図1〜図7は、本願発明の第1の実施形態である環境制御システムを示している。例えば、図1に示すように、所定空間αの環境を制御する環境制御機器1と、前記環境を享受する利用者が前記環境に対する要望を入力する要望入力装置2と、所定受付時間の間に入力された前記要望の数を取得する要望情報取得部3と、前記要望の数が所定の基準値を越えた場合に環境制御機器1に制御信号を送出する制御部4とを備える環境制御システムAにおいて、制御部4は、申告発生頻度から前記所定の基準値を算出するものであって、前記所定の基準値の最小値は2である。
また、要望入力装置2は複数種の要望を入力するものであり、要望情報取得部3は前記複数種の要望のそれぞれの数を取得するものであり、制御部4は前記複数種の要望のそれぞれの数と前記複数種の要望それぞれに対応する所定の基準値とを比較するものである。
以下、この実施形態の環境制御システムを、より具体的詳細に説明する。図1は、本願発明の環境制御システムの概略的な基本構成を示している。
空間αは、環境制御システムで環境の制御を行う対象であり、オフィスビルの業務エリア、複合ビルの店舗、学校の教室などを制御対象とすることができる。例えば図2に示すようなオフィスビルの場合では、空間αは利用者が業務を行うために居住しているエリア(I)及びエリア(II)が該当する。ここで、空間αの環境制御については、照明制御、空調制御、ブラインド制御などが考えられ、利用者は、温度、湿度、明るさなどの空間αの環境に対する様々な要望を有すると考えられるが、本実施形態では環境制御機器1として特に温度制御を行う空調制御機器を例にして説明する。
環境制御機器1は、環境制御を行うことが可能な空間αや空間αの周辺に設置され、冷風又は温風を空間αに送風する空調設備機器1aと、空間αの温度を計測することができる温度センサ1cと、温度センサ1cから温度情報を得て、所定空間αの温度が目標温度となるように温度制御の演算を実行して空調設備機器1aの冷風又は温風の温度及び風量などを演算決定して空調設備機器1aをコントロールする空調制御コントローラ1bで構成されている。
ここで、図2に示すようなエリア(I)及びエリア(II)を環境制御する対象の空間αとする例においては、空調設備機器1a及び空調制御コントローラ1bは機械室Rとエリア(I)及びエリア(II)の天井内などに設置されている。また、温度センサ1cはエリア(I)及びエリア(II)の空間の温度を計測するために該エリアの壁面や天井面などに設置されるものである。空調設備機器1aは空間αへ冷風や温風を提供することによって空間αの温度を上げたり下げたりすることができるものであり、具体的には、セントラル方式のAHU(Air Handling Unit)やVAV(Variable Air Volume)やFCU(Fan Coil Unit)が用いられたり、冷媒方式のパッケージ型空調機が用いられている。
空調制御コントローラ1bは、エリア(I)及びエリア(II)に設置され、空間αの温度計測を行う温度センサ1cによって計測された計測温度と空間α内の目標とする温度である目標温度を有しており、環境制御する対象とするエリア(I)及びエリア(II)の計測温度が目標温度となるように制御を行うものである。
要望入力装置2は、空間αに居住する利用者が享受する環境に対する要望を入力するものであり、例えば、通信ネットワークに接続され、さらにWebブラウザがインストールされているパーソナルコンピュータや入力装置を搭載した専用端末などである。要望入力装置2は、各利用者の机上に設置されて個人ごとの要望が入力可能とするものや壁面に設置されて複数の利用者が共有して要望を入力するものなどが考えられる。
要望情報取得部3は、Webサーバ機能を有し、要望入力装置2にインストールされているWebブラウザにより開かれる要望入力用のWebページが保存されている。要望入力装置2は、通信ネットワークを介して要望情報取得部3にアクセスして保存されているWebページを開くことができ、利用者はこのWebページに要望を入力して、要望情報取得部3へ入力内容が送信される。
