JP4797240B2 - 熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、透明性を有するゴム含有スチレン系熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、さらに詳しくは、透明性、耐薬品性および色調安定性が均衡して優れたゴム含有スチレン系熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ジエン系ゴムなどのゴム質重合体に、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物を共重合したグラフト共重合体を含有してなる透明ABS樹脂は、透明性、耐衝撃性、剛性などの機械的強度バランス、成形加工性およびコストパフォーマンスなどに優れることから、家電製品、通信関連機器および一般雑貨などの用途分野で幅広く利用されている。
【0003】
しかし、このような透明ABS樹脂は、有機溶媒などの薬品類や洗剤などの溶剤に対する耐性が低いことに起因して、使用される用途が制限されているのが実情である。
【0004】
これら透明ABS樹脂の耐薬品性を改善するための手段としては、シアン化ビニル化合物の含有割合を高めることが一般に知られており、いわゆる高ニトリル含有熱可塑性樹脂組成物が種々提案されている。
【0005】
たとえば、耐薬品性の向上という点では、グラフト共重合体のグラフト率を規定した樹脂組成物(特開平4−258619号公報、特開平5−78428号公報)、およびマトリックス成分にメタクリル酸エステルを必須成分とした高ニトリル含有熱可塑性樹脂組成物(特開平4−126756号公報)などが知られている。
【0006】
しかしながら、上述した従来の高ニトリル含有熱可塑性樹脂組成物においては、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物との反応速度が異なるため、均一な組成のポリマーを得ることが困難であった。そのため、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物からなる共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物は、成形加工時に黄色に着色しやすく、変色により品質が低下してしまうという問題が生じていた。
【0007】
したがって、透明性、耐薬品性および色調安定性が均衡に優れた高ニトリル含有熱可塑性樹脂組成物は得られていないのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、透明性、耐薬品性および色調安定性が均衡して優れたゴム含有スチレン系熱可塑性樹脂組成物の提供を目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ビニル系単量体混合物を重合してなるビニル系共重合体に、ゴム含有グラフト重合体が分散した熱可塑性樹脂組成物を調製するに際し、特定の条件を満たす場合に、透明性、耐薬品性に優れ、かつ色調安定性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性であって、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜40重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)10〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜40重量%を含有するビニル系単量体混合物(a)を重合してなるビニル系共重合体(A)40〜90重量部に、ゴム質重合体(b)の存在下に1種以上のビニル系単量体(c)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)10〜60重量部が分散してなる熱可塑性樹脂組成物であって、ビニル系共重合体(A)中のアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスの割合が10重量%以下であり、ビニル系共重合体(A)の溶解度パラメーターが10.5〜12.5(cal/ml)1/2であり、ヘイズ値が30%以下であることを特徴とする。
【0011】
なお、本発明の透明性熱可塑性樹脂組成物においては、ヘイズ値が30%以下であること、前記グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体成分と前記アセトン可溶分との屈折率の差が0.03以内であること、本発明の透明性熱可塑性樹脂組成物は、ビニル系単量体混合物(a)のうちシアン化ビニル単量体(a3)の50重量%以上を重合転化率30%に達する以前に重合系内に添加し、芳香族ビニル系単量体(a1)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)の50重量%以上を重合転化率が10%に達した後に添加して重合することにより製造された前記ビニル系共重合体(A)40〜90重量部と、前記グラフト共重合体(B)10〜60重量部を混合して製造されることが、いずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件を満たす場合にはさらに優れた効果の取得を期待することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明において、ビニル系共重合体(A)に使用する芳香族ビニル系単量体(a1)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレンなどが挙げられるが、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0013】
