しかしながら、渦電流式膜厚計を利用してメッセンジャーワイヤーの膜厚、即ち素線を被覆している亜鉛めっきの厚さを計測する場合、素線の表面だけでなく導電体である亜鉛めっき上にも渦電流が発生してしまうため、亜鉛めっきの厚さを計測することはできない。つまり、亜鉛めっきのような導電性の膜についてはその表面までの距離を計測することになってしまい、亜鉛めっきの厚さを計測することにはならない。したがって、メッセンジャーワイヤーの膜厚を計測する場合には電磁膜厚計による計測方法が有効であると考えられる。電磁膜厚計を利用してメッセンジャーワイヤーの膜厚を計測する場合、素線が強磁性体、亜鉛めっきが非磁性体であるというメッセンジャーワイヤーの構成上の特性を利用した計測を行なうことができる。つまり、プローブが素線の表面との間で生じる磁気的な相互作用の大きさを検出することによってプローブと素線の表面との間の距離、即ち亜鉛めっきの厚さを求めることが可能となる。しかし、プローブをメッセンジャーワイヤーの表面に当て付けて亜鉛めっきの厚さを計測する場合、メッセンジャーワイヤーは複数の素線を撚り合わせたものであり、表面が凹凸形状になっていることから、プローブの検出部が凹凸形状の影響を受けて正しい検出を行なうことができないという問題が発生する。また、既存の電磁膜厚計は最小計測面積が5mm×5mm程度であることから、メッセンジャーワイヤーを構成している直径が1〜2mmの素線に対してそのまま適用したところで素線を被覆している亜鉛めっきの厚さを正確に求めることはできない。
そこで、本発明は、既存の電磁膜厚計でメッセンジャーワイヤーの素線を被覆している非磁性膜の厚さを簡便且つ正確に計測することができる治具、膜厚計測装置及び方法を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために、請求項1記載の発明にかかるメッセンジャーワイヤーの亜鉛めっきの厚さを計測するための治具は、亜鉛めっきによって被覆されている同一径の7本の鋼製の素線を、1本の素線を芯線としてその芯線を残りの6本の素線で取り囲むように撚り合わされて素線を取り囲む外側の6本の共通外接線で構成される横断面形状が六角形となるように撚り合わせたメッセンジャーワイヤーの亜鉛めっき厚さを電磁膜厚計を利用して計測する際に用いられる治具であって、メッセンジャーワイヤーの素線を取り囲む外側の6本の共通外接線で構成される六角形の辺のうち、対向している2辺間を挟持する挟持部と、電磁膜厚計のプローブが挿入される挿入口を有し、この挿入口から挿入されたプローブの検出部を素線の表面に正対させた状態を保持したまま素線の表面に向けて案内し、検出部を素線の表面に垂直に当接させる案内部とを備えるようにしている。
したがって、撚り線を構成している素線の膜厚計測を行なう場合、先ず撚り線が挟持部で挟持される。次いで、プローブが案内部の挿入口に挿入され、素線の表面に向けて押し込まれる。この押し込みによってプローブは案内部によって素線の表面に向けて案内され、やがて検出部が素線の表面あるいはその表面を非磁性膜が被覆している場合にはその非磁性膜に垂直に突き当てられる。ここで検出部が素線の表面との間で生じる磁気的な相互作用の大きさを検出する。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の治具において、挟持部は案内部の先端に対向配置された2つの平面を備え、これらの平面が撚り線を弾性的な付勢力を利用して挟持するようにしている。この場合、膜厚計測を行なうにあたって、撚り線を確実に挟持することができる。
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の治具において、案内部にプローブを素線の表面から引き離す方向に弾性的に付勢する付勢手段を設けるようにしている。この場合、プローブは素線の表面に向けて付勢手段の付勢力に抗して押し出される。したがって、プローブを素線の表面に向けて押し出すときにその押し出し力が弱められ、プローブの検出部は素線の表面あるいはその表面に非磁性膜が被覆されている場合にはその非磁性膜にゆっくり当て付けられる。つまり、検出部による検出を行なうにあたって、プローブを適切な力で検出の対象物に向けて押し出すことが可能となる。
また、請求項4記載の発明にかかる膜厚計測装置は、亜鉛めっきによって被覆されている同一径の7本の鋼製の素線を、1本の素線を芯線としてその芯線を残りの6本の素線で取り囲むように撚り合わされて素線を取り囲む外側の6本の共通外接線で構成される横断面形状が六角形となるように撚り合わせたメッセンジャーワイヤーの亜鉛めっき厚さを電磁膜厚計を利用して計測する膜厚計測装置において、メッセンジャーワイヤーの素線を取り囲む外側の6本の共通外接線で構成される六角形の辺のうち、対向している2辺間を挟持する挟持部と、電磁膜厚計のプローブが挿入される挿入口を有し、この挿入口から挿入されたプローブの検出部を素線の表面に正対させた状態を保持したまま素線の表面に向けて案内し、検出部を素線の表面に垂直に当接させる案内部とを備えた治具と、電磁膜厚計で計測された計測値から表面に亜鉛めっきが形成されていない素線を電磁膜厚計の計測対象にして計測して得た計測値を減算する減算手段と、互いに厚さが異なる複数の亜鉛めっきにおける各膜厚値と、これらの膜厚値からなる亜鉛めっきがそれぞれ被覆されている複数の素線を電磁膜厚計の計測対象にして計測して得た各計測値から表面に亜鉛めっきが形成されていない素線を電磁膜厚計の計測対象にして計測して得た計測値を減算した減算結果との相関関係から導出した較正用データに基づいて減算手段での減算結果を補正する補正手段とを備えるようにしている。
