JP4801258B2 - アフィニティ分離の方法及びそれに用いるリガンド - Google Patents

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Description

【0001】
本発明は、アフィニティ分離及びそれに用いるリガンドに関する。
【0002】
アフィニティ分離は、一般にアフィニティクロマトグラフィカラム上で起こり、生体分子、特にタンパク質が関与する相互作用の潜在的に高度に特異的な性質を利用する。他の可能な分離方法としては、膜分離、二相抽出、流動床、発泡床(expanded beds)及び磁性粒子による分離が挙げられる(Scopes, R. K.、「Protein Purification, Principles and Practice」、第3版、ISBN 0−387−94072−3)。相互作用としては、タンパク質−タンパク質、タンパク質−核酸、酵素−基質、レセプター−リガンド(例えばホルモン)、タンパク質−炭水化物及びタンパク質−金属の相互作用が挙げられる。一般に、アフィニティ分離は、酵素とその基質との間、核酸とDNA結合タンパク質との間、又は抗原と抗体との間のような、タンパク質表面で起こる生物学的に重要な結合相互作用に基づいている。一対の結合相手のいずれか一方を、その結合相手をアッセイ又は精製するために、例えばアフィニティカラム中の不溶性マトリックスへの共有結合によって、固定化することができる。アフィニティ結合分子(特にタンパク質)間の又はアフィニティ結合分子(特にタンパク質)が関与する相互作用の非常に選択的な性質により、それらは、精製/分離技術について理想的なものとなり、そして、多くの用途について、固定化タンパク質リガンドが関与するアフィニティクロマトグラフィは、イオン交換クロマトグラフィ又はゲルろ過クロマトグラフィよりも好ましい。
【0003】
固体マトリックス上に固定化されている、ある試料中の標的分子に対する特異的結合相手を有するカラムに、その試料を添加する場合、その標的分子は、カラム中に保持され、一方、非標的分子の大部分は、単に通過するであろう。溶液、典型的には次第に低減するpHを含む溶液をカラムに加えて、まず最初に非特異的結合分子を洗い流し、最後に標的分子を溶出するために洗い流すことができる。標的分子は、固定化リガンドに対して最も高いアフィニティを有し、カラムから洗い落とされる最後の分子となり、従って、標的分子を最も高い濃度で含むのは最後の画分であり、その最後の画分を、次に、さらなる精製/濃縮工程に用いたり、又は標的分子の存在について直接又は間接にアッセイすることができる。
【0004】
生化学及び生物工学の分野一般における研究及び医学は、常により純粋な有機及び生物学的分子の試料に対する要求を生み出しており、従って、可能な限り迅速かつ安価に、純度が高い試料を提供することができる戦略に対する要求を生み出してきている。
【0005】
タンパク質及び他の分子の純粋な試料を得る必要性を満足することと同様に、アフィニティ分離は、試料を標的分子について定量的及び定性的にアッセイすることにおいても重要である。これは、例えば、血液又は尿試料を、代謝不全のような疾患の指標となる分子又は非天然物質、麻薬、ステロイド誘導体等の存在についてアッセイする場合に重要であるかもしれない。
【0006】
固体アフィニティマトリックスを完備したアフィニティクロマトグラフィカラムは、高価であり得、そして、明らかに、カラムを数回再使用することができること、即ち、標的分子を結合する固定化リガンドの能力の低減により、又は結合特異性の低減により、カラムを廃棄しなければならなくなる前に、多数回の使用を完了できることが望ましい。直接比較できる結果のセットを達成するために、及び別の使用を行う前に非特異的及び特異的結合分子をカラムから排除するために、カラムを洗浄することが必要である。分離媒体及び系を洗浄及び消毒するための認知された標準は、NaOH(しばしばNaClとの組み合わせで用いられる)である。使用される0.1〜1.0MのNaOH溶液は、ウイルス、細菌、核酸、タンパク質、酵母、菌体外毒素、プリオン及び他の夾雑因子を除去することができる。NaOH接触時間は、様々であってよく、30分〜1時間が典型的であり、系からの除去は、簡便なインラインでのpH及び導電率の測定により監視される。
【0007】
しかし、分離媒体の、これらのむしろ苛酷な消毒条件に耐える能力は、付着したリガンド(結合相手)の官能基、付着の化学、及びアルカリ条件に対する基材マトリックスの安定性に依存する。タンパク質は、NaOH洗浄の間に経験されるような極端なpHに対して感受性であり、一般的に言って、これは、タンパク質に基づくアフィニティ媒体の有効性に対して不利に影響するであろう。従って、タンパク質に基づくアフィニティ分離は、その良好な特異性のためにイオン交換及びゲルろ過クロマトグラフィよりも有利であるが、これらの他の特異性のより低い技術は、標準的洗浄法によって不利に影響されない。
【0008】
アルカリ性pHに対するタンパク質の感受性は、主に、アスパラギン残基及びグルタミン残基、特にアスパラギン残基の脱アミド反応のためである。アスパラギンの脱アミド反応は、環状イミド中間体を介して、通常3:1〜4:1の比率でイソアスパルテート及びアスパルテートの形成をもたらす。この反応は、生理学的pHで起こるが、NaOH溶液で洗浄されているクロマトグラフィカラムに存在するようなアルカリ性pHでは、はるかに速い。イソアスパルチル形態は、アスパルテートのβ−カルボキシルとC−隣接アミノ酸のα−窒素との間の異常なアミド結合によって特徴付けられる。これは、タンパク質骨格中に余分の−CH−及び遊離のα−カルボキシル基をもたらす。脱アミド反応の結果としてペプチド骨格の切断が起こり得、タンパク質は、タンパク質全体の構造的変化によって、又は単なる活性又は結合部位のような感受性領域中の小さい変化によって、その活性を失い得る。アスパラギン残基の脱アミド反応の生じ易さは、配列及びコンフォメーションに依存性であり、Asn−Gly及びAsn−Ser部位のAsn残基は特に攻撃され易い。
【0009】
それは、アフィニティクロマトグラフィカラムがその中に不溶性支持体上に固定化されたタンパク質を用いて組み立てられている場合、深刻な問題であり、使用と使用との間の必要な洗浄プロセスは、系の効率の低下をもたらす。カラムの絶対的な有用寿命の終わりを早めることと共に、連続的な洗浄が固定化タンパク質の試料からその結合相手を捕捉する能力を低減させる場合、一連の試料中の分析対象物の濃度を測定する使用と使用との間の比較が無意味となる。従って、固定化タンパク質が標準的洗浄方法、特にアルカリ性pHに対してより影響を受け難いアフィニティ分離の方法に対する需要がある。
【0010】
従って、1つの側面においては、本発明は、アフィニティ分離の方法であって、アフィニティリガンドが固定化タンパク質様リガンドであり、そのタンパク質様リガンドのアスパラギン(Asn)残基の1つ以上が修飾されている方法を提供する。
