上述したような排気を吸気系に供給可能な内燃機関を備える内燃機関装置では、排気を吸気系に供給する排気供給系が備えるバルブなどに煤などの異物が付着し、その付着量が多くなると制御上の排気の吸気系への供給量と実際の供給量とが異なり、内燃機関を適正に運転することが困難になる。このため、排気供給系に付着する異物の付着量をより適正に推定する必要がある。また、エミッションの悪化を抑制したり内燃機関から効率よく動力を出力するために、排気供給系の異物の付着量が多くなったときでも内燃機関をより適正に運転することも望まれる。
本発明の内燃機関装置およびこれを搭載する車両並びに内燃機関装置の制御方法は、排気供給系に付着する異物の付着量をより適正に推定すると共に排気供給系の異物の付着量が多くなったときでも内燃機関をより適正に運転することを主目的とする。
本発明の内燃機関装置およびこれを搭載する車両並びに内燃機関装置の制御方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
本発明の内燃機関装置は、
内燃機関と、前記内燃機関の排気を該内燃機関の吸気系に供給可能な排気供給手段と、を備える内燃機関装置であって、
前記排気供給手段によって排気を吸気系に供給しているときに少なくとも前記内燃機関の空燃比に基づいて前記排気供給手段に付着する異物の付着量を判定するためのパラメータである付着量推定パラメータを積算する付着量推定パラメータ積算手段と、
前記積算された付着量推定パラメータが所定値未満のときには必要に応じて前記排気供給手段による排気の吸気系への供給を伴って前記内燃機関を運転制御し、前記積算された付着量推定パラメータが前記所定値以上のときには前記排気供給手段による排気の吸気系への供給を停止した状態で前記内燃機関を運転制御する制御手段と、
を備えることを要旨とする。
この本発明の内燃機関装置では、内燃機関の排気をその吸気系に供給可能な排気供給手段によって排気を吸気系に供給しているときに少なくとも内燃機関の空燃比に基づいて排気供給手段に付着する異物の付着量を判定するためのパラメータである付着量推定パラメータを積算し、この積算された付着量推定パラメータが所定値未満のときには必要に応じて排気供給手段による排気の吸気系への供給を伴って内燃機関を運転制御し、積算された付着量推定パラメータが所定値以上のときには排気供給手段による排気の吸気系への供給を停止した状態で内燃機関を運転制御する。内燃機関の空燃比に基づいて付着量推定パラメータを積算するから、排気供給手段に付着する異物の付着量をより適正に推定することができる。また、付着量推定パラメータが所定値以上のときには排気供給手段による排気の吸気系への供給を停止した状態で内燃機関を運転制御するから、排気供給手段に付着する異物の付着量が多くなったときでも内燃機関をより適正に運転することができる。
こうした本発明の内燃機関装置において、前記制御手段は、前記積算された付着量推定パラメータが前記所定値以上のときに前記内燃機関を所定負荷以上の高負荷で運転するときには前記積算された付着量推定パラメータが前記所定値未満のときに前記内燃機関を前記高負荷で運転するときに比して前記内燃機関における燃料噴射量が多くなるよう該内燃機関を制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、排気供給手段による排気の吸気系への供給を停止したことに伴う不都合、例えば出力不足や内燃機関の失火などを抑制することができ、内燃機関をより適正に運転することができる。この場合、前記制御手段は、前記積算された付着量推定パラメータが前記所定値以上のときに前記内燃機関を前記高負荷で運転するときには前記積算された付着量推定パラメータが前記所定値未満のときに前記内燃機関を前記高負荷で運転するときの燃料噴射量より所定の燃料噴射増量だけ多い燃料噴射量を噴射して前記内燃機関を制御する手段であるものとすることもできる。
また、本発明の内燃機関装置において、前記付着量推定パラメータ積算手段は、前記内燃機関の空燃比が小さいほど前記付着量推定パラメータが大きくなるよう積算する手段であるものとすることもできる。これは、空燃比が小さいほど吸入空気量に対する燃料噴射量の比率が大きくなり、煤などの付着物が発生しやすくなることに基づく。
