JP4773006B2 - アルミニウム製絞り缶の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、両面を熱可塑性樹脂で被覆されたアルミニウム合金板に対して1回もしくは複数回の絞り加工を施すことによって得られる絞り缶および深絞り缶とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
金属缶の分野では、従来から表面処理鋼板やアルミニウム合金板に対してプレスによる一回もしくは複数回の絞り成形加工を施すことによって得られる絞り缶は、主に魚肉、獣肉、穀物やペットフード等が充填される、いわゆる食缶用途として広く使用されている。
こうした金属板からの絞り缶では、金属缶の缶内面に当たる面には耐食性を確保するための塗装が施され、また缶外面に当たる面にも塗装・印刷が施された塗装板、いわゆるプレコート材から、直接プレスによる絞り成形加工を行い絞り缶を得ている場合が多い。
【0003】
プレコート材から直接プレスによる絞り成形加工を行う場合、缶の内外面の塗膜の損傷や外面の印刷絵柄の歪みや外観性の低下の問題等から、余り絞り比の高い高加工度のものは行われていないのが現状で、高加工度の缶(縦横比が1:1以上の缶)の場合は金属板を直接成形加工した後、内面塗装や外面塗装・印刷を行うのが一般的である。
【0004】
予め缶の内外面に当たる金属面に塗装や印刷を施した塗装板から得る絞り缶の場合、缶の外面印刷は、当然最終缶体の加工歪みを考慮した印刷図柄を予め作成し(絞り成形板用図柄の作成;例えば、特公平7−73943号公報参照)、その印刷図柄に基づいて作成した刷板により金属板に歪み印刷を施すことにより行われ、塗装印刷金属板はその後、絞り成形加工に供される。
【0005】
しかし、成形加工による局部的なストレッチやコンプレッション、また成形加工時の微細な損傷は避けられず、印刷外観は例えば、スリーピース缶のように缶胴部を円筒状に成形するだけの缶や、絞りしごき缶(Drawn&Ironed:DI缶)のように成形加工後に内外面に塗装や印刷をするといった缶に比べ、劣るといった欠点がある。
【0006】
また、缶内面についていえば、前述したように絞り缶は魚肉、獣肉、穀物やペットフード等といったものが充填されるため、時には高濃度の食塩を含む場合があり、内容物の腐食性は厳しいものがある。
【0007】
更に、缶内面の塗膜についていえば、絞り缶は前述したように予め塗装されたプレコート材を成形加工して得るため、加工性の良い塗料が使用されているが、こうした塗料は、逆に今話題となっている外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)問題の心配もある塗料が多いことが最近分かってきている。
【0008】
一方、近年、金属缶用材料として、従来の金属板への塗装から熱可塑性樹脂フィルムをラミネートした材料の実用化が目立つようになってきており、多くの提案がなされている。
例えば、特開平2−263523号公報、特開平3−133523号公報、特開平4−237524号公報等はツーピース缶を対象としたもので、特開平5−112361号公報、特開平5−111979号公報、特開平5−31868号公報等はスリーピース缶を対象としたものである。
【0009】
また、特開昭48−61584号公報、特開昭61−149341号公報、特開平3−87249号公報、特開平4−344231号公報等には、樹脂フィルムと金属板の間に接着用有機樹脂組成物を介在させたラミネート材が提案されている。
【0010】
更に、特開昭48−49590号公報、特開昭48−61584号公報、特開昭52−65579号公報、特開昭54−141886号公報には、成形後の缶蓋又は缶体被覆樹脂フィルムの応力解消のために、缶蓋又は缶体に後加熱処理を施すことが記載されている。
更にまた、特開昭51−63787号公報、特開平3−226319号公報では、成形後の缶体を潤滑剤の揮発温度以上に加熱し、潤滑剤を除去すると同時に、併せて成形加工後の被覆樹脂フィルムの歪み緩和をする方法が提案されている。
【0011】
こうした熱可塑性樹脂フィルムラミネート金属板から成形した缶の場合、前述した外因性内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)問題は、樹脂成分を適正に選定することで、ほとんど心配ないと考えられているが、前述した先行技術の多くは基本的には飲料缶用途を対象としたもので、食缶を対象としたものではない。
こうした状況の下、食缶分野においても、低コストで内容物への外因性内分泌撹乱化学物質の溶出が無く、耐食性の良い、しかも印刷外観の美麗な缶体の出現が強く望まれていた。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような、食缶を対象に内容物への外因性内分泌撹乱化学物質の溶出が無く、耐食性が良く、しかも印刷外観が美麗で高級感ある良好なアルミニウム製絞り缶を提供することを課題としたものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、両面に熱可塑性樹脂被覆を施したアルミニウム合金板に対してプレス成形加工による一段絞り加工または多段絞り加工によって得られる絞り缶又は深絞り缶の製造方法において、缶内面側と成る面には厚みが10〜30μm,X線回折による測定で2θが22°〜28°に検出されるピークの内最も高いピークの強度が500cps〜5000cpsの範囲にある配向結晶化された極限粘度(IV)が0.55以上の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが被覆されており、缶外面側と成る面には金属側から熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層/印刷インキ層/クリアーコート層の構成の多層有機被膜が被覆されたアルミニウム合金板を最終缶体の絞り比として1.5〜2.5の範囲に一回もしくは複数回の絞り成形加工を行った後、更に該絞り缶を180℃〜220℃の温度で20秒〜120秒間の範囲で後加熱することを特徴とするアルミニウム製絞り缶の製造方法である。
【0015】
更に詳しくは、少なくとも缶内面側に被覆されている前記熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが、融点(Tm)が200℃以上で厚みが3〜15μmの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(A)と、融点が210℃以上で厚みが5〜15μmの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(B)との総厚みが10〜30μmの二層フィルムであり、該二層フィルムの低融点側の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(A)が金属と接するように被覆されているアルミニウム製絞り缶およびその製造方法である。
【0016】
このような構成の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが被覆されたアルミニウム製絞り缶は、缶の内外面側共に被覆された熱可塑性樹脂フィルムは高密着性を示すと共に、高食塩濃度の内容物を充填しても高耐食性を示し、更に缶の外面側には印刷インキが熱可塑性樹脂フィルムの上に施されているため、美麗な印刷外観が得られる。
