グレーティング領域をほぼ無反射に設定できて音響反射に起因するリプル(波形の乱れ)の発生をより一層完全に抑制できる。
【0018】
上記IDTにおいては、電極指のピッチが通過帯域の中心周波数の波長長さの2分の1に設定されていてもよい。上記IDTでは、電極指のピッチが通過帯域の中心周波数の波長長さの4分の1に設定されていてもよい。
【0019】
本発明の他のIDTは、前記の課題を解決するために、逆速度面が凸である圧電基板上に、基端側のバスバー部とバスバー部から延びる電極指とが弾性表面波が発生するように各電極指を互いに交差して設けられ、バスバー部に、グレーティング領域が、グレーティング領域のピッチを各電極指のピッチより小さく設定して設けられていることを特徴としている。
【0020】
上記構成によれば、グレーティング領域の音速を、各電極指の部分よりもわずかに遅くすることにより、横モードスプリアスを抑制でき、伝送特性を向上できる。
【0021】
上記IDTにおいては、グレーティング領域は、ストリップ線幅とストリップギャップ幅の比が1:1に設定されていることが好ましい。上記構成によれば、用いる通過帯域の周波数が高くなっても、レジストの解像度や、エッチング時の抜け不良などによる歩留り低下を抑制でき、また、従来のような抵抗損の発生を回避できる。
【0022】
上記IDTでは、グレーティング領域における互いに隣り合う各ストリップを短絡する細線が設けられていてもよい。上記構成によれば、従来のような抵抗損の発生を回避できる。
【0023】
上記IDTでは、圧電基板が、水晶、ランガサイト、Li2 B4 O7 、SiO2 /X−112°YLiTaO3 、ZnO/水晶からなる群から選択された一種であってもよい。
【0024】
本発明のSAWフィルタは、前記の課題を解決するために、上記の何れかに記載のIDTがトランスバーサル型フィルタを形成するように設けられていることを特徴としている。本発明の通信装置は、上記SAWフィルタを有していることを特徴としている。上記構成によれば、伝送特性を改善できる。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の各形態について図1ないし図19に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0026】
本発明の実施の第一形態に係る弾性表面波用のIDT(くし型電極部)では、Li2 B4 O7 からなる圧電基板1上に、第一くし型電極2および第二くし型電極3が、フォトリソグラフィー法等により形成されたアルミニウム(Al)電極(箔)によって設けられている。
【0027】
第一くし型電極2は、基端側に帯状のバスバー部2aと、バスバー部2aの長手方向の一方の側部から直交する方向に延びる、帯状で複数の互いに平行な電極指2bとを備えている。第二くし型電極3も、同様に、基端側に帯状のバスバー部3aと、バスバー部3aの長手方向の一方の側部から直交する方向に延びる、帯状で複数の互いに平行な電極指3bとを備えている。
【0028】
さらに、第一くし型電極2と、第二くし型電極3とは、各電極指2bと各電極指3bとが、それらの長手方向の側部を互いに対面し、かつ平行となるように交差した状態(つまり、互いに入り組んだ)に配置されることによって、それら交差領域6にて弾性表面波を発生でき、また伝搬してきた特定範囲の周波数の弾性表面波から電気信号を発生できるようになっている。
【0029】
その上、各電極指2bと各電極指3bとについては、弾性表面波の波長長さに対し4本の電極指を有するダブル電極であり、かつ非対称型と対称型との混合型にて形成されている。
【0030】
各バスバー部2a、3aには、それぞれ、上記各電極指2b、3bからの弾性表面波に対する音響反射波を低減するためのグレーティング領域2c、3cが設けられている。各グレーティング領域2c、3cにおいては、それぞれ、帯状のストリップ2d、3dが、互いに離間してすなわち互いに隣り合う各ストリップ2d、3d間に帯状のストリップギャップ(開口部)2e、3eを形成して設けられている。また、各ストリップ2d、3dは、それらの長手方向(長さ方向)がバスバー部2a、3aの短手方向(幅方向)に沿うように設けられている。
【0031】