ビニル系共重合体(A)を形成するビニル系単量体混合物(a)においては、芳香族ビニル系単量体(a1)を5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%の範囲で使用する必要がある。上記の範囲未満ではIzod衝撃強度、剛性などの機械特性が著しく低下し、また上記の範囲を越えると透明性が著しく低下する傾向となる。
【0014】
本発明において、ビニル系共重合体(A)に使用する不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチルおよび(メタ)アクリル酸2−クロロエチルなどが挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0015】
ビニル系共重合体(A)を形成するビニル系単量体混合物(a)においては、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を30〜80重量%、好ましくは35〜75重量%の範囲で使用する必要がある。上記の範囲未満では透明性を得ることが困難となり、また上記の範囲を越えると耐薬品性が著しく低下する傾向となる。
【0016】
本発明において、ビニル系共重合体(A)に使用するシアン化ビニル系単量体(a3)の具体例としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0017】
ビニル系共重合体(A)を形成するビニル系単量体混合物(a)においては、シアン化ビニル系単量体(a3)を10〜50重量%、好ましくは12〜40重量%の範囲で使用する必要がある。上記の範囲未満では耐薬品性が著しく低下し、また上記の範囲を越えると望ましい色調安定性が得られない傾向となる。
【0018】
本発明において、ビニル系共重合体(A)に使用する共重合可能な他の単量体(a4)には特に制限はないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、イタコン酸、マレイン酸などの重合性不飽和カルボン酸、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド化合物、マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸無水物およびアクリルアミドなどの不飽和アミドなどが挙げられ、なかでもN−フェニルマレイミドおよび無水マレイン酸が好ましく使用される。
【0019】
本発明において熱可塑性樹脂組成物のヘイズ値は30%以下、好ましくは15%以下とする必要がある。上記の範囲を越えると透明性が著しく低下する傾向となる。
【0020】
ビニル系共重合体(A)を形成するビニル系単量体混合物(a)において、共重合可能な他の単量体(a4)は、0〜40重量%の範囲で使用され、特に耐薬品性の点からは0〜30重量%の範囲で使用される。
【0021】
ビニル系単量体混合物(a)は、ビニル系共重合体(A)の溶解度パラメーターが、10.5〜12.5(cal/ml)1/2 となるように、各単量体の組成を選択する。ここでいう溶解度パラメーターの定義を下記式(1)に示す。
【0022】
δ=(ΣΔEi・X/ΣΔVm・X)1/2(1)
δ:ビニル系共重合体(A)の溶解度パラメーター((cal/ml)1/2)
X:ビニル系共重合体(A)を構成する共重合成分のモル分率(%)
ΔEi:ビニル系共重合体(A)を構成する共重合成分の蒸発エネルギー(cal/mol)
ΔVm:ビニル系共重合体(A)を構成する共重合成分の分子容(ml/mol)
上記式(1)およびX、ΣΔEi、ΣΔVmの各数値は、H.Burrell,Offic.Dig.、A.J.Tortorello,M.A.Kinsella,J.Coat.Technol.から引用したものである。熱可塑性樹脂組成物の耐薬品性および機械特性の点からは、ビニル系共重合体(A)の溶解度パラメーターが10.5〜12.5(cal/ml)1/2が好ましい。より好ましくは、10.7〜12.3(cal/ml)1/2である。
【0023】
ビニル系共重合体(A)の重合方法には特に限定はないが、透明性、生産性の点から、懸濁重合法または乳化重合法がそれぞれ好ましく選択される。以下に製造方法の一例について述べる。
【0024】
懸濁重合または乳化重合においては、ビニル系単量体混合物(a)の分散媒として適当な非溶媒を用いることができるが、良好な重合熱の除熱効率と重合後の処理の容易さから水が好ましい。
【0025】
懸濁重合に用られる懸濁安定剤には特に制限はないが、粘土、硫酸バリウム、水酸化マグネシウムなどの無機系懸濁安定剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリルアミド、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体などの有機系懸濁安定剤などが挙げられ、なかでも有機系懸濁安定剤が色調安定性の面で好ましく使用される。これらの懸濁安定剤は、1種または2種以上を併用して使用される。
