ここで、プーリの塗装としては、金属メッキ塗装、樹脂塗装などがあるが、プーリとしてダンパ付のものを選択する場合、ゴム、ウレタンなどの弾性体が介在するため、金属メッキ塗装を適用することができず、樹脂塗装が施されることが主流である。樹脂塗装としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などによるものが知られているが、中でも、エポキシ樹脂からなる塗膜が、接着性が高く剥がれにくいことに加えて比較的安価なことから好ましく用いられる。
しかし、本発明者が知見したるところ、摩擦伝動において、プーリのベルト接触面にこのような塗装があると、摩擦係数が高く且つ不安定となり、走行時に異音が発生することが判明した。この塗装は、使用における摩耗により次第に剥げてプーリ地肌が露出し、それにつれ摩擦係数は低く安定化していくが、エポキシ樹脂からなる塗膜は20〜30分程度のアイドリングで剥がれるものではなく、充分に剥げ落ちさせるためには2000km程度走行させる必要があった。
更に、本願発明者が知見したるところ、この異音の発生は、近年注目されているエチレン・α−オレフィンエラストマーで構成された摩擦伝動ベルトを当該ベルト伝動装置に装着した場合に顕著であった。これは、ベルト表面の摩擦係数が高いことに起因するものであり、加えて水濡れ性にも劣ることから、被水時においてはより発音が増大することが判明した。
本願発明は、走行初期から低く安定な摩擦係数を呈し、異音を抑制させた摩擦伝動ベルト駆動装置を提供することを目的とする。
即ち、本願請求項1記載の発明は、複数のプーリと、前記プーリ間に巻き掛けて走行可能な摩擦伝動ベルトとを備えたベルト伝動装置において、前記複数のプーリのうち少なくとも1つのプーリはベルト接触面にエポキシ系樹脂塗膜を有し、前記摩擦伝動ベルトの少なくとも摩擦伝動面の一部が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、エーテルエステル系可塑剤を10〜25重量部、無機充填剤を60〜110重量部配合したゴム組成物で構成されていることを特徴とする。
本願請求項2記載の発明は、請求項1記載のベルト伝動装置にあって、エーテルエステル系可塑剤の溶解度指数が8.3〜10.7(cal/cm3)1/2であることを特徴とする。
本願請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のベルト伝動装置にあって、無機充填剤が、カーボンブラックであることを特徴とする。
本願請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載のベルト伝動装置にあって、無機充填剤が、カーボンブラックを含有し、更に金属炭酸塩及び/又は金属珪酸塩を含有することを特徴とする。
本願請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のベルト伝動装置にあって、前記ゴム組成物に、溶解度指数が6.0〜8.1(cal/cm3)1/2の可塑剤が、更に配合されていることを特徴とする。
本願請求項6記載の発明は、請求項5記載のベルト伝動装置にあって、溶解度指数が6.0〜8.1(cal/cm3)1/2の可塑剤が、石油系可塑剤であることを特徴とする。
本願請求項7記載の発明は、請求項6記載のベルト伝動装置にあって、石油系可塑剤が、パラフィン系可塑剤及び/又はナフテン系可塑剤であることを特徴とする。
本願請求項8記載の発明は、請求項7記載のベルト伝動装置にあって、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、パラフィン系可塑剤及び/又はナフテン系可塑剤を3〜20重量部配合したゴム組成物で構成されていることを特徴とする。
本願請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載のベルト伝動装置にあって、塗膜を有するプーリが、クランクプーリであることを特徴とする。
本願請求項10記載の発明は、請求項1〜9のいずれか1項に記載のベルト伝動装置にあって、摩擦伝動ベルトが、内周面にベルト長手方向に延びるリブ部を配設したVリブドベルトであることを特徴とする。
本願請求項11記載の発明は、請求項10記載のベルト伝動装置にあって、少なくともリブ部表面の一部が、前記ゴム組成物で構成されることを特徴とする。
本願請求項12記載の発明は、請求項10又は11記載のベルト伝動装置にあって、少なくともベルト背面の一部が、前記ゴム組成物で構成されることを特徴とする。