また前述した外因性内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)問題はなく、安全で安心して食することが出来る内容物の保持性に優れた缶体が得られる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の絞り缶の実施形態について詳細に説明する。まず、本発明に適用される金属板について説明する。
本発明では表面処理が施された、厚みが0.20mm〜0.25mmのアルミニウム合金版が好適に使用される。アルミニウム合金板の厚みは、内容物充填後に行われるレトルト加熱殺菌工程で缶の変形が起こらない厚さである。
【0018】
アルミニウム合金板は通常缶容器として使用されている3004系アルミ合金、5052系アルミ合金、5182系アルミ合金、5T50系アルミ合金等に、クロム量として5〜80mg/m2付着させたリン酸クロム酸処理、ジルコニウム量として7〜17mg/m2付着させたリン酸ジルコニウム処理等の化成処理が施されたものが適用される。更に、またアルミニウム合金板の場合、硫化黒変といった現象はないため、フィルムとの密着性を重視した化成処理として、リン酸またはリン酸ジルコニウムとフェノール樹脂やアクリル樹脂等の有機樹脂からなる処理液から得られる有機無機複合化成処理皮膜が特に有効である。
【0019】
有機無機複合化成処理皮膜の内、皮膜中にリン(P)と有機樹脂のみ含有する有機無機複合化成処理の場合は、皮膜の付着量としては片面のリン(P)付着量として2〜7mg/m2、有機樹脂は皮膜炭素(C)付着量として5〜50mg/m2が最適である。
【0020】
また、皮膜中にジルコニウムを含有する有機無機複合化成処理皮膜の場合も、付着量は片面のリン(P)付着量として2〜7mg/m2,皮膜炭素(C)付着量として5〜50mg/m2、ジルコニウム付着量として5〜20mg/m2の付着量が最適である。
【0021】
次に、缶の内面側に被覆する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムについて説明する。本発明のような絞り缶の場合、充填される内容物は前述したように主に魚肉、獣肉、穀物やペットフード等で、内容物充填後、調理と殺菌を兼ねてレトルト加熱殺菌処理が行われ、このレトルト加熱殺菌処理は最も厳しい場合は113℃で100分間とか、125℃で60分間とかの様な高温且つ高圧の蒸気によるレトルト加熱殺菌処理を行うことから、この処理に耐えるためには、少なくとも130℃以上の耐熱性を有する熱可塑性樹脂フィルムが必要であり、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは最適である。
【0022】
アルミニウム合金板を被覆する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムとしてはテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の酸成分と、エチレングリコール、ブチレングリコール等のアルコール成分からなるポリエステル樹脂で、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)のようなホモポリマーや、例えばポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートとの共重合樹脂であるエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートとの共重合樹脂であるポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のコポリマー、更には、こうしたホモポリマー同士のブレンド樹脂、ホモポリマーとコポリマーとのブレンド樹脂、コポリマー同士のブレンド樹脂、等から得られるフィルムが適用される。
【0023】
熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内でも、前述したレトルト加熱殺菌処理に耐え、内容物の保護性からは、特に配向結晶化した二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムが最適である。
【0024】
本発明では、絞り成形加工前に缶の外面となる面には印刷・塗装が施されるが、印刷インキやクリアー塗料用樹脂として広く使用されている熱硬化性樹脂塗料の硬化温度は、通常の場合、170〜180℃であり、最も高い温度でも200℃程度である。又、乾燥時間としては長くて10〜12分間であるが、こうした外面の印刷・塗装工程で内面側の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが軟化しないこと、更には絞り缶成形加工後の缶体の後加熱条件である180℃〜210℃の温度で20秒〜120秒間で内外面側の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが軟化しないことが必須となる。
【0025】
そこで、本発明に適用される熱可塑性樹脂フィルムの融点(Tm)は、200℃以上である。熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの融点(Tm)が200℃未満の場合は、缶の外面側となる面の印刷・塗装の乾燥工程や缶体の後加熱処理工程での温度変動や設備上のバラツキを考慮すると安全性が低下し、時には軟化し内面側のフィルムに欠陥を発生させる危険性があり好ましくない。かかる意味において熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの融点(Tm)は200℃以上としたものであるが、好ましくは210℃以上である。
【0026】
こうした缶外面の印刷・塗装の乾燥工程や缶体の後加熱工程での温度で熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの軟化するのを抑える方法としては、熱可塑性樹脂フィルムを二重構造にし、金属板と接する側の熱可塑性樹脂フィルムとその上層の熱可塑性樹脂フィルムとの融点(Tm)差を持たせた樹脂フィルム(前者が低融点で後者が高融点)の使用は有効である。
更に、二層フィルムにすることでラミネート時の熱で破壊される配向結晶を最小限に抑えることができ、耐食性のより優れた絞り缶が得られる。
【0027】
そこで、本発明では、少なくとも缶の内面側に被覆されている熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、アルミニウム板と接する接着層フィルムをして融点(Tm)が200℃以上の熱可塑性ポリエステル樹脂(低融点のポリエステル樹脂)フィルム層(A)と、その上層フィルムとして融点が210℃以上の高融点の熱可塑性ポリエステル樹脂(高融点のポリエステル樹脂)フィルム層(B)との二層フィルムも好適に使用される。
【0028】
二層フィルムの場合、接着層フィルムと上層フィルムとの融点(Tm)差が大きいと、接着層フィルムと上層フィルムとの密着性が劣って行く方向にあり、前述した缶の外面側となる面の印刷・塗装の乾燥工程や缶体の後加熱工程での温度で、上層フィルムの収縮が起こる場合があるため、接着層フィルムと上層フィルムの融点(Tm)差は大きくとも25℃以下、出来れば20℃以下にすることが好ましい。
【0029】
なお、本発明では、樹脂フィルムの融点(Tm)は示差走査熱量計(DSC)で、10℃/分の昇温速度で測定したときの結晶融解吸熱ピークの最大値を示す温度である。
【0030】
樹脂フィルムの融点(Tm)は、前述した酸成分とアルコール成分の選定、コーポリマーの程度、ブレンドする樹脂組成をその配合比、等適宜選定することで得ることができる。