この要望申告用のWebページは、例えば図3に示すような利用者が享受する環境に対して、「温度を上げてほしい」、「どちらでもない」又は「温度を下げてほしい」を選択することができるものである。さらに、要望対象となる空調設備機器1aの機器番号や個人を特定するユニークな情報(個人認識番号やメールアドレスなど)を記入する欄があり、要望情報取得部3へ要望の情報に含めて送信することができる。この情報は、要望情報取得部3によって要望対象とする空調設備機器1a毎に分別されて後述する記憶部6のデータベースに保存され、再度に利用者が要望入力装置2の申告画面を表示すれば、自動的に該当する空調設備機器1aの番号が入力された画面が表示されるようにすることができる。
制御部4は、要望情報取得部3によって収集された利用者の要望の種類毎の要望数を取得し、この要望数に基づいて空間αの適切な目標温度を算出して、空調制御コントローラ1bへ目標温度を送出するものである。
個人情報暫定記憶部5は、要望情報取得部3によって収集された利用者の要望を一定時間保持しておくものである。同一の利用者から一定の短い時間間隔で何度も要望の申告があると、一人の要望に左右されてしまい適切な制御を行うことができないという問題が発生するが、これを防止するために、個人情報暫定記憶部5に要望を申告した利用者を暫定的に記憶し、要望情報取得部3が、この暫定的に記憶されたデータより同一の利用者から単位時間当たりの要望数をカウントすることによって、短い時間間隔での複数回の要望を1回の要望とみなす処理を行うことができる。ここで、上記の単位時間は予め設定し記憶部6に保存されており、自由に値を変更することもできる。
記憶部6は、要望数処理単位時間と、要望数に対する基準値と要望の種類と、申告発生頻度と、基準値と利用者人数の関係と、目標設定の変更制御の回数と、合意形成時間帯を設定しているスケジュールテーブルを保存しており、保存されている設定値は、適宜に要望情報取得部3や制御部4より読み出されて、種々の演算などに用いられる。さらに、保存されているデータは設備機器の特性、利用状況や運用状況によって変更することができるものである。以下に具体的に保存されるデータについて説明する。
同一人からの要望数をカウントする場合における、複数回の要望を1回であるとみなす処理を行う単位時間である要望数処理単位時間が記憶部6には予め保存されており、要望情報取得部3によって読み出される。
また、利用者の要望数に対する基準値の初期値及び要望の種類が記憶部6に予め保存されており、制御部4によってこの基準値及び要望の種類が読み出されて、目標温度の変更制御に用いられる。また、この基準値と利用者人数との関係が記憶部6に予め保存されており、制御部4によってこの関係が読み出され、この関係と利用者の予め記憶部6に保存されている申告発生頻度とを用いることにより基準値を変更する演算が行われる。なお、申告発生頻度は、利用者が要望を発する確率であり、時間、温度、着衣量や代謝量などの環境の特性によって決定してもよい。
また、制御部4で行われた目標設定の変更制御の回数が記憶部6に随時に保存され、制御部4によってこの目標設定の変更制御の回数が読み出され、基準値を修正する演算に用いられる。
また、合意形成による目標温度の変更制御を行う時間帯と、合意形成をせずに1人の要望により目標温度を変更する時間帯とが設定されているスケジュールテーブルが記憶部6に予め保存されており、制御部4はこのスケジュールテーブルを参照して時間帯に対応した制御を行う。
なお、記憶部6に保存されるデータは、データテーブルとして保存されていても、演算式として保存されていてもよく、保存形式は限定されないものである。
次に、本実施形態の動作を説明する。まず、制御部4によって行われる利用者の要望数より合意形成が行われて目標温度が決定される動作について説明する。図3に示すような要望入力部2の入力画面において、利用者は「温度を上げてほしい」、「どちらでもない」又は「温度を下げてほしい」との温熱環境に対する複数種の要望(この場合は3種)と、要望する空調機番号及び個人を特定するユニークな情報を入力する。この温熱環境に対する複数種の要望にそれぞれ対応の後述する基準値が設けられており、要望数が該基準値を超えた場合には、制御部4が制御信号である目標温度を空調制御コントローラ1bへ送出する。また、上述の入力画面より任意申告された要望の情報は、申告がある度に要望情報取得部3に取り込まれ、要望情報取得部3は、一定の間隔で要望情報の申告内容を確認して制御有効データを利用者毎に生成するようになっている。