【0011】
「修飾(された)」という用語は、アスパラギン残基の欠失又はアルカリ感受性がより低いアミノ酸によるアスパラギン残基の置換、あるいは、アスパラギン残基が置換(即ち1以上の基の化学的置換)又は他の化学誘導体化により(例えば保護基によって)修飾されている場合を含む。アルカリ感受性がより低いアミノ酸による1つ以上のアスパラギン残基の置換が好ましい。
【0012】
「アフィニティ分離」によって、標的分析対象物を含む試料の、その分析対象物に対する特異的結合相手をその上に担持する固体への添加を含む、任意の精製又はアッセイ技術が意味される。重力又は他の手段は、試料が固体を通って又は横切って通過するのを可能にし、分析対象物と固体上に固定化された特異的結合相手との間の相互作用は、その分析対象物が固体上に保持され、一方、試料の残り又は残りのほとんどが系を通過することを意味する。分離は、アフィニティクロマトグラフィカラム上で好都合に行うことができる。固体は、好ましくは、カラム中に、その上部に試料を添加することができ、試料の非標的部分が流出することができるように、配置される。塩溶液のような溶出液又はpH変化を用いて、特異的に結合した分析対象物をはずすことができ、その後、その分析対象物を、制御された方式で多数のアリコート中に集めることができる。
【0013】
「アフィニティリガンド」は、従ってアフィニティ分離プロセスにおいて使用することができる標的特異的結合相手である。
【0014】
「分析対象物」は、固定化されたリガンドに特異的に結合することができる、試料中の、タンパク質様又はそれ以外の、あらゆる分子又は分子の断片を指すのに用いられる。
【0015】
「特異的結合相手」という用語は、分子又は関連する分子の一群を含むことができ、これらの分子のいずれであっても、1つ以上の他の分子に「特異的に」結合することができる。従って、この用語は、任意のある固定化リガンド又は分析対象物が、唯一の結合相手しか有さないことを意味せず、むしろ、結合が、ほとんどの他の分子が同じアフィニティ(親和性)で又は同じストリンジェンシー(厳格性)では結合しないであろう、特に、所定の試料中の他の非標的分子がはるかに低いアフィニティを有するであろう程度まで特異的であることを意味する。アフィニティ分離による精製は、生物学的に特異的な結合相手同士の間の高いアフィニティのために、しばしば数千倍のオーダーである。
【0016】
固定化タンパク質様リガンドを含むすべてのタイプのアフィニティ分離を、本発明の方法において使用することができ、特定のリガンドとの使用について公知の好適なマトリックス(即ち、固体支持体)は、典型的にはアガロース、ポリアクリルアミド、シリカ、ポリビニルスチレン、デキストラン又は他のポリマーを用いるクロマトグラフィに基いて、当該技術分野で公知である。分離又は固定化プロセスについて当該技術分野で公知の任意の固体支持体を用いることができ、実際、固体支持体へのアフィニティリガンドのような分子の付着のための、当該技術分野で公知の方法のいずれであってもよいのと同じである。タンパク質様リガンドは、通常、シアノゲンブロミド、エピクロロヒドリン、ビソキシラン、ジビニルスルホン、カルボニルジイミダゾール、N−ヒドロキシスクシンイミド、トシル/トレシルクロリド、エピクロロヒドリン、カルボジイミド、グルタールアルデヒド、ヒドラジン、オキシランのようなカップリング剤、そしてまたカルボキシル又はチオール活性化マトリックスによって、マトリックスに付着され、ここでもまた、このようなカップリング剤及びカップリングの化学は、当該技術分野において周知であり、文献に広く記載されている(Jansson, J.C.及びRyden, L.、「Protein purification」、第2版、375−442頁、ISBN0−471−18626−0)。簡単な固定化を可能にするマトリックスの種々の誘導体としては、CNBr活性化Sepharose 4B、AH−Sepharose 4B及びCH−Sepharose 4B、並びにエポキシ活性化Sepharose 68(Pharmacia)が挙げられる。
【0017】
タンパク質様アフィニティリガンドは、上で定義した「特異的結合相手」として機能することができるタンパク成分を有する分子であってもよい。従って、糖タンパク質又はタンパク質−脂質複合体、あるいは実際、補欠分子団を有するタンパク質を、本発明に従って修飾されたアフィニティリガンドとして用いることができる。しかし、タンパク質分子が好ましい。本明細書において、「タンパク質」という用語は、ポリペプチド又はペプチド構造を有するあらゆる分子を含むものとして、広く用いる。言い換えれば、本明細書において用いる場合、「タンパク質」は、アミノ酸の鎖から構成されており、この用語は、いかなる特定の構造上の(即ち、三次元構造)又は他の要件を意味しない。
【0018】
アスパラギンを置き換えるために好適なアミノ酸としては、他の19種類の標準的な天然アミノ酸のいずれもが含まれるが、システイン及びグルタミンは好ましくないであろう。好ましい置換アミノ酸としては、リジン、アスパラギン酸及びロイシンが挙げられる。当業者に周知の非天然アミノ酸及びアミノ酸誘導体もまた、アスパラギン残基を置き換えるために用いることができよう。固定化されたタンパク質の安定性及びそれゆえ洗浄後のカラムの効率の有意な改良は、たった1個のアスパラギンをアルカリ感受性がより低い残基で置換する場合に観察することができるが、好ましくはアスパラギン残基の2個、3個又はそれを越える数、あるいはすべてでさえも、置換される。
【0019】
「アルカリ感受性がより低いアミノ酸」は、当該技術分野で公知の技術、方法及び条件を用いて比較した場合、Asnよりも、アルカリ性条件下で分解を受け難いものである。このような条件としては、例えば、上述のカラム洗浄条件、又は上述の脱アミド反応のようなタンパク質の分解又は安定性を研究するために当該技術分野で用いられる任意の他のアルカリ性条件を挙げることができる。従って、「アルカリ感受性がより低い」アミノ酸は、Asn以外の任意のアミノ酸であることができ、より好ましくはGln及びCysでもない他のものである。好都合には、アルカリ感受性は、タンパク質分子中の所定のAsn残基を置換アミノ酸で置き換えることによって、又はそのAsn残基を化学的に修飾もしくは誘導体化することによって、そして次に修飾されていないタンパク質とアルカリ性条件(例えばカラム洗浄条件)における安定性を比較することによって、比較することができる。
【0020】
上述したように、特定のアスパラギン残基の脱アミド化に対する感受性は、タンパク質の構造(Configration)に依存し、タンパク質の三次元構造の表面に存在し、従ってアルカリ性条件に特にさらされるそれらの残基を置換することは、特に重要である。最も重要であるのはリガンドの全体的な安定性であり、固定化リガンドとその結合相手との間の相互作用の特異性を維持することが望ましく、従って、置換されるのは、リガンド−分析対象物相互作用に関与しないアスパラギン残基である。
