本発明の一実施形態について図面に基づいて説明すると以下の通りである。
まず、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1の構成について図1および図2を参照して説明する。なお、図1は、本発明の実施形態を示すものであり、インクジェットヘッド1の概略構成を示す斜視図である。また、図2は、図1に示すインクジェットヘッドの斜視図のA−A’断面図である。
(インクジェットヘッドの構成)
本実施の形態に係るインクジェットヘッド1は、微細な液滴を描画対象に対して吐出するものである。すなわち、このインクジェットヘッド1は、上記液滴に電界を付与し、静電反発力により該液滴を描画対象に吐出する、いわゆる静電吐出型のインクジェットのヘッドである。このインクジェットヘッド1では電圧が印加されると、該インクジェットヘッド1が備える液体流路部3の吐出口51近傍に電界を集中させ、描画対象に微細な液滴を吐出する。
ところで、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1は、微小ドットによる微細パターンを、描画対象(例えば、液晶表示用カラーフィルタやプリント配線板等)に形成するための微小ドット形成装置(不図示)に備えられるものであり、下記に示す構成となっている。
すなわち、このインクジェットヘッド1は、図1に示すように基板2、液体流路部3、マニホールド6、および実装部7を備えている。なお、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1では、液体流路部3が上記基板2の面上に3つ形成されており、各液体流路部3同士は、169μmピッチ間隔で基板2の面上に配置されている。
上記基板2は、単結晶シリコンによって構成されるものであり、面上に液体流路部3が形成され、液体流路部3が備える吐出部5の一部が、該液体流路部3が形成される面上の端部22から突出している。
なお、上記液体流路部3が形成される基板2の面は、結晶格子のミラー指数が(100)面である。
上記液体流路部3は、描画対象に噴射する液体(液状物資)が流れる通路であり、当該液体流路部3の内部を液体が通過できるように貫通孔を有する構造となっている。そして、この液体流路部3は、その両端部に、描画対象に吐出する液体を供給するための液体供給口41を有する供給部4と、液体を描画対象に吐出するための吐出口51を有する吐出部5とを備えている。
上記液体流路部3では、吐出口51が設けられている側(吐出部5側)において、吐出部5の一部が基板2の端部22から突出している。本実施例ではこの基板2の端部22から突出する吐出部5の長さ(突出量)を100μmとしている。
なお、吐出部5全体の形状は、長さ方向の大きさが120μm、幅方向の大きさが7μm、高さ方向の大きさが6μmである。
なおここで、長さ方向とは、液体流路部3において、供給部4から吐出部5に向かって液体が流れる方向(液体流路部3における長手方向)であり、上記高さ方向とは、液体流路部3が形成されている基板2の面に対して垂直となる方向である。また、上記幅方向とは、供給部4から吐出部5に向かう方向に垂直でありかつ、上記高さ方向に対しても垂直となる方向である。
上記液体流路部3の内部断面(幅方向に沿った断面)では、この断面積が供給部4側よりも吐出部5側のほうが小さくなるように構成されている。すなわち、本実施例では液体流路部3の内部における高さ方向の大きさは2μmで略一定であるが、液体流路部3内部の幅方向の大きさは、吐出口51近傍では3μm、液体供給口41近傍では70μmとなり、吐出口51と液体供給口41とにおいて断面積が変化するように構成されている。また、上記吐出口51は、幅方向に3μm、高さ方向に2μmの略長方形形状をしており、吐出部5の端面において開口している。
また、図2に示すように、この液体流路部3のA−A´断面において、当該液体流路部3の外周を構成する外殻31は、下部流路層32と上部流路層33とによって形成される。なお、この下部流路層32と上部流路層33とは、それぞれ厚さが2μmのNiを主成分とする導電体で構成されている。
なお、少なくとも下部流路層32または上部流路層33のいずれかが上記Niによって形成されていればよいが、後述する基板2のエッチングにおいてエッチング液による侵食を防ぐために両者がNiによって形成されていることが好ましい。
また、上記液体流路部3と基板2との接合部分には、厚さが0.2μm〜2μmの厚さのSi酸化膜やSi窒化膜などの絶縁層21が備えられている。
また、上記供給部4が備える液体供給口41は、50μm×50μmの略正方形であり、上部流路層33を貫通するように形成されている。そして、各液体流路部3が備える上記液体供給口41それぞれは、該液体流路部3それぞれの各供給部4において略同一位置に設けられている。このため、各液体流路部3が備える液体供給口41それぞれを結ぶ線は略一直線となる。
上記マニホールド6は、液体流路部3それぞれに、描画対象に吐出するための液体を供給するものであり、絶縁体物質によって構成されている。
このマニホールド6は、図1に示すように基板2の表面に備えられた液体流路部3それぞれを覆い、その端部では基板2と接するように、該基板2の表面上に設けられている。
また、本実施の形態では、このマニホールド6は、その内部に80μm×80μmの断面積で長さ方向の大きさが3mmである流体供給孔61を、液体流路部3と同数分だけ備えている。そして、この流体供給孔61それぞれは、上記供給部4に設けられた各液体供給口41に対応するように設けられ、この流体供給孔61の端面が、供給部4に接合されている。
なお、上記断面積とは、流体供給孔61において、液体流路部3の液体供給口41と接する部分の面積であり、上記長さ方向とは、液体流路部3が備えられている基板2の面に対して垂直な方向である。
また、上記マニホールド6の流体供給孔61は、供給部4と接する側とは反対側で不図示の共通液体室に接合されている。そして、この共通液体室からすべての流体供給孔61に液体が供給されるように構成されている。
ところで、図3に示すように上記マニホールド6を共通液体室と兼用して構成することもできる。なお、この図3は、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1の比較例を示すものであり、基板502の表面上に構成されているマニホールド506を示す断面図である。
図3に示すようにマニホールド506が共通液体室と兼用して構成されている場合、任意の液体流路部503に電圧を印加すると、共通液体室のインクを介して他の液体流路部503にも印加してしまう。その結果、所望しない液体流路部503からも液体が吐出してしまう、いわゆるクロストークを発生させることとなる。
ところが、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1のように、上記流体供給孔61が液体流路部3毎に設けられ、液体流路部3の供給部4と接する側とは反対側で共通液体室に接合されて構成されている場合、上記したクロストークの発生を抑制することができる。
すなわち、図4に示すように本実施の形態に係るインクジェットヘッド1では、印加された電圧が液体を通じて他の隣接する液体流路部3にリークする場合、電圧が印加された液体流路部3に対応する流体供給孔61の流路から、共通液体室、電圧が印加されていない液体流路部3に対応する流体供給孔61の流路へと経路が長くなる。
このため、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1では、隣接する他の液体流路部3に電圧がリークされる場合、この電圧に対する抵抗値が大きくなるため、上記したようなクロストークの発生を抑制することができる。
上記実装部7は、液体を描画対象に吐出するように制御する吐出信号が印加されるものである。
上記液体流路部3が備える供給部4の後ろ側(液体流路部3における長手方向において、吐出口5が備えられている端部とは反対になる側)に、液体流路部3を構成する外殻31のみが延びており、上記実装部7は、この延びた外殻31によって構成される。また、この実装部7は、ワイヤーボンディングなどの実装技術によって図示しないフレキシブル基板などの外部信号伝達手段と電気的に接続している。
なお、上記実装部7は、上記外殻31のうち、下部流路層32または上部流路層33のいずれかから構成されていてもよい。すなわち、上記実装部7は、少なくとも導電体である下部流路層32または上部流路層33と電気的に接続されているものであればよい。
このように本実施の形態に係るインクジェットヘッド1では、電気的に独立した液体流路部3を構成する外殻31に直接吐出信号を印加することができる。このため、特定の液体流路部3に対して吐出信号を容易に印加することができる。
更に、上述したように上記液体流路部3の外殻31は、Niで形成されているため、電荷移動にかかる電気抵抗が小さく吐出口に電荷が移動しやすくなる。このため、吐出口51に形成された液体メニスカスに電界集中させるための電荷がこの外殻31を通して吐出口51に集中する。すなわち、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1では、上記外殻31を、当該インクジェットヘッド1における電極として作用させることができる。
以上のように本実施の形態に係るインクジェットヘッド1では、液体流路部3を基板2の表面に形成しているため、この液体流路部3の形状または、液体流路部3の外殻31によって形成される液体の流路形状をフォトリソグラフィのパターンを変えることで任意に変更することができる。
このため、基板厚さ方向に流路を形成する従来構造に比べ、液体流路部3を流れる液体の流路抵抗を自由に調整することができる。また、インクジェットヘッド1の用途に応じて、液体流路部3の設計を好適に変更することを容易に行なうことができる。
さらに図2に示すように、基板2の液体流路部3は基板2の表面より台形状に隆起している部分に配置されている。そして、液体流路部3は、絶縁層21を介して基板2に固定されている。
このため液体流路部3は、基板2と電気的に絶縁されており、隣接する他の液体流路部3に電気的にクロストークする危険性を低減することができる。
さらに、上記液体流路部3は、上述したように台形状の隆起部分に形成されている。ここで、基板2における平坦部分の上面に上記液体流路部3が形成された構成と比較すると、上記インクジェットヘッド1では、絶縁層21の面上に形成された液体流路部3が、他の基板2部分(基板2の平坦部分)よりも隆起している部分に配置されている。このため、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1の上記液体流路部3は、基板2の平坦部分の上面に形成される場合と比較して、当該液体流路部3から該基板2を介して、隣接する他の液体流路部3などに流れる電流の電気抵抗が大きくなる。
したがって、液滴を吐出させるために、高い電圧を液体流路部3に印加した際に基板2を介して流れる電流によって、隣接する他の液体流路部3などにクロストークする危険性を低減させることができる。
また、上記したように、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1は、吐出口51の一部が基板2の端部22から突出した構成となっている。このため、吐出信号を印加した際、効果的に吐出口51近傍に電界を集中することができる。
したがって、上記インクジェットヘッド1は、吐出信号の電圧を低減することができる。このため、絶縁破壊などの放電によって隣接する他の液体流路部3等に電流が流れクロストークが生じることを防ぐことができる。
また、上記インクジェットヘッド1は、上記したように吐出信号の電圧を低減させることができるため、描画対象に対して放電し、該描画対象を損傷させる危険性を低減することができる。
また、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1では、上記流体供給孔61が液体流路部3毎に設けられ、液体流路部3の供給部4と接する側とは反対側で共通液体室に接合されて構成されている。このため、隣接チャンネルへの吐出信号のクロストークの発生を抑制することができる。
また、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1では、上記したように液体流路部3が備える外殻31を電極として作用させることができるため、吐出口51近傍の電界が、吐出に必要な電界強度に達する時間を短くすることができる。このため、インクジェットヘッド1の吐出応答性が向上し、描画速度が向上する。
(インクジェットヘッドの製造方法)
次に、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド1の製造方法について図5(a)〜図5(g)を参照して説明する。なお、この図5(a)〜図5(g)は、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド1の製造方法を示すものであり、インクジェットヘッド1の製造工程における図1のA−A´断面図である。
まず、(100)単結晶シリコンにより構成される基板2に絶縁層21を形成する(図5(a))。この絶縁層21の形成工程では、通常の熱酸化法によって0.5μmの厚さで、絶縁層21としてシリコン酸化膜を形成する。
なお、ここで絶縁層21の層厚は、この絶縁層上に形成する液体流路部3が備える外殻31と、基板2との絶縁性を確保するために十分となる層厚に設定することが望ましい。しかしながら、この層厚を厚く設定しすぎると、インクジェットヘッド1の製造プロセスに要する時間が不必要に長くなるため、絶縁層21の層厚は0.2μm〜5μmが好適である。
次に、上記絶縁層21に下部流路層32を形成する(図5(b))。ここで、上述したように、下部流路層32は、Niを主成分とする金属材料から形成される。そして、この下部流路層32を、予めメッキ付着領域をレジスト等によって制限する選択メッキによって、絶縁層21に2μmの厚さで形成する。ただし、上記下部流路層32は、基板2の略全面に下部流路形成層を成膜した後、ドライエッチングあるいは湿式エッチングによって、所望される形状にパターニングされ形成されてもよい。
また、下部流路形成層の成膜にはメッキ以外に、蒸着やスパッタリングなどの成膜手法を用いることもできる。
なお、下部流路形成層の成膜を蒸着やスパッタリングなどを用いる場合、基板2の(110)面に対して垂直になる方向が、長手方向の形状となるように下部流路層32の形状をパターンニングする。
次に、下部流路層32にフォトレジストを露光・現像によってパターニングすることにより、液体流路層34を2μmの厚さで形成する(図5(c))。
なお、この液体流路層34は、例えば、ノボラック樹脂あるいはノボラック樹脂誘導体を主成分とする樹脂材料などの有機材料、特には感光性有機材料によって形成される。
なお、上記感光性有機材料として本実施例では、例えば、クラリアントジャパン製AZP−4330、AZP−4620などを使用している。