【0026】
乳化重合に用られる乳化剤には特に制限はなく、各種の界面活性剤が使用できるが、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型などのアニオン系界面活性剤が特に好ましく使用される。このような乳化剤の具体例としては、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリル酸塩、ミスチリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、ロジン酸塩、ベヘン酸塩、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、その他高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニールエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などが挙げられる。ここでいう塩とはアルカリ金属塩、アンモニウム塩などであり、アルカリ金属塩の具体例としてはカリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、などが挙げられる。これらの乳化剤は、1種または2種以上を併用して使用される。
【0027】
重合に使用される開始剤としては、過酸化物またはアゾ系化合物などが用いられる。過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカルボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオクテート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどが挙げられる。なかでもクメンハイドロパーオキサイドおよび1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサンが特に好ましく用いられる。アゾ系化合物の具体例として、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、1,1′−アゾビスシクロヘキサン−1−カーボニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2′−アゾビスイソブチレート、1−t−ブチルアゾ−1−シアノシクロヘキサン、2−t−ブチルアゾ−2−シアノブタン、2−t−ブチルアゾ−2−シアノ−4−メトキシ−4−メチルペンタンなどが挙げられる。これらの開始剤を使用する場合、1種または2種以上を併用して使用される。なかでもアゾビスイソブチロニトリルが特に好ましく用いられる。
【0028】
懸濁重合または乳化重合を行うに際しては、得られるビニル系共重合体(A)の重合度調節を目的として、メルカプタン、テルペンなどの連鎖移動剤を使用することも可能であり、その具体例としては、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、およびテルピノレンなどが挙げられる。これらの連鎖移動剤を使用する場合は、1種または2種以上を併用して使用される。なかでもn−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0029】
本発明におけるビニル系共重合体(A)の還元粘度(ηsp/ c)には特に制限はないが、0.1〜1.0dl/g、特に0.2〜0.7dl/gの範囲にあることが、耐衝撃性および成形性のバランスの点から好ましい。
【0030】
本発明に用いられるビニル系共重合体(A)を重合するに際しては、シアン化ビニル単量体(a3)の50重量%以上を重合転化率が30%に達する以前に重合系内に添加する方法を用いると、重合末期の残モノマー中のシアン化ビニル単量体(a3)含有量を低く保つことができるため、得られる熱可塑性樹脂の色調がさらに優れることになるために好ましい。また、シアン化ビニル単量体(a3)の70重量%以上を重合転化率が30%に達する以前に重合系内に添加することがより好ましい。
【0031】
また、芳香族ビニル系単量体(a1)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)については、その50重量%以上を重合転化率が10%に達した後に添加するのが好ましく、より好ましくは60重量%以上を重合転化率が10%に達した後に添加するのが好ましい。重合転化率が10%に達した後に50重量%以上の芳香族ビニル系単量体(a1)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)を添加することによって、重合後期での系内のシアン化ビニル単量体(a3)濃度を低く抑えることができる。
【0032】
なお、ここでいう重合転化率とは、均一に混合した系内から未反応モノマーを測定し、仕込みモノマー量から未反応モノマー量を引いて転化しているポリマー量を算出し、全モノマー量に対して転化しているポリマー量の比率を計算したものである。
【0033】
本発明におけるグラフト共重合体(B)に用いられるゴム質重合体(b)には特に制限はないが、具体例としては、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレン−ジエンラバー、ポリ(エチレン−イソプレン)、およびポリ(エチレン−アクリル酸メチル)などが挙げられる。これらのゴム質重合体(b)は、1種または2種以上の混合物で使用される。なかでも、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、およびエチレン−プロピレンラバーの使用が、耐衝撃性の点で好ましい。
