本発明は、液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス表示素子、電気泳動方式表示素子、トナー表示素子などの電子ペーパーや、フィルム型太陽電池などに用いられるガスバリア層として、酸化スズ系の透明酸化物膜をスパッタリング法で作製するために使用される酸化物焼結体、および、該酸化物焼結体を用いて得られる透明酸化物膜、ガスバリア性透明樹脂基板、ガスバリア性透明導電性樹脂基板およびフレキシブル表示素子に関する。
プラスチック基板やフィルム基板の表面に、酸化珪素や酸化アルミニウム等の金属酸化物膜を覆ったガスバリア性フィルム(透明樹脂基板)は、水蒸気や酸素などのガスを遮断することが必要とされる食品や薬品などに対し、変質を防止する目的で、包装用途として用いられてきた。また、電子機器の分野でも、たとえば、液晶表示素子や太陽電池、エレクトロルミネッセンス(EL)表示素子などのフレキシブル表示素子に利用されている。
液晶表示素子やEL表示素子などに利用されているガスバリア性フィルムには、近年、表示素子の展開に合わせて、軽量化、大型化という要求のほか、形状の自由度、曲面表示への適応などの要求も現れてきている。このため、重くて割れやすく大面積化が難しいガラス基板に代わって、透明な樹脂フィルム基材の採用が検討されている。
しかし、樹脂フィルム基材は、ガラス基板と比べてガスバリア性が劣るため、水蒸気や酸素が基材を透過して、液晶表示素子やEL表示素子を劣化させてしまうという問題があった。このような問題を克服するために、樹脂フィルム基材上に金属酸化物膜を形成して、ガスバリア性を高めたフィルム(透明樹脂基板)の開発が行われている。
特公昭53―12953号公報には、プラスチックフィルム上に酸化珪素膜を蒸着形成したガスバリア性フィルムが紹介されており、特開昭58−217344号公報には、酸化アルミニウム膜を形成したガスバリア性フィルムが提案されている。これらのガスバリア性フィルムのガスバリア性能は、モコン法による水蒸気透過率で1g/m2/日程度と高く、また、フィルム基板の表面平滑性についての記載はない。
また、特開昭64−59791号公報には、ポリエチレンテレフタレートに、In、Sn、ZnおよびTiからなる群より選ばれた少なくとも1種類の金属の金属酸化物を蒸着した防湿フィルムが提案されている。しかし、防湿フィルムの表面平滑性に関する記載や、水蒸気透過率に関する記載はない。
したがって、これらのフィルムを、高度の表面平滑性と水蒸気バリア性が求められる、液晶表示素子や有機EL表示素子などの電子ペーパーや太陽電池に利用可能な基板として、適用することはできない。
より高いガスバリア性能を有するフィルム(透明樹脂基板)を実現するためには、金属酸化物からなるガスバリア膜を緻密に製造することが必要不可欠である。緻密な金属酸化物膜は、一般に、スパッタリング法により容易に製造することができる。
スパッタリング法は、一般に、約10Pa以下のアルゴンガス圧のもとで、樹脂フィルム基板を陽極とし、ターゲットを陰極として、これらの間にグロー放電を起こしてアルゴンプラズマを発生させ、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のターゲットに衝突させ、これによってターゲット成分の粒子をはじき飛ばし、該粒子を樹脂フィルム基板上に堆積させて成膜する方法である。樹脂フィルム基板上に堆積するスパッタリング粒子は、運動エネルギーを有しているため、樹脂フィルム基板上でマイグレーションが行われて、緻密な膜が形成される。
スパッタリング法は、アルゴンプラズマの発生方法で分類され、高周波プラズマを用いるものは高周波スパッタリング法といい、直流プラズマを用いるものは直流スパッタリング法という。また、ターゲットの裏側にマグネットを配置してアルゴンプラズマをターゲット直上に集中させ、低ガス圧でもアルゴンイオンの衝突効率を上げて成膜する方法をマグネトロンスパッタ法という。
高周波スパッタリング法は、導電性の材料だけではなく、絶縁性や高抵抗のターゲットから絶縁性や高抵抗の膜材料も安定に成膜することが可能である。高周波スパッタリング法では、電力が放電に効率よく導入されるように、通常、高周波電源とターゲットとの間にコイルとコンデンサで構成されるインピーダンス整合回路を挿入するため、装置コストが高くなってしまう。また、該インピーダンス整合回路をスパッタリング条件に応じて制御する必要があるため、高周波スパッタリング法は操作が複雑であり、成膜速度などの再現性で劣る。
一方、直流スパッタリング法は、一般に、導電性のターゲットから導電性の薄膜を形成することは可能であるが、絶縁性や高抵抗の膜の成膜には、アーキングが発生しやすいため不向きである。しかし、高周波スパッタリング法と比較すると、直流スパッタリング法は、操作が容易で、成膜速度などの再現性において優れている。したがって、コストおよび制御性の面において有利であり、工業的には広範に用いられている。
また、直流スパッタリング法の中でも、ターゲットに印加する負電圧を周期的に停止し、その間に低い正電圧を印加して正のチャージングを電子により中和するスパッタリング方法(直流パルシング法)もあり、酸素の反応性ガスを用いた反応性スパッタリングにおける絶縁膜(酸化珪素、窒化酸化珪素、酸化チタンなど)をアーキングの発生を抑制しながら成膜することが可能である。また、高周波スパッタリング法のようにインピーダンス整合回路を制御する必要がなく、成膜速度が高周波スパッタリング法よりも速いなどの利点がある。
近年、有機ELディスプレイや高精彩カラー液晶ディスプレイの実用化が急がれている。このうち、有機ELディスプレイの場合では、有機EL表示素子に水蒸気が混入すると、陰極層と有機機能層との界面で水分による劣化が著しく、有機機能層と陰極間に剥離が生じて、発光しない部分、すなわちダークスポットが生じるという問題があることが知られている。
これらのディスプレイ(フレキシブル表示素子)に使用することができるフィルム(透明樹脂基板)に要求されるガスバリア性能は、モコン法による水蒸気透過率で0.01g/m2/日程度であると言われている。もちろん、これらのフィルム(透明樹脂基板)に透明性が要求されることはいうまでもない。
