JP4804646B2 - 低速電子線用蛍光体および蛍光表示管 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は数V〜数 10 V程度の低い加速電圧で発光するいわゆる低速電子線用蛍光体およびこの低速電子線用蛍光体を用いた蛍光表示管に関する。
【0002】
【従来の技術】
電卓、オーディオ、家電製品、計測器、医療機器などの表示部に所定のパターンあるいはグラフィックを表示する表示素子や、バックライト、プリンタヘッド、ファックス用光源、複写機用光源などの各種光源、平面テレビ等に自発光型の素子として蛍光表示管が多用されている。また、蛍光表示管は、各種の発光色やマルチカラー化が求められている。
従来、緑色蛍光体として最も多く使用されているZnO:Zn蛍光体は、いわゆる青緑白色であり、色純度としては若干不十分である。このため、ZnGa2O4にマンガン(以下、Mnと記す)を付活した、ZnGa2O4:Mn蛍光体が色純度のよい緑色蛍光体として用いられるようになってきた。また、Mnを付活した蛍光体としては、例えばA(Zn1-xMgx)O・Ga2O3:BMn(但し、0.6 ≦A≦1.2 、0 <B<5 ×10-2 、 0≦x ≦1.0 )なる組成の蛍光体(特開昭51−149772号公報)、ZnO(AlxGa1-x)2O3:Mn(但し、 x=0.001 〜0.3 mol )なる組成の蛍光体(特開平6−340875号公報)が知られている。
【0003】
しかし、Mnが付活された酸化物粒子や硫化物粒子などの無機物粒子からなる蛍光体は、一般に導電性が比較的低いため、蛍光表示管動作中に蛍光体層表面に電荷が蓄積されて、カソード電極とアノード電極との間の電位差が小さくなり輝度が低下するので、粒子径 0.1〜1 μm 程度の導電性酸化物粒子、例えばIn2O3、ZnO、インジウムスズオキサイド(以下、ITOと略称)、SnO2粒子等が物理的に混合されている。
【0004】
従来の蛍光体を用いた蛍光表示管を図3により説明する。図3は蛍光表示管を構成する陽極基板の部分拡大断面図である。
陽極基板7aは、ガラス基板2上に配線層3を形成した後、スルーホール4aを除くほぼ全面にわたって低融点フリットガラスペーストの印刷塗布法により絶縁層4を形成する。次に、このスルーホール4aを介して電気的に接続された陽極電極5をグラファイトペーストの印刷塗布法により形成する。この陽極電極5上に、Mnが付活された無機物粒子からなる蛍光体粒子6aに導電性酸化物粒子6bが混合された蛍光体層6を印刷塗布法より形成して陽極基板7aが得られる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、導電性酸化物粒子6bの配合により、ある程度の輝度は向上するが、Mnが付活された無機物粒子からなる蛍光体6aを用いた蛍光表示管を点灯させると、経時的にこのMn付活蛍光体の発光輝度が不均一化し、表示品位が低下するという問題が生じた。例えば、ZnGa2O4:Mn緑色蛍光体が複数の表示領域にそれぞれ形成されており、一部の領域が点灯し、他の領域が非点灯であった蛍光表示管において、所定時間経過後に非点灯領域を点灯状態にすると、継続して点灯していた表示領域に比較して、新たに点灯した領域では発光輝度が上昇し、継続点灯していた表示領域との発光輝度の差が 30 %以上にもなる場合がある。特に高い温度雰囲気で使用される蛍光表示管に、この現象がみられる。
【0006】
近年の蛍光表示管は、用途の広がりに伴って大型化し、同一管内に多種多様の記号、図形、数値などの表示部を備え、多数のセグメントで構成されている。表示部の点灯頻度は所望の表示形によって各種多様であり、セグメントによって大幅に異なるため、同一の緑色表示であっても発光輝度の差があると、表示が不均一化して表示品位が低下する。このため、Mn付活蛍光体を用いた蛍光表示管は高温度の雰囲気では使用が困難になるなど、その用途が限定されてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、この問題に対処するためになされたもので、高温度雰囲気においても、点灯、非点灯領域が存在しても発光輝度が表示領域ごとに不均一化しない低速電子線用Mn付活蛍光体およびその蛍光体を用いた蛍光表示管の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の低速電子線用蛍光体は、Mnが付活された無機物粒子からなり、この無機物粒子の表面に導電性酸化物層が被覆されてなることを特徴とする。
また、上記導電性酸化物層が蛍光体全体に対して 0.1〜10 質量%含まれていることを特徴とする。
