JP4804651B2 - エポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物、その製造方法、半導体封止材用エポキシ樹脂組成物、封止材および半導体装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物、その製造方法、半導体封止材用エポキシ樹脂組成物、封止材および半導体装置に関し、更に詳しくは赤燐系難燃剤のリン酸成分イオンの溶出、特にPHO3イオンの溶出を抑え、電気信頼性が要求される分野、特に半導体封止材用エポキシ樹脂の難燃化に有用な赤燐系難燃剤を含有する難燃剤組成物、、その製造方法、それを用いた難燃性、耐湿性、電気信頼性に優れた半導体封止材用エポキシ樹脂、半導体封止材および半導体装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
封止材は半導体ICを空気中の湿気やホコリ等から保護し、半導体ICの取り扱いを容易にするものであり、現在はエポキシ樹脂封止材がほとんどを占めている。従来、エポキシ樹脂封止材の難燃剤としては、ハロゲン化エポキシ樹脂またはハロゲン化エポキシ樹脂と三酸化アンチモンを併用したものが使用されていた。ところが最近、地球環境汚染の問題や健康被害が浮上するとともに、難燃剤についてもノンハロゲン化への要求が高まり、塩素、臭素などのハロゲン化合物や三酸化アンチモンは使用されなくなる傾向にある。
【0003】
ノンハロゲン系の難燃剤として、赤燐は有力な難燃剤であるが、赤燐を使用する場合は赤燐と空気中の水分との反応により微量のホスフィンガスが発生する問題や、赤燐表面からのリンのオキソ酸が溶出するという問題を抱えていた。
【0004】
赤燐表面から溶出したリンのオキソ酸は半導体IC回路に接触した場合、アルミニウムの配線を腐食して信頼性低下の原因となり、これらの溶出イオンの低減は赤燐系難燃剤をエポキシ樹脂封止材に適用する場合の大きい問題であった。
【0005】
赤燐からのホスフィンの発生の問題については、過去に多くの検討がなされており、赤燐表面をアルミニウム、チタニウムなどの無機金属の水酸化物で被覆処理したり、フェノール樹脂やメラミン樹脂などの有機化合物で被覆処置する方法、あるいは無機化合物と有機化合物の二重被覆処理を施す方法などを行なうことにより、ホスフィンの発生量を低減する方法等が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記した被覆処理した赤燐においても、赤燐表面からのリンのオキソ酸が溶出してくるため、積層板や半導体封止材等の電気信頼性が要求される分野に対して、適用することが困難であった。例えば、半導体封止用のエポキシ樹脂に赤燐系難燃剤を使用した場合に、封止材の信頼性試験において、赤燐から溶出するリンのオキソ酸により、IC回路が腐食され、信頼性が低下するという問題がある。
【0007】
赤燐からリンのオキソ酸が溶出する一つの原因として、赤燐粒子表面の被覆処理方法が良好な場合でも、エポキシ樹脂封止材を製造する際に、赤燐を他の材料、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂系硬化剤、シリカフィラー等と一緒に混合、混練する際に、赤燐粒子が機械的な摩擦力やせん断力を受けて赤燐の被覆層が剥離し、この剥離した個所から赤燐と水とが直接接触してリンのオキソ酸が溶出するものと考えられる。この場合、封止材の信頼性試験では不合格となる場合が多い。
【0008】
半導体封止用エポキシ樹脂の赤燐系難燃剤としては、例えば、表面をフェノール樹脂で被覆した後、更にエポキシシランカップリング剤及びアミノシランカップリング剤で被覆した赤燐と、ポリリン酸メラミンとを併用する方法(特開平10−182940号公報)、赤燐の表面層がTixOy(x、yは正数で、x:y=1:2〜1:4)からなる赤燐系難燃剤を用いる方法(特開平7−173372号公報)、赤燐の表面を水酸化アルミニウムで被覆した後、更にその表面をフェノール樹脂で被覆したもので、平均粒子径が2〜8μm、最大粒子径が20μm以下である赤燐系難燃剤を用いる方法(特開平10−152599号公報)、赤燐の表面層がSiXOY(X、Yは正数で、X:Y=1:2〜1:4)からなる赤燐系難燃剤を用いる方法(特開平7−157542号公報)等が提案されている。
【0009】
また、被覆処理した赤燐系難燃剤とBiOX(OH)Y(NO3)Z(X=0.9〜1.1、Y=0.6〜0.8、Z=0.2〜0.4)やMg4.3Al2(OH)12.6CO3・3.5H2Oのイオン捕捉剤を併用する方法も提案されている。(特開平8−151427号公報、特開平9−227765号公報)
【0010】
しかしながら、前記の被覆処理した赤燐系難燃剤は、エポキシ樹脂封止材を製造する際に、赤燐粒子が機械的な摩擦力やせん断力を受けて、赤燐の被覆層が剥離し、この剥離した個所から赤燐と水とが直接接触してリンのオキソ酸が溶出する。したがって、この溶出したリンのオキソ酸を捕捉してその作用を低減することが課題となっている。しかし、上記のイオン捕捉剤を併用する方法においても、リンのオキソ酸の捕捉能力が低いため、まだ現実的な課題の解決には至っていない。
【0011】
このため、リンのオキソ酸の含有量を低減させて難燃剤として、80℃で20時間抽出したときに溶出する燐酸イオンと亜燐酸イオンの合計含有量が2000ppm以下で、赤燐系難燃剤中の赤燐量が20〜40重量%の赤燐系難燃剤を半導体封止用エポキシ樹脂の難燃剤に用いる方法(特開2000−281874号公報)も提案されているものの赤燐系難燃剤中のP含有量が低いため、難燃性能が低いと言う問題がある。
【0012】
本発明者らは、かかる課題に鑑み、半導体封止材用に適用できる優れた難燃性能を有する赤燐系難燃剤について鋭意研究を重ねた結果、特定電気伝導度とした赤燐系難燃剤に混合粉末として活性アルミナを含有させた赤燐系難燃剤組成物は、活性アルミナがリンのオキソ酸、特にPHO3イオンを効果的に吸着して、それらの酸を難溶性又は不溶性りん酸塩化合物としてその表面に固定化し、更に該赤燐系難燃剤組成物を特定電気伝導度とすることにより、赤燐系難燃剤が半導体封止材用エポキシ樹脂の難燃剤として好適に使用できることを知見し本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、赤燐系難燃剤の赤燐から溶出するリンのオキソ酸を効果的に抑制し、半導体封止材用エポキシ樹脂に優れた難燃性を付与することが出来るエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物、その製造方法、それを用いた優れた難燃性、耐湿性を有し、電気信頼性に優れた半導体封止材用エポキシ樹脂組成物、更にそのエポキシ樹脂組成物を用いた封止材および半導体装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の発明は、赤燐粒子表面を熱硬化性樹脂及び無機物から選ばれる少なくとも1種で被覆した、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下の難燃性安定化赤燐と、前記難燃性安定化赤燐100重量部に対して1〜20重量部の活性アルミナとを含有する赤燐混合物からなり、前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて80℃で20時間加熱した際に溶出するPHO3イオン濃度が25ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを80℃で20時間放置した後の電気伝導度が150μs/cm以下であることを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を提供するものである。
また、本発明は、赤燐粒子表面を無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆した、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下の難燃性安定化赤燐と、前記難燃性安定化赤燐100重量部に対して1〜20重量部の活性アルミナとを含有する赤燐混合物からなり、前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて80℃で20時間加熱した際に溶出するPHO 3 イオン濃度が25ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを80℃で20時間放置した後の電気伝導度が150μs/cm以下であることを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を提供するものである。
さらに、本発明は、赤燐粒子表面を無機物で被覆した後、更に無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆した、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下の難燃性安定化赤燐と、前記難燃性安定化赤燐100重量部に対して1〜20重量部の活性アルミナとを含有する赤燐混合物からなり、前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて80℃で20時間加熱した際に溶出するPHO 3 イオン濃度が25ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを80℃で20時間放置した後の電気伝導度が150μs/cm以下であることを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を提供するものである。
【0015】
また、前記難燃性安定化赤燐と、活性アルミナとを含有する赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて80℃で20時間加熱した際に溶出するPO4イオン濃度が10ppm以下で、PHO3イオン濃度が25ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを80℃で20時間放置した後の電気伝導度が150μs/cm以下であることが好ましい。
【0016】
また、前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて150℃で20時間加熱した際に溶出するPHO3イオン濃度が500ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを150℃で20時間放置した後の電気伝導度が1500μs/cm以下であることが好ましい。
【0017】
また、前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて150℃で20時間加熱した際に溶出するPO4イオン濃度が200ppm以下で、PHO3イオン濃度が500ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを150℃で20時間放置した後の電気伝導度が1500μs/cm以下であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の第2の発明は、前記エポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物をエポキシ樹脂組成物に対して0.05〜5重量%含有することを特徴とする半導体封止材用エポキシ樹脂組成物を提供するものである。
また、本発明の第3の発明は、樹脂中に前記エポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を赤燐含有量として20〜40重量%含有することを特徴とする半導体封止材用エポキシ樹脂組成物用マスターバッチを提供するものである。
【0019】
また、本発明の第4の発明は、前記半導体封止材用エポキシ樹脂組成物を用いてなることを特徴とする半導体用封止材を提供するものである。
また、本発明の第5の発明は、前記半導体用封止材を用いてなることを特徴とする半導体装置を提供するものである。
【0020】
また、本発明の第6の発明は、下記の(A1)〜(A4)の工程を有することを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物の製造方法を提供するものである。
(A1)赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程
(A2)該洗浄した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、無水亜鉛化合物及び熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、重合反応を行って赤燐粒子表面に無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂を被覆して難燃性安定化赤燐を得る工程
(A3)該難燃性安定化赤燐を、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下となるまで純水で洗浄処理する工程
(A4)該洗浄処理した難燃性安定化赤燐と活性アルミナとを混合してエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を得る工程
【0021】
また、本発明の第7の発明は、下記の(B1)〜(B6)の工程を有することを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤の製造方法を提供するものである。