そして、基板2上に絶縁層21、下部流路層32、および液体流路層34が形成されている面の全面に対して上部流路層33の下地層35を蒸着によって形成する(図5(d))。
なお、この下地層35は、基板2、下部流路層32、および液体流路層34上に、Tiを主成分とする金属材料からなる密着層と、該密着層上に形成され、上部流路層33をメッキするためのNiを主成分とするシード層とを備えている。そして、この下地層35の厚さは、上記密着層が50nmであり、上記シード層が50nmである。
また、上記密着層とシード層とは、両者の層の密着性を低下させないようにするために、同一真空中で連続して成膜する。また、上記蒸着においては、液体流路層34の側面への、下地層35の付着を促進するために、蒸着雰囲気にArを導入し、10−4Torr程度の真空度で成膜することが好適である。
また、蒸着ではなくスパッタによって上記下地層35を形成してもよい。
そして次に、上部流路層33となる領域を、フォトリソグラフィによってパターン化されたレジストパターンにより制限する。そして、メッキ法によってNiを主成分とする上部流路形成層を、2μmの厚さで下地層35上における上部流路層33となる領域に形成する。そしてさらに、不必要な領域に付着したメッキ膜とシード層を湿式エッチングによって除去する(図5(e))。
ここで、上記エッチング液には硝酸:過酸化水素水:水の混合溶液を使用する。また更に、上記湿式エッチングでは除去できないTiを主成分とする密着層を、Arイオンを用いたドライエッチングで除去する。
なお、密着層の厚さは50nmでエッチング量が極めて少ない。このため、上部流路層33をエッチングマスクとして使用しても、上部流路層33の層厚は2μmから1.95μmに減少するだけであり、インクジェットヘッド1の構成上まったく影響がない。したがって、上記密着層をエッチングするために、特段のレジストパターンを形成する必要がない。
そして、更に、CF4ガスを主成分とする反応ガスを用いたリアクティブエッチング法(RIE)により熱酸化膜を除去する。ここでも、上部流路層33は、当該CF4ガスを主成分とする反応ガスによるRIEによってほとんどエッチングされないので、特段のレジストパターンを形成する必要がない。
次に基板2をエッチング液に浸漬し、基板2の上部断面がA−A´断面において台形形状になるようにエッチングする(図5(f))。そして次に、アセトンなどのレジストを溶解する溶剤、あるいは東京応化製剥離液106のようなレジスト剥離液を用いて、液体流路部3内部に空隙を形成するためにレジスト(液体流路層34)を除去する(図5(g))。
ここで、図5(e)〜図5(g)に示す工程を、以下に示す図6(a)〜図6(e)を参照してより詳細に説明する。すなわち、図6(a)〜図6(e)に示す、インクジェットヘッド1の液体流路部3の長手方向における断面図を参照して先に説明した図5(e)以降の工程を説明する。
まず、前提として、先に説明した図5(a)〜図5(d)の工程により、基板2には、絶縁層21、下部流路層32、液体流路層34、下地層35、および上部流路層33がそれぞれ形成されているものとする。そして、上記下部流路層32および上部流路層33は、パターン化されている。
このような前提において、上部流路層33および下部流路層32に形成されているパターンの長手方向における先端部、ならびにこれらの下層にある絶縁層21を、Arを用いたドライエッチング、またはCF4ガスを用いたRIEにより除去し、吐出口51(吐出口51の先端面形状)を形成する(図6(a))。本実施例では、液体流路部3それぞれにおける吐出口51が形成される端面が、(110)面に対して平行な直線上に配置されるように形成する。なお、ここではArによるドライエッチングによって吐出口51(吐出口51の先端面形状)を形成したが、湿式エッチングによって吐出口51(吐出口51の先端面形状)を形成してもよい。なおこの際、どちらの場合とも、エッチングしたくない領域には上部流路層33の上部に図示しないレジスト層が必要であり、レジスト層を形成する工程、ならびに吐出口形成後にレジスト層を除去する工程が必要となる。
次に、上記吐出口51の形成位置よりも上記パターンの先端側で、基板2をダイシングなどの切断手段により切断する(図6(b))。なお、この基板2を切断する際、ダイシングした断面23に(110)面が露出するようにする。ただし、予め上記基板2において予め(110)面が露出している場合は、この図6(b)による切断工程を省略することができる。
次に、切断されたチップ部分をSiのエッチング液に浸漬し、Siによって形成されている基板2をエッチングする(図6(c))。ここで、上記エッチング液には40wt%のKOH水溶液を80℃に加熱して用いる。
なお、このエッチング液では、上記ダイシングにおいて露出させた(110)面が、(100)面および(111)面と比較し最も早くエッチングされる。このため、吐出口51の位置から供給部4の方向に露出させた(110)面に対して、略垂直にエッチングが進行し、インクジェットヘッド1における吐出部5の一部が形成されていた基板2の面部分を含む基板部分が除去される。そして、結果として、吐出部5の一部が基板の端部22から突出した形状となる。
また、このエッチングは非常に再現性がよいため、エッチング時間を管理することによって、上記吐出部5の突出量を所望の値にすることができる。なお、基板2の表面である(100)面もエッチングされるが、上記下部流路層32のパターンエッジを基点として(111)面が露出したところでエッチング速度が概ね1/500に低下し、エッチングがほとんど停止する。
このように、下部流路層32のパターンエッジを基点とした(111)面が露出する位置まで基板2表面のエッチングが進行するため、結果として図2に示すように液体流路部3が台形上に配設された状態で保持されることになる。なお、このとき、インクジェットヘッド1のA−A´断面における断面形状は図5(f)に示すようになる。
また、上記パターンエッジとは、液体流路部3の幅方向において最も大きい部分、すなわち本実施例では供給部4における、<110>方向、すなわち、吐出口51から供給部4に向う方向と平行となる基板2面上と接するエッジ部分である。
次に、上記した図5(g)に示す処理工程において説明したように、レジスト剥離液を用いて液体流路部3の内部の空隙を形成するためにレジスト(液体流路層34)を除去する。そして、マニホールド6を供給部4に接着剤8を用いて接着する(図6(d))。
ここで、マニホールド6の内部に備えられる流体供給孔61の開口部分が液体流路部3の供給部4に設けられた液体供給口41と一致するように接着する。
なお、マニホールド6の接着には、エポキシ系の接着剤8を用いている。このとき、インクジェットヘッド1の後端(吐出口51とは反対方向となるインクジェットヘッド1の端部)に設けられる実装部7には、上記接着剤およびマニホールドが付着しないようにする。
このようにインクジェットヘッド1が基板2上に形成され、基板2の裏面(インクジェット1が形成される基板2の面に対して反対となる面)には微細構造物が形成されていない。このため、上記マニホールド6の接着工程において、基板2の裏面を吸着等することによって、インクジェットヘッド1を容易に固定することができる。したがって、マニホールド6の液体流路部3への接着工程を安定して行なうことができる。
次に、図6(e)に示すように、ワイヤーボンディングなどの実装手段を用いて、外部の吐出信号発生装置(図示せず)と接続されたフレキシブル基板などの外部配線71を、実装部7に電気的に接続する。
本実施の形態に係るインクジェットヘッド1は、上述したように、基板2の裏面(液体流路部3が形成される面とは反対側の面)には微細構造物が形成されていないので、ヘッドを簡便に固定できる。
また、液体流路部3の実装工程においても基板2の表面側(液体流路部3が形成される側の面)から実装部接続のための押圧力を加えることができるので、実装部分の信頼性を向上することができる。
なお、上記したインクジェットヘッド1の製造工程について図5(a)〜図5(g)、図6(a)〜図6(e)を参照して説明した。ただし、上記図6(a)〜図6(e)では既に液体供給口41が形成された状態を示し、インクジェットヘッド1の製造工程について説明した。そこで、以下において、この液体供給口41の形成方法について図22(a)〜図22(g)を参照して説明する。
なお、図22(a)〜図22(d)までの工程は、図5(a)〜図5(d)までに示す処理工程と共通の工程であるため説明は省略する。
上述したように図5(e)の処理工程において、上部流路層33となる領域を、フォトリソグラフィによってパターン化されたレジストパターンにより制限する。そして、メッキ法によってNiを主成分とする上部流路層33を形成した。
この上部流路層33の形成時において、上記液体供給口41を形成するために、当該液体流路部3において該液体供給口41の形成位置として所望される下地層35上の位置にレジストを配置する。このように、上記レジストを下地層35上に配置することによって上部流路層33が、液体供給口41の形成位置として所望される下地層35上の位置に形成されないようにする。
次に、このレジストを、有機溶剤などを利用して除去した後、液体供給口41の形成位置となる下地層35部分を湿式エッチングおよびドライエッチングによって除去する。以上のようにして液体供給口41となる開口部を形成する(図22(e))。
なお、これ以降の図22(f)および図22(g)における処理は、図5(f)および図5(g)において説明した工程と共通の工程であるため、説明は省略する。
(マニホールドの製造工程)
ここで、図7を参照して上記マニホールド6の製造方法について説明する。
なお、図7(a)〜図7(c)は、本実施の形態に係るマニホールド6の製造工程を示す図である。
まず、ガラス材料などからなる基板9に、ダイシングなどの機械加工方法によって、幅60μm、深さ60μmの溝91を形成する(図7(a))。
ここで溝の幅は、ダイシングに使用するブレードの厚さで制御し、深さは切り込み量で制御する。また溝の間隔は、接続する液体供給口41の間隔に合わせる。
次に、上記溝加工を行なった基板9に、溝加工を行なっていない平坦なガラス基板92を、エポキシ系の接着剤で接合する(図7(b))。
そして、上記基板9と上記基板92とが接合されたガラス基板を、上記溝の長手方向と直交するように、ダイシングによって所定の長さに切断する(図7(c))。
以上のようにして、本実施の形態に係るマニホールド6を製造することができる。
以上のように、上記した工程を用いることにより、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド1を安定的に製造することができる。
また、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド1の製造方法では、液体流路部3を形成する際、レジスト(液体流路層34)により液体流路パターンを形成した。このレジスト材料は、スパッタ等のプラズマを用いた成膜装置において、直接プラズマと対向すると容易に変質してしまう。このため、上部流路層33を形成するための下地層35の形成には蒸着法を用いている。
また、この蒸着法では蒸着粒子の飛行直線性が高く、段差被覆性が悪い。このため、本実施例では、蒸着源に対し基板を傾斜させて対向させ、その状態で基板を回転させることにより、レジストパターン側面にも均一に下地層が形成できるようにしている。
また、下部流路層32および上部流路層33は、メッキ法により形成されている。つまり、下部流路層32および上部流路層33の形成にメッキ法を用いることにより、電流密度を制御して、形成されるNi膜の内部応力を制御することができる。このため、このように形成されるNi膜の内部応力を制御することによって、吐出部5にかかる上部流路層33と下部流路層32との応力をつりあわせ、基板2の端部から突出している吐出部5に大きな反りが生じないようにしている。
なお、上記したインクジェットヘッド1が備える液体流路層34では、液体流路部3の長手方向(液体が流れる方向)に対して略垂直となる断面形状が、図5に示すように、略長方形となるように形成されていた。そして、この液体流路層34は、下部流路層32面上に形成され、この液体流路層34と下部流路層32に対して、下地層35が蒸着によって形成される構成であった(図5(d)参照)。
また、この下地層35の形成に用いられる蒸着法では蒸着粒子の飛行直線性が高く、段差被覆性が悪いため、その形成工程において、蒸着源に対して基板2を傾斜させて対向させ、その状態で基板2を回転させて下地層35を成膜するようにしていた。
ここで、液体流路層34の上記断面形状を変えることにより、下地層34の該液体流路層34に対する被覆性を改善することが可能となる。
例えば、図23(a)に示すように、液体流路層34の上記断面形状を、上底が下底よりも小さくなる台形形状とすることによって、液体流路層34と下部流路層32とによってなす、該液体流路層34の外側の角が90度より大きくなる。このため、液体流路層34(の側壁)への下地層35の被覆を容易に、均一に行うことができるようになる。
すなわち、下地層35の成膜工程(下地層35を蒸着によって形成する工程(図5(d))において、上述したように基板2を傾斜させるなどの措置を講じる必要がない。
このように、液体流路層34の断面形状を上述した台形形状とすることにより、該基板2を傾斜させることなく液体流路層34に対して均一に下地層35を被膜させることができ、また、下地層35上に積層する上部流路層33も液体流路層34に対して均一に積層させることができる。このため、下部流路層32と、下地層35および上部流路層33とによって形成される液体の流路の形状を安定した形状とすることができる。
また、上述したように基板2を傾斜させるなどの措置を講じることなく、液体流路層34に対して均一に下地層35を被膜させることができるため、下地層35上に積層される上部流路層33と、液体流路層34との間の密着性を向上させることができる。
また、上記液体流路層34の断面形状を、図23(b)に示すように、上方向に凸の曲率を持ったいわゆる半円筒形状カマボコ形状としてもよい。なお、この上方向とは、基板2から、液体流路層34が積層される方向である。
ところで、下部流路層32と液体流路層34の側部とによってなす角(テーパー角)θが、小さくなればなるほど、液体流路層34の側部に対して下地層35を容易に被覆することができる。しかしながら、このテーパー角θが小さくなればなるほど液体流路層34の側部の厚さが減少するため、この液体流路層34の除去が困難となるという問題も生じる。
一方、上記テーパー角θが小さくなるインクジェットヘッド1の構成において、液体流路層34の厚さを、該液体流路層34の除去に対する困難性が生じない程度とするためには、この液体流路層34のパターン幅を大きくする必要がある。
しかしながら、このように、液体流路層34のパターン幅が大きくなればなる程、インクジェットヘッド1の微細化を実現する上では不都合なこととなる。
