以下、本発明の制震装置の好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の制震装置の第1実施形態を説明する。
図1は、本願発明の制震装置の第1実施形態を示す模式的斜視図、図2(a)、(b)は、それぞれ、図1中A−A線断面図、B−B線断面図、図3は、図1に示す制震装置の模式的平面図、図4は、図2に示す制震部の作動を示す図である。なお、以下では、説明の便宜上、図1、図2、図4の上側を「上」、下側を「下」、右側を「右」、左側を「左」と言う。また、図1中に示すように、互いに直交する3軸を、それぞれX軸、Y軸、Z軸とする。また、X軸に平行な方向を「X軸方向」といい、Y軸に平行な方向を「Y軸方向」といい、Z軸に平行な方向を「Z軸方向」という。
制震装置1は、例えば、工場で用いられるような大型機械、サーバなどのコンピュータ機器等(以下、単に「制震対象物」とも言う)と、建築物の床や地面との間に配置して使用し、例えば、地震、使用者や物との接触、車の通過や周辺での工事に伴う地響きなどの揺れ(以下、単に「揺れ」とも言う)を吸収する装置である。
図1に示すように、本発明の制震装置1は、全体として板状をなしている。また、制震装置1の外形は、X−Y平面において、四角形状をなしている。
このような制震装置1は、鉛直方向にて互いに対向する上側基台2および下側基台3と、上側基台2と下側基台3との間に設けられた4つの制震部4〜7を備えている(図1、2参照)。
以下、上側基台2、下側基台3および制震部4〜7について、順次詳述する。
図1に示すように、上側基台2は、全体として板状をなしている。また、上側基台2の外形は、X−Y平面において、四角形状をなしている。
本実施形態の上側基台2は、X方向に間隔を隔てて並設された1対の板部材21、22と、板部材21と板部材22とを連結固定する1対の棒状の連結具23、24とで構成されている。
連結具23は、例えば螺合によって板部材21と板部材22とに固定されている。連結具23は、1対の板部材21、22のX軸方向での離間距離(図1中L3)を調整可能に構成されていることが好ましい。これにより、制震部4と制震部6との離間距離および制震部5と制震部7との離間距離をそれぞれ調整することができる。
このような連結具23としては、例えば、その長手方向に沿って複数の孔が形成されていて、この複数の孔のうちから前記螺合に用いるボルトを挿通する孔を適宜選択することにより、離間距離L3を調整するものであってもよい。また、前記複数の孔に代えて、長手方向に延在する長孔が形成されていてもよい。この長孔によれば、離間距離L3を無段階に調整することができる。
図2に示すように、上側基台2の下面には、4つの凹部25〜28が形成されている。このような凹部25〜28は、X−Y平面にて、四角形の4つの角に対応するように位置している。
具体的には、板部材21の下面であってY軸方向の両端部に凹部25、26が形成されていて、板部材22の下面であってY軸方向の両端部に凹部27、28が形成されている。
このような凹部25には、後述する上側部材41が嵌め込まれている。これと同様に、凹部26には、後述する上側部材51が嵌め込まれており、凹部27には、後述する上側部材61が嵌め込まれており、凹部28には、後述する上側部材71が嵌め込まれている。
以上のような上側基台2(つまり、板部材21、22および連結具23、24)の構成材料としては、上側基台2上に配設される制震対象物を支持することができれば特に限定されず、例えば、各種鉄材、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、チタン、ニッケル等の各種金属または合金を好適に用いることができる。
次に、下側基台3について説明するが、下側基台3は、前述した上側基台2と同様の構成を有しているため、下側基台3については、簡単に説明する。
図1に示すように、本実施形態の下側基台3は、X方向に間隔を隔てて並設された1対の板部材31、32と、板部材31と板部材32とを連結固定する1対の連結具33、34とで構成されている。
図2に示すように、下側基台3の上面には、4つの凹部35〜38が形成されている。
凹部35、36は、それぞれ板部材31の上面に形成されている。また、凹部35は、凹部25に対向するように形成されており、凹部36は、凹部26に対向するように形成されている。