(B1)赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程
(B2)該洗浄処理した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、水溶性金属塩およびアルカリ剤を添加して赤燐粒子表面を金属の水酸化物又は酸化物からなる無機物で被覆する工程
(B3)該無機物で被覆した赤燐粒子を純水で洗浄処理する工程
(B4)該洗浄処理した無機物で被覆した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、無水亜鉛化合物及び熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、重合反応を行って無機物で被覆した赤燐粒子表面に無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂を被覆して難燃性安定化赤燐を得る工程
(B5)該難燃性安定化赤燐を、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下となるまで純水で洗浄処理する工程
(B6)該洗浄処理した難燃性安定化赤燐と活性アルミナとを混合してエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を得る工程
【0022】
また、本発明の第8の発明は、下記の(C1)〜(C6)の工程を有することを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物の製造方法を提供するものである。
(C1)赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程
(C2)該洗浄処理した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、水溶性金属塩およびアルカリ剤を添加して赤燐粒子表面を金属の水酸化物又は酸化物からなる無機物で被覆する工程
(C3)該無機物で被覆した赤燐粒子を純水で洗浄処理する工程
(C4)該洗浄処理した無機物で被覆した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、重合反応を行って無機物で被覆した赤燐粒子表面に熱硬化性樹脂を被覆して難燃性安定化赤燐を得る工程
(C5)該難燃性安定化赤燐を、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下となるまで純水で洗浄処理する工程
(C6)該洗浄処理した難燃性安定化赤燐と活性アルミナとを混合してエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を得る工程
【0023】
本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は、難燃性安定化赤燐と、活性アルミナとを含有する赤燐混合物からなり、難燃性安定化赤燐を製造する工程において、赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程を行うことにより、赤燐粒子中に含有されているFe、Ni、Cu等の赤燐の酸化触媒となる金属分や、黄燐を除去し、さらに無機物で被覆した赤燐粒子、さらに樹脂被覆赤燐をそれぞれ純水で洗浄処理する工程を行うことにより、赤燐粒子が空気中に放置されることにより赤燐粒子表面に生成しているリン酸イオンや亜リン酸イオン等のリンの酸成分や酸化物を除去し、また製造工程の途中で生成するイオン性不純物が製品中に取り込まれない様に除去し、その後で活性アルミナと混合して赤燐混合物とすることにより、イオン性不純物が除去されて20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下の低い電気伝導度とすることができる。
【0024】
さらに、エポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は、活性アルミナを難燃性安定化赤燐に混合して用いることにより、活性アルミナの吸着作用により、80℃で20時間放置後の電気伝導度の低下および溶出するPHO3、PO4イオン濃度を低下することができ、80℃以下の常温での保存およびエポキシ樹脂への混練温度において十分に難燃性、耐湿性、電気信頼性を得ることができるものである。
【0025】
さらに、エポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は熱安定性を有し、高温の150℃の加熱条件下においても、電気伝導度および溶出するPHO3、PO4イオン濃度を低下することができる効果が得られ、高温の条件下において、難燃性、耐湿性、電気信頼性を得ることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
<エポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物>
本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は、20℃の水に10重量%分散したスラリー(以下、「10%スラリー」と記す)の電気伝導度が60μs/cm以下、好ましくは50μs/cm以下の難燃性安定化赤燐と、活性アルミナとを含有する赤燐混合物からなる混合粉末である。
【0027】
本発明で使用することが出来る難燃性安定化赤燐としては、以下の3つのものを例示することができる。
▲1▼赤燐粒子の表面を熱硬化性樹脂及び無機物から選ばれる少なくとも1種で表面を被覆した安定化赤燐(以下「安定化赤燐▲1▼」と呼ぶ)。
▲2▼赤燐粒子の表面を無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆処理した安定化赤燐(以下「安定化赤燐▲2▼」と呼ぶ)。
▲3▼赤燐粒子の表面を無機物で被覆した後、更にその表面を無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆した安定化赤燐(以下「安定化赤燐▲3▼」と呼ぶ)。
【0028】
前記「安定化赤燐▲1▼〜▲3▼」で用いることができる被覆処理を施す前の原料の赤燐粒子は、特に限定はなく、破砕品であっても球状品であってもよい。特に本発明においては、レーザー法により求められる平均粒子径が1〜50μmで、且つ1μm未満の粒径の占める割合が10重量%以下、好ましくは5重量%以下のものが好ましく用いられる。この理由は、平均粒子径が1μmより小さくなると、その赤燐粒子を被覆処理することが技術的に難しいことから実用的でなく、一方、50μmより大きくなると被覆処理した赤燐の樹脂中の分散性が悪くなり、好ましい難燃効果も得られない傾向があることから好ましくない。
【0029】
また、本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物において、難燃性安定化赤燐の粒子径は赤燐粒子の粒子径の影響を受けて表われるために、被覆処理前の赤燐粒子の段階で予め平均粒子径と最大粒子径を使用するICパッケージの形態に合わせて好適な範囲の平均粒子径と最大粒子径を選択することが好ましい。
【0030】
即ち、この難燃性安定化赤燐の平均粒子径と最大粒子径との関係について、更に詳述すると、難燃性安定化赤燐が使用されるICパッケージの形態により、それぞれ好適な範囲の粒子径が存在する。例えば、CSP(Chip size package、チップサイズパッケージ)やBGA(Ball grid Array、ボールグリッドアレイ)などの液状封止材やトランスファーBGAと呼ばれる薄型パッケージに使用する場合は、基板とICチップとの隙間(Gap)よりも大きい粒子が存在することは好ましくなく、この場合は、レーザー法により求められる平均粒子径が1〜10μm、最大粒子径が20μm以下であることが好ましい。
【0031】
これに対して、DIP(Dual inlin package、デュアル インライン パッケージ)やZIP(Zig−Zag inlin package、ジグザグ インライン パッケージ)と呼ばれる比較的厚型のICパッケージに使用する場合は、レーザー法により求められる平均粒子径が10〜50μm、最大粒子径が150μm以下が好ましい。
【0032】
TSOP(Thin smale outlin package、薄型スモールアウトラインパッケージ)、TQFP(Thin quad flat package、薄型クリッド フラット パッケージ)とよばれる薄型ICパッケージに使用する場合は、この中間の粒度特性のものを使用することが好ましく、レーザー法により求められる平均粒子径が5〜20μm、最大粒子径が45μm以下が好ましい。なお、かかる平均粒子径と最大粒子径は予め被覆処理前の赤燐粒子で調製することが好ましいが、被覆後の難燃性安定化赤燐を調製後、篩い分け等の常法の手段により平均粒子径と最大粒子径の調製を行ってもよい。
【0033】
<安定化赤燐▲1▼>
前記「安定化赤燐▲1▼」は、赤燐粒子の表面を熱硬化性樹脂及び/又は無機物で表面を被覆した安定化赤燐である。
前記「安定化赤燐▲1▼」において、赤燐粒子表面を被覆処理する熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール−ホルマリン系樹脂、尿素−ホルマリン系樹脂、メラミン−ホルマリン系樹脂、フルフリルアルコール−ホルマリン系樹脂等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、この中、フェノール樹脂がエポキシ樹脂との相溶性と分散性の面で特に好ましい。
【0034】
また、赤燐粒子表面を被覆処理する無機物としては、Zn、Al、Mg、Ti、Si、Co、Zr、Snから選ばれる酸化物又は水酸化物の1種以上などが挙げられ、これらの被覆に用いられる無機物は、含水物であっても無水物であってもよい。
【0035】
また、「安定化赤燐▲1▼」において用いられる赤燐系難燃剤は、赤燐を上記した熱硬化性樹脂および無機物で二重に被覆処理された安定化赤燐が好ましく、具体的には、Zn、Al、Mg、Ti、Si、Co、Zr、Snから選ばれる酸化物又は水酸化物の1種以上で赤燐を被覆処理した後、更に、フェノール樹脂で被覆処理して二重被覆処理したものがより好ましい。無機物の被覆量は、赤燐100重量部に対して0.5〜20重量部、好ましくは2〜10重量部であり、熱硬化性樹脂の被覆量は、赤燐100重量部に対して、固形分として0.5〜10重量部、好ましくは1〜5重量部とすることが好ましい。
【0036】
かかる赤燐粒子の表面を熱硬化性樹脂及び/又は無機物で表面を被覆した安定化赤燐は、被覆処理後の赤燐含有率が65〜97重量%、好ましくは80〜95重量%であることが好ましい。この理由は、赤燐含有量が65重量%より小さくなると、被覆成分が多くなるためバインダー効果で赤燐粒子が凝集するため、粒子径が大きくなって、封止樹脂中の分散性が低下し、難燃効果も低下する傾向があり、一方、赤燐含有量が97重量%より大きくなると、被覆成分が少ないため、リン酸成分の多量の溶出やホスフィンガスの発生を伴うことから好ましくない。
【0037】
前記「安定化赤燐▲1▼」において前記二重被覆処理した赤燐は、下記の(C1)〜(C5)の工程を有する方法を用いて製造することができる。
(C1)赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程
(C2)該洗浄処理した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、水溶性金属塩およびアルカリ剤を添加して赤燐粒子表面を金属の水酸化物又は酸化物からなる無機物で被覆する工程
(C3)該無機物で被覆した赤燐粒子を純水で洗浄処理する工程
(C4)該洗浄処理した無機物で被覆した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、重合反応を行って無機物で被覆した赤燐粒子表面に熱硬化性樹脂を被覆して難燃性安定化赤燐を得る工程(C5)該難燃性安定化赤燐を、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下となるまで純水で洗浄処理する工程
【0038】
その一例を示すと、まず、前記の赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で、すなわち酸又は/及びアルカリで洗浄処理した後、赤燐粒子を水に分散させ、赤燐粒子スラリーとする。(C1工程)赤燐粒子のこの洗浄処理は、硝酸等の酸によりスラリーのpHを2以下、好ましくは1.5以下とし、鉄、ニッケル、銅等の赤燐の酸化触媒となる金属分や、化学的に不安定で、発火があるとともにリン酸分イオンの溶出の一つの要因となる黄燐分を除去する。また、この酸による洗浄処理を行う前、赤燐粒子スラリーに水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して、スラリーpHを9以上、好ましくは10以上とし、予め大部分の黄燐分を除去し、次いで、上記した酸処理を施して、鉄、ニッケル、銅等の金属分や、黄燐分の除去操作を行ってもよい。なお、アルカリ処理は、過酸化水素等の酸化剤の存在下におこなって、ホスフィンガスを酸化させながらおこなうことが好ましい。
【0039】
このような酸又は/及びアルカリで洗浄処理した赤燐粒子は、更に純水で赤燐粒子スラリーのpHが2以上、好ましくは2.5以上となるまで洗浄処理することが好ましく、このように洗浄処理した赤燐粒子はリン酸分イオンの溶出が少ないものとすることができる。
