近年の携帯電話サービスでは、音声通話に加えてデータ通信に対する需要が拡大していることから、通信速度の向上が重要である。例えば、主に、ヨーロッパ、アジア地域にて普及しているGSM(Global System for Mobile communications)システムにおいては、従来、搬送波の位相を送信データに応じてシフトするGMSK変調にて音声通話が行われてきたが、搬送波の位相及び振幅を送信データに応じてシフトすることで、GMSK変調に対して1シンボル当たりのビット情報を3倍に高めた3π/8rotating8−PSK変調(以下8−PSK変調と略す)にてデータ通信も行うEDGE(Enhanced Data rates for GSM Evolution)方式が提案されている。
8−PSK変調のように振幅変動を伴う線形変調方式では、無線機送信部の電力増幅器に対する線形性の要求が厳しい。また、一般的に、電力増幅器の線形領域での電力効率は飽和領域での電力効率に比べて低い。したがって、線形変調方式に、従来の直交変調方式を適用すると、電力効率の高効率化が困難であった。
そこで、送信信号を定振幅位相信号と振幅信号に分離して、定振幅位相信号をもとに位相変調器にて位相変調をかけ、電力増幅器が飽和動作をするレベルの定振幅位相変調信号を入力するとともに、電力増幅器の制御電圧を高速に駆動することで振幅変調を合成する、EER法(Envelope Elimination & Restoration)、あるいは、polar modulation方式(ポーラー変調方式、極座標変調方式)と呼ばれ、線形変調方式にて電力増幅器の高効率化を実現する方式が知られている(例えば、非特許文献1参照)。なお、以下では、直交変調方式と異なる変調方式であることを明確にするため、極座標変調方式と呼ぶ。
図26は8−PSK変調時の振幅信号に関して、GSMの1タイムスロット(577[μs])中200〜400[μs]部分を抽出してプロットした図である。図26において、横軸は当該タイムスロットの開始からの経過時間、縦軸は振幅信号の振幅である。
図27は時間経過に対して徐々に変化(単調増加もしくは単調減少)する制御電圧を電力増幅器に印加した場合の通過位相特性をプロットした図である。図27において、横軸は正規化した制御電圧、縦軸は正規化制御電圧1を基準とした通過位相回転量である。図中の実線は、正規化制御電圧を低電圧(0)から高電圧(1)へと単調増加で徐々に変化させた場合(上り特性)の通過位相特性、図中の点線は正規化制御電圧を高電圧(1)から低電圧(0)へと単調減少で徐々に変化させた場合(下り特性)の通過位相特性である。なお、実線、点線ともに、電力増幅器が飽和動作する所定レベルの入力高周波信号振幅(同一値)が供給されている場合を示している。
極座標変調方式では定振幅位相変調信号を電力増幅器に入力するため、電力増幅器を飽和動作点にて使用可能であり、電力効率の面で有利である。しかしながら、図26のような2[μs]以内に振幅の極大値−極小値の変極点が存在する振幅信号を表現するためには、電力増幅器の制御電圧を高速に駆動する必要があり、電力増幅器への制御電圧入力部における容量(寄生容量を含む)に対する充電時間、放電時間の差から、図27のように制御電圧の印加条件が、低電圧から高電圧へと変化する場合と、高電圧から低電圧へと変化する場合とで、制御電圧の変化幅が同一値でも位相変化量が異なる。すなわち、信号変化点で位相特性が変化する。したがって、入力制御電圧に対する電力増幅器の出力応答性の改善技術(出力線形化技術)が必要である。
次に、GSMシステムでは、基地局のカバーするセル半径が広いため、移動局送信装置に対する最大送信電力規定値が高い。そこで、移動局送信装置の低消費電力化のために、基地局と移動局間距離に応じて移動局送信装置からの送信電力を制御する。例えば、図28は移動局送信装置に対する送信電力規定を示す図である。ここでは、GSM規格書「Digital cellular telecommunications system(Phase 2+);Radio transmission and reception (3GPP TS 05.05 version 8.9.0 Release 1999)」に記載の移動局送信装置に対するアップリンクの送信電力規定の電力制御レベルから、GSM900MHz帯に対応した移動局送信装置、が8−PSK変調波を送信する場合の電力制御レベル5−31を抜粋した。なお、8−PSK変調時には、電力クラスE1−E3が最大出力電力となり、それ以下の出力電力への電力制御が行われる。
極座標変調方式では、通常、前記電力制御を行う手段として、所望出力電力となるように、電力増幅器の制御電圧を調整する。
しかしながら、極座標変調方式では、電力増幅器の動作点が飽和領域となるように電力増幅器への入力高周波信号振幅が大きく設定されているため、制御電圧を調整して出力信号振幅を抑制する場合に、電力増幅器を構成するトランジスタのベース端子−コレクタ端子間空乏層容量が増加し、入力高周波信号の漏洩成分が増大する。前記漏洩成分に起因して、出力信号振幅を所定値以下に低減できない、通過位相量の変化が大きくなるといった問題が生じる。
よって、送信電力低減時の、電力増幅器の出力線形化技術も必要である。
以上から、極座標変調方式においては、制御電圧を高速に駆動することと、飽和動作型電力増幅器を用いて送信電力制御を行うことに起因する電力増幅器の非線形性の補償技術が必要である。
次に、前記補償技術に関する従来技術について説明する。
(従来技術1:直交変調方式でのプリディストーション方式歪補償技術)
制御電圧が一定値かつ、定常状態での電力増幅器の出力線形化技術の従来例としては、前記条件下にある電力増幅器にて発生する振幅、位相歪を測定しておき、電力増幅器への入力信号に対して、予め前記歪の逆特性を用いた補正を行うことで、所望の出力信号振幅、通過位相特性を得るプリディストーション方式があった(例えば、特許文献1参照)。
