本発明は、X線診断装置及び画像データ生成方法に係り、特に、造影剤投与前及び造影剤投与後の被検体に対して得られたX線画像データのサブトラクション処理によりDSA画像データを生成するX線診断装置及び画像データ生成方法に関する。
X線診断装置やMRI装置、あるいはX線CT装置などを用いた医用画像診断技術は、コンピュータ技術の発展に伴って急速な進歩を遂げ、今日の医療において必要不可欠なものとなっている。
X線診断法は、近年ではカテーテル手技の発展に伴い循環器分野を中心に進歩を遂げている。循環器診断用のX線診断装置は、通常、X線発生部及びX線検出部と、これらを保持する保持機構と、被検体を載置する寝台(天板)と、画像データ生成部及び表示部を備え、CアームあるいはΩアームによって構成される保持機構と天板を回動あるいは移動させることにより被検体に対して好適な撮影位置や撮影方向を設定している。
又、X線診断装置のX線検出部として、従来、X線フィルムやI.I.(イメージ・インテンシファイア)が使用され、更に、近年では、微小なX線検出素子が2次元配列された平面検出器が用いられている。そして、I.I.や平面検出器を用いることにより、従来のフィルム方式では不可能であったリアルタイム撮影が可能となり、更に、X線画像データ(以下では、画像データと呼ぶ。)がデジタル信号で収集可能なため種々の画像処理を容易に行なうことができるようになった。
更に、循環器診断用のX線診断装置では、造影剤投与前及び造影剤投与後の診断対象部位に対して画像データを収集し、これらの画像データのサブトラクション処理(減算処理)により造影剤が注入された血管のみを高いコントラスト分解能で表示するDSA(Digital subtraction angiography)撮影等の新たな撮影法が可能となった。
DSA撮影では、造影剤投与前の被検体における診断対象部位にX線を照射して第1の画像データ(マスク画像データ)を予め生成し、造影剤を投与した前記診断対象部位に再度X線を照射して第2の画像データ(コントラスト画像データ)を生成する。次いで、同一の診断対象部位に対して得られたマスク画像データとコントラスト画像データをサブトラクション処理することによりDSA画像データを生成する。
このとき、被検体の呼吸に伴って血管や周囲の臓器が移動(呼吸性移動)するためマスク画像データ及びコントラスト画像データの位置や形状に差異が発生する。そして、これらの画像データのサブトラクション処理によって得られたDSA画像データにおいて、上述の位置や形状の差異(誤差)に起因するアーチファクトが発生しDSA画像データの画質が著しく劣化するという問題点があった。
そして、画質劣化の原因となる呼吸性移動を抑えるために、被検体に対して所定撮影期間(例えば、数十秒)の息止めを課する方法が考えられるが、長期間の息止めは被検体に対し大きな身体的負担を負わせ、特に、重篤な被検体に対してこの方法を適用することは不可能である。
従って、従来のDSA撮影では、先ず、マスクステージにて自然呼吸下の被検体に対し造影剤投与前のマスク画像データを所定のX線照射レート(被検体に対する単位時間当たりのX線照射回数)Rmで時系列的に収集し、同様にして、コントラストステージにて前記被検体に対し造影剤投与後のコントラスト画像データを所定のX線照射レートRcで時系列的に収集する。そして、複数枚のマスク画像データの中から任意に選択した1枚のマスク画像データと複数枚のコントラスト画像データの各々とのサブトラクション処理により時系列的なDSA画像データを生成する。
次に、上述のDSA画像データの中から所望の時相(例えば、臨床的に注目すべき時相)におけるDSA画像データを選択し、このDSA画像データに基づいて印刷出力用のDSA画像データを生成する際、操作者は、表示部に時系列的に表示される上述のDSA画像データの中から所望の時相におけるDSA画像データを暫定的な印刷用DSA画像データ(以下では、第1の印刷用DSA画像データと呼ぶ。)として選択する。そして、この第1の印刷用DSA画像データの生成に用いたコントラスト画像データとマスクステージにおいて得られた複数枚のマスク画像データの各々とのサブトラクション処理を順次繰り返すことによりアーチファクトの最も少ない印刷用DSA画像データ(以下では、第2の印刷用DSA画像データと呼ぶ。)を生成する。
即ち、選択された所望時相のDSA画像データに用いられたコントラスト画像データと順次更新されるマスク画像データとのサブトラクション処理をポストプロセスにて行ない、前記コントラスト画像データに対し位置や形状の誤差が最も少ないマスク画像データ(以下では、最適マスク画像データと呼ぶ。)とのサブトラクション処理により第2の印刷用DSA画像データを生成する。尚、通常、上述のコントラスト画像データが得られた呼吸位相に最も近い呼吸位相のマスク画像データが最適マスク画像データとなる。
ところで、呼吸性移動に起因したアーチファクトが顕著に発生する腹部領域のDSA撮影では、腹部臓器を流れる血流の速度は比較的遅いため、DSA画像データのフレームレート(単位時間に生成あるいは表示されるDSA画像データの枚数)を決定するコントラスト画像データ収集時のX線照射レートRcは、心臓領域におけるDSA撮影の場合と比較して低くても構わないが、マスク画像データ収集時のX線照射レートRmをコントラスト画像データ収集時のX線照射レートRcと同程度にした場合、第1の印刷用DSA画像データに用いたコントラスト画像データに対して位置や形状の誤差が十分少ない最適マスク画像データを得ることが困難となり、従って、良質な第2の印刷用DSA画像データを安定して得ることが不可能となる。
このような問題点を解決するために、マスク画像データ収集時のX線照射レートRmをコントラスト画像データ収集時のX線照射レートRcより高くすることにより、第1の印刷用DSA画像データの生成に用いたコントラスト画像データに対して位置及び形状の誤差が少ないマスク画像データが生成される確率を向上させる方法も実際に行なわれている。
マスク画像データ収集時のX線照射レートRmをコントラスト画像データ収集時のX線照射レートRcより高く設定する方法によれば、呼吸性移動の大きい期間においても上述のコントラスト画像データに対して位置や形状の誤差が少ないマスク画像データを得る確率が高くなるため、高画質な第2の印刷用DSA画像データを安定して得ることが可能となる。
しかしながら、上述の従来法におけるマスク画像データ収集時のX線照射レートRmは、呼吸性移動が最も大きい期間における血管や周囲臓器の移動速度に基づいて高く設定され、呼吸性移動の少ない期間においても同一の高いX線照射レートRmによって時系列的なマスク画像データが生成される。即ち、呼吸性移動の少ない期間の被検体に対しても高いX線照射レートRmでX線が照射されるため、本来不要なX線照射により被検体に対する被曝量が増大するという問題点を有していた。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、被検体の呼吸性移動に基づいてマスク画像データ収集時のX線照射レートを制御することにより、自然呼吸下のDSA撮影における被検体に対しX線被曝量をあまり増大させることなく良質なDSA画像データの生成が可能なX線診断装置及び画像データ生成方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、請求項1に係る本発明のX線診断装置は、造影剤投与前及び造影剤投与後の被検体に対してX線を照射するX線照射手段と、