水蒸気バリア性能を有する透明樹脂基板として、特開2002―100469号公報に、窒化酸化珪素膜を樹脂フィルム基材に施したものが記載されている。窒化珪素膜は、酸化珪素膜や酸化アルミニウム膜と比べてガスバリア性能が良いが、一般的には着色膜であるため、透明性を必要とするディスプレイ用透明樹脂基板のガスバリア膜として用いることはできない。しかし、窒化珪素の窒素の一部を酸素で置換した窒化酸化珪素は、窒素/酸素の比率が0.1〜2.9において、透明性を有し、かつ、高いレベルのガスバリア性能も維持されることが記載されている。
一方、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ用の基材に要求される、もう一つの特性は、表面平滑性である。
これらのディスプレイの電極には、表面が平滑で低抵抗な透明導電膜が必要とされるが、特に、有機ELディスプレイ用の電極の場合、その透明導電膜上に有機化合物の数百nmの薄い多層超薄膜を形成するため、優れた表面平滑性が要求される。この理由は、有機ELディスプレイは、二つの電極に電子と正孔を流して超薄膜の有機化合物層内で結合させて発光させているが、透明導電膜の表面に微細な突起が存在すると、突起部で集中的に電流が流れてリークしてしまい、発光しなくなってしまうという問題があるからである。
透明導電膜の表面平滑性は、一般に、該透明導電膜の結晶性に大きく左右される。同一組成の透明導電膜でも、粒界の存在しない非晶質膜の方が表面平滑性は良好である。当然ながら、透明導電膜の表面平滑性は、透明導電膜自体の結晶性だけでなく、その下の樹脂フィルム基材の表面平滑性にも大きく依存するため、表面が平滑な樹脂フィルム基材あるいは透明樹脂基板の上に、非晶質の透明導電膜を形成する必要がある。
前述の金属酸化物膜や窒化酸化珪素膜を形成したガスバリア性の透明フィルム(透明樹脂基板)においても、表面平滑性は不可欠である。透明導電膜の側に形成する金属酸化物膜や窒化酸化珪素膜に、表面平滑性が要求されるが、スパッタリング法で表面平滑な金属酸化物膜や窒化酸化珪素膜を形成することは難しく、表面平滑性の高い樹脂フィルム基材上に、水蒸気バリア性能が発揮される、たとえば200nmの膜厚の窒化酸化珪素膜を施すと、フィルム(透明樹脂基板)の表面平滑性が大きく損なわれてしまうという問題があった。
これに対して、特開2005−103768号公報には、表面平滑性が良好で、透明性も高く、かつ、高い水蒸気バリア性能を持つ透明樹脂基板が記載されている。かかるガスバリア性透明樹脂基板では、酸化スズの非晶質膜、または、酸化スズに、Si、Ge、Al、CeおよびInからなる群から選ばれる少なくとも1種類の添加元素を、添加元素とSnの総和に対して0.2原子%〜45原子%の割合で含ませた酸化スズ系の非晶質膜からなる透明酸化物膜を、ガスバリア層として、樹脂フィルム基材の少なくとも一方の表面に形成している。さらに、ガスバリア性透明樹脂基板の透明酸化物膜の上に、酸化珪素膜または窒化酸化珪素膜を形成して二層膜としてもよいことが記載されている。
ここで、上記の添加元素は、透明酸化物膜における非晶質膜構造を形成しやすくするために添加される。かかる添加元素を、添加元素とSnの総和に対して0.2原子%〜45原子%の割合で含ませた酸化スズ系の非晶質膜は、これらの添加元素を、添加元素とSnの総和に対して0.2原子%〜45原子%の割合で含ませた酸化スズ系焼結体をターゲットして用い、直流パルシング法を利用したスパッタリング法により形成される。
しかしながら、特開2005−103768号公報に記載された酸化スズ系薄膜では、生産性を上げるためスパッタリング時にターゲットへの投入電力を増加させて高速成膜を試みると、直流パルシング法を利用したスパッタリング法でもアーキングが発生し、安定した高速成膜を実現できない場合があるという欠点がある。特に、ターゲットへの投入電力密度(投入電力/ターゲットのスパッタ面の面積)が1.378W/cm2以上のとき、アーキングが発生して成膜ができなくなる傾向となる。
アーキングが発生しやすいという傾向は、添加元素がSi、GeおよびAlの場合に顕著であり、その添加量が多くなるほどその傾向は顕著となる。すなわち、酸化スズ系焼結体ターゲットを用いた場合、添加元素の含有量が多いほど、スパッタリング効率は減少して、成膜速度も減少することから、高い電力を投入して、成膜速度を上げる必要があるが、これによりアーキングが発生してしまうという問題がある。特に、添加元素が45原子%を超えた割合で含む酸化物焼結体をターゲットとして用いると、その傾向が強く、低電力の直流パルシング法でも安定に放電せず、成膜が不可能となってしまう。
特公昭53―12953号公報
特開昭58−217344号公報
特開昭64−59791号公報
特開2002―100469号公報
特開2005−103768号公報
本発明の目的は、高い成膜速度で成膜可能なスパッタリングターゲット用の酸化物焼結体を提供することである。また、表面平滑性が良好で、屈折率が低くて透明性も高く、かつ、高いガスバリア性能を有する透明酸化物膜、およびこれを用いた透明樹脂基板、透明導電性基板およびフレキシブル表示素子を提供することである
本発明に係る酸化物焼結体は、酸化スズに、添加元素としてSiを含有させている酸化スズ系の酸化物焼結体である。Siは、SiとSnの総和に対して15原子%〜63原子%、好ましくは46原子%〜63原子%の割合で含まれる。
また、その結晶相の構成には、Siの金属相、Siの酸化物相、および、SiとSnの複合酸化物相のうちの1種以上が含まれる。
さらに、該Siの酸化物相、および、該SiとSnの複合酸化物相は、平均粒径50μm以下の大きさで分散している。
本発明に係る酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いることで、スパッタリングターゲットへの投入電力密度を1.378W/cm2以上とし、かつ、直流パルシング法を利用したスパッタリング法により、樹脂フィルム基材の少なくとも一方の表面に透明酸化物膜を形成することが可能となる。特に、本発明では、前記投入電力密度を2.205W/cm2以上、3.308W/cm2以下の範囲とした場合でもアーキングが発生することがない。また、従来は成膜できなかった、Siの含有量を、SiとSnの総和に対して46原子%〜63原子%の割合とする場合でも、投入電力密度1.378W/cm2以上としてアーキングを発生させることなく成膜することが可能となる。