凹部37、38は、それぞれ板部材32の上面に形成されている。また、凹部37は、凹部27に対向するように形成されており、凹部38は、凹部28に対向するように形成されている。
凹部35には、後述する下側部材42が嵌め込まれており、これと同様に、凹部36には、後述する下側部材52が嵌め込まれており、凹部37には、後述する下側部材62が嵌め込まれており、凹部38には、後述する下側部材72が嵌め込まれている。
以上のような下側基台3(つまり、板部材31、32および連結具33、34)の構成材料としては、前述した上側基台2の構成材料と同様であるため、その説明を省略する。
また、連結具33、34についても、連結具23と同様の構成であるため、その説明を省略する。
次に、制震部4〜7について詳細に説明する。
図2に示すように、制震部4は、凹部25と凹部35との間に設けられている。これと同様に、制震部5は、凹部26と凹部36との間に設けられており、制震部6は、凹部27と凹部37との間に設けられており、制震部7は、凹部28と凹部38との間に設けられている。
また、図3に示すように、制震部4〜7は、X−Y平面において、四角形(略正方形)の4つの角部に対応するように位置している。また、前記四角形の一方の対角線上に制震部4、7が位置しており、他方の対角線状に制震部5、6が位置している。なお、図3では、説明の便宜上、上側基台2の図示を省略している。
なお、本実施形態では、前記四角形は、略正方形であるが、前記四角形としては、四角形であれば特に限定されず、例えば、長方形、ひし形、台形などであってもよい。
以下制震部4〜7の構成について詳細に説明するが、制震部4と制震部7とは同様の構成であり、制震部5と制震部6とは同様の構成で、かつ制震部4とは異なる構成であるため、制震部4と制震部5について代表して説明し、制震部6と制震部7については、その説明を省略する。
図2に示すように、制震部4は、前述した上側部材41および下側部材42と、上側部材41と下側部材42との間に設けられた円盤部材43とで構成されている。上側部材41と下側部材42とは、Z軸方向(鉛直方向)にて互いに対向している。
上側部材41は、板状をなしている。また、上側部材41は、X−Y平面にて、略正方形状をなしている。このような上側部材41は、前述したように上側基台2の凹部25に嵌め込まれていて、例えば、嵌合、螺合、接着、溶着等により凹部25に固定(接合)されている。
上側部材41の下面(下側部材42側の面)の中央部には、外形が略円状をなす皿状の湾曲凹面411が形成されている。このような湾曲凹面411は、中央部と縁部との曲率半径が異なる非球面で構成されている。具体的には、湾曲凹面411の曲率半径は、その中央部から縁部に向けて漸減している。
上側部材41の構成材料としては、特に限定されず、例えば、各種鉄材、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、チタン、ニッケル等の各種金属または合金や、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、炭化物系セラミックスなどの各種セラミックスなどを好適に用いることができる。
下側部材42は、前述したように下側基台3の凹部35に嵌め込まれていて、例えば、嵌合、螺合、接着、溶着等により凹部35に固定されている。このような下側部材42は、上側部材41と同様の構成をなしている。
つまり、下側部材42の上面の中央部には、外形が略円状をなす皿状の湾曲凹面421が形成されている。湾曲凹面421は、湾曲凹面411の形状と対称性を有している。言い換えれば、湾曲凹面421は、湾曲凹面411と同一形状、同一寸法をなしている。
このような下側部材42の構成材料としては、前述した上側部材41の構成材料と同様であるため、その説明を省略する。
円盤部材43は、例えば、地震等の揺れによる上側部材41と下側部材42との横方向への相対的な移動に伴って変位するように設けられている。