前記被検体を透過したX線を検出するX線検出手段と、前記被検体の呼吸情報に基づいて前記造影剤投与前のX線照射レートを設定する照射レート設定手段と、前記造影剤投与後のX線照射によって収集された所定時相のコントラスト画像データと前記造影剤投与前のX線照射レートに基づいて時系列的に収集された複数のマスク画像データの中から選択した前記コントラスト画像データの時相に対応する時相のマスク画像データとのサブトラクション処理によりDSA画像データを生成する画像データ生成手段と、前記DSA画像データを出力する出力手段とを備えたことを特徴としている。
又、請求項9に係る本発明の画像データ生成方法は、被検体から検出された呼吸波形の波形変化率に基づいて造影剤投与前のX線照射レートを設定するステップと、造影剤投与前の前記被検体に対し前記X線照射レートでX線を照射し時系列的な複数のマスク画像データを収集するステップと、前記マスク画像データの収集における前記被検体の呼吸位相情報を前記マスク画像データに対応させて保存するステップと、造影剤投与後の前記被検体に対しX線を照射しコントラスト画像データを収集するステップと、前記複数のマスク画像データの中から前記コントラスト画像データの呼吸位相に最も近い呼吸位相のマスク画像データを選択するステップと、前記コントラスト画像データと選択された前記マスク画像データとのサブトラクション処理によりDSA画像データを生成するステップとを有することを特徴としている。
本発明によれば、被検体の呼吸性移動に基づいてマスク画像データ収集時のX線照射レートを制御することにより、自然呼吸下のDSA撮影における被検体に対しX線被曝量をあまり増大させることなく良質なDSA画像データの生成が可能となる。
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
以下に述べる本発明の第1の実施例では、先ず、マスクステージにおいて、造影剤投与前の診断対象部位に対しX線を照射して1呼吸周期以上の期間における時系列的な複数枚のマスク画像データを収集し、更に、コントラストステージにおいて、造影剤投与後の前記診断対象部位に対しX線を照射して時系列的なコントラスト画像データを生成する。このとき、マスクステージにおけるX線照射レートは、マスク画像データの収集と並行して計測される前記被検体の呼吸波形における変化率に基づいて設定される。
そして、上述のコントラストステージにおいて、リアルタイムで得られるコントラスト画像データの各々とマスクステージにて得られた複数枚のマスク画像データの中から任意に選択されたマスク画像データ(例えば、最初の時相のマスク画像データ)とのサブトラクション処理により時系列的なDSA画像データを生成する。
次に、生成したDSA画像データの中から所望の時相におけるDSA画像データを第1の印刷用DSA画像データとして選択し、この第1の印刷用DSA画像データの生成に用いたコントラスト画像データとマスクステージにて得られた複数枚のマスク画像データの各々とのサブトラクション処理を順次行なう。そして、アーチファクトの最も少ないDSA画像データが生成された場合のマスク画像データを検索し、このマスク画像データを用いて得られたDSA画像データを第2の印刷用DSA画像データとして印刷出力する。
(装置の構成)
本発明の第1の実施例におけるX線診断装置の構成につき図1乃至図4を用いて説明する。尚、図1は、本実施例におけるX線診断装置の全体構成を示すブロック図であり、図2は、このX線診断装置が備えるX線発生部、X線検出部及び移動機構部の具体的な構成を示すブロック図である。
図1のX線診断装置100は、被検体150に対してX線を発生するX線発生部1と、被検体150を透過したX線を2次元的に検出すると共に、この検出結果に基づいて投影データを生成するX線検出部2と、X線発生部1の後述するX線照射部12とX線検出部2から構成された撮像系を保持する図示しない保持部と、被検体150を載置する天板3と、前記撮像系や天板3の移動制御を行なう移動機構部4と、X線検出部2において生成された投影データに基づいて画像データの生成と保存を行なう画像データ生成部5と、画像データ生成部5において生成された画像データを表示あるいは印刷する出力部6を備えている。
更に、X線診断装置100は、被検体150の呼吸波形における変化率に基づいてマスク画像データ収集時(マスクステージ)のX線照射レートを設定する照射レート設定部7と、被検体情報の入力、X線照射条件の設定、天板3の移動や撮像系の回動に関する指示信号の入力等を行なう入力部8と、X線診断装置100における上述の各ユニットを統括的に制御するシステム制御部9を備えている。
次に、X線診断装置100を構成するX線発生部1、X線検出部2及び移動機構部4の詳細につき図2を用いて説明する。
図2のX線発生部1は、X線照射部12と高電圧発生部11を有しており、X線照射部12はX線管121とX線可動絞り器122を、又、高電圧発生部11は高電圧発生器112と高電圧制御部111を夫々備えている。X線照射部12のX線管121は、X線を発生する真空管であり、陰極(フィラメント)より放出された電子を高電圧により加速してタングステン陽極に衝突させX線を発生する。一方、X線可動絞り器122は、被検体150に対する被曝線量の低減と画質向上を目的として用いられ、X線管121から放射されたX線の被検体150における照射領域を設定する絞り羽根を備えている。
又、高電圧発生部11の高電圧発生器112は、X線管121の陰極から発生する熱電子を加速するために、陽極と陰極の間に印加する高電圧を発生させ、高電圧制御部111は、システム制御部9を介して供給されるX線照射条件に基づいて高電圧発生器112の管電流/管電圧、X線照射時間、X線照射レート等を制御する。
一方、X線検出部2は、X線発生部1のX線照射により被検体150の診断対象部位(撮影領域)を透過したX線を電荷に変換して蓄積する平面検出器21と、この平面検出器21に蓄積された電荷を時系列的に読み出すためのゲートドライバ22と、読み出された電荷から投影データを生成する投影データ生成部20を備えている。尚、X線検出方式には、X線を直接電荷に変換する方式と、一旦光に変換した後電荷に変換する方式があり、本実施例では前者を例に説明するが後者であっても構わない。又、平面検出器21の代わりにX線I.I.を用いた方式であっても構わない。
X線検出部2の平面検出器21は、微小な検出素子を2次元的に配列して構成されており、各々の検出素子はX線を感知し入射X線量に応じて電荷を生成する光電膜と、この光電膜に発生した電荷を蓄積する電荷蓄積コンデンサと、電荷蓄積コンデンサに蓄積された電荷を所定のタイミングで読み出すTFT(薄膜トランジスタ)(何れも図示せず)を備えている。
一方、投影データ生成部20は、平面検出器21から読み出された電荷を電圧に変換する電荷・電圧変換器23と、電荷・電圧変換器23の出力をデジタル信号に変換するA/D変換器24と、平面検出器21からパラレルに読み出されデジタル変換されたX線情報を時系列信号に変換するパラレル・シリアル変換器25を備えている。