本発明の酸化物焼結体のうち、前記Siの含有量を、SiとSnの総和に対して46原子%〜63原子%の割合とした場合に、酸化スズと、添加元素としてSiを含有する透明酸化物膜であって、Siは、SiとSnの総和に対して46原子%〜63原子%の割合で含まれ、非晶質膜であり、かつ、波長633nmにおける屈折率が1.75以下である透明酸化物膜が得られる。
本発明に係る透明酸化物膜をガスバリア層として、樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面に形成することにより、表面平滑性、水蒸気バリア性、さらには可視域での光透過性に優れたガスバリア性透明樹脂基板が得られる。
前記ガスバリア層の表面の中心線平均表面粗さRaは、1.8nm以下であることが好ましい。
また、JIS規格のK7129法に従って、モコン法により測定された水蒸気透過率が、0.01g/m2/日未満であることが好ましい。
本発明に係るガスバリア性透明樹脂基板の表面に、500Ω/□以下の表面抵抗を有する透明電極膜を形成することにより、表面平滑性、水蒸気バリア性、さらには可視域での光透過性に優れたガスバリア性透明導電性樹脂基板が得られる。
前記透明電極膜の表面の中心線平均表面粗さRaは、1.8nm以下であることが好ましい。
本発明に係るガスバリア性透明導電性樹脂基板は、フレキシブル表示素子および該フレキシブル表示素子を用いた有機エレクトロルミネッセンス表示素子に適用することができる。
本発明の酸化物焼結体は、スパッタリングターゲットとして、高電力で投入した直流パルシング法によるスパッタリング法でも安定に成膜を行うことができ、高投入電力下で高い生産性でガスバリア膜用の透明酸化物膜を作製することが可能になる。
さらに、本発明の透明酸化物膜は、非晶質構造であるため、水蒸気バリア性と表面平滑性に優れるだけでなく、屈折率も樹脂フィルムに近づけることができるため、高い光透過性を有する。
よって、かかる透明酸化物膜をガスバリア層として用いた、本発明のガスバリア性透明樹脂基板は、樹脂フィルムと透明酸化物膜との界面での反射が少なく、光透過率が高い。かつ、優れた表面平滑性により、その表面に透明電極膜を形成した場合、透明電極膜の表面平滑性に優れたガスバリア性透明導電性樹脂基板が得られる。
かかるガスバリア性透明導電性樹脂基板を用いることで、劣化が少なく、かつ、可視域での光透過性に優れた特性を有するフレキシブル表示素子が得られ、該フレキシブル表示素子は、液晶表示素子、エレクトロルミネッセンス表示素子、電気泳動方式表示素子、トナー表示素子などの電子ペーパーに広く適用される。
本発明者は、前記課題を解決するために、鋭意検討を行い、酸化スズを主成分として、添加元素としてSiを含有させた酸化物焼結体において、Siを、SiとSnの総和に対して45原子%を超えた割合で含む酸化物焼結体を用いても、Siの酸化物相、および、SiとSnの複合酸化物相が、平均粒径50μm以下の大きさで分散していると、高い電力を投入してもアーキングが発生せずに、直流パルシング法で高速成膜が実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の酸化物焼結体を用いて作製した非晶質構造の透明酸化物膜は、防湿性、表面平滑性、透明導電性のいずれにも優れているだけでなく、添加元素量を多くすることで、より低屈折率化が実現して、可視域における光透過性が向上する。
さらに、得られる透明酸化物膜を利用して、ガスバリア性透明樹脂基板を形成することができ、得られたガスバリア性透明樹脂基板を用いて、液晶表示素子やエレクトロルミネッセンス(EL)表示素子、電気泳動方式表示素子、トナー表示素子などの電子ペーパーを作製することができることを確認した。
本発明の酸化物焼結体は、酸化スズに、添加元素としてSiを含有させた酸化物焼結体であり、Siは、SiとSnの総和に対して15原子%〜63原子%、好ましくは46原子%〜63原子%の割合で含まれ、結晶相の構成に、Siの金属相、Siの酸化物相、SiとSnの複合酸化物相のうちの1種以上が含有され、さらに、該Siの酸化物相、および、該SiとSnの複合酸化物相が、平均粒径50μm以下の大きさで分散していることが必要である。
添加元素であるSiの酸化物の粒間には、酸化スズの成分が存在し、Siの酸化物の粒子での帯電を防いでいる。Siの酸化物相やSiとSnの複合酸化物相の粒径が50μmを超えると、酸化スズとSiの酸化物との間の接触面積が小さくなるため、高電力投入下の時点で、帯電を抑制できず、アーキングが生じてしまう。
Siの酸化物とは、酸化シリコンだけでなく、これらの酸化物間の固溶体や複合酸化物も含まれ、また、これらにSnなどの元素が固溶されている場合も含まれる。また、SiとSnの複合酸化物は、たとえば、SnSiO 3 などの化合物や、これらの酸素欠損となった化合物、さらに、Sn/Siの比が、1.0より若干ずれて、非化学量論組成となったものも含まれる。
また、酸化スズとは、SnO2、SnOだけではなく、これらの酸素欠損を含む酸化スズや、Siなどの元素が固溶しているものでもよい。
本発明の酸化物焼結体は、酸化スズに、添加元素としてSiを、SiとSnの総和に対して15〜63原子%、好ましくは46原子%〜63原子%の割合で含ませたものであるが、たとえば、Ti、In、Ce、W、Moなどのように、Sn、Si以外の元素が、焼結助剤などの目的で、本発明の特徴を失わない程度で含まれていてもよい。
本発明の酸化物焼結体は、酸化スズ粉末とSiの金属粉末とから製造できるが、酸化スズ粉末とSiの酸化物粉末(酸化シリコンなど)とからでも、製造することができる。当然ながら、Siの金属粉末とSiの酸化物粉末とを併用することも可能であるが、その場合の製造条件は、後述の条件と同じである。焼成法には、常圧焼成法のほか、ホットプレス法が採用できる。
本発明の酸化物焼結体を得るための好ましい製造方法を、以下に述べる。
Siの金属粉末を原料粉末として用いる場合は、平均粒径を150μm以下とすることが好ましく、酸化スズ粉末との混合に用いるボールミルによる混合時間を10時間以上とすること、および、得られる混合粉末から得た成形体を常圧焼成する際の条件を1300℃で10時間とすることが好ましい。特に、Siの金属粉末の平均粒径が200μm以上の場合、常圧焼成法では、SnとSiの酸化物の複合化合物相が50μmを超える大きさで生成されてしまい、アーキングの原因となってしまう。しかし、平均粒径が200μm以上であるSiの金属粉末を用いる場合でも、酸化スズ粉末との混合に用いるボールミルによる混合時間を10時間以上とし、不活性ガス雰囲気中で、ホットプレス法により焼結させれば、Siの酸化物相や、SiとSnの複合酸化物相の生成を抑制することができる。