【0021】
「アスパラギンが修飾された」タンパク質様のアフィニティリガンド(以下、「修飾されたタンパク質」)は、当業者に公知のいずれかの方法により生成することができる。核酸の部位特異的突然変異誘発についての標準技術は、例えば、Sambrook、Fritsch及びManiatisによるMolecular Cloningという題名の実験室マニュアルに記載されている。好ましい技術は、望ましい突然変異を起こすために必要なミスマッチ塩基対を組み込むプライマーがPCRの第一ラウンドにおいて用いられる、PCRの突然変異誘発を含む。二番目の反応において、一回目の反応に由来する断片を混合し、ポリメラーゼに鎖を充填することができる。得られた二本鎖断片をプラスミドに連結することができ、これを、次に大腸菌を形質転換するのに用いる。タンパク質を、生物学的宿主を用いることなくインビトロで合成することができ、その場合、非天然アミノ酸を導入することができる。
【0022】
先に示したアフィニティ分離の多くの一般的な使用と同様に、本発明において特に重要なことは、新規で、修飾された又は高められた結合特性を有するリガンドを生成するための特定のタンパク質のランダム化(ランダム突然変異誘発)により生成されたリガンドを用いるアフィニティ分離の使用である。それらのタンパク質をコンビナトリアルタンパク質という。そのような技術は、典型的には、標的タンパク質のランダム突然変異誘発、例えば線状バクテリオファージ表面における、それらの変異体の完全(full)ライブラリーの発現と、それに続く望ましい結合特性を示すタンパク質の選択を含み、その選択は、典型的には、変異体タンパク質と固定化リガンド(結合相手)、即ち、そのタンパク質についての標的分子、例えば標的分析対象物、との間の結合反応に関与する。突然変異誘発はランダムであり、特定コドンによりコードされた結果として得られるアミノ酸は一般的には予め決定されていないが、突然変異が導入されるべき位置は一般的に前もって同定されている。突然変異誘発は、アミノ酸の置換、欠失又は付加(例えば挿入)に関与することができる。
【0023】
ファージにおける表面ディスプレイのような発現系の使用により、遺伝子型と表現型との間に決定的なつながりが提供される。その特異的結合相互作用に基づいて選択されることができ、観察された結合特性の原因であるタンパク質をコードする核酸も保持する、必要なものが全てそろった単位が存在する。このことは、その結合特性のために選択された有用な量のタンパク質の発現を可能にし、そのような発現は、典型的には形質転換された細菌宿主中において生じる。
【0024】
従って、固定化されたリガンド[例えば、望ましい標的分子(分析対象物)]に結合する能力により選択されたタンパク質は、アフィニティ分離においてそれ自体が(即ち、アフィニティ−リガンドとして)用いられる。固定化され、試料中の標的分子を精製する又は分析するのに用いられるのは、まず第一に、典型的にはタンパク質を選択するのに用いられたものと同じリガンドである。このように、変異体のライブラリーからのタンパク質は、例えば、カラム中においてマトリックスに固定化されたインシュリンを有するカラムを用いてインシュリンを結合する能力のために選択されることができ、次に、その選択されたタンパク質は、インシュリンの存在について試料を試験するのに用いることができる。
【0025】
標的分子の存在を試験するのと同様に、本発明のアフィニティ分離方法は、優れた精製方法を提供し、それは良好な純度を有する標的分子の試料を与える。特に、本発明の方法は、分離系を多数回反復した後、例えばカラムの洗浄を伴う多数回の実施の後に、なおまだ純粋な試料を生じる。本発明の方法により生成されたそのような試料は、本発明のさらなる側面を構成する。
【0026】
前記したランダム化工程及び選択工程の前に、アルカリ感受性がより低いアミノ酸でタンパク質のアスパラギン残基の1つ以上を置換することによりタンパク質が安定化されるならば、アフィニティーカラムを実施と実施との間に洗浄するときに遭遇する高pHのような過酷な条件に耐える能力のゆえに、アフィニティリガンドの有用な寿命は延びる。
【0027】
従って、本発明のさらなる側面は、ランダム化工程(即ち、「起源」又は「供給源」又は「出発タンパク質」のランダム化によりコンビナトリアルタンパク質を生成するのに用いられる工程)とは別の工程において、タンパク質のアスパラギン残基の1つ以上を修飾することにより(好ましくは、タンパク質のアスパラギン残基の1つ以上をアルカリ感受性のより低いアミノ酸で置換することにより)、アルカリ性条件におけるタンパク質の安定性が高められたコンビナトリアルタンパク質を含む。
【0028】
そのようなタンパク質を発現する細胞と同様に、そのようなタンパク質をコードする核酸分子は、本発明のさらなる側面を構成する。
【0029】
ランダム化は、それ自体、アスパラギン残基の置換をもたらし得るが、本発明のこの側面は、安定性を高めるために1つ以上のアスパラギン残基を置換するために特異的に修飾されてもいるタンパク質に関する。タンパク質は、ランダム化の前に又は後に又はランダム化と同時に安定化され得るが、好ましくは、安定化のための修飾は、ランダム化が行われる前に導入される。その安定化がランダム化の前に行われる場合、それは、一回のみ行われること、並びに多くのリガンドに対してランダム化された変異体のライブラリーから選択されることにより行われることを必要とし、異なる結合特性を有するいくつかの安定化タンパク質が得られる。安定化が、特定の結合アフィニティ(親和性)のための選択の後に行われる場合、安定化のための置換の結果としてアフィニティがいくらか喪失する危険がある。
【0030】
タンパク質分子のコンビナトリアルライブラリーの構築及びその後の、望ましい結合特性を有するタンパク質様リガンドを得るための選択のための技術は、本技術分野において知られている(Nygren, P.及びUhlen, M.、「Current Opinion in Structural Biology」、1997年、第7巻、463−469頁)。一般的に、恐らくは温度非感受性又はpH非感受性のような固有の有利な性質を有するタンパク質分子が、足場(scaffold)として用いられる。その後、異なる結合特性を有する分子のライブラリーを生成するために、コンビナトリアルライブラリーが、そのタンパク質分子のランダムであるが目的とするアミノ酸置換(又は他の突然変異)により構築される。表面残基は、一般的にランダム突然変異誘発のための標的とされる。
【0031】
適するタンパク質の足場は、単純に線状ペプチドであることができるが、好ましくは、その足場は、より高いアフィニティについての潜在能力を有し、タンパク質分解に対してより低い感受性を有する折りたたまれた三次元構造を有する。初めから足場を設計するよりも、通常は、天然に存在するタンパク質又はドメインを、さらにうまく処理するために選択する。疑問を回避するために、本明細書中での「タンパク質」という用語は、タンパク質分子全体及びそのドメインもしくは断片、ポリペプチド又はペプチドをいうのに用いられることに注意して下さい。