【0031】
更には、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは極限粘度(IV)が0.55以上のものが好適である。極限粘度(IV)は樹脂の平均分子量を示す指標であるが、極限粘度が0.55未満では樹脂フィルムの耐衝撃強度が小さく、絞り缶成形加工の際に形成される、缶体のレトルト加熱殺菌処理時の膨張を最小限に抑えるための缶底部の突起リング(エクスパンションリング)部のフィルムにクラックが入ったり、また、内容物が充填された缶体を落とした場合、その部位に衝撃が加わり材料が変形するばかりでなく、同時にその衝撃と変形で樹脂フィルムにクラックが入り、激しい場合はそこが缶体金属の腐食起点となる。
内容物充填後の缶体の落下に対する特性を耐デント性と呼ぶが、腐食の激しい内容物の場合、穿孔缶となることもあり、耐デント性が劣ることは、重大な問題となる要因を有しており好ましくない。
【0032】
上記のような樹脂フィルムにクラックが入る現象は、基本的には樹脂フィルムの耐衝撃強度の問題であり、耐衝撃強度は極限粘度が高い程良好である。この極限粘度は0.55以上であれば前述した接着剤層との相互効果により多くの場合実用上問題のない品質が確保されるが、腐食性の強い内容物に対しては高い方が安心であり、好ましくは0.58以上が良い。
【0033】
適用する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが二層フィルムの場合は、接着層フィルムと上層フィルムとが一体となっている状態で測定した値が0.55以上であれば良い。
【0034】
なお、本発明では、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの極限粘度(IV)は、ウペローデ粘度計でフェノールとテトラクロロエタンの重量比6:4の溶液に熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを0.100±0.003g溶解し、30.0±0.1℃で測定した値である。
【0035】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは厚みが10〜30μmである。フィルム厚みは基本的には缶の耐食性および内容物充填後に行われるレトルト加熱殺菌処理時に起こるフィルム剥離(デラミ)の点から限定したものである。
【0036】
前述したように、本発明の絞り缶は、魚肉、獣肉、穀物やペットフード等といったものが充填されるが、こうした内容物の中には醤油や食塩で味付けされた、いわゆる含塩食品が多く、アルミニウムに対し高腐食性の内容物となっている。更に、魚肉、獣肉、穀物やペットフード等の内容物を充填した場合、レトルト加熱殺菌処理は、例えば厳しい場合は135℃で30分とか125℃で50分といった条件で行われ、熱可塑性樹脂ではその樹脂のガラス転移温度によって多少異なるが、いずれの樹脂フィルムにとっても物質透過性の点からはバリアー性は低下する方向にあり耐食性の面から苛酷な条件である。
熱可塑性樹脂フィルムの持つバリアー性は、樹脂の組成、密度によって差異があるが、同一樹脂組成、同一結晶状態の場合、フィルム厚みが厚いほどバリアー性は良い。
【0037】
従って、熱可塑性樹脂フィルムの厚みが厚いほど耐食性は良好であるが、フィルム厚みが厚いと延伸フィルムの製膜時の残留歪みや缶体の成形加工時の歪みが多くなり、レトルト加熱殺菌処理でデラミが発生する場合がある。
そこで、本発明では、熱可塑性樹脂フィルムの厚みを10〜30μmに限定したが、缶体の実質実用特性や経済性を考慮すると、樹脂フィルムの厚みは12〜25μmが最適である。
【0038】
更に、二層フィルムの場合は、ポリエステル樹脂フィルム層(A)の厚みは3〜15μm、ポリエステル樹脂フィルム層(B)の厚みは5〜15μmであり、二層フィルムの総厚みとしては10〜30μmであるが、缶体の実質的な実用特性や経済性を考慮すると、総樹脂フィルム厚みは10〜25μmが最適である。
【0039】
本発明に適用される熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、X線回折による測定で2θが22°〜28°に検出されるピークの内最も高いピークの強度が500cps〜5000cpsの範囲にある配向結晶化されたものである。
【0040】
前述したように、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの中でも、レトルト加熱殺菌処理に耐えかつ内容物の保護性からは、特に配向結晶化された二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムが最適である。
しかし、配向度の高い熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、フィルム製膜の延伸時の残留歪みが概して大きく、絞り缶等の成形加工を受けた場合、その残留歪みが接着力に勝り、フィルムが剥離(デラミ)するといったことがしばしば起こる場合がある。
【0041】
従って、この密着性確保と缶体および内容物の保護の兼備からは、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの配向度を最適な範囲にする必要があり、本発明では適用される缶の内面側に被覆する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの配向性は、少なくとも絞り成形加工に供される前のラミネート材のフィルムをX線回折による測定で、2θが22°〜28°に検出されるピークの内最も高いピークの強度が500cps〜5000cpsの範囲にある熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムとする。
【0042】
下限値であるX線回折による測定で検出されるピークの内最も高いピークの強度が500cps未満の場合、密着性は良好であるが、耐食性の点で劣り、特に表面処理被膜が成形加工で破壊され易い、缶口部に近い部位で腐食が起こる場合があり好ましくない。
更に、X線回折による測定で検出されるピークが小さい熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、概して熱安定性に劣ることが多く、例えば熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを金属板に被覆するためのラミネートの熱でフィルム収縮が起こったり、激しい場合は熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが皺となったりして、ラミネート性を損ねる原因ともなる場合がある。
【0043】
かかる意味からも、X線回折による測定で検出されるピークが500cps未満の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは好ましくない。一方、上限値であるX線回折による測定で検出されるピークの内最も高いピークの強度が5000cpsを超えた場合は密着性が劣り、レトルト加熱殺菌処理時にフィルム剥離が起こる場合があり好ましくない。
【0044】
このように、X線回折による測定で検出されるピークの内最も高いピークの強度の下限値は耐食性から、またX線回折による測定で検出されるピークの内、最も高いピークの強度の上限値は、密着性から限定してのものであり、好ましくは650cps〜4500cpsの範囲が最適である。
【0045】