すなわち、この液体流路層34の除去を例えばアセトンなどによる超洗によって行うことができるが、除去を容易にするためには流路断面積を大きくして流路長を短くすればよい。一方、好適なインクジェットのヘッド特性を維持するためには、流路長は長いほうが好ましい。以上の点から、好適なヘッド特性を保持しかつ、上記流路の形成を容易に行うためには、該流路断面積を大きくすることが考えられる。
ここで、上記流路の断面積を大きくするためにはできるだけ正方形に近い断面形状が望ましいが、このような形状の場合、側部に形成する上部流路層が薄くなり、安定した流路の形成が阻害される場合がある。
また、流路を安定に形成し、充填部材を容易に除去するためには、側部にテーパーを持たせ、上記流路断面において不足する厚さ分は、流路幅を広げることにより補うことができるが、これでは基板上に複数のインクジェットヘッド1を集積させることが困難となる。
そこで、上記した液体流路層34に対する下地層35の被膜性と、液体流路層34の除去の困難性と、インクジェットヘッド1に対して求められる微細化とを考慮して、上記テーパー角θを90°>θ>5°の範囲で適宜設定することが望ましい。
なお、上記のようなテーパー角θを有する液体流路層34(例えば、図23(a)、図23(b))は、図24(a)〜図24(e)に示す以下の処理工程によって形成される。なお、この図24(a)〜図24(e)は、本実施の形態にかかる他のインクジェットヘッド1の製造方法を示すものであり、図24(a)〜図24(e)は、インクジェットヘッドの製造工程における図1のA−A´断面図である。
まず、基板2上面に形成された絶縁層21上に下部流路層32を形成する(図24(a))。この処理工程は、図5(a)から図5(b)における処理工程と同様であるため、詳細な説明は省略する。なお、上記した図5の説明では省略したが、下部流路層32と絶縁層21との間において、下地層(不図示)を形成してもよい。なお、この下地層は、下部流路層32と絶縁層21との間の密着性を向上させるために形成されるものであって、Ta膜あるいはTaとNiの積層膜が好適である。また、この下地層の膜厚は、50〜200nmであることが好ましい。
次に、上記下部流路層32上に液体流路層34をレジストによって形成する(図24(b))。この処理工程は、上記した図5(c)における処理工程と同様であるため、詳細な説明は省略する。
このように、下部流路層32上に液体流路装置34を形成した後、この液体流路層34を、120℃以上に加熱する。本実施例では150℃のオーブンで90分間加熱するものとする。このように、液体流路層34を加熱することにより、レジストパターンの上部が収縮し、台形形状の断面を有する液体流路層34を形成することができる(図24(c))。
なお、図24(a)〜図24(e)では、液体流路層34の断面形状が台形となる場合について説明しているが、この断面形状はこの台形に限定されるものではない。例えば、上記レジストの膜厚、パターン幅、加熱温度を適正に制御することによって、液体流路層34の断面形状を、上記した上方向に凸の曲率を持った半円筒形状とすることもできる。
ところで、上記したように液体流路層34を加熱することによって、この液体流路層34を形成するレジストが硬化してしまい、溶剤溶解性が低化してしまう。このため、この後の処理工程において行われる、液体流路層34の除去工程において、この液体流路層34の除去が困難となる。
そこで、この予防策として、上記120℃以上で液体流路層34を加熱する前に、上記液体流路層34に紫外線を照射することが望ましい。これによって、液体流路層34を構成するレジストの溶解性が高まり、液体流路層34の除去を容易とすることができる。
また、上記のように紫外線を照射することによって、液体流路層34が軟化するため、加熱による形状変化を大きくすることもできる。
したがって、液体流路装置34に対して紫外線を照射することにより、液体流路層34が120℃以上で加熱された場合であっても、この液体流路層34の除去を容易に行うことができる。
また、上記液体流路層34を120℃以上で加熱することにより、液体流路層34の断面形状を、例えば上記した台形形状または上方向に凸の曲率を持った半円筒形状のように、基板2面と液体流路層34の側面とがなす、液体流路層34の内側の角θが90°>θ>5°の範囲となる形状とすることができる。
すなわち、液体流路部3の上記断面において、液体流路層34の側壁と下部流路層32とによってなす、該液体流路層34の外側の角度が90°よりも大きくなる形状とすることができる。
このように、液体流路層34の側壁と下地層35との接合部分の該液体流路層34の外側の領域において、下地層35と上記側壁とがなす角度を90°よりも大きくすることができるため、下地層35、さらには上部流路層33の、液体流路層34の側壁に対する段差被覆性を向上させることができる。
したがって、インクジェットヘッド1では、上記液体流路層34に対して、均一に上部流路層33を容易に積層させることができる。
よって、上記インクジェットヘッド1では、形成される液体流路層34の流路形状を均一な形状とし安定した形状とすることができる。
以上のように、基板2面上に絶縁層21、下部流路層32、および液体流路層34が形成されている面の全面に対して上部流路層33の下地層35を蒸着によって形成する。そして、上部流路層33となる領域を、フォトリソグラフィによってパターン化されたレジストパターンにより制限する。そして、メッキ法によってNiを主成分とする上部流路形成層を、下地層35上に形成し、さらに、不必要な領域に付着したメッキ膜とシード層を湿式エッチングによって除去する(図24(d))。この下地層34は上述のようにTiとNiとの積層膜が望ましいが、Niの単膜であっても下地層34として使用可能である。
なお、この図24(d)に示す処理は、上述した図5(d)および図5(e)に示す処理と同様であるため詳細な処理の説明は省略する。
次に基板2をエッチング液に浸漬し、基板2の上部断面がA−A´断面において台形形状になるようにエッチングする。そして、レジスト剥離液を用いて、レジスト(液体流路層34)を除去する(図24(e))。
なお、この図24(e)に示す処理工程の詳細な処理工程は、図5(f)および図5(g)に示す処理と同様であるため説明は省略する。
なお、上記レジスト(液体流路層34)の除去は、アセトンを用いた超音波洗浄によって行われてもよい。
また、上述した図5(a)〜図5(g)、図6(a)〜図6(e)、図22(a)〜図22(g)、あるいは、図24(a)〜図24(e)では、基板2のエッチングを行った後に、液体流路層34を除去するように処理されていたが処理工程の順番はこれに限定されるものではない。
例えば、液体流路層34を除去したあと、KOH水溶液によって基板2がエッチングされる順番であってもよい。
また、上記したインクジェットヘッド1が備える下部流路層32に対する、上部流路層33の接合部分は、例えば図23(a)に示すように、液体流路部3の断面形状における、下部流路層32の両端部上面位置であった。すなわち、上記上部流路層33は、下部流路層32の上記両端部上面に、下地層35を介して接合されていた。なお、この液体流路部3の断面とは、液体が流れる方向に対して略垂直となる面である。
ところで、本実施形態に係るインクジェットヘッド1の液体流路部3のように、複数の層が積層され、接合されてなる構成において、その接合部分の面積が小さい場合は、以下の問題が生じる。すなわち、上部流路層33と下部流路層32との間の接合部分の面積が小さい場合、両者間の接合強度が小さくなる。このため、下部流路層32上に上部流路層33を形成した後工程におけるエッチングプロセスの信頼性や、インク充填時及び/または吐出時におけるインクジェットヘッド1の信頼性が低下する。
そこで、上記した問題が生じることを回避するために、本実施形態にかかるインクジェットヘッド1において、上部流路層33と下部流路層32との間の接合形態を上記した形態から変更させ、両者の接合強度を大きくすることが好ましい。そして、上部流路層33と下部流路層32との間の接合強度を高め、インクジェットヘッド1の上記した信頼性を向上させることが好適である。
具体的には、例えば、図25(a)に示すように、液体流路部3の断面形状における、外殻31の側部において、上部流路層33を、下部流路層32の側面に被覆接合させる。
ここで、図23(a)と図25(a)とに示すインクジェットヘッド1における上部流路層33と下部流路層32との接合部分の大きさをより具体的な数字を挙げて比較してみると以下のようになる。
例えば、図23(a)に示すような接合形態のインクジェットヘッド1において、上部流路層33と下部流路層32との間の接合部分の大きさ(片側幅)が、出口51近傍において上記幅方向に1.5μmであるとする。また、下部流路層32の高さが2.0μmであるとする。この場合、図23(a)に示す接合形態のインクジェットヘッド1では、上部流路層33と下部流路層32との間の接合部分の大きさが1.5μmとなる。
これに対して、図23(a)における上部流路層33と下部流路層32との接合形態を図25(a)に示す接合形態に変更した場合、下部流路層32に対する上部流路層33の接合部分の大きさを3.5μmと大幅に大きくすることができる。
すなわち、後者の接合形態では、上部流路層33が、下部流路層32の側面と、下部流路層32の両端部における上面とに接合部分を有することができる。このため、下部流路層32に対する上部流路層33の接合部分の大きさは、片側幅の合計として3.5μmとなる。また、上記上部流路層33は、さらに基板2上の絶縁層21に対しても接合部分を有することができる。
したがって、図23(a)における上部流路層33と下部流路層32との接合形態を図25(a)に示す接合形態に変更することにより、上部流路層33と下部流路層32との間の接合部分をより大きくすることができるため、両者の接合強度を向上させることができる。
また、図25(a)に示すインクジェットヘッド1では、下地層35の形成時に、蒸着源に対して基板を傾斜させずに対向し成膜している。このため、下部流路層32側面には下地層35が形成されていない。つまり、図25(a)に示すインクジェットヘッド1における、上部流路層33と下部流路層32との接合部分は、液体流路層34の断面形状の形成に寄与する部分ではないため、下地層35を形成する必要がなく、上部流路層33と下部流路層32とを直接接合させることができる。
例えば、図25(a)に示すインクジェットヘッド1において、上部流路層33と下部流路層32とをメッキ法によって形成した場合、メッキ面が露出している下部流路層32の側面に対して、上部流路層33のメッキ膜が直接接合されることとなる。このため、下部流路層32の側面に最も密着強度の高い接合面を形成することができる。
また、上記したように、上部流路層33と下部流路層32とを直接接合させた場合、後工程においてエッチング処理を行う際、エッチング液が積層界面から浸入し接合強度を低下させる等の不具合が発生することがない。このため、上部流路層33と下部流路層32とを直接接合させた場合、両者の間において高い接合強度を維持することが可能となる。
以上のように、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1は、上部流路層33において、上記下部流路層32の側面に付着している部分では、その上方の剥離応力が下部流路層32の上面において付着している部分のせん断応力として作用するため、剥離に対する抵抗力を飛躍的に向上させることができる。
また、上記インクジェットヘッド1では、上部流路層33における接合領域を大きくすることができる。例えば、上部流路層33を下部流路層32の上面に接合させ外殻31を形成する場合、上部流路層33の接合領域は、該上部流路層33の流路幅分だけとなってしまう。ところが、上部流路層33を下部流路層32の側面に接合させて外殻31を構成する場合は、上部流路層33の接合領域を下部流路層32の側面部分に対応する領域と、基板2と接する領域とに拡大させることができる。
また、上記下部流路層32の側面部分は、液体の流れる流路の断面形状に寄与するものではなく、また、下地層35に皮膜されていないため上部流路層33と下部流路層32とを直接接合させることができる。
したがって、インクジェットヘッド1は、上部流路層33と下部流路層32との間の接合領域を大きくすることができ、密着強度を向上させることができる。
ところで、図25(a)に示すような液体流路部3の外殻31の断面形状は、いわゆる凸形状に形成されている。すなわち、上記断面形状における上部流路層33部分において、基板2の上面と略垂直となる側部を壁部37とし、該壁部37を覆う部分を屋根部36とすると、図25(a)に示すような液体流路部3の断面形状では、該屋根部36は上部面から下部(基板2の方向)に向かって外側に傾斜し、基板2の上面と略並行となる部分を有している。つまり、上記断面形状における外殻31の外周において、180度よりも大きくなる部位(図25(a)では屋根部36の立ち上がり部分)が存在する。
このように、液体流路部3の断面形状が凸形状に形成されている場合、電圧を印加してインクを吐出した際、上記屋根部36の立ち上がり部分に、この吐出口51から流出したインクが溜まりやすくなる。また、毛細管現象が生じて、吐出口51から基板2に向かって溜まったインクが移動し、基板2全体におけるインク蓄積量が増加することとなる。
このように、基板2全体におけるインク蓄積量が増加すると、吐出口51以外からのインクの異常な吐出や、インク毀れの要因となる。
そこで、図25(b)に示すように、下部流路層32の幅方向における大きさと、液体流路層34の幅方向における大きさとを略同一とし、液体流路部3の断面形状を、図25(a)のような立ち上がり部が形成されないようにする。すなわち、図25(b)に示すように、液体流路部3の断面を、上部面から下部に向かって外側に傾斜している屋根部36と、基板2の上面と略垂直となる壁部37とから形成される形状とする。
あるいは、液体流路部3の断面を、図25(c)に示すように、図25(b)に示す断面形状において壁部37が内側に傾斜した形状とし、該液体流路部3の断面の外周すなわち外殻31における各内角が90°よりも大きくかつ、180°よりも小さくなる形状とすることもできる。
図25(b)に示す断面形状の液体流路部3と図25(c)に示す断面形状の液体流路部3とを比較した場合、インクを安定して吐出できるという点で後者の方が有利である。
すなわち、上記した図25(b)に示す液体流路部3の断面形状では、上部流路層33と絶縁層21との接合部分が絶縁層21に対して略垂直となりこのエッジ部分が急峻となる。このため、電圧を印加してインクを吐出する際、安定的に吐出口51の中央部に電界を集中させることが困難となる(すなわち、エッジ部分に電界が集中してしまう)。したがって、吐出方向が安定しにくくなる。
一方、図25(c)に示すように、上部流路層33における壁部37を内側に少し傾斜させ、液体流路部3の断面形状における外周面のエッジ部の各角度、すなわち外殻31の内角の各角度をすべて90°より大きくかつ180°よりも小さく設定した場合、該断面形状を円形状に近づけることができるため、吐出口51の中央部に電界を集中させることができる。