ストリップ2d、3dの長さは、バスバー部2a、3aの幅より小さくとも、同一でも、大きくてもよい。よって、バスバー部2a、3aの基端部側(各電極指2b、3bに接続された先端部側に対し反対側)が、アルミニウム電極(箔)により各ストリップ2d、3dを連通した場合は、バスバー部2a、3aは、くし状になる。なお、バスバー部2a、3aの幅方向の中間部をアルミニウム電極(箔)により各ストリップ2d、3dを連通してもよい。
【0032】
各ストリップ2d、3dは、互いに平行に、かつ、各ストリップ2d、3dの長手方向が、各電極指2bと各電極指3bの長手方向と平行となるように設定されている。よって各ストリップ2d、3dの短手方向は、各電極指2bと各電極指3bにて発生する弾性表面波の伝搬方向とほぼ平行となる。また、ストリップ2d、3dの線幅比は、製造の容易さや、歩留り(特に高周波化されたときの)の向上や低抵抗化を図れることから、0.5が好ましい。上記線幅比は、ストリップ線幅/(ストリップ線幅+ストリップギャップ幅)である。
【0033】
そして、各グレーティング領域2c、3cでは、各ストリップ2d、3dのピッチ4が上記各電極指2b、3bの電極指ピッチ5と異なるように設けられている。各グレーティング領域2c、3cは、言い換えると各グレーティング領域2c、3cを構成する各ストリップ2d、3dのストップバンド(阻止帯域)を第一くし型電極2および第二くし型電極3の動作帯域(弾性表面波の発生周波数帯域)からずらすことにより、各グレーティング領域2c、3cの音速(圧電基板1上での弾性表面波の伝搬速度)を調整するように設けられている。
【0034】
これにより、本発明では、各グレーティング領域2c、3cにおける、各ストリップ2d、3dからの音響反射波が互いに打ち消し合い、各グレーティング領域2c、3cからの音響反射波の影響を低減でき、上記音響反射波に起因するリプルの発生を防止できる。
【0035】
このようなIDTを複数、例えば2個(入力用と出力用)、弾性表面波の伝搬方向に沿って圧電基板1上に配置することによりトランスバーサル型フィルタ(SAWフィルタ)を形成することができる。
【0036】
また、グレーティング領域2c、3cと、各電極指2b、3bとの間の電気的接続を、より確実に確保するため、図2に示すように、各グレーティング領域2c、3cの各ストリップ2d、3dの、互いに隣り合う各先端側を架橋するように接続する細線部7が、各ストリップ2d、3dと同様な素材および工法にて設けられていてもよい。細線部7の幅は、より細い方が好ましい。
【0037】
しかしながら、このようにピッチ4を変えたIDTの場合、上記IDTを用いたトランスバーサル型フィルタでは、各グレーティング領域2c、3cでの音響反射により特性が悪化する恐れ、例えば、1波長当たり各ストリップ2d、3dの本数が2本で線幅比が0.5の場合、多重反射を起こし特性が劣化する恐れがある。
【0038】
そこで、テスト用として、Li2 B4 O7 からなる圧電基板上に、IDTを用いてトランスバーサル型SAWフィルタを作製した。上記IDTは、入出力共に電極指が100本(50対)で、波長当たりの電極指が4本のUBD(Unbalanced double finger:USP No. 4,162,465 Hunsinger et al. 参照)電極、および1波長当たり2本のストリップで線幅比0.5の各グレーティング領域を有するものである。
【0039】
このようなトランスバーサル型SAWフィルタについて、音響反射を考慮しない理論値は図3に示すようになった。一方、音響反射を考慮した場合は図4に示すようになった。これらの結果から明らかなように、多重反射の影響でフィルタの特性が理論値より悪化しているのが判る。
【0040】
このようにトランスバーサル型SAWフィルタでは、共振を利用したフィルタなどと異なり反射を積極的に利用しないため、各グレーティング領域2c、3cでの音響的反射がない(あるいは小さい)ことが好ましい。
【0041】
そこで、本発明では、線幅比0.5の場合、各グレーティング領域2c、3cの各ストリップ2d、3dの本数をn波長でm本(n,mは正の整数)として、かつ「n/m=(0.5の整数倍)」を除く(n,m)の組みになるようにn,mをそれぞれ選択することにより、各グレーティング領域2c、3cに各ストリップ2d、3dを配置すれば、各グレーティング領域2c、3c内の音響反射波が互いに打ち消し合い、n波長単位で無反射条件となる。
【0042】
