JP4806858B2 - 開環重合体の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、環状ジスルフィドの開環重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
主鎖に硫黄原子を含有する重合体は、優れた熱安定性および光学特性を有することから注目されているが、本発明者らは、硫黄原子を含有するα−アミノ酸であるシステインより光学活性を有するジチオール化合物を得、このジチオール化合物を反応させることにより環状ジスルフィドを有利に合成する方法を見いだした。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この環状ジスルフィドの化学的特性について研究を重ねた結果、完成されたものであって、その目的は、主鎖に硫黄原子を含有する重合体を有利に製造することができる新規な方法を提供することにある。
【0004】
本発明の開環重合体の製造方法は、請求項1に記載の一般式(1)で表わされる環状ジスルフィドを開環することを特徴とする。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0006】
本発明においては、両端にシステインに由来する基を有するジチオール化合物から得られる環状ジスルフィド(以下、「特定の環状ジスルフィド」ともいう。)を開環することにより、主鎖に硫黄原子を含む開環重合体を製造する。
【0007】
本発明の開環重合体の製造方法には、特定の環状ジスルフィドとして、下記の反応式(1)の出発物質として表される環状ジスルフィド(以下、「環状ジスルフィド(1A)」ともいう。)が用いられる。この製造方法に係る環状ジスルフィド(1A)の反応は、下記の反応式(1)に表されるとおりである。
【0008】
【化1】
【0009】
ここで、反応式(1)中においては、繰り返し数nおよびmは、通常、1〜6である。
【0010】
この反応では、環状ジスルフィド(1A)が、例えばジメチルスルホキシドよりなる溶媒中において開環重合反応することにより、当該環状ジスルフィド(1A)のジスルフィド結合が開裂し、再結合することにより線状高分子である開環重合体(以下、「特定の開環重合体」ともいう。)が生成される。
この反応によって得られる特定の開環重合体は、数平均分子量(標準ポリスチレン換算数平均分子量をいう。以下同じ。)が1300〜25500の鎖状の開環重合体である。
【0011】
この反応処理に使用される溶媒としては、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。
【0012】
溶媒の使用量は、反応系におけるモノマーの濃度が0.5〜1.0Mであることが好ましい。
【0013】
この反応処理における反応条件としては、通常、反応温度が60〜120℃、特に60〜80℃であることが好ましく、反応時間が12〜24時間であることが好ましい。
反応温度が100℃以上である場合には、ポリマー生成に平衡が偏るという理由により、分子量が大きい開環重合体を得ることができる。
【0014】
この反応処理においては、生成物をヘキサンあるいはエーテルで再沈殿処理することによりポリマーを単離することができる。
【0015】
上記の反応式(1)で用いられる特定の環状ジスルフィドである環状ジスルフィド(1A)は、両端にシステインに由来する基、具体的にはシステインメチルエステル残基を有するジチオール化合物から得られる環状ジスルフィドであって、この環状ジスルフィドは、例えば下記の反応式(2)に示すように、ジ酸塩化物であるマロニル塩化物と、光学活性を有するα−アミノ酸であるL−システインをメチルエステル化することによって得られるL−システインメチルエステル塩酸塩(以下、単に「塩酸塩」ともいう。)とを、例えば塩化メチレンよりなる溶媒中において、トリエチルアミンよりなる触媒の存在下に反応させることにより、マロニル塩化物の2個の塩素原子が結合解離した残基の炭素原子の各々に、塩酸塩の窒素原子に結合している水素原子の1個が結合解離した残基を結合させることによってジチオール化合物を生成させ、このジチオール化合物を、例えばジメチルスルホキシドよりなる溶媒中において、トリエチルアミンよりなる触媒の存在下に反応させることにより、2個のジチオール化合物において、水素原子が結合解離した硫黄原子の各々によって2個のジスルフィド結合が形成されることに伴って環が形成されて得られる。
【0016】
【化2】
【0017】
ジチオール化合物から特定の環状ジスルフィドを得るための反応処理においては、使用される溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレン、メタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。
これらは、単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
溶媒の使用量は、反応系におけるモノマーの濃度が0.5〜1.0Mであることが好ましい。
【0019】
この反応処理に使用される触媒としては、トリエチルアミン、酸素、ヨウ素などを用いることができる。
【0020】
触媒の使用量は、反応系において反応物質全体のおよそ100mol%であることが好ましい。
【0021】
この反応処理における反応条件としては、通常、反応温度が0〜25℃であることが好ましく、反応時間が12〜24時間であることが好ましい。
【0022】
この反応処理においては、生成物をエーテルで再沈殿処理することが好ましい。