したがって、図25(c)に示す断面形状の液体流路部3の方が、図25(b)に示す断面形状の液体流路部3よりも、吐出させるインクの吐出方向を安定させるという点で好適である。また、図25(b)および図25(c)に示す断面形状の液体流路部3に関しても、図25(a)に示す断面形状の液体流路部3と同様に、上部流路層33と下部流路層32との接合部分において剥離に対する抵抗力を飛躍的に高めることができる。すなわち、液体流路部3における積層方向に対して、上部流路層33と下部流路層32との間の接合部分が略並行となる構成であれば、剥離に対する抵抗力を高めることができる。
なお、上記図25(a)〜図25(c)に示した液体流路部3、特には図25(c)に示す液体流路部3における上部流路層33の断面形状の作成法は、以下のようにして実現できる。
例えば、選択メッキによって上部流路層33を形成する場合、フォトリソグラフィによりパターン化されたレジストで制限して行う。そして、一般には、そのレジスト材料としてポジ型レジストを用いる。
また、更にプロキシミティー露光及びポストベーク処理を行うことにより、レジスト側面をテーパー形状にすることができる。そして、このレジスト形状に規制されて、上部流路層33の壁部37を、内側に傾斜させるように形成し、図25(c)に示すような、液体流路部3の断面形状を実現することができる。
なお、図25(c)に示す液体流路部3の断面では、下部流路層32の側面が逆テーパー方向に傾斜している。すなわち、下部流路層32は上底よりも下底の方が小さく、当該下部流路層32の側面が液体流路部3の断面における内側に向かって傾斜している。
このため、下部流路層32側面での剥離応力を下部流路層32上面接合部での接合強度を高める方向に寄与させることができ、全体の密着強度を高くすることができる。
また、ここで図26を参照して、液体流路層34の断面形状について説明する。なお、この図26は、本実施の形態にかかる液体流路部3の断面形状の一例を示す図であり、液体流路層34の流路幅および流路高さの関係を示す図である。また、図27は、該断面形状における液体流路層34の幅方向の大きさと高さ方向の大きさとの関係を示す表である。なお、この図27では、液体流路層34の高さ方向の大きさ(厚さ)を2μmで形成しているものとし、液体流路層34の幅方向を変更させている。
すなわち、上記図27では、液体流路層34の断面形状において、下部流路層32に接する部分の長さを流路幅A、下部流路層32と上部流路層33との間の距離を流路高さBとし、流路幅に対する流路高さの比をB/Aとしている。そして、流路幅A、流路高さB、これらの比B/Aそれぞれと、ヘッド作製プロセスの一部である液体流路内部の充填剤(液体流流路層34)の除去の前後で、流路形状に変化が有るか否かについて対応づけている。
この図27を参照すると、流路幅に対する流路高さの比B/Aが小さくなるにつれて、流路形状を安定して維持することができないことがわかる。これは、流路幅に対する流路高さの比B/Aが0.05より小さくなると、流路内の充填材を除去して流路内部を空洞化した際に、上部流路層33の壁面強度が足りず、流路高さが低下するためである。つまり本構成では、流路幅に対する流路高さの比B/Aが0.05よりも大きくなるように液体流路部3の断面形状を形成することが、流路形状の製造工程において好適である。
このように、流路幅に対する流路高さの比B/Aが0.05より小さくなるように構成することにより、エッチングやマニホールド取り付け等の作成プロセス中やインク充填およびインク吐出中に流路の形状が変化することがない。つまり、流路内部における流路抵抗値に変化がなく、常に一定の吐出量でインクを吐出できる特性を得ることができる。
また、上記したインクジェットヘッド1が備える吐出部5の吐出口51が形成される先端端面(液体を吐出する面)における形状は、上記液体流路部3の長手方向に対して略垂直に形成されていた。しかし、この吐出部5の先端端面形状はこれに限定されるものではなく、例えば、図8に示すように形成されていてもよい。なおこの図8は、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1が備える吐出部5の別の形状である先端端面近傍の、概略構成を示す斜視図である。
すなわち、図8に示すように、吐出部5の先端端面52が液体流路部3の長手方向に対して傾斜を持って形成されており、外殻31の一方の側面が他方の側面よりも端部22から突出している長さが長くなっている。なお、この外殻31の側面とは、外殻31において、基板2の液体流路部3が形成される面に対して略垂直方向に形成され、かつ基板2の端部22と直交している面である。
このような構成では、吐出口51近傍に形成される電界は、外殻31の突出した先鋭部53(外殻32の上記側面において基板2の端部22からより突出している方の側面部分)に集中する。そして、描画対象に吐出する液滴は、当該先鋭部53の先端部分から飛翔するようになる。
このため、流体の飛翔開始位置を当該外殻31の先鋭部53に安定させることができ、これによって、吐出方向が安定する。したがって、吐出部5の先端端面52を図8に示すように形成することにより、結果として上記液滴の描画対象への着弾精度が向上し、描画パターンの解像度を向上させることができる。
また、上記したインクジェットヘッド1が備える吐出部5の吐出口51が形成される先端端面(液体を吐出する面)における形状を、図9に示すように形成してもよい。なお、この図9は、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1が備える吐出部5のさらなる別の形状である先端端面近傍の、概略構成を示す斜視図である。
すなわち、図9に示すように、上記吐出部5の先端面形状を、上記外殻31の側面を該先端面中央部に向かって、液体流路部3の長手方向に傾斜させ、吐出部5先端の略中央が先鋭部53となる形状としてもよい。
図9に示すように吐出部5の先端端面形状を形成した場合、吐出口51の先端近傍の電界は、先鋭部53の先端に集中し、描画対象に吐出する液滴は当該先鋭部53の先端から飛翔するようになる。このため、吐出部5の先端面形状を図9に示すように形成した場合であっても、同様に、飛翔開始位置が定まり、上記液滴の描画対象への着弾精度が向上し、描画パターンの解像度を向上させることができる。
ここで、上記した2つの異なる先端面形状となるインクジェットヘッド1それぞれの製造方法について説明する。
先ず、図8に示す先端面形状を有するインクジェットヘッド1の製造方法について図10(a)〜図10(b)、および図11(a)〜図11(b)を参照して説明する。なお、この図10(a)〜図10(b)は、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド1の吐出口51付近の加工工程におけるレジストパターニング処理を説明する図であり、図10(a)は、吐出部5の平面図であり、図10(b)は、吐出部5の長手方向における断面図である。
また、図11(a)〜図11(b)は、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド1の吐出部5の加工処理工程におけるエッチング処理およびレジスト除去後を示す図であり、図11(a)は、吐出部5を表す平面図であり、図11(b)は、吐出部5の長手方向における断面図である。
まず、上記した図5(a)〜図5(e)までの工程によって、基板2上に液体流路部3を形成する。
次に、液体流路部3が備える吐出部5の先端端面52のエッチングを行なう。このエッチングは以下のようにして行われる。
すなわち、「レジストパターニングを示す図(図10(a)および図10(b))」に示すように、吐出部5の長手方向に対して傾斜したレジストパターン54aを形成する。
このとき形成されるレジストパターン54aは、図10(a)に示すように、吐出部5の平面図において、吐出部5の側面と略平行するレジストパターン54の側面のうち、一方の側面が他方の側面よりも基板2から突出する突出量が大きく、液体流路部3の長手方向に対して傾斜している。また、図10(b)に示すように上記レジストパターン54aは、上部流路層33上に形成されている。
次に、当該レジストパターン54aに基づいて、液体流路部3の先端端面52をエッチングする。このときのエッチング方法はドライエッチングまたは湿式エッチングなどの手法を用いている。
このようにレジストパターン54aに基づきエッチングされた吐出部5の先端端面52の形状は、「エッチング、レジスト除去後を示す図」(図11(a))に示すように、該吐出部5の長手方向に対して傾斜した形状となる。この後の処理工程は、図5(f)〜図5(g)および図6(a)〜図6(e)にて説明した処理工程と同様の処理を行なう。このようにして形成された液体流路部3の吐出部5の長手方向における断面は、図11(b)に示すようになる。
次に、図9に示す先端面形状を有するインクジェットヘッド1の製造方法について図12(a)〜図12(b)、および図13(a)〜図13(b)を参照して説明する。なお、この図12(a)〜図12(b)は、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド1の吐出部5の加工処理工程におけるレジストパターニングの処理を説明する図であり、図12(a)は、吐出部5の平面図であり、図12(b)は、吐出部5の長手方向における断面図である。
また、図13(a)〜図13(b)は、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド1の吐出部5の加工処理工程におけるエッチング処理およびレジスト除去後を示す図であり、図13(a)は、吐出部5を表す平面図であり、図13(b)は、吐出部5の長手方向における断面図である。
まず、図8に示す先端面形状を有するインクジェットヘッド1の製造方法と同様に上記した図5(a)〜図5(e)までの工程によって、基板2上に液体流路部3を形成する。
次に、図8に示す先端面形状を有するインクジェットヘッド1の製造方法と同様にして液体流路部3が備える吐出部5の先端端面52のエッチングを行なう。ただし、このエッチングに用いるレジストパターン54bの形状が、図8に示す先端面形状を有するインクジェットヘッド1の製造方法において用いられたレジストパターン54aの形状と異なる。
すなわち、図9に示す先端面形状では、図12(a)に示すように、吐出部5の平面図において、該吐出部5の略中央部に向かって長手方向にレジストパターン54bの両側面が傾斜している。なお、このレジストパターン54bは、図12(b)に示すように、上部流路層33上に形成されている。
そして次に、当該レジストパターン54b基づいて、液体流路部3の先端端面52をエッチングする。このときのエッチング方法は、上記した図8に示す先端面形状を有するインクジェットヘッド1の製造方法と同様である。
このようにレジストパターン54bに基づきエッチングされた吐出部5の先端端面52の形状は、「エッチング、レジスト除去後を示す図」(図13(b))に示すように、該吐出部5の両側面が長手方向に対して中央部に向かって傾斜し、上記先端面の先端部が先鋭化した形状となる。この後の処理工程は、図5(f)〜図5(g)および図6(a)〜図6(e)にて説明した処理工程と同様の処理を行なう。このようにして形成された液体流路部3の吐出部5の長手方向における断面は、図13(b)に示すようになる。
以上、説明したように、本実施の形態に係るインクジェットヘッドは、基板2の表面に液体流路部3を形成するため、エッチングの際のレジストパターンの形状を変更することによって、容易に吐出部5の先端端面52の形状を変更することができ、用途に応じた柔軟な吐出特性のインクジェットヘッド1を製造することができる。
また、本実施形態に係るインクジェットヘッド1では、吐出部5の端面が、基板2の上面に対して略垂直方向となるように、下部流路層32と上部流路層33とを配置していた。すなわち、吐出部5の端部に形成される吐出口51として、上記上部流路層33と下部流路層32とにより、基板2の上面に対して略垂直となる面を形成していた。
しかしながら吐出部5の端面形状はこれに限定されるものではなく、吐出部5の端面(吐出口51)を形成する下部流路層および上部流路層のうちの少なくとも一部が、その残余部分より、上記基板2の端部22から吐出部5の長さ方向に突出している構成であってもよい。
なお、この吐出部5の長さ方向とは、液体流路部3において、供給部4から吐出部5に向かって液体が流れる方向(液体流路部3における長手方向)であり、上記高さ方向とは、液体流路部3が形成されている基板2の面に対して垂直となる方向である。
より具体的には、例えば図28に示すように、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド2は、上部流路層33が下部流路層32よりも、吐出部5の長さ方向において後退した構造(あるいは、下部流路層32の方が上部流路層33よりも突出した構造)であってもよい。この図28は、本発明の実施形態を示すものであり、別の実施例におけるインクジェットヘッドの概略構成を示す斜視図である。
なお、この図28に示すのインクジェットヘッド1については、図1のインクジェットヘッドと重複する箇所については説明を省略し、異なる箇所のみ説明する。
まず、この図28に示すインクジェットヘッド1において、吐出部5は、下部流路層32と上部流路層33とを構成要素とする多層構造である。そして、下部流路層32が、上部流路層33よりも吐出部5の長さ方向に、基板2の端面から突出している。本実施例では、下部流路層32の厚さを2μm、幅を7μmとし、さらに上部流路層33よりも突出している長さ(突出長)を20μmとする。
図28に示すような、インクジェットヘッド1を構成する場合、吐出口51近傍の電界が下部流路層32の先端に効率良く集中するため、電圧印加により、液体をこの先端部に向かって吸引する力が強くなる。
一方、吐出口51の開口径、流路抵抗等、その他の液体の吐出に寄与するパラメータについては、下部流路層32と上部流路層33とが基板2の表面に対し略垂直方向に同位置である場合(吐出口51の面が基板2の上面と略垂直に形成されている場合)とほとんど変化がない。このため、結果として印加電圧の低電圧化が可能となる。
ここで、図28に示すような先端面形状となる吐出部5を有するインクジェットヘッド1の製造方法について図29(a)〜図29(d)を参照して説明する。なお、この図29は、本実施の形態にかかる別の実施例におけるインクジェットヘッド1の製造方法を示すものであり、液体流路部3の長手方向における断面図である。なお、図29(a)〜図29(d)のインクジェットヘッド1については、これまでと重複する箇所については説明を省略し、異なる箇所のみ説明する。
まず、前提として、図5(a)〜図5(d)の工程により、絶縁層21、下部流路層32、液体流路層34、下地層35を形成する(図29(a))。次に、フォトリソグラフィによってパターン化されたレジストパターンにより制限された領域に、メッキ法によって2μmの厚さでNiを主成分とする上部流路層33を下地層35上に形成する。