金属シリコン粉末を原料として用いる場合に、不純物としてPやBを微量に含み、p型もしくはn型の半導体的導電性を持たせたものを用いる方が、焼成後の焼結体中に残存していても、高い導電性を有するため、より好ましい。
また、原料粉末として、酸化スズ粉末とSiの酸化物粉末(酸化シリコンなど)から、常圧焼成法で製造する場合は、Siの酸化物粉末の平均粒径を75μm以下とすること、ボールミルによる混合時間を10時間以上とすること、および、焼成条件は1300℃で10時間とすることが重要である。
本発明の透明酸化物薄膜は、前述のように得られた酸化物焼結体のうち、前記Siの含有量を、SiとSnの総和に対して46原子%〜63原子%の割合としたものをスパッタリングターゲットとして用いて、スパッタリング法により作製されるが、酸化スズを主成分として、添加元素としてSiを、SiとSnの総和に対して46原子%〜63原子%の割合で含んでいて、非晶質構造を有している。
本発明者は、酸化スズ系非晶質膜のうち、添加元素としてSiが添加されているものでは、これらのSiの含有量が多いほど、すなわちSiとSnの総和に対して46原子%とした場合に、可視域での屈折率が低下し、樹脂フィルム基板の屈折率(1.45〜1.6)に近づくことを見いだした。このような屈折率の低い酸化スズ系非晶質膜を樹脂フィルム上に成膜して、ガスバリア性透明樹脂基板を作製すれば、樹脂フィルムと酸化スズ系非晶質膜との界面での光反射を抑制できるため、可視域での光透過性に優れたガスバリア性透明樹脂基板を得ることができる。
透明酸化物薄膜中に含まれるSiが、46原子%よりも少ないと、後述するように、得られた透明酸化物薄膜の可視域における屈折率が1.75を超えて高くなってしまい、樹脂フィルム上に形成した場合に、樹脂フィルムと酸化スズ系薄膜との界面での反射が大きくなり、透過光が減少してしまう。よって、このような透明酸化物薄膜を得るためには、本発明の酸化物焼結体において、含まれるSiの割合を、46原子%以上とすることが必要となる。
また、63原子%を超えた割合で、Siを含む透明酸化物薄膜をスパッタリング法で製造しようとすると、透明酸化物薄膜の組成に合わせて、63原子%を超えた割合で、Siを含む酸化物焼結体であるスパッタリングターゲットを用いる必要があるが、簡便な直流放電や直流パルシング法を用いた直流放電による膜形成が著しく困難になるため、好ましくない。この理由は、Siが63原子%を超えると、酸化物焼結体中の抵抗が上がることと、Siの酸化物やSiとSnとで形成される複合化合物である高抵抗物質の存在割合が増えて、Siの酸化物相、および、SiとSnの複合酸化物相を、平均粒径50μm以下の大きさで分散させる制御が困難になり、通常の直流放電や直流パルシング法の直流放電が困難になる。
すなわち、SiとSnの総和に対するSiの含有割合を、46〜63原子%の範囲とした場合に、波長633nmの屈折率が1.75以下となり、低屈折率の透明酸化物膜が得られる。
樹脂フィルム基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン―2、6―ナフタレート、ポリカーボネイト、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリイミド樹脂およびエポキシ樹脂を使用することができる。樹脂フィルム基材の厚さは、特に制限はないが、0.05mm〜1mmであることが好ましい。
このような樹脂フィルム基材としては、無機膜が内部に挿入されていてもかまわなく、樹脂フィルム基材の表面には、アクリル系などのように、フィルム基材とは別の樹脂が、コートされていてもかまわない。なお、発光層からの発光を、樹脂フィルム基材の方から取り出す場合においては、樹脂フィルム基材の可視光領域での光線透過率は、70%以上であることが望ましい。
発明者の詳細な実験によると、非晶質の酸化スズ系膜は、優れたガスバリア性能を有するが、高いガスバリア性を発揮するには、非晶質構造が必要不可欠である。この理由は、結晶質膜であると、結晶粒界が存在し、結晶粒界を介してガスが透過するため、ガスバリア性能は低くなるからである。
本発明者による実験から、不純物を含まない酸化スズ膜は、スパッタリング法の作製条件、特にスパッタリング中の酸素混合量を最適化することによって、ガスバリア性に優れた非晶質の膜が得られるが、酸化スズに、添加元素としてSiを含ませると、幅広い成膜条件において非晶質構造となりやすいため、好ましい。
なお、前記の非晶質の酸化スズに、添加元素としてSiを含ませた膜は、膜自体が可視光領域で吸収はほとんどなく、透明性が良好である。
また、酸化スズ薄膜の可視域での屈折率は、たとえば波長633nmにおいて1.9〜2.0程度と高い値を示しているが、酸化スズ薄膜に、添加元素としてSiを、SiとSnの総和に対して46原子%〜63原子%の割合で含ませると、屈折率が1.75以下まで低下し、樹脂フィルムの屈折率(波長633nmで1.5〜1.7程度)に近づく。よって、樹脂フィルム直上に、本発明の透明酸化物薄膜を形成した場合には、樹脂フィルムと透明酸化物薄膜との界面での光の反射が抑制されて、光線透過率が良好になる。
前述のような添加元素の含有割合である非晶質の透明酸化物薄膜を得るためには、スパッタリングターゲットの原料となる酸化物焼結体において、酸化スズに、添加元素としてSiを、SiとSnの総和に対して46原子%〜63原子%の割合で含有させるようにし、Siの酸化物、SiとSnの複合酸化物のうちの1種以上が、平均粒径50μm以下の大きさで分散させればよく、得られる酸化物焼結体を原料として、直流パルシング法によるスパッタリング法によって成膜する。
酸化スズ系薄膜を形成するには、特に、直流パルシング法を利用したスパッタリング法を用いることが好ましい。直流パルシング法によるスパッタリング成膜を行うための電源として、たとえば、ENI社製のRPGシリーズ、アドバンスエナジー社製のMDX−SparcシリーズおよびPinnacleシリーズが利用できるが、これらに限定されない。直流パルシング法を用いたスパッタリング法により、非晶質で表面平滑性およびガスバリア性に優れた酸化スズ系膜が形成できるため、良好なガスバリア性透明樹脂基板を製造することができる。