したがって、素線の膜厚計測を行なう場合、先ず撚り線が挟持部で挟持される。次いで、プローブが案内部の挿入口に挿入され、素線の表面に向けて押し込まれる。この押し込みによってプローブは素線の表面に向けて案内され、やがて検出部が素線の表面あるいはその表面を非磁性膜が被覆している場合にはその非磁性膜に垂直に突き当てられる。ここで検出部が素線の表面との間で生じる磁気的な相互作用の大きさを検出する。電磁膜厚計は検出部での検出結果に対応した計測値を導出する。ここで導出された計測値は素線の径の大きさや表面の曲率の影響を受けたものである。その影響を排除するために先ず減算手段が電磁膜厚計で計測された計測値から事前に計測された計測値、即ち表面に被覆膜が形成されていない素線を電磁膜厚計の計測対象にして計測して得た計測値を減算する。そして、補正手段が減算手段で得た減算結果を予め定められた較正用データを利用して補正する。なお、較正用データとしてはグラフ、数式、テーブルなどが考えられる。
また、請求項5記載のの発明は、請求項4記載の膜厚計測装置において挟持部は案内部の先端に対向配置された2つの平面を備え、これらの平面が撚り線を弾性的な付勢力を利用して挟持するようにしている。この場合、膜厚計測を行なうにあたって、撚り線を確実に挟持することができる。
また、請求項6記載の発明は、請求項4または5記載の膜厚計測装置において、案内部にプローブを表面から引き離す方向に弾性的に付勢する付勢手段を設けるようにしている。この場合、プローブは素線の表面に向けて付勢手段の付勢力に抗して押し出される。したがって、プローブを素線の表面に向けて押し出すときにその押し出し力が弱められ、プローブの検出部は素線の表面あるいはその表面を非磁性膜が被覆している場合にはその非磁性膜にゆっくり当て付けられる。つまり、検出部による検出を行なうにあたって、プローブを適切な力で検出の対象物に向けて押し出すことが可能となる。
また、請求項7記載の発明にかかる膜厚計測方法は、請求項4記載の膜厚計測装置を用いて亜鉛めっきによって被覆されている同一径の7本の鋼製の素線を、1本の素線を芯線としてその芯線を残りの6本の素線で取り囲むように撚り合わされて素線を取り囲む外側の6本の共通外接線で構成される横断面形状が六角形となるように撚り合わせたメッセンジャーワイヤーの亜鉛めっき厚さを計測する膜厚計測方法において、治具の挟持部を用いてメッセンジャーワイヤーの素線を取り囲む外側の6本の共通外接線で構成される六角形の辺のうち、対向している2辺間を挟持するステップと、治具の挿入口に素線の表面との間で生じる磁気的な相互作用の大きさを検出するプローブを挿入するステップと、治具の案内部を用いて挿入口から挿入されたプローブの検出部を素線の表面に正対させた状態を保持したまま素線の表面に向けて案内し、検出部を素線の表面に垂直に当接させるステップと、電磁膜厚計で計測された計測値から素線の表面に亜鉛めっきが形成されていない素線を電磁膜厚計の計測対象にして計測して得た計測値を減算するステップと、ここで減算して得た減算結果を、互いに厚さが異なる複数の亜鉛めっきにおける各膜厚値と、これらの膜厚値からなる亜鉛めっきがそれぞれ被覆されている複数の素線を電磁膜厚計の計測対象にして計測して得た各計測値から素線の表面に亜鉛めっきが形成されていない素線を電磁膜厚計の計測対象にして計測して得た計測値を減算した減算結果との相関関係から導出した較正用データに基づいて補正するステップとを備えるようにしている。
したがって、素線の膜厚計測を行なう場合、先ず撚り線が挟持部で挟持される。次いで、プローブが案内部の挿入口に挿入され、素線の表面に向けて押し込まれる。この押し込みによってプローブは素線の表面に向けて案内され、やがて検出部が素線の表面あるいはその表面を非磁性膜が被覆している場合にはその非磁性膜に垂直に突き当てられる。ここで検出部が素線の表面との間で生じる磁気的な相互作用の大きさを検出する。電磁膜厚計は検出部での検出結果に対応した計測値を導出する。ここで導出された計測値は素線の径の大きさや表面の曲率の影響を受けたものである。その影響を排除するために先ず電磁膜厚計で計測された計測値から事前に計測された計測値、即ち表面に被覆膜が形成されていない素線を電磁膜厚計の計測対象にして計測して得た計測値を減算する。そして、ここで得た減算結果を予め定められた較正用データを利用して補正する。なお、較正用データとしてはグラフ、数式、テーブルなどが考えられる。
請求項1記載の治具によれば、素線の径の大きさに関わらず、プローブの検出部を素線の表面に垂直に突き当てることができる。これによりプローブの検出部が素線と素線の間に入り込んだり、大きく傾いたりすることによって検出結果が大きくずれてしまうということがなくなる。したがって、素線の表面とプローブの検出部との距離、即ち素線を被覆している非磁性膜の厚さを計測するにあたってプローブによる検出を簡便に且つ正確に行なうことができる。
また、請求項2及び5記載の発明の場合、撚り線を確実に挟持することができるので、膜厚計測中に撚り線から治具が外れたりずれたりすることがなくなり、プローブによる計測作業を迅速且つ正確に行なうことができる。
また、請求項3及び6記載の発明の場合、プローブの検出部が素線の表面あるいはその表面を非磁性膜が被覆している場合にはその非磁性膜にゆっくり当て付けられるので、プローブの検出部が素線あるいは非磁性膜に衝突したときの衝撃による破損を防止することができる。
また、請求項4記載の膜厚計測装置及び請求項6記載の膜厚計測方法によれば、治具によってプローブの検出部を素線の表面あるいはその表面を非磁性膜が被覆している場合にはその非磁性膜に垂直に突き当てることができるので、プローブによる検出を簡便に且つ正確に行なうことができる。また、プローブの検出結果に基づいて算出された非磁性膜の膜厚値に対して較正用データを利用して素線の径の大きさや表面の曲率による影響を排除する補正を施すようにしたので、非磁性膜の厚さを正確に導出することができる。また、電磁膜厚計で計測された計測値を補正する場合、その計測値から予め用意されている計測値を減算した後、予め用意されている較正用データ例えば較正用のグラフ、数式、あるいはテーブルを利用して減算結果に対応している膜厚値を導き出すだけで良いので、非磁性膜の厚さを簡便に求めることができる。