なお、適用する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが二層フィルムの場合は、接着層フィルムと上層フィルムとが一体となっている状態で測定した値が500cps〜5000cpsの範囲にあれば良く、二層フィルムの場合も好ましくは650cps〜4500cpsの範囲が最適である。
【0046】
X線回折測定で2θが22°〜28°に検出されるピークの内、最も高いピークの強度が500cps〜5000cpsの範囲のものを得る手段としては、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを製造する際の製膜時の延伸倍率や延伸後に行う熱固定条件を適宜選択すること、更にはフィルムを被覆するラミネート条件を適宜選択することで達成される。
【0047】
X線回折測定で検出される、2θが22°〜28°のピークは、例えばエチレンテレフタレートが主な反復単位の場合は、2θが約26°付近に最も高いピークが現れ、ブチレンテレフタレートが主な反復単位の場合は、2θが約24°付近に最も高いピークが現れる。
【0048】
なお、X線回折の測定は、例えば理学株式会社製のX線回折装置rad−BでCuターゲット(Cu−Kα)で40KV、20mAで測定したときの、2θが22°〜28°に検出されるピークの内最も高いピーク強度である。
【0049】
次ぎに、缶の外面側の皮膜構成について説明する。本発明の絞り缶の缶外面側となるアルミニウム面には、アルミニウム側から熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層/印刷インキ層/クリアーコート層が熱圧着により直接被覆されている。
【0050】
印刷インキ層は文字や商標等の内容物表示をするもので、絞り成形加工による変形を考慮して、予め歪んだ形状に印刷が施されるわけであるが、印刷インキそのものは特別なものである必要はなく、現在使用されている印刷インキがそのまま適用できる。
【0051】
クリアーコート層は印刷インキ層の成形加工時の損傷や、レトルト加熱殺菌処理時の変色、変質を抑えるものであるが、特別なものである必要はなく滑り性が良く、耐レトルト性の良好なものであれば現行の熱硬化性樹脂塗料から成る切板用クリアーコートが適用できる。
【0052】
缶外面側の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、印刷外観の鮮鋭性、鮮明性を確保することに有効である。
現行の塗装・印刷缶は、多くは金属板にサイズコートもしくはホワイトコートが施され、その上層に印刷が行われるが、サイズコートもしくはホワイトコート塗装の場合、ロール斑は避けられず、また塗装厚みも数μmであるため、絞り成形加工によって生じるアルミニウム合金板の粗度の増大の影響を受け易く、その結果、印刷外観の鮮鋭性、鮮明性は低下する。
【0053】
一方、本発明にように充分な厚みを有する樹脂フィルムの上層に印刷を施した場合、上記のような絞り成形加工によって生じるアルミニウム合金板の粗度の増大の影響を受け難く、印刷外観の鮮鋭性、鮮明性を確保することが可能となる。
かかる意味から、缶の外面側に被覆される熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの厚みは、10〜15μmが最適である。
【0054】
缶の外面側となる熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム上への歪み印刷(絞り加工により成形した缶側壁の印刷図柄が適切な状態となる様に、平板状態では歪んだ図柄となる歪み印刷図柄を予め印刷しておく)は、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムをアルミニウム合金板に熱接着した後に行っても良いし、或いは、熱接着する前の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム上に、グラビア印刷方法等により歪み印刷を施し、直ちにその印刷(印刷インキ層)の上にクリアーコートを塗装し、乾燥・硬化させてから、この熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムをアルミニウム合金板に熱接着しても良い。
【0055】
本発明では、缶の内外面側に被覆される熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムに、石膏、雲母、二酸化チタンコーティング雲母、ケイ酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の無機物、二酸化チタン、酸化亜鉛、ベンガラ、カーボンブラック、硫化カドミウム、硫化錫等の無機顔料、有機色素と金属塩との結合によって生じた有機顔料(レーキ顔料)、染料、金属粉末から選ばれる1種類又は2種類以上の着色剤を混入して着色したものも好適に使用される。
【0056】
特に、缶の外面側は、例えば熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム中に白色の二酸化チタン顔料を含有するフィルム上に印刷を行った場合は、印刷外観は大幅に向上する。
【0057】
また、缶内面側についても、食欲をそそる内容物に見せるための色彩効果の観点から、着色フィルムは有効であり、かかる意味において、本発明では缶の内外面側に被覆される熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムに無機物、無機顔料、有機顔料、染料、金属粉末から選ばれる1種類又は2種類以上の着色剤を含有させたものも好適に使用される。
【0058】
熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムに含有させる量としては5〜20重量%であるが、5重量%未満では着色効果は見られず好ましくない。
一方、20重量%を超えても、着色の効果はあまり大きくならず、飽和してくるため経済的でないばかりか、密着性が劣る場合があり好ましくない。
【0059】
なお、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム中に含有させる無機物、無機顔料、有機顔料、染料および金属粉末は、特別限定するものではないが、缶の内外面側のポリエステル樹脂フィルム中に含有させる場合は、当然にレトルト加熱殺菌処理で溶解しないこと、特に内面側は食品衛生上問題なく且つ保存中にも内容物中には溶解しない物質を選定する必要が有ることは、言うまでもない。
【0060】
缶の外面側の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、前述した缶の内面側に被覆される樹脂組成や融点(Tm)を有する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが適用出来るが、アルミニウム合金板に被覆する手法によって最適な融点(Tm)を有する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを選択する必要がある。
【0061】