すなわち、この上部流路層33の形成時において、液体流路層34は、下地層35により被覆されている。しかしながら、液体流路層34の先端部上を被膜している下地層35の上部には、上部流路層33がメッキされないように、レジストパターンを形成する。このように、下地層35上の一部(液体流路層35の先端部)にレジストパターンを形成した上でメッキにより上部流路層33の形成を行う(図29(b))。
その後、レジストパターンを剥離し、Arを用いたドライエッチング、またはCF4ガスを用いたRIEにより下地層35を除去し、液体流路層34を露出させる(図29(c))。
次に、液体流路層34を溶解する溶液により湿式エッチングを行うことにより、吐出口51を形成する(図29(d))。
なお、図29に示す処理工程では、図6(a)の処理工程で説明したような吐出口51の形成時にレジスト層を必要としない。このため、材料の削減、ならびにレジスト層形成工程、除去工程を省略することができ、より安価なインクジェットヘッド1を提供できる。
また、吐出部5の形状や突出長は、下部流路層32の形状、および上部流路層33と下部流路層32との配置により決定することができる。このため、下部流路層32および上部流路層33を形成する際のパターンを変更させることにより、吐出部5の形状や突出長を、用途に応じて任意に変更することができる。
さらには、吐出部5の形状が下部流路層32のパターニングにより決まるため、図6に示した処理工程のように、湿式エッチングにより吐出部5を形成する場合よりも形状制御が簡便になる。さらにまた、ドライエッチング、またはCF4ガスを用いたRIEを用いて形成する場合よりも吐出口51近傍におけるエッチング材の再堆積を軽減させ、吐出口51の媒体対向面の荒れを軽減させることができる。このため、吐出部5の形状ばらつきによりテーラーコーンの形成がより不安定となることを抑制することができる。したがって、より着弾精度が高く、信頼性の高いインクジェットヘッド1を提供できる。
また、上記にて、下部流路層32が上部流路層33よりも基板2の端部22からさらに突出した構成について説明したが、突出する部位はこれに限定されるものではない。例えば、逆に下部流路層32よりも上部流路層33の方がより突出した形状となってもよい。この場合、下部流路層32上に、該下部流路層32よりも基板2から突出量が大きくなるように上記液体流路層34を形成する。
すなわち、上記吐出口51を形成する下部流路層32および上部流路層33における少なくとも一部が、その残余部分よりも上記基板2の端部22からさらに突出していればよい。
また、本実施の形態に係る液体流路部3の断面形状は、上記したように、供給部4のほうが吐出部5よりも幅方向の大きさが長く、液体流路部3の断面では、この断面積が供給部4側よりも吐出部5側のほうが小さくなるように構成されている。
しかしこの液体流路部3の断面形状は、これに限定されるものではなく、以下図14〜図17に示すような形状であってもよい。なお、図14〜図17は、本実施の形態に係る液体流路部3に関する別の形状を示す平面図である。
すなわち、上記液体流路部3の平面形状は、図14に示すように、吐出部5の平面形状が基板2の端部22から突出した先端(吐出口51)に近づくにつれ段階的に細くなっている形状であってもよい。なお、このような形状の吐出部5における液体流路の形状も、該流体流路を構成する外殻の厚さが一定であるため、この平面形状に沿った形状となる。
このように、吐出部5が、図14に示すような形状である場合、微細な吐出口51の形状を維持しながら、液体流路の流路抵抗を低減することができる。
このため、上記液体流路部3を図14に示すような形状とすることにより、高粘度の液体を吐出口51に流動させることができる。このため、図14に示す形状の液体流路部3を備えるインクジェットヘッド1は、描画対象に吐出する液体が高粘度液体である場合であっても安定して吐出することが可能となる。
また、上記液体流路部3は、図15に示すように、基板2の端部22から突出した吐出部5が吐出口51に近づくに従い、直線的なテーパーを持って細くなる形状であってもよい。
この形状の液体流路部3は、上記した図14に示す形状の液体流路部3と同様に吐出部5の流路抵抗を低減させることができるため、高粘度液体を吐出口51に流動させることができる。また、この液体流路部3では、吐出部5の流路が連続的に変化しているため、流路内部で乱流が発生しにくくなる。このため、図15に示す形状の液体流路部3を備えるインクジェットヘッド1は、描画対象に吐出する液体が高粘度液体である場合であっても、さらに安定して吐出することができる。
また、上記液体流路部3は、図16に示すように、基板2の端部22から突出した吐出部5が吐出口51に近づくにつれ、曲率を持って連続的に細くなる形状であってもよい。
液体流路部3がこのような形状である場合、上記図15に示す形状の液体流路部3と同様に流路抵抗を低減させるとともに、流路内部での乱流の発生を防止することができる。さらにまた、液体流路部3の内部が図16に示すような形状である場合、上記直線的なテーパーの形状(液体流路部3が図15に示すような形状である場合)に比べ、吐出部5の慣性質量を低減することができる。
このため、液体流路部3の形状が図16に示すような形状である場合、衝撃に対する吐出部5の振れや変形を低減することができる。すなわち、ヘッドの走査などによって生じる応力に対する耐久性が向上する。
また、上記液体流路部3は、図17に示すように、基板2上に配置される供給部4の形状を、吐出部5と同程度とし、液体供給口41近傍のみを幅の広い形状としてもよい。
上記液体流路部3が図17に示すような形状である場合では、吐出液体を吐出口51まで流動させる際の流路抵抗を大きくすることができ、低粘度液体を吐出する際の供給過剰による吐出量の不安定性を低減することができる。
また、流路抵抗を増加する施策としては、上記した液体流路部3の形状を図17に示すように形成する以外に、該液体流路部3の液体流路を蛇行させることによってさらに流路抵抗を増加させることもできる。
ここで、上記図14〜図17に示す液体流路部3の形状は、上記した「インクジェットヘッドの製造方法」の製造工程において、液体流路層34の形状とこれに伴う液体流路部3の外殻31の形状とを変更することによって設計変更が可能となり、非常に簡便に液体流路の最適化を図ることができる。
このように、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1では、液体流路部3をレジストのパターンで形成するため、図14〜図17のように液体流路部3の形状を容易に変更することができる。したがって、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1では、所望の吐出特性に応じた液体流路を容易に設計することができる。
また、本実施の形態に係る液体流路部3の吐出部5の、基板2上面の端部22からの突出量は100μmであったが、この突出量はこれに限定されるものではない。
この突出量は、液体の吐出安定性と、吐出部5の構造的安定性と、吐出口51近傍に電界を集中させるために供給する電圧の大きさとを考慮して設定することができる。
また、本実施の形態に係る液体流路部3は、基板2上面の端部から吐出部5の少なくとも一部が突出する構成であった。特に、基板2面上の端部から突出させる必要がない場合、上記液体流路部3を構成する外殻において、下部流路層32は形成されず、上部流路層33が基板2の面上との間で、液体流路層34を覆う構成であってもよい。
また、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1は、従来技術としてあげた特許文献1〜3が有する以下の問題点も解決することができる。
すなわち、上記特許文献3に示す構成では、インクジェットヘッドが備える複数のノズルがすべて連続したメッキ膜で形成されている。このため、流体をこれらノズルの吐出口から噴出させるように制御する吐出信号は、すべてのノズルに同時に印加してしまう。したがって、特定のノズルのみに上記吐出信号を印加させ、流体を描画対象に噴出させることができない。
また、上記特許文献1および特許文献2に示す構成では、共通インク室において共通電極を配置し、すべてのノズルに同位相の吐出信号を印加している。このため、上記特許文献1および特許文献2に示す構成では、特許文献3に示す構成と同様に、特定のノズルのみに上記吐出信号を印加させ、流体を描画対象に噴出させることができない。
一方、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1は、マニホールド6が備える上記流体供給孔61が液体流路部3毎に設けられ、液体流路部3の供給部4と接する側とは反対側で共通液体室に接合されて構成されている。このため、クロストークの発生を抑制することができる。したがって、特定の液体流路部3にのみ吐出信号を印加させ、液体を描画対象に噴出することができる。
また、特許文献1〜特許文献3に示す構成では、基板を貫通して液体の流路を形成し、この貫通した液体の流路の内壁面に、基板のエッチング手段に対して耐性の高い材料の層を形成する。そして基板の吐出面側をエッチングして基板の一部を除去し、液体の吐出口を基板から突出するように形成している。
このような特許文献1〜3に示す構成では、基板に貫通孔を形成する工程と、貫通孔内壁に液体の流路を構成する層の形成工程が必要となる。
しかし、微細な液滴を吐出口から噴射させるために、流路を微細化していく必要があるが、この流路の微細化は孔が深くなればなるほど困難となる。さらには、微細な深い孔の内側に流路を構成する層を形成することはさらに困難性を伴う。
そこで、基板を貫通する微細な貫通孔を形成するためには、ある程度基板を薄くする必要があるため、基板をエッチングすることにより結果として形成される吐出口の突出量が小さくなる。
すなわち、基板をエッチングして得られる吐出口の突出量は、エッチングされる前の基板の厚さ以上に形成することは不可能であり、特に微細な流路を形成する場合、基板厚を大きく設定できないため、共通インク室から吐出口先端まで十分な距離を確保することができない。このため、仮に特許文献1〜特許文献3のいずれかにおいて、各インクジェットヘッドが備えるノズルそれぞれに独立した電極を配置したとしても、共通インク室を介して隣接するノズルに吐出信号がクロストークし、特定のノズルからのみ液体を噴射させることが困難となる。
しかしながら、吐出口先端部に効率的に電界集中させるためには、吐出口が突出していることが望ましい。しかし、上記したように特許文献1〜特許文献3に示す構成では、上述のように吐出口の突出量が基板の厚さで制限されるため、突出量を自由に設定することができない。
一方、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1は、上記したように基板2に液体流路部3を形成し、吐出部5の突出量を基板2のエッチングによって調整することができる。したがって、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1は、液体流路部3の吐出部5の突出量を適切に自由に設定することができる。
また、本実施の形態に係るインクジェットヘッド1を以下に示す構成とすることもできる。
すなわち、上記インクジェットヘッド1は、基板2上に形成された下部流路層32と上部流路層33からなる外殻31によって構成された筒状の形状からなる少なくとも1つの液体流路部3を有し、前記液体流路部3の一方の端部近傍には液体の吐出口51を有する吐出部5を備え、他方の端部近傍には液体供給口41を備えるとともに、前記吐出部5の少なくとも一部が前記基板2の端面から突出している構成とすることができる。
このインクジェットヘッド1の構成によれば、基板2の表面に液体流路部3を形成するとともに、吐出口51を端部に配置する吐出部5が基板2の端面から突出しているため、吐出口51に電界が効率的に集中するため、静電吸引吐出に要する印加電圧を低減することができる。
また、これによってインクジェットヘッド1と描画媒体との電位勾配を低減することができるため、流体の大量輸送が生じにくくなり、吐出安定性が向上する。また、上記液体流路部3の形状や吐出部5の突き出し量は、基板2上にフォトリソグラフィで形成するパターンの形状を変更することで容易に変更することができるため、インクジェットヘッド1の構造の自由度が大幅に向上するとともに、所望の吐出特性に対するインクジェットヘッド1の構造の最適化が非常に容易に行なうことができるという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、上記液体流路部3は、吐出口51を有する吐出部5と、液体供給口41を有する供給部4を備え、前記吐出部5の流路断面積は前記供給部4の流路断面積よりも小さいように構成することができる。
上記インクジェットヘッド1の構成によれば、供給部4の流路断面積が吐出部5の流路断面積よりも大きいため、描画パターンによる吐出量の増減、特に吐出量の増加の際にも、吐出液体の供給の余裕度が高く、吐出液体の供給不足になることがないという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、上記吐出部5の断面積は、吐出口51に近づくにつれ小さくなるように構成されていることが好ましい。
上記インクジェットヘッド1の構成によれば、前記吐出部5の断面積が吐出口51に近づくにつれて小さくなっているため、吐出部5の断面積が吐出部5と供給部4の接合部の断面積で一定の場合に比べ、吐出部5の突出部の剛性に対する慣性質量の割合が小さくなるため、突出部の剛性が増加し、描画動作におけるヘッドの走査等の加速度によって、突出部が変形する危険性が少ないという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、上記基板2がシリコンを主成分とする単結晶基板から成ることが好適である。
上記インクジェットヘッド1の構成によれば、インクジェットヘッド1を構成する基板2が単結晶シリコンであるため、KOH水溶液などのエッチング液によって容易に基板2のみを除去することができるため、上記突き出し部の形成が容易となるという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、上記基板2上に形成された外殻31が絶縁層21を介して基板2上に形成されていてもよい。
上記インクジェットヘッド1の構成によれば、絶縁層を介して基板と外殻が対向しているため、基板を介して隣接チャンネルに電流が流れ、隣接チャンネルとクロストークする危険性を低減することができるという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、前記吐出部5の外殻31の長手方向が、前記基板(シリコン基板)2の(110)面に対して略垂直であることが好ましい。
上記インクジェットヘッド1の構成によれば、上述したKOH水溶液を用いた基板2の除去の際、もっともエッチング速度の速い(110)面に垂直にエッチングが進行するため、吐出部5の突き出し形状を形成する加工を短時間で行なうことができる。このため、当該エッチングによるインクジェットヘッド1の他の部位のダメージを最小限に抑制することができる。