【0040】
次に、前記の赤燐粒子を水に分散させた赤燐スラリーに、Zn、Al、Mg、Ti、Si、Co、Zr、Snから選ばれる少なくとも1種以上の水溶性金属塩を添加し、次いで該赤燐の水性懸濁液にアルカリを添加して金属塩を赤燐粒子表面に沈殿させる無機物を被覆した赤燐を得る。(C2工程)次いで、得られた無機物を被覆した赤燐を10%スラリーとした時の電気伝導度が1000μs/cm以下となるまで洗浄処理する。(C3工程)次いで、この洗浄後の無機物を被覆した赤燐を水に分散させたスラリーに、前記熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、その熱硬化性樹脂の単独重合条件で重合反応を行って二重被覆赤燐を得る。(C4工程)次いで、得られる二重被覆赤燐を10%スラリーとした時の電気伝導度が60μs/cm以下となるまで洗浄処理する。(C5工程)これらの工程を順次施すことにより製造することができる。
【0041】
なお、本発明の「安定化赤燐▲1▼」は、前記C2工程終了後、C3工程でろ過洗浄してC2程終了後の赤燐を10%スラリーとしたときの電気伝導度が1000μs/cm以下、好ましくは500μs/cmとして、C4工程を行うことがイオン性不純物による赤燐使用材料の電気信頼性低下を防ぐため特に好ましい。
【0042】
より具体的には、C1工程では、前記の赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上の溶液で洗浄処理した後、赤燐粒子を水に分散させ、赤燐スラリーとする。赤燐粒子の洗浄処理は、赤燐粒子中に含有されている鉄、ニッケル、銅等の赤燐の酸化触媒となる金属分やリン酸分イオンの溶出の一つの要因となる黄燐分を除去するために行う。
【0043】
C2工程は、赤燐粒子5〜30重量部、好ましくは10〜20重量部を水100重量部に分散させ赤燐スラリーを調製し、次いで、赤燐スラリーに、例えば、Zn、Al、Mg、Ti、Si、Co、Zr、Snから選ばれる少なくとも1種以上の水溶性金属塩0.05〜3重量部、好ましくは0.2〜2重量部を添加し、アンモニアガス、アンモニア水、苛性ソーダ、苛性カリ、NaHCO3 、Na2 CO3 、K2 CO3 、KHCO3 、Ca(OH)2 等の無機アルカリ剤、またはエタノールアミン等の有機アルカリ剤から選ばれた少なくとも1種以上のアルカリを添加し、該スラリーのpHを6〜10に調製し、金属塩を赤燐粒子表面に沈殿させる。次いで、放冷したのち、処理後の赤燐を10%スラリーとしたときの電気伝導度が1000μs/cm以下、好ましくは500μs/cm以下となるまで無機物を被覆した赤燐をろ過洗浄する。
【0044】
なお、かかる製造方法において、赤燐粒子に水酸化アルミニウムを被覆する場合は、ポリ塩化アルミニウム又は硫酸アルミニウムをアルカリで中和するだけで行うことができる。
C2工程終了後、得られる無機物で被覆した赤燐は、濾過して、反応液から分離回収した後、次のC3工程の洗浄を施す。
【0045】
C3工程は、前記のC2工程で得られる無機物で被覆した赤燐を洗浄して、該無機物で被覆した赤燐を10%スラリーとした時の電気伝導度が1000μs/cm以下、好ましくは500μs/cm以下となるまで洗浄処理を施す工程である。
【0046】
このC3工程で、洗浄後の無機物を被覆した赤燐の電気伝導度を上記範囲とする理由は、1000μs/cmを越えると、後のC5工程での洗浄において、目的とする二重被覆赤燐の電気伝導度を60μm/cm以下とすることが難しくなるとともに、次のC4工程の重合反応の際に被覆樹脂中に大量にイオン性不純物が取り込まれ、後のC5工程で洗浄処理を施しても樹脂中のイオン性不純物を除くことは難しく、また、C3工程で洗浄をしないでC5工程だけでの洗浄では、無理に電気伝導度を下げるため、過度の洗浄を繰り返すと赤燐粒子表面の被覆が破れ、返ってリンのオキソ酸の溶出量が多くなり、特に電気信頼性が要求される封止材のエポキシ樹脂組成物の難燃剤として用いた場合には、樹脂中に取り込まれたイオン性不純物やリンのオキソ酸の溶出により電気信頼性が低下することとなるため好ましくない。
【0047】
C3工程で赤燐を洗浄する方法としては、特に制限はないがリパルプ等の手段により行うことが特に好ましい。
【0048】
C4工程は、C3工程後の無機物を被覆した赤燐スラリーに、前記熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、その熱硬化性樹脂の単独重合条件で重合反応を行うことで被覆処理する。例えば、被覆樹脂としてフェノール系樹脂を用いる場合には、C2工程で得られた無機物を被覆した赤燐5〜30重量部、好ましくは10〜20重量部を水100重量部に分散させ赤燐スラリーを調製し、次いで、該赤燐スラリーを、アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒又は塩酸、硝酸、硫酸等の酸触媒を添加し、次いで、フェノール樹脂(固形分として)0.25〜3重量部、好ましくは0.5〜2重量部を添加して、60〜90℃で1〜3時間攪拌しながら重合反応を行えばよい。
【0049】
C5工程は、前記で得られる二重被覆赤燐を洗浄して、該二重被覆赤燐を10%スラリーとした時の電気伝導度が60μs/cm以下、好ましくは50μs/cm以下となるまで洗浄処理を施す工程である。
【0050】
このC5工程で、洗浄後の赤燐の電気伝導度を上記範囲とする理由は、この電気伝導度が60μs/cmより大きくなると上記したとおり封止材用のエポキシ樹脂の難燃剤として用いた場合には、電気信頼性が劣る傾向があり好ましくない。
【0051】
かかるC5工程において、二重被覆赤燐を洗浄する方法としては、特に制限はないがリパルプ等の手段により行うことが特に好ましい。
洗浄終了後、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で60〜160℃の温度で1〜24時間、水分が残らないよう十分に乾燥して製品とする。
【0052】
また、前記「安定化赤燐▲1▼」において、前記無機物で被覆処理した赤燐は、上記の(C1)〜(C5)の工程において、(C4)及び(C5)の工程を除いて、(C1)〜(C3)の工程を行うことにより製造することができる。
【0053】
また、前記「安定化赤燐▲1▼」において、前記熱硬化性樹脂で被覆処理した赤燐は、上記の(C1)〜(C5)の工程において、(C2)及び(C3)の工程を除いて、(C1),(C4),(C5)の工程を行うことにより製造することができる。
【0054】
<安定化赤燐▲2▼>
「安定化赤燐▲2▼」は、赤燐粒子の表面を無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆処理した安定化赤燐である。
前記「安定化赤燐▲2▼」において、赤燐粒子表面を被覆処理する熱硬化性樹脂としては、前記「安定化赤燐▲1▼」と同じ熱硬化性樹脂を用いることができる。例えば、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール−ホルマリン系樹脂、尿素−ホルマリン系樹脂、メラミン−ホルマリン系樹脂、フルフリルアルコール−ホルマリン系樹脂等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、この中、フェノール系樹脂がエポキシ樹脂との相溶性と分散性の面で特に好ましい。
【0055】
用いることができる無水亜鉛化合物は、水和金属化合物と区別される。即ち、水和金属化合物は、一般式Mm On ・XH2 O(Mは金属、m、nは金属の原子価によって定まる1以上の整数、Xは含有結晶水を示す。)で表わされる結晶水を含有する化合物または該化合物を含む複塩であるのに対して、本発明で用いる無水亜鉛化合物は、結晶水を持たない亜鉛化合物である。このような結晶水を持たない亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、オルソ珪酸亜鉛が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いられる。本発明において、この中、酸化亜鉛が溶出するリン酸成分との反応性の面で特に好ましい。
【0056】
酸化亜鉛は、一般式ZnOで表され、炭酸亜鉛は、一般式ZnCO3 で表されるものであり、また、オルソ珪酸亜鉛は一般式Zn2 SiO4 で表されるものである。かかる無水亜鉛化合物の物性としては、微細なものが被覆樹脂との均一分散性および溶出するリンのオキソ酸との反応性の面で好ましく、通常レーザー法により求められる平均粒子径が2μm以下、好ましくは0.2〜1μmのものが好ましい。なお、これらの無水亜鉛化合物は、イオン性の不純物含有量が少ないものであることが好ましい。
【0057】
前記「安定化赤燐▲2▼」における無水亜鉛化合物の配合量は、前記被覆成分中の熱硬化性樹脂100重量部に対し50〜1000重量部、好ましくは100〜500重量部とすることが好ましい。この理由は、この含有量が50重量部より小さくなると溶出するリン酸成分の固定化能が不足するだけでなく、被膜樹脂の強度が低下して容易に被膜が破れ、半導体封止材用エポキシ樹脂組成物とした時に、封止材の信頼性試験において、赤燐から溶出するリンのオキソ酸によりIC回路が腐食され、電気信頼性が低下することから好ましくない。一方、1000重量部より大きくなると赤燐系難燃剤組成物全体のP含有量が小さくなり、難燃効果が低下することとなるので好ましくない。本発明において、被覆成分の熱硬化性樹脂に無水亜鉛化合物の他、例えば、Al2 O3 、ZrO2 、TiO2 、SnO2 等の無水金属酸化物を併用して含有させてもよい。
【0058】
前記「安定化赤燐▲2▼」は、下記の(A1)〜(A3)の工程を有する製造方法により製造することができる。
(A1)赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程
(A2)該洗浄した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、無水亜鉛化合物及び熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、重合反応を行って赤燐粒子表面に無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂を被覆して難燃性安定化赤燐を得る工程
(A3)該難燃性安定化赤燐を、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下となるまで純水で洗浄処理する工程
【0059】
上記のA1工程の赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程は、前記のC1工程の洗浄処理する工程と同様である。
【0060】
次いで、前記の赤燐粒子を水に分散させ、赤燐スラリーとした後、赤燐スラリーに前記無水亜鉛化合物と前記熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、その熱硬化性樹脂の単独重合条件で重合反応を行うことにより赤燐粒子表面を被覆する。例えば、被覆樹脂としてフェノール系樹脂を用いる場合には、赤燐粒子5〜30重量部、好ましくは10〜20重量部を水100重量部に分散させ赤燐スラリーを調製し、次いで、該赤燐スラリーを、アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒又は塩酸、硝酸、硫酸等の酸触媒を添加し、次いで、前記の無水亜鉛化合物の粉末を0.25〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部と、フェノール樹脂(固形分として)0.25〜3重量部、好ましくは0.5〜2重量部を添加して、60〜90℃で1〜3時間攪拌しながら重合反応を行えばよい。
【0061】
反応終了後、濾過、水洗、乾燥して、製品とする。上記のA3工程の洗浄処理する工程は、前記のC5工程の洗浄処理する工程と同様である。
【0062】
<安定化赤燐▲3▼>
「安定化赤燐▲3▼」は、赤燐粒子の表面を無機物で被覆した後、更にその表面を無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆した安定化赤燐である。
前記「安定化赤燐▲3▼」において、赤燐粒子の表面を被覆する無機物としては、例えばSi、Al、Mg、Ti、Zn、Sn、Co、Zrから選べれる少なくとも1種以上の金属水酸化物又は酸化物が挙げられ、これらの中で、Al、Al−Co、Al−Ti、Al−Zrの金属水酸化物又は酸化物で被覆処理されたものが特に好ましい。赤燐粒子に被覆処理する無機物の量は、赤燐100重量部に対して0.5〜20重量部、好ましくは2〜10重量部である。この理由は0.5重量部未満ではホスフィン発生量が多く、溶出するリン酸分の量が多くなって被覆処理の効果が低くなる。一方、20重量部を越えるとP含有率の低下による難燃性能の低下や水酸化物を被覆した場合の水酸化物の分解による水分の発生により溶出するリン酸分の量が多くなって好ましくない。
【0063】
無水亜鉛化合物及び無水亜鉛化合物を含有させる熱硬化性樹脂は、前記「安定化赤燐▲2▼」と同じものを用いることができ、また、無水亜鉛化合物の配合量は、前記被覆成分中の熱硬化性樹脂100重量部に対し50〜1000重量部、好ましくは100〜500重量部とすることが好ましい。この理由は、この含有量が50重量部より小さくなると溶出するリン酸成分の固定化能が不足するだけでなく、被膜樹脂の強度が低下して容易に被膜が破れ、半導体封止材用エポキシ樹脂組成物とした時に、封止材の信頼性試験において、赤燐から溶出するリンのオキソ酸によりIC回路が腐食され、電気信頼性が低下することから好ましくない。一方、1000重量部より大きくなると赤燐系難燃剤全体のP含有量が小さくなり、難燃効果が低下することとなるので好ましくない。