例えば表1に示すように、時刻9:58から時刻11:05の間におけるA乃至Dの各利用者の要望申告の入力状況を、一定の間隔として1分間隔とした場合の、利用者の要望情報の申告内容をまとめた表であって、表中「温度を上げてほしい」という要望を“1”とし、「どちらでもない」という要望を“0”とし、「温度を下げてほしい」という要望を“−1”と表記している。
この表1では利用者Aは時刻9:58に「温度を上げてほしい」という要望を申告し、その後、時刻11:00に再度「温度を上げてほしい」と申告している。また利用者Bは時刻9:59に「温度を下げてほしい」という要望を申告し、その後、時刻10:03と10:57とに「温度を上げてほしい」と申告している。利用者Cは時刻10:01に「どちらでもない」という要望を申告し、その後、時刻10:59と11:02とに「温度を上げてほしい」と申告している。更に利用者Dは時刻10:01と、10:57と11:03とに「温度を下げてほしい」という要望を夫々申告していることを示している。
要望情報取得部3は申告に合わせて一定時間毎(本実施形態では1分毎として例示)に新たな要望申告があるか、ないかをチェックし、新たな要望申告がなければ、最新の要望申告の内容を制御有効データとして生成する。ただし、要望申告が発生して一定時間経過(本実施形態では1時間毎として例示)までに、新たな要望申告がなければ、先の要望申告をリセットするようになっている。この処理は一定時間経過まで行われて、一定時間経過後の要望内容に基づいて制御部4による合意形成のロジックを用いた処理を行い、新たな目標温度が決定される。この決定に採用された最新の要望申告はリセットされ、未採用の場合には最新の要望申告が維持される。また合意形成の処理から例えば20分間経過するまでは、新たな申告を受け付けるが、制御はしないようになっている。表2はこのような制御有効データの処理結果を表形式で表したものであり、この場合、時刻11:00の合意形成処理では“1”つまり「温度を上げてほしい」が採用されている。
ここで、例えば表2に示す制御有効データに基づいて時刻11:00での目標温度を決定する制御部4での処理について、図4のフローチャートに基づいて説明する。まず時刻11:00では利用者A〜Cの申告内容が“1”、つまり、「温度を上げてほしい」であるのに対して、利用者Dの申告内容が“−1”、つまり、「温度を下げてほしい」である。ここで制御部4がステップS1で算出する要望数は、「温度を上げてほしい」では、3となり、「温度を下げてほしい」では、1となる。この要望数と図5に示す判定基準の領域とに基づいたロジックにより目標温度を決定する。つまり、上述の算出した要望数が図5に示した判定基準を表すグラフのどの範囲に該当するかの判断を行う(S2)。この要望数の該当する位置が“■”の範囲の場合には現在の目標温度Tを維持し、“▼”の場合には、現在の目標温度Tから所定値(例えば(ΔT=0.5℃)下げた温度を新たな目標温度Tとし、“▲”の範囲内にあれば、現在の目標温度(設定温度)Tから所定値(ΔT=0.5℃)上げた温度を新たな目標温度Tとする(S31〜S33)。このプロットによって目標温度Tが決定される(S4)。ここで目標温度Tが決定されると、この決定した目標温度Tが制御部4より制御信号として空調制御コントローラ1bへ送出される。また、図5に示す判定基準の領域については、目標温度を変更制御する所定の基準値によって適宜に設定することができるものであり、図示している例は、目標温度を上げる側及び下げる側の両方の基準値を2人とした場合を示している。
ところで、上述した基準値は目標温度を上げる側及び下げる側のそれぞれの要望について設定することが可能なものである。本実施形態で示した例以外に、目標温度を上げる側及び下げる側の要望をさらに細かい段階に分けることも可能であり、その場合には、それぞれの要望の種類毎に基準値が設定されることになる。例えば、上げる側では「もっと温度を上げてほしい」と「少し温度を上げてほしい」とに分けて、目標温度を変更する制御を行う基準値を「もっと温度を上げてほしい」は3人、「少し温度を上げてほしい」は2人といったようにそれぞれの要望に対する基準値を設定することが可能である。
