JP4783965B2 - 熱延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、船などの輸送機器、建築物やガードレールなどの構造物、家具及び電気機器などの外板に用いられ、特に加工のための切断後の変形の小さい熱延鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
建築物などでは、圧延方向に細長く切断された鋼板が用いられるが、加工後の平坦度や形状精度が要求される。また、加工業では、加工ラインの無人化・自動化が進められ、加工途中の板の形状不良がライントラブルの原因となるため、形状精度の向上が望まれている。
【0003】
熱延鋼板を切断した場合、残留応力により板が変形し、図1に示すように圧延方向両端は幅方向端側に張出し、中央部は逆に中央側に張出すようになる。特開平9−111409号公報には、切断後の変形を軽減するため、調質圧延により圧延方向の残留応力の板幅方向分布のばらつきを10N/mm2以内にした熱延鋼板が開示されている。
【0004】
しかし、圧延ままの熱延鋼板の板幅方向の残留応力の分布が極端に大きい場合、その後の調質圧延で、残留応力のばらつきを10N/mm2以下にすることは容易ではなく、例え、10N/mm2以内とした場合であっても冷却時、長手方向や幅方向にうねりが生じ、平板のままの使用が不可能になったり、加工工程で不具合の原因となることが多い。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上のような状況を鑑みてなされたもので、切断後の変形の小さい熱延鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、熱延鋼板における残留応力の発生原因について、ランアウトテーブル上における冷却過程を対象に鋭意検討をおこない、以下の知見を得た。
【0007】
1.鋼板の残留応力は、ランアウトテーブル上における幅方向の冷却むらでは説明できない。幅方向の冷却むらで生じる残留応力は最も冷えにくい幅中央部で圧延方向に引張り、エッジ部で圧縮となるため、切断後は圧延方向両端は内側に曲がることになり、逆方向に変形する実際の現象を説明できない。
【0008】
2.残留応力の真の発生原因は、ランアウトテーブル上の冷却時におけるエッジ部と中央部の変態タイミングのズレが原因で、実際の切断における変形挙動を説明することが可能である。
【0009】
すなわち、冷却時、冷えやすいエッジ部から変態を開始するが、オーステナイトからフェライトへの変態において、体積が膨張するため、エッジでは圧延方向に圧縮、中央部では圧延方向に引張りの応力を生じる。このときのエッジの圧縮応力は、鋼板がまだ高温のため、速やかに解消される。
【0010】
次に、中央部が変態し、体積を膨張させる。このため、先のエッジ部の変態による中央部の引張り応力は、解消されるが、逆に、圧縮応力が生じる。一方、エッジ部には引張り応力が生じ、この応力はエッジ部の温度が低下しているため、解消されない。
【0011】
このような応力状態の鋼板を圧延方向に長く切断した場合、エッジ部は引張り応力を解消するために縮み、中央部は圧縮応力解消のために伸びる。その結果、切断した鋼板の圧延方向両端が外側に張出し、中央が内側に張出す。
【0012】
3.このため、残留応力の低減には、ランアウトテーブル上の幅方向の変態タイミングのズレを最小限にすることが必要で、従来、幅方向の温度勾配を顕著にすると考えられ、避けられていた早い冷却速度(200℃/s以上)を用い、著しい過冷却を起こさせることにより、幅方向エッジ、中央とも変態点以下に一気に冷却し、急速冷却後の緩冷却により鋼板幅方向に温度変動があっても、端部、中央部とも同時に変態させることが可能となる。
【0013】
4.すなわち、従来の冷却速度である20℃/s〜80℃/sの場合、変態温度が鋼板幅方向で同じ温度のため、温度の低く成りやすいエッジ部が先に変態し、その後、中央部が変態する。そのため、幅方向に不均一な残留応力の分布を生じるが、冷却速度を早くした場合、過冷却により冷却中の変態が抑制され、変態は冷却を停止し、放冷した後に端部、中央部ともに同時に生じる。
【0014】
5.さらに、鋼の成分組成において、C,Mnを低減し、Ar3変態点が720℃以上、変態開始温度と変態終了温度の差が小さくなるようにした場合、残留応力を著しく低減させることが可能となる。
【0016】