円盤部材43の外形は、X−Y平面において略円状をなしている。また、円盤部材43は、その上面431と下面432とがそれぞれ湾曲凸面で構成されている。各湾曲凸面(上面431および下面432)は、中央部と縁部との曲率半径が異なる非球面で構成されている。具体的には、各湾曲凸面の曲率半径は、その中央部から縁部に向けて漸減している。また、上面431と下面432とは同一形状、同一寸法をなしている。つまり、上面431と下面432の形状は対称性を有している。これにより、円盤部材43の転動性が向上する。なお、円盤部材43は、略碁石状をなしているともいえる。
また、上面431の平均曲率半径は、上側部材41の湾曲凹面411の平均曲率半径よりも小さく、下面432の平均曲率半径は、下側部材42の湾曲凹面421の平均曲率半径よりも小さくなっている。これにより、円盤部材43を湾曲凹面411、421に対して点接触させることができ、円盤部材43の転動性が向上する。
このような円盤部材43の構成材料としては、特に限定されず、例えば、各種鉄材、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、チタン、ニッケル等の各種金属または合金や、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、炭化物系セラミックスなどの各種セラミックスを好適に用いることができる。
なお、円盤部材43としては、本実施形態のものに限定されず、例えば、内部が中空であってもよいし、内部に硬質樹脂材料で構成された芯材などが埋設されていてもよい。
次に、制震部5について説明する。
図2に示すように、制震部5は、前述した上側部材51および下側部材52と、上側部材51および下側部材52との間に設けられたボール部材53とで構成されている。
上側部材51は、前述した上側部材41と同様の構成である。つまり、上側部材51に下面には、皿状の湾曲凹面511が形成されている。湾曲凹面511の形状については、湾曲凹面411と同様である。
下側部材52は、前述した下側部材42と同様の構成である。つまり、下側部材52に下面には、皿状の湾曲凹面521が形成されている。湾曲凹面521の形状については、湾曲凹面421と同様である。
このような上側部材51および下側部材52の構成材料としては、前述した上側部材41の構成材料と同様であるため、その説明を省略する。
ボール部材53は、上側部材51と下側部材52との横方向への相対的な移動に伴って変位するように設けられている。
このようなボール部材53の曲率半径は、湾曲凹面511(湾曲凹面521)の平均曲率半径よりも大きい。そして、ボール部材53は、湾曲凹面511と湾曲凹面521とに、それぞれ点接触している。
また、図2に示すように、ボール部材53の直径をD1とし、円盤部材43の最大厚さをT1としたとき、D1は、0.8T1〜1.1T1の範囲を満足することが好ましく、0.9T1〜1.0T1の範囲を満足することがより好ましい。これにより、制震装置1は、より優れた制震特性を発揮することができる。
以上のようなボール部材53の構成材料としては、前述した円盤部材43の構成材料と同様であるため、その説明を省略する。
以上のような構成の制震装置1は、例えば、以下の様にして作動し揺れを吸収する。
なお、以下では、説明の便宜上、X軸方向の揺れが発生した場合について説明する。また、制震部4と制震部5の作動と、制震部6と制震部7の作動は、互いに同様であるため、制震部4と制震部5の作動について代表して説明し、制震部6と制震部7の作動については、その説明を省略する。
また、制震部4は、Z軸方向にて対称的に構成されているため、円盤部材43の下面432と湾曲凹面421との接触位置などの関係について代表して説明し、上面431と湾曲凹面411との関係については、その説明を省略する。
制震装置1は、前述したように、制震対象物と建築物の床との間に配置して使用されるものである。この際、制震対象物と上側基台2とを螺合などにより固定してもよいし、固定しなくてもよい。同様に、床と下側基台3とを固定してもよいし、固定しなくてもよい。
そして、外力が付与されていない自然状態においては、図4(a)に示すように、円盤部材43の下面432の中心P1が湾曲凹面421の中心と点接触している。一方、ボール部材53は、湾曲凹面411、421の中心と点接触している。
この状態にて、比較的小さい揺れが発生すると、例えば、図4(b)に示すように、下側基台3が下側部材42、52とともに右方向へ移動する。この移動に伴って、制震部4では、円盤部材43が反時計まわりに転動し、下面432の湾曲凹面421に対する接触位置が、P1から左側に若干ずれたP1’に移動する。
