JP4601189B2 - フィルムラミネート絞り缶 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属板を1回もしくは複数回の絞り加工によって得られる、フィルムラミネート絞り缶(深絞り缶を含む)に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属缶の分野では、従来から鋼板やアルミニウム板をプレスによる一回もしくは複数回の絞り成形加工によって得られる絞り缶は、主に魚肉、獣肉、穀物やペットフード等が充填される、いわゆる食缶用途として広く使用されている。こうした金属板からの絞り缶では、金属板の缶内面に当たる面には耐食性を確保するため塗装が施された。また缶外面に当たる面にも塗装・印刷が施された塗装板、いわゆるプレコート材から直接プレスによる絞り成形加工を行い絞り缶を得ている場合が多い。しかし、プレコート材から直接プレスによる絞り成形加工を行う場合、缶の内外面の塗膜の損傷や外面の印刷絵柄の歪みや外観低下問題等から余り絞り比の高い高加工度のものは行われていないのが現状で、高加工度の缶の場合は金属板を直接成形加工した後内面塗装や外面塗装・印刷を行うのが一般的である。
【0003】
予め内外面に塗装や印刷を施した塗装板から得られる絞り缶は、外面印刷は当然最終缶体の加工歪みを考慮した印刷が金属板に行われ成形加工されている。しかし、成形加工による局部的なストレッチやコンプレッション、また成形加工時の微細な損傷は避けられず、印刷外観は例えば、スリーピース缶のように缶胴部を円筒状に成形するだけの缶や、絞りしごき缶(Drowing & Ironning Can;DI缶)のように成形加工後に内外面に塗装や印刷するといった缶に比べ、劣るといった欠点がある。
【0004】
缶内面についていえば、前述したように絞り缶は魚肉、獣肉、穀物やペットフード等といったものが充填されるため、時には高濃度の食塩を含む場合があり、内容物の腐食性は厳しいものがある。また、前記のような魚肉、獣肉の内容物は、レトルト処理による加熱殺菌工程が必須であるため、肉中に含まれるシスチン等の含硫蛋白質の分解により、サルファー(S)が解離し塗膜を透して塗膜下の金属と反応を起こす場合がある。特に鋼板の場合、反応生成物は硫化鉄と言う化合物で黒色を呈していることから、硫化黒変またはサルファーステインと呼ばれ、見た目の品質を著しく損ない好ましくない。
【0005】
更に、缶内面の塗膜についていえば、絞り缶は前述したように予め塗装されたプレコート材を成形加工して得るため、加工性が良く、且つ硫化黒変の起こらない塗料を用いており、こうした塗料は、逆に今話題となっている外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)問題の心配もある塗料が多いことが最近分かってきている。
【0006】
一方、近年、金属缶へ従来の塗装からフィルムのラミネート材適用化が目立つようになってきており、多くの提案がなされている。例えば、特開平2−263523号公報、特開平3−133523号公報、特開平4−237524号公報、等はツーピース缶を対象としたもので、特開平5−112361号公報、特開平5−111979号公報、特開平5−31868号公報、等はスリーピース缶を対象としたものである。また、特開昭61−149341号公報、特開平3−87249号公報、特開平4−344231号公報等には、樹脂フィルムと金属板の間に有機樹脂重合物を介在させたラミネート材が提案されている。
【0007】
こうしたフィルムラミネートを施した缶の場合、前述した外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)問題は、樹脂成分を適正に選定することで、ほとんど心配ないと考えられているが、前述した先行技術のほとんどが基本的には飲料缶用途を対象としたもので、食缶を対象としたものではない。また、前述した先行技術である樹脂フィルムと金属板の間に有機樹脂重合物を介在させたラミネート材でも、まず第一にスチール素材に対して特に問題となる硫化黒変問題は簡単に解決出来ず、更に、第二に開示内容の全てが食缶としての耐食性に有効に作用するわけではなく、密着性、耐食性に対し問題となる場合が多々存在している。
【0008】
従って、前述したような先行技術をそのまま適用しても、フィルム特性や接着剤、若しくは接着プライマーの兼ね合いから食缶としての密着性、耐食性特に硫化黒変問題は簡単に解決出来ず、解決するためにはフィルム厚みやその他のコスト問題もあり容易ではないのが現状である。こうした状況のもとに、食缶分野においても低コストで内容物への外因性内分泌攪乱化学物質の溶出やスチール素材に対しては硫化黒変等の変色がなく、スチール素材およびアルミニウム素材の共通必要特性である耐食性の良い、しかも印刷外観の美麗な缶体の出現が強く望まれていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記のような、食缶を対象に内容物への外因性内分泌攪乱化学物質の溶出がなく、スチール素材やアルミニウム素材に対しての耐食性の良く、しかも印刷外観が美麗で、特にスチール素材で問題となる硫化黒変等の変色がない、良好な缶体を提供することを課題としたものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の第一は、金属板のプレス成形加工による一回の絞り加工または複数回の絞り加工によって得られる絞り缶(深絞り缶を含む)において、少なくとも缶内面側となる金属面には(A)接着層と(B)熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層があり、前記(A)の接着層は、(イ)数平均分子量(Mn)が340〜10000のエポキシ樹脂と、(ロ)数平均分子量(Mn)が1000〜20000のポリエステル樹脂を、エポキシ樹脂対ポリエステル樹脂の重量比で95:5〜5:95の範囲で共重合させた数平均分子量(Mn)が6000〜30000のエポキシ−ポリエステル共重合樹脂100重量部と、硬化剤0.5〜20重量部を含み、乾燥厚みが5〜50mg/dmであり、また前記(B)の熱可塑性ポリエステルフィルムは、厚み8〜30μm、融点(Tm)210℃以上、X線回折による測定(*)で2θが22゜〜28゜に検出されるピークの内最も高いピークの強度が700cps〜7000cpsの範囲にあるものであって、前記(A)および(B)で被覆された金属板から、最終缶体の絞り比として1.5〜2.5の範囲に成形加工されているとともに、成形加工によって熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層に入った歪が開放されており、さらに後加熱されていることを特徴とするフィルムラミネート絞り缶である。〔*理学(株)製のX線回折装置rad−BによりCuターゲット(Cu−Kα)を用いて40kV、20mAの条件で測定〕
本発明の第二は、前記絞り缶の外面側には金属側から熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層/インキ層/クリアーコート層が、金属板に熱圧着により直接被覆されているかもしくは前記(A)の接着剤層を介して被覆されているかのいずれかである請求項1に記載のフィルムラミネート絞り缶である。
本発明の第三は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層が、着色料を5〜20重量%含有している請求項1または2に記載のフィルムラミネート絞り缶である。なお、前記着色料は、無機および/または有機の染顔料を指すものである。
本発明の第四は、接着剤層が白色顔料を含有するものである請求項1〜3いずれか記載のフィルムラミネート絞り缶である。
【0011】
このような構成のフィルムラミネート絞り缶は、アルミニウム素材に対してもまたスチール素材に対しても内外面側共被覆されたフィルムは高密着性を示すと共に、高食塩濃度の内容物を充填しても高耐食性を示し、特にスチール素材の場合に問題となる硫化黒変問題もなく、更に外面には印刷インキがフィルムの上層に施されているため、美麗な印刷外観が得られる。また、前述した外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)問題はなく、安全で安心して食することが出来る缶体が得られる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の絞り缶の実施形態について詳細に説明する。まず、本発明に適用される金属板について説明する。本発明では金属板は表面処理が施された、厚みが0.15mm〜0.22mmの鋼板および厚みが0.20mm〜0.25mmのアルミニウム板が適用される。鋼板およびアルミニウム板の厚みは、内容物充填後に行われるレトルト殺菌工程で缶の変形が起こらない厚さである。鋼板およびアルミニウム板は表面処理が施されたものが適用される。鋼板の場合、通常容器材料として使用されている冷延鋼板に表面処理を施した、電解クロム酸処理鋼板、Niめっき鋼板、Snめっき鋼板等が適用される。
【0013】