直流パルシング法は、ターゲットに印加する負電圧を周期的に停止し、その間に、低い正電圧を印加して、ターゲット表面の正のチャージングを電子により中和するスパッタリング方法である。ターゲット中に絶縁部分あるいは高抵抗部分が含まれると、通常の直流スパッタリングでは、その部分に正の電荷が帯電してゆき、帯電量が限界に達すると、絶縁部分あるいは高抵抗部分に絶縁破壊が起きて、アーキングが発生する。直流パルシング法は、帯電量が限界に達する前に、周期的に正のチャージングを行うため、アーキングにつながる絶縁破壊を抑制できる。絶縁部分あるいは高抵抗部分への帯電量の増加速度は、ターゲットへの投入電力が多いほど、アルゴンイオンのターゲット表面への照射量が多くなるため、速くなる。また、絶縁部分あるいは高抵抗部分の体積が大きいほど、その部分に照射されるアルゴンイオンが多くなるため、帯電量の増加速度は速くなる。生産性を考慮して、成膜速度を上げるためには、ターゲットへの投入電力を増加させる必要があるが、絶縁破壊を起こさせないためには、絶縁部分あるいは高抵抗部分の体積をなるべく小さくして、帯電量の増加速度を抑制する必要がある。本発明の酸化物焼結体において、絶縁部分あるいは高抵抗部分とは、Siの酸化物(酸化シリコンなど)の粒子、SnSiO 3 のように、SiとSnの複合酸化物の粒子に相当する。
酸化物焼結体中に分散している絶縁部分あるいは高抵抗部分は、平均粒径50μm以下の大きさであれば、高電力を投入しても、直流パルシング法で実質的にアーキングが発生せずに、高速成膜を行うことが可能となる。
前述の非晶質の透明酸化物膜は、耐酸性に優れているため、得られる透明酸化物膜のみを樹脂フィルム基材の表面に覆ったガスバリア性透明樹脂基板は、さらにその表面に形成された透明電極を酸でエッチング加工しても、腐食せず、透明樹脂基板の光透過率やガスバリア性を維持することができる。
また、ガスバリア層として、非晶質の透明酸化物膜において、あるいは、さらにその上に酸化珪素膜または窒化酸化珪素膜が形成された二層膜においては、ガスバリア層の表面の中心線平均表面粗さRaが、1.8nm以下が好ましく、1.5nm以下であることがさらに好ましい。表面の中心線平均表面粗さRaが1.5nmよりも大きいと、ガスバリア層を有するガスバリア性透明樹脂基板に透明電極膜を形成したとき、表面に微細な突起が存在しており、突起部で集中的に電流が流れてリークする場合があるため、好ましくない。膜表面の中心線平均表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(たとえば、デジタルインスツルメンツ社製)によって測定することができ、膜表面の1μm×1μm領域の中心線平均粗さRaである。
さらに、本発明のガスバリア性透明樹脂基板は、JIS規格のK7129法に従って、モコン法により測定された水蒸気透過率が、0.01g/m2/日未満である。水蒸気透過率が0.01g/m2/日以上であると、有機ELディスプレイや高精彩カラー液晶ディスプレイにおいて、水蒸気が混入され、内部の有機機能層等の界面で水分による劣化が起こり、剥離などが生ずるため、ディスプレイ用途に使用することが難しく、好ましくない。
本発明において、ガスバリア性透明樹脂基板上に、表面抵抗500Ω/□以下の透明電極膜を形成する場合、透明電極膜は、低抵抗で表面の平滑な非晶質構造が好ましい。特に、有機ELや液晶などに利用するためには、透明導電膜の表面の中心線平均表面粗さRaが1.8nm以下であることが好ましい。中心線平均表面粗さRaは、原子間力顕微鏡によって測定することができ、膜表面の1μm×1μm領域の中心線平均粗さRaである。たとえば、透明電極膜には、酸化インジウムを主成分として、Sn、W、Zn、SiおよびGeからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が含まれていると、低温スパッタリ
ング成膜で、非晶質の低抵抗(8×10-4Ωcm以下)の透明電極膜が形成可能であり、好ましく、非晶質の透明電極膜であれば、表面の平滑性が良好であるため、有機ELディスプレイ等の薄膜の発光セル用の電極に利用することが可能である。また、透明電極膜の表面の平滑性はいうまでもなく、下地の透明樹脂基板の表面凹凸にも透明電極膜の平滑性が影響されるため、本発明で示した構造の表面平滑なガスバリア性透明樹脂基板上に透明電極膜を形成することが好ましい。
本発明のガスバリア性透明樹脂基板を用いて、たとえばフレキシブル表示素子の一つであるフレキシブル有機EL表示素子を形成することができる。有機EL表示素子とは、陽極と、陰極と、両者に挟まれた有機層とからなり、有機層は陽極から供給される正孔と陰
極から供給される電子との再結合によって発光する有機発光層を含む構造を採り、フレキシブルに曲げることができる樹脂基板上に、このような有機EL表示素子を形成したものが、フレキシブル有機EL表示素子である。
有機EL表示素子の作製法の一例を、以下に述べる。
たとえば、真空蒸着法で、正孔輸送層としてα―ナフチルフェニルジアミン(以下、α―NPDと表す)を、厚さ50nmに形成した後、発光層としてトリス(8−キノリノール)アルミニウム(以下、Alqと表す)を、厚さ80nmで蒸着する。Alqは、電子輸送層の役目も兼ねる。次に、マグネシウム―銀合金を、それぞれ独立のボートより同時に蒸着し、陰極を形成する。このとき、マグネシウムの蒸着速度と、銀の蒸着速度とが、それぞれ毎秒1.0nm、0.2nmとなるように、膜厚制御装置によって制御し、膜厚を200nm程度とする。この際、蒸着時にメタルマスクを用い、2mm幅の帯状パターンを透明電極膜の帯状パターンと直交する方向に形成し、陰極とする。最後に、透明電極膜の表面を覆うように、酸化珪素を200nmの厚さにスパッタリングして保護膜とすれば、有機EL表示素子を得ることができる。
本発明のフレキシブル有機EL表示素子は、表面平滑性とガスバリア性に優れたガスバリア性透明樹脂基板を使用していて、防湿性も高く、優れた発光特性を発揮することができる。かつ、可視域における透過性についても優れている。
電子ペーパーに用いられるフレキシブル表示素子には、液晶表示素子や電気泳動方式表示素子、トナー表示素子などがあるが、いずれも表面が平滑で、ガスバリア性、可視域における透過性に優れたガスバリア性透明樹脂基板が必要であり、本発明のガスバリア性透明樹脂基板を用いることにより作製されたフレキシブル表示素子は、長寿命で耐久性に優れる。