図29は制御電圧が一定値かつ、定常状態にある電力増幅器の入力高周波信号振幅に対する出力信号振幅特性(AM−AM:Amplitude Modulation to Amplitude Modulation conversion)、通過位相特性(AM−PM:Amplitude Modulation to Phase Modulation conversion)を示す図であり、図30は特許文献1に記載された従来のプリディストーション方式の変調装置の概略構成を示すブロック図である。なお、以下では、入力信号の種類を問わず、入力信号振幅の変化に応じて生じる出力信号の変化に関して、出力信号振幅の変化をAM−AM特性、出力信号位相の変化をAM−PM特性と呼ぶ。
図29において、横軸は入力高周波信号の振幅であり、縦軸(左)は出力信号の振幅であり、縦軸(右)は入力高周波信号を基準とした出力信号の位相回転量(通過位相)であり、図中の実線は入力高周波信号振幅に対するAM−AM特性をプロットしたグラフであり、図中の点線は入力高周波信号振幅に対するAM−PM特性をプロットしたグラフである。
また、図30に示すように、従来のプリディストーション方式の変調装置は、メモリ2901、IQ信号補正手段2902、直交変調器2903を有する。
メモリ2901は、入力IQ信号振幅に対するAM−AM特性及びAM−PM特性を格納する。
ここで、図29のような電力増幅器への入力高周波信号振幅に対するAM−AM特性、AM−PM特性と、入力IQ信号振幅に対するAM−AM特性、AM−PM特性との対応関係について説明する。
直交変調器2903からの出力振幅、すなわち図示しない電力増幅器への入力高周波振幅は、図示しないベースバンド信号生成部より送信される入力IQ信号(定振幅とは限らない)に応じて変化する。そこで、入力IQ信号振幅と直交変調器2903からの出力信号振幅(電力増幅器への入力高周波信号振幅)との関係を、まず対応づけたものを取得する。また、図29のような、制御電圧が一定値かつ、定常状態にある電力増幅器の入力高周波信号振幅に対するAM−AM特性及びAM−PM特性を取得する。なお、このような電力増幅器の特性は、非特許文献1の第63頁、2.13.4項「Measurement of AM/AM and AM/PM Characteristics」に記述されているように、ネットワークアナライザ等を用いて容易に取得することができる。
次に、上記取得した入力IQ信号振幅に対する直交変調器2903のAM−AM特性及び入力高周波信号振幅に対する電力増幅器のAM−AM特性、AM−PM特性をもとに、入力IQ信号に対するAM−AM特性及びAM−PM特性を求める。そして、本AM−AM特性、AM−PM特性を絶対値にて、あるいは、入力IQ信号振幅に所定値を乗算後あるいは除算後、前記絶対値となるように、入力IQ信号振幅にて正規化した前記所定値(差分値)にて格納する。
そして、入力IQ信号に応じて前記AM−AM特性、AM−PM特性の逆特性となる振幅・位相補正信号をIQ信号補正手段2902へ出力する。なお、メモリ2901に格納するデータは、入力IQ信号を極座標変換後の振幅成分の最大値で正規化し、所定の振幅ステップごとにアドレス番号を付与しておいてもよい。
IQ信号補正手段2902は、振幅・位相補正信号をもとに入力IQ信号に対する補正を実施する。
直交変調器2903は、IQ信号補正手段2902より出力された信号をもとに直交変調を実施する。
このように、電力増幅器の入出力特性の逆特性を考慮して予め歪ませた変調信号は、電力増幅器にて発生する実際の振幅、位相歪の影響を受けて所望の出力振幅、位相となり、線形性を向上させることができる。
(従来技術2:極座標変調方式でのプリディストーション方式歪補償技術)
電力増幅器の制御電圧が一定値かつ、定常状態ではなく、飽和動作型電力増幅器の制御電圧を高速駆動することで振幅変調を実施する極座標変調方式での電力増幅器の出力線形化技術の従来例としては、所定入力高周波信号振幅に対する事前に取得した所定の飽和動作型電力増幅器における出力信号振幅、通過位相の対制御電圧特性をメモリに蓄積しておき、前記メモリを参照してプリディストーション方式の歪補償を実施するものがあった(例えば、特許文献2参照)。
図31は特許文献2に記載されたプリディストーション方式の歪補償を適用した従来の極座標変調装置を示すブロック図である。
図31に示すように、この極座標変調装置は、電力増幅器3000と、極座標変換手段3001と、メモリ3002と、振幅情報補正手段3003及び振幅変調手段3004を有する振幅コントローラ3005と、位相情報補正手段3006及び位相変調手段3007を有する位相変調信号発生器3008とを備える。
極座標変換手段3001は、図示しないベースバンド信号生成部より入力されたIQ信号を振幅信号r(t)と定振幅の位相信号θ(t)とに分離する。
メモリ3002は、所定入力高周波信号振幅での電力増幅器3000の、入力制御信号に対する出力信号振幅特性及び通過位相特性を格納する。また、入力振幅信号r(t)に応じて電力増幅器3000の逆特性となる振幅補正信号、位相補正信号を出力する。
振幅情報補正手段3003は、メモリ3002から出力された振幅補正信号をもとに入力振幅信号r(t)に対する補正を行う。
振幅変調手段3004は、振幅情報補正手段3003からの出力信号をもとに電力増幅器3000の制御電圧を高速に駆動する。
位相情報補正手段3006は、メモリ3002から出力された位相補正信号をもとに入力位相信号に対する補正を実施する。
位相変調手段3007は、位相情報補正手段3006からの出力信号をもとに位相変調を行う。
なお、特許文献2の明細書中には記載はないが、メモリ3002に格納されるデータは、図29における横軸の電力増幅器への入力高周波信号振幅を入力制御信号振幅と置き換えた、入力制御信号振幅に対するAM−AM特性、AM−PM特性の絶対値形式のデータ、又は、入力制御信号振幅に所定値を乗算後、あるいは除算後、前記絶対値となるように、前記入力制御信号にて正規化した前記所定値(差分値形式のデータ)となる。