更に、(110)面が選択的にエッチングされるため、エッチング面の面荒れがエッチングによって改善される。加えて、上記突き出し量はエッチング時間によって制御できるため、簡便に安定した突き出し量のインクジェットヘッド1を製造することができるという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、前記基板2上の外殻31の形成部位が、基板2の面に対して隆起して成るとしてもよい。
上記インクジェットヘッド1の構成によれば、液体流路部3が平坦部に形成された場合にくらべ液体流路部3と絶縁層21の当接端部における絶縁破壊に対する耐性が高く、吐出信号印加の際に高い電圧を印加しても絶縁破壊によって隣接液体流路にクロストークする危険性が低くなる。すなわち印加電圧の許容値が高くなり、インクジェットヘッドの吐出信頼性が向上するという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、上記基板(シリコン基板)2の外殻31の形成面が(100)面であり且つ、少なくとも供給部4の外殻31のエッジが<110>方向に略平行に形成されるように構成されていることが好ましい。
上記インクジェットヘッド1の構成によれば、基板2の表面が(100)面であってかつ、供給部4のエッジが<110>方向に略平行に形成されているため、上記KOH水溶液による基板2のエッチングの際に、供給部4のエッジから(111)面が露出するように基板2の表面のエッチングが進行し、結果として前記供給部4が台形の上底部に支持されたような形状となる。
すなわち、突き出し部の形成と同時に液体流路部3の外殻31の形成部位を基板2の表面から隆起した位置に形成することができるという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、上記記下部流路層32または上部流路層33の少なくとも一方が、Niで形成されていてもよい。
上記インクジェットヘッド1の構成によると、導電体で外殻31の一部が形成されており、当該導電体は供給部4から吐出口51まで延伸しているため、吐出口51に静電吸引吐出のための電荷を供給する際、インクを介して供給する必要がなく、外殻31を構成する導電体を通じで吐出部5に電界を印加することができるので、静電吸引吐出に必要な電界形成のための時間が短くなり、結果として吐出応答性が向上し、これに伴って描画速度ならびに描画解像度が向上するという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、上記した構成のインクジェットヘッド1であって、前記供給部4の、吐出口51の反対側の端部近傍に、供給部4に連続して実装部7が配置され、前記実装部7は前記下部流路層32または上部流路層33の少なくとも一方と電気的に短絡していることが好ましい。
上記インクジェットヘッド1の構成によると、外部の吐出信号発生源からの吐出信号をインクジェットヘッド1に印加するための実装配線を、直接供給部4あるいは吐出部5を構成する外殻31に接続することができるので、吐出信号の伝達信頼性が向上する。さらに、基板2の表面に形成された実装部7に対して実装配線を接合するため、実装にかかる押圧力を増加することができ、接続信頼性が向上するという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、前記複数の液体流路部3を構成する複数の外殻31は、それぞれが電気的に絶縁されているように構成してもよい。
上記インクジェットヘッド1の構成によると、隣接の液体流路部3と電気的に絶縁されているため、特定の液体流路部3に印加した吐出信号によって、隣接する液体流路部3の吐出口51から流体が吐出される、いわゆるクロストークの発生を抑制することができるという効果を奏する。
また、インクジェットヘッド1は、前記吐出口51が形成された吐出部5の端面の少なくとも一部は、吐出部5の液体流路長手方向に対して傾斜しているように構成してもよい。
上記インクジェットヘッド1の構成によると、吐出口51先端が液体流路長手方向に対して傾斜を持って形成されており、吐出口51近傍において外殻31の一部が他の部分よりも突出しているため、吐出口51近傍に形成される電界が外殻31の突出した端部に集中し、液滴は当該端部の先端から飛翔するようになる。
このため、流体の飛翔開始位置を当該外殻31の突出部に安定させることができ、これによって、吐出方向が安定するため、結果として着弾精度が向上し、描画パターンの解像度が向上するという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1の製造方法は、前記基板2上に下部流路層32を形成する工程と、前記下部流路層32上に液体流路となる充填部材(液体流路層34)を形成する工程と、前記下部流路層32あるいは充填部材上に上部流路層33を形成する工程と、前記基板2の一部を除去する工程と、前記充填部材を除去する工程を含むことが好ましい。
上記した方法によると、液体流路となる充填部材を内部に包埋するように下部流路層32と上部流路層33から構成される外殻31を形成するため、液体流路の形状を決定する充填部材の形状がフォトリソグラフィによって制御されるため、安定した形状の液体流路を作成することができるとともに、形状の変更がフォトリソグラフィに用いるマスクパターンの変更のみで簡便に行なうことができるため、設計の自由度が大幅に向上するという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1の製造方法は、前記上部流路層33をメッキによって形成することが好ましい。
上記した方法によれば、メッキによって上部流路層33を形成するため、電流密度を制御することで形成された上部流路層33の内部応力を制御することができる。これによって、突出部にかかる上部流路層33と下部流路層32の応力をつりあわせ、基板2の端部から突出した吐出部5に大きな反りが生じないようにすることができる。また、蒸着やスパッタなどのいわゆる気相成長法に比べ成長速度が速いので、製造にかかるスループットを向上できるという効果を奏する。
また、上記インクジェットヘッド1は、前記基板2の一部を除去する工程を、KOHを含む水溶液を用いてエッチングしてもよい。
上記した方法によれば、KOHを含む水溶液を用いて基板(シリコン基板)2の一部をエッチングするため、面方位によるエッチングレートの大きな差を利用して、簡便に突出部を形成することができるとともに、エッチング時間を管理することによって容易に突出量を制御することができる。更に、上記外殻31を構成する部材にNiなどのKOHに対する高いエッチング耐性を有する材料を用いることによって、外殻31のエッチングダメージを加工精度に影響ないレベルまで低減することができるので、高精度のインクジェットヘッド製造が可能となるという効果を奏する。
また、上記したインクジェットヘッド1は、上記液体の流路断面の側壁が基板2の面に対して垂直から傾斜しているように構成されていてもよい。
上記構成によると、液体流路の形状を規定する充填部材の側壁と基板2の面のなす角が傾斜しているため、液体流路を構成する上部流路層33の形成プロセスにおいて、上部流路層33の充填部材側壁への被覆性が向上する。これによって上部流路層33の形状安定性が向上する。
また、上記インクジェットヘッド1は、上記液体の流路断面の側壁と基板2の面とのなす角が90°より小さく、5°より大きく設定されていることが望ましい。
上記構成によると、側壁と基板2のなす角が90°よりも小さく傾斜しているため、側壁への上部流路層33あるいは上部流路層33の下地層35の被覆性が向上する。一方、側壁と基板2の面とによりなす角が5°よりも大きいため、パターン幅を大幅に大きくすることなしに、除去が容易な充填部材を形成することができる。これによって、微細なインクジェットヘッド1を形成することが可能となる。
また、上記インクジェットヘッド1の製造方法は、上記充填部材を基板2の面上に形成する際、有機材料からなる充填部材を使用し、前記充填部材を加熱する工程を含んでいてもよい。
上記方法によると、上記充填部材が熱収縮するため、簡便に充填部材の側壁と基板2の面とのなす角を垂直から傾斜させることができる。更に、この方法では加熱温度と時間を管理することによって、再現性良く充填部材の形状を制御することができるので、インクジェットヘッド1の構造安定性が向上する。
また、本発明にかかるインクジェットヘッド1の製造方法は、上記充填部材を120℃以上、200℃以下の温度で加熱することが望ましい。この方法では、加熱温度が120℃以上であるので十分に充填部材の側壁を基板2の面に対して傾斜させることができる。更に、加熱温度が200℃以下であるので、有機材料からなる充填部材に生じる熱変質が軽微であるため、液体流路を構成する充填部材除去工程において充填部材の除去不良が発生することがない。すなわち、高い安定性でインクジェットヘッドを製造することができる。
また、本発明にかかるインクジェットヘッド1の製造方法は、上記充填部材を基板2の面上に形成する際、感光性有機材料からなる充填部材を使用し上記充填部材の加熱前に、紫外線を照射することが望ましい。
この方法では、紫外線照射によって充填部材が軟化するため、加熱による形状変化を大きくすることができるとともに、充填部材除去工程における充填部材除去性を高めることができ、インクジェットヘッド1の構造安定性と工程安定性を向上することができる。
本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した課題を解決するために、液体を受け付け、電圧の印加に応じて、描画対象に該液体を吐出する少なくとも1つの吐出口を有するインクジェットヘッドであって、基板と、上記基板上に積層され、上記基板の上面に沿った液体流路部を形成する外殻とを備えることを特徴とする。
なお、上記液体とは、例えばインクなど描画対象に吐出するための液状物質であり、また、液体流路部とは、該液体の流路である。
また、液体流路部を形成する上記外殻は、少なくとも、上記基板の上面との間に液体流路をなす中空部分を確保するように上記基板の上面上に配置されている。
上記構成によると、上記インクジェットヘッドは、基板上に積層された、液体流路部を形成する外殻を備えている。このため、本発明に係るインクジェットヘッドでは、上記基板上に積層された外殻の形状をパターニング等により容易に変更することができる。
したがって、本発明のインクジェットヘッドでは、上記液体流路部の形状の設計自由度を向上させることができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記液体流路部は、基板上面上に形成された下部流路層と該下部流路層上に形成された上部流路層とによって構成される上記外殻により形成されており、上記液体流路部は、外殻の端面に形成された上記液体を吐出するための吐出口を有する吐出部を備え、上記吐出部の少なくとも一部が上記基板上面の端部から突出するように構成されていてもよい。
上記構成によると、該液体流路部の端部に上記液体を吐出するための吐出口を有する吐出部の少なくとも一部が、上記基板面上の端部から突出している。このため、上記液体流路部では、上記吐出口に電界を効率的に集中させることができ、印加する電圧を低減することができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドでは、上記した構成において、上記吐出口を形成する下部流路層および上部流路層における少なくとも一部が、その残余部分よりも上記基板の端部から突出することが好ましい。
すなわち、上記構成によると、本発明に係るインクジェットヘッドでは、下部流路層と上部流路層とから構成される外殻の端面に形成された吐出口において、該吐出口を形成する外殻部分の一部が、その残余の部分よりも上記基板の端部からさらに突出した形状となる。
このため、本発明に係るインクジェットヘッドでは、吐出口近傍の電界を上記基板の端部よりもさらに突出している外殻部分の先端に効率良く集中させることができる。したがって、上記インクジェットヘッドは、電圧印加により、液体をこの先端部に向かって吸引させる力を向上させることができる。
また、上記インクジェットヘッドは、上記吐出口を形成する下部流路層および上部流路層が基板端部から同じだけ突出している構成のインクジェットヘッドと比較した場合、吐出口の開口径、液体の流路抵抗を維持したまま、電圧印加による液体の吸引力を向上させることができる。このため、本発明に係るインクジェットヘッドは、吐出電圧を低電圧化することができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記液体流路部は、上記液体の流入を受け付ける流入口を有する供給部を備え、上記供給部が備える流入口に流入した液体が、当該供給部から上記吐出部が備える吐出口に向かって流れており、上記供給部における上記液体の流路断面積が、上記吐出部における上記液体の流路断面積よりも大きくなるように構成されていることが好ましい。
上記構成によると、上記供給部における液体の流路断面積が、上記吐出部における上記液体の流路断面積よりも大きいため、吐出部から吐出する液体量に対して、該吐出部に供給する液体量を大きくすることができる。すなわち、本発明に係るインクジェットヘッドは、吐出する液体の供給に対する余裕度を高くすることができる。
このため、上記インクジェットヘッドは、描画対象に対して描画する描画パターンに応じて液体の吐出量が増加する場合であっても液体の供給不足が生じることを防ぐことができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記吐出部における断面積が、上記吐出口に近づくにつれ小さくなるように構成されていてもよい。
ここで、上記構成による吐出部の形状の場合を、吐出口が形成される面の断面積と同一のまま基板面端部から突出している吐出部の形状の場合と比較すると、基板上面の端部から突出する部分における、剛性に対する慣性質量の割合を小さくすることができる。
すなわち、本発明に係るインクジェットヘッドの吐出部の形状では、基板上面端部から突出する部分の剛性を大きくすることができる。
このため、本発明に係るインクジェットヘッドの吐出部では、基板上面の端部から突出する部分の、衝撃に対する振れや変形を低減することができる。
したがって、本発明に係るインクジェットヘッドは、衝撃に対する、上記基板上面の端部から突出する部分の、衝撃に対する振れや変形を低減することができるため、インクジェットヘッドの走査などによって生じる応力に対する耐久性を向上させることができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記液体の流路における、該液体の流れる方向と略垂直となる断面形状は、該断面における側部と底部とのなす内側の角が、90°より小さくなるように構成されていることが好ましい。
なお、上記断面における底部とは、この液体流路の断面形状において、上記液体流路部が形成される基板側の部分であり、上部とは、この断面形状において該底部と対向する側の部分である。また、上記側部とは、上記断面形状における両脇部分である。