さらに、本発明の内燃機関装置において、前記付着量推定パラメータ積算手段は、前記排気供給手段による排気の吸気系への供給量が大きいほど前記付着量推定パラメータが大きくなるよう積算する手段であるものとすることもできる。これは、排気の吸気系への供給量が大きいほど、排気供給手段に流れる煤などの付着物が多くなることに基づく。
あるいは、本発明の内燃機関装置において、前記積算された付着量推定パラメータが前記所定値以上に至ったのを報知する報知手段を備えるものとすることもできる。こうすれば、排気供給手段に付着する異物の付着量が多くなって排気供給手段による排気の吸気系への供給を停止しているのを知らしめることができる。
本発明の車両は、上述のいずれかの態様の本発明の内燃機関装置、即ち、基本的には、内燃機関と、前記内燃機関の排気を該内燃機関の吸気系に供給可能な排気供給手段と、を備える内燃機関装置であって、前記排気供給手段によって排気を吸気系に供給しているときに少なくとも前記内燃機関の空燃比に基づいて前記排気供給手段に付着する異物の付着量を判定するためのパラメータである付着量推定パラメータを積算する付着量推定パラメータ積算手段と、前記積算された付着量推定パラメータが所定値未満のときには必要に応じて前記排気供給手段による排気の吸気系への供給を伴って前記内燃機関を運転制御し、前記積算された付着量推定パラメータが前記所定値以上のときには前記排気供給手段による排気の吸気系への供給を停止した状態で前記内燃機関を運転制御する制御手段と、を備える内燃機関装置を搭載し、前記内燃機関からの動力を用いて走行することを要旨とする。
この本発明の車両では、上述のいずれかの態様の本発明の内燃機関装置を搭載するから、本発明の内燃機関装置が奏する効果、例えば、排気供給手段に付着する異物の付着量をより適正に推定することができる効果や排気供給手段に付着する異物の付着量が多くなったときでも内燃機関をより適正に運転することができる効果などと同様の効果を奏することができる。
本発明の内燃機関装置の制御方法は、
内燃機関と、前記内燃機関の排気を該内燃機関の吸気系に供給可能な排気供給手段と、を備える内燃機関装置の制御方法であって、
(a)前記排気供給手段によって排気を吸気系に供給しているときに少なくとも前記内燃機関の空燃比に基づいて前記排気供給手段に付着する異物の付着量を判定するためのパラメータである付着量推定パラメータを積算し、
(b)前記積算された付着量推定パラメータが所定値未満のときには必要に応じて前記排気供給手段による排気の吸気系への供給を伴って前記内燃機関を運転制御し、前記積算された付着量推定パラメータが前記所定値以上のときには前記排気供給手段による排気の吸気系への供給を停止した状態で前記内燃機関を運転制御する、
ことを特徴とする。
本発明の内燃機関装置の制御方法では、内燃機関の排気をその吸気系に供給可能な排気供給手段によって排気を吸気系に供給しているときに少なくとも内燃機関の空燃比に基づいて排気供給手段に付着する異物の付着量を判定するためのパラメータである付着量推定パラメータを積算し、この積算された付着量推定パラメータが所定値未満のときには必要に応じて排気供給手段による排気の吸気系への供給を伴って内燃機関を運転制御し、積算された付着量推定パラメータが所定値以上のときには排気供給手段による排気の吸気系への供給を停止した状態で内燃機関を運転制御する。内燃機関の空燃比に基づいて付着量推定パラメータを積算するから、排気供給手段に付着する異物の付着量をより適正に推定することができる。また、付着量推定パラメータが所定値以上のときには排気供給手段による排気の吸気系への供給を停止した状態で内燃機関を運転制御するから、排気供給手段に付着する異物の付着量が多くなったときでも内燃機関をより適正に運転することができる。
図1は、本発明の一実施例である内燃機関装置を搭載した自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト33とデファレンシャルギヤ68を介して駆動輪69a,69bとに接続されたオートマチックトランスミッション66と、このオートマチックトランスミッション68をコントロールする図示しないオートマトランスミッション用電子制御ユニットと、装置全体をコントロールする電子制御ユニット70とを備える。