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1〜図5に本発明の治具、膜厚計測装置及び方法をメッセンジャーワイヤーの膜厚計測に適用した実施形態の一例を示す。本実施形態の膜厚計測装置4は、撚り線であるメッセンジャーワイヤー1を構成している強磁性体からなる複数の素線2のそれぞれを被覆している非磁性膜である亜鉛めっき3の厚さを電磁膜厚計5を利用して計測するものであり、メッセンジャーワイヤー1を挟持する挟持部28と、電磁膜厚計5のプローブ8が挿入される挿入口25aを有し、この挿入口25aから挿入されたプローブ8の検出部10aを素線2の表面2aに正対させた状態を保持したまま表面2aに向けて案内し、検出部10aを表面2aあるいは亜鉛めっき3に垂直に当接させる案内部25とを備えた治具6と、電磁膜厚計5で計測された計測値から表面2aに被覆膜が形成されていない素線2を電磁膜厚計5の計測対象にして計測して得た計測値を減算する減算手段22と、互いに厚さが異なる複数の非磁性膜であるプラスチック製の膜における各膜厚値と、これらの膜厚値からなるプラスチック製の膜がそれぞれ被覆されている複数の素線2を電磁膜厚計5の計測対象にして計測して得た各計測値から表面2aに被覆膜が形成されていない素線2を電磁膜厚計5の計測対象にして計測して得た計測値を減算した減算結果との相関関係から導出した較正用データ18aに基づいて減算手段22での減算結果を補正する補正手段23とを備えている。
また、本実施形態の膜厚計測方法は、メッセンジャーワイヤー1を構成している複数の素線2のそれぞれを被覆している亜鉛めっき3の厚さを計測する方法であり、治具6の挟持部28を用いてメッセンジャーワイヤー1を挟持するステップと、治具6の挿入口25aに素線2の表面2aとの間で生じる磁気的な相互作用の大きさを検出するプローブ8を挿入するステップと、治具6の案内部25を用いて挿入口25aから挿入されたプローブ8の検出部10aを素線2の表面2aに正対させた状態を保持したまま表面2aに向けて案内し、検出部10aを表面2aあるいは亜鉛めっき3に垂直に当接させるステップと、電磁膜厚計5で計測された計測値から表面2aに被覆膜が形成されていない素線2を電磁膜厚計5の計測対象にして計測して得た計測値を減算するステップと、ここで減算して得た減算結果を、互いに厚さが異なる複数のプラスチック製の膜における各膜厚値と、これらの膜厚値からなる非磁性膜がそれぞれ被覆されている複数の素線2を電磁膜厚計5の計測対象にして計測して得た各計測値から表面2aに被覆膜が形成されていない素線2を電磁膜厚計5の計測対象にして計測して得た計測値を減算した減算結果との相関関係から導出した較正用データ18aに基づいて補正するステップとを備えている。
図3に示すように、メッセンジャーワイヤー1は横断面形状が六角形となるように同一径である7本の鋼製の素線(以下、単に「素線」と称する)2を撚り合わせた撚り線である。つまり、1本の素線2を芯線としてその芯線を6本の素線2で取り囲むように撚り合わされている。素線2の横断面は円形状になっている。そして、素線2の横断面は円形状になっており、素線2のそれぞれには防錆用の亜鉛めっき3が被覆されている。なお、本実施形態では素線2を鋼製としたが、電磁膜厚計5で計測可能な強磁性体からなる素材であればどのようなものであっても良い。また、本実施形態では素線2に亜鉛めっき3を被覆するようにしているが、素線2に被覆される膜は非磁性体であれば適宜に変更可能である。また、本実施形態ではメッセンジャーワイヤー1を構成している7本の素線2については径、材質などの構成要素は全て同一であるとする。
図1に示すように、膜厚計測装置4は、電磁膜厚計5と治具6とパーソナルコンピュータ7とを備えている。電磁膜厚計5はプローブ8と計測器本体9とから構成されたものであり、強磁性体である対象物とプローブ8との間の磁気的な相互作用の大きさの変化からプローブ8から強磁性体である対象物までの距離を計測するものである。本実施形態では芯線となる1本の素線2の外周を取り囲んでいる6本の素線2のうちのいずれか1本の素線2の表面2aとプローブ8との間の磁気的な相互作用の大きさの変化から、表面2aからプローブ8までの距離が計測される。
プローブ8は交流磁場を発生させ、表面2aとの間で生じる磁気的な相互作用の大きさを検出するものである。図3に示すように、プローブ8は円筒状のプローブ本体部10とこのプローブ本体部10よりも僅かに大径でドラム状のフランジ11とから構成されている。プローブ本体部10の先端の中央部には突起状の検出部10aが設けられ、基端にはフランジ11が形成されている。また、フランジ11にはケーブル12が接続され、このケーブル12を介してプローブ8と計測器本体9とは電気的に接続されている。
図1に示すように、計測器本体9にはCPUあるいはMPUなどからなる制御装置13、ユーザーが入力操作を行なうための操作パネル14、液晶ディスプレイ15などが備えられている。制御装置13は、プローブ8で検出された検出結果が入力されたことを契機にメモリなどの記憶手段16に格納された制御プロブラムを読み出し、その制御プロブラムに基づいて表面2aとプローブ8との間の距離を算出する。その算出結果は電磁膜厚計5で計測された計測値として液晶ディスプレイ15に表示され、計測器本体9にパーソナルコンピュータ7が接続されている場合には、電磁膜厚計5で計測された計測値は信号化され、パーソナルコンピュータ7に出力される。
パーソナルコンピュータ7は、CPUあるいはMPUなどからなる制御装置17とハードディスクなどの記憶手段18とを備えており、制御装置17にはキーボード19a及びマウス19bから構成される入力装置19、CRTディスプレイあるいは液晶ディスプレイなどからなる表示装置20及びプリンタなどの出力装置21が接続されている。入力装置19は、所定の入力操作に応答してその入力操作に対応した信号を制御装置17に出力する。制御装置17は入力装置19から入力された信号に応答して表示装置20や出力装置21などの各装置を制御する。