ここで、波長は、厳密には、各グレーティング領域2c、3cを伝搬する弾性表面波の波長であるが、グレーティングのピッチを極端に変えない範囲では、ほぼ通過帯域の中心周波数の波長と考えてもよい。
【0043】
なお、このような(n,m)の組みであれば、必ずしも線幅比は0.5である必要はなく、また「n/m=(0.5の整数倍)」となるような(n,m)の組みでも線幅比を変えて、ストリップ1本で無反射にできるようなストリップの幅に設定すれば無反射にできる。
【0044】
このように(n,m)の組みが、n/m=(0.5の整数倍)に近いところでも有効であるので、以下でその範囲を規定する。各グレーティング領域2c、3cの各ストリップ2d、3dのピッチ4として望ましいのは、各グレーティング領域2c、3cの音速が、交差領域6の音速に近い場合である。1波長当たりの各ストリップ2d、3dの本数(ピッチ4)と音速との関係を、圧電基板や電極指を代えて調べた。それらの結果を図5ないし図9に示した。
【0045】
図5は、圧電基板として水晶[オイラー角(0,122,0 )]、電極指としてAl(膜厚4%)のものである。図6は、圧電基板としてLi2 B4 O7 [オイラー角(135,90,90 )]、電極指としてAl(膜厚2%)のものである。図7は、圧電基板としてランガサイト[オイラー角(0,140,24)]、電極指としてAl(膜厚2%)のものである。図8は、圧電基板としてLiTaO3 [オイラー角(90,90,112 )]、電極指としてAl(膜厚2.2%)、電極指を埋め込むためのSiO2 (膜厚8%)のものである。図9は、圧電基板として水晶、電極指としてAl、電極指を埋め込むためのZnO(膜厚30%)のものである。
【0046】
これにより、実用になるのは、実際の交差領域6での音速の前後である。図5ないし図9では、シングル電極ならば2本、ダブル電極ならば4本に相当し、さらにUBD電極を用いた場合を示し,また、自由音速およびメタライズ部も示した。
【0047】
本発明では、EWC(Electric Width Control)や、他のSPUDT(Single-Phased UniDirectional Transducer) 等の電極構造も考え、それぞれのIDT構成と同等な音速を有するときの1波長当たりの各ストリップ2d、3dの本数をm2 (実数)としたとき、実際の各ストリップ2d、3dの本数(ピッチ4)m1 を、0≦m2 −4≦m1 ≦m2 +8の条件式を満たすように設定すればよい。
【0048】
なお、実施の第一形態では、第一くし型電極2および第二くし型電極3として、非対称型と対称型とを混合したダブル電極を用いた例を挙げたが、必要に応じて、図10に示すような、シングル電極(弾性表面波の波長長さに対し2本の電極指)や、図11に示すような、対称ダブル電極を用いることが可能である。
【0049】
また、圧電基板1の素材としては、Li2 B4 O7 に限定されるものではなく、例えば水晶、ランガサイト、SiO2 /X−112°YLiTaO3 、ZnO/水晶等を必要に応じて用いることができる。さらに、LiNbO3 等の結晶系基板、または結晶系基板上や、ダイヤモンド、サファイヤ、シリコン、ガラス基板上にZnO、AlN、Ta2 O5 などの圧電薄膜を形成した基板、Pb−Zn−Ti−Oなどのセラミック系基板などでも有効である。電極としてアルミニウムを用いたが、アルミニウムに銅、シリコン、チタンなどを添加してもよいし、Auなどの他の導電材料を用いてもよい。
【0050】
ところで、各バスバー部2a、3aが、ストリップギャップ2e、3eを形成しないメタライズドバスバーの場合、金属膜厚でしか音速を調整できないため、交差領域の音速に対して、各グレーティング領域の音速が速すぎる、あるいは遅すぎることがある。この場合には、上記音速の大きな相違に起因して、高次モードの発生、あるいは回折損などによる通過帯域におけるリプルの発生が問題となっていた。
【0051】
しかしながら、本発明では、各グレーティング領域2c、3cをストリップ構造とし、そのピッチ4を交差領域6の電極指ピッチ5に対してずらすことにより、各グレーティング領域2c、3cにおける音速を望ましく調整して、上記問題を回避できる。
【0052】
本発明では、各グレーティング領域2c、3cでの反射を抑制することについては、各グレーティング領域2c、3cを構成する各ストリップ2d、3dのストップバンドを第一くし型電極2および第二くし型電極3の動作帯域からずらせば一定の効果が得られる。