【0032】
ランダム化タンパク質が線状ファージコートタンパク質との融合タンパク質として表されることとなっている場合、タンパク質の足場の選択は、望ましい宿主有機体、例えば大腸菌において効率よく発現される能力を含むいくつかの要素に依存する。そのタンパク質は又、全体としての三次元構造を失うことなく、その表面に置換(又は挿入又は欠失等)に耐える十分に大きな領域を含むべきである。そのライブラリーが合成により生成されることとなっている場合、小さい全体としてのサイズが予め不可欠である。選択された足場タンパク質が結合機能を有する場合、その相互作用に関与するアミノ酸残基は、ランダム化の標的であり得る。公知の結合特性を高めるために又は新しい特異性を有するリガンドを開発するために、ランダム化が行われ得る。
【0033】
好適な足場となる分子は、Nygrenら(1997年)によって議論されており、それは、拘束(constrained)配列中に40以上の残基を有する環状ペプチド、Fv又は単鎖(scFv)ドメインを含む免疫グロブリン様足場、58残基の1ドメインのブドウ球菌のタンパク質A(SPA)アナログZ(Zドメインは、SPAのBドメインの誘導体である)あるいはSPAの他のドメイン又はアナログのような細菌レセプター、DNA結合タンパク質(特に、亜鉛フィンガー及びタンパク質分解酵素阻害剤)を含む。これらの分子すべては、前もって安定化されたタンパク質のコンビナトリアルライブラリーを構築する前に、1つ以上の固有のアスパラギン残基をアルカリ感受性がより低いアミノ酸で置換することにより、安定化され得る。
【0034】
特に重要であるのは、細菌レセプタードメインZである(Nord, K、Nilsson, J.、Nilsson, B.、Uhlen, M.及びNygren, P、「Protein Engineeering」、1995年、第8巻、第6号、601−608頁)。Nordらによるこの論文は、ある範囲の足場となる分子に適用できるタンパク質分子の、コンビナトリアルライブラリーの適切な構築方法を記載している。記載された方法は、固相に補助されていて、ランダム化された一本鎖オリゴヌクレオチドの段階的組み立て(assembly)に基づく。
【0035】
形成されたタンパク質ライブラリーからの選択は、ビーズ固定化ライブラリー(McBride, J. D.、Freeman, N.、Domingo, G. J.及びLeatherbarrow, R. J.、「J. Mol. Biol.」、1996年、第259巻、819−827頁)、DNA結合タンパク質への融合(Schatz, P. J.、「Biotechnology」、1993年、第11巻、1138−1143頁)、及び細菌(Lu, Z.、Murray, K. S.、Van Cleave,V.、LaVallie, E. R.、Stahl, M. L.及びMcCoy, J. M.、「Biotechnology」、1995年、第13巻、366−372頁)又はファージ(Clackson, T.及びWells, J.、「TIBTECH」、1994年、第12巻、173−183頁)上で、並びに酵母細胞上(Boder, E. T.及びWittrup, K. D.、「Nature Biotechnology」、1997年、第15巻、553−557頁)及びウイルス系中(Ernst, W.、Grabher, R.、Wegner, D.、Borth, N.、Graussauer,A.及びKatinger, H.、「Nucleic Acids Research」、1998年、第26巻、1718−1723頁及びGrabher, R.、Ernst, W.、Doblhoff−Dier, O.、Sara, M.及びKatinger, H.、「BioTechniques」、1997年、第22巻、730−735頁)でディスプレイされた場合を含む、この技術分野において公知の多くの異なる方法によって行うことができる。
【0036】
国際特許出願公報番号WO95/19374は、Z−変異体のコンビナトリアルライブラリーの構築を記載する(特に実施例4を参照されたい)。この出願は、12頁において、組換えタンパク質の精製におけるZドメインのアフィニティリガンドとしての利点を、洗浄の間、アフィニティカラムの厳しい環境において比較的安定であるとして、論じている。本発明は、アスパラギン残基の置換により、Zドメインがアルカリ性pHに対して安定化され得るというさらなる利益を提供する。本発明により、コンビナトリアルライブラリーを調製する前に、固有のZドメインを安定化することが提案される。
【0037】
従って、更なる側面において、本発明は、タンパク質分子のコンビナトリアルライブラリーを調製する方法であって、タンパク質がランダム化される前に、タンパク質のアスパラギン残基の1つ以上を修飾することにより(好ましくはタンパク質のアスパラギン残基の1つ以上の置換により)、当該タンパク質がアルカリ性のpHにより低い感受性を示すように変えられている方法を提供する。
【0038】
本発明のなお更なる側面においては、ファージディスプレイの方法であって、ファージ表面上で発現したタンパク質が、タンパク質の結合特性を修飾するために導入された修飾とは別個の、ある工程において(好ましくはアルカリ感受性がより低い残基での置換により)修飾された1つ以上のアスパラギン残基を有している方法が提供される。
【0039】
本発明の更なる側面は、安定化されたコンビナトリアルタンパク質を作る方法であって、
a) アルカリ性条件におけるタンパク質の安定性を高めるための、タンパク質分子中のアスパラギン残基の修飾工程、及び
b) タンパク質の結合特性を修飾するための、タンパク質分子のランダム化工程
を含む方法、を包含する。
【0040】
工程a)における修飾は、好ましくは、アスパラギン残基のアルカリ感受性がより低い他のアミノ酸による置換を含み、工程a)は、好ましくは工程b)の前に行う。
【0041】
ランダム化及び安定化がされているタンパク質分子と同様に、本発明は、安定化された部分とランダム化された部分とを含む融合タンパク質にも関し、そのようなタンパク質は、ある用途において有用である。特に、この技術は、特異的結合特性を有する様々な領域を付着できる安定なフレームワーク(構造)の開発を可能にする。上で論じたランダム化技術により、様々な領域を調製することができ、所望の結合特性を有するタンパク質分子を、例えばファージディスプレイ及びアフィニティクロマトグラフィにより、変異体のライブラリーから選択することができる。このランダム化されたタンパク質は、その後、例えば大腸菌(E.coli)中で、そのアスパラギン残基の1つ以上を他のアルカリ感受性がより低い残基で置換することにより、アルカリ性条件に対するその安定性を改良するために既にうまく処理されているタンパク質分子と共に、融合タンパク質として発現され得る。
