JP4827189B2 - 過酸化水素およびタングステン触媒を用いたアルコールの酸化反応 - Google Patents

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Description

本発明は過酸化水素およびタングステン触媒を用いた、アルコールの酸化反応に関する。特に、医薬品の合成中間体となり得るケトオレアノール酸の製造方法に関する。
近年、化学物質の工業的製造法において環境汚染を最小限にとどめる反応が重視されている。アルコールの酸化反応は重要な化学反応の1つであり、汎用性が高く安全で環境に悪影響を与えない反応の開発が望まれている。
非特許文献1には過酸化水素水およびタングステン触媒を用いたアルコールの酸化反応が記載されている。しかし、スムーズに反応を進めるためにはpH3以下の条件が必要であり、pH3.2で収率57%、pH4.4で収率27%に低下する旨記載されている。また、当該文献記載の方法では無溶媒または溶媒としてトルエンを用いて反応を行っている。したがって、当該文献記載の反応は酸に不安定な化合物およびトルエンに不溶の化合物の酸化反応には適用が困難であった。
非特許文献2には過酸化水素水およびペルオキソタングステン酸塩を用いたアルコールの酸化反応が記載されているが、90%過酸化水素水を使用しており、爆発の危険性のために大量合成には不適であった。また、アミド系溶媒の使用および反応条件におけるpHについては言及されていない。
非特許文献3には過酸化水素水およびタングステン酸ナトリウムを用いたアルコールの酸化反応が記載されている。しかし、タングステン触媒を用いる場合にはpH1.4が好ましく、酸性度が低下すると反応の選択性が著しく低下する旨記載されている。ハロゲン化炭素溶媒を使用しており環境面からも好ましくない。また、危険性の高い70%過酸化水素水を使用している等の問題も有していた。
特許文献1には過酸化水素水およびタングステン酸を用い、脂環式アルコール油性溶液又は脂環式ケトン油性溶液を不均一溶液系で酸化することによるカルボン酸の製造法が記載されている。しかし、この文献にもアミド系溶媒の使用および反応条件におけるpHについては言及されていない。
非特許文献4〜7および10には過酸化水素水およびタングステン触媒を用いたオレフィンのエポキシ化方法、シクロヘキサン、シクロヘキサノールまたはシクロヘキサノンからアジピン酸の製造方法、スルフィドからスルホキシドまたはスルホン体の製造方法またはメチルチオ化合物からメチルスルフィニル化合物の製造方法等が記載されている。
特許文献2〜4には中性〜塩基性下、過酸化水素およびタングステン酸塩を用いた酸化反応が記載されている。また、特許文献4および5には過酸化水素水およびタングステン酸塩を用いた酸化反応において、N,N−ジメチルアセトアミドが使用できる旨記載されている。しかし、これらのいずれにもアルコールの酸化反応に関しては記載されていない。
式(II):
Figure 0004827189
(式中、Rは水素または低級アルキル)
で示されるケトオレアノール酸(以下、化合物(II)とする)は、式(A):
Figure 0004827189
(式中、Rは水素または−R−Rであり、Rは−SO−、−CHCOO−、−COCOO−または−CORCOO−(ここでRは、炭素数1〜6のアルキレンまたは炭素数2〜6のアルケニレンを表す)であり、Rは水素または炭素数1〜6のアルキルを表す)
で示される化合物(以下化合物Aとする)またはその製薬上許容される塩の中間体となり得る化合物である。
化合物Aは種々の循環器系疾患(例:高血圧、虚血性疾患、脳循環障害、腎障害、諸臓器の循環不全、喘息、脳卒中、脳梗塞、脳浮腫等)の治療薬として有用であることが知られており(特許文献6および7参照)、その合成方法が特許文献8、9、非特許文献8および9等に記載されている。
特許文献8および非特許文献9には、オレアノール酸をジョーンズ試薬を用いてクロロホルム−アセトンまたはジクロロメタン−アセトン溶媒中で酸化する方法が記載されているが、クロム酸、クロロホルムまたはジクロロメタン等、環境上有害な試薬の使用を必要とするため、工業的製法としては必ずしも満足のいく方法ではなかった。
国際公開WO2004/011412号パンフレット 特開昭60−132952号公報 特開昭63−190898号公報 特開2002−241631号公報 特開平9−118687号公報 国際公開WO92/12991号パンフレット 特開平7−53484号公報 特開平7−316188号公報 国際公開WO2003−80643号パンフレット ブルテン・オブ・ケミカル・ソサイエティ・オブ・ジャパン(Bulletin of the Chemical Society of Japan)、1999年、第72巻、p.2287−2306 ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、1979年、第44巻、p.921−924 ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、1986年、第51巻、p.2661−2663 