このようにして、電力増幅器の入力制御信号に対する出力特性の逆特性を考慮して予め歪ませた振幅変調信号及び位相変調信号は、電力増幅器にて発生する実際の振幅、位相歪の影響を受けて所望の出力振幅、位相となり、入力制御電圧に対する出力応答性(線形性)を向上させることができる。
(従来技術3:電力増幅器における入力制御電圧に対する出力応答性向上技術)
電力増幅器における入力制御電圧に対する出力応答性の向上技術の従来例としては、電力増幅器の制御電圧を調整することと連動して電力増幅器への入力高周波信号レベルを制御することで、制御電圧に対する出力信号のオーバーシュートを抑制するものがあった。(例えば、特許文献3参照)
図32は、入力制御電圧に対する電力増幅器の出力信号振幅特性を示す図、図33は特許文献3に記載された従来の電力増幅器における制御電圧に対する出力応答性の向上手段(送信電力制御回路)を示すブロック図である。
図32において、横軸は制御電圧、縦軸は出力振幅を示す。図中の点線のように同一出力振幅において、矢印の方向に向かって電力増幅器への入力振幅を抑制すると、制御電圧に対する出力信号振幅の感度(傾斜)が緩やかになる。
図33に示すように、この送信電力制御回路は、可変出力増幅器3201、電力増幅器3202、信号入力端子3203、信号出力端子3204、可変出力増幅器3201の制御端子3205、電力増幅器3202の制御端子3206を備える。
入力端子3203への入力高周波信号振幅及び、制御端子3206への入力電圧が一定の条件下にて、制御端子3205への入力電圧を調整して、可変出力増幅器3201からの出力信号振幅を抑制すると、図32の関係から、電力増幅器3202の出力振幅の制御電圧に対する感度を抑制できる。従って、制御端子3205、3206への入力電圧を同時に調整することで、制御端子3206だけに入力電圧を印加する場合に比べ、制御電圧に対する出力信号振幅の感度、例えば、オーバーシュートを抑制することができる。
(従来技術4:信号変化点でのAM−PM特性補償技術)
極座標変調方式において、電力増幅器への入力制御信号の信号変化点における、AM−PM特性の変化を補償する位相補償技術の従来例としては、電力増幅器の出力信号振幅を検波し、検波信号を微分して信号変化点を求めた後、信号変化点でのAM−PM特性の変化を補償するため、振幅信号−位相信号間の同期タイミングを調整するものがあった。
図34は、特許文献4に記載された従来の信号変化点での位相補償装置を示すブロック図である。
図34に示すように、この位相補償装置は、電力増幅器3000、デジタルーアナログ変換回路3301、3302、基準クロック3303、振幅変調手段3304、位相変調手段3305、変化点検出回路3306、遅延手段3307を備える。
デジタル−アナログ変換回路3301は、図示しないベースバンド信号生成部より入力されたデジタル形式のIQ信号(I、Q)をアナログ形式のIQ信号へと変換する。
デジタル−アナログ変換回路3302は、図示しない極座標変換手段にて前記デジタル形式のIQ信号(I、Q)から抽出したデジタル形式の振幅信号(r)をアナログ形式の振幅信号へと変換する。
基準クロック3303は、デジタル−アナログ変換回路3301、3302に変換動作の基準となるクロックを供給する。
振幅変調手段3304は、アナログ形式の振幅信号をもとに、電力増幅器3000の電源電圧を高速に駆動する。
位相変調手段3305は、アナログ形式のIQ信号をもとに位相変調信号を生成し、電力増幅器3000へと出力する。
変化点検出回路3306は、電力増幅器3000の出力信号を微分した後、微分値の正負から、信号変化点を検出する。
遅延手段3307は、変化点検出回路3306にて検出した信号変化点にて、デジタル−アナログ変換回路3301と3302での変換タイミング、すなわち、IQ信号より抽出した振幅信号と位相信号との間の同期を調整する。
このように、信号変化点にて振幅信号と位相信号の同期を調整することで、位相変化量を制御することが可能となる。
したがって、前記微分値の正負をもとに遅延量を調整することで、信号変化点での位相変化量の制御を行うことができる。
(従来技術5:送信電力低減時の電力増幅器の入力制御電圧に対する出力応答性向上技術)
送信電力低減時の、電力増幅器の出力線形化技術の従来例としては、電力増幅器の前段に可変出力増幅器を接続し、電力増幅器の出力信号振幅を低減する際には、併せて、前記可変出力増幅器の利得を低減し、電力増幅器への入力高周波信号振幅を抑制するものがあった。(例えば、特許文献5参照)
図33は、特許文献5に記載された従来の電力増幅器における、低出力時線形化手段を示すブロック図である。
また、図35は制御電圧(定常状態)に対する一般的な電力増幅器の通過位相特性を示す図であり、図35において、横軸は正規化した制御電圧、縦軸は正規化制御電圧1を基準とした通過位相回転量である。図中の実線は電力増幅器への入力高周波信号振幅Pin=P1の場合の通過位相特性、図中の点線は電力増幅器への入力高周波信号振幅Pin=P2(<P1)の場合の通過位相特性を示し、通過位相特性の測定中において、Pinは一定値である。
図35に示すように、制御電圧が低電圧となる領域での通過位相特性の変化を抑制するには、電力増幅器への入力高周波信号振幅を低減することが有効である。また、制御電圧が低電圧となる領域での入力高周波信号成分の出力端子への漏洩電力の抑圧にも、電力増幅器への入力高周波信号振幅を低減することが有効である。
そこで、例えば、制御端子3206への入力電圧を低減して電力増幅器3202の出力電力を低減する場合を考える。
制御端子3205への入力電圧を下げることで、可変出力増幅器3201からの出力信号振幅、すなわち、電力増幅器3202への入力高周波信号振幅を抑制し、入力高周波信号の漏洩成分を低減すること、すなわち、出力信号振幅を所定値以下に抑えることができる。また、図34の関係より、制御電圧が低電圧となる電力増幅器の低出力時の通過位相量の変化幅を抑圧することができる。