パーソナルコンピュータ7の作動は基本的に制御装置17によって制御される。この制御装置17はケーブル30を介して制御装置13に接続され、制御装置13から入力される信号に応答して記憶手段18に格納されたプログラムを実行することによって減算手段22及び補正手段23として機能する。
減算手段22は、プローブ8をメッセンジャーワイヤー1の表面、即ちメッセンジャーワイヤー1を構成している7本の素線2において、そのうちの芯線にあたる素線2を除いた6本の素線2のうちの1つの素線2の表面2aあるいはその表面2aに亜鉛めっき3が被覆されている場合にはその亜鉛めっき3に検出部10aを当てて電磁膜厚計5で計測して得た計測値(以下、第1の計測値と称する)から、予め表面2aに被覆膜が形成されていない素線2の表面2aを電磁膜厚計5の計測対象にして計測して得た計測値を減算するものである。つまり、記憶手段18には事前に被覆膜が形成されていない素線2の表面2aに検出部10aを当てて電磁膜圧計5で計測した計測値(以下、第2の計測値と称する)が格納されており、減算手段22は、制御装置13から第1の計測値を示す信号が入力されたことを契機に記憶手段18から第2の計測値が読み出し、第1の計測値から第2の計測値を減算する。そして、その減算結果を示す信号を補正手段23に出力する。例えば、第1の計測値をX、第2の計測値をYとした場合、減算手段22はX−Yの減算結果を示す信号を補正手段23に出力することとなる。なお、本実施形態において、X、Yの単位はμmとする。また、第2の計測値としては、同条件下で計測を複数回行い、そこで得た複数の計測値の平均値を用いることが好ましい。
補正手段23は減算手段22での減算結果を補正するものである。記憶手段18には互いに厚さが異なる複数のプラスチック製の膜における各膜厚値と、これらの膜厚値からなるプラスチック製の膜がそれぞれ被覆されている複数の素線2を電磁膜厚計5の計測対象にして計測して得た各計測値から第2の計測値を減算した減算結果との相関関係から導出した較正用データ18aが予め格納されている。この較正用データ18aは減算手段22から補正手段23に減算結果を示す信号が入力されたことを契機に補正手段23によって読み出され、この較正用データ18aに基づいて補正手段23は減算手段22で得られた減算結果に対して補正処理を施す。なお、第2の計測値によって減算される対象となる各計測値としては、同条件下で計測を複数回行い、そこで得た複数の計測値の平均値を用いることが好ましい。また、本実施形態ではプラスチック製の膜を被覆した素線2を計測対象として電磁膜厚計5による計測を行う例を挙げて説明するが、プラスチック製の膜ではなくステンレスやゴムなどの非磁性体からなる膜が被覆された素線2を計測対象にして電磁膜厚計5による計測を行なっても良い。
記憶手段18には、例えば膜厚値がαのプラスチック製の膜が被覆されている素線、膜厚値がβのプラスチック製の膜が被覆されている素線、膜厚値がγのプラスチック製の膜が被覆されている素線とのそれぞれを電磁膜厚計5の計測対象として計測して得た各値から第2の計測値を減算した各値と、膜厚値α〜γとの相関関係から導出した較正用データ18aが格納されている。この較正用データ18aとは例えば図2のグラフ24を示す数式のことを表す。このグラフ24は、例えば、膜厚値がαのプラスチック製の膜が被覆されている素線2を計測対象として電磁膜厚計5で計測して得られた値をA、膜厚値がβのプラスチック製の膜が被覆されている素線2を計測対象として電磁膜厚計5で計測して得られた値をB、膜厚値がγのプラスチック製の膜が被覆されている素線2を計測対象として電磁膜厚計5で計測して得られた値をC、第2の計測値をYとした場合、A−Y、B−Y及びC−Zと、これらの値に対応している膜厚値α〜γとの相関関係から導出されたものであり、非線形的な滑らかな曲線になっている。グラフ24の横軸は膜厚値を示し、縦軸は電磁膜厚計5による計測値から第2の計測値を減算した場合の計測値を示す。なお、本実施形態において、A〜C、α〜γの単位はμmとする。
減算手段22で得られた減算結果に対してグラフ24を示す数式を用いて補正処理を行なう場合、補正手段は、先ず減算手段22から入力された信号に応答して記憶手段18からグラフ24とグラフ24を示す数式とを読み出し、グラフ24を表示装置20に表示する。そして、減算手段22での減算結果つまり第1の計測値から第2の計測値を減じた値例えば上述したX−Yに対応する膜厚値をグラフ24を示す数式から算出し、その膜厚値をグラフ24とともに表示装置20に表示する。例えば、第1の計測値と第2の計測値との減算値X−Yがグラフ24の縦軸においてA−YとB−Yとの間にある場合、減算値X−Yに対応している膜厚値はグラフ24からα値とβ値との間にあるδ値となり、補正手段23では、このδ値が減算手段22で得られた減算結果即ちX−Yが補正された値として算出される。減算値X−Yから膜厚値を導き出す過程はグラフ24を利用して表示装置20に表示される。したがって、ユーザーは視覚的に膜厚値が導出されるまでの過程を認識することができる。なお、補正手段23で得られた膜厚値は入力装置19の入力操作に従って出力装置21に出力される。したがって、プリンタが接続されている場合には補正手段23による補正処理の結果即ち膜厚値のプリントアウトが可能となる。