次に、利用者個人の要望申告頻度から目標温度の変更を行う基準値の推定処理について説明する。個人の要望申告頻度や、適切な基準値を適用した場合での目標温度の変更制御の頻度は、規模に関わらず統計的に一致する傾向にあることに注目すれば、全体の利用者の要望申告頻度や目標温度の変更制御の頻度から目標温度を変更する制御を開始する基準値の修正を行うことができる。
例えば、申告発生頻度Pd、想定される利用者人数N、要望数D、制御時間tとした場合に、Pd=D/(N×t)・・・(式1)が成立する。申告発生頻度Pdは利用者が要望を発する確率であり、予め記憶部6に設定され、制御部4によって読み出される。(式1)を変形して、N=D/(Pd×t)・・・(式2)を導出すれば想定される利用者人数Nを算出することができる。さらに、算出された利用者人数Nより、目標温度の変更制御を開始する基準値Mを算出することができる。ここで、基準値Mと利用者人数Nとの関係は予め設定しておき、記憶部6に保存させておくことができる。例えば、基準値Mと利用者人数Nとの関係は、下記に示すような式によって表すことができる。
M=2(N<19)、M=3(20≦N<29)、M=4(29≦N<39)、M≧5以降も同様にMはNを10で除した場合の整数部分に1を加えた値で表される。
また、利用者の要望数が基準値を超えた場合に、目標温度の変更制御が行われることより、一定時間内の利用者の要望数の合計を基準値Mで除した数が、一定時間内に行われた目標温度の変更制御の回数とほぼ同数であるとみなすことができる。ここで、一定時間内に行われた利用者の要望の総数をDa、目標温度の変更制御の頻度をfとした場合には、f≒Da/M・・・(式3)が成立するといえる。
上述したように、目標温度の変更制御の頻度fと基準値Mとが一定の関係を持つことより、過去の目標温度の変更制御の頻度fを記憶部6に蓄積しておき、この過去のデータを用いて空間αに対する適切な基準値Mを随時に修正していくこともできる。例えば、目標温度の変更制御が非常に頻繁に行われている場合は、基準値Mを修正することによって、目標温度の頻繁な変更による空調設備機器1aへの負担を軽減する効果もえることができる。ここで、この修正に用いる目標温度の変更制御の頻度fの蓄積されている過去データについて、蓄積された時期の違いに応じて重み付けを行うことによって、より精度の高い基準値Mの修正を実施することが可能である。
例えば、蓄積時期を最新のデータから1週間間隔でグルーピングし、夫々のグループに対して、最新のデータのグループに対しては重み1、1週間前のデータのグループに対しては重み0.9、更に1週間前のデータのグループに対しては重み0.8などのようにデータの蓄積時期によって重み付けの変えることによって、より最近の環境に応じた基準値Mの算出が可能となる。
また、基準値Mを2以上とすることによって1人の要望に左右されることない安定した環境制御を提供することができる。基準値Mを1とした場合では、1人の要望のみによって目標温度の変更制御が行われてしまい、利用者全体の快適性と省エネの最適化を図る合意形成のもつ機能が失われてしまう恐れがあるためである。
ところで、図6に示すように、要望数を時間別に整理した場合、ほとんど申告がされていない時間帯が存在する場合がある。これは大半の利用者が退社してしまったオフィス空間の夜間や日中に外出する営業業務を主体とした利用者が多いオフィス空間の日中に発生することが考えられる。この時間帯の空間には、例えば1又は2人しか利用者が存在しておらず、合意形成する必要がないと考えられる状況にも関わらず、合意形成によって目標温度の変更制御が行われていることになる。この場合は、要望を申告したにも関わらず基準値に満たずに要望した空間の温度とすることができずに利用者の不満を増大する恐れがある。
そこで、上記の状況において、合意形成を一時的に解除することによって、利用者の不満を解消する制御を行う。ここで、制御部4は、予め記憶部6に保存されたスケジュールテーブルなどによって、ある時刻になると合意形成を解除する制御を行うこともできる。合意形成を解除した場合には、利用者の「温度を上げてほしい」又は「温度を下げてほしい」の要望申告に対して、合意を形成することなく、直接に目標温度の変更を行うことができる。すなわち、1人の利用者が「温度を上げてほしい」と申告した場合には、目標温度を所定の温度幅で上げる制御を行い、反対に「温度を下げてほしい」と申告した場合には、目標温度を所定の温度幅で下げる制御を行う。ここで、省エネに大きく反するような目標温度設定となることを防止するために、申告に対して目標温度が変更され、空間の測定温度が該目標温度と合致するまでの間は、更なる申告があった場合にも目標温度の更なる変更は行わない制御内容とすることによって過剰な目標温度の変更を防止することができる。