また、上記Mnが付活された無機物粒子がZnGa2O4:Mn(ZnO・Ga2O3:Mnとも記載する)粒子であることを特徴とする。
【0009】
本発明の蛍光表示管は、真空容器内に形成された上記Mn付活蛍光体層に低速電子線を射突させることにより発光させる蛍光表示管であることを特徴とする。
【0010】
発光輝度が表示領域ごとに不均一化する原因について研究したところ、低速電子線用Mn付活蛍光体の付活剤であるMnが蛍光表示管内の残留ガスを吸着するミニゲッターの作用をすることが分かった。この発明はこのような知見によりなされたもので、Mn付活蛍光体粒子の表面に導電性酸化物層を被覆することにより、管内残留ガスとの直接的な接触が防げる。その結果、高温雰囲気においても輝度の変化がなく、表示品位の一定した蛍光表示管が得られる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に係る低速電子線用蛍光体は、Mn付活した無機物粒子で数V〜数 10 V程度の低い加速電圧で発光する蛍光体であればよい。そのような蛍光体としては、ZnGa2O4:Mn(緑)、ZnSiO4:Mn(緑)、ZnS:Mn(黄)等が例示できる。これらの中で特に緑色蛍光体であるZnGa2O4:Mnが点灯、非点灯領域で発光輝度の変化率が大きくなるため、表面に導電性酸化物層を被覆することにより大きな効果が得られる。
【0012】
蛍光体の母体となる無機物粒子の調整、粒径、およびMn付活の方法、付活量等については、従来公知の方法を採用できる。
例えば、酸化物原料としては、酸化物自身、大気中の焼成により金属酸化物となる水酸化物、硝酸塩、塩化物、炭酸塩となる無機塩類等が挙げられる。これらの原料を乾式または湿式で混合して焼成することにより得られる。なお、低温度で反応を達成するため、リン酸リチウム化合物などのフラックスを少量添加することができる。
また、付活剤となるMn源には、酸化マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、塩化マンガン等が挙げられ、結晶中に少量で均一にドープできる硫酸マンガン水溶液が好ましい。
【0013】
表面に被覆される導電性酸化物層は、上記Mn付活蛍光体の表面を覆い蛍光表示管内の残留ガスが直接蛍光体に触れるのを阻止し、かつ導電性を付与できる酸化物層であればよい。例えばIn2O3、ZnO、ITO、SnO2、Nb2O5、TiO2WO3等が例示できる。
【0014】
導電性酸化物層は蛍光体粒子全体に対して 0.1〜10 質量%となるように形成することが好ましい。 0.1 質量%未満ではMn付活蛍光体の表面を覆うのに十分でなく、輝度特性が向上しない。10 質量%をこえると、被覆層の膜厚が厚くなりすぎ、低速電子線が十分に蛍光体層に侵入せず輝度が向上しない。
【0015】
導電性酸化物層の形成は、空気中約 500℃程度の焼成温度で酸化物層を形成できる金属化合物を用いて行なうことが好ましい。金属化合物としては有機金属化合物、無機化合物が挙げられる。有機金属化合物は溶液状またはペースト状を形成しやすいため、Mn付活蛍光体の表面を覆う材料として好適である。有機金属化合物の中でも特にアルコールの水酸基の水素を金属で置換したアルコラート化合物は、溶液となりやすく、Mn付活蛍光体をその溶液に浸漬、乾燥、焼成で均一な表面コーティングができるので好ましい。また、溶液の金属成分濃度、あるいは、浸漬、乾燥、焼成を繰り返すことにより、被覆層の膜厚を調整できる。
【0016】
本発明の蛍光表示管について図1および図2により説明する。図1は蛍光表示管の断面図であり、図2は蛍光表示管を構成する陽極基板の部分拡大断面図である。
蛍光表示管1は、陽極基板7と、この陽極基板7上方にグリット8と陰極9とを設け、フェースガラス10およびスペーサガラス11を用いて封着して真空引きして形成される。陰極9より発生した低速電子線が陽極基板7上の蛍光体層6に射突して発光する。
陽極基板7は、ガラス基板2上に銀を主成分とする導電性ペーストを印刷塗布法により、またはアルミニウムの薄膜法により配線層3を形成した後、スルーホール4aを除くほぼ全面にわたって低融点フリットガラスペーストの印刷塗布法により絶縁層4を形成し、このスルーホール4aを介して電気的に接続された陽極電極5をグラファイトペーストの印刷塗布法により形成する。この陽極電極5上に、蛍光体層6を印刷塗布法より塗布したのち焼成して陽極基板7が得られる。