次に、移動機構部4は、X線照射部12及びX線検出部2(撮像系)を被検体150に対して相対的に移動させるために、天板3を被検体150の体軸方向に移動させる天板移動機構41と、撮像系を保持部と共に被検体150の周囲で回動あるいは移動させる撮像系移動機構42と、天板移動機構41及び撮像系移動機構42を制御する機構制御部43を備えている。そして、機構制御部43は、システム制御部9を介して入力部8から供給される指示信号に従って天板3及び撮像系の移動や回動を制御し、被検体150に対するX線照射方向やX線照射位置の設定あるいは更新を行なう。
そして、X線発生部1は、システム制御部9から供給される照射レート制御信号に基づいて、造影剤投与前の被検体150に対してX線を後述のX線照射レートRmで照射し、X線検出部2は、被検体150を透過したX線を検出してマスクステージの投影データを生成する。同様にして、X線発生部1は、造影剤投与後の被検体150に対してX線を所定のX線照射レートRcで連続的に照射し、X線検出部2は、被検体150を透過したX線を検出してコントラストステージの投影データを生成する。
図1に戻って、画像データ生成部5は、画像データ記憶部51と画像演算処理部52を備え、画像データ記憶部51は、マスク画像データ記憶部511とコントラスト画像データ記憶部512を有している。そして、マスク画像データ記憶部511には、造影剤投与前の被検体150に対するX線照射においてX線検出部2が検出した所定期間の時系列的な投影データがマスク画像データとして保存され、同様にして、コントラスト画像データ記憶部512には、造影剤投与後の前記被検体150に対するX線照射においてX線検出部2が検出した時系列的な投影データがコントラスト画像データとして保存される。尚、マスク画像データ記憶部511には、被検体150の1呼吸周期以上の期間でX線照射レートRmによって収集された複数枚のマスク画像データが保存される。
一方、画像データ生成部5の画像演算処理部52は、画像データ記憶部51に保存されたマスク画像データ及びコントラスト画像データを用いたサブトラクション処理によりDSA画像データを生成する。即ち、画像演算処理部52は、先ず、マスク画像データ記憶部511に保存されている時系列的な複数枚のマスク画像データの中から、例えば、最初の時相におけるマスク画像データを選択し、このマスク画像データとコントラスト画像データ記憶部512からリアルタイムで供給されるコントラスト画像データの各々とのサブトラクション処理を行なって時系列的なDSA画像データを生成する。
又、上述の時系列的なDSA画像データの中から選択された暫定的な印刷用DSA画像データ(第1の印刷用DSA画像データ)の生成に使用されたコントラスト画像データをコントラスト画像データ記憶部512から読み出し、更に、マスクステージにおいて得られた所定期間の時系列的なマスク画像データをマスク画像データ記憶部511から順次読み出す。そして、読み出したコントラスト画像データと複数枚のマスク画像データの各々とのサブトラクション処理を行なってアーチファクトが最も少ないDSA画像データが生成される最適マスク画像データを検索し、この最適マスク画像データを用いて生成したDSA画像データを印刷用DSA画像データ(第2の印刷用DSA画像データ)として出力部6に出力する。
更に、画像演算処理部52は、上述のDSA画像データに対し必要に応じて階調処理や輪郭強調処理等の画像処理を行なう機能を有している。
次に、出力部6は、表示部61と印刷部62を備え、表示部61は、図示しない表示データ生成回路、変換回路及びモニタを有している。そして、前記表示データ生成回路は、画像データ生成部5が生成した時系列的なDSA画像データあるいはポストプロセスにて生成した第1の印刷用DSA画像データや第2の印刷用DSA画像データに対し所定の表示形態に対応した変換処理を行ない、更に、その付帯情報である数字や各種文字等を合成して表示データを生成する。次いで、前記変換回路は、この表示データに対してD/A変換とテレビフォーマット変換を行なって映像信号を生成し前記モニタに表示する。
一方、出力部6の印刷部62は、電気的な画像データをX線フィルムに印刷する機能を有し、画像データ生成部5から供給された第2の印刷用DSA画像データをX線フィルムに印刷出力する。
次に、照射レート設定部7は、血管やその周囲臓器の呼吸性移動速度に対応する呼吸波形の変化率に基づいてマスクステージにおけるX線照射レートを設定あるいは更新する機能を有し、呼吸波形検出部71と、波形変化率算出部72と、閾値処理部73と、照射レートデータ記憶部74を備えている。
呼吸波形検出部71は、例えば、被検体150の胸部に対して装着可能な図示しない圧力センサを呼吸センサとして備え、この圧力センサの出力情報に基づいて被検体150の呼吸波形を検出する。但し、呼吸波形の検出方法は上述の圧力センサに限定されるものではなく、例えば、鼻孔近傍にガスセンサを装着することによって呼吸波形を検出してもよい。
波形変化率算出部72は、例えば微分回路を備え、呼吸波形検出部71において検出された呼吸波形の変化率を算出する。一方、閾値処理部73は、絶対値回路と比較回路を備え、波形変化率算出部72から出力された呼吸波形の波形変化率曲線に対し絶対値を求め、この絶対値に対して所定の閾値αを設定する。そして、波形変化率曲線の絶対値が閾値αより大きな期間を体動期間に、又、波形変化率曲線の絶対値が閾値αより小さな期間を非体動期間に設定する。
一方、照射レートデータ記憶部74には、上述の体動期間及び非体動期間に対して予め設定されたX線照射レートRm1及びRm2の情報が保管され、更に、波形変化率曲線上の各々の値に対応するX線照射レートRmxの情報も予め保管されている。尚、マスクステージの非体動期間におけるX線照射レートRm2は、通常、コントラストステージのX線照射レートRcと等しくあるいは高く設定され、マスクステージの体動期間におけるX線照射レートRm1は、上述のX線照射レートRm2やX線照射レートRcより高く設定される。
図3は、照射レート設定部7における各ユニットの機能を説明する図であり、図3(a)は、呼吸波形検出部71が検出した被検体150の呼吸波形、図3(b)は、波形変化率算出部72が算出した前記呼吸波形の波形変化率曲線、図3(c)は、閾値処理部73が前記波形変化率曲線に基づいて設定した体動期間及び非体動期間、更に、図3(d)は、マスクステージの体動期間及び非体動期間におけるX線照射タイミングを夫々示している。
図3(a)に示した呼吸波形では、例えば、呼気期間T01において最小値を示し、吸気期間T03において最大値を示す。そして、これらの期間における血管やその周辺臓器の呼吸性移動は比較的小さい。一方、呼気から吸気への移行期間T02あるいは吸気から呼気への移行期間T04における呼吸性移動は呼気期間T01や吸気期間T02と比較して大きい。
一方、図3(b)の波形変化率曲線は、上述の呼吸波形を波形変化率算出部72によって微分処理して得られたものであり、呼気から吸気への移行期間T02において極大値を示し、吸気から呼気への移行期間T04において極小値を示す。そして、被検体150の血管や臓器における呼吸性移動の大きさとこの波形変化率曲線の値は良い相関関係にあると見なすことができ、例えば、移行期間T02における呼吸性移動の方向は移行期間T04における呼吸性移動の方向に対して反対方向となる。