一方、制震部5では、ボール部材53が反時計回りに転動し、湾曲凹面521の中心から左側にずれた位置に移動する。
制震装置1は、このような円盤部材43およびボール部材53のそれぞれの転動により、比較的小さい揺れを吸収する。
特に、制震装置1は、転動性に優れるボール部材53を用いた制震部5を備えているため、小さい揺れに対する反応性(応答性)に優れ、小さい揺れを効果的に吸収することができる。
図4(b)に示すように、制震部5では、揺れが大きくなるにつれて、ボール部材53の湾曲凹面521の左側への転動が増す。
一方、制震部4では、揺れが大きくなるにつれて、円盤部材43の傾きθが大きくなり、これに伴って、下面432の湾曲凹面421に対する接触位置が、下面432の中心から縁に向けて移動する。
ここで、円盤部材43の下面432は、中心から縁に向けて曲率半径が減少しているため、下面432の湾曲凹面421に対する接触位置が中心から縁に向けて移動していくにつれ、円盤部材43の転動性が悪化していく(つまり、転動しにくくなる)。
そして、揺れの強さが所定値以上に到達し、例えば、図4(c)に示すように、下面432の湾曲凹面421に対する接触位置が、下面432の縁部に位置するP1”となったときに、円盤部材43は、それ以上転動することができなくなり、下面432が湾曲凹面421に対して摺動し始める。
制震装置1は、このようなボール部材53の転動と、円盤部材43の摺動により、比較的大きな揺れを吸収する。
ここで、円盤部材43の前記摺動は、円盤部材43と湾曲凹面411、421との間に摩擦抵抗を発生させる。そして、この摩擦抵抗が揺れに対する抵抗力となり、優れた減衰性を発揮する。
以上より、制震装置1は、ボール部材53および円盤部材43の相乗効果により、比較的小さい揺れから比較的大きい揺れまでを効果的に吸収することができるとともに、揺れがおさまった後に速やかに自然状態に復帰することができる。その結果、制震装置1は、優れた制震特性(揺れに対する反応性、減衰性)を発揮する。
なお、説明の便宜上、X軸方向の揺れについて代表して説明したが、360度いずれの向きの横揺れ(つまり、Y軸方向の揺れ、X軸方向とY軸方向とが合成された方向の揺れ)が発生しても、制震装置1が前述したような作動をすることは言うまでもない。
具体的には、制震装置1は、X−Y平面にて、ボール部材53、63を用いた制震部5、6が一方の対角線状上に位置し、円盤部材43、73を用いた制震部4、7が他方の対角線状に位置するように構成されている。言い換えれば、制震装置1は、X−Y平面にて、制震装置1を図1中右側から見た場合、図1中左側から見た場合、図1中紙面手前側から見た場合および図1中紙面奥側から見た場合の、いずれの場合にも、ボール部材を用いた制震部と円盤部材を用いた制震部とが並設するように構成されている。
これにより、X−Y平面にて、360度いずれの向きの横揺れが発生しても、制震装置1は、ほぼ同一の作動を行うことができる。その結果、制震装置1は、360度いずれの向きの横揺れが発生しても、優れた制震特性を発揮することができる。
ここで、地震の発生を予想することはできず、当然その揺れの方向を予測することもできない。そのため、360度いかなる方向からの横揺れが発生しても、当該横揺れを効果的に吸収することができる制震装置1は、優れた制震特性を発揮するとともに、極めて優れた実用性を発揮すると言える。
なお、仮に、制震部4、5についてはボール部材を用い、制震部6、7については円盤部材を用いた場合には、X軸方向への揺れに対しては、優れた制震特性を発揮するが、それ以外の方向(特に、Y軸方向)の揺れに対しては、制震装置1上に配設された制震対象物の重さや揺れの周波数などによっては、上側基台2と下側基台3との相対的な横移動が不均一になってしまい、優れた制震特性を発揮することができない。そのため、このような制震装置は、実用性が極めて乏しい。
<第2実施形態>
次に、本発明の制震装置の第2実施形態を説明する。
図5は、本願発明の制震装置の第2実施形態を示す模式的平面図、図6は、図5に示す制震装置の部分拡大断面図、図7は、ボール部材と弾性部材とを示す模式的拡大図、図8は、図5に示す制震部の作動を示す図、図9は、図5に示す制震装置が設置されるビルを示す図である。なお、以下では、説明の便宜上、図6〜8の上側を「上」、下側を「下」、右側を「右」、左側を「左」と言う。