電解クロム酸処理鋼板は、通称TFS(ティンフリースチール)と呼ばれ、容器用鋼板としては一般的に使用されているもので特別のものではないが、金属クロム層は片面の付着量で30〜120mg/m、その上層に水和酸化クロム層がクロム換算で片面の付着量として10〜30mg/mの範囲にあるものが好ましく、密着性および硫化黒変性は共に良好である。金属クロム層が片面の付着量で30mg/m未満であると、硫化黒変性が不良になり好ましくない。一方、120mg/mを超えても密着性および硫化黒変性共に付着量に応じた効果は見られず、飽和してくるため経済的でない。水和酸化クロム層はクロム換算で片面の付着量として10〜30mg/mの範囲が、密着性および硫化黒変性共に良好である。10mg/m未満では、レトルト処理でフィルム剥離といったデラミが起こる場合があり、密着性の点で好ましくない。
【0014】
Niめっき鋼板の場合は、片面のNi付着量が200〜1000mg/mでその上層に前記のような電解クロム酸処理を水和酸化クロム層をクロム換算で片面の付着量として10〜30mg/m行った鋼板や、片面のNi付着量が200〜1000mg/mでその上層に片面のCr付着量として5〜100mg/mの有機樹脂を主体とする化成処理皮膜が施されたNiめっき鋼板が適用される。
【0015】
Snめっき鋼板の場合は、片面のSn付着量が500〜3000mg/mでその上層に電解クロム酸処理を水和酸化クロム層をクロム換算で片面の付着量として10〜30mg/m行ったSnめっき鋼板、片面のSn付着量が500〜3000mg/mでその上層にCr付着量として5〜100mg/mの有機樹脂を主体とする化成処理皮膜が施されたSnめっき鋼板を挙げることができ、Niめっき鋼板の場合は、片面のNi付着量が15〜50mg/mでNiめっきを施し、その上層に片面のSn付着量が500〜1500mg/mのSnめっきを施し、その上層に電解クロム酸処理により水和酸化クロム層をクロム換算で片面の付着量として10〜30mg/mとしたSn−Niめっき鋼板、片面のNi付着量が15〜50mg/mのNiめっきを施し、その上層に片面のSn付着量が500〜1500mg/mのSnめっきを施し、その上層に片面のCr付着量として5〜100mg/mの有機樹脂を主体とする化成処理皮膜が施されたSn−Niめっき鋼板等が挙げられる。
【0016】
NiやSnは硫化ニッケルや硫化スズと言った化合物を作り、これらは共に黒色を呈しており、前述した硫化黒変となる金属であるが、後述する本発明の接着剤と熱可塑性ポルエステル樹脂フィルムの皮膜構成であれば、こうした腐食は回避することが可能となる。
【0017】
アルミニウム板は通常缶容器として使用されている3004系アルミ合金、5052系アルミ合金、5182系アルミ合金、5T50系アルミ合金等に、クロム量として5〜80mg/m付着させたリン酸クロム酸処理、ジルコニウム量として9〜17mg/m付着させたリン酸ジルコニウム処理等の化成処理が施されたものが適用される。更に、またアルミニウムの場合、硫化黒変といった現象はないため、フィルムとの密着性を重視した化成処理として、リン酸またはリン酸ジルコニウムとフェノール樹脂やアクリル樹脂等の有機樹脂からなる処理液から得られる有機無機複合化成処理皮膜が特に有効である。有機無機複合化成処理皮膜の内、皮膜中にリン(P)と有機樹脂のみ含有する有機無機複合化成処理の場合は、皮膜の付着量としては片面のリン(P)付着量として2〜7mg/m、有機樹脂は皮膜炭素(C)付着量として5〜50mg/mが最適である。また、皮膜中にジルコニウムを含有する有機無機複合化成処理皮膜の場合も、付着量は片面のリン(P)付着量として2〜7mg/m、皮膜炭素(C)付着量として5〜50mg/m、ジルコニウム付着量として5〜20mg/mの付着量が最適である。
【0018】
次ぎに、本発明で適用される接着剤について説明するが、その前に本発明の絞り缶を得る方法の一例である、接着剤を熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの片面に塗布した場合の工程について以下に述べる。
(1)熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの片面に接着剤を塗布・乾燥する工程(2)金属板の両面の、少なくとも缶の内面側となる金属板には(1)で得た接着剤付き熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを接着剤が金属面に接するよう
に熱ラミネートして被覆する工程
(3)缶の外面側となる面の印刷・塗装する工程
(4)絞り成形加工工程
(5)上記で得た絞り缶を後加熱する工程
【0019】
本発明の絞り缶で適用される接着剤は、(イ)数平均分子量(Mn)が340〜10000のエポキシ樹脂と、(ロ)数平均分子量(Mn)が1000〜20000のポリエステル樹脂を、エポキシ樹脂対ポリエステル樹脂の重量比が95:5〜5:95の範囲で共重合させた数平均分子量(Mn)が6000〜30000のエポキシ−ポリエステル共重合樹脂100重量部と、硬化剤たとえばアミノ樹脂または/およびフェノール樹脂を0.5〜20重量部からなるが、又はこれらに顔料等の添加剤を加えた接着剤である。さらに本発明においては、硬化触媒を0.01〜5重量部含有させることもできる。
【0020】
接着剤として保持すべき特性としては、第1に金属面およびフィルム面への濡れ性がよいこと、第2に金属面およびフィルム面と強固に密着すること、第3に成形加工によって接着剤が破壊しない凝集力を確保すること、等が重要な要素として挙げられている。
【0021】
本発明者等は、本発明の絞り缶の製造法の一例として挙げた前述の工程において、接着システムを鋭意検討した結果、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを前記特定の組成をもつ接着剤を介して被覆することで、従来にない密着性や耐食性が確保できることを見出し本発明に至ったものである。前述した接着剤として保持すべき特性から見た場合、本発明の接着剤の主剤であるエポキシ−ポリエステル共重合樹脂は、エポキシ樹脂は硬化剤との反応や耐熱性に関与し接着剤自身の凝集力をアップさせる役割を担い、一方、ポリエステル樹脂は、金属板やポリエステル樹脂フィルムとの濡れ性や粘着性を確保する役割を担うものであると考えられる。従って、濡れ性を確保するためには、特に熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムにはボリエステル樹脂成分が有効であり、とくに数平均分子量(Mn)が1000〜20000の範囲にあるポリエステル樹脂成分が適当であり、さらに数平均分子量(Mn)1000〜10000のものがとくに好ましい。
【0022】
一方、接着剤としての凝集力を保持し成形加工による破壊を防止するため、耐熱性を保持するためには、エポキシ樹脂成分が有効であり、本発明では数平均分子量(Mn)として340〜10000の範囲にあるエポキシ樹脂が適用される。特に数平均分子量(Mn)としては340〜5000が好ましい範囲である。そして、接着剤の主剤としてこのような特性を保持させるためには、前記のエポキシ樹脂とポリエステル樹脂とを重量比で95:5〜5:95の範囲で共重合させたものであることが好ましい。接着剤の主剤であるエポキシ−ポリエステル共重合樹脂の分子量としては、数平均分子量(Mn)として6000〜30000の範囲である。本発明の接着剤の接着機能は前述した絞り缶を得る製造工程の最終工程である、絞り缶の後加熱で完結するようにしたものである。
【0023】
尚、熱可塑性樹脂により表面処理鋼板やアルミニウム合金板を被覆した被覆金属板から缶胴や缶蓋を成形した後、これらの成形加工により熱可塑性樹脂層に発生した応力歪を開放するために、成形品に対し、後加熱処理を施すことが、特開昭48−49590号公報、特開昭48−61584号公報、特開昭52−65579号公報、特開昭53−141886号公報等により周知となっているところであるが、これは本発明においても有効である。この成形品への後加熱処理により、熱可塑性樹脂層の金属板への密着性が向上し、成形品の耐食性も向上する。
【0024】
前記の絞り缶の前記製造工程における(1)および(2)の工程で接着剤が完全硬化した場合、(4)の絞り成形加工で発生する加工歪みが大きく、内容物を充填後に行うレトルト殺菌処理でフィルム剥離を起こす場合がある。(4)の成形加工後の絞り缶を後加熱し硬化を完結させることよってのみ、得られた缶体の優れた耐レトルト性や耐食性を生じせしめることができる。それは、成形加工時には接着剤の硬化を適度な硬化状態に保持させておいた方が、フレキシビリティがあり、成形加工に追随し、その後再度接着剤を硬化させた方が良好な密着性が得られることを見出したことによるものである。
【0025】
従って、成形加工を行っても接着剤自身の破壊を起こさないためには、本発明のように成形加工前の接着剤の加熱による硬化度はある程度抑えたものが良いが、一方、成形加工に追随するためには接着剤の凝集力は分子量が高い方が有利であるため、接着剤主剤の分子量は重要である。主剤であるエポキシ樹脂とポリエステル樹脂との共重合物の数平均分子量(Mn)は6000〜30000の範囲が適当である。主剤の数平均分子量(Mn)がは6000未満では、凝集力が不足し成形加工で接着剤自身の破壊が起こりフィルム剥離を起こす場合があり好ましくない。一方、数平均分子量(Mn)が30000を超えると凝集力は十分であるが、粘性が高くなり良好な塗装性が得られなくなり好ましくない。凝集力は接着剤自身の硬化度と直接関係があるため、硬化剤の添加量やラミネート温度、外面印刷・塗装の焼き付け条件によって変化するが、凝集力と塗装性の兼備という観点からは主剤の数平均分子量(Mn)は8000〜20000が好ましい。