【0034】
また、グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体(b)の含有量には特に制限はないが、20〜80重量部、特に35重量部〜60重量部の範囲が好ましく、20重量部未満では得られる熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度が低下し、80重量部を越えると溶融粘度が上昇して成形性が悪くなるため好ましくない。
【0035】
上記ゴム質重合体(b)の重量平均粒子径は、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、成形加工性、流動性および外観の点から、0.1〜1.5μm、好ましくは0.15〜1.2μmの範囲である。
【0036】
グラフト共重合体(B)を構成するビニル系単量体混合物(c)には特に制限はないが、優れた透明性を得るためには、上記ゴム質重合体(b)とグラフト成分の屈折率差が0.03以内、特に0.01以内となるように選択するのが好ましい。ビニル系単量体混合物(c)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体および(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチルおよび(メタ)アクリル酸2−クロロエチルなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体が挙げることができるが、特にスチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリルおよびメタクリル酸メチルが好ましい。これらは1種または2種以上用いても構わない。
【0037】
本発明におけるグラフト共重合体(B)を構成するグラフト成分の還元粘度(ηsp/ c)は特に制限はないが、0.05〜1.2dl/g、特に0.1〜0.7dl/gの範囲にあることが、耐衝撃性および成形性のバランスの点から好ましい。
【0038】
グラフト共重合体(B)のグラフト率には制限はないが、耐衝撃性の点からは5〜150重量%、好ましくは10〜100重量%のものが使用される。
【0039】
グラフト共重合体(B)の製造方法には制限ないが、好ましくは乳化重合法または塊状重合法が採用される。なかでも過度の熱履歴によるゴム成分の劣化、および着色を抑制するという点から、乳化重合法で製造されることが最も好ましい。単量体の仕込方法には特に制限はなく、初期一括仕込みするか、共重合体組成の分布を制御するため単量体の一部または全てを連続的に仕込むか、もしくは単量体の一部または全てを分割して仕込んでもよい。通常、乳化重合はゴム状重合体ラテックスの存在化に単量体混合物を乳化グラフト重合する。この乳化グラフト重合に用いられる乳化剤に特に制限はなく、各種の界面活性剤が使用できるが、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型などのアニオン系界面活性剤が特に好ましく使用される。このような乳化剤の具体例としては、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリル酸塩、ミスチリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、ロジン酸塩、ベヘン酸塩、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、その他高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニールエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、およびポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などが挙げられる。ここでいう塩とはアルカリ金属塩、アンモニウム塩などであり、アルカリ金属塩の具体例としてはカリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、などが挙げられる。これらの乳化剤は、1種または2種以上を併用して使用される。
【0040】
また、これら乳化グラフト重合で使用可能な開始剤および連鎖移動剤としては、上記共重合体(A)の製造で例示した開始剤および連鎖移動剤が挙げられ、開始剤はレドックス系でも使用される。
【0041】
乳化グラフト重合で製造されたグラフト共重合体ラテックスからは、次いで凝固剤を添加してラテックスを凝固してグラフト共重合体(B)を回収する。凝固剤としては酸または水溶性塩が用いられ、その具体例としては、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、および硫酸アルミニウムナトリウムなどが挙げられる。これらの凝固剤は1種または2種以上の混合物で使用される。
【0042】
グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体(b)と、ビニル系共重合体(A)との屈折率の差には特に限定はないが、透明性の点からは、0.03以下、特に0.01以下であることが好ましい。屈折率は、アッベ屈折計を用いて測定した値である。ゴム質重合体(a)とビニル系共重合体(A)との屈折率の差が0.03を越えると透明性が著しく低下する傾向となる。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成するグラフト共重合体(B)とビニル系共重合体(A)の混合比は、グラフト共重合体(B)10〜60重量部、ビニル系共重合体(A)40〜90重量部、好ましくはグラフト共重合体(B)20〜50重量部、ビニル系共重合体(A)50〜80重量部の範囲である。なお、ビニル系共重合体(A)は、上記屈折率および溶解度パラメーターの条件を満たす限りにおいては、それぞれ複数種類用いることができる。グラフト共重合体(B)が10重量部未満もしくはビニル系共重合体(A)が90重量部を越えると、衝撃強度が低下する傾向となる。また、グラフト共重合体(B)が60重量部を越えると、溶融粘度が上昇して成形加工性が悪化する傾向となる。
【0044】
本発明におけるビニル系共重合体(A)中のアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスの割合は、10重量%以下である。アクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスとは、下記式(I)に表される、アセトン可溶分中に含有される共重合体中のセグメントであり、かかるセグメントを有する共重合体が高温にさらされる状態では、下記式(II)に示す分子内環化反応が進むため、着色の原因となる。
【0045】
【化1】
【0046】
【化2】
ビニル系共重合体(A)中のアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスの割合が10重量%を越えると、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融時の色調安定性が悪くなる。上記3連シーケンスの割合は、色調安定性の点から、好ましくは8重量%未満、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、各種エラストマー類を加えて成形用樹脂としての性能を改良することができる。また、必要に応じてヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系、ヒンダードアミン系などの光安定剤などの各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類、リン酸エステル類などの可塑剤、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化ポリカーボネートオリゴマーなどの含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモンなどの難燃剤・難燃助剤、帯電防止剤、カーボンブラック、酸化チタン、顔料および染料などを添加することもできる。さらに、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、金属繊維などの補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0048】
かくしてなる本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性、耐薬品性および色調安定性が均衡して優れ、かつ耐衝撃性、剛性などの機械的強度バランス、成形加工性およびコストパフォーマンスなどにも優れることから、家電製品、通信関連機器および一般雑貨などの用途分野で幅広く利用することができる。
【0049】
【実施例】
本発明をさらに具体的に説明するため、以下に実施例および比較例を挙げるが、これら実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、ここで特に断りのない限り「%」は重量%、「部」は重量部を示す。熱可塑性樹脂組成物の樹脂特性の分析方法を下記する。
(1)重量平均ゴム粒子径
「Rubber Age Vol.88 p.484〜490(1960)by E.Schmidt, P.H.Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法(アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求める)に準じて測定した。
(2)グラフト率
グラフト共重合体の所定量(m;約1g)にアセトン200mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、この不溶分を60℃で5時間減圧乾燥し、その重量(n)を測定した。グラフト率は下記式より算出した。ここでLはグラフト共重合体のゴム含有量である。
【0050】
グラフト率(%)={[(n)−(m)×L]/[(m)×L]}×100
(3)共重合体(A)の還元粘度(ηsp/c)
測定するサンプルを0.4g/100mlメチルエチルケトン溶液として、ウベローデ粘度計を用い、30℃でηsp/cを測定した。
(4)グラフト成分(d)の還元粘度(ηsp/c)