次に、図3(c)は、上述の波形変化率曲線の絶対値と初期設定された閾値αとを比較することにより設定された体動期間Taと非体動期間Tbを示しており、体動期間Taは、波形変化率曲線の呼気から吸気への移行期間T02及び吸気から呼気への移行期間T04に対応し、非体動期間Tbは、呼気期間T01及び吸気期間T03に対応している。
又、図3(d)に示したマスクステージのX線照射タイミングでは、体動期間TaにおいてX線照射レートRm1(即ち、X線照射間隔ΔTm1=1/Rm1)のX線照射が行なわれ、非体動期間TbにおいてX線照射レートRm2(即ち、X線照射間隔ΔTm2=1/Rm2)のX線照射が行なわれる。
即ち、照射レート設定部7は、被検体150から得られた呼吸波形の変化率に基づいて呼吸性移動の大きさを推定し、呼吸性移動が顕著な体動期間Ta(即ち、移行期間T02及びT04)においても良質なDSA画像データの生成を可能とするマスクステージのX線照射レートRm1を設定する。
一方、図4は、本実施例におけるマスクステージとコントラストステージにおけるX線照射タイミングを示したものであり、図4(a)は、被検体150から検出された呼吸波形であり、図4(b)は、この呼吸波形の変化率に基づいて設定されたマスクステージ及びコントラストステージにおけるX線照射タイミングを示している。この図4(b)に示すように、マスクステージでは体動期間TaにおけるX線照射レートRm1のX線照射と非体動期間TbにおけるX線照射レートRm2のX線照射が交互に行なわれ、コントラストステージでは全期間TcにわたってX線照射レートRcのX線照射が行われる。そして、これらのX線照射レートに対応してフレームレートRm1及びRm2のマスク画像データとフレームレートRcのコントラスト画像データが時系列的に生成される。
再び図1に戻って、入力部8は、キーボード、トラックボール、ジョイスティック、マウスなどの入力デバイスや表示パネルあるいは各種スイッチ等を備えたインタラクティブなインターフェースであり、被検体情報の入力、撮像系の回動/移動方向及び回動/移動速度の設定、天板3の移動方向及び移動速度の設定、X線照射条件(即ち、管電圧、管電流、X線照射時間等)の設定、閾値αの設定、リマスク処理モードの選択、第1の印刷用DSA画像データの選択、第2の印刷用DSAを生成するための最適マスク画像データの検索指示、更には、マスク画像データやコントラスト画像データの収集開始コマンド及び収集終了コマンドの入力等を行なう。
そして、システム制御部9は、図示しないCPUと記憶回路を備え、入力部8から供給された入力情報や設定情報を前記記憶回路に一旦保存した後、これらの情報に基づいて上述の各ユニットを統括的に制御し、表示用及び印刷用のDSA画像データの生成と出力を行なう。
(画像データの生成手順)
次に、図5に示したフローチャートを用いて本実施例のX線診断装置100による印刷用DSA画像データの生成手順について説明する。
画像データの生成に先立って、操作者は、X線診断装置100の入力部8において被検体情報を入力した後、マスクステージ及びコントラストステージにおけるX線照射条件や閾値α等の設定を行ない、これらの設定情報をシステム制御部9の記憶回路に保存する。
次いで、操作者は、呼吸波形検出部71の呼吸センサが胸部に装着された被検体150を天板3に載置し、X線照射部12とX線検出部2を有する撮像系と天板3を回動/移動することにより被検体150に対する好適な撮影方向と撮影位置を設定する(図5のステップS1)。
上述の初期設定が終了したならば、操作者はマスク画像データの収集開始コマンドを入力部8より入力する(図5のステップS2)、一方、このコマンド信号を受信したシステム制御部9は、自己の記憶回路に保存されているマスクステージのX線照射条件を読み出してX線発生部1の高電圧制御部111に供給し、更に、X線照射のための駆動信号を高電圧制御部111に供給する。
この駆動信号を受信した高電圧制御部111は、前記X線照射条件の情報に基づいて高電圧発生器112を制御しX線照射部12のX線管121に高電圧を印加する。そして、高電圧が印加されたX線管121は、X線可動絞り器122を介して被検体150にX線を照射し、被検体150を透過したX線は、その後方に設けられたX線検出部2の平面検出器21によって検出される。
ライン方向と列方向に2次元配列された平面検出器21の図示しない検出素子は、被検体150を透過したX線を検出し、そのX線透過量に比例した信号電荷を検出素子の電荷蓄積コンデンサに蓄積する。X線照射が終了しシステム制御部9からクロックパルスが供給されたゲートドライバ22は、平面検出器21に対して駆動パルスを供給して電荷蓄積コンデンサに蓄積された信号電荷を順次読み出す。
読み出された信号電荷は、投影データ生成部20の電荷・電圧変換器23において電圧に変換され、更に、A/D変換器24においてデジタル信号に変換された後パラレル・シリアル変換器25において1ライン分の投影データとして一旦保存される。そして、システム制御部9は、保存された投影データをライン単位でシリアルに読み出し、画像データ生成部5のマスク画像データ記憶部511に保存して最初の時相(マスクステージの第1時相)におけるマスク画像データを生成する(図5のステップS3)。
一方、照射レート設定部7の呼吸波形検出部71は、上述のステップS3におけるマスク画像データの生成と並行して被検体150の呼吸波形を検出し、波形変化率算出部72は、この呼吸波形を微分処理して呼吸波形の変化率を算出する。更に、閾値処理部73は、算出された変化率の絶対値を求め、この絶対値と初期設定された閾値αとの比較により上述のマスクステージにおける第1時相が体動期間Taに存在するか否かを判定する。
そして、マスクステージの第1時相が体動期間Taにある場合には、照射レートデータ記憶部74に予め保管されているX線照射レート情報に基づき体動期間のX線照射レートRm1を設定し、この設定情報をシステム制御部9に供給する。同様にして、マスクステージの第1時相が体動期間Tbにある場合には、非体動期間のX線照射レートRm2を設定してシステム制御部9に供給する(図5のステップS4)。
システム制御部9は、照射レート設定部7から供給されたX線照射レートRm1あるいはRm2の情報に基づいてX線照射間隔ΔTm1(ΔTm1=1/Rm1)あるいはX線照射間隔ΔTm2(ΔTm2=1/Rm2)を設定する(図5のステップS5)。
次いでシステム制御部9は、マスクステージの第1時相から時間ΔTm1後あるいは時間ΔTm2後に第2時相のX線照射を行なうための駆動信号をX線発生部1の高電圧制御部111に供給する。そして、X線発生部1とX線検出部2は、第1時相と同様にしてX線の照射と検出を行なって投影データを生成し、システム制御部9は、この投影データを画像データ生成部5のマスク画像データ記憶部511に保存して第2時相におけるマスク画像データを生成する(図5のステップS3)。
又、照射レート設定部7の各ユニットは、マスクステージの第2時相における呼吸波形の検出、呼吸波形変化率の算出、体動期間Ta/非体動期間Tbの判定及びX線照射レートの設定を行ない(図5のステップS4)、システム制御部9は、前記X線照射レートに基づいてX線照射間隔を設定する(図5のステップS5)。