【0026】
また主剤のエポキシ当量としては、1000〜30000の範囲である。エポキシ当量は硬化反応に直接関係する要素で、後述する硬化剤との関係もあるが、この範囲であれば、前述した熱履歴による硬化状態の適切なものが得られる。
【0027】
主剤の硬化を進める硬化剤は、例えば、尿素樹脂、メラニン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂のようなアミノ樹脂や、例えば石炭酸、クレゾール酸等のフェノールモノマー、ホルマリンとの縮合によって得られるレゾール樹脂やノボラック樹脂等のフェノール樹脂の単体や両者の混合が適用される。また、硬化剤であるアミノ樹脂、フェノール樹脂は、主剤と反応する官能基をアルキル基等で覆った、いわゆるエーテル化した樹脂も適用できることは言うまでもなく、エーテル化剤はラミネート条件、外面側の塗装・印刷の焼き付け条件更には成形加工後の缶体の後加熱条件によって揮散させる最適なエーテル化剤を適宜選択すればよい。その添加量は主剤であるエポキシ−ポリエステル共重合樹脂100重量部に対し0.5〜20重量部である。硬化剤の添加量が0.5重量部未満では、硬化が不十分で凝集力は確保されない場合あり、接着剤自身の破壊によるフィルム剥離が特に絞り比が大きい時に起こる場合があり好ましくない。一方、20重量部を超えると、接着剤の硬化が進み過ぎ、成形加工時に破壊の原因となる場合があり、好ましくない。前記の硬化剤の添加量は好ましくはエポキシ−ポリエステル共重合樹脂100重量部に対し1〜15重量部が最適であるが、硬化剤の添加量は、厳密にはラミネート条件や缶の外面側の塗装・印刷の焼き付け条件、絞り成形加工の加工度(絞り比)によって最適量は変化するため、適宜選択する必要がある。
更に、前述した耐硫化黒変性に対する接着剤の役割も大きく、特に硬化剤としてフェノール樹脂を用いたものは硫化黒変の防止に有効に作用するため、鋼板を素材とした絞り缶については、フェノール樹脂を主とした硬化剤が好ましい。
【0028】
硬化を促進させるための、リン酸系やスルフォン酸系の硬化触媒を添加することも可能で、硬化触媒の添加量としては0.01〜5重量部であるが、硬化触媒の最適量も、ラミネート条件、外面側の塗装・印刷の焼き付け条件更には成形加工後の缶体の後加熱条件等の関係から最適量を適宜選択することが望ましい。
【0029】
本発明では、前述したような理由から、ラミネート条件、外面の印刷・塗装条件、成形加工後缶体の後加熱条件は厳密に管理する必要があるが、前記のような接着剤を適用することで良好な密着性、更には良好な耐食性をも確保できる優れた品質を有する絞り缶が得られる。
【0030】
また、良好な接着性を得るためには、前述したように金属板や熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムへの十分な濡れ性を確保する必要がある。それ故、ラミネート温度、圧力、速度等を接着剤の溶融温度に即した最適なラミネート条件を選択する必要がある。本発明の接着剤で具体例をいえば、例えばエポキシ樹脂の配合比が高い主剤を適用する場合は、ラミネート温度は高めに保持することが必要である。
【0031】
接着剤の付着量は、主剤と硬化剤更には硬化触媒を含め、乾燥厚みとして5〜50mg/dmである。乾燥厚みが5mg/dm未満では、金属板表面を一様に被覆することが難しく、局部的に濡れていない箇所が生じ、その部位ではのフィルム剥離(デラミ)を起こす原因となり好ましくない。一方、上限値の50mg/dmを超えた場合、接着剤は硬化タイプであることから、硬化による残留歪みが発生し付着量が多い場合は成形加工で接着剤の凝集破壊が起こり、密着性を損ねる結果となる場合があり、かかる意味においても乾燥厚みとして50mg/dmを超えることは好ましくなく、また経済的でない。
【0032】
接着剤は、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムに塗布する方法でも、金属板に塗布する方法でもよく、設備を考慮して適宜選択することが肝要である。接着剤を熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムに塗布・乾燥する方法を採用する場合、接着剤は塗布・乾燥では殆ど硬化反応が起こらない温度で乾燥することが望ましく、100〜140℃で4〜10秒の乾燥条件が好ましい。こうした、接着剤付き熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを巻き取らずに、同一ライン内で連続して金属板に被覆する場合は、特段問題とするする項目はない。しかし、接着剤をポリエステル樹脂フィルムに塗布し乾燥後一度巻き取って、再度金属板に巻き戻しながら被覆する場合は、接着剤付き熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの巻き戻しがスムースにいくようにブロッキングのない、いわゆるタックフリーにする必要がある。そのためには主剤のガラス転移温度(Tg)は高い方が良く、少なくとも20℃以上にするとよい。また、接着剤中にポリエチレン微粒子、酸化ケイ素、有機シリケート等のブロッキング防止剤を添加することも有効であるが、ブロッキング防止剤の添加は密着性の低下に繋がることから、添加量には充分配慮することが必要で、添加量は10%以下が好ましい。
【0033】
次ぎに、缶の内面側に被覆する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムについて説明する。本発明のような絞り缶の場合、充填される内容物は前述したように主に魚肉、獣肉、穀物やペットフード等で、内容物充填後、調理と殺菌を兼ねてレトルト処理が行われ、このレトルト処理は最も厳しい場合は113℃で100分とか125℃で60分とかの蒸気によるレトルト処理を行うことから、この処理に耐えるためには少なくとも130℃以上の耐熱性を有する必要があり、この点からも熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは最適である。被覆する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムとしてはテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の酸成分と、エチレングリコール、ブチレングリコール等のアルコール成分からなるポリエステル樹脂で、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンソイフタレート(PEI)のようなホモポリマーや、例えばポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートとの共重合樹脂であるコポリマー、更には、こうしたホモポリマー同士のブレンド樹脂、ホモポリマーとコポリマーのブレンド樹脂、コポリマー同士のブレンド樹脂、等から得られるフィルムが適用される。樹脂フィルムの融点(Tm)や冷結晶化熱(Hc)は、こうした酸成分とアルコール成分の選定、コポリマーの程度、ブレンドする樹脂組成とその配合比、等適宜選定することで得ることができる。
【0034】
熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内でも、前述したレトルト処理に耐え、内容物の保護性からは、特に配向結晶化した二軸延伸熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが最適である。しかし、配向度の高い熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、フィルム製膜の延伸時の残留歪みが概して大きく、絞り缶等の成形加工を受けた場合、その残留歪みが接着力に勝り、フィルムが剥離(デラミ)するといったことがしばしば起こる場合がある。従って、この密着性確保と缶体および内容物の保護の兼備という観点からは、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの配向度を最適な範囲にする必要があり、本発明では適用される缶の内面側に被覆する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの配向度は、少なくとも絞り成形加工に供される前のラミネート材のフィルムをX線回折による測定で、2θが22゜〜28゜に検出されるピークの内最も高いピークの強度が700cps〜7000cpsの範囲にある熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムであることが必要である。
【0035】
