本発明の実施形態を示す前に、本願発明者らが本発明を完成させるに至った経緯を示す。
本願発明者らは、これまでから、窒化物系化合物半導体レーザ素子の実用化に向けて、精力的な研究開発を行ってきた。その研究開発の中で、以下に示すことを発見した。
基板としてn−GaN基板を使用した場合に顕著に現れた現象であるが、同一ロットのn−GaN基板を使用し、同一条件でレーザ素子を作製したにもかかわらず、実用可能な程度に優れた素子特性を有するレーザ素子と、発光するしないレーザ素子とが混在した。また、同一ウェハー内においても、隣り合うレーザ素子チップ同士で発振波長や閾値電流等の素子特性が異なった。そして、このような結果を基にn−GaN基板の特性とレーザ素子特性との関係について検討したところ、本願発明者らは、再現性の低さなどの原因が基板に起因した窒化物系化合物半導体素子の変形やこの素子に加えられる応力にあるということをつきとめた。
具体的には、n−GaN基板の形状(凸型、凹型、鞍型)と、基板の上面及び基板の下面における平坦性(凹凸や荒さ)と、基板の上面及び基板の下面での反り量(曲率半径)と、基板の周縁の形状との間に互いに相関関係があることがわかり、さらに、これらの基板の物性のばらつきが素子特性の再現性及び均一性に悪影響を与えていることが明らかとなった。そのため、基板の物性のばらつきを抑制低減することが重要であり、本願発明者らは、実用可能な程度に優れた素子特性を有するために必要な基板の物性を特定した。
ここで、本願の課題である再現性の改善、均一性の改善及び信頼性の改善について、簡単に説明する。
まず、再現性の改善とは、例えば、同一の作製条件で複数個の半導体素子を作製したときに、作製された全ての半導体素子の素子特性を実用可能な程度に優れた素子特性とすることである。具体的には、作製中に工程エラーが出ることなく全ての半導体素子を作製できることや、全ての半導体素子の発振波長のばらつきや出力パワーのばらつきを誤差範囲内に抑えることができることである。
また、均一性の改善とは、例えば、各半導体層の面内における組成比等の物性を略均一にすることである。具体的には、同一の基板に複数の半導体素子チップを形成する場合、その半導体素子チップのチップ特性を均一とすることである。
また、信頼性の改善とは、再現性や均一性が改善されれば自ずと改善されるものである。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
(実施の形態1)
以下、図面を参照しながら、窒化物系半導体レーザ素子(窒化物系化合物半導体素子)の第1の実施形態を説明する。本実施形態において、窒化物系半導体レーザ素子の製造方法として、窒化物系化合物半導体の成長方法の中で最も頻繁に用いられるMOVPE法(MOCVD法と同義で取り扱う)を例に挙げて記すが、MOVPE法に限定されるものではなく、ハイドライド気相成長法(HVPE法)や分子線エピタキシー法(MBE法)等、基板上に化合物半導体結晶を成長させるためにこれまで提案されている全ての方法を適用できる。
なお、以下において、「基板」は、n−GaN等の窒化物系化合物半導体からなる基板であり、表面(上面)に別の窒化物系化合物半導体層(半導体層)を結晶成長させるための基板である。「ウェハー(窒化物系化合物半導体素子用ウェハー)」は、基板に複数の窒化物系化合物半導体層が積層されてなる積層体であり、n電極及びp電極を設けるための処理(後述のフォトリソグラフィ処理)前の積層体である。「窒化物系半導体レーザ素子」は、「ウェハー」に上記処理を施してn電極及びp電極が設けられたものであり、所定値以上の電圧を印加することにより所定の波長値の光を発振させるものである。
また、基板の表面は、別の窒化物系化合物半導体層を結晶成長させるための面であり、例えば、図2では基板の上面である。一方、基板の裏面は、基板の表面とは反対側の面であり、例えば、図2では基板の下面である。ウェハーの表面は、電極を形成するための面であり、例えば、図2ではウェハーの上面である。一方、ウェハーの裏面は、ウェハーの表面とは反対側の面であり、例えば、図2ではウェハーの下面である。
まず初めに、図1を用いて、n−GaN基板などの窒化物系化合物半導体からなる基板200(ウェハー220も同様)の反りの方向及び反り量を定義する。反り量は、Hであらわすことにする。また、反りの方向については、基板201の表面側(またはウェハー220の表面側)に実質的に凸状に反っている場合の反りを正(H>0)、基板201の表面側(またはウェハー220の表面側)に実質的に凹状に反っている場合の反りを負(H<0)とし、正負の符号を用いてあらわすことにする。また、基板201として、表面が六方晶系の(0001)面であるGaN基板、または表面が六方晶系の(0001)面に対して−2.0°以上+2.0°以下のオフアングルを有する面であるGaN基板を列挙しているため、表面がGa面となり、裏面がN面となる。そのため、反りの方向については、Ga面側に実質的に凸状に反っている場合の反りを正とあらわし、N面側に実質的に凸状に反っている場合の反りを負とあらわすこともできる。
本実施形態における基板201は、図1に示すように、反り量の極大点(もしくは極小点)が1点だけである一様な反りを有する基板であるが、極大点(もしくは極小点)を複数有する基板であってもよい。このような基板では、反り量を求めるための基準面を基板の表面における焦平面(表面フィッティングより求める)とし、焦平面からの最高点までの距離(もしくは、焦平面からの最低点までの距離)を用いて反り量をあらわすこととする。また、基板は、極大点及び極小点を2個以上ずつ有する鞍型の基板であってもよく、この基板の場合であっても、焦平面を基準面として反り量を求めることができる。以上のように、反りの方向及び反り量Hを定義した場合、その基板(もしくはウェハー)の曲率半径をR、基板(もしくはウェハー)の直径をDとすると、近似的に、R=D2/8Hとあらわすことができる。