エンジン22は、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力可能な内燃機関として構成されており、図示するように、エアクリーナ23により清浄された空気をスロットルバルブ24を介して吸入する共に燃料噴射弁26からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ28を介して燃焼室に吸入し、点火プラグ30による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン32の往復運動をクランクシャフト33の回転運動に変換する。エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化装置(三元触媒)34を介して外気へ排出される。この浄化装置34の後段には、排気を吸気側に供給するEGR管52が取り付けられており、エンジン22は、不燃焼ガスとしての排気を吸気側に供給して空気と排気とガソリンの混合気を燃焼室に吸引することができるようになっている。このエンジン22の吸気側に供給する排気の量はEGRバルブ54により調整される。以下、エンジン22の排気を吸気側に供給することをEGRという。
電子制御ユニット70は、CPU71を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU71の他に処理プログラムを記憶するROM72と、データを一時的に記憶するRAM73と、格納したデータを保持するフラッシュメモリ74と、図示しない入出力ポートとを備える。電子制御ユニット70には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号、例えば、クランクシャフト33の回転位置を検出するクランクポジションセンサ40からのクランクポジションやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ42からの冷却水温Tw,スロットルバルブ24のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ46からのスロットル開度,吸気管に取り付けられたエアフローメータ48からの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサ49からの吸気温,浄化装置34に取り付けられた触媒温度センサ34aからの触媒温度Tc,空燃比センサ35aからの空燃比AF,酸素センサ35bからの酸素信号,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ28や排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ44からのカムポジション,EGRバルブ54の開度を検出するEGRバルブ開度センサ55からのEGRバルブ開度EV,EGR管52内のEGRガスの温度を検出する温度センサ56からのEGRガス温度,イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、電子制御ユニット70からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁26への駆動信号やスロットルバルブ24のポジションを調節するスロットルモータ36への駆動信号,イグナイタと一体化されたイグニッションコイル38への制御信号,吸気バルブ28の開閉タイミングを変更可能な可変バルブタイミング機構50への制御信号,吸気側に供給する排気の供給量を調節するEGRバルブ54への駆動信号,警告灯90への点灯信号などが出力ポートを介して出力されている。
次に、こうして構成された実施例の自動車20の動作について説明する。図2は、電子制御ユニット70により実行される運転制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。
運転制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accやエアフローメータ48からの吸入空気量Qa,水温センサ42からの冷却水温Tw,エンジン回転数Ne,EGRバルブ開度センサ55からのEGRバルブ開度EV,空燃比センサ35aからの空燃比AFなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neは、クランクポジションセンサ40からの信号に基づいて図示しない回転数演算ルーチンにより演算されたものを入力するものとした。なお、EGRバルブ開度EVが0%のときには、EGRバルブ54が全閉であり、エンジン22の排気は吸気側に供給されない。