【0064】
本発明において、被覆成分の熱硬化性樹脂に無水亜鉛化合物の他、例えば、Al2 O3 、ZrO2 、TiO2、SnO2 等の無水金属酸化物を併用して含有させてもよい。
【0065】
前記「安定化赤燐▲3▼」は、下記の(B1)〜(B5)の工程を有する製造方法により製造することができる。
(B1)赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程
(B2)該洗浄処理した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、水溶性金属塩およびアルカリ剤を添加して赤燐粒子表面を金属の水酸化物又は酸化物からなる無機物で被覆する工程
(B3)該無機物で被覆した赤燐粒子を純水で洗浄処理する工程
(B4)該洗浄処理した無機物で被覆した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、無水亜鉛化合物及び熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、重合反応を行って無機物で被覆した赤燐粒子表面に無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂を被覆して難燃性安定化赤燐を得る工程
(B5)該難燃性安定化赤燐を、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下となるまで純水で洗浄処理する工程
【0066】
前記「安定化赤燐▲3▼」の製造方法の一例を示すと、前記の赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理した後、赤燐粒子を水に分散させ赤燐スラリーとする。赤燐粒子の洗浄処理は、前記と同様に行なう。(B1工程)前記の赤燐粒子を水に分散させ、赤燐スラリーとした後、次いで赤燐スラリーに、Si、A1、Mg、Ti、Zn、Sn、Co、Zrから選ばれる少なくとも1種以上の水溶性金属塩を添加し、次いで該赤燐の水性懸濁液にアルカリを添加して金属塩を赤燐粒子表面に沈殿させて無機物を被覆した赤燐を得る。(B2工程)次いで、得られた無機物を被覆した赤燐を10%スラリーとした時の電気伝導度が1000μs/cm以下となるまで洗浄処理する。(B3工程)次いで、該無機物を被覆赤燐スラリーに前記亜鉛化合物と前記熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、その熱硬化性樹脂の単独重合条件で重合反応を行って無機物で被覆した赤燐粒子表面に無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆した二重被覆赤燐を得る。(B4工程)次いで、得られた二重被覆赤燐を10%スラリーとした時の電気伝導度が60μs/cm以下となるまで洗浄処理する。(B5工程)これらの工程を順次施すことにより製造することができる。
【0067】
なお、本発明の「安定化赤燐▲3▼」は、前記B2工程終了後、B3工程でろ過洗浄してB2工程終了後の赤燐を10%スラリーとしたときの電気伝導度が1000μs/cm以下、好ましくは500μs/cmとして、B3工程を行うことがイオン性不純物の除去のため特に好ましい。
【0068】
より具体的には、B2工程は、赤燐粒子5〜30重量部、好ましくは10〜20重量部を水100重量部に分散させ赤燐スラリーを調製し、次いで、赤燐スラリーに、例えば、Si、A1、Mg、Ti、Zn、Sn、Co、Zrから選ばれる少なくとも1種以上の水溶性金属塩0.05〜3重量部、好ましくは0.2〜2重量部を添加し、アンモニアガス、アンモニア水、苛性ソーダ、苛性カリ、NaHCO3 、Na2 CO3 、K2 CO3 、KHCO3 、Ca(OH)2 等の無機アルカリ剤、またはエタノールアミン等の有機アルカリ剤から選ばれた少なくとも1種以上のアルカリを添加し、該スラリーのpHを6〜10に調製し、金属塩を赤燐粒子表面に沈殿させる。次いで、放冷したのち、処理後の赤燐を10%スラリーとしたときの電気伝導度が1000μs/cm以下、好ましくは500μs/cm以下となるまで無機物を被覆した赤燐をろ過洗浄する。(B3工程)
【0069】
B4工程は、B2工程で得られる無機物を被覆した赤燐スラリーに、前記亜鉛化合物と前記熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、その熱硬化性樹脂の単独重合条件で重合反応を行って前記無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆処理するものである。例えば、被覆樹脂としてフェノール系樹脂を用いる場合には、第一工程で得られた無機物を被覆した赤燐5〜30重量部、好ましくは10〜20重量部を水100重量部に分散させ赤燐スラリーを調製し、次いで、該赤燐スラリーに、アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒又は塩酸、硝酸、硫酸等の酸触媒を添加し、次いで、前記の亜鉛化合物の粉末を0.25〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部と、フェノール樹脂(固形分として)0.25〜3重量部、好ましくは0.5〜2重量部を添加して、60〜90℃で1〜3時間攪拌しながら重合反応を行えばよい。
反応終了後、濾過、水洗、乾燥して、製品とする。
【0070】
上記「安定化赤燐▲1▼〜▲3▼」において、10%スラリーとした時の電気伝導度を60μs/cm以下、好ましくは50μs/cm以下とするには、前記「安定化赤燐▲1▼〜▲3▼」の製造方法において、最終工程の水洗を、該改質赤燐の10%スラリーとした時の電気伝導度が30μs/cm以下、好ましくは20μs/cm以下となるまで充分に水で洗浄処理することにより電気伝導度を上記範囲まで下げることができる。
【0071】
なお、前記「安定化赤燐▲2▼〜▲3▼」において、赤燐粒子スラリーに微細な亜鉛化合物を均一に分散させるため、必要に応じてヘキサメタリン酸アルカリや界面活性剤のような所望の分散剤の添加あるいはコロイドミルやホモジナイザー又は超音波などの強力セン断分散処理等の分散処理を行ってもよい。
【0072】
本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物において、前記した「安定化赤燐▲1▼〜▲3▼」は、10%スラリーとした時の電気伝導度が60μs/cm以下、好ましくは50μs/cm以下であることが重要な要件となる。この電気伝導度を上記範囲とする理由は、この電気伝導度が60μs/cmより大きくなると封止材のエポキシ樹脂の難燃剤として用いた場合の信頼性試験において、電気信頼性が劣る傾向があり好ましくない。
【0073】
また、前記した「安定化赤燐▲1▼〜▲3▼」は、レーザー法により求められる平均粒子径が1〜50μmのものが好ましい。この理由は、上記したとおり平均粒子径が1μm未満では、赤燐粒子を凝集させないで1個1個を被覆処理することが技術的に難しいことから実用的でなく、一方、50μmを越えると樹脂中の分散性が悪くなり、好ましい難燃効果も得られない傾向があることから好ましくない。
【0074】
また、前記「安定化赤燐▲1▼〜▲3▼」は、上記したとおり平均粒子径と最大粒子径を使用するICパッケージの形態に合わせて好適な範囲の平均粒子径と最大粒子径を制御することが好ましい。例えば、CSPやBGAなどの液状封止材やトランスファーBGAと呼ばれる比較的薄型のICパッケージに使用する場合は、レーザー法により求められる平均粒子径が1〜10μmで最大粒子径が20μm以下、DIPやZIPと呼ばれる比較的厚型のICパッケージに使用する場合は、レーザー法により求められる平均粒子径が10〜50μm、最大粒子径が150μm以下が好ましい。TSOP、TQFPと呼ばれる薄型ICパッケージに使用する場合は、レーザー法により求められる平均粒子径が5〜20μm、最大粒子径が45μm以下が好ましい。
【0075】
また、前記「安定化赤燐▲1▼〜▲3▼」は、被覆処理後の赤燐含有率が65〜97重量%、好ましくは80〜95重量%であることが好ましい。この理由は、赤燐含有率が65重量%未満では被覆成分が多くなるためバインダー効果で赤燐粒子が凝集するため、粒子径が大きくなって、封止樹脂中の分散性が低下し、難燃効果も低下する傾向があり、一方、赤燐含有量が97重量%を越えると、被覆成分量が少ないため、リン酸成分の多量の溶出やホスフィンガスの発生を伴うことから好ましくない。
【0076】
本発明の赤燐系難燃剤組成物のもう一方の成分である活性アルミナは、上記難燃性安定化赤燐から溶出するリンのオキソ酸を吸着して、それらの酸を難溶性又は不溶性りん酸塩化合物として固定化する成分である。用いることができる活性アルミナは、通常の酸化アルミニウムと区別される。即ち、活性アルミナは、酸化アルミニウムより比表面積が大きく強い吸着活性を有する酸化アルミニウムであり、結晶形としては、γ−アルミナに属するものである。本発明において、この活性アルミナは、BET比表面積が50m2 /g以上、好ましくは70〜400m2 /gのものが好ましく用いられる。本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物においてこの活性アルミナのBET比表面積を上記範囲とすることにより溶出するリン酸成分に対して優れた捕捉能を発揮する。
【0077】
かかる活性アルミナは、微細なものが被覆樹脂との均一分散性および溶出するリンのオキソ酸との反応性の面で好ましく、通常レーザー法により求められる平均粒子径が15μm以下、好ましくは0.5〜10μmのものが好ましい。なお、これらの活性アルミナは、イオン性の不純物含有量が少ないものであることが好ましい。
【0078】
前記活性アルミナの配合割合は、難燃性安定化赤燐100重量部に対して、通常1〜20重量部、好ましくは3〜10重量部である。この理由は、1重量部より小さくなると溶出するリン酸成分の捕捉効果が不十分となる傾向があり、一方、20重量部より大きくなると活性アルミナに由来するイオン性不純物の溶出量が大きくなって電気特性が低下する傾向があることから好ましくない。
【0079】
本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を得るには、前記の洗浄処理の(A3)工程の後の(A4)工程により、または洗浄処理の(B5)工程の後の(B6)工程により、または洗浄処理の(C5)工程の後の(C6)工程により、該洗浄処理した難燃性安定化赤燐と活性アルミナとを混合して赤燐混合物としてエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を得る。
【0080】
本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は、前記難燃性安定化赤燐に前記活性アルミナを前記割合に配合し、均一に分散した赤燐混合物からなる混合粉末として使用する。例えば、ナウタミキサーやリボコーン等の円すい型混合機等により、前記の難燃性安定化赤燐と前記の活性アルミナを投入し、窒素雰囲気下で混合することにより難燃性安定化赤燐と活性アルミナとが均一に分散した混合粉末とすることが出来るが、これらの手法に限定されるものではない。
【0081】
かくすることにより難燃性安定化赤燐に活性アルミナが均一に分散した混合粉末が得られるが、本発明では、更に、前記の混合粉末8gに水80mlを加えて、80℃で20時間加熱した際に溶出するPHO3イオン濃度が25ppm以下、且つ80℃で20時間放置後の電気伝導度が150μs/cm以下、好ましくは100μs/cm以下のものを用いることが重要な要件となる。
【0082】
溶出するPHO3イオン濃度を25ppm以下とする理由は、上記したとおり溶出するPHO3イオン濃度が25ppmを越えると、例えば、半導体封止用の難燃剤として用いた場合には、半導体素子の表面に形成されたアルミニウム配線の腐食が発生し、半導体封止材の耐湿電気信頼性が損なわれるので好ましくない。また、上記条件において、PO4イオン濃度が10ppm以下、好ましくは5ppm以下とすることが半導体封止材の耐湿電気信頼性の面で特に好ましい。
【0083】
また、電気伝導度が150μs/cmより大きくなると半導体封止用の難燃剤として用いた場合には、前記と同様に半導体素子の表面に形成されたアルミニウム配線の腐食が発生し、半導体封止材の耐湿電気信頼性が損なわれるので好ましくない。なお、この電気伝導度は、例えば、PO4イオン、PHO3イオン、PH2O2イオン、Naイオン、NH4 イオン、Kイオン、Brイオン、Clイオン、SO4 イオン等のイオン性不純物に起因する値である。
【0084】
本発明の上記特性を有するエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は、プリント配線板、積層板、封止材、フラットケーブル等の電子部品の赤燐系難燃剤として好適に使用することができる。特に、本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物において、前記「安定化赤燐▲2▼」と「安定化赤燐▲3▼」を用いて、前記した活性アルミナとの赤燐混合物の混合粉末とすることにより、混合粉末8gに水80mlを加えて、80℃で20時間加熱した際に溶出するPHO3イオン濃度が25ppm以下、PO4イオン濃度が10ppm以下、好ましくは8ppm以下で、更に80℃で20時間放置後の電気伝導度が150μs/cm以下、好ましくは100μs/cm以下とすることができ、このようなエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は、特に高水準の電気信頼性が要求される封止材のエポキシ樹脂の赤燐系難燃剤として好適に使用することができる。