特開昭61−214843号公報(第3図及び第10図)
特表2004−501527号公報(第11図)
特開平5−152977号公報(第1図及び第4図)
特表2002−530992号公報(第2図)
米国特許出願公開2002/0177420号明細書(第2図)
Kenington, Peter B、"High-Linearity RF Amplifier Design"、Artech House Pulishers (第162頁、第4.18図)
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態は、従来技術1から3のいずれかを組み合わせても解決できなかった、極座標変調方式において、歪補償データの増大に伴う回路規模の増大を生じることなく、制御電圧に対する電力増幅器の出力線形化を実現する方法について説明するものである。
また、制御電圧に対する電力増幅器の出力線形化を実現する他の技術として、送信データと電力増幅器からの出力信号の復調データとを比較し、誤差を低減するよう補償データを更新する処理(以下、アダプティブ処理と呼ぶ)を行う方法があるが、前記アダプティブ処理を行う回路の構成上、必要となる電力増幅器の出力信号の分岐部分によって生じる送信装置の送信効率の低下を回避するため、フィードバック系を用いずに制御電圧に対する電力増幅器の出力線形化を実現する方法について説明するものである。
図1は、本発明の第1の実施形態の極座標変調回路の概略構成の一例を示す図である。
図1に示すように、本発明の第1の実施形態の極座標変調回路は、極座標変換手段1と、歪補償回路10と、振幅変調手段2と、位相変調手段3と、電力増幅器4と、直交座標変換手段5とを備える。
極座標変換手段1は、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いた場合に、図示しない送信装置のベースバンド信号生成部より入力された直交座標信号(IQ信号)を、振幅情報r(t)と定振幅の位相情報θ(t)とに分離する。ここで、極座標変換手段1は、r(t)を、最大値が1となるように正規化する。
歪補償回路10は、振幅情報r(t)及び位相情報θ(t)に対して所定の歪補償処理を行う。この歪補償回路10の詳細な動作は後述する。
振幅変調手段2は、歪補償回路10から出力された振幅情報に基づいて、電力増幅器4の制御電圧を駆動する。
直交座標変換手段5は、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いた場合に、図示しない送信装置の制御部より送信される出力振幅情報S2に基づいて、歪補償回路10から出力された位相情報を、定振幅のIQ信号(I11(t)、Q11(t))に変換する。すなわち、出力振幅情報S2は、定振幅IQ信号の振幅値を決定するものである。ここで、出力振幅情報S2は、位相変調手段3が飽和しない値に設定されるとともに、送信装置の制御部から送信されるのではなく、直交座標変換手段5に記憶させておいてもよい。例えば、出力振幅情報S2を、1として、位相変調手段3のIQ信号入力部に減衰回路を設けて、位相変調手段3が飽和しないようにしてもよい。
位相変調手段3は、直交座標変換手段5から出力されたIQ信号(I11(t)、Q11(t))に基づいて位相変調を行う。ここで、位相変調手段3は、直交変調手段を有して構成され、オフセットPLL方式と呼ばれる位相変調手段とを含む場合もある。また、位相変調手段3は、フラクショナル分周器を有して構成され、フラクショナルN・PLL方式と呼ばれる位相変調手段を含む場合もある。なお、フラクショナルN・PLL方式の場合には、位相変調手段3は、直交座標変換手段5から出力されたIQ信号(I11(t)、Q11(t))ではなく、歪補償回路10より出力された位相情報θに基づいて位相変調を行う。
電力増幅器4は、制御信号としての振幅変調手段2の出力信号に基づいて、位相変調手段3から出力される位相変調信号に対して振幅変調を合成する。
なお、本発明の第1の実施形態の極座標変調回路の他の例として、図2に示す構成を備えてもよい。
図2は、本発明の第1の実施形態の極座標変調回路の概略構成の他の例を示す図である。この例の極座標変調回路では、位相変調手段3、直交座標変換手段5の代わりに、直交変調手段6、直交座標変換手段5bがそれぞれ設けられている。
直交座標変換手段5bは、極座標変換手段1から出力される振幅情報r(t)と、歪補償回路10から出力される位相情報を合成して、IQ信号(I12(t)、Q12(t))を出力する。
直交変調手段6は、直交座標変換手段5から出力されたIQ信号(I12(t)、Q12(t))をもとに直交変調を行う。直交変調手段6によって直交変調された振幅成分を有する高周波信号は、電力増幅器4の入力信号となる。なお、直交変調手段6のIQ信号入力部に減衰回路を設け、直交変調手段6が飽和しないように構成してもよい。
次に、歪補償回路10について詳述する。図1及び図2に示すように、歪補償回路10は、定常特性補償回路11と、振幅情報補正手段12と、第一の振幅情報調整部13を有する過渡特性補償回路14と、第一の係数選択部15と、振幅判定部16と、位相情報補正手段17とを有する。
送信レベル情報S1は、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いた場合に、図示しない送信装置の制御部より送信される電力増幅器4の送信レベル情報であり、定常特性補償回路11及び第一の係数選択部15に入力される。ここで、送信レベル情報S1は、具体的には、900MHz帯GSMバンドにおいて、8−PSK変調により送信している移動局送信装置に、本発明の極座標変調回路を適用した場合について説明する。電力増幅器4の後段に接続される図示しないアンテナの出力端において、33dBmから5dBmの間を2dBステップにて規定されるものである。すなわち、送信レベル情報S1は、図28に示すような、移動局送信装置に対するアップリンクの送信電力規定に基づいて決定されるものである。