こうしてデータを入力すると、図3に例示するEGR停止判定フラグ設定処理によりEGRを停止する必要があるか否かを示すEGR停止判定フラグF1を設定する(ステップS110)。ここで、EGR停止判定フラグF1は、EGRを停止する必要があると判定されたときに値1が設定され、EGRを停止する必要はないと判定されたときに値0が設定されるフラグである。以下、図2の運転制御ルーチンの説明を一旦中断し、図3のEGR停止判定フラグ設定処理について説明する。
EGR停止判定フラグ設定処理では、まず、EGRバルブ開度EVの値を調べ(ステップS300)、EGRバルブ開度EVが0%のときには、EGRバルブ54にデポジットが付着することはないと判断し、EGRバルブ54に付着するデポジットの付着量を推定するために用いられる付着量推定積算値Depに前回この処理を実行したときに設定した付着量推定積算値(前回Dep)を設定する(ステップS310)。ここで、付着量推定積算値Depは、実施例では、イグニッションオフされてもリセットされないようにフラッシュメモリ74に記憶されるものとし、EGRバルブ54の交換や洗浄が行なわれたときに値0にリセットされるものとした。一方、EGRバルブ開度EVが0%より大きいときには、EGRバルブ54にデポジットが付着することがあると判断し、EGRバルブ54に付着するデポジットの付着量を推定するのに用いる補正係数k1,k2を設定し(ステップS320)、前回の付着量推定積算値(前回Dep)に基準値Dep0(例えば、値1)と補正係数k1,k2との積を加えることにより付着量推定積算値Depを計算する(ステップS330)。実施例では、補正係数k1は空燃比AFに基づいて設定するものとし、補正係数k2はバルブ開度EVに基づいて設定するものとした。空燃比AFと補正係数k1との関係の一例を図4に示し、EGRバルブ開度EVと補正係数k2との関係の一例を図5に示す。図4の例では、空燃比AFが閾値AFref(例えば、理論空燃比)以上の領域ではEGRバルブ54にデポジットが付着する可能性は低いとして補正係数k1に値0を設定するものとし、空燃比AFが閾値AFref未満の領域では空燃比AFが小さいほど大きくなる傾向に補正係数k1を設定するものとした。これは、空燃比AFが小さいほど吸入空気量に対する燃料噴射量の比率が大きくなって煤などの付着物が発生しやすくなり、EGRバルブ54にデポジットが付着する量も多くなることに基づく。また、図5の例では、EGRバルブ開度EVが大きいほど大きくなる傾向に補正係数k2を設定するものとした。これは、EGRバルブ開度EVが大きいほどEGR管52を流れる排気量が多くなり、EGRバルブ54にデポジットが付着する量が多くなることに基づく。このように空燃比AFやEGRバルブ開度EVに基づいて補正係数k1,k2を設定すると共に設定した補正係数k1,k2を用いて付着量推定積算値Depを設定することにより、EGRバルブ54に付着するデポジットの付着量をより適正に推定することができる。
こうして付着量推定積算値Depを設定すると、設定した付着量推定積算値Depを閾値Deprefと比較する(ステップS340)。ここで、閾値Deprefは、EGRを良好に行なうことができるか否かを判定するために用いられるものであり、エンジン22やEGR管52,EGRバルブ54の特性などに基づいて予め実験などにより定めることができる。付着量推定積算値Depが閾値Depref未満のときには、EGRを良好に行なうことができると判断してEGRを停止する必要があるか否かを示すEGR停止判定フラグF1に値0を設定して(ステップS350)、EGR停止判定フラグ設定処理を終了し、付着量推定積算値Depが閾値Depref以上のときには、EGRバルブ54に付着したデポジットの付着量が多くなりEGRを良好に行なうことができないと判断して警告灯90を点灯すると共に(ステップS360)、EGR停止判定フラグF1に値1を設定して(ステップS370)、EGR停止判定フラグ設定処理を終了する。これにより、付着量推定積算値Depに基づいてEGRを停止する必要があるか否かをより適正に判定することができる。また、EGRバルブ54に付着したデポジットによりEGRを良好に行なうことができないときには、EGRバルブ54の交換や清掃が必要な旨を警告灯90により運転者に報知することができる。