【0023】
ジチオール化合物を得るための反応処理に供するジ酸塩化物としては、マロニル塩化物、サクシニル塩化物、グルタニル塩化物、アジポイン塩化物、ピメロイル塩化物、スベロイル塩化物などを用いることができる。
【0024】
本発明で用いる特定の環状ジスルフィドとしては、L−システインを出発物質とした環状ジスルフィドが挙げられるが、D−システインを出発物質としたものも用いることができる。
【0025】
この特定の開環重合体の製造方法においては、特定の環状ジスルフィドが開環重合反応することにより、特定の開環重合体を有利に製造することができる。
実際上、この製造方法によれば、70〜95%の高い収率で特定の開環重合体を得ることができる。
【0026】
また、開環重合反応による反応処理において、反応温度を100℃以上にすることにより、分子量が大きい開環重合体を得ることができる。
【0027】
本発明の開環重合体の製造方法によって得られる開環重合体は、その分子構造中に大きな割合で硫黄原子を含有するものであるため、優れた熱安定性および光学特性を有することから、これらの特性を利用する用途に有用である。
【0028】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
〔実施例1〕
この実施例1は、反応式(1)の目的生成物として表される、繰り返し単位数mが5である開環重合体を製造するものである。
【0030】
(ジチオール化合物の合成)
L−システインメチルエステル塩酸塩4.28g(25mmol)が75ミリリットの塩化メチレンに含有されてなる懸濁液に、トリエチルアミン7.30ミリリットル(52.4mmol)を0℃の窒素ガス雰囲気下でゆっくりと添加した後に、ジ酸塩化物として繰り返し数mが5であるピメロイル塩化物1.76g(1.2ミリリットル、12.5mmol)が12.5ミリリットルの塩化メチレンに含有されてなる溶液を0℃でゆっくり添加した。この混合溶液を0℃で30分間撹拌した後、室温で12時間放置して得られた反応溶液をロータリーエバポレーターにより濃縮し、200ミリリットルのエチルアセトンを加えた懸濁液を、塩化水素と水とで洗浄した後、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させて、ロータリーエバポレーターにより濃縮した後にエチルアセテートにより再結晶処理を2回行うことにより、反応生成物として、無色の固体であり、上記の反応式(2)に示される繰り返し数mが5であるジチオール化合物(以下、「ジチオール化合物(1)」という。)を収率73%で得た。
【0031】
(特定の環状ジスルフィドの合成)
得られたジチオール化合物(1)338mg(1.0mmol)に、トリエチルアミン0.07ミリリットル(2.2mmol)、次いで3.0ミリリットルの乾燥ジメチルホルムアミドを導入した後、冷却し、脱ガスし、25℃の酸素ガス雰囲気下で24時間撹拌することによって得られた反応混合液を大過剰のエチルエーテルに投入し、不溶物をフィルターにて濾別した後、50℃で12時間真空乾燥することにより、反応生成物として、無色の固体であり、上記の反応式(2)で示される繰り返し数mが5である環状ジスルフィド(以下、「環状ジスルフィド(1)」という。)を99%以上の収率で得た。
【0032】
(特定の開環重合体の製造)
得られた環状ジスルフィド(1)785mg(1.0mmol)を、溶媒としてのジメチルスルホキシドに添加して混合溶液を得、この混合溶液を100℃で24時間撹拌することによって得られた反応溶液をエーテルによって精製することにより反応生成物を収率90%で得た。
得られた反応生成物は、反応式(1)において目的生成物として示した、繰り返し単位nが100、繰り返し数mが5の開環重合体であることが確認された。
この開環重合体の数平均分子量は、25000であった。
【0033】
以上の結果により、特定の環状ジスルフィドを開環重合反応させることにより、特定の開環重合体を容易にかつ高い収率で製造することができることが確認された。
また、ジ酸塩化物として、反応式(2)で表されるジ酸塩化物であって繰り返し数mが異なるものを用いたこと以外は実施例1と同様の方法により、順に、ジチオール化合物および特定の環状ジスルフィドを経、最終目的生成物である下記の(1)〜(4)に示す開環重合体が得られた。各開環重合体の収率を併せて示す。
【0034】
(1)繰り返し数mが1、繰り返し数nが8.9〜40.1であり、数平均分子量が3000〜13500である特定の開環重合体;収率70〜90%
(2)繰り返し数mが2、繰り返し数nが9.1〜68.5であり、数平均分子量が3200〜24000である特定の開環重合体;収率70〜90%
(3)繰り返し数mが4、繰り返し数nが10.6〜39.7であり、数平均分子量が4000〜15000である特定の開環重合体;収率70〜90%
(4)繰り返し数mが6、繰り返し数nが3.20〜30.5であり、数平均分子量が1300〜12400である特定の開環重合体;収率70〜90%
【0035】
【発明の効果】
本発明の開環重合体の製造方法によれば、両端にシステイン残基を有するジチオール化合物から得られる環状ジスルフィドが開環重合反応することにより、主鎖に硫黄原子を含有する開環重合体を有利に製造することができる。

Claims (1)

  1. 下記一般式(1)で表わされる環状ジスルフィドを開環することを特徴とする開環重合体の製造方法。
    〔式中、mは繰り返し数を示し、1〜6である。〕
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