即ち、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを加熱されたアルミニウム合金板に直接熱圧着して被覆する場合は、アルミニウム合金板表面に片面ずつ順次被覆する方法と両面に同時被覆する方法があるが、アルミニウム合金板に缶の内外面用の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを同時に熱圧着して被覆する場合は、内外面用の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの融点(Tm)をほぼ同じような融点(Tm)にすることがラミネート温度の一致から必要で、順次被覆する方法の場合は融点(Tm)の高い熱加塑性ポリエステル樹脂フィルムからアルミニウム合金板に被覆し、次いで温度低下をみて融点(Tm)の低い熱加塑性ポリエステル樹脂フィルムをアルミニウム合金板に被覆するなどの手法が適用できる。どの手段を採用するかは設備の関係で適宜選択すれば良い。
【0062】
アルミニウム合金板の加熱方法としては、熱風炉中を通過させて加熱する方法、電気炉中を通過させて加熱する方法、加熱ロール(ジャケットロール)に接触させて加熱する方法等(これら方法の単独方法又は複数の方法を組み合わせた方法)の周知の金属板加熱方法が適用できる。
【0063】
本発明で適用される絞り缶は、絞り比が1.5〜2.5の範囲にある缶である。
絞り比は、絞り缶の径(Ld)に対するプランク径(Lb)の比で表され、Lb/Ldの値が1.5〜2.5の範囲にあることを示している。
【0064】
絞り比が1.5未満では、缶の容積が内容物を充填するには小さすぎて実質的でなく商品価値はない。一方、絞り比が2.5を超えると成形加工による歪みが大きくなり過ぎ、前記した特公平7−73943号公報に記載されている様な、予め成形加工による歪みを考慮した印刷図柄を作成し、その印刷図柄を基に刷版を作成して印刷する方法では対処できない程、缶外面の印刷が歪んだものとなり折角の印刷外観を美麗な状態にしたものが損なわれてしまい、好ましくない。また、密着性の点でも低下が大きくなりフィルム剥離に繋がる危険性が高く好ましくない。
【0065】
本発明では、絞り加工後の内外面に被覆されている熱加塑性樹脂フィルム層の密着性を一層強固なものとするため、前記した周知の樹脂被覆缶体成形後の後加熱処理方法、即ち、成形加工後の缶体を180℃〜220℃の温度で20秒〜120秒の範囲で後加熱処理する。
【0066】
特に、絞り比が高い場合は、後加熱処理しないと内容物充填後のレトルト加熱殺菌工程で内面および外面側のポリエステル樹脂フィルムが局部的な剥離(デラミ)を起こす場合があり、好ましくない。
【0067】
加熱温度が180℃未満の場合は、成形加工で入った熱加塑性ポリエステル樹脂フィルムの歪みが取り難く密着性は確保されない場合があり、また、長時間要することもあり、生産性の点で問題となり経済的でない。
【0068】
一方、220℃を超えると、加熱時間にもよるが前述した熱加塑性ポリエステル樹脂フィルムの面からも、配向性が樹脂組成によっては急激に低下し、耐食性や前述した耐デント性が劣る場合があり、更には、外面側のクリアー層が変色し外観を損ねる場合があり好ましくない。
【0069】
成形加工後の缶体の後加熱時間としては20秒〜120秒であるが、この時間は勿論加熱温度が高い場合は短くて良く、加熱温度が低い場合は長くすることが可能であることはいうまでもないことである。
成形加工後の缶体の後加熱条件としては、加熱温度は180℃〜220℃で加熱時間は20秒〜120秒の範囲であれば外面の最表層のクリアーコート層の変色等に影響を及ぼさず、また成形加工によって入った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの歪みを取ることができ、レトルト加熱殺菌処理でデラミを起こすことはなく、そして缶外面の印刷外観も美麗さを保持することができる。
【0070】
なお、前述したように缶体の後加熱工程で被覆されている熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの軟化による欠陥発生を回避するために、後加熱条件である特に温度は被覆されている熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの融点(Tm)を考えて設定するのが肝要である。缶体の加熱方法としては電気炉、熱風炉といった通常の加熱炉が適用でき、加熱炉の雰囲気温度として前記の180℃〜220℃に設定し、この炉内を20秒〜120秒の範囲で通過させることで良い。
【0071】
なお、この缶体の後加熱に際し、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの保護の観点から、例えばネット等でできたベルトに乗せて加熱炉内を通過させる場合は、ネットには缶の内面側フィルムには接触しないように、外面側を乗せて通過させて後加熱するのが肝要である。
【0072】
【実施例】
以下、実施例にて、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
なお、本実施例で行った評価法は以下の通りである。
(1)絞り成形加工缶の密着性は、蓋を巻締めないフランジ開口部がある状態で、125℃で30分間蒸気レトルト加熱処理を行い、フィルムの剥離状況を目視観察した。評価は次のように評価基準を設定し行った。
○:剥離なく良好
□:軽微な剥離が開口部切り口に発生
△:フランジ部の1/2程度剥離が発生
×:フランジ部から缶胴部にかけて剥離が発生
(2)缶内面の樹脂フィルムの健全性については、1.0%食塩水に界面活性剤を0.1%添加した電解液で、缶体を陽極、陰極を銅線とし印加電圧6Vで3秒後の電流値を測定し、樹脂フィルムの被膜の健全性を評価とした。(以降、この評価法をQTV試験と称する)
(3)内容物リパックにおける硫化黒変性については目視観察した。評価は次のように評価基準を設定し行った。
○:黒変なく良好
□:色の薄い黒変が、缶体上部にのみ僅かに見られる
△:色の黒い黒変が缶上部に明確に見られる
×:色の黒い黒変が缶全体に明確に見られる
(4)内容物リパックにおける腐食状況については目視観察した。評価は次のように評価基準を設定し行った。
○:腐食なく良好
□:表面腐食が僅かに発生
△:板厚の1/4〜1/3に達する孔食が発生
×:板厚の1/2以上に達する孔食が発生
【0073】
<フィルムのX線回折強度>
実施例1〜4
厚みが15μm、融点が232℃、極限粘度(IV)が0.62と同一にした、X線回折強度が560cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(実施例1)、X線回折強度が1870cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(実施例2)、X線回折強度が3830cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(実施例3)、X線回折強度が4800cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(実施例4)を、板厚が0.22mmで片面のCr付着量が25mg/m2のリン酸クロム酸処理を施した5T50アルミニウム合金板を加熱ロールで加熱し、板温が約230℃になった状態で両面に熱圧着し、両面フィルムラミネートアルミニウム合金板を作成した。
【0074】
次いで、これらのフィルムラミネートアルミニウム合金板の一方の面に印刷用インキにより印刷を行い、更にその上に、クリアコートとして熱硬化性ポリエステル樹脂系塗料を60mg/dm2塗布し、170℃で10分間電気オーブンで乾燥焼き付けを行った後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.76の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで200℃で100秒間後加熱を行った。