なお、曲率半径Rは、基板の表面(もしくはウェハーの表面)を球面に近似した時の曲率半径であり、基板が表面側に実質的に凸状に形成されている場合には正(R>0)であらわし、基板が裏面側に実質的に凹状に形成されている場合には負(R<0)とあらわす。また、基板の直径(もしくはウェハーの直径)Dは、基板(もしくはウェハー)の一側端から他側端までの直線距離である。
また、例えば、基板が実質的に凸状に反っているとは、反り量の極点の個数に限らず、上記方法により求められた反り量が正であることである。
上述の反り量Hは、光学的手法を用いて容易に測定できる。例えば、基板201の中心一点を吸着して(吸着をしなくても反り量を測定できるが)、基板201の表面の全体に平行光線を入射し、同表面に形成された干渉模様から反り量Hを計測できる。反り量Hが求まれば、上述の式を用いて曲率半径Rを求めることができる。また、X線回折法を用いて、曲率半径Rを求めても良い。
基板201について詳述すると、基板201は、直径が50mm以上の自立n−GaN基板もしくは、自立n−AlxGa1-xN基板(0<x≦0.05)である。基板201の製造方法は、例えば、HVPE法やMOVPE法などの気相成長法や、液相成長法(LPE法)や、昇華法等を用いて、窒化物系化合物半導体とは異なる種基板(例えば、サファイア基板)上にエピタキシャルn−GaN層を形成し、その後、研削研磨、エキシマレーザ照射及びウェットエッチング等により上記種基板を除去して作製するというものであるが、直径が50mm以上の自立基板を形成できる製造方法であれば、特に限定されない。このようにして得られた自立基板201には、シリコン(Si)、酸素(O)、ゲルマニウム(Ge)及びセレン(Se)等のドナー性不純物が少なくとも1種類以上含まれており、基板201に含まれているドナー性不純物のうちで導電性に寄与するドナー性不純物の濃度が1×1017cm-3以上3×1019cm-3以下であり低抵抗なn型導電性を示している。
また、基板201は、表面の平坦度が高く厚みがほぼ均一である自立基板であれば、エピタキシャル成長直後の状態の自立基板であってもよく、エピタキシャル成長後に、研磨及びウェットエッチング等の加工が施された自立基板であってもよい。基板201の表面の平坦度については、表面の面粗さ(Ra)が5nm以下であることが好ましい。基板201の厚みについては、基板201の平均厚みに対して−10μm以上+10μm以下であることが好ましく、基板201の平均厚みは、厚くなりすぎると作製にコストがかかる一方薄すぎるとハンドリングが困難となるため、350μm〜450μmであることが好ましい。また、厚みが略均一であれば、基板201の膜厚の違いによる活性層のバンドギャップエネルギーの変化を抑制できるため好ましい。
次に、図2を用いて、窒化物系半導体レーザ素子200を説明する。図2は、本実施形態の窒化物系半導体レーザ素子200の断面構造を示している。ここでは、窒化物系半導体レーザ素子200の構成をその結晶成長プロセスと同時に説明する。結晶成長にはMOVPE法を用いている。結晶成長の成長圧力は、大気圧未満の減圧、大気圧(1atm)及び大気圧を越える加圧のいずれでもよく、各結晶層を成長させるために最適な圧力に切り換えてもよい。また、結晶成長用装置内に各結晶層の原料を供給するためのキャリアガスは、少なくとも窒素(N2)または水素(H2)などの不活性ガスを含むガスである。では以下に、結晶成長プロセスを示す。
まず、有機溶剤及び酸を用いて上述の基板(n−GaN基板)201の表面を清浄化した後、n−GaN基板201をサセプター上に設置し、キャリアガスとしてN2を用いて充分に置換する。N2置換が終了すれば、N2雰囲気中、10℃/10秒の昇温レートで基板201を1000℃まで昇温させた後、キャリアガスをN2からH2に切り替え、同時にアンモニア(NH3)ガスを供給し、例えば5分間、n−GaN基板201の表面のクリーニングを行う。
次に、トリメチルガリウム(TMG)とモノシラン(SiH4)とを結晶成長用装置内に供給し、(V族)/(III族)=6000の条件下で、3μm厚のn−GaN層202をn−GaN基板201上に結晶成長させる。
引き続いて、トリメチルアルミニウム(TMA)を結晶成長用装置内に供給して、1.2μm厚のn−Al0.05Ga0.95Nクラッド層(n型クラッド層)203をn−GaN層202上に結晶成長させる。
続いて、TMAの供給を停止して、0.1μmのn−GaN光ガイド層204をn−Al0.05Ga0.95Nクラッド層203上に結晶成長させる。
その後、n−GaN光ガイド層204成長後、キャリアガスをH2からN2に変えるとともにNH3の供給を停止し、成長温度を800℃まで降温させる。成長温度が800℃で安定したら、まずNH3を供給し、次にTMGとトリメチルインジウム(TMI)とを供給し、(V族)/(III族)=30000の条件下で、Ga0.90In0.10N/Ga0.98In0.02N−量子井戸活性層(以下、単に、「量子井戸活性層」と記す)205をn−GaN光ガイド層204上に結晶成長させる。このとき、量子井戸活性層205の井戸層数は2つであり、Ga0.90In0.10N井戸層の層厚は5nmであり、Ga0.98In0.02N障壁層の層厚は6nmであることが好ましい。また、量子井戸活性層205には、意図的なドーピングをしていない。
引き続いて、量子井戸活性層205上に、25nm厚のノンドープGa0.98In0.02N第1光ガイド層206及び50nm厚のノンドープGaN第2光ガイド層207をこの順に結晶成長させ、成長後、TMGの供給を一旦停止する。
その後、N2とNH3とを供給した状態で結晶成長用装置内の温度をすばやく1000℃まで昇温させて成長温度が1000℃に到達後、キャリアガスをN2からN2及びH2の混合ガスに変更して、N2とH2とNH3とを結晶成長用装置内に供給した状態にする。そして直ちに、TMGとTMAとを結晶成長用装置内に供給して、(V族)/(III族)=8000の条件下で、10nm厚のノンドープAl0.01Ga0.99N第3光ガイド層208をノンドープGaN第2光ガイド層207上に結晶成長させる。