本願請求項1記載の発明では、一般に剥がれにくいとされるエポキシ系樹脂塗膜を施したプーリを適用した場合においても、ベルトの摩擦伝動面を特定ゴム組成物で構成することで、エーテルエステル系可塑剤を適度にブリードせしめ、塗装を初期に剥がすことが可能となる。これにより、走行初期より低く安定な摩擦係数を奏し、異音を抑制させたベルト伝動装置を提供することができる。また前記可塑剤を、潤滑剤として作用させることで適切な摩擦係数を確保できるとともに、走行時の耐発音性を向上させることができる。そして摩擦伝動面のクラックや粘着磨耗を抑制し、ベルト耐久性を向上させることができる。更にエチレン・α−オレフィンゴムはハロゲンを含有しないため環境に負荷を与えない。
本願請求項2記載の発明では、摩擦伝動ベルトの摩擦伝動面の水濡れ性が向上するため、被水時においてもベルトのプーリへの密着性を高めて静音性の向上を図ることができる。
本願請求項3記載の発明では、摩擦伝動ベルトの強度が高く、良好な耐摩耗性を確保できるといった効果がある。
本願請求項4記載の発明では、摩擦伝動ベルトの強度が高く、良好な耐摩耗性を維持できると共に、振動による発音を抑制する効果が得られる。
本願請求項5記載の発明では、ベルトの亀裂を防止して耐久性を高めることができる。
本願請求項6記載の発明では、より耐熱耐久性を向上させることができる。
本願請求項7記載の発明では、耐久性を向上させると共に加工性をも向上させることができる。
本願請求項8記載の発明では、良好な加工性並びに耐発音性及び耐久性を確保できる。
本願請求項9記載の発明では、クランクプーリの塗膜としてエポキシ系樹脂塗膜を選択することで、ダンパ付のクランクプーリを用いることができるといった利点がある。尚、クランクプーリ以外のプーリがエポキシ系樹脂塗膜であってもよいし、ダンパ付でないクランクプーリの使用制限を意味するものではない。
本願請求項10記載の発明では、優れた耐発音性を奏するVリブドベルト伝動装置を提供することができる。また摩擦伝動面のクラックを抑制し、ベルト耐久性を向上させることができる。
本願請求項11記載の発明では、リブ面での摩擦伝動において、優れた耐発音性を奏するVリブドベルト伝動装置を提供することができる。また摩擦伝動面となるリブ部のクラックを抑制し、ベルト耐久性を向上させることができる。
本願請求項12記載の発明では、ベルト背面での摩擦伝動において、優れた耐発音性を奏するVリブドベルト伝動装置を提供することができる。また摩擦伝動面となる背面のクラックを抑制し、ベルト耐久性を向上させることができる。
本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、ベルト伝動装置における摩擦伝動ベルトとして、ベルトの長手方向に延びる複数のリブ部を有するVリブドベルトに本発明を適用したものである。
図1に示すベルト伝動装置10は、エンジンのクランク軸11を駆動軸とし、そして従動軸12に例えばウォーターポンプ13を、他の従動軸14に例えば大きな回転慣性を有する発電機15を、そして更に他の従動軸16に例えばクーラーコンプレッサー17を備え、これらの軸にそれぞれプーリ18(クランクプーリ),19,20,21を装着してなり、これらのプーリ18(クランクプーリ),19,20,21にVリブドベルト1が巻き掛けられた構成を有する。そして、アイドラープーリ22、ベルト張力を自動的に調節するオートテンショナー23をVリブドベルト1の背面に係合させている。
ここで、プーリ18,19,20,21の少なくとも一つは、ベルト接触面にエポキシ系樹脂塗膜を有する。例えば、クランクプーリ18としてダンパ付プーリを用いる場合、ゴム、ウレタンなどの弾性体が介在するため金属メッキ塗装が適用できないことから、エポキシ系樹脂塗膜を施したものを用いることが好ましい。エポキシ系樹脂塗膜は、接着性が高く剥がれにくいことに加えて比較的安価であることから、輸送や保管中の錆止め、使用時の腐食防止、見栄え向上の観点からプーリ用塗装として好ましく用いられる。しかし、ベルト接触面にエポキシ系樹脂塗膜が存在すると、摩擦伝動ベルトとの摩擦係数が高く且つ不安定となり、走行時に異音が発生するといった不具合がある。そこで、本発明はエポキシ系樹脂塗膜を早期に剥がすことで、摩擦係数を走行初期から低く安定に維持し、異音を抑制させた摩擦伝動ベルト駆動装置を提供するものである。ここで、エポキシ系樹脂塗膜は、エポキシ系樹脂塗料を電着塗装、スプレー塗装などの手法を用いて塗布、形成した膜である。エポキシ系樹脂塗料は、エポキシ樹脂に硬化剤を添加したもの、エポキシ樹脂と脂肪酸の反応によりエステル化したもの、エポキシ樹脂とアルキド樹脂を併用したもの、エポキシ樹脂とタール製品を併用したものなどが挙げられ、具体的には、エポキシ/フェノール樹脂塗料、エポキシ/アミノ樹脂塗料、アポキシ/アルキド/メラミン樹脂塗料、エポキシ/アルキド樹脂塗料、エポキシエステル塗料、アミン硬化エポキシ塗料、エポキシコールタール塗料、エポキシイソシアネート塗料などを例示することができる。
尚、ベルト伝動装置10は上記構成に限定されるものではない。例えば、オートテンショナー23を使用せず、これに代わって通常の固定式のテンションプーリを使用して装置を簡素化することなどができる。またプーリは、ベルトを巻き掛けるために複数個、即ち少なくとも二個必要であるが、それ以上の個数は限定されるものではない。