グラフト共重合体サンプル1gにアセトン200mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過する。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物(アセトン可溶分)を60℃で5時間減圧乾燥したものを(3)と同様に0.4g/100mlメチルエチルケトン溶液として、ウベローデ粘度計を用い、30℃でηsp/cを測定した。
(5)重合転化率
島津製作所(株)製、ガスクロマトグラフ(GC−14A)を用いて未反応モノマー含有量を測定した。重合率は下記式により算出した
重合率(重量%)=(仕込みモノマー量−未反応モノマー量)/全モノマー量×100
(6)共重合体(A)およびゴム質重合体(b)の屈折率
測定するサンプルに、1−ブロモナフタレンを少量滴下し、アッベ屈折計を用いて以下の条件で屈折率を測定した。
【0051】
光源:ナトリウムランプD線
測定温度:20℃
(7)アセトン可溶分中のアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンス割合
上記(4)と同じ操作により得たアセトン可溶分を試料として、13C−NMRに現れるアクリロニトリル単量体単位のα−炭素のシグナルシフトが隣接モノマー種の違いで若干異なることを利用し、3連シーケンスの割合をそのシグナル積分値から定量し、全単量体単位中、3連シーケンス中央のアクリロニトリル単量体単位の重量分率として表示した。測定条件は以下の通りである。
【0052】
装置 :JEOL JNM−GSX400型
観測周波数 :100.5MHz
溶媒 :DMSO−d6
濃度 :445mg/2.5mL
化学シフト基準:Me4Si
温度 :110℃
観測幅 :20000Hz
データ点 :32K
flip angle :90°(21μs)
pulsedelaytime:5.0s
積算回数 :7400または8400
デカップリング:gated decoupling(without NOE)
アクリロニトリルシーケンスの帰属(A:アクリロニトリル、S:スチレン):
−A−A−A− 118.6〜119.2ppm
−A−A−S− 119.3〜120.2ppm
−S−A−S− 120.2〜121.3ppm
(8)共重合体(A)中のアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンス割合
上記アセトン可溶分の代わりに共重合体(A)を試料として用いる以外は、上記(13)と同じ操作により求めた。
(9)透明性(ヘイズ値)
80℃熱風乾燥機中で3時間乾燥した樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度250℃に設定した東芝(株)製IS50A成形機内に充填し、即時に成形した角板成形品(厚さ3mm)のヘイズ値[%]を東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを使用して測定した。
(10)色調(YI値)
JIS K7103に準拠して測定した。
(11)曲げ弾性率
ASTM D790(23℃)に準拠して測定した。
(12)アイゾット衝撃強度
ASTM D256(23℃,Vノッチ付き)に準拠して測定した。
(13)耐薬品性
プレス成形した試験片(127×12.7×1mm)を、図1に示した1/4楕円治具に沿わして固定した後、250mlのフロン141bを入れた直径300mmのデシケータ内に治具ごと設置した。23℃環境下で24時間放置後、クレ−ズおよびクラックの発生有無を確認し、下記式により臨界歪み(%)を算出し、その値が0.5%未満のものを×、0.5%〜1.0%のものを△、1.0%〜2.0%のものを○、2.0%を超えるものを◎とした。
【0053】
【数1】
ε:臨界歪み (%)
a:治具の長軸 (mm) [127mm]
b:治具の短軸 (mm) [38mm]
t:試験片の厚み(mm) [1. 5mm]
X:クラック発生点の長方向長(mm)
[参考例1…ビニル系共重合体(A)の製造]
[A−1]:
20リットルのオートクレーブに0.05部のメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体(特公昭45−24151号公報記載)を165部の純水に溶解した溶液を入れて400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、アクリロニトリル5部、スチレン25部、アゾビスイソブチロニトリル0.3部およびt−ドデシルメルカプタン0.5部の混合溶液を反応系を撹拌しながら添加し、60℃にて共重合反応を開始し、30分かけて70℃まで昇温した。重合開始から30分後、メタクリル酸メチルを供給ポンプを使用して10部添加した。なお、追添加開始時の重合添加率を測定した結果12%であった。その後30分間隔で各20部×3回メタクリル酸メチルを反応系に添加した。全モノマーの添加終了後60分かけて100℃に昇温した。到達後30分間100℃でコントロールした後、冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、ビーズ状共重合体を得た。
【0054】
得られたビニル系共重合体(A−1)のアクリロニトリル共重合量は約5%、溶解度パラメーターは10.2(cal/ml)1/2 、還元粘度は0.30dl/g、3連シーケンス割合は2重量%であった。
[A−2]:
上記A−1の条件のうち、混合溶液におけるアクリロニトリルの量を30部、スチレンの量を18部とした。重合開始から30分後にメタクリル酸メチル12部を添加した。なお追添加開始時の重合転化率は15%であった。その後30分間隔で20部×2回メタクリル酸メチルを反応系に添加した。その後はA−1と同様の方法で重合を行い、ビーズ状共重合体を得た。
【0055】
得られたビニル系共重合体(A−2)のアクリロニトリル共重合量は約30%、溶解度パラメーターは11.5(cal/ml)1/2 、還元粘度は0.35dl/g、3連シーケンス割合は3重量%であった。
[A−3]
上記A−1の条件のうち、混合溶液におけるアクリロニトリルの量を30部、スチレンの量を10部とした。重合開始から30分後にアクリロニトリル30部を添加した。このときの重合転化率は10%であった。その後30分間隔で15部×2回メタクリル酸メチルを反応系に添加した。その後はA−1と同様の方法で重合を行い、ビーズ状共重合体を得た。
【0056】
得られたビニル系共重合体(A−3)のアクリロニトリル共重合量は約60%、溶解度パラメーターは12.7(cal/ml)1/2 、還元粘度は0.47dl/g、3連シーケンス割合は21重量%であった。
[A−4]
上記A−1の条件のうち、混合溶液におけるアクリロニトリルの量を30部、スチレンの量を18部、メタクリル酸メチルの量を52部とした。その180分かけて100℃まで昇温し、到達後30分間100℃でコントロールした。その後はA−1と同様の方法でビーズ状共重合体を得た。
【0057】
得られたビニル系共重合体(A−4)のアクリロニトリル共重合量は約30%、溶解度パラメーターは11.5(cal/ml)1/2 、還元粘度は0.32dl/g、3連シーケンス割合は19重量%であった。
[A−5]
上記A−1の条件のうち、混合溶液におけるアクリロニトリルの量を30部、メタクリル酸メチルの量を20部とした。重合開始から30分後にスチレン10部を添加した。このときの重合転化率は11%であった。その後30分間隔で20部×2回スチレンを反応系に添加した。その後はA−1と同様の方法で重合を行い、ビーズ状共重合体を得た。
【0058】
得られたビニル系共重合体(A5)のアクリロニトリル共重合量は約30%、溶解度パラメーターは11.6(cal/ml)1/2 、還元粘度は0.35dl/g、3連シーケンス割合は9重量%であった。
[A−6]
上記A−1と同様の反応容器を使用して、純水200部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第一鉄(0.01部)、リン酸ナトリウム0.1部および乳化剤であるラウリン酸ナトリウム2.5部を反応容器に仕込み、窒素置換後60℃に温調し、アクリロニトリル30部、スチレン10部、n−ドデシルメルカプタン0.3部およびクメンハイドロパーオキサイド0.3部の混合物を撹拌下で添加後、30分かけて70℃まで昇温した。重合開始から30分後、メタクリル酸メチルを供給ポンプを使用して12部添加した。なお追添加開始時の重合添加率を測定した結果12%であった。その後30分間隔で各15部×2回メタクリル酸メチルを反応系に添加した。全モノマーの添加終了後60分かけて100℃に昇温した。到達後30分間100℃でコントロールした後、冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行って、ビーズ状共重合体を得た。
【0059】
得られたビニル系共重合体(A−6)のアクリロニトリル共重合量は約30%、溶解度パラメーターは11.5(cal/ml)1/2 、還元粘度は0.42dl/g、3連シーケンス割合は4重量%であった。
[参考例2…グラフト共重合体(B)の製造]
[B−1]
ポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.3μm、ゲル含率85%)50部(固形分換算)、純水200部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第一鉄(0.01部)およびリン酸ナトリウム0.1部を反応容器に仕込み、窒素置換後65℃に温調し、撹拌下スチレン11.5部、アクリロニトリル4.0部、メタクリル酸メチル34.5部およびn−ドデシルメルカプタン0.3部の混合物を4時間かけて連続滴下した。同時に並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25部、乳化剤であるラウリン酸ナトリウム2.5部および純水25部の混合物を5時間かけて連続滴下し、滴下終了後さらに1時間保持して重合を終了させた。
【0060】
重合を終了したラテックスを1.5%硫酸で凝固し、次いで水酸化ナトリウムで中和、洗浄、遠心分離、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体を得た。
【0061】
得られたグラフト共重合体(B−1)のグラフト成分の還元粘度は0.30dl/gであり、グラフト率は47重量%であった。
[B−2]
上記B−1の条件のうち、混合物におけるスチレンの量を10部、アクリロニトリルの量を10部、メタクリル酸メチルの量を30部とし、その後はB−1と同様の方法でパウダー状グラフト共重合体を得た。
【0062】
得られたグラフト共重合体(B−2)のグラフト成分の還元粘度は0.45dl/gであり、グラフト率は52重量%であった。
[実施例1〜4]