【0075】
こうして得た実施例1〜4の絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム被膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分のレトルト加熱殺菌処理で調べた。また、前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰から内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分のレトルト加熱殺菌処理を行い、55℃で1ヶ月間貯蔵し耐食性を調べた。
実施例1〜4で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容および性能評価結果を表1に示した。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から、本発明の実施例1〜4の絞り缶はレトルト加熱処理でも内外面のフィルム剥離はなく良好な密着性を有しており、また内容物のリパックではあるが耐食性も良好であることが判る。
【0078】
実施例5、6
絞り缶の内面用フィルムとして、厚みが5μm、融点が223℃の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(A)と厚みが10μm、融点が235℃の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(B)からなる二層フィルムで、極限粘度(IV)が0.57と同一にしたX線回折強度が630cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(実施例5)と、X線回折強度が4540cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(実施例6)とを準備した。
【0079】
また、絞り缶の外面用フィルムとしては融点が225℃の二酸化チタンを10重量%含有する12μmの白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを準備した。こうした内外面用の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを、実施例1〜4で用いたアルミニウム合金板を加熱ロールで加熱し、板温が225℃で一方の面には内面用の実施例5の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの(A)層又は単層の実施例6の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムがアルミニウム合金板に接するように、他方の面には上記白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを両面同時熱圧着しフィルムラミネートアルミニウム合金板を作成した。
【0080】
次いで、両面フィルムラミネートアルミニウム合金板の白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム面に印刷インキにより印刷を施し、更に実施例1で使用したクリアーコートを60mg/dm2塗装し、170℃で10分間電気オーブンで乾燥焼き付けを行った後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.76の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで210℃で30秒間後加熱を行った。
【0081】
こうして得た実施例5、6の絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム皮膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分間のレトルト加熱殺菌処理で調べた。また、前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰から内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分間のレトルト加熱殺菌処理を行い、55℃で1ヶ月間貯蔵し耐食性を調べた。
実施例5、6で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容および性能評価結果を表2に示した。
【0082】
【表2】
【0083】
表2から、本発明の実施例5、6の絞り缶はレトルト加熱殺菌処理でも内外面のフィルム剥離はなく良好な密着性を有しており、また内容物のリパックではあるが耐食性も良好であることが判る。
【0084】
比較例1、2
厚みが15μm、融点が225℃、極限粘度(IV)が0.62、X線回折強度が5570cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを、板厚が0.22mmで片面のCr付着量が25mg/m2のリン酸クロム酸処理を施した5T50アルミニウム合金板を加熱ロールで加熱し、板温が約230℃の状態で両面に熱圧着し、両面フィルムラミネートアルミニウム合金板を作成した。
【0085】
次いで、フィルムラミネートアルミニウム合金板の一方の面に印刷用インキにより印刷を行い、更に実施例1で使用したクリアーコート用塗料60mg/dm2で塗装を行い、170℃で10分間電気オーブンで乾燥焼き付けをした後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外側になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.92の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで200℃で100秒間の後加熱処理(比較例1)および215℃で120秒間の後加熱処理(比較例2)を行った。
【0086】
こうして得た比較例1、2の絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム被膜の健全性はQTV試験でし、密着性については125℃で60分間のレトルト加熱処理をした後に調べた。
比較例1、2で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容および性能評価結果を表3に示した。
【0087】
【表3】
【0088】
表3から、比較例1、2の絞り缶はレトルト加熱殺菌処理で内外面のフィルム剥離が発生し、密着性が実施例に比較して劣ることが判る。なお、内容物のリパックテストは、フィルム剥離が発生したため実施しなかった。
以上の結果にも示されているが、前述した通り本発明に適用される熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、X線回折による測定で2θが22°〜28°に検出されるピークの内最も高いピークの強度が500cps〜5000cpsの範囲にある配向結晶化されたものである。
【0089】
<フィルムの厚み>
実施例7、8