さらに、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)をMg原料として、10nmのp−Al0.20Ga0.80N第1クラッド層(p型クラッド層)209を結晶成長させ、その後すばやくキャリアガスをN2及びH2の混合ガスからH2のみに切り替え、0.5μm厚のp−Al0.05Ga0.95N第2クラッド層(p型クラッド層)210及び50nm厚のp−GaNコンタクト層211を順次積層する。なお、p−Al0.20Ga0.80N第1クラッド層209は、量子井戸活性層205からの電子のオーバーフローを抑制することを目的に形成されている。また、p−GaNコンタクト層211でのMg濃度は、1.5×1020cm-3以上2.5×1020cm-3以下であることが好ましい。このようにして、基板201に複数の窒化物系化合物半導体層からなる半導体層を積層することにより、ウェハー220を製造できる。
ウェハー220の製造後は、p−Al0.20Ga0.80N第1クラッド層209、p−Al0.05Ga0.95N第2クラッド層210及びp−GaNコンタクト層211をストライプ状にそれぞれ加工する。このとき、ストライプ幅は、1.6μm以上2.0μm以下程度であることが好ましい。その後、絶縁膜であるSiO2膜214をストライプの側端及びノンドープAl0.01Ga0.99N第3光ガイド層208の上面に被覆させて、電流注入領域を形成する。
その後、p−GaNコンタクト層211の上面とストライプの側端に被覆されたSiO2絶縁膜214の表面とには、p電極212を設ける。なお、p−GaNコンタクト層211のMg濃度が上記範囲内であるため、p−GaNコンタクト層211とp電極212とのコンタクト抵抗の低減を図ることができる。
また、n−GaN基板201を研磨して厚みを80μm程度とし、研磨後、n−GaN基板201の裏面にn電極213を設ける。これにより、窒化物系半導体レーザ素子200を製造することができ、その共振器長は600μmである。
図2に示す窒化物系半導体レーザ素子200では、n電極213とp電極212との間に電圧を印加すると、正孔がp電極212から量子井戸活性層205に向かって注入されて電子がn電極213から量子井戸活性層205に向かって注入されることにより量子井戸活性層205で利得が生じ、その結果、407nmの波長でレーザ発振を起こす。
なお、各窒化物系化合物半導体層の層厚は、一例であり、上記の数値に限定されない。
また、結晶成長方法について、GaN第2光ガイド層207を成長させた後、TMGの供給を一旦停止させ、N2とNH3とを供給した状態で結晶成長用装置内の温度をすばやく昇温させ、途中でキャリアガスをN2とH2との混合ガスに変更させてからAl0.01Ga0.99N第3光ガイド層208を結晶成長させているが、この昇温は、以下に示すように行ってもよい。具体的には、TMGを供給しGaN第2光ガイド層207の結晶成長を続けながら、結晶成長用装置内の温度を昇温させてもよい。また、TMGとTMAとを供給してAl0.01Ga0.99N第3光ガイド層208を結晶成長させながら結晶成長用装置内の温度を昇温させてもよい。Al0.01Ga0.99N第3光ガイド層208中に非発光再結合中心の原因となるような欠陥が生成されなければ、どのような昇温方法を用いても構わない。
上記の製造方法を用いて複数個の窒化物系半導体レーザ素子200を作製したところ、レーザ素子特性に関して、以下に示す結果が得られた。
窒化物系半導体レーザ素子200を作製するために用いた基板201は、直径D=50.8mmの低転位自立n−GaN基板(貫通転位密度が3×106cm-3以下)でありその反り量Hが−20μmから+25μm(曲率半径Rが−16mから+12m)であった。そのため、基板201としては、表面側に実質的に凸状に反った基板、ほぼ平坦な基板及び表面側に実質的に凹状に反った基板を用いた。これらの基板201を用いて、上述の製造方法に従ってウェハー220を作製すると、ウェハー220の反り量Hが−42μmから+5μm(曲率半径Rが−8mから+64m)であり、ほとんどのウェハー220が表面側に実質的に凹状に反っていた。
ここで、基板形状とウェハー形状との関係性を示すと、ウェハー220の反り量Hが負に大きいもの(ウェハー220の表面側に実質的に凹状に反っていてHの絶対値が大きいもの)は、基板201の段階で既に表面側に実質的に凹状に反っており、ウェハー220の反り量Hが負に小さいもの(ウェハー220の表面側に実質的に凹状に反っていてHの絶対値が小さいもの)や反り量Hが正のもの(ウェハー220の表面側に実質的に凸状に反っているもの)は、基板201の段階では表面側に実質的に凸状に反っていた。このウェハー220の反り量の変化(ウェハー形状の変化)は、一般に、GaN層(基板も含む)とAlGaN層との格子定数差に起因して発生するため、ウェハー220の結晶成長中に、結晶層の膜厚及び結晶層の組成に応じて、常に発生している現象である。
これらのウェハー220を用いて窒化物系半導体レーザ素子200を作製したところ、反り量Hが−30μm以下のウェハー220ではフォトリソグラフィー工程で窒化物系半導体レーザ素子200のリッジストライプ幅を1.8±0.2μmに収めることができず、工程エラーとなった。そのため、フォトリソグラフィー工程が可能なウェハー220のみを用いて、引き続き、窒化物系半導体レーザ素子200を作製した。
ウェハー220の外周部2mmを除いた中心部の素子有効領域(直径が46.8mm)を用いて窒化物系半導体レーザ素子200を作製し、その発振波長のばらつきを調べた。その結果、窒化物系半導体レーザ素子200の発振波長のばらつきは、ウェハー220の反り量Hが負に大きいものほど大きく、ウェハー220の反り量Hが±0μmから−13μmである窒化物系半導体レーザ素子200では407nm±3nmであり、実用上問題のないばらつきとなった。このウェハー220の反り量Hを実現する曲率半径Rは、基板201では+15m以上+30m以下であり、ウェハー220では−25m以下である。すなわち、本願発明者らは、各結晶層の面内において欠陥分布や濃度分布が均一であるとともに発振波長のばらつきを実用上問題がない程度にまで抑えることができる窒化物系半導体レーザ素子200を作製するためには、基板201の形状の選別が非常に重要であることを解明した。