また、断面における側部と底部とのなす内側の角とは、断面における側部と底部とからなる角において、液体の流路が形成される側の角度であり、この角は90°より小さくなる(すなわち鋭角となる)。逆に、上記断面形状において、上記流路の側部と、該流路を層上に形成する下部流路層とによってなす、流路の外側の角は、90°より大きくなる(すなわち鈍角となる)。
このように、流路の側部と、該流路を層上に形成する下部流路層とによってなす外側の角度を90°より大きくすることよって、上部流路層を形成する際に、上部流路層を構成する材料が側部に被着しやすくなる。このため、液体流路の断面形状が矩形である場合と比較して、側部を形成する上部流路層の厚さを大きくすることが容易となる。
したがって、本発明に係るインクジェットヘッドでは、液体流路の断面形状が例えば矩形である場合と比較して、液体の流路の外圧に対する強度を向上させることができる。
またここで、上記した流路を形成するためには、例えば、下部流路層と上部流路層との間に、後工程において除去可能な充填物を形成する方法を採ることができる。このように充填物を形成する場合、下部流路層上に該充填物を形成し、この充填物の上に上部流路層を形成する処理工程となる。また、上記液体の流路の断面形状は、この充填物によって規定されることとなる。
このように上記充填物上に上部流路層を形成する場合、本発明に係るインクジェットヘッドでは、断面形状において、上記側部と、流路を層上に形成する下部流路層とによってなす外側の角を90度より大きくすることにより、充填物上に形成する上部流路層の段差被覆性を向上させることができる。
したがって、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記充填物に対して、均一に上部流路層を容易に積層させることができる。
よって、本発明に係るインクジェットヘッドでは、形成される液体流路部の流路形状を均一な形状とすることができる、すなわちこの流路形状を安定した形状とすることができる。
また、本発明にかかるインクジェットヘッドでは、上記した構成において、上記液体の流路の断面における側部と底部とのなす内側の角が、5°より大きくなるように構成されていることが望ましい。
ここで、本発明に係るインクジェットヘッドにおいて、例えば、下部流路層と上部流路層との間に設けられた充填物を除去することにより液体の流路を形成する場合、該充填物除去の容易性の観点から上記液体の流路の断面積が大きくなればなるほど好適である。しかし、上記断面積を大きくするためにはこの流路幅を大きく取る必要があるため、インクジェットヘッドの微細化とトレードオフの関係となる。
そこで、上記構成によると、上記液体の流路の断面における側部と底部とがなす角が5°よりも大きいため、流路の幅、すなわち、上記流路の断面形状における、上記基板面と略平行となる方向の大きさを大幅に大きくする必要がない。このため、本発明に係るインクジェットヘッドでは、微細な形状を実現できる。
また、上記流路形状の形成を、例えば、下部流路層と上部流路層との間に、後工程において除去可能な充填物を形成することによって行う場合、上記側部と下部流路層とがなす角が5°よりも大きいため、上記充填物の除去を容易に行うことができる。
なお、上記液体の流路断面の側部と下部流路層とのなす内側の角の範囲は、液体の流路形成の容易性と、本発明に係るインクジェットヘッドに対して求められる微細化とを考慮して設定された値の範囲である。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記液体の流路の断面における下部流路層の側面が逆テーパー方向に傾斜していることが好ましい。
上記構成は、すなわち、下部流路層は上底よりも下底の方が小さく、当該下部流路層の側面が液体流路部の断面における内側に向かって傾斜しているということである。このため、下部流路層の側面での剥離応力を下部流路層の上面接合部での接合強度を高める方向に寄与させることができ、全体の密着強度を高くし、剥離を防ぐことができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記液体の流路における、該液体の流れる方向と略垂直となる断面形状は、流路の幅方向の大きさに対する高さ方向の大きさの割合が0.05よりも大きくなることが好ましい。
上記構成によると、流路の幅方向の大きさに対する高さ方向の大きさの割合が0.05よりも大きいため、流路内の充填材を除去して流路内部を空洞化した際に、上部流路層33の壁面強度が足りず、流路高さが低下するなどの問題が生じることを防ぐことができる。また、マニホールド取り付け等の作成プロセス中や液体の充填および吐出中において流路形状が変化することも防ぐことができる。
したがって、本発明に係るインクジェットヘッドでは、作成プロセスや液体の充填および吐出時に流路形状が変化することがないため、流路内部における流路抵抗値に変化が生じることなく、常に一定の吐出量により液体を吐出できる吐出特性を得ることができる。
本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、液体の流れる方向と略垂直となる液体流路部の断面において、上記外殻を、下部流路層の側面に上部流路sh層を接合させることにより構成することが好ましい。
上記構成によると、上記下部流路層の側面に対して上部流路層を接合させるため、この側面において接合されている部分では、上方の剥離応力がせん断応力として作用する。このため、本発明に係るインクジェットヘッドでは、上部流路層と下部流路層との接合部分において剥離に対する抵抗力を飛躍的に高めることができる。
本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記液体流路部の断面において、上記外殻の内角すべてが180°未満となることが好ましい。
上記構成によると、上記外殻の内角すべてが180°未満となる、すなわち上記外殻の外周において180度よりも大きくなる部位が生じない。
このため、上記インクジェットヘッドの吐出口から液体を吐出した際、吐出した液体が各液体流路部の外殻の外周に溜まり、毛細管現象により、吐出口から基板に向かって溜まった液体が移動し、基板全体における液体の蓄積量を増加させるといった問題が生じることを回避することができる。
このように、基板全体における液体の蓄積量の増加を回避することができるため、本発明に係るインクジェットヘッドでは液体の異常な吐出や、インク毀れ等が生じることを抑制することができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記液体流路部の断面において、上記外殻の内角すべてが90°より大きくなることが好ましい。
上記構成によると、上記外殻の内角すべてが90°より大きくなるため、上記液体流路部の断面における外殻の断面形状が円形に近くなる。したがって、本発明に係るインクジェットヘッドでは、電圧を印加して液体を吐出する際に、吐出口の中央部に電界を集中させることができ、該液体の吐出方向を安定化させることができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドでは、上記した構成において、上記吐出口が形成されている端面の少なくとも一部は、上記吐出部の上記基板上面の端部から突出する方向に対して垂直から傾斜していることが好ましい。
すなわち、上記吐出口が形成される端面の一部が、他の部分よりも上記基板上面の端部からより突出した形状となる。
上記吐出口が形成されている端面の形状が上記したような形状となる場合、液体流路部に電圧が印加されると、吐出口近傍に形成される電界が上記端面の突出した部分に集中するため、液体はこの突出した部分から描画対象に対して吐出されることとなる。
したがって、液体の吐出開始位置を上記した端面の突出した部分とすることができ、このため描画対象に吐出される液体の吐出方向が安定する。
このように、吐出される液体の吐出方向が安定するため、吐出された液体の描画対象への着弾精度が向上し、描画パターンの解像度を高めることができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記外殻を構成する下部流路層または上部流路層のいずれかが導電体で形成されていることが好ましい。
上記構成によれば、本発明に係るインクジェットヘッドにおいて、上記供給部から吐出部に至る下部流路層または上部流路層のいずれかが導電体で形成されている。
このため、静電吸引吐出を行なうために必要となる電荷を上記吐出部が有する吐出口に供給する場合、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記下部流路層または上部流路層を通じて電荷を上記吐出部が有する吐出口に供給することができるため、インクを介して行なう必要がない。
したがって、上記インクジェットヘッドは、上記静電吸引吐出に必要な電界形成のための時間を短縮することができ、吐出応答性が向上する。
よって、本発明に係るインクジェットヘッドは、描画速度および描画解像度を向上させることができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、描画対象に該液体を吐出するために上記液体流路部に印加するための電力を受け付ける実装部を、上記液体流路部において液体の流れる方向とは逆方向となる上記供給部の端部位置の上記基板面上に備え、
上記実装部が、導電体によって形成されている上記下部流路層または上部流路層のいずれかと電気的に短絡するように構成されていることが好ましい。
上記構成によると外部から印加される電力を上記実装部が受け付け液体流路部に供給することができる。
このため、液体を吐出するための電力を液体流路部に供給することができるため、描画対象に該液体を吐出するために上記液体流路部に印加するための電力の伝達信頼性を向上することができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記実装部を上記基板面上に備えているため、この実装部に対して実装配線を接合するための実装にかかる押圧力を大きくすることができる。
すなわち本発明に係るインクジェットヘッドは、基板の裏面(基板において液体流路部が形成される面とは反対側の面)を使う必要がないため、基板に形成された実装部を簡便に固定できる。このため、上記基板の表面側(液体流路部が形成される側の面)から、実装部に対する実装配線接続のために大きな押圧力を加えることができる。
よって、本発明に係るインクジェットヘッドは、実装部と電力を印加する外部の装置との接続の信頼性を向上させることができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記液体流路部が、上記基板上に形成された絶縁層の上面に形成される構成であることが好ましい。
上記構成によると、導電性物質である液体流路部が、上記絶縁層の上面に形成されているため、上記液体流路部を導通する電流が、該基板を介して他の部材等に流れることを防ぐことができる。
例えば、上記液体流路部が同一基板面上に複数台、形成されている場合、上記基板を介して隣接する他の液体流路部に電流が流れ、この他の液体流路部とクロストークする危険性を低減することができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記基板上面に形成された絶縁層と該基板上面との接合部分となる、基板部分は、当該基板における他の基板部分よりも、基板上面から上記絶縁層方向に隆起している構成であってもよい。
上記構成によると、基板上面と絶縁層との接合部分における基板部分が、他の基板部分よりも隆起している。
ここで、他の基板部分の上面に上記絶縁層が形成された場合と比較すると、本発明に係るインクジェットヘッドでは、該絶縁層の面上に形成された液体流路部が、他の基板部分よりも隆起している部分に形成される。このため、上記液体流路部が他の基板部分に形成される場合と比較して、当該液体流路部から基板を介して隣接する他の液体流路部などに流れる電流の電気抵抗が大きくなる。
したがって、液滴を吐出させるために、高い電圧を液体流路部に印加した際に、該液体流路部から基板を介して流れる電流によって、隣接する液体流路部などにクロストークする危険性を低減させることができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記基板がシリコンを主成分とする単結晶基板であることが好ましい。
上記構成によると、上記液体流路部を形成する基板がシリコンを主成分とする単結晶基板であるため、例えばKOH水溶液などのエッチング液によって容易に該基板のみを除去することができる。
このため、例えば、吐出部の、基板上面の端部から突出する部分など、液体流路部の形状を容易に形成することができる。
また、本発明に係るインクジェットは、上記した構成において、上記吐出部が上記基板上面の端部から突出する方向が、上記基板の(110)面に対して略垂直となっていることが好ましい。
ここで、例えばKOH水溶液などのエッチング液を用いて上記基板の一部の除去を行なう場合、(110)面に対する垂直方向へのエッチング速度が最も速い。
このため、上記したように、上記基板上面の端部から吐出部が突出する方向が、上記基板の(110)面に対して略垂直となる場合、上記吐出部が突出する方向とは逆方向に基板をエッチングする速度が最も速くなる。
したがって、吐出部における基板端部からの突出した部分の形成を短時間で行なうことができる。
このように、本発明に係るインクジェットヘッドでは、上記突出した部分を形成するために行なうエッチングを短時間で行なうことができるため、エッチング液による、当該インクジェットヘッドの他の部位に対するダメージを低減させることができる。
また、(110)面を選択的にエッチングするため、この(110)面において面荒れが生じている場合、この面荒れを上記エッチングによって改善することができる。
また、上記基板上面の端部から突出する部分の大きさは、基板における(110)面のエッチング時間によって制御することができる。このため、上記基板上面の端部から突出する部分の大きさは、容易に所望する大きさに調整することができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記液体流路部が形成されている基板面が(100)面であり、上記基板面上に形成された液体流路部の平面形状の一辺が<110>方向に対して略平行となることが好ましい。
なお、上記平面形状とは、上記液体流路部を当該液体流路部が形成されている基板面を正面として見た場合の形状である。
上記構成によると、上記液体流路部が形成されている基板面が(100)面であり、上記液体流路部の平面形状の一辺が<110>方向に対して略平行となっている。
このため、基板を例えばKOH水溶液などのエッチング液によりエッチングした場合、上記平面形状の一辺から(111)面が露出するように上記基板面のエッチングが進行する。そして、結果として上記基板断面において上記液体流路部の平面形状における一辺が、略台形形状に残った上記基板上面に形成された形状となる。すなわち、基板上面に形成された液体流路部と該基板上面との接合部分となる基板部分は、当該基板における他の基板部分よりも、基板上面から上記液体流路部の方向に隆起している形状となる。
