JP4783051B2 - プレコートアルミニウム板およびその製造方法 - Google Patents
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具体的には、電解コンデンサーのキャップや圧電センサーのセンサーカバーなどしごき加工を施す用途に使用する場合や、フラットパネルディスプレイやパソコンなど電子機器のカバー類或いは、ECUのカバーなどの車載用電子機器のように、深絞り加工して使用するプレコートアルミニウム板およびその製造方法に関する。
かかる加工においては、例えば、特許文献2に記載されているように、従来、加工性に優れた熱可塑性樹脂のフィルムをラミネートしたフィルムラミネートアルミニウム板が使用されている。フィルムラミネートアルミニウム板は、皮膜を構成する樹脂の分子が架橋されていないため、皮膜は大きな変形が可能である。
また、特許文献2に記載したフィルムラミネートアルミニウム板では、ポリオレフィン系のフィルムを使用した場合にはアルミニウム板との接着性に劣るため剥離が生じやすく、ポリアミド系のフィルムを使用した場合には熱により変色が生じやすい。さらにPET等のポリエステル系のフィルムを使用した場合には加水分解しやすいため耐久性に劣るという問題があった。
このように、樹脂のガラス転移温度が室温以下であれば、樹脂が室温環境下での深絞り加工やしごき加工に十分追従することができる。
このように、ゲル分率の高い状態とすれば、皮膜の架橋密度が高く、耐薬品性や耐熱性に優れた皮膜を得ることができる。
したがって、熱可塑性樹脂を使用したフィルムラミネートアルミニウム材のように剥離や変色、加水分解などが生じにくく、加工性においてはフィルムラミネートアルミニウム材と遜色のない、熱硬化性樹脂のプレコートアルミニウム板を提供することができる。
参照する図面において図1は、本発明に係るプレコートアルミニウム板の構成を模式的に示す断面図である。
なお、本発明に係るプレコートアルミニウム板1においては、アルミニウム元板2と樹脂皮膜3との間に耐食性皮膜4を形成するのが好ましい。
本発明で用いられるアルミニウム元板2は、JIS H 4000で規定される1000系の工業用純アルミニウム、3000系のAl−Mn系合金、5000系のAl−Mg系合金が使用可能であるが、特にしごき加工を行う場合にはJIS H 4000に規定するA1050、A1100、A3003、A3004などを用いるのが好ましい。調質、板厚については特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の調質を施すことや、板厚を変更することができる。
アルミニウム元板2には、皮膜の接着性と耐食性を向上させるために下地処理をすることが望ましい。このような下地処理としては、Cr、ZrまたはTiを含有する従来公知の耐食性皮膜を用いることができる。例えば、リン酸クロメート皮膜、クロム酸クロメート皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型クロメート皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜などで構成される耐食性皮膜4を用いることができる。
樹脂皮膜3は、特許請求の範囲の「皮膜」に相当するものであり、熱硬化反応による分子間架橋を行うことでアルミニウム元板2に成形性や耐食性、絶縁性、耐指紋性などを付与する役割を果たす。樹脂皮膜3に、各種機能性添加剤を添加することによって、放熱性、断熱性、導電性などの機能や意匠性をさらに付与することもできる。
ここで、「220℃の加熱処理を行った場合に、当該加熱処理前のゲル分率の値から連続的に減ずる」としているのは、樹脂皮膜3を硬化させる際の焼き付け温度(硬化温度)が、ゲル分率の極大値以上の温度であったことを意味している。樹脂皮膜3の焼き付け温度がゲル分率の極大値より低い温度で硬化させたものであると、220℃の加熱処理を行った場合に、加熱処理前のゲル分率の値から連続的に減ずることはない。すなわち、樹脂皮膜3は、前記の加熱処理によって分子間架橋が促進され、ゲル分率が上昇することになる。つまり、加熱処理を行った結果、そのゲル分率が減じた場合であっても、“連続的”に減じていることにはならないので、本発明の効果を有さないものとなる。
例えば、焼き付け温度が低く、ゲル分率が極大に到達していないような樹脂皮膜は、かかる加熱処理により、硬化が促進してゲル分率が高くなる傾向があるため、本発明のプレコートアルミニウム板としては不適当であると判別が可能である。