【0053】
また、特開平6−164297号公報のように、電極指の電極首部の電極幅を細くすると、抵抗損失が増え性能劣化を生じる。一方、本発明では、音速調整を各グレーティング領域2c、3cの各ストリップ2d、3dの線幅比を変えずに、ピッチ4をずらすことで行う。よって、各グレーティング領域2c、3cでは、単位面積当たりの導体の体積が変化しないので、各グレーティング領域2c、3cの抵抗値は劣化せず、性能劣化は回避される。
【0054】
さらに、ST水晶などで音速を上げる場合、ストリップ線幅を細くする必要がある。グレーティング領域のストリップ線幅を細くすると、フォトリソグラフィー法によるパターン形成が難しくなり、抜け不良などにより製造歩留りが悪化するという不都合を生じる。
【0055】
しかし、本発明では、音速調整を各グレーティング領域2c、3cの各ストリップ2d、3dの線幅比を変えずに、ピッチ4をずらすことで行うので、上記不都合を防止できる。その上、本発明においては、特に音速を上げる場合は、ピッチ4を広くする方向でありパターン形成は容易となる。
【0056】
次に、横モードスプリアスの抑圧と、回折損の低減に関して述べる。交差領域6の音速をVIDT 、グレーティング領域の音速をVG とする。上記各音速は、各電極指2b、3bや各ストリップ2d、3dの長手方向に対し直交する方向の弾性表面波の音速である。逆速度面が凸となるような圧電基板上に形成されたSAWフィルタにおいて、▲1▼VG >VIDT が望ましい場合と、▲2▼VG <VIDT が望ましい場合とを検討した。
【0057】
▲1▼VG >VIDT が望ましい場合
交差領域6に導波路を形成して横基本モードを生成し、開口長(交差領域6の長さ)が狭い(小さい)場合の回折損を軽減することができる。図12ないし図17に、導波路を形成することにより回折損を減らした例および比較例を挙げる。高次モードが起きないように開口長と音速差を適当に選ぶ必要がある。このため、速度差は小さい方がよい。
【0058】
図12および図13は、逆速度面が凸となるZnO/Al/quartzでグレーティング領域12cの音速VG が交差領域6の音速VIDT より遅い場合を示す。図12に示すグレーティング領域12cを有するIDTを用いたSAWフィルタでは、図13の伝送特性に示すように、回折損が見られる。
【0059】
図14および図15は、ZnO/Al/quartzでグレーティング領域22cの音速VG が交差領域6の音速VIDT より速いがグレーティング領域22cに反射がある場合を示す。図14に示すグレーティング領域22cを有するIDTを用いたSAWフィルタでは、図15の伝送特性に示すように、通過帯域にリプルが発生している。
【0060】
図16および図17は、ZnO/Al/quartzでグレーティング領域32cの音速VG が交差領域6の音速VIDT より速く、グレーティング領域32cに反射が無い場合を示す。図16に示すグレーティング領域32cを有するIDTを用いたSAWフィルタでは、図17の伝送特性に示すように、良好な伝送特性が見られる。図16では、グレーティング領域32cのストリップは、2波長で3本のとき(1波長当たり1.5本)で良好な結果が得られている。
【0061】
以上の結果から、グレーティング領域における1波長当たりのストリップの本数をm1 とすれば、m1 <1.6程度が望ましいことが判る。なお、上記グレーティング領域12c、22c、32cについては、上記の各相違点以外は、前述のグレーティング領域2c、3cと同様の機能を有するものである。
【0062】
▲2▼VG <VIDT が望ましい場合
横モードの弾性表面波が不要なトランスバーサル型SAWフィルタなどにおいて、横モードの弾性表面波の発生を抑制することができる。なお、この条件では回折が生じるが、その程度が小さい開口長を選べばよい。
【0063】
図18に、Li2 B4 O7 からなる圧電基板を用い、通過帯域の中心周波数が190MHz(波長約18μm)に調製されたトランスバーサル型SAWフィルタの測定結果の一例を示す。グレーティング領域2c、3cのストリップの本数を1波長当たり6(5.96)本として音速を交差領域6の音速より遅く設定し、横モードの影響を減少させた例である。また、上記一例には、図2に示す細線部7が同様に設けられている。
【0064】