本実施形態では、減算手段22での減算結果を補正するにあたって、較正用データ18aとして上記のような曲線的な較正用のグラフ24を示す数式を利用して補正を行なったが、これ以外にも例えばグラフ24が直線性を有するものである場合には、直線性を有するグラフ24を示す数式を記憶手段18に格納しておき、この数式に減算手段22での減算結果を代入して膜厚値を求めるようにしても良い。例えば、グラフ24とは異なるグラフであり、そのグラフがP=aQ(a;定数、P;計測値に関する変数、Q;膜厚値に関する変数)の一次関数を示すような数式を満たすものであった場合、減算手段22による減算結果即ち第1の計測値をX、第2の計測値をYとした場合のX−Yの値が「P=aQ」の「P」に代入され、膜厚値Qが算出されることとなる。あるいは、較正用データ18aとして、互いに厚さが異なる複数の非磁性膜における各膜厚値と、これらの膜厚値からなる非磁性膜がそれぞれ被覆されている複数の素線を電磁膜厚計5の計測対象にして計測して得た各計測値から第2の計測値を減算した減算結果との相関関係を示すテーブルを格納しておき、このテーブルに減算手段22での減算結果を照らし合わせてその減算結果に対応した膜厚値を導き出すようにしても良い。テーブルを使用する場合、例えばグラフ24から複数の細分化した計測値を抽出し、これらの計測値とともにこれらの計測値に対応している膜厚値をテーブルに記録しておく。この場合、例えば、電磁膜厚計5で計測される第1の計測値が少数第1位レベルまで計測されるものであるとすれば、テーブルには少数第1位レベルの計測値を事前に記録させておくとともに、その計測値に対応した膜厚値も記憶させておくようにする。これにより、電磁膜厚計5の計測で得られた第1の計測値が例えば150.1や50.5などのように少数第1位を有するような値であった場合でもその値に対応する膜厚値を導出することが可能となる。勿論さらに細かな計測値(例えば少数第2位レベルの計測値)に対応している膜厚値を導出することも可能であり、その場合、例えばグラフ24から計測値をさらに細分化し、その細分化した計測値をそれぞれ抽出してテーブルに記憶させるとともに、それらの計測値に対応した膜厚値も記憶させておくようにしておけば良い。このようにテーブルを使用して補正を行なう場合には、電磁膜厚計5の分解能に対応したテーブルを作成し、それを予め記憶媒体18に格納させておき、ここに格納されているテーブルに基づいて補正手段23による補正処理を行なうようにすれば良い。
治具6は、電磁膜厚計5を使用してメッセンジャーワイヤー1の膜厚、即ちメッセンジャーワイヤー1を構成している素線2を被覆している亜鉛めっき3の厚さを計測する際に使用されるものである。治具6は、基端にプローブ本体部10が挿脱可能な挿入口25aと、先端にこの挿入口25aと同じ大きさで同形状の出口25bと、挿入口25aと出口25bとを同径で且つ直線状に連通している通路25cとから構成された円筒状の案内部25と、この案内部25の先端から前方に突出し、対向配置されている2つの長細い突出板26、27からなる挟持部28とを備えている。
案内部25は内径がプローブ本体部10の外径よりも僅かに大きく、プローブ本体部10の先端部が挿入口25aから挿入され、その挿入方向に向けて押し込まれると、プローブ本体部10の外周面10bが案内部25の内壁面25dに摺動しながら出口25bに向けて案内されるように構成されている。突出板26、27は案内部25の先端に螺子止めによって着脱自在に取り付けられており、その突出方向の長さがメッセンジャーワイヤー1の外形よりも大きく、互いに対向している平面26a、27aが形成されている。また、平面26a、27a間にはプローブ本体部10のそれ以上の挿入を規制するストッパ33が設けられている。このストッパ33の中央部には案内部25内にプローブ本体部10が挿入され、そのプローブ本体部10がさらに挟持部28に向けて押し込まれたときに検出部10aが通路25cから平面26a、27a間に貫通する貫通孔33aが形成されている。したがって、検出部10aは貫通孔33aを介して挟持部28で挟持されているメッセンジャーワイヤー1の表面に当接することとなる。また、突出板26、27は可撓性を有する板ばねからなり、弾性的な付勢力を利用してメッセンジャーワイヤー1を挟持するように構成されている。また、突出板26、27の先端部は互いに離反するように反り上がっており、平面26a、27aの間隔よりも多少開いた状態になっている。したがって、メッセンジャーワイヤー1は平面26a、27a間に入り込み易くなる。なお、2つの突出板26、27は、メッセンジャーワイヤー1を挟持する部分のみ(例えば基端あるいは先端と基端の間の部分のみ)が対向配置されていれば足りるが、作業の行い易さを勘案すると突出板26、27の全体が対向していることが好ましい。また、治具6は非磁性体、例えばステンレス、プラスチック、ゴム等あるいはこれらの組み合わせ等によって形成されることが好ましい。仮に治具6を構成している部材、例えば案内部25、挟持部28、ストッパ33などが強磁性体からなっている場合には検出部10aが検出対象物つまりメッセンジャーワイヤー1以外のものである治具6の構成部材に当たることによって誤検出を行なってしまう可能性があるが、治具6を非磁性体からなる部材で構成することによって検出部10aが治具6の構成部材に誤って当たったとしても上記のような誤検出を起こさないようにすることができる。また、本実施形態では案内部25は円筒状に形成するようにしたが、プローブ本体部10の形状に合わせてその形状は適宜に変更可能である。例えばプローブ本体部10が直方体形状に形成されている場合には、その直方体形状部が挿脱可能となる案内部25を構成すれば良い。
挿入口25aの縁にはフランジ25eが形成されており、このフランジ25eにはコイルばね29の一端29aが固着されている。このコイルばね29はプローブ8を表面2aから引き離す方向に弾性的に付勢する付勢部材として機能するものである。コイルばね29のコイル状部29bの中心部の円柱状空間は挿入口25a、通路25c及び出口25bと同径に形成されている。したがって、プローブ本体部10はこのコイル状部29aの他端側の開口29cを介して挿入口25aから通路25c内に挿入可能となる。そして、プローブ本体部10が開口29c介して挿入口25aから通路25c内に挿入されると、フランジ11にコイルばね29の他端29dが当接するため、プローブ8はコイルばね29の付勢力に抗して案内部25内に押し込まれることとなる。つまり、検出部10aが表面2aに正対した状態でほぼ一定の力でメッセンジャーワイヤー1の表面、即ち表面2aあるいはその表面2aを亜鉛めっき3が被覆している場合にはその亜鉛めっき3に当て付けられる。