ベルト伝動装置10に用いられる摩擦伝動ベルト1として、Vリブドベルト1を図2に例示する。Vリブドベルト1は、心線2をベルト長手方向に沿って埋設した接着層3と、この接着層3の一方の面に設けられた圧縮層4と、接着層3の他方の面を被覆するカバー帆布からなる伸張層5とを有する。そして圧縮層4には、ベルト長手方向に延びる断面略三角形状の複数のリブ部6が設けられている。ここで、摩擦伝動面は圧縮層4の表層をいい、本実施形態においては圧縮層4を特定のゴム組成物で構成する。
本発明で使用する心線2は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリアミド繊維、ガラス繊維、またはアラミド繊維などから構成される撚糸コードが使用できる。
前記心線は接着処理を施されることが望ましく、例えば(1)未処理コードをエポキシ化合物やイソシアネート化合物から選ばれた処理液を入れたタンクに含浸してプレディップした後、(2)160〜200°Cに温度設定した乾燥炉に30〜600秒間通して乾燥し、(3)続いてRFL液からなる接着液を入れたタンクに浸漬し、(4)210〜260°Cに温度設定した延伸熱固定処理器に30〜600秒間通し−1〜3%延伸して延伸処理コードとする、ことができる。
この前処理液で使用するイソシアネート化合物としては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン2,4−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリアリールポリイソシアネート(例えば商品名としてPAPIがある)等がある。このイソシアネート化合物はトルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。
また、上記イソシアネート化合物にフェノール類、第3級アルコール類、第2級アルコール類等のブロック化剤を反応させてポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化したブロック化ポリイソシアネートも使用可能である。
エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールや、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールとエピクロルヒドリンのようなハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物や、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類やハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物などである。上記エポキシ化合物はトルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。
RFL処理液はレゾルシンとホルムアルデヒドの初期縮合物をゴムラテックスと混合したものであり、この場合レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比は1:2〜2:1にすることが接着力を高める上で好適である。モル比が1/2未満では、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂の三次元化反応が進み過ぎてゲル化し、一方2/1を超えると、逆にレゾルシンとホルムアルデヒドの反応があまり進まないため、接着力が低下する。
ゴムラテックスとしては、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴムなどがあげられる。
また、レゾルシン・ホルムアルデヒドの初期縮合物と上記ゴムラテックスの固形分質量比は1:2〜1:8が好ましく、この範囲を維持すれば接着力を高める上で好適である。上記の比が1/2未満の場合には、レゾルシン−ホルムアルデヒドの樹脂分が多くなり、RFL皮膜が固くなり動的な接着が悪くなり、他方1/8を超えると、レゾルシン・ホルムアルデヒドの樹脂分が少なくなるため、RFL皮膜が柔らかくなり、接着力が低下する。