下限値であるX線回折による測定で検出されるピークの内最も高いピークの強度が700cps未満の場合、密着性は良好であるが、耐食性、特にスチール素材を使用した場合におこる、前述した硫化黒変問題が、特に絞り加工によってめっき層や化成処理皮膜層が破壊されている缶口部に近い部位で起こる場合があり好ましくない。更に、X線回折による測定で検出されるピークが小さい、すなわちピークの強度が700cps未満の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、概して熱安定性に劣ることが多く、例えばフィルムへの接着剤の塗布乾燥時の熱でフィルム収縮が起こったり、またフィルムを金属板に積層するためのラミネートの熱でフィルム収縮が起こったり、激しい場合はフィルムが皺となったりして、ラミネート性を損ねる原因ともなる場合がある。かかる意味からも、X線回折による測定で検出されるピークが700cps未満の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは好ましくない。一方、上限値であるX線回折による測定で検出されるピークの内最も高いピークの強度が7000cpsを超えた場合は、耐食性、特に硫化黒変はスチール素材でも発生なく問題ないが、アルミニウム素材の場合は密着性が劣り、レトルト処理時にフィルム剥離が起こる場合があり好ましくない。
【0036】
このように、X線回折による測定で検出されるピークの内最も高いピークの強度の下限値はスチールを素材とした場合の硫化黒変問題等の耐食性から、またX線回折による測定で検出されるピークの内最も高いピークの強度の上限値は、アルミニウムを素材とした場合の密着性から判断したものであり、好ましくは850cps〜6000cpsの範囲が最適である。なお、X線回折による測定で、2θが22゜〜28゜に検出されるピークは、例えばエチレンテレフタレートが主な反復単位の場合は、約2θが26゜付近に最も高いピークが現れ、ブチレンテレフタレートが主な反復単位の場合は、約2θが24゜付近に最も高いピークが現れる。X線回折の測定は、例えば理学(株)製のX線回折装置rad−BでCuターゲット(Cu−Kα)で40kV、20mAの条件で測定したときの、2θが22゜〜28゜に検出されるピークの内最も高いピーク強度である。
【0037】
2θが22゜〜28゜に検出されるピークの内最も高いピークの強度が700cps〜7000cpsの範囲のものを得る手段としては、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを製造する際の製膜時の延伸倍率や延伸後に行う熱固定条件を適宜選択すること、更にはフィルムを被覆するラミネート条件を適宜選択することで達成される。
【0038】
更には、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは極限粘度(IV)は0.50以上のものが好適である。極限粘度(IV)は樹脂の平均分子量を示す指標であるが、極限粘度が0.50未満では樹脂フィルムの衝撃強度が小さく、絞り缶成形加工の際に形成される、缶体のレトルト処理時の膨張を最小限に抑えるための缶底部に突起リング(エキスパンジョンリング)部のフィルムにクラックが入ったり、また、内容物が充填された缶体を落とした場合、その部位に衝撃が加わり材料が変形するばかりでなく、同時にその衝撃と変形で樹脂フィルムにクラックが入り、激しい場合はそこが缶体金属の腐食起点となる。内容物充填後の缶体の落下に対する特性を耐デント性と呼ぶが、腐食の激しい内容物の場合穿孔缶となることもあり、耐デント性が劣ることは、重大な問題となる要因を有しており好ましくない。前記のようなフィルムにクラックが入る現象は、基本的にはフィルムの耐衝撃強度の問題であり、耐衝撃強度は極限粘度が高い程良好であり、0.50以上であれば前述した接着剤層との相互効果により多くの場合実用上問題のない品質が確保されるが、腐食性の強い内容物に対しては高い方が安心であり、好ましくは0.55以上が良い。なお、本発明では、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの極限粘度(IV)は、ウベローデ粘度計でフェノールとテトラクロロエタンの重量比6:4の溶液に熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを0.100±0.003g溶解し、30.0±0.1℃で測定した値である。
【0039】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは融点(Tm)が210℃以上である。本発明では、絞り成形加工前に外面印刷・塗装が施されるが、インキやクリアー塗料の乾燥温度は通常最高温度でも200℃以下であり、少なくともこの温度で内面のポリエステル樹脂フィルムが軟化しないことが重要で、かかる意味において熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの融点(Tm)は210℃以上としたものである。熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの融点(Tm)が210℃未満の場合は、外面印刷・塗装の乾燥時に軟化し内面側のフィルムに欠陥を発生させる原因になったりして好ましくない。なお、本発明では、樹脂フィルムの融点(Tm)は示差走査熱量計(DSC)で、10℃/分の昇温速度で測定したときの結晶融解吸熱ピークの最大値を示す温度である。
【0040】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは厚みが8〜30μmである。フィルム厚みは基本的には缶の耐食性および内容物充填後に行われるレトルト殺菌処理時に起こるフィルム剥離(デラミ)の点から限定したものである。前述したように、本発明の絞り缶は、魚肉、獣肉、穀物やペットフード等といったものが充填されるが、こうした内容物の中には醤油や食塩で味付けされた、いわゆる含塩食品が多く、アルミニウムや鉄に対し高腐食性の内容物となっている。また、内面フィルムは素材が鋼板の場合は、前述した耐硫化黒変の発生の防止等の役割を担う必要がある。鋼板素材で発生する耐硫化黒変は、フィルムの欠陥部は勿論フィルムが健全な部位でも鋼板素材の表面処理が健全でないと発生する。従って、耐硫化黒変性に対するフィルムの役割は大きい。一般に硫化黒変は前述したレトルト殺菌時に主に発生し、その後置かれている環境、特に温度が高い場合少しずつ広がっていく。硫化黒変は、レトルト処理時に含硫蛋白質が分解し、そこで生じたサルファーは[HS]や[S−2]イオンとなって水と一緒にフィルムを透過し、素材鋼板と反応し硫化鉄となると考えられており、従ってフィルムのバリアー性が重要となる。レトルト殺菌は例えば厳しい場合は135℃で30分とか125℃で50分といった条件で行われ、熱可塑性樹脂ではその樹脂のガラス転移温度によって多少耐性は異なるが、いずれの樹脂フィルムにとって苛酷な条件である。フィルムの持つバリアー性は、樹脂の組成、密度によって差異があるが、同一樹脂組成、同一結晶状態の場合、フィルム厚みが厚い程バリアー性は良い。従って、フィルム厚みが厚いほど耐食性は良好であるが、フィルム厚みが厚いと延伸フィルムの製膜時の残留歪みや缶体の成形加工時の歪みが多くなり、レトルト処理でデラミとなる場合がある。そこで、本発明では、フィルム厚みは8〜30μmに限定したが、缶体の実質実用特性や経済性を考慮すると、フィルム厚みは10〜25μmが最適である。
【0041】
次ぎに、缶の外面側の皮膜構成について説明する。
本発明の絞り缶の缶外面側となる金属面には、金属側から熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層/インキ層/クリアーコート層が熱圧着により金属板に直接被覆されているか、もしくは前記の接着剤層を介して被覆されている。インキ層は文字や商標等の内容物表示をするもので、成形加工による変形を考慮して、予め歪んだ形状に印刷が施されるわけであるが、インキそのものは特別なものでなく、現在使用されているインキがそのまま適用できる。クリアーコート層はインキ層の成形加工時の損傷や、レトルト処理時の変色、変質を抑えるものであるが、特別なものでなく滑り性が良く、耐レトルト性の良好なものであれば現行の切板用クリアーコートが適用できる。缶外面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、印刷外観の鮮鋭性、鮮明性を確保することに有効である。
【0042】
現行の塗装・印刷缶は、多くは金属板にサイズコートもしくはホワイトコートが施され、その上層に印刷が行われるが、サイズコートもしくはホワイトコート塗装の場合、ロール斑は避けられず、また塗装厚みも数μmであるため、絞り成形加工によって生じる金属板の粗度の増大の影響を受け易く、その結果印刷外観の鮮鋭性、鮮明性は低下する。一方、本発明のように充分な厚みを有するフィルムの上層に印刷を施した場合、上記のような絞り成形加工によって生じる金属板の粗度の増大の影響を受け難く、印刷外観の鮮鋭性、鮮明性を確保することが可能となる。かかる意味から、缶の外面側に被覆される熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの厚みは、10〜15μmが最適である。