絞り缶の内面用フィルムとして、厚みが3μm、融点が207℃の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(A)と厚みが10μm、融点が228℃の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(B)からなる二層フィルムで、極限粘度(IV)が0.68、X線回折強度が850cpsのフィルム(実施例7)、厚みが10μm、融点が207℃の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(A)と厚みが17μm、融点が228℃の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(B)とからなる二層フィルムで、極限粘度(IV)が0.68、X線回折強度が3700cpsのフィルム(実施例8)の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを準備した。また、絞り缶の外面用フィルムとしては実施例5、6で用いた白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを準備した。
【0090】
こうした内外面用の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを、実施例1〜4で用いたアルミニウム合金板を加熱ロールで加熱し、板温が220℃で一方の面には内面用の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(A)がアルミニウム合金板に接するように、他方の面には白色の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを両面同時に熱圧着してフィルムラミネートアルミニウム合金板を作成した。
【0091】
次いで、両面フィルムラミネートアルミニウム合金板の白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム面に印刷インキで多色印刷を行い、更に実施例1で使用したクリアーコートを60mg/dm2塗装し、その後、170℃で10分間電気オーブンで乾燥焼き付けした後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.92の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで190℃で120秒間後加熱処理を行った。
【0092】
こうして得た実施例7、8の絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム被膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分間のレトルト加熱殺菌処理を行って調べた。また、前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰から内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分間のレトルト加熱殺菌処理を行い、55℃で1ヶ月間貯蔵して耐食性を調べた。
実施例7、8で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容および性能評価結果を表4に示した。
【0093】
【表4】
【0094】
表4から、本発明の実施例7、8の絞り缶は、レトルト加熱殺菌処理でも内外面のフィルム剥離はなく良好な密着性を有しており、また内容物のリパックではあるが耐食性も良好であることが判る。
【0095】
比較例3
絞り缶の内面用フィルムとして、厚みが3μm、融点が227℃の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(A)と厚みが5μm、融点が243℃の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(B)とからなる二層フィルムで、極限粘度(IV)が0.65、X線回折強度が890cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを準備した。
また、絞り缶の外面用フィルムとしては実施例5、6で用いた白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを準備した。
【0096】
こうした内外面用の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを、板厚が0.22mmで片面のリン(P)付着量が3mg/m2、皮膜炭素(C)量として20mg/m2の有機無機複合化成処理皮膜を有する5T50アルミニウム合金板を加熱ロールで加熱し、板温が約230℃の状態で該アルミニウム合金板の両面に熱圧着し、両面フィルムラミネートアルミニウム合金板を作成した。
【0097】
次いで、両面フィルムラミネートアルミニウム合金板の白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム面に印刷用インキで印刷を行い、更にその上に、実施例1で使用したクリアーコート用塗料60mg/dm2を塗装し、170℃で10分間電気オーブンで乾燥焼き付けをした後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が2.32の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで215℃で90秒間の後加熱処理を行った。
【0098】
こうして得た比較例3の絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム被膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分間のレトルト加熱殺菌処理をした後に調べた。また、前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰から内容物をリパックして缶蓋を巻締めて密封した後、113℃で100分間のレトルト加熱殺菌処理を行い、55℃で1ヶ月間貯蔵して耐食性を調べた。
比較例3で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容および性能評価結果を表5に示した。
【0099】
【表5】
【0100】
表5から、比較例3の絞り缶はレトルト加熱殺菌処理でも内外面のフィルム剥離はなく良好な密着性を有しているが、得られた缶体のQTV値、また内容物のリパックでの耐食性は実施例に比べ劣ることが判る。
以上の結果にも示されているが、前述した通り本発明に適用される熱可塑性樹脂フィルムの厚みは10〜30μmであり、二層フィルムの場合は、ポリエステル樹脂フィルム層(A)の厚みは3〜15μm、ポリエステル樹脂フィルム層(B)の厚みは5〜15μmであり、二層フィルムの総厚みとしては10〜30μmである。
【0101】
<缶体の絞り比>
実施例9〜11
絞り缶の内面用フィルムとして、厚みが7μm、融点が218℃の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(A)と厚みが8μm、融点が235℃の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(B)とからなる二層フィルムで、極限粘度(IV)が0.63、X線回折強度が1250cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(実施例9〜11)を準備した。
また、絞り缶の外面用フィルムとしては実施例5、6で用いた白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを準備した。