以下同様にして1呼吸周期以上の期間において第3時相以降のマスク画像データの生成及び保存と照射レート設定部7が設定したX線照射レートに基づくX線照射間隔の設定が行なわれる(図5のステップS3乃至S5)。
所定期間における時系列的なマスク画像データが収集されたならば、被検体150に対して造影剤が投与され(図5のステップS6)、コントラスト画像データの収集が開始される(図5のステップS7)。即ち、システム制御部9は、自己の記憶回路に保存されているコントラスト画像データ収集時のX線照射条件を読み出してX線発生部1の高電圧制御部111に供給し、X線発生のための駆動信号を高電圧制御部111に供給する。
駆動信号を受信した高電圧制御部111は、前記X線照射条件の情報に基づいて高電圧発生器112を制御し、X線照射部12のX線管121に高電圧を印加して被検体150に対しX線を照射する。そして、X線検出部2は、被検体150を透過したX線を検出して投影データを生成し、画像データ生成部5におけるコントラスト画像データ記憶部512に保存してコントラストステージにおける最初(第1時相)のコントラスト画像データを生成する(図5のステップS8)。
次に画像データ生成部5の画像演算処理部52は、マスク画像データ記憶部511に保存されている時系列的なマスク画像データの中から、例えば、第1時相のマスク画像データを読み出し、このマスク画像データと、コントラスト画像データ記憶部512から読み出した第1時相のコントラスト画像データによるサブトラクション処理を行なって第1時相のDSA画像データを生成する。そして、生成したDSA画像データを出力部6の表示部61に表示する(図5のステップS9)。
次に、システム制御部9は、予め設定されたコントラストステージのX線照射レートRcに対応したX線照射間隔ΔTc(Tc=1/Rc)に基づいて、時間ΔTc後に次のX線照射を行なうための駆動信号を高電圧制御部111に供給する。一方、この駆動信号を受信した高電圧制御部111は、高電圧発生器112を制御し、X線照射部12のX線管121に高電圧を印加して被検体150に対しX線を照射する。そして、このとき得られた投影データはコントラスト画像データ記憶部512に保存されて第2時相のコントラスト画像データが生成される(図5のステップS8)。
次いで画像演算処理部52は、マスク画像データ記憶部511に保存されている前記第1時相のマスク画像データと第2時相のコントラスト画像データ記憶部512に保存されている第2時相のコントラスト画像データを読み出してサブトラクション処理を行ない第2時相のDSA画像データを生成する。そして、得られた第2時相のDSA画像データを表示部61に表示する(図5のステップS9)。
以下同様の手順によって第3時相以降のコントラスト画像データの生成と保存を行ない、更に、各々の時相におけるコントラスト画像データと第1時相のマスク画像データとのサブトラクション処理によって生成した第3時相以降の時系列的なDSA画像データを表示部61に順次表示する(図5のステップS8及びS9)。
次に、操作者は、上述の複数枚のDSA画像データの中から印刷出力用のDSA画像データを選択するために、表示部61に時系列的に表示されたDSA画像データを観察し、臨床的に有効な時相において生成されたDSA画像データを暫定的な印刷用DSA画像データ(第1の印刷用DSA画像データ)として選択する(図5のステップS10)。
次いで、入力部8においてリマスク処理のモードを選択し、この選択信号を受信したシステム制御部9は、画像データ生成部5の画像演算処理部52を制御して第1の印刷用DSA画像データの生成に用いられたコントラスト画像データをコントラスト画像データ記憶部512から読み出し、更に、マスクステージにおいて生成されマスク画像データ記憶部511に保存されている時系列的なマスク画像データを順次読み出す。
更に、読み出したコントラスト画像データとマスク画像データとのサブトラクション処理を行ない、最もアーチファクトの少ないDSA画像データが生成される場合のマスク画像データ(最適マスク画像データ)を検索する。そして、この最適マスク画像データを用いて生成したDSA画像データを印刷用DSA画像データ(第2の印刷用DSA画像データ)として出力部6の印刷部62に出力する(図5のステップS11)。
尚、上述の手順の一部は順序を入れ替えて実施することも可能であり、例えば、ステップS6における被検体150への造影剤投与は、ステップS7におけるコントラスト画像データ収集開始コマンドの入力直後に行なってもよい。
以上述べた本発明の第1の実施例によれば、被検体の呼吸性移動に基づいてマスク画像データ収集時のX線照射レートを制御することにより、コントラスト画像データに対して位置や形状の誤差が少ないマスク画像データを必要最小限のX線照射レートで得ることができるため、自然呼吸下のDSA撮影における被検体に対しX線被曝量をあまり増大させることなく良質なDSA画像データを生成することができる。
特に、本実施例では、被検体から検出された呼吸波形の変化率に基づいて呼吸性移動の大きさを推定しているため正確な推定が可能となる。
又、呼吸波形の変化率の絶対値と予め設定された閾値との比較により呼吸性移動が大きい体動期間と呼吸性移動が比較的小さい非体動期間に分類し、夫々の期間に対して予め設定されたX線照射レートによってマスク画像データを収集しているため、簡単な回路構成で安定したX線照射レートの設定が可能となる。
次に、本発明の第2の実施例について説明する。この第2の実施例では、先ず、造影剤投与前の診断対象部位に対しX線を照射して1呼吸周期以上の期間における時系列的な複数枚のマスク画像データを収集する。このとき、マスクステージにおけるX線照射レートは、上述の第1の実施例と同様に、マスク画像データの収集と並行して計測される前記被検体の呼吸波形における波形変化率に基づいて設定される。そして、このX線照射レートによるX線照射によって生成された時系列的なマスク画像データの各々は、前記呼吸波形に基づいて算出された呼吸位相の情報が付帯情報として付加されて保存される。
次いで、造影剤投与後の前記診断対象部位に対しX線を照射して時系列的なコントラスト画像データを生成し、これらのコントラスト画像データと上述のマスク画像データとのサブトラクション処理によってDSA画像データを生成する際、所定時相におけるコントラスト画像データの生成と並行して計測された呼吸位相情報に最も近い呼吸位相情報が付加されたマスク画像データを読み出し、このマスク画像データと前記コントラスト画像データとのサブトラクション処理によってDSA画像データを生成する。このような処理を時系列的に収集されたコントラスト画像データの各々に対して行なってDSA画像データの生成と表示を行ない、これらのDSA画像データの中から選択された所望時相のDSA画像データを印刷用DSA画像データとして印刷出力する。
(装置の構成)
本発明の第2の実施例におけるX線診断装置の構成につき図6のブロック図を用いて説明する。但し、図6において、図1に示した第1の実施例のX線診断装置100と同一の機能を有するユニットは同一の符号を付加しその詳細な説明を省略する。
