JP4821041B2 - テトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)及び置換オニウムテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気・電子材料用エポキシ樹脂の硬化促進剤等に有用な置換オニウムテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)及びその前駆体であるテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来テトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)を合成する方法は、以下の2種類の方法が知られている。
(1)無水酢酸存在下、トリアセテートボレートと酢酸カリウムとを反応させる方法(I.G.ルイス、V.N.プラホトニク Zhurnal Neorganicheskoi Khimii、VOL.13,2050(1968))。
(2)テトラ置換ホスホニウムテトラ置換ボレートと分子外に放出しうるプロトンを少なくとも1個以上分子内に有するn(n≧1)価の有機酸とを反応させる方法(特開平8−196911号公報)。
【0003】
しかし、前記(1)の方法は、カチオンとしてアルカリ金属を使用しているため、合成プロセスにおける有機溶媒への低溶解性や、電気・電子材料において問題となるイオン性不純物の残存等が問題となる。一方、前記(2)の方法は、反応の際に200℃以上の高温で行うため、テトラ置換ホスホニウムテトラ置換ボレートのボレート置換基がアルキル基である場合、ボレート側が大気中で不安定であり、取り扱いが困難である。ボレート置換基が、フェニル基、その他のアリール基である場合、コスト面で問題がある。特に、テトラ置換ホスホニウムテトラフェニルボレートを用いた場合、反応時に副生成物として、人体に有害なベンゼンを生じるため望ましくない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記問題点を解決するためなされたもので、合成における有機溶媒への溶解性がよく、有害物質の発生もなく、イオン性不純物の残存もなく、安定性に優れた置換オニウムテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)及びその前駆体であるテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
(1)一般式(2)で表されるホウ酸エステル、一般式(3)で表されるカルボン酸無水物、一般式(3)で表されるカルボン酸無水物の加水分解生成物である一般式(4)で表されるカルボン酸、及びアミンとしてテトラメチルエチレンジアミン又は2,4、6-トリメチルピリジンとを反応させて得られることを特徴とするテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法、
(2)一般式(1)で表されるテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)が、一般式(2)で表されるホウ酸エステル、一般式(3)で表されるカルボン酸無水物、一般式(3)で表されるカルボン酸無水物の加水分解生成物である一般式(4)で表されるカルボン酸、一般式(5)で表されるアミンとを反応さて得られることを特徴とするテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法。
【化12】
(R1は、アルキル基、アリール基、アラルキル基からなる群より選ばれる基、R2〜R4はアルキル基又はアリール基)
【0006】
【化13】
(R5は、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基からなる群より選ばれる基)
【0007】
【化14】
(R1は、アルキル基、アリール基、アラルキル基からなる群より選ばれる基)
【0008】
【化15】
(R1は、アルキル基、アリール基、アラルキル基からなる群より選ばれる基)
【0009】
【化16】
(R2〜R4はアルキル基又はアリール基)
(3)一般式(2)で表されるホウ酸エステル、一般式(3)で表されるカルボン酸無水物、一般式(3)で表されるカルボン酸無水物の加水分解生成物である一般式(4)で表されるカルボン酸、及びアミジンとして1−ベンジル2−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7、又は1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノン−5−エンとを反応させて得られることを特徴とするテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法、
【0014】
(4) 第(1)〜(3)項のいずれかに記載の合成方法により得られたテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)と、テトラ置換ホスホニウム塩、テトラ置換アンモニウム塩、トリ置換スルホニウム塩からなる群より選ばれるオニウム塩とを反応させて得られることを特徴とする置換オニウムテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法、
である。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明において、テトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)は、ホウ酸エステル、無水カルボン酸、無水カルボン酸の加水分解生成物であるカルボン酸、アミン又はアミジンとの反応により合成する方法により得られるが、本発明は、テトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)のカチオン種が有機化合物であるアミン又はアミジンの塩であるため、溶媒への溶解性が良好であり、きわめて取り扱い性がよいことが特徴の一つである。
【0016】
本発明に用いるホウ酸エステルは、工業製品或いは試薬として入手することが可能であり、いずれの形態を用いてもよい。
本発明に用いる一般式(2)で表されるホウ酸エステルは、式中のR1がアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基からなる群より選ばれる基を示し、置換基の具体例なR1としては、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、トリル基、アニシル基、ニトロフェニル基、ナフチル基、ベンジル基、アセチル基、プロピオニル基等が挙げられる。