【0085】
また、前記赤燐混合物の混合粉末8gに水80mlを加えて、150℃で20時間加熱した際に溶出するPHO3イオン濃度が500ppm以下、好ましくは400ppm以下で、PO4イオン濃度が200ppm以下、好ましくは180ppm以下で、更に150℃で20時間放置後の電気伝導度が1500μs/cm以下、好ましくは1200μs/cm以下とすることができ、このようなエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は、特に高水準の電気信頼性が要求される封止材のエポキシ樹脂の赤燐系難燃剤として好適に使用することができる。
【0086】
さらに、本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は、所望によりリン酸成分と反応して不溶性又は難溶性のリン酸塩として固定する他の金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩又は金属リン酸塩や無機イオン交換体を併用して用いることが出来る。
【0087】
他の金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩又は金属リン酸塩としては、例えば、Zn、Mg、Ti、Ca、Al、Co、Zr、Snから選ばれる酸化物、水酸化物、炭酸塩又はリン酸塩の1種又は2種以上が挙げられる。具体的には、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、オルト珪酸亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、珪酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化コバルト、水酸化コバルト、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズ、水酸化スズが挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いられる。これらは含水物であっても無水物でもあってもよいが含水物の場合は、エポキシ樹脂と混練成型する際に、成型温度により水分が発生し、この水分が赤燐と反応してホスフィンを発生するなど不具合が生じる傾向があることから無水物の方が好ましい。
【0088】
無機イオン交換体としては、ハイドロカルマイト系無機アニオン交換体、ハイドロタルサイト系無機アニオン交換体、BiOX (OH)Y (NO3 )Z (X=0.9〜1.1、Y=0.6〜0.8、Z=0.2〜0.4)、Mg4.3 Al2 (OH)12.6CO3 ・3.5H2 O、Sb2 O5 ・2H2 O、SbSiVBiWOX(OH)Y(NO3)Z・nH2O(V=0.1〜0.3、w=1.5〜1.9、X=4.1〜4.5、Y=1.2〜1.6、Z=0.2〜0.3、n=1〜2)の無機アニオン交換体等を例示することが出来る。
【0089】
これらの金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩又は金属リン酸塩や無機イオン交換体の配合割合は、難燃性安定化赤燐100重量部に対して、通常1〜20重量部、好ましくは5〜20重量部でとすることが好ましい。この場合、配合物全体の電気伝導度も調製することが好ましく、80℃で20時間放置後の電気伝導度が150μs/cm以下、好ましくは100μs/cm以下とすることが好ましい。
【0090】
以上説明した本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は、赤燐から溶出するリンのオキソ酸等のリン酸成分の溶出がほとんどないことから、半導体封止材、積層板、プリント配線板、フラットケーブル等の電気部品用のエポキシ樹脂の難燃剤として好適に用いることが出来、特に半導体封止材用エポキシ樹脂の難燃剤として好適に用いることが出来る。
【0091】
<半導体封止材用エポキシ樹脂組成物>
次に、本発明の半導体封止材用エポキシ樹脂組成物について説明する。
本発明の半導体封止材用エポキシ樹脂組成物は、前記の赤燐系難燃剤組成物を含有することを特徴とするものである。
【0092】
本発明において、前記の難燃性安定化赤燐において、前記「安定化赤燐▲1▼〜▲3▼」の中、特に「安定化赤燐▲2▼」又は「安定化赤燐▲3▼」を用いて、前記活性アルミナとの混合粉末としたものは、特に高水準の難燃性及び耐湿電気信頼性が要求される半導体封止材のエポキシ樹脂の難燃剤として好適に用いることができる。
【0093】
特に、本発明の半導体封止材用エポキシ樹脂組成物は、前記の赤燐系難燃剤組成物と、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤及び無機充填材とを含有する。
【0094】
前記の赤燐系難燃剤組成物の配合量は、半導体封止材用エポキシ樹脂組成物に対して0.05〜5重量%、好ましくは、0.5〜2重量%である。この理由は、0.05重量%より小さくなると十分な難燃効果が得られなくなり、一方、5重量%より大きくなると赤燐の持つ大きな燃焼エネルギーのため、かえって樹脂の燃焼を促進する傾向があることから好ましくない。
【0095】
半導体用封止材料で用いるエポキシ樹脂としては、1分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般あり、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換又は非置換のビフェノール等のジグリシジルエーテル、フェノール類とジシクロペンタジエンやテルペン類との付加物または重付加物をエポキシ化したもの、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、及び脂環族エポキシ樹脂などが挙げられ、特にこれらに限定されるものではない。これらは一種または二種以上を併用して用いることができる。
【0096】
かかるエポキシ樹脂の配合量は、半導体封止材用エポキシ樹脂組成物に対して5〜25重量%、好ましくは6〜8重量%である。
【0097】
硬化剤としては、当業者において公知のものはすべて用いることができるが、特に、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC2〜C20の直鎖脂肪族ジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、パラキシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジシクロヘキサン、ビス(4−アミノフェニル)フェニルメタン、1,5−ジアミノナフタレン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、ジシアノジアミドなどのアミン類、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂などのノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレンなどのポリオキシスチレン、フェノールアラルキル樹脂、ナフトール系アラルキル樹脂などの、ベンゼン環やナフタリン環その他の芳香族性の環に結合する水素原子が水酸基で置換されたフェノール化合物と、カルボニル化合物との共縮合によって得られるフェノール樹脂や、酸無水物などが例示されるが、フェノール系硬化剤を用いることが、吸湿率が低下することから好ましい。
【0098】
かかる硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂に対して、当量比で0.1〜10、好ましくは0.7〜1.3の範囲である。
【0099】
無機充填材として、溶融シリカ粉末、結晶シリカ粉末、アルミナ(フィラー)、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、マグネシア、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、珪酸カルシウム等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いられる。
かかる無機充填材の配合割合は、エポキシ樹脂組成物中、40〜95重量%とすることが好ましい。
【0100】
硬化促進剤としては、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン化合物、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の有機ホスフィン化合物、ホスホニウム塩、アンモニウム塩等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いられる。
【0101】
また、必要に応じて、他の難燃剤、シランカップリング剤、離型剤、着色剤、低応力剤及び界面活性剤等を含有することが出来る。
【0102】
前記した赤燐系難燃剤組成物と併用することが出来る他の難燃剤としては、水和金属化合物、リン系難燃剤、含窒素系難燃剤等が挙げられる。
【0103】
水和金属化合物としては、吸熱反応による燃焼抑制作用のあるMmOn・xH2 O(Mは金属、m、nは金属の原子価によって定まる1以上の整数、xは含有結晶水を示す。)で表わされる化合物または該化合物を含む複塩であり、具体的には、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニウム、ドーソナイト、スズ酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、塩基性炭酸亜鉛、ホウ砂、モリブデン酸亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、ハイドロカルマイト、カオリン、タルク、セリサイト、パイロフィライト、ベントナイト、カオリナイト、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛等が挙げられる。
【0104】
含窒素系難燃剤としては、メラミン、メラミンシアヌレート、メチロール化メラミン、(イソ)シアヌール酸、メラム、メレム、メロン、サクシノグアミン、硫酸メラミン、硫酸アセトグアナミン、硫酸メラム、硫酸グアニルメラミン、メラミン樹脂、BTレジン、シアヌール酸、イソシアネール酸、イソシアヌール酸誘導体、メラミンイソシアヌレート、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン等のメラミン誘導体、グアニジン系化合物等が挙げられる。
【0105】
リン系難燃剤としては、例えば、リン酸トリエチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリフェニル、リン酸クレジルフェニル、リン酸オクチルジフェニル、ジエチレンリン酸エチルエステル、ジヒドロキシプロピレンリン酸ブチルエステル、エチレンリン酸ジナトリウムエステル、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチル―プロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチルブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン、リン酸グアニル尿素、ポリリン酸メラミン、リン酸グアニジン、エチレンジアミンリン酸塩、ホスファゼン、メチルホスホン酸メラミン塩等が挙げられる。
【0106】
前記した他の難燃剤は1種又は2種以上で用いられ、これらの中、水和金属化合物が好ましく、他の難燃剤の添加量は、エポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物中0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。
【0107】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシランや、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、アルキルシラン、メルカプトシラン、有機チタネート、アルミニウムアルコレート等が挙げられる。
【0108】
離型剤としては、例えば、ステアリン酸、モンタン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸、その脂肪酸のカルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等の塩、その脂肪酸のアミド、リン酸エステル、ポリエチレン、ビスアマイド、カルボキシル基含有ポリオレフィン及び天然カルナバ等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いられる。
【0109】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン等が挙げられる。