即ち、図6に示した本実施例のX線診断装置200は、被検体150に対してX線を発生するX線発生部1と、被検体150を透過したX線を2次元的に検出すると共に、この検出結果に基づいて投影データを生成するX線検出部2と、X線発生部1のX線照射部12とX線検出部2によって構成される撮像系を保持する図示しない保持部と、被検体150を載置する天板3と、前記撮像系や天板3の移動制御を行なう移動機構部4と、X線検出部2において生成された投影データに基づいて画像データの生成とその保存を行なう画像データ生成部5aと、画像データ生成部5aにおいて生成された画像データを表示あるいは印刷する出力部6を備えている。
更に、X線診断装置200は、被検体150の呼吸波形における変化率に基づいてマスクステージのX線照射レートを設定する照射レート設定部7と、マスク画像データの収集タイミングにおける被検体150の呼吸位相を前記呼吸波形に基づいて算出する呼吸位相算出部30と、被検体情報の入力、X線照射条件の設定、天板3の移動や撮像系の回動に関する指示信号の入力等を行なう入力部8と、X線診断装置200における上述の各ユニットを統括的に制御するシステム制御部9を備えている。
そして、画像データ生成部5aは、画像データ記憶部51aと画像演算処理部52aを備え、画像データ記憶部51aは、マスク画像データ記憶部511aとコントラスト画像データ記憶部512aを有している。マスク画像データ記憶部511aには、造影剤投与前の被検体150に対する体動期間のX線照射レートRm1及び非体動期間のX線照射レートRm2のX線照射においてX線検出部2が検出した所定期間の時系列的な投影データがマスク画像データとして保存され、これらのマスク画像データの各々には、呼吸位相算出部30からシステム制御部9を介して供給された被検体150の呼吸位相の情報が付帯情報として付加される。
同様にして、コントラスト画像データ記憶部512aには、造影剤投与後の前記被検体150に対するX線照射レートRcのX線照射においてX線検出部2が検出した投影データがコントラスト画像データとして保存され、これらのコントラスト画像データには、呼吸位相算出部30から供給された被検体150の呼吸位相情報が付帯情報として付加される。
一方、画像データ生成部5aの画像演算処理部52aは、画像データ記憶部51aに保存されたマスク画像データとコントラスト画像データとのサブトラクション処理によりDSA画像データを生成する。このとき、画像演算処理部52aは、コントラスト画像データ記憶部512aに一旦保存された所定時相のコントラスト画像データとその付帯情報である呼吸位相情報を読み出し、次いで、マスク画像データ記憶部511aに保存されている時系列的な複数枚のマスク画像データの中から、前記コントラスト画像データの呼吸位相情報に最も近い呼吸位相情報を付帯情報として有しているマスク画像データを選択する。
そして、選択したマスク画像データと前記コントラスト画像データとのサブトラクション処理によって所定時相におけるDSA画像データを生成する。このようなサブトラクション処理をコントラストステージにおいて収集されるコントラスト画像データの各々に対して行なうことにより、時系列的なDSA画像データが生成される。
次に、呼吸位相算出部30は、図7に示すようにタイマー31と経過時間計測部32と演算部33を備え、タイマー31は、例えば、マスク画像データ収集開始コマンドあるいはコントラスト画像データ収集開始コマンドの入力タイミングを基準とした時刻情報を発生する。又、経過時間計測部32は、初期設定段階にて照射レート設定部7の閾値処理部73から供給される体動期間Taあるいは非体動期間Tbの繰り返し周期に基づいて呼吸周期T0を計測し、更に、マスクステージ及びコントラストステージにおける体動期間Taあるいは非体動期間Tbの期間開始時刻tsと所定時相のX線照射時刻trを計測する。そして、演算部33は、上述の呼吸周期T0、期間開始時刻ts及びX線照射時刻trに基づいて呼吸位相φを算出する。尚、上述の呼吸周期T0の計測は、体動期間あるいは非体動期間の任意の1周期において決定してもよいが複数周期を加算平均して決定してもよい。
図8は、呼吸位相算出部30による呼吸位相検出方法を模式的に説明するための図であり、図8(a)は、呼吸波形検出部71によって検出された被検体150の呼吸波形、図8(b)は、前記呼吸波形の波形変化率曲線に基づいて閾値処理部73が設定した体動期間Ta及び非体動期間Tb、図8(c)は、所定時相におけるX線照射タイミングを夫々示している。
呼吸位相算出部30の経過時間計測部32は、先ず、閾値処理部73から供給された波形変化率曲線の絶対値と閾値αとの比較結果に基づいて呼吸周期T0を計測し自己の図示しない記憶回路に保存する。次いで、例えば、マスクステージの所定時相においてX線照射が行なわれマスク画像データが収集された場合、経過時間計測部32は、システム制御部9から供給された前記X線照射の制御信号とタイマー31から供給された時刻情報に基づいてX線照射時刻trを計測し、更に、このX線照射時刻trが含まれる呼吸周期における体動期間Taの開始時刻tsを遡って計測する。そして、演算部33は、経過時間計測部32から供給された呼吸周期T0,体動期間開始時刻ts及びX線照射時刻trを用い次式(1)に基づいて当該時相のX線照射における呼吸位相φを算出する。
(画像データの生成手順)
次に、図9に示したフローチャートを用いて本実施例のX線診断装置200による印刷用DSA画像データの生成手順について説明する。
画像データの生成に先立って、操作者は、X線診断装置200の入力部8において被検体情報を入力した後、マスクステージ及びコントラストステージにおけるX線照射条件や閾値α等の設定を行ない、これらの設定情報をシステム制御部9の記憶回路に保存する。
次いで、操作者は、呼吸波形検出部71の呼吸センサが胸部に装着された被検体150を天板3に載置し、X線照射部12及びX線検出部2を有する撮像系と天板3を回動/移動することにより被検体150に対する好適な撮影方向と撮影位置を設定する。このとき、照射レート設定部7の呼吸波形検出部71は、被検体150の呼吸波形を検出し、波形変化率算出部72は、この呼吸波形を微分処理して波形変化率を算出する。
次に、閾値処理部73は、波形変化率算出部72から出力された波形変化率曲線の絶対値を求め、この絶対値と上述の閾値αとの比較により被検体150の体動期間Taと非体動期間Tbを設定する。一方、呼吸位相算出部30の経過時間計測部32は、閾値処理部73から供給された体動期間Taあるいは非体動期間Tbの繰り返しに基づいて呼吸周期T0を計測し、この計測結果を自己の記憶回路に保存する(図9のステップS21)。
上述の初期設定が終了したならば、操作者は、マスク画像データの収集開始コマンドを入力部8より入力し(図9のステップS22)、このコマンド信号を受信したシステム制御部9は、図5のステップS2と同様の手順によって得られた投影データを画像データ生成部5aのマスク画像データ記憶部511aに保存してマスクステージの第1時相におけるマスク画像データを生成する(図9のステップS23)。
一方、照射レート設定部7の呼吸波形検出部71は、上述のステップS23におけるマスク画像データの生成と並行して被検体150の呼吸波形を検出し、波形変化率算出部72は、この呼吸波形を微分処理して波形変化率を算出する。更に、閾値処理部73は、算出された変化率の絶対値と初期設定された閾値αとの比較により体動期間Ta及び非体動期間Tbを設定する(図9のステップS24)。