【0102】
こうした内外面用の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを、板厚が0.22mmで片面のリン(P)付着量が3mg/m2、皮膜炭素(C)付着量として20mg/m2の有機無機複合化成処理皮膜を有する5T50アルミニウム合金板を加熱ロールで加熱し、板温が230℃で両面に熱圧着し、両面フィルムラミネートアルミニウム合金板を作成した。
【0103】
次いで、両面フィルムラミネートアルミニウム合金板の白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム内に多色インキで印刷を行い、更に実施例1で使用したクリアーコート塗料を60mg/dm2塗装し、170℃で10分間電気オーブンで乾燥焼き付けをした後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.58の絞り缶(実施例9)、絞り比が1.92の絞り缶(実施例10)、絞り比が2.32の絞り缶(実施例11)を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで200℃で90秒間の後加熱処理を行った。
【0104】
こうして得た実施例9〜11の絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム被膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分間のレトルト加熱殺菌処理をした後に調べた。また、前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰から内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分間のレトルト加熱殺菌処理を行い、55℃で1ヶ月間貯蔵し耐食性を調べた。
実施例9〜11で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容および性能評価結果を表6に示した。
【0105】
【表6】
【0106】
表6から、本発明の実施例5、6の絞り缶はレトルト加熱殺菌処理しても内外面のフィルム剥離はなく良好な密着性を有しており、また内容物のリパックではあるが耐食性も良好であることが判る。
以上の結果にも示されているように、本発明では絞り比が1.5以上の缶で前述した諸物性を得ることができる。
【0107】
<後加熱処理>
比較例4
実施例9で作成した両面フィルムラミネートアルミニウム合金板の白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム面に印刷用インキで印刷を行い、更にその上に、実施例1で使用したクリアーコート用塗料を60mg/dm2塗装し、170℃で10分間電気オーブンで乾燥焼き付けをした後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.58の絞り缶を作成した。
【0108】
こうして得た比較例4の絞り缶の性能評価について、缶体の後加熱を行わないで内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム被膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分間のレトルト加熱殺菌処理を行った後に調べた。
比較例4で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容および性能評価結果を表7に示した。
【0109】
【表7】
【0110】
表7から、比較例4の絞り缶はレトルト処理で内外面のフィルム剥離が発生し、密着性が本発明の実施例9に比較して劣ることが判る。なお、内容物のリパックテストは、フィルム剥離が発生したため実施しなかった。
このように、本発明の効果を得るためには絞り成形加工を行った後、更に後加熱処理が必要であることがわかる。
【0111】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の絞り缶によれば内面が熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムで被覆されているため、従来の塗装缶に比べて耐食性の良好な絞り缶が得られると共に、缶の外面にもポリエステル樹脂フィルムが施されていて平滑性に優れているため、その上層に施された印刷の鮮鋭性が増すことから、従来の印刷面に比べ印刷外観の美麗な絞り缶が得られることができる。
また、本発明の絞り缶は缶内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが、原材料にビスフェノールAやその外の外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)が使用されていないため安全であり、現在の社会的要望に応えられる食缶用の絞り缶である。
Claims (3)
- 両面に熱可塑性樹脂をラミネートしたアルミニウム合金板に対してプレス成形加工による一段絞り加工または多段絞り加工を施すことにより得られる絞り缶または深絞り缶において、
缶内面側と成る面には厚みが10〜30μm,X線回折による測定で2θが22°〜28°に検出されるピークの内、最も高いピークの強度が500cps〜5000cpsの範囲にある配向結晶化された、極限粘度(IV)が0.55以上の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが被覆されており、
缶外面側と成る面にはアルミニウム側から熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層/印刷インキ層/クリアーコート層の構成の多層有機皮膜が被覆されたアルミニウム合金板を、最終缶体の絞り比として1.5〜2.5の範囲に1回もしくは複数回の絞り成形加工を行った後、
更に該絞り缶を180℃〜220℃の温度で20秒〜120秒間の範囲で後加熱することを特徴とするアルミニウム製絞り缶の製造方法。 - 缶内面側に被覆されている前記熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが、融点(Tm)が200°以上で厚みが3〜15μmの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(A)と融点が210℃以上で厚みが5〜15μmの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(B)との総厚みが10〜30μmの二層フィルムであり、
該二層フィルムの低融点側の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層(A)が金属と接するように被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム製絞り缶の製造方法。 - 缶の内面側および/または外面側に積層されている熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層が、無機物、金属粉末、無機顔料、有機顔料及び染料から選ばれる1又は2種類以上の着色剤を、5〜20重量%含有していることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム製絞り缶の製造方法。
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