したがって、環境制御機器1に対して制御信号を送出するための所定の基準値を、利用者人数に依存することがない環境の特性より決定される申告発生頻度より推定することで、利用者の人数の計数を必要とせず、利用者の人数の増減に関わらず、利用者からの要望申告による環境制御を安定して行うことができる低コストのシステムを実現することができる。
また、所定の基準値の最小値を2とすることで、利用者の1人の要望により制御されることを避けることができ、適切な利用者の要望人数で環境制御機器1へ制御信号を送出することができるので、安定した環境制御ができる。
さらに、利用者は要望入力装置2より複数種の要望を入力することができ、制御部4は該複数種の要望のそれぞれの数に対して判断基準を設けているので、利用者の要望内容の詳細を把握することが可能となり、より的確な環境制御を行うことができる。
なお、本実施形態としては、空調制御機器を対象にしたシステムを例にして説明したが、これを照明制御やブラインド制御などを対象としたシステムに用いることもできるものであるので、システム構成については図1に特に限定されるものではない。
次に、本願発明の第2の実施形態の説明をする。ここでは、上記第1の実施形態と相違する制御ロジックの内容についてのみ説明し、その他の事項(構成、作用効果等)については、上記第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
制御部4は、前記所定の基準値として、環境制御機器1によるエネルギー消費量が増大する方向への制御信号を環境制御機器1に送出する場合の非省エネ制御開始基準値と、環境制御機器1によるエネルギー消費量が減少する方向への制御信号を環境制御機器に送出する場合の省エネ制御開始基準値と、を有しており、送出される制御信号の値に基づいて非省エネ制御開始基準値及び省エネ制御開始基準値を変更するものであり、非省エネ制御開始基準値は省エネ制御開始基準値より大きい値とするものである。
さらに、制御部4は、環境制御機器1より前記所定空間αの環境情報を取得し、該環境情報が所定の目標値を超えた場合に、非省エネ制御開始基準値及び省エネ制御開始基準値を別途設定される省エネ緩和設定基準値へ変更されるものである。
記憶部6は、省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値と目標温度との関係を予め保存しておくことができ、制御部4は、目標温度に対応した省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値を用いて目標温度の変更制御を行う。さらに、記憶部6は、省エネ制御の緩和を実施する環境情報に対する目標値と環境情報がこの目標値を越えた場合に設定される省エネ緩和設定基準値を予め保存しておくことができ、制御部4は、この目標値と環境制御機器1より取得する環境情報とを比較して、省エネ制御を緩和するか否かの判断を行い、省エネ制御を緩和すると判断した場合には、省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値をこの省エネ緩和設定基準値とする制御を行う。
以下、この実施形態の環境制御システムを、より具体的詳細に説明する。目標温度の変更制御を行う判断に用いられる基準値について、目標温度の変更が省エネ効果を奏する制御か否かで2種類の基準値を設定されている。すなわち、空調設備機器1aが冷房運転を行っている場合では、目標温度を上げる方向は省エネ効果を奏する制御となるので、この場合の基準値を省エネ制御開始基準値とし、逆に目標温度を下げる方向は省エネ効果を奏さない制御となるので、この場合の基準値を非省エネ制御開始基準値とする。また、空調設備機器1aが暖房運転を行っている場合では、目標温度を下げる方向は省エネ効果を奏する制御となるので、この場合の基準値は省エネ制御開始基準値となり、逆に目標温度を上げる方向は省エネ効果を奏さない制御となるので、この場合の基準値は非省エネ制御開始基準値となる。