ビューリチン・オブ・ケミカル・ソサイエティ・オブ・ジャパン(Bulletin of the Chemical Society of Japan)、1997年、第70巻、p.905−915 サイエンス(Science)、1998年、第281巻、p.1646−1647 テトラへドロン(Tetrahedron)、2001年、第57巻、p.2469−2476 ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)1983年、第48巻、p.3831−3833 オーガニック・プロセス・リサーチ・アンド・デベロップメント(Organic Process Research & Development)、1999年、第3巻、p.347−351 ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)、1997年、第62巻、p.960−966 グリーンケミストリー(Green Chemistry)2003年、第5巻、373頁
安全かつ汎用性が高く、工業的生産にも応用可能なアルコールの酸化方法の開発が要望されていた。
本発明は、
(1)アミド系溶媒中で、過酸化水素およびタングステン触媒を用いて反応させることを特徴とする、アルコールの酸化方法
(2)アミド系溶媒中で、過酸化水素およびタングステン触媒を含む混合試薬を用いて反応させることを特徴とする、アルコールの酸化方法
(3)混合試薬がさらにリン酸もしくはその塩またはそれらの水和物を含有するものである、(2)記載の方法
(4)混合試薬のpHまたは反応系中における反応開始前のpHが2以上である、(2)または(3)記載の方法
(5)混合試薬のpHまたは反応系中における反応開始前のpHが5以上である、(2)〜(4)のいずれかに記載の方法
(6)混合試薬のpHまたは反応系中における反応開始前のpHが8以下である、(2)〜(5)のいずれかに記載の方法
(7)リン酸もしくはその塩またはそれらの水和物の存在下で反応させることを特徴とする、(1)記載の方法
(8)タングステン触媒がタングステン酸またはタングステン酸ナトリウムもしくはその水和物である、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法
(9)アミド系溶媒がN,N−ジメチルアセトアミドである、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法
(10)リン酸もしくはその塩またはそれらの水和物が、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウムもしくはそれらの水和物またはそれらの混合物である、(3)〜(9)のいずれかに記載の方法
(11)過酸化水素およびタングステン触媒を用い、アミド系溶媒中で式(I):
Figure 0004827189
(式中、Rは水素または低級アルキル)
で示される化合物(以下、化合物(I)とする)を酸化することを特徴とする、式(II):
Figure 0004827189
(式中、Rは上記と同義)
で示される化合物の製造方法、および
(12)(11)記載の方法により得られた化合物(II)を単離することなく、続いてオゾン酸化反応に付することを特徴とする、式(III):
Figure 0004827189
で示される化合物(以下、化合物(III)とする)の製造方法
(13)過酸化水素およびタングステン触媒を用い、アミド系溶媒中で式:
Figure 0004827189
(式中、Rは水素または低級アルキルであり、Rは置換基を有していてもよい低級アルキル)
で示される化合物を酸化することを特徴とする、式:
Figure 0004827189
(式中、Rは上記と同義であり、RはRと同義であるか、当該基が置換された基である)
で示される化合物の製造方法
(14)(13)記載の方法により得られた式(II’)で示される化合物を単離することなく、続いてオゾン酸化反応に付することを特徴とする、(12)記載の式(III)で示される化合物の製造方法
を提供するものである。
本発明方法によれば、酸性〜弱塩基条件下において効率良く種々のアルコールの酸化反応を進めることができる。
本発明において「アルコール」とは、第1級アルコールおよび第2級アルコールを包含する。
本発明における「アルコールの酸化方法」に包含される反応とは、第2級アルコールからケトンを得る方法、第1級アルコールからカルボン酸を得る方法および第1級アルコールからアルデヒドを得る方法を包含する。

第1級アルコールとしてはミリセロン、飽和脂肪属1級アルコール(エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノ−ル、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール等)、ベンジルアルコール、2−フェニルエタノール等が挙げられる。