したがって、本発明で用いる樹脂皮膜3としては、熱硬化型のポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
また、本発明で好適なジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
ガラス転移温度は樹脂の転移温度の一つであり、一般にガラス転移温度以上における樹脂の状態は、柔らかいゴム状であり、ガラス転移温度以下における樹脂の状態は、硬いガラス状とされる。したがって、深絞り加工やしごき加工のような変形の大きい加工に樹脂皮膜3が追従するためには、ガラス転移温度を加工温度以下にする必要がある。
かかる状態におけるゲル分率の値が80%以上であれば、分子間架橋の架橋密度が十分に高いために、耐薬品性や耐熱性に優れた樹脂皮膜3とすることができる。
なお、潤滑剤を過剰に添加した場合、アルミニウム元板2と樹脂皮膜3の接着強度が低下する場合がある。したがって、潤滑剤の添加量としては、当該潤滑剤を添加しないときの接着強度の80%以上の範囲内で添加するのが好ましい。
次に、本発明に係るプレコートアルミニウム板の製造方法について説明する。
本発明のプレコートアルミニウム板の製造方法は、熱硬化反応により分子間が架橋される樹脂をアルミニウム元板に塗布する塗布工程と、樹脂を焼き付ける温度条件が、JIS K 6796に準じたゲル分率の樹脂焼き付け温度依存性カーブを描いた際に、そのゲル分率が極大値となる温度以上であり、かつ、このゲル分率の低下率が、極大値から10%以内となる温度以下である温度範囲で焼き付けて、樹脂を硬化させて皮膜を形成させたプレコートアルミニウム板を作製する皮膜硬化工程と、を含むものである。
本発明における好適な焼き付け温度の範囲としては、ゲル分率が極大値となる温度以上であり、かつ、このゲル分率の低下率が、極大値から10%以内となる温度以下である温度範囲としている。
リン酸クロメート処理の条件は、クロム付着量で20mg/m2とした。また、使用したアルミニウム板の機械的性質は、引張強さ130MPa、耐力120MPa、伸び8%であった。
下地処理したアルミニウム板に、ガラス転移温度が0℃であるポリエステル系樹脂(日本ペイント社製フレキコートシリーズ)を、焼き付け温度を変化させて焼き付ける(硬化させる)ことにより、下記表1に記載する試験材1〜9を作製した。
なお、ポリエステル系樹脂に潤滑剤は添加していない。樹脂の塗布はロールコート法により行い、塗布量で5g/m2(厚さ約5μm)とした。樹脂皮膜の焼付け時間は40秒間とした。また、樹脂皮膜の塗布面は、アルミニウム板の片面のみに塗布した。
このようにして作製した9種類の試験材について、加工性を評価した。樹脂皮膜の塗布面が外側となるように、図3の断面図に示すように、絞り加工およびしごき加工を行い、直径10mmφ×20mmLの有底円筒容器に加工した。なお、有底円筒容器の側壁には20%のしごきを加えた。また、プレス油には脂肪酸エステルと界面活性剤を主成分とする水系エマルジョンワックスを使用した。絞り加工およびしごき加工は、室温(25℃)で行った。なお、図3は、試験材を絞り加工およびしごき加工することで有底円筒容器を作製する過程を示した模式図である。
次に、9種類の試験材について樹脂皮膜のゲル分率を、JIS K 6796に準じて測定した。本法は、樹脂皮膜中の未硬化成分のみが、煮沸した溶剤に溶出すると仮定して、樹脂皮膜の分子間架橋度を決定する方法である。測定条件としては、加熱処理前、220℃×5分間の加熱処理後、220℃×10分間の加熱処理後のゲル分率を測定した。なお、溶剤として2−ブタノン(MEK)を用いた。
また、9種類の試験材について樹脂皮膜の伸びを測定した。各試験材を、70℃の10%水酸化ナトリウム水溶液中に20分間浸漬してアルミニウムのみを溶解し、残った樹脂皮膜の伸びを引張試験機にて測定した。
なお、本試験のみデータのばらつきを抑えるため、樹脂皮膜の厚さが10μmである試験材を使用した。試験材は、幅10mm×長さ40mmとした。そして、長さ方向の両端から各10mmは引張試験機のチャック部としてセロテープ(登録商標)で補強しており、有効長は20mmとしている。そして、10mm/分の引っ張り速度で測定した。