一方、呼吸位相算出部30の経過時間計測部32は、システム制御部9から供給されたX線照射の制御信号とタイマー31から供給された時刻情報に基づいてX線照射時刻trを計測し、更に、照射レート設定部7の閾値処理部73から供給された、例えば、体動期間Taの情報に基づいて、このX線照射時刻trが含まれた呼吸周期における体動期間Taの期間開始時刻tsを遡って計測する。
そして、演算部33は、経過時間計測部32の記憶回路から読み出した呼吸周期T0と上述の体動期間Taの期間開始時刻ts及びX線照射時刻trに基づいてX線照射の呼吸位相φを算出し(図9のステップS25)、この呼吸位相φの情報は、画像データ生成部5aのマスク画像データ記憶部511aに保存されている第1時相のマスク画像データに付帯情報として付加される(図9のステップS26)。
又、照射レート設定部7の閾値処理部73は、上述のマスクステージにおける第1時相が体動期間Taに存在するか否かを判定する。そして、マスクステージの第1時相が体動期間Taにある場合には、照射レートデータ記憶部74に予め保管されているX線照射レート情報に基づき体動期間のX線照射レートRm1を設定し、この設定情報をシステム制御部9に供給する。同様にして、マスクステージの第1時相が体動期間Tbにある場合には、非体動期間のX線照射レートRm2を設定してシステム制御部9に供給する(図9のステップS27)。
一方、システム制御部9は、照射レート設定部7から供給されたX線照射レートRm1あるいはRm2の情報に基づいてX線照射間隔ΔTm1(ΔTm1=1/Rm1)あるいはX線照射間隔ΔTm2(ΔTm2=1/Rm2)を設定する(図9のステップS28)。
次いでシステム制御部9は、マスクステージの第1時相から時間ΔTm1後あるいは時間ΔTm2後に第2時相のX線照射を行なうための駆動信号をX線発生部1の高電圧制御部111に供給する。そして、X線発生部1とX線検出部2は、第1時相の場合と同様にX線の照射と検出を行なって投影データを生成し、システム制御部9は、この投影データを画像データ生成部5aのマスク画像データ記憶部511aに保存して第2時相におけるマスク画像データを生成する(図9のステップS23)。
又、照射レート設定部7及び呼吸位相算出部30の各ユニットは、マスクステージの第2時相における呼吸波形に基づいて体動期間Ta/非体動期間Tbの設定、呼吸位相の算出、呼吸位相情報の前記マスク画像データへの付加及びX線照射レートの設定を行ない(図9のステップS24乃至S27)、システム制御部9は、前記X線照射レートに基づいてX線照射間隔を設定する(図9のステップS28)。
以下同様にして1呼吸周期以上の期間において第3時相以降のマスク画像データの生成/保存及び呼吸位相情報の付加とX線照射間隔の設定が行なわれる(図9のステップS23乃至S28)。
そして、所定期間における時系列的なマスク画像データが収集されたならば、被検体150に対し造影剤が投与され(図9のステップS29)、コントラスト画像データの収集が開始される(図9のステップS30)。
即ち、システム制御部9は、自己の記憶回路に保存されているコントラスト画像データ収集時のX線照射条件を読み出してX線発生部1の高電圧制御部111に供給し、X線発生のための駆動信号を高電圧制御部111に供給する。
高電圧制御部111は、前記X線照射条件に基づいて高電圧発生器112を制御し、X線照射部12のX線管121に高電圧を印加して被検体150に対しX線を照射する。そして、X線検出部2は、被検体150を透過したX線を検出して投影データを生成し、画像データ生成部5aのコントラスト画像データ記憶部512aに保存してコントラストステージにおける第1時相のコントラスト画像データを生成する(図9のステップS31)。
一方、照射レート設定部7の呼吸波形検出部71は、上述のステップS31におけるコントラスト画像データの生成と並行して被検体150の呼吸波形を検出し、波形変化率算出部72は、この呼吸波形を微分処理して波形変化率を算出する。更に、閾値処理部73は、算出された変化率の絶対値と初期設定された閾値αとの比較により体動期間Ta及び非体動期間Tbを設定する(図9のステップS32)。
次いで、呼吸位相算出部30の経過時間計測部32は、システム制御部9から供給された前記X線照射の制御信号とタイマー31から供給された時刻情報に基づいてX線照射時刻trを計測し、更に、照射レート設定部7の閾値処理部73から供給された、例えば、体動期間Taの情報に基づいて、このX線照射時刻trが含まれた呼吸周期における体動期間Taの開始時刻tsを遡って計測する。そして、演算部33は、経過時間計測部32の記憶回路から読み出した呼吸周期T0と上述の体動期間開始時刻ts及びX線照射時刻trに基づいてX線照射の呼吸位相φを算出し(図9のステップS33)、この呼吸位相φの情報を、画像データ生成部5aのコントラスト画像データ記憶部512aに保存されている第1時相のコントラスト画像データに付帯情報として付加する(図9のステップS34)。
次に、画像データ生成部5aの画像演算処理部52aは、コントラスト画像データ記憶部512aに保存されている第1時相のコントラスト画像データとその付帯情報として付加されている呼吸位相情報を読み出し、次いで、マスク画像データ記憶部511aにおいて保存されている時系列的な複数枚のマスク画像データの中から第1時相のコントラスト画像データの呼吸位相情報に最も近い呼吸位相情報が付加されているマスク画像データを選択する。そして、選択したマスク画像データと第1時相のコントラスト画像データとのサブトラクション処理により第1時相のDSA画像データを生成し、出力部6の表示部61に表示する(図9のステップS35)。
次に、システム制御部9は、予め設定されたコントラストステージのX線照射レートRcに対応したX線照射間隔ΔTc(Tc=1/Rc)に基づいて、時間ΔTc後に次のX線照射を行なうための駆動信号を高電圧制御部111に供給し、この駆動信号を受信した高電圧制御部111は、高電圧発生器112を制御してX線照射部12のX線管121に高電圧を印加し被検体150に対しX線を照射する。そして、このとき得られた投影データは、コントラスト画像データ記憶部512aに保存されて第2時相のコントラスト画像データが生成される(図9のステップS31)。
又、照射レート設定部7及び呼吸位相算出部30の各ユニットは、コントラストステージの第2時相における呼吸波形に基づいて体動期間Ta/非体動期間Tbの設定、呼吸位相の算出及び呼吸位相情報の前記マスク画像データへの付加を行ない、画像演算処理部52aは、第2時相のコントラスト画像データの呼吸位相情報に最も近い呼吸位相情報が付加されたマスク画像データと第2時相のコントラスト画像データとのサブトラクション処理により第2時相のDSA画像データを生成して表示部61に表示する(図9のステップS32乃至S35)。
以下同様にして第3時相以降のDSA画像データの生成と表示が行なわれる(図9のステップS31乃至S35)。
次いで、操作者は、出力部6の表示部61に時系列的に表示されたDSA画像データの中から所望時相におけるDSA画像データを入力部8の入力デバイスを用いて選択し、この選択信号を受信したシステム制御部9は、前記DSA画像データを出力部6の印刷部62に供給し、X線フィルムに印刷出力する(図9のステップS36)。