第2級アルコールとしてはオレアノール酸、飽和脂肪属2級アルコール(2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノ−ル、3−ヘキサノ−ル、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−オクタノール、2−ノナノール、3−ノナノール、4−ノナノール、5−ノナノール、2−デカノール、3−デカノール、4−デカノール、5−デカノール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等)、脂環式アルコール(シクロヘキサノ−ル、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロノナノール等)、1−フェニルエタノール、1−フェニルプロパノール等が挙げられる。
本発明方法により基質を酸化反応に付する場合、溶媒および基質を含む溶液に過酸化水素、タングステン触媒を順次添加することにより反応を進めることも可能であるが、予め過酸化水素およびタングステン触媒を混合し、混合試薬を調整しておくと簡便に進めることができる。
過酸化水素は過酸化水素水を用いればよく、その濃度は通常使用される程度であれば特に限定されない。好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは8〜35重量%、さらに好ましくは30〜35重量%である。
過酸化水素の使用量上限は特に限定されないが、通常基質1モルに対し、0.1モル当量〜10モル当量、好ましくは0.1モル当量〜5モル当量、より好ましくは0.5モル当量〜3モル当量、さらに好ましくは1モル当量〜2モル当量使用すればよい。
タングステン触媒は通常使用されるものであれば特に限定されないが、例えばタングステン酸、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸コバルト(II)、タングステン酸鉛(II)、タングステン酸バリウム、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸、ケイタングステン酸およびそれらの水和物が挙げられる。特にタングステン酸またはタングステン酸ナトリウムもしくはその水和物が好ましい。
タングステン触媒の使用量は、タングステンとして基質1モルに対し、0.001モル当量〜0.3モル当量、好ましくは0.005モル当量〜0.1モル当量、さらに好ましくは0.01モル当量〜0.05モル当量である。
本発明方法は、リン酸もしくはその塩またはそれらの水和物存在下で行うことにより、さらに反応を好適に進めることが可能である。リン酸もしくはその塩またはそれらの水和物は、反応系中に直接添加してもよく、上記混合試薬に添加してもよい。
リン酸塩としては、例えばリン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム(リン酸一ナトリウム)、リン酸二水素カルシウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム(リン酸二ナトリウム)、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウムそれらの水和物またはそれらの2種以上の混合物等が挙げられる。好ましくはリン酸二ナトリウム12水和物、リン酸一ナトリウム2水和物および水からなる緩衝液、リン酸水溶液、リン酸二ナトリウム水溶液、リン酸二ナトリウム12水和物またはリン酸三ナトリウム12水和物、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムである。
これらはリン酸塩として、または予め水溶液またはリン酸塩緩衝液を調製しておき、それを混合試薬調製時に添加すればよい。
反応系中、または混合試薬に添加するリン酸もしくはその塩またはそれらの水和物の量は、過酸化水素水の濃度、触媒およびリン酸塩の種類および混合試薬のpH等により異なる。例えば、タングステン触媒1当量に対し0.5〜5モル当量、好ましくは0.7〜4.5モル当量程度となるように添加すればよい。
予め調製される混合試薬のpHは特に限定されるものではないが、pHが1〜9の範囲内であることが好ましい。pHがこの範囲外である場合には酸化反応が好適に進行せず反応速度が遅くなる、目的化合物収率が低くなる、副生成物が増加する等の悪影響が見られ、工業的製造法としての汎用性が低くなる。
混合試薬のpHの下限は好ましくは2.5であり、さらに好ましくは3であり、さらに好ましくは5であり、より好ましくは6であり、最も好ましくは6.5である。
混合試薬のpHの上限は好ましくは8.5であり、より好ましくは8であり、最も好ましくは7.5である。
上記の通り調製した混合試薬をアミド系溶媒に溶解したアルコールに添加し、混合する。本発明における「反応系中における反応開始前のpH」とはこの時点のpHを意味するものである。反応系中における反応開始前の好ましいpH範囲は上記混合試薬のpHと同様である。