【0043】
本発明では、缶の内外面側に被覆される熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムに無機物着色顔料、有機物着色顔料および有機物着色染料等の1種または2種以上を含有し、着色したものも適用される。例えば缶の外面側についていえば、特に、スチール素材の場合、アルミニウム素材と異なり、金属固有の分光反射率が低いため明度が低く黒く見え、同じ印刷を施した場合、印刷外観は黒ずんで見え艶やかさは著しく劣る。しかし、例えばポリエステル樹脂フィルム中に白色の酸化チタン顔料を含有するフィルムに印刷を行った場合は、スチール素材の絞り缶でも印刷外観は大幅に向上する。
【0044】
また、缶内面側についても、食欲をそそる内容物に見せるための色彩効果の観点から、着色フィルムは有効であり、かかる意味において、本発明では缶の内外面側に被覆される熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムに無機物着色顔料、有機物着色顔料および有機物着色染料等の1種または2種以上を含有するものも適用される。熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムに含有させる量としては5〜20重量%であるが、5重量%未満では着色効果は、特にスチールを素材とした場合に見られず好ましくない。一方、20重量%を超えても、着色の効果はあまり大きくならず、飽和してくるため経済的でないばかりか、密着性が劣る場合があり好ましくない。
【0045】
なお、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム中に含有させる無機物および有機物着色顔料もしくは着色染料は、特別限定するものではないが、缶の内外面側のポリエステル樹脂フィルム中に含有させる場合は、当然レトルト処理で溶解しないこと、特に内面側は食品衛生上問題なく且つ保存中にも内容物中には溶解しない物質を選定する必要があることは、いうまでもない。
【0046】
缶の外面側の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、前述した缶の内面側に被覆される樹脂組成や融点(Tm)を有する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムが適用出来るが、金属板に被覆する手法によって最適な融点(Tm)を有する熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを選択する必要がある。即ち、接着剤層を介して被覆する場合は、前述した缶の内面側に用いた接着剤および熱可塑性ポリエステル樹脂フイルムがそのまま適用でき、問題はない。しかし、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを金属板に直接熱圧着して被覆する場合は、金属板表面に順次被覆する方法と両面に同時被覆する方法があるが、順次被覆する方法の場合ラミネート温度が高い側から金属板に被覆すれば良い。設備の関係上同時被覆しか出来ない場合は、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの融点(Tm)や前述したDSCで測定される結晶融解吸熱ピークの開始温度(Tm−s)から、内面の接着剤付き熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムのラミネート温度と大きく異ならないような熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを選択することが望ましい。
【0047】
本発明で適用される絞り缶は、絞り比が1.5〜2.5の範囲にある缶である。絞り比は、絞り缶の径(Ld)に対するブランク径(Lb)の比で表され、Lb/Ldの値が1.5〜2.5の範囲にあることを示している。絞り比が1.5未満では、缶の容積が内容物を充填するには小さすぎて実質的でなく商品価値はない。一方、絞り比が2.5を超えると成形加工による歪みが大きくなりすぎ、缶外面の印刷が歪んだものとなり折角の印刷外観を美麗な状態にしたものが損なわれてしまい好ましくない。また、密着性の点でも密着力の低下が大きくなりフィルム剥離に繋がる危険性が高く、好ましくない。
【0048】
本発明では、絞り加工後の内外面に被覆されているフィルム層の密着性を一層強固なものとするため、成形加工後の缶体を170℃〜220℃の温度で30秒〜120秒の範囲で後加熱するのが良い。特に、絞り比が高い場合は、内容物充填後のレトルト殺菌工程で内面および外面側のポリエステル樹脂フィルムが局部的な剥離(デラミ)を起こす場合があり、好ましくない。これを防ぐためには、前述した接着剤の硬化を完全なものとすると同時に、併せて成形加工で入った歪みを加熱によって緩和することが有効で、成形加工後の缶体を170℃〜220℃の温度で20秒〜120秒の範囲で後加熱すると良い。加熱温度が170℃未満の場合は、加熱を長時間行えば接着剤の硬化は進み、また成形加工で入った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの歪みは取れ密着性は確保されるが、生産性の点で問題となり経済的でない。一方、220℃を超えると、加熱時間にもよるが前述した接着剤の硬化が進みすぎて、逆に凝集力が低下するため密着性や耐デント性が劣ってきたり、また、熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの面からも、配向性が樹脂組成によっては急激に低下し、耐食性や前述した耐デントが劣る場合があり、更には、外面側のクリアー層が変色し外観を損ねる場合があり好ましくない。
【0049】
成形加工後の缶体の後加熱時間としては20秒〜120秒であるが、この時間は勿論加熱温度が高い場合は短くて良く、加熱温度が低い場合は長くすることが可能であることはいうまでもないことである。成形加工後の缶体の後加熱条件としては、加熱温度は180℃〜210℃で加熱時間は20秒〜100秒の範囲が好ましく、この範囲であれば接着剤の硬化が進み過ぎることなく、また外面の最表層のクリアーコート層の変色等に影響を及ぼさず、また成形加工によって入った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの歪みを取ることができ、レトルト処理でデラミを起こすことはなく、そして缶外面の印刷外観も美麗さを保持することができる。
【0050】
なお、缶体の加熱方法としては電気炉、熱風炉といった通常の加熱炉が適用でき、加熱炉の雰囲気温度として前記の170℃〜220℃に設定し、この炉内を20秒〜120秒の範囲で通過させることが好ましい。
【0051】
なお、この缶体の後加熱に際し、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの保護の観点から、例えばネット等でできたベルトに乗せて加熱炉内を通過させる場合は、ネットには缶の内面側フィルムには接触しないように、外面側を乗せて通過させて後加熱するのが肝要である
【0052】
【実施例】
以下、実施例にて、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、X線回折による測定は、理学(株)製のX線回折装置rad−BによりCuターゲット(Cu−Kα)を用いて40kV、20mAの条件で行った。
また、本実施例及び比較例で行った評価法は以下の通りである。
(1)絞り成形加工缶の密着性は、蓋を巻締めないフランジ開口部がある状態で、125℃で30分間蒸気レトルト処理を行い、フィルムの剥離状況を目視観察した。評価は次のように評価基準を設定し行った。
○:剥離なく良好
□:軽微な剥離が開口部切り口に発生
△:フランジ部の1/2程度剥離が発生
×:フランジ部から缶胴部にかけて剥離が発生
(2)缶内面の樹脂フィルムの健全性については、1.0%食塩水に界面活性剤を0.1%添加した電解液を缶体内に充填し、缶体を陽極、缶体内の電界液中に挿入した銅線を陰極とし印加電圧6Vで3秒後の電流値を測定し、樹脂フィルムの被膜の健全性を評価した(以降、この評価法をQTV試験と称する)。
(3)内容物リパックにおける硫化黒変性については目視観察した。評価は次のように評価基準を設定し行った。
○:黒変なく良好
□:色の薄い黒変が、缶体上部にのみ僅かに見られる
△:色の濃い黒変が缶上部に明確に見られる
×:色の濃い黒変が缶全体に明確に見られる
(4)内容物リパックにおける腐食状況については目視観察した。評価は次のように評価基準を設定し行った。
○:腐食なく良好
□:表面腐食が僅かに発生
△:板厚の1/4〜1/3に達する孔食が発生
×:板厚の1/2以上に達する孔食が発生
【0053】
実施例1〜4