以上述べた本発明の第2の実施例によれば、上述の第1の実施例と同様に、被検体の呼吸性移動に基づいてマスク画像データ収集時のX線照射レートを制御することにより、コントラスト画像データに対して位置や形状の誤差が少ないマスク画像データを必要最小限のX線照射レートで得ることができるため、自然呼吸下のDSA撮影における被検体に対しX線被曝量をあまり増大させることなく良質なDSA画像データを生成することができる。
又、呼吸性移動の大きさは、被検体から検出された呼吸波形の波形変化率に基づいて推定しているため正確な推定が可能となる。更に、波形変化率の絶対値と予め設定された閾値との比較により呼吸性移動が大きい体動期間と呼吸性移動が比較的小さい非体動期間に分類し、夫々の期間に対して予め設定されたX線照射レートによってマスク画像データを収集しているため、簡単な回路構成で安定したX線照射レートの設定が可能となる。
一方、本実施例によれば、マスク画像データ及びコントラスト画像データの生成時刻に対応した被検体の呼吸位相の情報がこれらの画像データに付帯情報として付加され、この呼吸位相情報に基づいて所定時相のコントラスト画像データに対応したマスク画像データが選択されるため、コントラスト画像データに対して位置や形状の誤差が最小となるマスク画像データを容易に選択することができ、高い解像度を有したDSA画像データを生成することができる。
又、上述のコントラスト画像データに対応したマスク画像データの選択は、呼吸位相情報に基づいて自動的かつ短時間で行なうことが可能なため、解像度に優れたDSA画像データの生成と表示を短時間あるいはリアルタイムで行なうことができる。更に、上述の第1の実施例にて行なったような操作者による面倒なリマスク処理が不要となるため、検査効率が大幅に向上し、操作者の身体的負担が軽減される。
以上、本発明の実施例について述べてきたが、本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく変形して実施することが可能である。例えば、上述の実施例におけるマスクステージのX線照射レートは、体動期間TaのX線照射レートRm1あるいは非体動期間TbのX線照射レートRm2の何れかに設定される場合について述べたが、前記波形変化率曲線上の夫々の値に対応したX線照射レートRmxを照射レートデータ記憶部74から読み出し、このX線照射レートRmxによってマスクステージにおけるX線照射を行なってもよい。この場合、X線照射レートは、波形変化率曲線の絶対値に比例して設定されるため、X線照射レートを精度よく設定することができる。
尚、マスクステージにおけるX線照射レートRm1,Rm2及びRmxやコントラストステージにおけるX線照射レートRcは、照射レートデータ記憶部74に予め保管されている場合について述べたが、操作者が、入力部8において任意に設定してもよい。
又、第1の実施例におけるステップS9では、所定時相のコントラスト画像データと第1時相のマスク画像データとのサブトラクション処理によりDSA画像データを生成する場合について述べたが、第1時相のマスク画像データの替わりに他の時相のマスク画像データを用いてもよく、複数の時相において収集された複数のマスク画像データが加算平均されたマスク画像データ等を用いてもよい。
更に、第2の実施例のステップS35において、画像データ生成部5aの画像演算処理部52aは、コントラスト画像データ記憶部512aに保存されているコントラスト画像データとその付帯情報として付加されている呼吸位相情報を読み出し、マスク画像データ記憶部511aに保存されている複数枚のマスク画像データの中から前記コントラスト画像データの呼吸位相情報に最も近い呼吸位相情報が付加されているマスク画像データを選択して前記コントラスト画像データとのサブトラクション処理を行なう場合について述べたが、コントラスト画像データの生成とサブトラクション処理が同時に行なわれる場合には、呼吸位相算出部30から供給される当該コントラスト画像データの呼吸位相情報を直接受信し、この呼吸位相情報に最も近い呼吸位相情報が付加されているマスク画像データを選択してサブトラクション処理を行なってもよい。この場合、コントラスト画像データに対する呼吸位相情報の付加は必ずしも必要ではない。
又、第2の実施例におけるステップS25では、閾値処理部73が設定した体動期間Taの情報に基づいて、X線照射時刻trが含まれた呼吸周期における体動期間Taの期間開始時刻tsを遡って計測し、呼吸周期T0と前記期間開始時刻ts及びX線照射時刻trに基づいてX線照射の呼吸位相φを算出する場合について述べたが、これに限定されるものではなく、例えば、体動期間Taの替わりに非体動期間Tbの期間開始時刻を用いて呼吸位相φを算出しても構わない。
一方、第2の実施例では、ステップS21の初期設定において呼吸周期T0の計測を行なう場合について述べたが、ステップS25における期間開始時刻ts及びX線照射時刻trの計測の前後で呼吸周期T0を計測してもよい。又、期間開始時刻tsからX線照射時刻trまでの呼吸波形あるいは波形変化率曲線と1呼吸周期T0における呼吸波形あるいは波形変化率曲線との比較によって呼吸位相φを算出してもよく、上述の実施例の方法によって得られた呼吸位相φを補正してもよい。このときの1周期分の呼吸波形あるいは波形変化率曲線は、遡って収集された複数周期分の呼吸波形あるいは波形変化率曲線を加算平均したものであってもよい。特に、加算平均された呼吸波形あるいは波形変化率曲線を用いることにより呼吸位相の算出精度を向上させることができる。
本発明の第1の実施例におけるX線診断装置の全体構成を示すブロック図。
同実施例のX線診断装置が備えるX線発生部、X線検出部及び移動機構部の具体的な構成を示すブロック図。
同実施例の照射レート設定部における各ユニットの機能を説明するための図。
同実施例のマスクステージ及びコントラストステージにおけるX線照射タイミングを示す図。
同実施例における印刷用DSA画像データの生成手順を示すフローチャート。
本発明の第2の実施例におけるX線診断装置の全体構成を示すブロック図。
同実施例における呼吸位相算出部の具体的な構成を示すブロック図。
同実施例の呼吸位相算出部による呼吸位相検出方法を示す図。
同実施例におけるDSA画像データの生成手順を示すフローチャート。
符号の説明
1…X線発生部
11…高電圧発生部
12…X線照射部
2…X線検出部
20…投影データ生成部
21…平面検出器
22…ゲートドライバ
23…電荷・電圧変換器
24…A/D変換器
25…パラレル・シリアル変換器
3…天板
4…移動機構部
41…天板移動機構
42…撮像系移動機構
43…機構制御部
5、5a…画像データ生成部
51、51a…画像データ記憶部
511、511a…マスク画像データ記憶部
512、512a…コントラスト画像データ記憶部
52、52a…画像演算処理部
6…出力部
61…表示部
62…印刷部
7…照射レート設定部
71…呼吸波形検出部
72…波形変化率算出部
73…閾値処理部
74…照射レートデータ記憶部
8…入力部
9…システム制御部
30…呼吸位相算出部
31…タイマー
32…経過時間計測部
33…演算部
100、200…X線診断装置