また、試験材の摩擦係数を図4の説明図に示すバウデン試験機5を用いて測定を行った。本試験法では測定環境温度や荷重などの条件を自由に変更することができるが、これらの条件が変わると摩擦係数の数字が変化する。したがって、当該試験を行うにあたって測定環境温度を25±5℃、好ましくは25±3℃とする。そして、十分に脱脂された直径4.8mmφ(3/16インチ)の鋼球51を用いて2N(200gf)の垂直荷重を加え、200mm/分の速度で移動させたときの動摩擦係数を測定した。測定時に潤滑油やワックスなどは塗布しなかった。
また、加水分解性を調べるため、沸騰水に32時間浸漬して、外観等を確認した。
なお、樹脂皮膜の伸びの結果を見ると、樹脂皮膜の伸びが380%ある比較例よりも、伸びが130%しかない実施例の方が加工性は良好となっている。この点からもわかるように、加工変形の大きい絞り加工やしごき加工に好適な、優れた加工性を有する樹脂皮膜を得るには、単純に樹脂皮膜の伸びを大きくするだけでは目的を達することができず、樹脂皮膜の焼き付け状態を明確に規定することが重要であるといえる。
同様に、摩擦係数についても、同じ0.18という数字を有しながらも、成形性の良好な実施例と成形性が不十分な比較例に結果が別れている。この点についても、加工変形の大きい絞り加工やしごき加工に好適な、優れた加工性を有する樹脂皮膜を得るには、単純に潤滑性を良くするだけでは目的を達成することができず、樹脂皮膜の焼き付け状態を明確に規定することの方が重要であることがわかる。
アルミニウム板に、表2に示すガラス転移温度が既知である5種類(試験材10〜14)のポリエステル系樹脂(日本ペイント製フレキコートシリーズ)を塗布することにより、表2に記載する試験材を作製した。
なお、樹脂には潤滑剤は添加していない。樹脂の塗布は、ロールコート法により、塗布量で5g/m2(厚さ約5μm)で行った。樹脂皮膜の焼き付けは、素材到達温度260℃で40秒間処理することで行った。また、樹脂皮膜の塗布は、アルミニウム板の片面のみに塗布した。
このようにして作製した5種類の試験材を使用し、前記と同様にして、加工性、ゲル分率、樹脂皮膜の伸び、摩擦係数を評価した。なお、加工性は、25℃(表2中では「室温」と記載)および金型を100℃に加温(表2中では「加温」と記載)した状態の2条件にて実施した。
2 アルミニウム元板
3 樹脂皮膜
4 耐食性皮膜
5 バウデン試験機
51 鋼球
Claims (4)
- アルミニウム元板の少なくとも片側の表面に、熱硬化反応により分子間架橋される樹脂を主成分とする皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、
前記皮膜は、JIS K 6796に準じた当該皮膜のゲル分率の値を220℃の加熱処理を行った前後で比較した場合に、当該加熱処理後のゲル分率の値が、前記加熱処理前のゲル分率の値から連続的に減ずるものであり、かつ、220℃の前記加熱処理を10分間行った時点における当該加熱処理前のゲル分率の値からの減少幅が10%未満であり、
前記樹脂は、ポリエステル系樹脂を主成分として含む
ことを特徴とするプレコートアルミニウム板。 - 前記樹脂のガラス転移温度が25℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のプレコートアルミニウム板。
- JIS K 6796に準じた前記皮膜のゲル分率の値が、220℃の加熱処理を行う前の状態で80%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレコートアルミニウム板。
- 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプレコートアルミニウム板の製造方法であって、
熱硬化反応により分子間架橋される樹脂をアルミニウム元板の少なくとも片側の表面に塗布する塗布工程と、
前記樹脂を焼き付ける温度条件が、JIS K 6796に準じたゲル分率の樹脂焼き付け温度依存性カーブを描いた際に、そのゲル分率が極大値となる温度以上であり、かつ、このゲル分率の低下率が、前記極大値から10%以内となる温度以下である温度範囲で焼き付けて、前記樹脂を硬化させて皮膜を形成させたプレコートアルミニウム板を作製する皮膜硬化工程と、
を含み、
前記樹脂は、ポリエステル系樹脂を主成分として含む
ことを特徴とするプレコートアルミニウム板の製造方法。
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