したがって、上記インクジェットヘッドでは、基板のエッチングによって、液体流路部が有する上記吐出部の少なくとも一部が上記基板面の端部から突出した形状を形成するとともに、該液体流路部が、基板上面から上記液体流路部の方向に隆起した基板面上に形成されている形状とすることができる。
ここで、他の基板部分の上面に上記絶縁層が形成された場合と比較すると、本発明に係るインクジェットヘッドでは、該絶縁層の面上に形成された液体流路部が、他の基板部分よりも隆起している部分に形成される。このため、上記液体流路部が他の基板部分に形成される場合と比較して、当該液体流路部から基板を介して隣接する他の液体流路部などに流れる電流の電気抵抗が大きくなる。
したがって、液滴を吐出させるために、高い電圧を液体流路部に印加した際に、該液体流路部から基板を介して流れる電流によって、隣接する液体流路部などにクロストークする危険性を低減させることができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記した構成において、上記基板面上に複数の上記液体流路部が形成されており、上記液体流路部のそれぞれが互いに電気的に絶縁されていることが好ましい。
上記構成によると、本発明に係るインクジェットヘッドは、上記液体流路部を複数備えている。このため、液体流路部が1台だけ備えられている場合と比較して、描画対象に対して液体を吐出して描画する描画表現の幅を広げることができる。また、描画対象に対して描画する速度をより高速とすることができる。
また、上記複数の液体流路部それぞれが互いに電気的に絶縁されているため、特定の液体流路部に印加した電圧により、当該特定の液体流路部と例えば隣接する他の液体流路部から誤って液体が描画対象に吐出される、いわゆるクロストークの発生を抑制することができる。
本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記した課題を解決するために、液体を受け付け、電圧の印加に応じて、描画対象に該液体の微細な液滴を吐出するインクジェットヘッドの製造方法であって、基板の上面に沿って、液体の流路形状を決定するための充填部材を基板上に形成する工程と、上記充填部材を、上記基板面上との間で覆うように外殻を形成する工程と、上記充填部材を除去する工程とを含むことを特徴とする。
上記方法によれば、上記充填部材が基板面上に形成されているため、該充填部材の形状を、エッチングにより容易に所望する形状とすることができる。また、同様に、この充填部材を、基板面上との間で覆うように形成される上部流路層の形状もエッチングにより容易に所望する形状とすることができる。
このように、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、液体の流路形状または、上部流路層の形状を容易に所望する形状とすることができるため設計の自由度を大幅に向上させるという効果を奏する。
また、本発明にかかるインクジェットヘッドの製造方法は、上記した方法において、上記充填部材は、加熱することにより収縮する材料から形成されており、上記外殻を形成する工程の前に、上記充填部材を加熱する工程をさらに含むことが好ましい。
上記方法によると、上記充填部材が加熱することにより収縮する有機材料から形成されているため、上記加熱する工程によって充填部材を熱収縮させ、容易に充填部材の側部と基板面とのなす角を垂直から好適な角度に傾斜させることができる。なお、この充填部材の側部とは、液体が流れる方向に略垂直となる、充填部材の断面形状における側部である。
更にまた、この方法では加熱温度と時間を管理することによって、再現性良く充填部材の形状変化を制御することができる。
このため、本発明にかかるインクジェットヘッドの製造方法では、上記充填部材を安定した形状で形成することができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記した方法において、上記充填部材は、有機材料であり、上記充填部材を加熱する工程において、該充填部材を120℃以上、200℃以下の温度で加熱することが望ましい。
上記充填部材が有機材料から形成されているため、この充填部材は、有機溶剤などを用いて容易に除去することができる。このため、液体の流路となる部分の形状を、安定した形状で維持したまま、上記充填部材を除去することができる。
したがって、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、液体流路部における流路の形状を安定した一定の形状とすることができる。
また、この方法では、加熱温度が120℃以上であるので十分に充填部材の側部を基板面に対して傾斜させるように、該充填物を熱収縮させることができる。更に、加熱温度が200℃以下であるので、有機材料からなる充填部材に生じる熱変質が軽微であるため、液体流路を構成する充填部材除去工程において充填部材の除去不良が発生することがない。
したがって、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法では、均一な形状となるインクジェットヘッドを製造することができる。
また、本発明にかかるインクジェットヘッドの製造方法は、上記した方法において、上記有機材料は、感光性有機材料であり、上記充填部材を加熱する工程の前に、該充填部材に対して紫外線を照射する工程をさらに含むことが望ましい。
本発明に係るインクジェットの製造方法では、充填部材が感光性有機材料であるため、紫外線の照射によってこの充填部材自身を軟化させることができる。
このように充填部材を軟化させることができるため、加熱による形状変化を大きくすることができるとともに、この充填部材を除去する工程において、該充填部材を容易に除去することができる。
したがって、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法では、均一な形状となるインクジェットヘッドを製造することができるとともに、充填物を除去する工程における除去処理を容易とさせることができる。
本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記した方法において、上記充填部材を基板面上に形成する工程では、上記基板の上面に沿って、該基板上に下部流路層を形成する工程と、上記基板面上にある下部流路層上に充填部材を形成する工程とを含んでおり、上記外殻を形成する工程では、上記充填部材を、上記基板面上の下部流路層との間で覆うように上部流路層を積層し外殻を形成する工程を含み、さらに、上記外殻を形成する一方の端部が、基板面上の端部から突出するように上記基板の一部を除去する工程をさらに含むことが好ましい。
上記方法によれば、充填部材を下部流路層と上部流路層とによって覆うようになっている。そして、上記充填部材の形状は、例えばフォトリソグラフィなどを利用したエッチングによって制御することができるため、上記充填部材の形状を所望する形状として容易に形成することができる。
また、上部流路層と下部流路層とから構成される外殻の形状は、該上部流路層および下部流路層の形状をエッチングによって所望する形状として容易に形成することができる。
さらに本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記基板の一部を除去することにより、上記外殻の一方の端部を、基板面上の端部から突出するようにさせることができる。なお、この基板の除去は、例えばエッチング液などによって行なうことができる。
このため、このエッチング液により基板のエッチングを行なう時間を管理することにより、基板面上の端部から突出する外殻の突出する長さ(突出量)を容易に所望する長さとすることができる。
したがって、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、液体の流路形状、外殻の形状、または外殻の上記基板面端部からの突出量を容易に所望する形状とすることができる。このため、上記インクジェットヘッドの製造方法は、設計の自由度を大幅に向上させるという効果を奏する。
また、本発明にかかるインクジェットヘッドの製造方法は、上記した方法において、上記充填部材を基板面上に形成する工程では、上記基板の上面に沿って、該基板上に下部流路層を形成する工程と、上記基板面上にある下部流路層上に、上記充填部材を形成する工程とを含んでおり、上記外殻を形成する工程では、上記外殻を基板表面上から突出させる側の充填部材の端部部分を除く領域を覆うように上部流路層を積層する工程を含み、さらに、上記外殻を形成する一方の端部が、基板面上の端部から突出するように上記基板の一部を除去する工程を含んでいてもよい。
上記方法によれば、下部流路層上に上記充填部材を形成しているため、例えば下部流路層よりも突出するように充填部材を形成することもできる。また、上記方法では、この充填部材における上記外殻を基板面上から突出させる側の端部部分を除く領域を覆うように、上部流路層を積層する。
このため、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法では、上記充填部材が上記外殻から容易に露出させることができる。
したがって、上記吐出口を形成する下部流路層および上部流路層における上記吐出口側端面の少なくとも一部が上記基板上面の端部からさらに突出するインクジェットヘッドの構造を、上記充填部材を除去する工程だけで簡便に作製することができる。
このため、吐出口形成のための上記充填部材除去工程において、上記充填部材を露出するためのエッチング、ダイシング等の加工を必要としないため、インクジェットヘッドの製造処理に係るスループットを向上させるとともに、当該工程において発生する吐出口近傍の上記外殻へのダメージを抑制し、吐出口の形状安定性を向上させることができる。
また、吐出口位置、形状、開口径を、充填材の形成により適切に調整することができ、また、基板面上からさらに突出させる外殻部分の突出量を、上部流路層を積層させる範囲により適切に調整することができる。
このため、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法では、吐出口から供給される液体の流量を適切な量となるように制限しつつ、より強い静電力を発生させるようなインクジェットヘッドを容易に設計することができる。すなわち、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法では、製造するインクジェットヘッドの設計の自由度を向上させることができる。
さらに本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法では、上記基板の一部を除去することにより、上記外殻の一方の端部を、基板面上の端部から突出するようにさせることができる。なお、この基板の除去は、例えばエッチング液などによって行なうことができる。
このため、このエッチング液により基板のエッチングを行なう時間を管理することにより、基板面上の端部から突出する外殻の突出する長さ(突出量)を容易に所望する長さとすることができる。
したがって、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、液体の流路形状、外殻の形状、または外殻の上記基板面端部からの突出量を容易に所望する形状とすることができる。このため、上記インクジェットヘッドの製造方法は、設計の自由度を大幅に向上させるという効果を奏する。
また、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記した方法において、上記上部流路層をメッキによって形成することが好ましい。
上記方法によると、上部流路層がメッキによって形成されるため、電流密度を制御することにより、上部流路層の内部応力を制御することができる。
このため、上部流路層と下部流路層との応力を釣り合わせることができる。したがって、上記上部流路層および下部流路層によって形成される部分、特に基板の一部が除去されることにより、該基板から突出する部分に反りが生じることを防ぐことができる。
また、上記メッキ法により上部流路層を形成する場合、蒸着またはスパッタなどのいわゆる気相成長法により上部流路層を形成する場合と比較して成長速度が速いため、インクジェットヘッドの製造処理に係るスループットを向上させることができる。
また、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、上記した方法において、上記基板は、シリコンを主成分とする単結晶基板であり、上記基板の一部を除去する工程では、KOHを含む水溶液を用いてエッチングすることが好ましい。
上記方法によると、KOHを含む水溶液を用いてシリコン基板の一部をエッチングするため、基板を構成する結晶格子の面方位によるエッチングレートの大きな差を利用して、所望される形状に基板をエッチングすることができる。また、エッチング時間を管理することにより、容易にエッチングされる基板の量を調整することができる。
本発明に係るインクジェットヘッドは、以上のように、液体を受け付け、電圧の印加に応じて、描画対象に該液体を吐出する少なくとも1つの吐出口を有するインクジェットヘッドであって、基板と、上記基板上に積層され、上記基板の上面に沿った液体流路部を形成する外殻とを備えることを特徴とする。
上記構成によると、上記インクジェットヘッドは、基板上に積層された、液体流路部を形成する外殻を備えている。このため、本発明に係るインクジェットヘッドでは、上記基板上に積層された外殻の形状をパターニング等により容易に変更することができる。
したがって、本発明のインクジェットヘッドでは、上記液体流路部の形状の設計自由度を向上させることができるという効果を奏する。
また、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、以上のように、液体を受け付け、電圧の印加に応じて、描画対象に該液体の微細な液滴を吐出するインクジェットヘッドの製造方法であって、基板の上面に沿って、液体の流路形状を決定するための充填部材を基板上に形成する工程と、上記充填部材を、上記基板面上との間で覆うように外殻を形成する工程と、上記充填部材を除去する工程とを含むことを特徴とする。
上記方法によれば、上記充填部材が基板面上に形成されているため、該充填部材の形状を、エッチングにより容易に所望する形状とすることができる。また、同様に、この充填部材を、基板面上との間で覆うように形成される上部流路層の形状もエッチングにより容易に所望する形状とすることができる。
このように、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法は、液体の流路形状または、上部流路層の形状を容易に所望する形状とすることができるため設計の自由度を大幅に向上させるという効果を奏する。
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。