定常特性補償回路11は、電力増幅器4からの基本波成分の出力信号振幅特性及び通過位相特性について、AM−AM特性として、出力信号振幅に対する制御電圧の絶対値形式のデータ、または、入力制御信号振幅に所定値を乗算後、あるいは除算後、前記絶対値となるように、前記入力制御信号にて正規化した前記所定値(差分値形式のデータ)を格納するとともに、AM−PM特性として、前記制御電圧に対する通過位相特性データをメモリに格納する。
なお、電力増幅器4からの基本波成分の出力信号振幅特性及び通過位相特性は、ネットワークアナライザ等を用いて取得できる所定レベル(一定値)の無変調1キャリアを、高周波入力信号として電力増幅器4に入力した場合に得られる特性である。
なお、AM−AM特性及びAM−PM特性は、前記出力信号振幅特性と通過位相特性との取得時間中において、一定値とした制御電圧(以下、定常制御電圧と呼ぶ)を切り替えるごとに取得したデータから得られる特性である。
また、定常特性補償回路11における入出力信号の関係は、入力振幅情報r(t)、及び、振幅情報補正手段12からの出力信号r11(t)をアドレス指定信号として、振幅補正信号S11、位相補正信号S12をそれぞれ出力する。さらに、定常特性補償回路11では、送信レベル情報S1をもとにしたAM−AM特性の正規化処理を行っている。具体的には、所望出力レベル(平均電力)に対して、変調方式に応じた振幅情報の最大値−平均値(ピークファクタ)を考慮した最大送信電力をもとに、格納AM−AMデータにおける出力信号振幅の正規化を実施することで、所望出力レベルごとに補正を行うものである。この正規化によって、入力振幅情報r(t)をアドレス指定信号としたAM−AMデータへのアクセスが可能となる。
なお、定常特性補償回路と呼ぶのは、格納している前記AM−AM特性、AM−PM特性が、制御電圧を入力後、定常状態に落ち着いた時点での特性、すなわち、定常制御電圧に対する特性であることから、前記特性をもとに実施する特性の補償が、定常特性に対するものになることを示すためである。
振幅情報補正手段12は、定常特性補償回路11から出力された振幅補正信号S11に基づいて、極座標変換手段1から出力された振幅情報r(t)に対する補正を行う。
第一の振幅情報調整部13は、振幅情報補正手段12から出力された振幅情報r11(t)に対して所定の係数情報(func1)を乗算して振幅情報r12(t)を出力する。
第一の係数選択部15は、第一の振幅情報調整部13の係数情報(func1)を設定するために、送信レベル情報S1に対応した係数情報のテーブルを格納しておく。
振幅判定部16は、一定間隔にてサンプリングした振幅情報r(t)の瞬時振幅値(|r(t)|)を計算する機能と、複数の瞬時振幅値に基づいて所定のしきい値を設けて前サンプル時点からの振幅情報r(t)の振幅値の増減(Δr(t))を求めることで、信号変化点を算出する機能とを有する。
位相情報補正手段17は、定常特性補償回路11から出力された位相補正信号S12に基づいて、位相情報θ(t)に対する補正を行う。
また、本発明の第1の実施形態の極座標変調回路の他の例として、図3に示す構成を備えてもよい。
図3は、本発明の第1の実施形態の極座標変調回路の概略構成の他の例を示す図である。この例の極座標変調回路では、図2の極座標変調回路から、直交座標変換手段5b、位相情報補正手段17を削除するとともに、直交変調手段6への入力IQ信号をI12(t)、Q12(t)から、図示しない送信装置のベースバンド信号生成部より入力されるIQ信号(I(t)、Q(t))へと変更することで、位相変調信号への位相補正を省略した構成としている。
なお、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いる場合には、図1における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5と位相変調手段3との段間、図2における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5bと直交変調手段6との段間、図3における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交変調手段6の前段には、図示しないデジタル−アナログ変換回路(以下DAコンバータと略す)を配置する。
次に、本発明の第1の実施形態の歪補償回路10の動作について説明する。まず、歪補償回路の動作の説明に先立ち、電力増幅器の制御電圧に対するステップ応答特性について説明する。
図4は、電力増幅器が飽和動作するレベルの入力高周波信号振幅を与えた状態にて、出力信号振幅の制御電圧に対するステップ応答特性を示す図である。図4において、横軸は電力増幅器に制御信号を入力した時点からの経過時間、縦軸は電力増幅器の出力信号振幅を示す。
図4に示すように、電力増幅器に供給する制御電圧を0vから所定レベルに変化させる(ステップ応答)と、電力増幅器が飽和動作するレベルの入力高周波信号を与えた状態では、出力振幅が安定する定常状態になる前に、過渡応答特性を示す。ここで、図4の例では、異なる2つの制御電圧値(定常制御電圧値)に対するステップ応答特性を示しており、定常特性での電力増幅器からの出力振幅は異なる。なお、前記ステップ応答特性取得中の入力高周波信号振幅は、電力増幅器が飽和動作するレベル、かつ、一定値である。なお、図4に示す2つのステップ応答特性において、高出力振幅の方が、低出力振幅よりも、定常制御電圧値が高い。
次に、上述の過渡応答部分の所定レベルからの誤差を、電力増幅器4からの出力信号を分岐後に、フィードバックし、アダプティブ処理を行うことなく補正する方法及び手順について説明する。
定常特性補償回路11に格納しているデータ(AM−AM特性、AM−PM特性)は、データ取得の簡易さを優先して、ネットワークアナライザを用いるとともに、データ取得時は一定値とする定常制御電圧値を複数切り替えることで取得が可能な、電力増幅器4の出力信号振幅及び通過位相回転量の対制御電圧(定常状態)特性である。定常状態の特性である前記データを参照して歪補償を実施すると、図4に示す過渡応答の影響により、振幅情報補正手段12からの出力信号r11(t)では所望出力振幅を表現できない。