以上、EGR停止判定フラグ設定処理について説明した。図2の運転制御ルーチンの説明に戻る。ステップS110でEGR停止判定フラグF1を設定すると、次に、冷却水温Twやエンジン22の回転数Ne,吸入空気量Qaに基づいてEGRを実行する条件であるEGR実行条件が成立しているか否かを示すEGR実行条件判定フラグF2を設定する(ステップS120)。実施例では、EGR実行条件判定フラグF2は、冷却水温Twがエンジン22の暖機が完了して燃焼が安定している状態を示す所定温度(例えば、65℃や70℃など)以上であり且つエンジン22の回転数Neと吸入空気量Qaとにより示される運転ポイントが予め定めたEGR導入領域内にあるときにEGR実行条件が成立していると判定して値1を設定すると共に、冷却水温Twが所定温度未満のときや冷却水温Twが所定温度以上であってもエンジン22の運転ポイントがEGR導入領域内にないときにはEGR実行条件が成立していないと判定して値0を設定するものとした。図6にEGR導入領域の一例を示す。図中、実線はエンジン22を運転できる領域の境界を示し、斜線で示した領域がEGR導入領域を示す。
次に、EGR停止判定フラグF1の値およびEGR実行条件判定フラグF2の値を調べる(ステップS130,S140)。このステップS130,S140の処理は、EGRを実行するか否かを判定する処理である。EGR停止判定フラグF1が値0でEGR実行条件判定フラグF2が値1のときには、EGRを停止する必要はなくEGR実行条件が成立していると判断し、吸気側に供給する排気量の目標値である目標EGR量R*を吸入空気量Qaに基づいて設定すると共に(ステップS150)、設定した目標EGR量R*とエンジン22の回転数Neとに基づいてEGRバルブ54の目標開度EV*を設定し(ステップS170)、設定した開度指令EV*でEGRバルブ54を駆動制御する(ステップS180)。ここで、目標EGR量R*は、例えば、EGR率(R*/(Qa+R*))が予め定められた所定比率(例えば、5%や10%など)になるよう吸入空気量Qaに基づいて設定することができる。また、目標EGRバルブ開度EV*の設定は、実施例では、目標EGR量R*とエンジン22の回転数Neと目標EGRバルブ開度EV*との関係を予め実験等により定めて図示しない開度指令設定用マップとしてROM74に記憶しておき、目標EGR量R*とエンジン22の回転数Neとが与えられると記憶したマップから対応する目標バルブ開度EV*を導出して設定するものとした。この場合、EGRの実行により、不燃焼ガスとしての排気中の炭化水素(HC)を再燃焼させて燃費を向上させると共に高濃度の窒素酸化物(NOx)が生成されるのを抑制してエンジン22を運転することができる。
EGR停止判定フラグF1が値1のときや、EGR停止判定フラグF1が値0であってもEGR実行条件判定フラグF2が値0のときには、EGRを停止する必要があるか、EGRを停止する必要はないがEGR実行条件が成立していないと判断し、目標EGR量R*に値0を設定すると共に(ステップS160)、EGRバルブ54の目標開度EV*を0%に設定し(ステップS170)、EGRバルブ54が全閉となるようEGRバルブ54を駆動制御する(ステップS180)。この場合、EGRを停止しないと、EGRバルブ54に付着するデポジットによって良好に排気を吸気側に供給することができず、制御上の値である目標EGR量R*と実際のEGR量Rとのズレが大きくなり、エンジン22を適正に運転することが困難となることがある。実施例では、この場合にEGRを停止することにより、こうした不都合を解消することができる。即ち、EGRバルブ54に付着するデポジットの付着量が多くなったときでも適正にエンジン22を運転することができる。