上記グレーティング領域2c、3cを有するトランスバーサル型SAWフィルタ(図18中に実線にて示した)では、グレーティング構造としていない場合(前述のメタライズドバスバー、図18中に破線にて示した)と比べて、通過帯域での横モードに起因するリプルが減少していることが判る。
【0065】
以上により、音速差が少なくなる、1波長当たりのストリップの本数m1 (実数)、各電極指2b、3bの1波長当たりの本数m3 を選ぶと、m3 <m1 (m1 の上限は主に製造上の限界で決まる)に、例えば、m3 が4本のとき、4<m1 に設定すればよい。
【0066】
次に、本発明に係る通信装置を図19に基づき説明する。図19に示すように、上記通信装置100は、受信を行うレシーバ側(Rx側)として、アンテナ101、アンテナ共用部/RFTopフィルタ102、アンプ103、Rx段間フィルタ104、ミキサ105、1stIFフィルタ106、ミキサ107、2ndIFフィルタ108、1st+2ndローカルシンセサイザ111、TCXO(temperature compensated crystal oscillator(温度補償型水晶発振器))112、デバイダ113、ローカルフィルタ114を備えて構成されている。
【0067】
Rx段間フィルタ104からミキサ105へは、図19に二本線で示したように、バランス性を確保するために各平衡信号にて送信することが好ましい。
【0068】
また、上記通信装置100は、送信を行うトランシーバ側(Tx側)として、上記アンテナ101および上記アンテナ共用部/RFTopフィルタ102を共用するとともに、TxIFフィルタ121、ミキサ122、Tx段間フィルタ123、アンプ124、カプラ125、アイソレータ126、APC(automatic power control (自動出力制御))127を備えて構成されている。
【0069】
そして、上記のRx段間フィルタ104、1stIFフィルタ106、TxIFフィルタ121、Tx段間フィルタ123には、上述した本発明に係るSAWフィルタが好適に利用できる。
【0070】
【発明の効果】
本発明のIDTは、以上のように、圧電基板上に、基端側のバスバー部とバスバー部から延びる電極指とが弾性表面波が発生するように各電極指を互いに交差して設けられ、バスバー部に、グレーティング領域が、上記各電極指からの弾性表面波に対する音響反射を低減するために上記各電極指のピッチと異なるピッチのストリップを有するように設けられている構成である。
【0071】
それゆえ、上記構成では、各電極指のピッチと異なるピッチのストリップを有するグレーティング領域をバスバー部に設けたので、バスバー部からの音響反射を低減でき、音響反射を低減することで、リプルといった伝送特性の劣化を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る実施の第一形態におけるIDTの概略構成図である。
【図2】上記IDTの一変形例の概略構成図である。
【図3】上記IDTを用いた、テスト用のSAWフィルタの理論値の伝送特性を示すグラフである。
【図4】上記伝送特性において音響反射を考慮したときのグラフである。
【図5】上記IDTにおいて、圧電基板にST水晶を用いた場合の、グレーティング領域のストリップの1波長当たりの本数と音速との関係を示すグラフである。
【図6】上記IDTにおいて、圧電基板にLi2 B4 O7 (図中ではLBOと記す)を用いた場合の、グレーティング領域のストリップの1波長当たりの本数と音速との関係を示すグラフである。
【図7】上記IDTにおいて、圧電基板にランガサイトを用いた場合の、グレーティング領域のストリップの1波長当たりの本数と音速との関係を示すグラフである。
【図8】上記IDTにおいて、圧電基板にSiO2 /X−LiTaO3 (図中ではSiO2 X−LTと記す)を用いた場合の、グレーティング領域のストリップの1波長当たりの本数と音速との関係を示すグラフである。
【図9】上記IDTにおいて、圧電基板にZnO/水晶(図中ではZnO/Al/Quartzと記す)を用いた場合の、グレーティング領域のストリップの1波長当たりの本数と音速との関係を示すグラフである。
【図10】上記IDTの他の例を示す概略構成図である。
【図11】上記IDTのさらに他の例を示す概略構成図である。
【図12】比較のためのIDTを示す概略構成図であり、(a)は要部構成図、(b)は上記(a)の要部拡大図である。