以下、第2実施形態の制震装置1Aについて、前述した第1実施形態の制震装置1との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本発明の第2実施形態にかかる制震装置1は、制震部5A、6Aの構成が異なる以外は、第1実施形態の制震装置1とほぼ同様である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。
図5は、制震装置1Aの上面図であるが上側基台2および上側部材51〜71の図示を省略している。この図に示すように、X−Y平面にて、制震部4、5A、6A、7は、四角形(略正方形)の4つの角部に対応する位置に設けられている。
また、前記四角形の一方の対角線上に制震部5A、6Aがあり、他方の対角線上に制震部4、7がある。
以下、制震部5A、6Aの構成について説明するが、制震部5A、6Aは互いに同様の構成であるため、制震部5Aについて代表して説明し、制震部6Aについては、その説明を省略する。
図6に示すように、制震部5Aは、互いに対向する上側部材51および下側部材52と、上側部材51と下側部材52との間に設けられたボール部材53と、ボール部材53の周囲(外周)を囲むように設けられたリング状の弾性部材54Aとで構成されている。
上側部材51、下側部材52およびボール部材53の具体的な構成については、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略し、以下では、弾性部材54Aについてのみ詳述する。
弾性部材54Aは、地震等の揺れにより上側部材51と下側部材52とが横方向へ相対的に移動した場合に、湾曲凹面511、521のそれぞれに対して摺動するように設けられている。そして、この摺動により発生した摩擦抵抗によって、揺れを吸収するとともに、揺れが収まった後に、速やかに自然状態に復帰させる。
図6に示すように、弾性部材54Aの上面541Aは、湾曲凹面511に圧接している。同様に、弾性部材54Aの下面542Aは、湾曲凹面521に圧接している。
弾性部材54Aは、弾性を有しているため、弾性部材54Aの上面541Aは、湾曲凹面511に対応する形状に弾性変形しており、下面542Aは、湾曲凹面521に対応する形状に弾性変形している。
ここで、弾性部材54Aの内径をD2とし、ボール部材53の直径をD1としたとき、D2は、1D1≦D2≦2D1の範囲を満足することが好ましい。これにより、上側部材51と下側部材52とが横方向へ相対的に移動した場合に、弾性部材54Aが上側部材51と下側部材52との間から離脱したり、ボール部材53が弾性部材54Aの内側から飛び出したりすることを効果的に防止することができるとともに、優れた制震特性を発揮することができる。
図7に示すように、本実施形態では、弾性部材54Aの内径は、ボール部材53の直径よりも大きく、弾性部材54Aの内周面とボール部材53の外周面との間には、間隙Gが形成されている。このような空隙Gを形成することで、弾性部材54Aの内側(つまり、内周面で形成された空間内)でのボール部材53の転動が許容される。制震装置1は、このようなボール部材53の転動により、小さい揺れを効率的に吸収することができる。
これに対して、弾性部材54Aの内径がボール部材53の直径とほぼ等しく、弾性部材54Aの内周面とボール部材53の外周面とが接触するよう設けられている場合には、弾性部材54Aの内側でのボール部材53の転動を抑制することができる。このような構成によれば、例えば、前述したような間隙Gが形成されている場合と比較して、特に吸収することのできる揺れの強さが、大きい方向へシフトする。
つまり、間隙Gが形成されている場合には、比較的小さい揺れを特に効率的に吸収することができ、間隙Gが形成されていない場合には、比較的大きい揺れを特に効率的に吸収することができる。
また、弾性部材54Aの最大厚さをT2としたとき、T2は、0.8D1〜1.2D1の範囲を満足することが好ましく、0.9D1〜1.1D1の範囲を満足することがより好ましい。これにより、弾性部材54Aを湾曲凹面511、521に圧接させることができる。その結果、弾性部材54Aの摺動により発生する摩擦抵抗を比較的大きくすることができる。