次に、吸入空気量Qaに基づいて目標空燃比(例えば、理論空燃比など)となる基本燃料噴射量Qfbaseを設定し(ステップS190)、エンジン22が高負荷領域で運転されているか否かを示す高負荷判定フラグF3を設定する(ステップS200)。実施例では、エンジン22の回転数Neと吸入空気量Qaとにより示される運転ポイントが予め定めた高負荷領域にあるときにエンジン22が高負荷領域で運転されていると判定して値1を設定すると共に、エンジン22の運転ポイントが高負荷領域にないときにはエンジン22が高負荷領域で運転されていないと判定して値0を設定するものとした。図7に高負荷運転領域の一例を示す。図中、斜線で示した領域が高負荷領域を示す。なお、図7には、参考のために前述のEGR導入領域についても併せて示した。
こうして高負荷判定フラグF3を設定すると、設定した高負荷判定フラグF3の値を調べ(ステップS210)、高負荷判定フラグF3が値0のときには、エンジン22が高負荷領域で運転されていないと判断し、目標燃料噴射量Qf*に基本燃料噴射量Qfbaseを設定すると共に(ステップS220)、アクセル開度Accや目標燃料噴射量Qf*などに基づいてエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御,可変バルブタイミング機構50の開閉タイミング制御などの運転制御を行なって(ステップS230)、運転制御ルーチンを終了する。
ステップS210で高負荷判定フラグF3が値1のときには、エンジン22が高負荷領域で運転されていると判断し、続いて、EGR実行条件判定フラグF2の値およびEGR停止判定フラグF1の値を調べる(ステップS240,S250)。ステップS240の処理は、EGR実行条件が成立しているか否かを判定する処理であり、ステップS250の処理は、EGRを停止する必要があるか否かを判定する処理である。EGR実行条件判定フラグF2が値0のときには、EGRを実行する必要がないと判断し、EGR停止判定フラグF1の値に拘わらず、基本燃料噴射量Qfbaseとエンジン22の状態に基づいて設定される燃料噴射増量Qf1との和を目標燃料噴射量Qf*に設定すると共に(ステップS260)、アクセル開度Accと設定した目標燃料噴射量Qf*とに基づいてエンジン22を運転制御して(ステップS230)、運転制御ルーチンを終了する。一方、ステップS240でEGR実行条件判定フラグF2が値1のときに、ステップS250でEGR停止判定フラグF1が値0のときには、EGR実行条件が成立してEGRを停止する必要もないと判断し、基本燃料噴射量Qfbaseと燃料噴射増量Qf1との和を目標燃料噴射量Qf*に設定すると共に(ステップS260)、アクセル開度Accや目標燃料噴射量Qf*などに基づいてエンジン22を運転制御して(ステップS230)、運転制御ルーチンを終了し、ステップS240でEGR実行条件判定フラグF2が値1のときに、ステップS250でEGR停止判定フラグF1が値1のときには、EGR実行条件は成立しているがEGRを停止する必要があると判断し、基本燃料噴射量Qfbaseと燃料噴射増量Qf1と所定量の燃料噴射増量Qf2との和を目標燃料噴射量Qf*に設定すると共に(ステップS270)、アクセル開度Accや目標燃料噴射量Qf*などに基づいてエンジン22を運転制御して(ステップS230)、このルーチンを終了する。即ち、エンジン22が高負荷領域で運転されているときに、EGR実行条件が成立していないときやEGR実行条件が成立していてEGRを停止する必要もないときには、基本燃料噴射量Qfbaseに燃料噴射増量Qf1を加えたものを目標燃料噴射量Qf*に設定し、EGR実行条件が成立しているにも拘わらずEGRバルブ54に付着するデポジットの付着量が多くなりEGRを停止する必要が生じたときには、基本燃料噴射量Qfbaseと燃料噴射増量Qf1との和にさらに燃料噴射増量Qf2を加えて目標燃料噴射量Qf*設定するのである。こうすれば、EGRを停止したことに伴う不都合、例えば出力不足やエンジン22の失火などを抑制することができ、エンジン22をより適正に運転することができる。
以上説明した実施例の自動車20によれば、EGRバルブ開度EVが0%より大きいとき、即ち、エンジン22の排気を吸気側に供給するEGRを実行しているときに空燃比AFとEGRバルブ開度EVとに基づいて積算した付着量推定積算値Depが閾値Depref未満のときにはEGRを実行するための条件に応じてEGRを伴ってエンジン22を運転制御し、演算した付着量推定積算値Depが閾値Depref以上となったときにはEGRを停止してエンジン22を運転制御するから、EGRバルブ54に付着するデポジットの付着量をより適正に推定することができると共にEGRバルブ54に付着するデポジットの付着量が多くなったときでもエンジン22を適正に運転することができる。