混合試薬、アミド系溶媒およびアルコールの混合物を、約40℃〜150℃で10分〜24時間、好ましくは1時間〜4時間反応させることにより、酸化された目的化合物が得られる。
アミド系溶媒とは、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等が挙げられ、特にN,N−ジメチルアセトアミドまたは1−メチル−2−ピロリジノンが好ましい。
溶媒の量は特に限定されないが、基質1ミリモル当量に対し1ml〜10ml、好ましくは2ml〜4ml程度を使用すればよい。
反応が完了した後、必要であれば常法により、トルエン等の疎水性溶媒により生成物の抽出、L−アスコルビン酸等の還元剤により過剰の過酸化水素の還元、食塩水により塩析操作等を行ってもよい。
第1級アルコールからカルボン酸またはアルデヒドを得る酸化反応の好ましい一態様として、公知化合物であるミリセロンの酸化反応が挙げられる。
Figure 0004827189
第2級アルコールからケトンを得る反応の一態様として、上記化合物(I)から化合物(II)を得る方法が挙げられる。
Figure 0004827189
(式中、Rは水素または低級アルキル) また、別の態様として公知化合物であるミリセロールの酸化反応が挙げられる。
Figure 0004827189
本明細書中、低級アルキルとは炭素数1〜8の直鎖状および分枝状のアルキルを包含し、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、n−へプチル、イソヘプチル、n−オクチルおよびイソオクチル等が挙げられる。好ましくはメチルである。
「置換基を有していてもよい低級アルキル」とは、本発明方法の障害となり得ない基で置換された低級アルキルであれば特に制限されない。置換基としては例えばハロゲン、保護されていてもよいヒドロキシ、低級アルコキシ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、アリールカルボニル、アシル、アシルオキシ、アリール、アリールオキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、アシルアミノ等が挙げられる。好ましくはヒドロキシで置換された低級アルキルであり、特に好ましくはヒドロキシメチルである。 「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を包含する
「保護されていてもよいヒドロキシ」の保護基としては、アリール低級アルキル(トリフェニルメチル、ベンジル)、低級アルコキシ低級アルキル(メトキシメチル、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチル等)、低級アルコキシ低級アルコキシ低級アルキル(メトキシエトキシメチル等)、低級アルキルチオ低級アルキル(メチルチオメチル等)、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフラニル、アリール低級アルキルオキシ低級アルキル(ベンジルオキシメチル等)低級アルキルスルホニル、p−トルエンスルホニル等が挙げられる。
「低級アルコキシ」、「低級アルコキシカルボニル」、「低級アルキルアミノ」「アリール低級アルキル」、「低級アルコキシ低級アルキル」、「低級アルコキシ低級アルコキシ低級アルキル」、「低級アルキルチオ低級アルキル」、「アリール低級アルキルオキシ低級アルキル」および「低級アルキルスルホニル」の低級アルキル部分は上記「低級アルキル」と同様である。
「アシル」とは炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分枝の鎖状脂肪族アシル、炭素数4〜9、好ましくは炭素数4〜7の環状脂肪族アシルおよびアロイルを包含する。具体的には、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、アクリロイル、プロピオロイル、メタクリロイル、クロトノイル、シクロプロピルカルボニル、シクロヘキシルカルボニル、シクロオクチルカルボニルおよびベンゾイル等を包含する。
「アシルオキシ」および「アシルアミノ」のアシル部分は上記「アシル」と同様である。
「アリール」とは、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリルおよびインデニル等を包含する。「アリールカルボニル」、「アリールオキシ」、「アリール低級アルキル」および「アリール低級アルキルオキシ低級アルキル」のアリール部分も同様である。
における「当該基が酸化された基」とは、例えばRがヒドロキシメチルである場合にはホルミルまたはカルボキシを包含し、Rがヒドロキシで置換された炭素数n(nは2以上)アルキルである場合にホルミルまたはカルボキシで置換された炭素数n−1のアルキルを包含する。