このような弾性部材54Aは、ゴム材料で構成されている。このようなゴム材料としては、特に限定されず、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。
特に、弾性部材54Aは、このようなゴム材料を発泡処理した発泡ゴムで構成されていることが好ましい。これにより、弾性部材54Aの摺動によって発生する摩擦抵抗をより大きくすることができ、制震部5Aの制震特性が向上する。
弾性部材54Aのゴム硬度(JIS、K6301におけるJIS−A硬度)は、制震装置1A上に配設される制震対象物の総重量や、特に吸収したい揺れの強度、周期によっても異なるが、30〜90であることが好ましく、40〜60であることがより好ましい。これにより、上側部材51と下側部材52とが横方向へ相対的に移動した際に、弾性部材54Aは、適度な弾力で弾性変形しながら湾曲凹面511、521に対して摺動する。その結果、弾性部材54Aの前記摺動により発生する摩擦抵抗を大きくすることができ、優れた制震特性を発揮することができる。
また、弾性部材54Aは、形状、寸法または材質の異なる他の弾性部材と交換可能となっている。このように、形状、寸法または材質の異なる弾性部材を適宜選択することにより、特に吸収したい揺れの強度や周期を容易に変更・調整することができる。その結果、制震装置1Aの利便性が極めて向上する。
以上のような構成の制震装置1Aは、次のようにして揺れを吸収する。
なお、以下では、説明の便宜上、X軸方向の揺れが発生した場合について説明する。また、制震部4と制震部7の作動は互いに同様であり、制震部5Aと制震部6Aの作動は互いに同様であるため、制震部4と制震部5Aの作動について代表して説明し、制震部6Aと制震部7の作動については、その説明を省略する。
制震装置1Aは、例えば、サーバなどのコンピュータ機器が収納された収納具を螺合により上側基台2に固定するとともに、下側基台3を建築物の床に螺合により固定して使用させるものである。
外力が付与されていない自然状態においては、図8(a)に示すように、円盤部材43の下面432の中心P1が湾曲凹面421の中心と点接触している。一方、ボール部材53は、湾曲凹面411、421の中心と点接触している。また、弾性部材54Aは、その内周面がボール部材53に対して非接触となるように設けられている。
この状態にて、小さい揺れが発生すると、例えば、図8(b)に示すように、下側基台3が下側部材42、43とともに右方向へ移動する。この移動に伴って、制震部4では、円盤部材43が反時計まわりに転動し、下面432の湾曲凹面421に対する接触位置が、P1から左側に若干ずれたP1’に移動する。
一方、制震部5Aでは、ボール部材53が反時計回りに転動し、湾曲凹面521の中心から左側にずれた位置に移動する。
制震装置1Aは、このような円盤部材43およびボール部材53のそれぞれの転動により、比較的小さい揺れを吸収する。
図8(b)に示すように、制震部4では、揺れが大きくなるにつれて、円盤部材43の傾きθが大きくなり、これに伴って、下面432の湾曲凹面421に対する接触位置が、下面432の中心から縁に向けて移動する。
ここで、円盤部材43の下面432は、中心から縁に向けて曲率半径が減少しているため、下面432の湾曲凹面421に対する接触位置が中心から縁に向けて移動していくとともに、円盤部材43の転動性が悪化していく(つまり、転動しにくくなる)。
そして、揺れの強さが所定値以上に到達し、例えば、図8(c)に示すように、下面432の湾曲凹面421に対する接触位置が、下面432の縁部に位置するP1”となったときに、円盤部材43は、それ以上転動することができなくなり、下面432が湾曲凹面421に対して摺動し始める。これにより、円盤部材43と湾曲凹面411、421との間に摩擦抵抗が発生する。
一方、図8(b)に示すように、制震部5Aでは、揺れが大きくなるにつれて、ボール部材53の転動量が増大していく。そして、揺れの強さが所定値以上に到達すると、図8(c)に示すように、ボール部材53が弾性部材54Aの内周面に接触し、ボール部材53の転動が阻止される。これと同時に、ボール部材53と弾性部材54Aとがともに湾曲凹面511、521に対して摺動を開始する。これにより、弾性部材54Aと湾曲凹面511、521との間に摩擦抵抗が発生する。