低応力化剤としては、例えば、シリコーンゲル、シリコーンゴム、シリコーンオイル等が挙げられる。
界面活性剤としては例えば、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド等が挙げられる。
【0110】
なお、本発明の半導体封止材用エポキシ樹脂組成物を製造する方法は、特に制限されるものではなく、前記したエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を予めエポキシ樹脂や硬化剤、又はフェノール樹脂等に、必要に応じて前記の他の難燃剤、硬化促進剤、離型剤、表面処理剤を混合した後、要すれば加熱しながら混合した後、他の成分と混合するマスターバッチ法や、そのまま配合して混合する方法が挙げられるが、いずれの方法をとるかは、工業的に有利な方法を適宜選択すればよい。
【0111】
マスターバッチを調製する場合には、フェノール樹脂にエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を赤燐含有量として、20〜40重量%、好ましくは25〜35重量%、他の難燃剤を20〜40重量%、好ましくは25〜35重量%として配合し調製することが特に好ましい。このマスターバッチは、他の成分と混合して半導体封止材用エポキシ樹脂組成物を調製する。
【0112】
本発明の封止材用エポキシ樹脂組成物は、難燃性で、耐湿電気信頼性が優れたプラスチック材料として、各種の集積回路やトランジスター、ダイオードでの個別半導体等に封止材、成形材、注型材、接着剤、電気絶縁塗料材料、積層板、プリント配線板、フラットケーブル等として用いることが出来る。
【0113】
本発明の半導体用封止材は前記封止材用エポキシ樹脂組成物からなるが、該封止材用エポキシ樹脂組成物の各成分は均一に混合され、混練されていることが好ましい。混練の方法としては、例えば、ロール、ニーダー、ミキサー等を用いて加熱して行われ、その後冷却、粉砕しタブレット化するなどの方法で封止材は製造される。
【0114】
上記で得られた封止材を用いてトランスファー成形等を行って、半導体素子やリードフレーム等を封止すると、難燃性及び耐湿電気信頼性が優れた各種の半導体ICパッケージが得られる。なお成形する方法としては、上記封止材用エポキシ樹脂組成物からなる封止材を用いること以外は特に限定するものではなく、一般の方法で成形が可能である。
【0115】
また、本発明の封止材用エポキシ樹脂組成物は、優れた難燃性と電気信頼性を有していることから、各種の半導体集積回路(IC)やトランジスター、ダイオードなどの個別半導体に用いられる封止材、成形材、注型材、接着剤、電気絶縁塗料材料、積層板、プリント配線板、フラットケーブル等の難燃化に有用な効果を有し、その封止材を用いて難燃性と電気信頼性に優れた半導体装置を得ることができる。
【0116】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、活性アルミナは表1の諸物性を有するものを用いた。
【0117】
【表1】
【0118】
(注)試料A;日本アエロジル社製、品名 Alminium Oxide−C
試料B;住友化学社製、品名 KC501
試料C;住友化学社製 品名 AF115
【0119】
実施例1〜3及び比較例1〜3
<難燃性安定化赤燐の調製>
・安定化赤燐試料1
塊状の赤燐を粉砕、分級して、平均粒子径が20μmで最大粒子径が45μm、粒径1μm未満の粒子の含有量が2重量%の赤燐を得た。この赤燐210gに水525gを加えて赤燐スラリーとし、過酸化水素水溶液を0.7ml加えた。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調製し、80℃で6時間保持した。次いで、硝酸を加え、pHを1に調製した後、80℃で4時間処理し後、ろ過し、スラリーのpHが2.5となるまで水で洗浄を行った。
【0120】
この洗浄した赤燐100gを1000mlの水に分散させ、攪拌しながらここに水酸化アルミニウム(Al(OH)3 )換算で1gに相当する量の硫酸アルミニウムを添加した。添加終了後、30分間攪拌したのち、水酸化ナトリウムを添加してスラリーのpHを8.0に調製し、その後液温を85℃まで上げて85℃で2時間熟成を行なった。
【0121】
放冷したのち、上記で得られた赤燐の10%スラリーとしたときの電気伝導度が300μs/cm以下になるまでろ過、洗浄を行なった。ろ過ケーキを水に分散させて、攪拌しながらフェノール樹脂(大日本インキ社製、初期縮合物、フェノライトTD2388)を固形物換算で赤燐の5%相当分を添加し、更に塩酸を添加してスラリーのpHを2以下にした。スラリーを加熱して90℃で1時間保持してフェノール樹脂の硬化反応を完結させた。
【0122】
放冷したのち、10%スラリーの電気伝導度が30μs/cm以下になるまで十分にスラリーのろ過、洗浄を行った。ろ過ケーキは減圧乾燥したのち、140℃で1時間後硬化処理を行ない、放冷後150μmのフルイを通過させて安定化赤燐試料1を得た。この安定化赤燐中のP含有量は94.1%であった。
この安定化赤燐試料1の諸物性を表2に示す。
【0123】
・安定化赤燐試料2
安定化赤燐試料1の調製において、フェノール樹脂の硬化反応後の最終スラリーの洗浄を電気伝導度が400μs/cmまででやめて、安定化赤燐試料2を調製した。
この安定化赤燐試料2の諸物性を表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
(注)表中の電気伝導度は10%スラリーとした時の電気伝導度を示す。
【0126】
<赤燐系難燃剤組成物の調製>
前記で調製した難燃性安定化赤燐(試料1、2)をベースに表1に示した活性アルミナ試料(試料A)、炭酸カルシウム(平均粒子径2.1μm)、酸化アルミニウム(平均粒子径1.1μm、昭和電工社製、商品名A−50−K)を表2に示す割合にて添加混合して赤燐系難燃剤組成物を調製した。
【0127】
<溶出イオンの測定>
上記で調製した赤燐系難燃剤組成物試料の各試料8.0gを100mlのポリプロピレン製ビンに採取し、蒸留水80mlを加えて密栓する。送風定温乾燥機にて80℃で20時間加熱、抽出後、乾燥機より取り出し、10分以内に常温まで冷却し、上澄み液をろ過した後、ろ液をイオンクロマトグラフで測定した。
また、テフロン(登録商標)内筒型密閉容器(内容積100ml)を使用して、各試料8.0gと蒸留水80mlを加えて密閉し、150℃で20時間抽出した後、抽出ろ液のイオン濃度を測定した。
【0128】
その結果を表3〜6に示した。
なお、表中のN.Dは、溶出PO4イオン濃度が0.09ppm以下であることを示す。
【0129】
<電気伝導度の測定>
上記の溶出イオンの測定で用いたろ液の電気伝導度を20℃で測定した。なお、電気伝導度の測定は溶出イオンの測定用検液を使用して、電気伝導計により測定した。その結果を表3〜6に示した。
【0130】
<粒子径の測定>
レーザー法で、マイクロトラック(X100型)粒度分布測定装置により、平均粒子径を測定した。また、分析用フルイにて最大粒子径を測定した。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
【表5】
【0134】
【表6】
【0135】
(注)
(1)表中、*1は80℃×20hrs、*2は150℃×20hrsの測定条件を示す。
(2)電気伝導度*1および*2は溶出イオン試験のろ液の電気伝導度を示す。
【0136】
実施例4〜6及び比較例5〜8
【0137】
・安定化赤燐試料3
塊状の赤燐を粉砕、分級して、平均粒子径が20μmで最大粒子径が45μm、粒径1μm未満の粒子の含有量が2重量%の赤燐を得た。この赤燐210gに水525gを加えて赤燐スラリーとし、過酸化水素水溶液を0.7ml加えた。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調製し、80℃で6時間保持した。次いで、硝酸を加え、pHを1に調製した後、80℃で4時間処理し後、ろ過し、スラリーのpHが2.5となるまで水で洗浄を行った。
【0138】
この赤燐20gを純水180gに分散させ、攪拌しながらここにアンモニア水を加え、pH10に調製した。次いで、平均粒子径0.3μmの酸化亜鉛(東邦亜鉛社製;品名:銀嶺)2g及びフェノール樹脂(大日本インキ社製、初期縮合物、フェノライトTD2388;固形分26%)3.8gを添加し、添加終了後、10分間攪拌したのち、塩酸を滴下しpHを6〜6.5に調製した。次いで、塩化アンモニウム0.3gを仕込み、90℃で1時間反応させた。次いで、放冷したのち、10%スラリーの電気伝導度が30μs/cm以下になるまでろ過、洗浄を行なった。ろ過ケーキは減圧乾燥したのち、140℃で2時間硬化処理を行ない、放冷後100メッシュのフルイを通過させて安定化赤燐試料3を得た。この安定化赤燐中のP含有量は87.1%であった。
この安定化赤燐試料3の諸物性を表7に示す。
【0139】
・安定化赤燐試料4
安定化赤燐試料3の調製において、最終スラリーの洗浄を電気伝導度が300μs/cmまででやめて、安定化赤燐試料4を調製した。
この安定化赤燐試料4の諸物性を表7に示す。
【0140】
【表7】
【0141】
(注)表中の電気伝導度は、10%スラリーとした時の電気伝導度を示す。
【0142】
<赤燐系難燃剤組成物の調製>
前記で調製した難燃性安定化赤燐(試料3、4)をベースに表1に示した活性アルミナ試料(試料A)、炭酸カルシウム(平均粒子径2.1μm)、酸化アルミニウム(平均粒子径1.1μm)を表8〜11に示す割合にて添加混合して赤燐系難燃剤組成物を調製し、実施例1〜3と同様に該赤燐系難燃剤組成物試料8.0gを100mlのポリプロピレン製ビンに採取し、蒸留水80mlを加えて密栓し、送風定温乾燥機にて80℃で20時間加熱、抽出後、乾燥機より取り出し、10分以内に常温まで冷却し、上澄み液をろ過した後、ろ液の溶出イオンの量と電気伝導度を測定した。
また、テフロン(登録商標)内筒型密閉容器(内容積100ml)を使用して、各試料8.0gと蒸留水80mlを加えて密閉し、150℃で20時間抽出した後、抽出ろ液のイオン濃度を測定した。
その結果を表8〜11に示した。
【0143】
【表8】
【0144】
【表9】
【0145】
【表10】
【0146】
【表11】
【0147】
(注)
(1)表中、*1は80℃×20hrs、*2は150℃×20hrsの測定条件を示す。
【0148】
実施例7〜10及び比較例9〜10
・安定化赤燐試料5
塊状の赤燐を粉砕、分級して、平均粒子径が20μmで最大粒子径が45μm、粒径1μm未満の粒子の含有量が2重量%の赤燐を得た。この赤燐210gに水525gを加えて赤燐スラリーとし、過酸化水素水溶液を0.7ml加えた。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調製し、80℃で6時間保持した。次いで、硝酸を加え、pHを1に調製した後、80℃で4時間処理し後、ろ過し、スラリーのpHが2.5となるまで水で洗浄を行った。
【0149】
この赤燐粉末100gを水800mLに懸濁させて赤燐のスラリーを調製した。次いでAl2 O3 として8重量%の硫酸アルミニウム水溶液16.3gを添加した後、温度80℃において攪拌しながら10重量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが6.6になるまで添加した。添加終了後、さらに80℃で2時間攪拌を継続して、水酸化アルミニウムの沈積処理を行った。
【0150】
放冷したのち、上記で得られた赤燐の10%スラリーとしたときの電気伝導度が300μs/cm以下になるまでろ過、洗浄を行なった。このときの水酸化アルミニウムの被覆量は1.0重量%であった。
【0151】
この赤燐20gを純水に180gに分散させ、攪拌しながらここにアンモニア水を加え、pH10に調製した。次いで、平均粒子径0.3μmの酸化亜鉛(東邦亜鉛社製;品名:銀嶺)2g及びフェノール樹脂(大日本インキ社製、初期縮合物、フェノライトTD2388;固形分26%)3.8gを添加し、添加終了後、10分間攪拌したのち、塩酸を滴下しpHを6〜6.5に調製した。次いで、塩化アンモニウム0.3gを仕込み、90℃で1時間反応させた。
【0152】
次いで、放冷したのち、10%スラリーの電気伝導度が30μs/cm以下になるまでろ過、洗浄を行なった。ろ過ケーキは減圧乾燥したのち、140℃で2時間硬化処理を行ない、放冷後100メッシュのフルイを通過させて安定化赤燐試料5を得た。この安定化赤燐中のP含有量は87.1%であった。
この安定化赤燐試料5の諸物性を表12に示す。
【0153】
・安定化赤燐試料6
安定化赤燐試料5の調製において、最終のスラリーの洗浄を電気伝導度が300μs/cmまででやめて、安定化赤燐試料6を調製した。
この安定化赤燐試料6の諸物性を表12に示す。
【0154】
【表12】
【0155】
(注)表中の電気伝導度は、10%スラリーとした時の電気伝導度を示す。
【0156】
<赤燐系難燃剤組成物の調製>
前記で調製した難燃性安定化赤燐(試料5、6)をベースに表1に示した活性アルミナ試料(試料B、C)、酸化アルミニウム(平均粒子径1.1μm)を表13〜16に示す割合にて添加混合して赤燐系難燃剤組成物を調製し、実施例1〜3と同様に該赤燐系難燃剤試料8.0gを100mlのポリプロピレン製ビンに採取し、蒸留水80mlを加えて密栓し、送風定温乾燥機にて80℃で20時間加熱、抽出後、乾燥機より取り出し、10分以内に常温まで冷却し、上澄み液をろ過した後、ろ液の溶出イオンの量と電気伝導度を測定した。
【0157】