GaN基板201上にn−AlxGa1-xN層を結晶成長させる場合に、n−AlxGa1-xN層の層厚に対するウェハー220の反り量Hの変化量を図3(a)に示し、n−AlxGa1-xN層の層厚に対するウェハー220の曲率半径Rの変化量を図3(b)に示す。GaN基板201上に窒化物系半導体よりなる結晶成長層を形成する前の状態では、GaN基板201の反り量Hが±0(曲率半径Rが±∞)であるとした場合の結果である。例えば、窒化物系半導体レーザ素子200を光ディスク用光源として使用する場合、レーザ光のビーム形状の整形が非常に重要である。レーザ光のビーム形状を整形するためには、Al組成xに応じてn−AlxGa1-xNクラッド層厚を制御する必要があり、上記の窒化物系半導体レーザ素子200では、n−Al0.05Ga0.95Nクラッド層203の層厚は、Al組成xが5%の場合には少なくとも1.2μm必要であり、Al組成xが3%の場合には少なくとも1.6μm必要であり、Al組成xが7%の場合には少なくとも1.0μm必要である。図3(a)及び図3(b)に示すように、n−AlxGa1-xNクラッド層におけるAl組成やn−AlxGa1-xNクラッド層の層厚に応じて、成長中のウェハー220の反り量及び曲率半径は異なるが、活性層を結晶成長させる前のウェハー220の形状をできるだけ平坦に、言い換えれば、当該ウェハー220の曲率半径をできるだけ大きくすることにより、活性層成長時の温度均一性を容易に高くすることが可能となり、再現性及び均一性高く窒化物系半導体レーザ素子200の波長制御を行うことができる。このためには、活性層成長時のウェハー220の反り量HをH≦±10μmとすることが望ましく、これを実現するためには、曲率半径Rが+15m以上+30m以下の基板201を用いることが好ましく、さらに、Al組成の高いn型クラッド層を形成する場合ほど、用いる基板201の曲率半径を大きくしておくことが望ましい。
窒化物系半導体レーザ素子200の再現性及び均一性を更に高めるためには、基板201の周縁を加工することも非常に重要である。基板201の周縁の加工を具体的に説明する前に、加工が施されていない基板を用いて窒化物系半導体レーザ素子を作製した場合の問題点を示す。
基板の周縁を加工しなければ、基板を結晶成長させる際の結晶成長速度は、基板の中央に比べて基板の周縁の方が1.5倍から3倍速い。その結果、基板の周縁には、この異常成長に起因した突起(盛り上がり)が形成される。すなわち、基板の膜厚は、不均一となる。この基板上にAlGaN層等を積層させると、積層されたAlGaN層においても、層の中央よりも層の周縁の方が厚くなる。その結果、基板の周縁には、AlGaN層が積層されたことによる歪みが誘起され、基板の反り量が大きくなってしまう。このような現象に起因して発生した突起や反りは、フォトリソグラフィー工程における工程不良や、成長層のクラックや、ウェハーハンドリング時割れ及び欠けの原因となり、望ましくないものである。そのため、従来より、基板の周縁に対して、図4(a)に示すC面取り加工や図4(b)に示すR面取り加工を施し、基板の周縁での異常な結晶成長を抑制していた。
本願発明者らは、基板の周縁の形状についても鋭意検討し、以下に示す形状が最も好ましいという結論を得た。本実施形態で提案する基板の周縁の形状を図4(c)に示す。
図4(c)に示すように、基板201の周縁は、基板201の内側から外側へ向かうにつれて厚みが薄くなるテーパー状に形成されている。そのテーパー状の部分は、基板201の表面側と裏面側とで非対称に形成されていることが望ましい。具体的には、加工を施す加工領域は、基板201の表面の外周から0.2mm以上あれば十分であり、窒化物系半導体レーザ素子200の作製歩留まりを考慮して2.0mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5mm以下である。結晶成長時のウェハー温度均一性や、基板201の裏面への原料の廻り込みによる異常成長を考慮すると、テーパー加工を基板201の表面にのみ行うことが望ましいが、ハンドリング時割れ及び欠けの発生を抑制するためにはテーパー加工を基板201の裏面に対しても行うことが望ましく、その加工領域は、基板201の外周から0.3mm以下であることが望ましい。
また、図4(c)に示すように、テーパー状の部分は、表面の中央部分及び裏面の中央部分に対して、15度以上40度以下に傾いていることが望ましい。この傾斜角度が40°を越えていれば、基板201が異常成長してしまうことを抑制できず、基板201の周縁に突起が形成されてしまう。一方、この傾斜角度が15°未満であれば、テーパー加工に用いるための砥石の加工が困難となり、コスト高になってしまう。
続いて、GaN基板を窒化物系半導体用の基板201とするための加工について説明する。
まず、窒化物系半導体レーザ素子作製用に準備した基板の反り量H(曲率半径R)を測定する。ここで、曲率半径Rが+15m以上+30m以下のものを選別する。この選別により選別された基板に対しては、表面清浄化処理を施して、そのまま窒化物系半導体レーザ素子作製用基板201として用いる。上記選別により選別されなかった基板に対しては、廃棄処理しても構わないが、GaN基板の作製は非常に困難であるとともに非常に高価であるため、適当な加工を施して利用することがより望ましい。基板の形状に応じて以下の3種類の加工法がある。
1つ目の加工法は、基板の表面側に実質的に凸状に反っており曲率半径が15mより小さい基板(H>0、0<R<15m)に対する加工である。このような基板に対しては、基板の裏面に物理的なダメージを与えて欠陥領域を形成してやればよい。例えば、基板の裏面に研削及び研磨処理を施したり、ミリング処理を行うこと等により、曲率半径Rが+15m以上+30m以下の基板に加工することができる。
