JP4838419B2 - 呈味賦与剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カレーやシチュー等の調理食品に、特有の調理感やコク味を賦与するための、シャロット及び/又はオニオンの抽出物からなる呈味賦与剤、該呈味賦与剤を含有する呈味賦与剤組成物及びそれらを含有する飲食物に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にカレーやシチュー等の調理食品においては、その風味ベースとしてオニオン、ガーリックなどの香辛野菜を焙煎したものが使用され、これらにより調理食品に特有の調理感やコク味が賦与される。従来これらの焙煎香辛野菜を得るためには、フライパンに細断したオニオンやガーリックなどの香辛野菜と適量の油脂を入れ、中〜弱火で長時間炒め、きつね色になるまで水分をとばして(50%以上)焙煎する方法が採られている。このようにして時間と手間暇かけて調製した焙煎香辛野菜は、調理食品に特有の調理感とコク味を与えるものであるが、調製に長時間を費やすのみならず、好ましい調理感が時間とともに消失してしまうという問題点があった。時間をかけずに容易に入手可能な風味ベースとしては、香辛野菜を抽出・濃縮した香辛野菜エキスや、焙煎した香辛野菜をペースト状に加工したものなどが市販されているが、これらの素材では、長時間じっくりと焙煎した香辛野菜に本来感じられる特有の調理感と深みのあるコク味に欠けるものであり、又、強いロースト感を伴うため、調理食品の自然な風味を損なうおそれもあった。調理食品に特有の調理感とコク味を与える方法としては、例えば特開平8−228694号公報においては、冷凍又は冷蔵加工食品の製造に際し、原料の一部を油ちょうして添加することを特徴とする炒め感、調理感を有する食品の製造方法が提案され、特開平11−196810号公報においては、焙煎野菜及び肉エキスのうち少なくとも1種、並びに一般式RN=C=Sで表される化合物の少なくとも1種を含有してなる調理食品用素材が提案され、特開平11−215972号公報においては、野菜・果実を歩留まり70%以下まで焙煎した焙煎物及び/又は野菜・果実の凍結乾燥物を粘性材として用いることを特徴とするペースト状ルウが提案されているが、いずれも満足できるものではなかった。また、香辛野菜のプリカーサーについても研究がなされており、Sci. Am. 252, (3), 114-119, (1985) においては、0℃でアリウム属植物を抽出すれば、アリイン等の風味プリカーサーが得られることが記載されているが、それらによる風味のコントロールについては何ら記載されていない。日本食品化学工学会誌 Vol.42, No.12, 1003-1011, (1995)においては、オニオンは炒めることによりその香気を発生させることが記載されているが、生のオニオンの香味については刺激的な香りであるとしている。日本味と匂い学会誌 Vol.4, No.2, 197-200, (1997)においては、アリインがガーリックの呈味成分であり、S−プロペニルシステインスルホキシドがオニオンの呈味成分であり、共に原体を加熱処理し、酵素を失活させた後に取り出すことが記載されているが、やはり調理感については記載されていない。特開平11−243904号公報においては、システィンスルホキシド化合物及び/又はS置換システィン誘導体を糖の存在下、溶剤中、水分含量が該溶剤に対して15%(w/w)以下で加熱反応させることを特徴とする、野菜のフライフレーバーの製造方法が提案されているが、これはあくまで野菜のフライフレーバーの製造方法であり、調理食品に特有の調理感や深いコク味を与えるものではなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
したがって本発明の目的は、即席カレーやレトルトシチューの様な調理食品に特有の調理感と深いコク味を与える呈味賦与剤を得ることにある。更に詳しくいえば、本発明の目的は、香辛野菜の微塵切りを油脂で炒め、次いで煮込んだときに得られる風味をもった呈味賦与剤であり、該呈味賦与剤を添加することにより、調理食品が本来持っている、調理食品全体をまとめ上げる豊かな調理感と深いコク味をもった飲食物を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、加熱処理を受けていないシャロット及び/又はオニオンの抽出物からなる呈味賦与剤が前記課題を解決することを見いだし本発明を完成させた。すなわち本発明はシャロット抽出物からなる呈味賦与剤である。さらに本発明は、シャロット及び/又はオニオンをそれらが凍結しない可及的低い温度で、アルコール性溶媒で抽出し、ついで溶媒を留去した抽出物からなる呈味賦与剤である。さらに本発明は、該呈味賦与剤を含有することを特徴とする呈味賦与剤組成物又は飲食物である。さらに本発明は、該呈味賦与剤組成物を含有することを特徴とする飲食物である。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の呈味賦与剤及び呈味賦与剤組成物並びに該呈味賦与剤を含有する飲食物について詳しく説明する。