したがって、挟持部28で挟持されているメッセンジャーワイヤー1の表面2aあるいは亜鉛めっき3にプローブ8の検出部10aを当接させる場合にはプローブ8の検出部10aがゆっくりと当てられるので、検出部10aが表面2aあるいはその表面2aを被覆している亜鉛めっき3に勢いよく衝突してその衝撃で破損するといったことを防止することができる。なお、本実施形態ではコイルばね29の付勢力を用いて表面2aあるいはその表面2aを被覆している亜鉛めっき3と検出部10aとの衝撃を和らげるようにしたが、プローブ8にコイルばね29以外の弾性的な付勢力を付与することができるもの(例えばスポンジなど)であればどのようなものであっても良い。また、ストッパ33とプローブ本体部10の先端面との間にコイルばね29よりも弾性力の弱いコイルばねを介在させて、検出部10aをメッセンジャーワイヤー1に当接させるための力を調節するようにしても良い。また、本実施形態では緩衝用のコイルばね29を設けたが、本発明はコイルばね29のような緩衝用の付勢部材がなくとも成立する。
なお、治具6はメッセンジャーワイヤー1の径の大きさによって使い分けられる。例えば、メッセンジャーワイヤー1の径が20mmの場合にはこの径のメッセンジャーワイヤー1を挟持することができる挟持部28を有する治具6を用いるようにする。つまり、治具そのものを交換するのではなく、挟持部28は案内部25の先端に螺子止めによって着脱自在に取り付けられるような構造になっているので、メッセンジャーワイヤー1の径に応じて挟持部28のみを交換することが可能であり、作業効率の向上とコストの低廉化に寄与することができる。しかし、挟持部28を案内部25の先端に着脱自在に取り付けるような構造にせずとも挟持部28を案内部25の先端に一体形成しても良く、このような場合であっても本発明は成立する。
以上のように構成された膜厚計測装置4を利用してメッセンジャーワイヤー1における亜鉛めっき3の膜厚を測定する手順について説明する。
先ず、メッセンジャーワイヤー1を構成している素線2の膜厚計測を行なうにあたって、メッセンジャーワイヤー1の径の大きさに対応した治具6を準備する。つまり、挟持部28でメッセンジャーワイヤー1の横断面六角形状の対向する2辺間を挟持することができる挟持部28を有する治具6を選択する。
挟持部28でメッセンジャーワイヤー1を挟持するとき、芯線となる素線2を取り囲む外側の6本の素線2で構成される横断面形状で六角形を成す6つの辺のうち、対向している2辺に対して挟持部28の平面26a、27aを当接させるとともに、電磁膜厚計5の計測対象となる素線2の表面2aあるいはその素線2を亜鉛めっき3が被覆している場合にはその亜鉛めっき3が案内部25の出口25b及び挿入口25aに正対するように挟持する。
次に、プローブ本体部10を先端側からコイルばね29の開口29cを介して挿入口25aに挿入する。そして、プローブ本体部10を素線2の表面2aに向けて押し込むと、検出部10aが表面2aに正対した状態が保持されたまま表面2aに向けて案内される。やがて検出部10aは表面2aに亜鉛めっき3が被覆されている場合にはその亜鉛めっき3に垂直に当接し、亜鉛めっき3が表面2aに被覆されていなければ表面2aに垂直に当接する。ここで検出部10aが表面2aとの間で生じる磁気的な相互作用の大きさを検出する。検出部10aで得た検出結果はケーブル12を介して計測器本体9の制御装置13に出力される。
ここで、メッセンジャーワイヤー1を構成している素線2を被覆している亜鉛めっき3の厚さを計測するまでの処理の流れを図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。
計測器本体9は治具6を用いてプローブ8で検出された検出結果に基づいて第1の計測値を導出する(S1)。計測器本体9は第1の計測値を示す信号を制御装置17に出力する(S2)。減算手段22は第1の計測値から第2の計測値を減算する(S3)。そして、ここでの減算結果を較正用データに基づいて補正する(S4)。これによってメッセンジャーワイヤー1を構成している複数の素線2のうち、計測対象にした素線2を被覆している亜鉛めっき3の厚さが導き出される。
以上のように、膜厚計測装置4によれば、治具6を用いてプローブ8の検出部10aをメッセンジャーワイヤー1の表面、即ち表面2aあるいは亜鉛めっき3に垂直に当接させるようにしたので、メッセンジャーワイヤー1の表面の凹凸形状の影響を受けずにプローブ8による検出を迅速に且つ正確に行なうことができる。そして、プローブで得た検出結果に基づいて電磁膜厚計5で第1の計測値を導出し、その第1の計測値から被覆膜がない状態の素線を計測対象にして電磁膜厚計5で計測して得た第2の計測値を減算した後、その減算結果を較正用データを用いて補正するようにしたので、メッセンジャーワイヤー1の直径が1〜2mm程度の素線に対して最小計測面積が5mm×5mm程度の既存の電磁膜厚計を利用して計測を行なっても正確な計測値を得ることが可能となる。つまり、素線の径の大きさや曲率などが電磁膜厚計5の出力に与える影響を排除した計測値を得ることが可能となる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した実施形態では、パーソナルコンピュータ7を用いて第1の計測値の補正処理を行なったが、本発明の膜厚計測方法は、パーソナルコンピュータ7を用いなくともメッセンジャーワイヤー1の亜鉛めっき3の膜厚値を求めることが可能である。この場合、先ず治具8でメッセンジャーワイヤーを挟持するとともに、プローブ本体部10を挿入口25aから案内部25内に挿入し、検出部10aをメッセンジャーワイヤー1を構成している素線2の表面2aに正対させた状態を保持したまま表面2aに向けて案内し、検出部10aを表面2aあるいはその表面2aを亜鉛めっき3が被覆している場合にはその亜鉛めっき3に当接させる。ここで検出部10aで得た検出結果に基づいて電磁膜厚計5から第1の計測値を得る。そして、その第1の計測値を液晶ディスプレイ15に表示させ、それを記録する。次に、電磁膜厚計5で得た第1の計測値から事前に用意しておいた第2の計測値を減算する。そして、ここで得た減算結果を事前に用意しておいたグラフ24のような較正用データ(例えば、グラフや表など)に当てはめて膜厚値を導き出せば良い。