更に、上記RFL液には加硫促進剤や加硫剤を添加してもよく、添加する加硫促進剤は、含硫黄加硫促進剤であり、具体的には2−メルカプトベンゾチアゾール(M)やその塩類(例えば、亜鉛塩、ナトリウム塩、シクロヘキシルアミン塩等)ジベンゾチアジルジスルフィド(DM)等のチアゾール類、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)等のスルフェンアミド類、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TS)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TT)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(TRA)等のチウラム類、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(TP)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(PZ)ジエチルジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(EZ)等のジチオカルバミン酸塩類等がある。
また、加硫剤としては、硫黄、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛)、有機過酸化物等があり、上記加硫促進剤と併用する。
伸張層5を構成する帆布は、織物、編物、不織布などから選択される繊維基材である。構成する繊維素材としては、公知公用のものが使用できるが、例えば綿、麻等の天然繊維や、金属繊維、ガラス繊維等の無機繊維、そしてポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリフロルエチレン、ポリアクリル、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリエステル、アラミド等の有機繊維が挙げられる。織物の場合は、これらの糸を平織、綾織、朱子織等することにより製織される。
上記帆布は、公知技術に従ってRFL液に浸漬することが好ましい。またRFL液に浸漬後、未加硫ゴムを帆布に擦り込むフリクションを行ったり、ゴムを溶剤に溶かしたソーキング液に浸漬処理することができる。尚、RFL液には適宜カーボンブラック液を混合して処理反を黒染めしたり、公知の界面活性剤を0.1〜5.0質量%加えてもよい。
圧縮層4は、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して、エーテルエステル系可塑剤を10〜25重量部、無機充填剤を60〜110重量部配合したゴム組成物で構成されている。この構成によって、圧縮層4の表面(摩擦伝動面)にエーテルエステル系可塑剤が適度にブリードし、プーリのベルト接触面に存在するエポキシ系樹脂塗膜を早期に剥がし、摩擦係数が低く且つ安定な摩擦特性を発揮できるプーリ地肌を露出させることができる。また本発明のベルト伝動装置では、ベルト伝動装置を駆動させなくとも、摩擦伝動ベルトをプーリに巻き掛けた状態、即ち、摩擦伝動面がプーリに接触した状態で放置しておくことで、エポキシ系樹脂塗膜を早期に剥がせることができるものである。尚、エポキシ系樹脂塗膜を早期に剥がすことができる理由は定かではないが、カルボニル基を含むエーテルエステル系可塑剤が適度にブリードしていることで、エポキシ系樹脂塗膜を溶解するものと推察される。
エチレン・α−オレフィンエラストマーとしては、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、あるいはオクテン)の共重合体、あるいは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体などであり、具体的にはEPMやEPDMなどのゴムをいう。上記ジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。
可塑剤は、エーテルエステル系可塑剤であって、好ましくは溶解度指数(SP値)が、エチレン・α−オレフィンエラストマーの溶解度指数(8.0(cal/cm3)1/2程度)よりも大きい、即ち8.3〜10.7(cal/cm3)1/2の範囲内のものが用いられる。エチレン・α−オレフィンエラストマーより大きなSP値の可塑剤を配合することでゴム表面に適度なブリードが生じ、通常時(乾燥時)では摩擦係数を低下せしめ、また注水時においては均一な水濡れ性を確保して摩擦係数を安定することができ、潤滑剤として作用することでスティックスリップ現象を抑制することが可能となる。尚、SP値は、SP=dΣG/M(d:密度、G:分子引力定数、M:分子量)により求められる。
前記可塑剤の配合量は、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対し、10〜25重量部である。即ち、配合量が10重量部未満では、可塑剤がベルト表面を覆う量として不十分であることから、エポキシ系樹脂塗膜を早期に剥がすことができない。また均一な水濡れ性を確保することが困難であり、潤滑剤としての効果にも乏しい。一方、配合量が25重量部を超えると逆に表面の摩擦係数が著しい低下が見られると共に、耐摩耗性が極端に低下するといった不具合がある。尚、高温環境下での揮発防止を考慮すると、エーテルエステル系可塑剤の平均分子量は300以上であることが好ましい。