そこで、変調信号の平均出力レベルが所望レベルとなるような一定値の制御電圧供給時の電力増幅器4のステップ応答特性を、無線システムの規格(例えば、背景技術の項にて例として挙げたGSM規格書など)に定められた送信出力電力ごとに予め測定しておき、前記ステップ応答特性が、図4中の高出力振幅時のように過渡応答特性がオーバーシュート状態の場合には、第一の係数選択部15は、r11(t)とr12(t)が式(1)に示す関係となるように式(2)で示す係数情報(func1)を第一の振幅情報調整部13に出力する。
r11(t)>r12(t) ・・・・(1)
func1<1 ・・・・(2)
逆に、図4中の低出力振幅時のように過渡応答期間中に所定値を超えることなく収束する場合には、第一の係数選択部15は、r11(t)とr12(t)が式(3)に示す関係となるように式(4)で示す係数情報(func1)を第一の振幅情報調整部13に出力する。
r11(t)≦r12(t) ・・・・(3)
func1≧1 ・・・・(4)
すなわち、送信変調信号における平均出力振幅を得る一定値の制御電圧を印加した場合に、電力増幅器4の起動特性がオーバーシュートの場合には、定常特性にて補正を実施した振幅情報r11(t)を圧縮し、逆特性の場合にはr11(t)を伸張することで、過渡応答の影響を考慮して所望の出力振幅が得られるようにする。
ここで、例えば、GSMシステムでは、タイムスロット間に変調信号を送信しない期間が存在し、1タイムスロット期間の開始に伴って電力増幅器を起動し、1タイムスロット期間の終了に伴って電力増幅器を停止する必要があるとともに、1タイムスロット内の送信出力電力は一定である。よって、GSMシステムに本発明の第1の実施形態の歪補償回路を適用する場合には、各タイムスロットに対する送信レベル情報S1に基づいて、係数情報を出力すればよい。
このように、本発明の第1の実施形態の歪補償回路は、従来の極座標変調回路に対して、送信レベル情報S1に対応する係数情報(func1)のテーブルを格納した第一の係数選択部15と、係数情報(func1)を乗算する過渡特性補償回路14とを付加するだけで、過渡応答の影響を鑑みた歪補償を行うことができる。
すなわち、従来技術1から3をもとにして、過渡応答特性を補償する場合に必要となる、時間軸方向の膨大な補償データ、複雑な制御を行うための制御回路、あるいは、遅延調整回路を必要とせず、回路規模を低減することができる。
図5は、8−PSK変調波を用いた極座標変調方式に対して、本発明の第1の実施形態を適用した場合の電力増幅器出力の周波数スペクトラムである。図5において、横軸は周波数、縦軸は電力レベルである。本発明の第1の実施形態の歪補償回路を用いることにより、図5に示すようなスペクトラムを実現可能である。
ここで、図4を用いて説明したように、電力増幅器4の出力振幅の絶対値によって過渡応答特性が異なる。したがって、送信レベル情報S1をもとに送信出力電力(平均電力)を制御する場合だけでなく、同一出力電力に設定している条件下でも、振幅変調手段2からの出力信号振幅の絶対値によって、上記過渡応答特性が異なる可能性がある。
よって、送信出力電力規定を満たす定常制御電圧の設定値よりも、細かく定常制御電圧レベルを設定した場合の電力増幅器4のステップ応答特性を測定しておき、第一の係数選択部15は入力信号(|r(t)|)に対応したテーブルを用意して、入力信号に応じて出力する係数情報(func1)を切り替える構成を有することが好ましい。
ここで、本発明の第1の実施形態では、送信装置の送信効率が低下することを避けるため、電力増幅器4からの出力信号を分岐することなく、制御電圧の変化に対する電力増幅器4の出力線形化を実現する方法について説明した。
しかし、送信装置の送信効率が低下することが許容される場合、あるいは、極座標変調回路に電力増幅器4からの出力信号の分岐回路が既に接続されている場合には、送信レベル情報S1に対応したテーブルを具備せず、図示しない手段にて、電力増幅器4の出力スペクトラムの隣接チャネル漏洩電力を直接モニターしながら、あるいは前記スペクトラムを復調後のベースバンド信号をモニターしながら、もしくは、前記ベースバンド信号と送信データとの誤差が最小となるように係数情報(func1)を適宜切り替える構成でも、同様な効果を実現可能である。
また、電力増幅器4への入力高周波信号の周波数が異なる場合と、環境温度が変わった場合とにも、前記過渡応答特性が異なる可能性がある。このため、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いた場合に、第一の係数選択部15には、送信周波数、環境温度に対応したテーブルを用意しておき、図示しない送信装置の制御部より送信される送信周波数情報や、図示しない温度センサーからの温度情報、あるいは、前記温度情報と等価となる、例えば、電力増幅器の消費電流(コレクタ電流など)をモニターする回路からの消費電流情報に応じて、出力する係数情報(func1)を切り替える構成を有することが、さらに好ましい。
なお、送信装置の送信効率の低下が許容される場合、あるいは、極座標変調回路に電力増幅器4からの出力信号の分岐回路が既に接続されている場合には、送信周波数、環境温度に対応したテーブル、温度センサーを具備せず、図示しない手段にて、電力増幅器4の出力スペクトラムの隣接チャネル漏洩電力を直接モニターしながら、あるいは前記スペクトラム復調後のベースバンド信号をモニターしながら、もしくは、前記ベースバンド信号と送信データとの誤差が最小となるように係数情報(func1)を適宜切り替える構成でも、同様な効果を実現可能である。