また、実施例の自動車20によれば、エンジン22が高負荷領域で運転されているときであってEGRを実行する条件が成立しているときには、EGRバルブ54に付着するデポジットの付着量が多いためにEGRを停止しているときに、EGRを実行しているときに比して燃料噴射増量Qf2だけ増量して目標燃料噴射量Qf*を設定すると共に設定した目標燃料噴射量Qf*を用いてエンジン22を運転制御するから、排気の吸気側への供給を停止したことに伴う不都合、例えば出力不足やエンジン22の失火などを抑制することができ、エンジン22をより適正に運転することができる。
実施例の自動車20では、エンジン22が高負荷領域で運転されているときであってEGRを実行する条件が成立しているときには、EGRバルブ54に付着するデポジットの付着量が多いためにEGRを停止しているときに、EGRを実行しているときに比して燃料噴射増量Qf2だけ増量して目標燃料噴射量Qf*を設定するものとしたが、この燃料噴射増量Qf2は、固定値に限られず、エンジン22の回転数Neや吸入空気量Qaなどの種々の状態に基づいて設定されるものとしてもよい。また、エンジン22が高負荷領域で運転されているときには、EGRを実行する条件が成立しているか否かやEGRの実行を停止する必要があるか否かに拘わらず、燃料噴射量Qf2の増量を考慮せずに目標燃料噴射量Qf*を設定するものとしてもよい。
実施例の自動車20では、空燃比AFが閾値AFref未満の領域では、空燃比AFが小さいほど曲線的に大きくなる傾向に補正係数k1を設定するものとしたが、一定の値(例えば、値1)を補正係数k1として設定するものとしてもよいし、1以上の段数をもって段階的に大きくなる傾向に補正係数k1を設定するものとしてもよい。また空燃比AFが閾値AFref未満か否かに拘わらず空燃比AFに対する全領域において空燃比AFが小さいほど大きくなる傾向に補正係数k1を設定するものとしてもよい。
実施例の自動車20では、EGRバルブ開度EVが大きいほど曲線的に大きくなる傾向に補正係数k2を設定するものとしたが、EGRバルブ開度EVが0%より大きいときには、一定の値(例えば、値1)を補正係数k2として設定するものとしてもよいし、1以上の段数をもって段階的に大きくなる傾向に補正係数k2を設定するものとしてもよい。
実施例の自動車20では、基準値Dep0と補正係数k1,k2との積を積算して付着量推定積算値Depを演算するものとしたが、付着量推定積算値Depは少なくとも空燃比AFに基づいて演算されればよいから、空燃比AFに基づいて予め定めた図示しない付着量推定マップを用いて設定した値を積算して付着量推定積算値Depを演算するものとしてもよいし、空燃比AFが閾値AFref(例えば理論空燃比)より小さいときに所定値ずつインクリメントするカウンタにより付着量推定積算値Depを演算するものとしてもよい。
実施例の自動車20では、空燃比AFとEGRバルブ開度EVに基づいて付着量推定積算値Depを演算するものとしたが、EGRバルブ開度EVに代えて、目標EGR量R*や目標EGRバルブ開度EV*など如何なる情報に基づいて付着量推定積算値Depを演算するものとしてもよい。
実施例の自動車20では、デポジット推定積算値Depが閾値Depref以上となったときには警告灯90が点灯するものとしたが、EGRバルブ54に付着するデポジットの付着量が多くなりEGRを良好に行なうことができないことを報知することができればよいから、警告灯90の代わりに音や光,振動など種々の手法を用いるものとしてもよい。また、こうした運転者への報知を行なわないものとしてもよい。
実施例では、エンジン22からの動力を用いて走行する自動車20に適用して説明したが、エンジン22からの動力を用いて走行する車両であれば如何なる車両に適用してもよく、図8の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、駆動輪69a,69b側に遊星歯車機構130を介して動力を出力するエンジン22およびモータMG1と、同じく駆動輪側に動力を入出力可能なモータMG2とを備える車両に適用するものとしてもよい。