また、本実施形態では、パーソナルコンピュータ7の制御装置17を減算手段22及び補正手段23として機能させたが、これに限ることなく、計測器本体9の制御装置13を減算手段22及び補正手段23として機能させるようにしても良い。この場合、例えば、記憶手段16に較正用データ18aを格納し、制御装置13が必要に応じて記憶手段から第2の計測値や較正用データを読み出し、補正処理を行なうようにすれば良い。また、制御装置13を減算手段22として機能させ、制御装置17を補正手段として機能させるようにしても良い。この場合、例えば、記憶手段16に第2の計測値を、記憶手段18に較正用データを予め格納しておく。そして、プローブ8での検出が終了し、その検出結果に基づいて電磁膜厚計5が第1の計測値を導出した後、制御装置13は記憶手段16から第2の計測値を読み出し、第1の計測値から第2の計測値を減算する処理を行い、その処理結果を信号化して制御装置17に出力する。制御装置17に制御装置13での処理結果を示す信号が入力されると、制御装置17は記憶手段18から較正用データを読み出し、その較正用データに基づいて制御装置13での処理結果を補正する。
また、本実施形態では、案内部25とフランジ11との間にコイルばね29を介在させ、そのコイルばね29の付勢力を利用してプローブ8をメッセンジャーワイヤー1の表面にほぼ一定の力で押し当てるようにしたが、図5に示すようにプローブ8の先端部と後端部を対向配置されたコイルばね30、32で付勢することによってプローブの押し出し力を規制するようにしても良い。この場合、治具6において、通路25cの先端にコイルばね30の一端を固着する。また、プローブ8の後端部が挿入される円筒体31を設け、この円筒体31の内部の後端にコイルばね30よりも弾性力が強いコイルばね32の一端を固着する。検出部10aをメッセンジャーワイヤー1の表面に当て付けて検出を行なう場合、先ずプローブ本体部10を先端側から案内部25内に挿入し、プローブ本体部10の先端面をコイルばね30の他端に当接させる。次にプローブ8の後端部を円筒体31に挿入し、コイルばね32の他端に当接させる。そして、円筒体31を持って円筒体31とともにプローブ8を治具6に向けて押し出すと、コイルばね32はほぼ一定の付勢力でプローブ8を挟持部28で挟持されているメッセンジャーワイヤー1(図示省略)に向けて押し出す。このときプローブ8はコイルばね30の付勢力に抗してメッセンジャーワイヤー1に向けて押し出されるため、検出部10aはゆっくりとメッセンジャーワイヤー1の表面に当接することとなり、検出部10aによる検出を行なうにあたって適切な力をプローブ8に作用させることが可能となる。しかも、検出部10aがメッセンジャーワイヤー1の表面に衝突して破損することを防止することができる。
因みに、本実施形態では7本の素線を撚り合わせたメッセンジャーワイヤー1に本発明を適用した例を挙げて説明したが、本発明が種々のワイヤーに対しても適用可能であることは言うまでもない。例えば7本未満あるいは8本以上の素線を撚り合わせた撚り線、横断面が楕円形状のワイヤー、横断面が円形状のワイヤーなどに対しても本発明を適用することができる。
被覆膜が形成されていない鋼製ワイヤーと、表面に亜鉛めっきが施されている鋼製ワイヤーと、表面に11.4μmのプラスチック膜が施されている鋼製ワイヤーと、表面に49.4μmのプラスチック膜が施されている鋼製ワイヤーと、表面に99.8μmのプラスチック膜が施されている鋼製ワイヤーと、被覆膜が形成されていないハイテン製ワイヤーと、表面に亜鉛めっきが施されているハイテン製ワイヤーと、表面に11.4μmのプラスチック膜が施されているハイテン製ワイヤーと、表面に49.4μmのプラスチック膜が施されているハイテン製ワイヤーと、表面に99.8μmのプラスチック膜が施されているハイテン製ワイヤーとのそれぞれについて電磁膜厚計5を用いて膜厚の計測実験を行なった。本実施例では、電磁膜厚計5として、(株)ケット科学研究所製のポータブル計測器である電磁膜厚計LE-300Jを採用した。この電磁膜厚計LE-300Jの仕様は、プローブ型式がLEP-J(Fe)、計測範囲が0から1500μmまたは60.00mil、測定精度が50μm未満(±0.1μm)、50μm以上(±1.0μm)、最小計測面積が5×5mm、表示方法がデジタル、電源が単3アルカリ×4、電池寿命が連続60時間、寸法が75(w)×140(D)×31(H)mm、質量が0.5kgとなっている。なお、本実施例における「ワイヤー」とはメッセンジャーワイヤーのような撚り線を示すものではなく、針金を示す。したがって、鋼製ワイヤーとは鋼製の針金を示し、ハイテン製ワイヤーとはハイテン製の針金を示す。
本実験では、先ず、被覆膜が形成されていない鋼製ワイヤーにおける電磁膜厚計5による膜厚計測結果を膜厚0μmの場合の値とし、表面に11.4μm、49.4μm、99.8μmのプラスチック膜のそれぞれが施されている鋼製ワイヤーの場合の電磁膜厚計5による膜厚計測結果との相関関係をとり、その後、この相関関係と表面に亜鉛めっきが施されている鋼製ワイヤーにおける電磁膜厚計5による膜厚計測結果とを用いて膜厚の推定を行なった。なお、この実験で使用した鋼製ワイヤーの横断面積は30mm2である。
表1に被覆膜が形成されていない鋼製ワイヤーと、表面に亜鉛めっきが施されている鋼製ワイヤーと、表面に11.4μmのプラスチック膜が施されている鋼製ワイヤーと、表面に49.4μmのプラスチック膜が施されている鋼製ワイヤーと、表面に99.8μmのプラスチック膜が施されている鋼製ワイヤーとのそれぞれにおける電磁膜厚計5による膜厚計測結果を示す。