そして、省エネ制御開始基準値と非省エネ制御開始基準値はそれぞれ予め設定して記憶部6に保存されており、空間αの利用状況、運用状況などによって自由に設定できるものである。また、上述したように、記憶部6に蓄積されている申告発生頻度Pd又は目標温度の変更制御の頻度fのデータに基づいて省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値を変更したり、利用状況や運用状況の変更に伴って変更してもよい。このことによって、空間αの環境を、省エネ効果を重視した環境とするか、快適性を重視した環境とするかを設定することができる。すなわち、非省エネ制御開始基準値を省エネ制御開始基準値より大きな値とすることによって、省エネ効果を奏する方向への要望数は、省エネ効果を奏しない方向への要望数より少ない場合でも基準値がより小さい設定がされていることによって、省エネ側へと誘導することができる。例えば、省エネ制御開始基準値を2、非省エネ制御開始基準値を4とした場合において、要望数がそれぞれ同数の3であった場合には、省エネ制御開始基準値に対しては基準値を超えているが、非省エネ制御開始基準値は超えていないので、省エネ方向への目標温度の変更制御が行われることになり、省エネ効果を奏する側へ目標温度が変更されやすくなる。
さらに、省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値は目標温度に基づいて値を変更することができる。例えば、目標温度が26℃のときに省エネ制御開始基準値を2、非省エネ制御開始基準値を4とし、目標温度が27℃のときに省エネ制御開始基準値を3、非省エネ制御開始基準値を3とし、さらに目標温度が28℃のときに省エネ制御開始基準値を4、非省エネ制御開始基準値を2とした場合のように、目標温度の低い状態では省エネ効果を奏する方向へ誘導するため、省エネ制御開始基準値より非省エネ制御開始基準値を大きく設定する。また、目標温度の高い状態では省エネを満たす状態である一方、空間αの利用状況や運用状況などによっては、不満の発生しやすい状態でもある。このために、快適性を重視した要望を優先することで、過度の省エネ状態になることを防ぎ、利用者の不満を抑えることができる。なお、省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値と目標温度との関係は予め記憶部6に保存しておくことができ、利用状況や運用状況などによって変更することが可能であり、制御部5は記憶部6より該関係を参照して演算を行うことができる。
上述したように、目標温度を変更する基準値として、省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値を設定し、非省エネ制御開始基準値を省エネ制御開始基準値より大きな値とすることによって、省エネ効果を奏する側へ目標温度が変更されやすくすることができる。さらに、目標温度の値に対して省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値を異なった値にすることにより、さらに省エネ効果を奏する側へ目標温度が変更されやすくすることもできる。ここで、空間αの利用状況や運用状況に対して、空調設備機器1aの制御能力が不足している場合には、計測温度が目標温度と同じ値にならないままに平衡状態となる不具合が発生することが考えられる。
例えば、目標温度が26℃であり、この場合の省エネ制御開始基準値が2、非省エネ制御開始基準値が4であり、空間αの計測温度が30℃であったとする。空調設備機器1aの能力が不足して目標温度26℃、計測温度30℃で平衡状態となっていた場合、利用者にとって計測温度30℃である空間αが不快であれば、「温度を下げてほしい」の要望を4人以上の利用者が申告しなければ、目標温度の値は下げる方向へ変更されない。快適性を損なうことがない制御を行うためには、目標温度を早く上げることによって空調設備機器1aの冷房能力を上げる必要がある。