【図13】上記IDTを用いたトランスバーサル型SAWフィルタの伝送特性を示すグラフであり、(a)は通過帯域を示し、(b)は上記(a)のスパンを大きくしたものである。
【図14】比較のための他のIDTを示す概略構成図であり、(a)は要部構成図、(b)は上記(a)の要部拡大図である。
【図15】上記IDTを用いたトランスバーサル型SAWフィルタの伝送特性を示すグラフであり、(a)は通過帯域を示し、(b)は上記(a)のスパンを大きくしたものである。
【図16】本発明に係るIDTの概略構成図であり、上記IDTがZnO/Al/quartzでグレーティング領域の音速VG が交差領域の音速VIDT より速く、グレーティング領域に反射が無い場合を示し、(a)は要部構成図、(b)は上記(a)の要部拡大図である。
【図17】上記IDTを用いたトランスバーサル型SAWフィルタの伝送特性を示すグラフであり、(a)は通過帯域を示し、(b)は上記(a)のスパンを大きくしたものである。
【図18】本発明に係る、VG <VIDT であり、Li2 B4 O7 からなる圧電基板を用いたIDTを有するトランスバーサル型SAWフィルタの伝送特性を示すグラフである。
【図19】本発明に係るIDTを用いた通信装置の要部ブロック図である。
【符号の説明】
1 圧電基板
2a、3a バスバー部
2b、3b 電極指
2c、3c グレーティング領域
2d、3d ストリップ
4 ピッチ
5 電極指ピッチ
Claims (10)
- 圧電基板上に、バスバー部とバスバー部から延びる電極指とが弾性表面波が発生するように各電極指を互いに交差して設けられ、
バスバー部に、グレーティング領域が、上記各電極指からの弾性表面波に対する音響反射を低減するために上記各電極指のピッチと異なるピッチのストリップを有しており、前記ストリップが前記電極指と平行になるように設けられていることを特徴とする弾性表面波用のくし型電極部。 - 弾性表面波発生領域にて発生する弾性表面波の音速と最も近い音速を有する、グレーティングの、1波長の長さ当たりのストリップの本数をm 2 本としたとき、
グレーティング領域は、1波長の長さ当たりのストリップの本数m 1 (0より大きい実数)が、0≦m 2 −4≦m 1 ≦m 2 +8の条件式を満たすように設定されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波用のくし型電極部。 - グレーティング領域は、ストリップをn波長でm本(n,mは整数)としたとき、(n,m)が、n/m≠(0.5の整数倍)となるように設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の弾性表面波用のくし型電極部。
- 電極指のピッチが通過帯域の中心周波数の波長長さの2分の1に設定されていることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の弾性表面波用のくし型電極部。
- 電極指のピッチが通過帯域の中心周波数の波長長さの4分の1に設定されていることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の弾性表面波用のくし型電極部。
- グレーティング領域は、ストリップ線幅とストリップギャップ幅の比が1:1に設定されていることを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載の弾性表面波用のくし型電極部。
- グレーティング領域における互いに隣り合う各ストリップを短絡する細線が設けられていることを特徴とする請求項1ないし6の何れかに記載の弾性表面波用のくし型電極部。
- 圧電基板が、水晶、ランガサイト、Li 2 B 4 O 7 、SiO 2 /X−112°YLiTaO 3 、ZnO/水晶からなる群から選択された一種であることを特徴とする請求項1ないし7の何れかに記載の弾性表面波用のくし型電極部。
- 請求項1ないし8の何れかに記載の弾性表面波用のくし型電極部が、トランスバーサル型フィルタを形成するように設けられていることを特徴とする弾性表面波装置。
- 請求項9記載の弾性表面波装置を有することを特徴とする通信装置。
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