厚みが15μm、融点が232℃、極限粘度(IV)が0.63という点はいずれも同一であるが、X線回折強度が780cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(No.1)、X線回折強度が2580cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(No.2)、X線回折強度が3830cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(No.3)、X線回折強度が6800cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(No.4)という4種類のフィルム(それぞれ実施例1〜4に対応する原料フィルム)の片面に、数平均分子量が1600のエポキシ樹脂と数平均分子量が1500のポリエステル樹脂を60:40の重量比で共重合させた数平均分子量が15000のエポキシ−ポリエステル共重合樹脂100重量部とフェノール樹脂を5重量部含む接着剤を、乾燥厚みとして15mg/dmとなるようにグラビアロールで塗布し、130℃で10秒間熱風乾燥した接着剤付き熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを作成した。この時、フィルムの収縮はまったく見られなかった。前記のNo.1〜No.4のフィルムを用いて、板厚が0.19mmで片面の金属Cr付着量が110mg/m、その上層に片面の金属Cr換算で付着量が15mg/mの水和酸化クロムを有する電解クロム酸処理鋼板を多数の加熱ロール間を通過させることにより加熱し、板温が180℃になった時点で前記接着剤付きポリエステル樹脂フィルムを接着剤面が鋼板と接するように鋼板の両面に熱圧着させて、実施例1〜4に対応する4種のフィルムラミネート鋼板を作成した。得られたそれぞれのラミネート鋼板は皺もなく良好なものであった。次いで、フィルムラミネート鋼板の一方の面にインキ印刷を行い更にクリアーコート(60mg/dm)行い、170℃で10分電気オーブンで乾燥焼き付けた後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.92の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで200℃で60秒間後加熱を行った。
【0054】
こうして得た実施例1〜4(No.1〜4に対応)の絞り缶の性能評価について、内面のポリエステル樹脂フィルム皮膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分のレトルト殺菌処理でフィルムの剥離状況を調べた。また、前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰から内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分のレトルト殺菌処理を行い、硫化黒変性を調べると共に、耐食性については55℃に1ヶ月貯蔵して腐食状況を調べた。実施例1〜4で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容を表1に、接着剤の内容を表2に、加工条件を表3に、性能評価結果を表4に示した。表4から、実施例1、2、3、4の絞り缶(No.1、2、3、4)はレトルト処理でもフィルム剥離はなく良好な密着性を有しており、また内容物のリパックではあるが硫化黒変はなく耐食性も良好であることが判る。
【0055】
実施例5〜6
実施例1で用いたポリエステル樹脂フィルムのNo.1に実施例1の手順に従って接着剤を塗布したフィルム(No.5)、および実施例4で用いた熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムのNo.4に実施例1の手順に従って接着剤を塗布したフィルム(No.6)を用いて、板厚が0.22mmで片面のCr付着量が25mg/mのリン酸クロム酸処理を施した5T50アルミニウム合金板を多数の加熱ロール間を通過させることにより加熱し、板温が190℃になった時点で接着剤面がアルミニウム合金板と接するように両面に熱圧着させて、フィルムラミネートアルミニウム板を作成した。得られたラミネートアルミニウム板は皺もなく良好なものであった。次いで、フィルムラミネートアルミニウム板の一方の面にインキ印刷を行い更にクリアーコートを60mg/dm行い、170℃で10分電気オーブンで乾燥焼き付けた後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.92の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで200℃で60秒間後加熱を行った。
【0056】
こうして得た実施例5〜6の絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム皮膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分のレトルト殺菌処理で調べた。また、前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰から内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分のレトルト殺菌処理を行い、55℃に1ヶ月貯蔵し耐食性を調べた。実施例5〜6で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容を表1、接着剤の内容を表2に、加工条件を表3に性能評価結果を表4に示した。表4から、実施例5、6の絞り缶(No.5、6)はレトルト処理でもフィルム剥離はなく良好な密着性を有しており、また内容物のリパックではあるが耐食性も良好であることが判る。
【0057】
実施例7〜8
厚みが25μm、融点が218℃、極限粘度(IV)が0.58、X線回折強度が1870cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの片面に、数平均分子量が1600のエポキシ樹脂と数平均分子量が2500のポリエステル樹脂を60:40の重量比で共重合させた数平均分子量が15000のエポキシ−ポリエステル共重合樹脂100重量部とメラミン樹脂を3重量部、フェノール樹脂を2重量部、総計で5重量部含む接着剤を、乾燥厚みとして30mg/dmとなるようにグラビアロールで塗布し、130℃で10秒間熱風乾燥した接着剤付きポリエステル樹脂フィルムを作成した。この時、フィルムの収縮はまったく見られなかった。
こうした得たフィルムを用いて、板厚が0.19mmで片面のNi付着量が500mg/m、その上層に片面の金属Cr換算で付着量が15mg/mの水和酸化クロムを有するNiめっき鋼板(No.7)を、および実施例8では片面のSn付着量が1000mg/m、その上層に片面の金属Cr換算で付着量が15mg/mの水和酸化クロムを有するSnめっき鋼板(No.8)を、それぞれ多数の加熱ロール間を通過させることにより加熱し、板温が180℃になった時点で前記接着剤付きポリエステル樹脂フィルムを接着剤面が鋼板と接するように鋼板の両面に熱圧着させて、フィルムラミネート鋼板を作成した。得られたラミネート鋼板は皺もなく良好なものであった。次いで、フィルムラミネート鋼板の一方の面にインキ印刷を行い更にクリアーコートを60mg/dm行い、170℃で10分電気オーブンで乾燥焼き付けた後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が2.32の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで205℃で90秒間後加熱を行った。
【0058】
こうして得た実施例7〜8の絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム皮膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分のレトルト殺菌処理で調べた。また、前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰の内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分のレトルト殺菌処理を行い、硫化黒変性を調べると共に、55℃に1ヶ月貯蔵し耐食性を調べた。実施例7〜8で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容を表1に、接着剤の内容を表2に、加工条件を表3に、性能評価結果を表4に示した。表4から、実施例7〜8の絞り缶(No.7、8)はレトルト処理でもフィルム剥離はなく良好な密着性を有しており、また内容物のリパックではあるが硫化黒変はなく耐食性も良好であることが判る。
【0059】
実施例9〜10