また、テフロン(登録商標)内筒型密閉容器(内容積100ml)を使用して、各試料8.0gと蒸留水80mlを加えて密閉し、150℃で20時間抽出した後、抽出ろ液のイオン濃度を測定した。
その結果を表13〜16に示した。
【0158】
【表13】
【0159】
【表14】
【0160】
【表15】
【0161】
【表16】
【0162】
(注)
(1)表中、*1は80℃×20hrs、*2は150℃×20hrsの測定条件を示す。
【0163】
実施例2、5、7、8、比較例1、2、3、4で調製した赤燐系難燃剤組成物試料30重量部、無機系難燃剤として水酸化アルミニウム(住友化学社製;CL−310、平均粒子径11μm)35重量部、ノボラック型フェノール樹脂(硬化剤、住友ベークライト社製;PR53195)35重量を均一に混合してマスターバッチをそれぞれ調製した。
【0164】
<半導体封止材としての評価>
上記の各実施例及び比較例のマスターバッチを用いて、半導体封止材用エポキシ樹脂組成物を調製し、半導体用封止材としての評価を行なった。
【0165】
【0166】
上記のエポキシ樹脂組成物の混合物をミキサーで常温混合し、2軸熱ロールで80〜85℃で7分間混練したのち、剥離、冷却、粉砕してエポキシ樹脂封止材を調製した。
【0167】
この封止材を使用して、トランスファー成型機で、成型温度175℃、成型樹脂圧7MPa、成型時間120秒の条件でスパイラルフローを測定するとともに、溶出試験用試験片として、10mm×100mm×3mm厚の試験片を成型した。また、燃焼試験用として、12.5mm×125 mm×1mm厚さの試験片を成型した。
【0168】
これらの試験片を使用して、UL−94による燃焼試験、電気伝導度およびPCTによる溶出イオンの加熱促進試験を行なった。その結果を表17〜18に示す。
更に、耐湿性試験、高温放置特性を試験し、その結果を表19〜20に示す。
【0169】
【表17】
【0170】
【表18】
【0171】
(注)表中、*1)は80℃×20hrs、*2)は150℃×20hrsの測定値を示す。
【0172】
<UL−94による燃焼性試験>
スガ試験機(株)製のUL94燃焼試験機により成形体試料の垂直燃焼試験を実施し、燃焼時間とドリッピングの有無によりV−0〜V2を判定した。
【0173】
<PTCによる溶出イオンの加熱促進試験>
内容量100mlのテフロン(登録商標)製耐圧反応器に成形体試料1本と蒸留水80gを入れ、150℃×20hrs加熱し、冷却後、液の溶出イオン濃度および電気伝導度を測定した。
【0174】
<耐湿性試験>
線幅10μm、厚さ1μmのアルミ配線を施した6×6×0.4mmのテスト用シリコーンチップを搭載した外形寸法19×14×2.7mmの80ピンフラットパッケージを前記で調製したエポキシ樹脂封止材を使用してトランスファ成形により作製し、前処理を行った後、加湿して所定時間毎にアルミ配線腐食による断線不良数を調べた。なお、フラットパッケージはトランスファプレスにて180±3℃、6.9±0.17MPa、90秒の条件で成形材料を成形し、その後180±5℃、5時間後硬化を行って作製した。前処理は85℃、85%RH、72時間の条件でフラットパッケージを加湿し、215℃、90秒間ベーパーフェーズリフロー処理を行った。その後、加湿試験は2.02×105Pa、121℃の条件で行った。
【0175】
<高温放置特性>
外形サイズ5×9mmで5μmの酸化膜を有するシリコンサブストレート上にライン/スペースが10μmのアルミ配線を形成したテスト素子を使用して、部分銀メッキを施した42アロイのリードフレームに銀ペーストで接続し、サーモニック型ワイヤボンダにより、200℃で素子のボンディングパッドとインナリードをAu線にて接続した。その後、前記で調製したエポキシ樹脂封止材を使用してトランスファ成形により、16ピン型DIP(Dual Inline Package)を作製し、得られた試験用ICを200℃の高温槽に保管し、所定時間毎に取り出して導通試験を行い、不良数を調べた。なお、試験用ICは、トランスファプレスにて180±3℃、6.9±0.17MPa、90秒の条件で成形し、その後180℃±5℃、5時間後硬化を行って作製した。
【0176】
【表19】
【0177】
【表20】
【0178】
(注)表8中の評価は、試料10個の試験を行ない、そのうちの不良品となったものを示す。
【0179】
実施例11〜15
<難燃性安定化赤燐の調製>
・安定化赤燐試料7
塊状の赤燐を粉砕、分級して、平均粒子径が5.5μmで最大粒子径が20μm、粒径1μm未満の粒子の含有量が2重量%の赤燐を得た。この赤燐210gに水525gを加えて赤燐スラリーとし、過酸化水素水溶液を0.7ml加えた。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調製し、80℃で6時間保持した。次いで、硝酸を加え、pHを1に調製した後、80℃で4時間処理し後、ろ過し、スラリーのpHが2.5となるまで水で洗浄を行った。
【0180】
この赤燐100gを1000mlの水に分散させ、攪拌しながらここに水酸化アルミニウム(Al(OH)3 )換算で1gに相当する量の硫酸アルミニウムを添加した。添加終了後、30分間攪拌したのち、水酸化ナトリウムを添加してスラリーのpHを8.0に調製し、その後液温を85℃まで上げて85℃で2時間熟成を行なった。
【0181】
放冷したのち、上記で得られた赤燐の10%スラリーとしたときの電気伝導度が300μs/cm以下になるまでろ過、洗浄を行なった。ろ過ケーキを水に分散させて、攪拌しながらフェノール樹脂(大日本インキ社製、初期縮合物、フェノライトTD2388)を固形物換算で赤燐の5%相当分を添加し、更に塩酸を添加してスラリーのpHを2以下にした。スラリーを加熱して90℃で1時間保持してフェノール樹脂の硬化反応を完結させた。
【0182】
放冷したのち、十分にスラリーのろ過、洗浄を行った。ろ過ケーキは減圧乾燥したのち、140℃で1時間 後硬化処理を行ない、放冷後150μmのフルイを通過させて安定化赤燐試料7を得た。
この安定化赤燐中のP含有量は94.1%であった。
この安定化赤燐試料7の諸物性を表21に示す。
【0183】
・安定化赤燐試料8
塊状の赤燐を粉砕、分級して、平均粒子径が5.5μmで最大粒子径が20μm、粒径1μm未満の粒子の含有量が2重量%の赤燐を得た。この赤燐210gに水525gを加えて赤燐スラリーとし、過酸化水素水溶液を0.7ml加えた。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調製し、80℃で6時間保持した。次いで、硝酸を加え、pHを1に調製した後、80℃で4時間処理し後、ろ過し、スラリーのpHが2.5となるまで水で洗浄を行った。
【0184】
この赤燐20gを純水に180gに分散させ、攪拌しながらここにアンモニア水を加え、pH10に調製した。次いで、平均粒子径0.3μmの酸化亜鉛(東邦亜鉛社製;品名:銀嶺)2g及びフェノール樹脂(大日本インキ社製、初期縮合物、フェノライトTD2388;固形分26%)3.8gを添加し、添加終了後、10分間攪拌したのち、塩酸を滴下しpHを6〜6.5に調製した。次いで、塩化アンモニウム0.3gを仕込み、90℃で1時間反応させた。次いで、放冷したのち、10%スラリーの電気伝導度が30μs/cm以下になるまでろ過、洗浄を行なった。ろ過ケーキは減圧乾燥したのち、140℃で2時間硬化処理を行ない、放冷後100メッシュのフルイを通過させて安定化赤燐試料8を得た。
この安定化赤燐中のP含有量は87.2%であった。
この安定化赤燐試料8の諸物性を表21に示す。
【0185】
・安定化赤燐試料9
塊状の赤燐を粉砕、分級して、平均粒子径が5.5μmで最大粒子径が20μm、粒径1μm未満の粒子の含有量が2重量%の赤燐を得た。この赤燐210gに水525gを加えて赤燐スラリーとし、過酸化水素水溶液を0.7ml加えた。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調製し、80℃で6時間保持した。次いで、硝酸を加え、pHを1に調製した後、80℃で4時間処理し後、ろ過し、スラリーのpHが2.5となるまで水で洗浄を行った。
【0186】
この赤燐粉末100gを水800mLに懸濁させて赤燐のスラリーを調製した。次いでAl2 O3 として8重量%の硫酸アルミニウム水溶液16.3gを添加した後、温度80℃において攪拌しながら10重量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが6.6になるまで添加した。添加終了後、さらに80℃で2時間攪拌を継続して、水酸化アルミニウムの沈積処理を行った。
【0187】
放冷したのち、上記で得られた赤燐の10%スラリーとしたときの電気伝導度が300μs/cm以下になるまでろ過、洗浄を行なった。このときの水酸化アルミニウムの被覆量は1.0重量%であった。
【0188】
この赤燐20gを純水に180gに分散させ、攪拌しながらここにアンモニア水を加え、pH10に調製した。次いで、平均粒子径0.3μmの酸化亜鉛(東邦亜鉛社製;品名:銀嶺)2g及びフェノール樹脂(大日本インキ社製、初期縮合物、フェノライトTD2388;固形分26%)3.8gを添加し、添加終了後、10分間攪拌したのち、塩酸を滴下しpHを6〜6.5に調製した。次いで、塩化アンモニウム0.3gを仕込み、90℃で1時間反応させた。次いで、放冷したのち、10%スラリーの電気伝導度が30μs/cm以下になるまでろ過、洗浄を行なった。ろ過ケーキは減圧乾燥したのち、140℃で2時間硬化処理を行ない、放冷後100メッシュのフルイを通過させて安定化赤燐試料9を得た。
この安定化赤燐中のP含有量は87.2%であった。
この安定化赤燐試料9の諸物性を表21に示す。
【0189】
・安定化赤燐試料10
塊状の赤燐を粉砕、分級して、平均粒子径が5.5μmで最大粒子径が20μm、粒径1μm未満の粒子の含有量が2重量%の赤燐を得た。この赤燐210gに水525gを加えて赤燐スラリーとし、過酸化水素水溶液を0.7ml加えた。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調製し、80℃で6時間保持した。次いで、硝酸を加え、pHを1に調製した後、80℃で4時間処理し後、ろ過し、スラリーのpHが2.5となるまで水で洗浄を行った。
【0190】
この赤燐粉末100gを水800mlに懸濁させて赤燐のスラリーを調製した。次いでAl2O3として8重量%の硫酸アルミニウム水溶液16.3gと、Tiとして8.5重量%の四塩化チタン水溶液2.5gを添加したのち、温度80℃において攪拌しながら3重量%のアンモニア水溶液をpHが7.0になるまで添加した。添加終了後、さらに80℃で2時間攪拌を継続して、水酸化アルミニウムと水酸化チタンの沈積処理を行った。このときの水酸化アルミニウムの被覆量は1.0重量%、水酸化チタンの被覆量は0.5重量%であった。
【0191】
この被覆赤燐スラリーを10%スラリーとしたときの電気伝導度が300μ s/cm以下になるまでろ過、洗浄を行なった。洗浄終了赤燐20gを純水180gに分散させ、前記安定化赤燐試料9と同様な操作で、更に酸化亜鉛を含有したフェノール樹脂を被覆し安定化赤燐試料10を得た。
この安定化赤燐の諸物性を表21に示す。
【0192】
・安定化赤燐試料11
塊状の赤燐を粉砕、分級して、平均粒子径が5.5μmで最大粒子径が20μm、粒径1μm未満の粒子の含有量が2重量%の赤燐を得た。この赤燐210gに水525gを加えて赤燐スラリーとし、過酸化水素水溶液を0.7ml加えた。次いで、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調製し、80℃で6時間保持した。次いで、硝酸を加え、pHを1に調製した後、80℃で4時間処理し後、ろ過し、スラリーのpHが2.5となるまで水で洗浄を行った。
【0193】
この赤燐粉末100gを水800mlに懸濁させて赤燐のスラリーを調製した。次いでAl2O3として8重量%の硫酸アルミニウム水溶液16.3gと、ZrO2として28.0%の硫酸ジルコニウム水溶液1.38gを添加したのち、温度80℃において攪拌しながら3重量%のアンモニア水溶液をpHが7.0になるまで添加した。添加終了後、さらに80℃で2時間攪拌を継続して、水酸化アルミニウムと水酸化ジルコニウムの沈積処理を行った。このときの水酸化アルミニウムの被覆量は1.0重量%、水酸化ジルコニウム0.5重量%であった。
【0194】
この被覆赤燐スラリーを10%スラリーとしたときの電気伝導度が300μs/cm以下になるまでろ過、洗浄を行なった。洗浄終了赤燐20gを純水180gに分散させ、前記安定化赤燐試料9と同様な操作で、更に酸化亜鉛を含有したフェノール樹脂を被覆し安定化赤燐試料11を得た。
この安定化赤燐試料11の諸物性を表21に示す。
【0195】
【表21】
【0196】
(注)表中の電気伝導度は10%スラリーとした時の電気伝導度を示す。
【0197】
<赤燐系難燃剤組成物の調製>
前記で調製した難燃性安定化赤燐(試料7〜11)をベースに表1に示した活性アルミナ試料(試料B、C)を表22に示す割合にて添加混合して赤燐系難燃剤組成物を調製し、実施例1〜10と同様に該赤燐系難燃剤組成物試料8.0gを100mlのポリプロピレン製ビンに採取し、蒸留水80mlを加えて密栓し、送風定温乾燥機にて80℃×20時間加熱、抽出後、乾燥機より取り出し、10分以内に常温まで冷却し、上澄み液をろ過した後、ろ液の溶出イオンの量と電気伝導度を測定した。
【0198】
また、テフロン(登録商標)内筒型密閉容器(内容積100ml)を使用して、各試料8.0gと蒸留水80mlを加えて密閉し、150℃で20時間抽出した後、抽出ろ液のイオン濃度を測定した。