無機充填剤は、カーボンブラック、金属炭酸塩、金属珪酸塩などを挙げることができる。尚、補強性を考慮すると、少なくともカーボンブラックが含有されることが望ましい。
カーボンブラックは限定されるものではないが、窒素吸着比表面積20〜150cm2/g,DBP吸油量が50〜160cm3/100gの特性を有するものを使用することが好ましい。ここで、窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラックの比表面積であって、JIS K 6217―2に従い測定される。またDBP吸油量(ジブチルフタレート吸油量)は、ストラクチャーの指標であって、JIS K 6217―4に従い測定される。
金属炭酸塩としては、炭酸カルシウムを挙げることができ、金属珪酸塩としては、珪酸カルシウム、珪酸カリウムアルミニウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウムなどが挙げられる。更に具体的には、珪酸アルミニウムとしてはクレイ、珪酸マグネシウムとしてはタルク、珪酸カリウムアルミニウムとしてはマイカなどを挙げることができる。これらは単独又は併用することができる。なかでも炭酸カルシウムは、ゴムとの相溶性が良く、強度等の機械物性に悪影響を及ぼさないことから望ましい。
上記無機充填剤の平均一次粒径は、0.01〜3.00μmのものが好ましい。3.00μmを超えるとベルトの耐久性に悪影響があるといった不具合があり、0.01μm未満のものは分散性が悪くゴム物性が不均一になる。
上記無機充填剤の含有量はエチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対して60〜110重量部である。60重量部未満の場合は、可塑剤をブリードさせる効果が小さく、また耐粘着摩耗性が充分ではない。一方で、110重量部を超えると、耐屈曲性が低下するといった不具合がある。また無機充填剤として、カーボンブラックと金属炭酸塩及び/又は金属珪酸塩を配合する場合、強度、耐摩耗性及び耐発音性を考慮すると、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対してカーボンブラックを30〜100重量部、金属炭酸塩及び/又は金属珪酸塩を10〜80重量部とすることが望ましい。
前記ゴム組成物には、溶解度指数が6.0〜8.1(cal/cm3)1/2の可塑剤を更に配合することで、摩擦伝動ベルトの耐久性を向上させることができる。即ち、エチレン・α−オレフィンエラストマーの溶解度指数はほぼ8.0(cal/cm3)1/2であり、このエチレン・α−オレフィンエラストマーの溶解度指数よりも大きい溶解度指数(8.3〜10.7(cal/cm3)1/2)の可塑剤を10〜25重量部、無機充填剤を60〜110重量部配合し、そしてエチレン・α−オレフィンエラストマーとほぼ同じかそれより小さい溶解度指数(6.0〜8.1(cal/cm3)1/2)を有する可塑剤を、同一エラストマーに併用することにより、摩擦伝動面の水濡れ性を改善し、注水時においてもベルトのプーリへの密着性を高めて静音性を向上させると共に、適度のブリード性を奏し、潤滑剤として作用させることで走行時の発音を抑制することができ、且つ、摩擦伝動面の亀裂を防止してベルト耐久性を高めることができる。
溶解度指数が6.0〜8.1(cal/cm3)1/2の可塑剤としては、耐熱耐久性を考慮すると石油系可塑剤が好適であり、具体的には、パラフィン系可塑剤及び/又はナフテン系可塑剤が好ましく用いられる。その配合量は、エチレン・α−オレフィンエラストマー100重量部に対してパラフィン系可塑剤及び/又はナフテン系可塑剤を3〜20重量部とすることが望ましい。3重量部未満では、耐久性の向上効果に乏しく、一方、20重量部を超えると、耐粘着摩耗性が低下するという不具合がある。
前記ゴム組成物には架橋剤として有機過酸化物を配合することができる。有機過酸化物としては、例えばジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−モノ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等を挙げることができる。この有機過酸化物は、単独もしくは混合物として、ポリマー成分100重量部に対して0.5〜8重量部の範囲で好ましく使用される。
また前記ゴム組成物は、ポリマー成分100重量部に対して、N,N’−m−フェニレンジマレイミド及び/又はキノンジオキシム類を好ましくは0.5〜13重量部配合することができる。N,N’−m−フェニレンジマレイミド及び/又はキノンジオキシム類は共架橋剤として作用し、0.5重量部未満では添加による効果が顕著でなく、13重量部を超えると引裂き力並びに接着力が急激に低下する。このとき、共架橋剤としてN,N’−m−フェニレンジマレイミドを選択した場合、架橋密度が高くなり、耐摩耗性が高く、また注水時と乾燥時の伝達性能の差が少ないといった特徴がある。またキノンジオキシム類を選択した場合は、繊維基材との接着性に優れるといった特徴がある。