上記参考例で製造したビニル系共重合体(A−2)および(A−6)と、グラフト共重合体(B−1)および(B−2)とを、表1に示す配合割合としてヘンシェルミキサーで混練した後、40mmφ押し出し機により、押し出し温度230℃でガット状に押し出しペレット化した。次いで、得られたペレットを用いて、成形温度230℃、金型温度40℃で射出成形し、評価用の試験片を作製した。
【0063】
これらの試験片について各物性を測定した結果を表2に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
表1と表2の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜4の熱可塑性樹脂組成物は、透明性、色調安定性および耐薬品性のすべてにおいて均衡に優れている。
[比較例1〜8]
上記参考例で製造したビニル系共重合体(A−1)、(A−3)、(A−4)および(A−5)と、グラフト共重合体(B−1)および(B−2)とを、表3に示す配合割合としてヘンシェルミキサーで混練した後、40mmφ押し出し機により、押し出し温度230℃でガット状に押し出しペレット化した。次いで、得られたペレットを用いて、成形温度230℃、金型温度40℃で射出成形し、評価用の試験片を作製した。
【0066】
これらの試験片について各物性を測定した結果を表4に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
表3と表4の結果から判るように、比較例1、2ではビニル系共重合体におけるシアン化ビニル系単量体の含有量が10重量%より少ないため、耐薬品性が劣っている。また、比較例3、4ではビニル系共重合体におけるシアン化ビニル単量体の含有量が50重量%より多く、3連シーケンス割合が規定範囲よりも高いため、色調安定性が極めて劣っている。比較例5,6でも3連シーケンス割合が高いため色調安定性に劣っている。また、比較例7、8はビニル系共重合体中の芳香族ビニル系単量体の共重合量が多く、かつ不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体の共重合量が少ないため、ビニル系共重合体とゴム質重合体との屈折率差が大きく、透明性に劣るものであった。
【0069】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性、耐薬品性および色調安定性が均衡して優れ、かつ耐衝撃性、剛性などの機械的強度バランス、成形加工性およびコストパフォーマンスなどにも優れることから、家電製品、通信関連機器および一般雑貨などの用途分野で幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は耐薬品性の評価に使用する1/4楕円治具の斜視説明図である。
【符号の説明】
1 1/4楕円治具
2 試験片
3 薬液塗布面
4 クラック
X クラック発生箇所からの距離
Claims (3)
- 芳香族ビニル系単量体(a1)5〜40重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)10〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜40重量%を含有するビニル系単量体混合物(a)を重合してなるビニル系共重合体(A)40〜90重量部に、ゴム質重合体(b)の存在下に1種以上のビニル系単量体(c)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)10〜60重量部が分散してなる熱可塑性樹脂組成物であって、ビニル系共重合体(A)中のアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスの割合が10重量%以下であり、ビニル系共重合体(A)の溶解度パラメーターが10.5〜12.5(cal/ml)1/2であり、ヘイズ値が30%以下であることを特徴とする透明性熱可塑性樹脂組成物。
- 前記グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体成分と、前記ビニル系共重合体(A)との屈折率の差が0.03以内であることを特徴とする請求項1に記載の透明性熱可塑性樹脂組成物。
- 芳香族ビニル系単量体(a1)5〜40重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)10〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜40重量%を含有するビニル系単量体混合物(a)の重合において、シアン化ビニル単量体(a3)の50重量%以上を重合転化率30%に達する以前に重合系内に添加し、芳香族ビニル系単量体(a1)、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)の50重量%以上を重合転化率が10%に達した後に添加して重合することにより製造されるビニル系共重合体(A)40〜90重量部と、ゴム質重合体(b)の存在下に1種以上のビニル系単量体(c)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)10〜60重量部を混合することを特徴とする、請求項1または2に記載の透明性熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
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