表1から、被覆膜が形成されていない鋼製ワイヤーの膜厚値は実際は0μmであるにも関わらず、計測値が約51.9μmになっていることが分かる。また、表面に11.4μmのプラスチック膜が施されている鋼製ワイヤーの場合、この膜厚値は本来11.4μmであるにも関わらず、計測値が約92.2μmになっていることが分かる。また、表面に49.4μmのプラスチック膜が施されている鋼製ワイヤーの場合、この膜厚値は本来49.4μmであるにも関わらず、計測値が約174μmになっていることが分かる。また、表面に99.8μmのプラスチック膜が施されている鋼製ワイヤーの場合、この膜厚値は本来99.8μmであるにも関わらず、計測値が約268μmになっていることが分かる。したがって、11.4μm、49.4μm、99.8μmのそれぞれの膜厚の電磁膜厚計5による計測値は本来の厚さ(11.4μm、49.4μm、99.8μm)と線形関係にないことが分かる。
表1に示す相関関係をグラフで表すと図6のようになる。図6において、横軸は膜厚値を示し、縦軸は電磁膜厚計による計測値から膜厚0のときの電磁膜厚計による計測値を減算した場合の計測値を示す。この図6によれば、計測値と膜厚の関係は非線形であり、なだらかなカーブを描いているが、この図に示されているグラフを利用して電磁膜厚計5による計測値から膜厚値を求めるための換算は可能であると考えられる。なお、本実験では計測対象となる膜厚が少ないため粗い結果となっているが、より多数の計測点を用意すればより精度の高い換算も可能になることが期待できる。
次に、図6を較正曲線として、表面に亜鉛めっきが施されている鋼製ワイヤーの膜厚の推定を行なった。表面に亜鉛めっきが施されている鋼製ワイヤーの計測結果152μmからから膜厚0の値51.9μmを減算した結果は100.1μmであり、これを図〜の較正曲線に基づいて膜厚値を換算すると約38μmとなった。従来の同等のめっきワイヤーのめっき厚計測結果では30〜50μm程度の間でばらついており、ワイヤーのめっき厚さの値として妥当な数値が得られていると判断され、適用の可能性が明らかになった。
次に、被覆膜が形成されていないハイテン製ワイヤーにおける電磁膜厚計5による膜厚計測結果を膜厚0μmの場合の値とし、表面に11.4μm、49.4μm、99.8μmのプラスチック膜のそれぞれが施されているハイテン製ワイヤーの場合の電磁膜厚計5による膜厚計測結果との相関関係をとり、その後、この相関関係と表面に亜鉛めっきが施されているハイテン製ワイヤーにおける電磁膜厚計5による膜厚計測結果とを用いて膜厚の推定を行なった。なお、この実験で使用したハイテン製ワイヤーの横断面積は38mm2である。
表2に被覆膜が形成されていないハイテン製と、表面に亜鉛めっきが施されているハイテン製ワイヤーと、表面に11.4μmのプラスチック膜が施されているハイテン製ワイヤーと、表面に49.4μmのプラスチック膜が施されているハイテン製ワイヤーと、表面に99.8μmのプラスチック膜が施されているハイテン製ワイヤーとのそれぞれにおける電磁膜厚計5による膜厚計測結果を示す。
表2から、被覆膜が形成されていないハイテン製ワイヤーの膜厚値は実際は0μmであるにも関わらず、計測値が約51.3μmになっていることが分かる。この値は、鋼製ワイヤーの計測値の約51.9μmにかなり近い。これは材質の違いである鋼とハイテンの間で磁気的な性質に大きな違いがなく、断面積も30mm2と38mm2とあまり顕著でなかったことによるものと考えられる。
表面に11.4μmのプラスチック膜が施されているハイテン製ワイヤーの場合、この膜厚値は本来11.4μmであるにも関わらず、計測値が約87.9μmになっていることが分かる。また、表面に49.4μmのプラスチック膜が施されているハイテン製ワイヤーの場合、この膜厚値は本来49.4μmであるにも関わらず、計測値が約167.9μmになっていることが分かる。また、表面に99.8μmのプラスチック膜が施されているハイテン製ワイヤーの場合、この膜厚値は本来99.8μmであるにも関わらず、計測値が約252.1になっていることが分かる。したがって、11.4μm、49.4μm、99.8μmのそれぞれの膜厚の電磁膜厚計5による計測値は本来の厚さ(11.4μm、49.4μm、99.8μm)と線形関係にないことが分かる。
表2に示す相関関係をグラフで表すと図7のようになる。図7において、横軸は膜厚値を示し、縦軸は電磁膜厚計による計測値から膜厚0のときの電磁膜厚計による計測値を減算した場合の計測値を示す。この図7によれば、計測値と膜厚の関係は非線形で、なだらかなカーブを描いているが、この図に示されているグラフを利用して電磁膜厚計5による計測値から膜厚値を求めるための換算は可能であると考えられる。なお、本実験では計測対象となる膜厚が少ないため粗い結果となっているが、より多数の計測点を用意すればより精度の高い換算も可能になることが期待できる。
次に、図7を較正曲線として、表面に亜鉛めっきが施されているハイテン製ワイヤーの膜厚の推定を行なった。表面に亜鉛めっきが施されているハイテン製ワイヤーの計測結果152μmからから膜厚0の値51.3μmを減算した結果は86.9μmであり、これを図7の較正曲線に基づいて膜厚値を換算すると約35.3μmとなった。従来の同等のめっきワイヤーのめっき厚計測結果では30〜50μm程度の間でばらついており、ワイヤーのめっき厚さの値として妥当な数値が得られていると判断され、適用の可能性が明らかになった。
図6に示すグラフと図7に示すグラフとを比較すると膜厚値が50μmあたりまではほとんど相違が見られず、50μmに差し掛かったあたりから図6のグラフの方が図7のグラフよりも僅かに上昇傾向を示す。しかし、めっき残存量の概略把握のように膜厚に関する精度をあまり厳密に要求しないのであれば、図6と図7のどちらかに示されているグラフを利用して膜厚値を導き出しても良い。
以上の実験結果から、電磁膜厚計5を利用して各種ワイヤーの膜厚を計測する場合には、ワイヤー径ごとに図6や図7に示すような較正用グラフを予め作成しておき、このグラフに基づいて電磁膜厚計5で得た計測値を補正すれば良いことが分かった。