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
シリコン含有酸化スズ系
[実施例1、参考例1]
(酸化物焼結体の作製)
本実施例の酸化物焼結体を、以下の手順の常圧焼結法で製造した。
酸化スズ粉末と金属シリコン粉末を原料として用い、シリコン元素の含有量がシリコン元素とスズ元素の含有量の総和に対して20原子%の割合となるような配合比で、平均粒径が10μmである酸化スズ粉末と、平均粒径が150μmである金属シリコン粉末を調合し、10時間、ボールミルにて混合した。得られた混合粉末を、平均粒径が100μm〜150μmとなるまで造粒し、得られた造粒粉を、冷間静水圧プレスで196〜490MPa(2〜5ton/cm2)の圧力をかけて、成形した。得られた成形体を、炉内容積0.1m3あたり250L/分の割合で焼結炉内の大気に酸素を導入する雰囲気内で、1300℃で、10時間焼結した。この焼結では、3℃/minで昇温し、焼結後の冷却は、酸素導入を止めた後、1000℃までを1℃/minで降温した。
得られた酸化物焼結体について、破断面の組織を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S−800)とEDX(株式会社堀場製作所製、EMAX−2770)にて観察した。破断面の組織観察から、得られた酸化物焼結体は、酸化スズ相、金属シリコン相と、SnとSiの複合酸化物相で構成されていることを確認した。SnとSiの複合酸化物相の平均粒径は、約45μmであった。また、酸化シリコン相は存在しなかった。X線回折測定から、SnとSiの複合酸化物は、SnSiO3(JCPDSカードのNo.20−1295)と一致した。
(放電安定性の実験、透明酸化物膜の成膜)
得られた酸化物焼結体を、直径152.4mm(6インチ)×厚さ5mmの平板状に加工し、最大高さRzが3.0μm以下となるようにスパッタリング面を研磨した後、冷却用金属板に貼り合わせることにより、スパッタリングターゲットを製造した。
放電安定性の実験には、マグネトロンスパッタリング装置(トッキ社製、SPK503型)を使用した。マグネトロンスパッタリング装置に、得られたスパッタリングターゲットをセットし、チャンバ内の真空度が1×10-4Pa以下に達した時点で、酸素を2%〜15%含有させたアルゴンと酸素の混合ガスをチャンバ内に導入して、ガス圧0.6Paとした。直流電源としてENI社製RPG−50を用い、200kHzの直流パルシングを採用した直流電力を、ターゲット−基板間に投入した。投入電力を50W〜600W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力を0.276W/cm2〜3.308W/cm2)の範囲内で変化させたが、放電は安定していた。成膜速度は、投入電力を増大させると増加することが確認され、本発明の酸化物焼結体から、高速成膜に有利なスパッタリングターゲットが作製できたことが証明された。
樹脂フィルム基材として、アンダーコート付きのPESフィルム(住友ベークライト社製、FST−UCPES、厚さ0.2mm)を用い、前述のマグネトロンスパッタリング装置に、ターゲットと対向面に設置し、200kHzの直流パルシングを採用した直流電力400W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が2.205W/cm2)を投入して、酸化物焼結体からフィルム基板上に、200nmの膜厚の透明酸化物薄膜を形成した。透明酸化物薄膜の可視域での光透過率は、アルゴンガス中に導入する酸素量が少ないほど低下したが、酸素量8%以上で、光透過率の高い透明酸化物薄膜が得られた。
(透明酸化物膜の評価)
酸素量8%以上で得られた高透過性の透明酸化物薄膜(参考例1)の膜組成を、ICP発光分析法で測定したところ、Si元素の含有量は、酸化物焼結体の組成とほぼ同等だった。
また、得られた透明酸化物薄膜の結晶性を、X線回折測定したところ、回折ピークは観察されず、非晶質構造であることが確認された。また、原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメンツ社製、NS−III、D5000システム)によって、膜表面の1μm×1μm領域の中心線平均粗さRaを、試料中20ヶ所測定し、平均値を求めたところ、0.8nm〜1.5nmであり、良好な表面平滑性であった。
水蒸気透過率は、モコン法を用い、測定はMOCON社製PERMATRAN―W3/33を用いて、JIS規格のK7129法(温度40℃、湿度90%RH)に基づいて測定した。測定された水蒸気透過率は、いずれもモコン法の測定限界(0.01g/m2/日)未満であり、防湿膜として十分に機能していることがわかった。
測定結果を、表1に示す。
[実施例2、参考例2]
原料粉末として使用する金属シリコン粉末の平均粒径を75μmとした以外は、実施例1と同様に、酸化物焼結体を作製した。
作製した酸化物焼結体について、実施例1と同様に、破断面の組織を走査型電子顕微鏡とEDXにて観察した。破断面の組織観察では、得られた酸化物焼結体は、酸化スズ相、金属シリコン相と、平均粒径が36μmである、SnとSiの複合酸化物相で構成されていた。酸化シリコン相は存在しなかった。
実施例1と同様に、スパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様の条件で直流パルシング法による直流電力を投入した成膜実験を行った。投入電力を50W〜600W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が0.276W/cm2〜3.308W/cm2)の範囲内で変化させたが、放電は安定しており、本実施例の酸化物焼結体からも、高投入電力が可能で、高速成膜が可能なスパッタリングターゲットが作製できたことがわかった。
また、実施例1と同様の条件で、アンダーコート付きのPESフィルム上に、可視域での光透過率が高くて、膜厚が約200nmの透明酸化物薄膜(参考例2)を成膜して、同様の評価を行った。得られた透明酸化物薄膜は、非晶質構造であり、膜表面の1μm×1μm領域の中心線平均粗さRaは、1.5nm以下であり、モコン法による水蒸気透過率測定でも、0.01g/m2/日未満の優れた防湿性を示した。
測定結果を、表1に示す。
[実施例3、参考例3]