本発明に用いる無水カルボン酸は、一般式(3)で表される無水カルボン酸が好ましく、式中のR2がアルキル基、アリール基、アラルキル基からなる群より選ばれる基を示し、置換基の具体例なR2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、トリル基、アニシル基、ニトロフェニル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。又無水カルボン酸の例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水安息香酸、無水メチル安息香酸、無水メトキシ安息香酸、無水ニトロ安息香酸、1−ナフトエ酸無水物、無水1−フェニル酢酸、トリフルオロ酢酸無水物、無水パラニトロ安息香酸等が挙げられる。
【0017】
無水カルボン酸の加水分解生成物であるカルボン酸は、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、メチル安息香酸、メトキシ安息香酸、ニトロ安息香酸、ナフトエ酸、1−フェニル酢酸等が挙げられる。
アミン又はアミジンについては、特に限定されないが、窒素原子に水素原子が結合している場合、副反応としてアミドを形成するため、3級アミンが望ましい。これらは、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンなどアルキル基の置換した3級のアルキルアミン類、ジフェニルメチルアミン等のアリール基置換3級アミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(双環式アミジン化合物)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノン−5−エン(双環式アミジン化合物)、或いは非環状アミジン類等が例示される。
【0018】
本発明のテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法の例としては、ホウ酸エステル、無水カルボン酸、無水カルボン酸の加水分解生成物であるカルボン酸、アミン又はアミジンを反応させることにより行われるが、本発明によれば、80〜180℃程度の200℃未満の比較的穏和な条件で3〜8時間で反応を完結させることができる。
【0019】
反応では、溶媒を用いても用いなくとも、アミン又はアミジンを大過剰に用いる場合、これらのアミン、アミジンを溶媒として使用することができ、更にアミン又はアミジンと、無水カルボン酸を過剰に用いることにより、これらを溶媒として使用することも可能である。又反応物質は溶解するが、不活性な溶媒、例えばジメトキシエタン、ジメチルジグリコール、ジメチルトリグリコール等を用いることができる。
【0020】
本発明に用いるテトラ置換ホスホニウム塩、テトラ置換アンモニウム塩、トリ置換スルホニウム塩は、それらのハライド塩を用いることができるが、塩としては、特に限定されるものではなく、前述のテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)のカチオン側のアンモニウムイオン又はアミジニウムイオンが対応するテトラ置換ホスホニウム、テトラ置換アンモニウム、トリ置換スルホニウムに置換する反応が生じるものであれば、対応するオニウム無機酸塩やオニウムカルボン酸塩、オニウムフェノレートであってもよく、いかなるものでも差し支えない。
【0021】
本発明の置換オニウムテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法は、テトラ置換ホスホニウムハライド、テトラ置換アンモニウムハライド、トリ置換スルホニウムハライド等の汎用オニウムハライドと前述テトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)とを接触させることにより行われるが、例えばテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)を不活性で溶解性が良好な非プロトン性溶媒に溶解し、汎用オニウムハライドをメタノールや水等に溶解し、両者を混合すれば、テトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)のカチオン側のアンモニウムイオン又はアミジニウムイオンが対応するテトラ置換ホスホニウム、テトラ置換アンモニウム、トリ置換スルホニウムに置換し、対応する置換オニウムテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)が生成する。
本発明の合成方法で得られた置換オニウムテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)及びその前駆体であるテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)は、電気・電子材料用のエポキシ樹脂の硬化促進剤等として用いることができる。
【0022】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて、更に本発明について説明するが、本発明は実施例になんら制限されるものではない。
[テトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成]
(実施例1)
フラスコにホウ酸トリエチル3.7g(25mmol)、1−ナフトエ酸無水物65.2g(200mmol)、1−ナフトエ酸4.3g(25mmol)、トリブチルアミン12.1g(50mmol)を仕込み、120℃で4時間加熱攪拌した。これにより式(8)のトリブチルアミンテトラキス(1−ナフトイルオキシ)ボレート(1−)が得られた。これをアセトンに溶解させ、濾過を行い、過剰なトリブチルアミン、1−ナフトエ酸無水物、1−ナフトエ酸を除去した後、濾液にヘキサン添加による貧溶媒化で再結晶を行った。収量17.2g(ホウ酸トリエチルに対して収率82%)
【化21】
【0023】
(実施例2)
フラスコに式(9)トリアセテートボレート4.7g(25mmol)、過剰のトリフルオロ酢酸無水物42.0g(200mmol)、トリフルオロ酢酸2.85g(25mmol)、1−ベンジル2−メチルイミダゾール8.6g(50mmol)、ジメチルジグリコール200gを仕込み、160℃で4時間加熱攪拌した。これにより式(10)の1−ベンジル2−メチルイミダゾールのテトラキス(1−トリフルオロアセテート)ボレート塩が得られた。これをアセトンに溶解させ、濾過を行い、過剰の1−ベンジル2−メチルイミダゾール、フッ素化水素塩を除去した後、濾液にヘキサン添加による貧溶媒化で再結晶を行った。収量15.0g(トリアセテートボレートに対して収率80%)
【化22】
【0024】
【化23】