過酸化水素水およびタングステン触媒からなる混合試薬(pH1)およびこれにさらにリン酸塩を添加した混合試薬(pH7)を用いて化合物(I)の酸化反応を行ったところ、後者においては副生成物の生成が抑制され、過酸化水素の添加量も基質に対して化学量論量に抑えられることが判明した。従って、化合物(I)から化合物(II)を得る方法においては、反応系中または混合試薬中にリン酸もしくはその塩またはそれらの水和物を添加しておくことが好ましい。
化合物(I)の酸化に使用する酸化試薬としてジメチルスルホキシド、次亜塩素酸塩、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)を用いた場合、および触媒としてモリブデン酸アンモニウムを用いた場合には、副反応が進行する、または反応が停止する等、望ましい結果は得られなかった。従って、化合物(I)から化合物(II)を得る方法において、過酸化水素およびタングステン触媒を使用するという点が本発明の特徴の1つである。
本発明方法により得られた化合物(II)を常法により単離後、または単離することなく次工程に付すことにより、化合物(III)を得ることができる。
Figure 0004827189
例えば、上述の方法で得られた化合物(II)を含む溶液(有機層)から、必要であれば一旦溶媒を濃縮し、適当な溶媒およびアルコール(好ましくはメタノール)を添加し、オゾンガスを用いて化合物(II)を酸化する。具体的には−60℃〜0℃、好ましくは−50℃〜−20℃でオゾンガスを導入し、10分〜24時間、好ましくは30分〜5時間反応させる。
反応が完了した後、必要であればL−アスコルビン酸等の還元剤および溶媒を添加し、10℃〜50℃、好ましくは30℃〜40℃で適当な酸を加えて化合物(III)を晶析させる。続いてアルコール(好ましくはメタノール)を添加して10分〜1時間程度撹拌後、ろ過して精製された化合物(III)を得ればよい。
溶媒は通常使用されるものであれば特に限定されないが、好ましくは前工程で使用したものと同一の溶媒を使用すればよい。
化合物(II)から直接化合物(III)を得ることができるが、化合物(II)から化合物(IV)を得、それを常法により単離した後、化合物(III)を得てもよい。
化合物(III)は常法により単離することができるが、該化合物を化合物Aの合成中間体として用いる場合には、単離することなく、特許文献7または特許文献8等に記載の方法により目的化合物を製造することができる。
本発明方法は次のような利点を有し、工業的製造法として非常に有用である:
ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素やクロム酸、二酸化マンガン等の有害な溶媒や試薬を使用しない。
タングステン触媒は無毒または低毒性である。
触媒量のタングステン触媒で反応が進行し、リン酸の使用量はタングステン触媒の使用量に依存することからリンの廃棄物量が軽減できる。
5〜40重量%の過酸化水素水は爆発の危険性が低い。
非特許文献1にはpH3以下が好ましい旨記載されているが、本法によれば中性下でも反応は好適に進行する。従って、酸に不安定な基質の酸化反応にも使用できるという利点も有する。
また、非特許文献1では無溶媒またはトルエンを用いた反応が記載されているが、無溶媒反応では固体物質の酸化反応への適用は困難である。本発明方法において使用される溶媒、特にN,N−ジメチルアセトアミドは難溶性物質への適用も可能であり、本法は汎用性の高い反応である。
以下に実施例および試験例を示すが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
実施例中、各略語は以下の意味である。
DME:エチレングリコールジメチルエーテル
DMI:1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
NMP:1−メチル−2−ピロリドン
DMA:N,N−ジメチルアセトアミド
HMPA:ヘキサメチルリン酸トリアミド
Figure 0004827189
30%過酸化水素水(1.05g、9.3mmol)にタングステン酸ナトリウム2水和物25.3mg(0.077mol)を溶解させ混合試薬(pH5.4)とした。2−オクタノール1.0g(7.7mmol)と混合試薬を下記の各溶媒18mLに混合し、90℃まで加熱し、3時間反応させて目的化合物を得た。
結果を下記に示す。
Figure 0004827189
上記結果より、アミド系溶媒を用いた場合には酸化反応は好適に進行することがわかる。
Figure 0004827189
35%過酸化水素水2.9g(29.9mmol)にタングステン酸ナトリウム2水和物400mg(1.21mmol)を溶解させた後、リン酸緩衝液(リン酸二ナトリウム12水和物170mg(0.47mmol)、リン酸一ナトリウム2水和物80mg(0.51mmol)、水9.5g)を加えて混合試薬(pH7.1)を調製した。化合物1(11.0g、24.1mmol)をDMA57mLに溶解させ90℃まで加熱し、上記混合試薬を約1時間かけて滴下した。滴下終了後90℃で30分間反応させた後45℃に冷却し、トルエン55mLを流入した後40℃以上を維持しながらL-アスコルビン酸0.85gを含む5%食塩水55mLを流入し攪拌した。40℃以上で有機層を分離後17gまで減圧濃縮し、DMA84mLとメタノール18mLを流入した。その後、−40℃まで冷却しオゾンガスを導入した。反応終了後、L−アスコルビン酸2.2gを含むDMA溶液(10.5g)を流入し30℃まで昇温させ62%硫酸(1.9g)を加えて晶析させた。メタノール22mLを流入して30分間攪拌し、ろ過して化合物3を白色結晶として得た。収量8.6g(76%)