制震装置1は、円盤部材43と弾性部材54Aとの摺動によって発生した摩擦抵抗によって、比較的大きい揺れを効果的に吸収する。また、前記摩擦抵抗が揺れに対する抵抗力となり、優れた減衰性を発揮することとなる。特に弾性部材54Aは弾性を有していて、湾曲凹面511、521の形状に追従するように弾性変形するため、前記摩擦抵抗がより大きくなる。
以上より、制震装置1Aは、ボール部材53、弾性部材54Aおよび円盤部材43の相乗効果により、比較的小さい揺れから比較的大きい揺れまでを効果的に吸収することができるとともに、揺れがおさまった後に極めて速やかに自然状態に復帰することができる。その結果、制震装置1は、極めて優れた制震特性(揺れに対する反応性、減衰性)を発揮する。
ここで、制震装置1Aは弾性部材54Aを備えているため、例えば、第1実施形態の制震装置1に比べて、より大きい揺れに対して優れた制震特性を発揮する。
なお、説明の便宜上、X軸方向の揺れについて代表して説明したが、360度いずれの向きの横揺れ(つまり、Y軸方向の揺れ、X軸方向とY軸方向とが合成された方向の揺れ)が発生しても、制震装置1Aが前述したような作動をすることは言うまでもない。
具体的には、X−Y平面にて、制震装置1Aを図5中右側から見た場合、図5中左側から見た場合、図5中上側から見た場合および図5中下側から見た場合の、いずれの場合にも、制震装置1Aは、ボール部材と弾性部材とを用いた制震部と、円盤部材を用いた制震部とが並設するように構成されている。
これにより、X−Y平面にて、360度いずれの向きの横揺れが発生しても、制震装置1Aは、ほぼ同一の作動を行うことができる。その結果、制震装置1Aは、360度いずれの向きの横揺れが発生しても、優れた制震特性を発揮することができる。
以上説明した制震装置1Aは、例えば、次のようにして使用する。
弾性部材54Aとしては、標準仕様の弾性部材Aと、弾性部材Aよりも最大厚さ(つまり、T1)が厚い弾性部材B(最大厚さ以外の形状、材質、硬度等は、すべて弾性部材Aと同一)と、弾性部材Bと同一形状かつ同一寸法で、弾性部材Bの構成材料よりもゴム硬度の硬いゴム材料で構成された弾性部材Cとを選択可能とする。
弾性部材Bは、弾性部材Aよりも最大厚さが厚いため、制震部5Aに組み込まれた状態では、上側部材51と下側部材52とにより、弾性部材Aよりも強く圧縮されることとなる。そのため、弾性部材Bの復元力(自然状態に復帰しようとする力)が、弾性部材Bのそれよりも強くなり、弾性部材Bの摺動により発生する摩擦抵抗が、弾性部材Aのそれよりも大きくなる。
弾性部材Cは、弾性部材Bを構成するゴム材料よりもゴム硬度の高い材料で構成されているため、弾性部材Cの復元力が弾性部材Bの復元力よりも強くなり、弾性部材Cの摺動により発生する摩擦抵抗が弾性部材Bのそれよりも大きくなる。
このような条件にて、例えば、制震装置1Aをパソコンサーバ用の制震装置として、8階建てのビルの各フロアに設置する場合には、以下に示す表1のように弾性部材を選択する。
ここで、図9に示すように、地震によるビルの揺れは高層階に向かうにつれて大きくなる。また、揺れの周期は高層階に向かうにつれて長くなる。
つまり、低層階では、小さい振動を効率的に吸収することのできる制震装置を用いるのが好ましく、高層階に向かえば向かうほど、大きい揺れを吸収することができるとともに、より大きい減衰力を発生することのできる制震装置を用いるのが好ましい。
そのため、表1に示したように、高層階に向かうにつれて、大きい揺れを吸収することができるとともに、より大きい減衰力を発生することのできる弾性部材を選択するようになっている。
また、制震装置1A上に配設される制震対象物の重量が重くなるにつれて、その慣性力が増大する。つまり、制震対象物の重量が重くなるにつれて、より大きい摩擦抵抗を発生させ、より大きい減衰力を発生させることのできる制震装置を用いるのが好ましい。
そのため、表1に示したように、制震対象物の重量が重くなるにつれて、より大きい減衰力を発生することのできる弾性部材を選択するようになっている。
以上説明したように、制震装置1Aを用いれば、低層階ほど小さい揺れに対する反応性が優れたものとし、高層階ほど大きな揺れに対する制震性および減衰性が優れたものとすることができる。つまり、制震装置1Aによれば、種々の条件に合った制震特性を発揮することができる。