【0025】
(実施例3〜6)
表1に示したホウ酸エステル、カルボン酸無水物、カルボン酸、アミン又はアミジンを用いて、実施例1或いは実施例2と同様の操作により、テトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)を合成した。
【0026】
【化24】
【0027】
【化25】
【0028】
【化26】
【0029】
【化27】
【0030】
(比較例1)
フラスコに無水酢酸39g(200mmol)と酢酸カリウム塩8.88g(25mmol)と式(9)のトリアセテートボレート17.07g(25mmol)を仕込み、160℃で無水酢酸を1時間還流を行い、室温で冷却することにより、式(15)のカリウムテトラキスアセテートボレート(1−)塩の結晶を得た。収量は19.2g(トリアセテートボレートに対して収率78%)(参考文献 無機化学ジャーナル VOL.13,2050(1968)ソ連)
【化28】
【0031】
(比較例2)
フラスコにホウ酸トリエチル3.7g(25mmol)、過剰の1−ナフトエ酸無水物65.2g(200mmol))、1−ナフトエ酸カリウム塩21.0g(100mmol)を仕込み、120℃で15時間加熱攪拌を行ったが未反応であった。
【0032】
[置換オニウムテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成]
(実施例7)
実施例1のトリブチルアミンテトラキス(1−ナフトイルオキシ)ボレート(1−)塩(式(8))のテトラハイドロフラン10重量%溶液を作成した。この溶液を予め作成したテトラフェニルホスホニウムブロマイドを10重量%含むイソプロパノール溶液に室温で滴下した。滴下と同時に白色沈殿が生成した。これを濾過し、メタノールで数回洗浄し、真空加熱乾燥を行うことにより、式(16)のテトラフェニルホスホニウムテトラキス(1−ナフトイルオキシ)ボレート(1−)塩を得た。収量は22.0g(トリブチルアミンテトラキス(1−ナフトイルオキシ)ボレート(1−)塩(式(8))に対して収率85%)であった。得られた置換オニウム塩であるテトラフェニルホスホニウムテトラキス(1−ナフトイルオキシ)ボレート(1−)塩を1.00g秤量し、純水50.0g中にてプレッシャークッカー処理を125℃で20時間行った、カリウムイオンは検出されなかった。
【化29】
【0033】
(実施例8〜12)
表2のテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)と置換オニウム塩を用い、実施例7と同様の操作を繰り返し、置換オニウムテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)を合成した。これらの反応はすべて室温で可能であった。又カリウムイオンの定量も実施例7と同様に行った結果、カリウムイオンは検出されなかった。
【0034】
【表2】
【0035】
【化30】
【0036】
【化31】
【0037】
【化32】
【0038】
【化33】
【0039】
【化34】
【0040】
【化35】
【0041】
【化36】
【0042】
(比較例3)
比較例1のカリウムテトラキスアセテートボレート(1−)塩(式(15))の10重量%含むイソプロパノール溶液を作成した。この溶液を予め作成したテトラフェニルホスホニウムブロマイドを10重量%含むイソプロパノール溶液に室温で滴下した。滴下と同時に白色沈殿が生成した。これを濾過し、メタノールで数回洗浄し、真空加熱乾燥を行うことにより、式(24)のテトラフェニルホスホニウムテトラキスアセテートボレート(1−)塩を得た。このテトラフェニルホスホニウムテトラキスアセテートボレート(1−)塩を実施例7と同様な処理を行った結果、抽出されたカリウムイオンは1500ppmであり、電気・電子機器用途に用いるには不適であった。
【化37】
【0043】
(比較例4)
フラスコに安息香酸10.6g(100mmol)とテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート塩16.45g(25mmol)を仕込み、230℃で4時間加熱攪拌を行い、式(25)のテトラフェニルホスホニウムテトラキス(ベンゾイルオキシ)ボレート(1−)塩23mmol(テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート塩に対し収率92%)を得たが、この方法は有害なベンゼンが発生するし、230℃という極めて高温で反応しなければならず好ましくない。
【化38】
【0044】
【発明の効果】
本発明の合成方法は、従来の合成方法に比べて汎用性が高く、低温反応可能でベンゼン等の有害な物質を生成することもなく、更にフリーのアルカリ金属を含まず、かつ反応操作も簡便で高収率で目的物を得ることができる。又本発明のテトラ置換ホスホニウムテトラ置換ボレート、テトラ置換アンモニウムテトラ置換ボレート、トリ置換スルホニウムテトラ置換ボレートは、エポキシ樹脂等のアニオン重合の硬化触媒として有用である。
Claims (4)
- 一般式(1)で表されるテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)が、一般式(2)で表されるホウ酸エステル、一般式(3)で表されるカルボン酸無水物、一般式(3)で表されるカルボン酸無水物の加水分解生成物である一般式(4)で表されるカルボン酸、一般式(5)で表されるアミンとを反応さて得られることを特徴とするテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法。
- 一般式(2)で表されるホウ酸エステル、一般式(3)で表されるカルボン酸無水物、一般式(3)で表されるカルボン酸無水物の加水分解生成物である一般式(4)で表されるカルボン酸、及びアミジンとして1−ベンジル2−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7、又は1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノン−5−エンとを反応させて得られることを特徴とするテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の合成方法により得られたテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)と、テトラ置換ホスホニウム塩、テトラ置換アンモニウム塩、トリ置換スルホニウム塩からなる群より選ばれるオニウム塩とを反応させて得られることを特徴とする置換オニウムテトラキス(アシロキシ)ボレート(1−)の合成方法。
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