本発明は以上の知見を基に更に検討を加えてなされたものである。すなわち、本発明は、1.鋼組成が、質量%で、C≦0.1%、Si≦2%、Mn≦3%、P≦0.02%、S≦0.01%、Al≦0.1%、N≦0.01%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼スラブをAe1変態点以上に加熱し、仕上圧延温度をAr3以上とする熱間圧延終了後、1秒以内に210℃/s以上の冷却速度で冷却を開始し、600〜750℃までの急速冷却後、3秒以上40℃/s以下の冷却速度で緩冷却し、更に40℃/s以上の冷却速度で冷却して、550℃〜590℃の巻取温度で巻き取ることを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【0017】
2.鋼組成として、更に、質量%で、Ti≦0.15%、Nb≦0.06%、V≦0.1%の一種または二種を含有することを特徴とする1記載の熱延鋼板の製造方法。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明における熱間圧延条件、成分組成の限定理由について詳細に説明する。
【0019】
1.熱間圧延条件
スラブ加熱温度
スラブ加熱は、熱間圧延を安定的に行うとともに強度を確保するため、炭化物を完全に溶かし込み、圧延後にγ→α変態で結晶粒を微細化させるようAe1変態点以上とする。
【0020】
仕上圧延温度
仕上圧延温度がAr3未満となると、表層に粗大なフェライト粒が生成したり、加工組織の残留により、伸び(El)が低下するため、Ar3以上とする。
【0021】
冷却条件
本発明では、冷却条件として、仕上圧延後、急速冷却開始までの時間、急速冷却速度、急速冷却停止温度、緩冷却時間、及び緩冷却後の冷却速度が重要であり、それぞれ規定する。
【0022】
仕上圧延後、冷却開始までの時間
急速冷却後の緩冷却において、幅方向の温度分布によらず幅方向同時に変態させるため、変態直前まで加工歪を保存する。保存される加工歪量が不十分な場合、急冷によっても幅方向同時に変態させることはできない。仕上圧延後、急冷開始まで1秒以上では、歪の回復が開始されるため、1秒未満とする。
【0023】
急速冷却速度
急速冷却後の緩冷却で、幅方向で同時に変態させるため、加工歪を回復させず、低温まで冷却しなければならない。冷却速度が200℃/s未満の場合、過冷却が不十分で、冷却途中で変態が生じ、幅方向で同時に変態させることができないため、200℃/s以上とする。
【0024】
尚、冷却方法は、従来の冷却のように核沸騰と膜沸騰をあわせた方法でなく、鋼板からの抜熱の9割以上を核沸騰で均一に行う方法が好ましい。
【0025】
冷却停止温度
冷却停止温度が750℃超えでは、過冷却が十分ではなく幅方向で同時に変態を起こすことは出来ないため、冷却停止温度の上限は750℃とする。一方、600℃未満では組織が整粒からアシキュラー状になり、延性が低下するため、600℃以上とする。
【0026】
緩冷却時間
緩冷却時間が3秒未満では変態が終了しないうちに冷却が開始されてしまうため、幅方向同時に変態させることは困難で、残留応力を解消できない。緩冷却時間が30秒を超えると、変態したフェライトが粗大に成長し、強度が低下するため30秒以下とすることが望ましい。
【0027】
また、緩冷却速度については、40℃/sを超えると変態時のフェライト粒成長が不安定となりフェライト粒が整粒でなくなり、加工性が低下してしまう。そこで、緩冷却速度の上限を40℃/sとした。緩冷却には空冷も含まれる。
【0028】
本発明では、仕上温度の制御に仕上スタンド列入り側で粗バーを加熱してもその効果は変わらない。粗バー加熱には、誘導加熱、通電加熱、ガスバーナ加熱などいかなる方法を用いても良い。
【0029】
また、粗圧延後、一度コイルボックスに巻き取り、保熱または加熱してバー温度を均一化して圧延を行っても良い。さらに、コイルボックスと粗バー加熱を組み合わせても何ら問題はない。
【0030】
また、本発明の熱間圧延は、通常のスラブを粗圧延後、仕上げ圧延を行う従来の熱間圧延でも、薄スラブ鋳造後直ちに仕上げ圧延を行うものでも良い。薄スラブを用いる場合は粗圧延を省略することもできる。
【0031】
熱間圧延後、めっき、化成処理などの表面処理を行っても効果が失われることはない。熱間圧延として、粗圧延後粗バーを接合し、仕上圧延を行う、連続圧延を行っても何ら問題は生じない。又,鋳造後、室温まで冷却することなくそのまま圧延を行う直送圧延を行っても良い。
【0032】
2.成分組成
C
Cは炭化物を形成し、EL低下を招くことからその添加量は少ない方が望ましいが、強度に最も影響を及ぼし、440〜780MPa程度の高強度を確保するため、0.10%を上限として添加する。
【0033】
Si
Siは固溶強化元素であり、強度を調整するため添加する。しかし、2%を超えた添加は伸び(El)を極端に低下させるため、2%を上限とする。
【0034】
Mn