そこで、空間αの現状を計測温度などの環境情報によって把握し、省エネ制御を緩和し、快適性を損なうことがない制御を行うため、環境情報の値に基準を設けている。随時に合意形成の結果によって目標温度が設定されて、さらに、該目標温度に基づいて省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値が変更されているが、環境情報の値が設定された基準を超えて過度の省エネ制御であると判断された場合に、予め設定されている省エネ制御を緩和する基準値へ変更することによって、上述したような空調設備機器1aの能力不足によって快適性を損なうことを防ぐことができると考えられる。
次に、この空調設備機器1aの能力不足によって快適性を損なうことを防ぐ処理について図7のフローチャートに基づいて説明する。本実施形態における環境情報は空間αの測定温度であり、該測定温度は、温度センサ1cによって測定されて空調制御コントローラ1bを介して制御部4へ入力される(S101)。過度の省エネ制御であるか否かの判断を行うための計測温度の基準である目標測定温度を予め設定して記憶部6に保存しておく。制御部4によって、温度センサ1cによって計測された計測温度の値を空調制御コントローラ1bより所得し、記憶部6より目標測定温度を所得する。そして、測定温度と目標測定温度との比較を行ない(S102)、測定温度が目標測定温度を超えた場合には、合意形成の結果に基づいて算出されている目標温度の値に関わらず、省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値の値は、予め設定されて記憶部6に保存されている所定の基準値である省エネ緩和設定基準値へと変更される(S103)。
例えば、合意形成の結果に基づいて算出される目標温度が26℃の場合の省エネ制御開始基準値を2、非省エネ制御開始基準値を4と設定され、目標測定温度を30℃と設定されており、上述した省エネ緩和設定基準値について省エネ制御開始基準値に対しては4、非省エネ制御開始基準値に対しては2と設定されているとする。ここで、制御部4が合意形成の結果に基づいて算出した目標温度の値が26℃の場合、省エネ制御開始基準値は2、非省エネ制御開始基準値は4となる。この場合において、実際の空間αの測定温度が30℃を超えた場合は、省エネ緩和設定基準値へと変更されることになり、省エネ制御開始基準値に対しては4、非省エネ制御開始基準値に対しては2へと変更される。このように基準値が変更されることによって、「温度を下げてほしい」の要望数が4から2へと変更された非省エネ制御開始基準値を超えることによって、目標温度が下げられる。このように、目標温度が少ない要望数で下げられやすくなり、空調設備機器1aの能力を上げることができるので、快適性を損なうことを防止することができる。また、その後に測定温度が目標測定温度より小さくなった場合には、省エネ緩和を解除して省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値は元の値へと戻される(S104)。
ここで、予め記憶部6に保存されている省エネ制御開始基準値及び非省エネ制御開始基準値についての省エネ緩和設定基準値と目標設定温度は、利用状況や運用状況などによって随時に変更することが可能である。
したがって、制御部4が、記憶部6に保存されている非省エネ制御開始基準値及び省エネ制御開始基準値を用いた制御を行うことで、目標温度が省エネ効果を奏する方向へ変更されやすい基準値を設定するか、そうでないかを調整することができるので、環境制御を省エネ重視の制御であるか又は快適性重視の制御であるかの設定を行うことができる。さらに、制御信号の値を用いて非省エネ制御開始基準値及び省エネ制御開始基準値を変更することによって、よりきめ細かな環境制御を提供することができる。
そして、非省エネ制御開始基準値を省エネ制御開始基準値より大きい値とすることによって、目標温度が省エネ効果を奏する方向へ変更しやすい基準値の設定となるので、環境制御を省エネ側に誘導することができる。
しかも、所定空間の環境情報が所定の目標値を超えた場合に、非省エネ制御開始基準値及び省エネ制御開始基準値を所定の基準値とすることによって、必要以上に省エネ側に制御されることによって快適性を損なうことを防ぐことができるので、過度の省エネ環境とならず、利用者の快適性を損なうことを防ぐことができる。