化合物4:1H-NMR(500MHz,CDCl3),δ0.816(s,3H),0.883(s,3H),0.945(s,3H), 0.977(s,3H),0.992(s,3H),1.068(s,3H), 1.139(s,3H),1.22(m,1H),1.25(m,1H), 1.33(m,1H), 1.33(m,1H),1.36(m,1H),1.39(m,1H),1.40(m,1H),1.43(m,1H),1.45(m,1H),1.47(m,1H), 1.49(m,1H),1.65(m,1H),1.67(m,1H),1.69(m,2H),1.906(ddd,J=13.3,7.2,5,1Hz,1H), 1.78(m,2H),1.98(m,1H),2.00(m,1H),2.01(m,1H),2.444(ddd,J=16.2,8.7,7.2Hz,1H), 2.465(ddd,J=16.2,8.3,5.1Hz,1H),3.197(t,J=1.8Hz,1H)
13C-NMR(500MHz,CDCl3)δ16.80,19.26,21.252,22.41,22.59,23.30,24.21,27.30,29.21, 30.35, 32.62,33.16,33.20,33.95,34.00,36.18,37.92,39.21,40.28,40.50,42.74,47.00, 47.58,54.37,63.64,67.02,183.15,218.34
35%過酸化水素水1.18g(12.0mmol)にリン酸二ナトリウム12水和物144mg(0.4mmol)とタングステン酸ナトリウム2水和物33mg(0.1mmol)を溶解させ、混合試薬(pH6.5)とした。化合物1 4.58g(10.0mmol)をN,N,−ジメチルアセトアミド23mLに溶解させた後90℃に加熱し、上記混合試薬を加えた。90℃で4時間反応させた後、トルエン50mLと5%食塩水50gを加えて分液した。有機層を分離後、減圧下で濃縮し、これにアセトニトリル水(アセトニトリル25mL、水5mL)を加えて白色結晶として化合物2を得た。収量4.12g 収率90%。
34.5%過酸化水素0.38g(3.86mmol)にタングステン酸もしくはタングステン酸ナトリウム2水和物0.16mmolを溶解させ、任意の0.1mol/Lのリン酸緩衝液1.35gを加えて混合試薬とした。オレアノール酸1.5g(3.28mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド15.6mLに溶解させた後90℃に加熱した。上記混合試薬を加え、90℃を維持して90分反応させて化合物2を得た。収率はHPLC定量により算出した。
Figure 0004827189
30%過酸化水素水(1.05g、9.36mmol)にタングステン酸ナトリウム2水和物25mg(0.076mmol)とリン酸二ナトリウム12水和物121mg(0.34mmol)を溶解させ混合試薬とした。2−オクタノール1.0gと上記混合試薬をDMA18mLに混合し、90℃まで加熱し、3時間反応させて目的化合物を得た。また、リン酸を添加した混合試薬およびリン酸無添加の混合試薬を用いて同様に試験した。結果を下記に示す。
Figure 0004827189
35%過酸化水素水5.90g(60.0mmol)にリン酸二ナトリウム12水和物720mg(2.0mmol)とタングステン酸ナトリウム2水和物165mg(0.5mmol)を溶解させ、混合試薬(pH6.5)とした。2−エチル−1,3−ヘキサンジオール7.3g(50.0mmol)をN,N,−ジメチルアセトアミド100mLに溶解させた後90℃に加熱し、上記混合試薬を加えた。90℃で4時間反応させた後、トルエン100mLと10%食塩水100gを加えて分液した。水層をトルエン100mLで3回抽出し、全ての有機層を合併し減圧下で濃縮した。濃縮液をシリカゲルクロマトグラフィ(展開溶媒 ヘキサン:酢酸エチル=3:2)で分離精製し、油状の2−エチル−1−ヒドロキシ−3−ヘキサノンを得た。収量5.33g 収率73%
Figure 0004827189
35%過酸化水素水 100mg(1.016mmol)にタングステン酸ナトリウム2水和物10.5mg(0.032mmol)を溶解させた後、リン酸緩衝液(リン酸二ナトリウム12水和物4.49mg(0.012mmol)、リン酸一ナトリウム2水和物1.98mg(0.013mmol)、水257mgを加えて混合試薬を調整した。化合物5(300mg、0.635mmol)をDMA3.0mLに溶解させ90℃まで加熱し、上記混合試薬を滴下した。滴下終了後90℃で6時間反応させた。