その結果を表22〜23に示した。
【0199】
【表22】
【0200】
【表23】
【0201】
(注)
(1)表中、*1は80℃×20hrs、*2は150℃×20hrsの測定条件を示す。
【0202】
実施例11、12、13、14、15で調製した赤燐系難燃剤組成物試料30重量部、無機系難燃剤として水酸化アルミニウム(住友化学社製;CL−310、平均粒子径11μm)35重量部、ノボラック型フェノール樹脂(硬化剤、住友ベークライト社製;PR53195)35重量を均一に混合してマスターバッチをそれぞれ調製した。
【0203】
<半導体封止材としての評価>
上記の各実施例及び比較例のマスターバッチを用いて、半導体封止材用エポキシ樹脂組成物を調製し、半導体用封止材としての評価を行なった。
【0204】
【0205】
上記のエポキシ樹脂組成物の混合物をミキサーで常温混合し、2軸熱ロールで80〜85℃で7分間混練したのち、剥離、冷却、粉砕してエポキシ樹脂封止材を調製した。
【0206】
この封止材を使用して、トランスファー成型機で、成型温度175℃、成型樹脂圧7MPa、成型時間120秒の条件でスパイラルフローを測定するとともに、溶出試験用試験片として、10mm×100mm×3mm厚の試験片を成型した。また、燃焼試験用として、12.5mm×125mm×1mm厚さの試験片を成型した。
【0207】
これらの試験片を使用して、実施例1〜10と同様な方法でUL−94による燃焼試験、およびPCTによる溶出イオンの加熱促進試験を行なった。その結果を表24に示す。更に、実施例1〜10と同様な方法で耐湿性試験、電気伝導度および高温放置特性を試験し、その結果を表25に示した。
【0208】
【表24】
【0209】
(注)表中、*1)は80℃×20hrs、*2)は150℃×20hrsの測定値を示す。
【0210】
【表25】
【0211】
(注)表中の評価は、試料10個の試験を行ない、そのうちの不良品となったものを示す。
【0212】
【発明の効果】
上記したとおり、本発明のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物は、電気特性が要求される分野の難燃剤として適用することが出来、特に半導体用封止材のエポキシ樹脂に難燃剤として含有させると、電気信頼性を維持したままの状態で難燃性に優れた半導体封止材用エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0213】
また、本発明の半導体封止材用エポキシ樹脂組成物は、優れた難燃性と電気信頼性を有していることから、各種の半導体集積回路(IC)やトランジスター、ダイオードなどの個別半導体に用いられる封止材、成形材、注型材、接着剤、電気絶縁塗料材料、積層板、プリント配線板、フラットケーブル等の難燃化に有用な効果を有し、その封止材を用いて難燃性と電気信頼性に優れた半導体装置を得ることができる。
Claims (20)
- 赤燐粒子表面を熱硬化性樹脂及び無機物から選ばれる少なくとも1種で被覆した、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下の難燃性安定化赤燐と、前記難燃性安定化赤燐100重量部に対して1〜20重量部の活性アルミナとを含有する赤燐混合物からなり、前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて80℃で20時間加熱した際に溶出するPHO3イオン濃度が25ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを80℃で20時間放置した後の電気伝導度が150μs/cm以下であることを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 赤燐粒子表面を無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆した、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下の難燃性安定化赤燐と、前記難燃性安定化赤燐100重量部に対して1〜20重量部の活性アルミナとを含有する赤燐混合物からなり、前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて80℃で20時間加熱した際に溶出するPHO 3 イオン濃度が25ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを80℃で20時間放置した後の電気伝導度が150μs/cm以下であることを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 赤燐粒子表面を無機物で被覆した後、更に無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆した、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下の難燃性安定化赤燐と、前記難燃性安定化赤燐100重量部に対して1〜20重量部の活性アルミナとを含有する赤燐混合物からなり、前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて80℃で20時間加熱した際に溶出するPHO 3 イオン濃度が25ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを80℃で20時間放置した後の電気伝導度が150μs/cm以下であることを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて80℃で20時間加熱した際に溶出するPO4イオン濃度が10ppm以下で、PHO3イオン濃度が25ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを80℃で20時間放置した後の電気伝導度が150μs/cm以下である請求項1乃至3のいずれかの項に記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて150℃で20時間加熱した際に溶出するPHO3イオン濃度が500ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを150℃で20時間放置した後の電気伝導度が1500μs/cm以下である請求項1乃至3のいずれかの項に記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 前記赤燐混合物は、該赤燐混合物8gに水80mlを加えて150℃で20時間加熱した際に溶出するPO4イオン濃度が200ppm以下で、PHO3イオン濃度が500ppm以下であり、且つ該赤燐混合物を水に10重量%分散したスラリーを150℃で20時間放置した後の電気伝導度が1500μs/cm以下である請求項1乃至5のいずれかの項に記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 前記難燃性安定化赤燐は、赤燐粒子表面を無機物で被覆した、または無機物で被覆した後、更に熱硬化性樹脂で被覆した難燃性安定化赤燐である請求項1に記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 前記難燃性安定化赤燐は、前記赤燐粒子表面をZn、Al、Mg、Si、Co、Zr、Ti、Snから選ばれる少なくとも1種以上の金属水酸化物又は酸化物で被覆した後、更にその表面を無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂で被覆したものである請求項3記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 前記難燃性安定化赤燐は、平均粒子径が1〜50μmである請求項1乃至8のいずれかの項に記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 前記難燃性安定化赤燐は、平均粒子径が10〜50μmで、最大粒子径が150μm以下である請求項9記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 前記難燃性安定化赤燐は、平均粒子径が1〜10μmで、最大粒子径が20μm以下ある請求項9記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 前記活性アルミナは、平均粒子径が15μm以下で、BET比表面積が50m2 /g以上である請求項1記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物。
- 請求項1乃至12のいずれかに記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物をエポキシ樹脂組成物に対して0.05〜5重量%含有することを特徴とする半導体封止材用エポキシ樹脂組成物。
- 更に、エポキシ樹脂、硬化剤及び無機充填材を含有する請求項13記載の半導体封止材用エポキシ樹脂組成物。
- 樹脂中に請求項1乃至12のいずれかに記載のエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を赤燐含有量として20〜40重量%含有することを特徴とする半導体封止材用エポキシ樹脂組成物用マスターバッチ。
- 請求項13または14に記載の半導体封止材用エポキシ樹脂組成物を用いてなることを特徴とする半導体用封止材。
- 請求項16記載の半導体用封止材を用いてなることを特徴とする半導体装置。
- 下記の(A1)〜(A4)の工程を有することを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物の製造方法。
(A1)赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程
(A2)該洗浄した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、無水亜鉛化合物及び熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、重合反応を行って赤燐粒子表面に無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂を被覆して難燃性安定化赤燐を得る工程
(A3)該難燃性安定化赤燐を、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下となるまで純水で洗浄処理する工程
(A4)該洗浄処理した難燃性安定化赤燐と活性アルミナとを混合してエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を得る工程 - 下記の(B1)〜(B6)の工程を有することを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤の製造方法。
(B1)赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程
(B2)該洗浄処理した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、水溶性金属塩およびアルカリ剤を添加して赤燐粒子表面を金属の水酸化物又は酸化物からなる無機物で被覆する工程
(B3)該無機物で被覆した赤燐粒子を純水で洗浄処理する工程
(B4)該洗浄処理した無機物で被覆した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、無水亜鉛化合物及び熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、重合反応を行って無機物で被覆した赤燐粒子表面に無水亜鉛化合物を含有する熱硬化性樹脂を被覆して難燃性安定化赤燐を得る工程
(B5)該難燃性安定化赤燐を、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下となるまで純水で洗浄処理する工程
(B6)該洗浄処理した難燃性安定化赤燐と活性アルミナとを混合してエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を得る工程 - 下記の(C1)〜(C6)の工程を有することを特徴とするエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物の製造方法。
(C1)赤燐粒子を酸及びアルカリから選ばれる少なくとも1種以上で洗浄処理する工程
(C2)該洗浄処理した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに、水溶性金属塩およびアルカリ剤を添加して赤燐粒子表面を金属の水酸化物又は酸化物からなる無機物で被覆する工程
(C3)該無機物で被覆した赤燐粒子を純水で洗浄処理する工程
(C4)該洗浄処理した無機物で被覆した赤燐粒子を水に分散させたスラリーに熱硬化性樹脂の合成原料又はその初期縮合物を添加し、重合反応を行って無機物で被覆した赤燐粒子表面に熱硬化性樹脂を被覆して難燃性安定化赤燐を得る工程
(C5)該難燃性安定化赤燐を、20℃の水に10重量%分散したスラリーの電気伝導度が60μs/cm以下となるまで純水で洗浄処理する工程
(C6)該洗浄処理した難燃性安定化赤燐と活性アルミナとを混合してエポキシ樹脂用赤燐系難燃剤組成物を得る工程
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