図2に示すように、蛍光体層6は表面に導電性酸化物層6bが被覆されたMn付活無機物粒子6aを用いて形成される。蛍光体粒子の表面が導電性酸化物層6bで覆われているので、点灯、非点灯にかかわらず、Mn付活蛍光体6aの発光輝度が経時的に変化しない。
【0017】
【実施例】
実施例1
Mn付活の蛍光体粒子であるZnGa2O4:MnをITOのアルコラート溶液(株式会社槌屋社製、透明導電性セラミックスインクAKE−0770I)に浸漬した。 150℃で乾燥後 500℃の大気中で焼成してITO被膜がコーティングされたZnGa2O4:Mn蛍光体粒子を得た。このときのコーティングされたITOは、被膜蛍光体粒子全体に対して 1 質量%であった。
この蛍光体粒子を印刷ペーストとし、スクリーン印刷して図2に示す陽極基板1を作製し、さらに図1に示す蛍光表示管を組み立てた。
得られた蛍光表示管を、陽極電圧 26V 、デューティー 1/12 で初期輝度と 85時間放置後の輝度変化率(高温放置特性)を調べた。結果を表1に示す。
【0018】
実施例2
実施例1と同一の蛍光体粒子を準備し、ITOアルコラート溶液への浸漬、乾燥および焼成を実施例1と同一の条件で複数回、ITOの組成が 7 質量%となるまで実施した。
この蛍光体粒子を実施例と同様にスクリーン印刷して図2に示す陽極基板1を作製し、さらに図1に示す蛍光表示管を組み立てた。
得られた蛍光表示管を、陽極電圧 26V 、デューティー 1/12 で初期輝度と 85時間放置後の輝度変化率(高温放置特性)を調べた。結果を表1に示す。
【0019】
比較例1
実施例1と同一のMn付活蛍光体粒子を準備し、このMn付活蛍光体粒子にIn2O3の粒子を物理的に混合して印刷ペーストとし、スクリーン印刷して図3に示す陽極基板1を作製し、さらに蛍光表示管を組み立てた。
得られた蛍光表示管を、陽極電圧 26V 、デューティー 1/12 で初期輝度と 85時間放置後の輝度変化率(高温放置特性)を調べた。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1に示すように、初期輝度に対する輝度変化率が各実施例は、大幅に小さくなっており、Mn付活蛍光体粒子であっても経時的な輝度の変化が少なかった。
【0022】
【発明の効果】
本発明の低速電子線用蛍光体は、Mnが付活された無機物粒子の表面に導電性酸化物層が被覆されてなるので、蛍光表示管内の残留ガスとの直接的な接触が防げる。その結果、高温雰囲気においても発光輝度特性が経時的に変化しない低速電子線用蛍光体が得られる。
特に、導電性酸化物層が蛍光体全体に対して 0.1〜10 質量%含まれているので、初期発光輝度と高温放置特性のバランスに優れた低速電子線用蛍光体が得られる。
また、無機物粒子がZnGa2O4粒子であるので、高温放置特性に優れた緑色蛍光体が得られる。
【0023】
本発明の蛍光表示管は、真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管において、上記導電性酸化物層が被覆されたMn付活無機物粒子を蛍光体層とするので、輝度の変化がなく、表示品位の一定した蛍光表示管が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】蛍光表示管の断面図である。
【図2】陽極基板の部分拡大断面図である。
【図3】従来の陽極基板の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
1 蛍光表示管
2 ガラス基板
3 配線層
4 絶縁層
5 陽極電極
6 蛍光体層
7 陽極基板
8 グリット
9 陰極
10 フェースガラス
11 スペーサガラス
Claims (3)
- マンガンが付活された無機物粒子からなる低速電子線用蛍光体であって、前記無機物粒子の表面に導電性酸化物層が被覆されてなり、前記無機物粒子がZnGa 2 O 4 :Mn粒子であり、前記導電性酸化物層は蛍光体全体に対して 0.1〜10 質量%含まれていることを特徴とする低速電子線用蛍光体。
- 前記導電性酸化物層は、アルコールの水酸基の水素を金属で置換したアルコラート化合物溶液に前記無機物粒子を浸漬、乾燥、焼成して得られた被覆であることを特徴とする請求項1記載の低速電子線用蛍光体。
- 真空容器内に形成された蛍光体層に低速電子線を射突させて発光させる蛍光表示管において、点灯、非点灯領域が存在しても発光輝度が表示領域ごとに不均一化しない低速電子線用Mn付活蛍光体層を有し、前記蛍光体層が請求項1または請求項2記載の低速電子線用蛍光体で形成されてなることを特徴とする蛍光表示管。
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