Mnは、Sを固定し、熱間延性を向上させ表面品質を改善するため、及び強度の調整を目的に添加する。しかし、3%を超えた添加は伸びを極端に低下させるため、3%を上限とする。
【0035】
P
Pは、固溶強化元素であり、強度を確保するため添加する。しかし、添加量が多いと粒界に偏析し、粒界脆化を引き起こすため、0.02%を上限とする。
【0036】
S
Sは熱間延性を低下させ、表面品質を劣化させることから低減することが望ましい。SはMnによってMnSとして固定されるが、MnSが多くなると伸びフランジ性が低下することから、0.01%を上限とする。
【0037】
Al
Alは脱酸剤として添加されるが、添加量が多いとElが低下するため、0.1%を上限とする。
【0038】
N
NはAlもしくはTiにより析出物として固定され、微細に析出したAlNやTiNは結晶粒の成長を抑制し、強度確保に寄与する。しかし、鋼中のNが0.01%を超えるとこれらの窒化物が粗大に析出し、結晶粒抑制効果が失われるため、0.01%を上限とする。
【0039】
本発明は以上の成分組成により、十分その効果を発揮するが、更に強度を向上させる場合、Ti,Nb,Vの一種または二種以上を添加することができる。
【0040】
Ti,Nb,V
これらの元素は、鋼中のC,Nと析出物をつくり粒成長を抑制することで強度を向上させる。しかし、上限を超えて添加すると析出物が粗大化し、強度が低下するため、Tiは0.15%、Nbは0.06%、Vは0.1%をそれぞれ上限とする。
更に、本発明では、耐食性の向上や好ましい組織形成を目的にCu,Mo,Cr,Niを添加し、また溶接性の向上を目的にCa,Mgなどを添加しても良い。尚、成分調整に転炉、電気炉のいずれを用いてもよく、原料にスクラップを用いても何ら問題はない。
【0041】
【実施例】
種々の成分組成の鋼を鋳造後、熱間圧延を行った。熱延後、長さ4000mm,幅300mmに切断し、長手方向端部と中央部のずれ(変形量)を測定した。表1に化学成分、熱延条件およびずれ(変形量)を示す。急速冷却後の緩冷却の冷却速度は20℃/s,緩冷却後の巻取温度までの冷却速度を50℃/sとした。
【0042】
No.1〜5は冷却速度を変化させたもので、本発明範囲内の冷却速度によるNo.1〜4では変形が殆どないが、No.5は冷却速度が遅く、切断後、大きな変形量となっている。
【0043】
No.6〜10は冷却開始時間を変化させたもので、冷却開始時間が本発明範囲内であるNo.6〜9は切断後の変形が小さいが、No.10は冷却開始時間が遅く、歪が開放されて幅方向の変態のタイミングがエッジで早くなり、大きな変形が認められた。
【0044】
No.11〜15は冷却停止温度を変化させたものであるが、停止温度が低いNo.11では幅方向の変態タイミングがずれ、変形が認められた。No.15は冷却停止温度が高く、本発明の効果は得られなかった。No.12〜14は本発明範囲内で幅方向の変形は認められなかった。
【0045】
No.16〜20は冷却後の放冷時間を変化させたもので、本発明範囲内であるNo.16〜19で変形が小さくなるが、放冷時間が短いNo.20では放冷中に変態が終了せず、幅方向で変態のタイミングが合わず、切断後に変形が認められた。
【0046】
【表1】
【0047】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、熱間圧延後、圧延方向の残留応力が鋼板板幅方向で均一に分布するようになるため、加工等のため、圧延方向長手に切断した場合において、変形が小さく、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来技術により製造した鋼板を長手方向に切断した場合の変形状況を模式的に示す図
Claims (2)
- 鋼組成が、質量%で、C≦0.1%、Si≦2%、Mn≦3%、P≦0.02%、S≦0.01%、Al≦0.1%、N≦0.01%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼スラブをAe1変態点以上に加熱し、仕上圧延温度をAr3以上とする熱間圧延終了後、1秒以内に210℃/s以上の冷却速度で冷却を開始し、600〜750℃までの急速冷却後、3秒以上40℃/s以下の冷却速度で緩冷却し、更に40℃/s以上の冷却速度で冷却して、550℃〜590℃の巻取温度で巻き取ることを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
- 鋼組成として、更に、質量%で、Ti≦0.15%、Nb≦0.06%、V≦0.1%の一種または二種を含有することを特徴とする請求項1記載の熱延鋼板の製造方法。
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