本発明で用いられるシャロットとは、鱗茎のいくつかが房になってできるオニオンの変種の一つで、学名を(Allium ascalonicum L.)といい、西洋料理では一般に用いられる香辛野菜である。又、本発明においては、オニオン(Allium capa L.)も好適に用いることができ、これらは単独で及び/又は組み合わせて用いることができる。これらは生のまま細断されるか、或いは目的に応じて乾燥や加熱処理を経て抽出されることもあるが、好ましくは生のまま細断し、遅滞なく冷却、抽出することが望ましい。
【0006】
シャロットの抽出温度には特に限定はなく、常温乃至抽出溶媒の還流温度で抽出される。シャロット及び/又はオニオンの抽出温度は抽出原料が凍結しない可及的低い温度である−20℃〜5℃が適当である。好ましくは−15℃〜0℃、更に好ましくは−15℃〜−5℃である。抽出原料は、溶媒の存在下では−20℃程度では凍結しないが、抽出温度が−20℃より低く、植物中の細胞が凍結破壊される場合は収率は上がるものの好ましくない成分までも抽出されるため香味的に劣る。抽出温度が5℃を越えると植物中の酵素反応が活発になり香味をコントロールすることが困難となる。
【0007】
本発明で用いられるアルコール性溶媒は、分子内に一つ以上の水酸基をもち抽出温度で液体であれば特に限定されるものではなく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの1価のアルコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールが例示され、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの1価のアルコールが用いられ、最も好ましくはエタノールが選択される。上記アルコール類は水溶液の形で使用することができ、好ましくは30〜95%水溶液、より好ましくは50〜90%の水溶液、最も好ましくは60〜85%の水溶液で用いられる。30%未満の場合は、溶媒が抽出中に凍ってしまう可能性があり、95%を越えた場合は抽出時間が長くなる傾向がある。
【0008】
本発明における抽出時間は任意に設定され、特に限定されるものではないが、好ましくはおよそ8〜96時間であり、好ましくは24〜84時間であり、最も好ましくは48〜72時間である。8時間未満であれば抽出効率が低くなる可能性があり、96時間以上抽出に費やすことは経済上好ましくない。
【0009】
本発明の抽出物からなる呈味賦与剤には更に食品添加物、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、苦味料、酸味料、乳化剤、強化剤、製造用剤及び香料などを添加して用いることができ、使用形態もそのまま或いは希釈した状態、乳化状態、更には粉化した様々な製剤の形で用いることができる。
【0010】
本発明で得られる呈味賦与剤を飲食物に添加する場合、その添加率は対象となる加工食品に応じて任意に設定するものであるが、好ましくは0.1〜5%、より好ましくは0.2〜3%で添加される。添加率が0.1%未満であると添加した効果が低くなる可能性があり、5%を越える場合は経済的に好ましくない。
以下に実施例を挙げ、更に詳細に説明する。
【0011】
【実施例】
実施例1
皮をむき微塵切りにしたインドネシア産シャロット500重量部に対し、76%(v/v)エタノール水溶液500重量部を加え、−12℃で64時間浸漬抽出を行った。抽出終了後、シャロットが凍結していないことを確認し、不溶物を濾別、減圧濃縮を行うことにより淡褐色のペースト状シャロットエキス245重量部(固形物含量24%)を得た。このものは、オニオン様の風味で、ロースト感はなく、強いコク感と旨味を持っていた。
【0012】
実施例2
皮をむき微塵切りにしたインドネシア産シャロット500重量部に対し、76%(v/v)エタノール水溶液500重量部を加え、−20℃で64時間浸漬抽出を行った。抽出終了後、シャロットが凍結していないことを確認し、不溶物を濾別、減圧濃縮を行うことにより淡褐色のペースト状シャロットエキス240重量部(固形物含量24%)を得た。このものは、オニオン様の風味で、ロースト感はなく、強いコク感と旨味を持っていた。
【0013】
実施例3
皮をむき微塵切りにしたインドネシア産シャロット500重量部に対し、76%(v/v)エタノール水溶液500重量部を加え、5℃で48時間浸漬抽出を行った。抽出終了後不溶物を濾別し、減圧濃縮を行うことにより淡褐色のペースト状シャロットエキス235重量部(固形物含量24%)を得た。このものは、オニオン様の風味で、ロースト感はなく、フレッシュ感がややダウンする傾向にあったが、強いコク感と旨味を持っていた。
【0014】
実施例4
皮をむき微塵切りにしたインドネシア産シャロット500重量部を−20℃で48時間以上保持して完全に凍結させた。このものに対し、76%(v/v)エタノール水溶液500重量部を加え、−20℃で64時間浸漬抽出を行った。抽出終了後不溶物を濾別し、減圧濃縮を行うことにより淡黄褐色のペースト状シャロットエキス244重量部(固形物含量24%)を得た。このものは、オニオン様の風味で、甘さ、コク感に欠け、シャロットの風味としては全体に薄いものであったが、ロースト感を持つものではなかった。