以上のように、本発明の第1の実施形態における歪補償回路は、定常特性補償回路11に格納する定常特性でのAM−AM特性、AM−PM特性を用いた歪補償に関して、振幅補正後の振幅情報に対して過渡応答を表現する係数情報(func1)を乗算する。これにより、極座標変調方式において、補償データの増大を抑制しながら、変調信号に関する振幅情報を正確に表現すること、すなわち、電力増幅器の低歪特性を実現することが可能となる。
なお、本発明の第1の実施形態では、定常特性補償回路11への格納データの元となるデータの取得方法としてネットワークアナライザを用いた場合を記載しているが、他の測定手段にて、電力増幅器4の特性を取得してもよいことは言うまでもない。
また、定常特性補償回路11には、AM−AM特性、AM−PM特性をテーブルデータとして格納しておくことを想定しているが、取得データをもとにして多項式近似を行い、入力信号に対して、前記近似関数をもとに補正信号を出力してもよい。
ここまでの本発明の第1の実施形態では、データ送信時の変調信号に関する振幅情報を正確に表現する効果について説明してきたが、この過渡応答を表現する係数情報(func1)を起動からの経過時間に対して調整することで、バースト動作を行う電力増幅器の起動特性(ランプ制御)に関して、安定性を確保しながら、高速化する効果も得ることができる。
具体的には、高速な起動特性が要求されるにも関わらず、図4中の低出力振幅時のように、過渡応答期間中に所定値を超えることなく収束する場合には、事前に取得した制御電圧に対するステップ応答特性をもとに、起動初期(0〜t1)において、所定レベルを得る制御電圧よりも高い制御電圧が増幅器に印加されるよう、式(5)にて示す係数情報(func1)を第一の振幅情報調整部13に出力する。また、続く期間(t1〜)においては、式(6)にて示す係数情報(func1)を第一の振幅情報調整部13に出力する。ここで、係数情報(func1)は、例えば、増幅器の出力振幅を示す送信レベル情報S1に対応して設定すればよい。
このように、係数情報(func1)を用いた制御電圧のレベル調整を、起動からの経過時間に対して実施することにより、電力増幅器の起動特性を高速化することが可能である。また、増幅器の出力信号をフィードバックする回路は必要ではないため、フィードバック回路付加に伴う発振を回避可能であり、安定性も確保できる。
func1>1 ・・・・(5)
func1=1 ・・・・(6)
したがって、本発明の第1の実施形態の歪補償回路を用いて電力増幅器のランプ制御回路を構成してもよい。
GSMのようなセルラーシステム、IEEE802.11a/b/gなどの無線LANシステムの他、UWB(Ultra Wide Band)といった高速通信を行うために、高速なパルス信号の起動特性が要求されるシステムに適用可能である。
なお、ここでは電力増幅器の起動特性に関して説明したが、電力増幅器の前段に位置する増幅器、あるいは、発振器に適用しても、同様に、起動特性の高速化という効果が得られることは言うまでもない。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態は、本発明の第1の実施形態にて説明した、過渡特性補償を反映した信号をもとに、位相補償を行うことで、極座標変調方式において、補償データの増大を抑制しながら、変調信号に関する振幅・位相情報を正確に表現する方法について説明するものである。
図6は、本発明の第2の実施形態の極座標変調回路の概略構成の一例を示す図であり、図7は本発明の第2の実施形態の極座標変調回路の概略構成の他の例を示す図である。なお、本発明の第1の実施形態で説明した図1、あるいは、図2の極座標変調回路と重複する部分については、同一の符号を付す。
図6及び図7に示すように、本発明の第2の実施形態の歪補償回路20において、定常特性補償回路11は、本発明の第1の実施形態と同様のデータ形式にてAM−AM特性、AM−PM特性をメモリに格納し、第一の振幅情報調整部13からの出力信号r12(t)をアドレス指定信号とすることで、位相補償信号S22を出力する。なお、振幅補正信号S11の生成方法は本発明の第1の実施形態と同様であり、説明を省略する。
位相情報補正手段17は、定常特性補償回路11から出力された位相補償信号S22に基づいて位相情報θ(t)に対する補正を行い、補正後の位相情報θ2(t)を直交座標変換手段5または直交座標変換手段5bに出力する。
図6の直交座標変換手段5は、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI21(t)、Q21(t)を位相変調手段3に出力する。
図7の直交座標変換手段5bは、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI22(t)、Q22(t)を直交変調手段6に出力する。
すなわち、図1及び図2に示された歪補償回路10と比較すると、歪補償回路10の定常特性補償回路11が、AM−PMデータにアクセスする場合に、アドレス指定信号を、r11(t)とするのに対し、歪補償回路20の定常特性補償回路11は、r12(t)をアドレス指定信号としている点が異なる。
なお、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いる場合には、図6における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5と位相変調手段3との段間、図7における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5bと直交変調手段6との段間には、図示しないDAコンバータを配置する。
この構成により、定常特性補償回路11に格納されているAM−PMデータにアクセスする場合のアドレス指定信号を、制御電圧変動時の出力信号の過渡応答特性を考慮した振幅情報r12(t)とすることで、位相補正データにも制御電圧変動時の過渡応答特性を考慮することが可能となる。