厚みが10μm、融点が243℃、極限粘度(IV)が0.72、X線回折強度が870cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの片面に、数平均分子量が900のエポキシ樹脂と数平均分子量が5000のポリエステル樹脂を30:70の重量比で共重合させた数平均分子量が18000のエポキシ−ポリエステル共重合樹脂100重量部とメラミン樹脂を5重量部含む接着剤を、実施例9では乾燥厚みとして10mg/dmとなるようにグラビアロールで塗布し、130℃で10秒間熱風乾燥した接着剤付きポリエステル樹脂フィルム(No.9)を、および実施例10では、前記接着剤を乾燥厚みとして45mg/dmとなるようにグラビアロールで塗布し、130℃で10秒間熱風乾燥した接着剤付き熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム(No.10)を、それぞれ作成した。この時、フィルムの収縮はまったく見られなかった。こうした得たフィルムを用いて、板厚が0.22mmで片面のCr付着量が25mg/mのリン酸クロム酸処理を施した5T50アルミニウム合金板を多数の加熱ロール間を通過させることにより加熱し、板温が190℃になった時点で接着剤面がアルミニウム合金板と接するように両面に熱圧着させて、ラミネートアルミニウム板を作成した。得られたラミネートアルミニウム板は皺もなく良好なものであった。次いで、ラミネートアルミニウム板の一方の面にインキ印刷を行い更にクリアーコート(60mg/dm)行い、170℃で10分電気オーブンで乾燥焼き付けた後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.76の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで200℃で30秒間後加熱を行った。
【0060】
こうして得た実施例9〜10の絞り缶の性能評価について、内面のポリエステル樹脂フィルム皮膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分のレトルト殺菌処理で調べた。また、前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰の内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分のレトルト殺菌処理を行い、55℃に1ヶ月貯蔵し耐食性を調べた。実施例9〜10で行った熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容を表1に、接着剤の内容を表2に、加工条件を表3に、性能評価結果を表4に示した。
表4から、実施例9〜10の絞り缶(No.9、10)は、レトルト処理でもフィルム剥離はなく良好な密着性を有しており、また内容物のリパックではあるが耐食性も良好であることが判る。
【0061】
実施例11
缶の内面側用に厚みが15μm、融点が243℃、極限粘度(IV)が0.62、X線回折強度が2560cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの片面に、数平均分子量が370のエポキシ樹脂と数平均分子量が15000のポリエステル樹脂を5:95の重量比で共重合させた数平均分子量が16000のエポキシ−ポリエステル樹脂100重量部とメラミン樹脂を5重量部含む接着剤を、乾燥厚みとして25mg/dmとなるようにグラビアロールで塗布し、130℃で10秒間熱風乾燥し接着剤付きポリエステル樹脂フィルムを作成した。この時、フィルムの収縮はまったく見られなかった。また、缶の外面側用に、厚みが13μm、融点が225℃の、酸化チタン顔料を20重量%含有する白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを準備し、実施例1で用いた電解クロム酸処理鋼板に板温が210℃で缶の内面側用のフィルムは接着剤面が鋼板と接するように、また缶の外面側用フィルムはそのまま熱圧着させて、フィルムラミネート鋼板(No.11)を作成した。得られたラミネート鋼板は両面共皺もなく良好なものであった。
次いで、ラミネート鋼板の缶の外面側となる白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム面にインキ印刷を行い更にクリアーコート(ごく一般的なクリアーでよい)を60mg/dm行い、170℃で10分電気オーブンで乾燥焼き付けた後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.76の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで200℃で60秒間後加熱を行った。
【0062】
こうして得た絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム皮膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分のレトルト殺菌処理でフィルムの剥離状況を調べた。また、同様に前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰の内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分のレトルト殺菌処理を行い、硫化黒変性を調べると共に、耐食性については55℃に1ヶ月貯蔵して腐食状況を調べた。実施例11で行ったポリエステル樹脂フィルムの内容を表1に、接着剤の内容を表2に、加工条件を表3に、性能評価結果を表4に示した。表4から、実施例11の絞り缶(No.11)はレトルト処理でも缶の内外面側のフィルム剥離はなく良好な密着性を有しており、また内容物のリパックではあるが硫化黒変はなく耐食性も良好であることが判る
【0063】
実施例12〜13
実施例1で用いた電解クロム酸処理鋼板の両面に、数平均分子量が370のエポキシ樹脂と数平均分子量が5000のポリエステル樹脂を90:10の重量比で共重合させた数平均分子量が15000のエポキシ−ポリエステル樹脂100重量部とメラミン樹脂を10重量部含む接着剤を、乾燥厚みとして20mg/dmとなるようにグラビアロールで塗布し、130℃で熱風乾燥した後、続いて熱風炉で加温し板温が175℃で、両面接着剤塗布電解クロム酸処理鋼板の一方の面には厚みが20μm、融点が243℃、極限粘度(IV)が0.62、X線回折強度が2780cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを、他方の面には実施例11で用いた酸化チタン顔料を含有する白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムをラミネートロールで圧着させて、実施例12のフィルムラミネート鋼板(No.12)を作成した。
【0064】
同様に、前記の電解クロム酸処理鋼板の両面に、数平均分子量が2700のエポキシ樹脂と数平均分子量が1000のポリエステル樹脂を40:60の重量比で共重合させた数平均分子量が10000のエポキシ−ポリエステル樹脂100重量部とメラミン樹脂を5重量部含む接着剤を、乾燥厚みとして20mg/dmとなるようにグラビアロールで塗布し、130℃で熱風乾燥した後、続いて熱風炉で加温し板温が180℃で、両面接着剤塗布電解クロム酸処理鋼板の一方の面には前記の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを他方の面には前記の酸化チタン顔料を含有する白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムをラミネートロールで圧着させて、実施例13のフィルムラミネート鋼板(No.13)を作成した。
【0065】
次いで、前記で得た実施例12と13のラミネート鋼板(No.12、13)の缶の外面側となる白色熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム面にインキ印刷を行い更にクリアーコート(60mg/dm)行い、170℃で10分電気オーブンで乾燥焼き付けた後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.76の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで200℃で60秒間後加熱を行った。
【0066】
こうして得た実施例12と13の絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム皮膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分のレトルト殺菌処理でフィルムの剥離状況を調べた。また、同様に前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰の内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分のレトルト殺菌処理を行い、硫化黒変性を調べると共に、耐食性については55℃に1ヶ月貯蔵して腐食状況を調べた。
実施例12〜13で用いたポリエステル樹脂フィルムの内容を表1、接着剤の内容を表2に、加工条件を表3に、性能評価結果を表4に示した。
表4から、実施例12、13の絞り缶(No.12、13)はレトルト処理でも缶の内外面側のフィルム剥離はなく良好な密着性を有しており、また内容物のリパックではあるが硫化黒変はなく耐食性も良好であることが判る。
【0067】
比較例1〜2
実施例1のフィルムNo.1から得た絞り比が1.92の絞り缶(No.14)および実施例4のフィルムNo.4から得た絞り缶(No.15)について、後加熱を行わないで比較例1(No.14)と比較例2(No.15)の絞り缶とした。これらを125℃で60分のレトルト殺菌処理し、密着性を調べた。