2つ目の加工法は、基板の表面側に実質的に凸状に反っており曲率半径が30mより大きい基板(H>0、15m<R)に対する加工である。このような基板は、基板の裏面に多数の欠陥が形成されていることが多い。そのため、基板の裏面に対してウェットエッチングを行って数μmのエッチング処理を施し(エッチング厚は、理想的な基板の形状と加工を施す基板の形状との差に依存する)、その後、熱処理を行うことにより、曲率半径Rが+15m以上+30m以下の基板に加工することができる。ウェットエッチング処理を行う際には、基板の表面の汚染を抑制するために、基板の表面をウェットエッチング処理で用いるエッチャントに不溶な保護膜で覆っておくことが望ましい。また、熱処理は、電気炉を用いて基板全体を加熱しても、ランプ加熱炉を用いて基板の裏面を選択的に加熱しても良い。
3つ目の加工法は、基板の表面側が実質的に凹状に反っている基板に対する加工である。このような基板も、2つめの加工法で加工された基板と同様に裏面に多数の欠陥が形成されているために実質的に凹状に反っている場合が多い。そのため、基板の裏面に十数μmエッチング処理を施し、その後、熱処理を実施することで使用可能な曲率半径を有する基板に加工することが可能であることが多い。しかしながら、これらの加工では、所望の形状の基板とならない場合もある。その場合には、上記処理を施した後、まず、基板の表面をSiO2絶縁膜(100nm〜300nm)で被覆し、次に、基板を加熱しながら裏面にアルミナ(AlOx)を500nm程度形成し、続いて、表面側のSiO2絶縁膜をフッ酸系のウェットエッチングで除去して基板の表面を10nm程度ドライエッチングする方法や、基板の裏面に深さ500nm程度の格子状の溝掘り加工を行う方法や、更には、この溝掘り加工を施した裏面をAlNで被覆する方法などにより、使用可能な基板とすることができる。
基板201の周縁部分に対して図4(c)に示す加工が必要な場合には、これらの基板形状の整形加工に続いて行う。また、このような加工を施した場合には、基板の表面及び裏面がレジストやワックスなどの有機物で汚染されていることがあるため、通常の表面清浄化処理を行う前に、有機物除去用の処理(ウェットプロセスでもドライプロセスでも、併用しても可)を行うことが望ましい。
本実施の形態で示したように、作製する窒化物系半導体レーザ素子200に適合したn−GaN基板201を準備する工程を行い、そのn−GaN基板201を用いて窒化物系半導体レーザ素子200を作製することにより再現性及び均一性が良く、高い信頼性を有する窒化物系半導体レーザ素子200を実現することが可能となった。なお、n−GaN基板201として貫通転位密度が3×106cm-2以下である基板を用いたが、望ましくは、貫通転位密度が1×106cm-2以下である基板を用いることであり、貫通転位密度が1×106cm-2以下である基板を用いれば、特に、120mW以上の高出力動作時においても、飛躍的に高い歩留まりで、高い信頼性を有する窒化物系半導体レーザ素子200を実現することが可能である。
本実施の形態では、GaN基板201上の窒化物系半導体レーザ素子200について説明したが、本実施形態の結晶成長方法では、上記条件の原理を生かす結晶成長であればGaN基板に限るものではなく、AlGaN基板でも良い。
また、本実施の形態では、導電性のn−GaN基板201を用いているため、n電極を基板の裏面に形成したが、表面側の一部をn−GaN層までエッチングした後にn電極を作製し、表面側にn電極、p電極の両方を形成しても良い。
また、本実施の形態では、n型クラッド層とp型クラッド層との両方にバルク結晶のAlGaNを用いたが、n型クラッド層とp型クラッド層との両方にAlGaNとGaNから構成される超格子構造を用いてもよく、n型クラッド層及びp型クラッド層のどちらか一方のクラッド層にバルク結晶のAlGaNから構成される超格子構造を用い、他方のクラッド層にAlGaNとGaNとから構成される超格子構造を用いてもよい。また、n型のクラッド層及びp型のクラッド層には、In、ホウ素(B)、砒素(As)、リン(P)及びアンチモン(Sb)が含有されていてもよく、それ以外の元素であっても、光とキャリアの閉じ込めが効果的に実現できる構成であれば何でも良い。
また、本実施の形態では、活性層として井戸層数2のGa0.90In0.10N/Ga0.98In0.02N−量子井戸活性層を用いたが、その井戸層数は3以上でも良く、また、GaInN井戸層とGaN障壁層からなる組み合わせであっても、GaInN井戸層とAlGaInN障壁層からなる組み合わせであってもよく、低い消費電力で高い発光効率が実現できる構成であれば何でも良い。
本実施の形態では、n−GaN層202上に直接n−Al0.05Ga0.95Nクラッド層203を形成したが、n−GaN層202とn−Al0.05Ga0.95Nクラッド層203の間にAlGaInN系混晶からなる歪み緩和層を挿入しても良い。この場合、ウェハーの反り量が変化するため、活性層成長時のウェハーの反り量を波長分布が均一となり、ウェハー作製終了後のプロセス(特にフォトリソグラフィー)工程が可能となるよう、基板の反り量を調整すればよい。
また、本実施の形態では、n型ドナー不純物としてSiを用い、p型アクセプター不純物としてMgを用いたが、これに限るものではなく、n型ドナー不純物としてゲルマニウム(Ge)やセレン(Se)を用い、p型アクセプター不純物として亜鉛(Zn)やベリリウム(Be)やカドミウム(Cd)を用いてももちろんよい。
また、本実施の形態では、窒化物系半導体レーザ素子200について説明したが、これに限るものではなく、発光ダイオードや半導体レーザや紫外線検知器や太陽電池や可視光域のフォトディテクターなどであってもよい。発光ダイオードは、紫色〜青色〜緑色波長領域の発光ダイオードや、蛍光体と組み合わされた白色発光ダイオードであってもよく、更には、近紫外領域〜可視光全域にわたる発光ダイオードであってもよい。すなわち、本実施形態の基板201や本実施形態のウェハー220は、これらの窒化物系化合物半導体素子に用いられている。