キノンジオキシム類としては、p−ベンゾキノンジオキシム、p,p’−ジベンゾキノンジオキシム、テトラクロロベンゾキノンポリ(P−ジニトロベンゾキノン)等が挙げられる。接着性や架橋密度を考慮すると、p−ベンゾキノンジオキシムやp,p’−ジベンゾキノンジオキシムなどのベンゾキノンジオキシム類が好ましい。
そして、それ以外に必要に応じて、短繊維、老化防止剤、安定剤、加工助剤、着色剤のような通常のゴム配合物に使用されるものが使用される。これらの配合成分をゴム組成物に混合させる方法としては特に制限はなく、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー等を用い、適宜公知の手段、方法によって混練することができる。
接着層3は、ゴム成分としてエチレン・α−オレフィンゴム単独またはその他の種類ゴムからなる相手ゴムを混ぜ合わせたブレンドゴムを用いることが望ましい。エチレン・α−オレフィンゴムにブレンドする相手ゴムとしては、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)の少なくとも一種のゴムを挙げることができる。勿論、上記と同様のゴム組成物を用いることも可能である。
尚、Vリブドベルトは、図2のような構成に限定されず、例えば接着層を配置しないVリブドベルトや、背面に帆布を貼着せずゴムを露出させたVリブドベルトなども本発明の技術範囲に属する。以下、これらの実施形態を図面をもとに説明する。
図3に示すVリブドベルト21は、背面28が植毛層24を設けたゴム組成物で形成された伸張層25と、該伸張層25の下層に接着層22が配設され、更にその下層に圧縮層26を配置した構成を有する。心線23は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されてなり、その一部が伸張層25に接し、残部が接着層22に接した状態となっている。そして前記圧縮層26はベルト長手方向に伸びる断面略三角形の複数のリブ27が設けられている。ここで、圧縮層26に含有される短繊維はリブ形状に沿った流動状態を呈し、表面近傍の短繊維はリブ形状に沿って配向している。
図4に示すVリブドベルト31は、背面38が短繊維34を含有するゴム組成物で形成された伸張層35と、該伸張層35の下層に圧縮層36を配置した構成を有する。心線33は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されてなり、その一部が伸張層35に接し、残部が圧縮層36に接した状態となっている。そして、前記圧縮層35にはベルト長手方向に伸びる断面略三角形の複数のリブ37が設けられており、該リブ表面には植毛層39が設けられている。ここで、伸張層25に含有される短繊維はランダム方向に配向している。
ここで図4では、伸張層35を帆布で構成せず、短繊維を含有するゴム組成物で形成した構成を示したが、この際、背面駆動時の異音を抑制すべく、背表面に凹凸パターンを設けることができる。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターンなどを挙げることができるが、最も好ましくは織物パターンである。また短繊維としては、ポリエステル、アラミド、ナイロン、綿などを所望に応じて配合することができる。尚、伸張層、圧縮層及び接着層を構成するゴム組成物、心線などは上述と同様のものが使用できる。
そして図4では伸張層35に含有される短繊維はランダム方向に配向しているが、ベルト幅方向に配向させるなど一方向に配向していてもかまわない。尚、ランダム方向に配向させた場合、多方向からの裂きや亀裂の発生を抑制できるといった特徴があるが、このとき短繊維として屈曲部を有する短繊維(例えばミルドファイバー)を選択すると、より多方向から作用する力に対して耐性ができるといった特徴がある。
また図4のように接着層を配置しない構成の場合、心線33は伸張層35と圧縮層36の境界領域でベルト本体に埋設されることになる。この時、心線33とベルト本体との接着性を考慮すると、伸張層35及び圧縮層36のどちらか一方のゴム層は、短繊維を含有しないゴム組成物で構成することが望ましい。
尚、図3では、伸張層25を、短繊維を含有しないゴム組成物表面に植毛層24を設けた構成としているが、短繊維を含有するゴム組成物表面に植毛層を設けた構成とすることも可能である。
また図3では圧縮層26に含有される短繊維はリブ形状に沿った流動状態を呈しているが、短繊維が幅方向に配向した構成としてもかまわない。