【0042】
融合タンパク質は、アフィニティクロマトグラフィにおいて、ランダム化された部分によって提供された前もって選択された結合アフィニティと共に、フレームワーク部分によって提供された一般に安定な分子の利益を与えて、固定化リガンドとして使用することができる。そのような系は、重要なタンパク質様の特徴(ペプチドの特徴と対比して)が、安定化部分によって提供されるので、ランダム化及び選択化工程の間、小さなタンパク質分子の使用を可能にすることができる。同様の安定化部分を、様々な異なるランダム化分子と共に使用することができ、その逆もまた同様である。融合ペプチドの安定化フレームワーク部分として機能する好適なタンパク質分子として、アルブミン結合タンパク質(ABD)が挙げられ、細菌レセプタードメインZは、これに関連して、ランダム化に好適な分子である。
【0043】
従って、本発明は、また、1つ以上の天然のアスパラギン残基が修飾されている(好ましくは、高いpHに対して感受性がより低いアミノ酸残基によって置換されている)第一の部分と、その特異的結合特性のために選択されたランダム化されたタンパク質分子である第二の部分を含む融合タンパク質を提供する。
【0044】
そのようなタンパク質をコードする核酸分子も、そのタンパク質を発現する細胞も、本発明の更なる側面を構成する。
【0045】
本発明の更なる側面は、アフィニティリガンドのアスパラギン残基の1つ以上を修飾することによる、アフィニティリガンドを安定化する方法を含む(好ましくは、そのアフィニティリガンドは、そのアスパラギン残基の1つ以上をアルカリ性pHに対する感受性がより低いアミノ酸残基で置換することによって安定化される)。
【0046】
なお更なる側面は、タンパク質のアスパラギン残基の1つ以上の修飾によって安定化されたタンパク質分子の、表面ディスプレイ又はアフィニティクロマトグラフィにおける使用を含む。
【0047】
「表面ディスプレイ」という用語は、タンパク質の結合特性に基づき、タンパク質分子間の識別を可能にする方法で提供される(ディスプレイされる)分子のライブラリーからのタンパク質の選択に関与する技術を意味する。表面ディスプレイは、典型的には、線状バクテリオファージの表面で行われる(ファージディスプレイ)。しかし、ディスプレイは、細菌、酵母細胞上で、あるいはウイルス系を用いて行うこともできる。当該技術分野で公知又は推奨されているすべての「表面ディスプレイ」を、本発明で使用することができる。
【0048】
本発明の方法での使用のための好ましいアフィニティリガンドは、アルブミン結合タンパク質(ABD)、ヒト血清アルブミン(HSA)に対するアフィニティを有するタンパク質ドメインである。それは、細胞壁に固着した(anchored)Streptococcus G148に由来する細菌レセプタータンパク質に由来する。その具体的用途は、ヒト血清アルブミン(HSA)の精製のためのアフィニティリガンドとしてというものである。このタンパク質の野生型配列は、4つのアスパラギン残基を有し、これらの残基の1つのみが置換される場合に、高い安定性が観察される。しかし、好ましくは、すべての4つの残基を、アルカリ感受性がより低い残基で置換する。ABDの野生型アミノ酸配列は、以下の通りである:
【0049】
【化1】
Figure 0004801258
アスパラギン残基は、ボールド体で示されている。ハイフン(−)は、同じファミリーの他の分子がこの部分に追加のアミノ酸を有することを、わかり易く示すものである。この配列は、図3に示す19アミノ酸のN末端テールを除外している。本文全体を通して、ABDの具体的アミノ酸は、図3に示した全配列(19アミノ酸の「テール」を含む)中の位置で同定される。従って、ABDwtの第一のアスパラギン残基を、第28位置(Asn28)にて安定化することができる。本発明の方法における使用のためのABDの安定化物は、19アミノ酸のN末端テールの一部又はすべてを含むことができ、あるいはそのようなテールを全く含まなくてもよい。
【0050】
安定化されたABDは、上で論じたように、さらにランダム化に供され、例えばHSAに対する修飾された結合特性を有する、及び/又は、何らかの選択の標的に結合することができ、また、HSAに対する親和性も保持するタンパク質(即ち、コンビナトリアルタンパク質)を作ることができる。ランダム化は、安定化工程で修飾された同じ又は、好ましくは異なる、残基の突然変異誘発を含むことができる。そのようなABDの誘導体(例えば、ランダム又は特異的突然変異誘発によって作られた突然変異体)もまた、本発明の範囲に包含される。
【0051】
従って、本発明の更なる側面は、アルブミン結合タンパク質(ABD)、あるいはその断片又は誘導体であって、1つ以上の固有のアスパラギン残基が、アルカリ感受性がより低いアミノ酸によって置換されているものである。そのようなタンパク質をコードする核酸分子も、そのタンパク質を発現する細胞も、本発明の更なる側面を構成する。
【0052】
特に好ましい態様においては、Asn28はロイシンで置換され、Asn42はアスパラギン酸で置換され、Asn45はアスパラギン酸で置換され、そしてAsn46はリジンで置換される(本明細書では、ABDmutと呼称する)。「ABDmut」は、19アミノ酸のN末端テールの一部又はすべてを含む、あるいはそのようなテールを全く含まないタンパク質を意味するために使用される。典型的には、ABDmutが、例えばドメインZを有する、融合タンパク質の一部であるならば、N末端テールの一部のみが存在するか、あるいはそのようなテールはないであろう。アスパラギンは、アルカリ感受性が最も強いアミノ酸であり、従って、それを置換するために、他の任意のアミノ酸残基を使用することができ、安定性の向上が期待されるであろう。置換に用いるのに好適なアミノ酸を同定するために、他の種で見出される又は同じ役割を担う他の相同タンパク質の配列を比較することが、役に立ち得る。
【0053】
他のアフィニティリガンドの安定化に好適な方法においては、PCR突然変異誘発により、修飾が導入された。初めに、突然変異を導入するために、ミスマッチプライマーを用いる。次に、一回目のPCR反応で得られた断片を混合し、ポリメラーゼに鎖を充填させる。修飾を含むABDの二本鎖の断片を制限酵素で切断し、同じ酵素で制限されたプラスミドに連結する。これを、その後、そのタンパク質の発現系である大腸菌を形質変換するために使用する。
【0054】
好ましくは、本発明の方法によって精製された(即ち、得られた)アフィニティリガンドは、0.5MのNaOHでの20回の処理の後において、その正常な結合能力の80%超、好ましくは95%超を保持する。
【0055】
本発明は、以下の非制限的な実施例において、更に説明されるであろう。
【0056】