さらに、本実施形態のレーザ素子200は、窒化物系化合物半導体のみからなるレーザ素子に限定されるものではなく、V族の窒素の一部を砒素やリンやアンチモン等に置き換えられた混晶からなるIII−V族化合物半導体からなるレーザ素子であってもよい。
さらに、本実施形態の効果は、BAlGaInNや、As、P、Sbを含有したAlGaInNAsPSb混晶化合物半導体全般に成り立つ効果である。
(実施の形態2)
次に、本発明による窒化物系半導体レーザ素子の第2の実施形態を説明する。図5は本発明の一実施形態に係る窒化物系半導体レーザ素子500の断面構造を示している。窒化物系半導体レーザ素子500は、上記実施の形態1における窒化物系半導体レーザ素子200と略同一の構成であるが、上記実施の形態1でのp−Al0.05Ga0.95N第2クラッド層210をp−Al0.10Ga0.90N(2nm厚)/p−GaN(2nm厚)−SLs第2クラッド層(120ペア)(p型クラッド層)510とした点を異にする。窒化物系半導体レーザ素子500では、電流注入領域のストライプ幅は1.6〜2.0μmであり、n電極213とp電極212の間に電圧を印加すると、量子井戸活性層205で利得を生じ、409nmの青紫色の波長域でレーザ発振を起こす。
窒化物系半導体レーザ素子500では、GaNとInNとには(0001)面内方向で約11.3%の格子定数差が存在し、量子井戸活性層205には大きな圧縮性の応力が印加されている。また、これとは別に、n−Al0.05Ga0.95Nクラッド層203を形成したことによって表面側を凹状に反らせようとする応力が発生し(ウェハーの変形)、このウェハーの変形により圧縮性の応力が更に追加される。追加された圧縮性の応力によって量子井戸活性層に圧縮歪みが印加され、その圧縮歪みの印加により価電子帯のバンド構造が変化し、その結果、高性能な窒化物系半導体レーザ素子を実現することが可能である。しかしながら、量子井戸活性層に印加される圧縮歪みが大きくなりすぎると、量子井戸活性層に多数の欠陥が導入されることとなり、逆に発光効率を劣化させる。
同一のレーザ構造であれば、上記の格子定数差に因る圧縮性の応力の違いにより量子井戸活性層205に印加される圧縮歪みは同じであり、異なる反り量を有する基板201を用いて窒化物系半導体レーザ素子を作製することにより、量子井戸活性層205に加わる応力を変化させることができる。そこで、異なる圧縮性の応力を有する窒化物系半導体レーザ素子に対して、雰囲気温度60℃、45mW連続発振条件での信頼性評価を実施した。曲率半径Rが+30m(反り量H=+10.5μm、ウェハー作製後のウェハーの曲率半径R=−29m、反り量H=−11.0μm)以下である基板201を用いて作製した窒化物系半導体レーザ素子においては、実時間で5000時間以上の素子寿命が確認され、劣化率(時間あたりの動作電流増加量で規定)は1mA/時間以下であった。逆に、曲率半径Rが+30mよりも大きい基板を用いて作製した窒化物系半導体レーザ素子では、曲率半径Rが+30m以下である基板を用いて作製した窒化物系半導体レーザ素子に対して、通電初期のしきい値電流や動作電流/動作電圧に違いは無いものの、200時間から500時間経過後、急速に動作電流が増加し、素子破壊を引き起こした。素子の劣化解析からは端面破壊(COD破壊)は生じておらず、通電しても活性層が均一に発光しない活性層劣化による素子破壊であることが確認された。曲率半径Rが+30mの基板を用いて作製した窒化物系半導体レーザ素子の活性層に印加されている圧縮性の応力は3.0GPaであり、基板の曲率半径が大きく(反り量は小さく)なることで活性層に加えられる圧縮性の応力は大きくなり、3.0GPaよりも大きくなっていると言える。この結果から活性層に印加される圧縮性の応力は3.0GPa以下にすることが望ましい。
一方、圧縮性の応力をあまり小さくすることは、しきい値電流の増加をまねき、窒化物系半導体レーザ素子作製用の基板加工も困難になるために好ましくなく、圧縮性の応力は、1.5GPa以上となるようにすることが望ましく、より望ましくは2.0GPa以上である。
本実施の形態では、p−Al0.10Ga0.90N(2nm厚)/p−GaN(2nm厚)−SLs第2クラッド層510を用いたが、実施の形態1と同様にp−Al0.05Ga0.95Nクラッド層210を用いてももちろん良く、量子井戸活性層205に加えられる圧縮性の応力を制御できる構成ならどんな構造でも良い。
また、本実施の形態では、青紫色の波長域での窒化物系半導体レーザ素子に関して説明したが、本発明は、紫外〜可視光における発光素子全てに適用でき、量子活性層に加えられる圧縮性の応力をクラッド層の混晶組成、膜厚及び基板の反り量により適宜制御すれば良い。
(実施の形態3)
次に、本発明による窒化物系半導体レーザ素子の第3の実施形態を説明する。本実施の形態では、上記実施の形態1で作製した窒化物系半導体レーザ素子200と同等の窒化物系半導体レーザ素子を作製する。ただし、上記実施の形態1では、直径50.8mmの基板201が1スライス設置できるMOVPE装置(1枚炉)を使用して窒化物系半導体レーザ素子200を作製したが、本実施の形態では、量産性の向上のために4スライス設置可能な大型MOVPE装置(多数枚炉)を合わせて使用して窒化物系半導体レーザ素子を作製する。
図6(a)は、1枚炉の基板設置用プラッターの構成及び基板加熱用ヒータの構成を示す模式図である。基板設置用プラッターは、直径80mmのSiC製プラッター601であり、その中央部に直径51.5mmの基板設置用ポケット602(深さ300μm)が形成されている。本実施の形態では、SiC製プラッター601を用いているが、プラッターは、石英製やカーボン製やSiCコーティングされたカーボン製やBN製でも良く、基板201に熱を均一性良く効率良く伝えられる材質であればどんな材質からなってもよく、また、窒化物系化合物半導体を結晶成長させるためには腐食性のNH3ガスを使用し、かつ高温(約1000℃)で実施されるため、耐熱性及び耐腐食性のある材質からなることが望ましい。