なお、説明の便宜上、8階建てのビルを挙げて説明したが、当然これに限定されるものではなく、7階以下の建物であってもよいし9階以上の建物であってもよい。
また、選択可能な弾性部材の種類についても、弾性部材A〜Cに限定されるものではなく、さらに多数の弾性部材を選択可能となっていてもよい。例えば、弾性部材Aの内径よりも大きい内径を有する弾性部材Dを追加してもよいし、弾性部材Aの外形よりも大きい外形を有する弾性部材Eを追加してもよい。
また、表1では、地上からの高さ(フロアの階数)と制震対象物の重量との組み合わせによって弾性部材A〜Cの中から最も適した弾性部材を選択しているが、これに限定されない。例えば、地上からの高さと制震対象物の重量との他に、さらに、建築物の種類(例えば、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造)を組み合わせて、弾性部材を選択してもよい。また、これらのうちの1つの条件によって、弾性部材を選択してもよい。
以上、本発明の制震装置を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。また、制震装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
また、前述した実施形態では、上側基台の下面に凹部を形成し、この凹部に制震部の上側部材を嵌め込み固定したものについて説明したが、これに限定されず、上側基台の下面に凹部を形成しなくてもよい。下側基台についても同様である。
また、前述した実施形態では、各制震部の上側部材が上側基台に固定され、各制震部の下側部材が下側基台に固定されているものについて説明したが、これに限定されず、例えば、各制震部の上側部材が上側基台に固定されずに接触しているものであってもよい。下側部材についても同様である。
また、前述した実施形態では、上側基台の下面に凹部を形成し、この凹部に制震部の上側部材を嵌め込み固定したものについて説明したが、これに限定されず、上側基台の下面に凹部を形成しなくてもよい。
また、前述した実施形態では、上側基台と各制震部の上側部材とを別体として形成し、これらを固定したものについて説明したが、これに限定されず、上側基台と上側部材とを一体形成してもよい。下側基台と各制震部の下側部材とについても同様である。
また、制震部の上側部材に形成された湾曲凹面の形状については、前述した実施形態に限定されない。例えば、このような凹面は、湾曲凸面をなす中央部と、中央部と縁とを連結する平坦な傾斜面をなす縁部とで構成されていてもよい。また、上側部材に形成された湾曲凹面の形状は、下側部材に形成された湾曲凹面と対象性を有していなくてもよい。下側部材の湾曲凹面についても同様である。
また、前述した実施形態では、上側基台が1対の板部材と1対の連結具により構成されているものについて説明したが、上側基台の構成は、これに限定されない。例えば、上側基台を1つの板部材で構成してもよいし、4つの制震部に対応するように形成された4つの板部材と、これらを互いに連結する4つの連結具とで構成されていてもよい。下側基台についても同様である。
また、前述した実施形態では、上側基台と下側基台との間に4つの制震部を設けたものについて説明したが、これに限定されず、例えば、上側基台と下側基台とを省略してもよい。この場合には、例えば、連結具によって、各制震部の上側部材を互いに固定し、各制震部の下側部材を互いに固定してもよい。
また、前述した実施形態では、円盤部材の上面と下面の形状が対象性を有するものについて説明したが、これに限定されず、上面と下面の形状が非対象であってもよい。
また、前述した実施形態では、自然状態にて、円盤部材が上側部材と下側部材とに点接触しているものについて説明したが、これに限定されず、例えば、自然状態にて、円盤部材が上側部材と下側部材とに面接触していてもよい。
また、前述した実施形態では、自然状態にて、弾性部材の上面が上側部材の湾曲凹面に圧接し、弾性部材の下面が下側部材の湾曲凹面に圧接しているものについて説明したが、これに限定されず、例えば、自然状態にて、弾性部材の下面が下側部材の湾曲凹面に接触し、弾性部材の上面が上側部材の湾曲凹面に非接触となっていてもよい。