本実施例の酸化物焼結体を、以下の手順のホットプレス焼成法で製造した。
酸化スズ粉末と金属シリコン粉末を原料として用い、シリコン元素の含有量がシリコン元素とスズ元素の含有量の総和に対して20原子%の割合となるような配合比で、平均粒径が10μmである酸化スズ粉末と、平均粒径が200μm以下の金属シリコン粉末を、10時間、ボールミルで均一に混合した。さらに、カーボン製容器中に給粉して、焼結した。焼結温度は900℃、圧力は2.45MPa(25kgf/cm2)とし、焼結時間は1時間で一定とした。雰囲気は、不活性ガス(アルゴンガス)中で行った。
得られた酸化物焼結体について、実施例1と同様に、破断面の組織を走査型電子顕微鏡とEDXにて観察した。破断面の組織観察では、得られた酸化物焼結体は、酸化スズ相と、平均粒径75μmの金属シリコン相で構成され、SnとSiの複合酸化物相や、酸化シリコン相は、存在しなかった。
実施例1と同様に、スパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様の条件で、直流パルシング法による直流電力を投入した成膜実験を行った。投入電力を50W〜600W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が0.276W/cm2〜3.308W/cm2)の範囲内で変化させたが、放電は安定しており、本実施例の酸化物焼結体からも、高投入電力が可能で、高速成膜が可能なスパッタリングターゲットが作製できたことがわかった。
また、実施例1と同様の条件で、アンダーコート付きのPESフィルム上に、可視域での光透過率が高くて、膜厚が約200nmの透明酸化物薄膜(参考例3)を成膜して、同様の評価を行った。得られた透明酸化物薄膜は、非晶質構造であり、膜表面の1μm×1μm領域の中心線平均粗さRaは、1.5nm以下であり、モコン法による水蒸気透過率測定でも、0.01g/m2/日未満の優れた防湿性を示した。
測定結果を、表1に示す。
[実施例4、参考例4]
原料粉末として、金属シリコン粉末に代えて、平均粒径75μmの酸化シリコン粉末を用いた以外は、実施例1と同様に、酸化物焼結体を作製した。
作製した酸化物焼結体について、実施例1と同様に、破断面の組織を走査型電子顕微鏡とEDXにて観察した。破断面の組織観察では、得られた酸化物焼結体は、酸化スズ相と、平均粒径が48μmの酸化シリコン相で構成され、SnとSiの複合酸化物相や、金属シリコン相は、存在しなかった。
実施例1と同様に、スパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様の条件で直流パルシング法による直流電力を投入した成膜実験を行った。投入電力を50W〜600W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が0.276W/cm2〜3.308W/cm2)の範囲内で変化させたが、放電は安定しており、本実施例の酸化物焼結体からも、高投入電力が可能で、高速成膜が可能なスパッタリングターゲットが作製できたことがわかった。
また、実施例1と同様の条件で、アンダーコート付きのPESフィルム上に、可視域での光透過率が高くて、膜厚が約200nmの透明酸化物薄膜(参考例4)を成膜して、同様の評価を行った。得られた透明酸化物薄膜は、非晶質構造であり、膜表面の1μm×1μm領域の中心線平均粗さRaは、1.5nm以下であり、モコン法による水蒸気透過率測定でも、0.01g/m2/日未満の優れた防湿性を示した。
測定結果を、表1に示す。
[実施例5、参考例5]
原料粉末として、金属シリコン粉末に代えて、平均粒径50μmの酸化シリコン粉末を用いた以外は、実施例例1と同様に、酸化物焼結体を作製した。
作製した酸化物焼結体について、実施例1と同様に、破断面の組織を走査型電子顕微鏡とEDXにて観察した。破断面の組織観察では、得られた酸化物焼結体は、酸化スズ相と、平均粒径が35μmの酸化シリコン相で構成され、SnとSiの複合酸化物相や、金属シリコン相は、存在しなかった。
実施例1と同様に、スパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様の条件で直流パルシング法による直流電力を投入した成膜実験を行った。投入電力を50W〜600W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が0.276W/cm2〜3.308W/cm2)の範囲内で変化させたが、放電は安定しており、本実施例の酸化物焼結体からも、高投入電力が可能で、高速成膜が可能なスパッタリングターゲットが作製できたことがわかった。
また、実施例1と同様の条件で、アンダーコート付きのPESフィルム上に、可視域での光透過率が高くて、膜厚が約200nmの透明酸化物薄膜(参考例5)を成膜して、同様の評価を行った。得られた透明酸化物薄膜は、非晶質構造であり、膜表面の1μm×1μm領域の中心線平均粗さRaは、1.5nm以下であり、モコン法による水蒸気透過率測定でも、0.01g/m2/日未満の優れた防湿性を示した。
測定結果を、表1に示す。
[比較例1]
原料粉末として、平均粒径が200μmの金属シリコン粉末を用いた以外は、実施例1と同様に、酸化物焼結体を作製した。
作製した酸化物焼結体について、実施例1と同様に、破断面の組織を走査型電子顕微鏡とEDXにて観察した。破断面の組織観察では、得られた酸化物焼結体は、酸化スズ相と、平均粒径が67μmのSnとSiの複合酸化物相で構成され、金属シリコン相と酸化シリコン相は存在しなかった。
実施例1と同様に、スパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様の条件で直流パルシング法による直流電力を投入した成膜実験を行った。投入電力を50W〜600W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が0.276W/cm2〜3.308W/cm2)の範囲内で変化させたところ、400W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が2.205W/cm2)以上、投入したときにアーキングが発生して、放電は不安定になった。本比較例の酸化物焼結体からは、高投入電力が可能で、高速成膜が可能なスパッタリングターゲットを、作製できないことがわかった。
測定結果を、表2に示す。