基板加熱用ヒータは、2ゾーン式ヒータで内周ヒータ603と外周ヒータ604とからなり、それぞれが横側に引き出された電極によって電力が供給される。また、成長温度の制御は、内周ヒータ603の中央部に設置された熱電対によって行われており、内周ヒータ603と外周ヒータ604とをそれぞれ独立に温度制御することが可能である。また、結晶成長時の膜厚の均一性を向上させるために、SiC製プラッター601は、3rpmから30rpmで上から見て時計回りに回転されている。この回転速度は、結晶成長中に変化させてもよく、一定であっても構わない。また、回転方向は、反時計回りであってももちろん構わない。
図6(b)は、多数枚炉の基板設置用プラッターの構成及び基板加熱用ヒータの構成を示す模式図である。基板設置用プラッターは、直径155mmのSiC製プラッター601であり、その中央に対して回転対称に直径51.5mmの基板設置用ポケット602(深さ300μm)が形成されている。本実施の形態では、SiC製プラッター601を用いている。本実施の形態で用いたSiC製プラッター601では、オリエンテーションフラット(OF)の位置を決めることにより回転対称に基板設置用ポケット602が形成されているが、OFの位置は、SiC製プラッター601の中心向きでもあっても、外側向きであっても構わず、また、特にOFの位置を決めなくても良い。
基板設置用ポケット602は、4スライスの基板201が設置可能なように4個形成されているが、その個数は、基板設置用プラッターのサイズと窒化物系半導体レーザ素子の量産性とを勘案して、2個でも3個でも5個でもそれ以上でも構わない。
基板加熱用ヒータは、3ゾーン式ヒータで内周ヒータ603と外周ヒータ604と中間ヒータ605とから成る。それぞれの電極は、ヒータから下部に引き出され、引き出された電極から電力が供給され、基板加熱がなされる。成長温度の制御は、内周ヒータ603の中央部に設置された熱電対によって行われ、内周ヒータ603、外周ヒータ604及び中間ヒータ605はそれぞれ独立に温度制御される。基板加熱用ヒータは、本実施の形態では3ゾーン式ヒータを用いたが、1ゾーン式でも、2ゾーン式でも4ゾーン式でもそれ以上でも良く、均一性良く基板加熱ができる構成であればなんでも良い。
図7(a)には、1枚炉で作製した窒化物系半導体レーザ素子の波長のウェハー内分布を表す。反り量を制御した基板201を用い、内周ヒータ603及び外周ヒータ604を適宜温度制御することにより、均一な温度分布を実現することが可能であり、ウェハーの外周部2mmを除いた中心部の素子有効領域(直径46.8mm)において、窒化物系半導体レーザ素子の発振波長のウェハー面内分布は、ウェハー面内の平均波長407nmに対して±3nm以内であった。これは、バンドギャップエネルギーでは約25meVの分布に相当し、窒化物系半導体レーザ素子として求められる±5nm(バンドギャップエネルギーでは約45meVに相当)を満足する。1枚炉を用いた場合、反り量を制御した基板を用いなくても、それぞれの基板に適した内周ヒータ603と外周ヒータ604との温度バランスを制御して温度分布を制御することにより、窒化物系半導体レーザ素子の発振波長のウェハー面内分布を同等の値にすることも可能であるが、再現性が非常に低く、実用性に乏しい。
図7(b)及び図7(c)には、多数枚炉で作製した窒化物系半導体レーザ素子の波長のウェハー面内分布を表す。図7(b)は反り量を制御した基板201を用いた場合の結果であり、本実施形態に特徴の基板を用いた場合の結果である。図7(c)は反り量を制御していない基板を用いた場合の結果であり、従来の基板を用いた場合の結果である。図7(b)に示すように、反り量を制御した基板201を用いることにより、図7(a)と同等なウェハー面内で均一な波長分布が実現されている。一方、反り量を制御していない基板を用いた場合では、図7(c)に示すように、ウェハー面内の平均波長が411nmであり所望の波長値とは異なり、波長分布も±7nmと大きくなった。
以下に、図7(a)乃至図7(c)に示す結果に対する考察を示す。
GaN基板201上に形成した窒化物系半導体レーザ素子では、GaN基板201とn−AlGaNクラッド層203との格子定数差により、表面側に凹状に反らせようとする応力(ウェハーの変形)が発生し、その結果、ウェハーがお椀状に変形する。このため、基板設置用プラッターにはウェハーの中心部のみが接し、ウェハーの外周部分は若干離れてしまう。これにより、ウェハー面内に温度分布が生じ、特に温度に敏感なGaInN系材料からなる活性層のIn組成分布、つまり、活性層の波長(バンドギャップエネルギー)の分布を引き起こす。
このとき、1枚炉を用いた場合、内周ヒータ603と外周ヒータ604との温度バランスを制御することにより、お椀状に変形したウェハーにその形状にあわせた同心円状の温度分布を実現することもでき、図7(a)に示すように、再現性は低いものの窒化物系半導体レーザ素子の作製が可能である。
一方、多数枚炉を用いた場合、内周ヒータ603と外周ヒータ604と中間ヒータ605との温度バランスを制御することにより基板設置用プラッター全体に対して同心円状の温度分布を実現できても、各ウェハーに対して同心円状の温度分布を実現できない。これは、基板加熱用ヒータのゾーン数を更に増加しても同様である。このため、図7(c)に示すように、活性層の波長分布のばらつきを低減させることは困難であった。
しかしながら、基板201の反り量を制御することにより、より望ましくは、活性層成長時にウェハーがほぼ平坦となるように制御することにより、活性層成長時のウェハーの変形を最小限にすることができ、また、内周ヒータ603と外周ヒータ604と中間ヒータ605との温度バランスを制御して基板設置用プラッター全体の温度を均一とすることにより、活性層成長中のウェハー面内における温度分布のばらつきを最小限にすることができる。その結果、活性層におけるIn組成分布の発生を抑制することができる。これにより、図7(b)に示すように、多数枚炉を用いて窒化物系半導体レーザ素子を作製した場合であっても、再現性、均一性良く窒化物系半導体レーザ素子ウェハーを作製することが可能となり、窒化物系半導体レーザ素子の量産性の改善を図ることができる。