実施例を通して、ABDstab及びABDmutは、同義的に使用する。
【0057】
実施例1 クローニング
PCR突然変異誘発の鋳型として、pTrpABDT1T2を用いた(Kraulis等、1996年、FEBS Lett.、第378巻、190−194頁)。プラスミドは、トリプトファン・プロモーターの制御下、ABDwtの遺伝子をコードする。PCR突然変異誘発は2段階で行われる。1回目のPCRで、突然変異を導入し、PCRの第2ラウンドで、1回目の反応からの断片を混合して、ポリメラーゼに鎖を充填させた(図1)。最初のPCRで用いたプライマーは、
【0058】
【化2】
Figure 0004801258
であった。
【0059】
二本鎖の断片をXba IとPst Iで切断し、同じ酵素で制限されたpTrpABDT1T2に連結した。連結反応混合物を用いてE.coli、RRIΔM15株を形質転換した。PCRにより挿入のサイズを確認した後、配列をサイクル・シーケンシングで確かめた(Amersham Pharmacia Biotech、Uppsala、Sweden)。その結果得られたプラスミドを、pTrpABDmutT1T2と名付けた。
【0060】
実施例2 発現及び精製
ABDmut及び参照として野生型ABDをもコードするプラスミドを含むE.coli細胞を、酵母エキス(Difco、USA)(5g/l)及びカナマイシン一硫酸塩(50mg/l)を添加した500mlのトリプティック・ソイ・ブロス(Tryptic Soy Broth)(30g/l)を含む振動フラスコ中で一晩培養した。ABD遺伝子はトリプトファン・プロモーターの制御下にあるので、そのアミノ酸が生育培地中に欠けているときにメッセンジャーRNAの生成が始まる。細胞を、20時間後、遠心分離(4000×g、10分間)によって採集した。細胞を30mlのTST(25mMのトリス塩酸、pH7.5、150mMのNaCl、0.05%のTween20)中に再懸濁させた後、それらを超音波処理によって粉砕した。その後、遠心分離工程(約40,000×g、20分間)を行った。上清をろ過(0.49μm)した。可溶性タンパク質を、Stahl等(1989年、J. Immunol. Meth.、第124巻、43−52頁)により記載されたようにヒト血清アルブミン(HSA)セファロース上のアフィニティクロマトグラフィーで単離した。流出画分中のタンパク質含量を280nmにおける吸光度によって測定し、関連のある画分を集めて凍結乾燥した。両方のタンパク質は第一工程精製後で高純度であり、その分子の大きさに従って移動する。
【0061】
実施例3 NaOH処理前後の結合特性
ABDwt及びABDmutの安定性を調べるため、室温で、24時間の0.5M NaOH処理前後で、結合特性を調べた。ABDwt及びABDmutの両者を、1xHBS(10mMのHEPES、pH7.4、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%のP20)中に濃度が800nMになるまで溶解し、BIAcore 2000(Biacore AB、Uppsala、Sweden)で分析した。非常にアルカリ性の環境にさらした後の活性変化を決定するため、これらのタンパク質を0.5M NaOHに溶解した。NaOH中で24時間インキュベートした後、試料を、30mM酢酸アンモニウムで平衡化されたNAP−10カラム(Amersham Pharmacia Biotech、Uppsala、Sweden)に通した。タンパク質含有試料を凍結乾燥し、BIAcore 2000中で分析するため、1xHBS中に濃度が800nMになるまで再溶解した。
【0062】
BIAcore分析
BIAcore 2000の器械(Biacore AB)を、リアルタイムアフィニティ分析のために用いた。HSA及びIgGを、カルボキシル化されたデキストラン層へのアミン・カップリングにより、CM5センサー・チップの2つの異なった表面に固定化した。このカップリングは、製造業者の推奨(Biacore AB)に従って行った。IgG表面を対照として用いた。試料を、0.45μmフィルターを通して、流速5μl/分でランダムな順序で表面に注入した。結果は、明らかに、ABDwtはアルカリ性溶液にさらされている間にHSAに対する親和性を失い、一方、4つのアスパラギン残基を欠いた突然変異体は親和性を保っていることを示す。センサーグラムを図5に示す。
【0063】
また、まだ活性を保っているタンパク質に対して速度パラメーターの解析を行った。これは、異なる濃度での結合挙動の解析、及びその後のBIAevaluation 2.1ソフトウエア(Biacore AB)を用いた結合定数の計算によって行った。用いた濃度は、ABDwtについては40〜200nM、ABDmutについては200〜600mMで、NaOH処理したABDmutについては800〜1250mMであった。結果を、以下の表1に示す。
【0064】
【表1】
Figure 0004801258
【0065】
実施例4 アフィニティマトリックスの製造
安定化したHSA結合タンパク質のバイオテクノロジーにおける有用性を評価するため、2つのアフィニティクロマトグラフィーマトリックスを製造した。即ち、1つは対照としての突然変異をさせていないタンパク質(ABDwt)で、もう1つは突然変異させたABD(ABDmut)である。用いたマトリックスは、カップリング剤としてカルボジイミド CMC(Sigma Aldrich、Sweden)のついたセファロース 4B(Amersham Pharmacia Biotech、Uppsala、Sweden)であった。ABDwt(4.5mg)とABDmut(8.5mg)を、別々に9mlの水に溶解させた。3.5mlと5.0mlのゲルを、ABDwtとABDmut溶液にそれぞれ添加した。最後に、0.38gのCMCを溶液に加え、それらを室温で一晩インキュベートした。ゲルを、HRカラム(d=5mm、h=43mm)に詰め、マトリックスを不活性にするためには0.5Mのエタノールアミン、0.5Mの塩化ナトリウム、pH8.3でパルスし、結合していないタンパク質を洗い流すためには0.1Mの酢酸ナトリウム、0.5Mの塩化ナトリウム、pH4でパルスした。この後に、カラムはHSAのアフィニティ精製に用いる準備ができた。
【0066】
実施例5 保持された選択性
突然変異させたタンパク質のHSAに対する選択性が4つのアミノ酸の交換後に保持されているかを調べるため、捕獲(capture)の実験を行った。一晩生育させたE.coli細胞の培養物を、超音波処理で壊し、40,000×gで遠心分離し、0.45μmのフィルターでろ過した。E.coliライセート(溶解物)の可溶性画分を精製されたHSAと混合し、この混合物をABDmutアフィニティカラムにかけた。カラムを洗浄後、結合物を、Stahl等(1989年、前出)により記載されたように、pHを2.8まで下げることで溶出した。図4に見られるように、ABDの突然変異体において選択性は保持されている。