比較例1および2で用いたポリエステル樹脂フィルムの内容を表1に、接着剤の内容を表2に、加工条件を表3に、性能評価結果を表4に示した。
表4から、本発明の比較例1、2の絞り缶(No.14、15)は、レトルト処理でフィルム剥離が起こり、密着性が実施例と比較して劣ることが判る。なお、本発明の比較例1、2の絞り缶(No.14、15)は、密着性不良であったため、内容物のリパックでの耐食性評価は行わなかった。
【0068】
比較例3
厚みが25μm、融点が243℃、極限粘度(IV)が0.48、X線回折強度が530cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムフィルムの片面に、実施例1で用いた接着剤を、乾燥厚みとして20mg/dmになるようにグラビアロールで塗布し、130℃で10秒間熱風乾燥し、接着剤付きポリエステル樹脂フィルムを作成した。この時、フィルムが収縮すると共に微少な皺が生じた。次いで、実施例1で用いた電解クロム酸処理鋼板を多数の加熱ロール間を通過させることにより加熱し、板温が180℃になった時点で接着剤面が鋼板と接するように鋼板の両面に熱圧着させて、フィルムラミネート鋼板(No.16)を作成した。この時ラミネート鋼板には特にフィルムのエッジに小皺が発生していた。
次いで、フィルムラミネート鋼板の一方の面にインキ印刷を行い更にクリアーコートを60mg/dm行い、170℃で10分電気オーブンで乾燥焼き付けた後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.76の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで200℃で60秒間後加熱を行った。
【0069】
こうして得た絞り缶の性能評価について、内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム皮膜の健全性はQTV試験で、密着性については125℃で60分のレトルト殺菌処理で調べた。また、同様に前記の絞り缶に市販の鮪味付け缶詰および鮪水煮缶詰の内容物をリパックし缶蓋を巻締め後、113℃で100分のレトルト殺菌処理を行い、硫化黒変性を調べると共に、55℃に1ヶ月貯蔵し耐食性を調べた。比較例3で得られた熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容を表1に、接着剤の内容を表2に、加工条件を表3に、性能評価結果を表4に示した。表4から、本発明の比較例3の絞り缶(No.16)は、密着性は良好であるが、内容物リパックテストで硫化黒変性および耐食性が実施例に比較して劣ることが判る。また、前述したようにラミネート鋼板には特にフィルムのエッジに小皺が発生するなど、ラミネート性にも劣ることが判る。
【0070】
比較例4〜5
厚みが25μm、融点が243℃、極限粘度(IV)が0.72、X線回折強度が7520cpsの熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの片面に、実施例1で用いた接着剤を乾燥厚みとして20mg/dmになるようにグラビアロールで塗布し、130℃で10秒間熱風乾燥した接着剤付き熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを作成した。この時、フィルムの収縮はまったく見られなかった。こうして得た接着剤付き熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを、実施例1で用いた電解クロム酸処理鋼板を用いて多数の加熱ロール間を通過させることにより加熱し、板温が180℃になった時点で前記接着剤付き熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムを接着剤面が鋼板と接するように鋼板の両面に熱圧着させて、フィルムラミネート鋼板(No.17)を作成した。得られたラミネート鋼板は皺もなく良好なものであった。また、同様に実施例2で用いたアルミニウム合金板を用いて多数の加熱ロール間を通過させることにより加熱し、板温が180℃になった時点で接着剤面がアルミニウム合金板と接するようにアルミニウム合金板の両面に熱圧着させて、ラミネートアルミニウム合金板(No.18)を作成した。この時、フィルムの収縮はまったく見られなかった。次いで、前記のラミネート鋼板およびラミネートアルミニウム合金板の一方の面にインキ印刷を行い更にクリアーコート(60mg/dm)行い、170℃で10分電気オーブンで乾燥焼き付けた後、加工用潤滑剤を塗油し印刷面が缶の外面になるように、2回の絞り加工を行って、絞り比が1.76の絞り缶を作成した後、該絞り缶を電気オーブンで200℃で90秒間後加熱を行った。
【0071】
こうして得た比較例4(No.17)と比較例5(No.18)の絞り缶の性能評価について、密着性を125℃で60分のレトルト殺菌処理で調べた。比較例4および5で得た熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムの内容を表1に、接着剤の内容を表2に、加工条件を表3に、性能評価結果を表4に示した。表4から、本発明の比較例4、5の絞り缶(No.17、18)は、レトルト処理でフィルム剥離が起こり、密着性が実施例と比較して劣ることが判る。なお、本発明の比較例4、5の絞り缶(No.17、18)は、密着性不良であったため、内容物のリパックでの耐食性評価は行わなかった。
【0072】
【表1】
Figure 0004601189
【0073】
【表2】
Figure 0004601189
【0074】
【表3】
Figure 0004601189
【0075】
【表4】
Figure 0004601189
【0076】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の絞り缶によれば内面が熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムでラミネートされているため、従来の塗装缶に比べ耐食性の良好な絞り缶が得られると共に、更に、外面にもポリエステル樹脂フィルムが施されているため平滑性があるので、その上層に施された印刷が鮮鋭性を有することから、従来の印刷缶に比べ印刷外観の美麗な絞り缶を得ることができる。また、本発明の絞り缶は缶内面の熱可塑性ポリエステル樹脂フィルムは、原材料にビスフェノールAやその他の外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)は使用されていないため安全であり、現在の社会的要望に応えられる食缶用の絞り缶である。

Claims (4)

  1. 金属板のプレス成形加工による一回の絞り加工または複数回の絞り加工によって得られる絞り缶(深絞り缶を含む)において、少なくとも缶内面側となる金属面には(A)接着層と(B)熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層があり、前記(A)の接着層は、(イ)数平均分子量(Mn)が340〜10000のエポキシ樹脂と、(ロ)数平均分子量(Mn)が1000〜20000のポリエステル樹脂を、エポキシ樹脂対ポリエステル樹脂の重量比が95:5〜5:95の範囲で共重合させた数平均分子量(Mn)が6000〜30000のエポキシ−ポリエステル共重合樹脂100重量部と、硬化剤0.5〜20重量部を含み、乾燥厚みが5〜50mg/dmであり、また前記(B)の熱可塑性ポリエステルフィルムは、厚み8〜30μm、融点(Tm)210℃以上、X線回折による測定(*)で2θが22゜〜28゜に検出されるピークの内最も高いピークの強度が700cps〜7000cpsの範囲にあるものであって、前記(A)および(B)で被覆された金属板から、最終缶体の絞り比として1.5〜2.5の範囲に成形加工されているとともに、成形加工によって熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層に入った歪が開放されており、さらに後加熱されていることを特徴とするフィルムラミネート絞り缶。〔*理学(株)製のX線回折装置rad−BによりCuターゲット(Cu−Kα)を用いて40kV、20mAの条件で測定〕
  2. 前記絞り缶の外面側には金属側から熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層/インキ層/クリアコート層が、金属板に熱圧着により直接被覆されているか、もしくは前記(A)の接着剤層を介して被覆されているかのいずれかである請求項1に記載のフィルムラミネート絞り缶。
  3. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂フィルム層が、着色料を5〜20重量%含有しているものである請求項1または2に記載のフィルムラミネート絞り缶。
  4. 接着剤層が白色顔料を含有するものである請求項1〜3いずれか記載のフィルムラミネート絞り缶。
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