なお、本実施の形態では、p−Al0.05Ga0.95Nクラッド層210を用いたが、上記実施の形態2と同様にp−Al0.10Ga0.90N(2nm厚)/p−GaN(2nm厚)−SLs第2クラッド層510を用いてももちろん効果は同じであり、n−Al0.05Ga0.95Nクラッド層203のかわりにn−Al0.10Ga0.90N/n−GaN−SLsクラッド層を用いても良い。窒化物系半導体レーザ素子の量産性の改善を図るためには、量子井戸活性層成長中のウェハー面内の温度分布のばらつきが最小限となるように反り量を制御した基板を準備すること、基板の反り量にあったn−AlGaNクラッド層を形成すること及び基板加熱用ヒータを均一に制御することが必要である。
また、本実施の形態では、青紫色の波長域での窒化物系半導体レーザ素子に関して説明したが、紫外〜可視光における発光素子全てに適用でき、n型クラッド層の混晶組成、膜厚及び基板の反り量を適宜制御し、活性層成長時の均一な温度分布が実現できれば良い。
(実施の形態4)
実施の形態4では、図を用いながら窒化物系半導体紫外発光ダイオード素子を説明する。図8は、本発明の一実施形態に係る窒化物系半導体紫外発光ダイオード素子800の断面構造を示している。ここでは、窒化物系半導体紫外発光ダイオード素子800の結晶成長プロセスを説明することにより、窒化物系半導体紫外発光ダイオード素子800の構成を示すこととする。なお、結晶成長にはMOVPE法を用いている。以下に結晶成長プロセスを示す。
まず、有機溶剤及び酸を用いてn−Al0.05Ga0.95N基板(基板)801の表面を清浄化した後、n−Al0.05Ga0.95N基板801をサセプター上に設置し、キャリアガスとしてN2をもちいて十分置換する。N2置換が終了すれば、N2雰囲気中、10℃/10秒の昇温レートでn−Al0.05Ga0.95N基板801を1020℃まで昇温させた後、キャリアガスをN2からH2に切り替え、同時にNH3を供給し、例えば、5分間、n−Al0.05Ga0.95N基板801の表面のクリーニングを行う。
次に、TMGとTMAとSiH4とを結晶成長用装置内に供給し、(V族元素)/(III属元素)=5500の条件下で、1.5μm厚のn−Al0.05Ga0.95N層802を成長させ、続いてTMA供給量を増加させて0.2μm厚のn−Al0.20Ga0.80Nクラッド層(n型クラッド層)803を成長させる。
その後、TMG、TMA及びSiH4の供給を停止し、いったん結晶成長を中断した後、キャリアガスをN2に変えNH3の供給を停止し、成長温度を850℃まで降温する。成長温度が850℃で安定後、まずNH3を結晶成長用装置内に供給し、続いてTMGとTMAとTMIとを同装置内に供給し、(V族元素)/(III属元素)=26000の条件下で、Ga0.97In0.03N/Al0.10Ga0.87In0.03N−量子井戸活性層804を成長させる。Ga0.97In0.03N井戸層厚は6nmであり、Al0.10Ga0.87In0.03N障壁層厚は12nmであり、井戸層数は4である。本実施の形態では活性層には意図的なドーピングはしていないが、Siドーピングを実施しても良い。
引き続いて、5nm厚のノンドープAl0.30Ga0.70Nキャップ層805を成長させ、いったんTMGとTMAとの供給を停止する。その後、キャリアガスとしてN2とNH3とを供給した状態ですばやく950℃まで昇温させ、成長温度が950℃に到達後、キャリアガスをN2とH2との混合ガスに変更し、N2とH2とNH3とを供給した状態にする。そして直ちにTMGとTMAとCp2Mgとを結晶成長用装置内に供給して、(V族元素)/(III属元素)=10000の条件下で、45nm厚のp−Al0.20Ga0.80Nクラッド層(p型クラッド層)806及び50nm厚のp−GaNコンタクト層807を順次積層する。
その後、p−GaNコンタクト層807からn−Al0.20Ga0.80Nクラッド層803までを部分的に除去し、n−Al0.05Ga0.95N層802の表面の一部を露出させる。そして、n−Al0.05Ga0.95N層802の露出面にはn電極809を形成し、p−GaNコンタクト層807にはp電極808を形成する。
その後、n−Al0.05Ga0.95N基板801の裏面側から研削研磨処理によって約80nmの膜厚になるまでn−Al0.05Ga0.95N基板801を薄くし、その後、フォトリソグラフィー、ドライエッチング処理及びウェットエッチング処理を用いて周期的な凹凸加工を施す。この周期的な凹凸構造を施すことにより光の取り出し効率が格段に向上する。
以上の方法に従って作製された窒化物系半導体紫外発光ダイオード素子800は400μm角であり、n電極809とp電極808との間に電圧を印加すると、量子井戸活性層804に向かってp電極808から正孔がn電極809から電子が注入されて、365nmの波長で発光する。ここでは、n電極及びp電極の両方を素子の表面側に形成したが、導電性のn−Al0.05Ga0.95N基板801を用い光の取り出し効率を極端に低下させない構成であれば、n−Al0.05Ga0.95N基板801裏面にn電極を形成してももちろん良い。
このような窒化物系半導体紫外発光ダイオード素子800においても、n−Al0.05Ga0.95N基板801の反り量Hを±0μmから+15μmとしてこのダイオード素子800を作製することにより、量子井戸活性層成長時のウェハー形状をできるだけ平坦にすることができ、量子井戸活性層成長時の温度均一性を高められ、窒化物系半導体紫外発光ダイオード素子800の波長制御を再現性、均一性高く行うことができる。
本実施の形態では、紫外域での発光ダイオード素子800に関して説明したが、本発明は、可視光全域における発光ダイオード素子全てに適用できる。また、基板801としてn−GaN基板を用いても、n型クラッド層の混晶組成、膜厚及び基板の反り量を適宜制御し、活性層成長時の均一な温度分布が実現できれば良い。