反応液をHPLCにて定量することにより収率を計算した。化合物6収率30%、化合物7収率57%。
35%過酸化水素水100mg(1.016mmol)にタングステン酸ナトリウム2水和物10.5mg(0.032mmol)を溶解させた後、リン酸緩衝液(リン酸二ナトリウム12水和物4.49mg(0.012mmol)、リン酸一ナトリウム2水和物1.98mg(0.013mmol)、水257mgを加えて混合試薬を調整した。化合物5(300mg、0.635mmol)をD MA3.0mLに溶解させ40℃まで加熱し、上記混合試薬を滴下した。滴下終了後40℃で23時間反応させた。
反応液をHPLCにて定量することにより収率を計算した。化合物6収率68%、化合物7収率18%。
35%過酸化水素水4.34g(44.7mmol)にリン酸二ナトリウム12水和物95.76mg(0.3mmol)とタングステン酸ナトリウム2水和物101mg(0.4mmol)を溶解させ、混合試薬(pH6.3)とした。シクロヘキサノール1.00g(10.0mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド27mLに溶解させた後90℃に加熱し、上記混合試薬を加えた。10時間反応させ、シクロヘキサノンを得た。収率96.2%(GC定量)。
非特許文献10にはシクロヘキサノール1モルに対し、4.4モル当量の過酸化水素を使用した場合にはバイヤー・ビリガー反応が進行する旨記載されているが、本発明方法では当該反応はほとんど進行せず、良好に第2級アルコールからケトンが得られた。
本発明のアルコールの酸化方法は安全かつ汎用性が高いため、工業的生産に適した方法である。

Claims (12)

  1. 1 , 3 − ジメチル− 2 − イミダゾリジノン、N , N − ジメチルホルムアミド、1 − メチル− 2 − ピロリドン、N, N − ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドから選ばれる溶媒中で、過酸化水素およびタングステン触媒を用いて反応させることを特徴とする、アルコールの酸化方法。
  2. 1 , 3 − ジメチル− 2 − イミダゾリジノン、N , N − ジメチルホルムアミド、1 − メチル− 2 − ピロリドン、N, N − ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドから選ばれる溶媒中で、過酸化水素およびタングステン触媒を含有する混合試薬を用いて反応させることを特徴とする、アルコールの酸化方法。
  3. 混合試薬がさらにリン酸もしくはその塩またはそれらの水和物を含有するものである、請求項2記載の方法。
  4. 混合試薬のpHまたは反応系中における反応開始前のpHが2以上である、請求項2または3記載の方法。
  5. 混合試薬のpHまたは反応系中における反応開始前のpHが5以上である、請求項2または3記載の方法。
  6. 混合試薬のpHまたは反応系中における反応開始前のpHが8以下である、請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
  7. リン酸もしくはその塩またはそれらの水和物の存在下で反応させることを特徴とする、請求項1記載の方法。
  8. タングステン触媒がタングステン酸またはタングステン酸ナトリウムもしくはその水和物である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
  9. 媒がN,N−ジメチルアセトアミドである、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. リン酸もしくはその塩またはそれらの水和物が、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウムもしくはそれらの水和物またはそれらの混合物である、請求項3〜9のいずれかに記載の方法。
  11. 過酸化水素およびタングステン触媒を用い、1 , 3 − ジメチル− 2 − イミダゾリジノン、N , N − ジメチルホルムアミド、1 − メチル− 2 − ピロリドン、N, N − ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドから選ばれる溶媒中で式(I):
    Figure 0004827189
    (式中、Rは水素または低級アルキル)
    で示される化合物を酸化することを特徴とする、式(II):
    Figure 0004827189
    (式中、Rは上記と同義)
    で示される化合物の製造方法。
  12. 請求項11記載の方法により得られた化合物(II)を単離することなく、続いてオゾン酸化反応に付することを特徴とする、式(III):
    Figure 0004827189
    で示される化合物の製造方法。
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