【0067】
実施例6 耐アルカリ性アフィニティカラム
ABDwtカラムとABDmutカラムとのアルカリ処理に対する安定性に関しての相違を調べるため、両方のカラムを0.5Mの水酸化ナトリウムで繰り返し洗浄した。AKTAエクスプロラ(explorer)を用いて、カラムにHSAを充填し、タンパク質をpHを下げることで溶出し(Stahl等、1989年、前出)、最後に両方のカラムを水酸化ナトリウムで洗浄した。このサイクルを15回繰り返した。総暴露時間は6時間を越えた。用いた流速は60cm/時間であり、溶出物を集め、各回毎に分析した。図6には、能力の低下が水酸化ナトリウム暴露時間に対してプロットされている。この図に見られるように、ABDwtは活性をかなり速く失い、一方、突然変異体は実験を通して活性を維持している。これらの結果は、BIACoreのデータを裏付けており、突然変異体は、クリーニング・イン・プレース(cleaning−in−place)処理に対し、野生型分子よりもはるかに安定である。
【0068】
実施例7 Z−ABDstabの製造及び精製
凍結させたE.coli RRIΔM15培地(発現ベクターpTRPZABDstabT1T2を宿している)を、5g/l酵母エキス(Difco)と50mg/lのカナマイシン一硫酸塩(Labkemi
Stockholm、Sweden)でを添加した20mlのトリプティック・ソイ・ブロス(30g/l)を接種するために用いた。10mlの一晩培養物を用いて500mlの新鮮な培地を接種した。細胞を、37℃で生育させ、タンパク質の発現を、3−β−インドールアクリル酸(SIGMA−Aldrich、Stockholm、Sweden)を最終濃度が25mg/mlとなるまで添加することにより、対数増殖中期(A600nm=1)で誘導した。24時間後、細胞を、約5000gで10分間の遠心分離、それに続くTST緩衝液(25mMのトリス塩酸、pH7.5、150mMの塩化ナトリウム、1.25mMのEDTA、0.05%のTween20)への再懸濁により採集した。細胞を、超音波処理(Vibracell、Sonics & Materials、Danbury、CT、USA)により分解し、30000g、20分間で遠心分離した。上清を、0.45μmフィルター(Millipore Corp.、Bedford、MA、USA)でろ過し、HSAアフィニティクロマトグラフィ(Nygren等、1988年)にかけた。溶出したタンパク質量を、比吸光度係数、a(L/gcm)を用いて吸光度測定により見積り、関連のある画分を凍結乾燥した。
【0069】
実施例8 融合タンパク質Z−ABDstabの遺伝子構築
プラスミドpTRPZABDstabT1T2を、pTRZABDmutT1T2から構築した。Zドメインをコードする233塩基対の遺伝子断片を、XbaI−EcoRI消化によりpRIT45(Nilsson等、1994年、Eur. J. Biochem.、第224巻、1038−108)から分離し、pTRPABDmutT1T2(これは前もって同じ制限エンドヌクレアーゼを用いて切断されている)に連結した。連結反応混合物を用いて、E.coli RRIΔM15株を形質転換した。その結果得られたプラスミドは、融合タンパク質Z−ABDstabをコードする遺伝子を含み、pTRPZABDstabT1T2と名付けられた。
【0070】
ABDstab及びZ−ABDstab(19アミノ酸のN末端のテールをコードする領域を含む)のDNA配列は、以下のとおりである。
【0071】
【化3】
Figure 0004801258
【0072】
実施例9 ABDmutドメインの3つの三重突然変異体の遺伝子構築
実施例9と10は、既に安定化されたABD分子上の表面(例えば、HSA結合に加わっていない表面)をランダム化させ、それによって選択された任意の標的と結合でき、またHSAへのアフィニティをも保持している分子を作り出すことが可能であることを示す。
【0073】
HSAへの結合部位をマッピングするためのアラニン・スキャン実験からの結果を基にして、追加のアラニン置換を含むABDmut(実施例1を参照)ドメインをコードする遺伝子構築体を作製した。これらを、同定されたHSA結合モチーフ(これは第1及び第2へリックス及びその間のループに位置していた)から離れたドメイン中の位置に導入した。3つの異なるプラスミド遺伝子構築体を、PCRに基づく突然変異誘発によって組立てたが、各々は3つのアラニン置換を含むABDmutタンパク質変異体をコードしている。即ち、
ABDmutドメインの22、25、26の位置にアラニン置換を含むpTrpABDmut22−25−26、
ABDmutドメインの29、30、33の位置にアラニン置換を含むpTrpABDmut29−30−33、及び
ABDmutドメインの54、57、58の位置にアラニン置換を含むpTrpABDmut54−57−58である。PCR突然異変誘発のための鋳型として、プラスミドpTrpABDmutT1T2を用いた(実施例1を参照)。そのプラスミドは、トリプトファン・プロモーターの転写制御下にABDmutの遺伝子をコードする。22、25、26のアミノ酸のアラニンへの交換は、プライマーT1T2(実施例1を参照)とLIMA12を用いて通常のPCR突然変異誘発によって行った。
【0074】
【化4】
Figure 0004801258
【0075】
他の2つの構築体についてのPCR突然変異誘発を2段階で行った。1回目のPCR増幅では、突然変異を導入し、2回目のPCRでは、1回目のPCR増幅からの断片を混合して、Taq DNAポリメラーゼに補佐された二本鎖DNA合成に供し(図1と同じ戦略)、続いて隣接プライマー(SOHO8とT1T2(実施例1を参照))を用いて増幅した。29、30及び33のアミノ酸のアラニン交換のためのPCRに用いたプライマーは、
【0076】
【化5】
Figure 0004801258
であった。54、57及び58のアミノ酸の交換のために、LIMA15及びLIMA16を用いた。
【0077】
【化6】
Figure 0004801258
【0078】
プラスミドpTrpABDmut22−25−26の構築のため、二本鎖PCR生成物を制限エンドヌクレアーゼEcoRI及びPstIで切断し、他の2つの変異体についてはXbaIとPstIを用いた。異なる断片を、同じ酵素で制限されたpTrpABDT1T2に連結し、これは、3つの異なったABDmut三重変異体での野生型ABDドメイン遺伝子の置替えをもたらした。それぞれの混合物を用いて、E.coli RRIΔM15株を形質転換した。挿入物のサイズを確認した後、配列を、サイクルDNAシーケンシングで制御した(Amersham Pharmacia Biotech、Uppsala、Sweden)。その結果得られたプラスミドを、それぞれpTrpABDmut22−25−26、pTrpABDmut29−30−33、及びpTrpABDmut54−57−58と名付けた。