【0015】
実施例5
皮をむき微塵切りにしたインドネシア産シャロット500重量部に対し、76%(v/v)エタノール水溶液500重量部を加え、15℃で64時間浸漬抽出を行った。抽出終了後不溶物を濾別し、減圧濃縮を行うことにより褐色のペースト状シャロットエキス240重量部(固形物含量25%)を得た。このものは香り少なく、甘さに欠け、やや酸臭を伴っていた。
【0016】
実施例6
皮をむき微塵切りにした北海道産オニオン500重量部に対し、76%(v/v)エタノール水溶液750重量部を加え、−5℃で48時間浸漬抽出を行った。抽出終了後不溶物を濾別し、減圧濃縮を行うことにより淡褐色のペースト状オニオンエキス365重量部(固形物含量7%)を得た。このものは、オニオンの自然で且つ強く甘い香味を持ち、ロースト感を持つものではなかった。
【0017】
比較例1
皮をむき微塵切りにした北海道産オニオン500重量部を76%(v/v)エタノール水溶液750重量部を加え、沸騰温度にて1時間攪拌抽出を行った。抽出終了後不溶物を濾別し、減圧濃縮を行うことにより暗褐色のペースト状オニオンエキス343重量部(固形物含量8%)を得た。このものは、オニオンの甘さに欠け、やや苦味を伴った強いロースト感を持つものであった。
【0018】
試験例1 カレーへの賦香評価
市販のレトルトカレー(中辛)に、実施例1及び比較例1のペースト状抽出物をそれぞれ0.3重量%添加し、1時間煮込んだ後の風味を、無添加品をコントロールとして、よく訓練されたパネル12名により官能評価を行った。評価の項目は「甘さ」、「煮込み感」、「味の広がり」、「濃厚感」、「酸味」及び「ロースト感」の6項目とし、香味の強さが、弱い/なし:1〜強い/あり:7の7点法により評価を行った。評価結果は表1に示し、香味のコメントを表2に示した。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
試験例2 ホワイトソースによる評価
鍋に無塩バター40gを入れて溶解し、小麦粉(薄力粉)40gを加えてさらさらになるまで炒めた。牛乳320g、水393gを加え、更にホワイトペッパーパウダー0.2g、チキンコンソメパウダー1.6g及び食塩5.2gを加え、粘度がでるまでよく攪拌した。このホワイトソース100重量部に対し、実施例1のペースト状抽出物0.2重量部または比較例1のペースト状抽出物0.6重量部を添加し、レトルトパウチに充填し、121℃20分の加圧殺菌後の風味を、無添加品をコントロールとして、よく訓練されたパネル12名により官能評価を行った。評価の項目は「甘さ」、「煮込み感」、「味の広がり」、「濃厚感」、「ロースト感」、「エキス臭」及び「粉っぽさ」の7項目とし、香味の強さが、弱い/なし:1〜強い/あり:7の7点法により評価を行った。評価結果は表3に示し、香味のコメントを表4に示した。
【0022】
【表3】
【0023】
【表4】
【0024】
【発明の効果】
本発明の呈味賦与剤は、調理食品の風味を増強するのみならず、調理食品の製造工程において生ずるロースト感、酸味、エキス感、粉っぽさ等の要素をマスキングするものであり、カレーやシチュー、ホワイトソースなどの調理食品が本来持っている豊かな調理感と深いコク味を賦与するものである。本発明の呈味賦与剤を用いることにより、非常に美味なる調理食品を提供することができる。
Claims (9)
- シャロットを−15℃〜−5℃の温度で、エタノール水溶液で抽出し、抽出液からエタノールを除去した抽出物からなる呈味賦与剤。
- エタノール水溶液が30〜95%(v/v%)のエタノール水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の呈味賦与剤。
- 抽出時間が8〜96時間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の呈味賦与剤。
- 請求項1〜3のいずれかの項に記載の呈味賦与剤と食品添加物からなることを特徴とする呈味賦与剤組成物。
- 食品添加物が、甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、苦味料、酸味料、乳化剤、強化剤、製造用剤及び香料から選ばれる1種又は2種以上である請求項4記載の呈味賦与剤組成物。
- 請求項1〜3のいずれかの項に記載の呈味賦与剤が0.1〜5%の添加率で添加されてなることを特徴とする飲食物。
- 請求項4又は5に記載の呈味賦与剤組成物が、それを構成する呈味賦与剤が0.1〜5%の添加率となるように添加されてなることを特徴とする飲食物。
- 請求項1〜3のいずれかの項に記載の呈味賦与剤を、調理食品に0.1〜5%で添加することを特徴とする調理食品のコク味の賦与方法。
- 調理食品がカレー、シチュー又はホワイトソースである請求項8記載の方法。
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