また、こうした自動車に搭載された内燃機関装置の形態として用いるものとしてもよい。さらに、列車などの自動車以外の車両を含む移動体に搭載された内燃機関や建設設備などの移動しない設備に組み込まれた内燃機関などの内燃機関装置としてもよい。あるいは、こうした内燃機関装置の制御方法の形態としても構わない。
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、EGR管52やEGRバルブ54,EGRバルブ54を制御する電子制御ユニット70が「排気供給手段」に相当し、EGRバルブ開度EVが0%のときには前回の付着量推定積算値(前回Dep)を保持し、EGRバルブ開度EVが0%より大きいときには空燃比AFとEGRバルブ開度EVとに基づいてEGRバルブ54に付着するデポジットの付着量を推定するのに用いる補正係数k1,k2を設定すると共に前回の付着量推定積算値(前回Dep)に基準値Dep0と補正係数k1,k2との積を加えて付着量推定積算値Depを演算する図3のEGR停止判定フラグ設定処理のステップS300〜S330の処理を実行する電子制御ユニット70が「付着量推定パラメータ積算手段」に相当し、付着量推定積算値Depが閾値Depref未満のときにEGR停止判定フラグF1に値0を設定し、付着量推定積算値Depが閾値Depref以上のときにEGR停止判定フラグF1に値1を設定する図3のEGR停止判定フラグ設定処理のステップS340〜S370を実行すると共に、EGR停止判定フラグF1が値0のときには、EGR実行条件判定フラグF2の値に応じてEGRの実行を伴ってエンジン22を運転制御し、EGR停止判定フラグF1が値1のときにはEGRを停止してエンジン22を運転制御する図3の運転制御ルーチンを実行する電子制御ユニット70が「制御手段」に相当する。また、警告灯90が「報知手段」に相当する。
ここで、「内燃機関」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「排気供給手段」としては、EGR管52やEGRバルブ54,EGRバルブ54を制御する電子制御ユニット70に限定されるものではなく、内燃機関の排気を内燃機関の吸気系に供給可能であれば如何なるものとしても構わない。「付着量推定パラメータ積算手段」としては、EGRバルブ開度EVが0%のときには前回の付着量推定積算値(前回Dep)を保持し、EGRバルブ開度EVが0%より大きいときには空燃比AFとEGRバルブ開度EVとに基づいてEGRバルブ54に付着するデポジットの付着量を推定するのに用いる補正係数k1,k2を設定すると共に前回の付着量推定積算値(前回Dep)に基準値Dep0と補正係数k1,k2との積を加えて付着量推定積算値Depを演算するものに限定されるものではなく、排気供給手段によって排気を吸気系に供給しているときに少なくとも内燃機関の空燃比に基づいて排気供給手段に付着する異物の付着量を判定するためのパラメータである付着量推定パラメータを積算するものであれば如何なるものとしても構わない。「制御手段」としては、付着量推定積算値Depが閾値Depref未満のときにEGR停止判定フラグF1に値0を設定してEGR実行条件判定フラグF2の値に応じてEGRの実行を伴ってエンジン22を運転制御し、付着量推定積算値Depが閾値Depref以上のときにEGR停止判定フラグF1に値1を設定してEGRを停止してエンジン22を運転制御するものに限定されるものではなく、エンジン22が高負荷運転領域で運転されているときであってEGR実行条件判定フラグF2が値1のときには、EGR停止判定フラグF1が値1のときにEGR停止判定フラグF1が値0のときよりも大きい目標燃料噴射量Qf*を用いてエンジン22を制御するものとするなど、積算された付着量推定パラメータが所定値未満のときには必要に応じて排気供給手段による排気の吸気系への供給を伴って内燃機関を運転制御し、積算された付着量推定パラメータが所定値以上のときには排気供給手段による排気の吸気系への供給を停止した状態で内燃機関を運転制御するものであれば如何なるものとしても構わない。「報知手段」としては、警告灯90に限定されるものではなく、音や光,振動など種々の手法を用いるものとしてもよく、積算された付着量推定パラメータが前記所定値以上に至ったのを報知するものであれば如何なるものとしても構わない。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。