【0079】
3つの三重変異体のDNA配列は以下のとおりである。
【0080】
【化7】
Figure 0004801258
【0081】
実施例10 ABDmut22−25−26、ABDmut29−30−33及びABDmut54−57−58タンパク質のHSA結合の分析
ABDmut22−25−26、ABDmut29−30−33、及びABDmut54−57−58タンパク質を、実施例2で記載した通りに製造し、精製した。異なった三重変異体の結合挙動を分析するため、BI core 2000装置を用いた。HSAを、カルボキシル化されたデキストラン層へのアミン・カップリングによりCM5センサー・チップのセンサー・チップ表面に固定化した。対照として、IgGを含むセンサー・チップ表面を用いた。このカップリングは、製造業者の推奨(Biocore AB)に従って行った。3つのタンパク質の試料を0.45μmフィルターに通し、流速20μl/分でランダムな順序で表面に注入した。用いた濃度は200nMで、全ての試料を3回分析した。その結果得られたセンサーグラムは、3つの三重変異体の全てがHSAへの結合能力を保持していることを示す(図7)。これらの結果は、この研究で調べられた9つの位置(22、25、26、29、30、33、54、57、58)が、同時に又は異なった組み合わで、結合、触媒又は基質としての働きのような第2の活性を有する新しいHSA結合ABDwt又はABDmutドメインを同定するために、部位特異性又はランダム突然変異誘発に供することが可能であるべきことを示す。加えて、残基62も置換のために用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明によるPCR突然変異誘発工程の図による説明である。
【図2】 図2は、遺伝子構築のクローニングを示す。
【図3】 図3は、野生型ABDとその突然変異によるアルカリ耐性変異体のアミノ酸配列である。突然変異による変異体の全配列を、本明細書においては、配列番号1と名付ける。
【図4】 図4は、還元条件下でのSDS−PAGE(4〜20%)を示す。レーン1及び2は、それぞれ、精製されたABD及びABDstabを示す。第三のレーンは、分子量マーカー(上からそれぞれ94、67、43、40、20.2及び14.4kDa)を示す。突然変異されたABDの選択性を確かめるために、大腸菌分解物を、HSA(レーン4)でスパイクし、カラムに載せた。レーン5、6及び7は、2、8及び15回のNaOHでの処理後に溶出された物質を示す。レーン8は、HSA対照を示す。
【図5】 図5は、0.5MのNaOHでの24時間の処理の前後における、(A)ABDwtと(B)ABDmutの結合特性を示すBIACoreに由来するセンサーグラムを示す。
【図6】 図6は、0.5MのNaOHでの数回の処理後における、2つのアフィニティマトリックス(それぞれABDwtとABDmut)の能力を示すダイアグラムである。
【図7】 図7は、ABDmut及びその3種の異なる三重変異体の結合特性を示す、実施例10に記載されたBIACore実験に由来するセンサーグラムを示す。
Figure 0004801258
【配列表】
Figure 0004801258
Figure 0004801258
Figure 0004801258
Figure 0004801258
Figure 0004801258

Claims (14)

  1. アフィニティ分離の方法であって、
    (a)標的分析対象物を含む試料を準備する工程、
    (b)固定化タンパク質を含むマトリックスを準備する工程、ここで該固定化タンパク質は、(i)アルカリ性条件下における該タンパク質の安定性を高めそして(ii)該タンパク質標的分析対象物に結合するのを妨げない、1つ以上の修飾を含み、そしてここでの1つ以上の修飾は、
    (1)タンパク質中の1つ以上のAsn残基の欠失;
    (2)タンパク質中の1つ以上のAsn残基の、Asn、Gln及びCys以外のアミノ酸による置換および
    )それらの組み合わせ
    からなる群より選択される、
    (c)上記試料および上記マトリックスを接触させる工程、ここで標的分析対象物は固定化タンパク質に結合する、および
    (d)上記標的分析対象物を上記マトリックスから単離させる工程
    を含む、方法。
  2. タンパク質中の1つ以上のAsn残基が、Asn、Gln及びCys以外のアミノ酸によって置換されている、請求項1に記載の方法。
  3. 2つ以上のAsn残基が修飾されている、請求項1又は2に記載の方法。
  4. Asn残基すべてが修飾されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
  5. タンパク質の三次元構造の表面のAsn残基が修飾されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
  6. Asn残基が、リジン、アスパラギン酸及びロイシンから選択されたアミノ酸で置換されている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法又はタンパク質。
  7. タンパク質がコンビナトリアルタンパク質である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
  8. コンビナトリアルタンパク質が、
    a)アルカリ性条件におけるタンパク質の安定性を高めるための、タンパク質分子中のAsn残基の修飾工程、ここで前記修飾は請求項1の(1)〜(3)からなる群より選択される、及び
    b)タンパク質の結合特性を修飾するための、タンパク質分子のランダム化工程
    を含む方法により製造される、請求項7に記載の方法。
  9. 工程a)が工程b)の前に行われる、請求項8に記載の方法。
  10. c)ランダム化されたタンパク質を、表面ディスプレイライブラリーにおける発現によって選択する工程、をさらに含む請求項8又は9に記載の方法。
  11. 工程c)がファージディスプレイを用いて行われる、請求項10に記載の方法。
  12. コンビナトリアルタンパク質が、免疫グロブリン分子あるいはその断片又は誘導体、ブドウ球菌のタンパク質A(SPA)あるいはその断片、ドメイン又は誘導体、又は、DNA結合タンパク質あるいはその断片又はドメインに由来する、請求項7乃至11のいずれか一項に記載の方法。
  13. コンビナトリアルタンパク質が、ドメインZ(SPAのBドメインの誘導体)又はその誘導体を含む、請求項12に記載の方法。
  14. タンパク質が、アルブミン結合タンパク質(ABD)あるいはその断片又は誘導体を含む、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の方法。
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