[比較例2]
原料粉末として、金属シリコン粉末に代えて、平均粒径100μmの酸化シリコン粉末を用いた以外は、実施例1と同様に、酸化物焼結体を作製した。
作製した酸化物焼結体について、実施例1と同様に、破断面の組織を走査型電子顕微鏡とEDXにて観察した。破断面の組織観察では、得られた酸化物焼結体は、酸化スズ相と、平均粒径が75μmの酸化シリコン相で構成され、SnとSiの複合酸化物相や、金属シリコン相は存在しなかった。
実施例1と同様に、スパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様の条件で直流パルシング法による直流電力を投入した成膜実験を行った。投入電力を50W〜600W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が0.276W/cm2〜3.308W/cm2)の範囲内で変化させたところ、250W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が1.378W/cm2)以上、投入したときにアーキングが発生して、放電は不安定になった。本比較例の酸化物焼結体からは、高投入電力が可能で、高速成膜が可能なスパッタリングターゲットを、作製できないことがわかった。
測定結果を、表2に示す。
[比較例3]
原料粉末として、金属シリコン粉末に代えて、平均粒径75μmの酸化シリコン粉末を用いて、混合時間を5時間と短くした以外は、実施例1と同様に、酸化物焼結体を作製した。
作製した酸化物焼結体について、実施例1と同様に、破断面の組織を走査型電子顕微鏡とEDXにて観察した。破断面の組織観察では、得られた酸化物焼結体は、酸化スズ相と、平均粒径が65μmの酸化シリコン相で構成され、SnとSiの複合酸化物相や、金属シリコン相は存在しなかった。
実施例1と同様に、スパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様の条件で直流パルシング法による直流電力を投入した成膜実験を行った。投入電力を50W〜600W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が0.276W/cm2〜3.308W/cm2)の範囲内で変化させたところ、300W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が1.654W/cm2)以上、投入したときにアーキングが発生して、放電は不安定になった。本比較例の酸化物焼結体からは、高投入電力が可能で、高速成膜が可能なスパッタリングターゲットを、作製できないことがわかった。
測定結果を、表2に示す。
[実施例6〜15(参考例6〜15)、実施例16〜25]
シリコン元素とスズ元素の含有量の総和に対するシリコン元素の含有量の割合を、それぞれ、15原子%(実施例6〜10、膜については参考例6〜10)、32原子%(実施例11〜15、膜については参考例11〜15)、50原子%(実施例16〜20)、および63原子%(実施例21〜25)として、これ以外については(原料粉末の種類、原料粉末の粒径、混合条件、焼成条件など)、実施例1〜5と同様にして、酸化物焼結体を作製した。
作製した酸化物焼結体について、実施例1と同様に、破断面の組織を走査型電子顕微鏡とEDXにて観察した。破断面の組織観察では、実施例6〜25の酸化物焼結体の結晶相の構成は、実施例1〜5の何れかの構成と同様であり、酸化シリコン相と、SnとSiの複合酸化物相が含まれていても、それらの平均粒径は50μm以下であった。
実施例1と同様に、スパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様の条件で直流パルシング法による直流電力を投入した成膜実験を行った。投入電力を50W〜600W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が0.276W/cm2〜3.308W/cm2)の範囲内で変化させたが、放電は安定しており、本実施例の酸化物焼結体からも、高投入電力が可能で、高速成膜が可能なスパッタリングターゲットが作製できたことがわかった。
また、実施例1と同様の条件で、アンダーコート付きのPESフィルム上に、可視域での光透過率が高くて、膜厚が約200nmの透明酸化物薄膜(参考例6〜15、実施例16〜25)を成膜して、同様の評価を行った。得られた透明酸化物薄膜は、非晶質構造であり、膜表面の1μm×1μm領域の中心線平均粗さRaは、1.5nm以下であり、モコン法による水蒸気透過率測定でも、0.01g/m2/日未満の優れた防湿性を示した。
また波長633nmにおける透明酸化物薄膜の屈折率を、エリプソメータ(株式会社溝尻光学工業所製、DVAシリーズ)で測定すると、1.87〜1.65であり、透明酸化物薄膜中のシリコン量が多いほど、屈折率が減少して、フィルム基板の屈折率に近づいた。特に、本発明の実施例6〜25にかかるシリコン量が46〜63原子%の場合には、屈折率が1.75〜1.65となった。
[比較例4〜15]
シリコン元素とスズ元素の総和に対するシリコン元素の含有量の割合を、それぞれ、15原子%(比較例4〜6)、32原子%(比較例7〜9)、50原子%(比較例10〜12)、および、63原子%(比較例13〜15)として、これ以外については(原料粉末の種類、原料粉末の粒径、混合条件、焼成条件など)、比較例1〜3と同様にして、酸化物焼結体を作製した。
作製した酸化物焼結体について、実施例1と同様に、破断面の組織を走査型電子顕微鏡とEDXにて観察した。破断面の組織観察では、比較例4〜15の酸化物焼結体の結晶相の構成は、比較例1〜3の何れかの構成と同様であり、酸化スズ相のほかに、平均粒径が50μmを超えた酸化シリコン相および/またはSnとSiの複合酸化物相が存在していた。
実施例1と同様に、スパッタリングターゲットを作製し、実施例1と同様の条件で直流パルシング法による直流電力を投入した成膜実験を行った。投入電力を50W〜600W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が0.276W/cm2〜3.308W/cm2)の範囲内で変化させたところ、250W(ターゲット面の単位面積あたりの投入電力が1.378W/cm2)以上、投入したときにアーキングが発生して、放電は不安定になった。