尚、Vリブドベルトが背面伝動を行う場合は、伸張層の表面も摩擦伝動面となりうる。よって、伸張層を本発明のゴム組成物で構成してもかまわない。即ち、通常伝動(リブ面での伝動)に加えて背面伝動を行う場合、摩擦伝動面とは、圧縮層の表面及び伸張層の表面であるが、必ずしも両方を前記ゴム組成物で構成することを意味するものでなく、少なくとも一方を構成していればよい。その場合は構成面と接するプーリで前述の効果を奏するものである。
次に、これらVリブドベルトの製造方法を説明する。製造方法としては限定されるものではないが例えば以下のような方法がある。
第1の方法としては、まず、円筒状の成形ドラムの周面に伸張層を構成する部材と接着層を構成する接着ゴムシートとを巻き付けた後、この上にコードからなる心線を螺旋状にスピニングし、更に圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを順次巻き付けて未加硫スリーブを形成した後、加硫して加硫スリーブを得る。次に、加硫スリーブを駆動ロールと従動ロールに掛架され所定の張力下で走行させ、更に回転させた研削ホイールを走行中の該加硫スリーブに当接するように移動してスリーブの圧縮層表面に3〜100個の複数の溝状部を一度に研磨して摩擦伝動面を形成する。このようにして得られたスリーブを駆動ロールと従動ロールから取り外し、該スリーブを他の駆動ロールと従動ロールに掛架して走行させ、カッターによって所定に幅に切断して個々のVリブドベルトに仕上げる。
第2の方法としては、周面にリブ刻印を設けた円筒状の成形ドラムに、圧縮層を構成する圧縮ゴムシート、接着層を構成する接着ゴムシートを巻き付けた後、心線をスピニングし、伸張層を構成する部材を巻き付けて未加硫スリーブを配置する。その後、該未加硫スリーブを成形ドラムに押圧しながら加硫することで、圧縮層にリブを型付けする。得られた加硫スリーブにはリブが形成されてなるが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトとする。
第3の方法としては、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケットの上に伸張層を構成する部材、接着層を構成する接着ゴムシートを巻き、その上に心線をスピニングした後、さらに圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを順次無端状に捲き付けて未加硫スリーブを形成する。そして、可撓性ジャケットを膨張させて、未加硫スリーブをリブ部に対応した刻印を有する外型に押圧して加硫成形する。得られた加硫スリーブにはリブが形成されてなるが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトとする。
第4の方法としては、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケットの上に圧縮層を構成する圧縮ゴムシートを配置した第1未加硫スリーブを形成した後、可撓性ジャケットを膨張させて、該第1未加硫スリーブをリブ部に対応した刻印を有する外型に押圧して、リブ部を有する予備成型体を作製する。そして、前記予備成型体を密着させた外型から、内型を離間させ、次いで、内型に伸張層を構成する部材、接着層を構成する接着ゴムシートを配置し、心線をスピニングして第2未加硫スリーブを形成する。そして、可撓性ジャケットを膨張させて、前記予備成型体を密着させた外型に、該第2未加硫スリーブを内周側から押圧して予備成型体と一体的に加硫する。得られた加硫ベルトスリーブにはリブが形成されてなるが、必要に応じてリブ表面を研磨し、所定幅に切断して個々のVリブドベルトとする。
尚、Vリブドベルトの圧縮層を表層と内層の2層からなる構成とする場合、表層と内層の2層構成を有する圧縮ゴムシートを巻き付ける、もしくは表層用圧縮ゴムシートと内層用圧縮ゴムシートを順次巻き付けるなどにより、表層と内層の2層構成を有する圧縮層を配置した未加硫スリーブを形成する必要がある。このとき、第1の方法では研磨によりリブを形成するため、得られたVリブドベルトのリブ山には表層が存在するがリブ側面やリブ底には内層が露出することが考えられる。そのため、表層と内層の2層からなるVリブドベルトは、第2の方法、第3の方法、もしくは第4の方法で製造することが望ましい。
また図4のような接着層を配置しないVリブドベルトは、上記方法において接着ゴムシートを配置せずに製造することで得ることができる。更に図3のように圧縮層26に含有される短繊維はリブ形状に沿った流動状態を呈しているVリブドベルトは、例えば第2の方法、第3の方法、もしくは第4の方法で製造することで得られる。そして、圧縮層に含有される短繊維が幅方向に配向したVリブドベルトは、例えば第1の方法で製造することで得られる。
尚、本実施形態は、摩擦伝動ベルトとしてVリブドベルトを適用した一例であるが、Vリブドベルトに限らず、他の種類の摩擦伝動ベルトを本発明に適用することが可能である。