以上のように、本発明の第2の実施形態における歪補償回路は、定常特性補償回路11に格納する定常特性でのAM−AM特性、AM−PM特性を用いた歪補償に関して、振幅補正後の振幅情報に対して過渡応答を表現する係数情報(func1)を乗算した信号を位相補正信号生成時のアドレス指定信号とする。これにより、極座標変調方式において、補償データの増大を抑制しながら、変調信号に関する振幅・位相情報を正確に表現すること、すなわち、電力増幅器の低歪特性を実現することが可能である。
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態は、極座標変調方式において、送信データと電力増幅器からの出力信号の復調データとを比較し、誤差を低減するよう補償データを更新する処理(以下、アダプティブ処理と呼ぶ)を行う回路の構成上、必要となる電力増幅器の出力信号の分岐部分によって生じる送信装置の送信効率の低下を回避するため、フィードバック系を用いずに、制御電圧に対する電力増幅器の出力線形化を実現する方法に関して、本発明の第1の実施形態と異なる方法を説明するものである。
また、電力増幅器の対周波数特性、対温度特性などを補償するために、電力増幅器のAM−AM特性の傾きを、簡易に調整する方法について説明するものである。
図8(a)は、本発明の第3の実施形態の極座標変調回路の概略構成の一例を示す図であり、図8(b)は、本発明の第3の実施形態の極座標変調回路の概略構成の他の例を示す図である。なお、本発明の第1の実施形態で説明した図1、あるいは図2の極座標変調回路と重複する部分については、同一の符号を付す。
図8(a)及び図8(b)に示すように、本発明の第3の実施形態の歪補償回路30は、図1、あるいは、図2の歪補償回路10での第一の振幅情報調整部13、第一の振幅情報調整部13を有する過渡特性補償回路14、第一の係数選択部15の代わりに、それぞれ、第二の振幅情報調整部33、第二の振幅情報調整部33を有する過渡特性補償回路34と、第二の係数選択部35とを備える。
第二の振幅情報調整部33は、振幅情報r(t)に対して所定の係数情報(func2)を乗算して、振幅情報r31(t)を出力する。
第二の係数選択部35は、第二の振幅情報調整部33の係数情報(func2)を設定するために、送信レベル情報S1に対応した係数情報のテーブルを格納しておく。
定常特性補償回路11は、本発明の第1の実施形態と同様のデータ形式にてAM−AM特性、AM−PM特性をメモリに格納し、第二の振幅情報調整部33からの出力信号r31(t)及び振幅情報補正手段12からの出力信号r32(t)を、それぞれアドレス指定信号として、振幅補正信号S31及び位相補正信号S32を出力する。
位相情報補正手段17は、定常特性補償回路11から出力された位相補償信号S32に基づいて、位相情報θ(t)に対する補正を行う。さらに、補正後の位相情報θ3(t)を、直交座標変換手段5または直交座標変換手段5bに出力する。
図8(a)の直交座標変換手段5は、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI31(t)、Q31(t)を位相変調手段3に出力する。
図8(b)の直交座標変換手段5bは、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI32(t)、Q32(t)を直交変調手段6に出力する。
次に、制御電圧を高速に駆動する場合の過渡応答を考慮した補正方法及び手順について説明する。
第二の係数選択部35は、制御電圧供給時の電力増幅器4のステップ応答特性を、予め測定しておき、例えば、図4中の高出力振幅時のように過渡応答特性が、オーバーシュート状態の場合には、r(t)とr31(t)が、式(7)に示す関係となるように、式(8)で示す係数情報(func2)を第二の振幅情報調整部33に出力する。逆に、図4中の低出力振幅時のように、過渡応答期間中に所定値を超えることなく収束する場合には、r(t)とr31(t)が、式(9)に示す関係となるように、式(10)で示す係数情報(func2)を、第二の振幅情報調整部33に出力する。
r(t)>r31(t) ・・・・(7)
func2<1 ・・・・(8)
r(t)≦r31(t) ・・・・(9)
func2≧1 ・・・・(10)
このようにして、定常特性補償回路11に格納されているAM−AMデータにアクセスする場合のアドレス指定信号を、制御電圧変動時の出力信号の過渡応答特性を考慮した振幅情報r31(t)とすることで、制御電圧を高速に駆動しても所望の電力増幅器4の出力を得ることができる。
ここで、係数情報(func2)をアドレス指定信号に乗算する意味について、電力増幅器4のAM−AM特性を用いて説明する。
図9は、電力増幅器4のAM−AM特性の一例を示すものである。なお、この特性は、電力増幅器4のデバイス構成、構造に依存して変化する。
図9において、横軸は出力振幅最大値を得る定常制御電圧にて正規化した正規化制御電圧を示し、縦軸は電力増幅器4の出力振幅電圧を示し、図9中の点線の特性は定常制御電圧に対する出力振幅特性であり、図9中の実線にて示す特性(A)及び特性(B)は過渡応答特性を考慮した補正を実施した特性である。
AM−AM特性補償の概念としては、電力増幅器4の出力にて変調信号の振幅成分を表現するために、電力増幅器4の制御電圧として与える制御電圧値を決定するものである。よって、図26に示すような変調信号の振幅成分を表現する場合には、前記振幅成分に対して、所定の値を乗算して正規化したのち、図9の縦軸で示す出力振幅電圧軸と基準を合わせる。ここで、基準を合わせるとは、例えば、振幅信号の最大値と電力増幅器4の出力振幅最大値を合わせることを意味する。この基準を合わせた後の信号振幅の所定時間ごとの振幅値をもとに、前記振幅値を得る制御電圧値を求めること、すなわち、前記振幅値を図9の縦軸に垂直に延長し、特性曲線との交点での横軸の制御電圧値を求めることで、補正後の制御電圧が求まる。
特性(A)は、図4中の高出力振幅時のように、過渡応答特性がオーバーシュート状態の場合の補正の概念を示す。すなわち、過渡特性がオーバーシュート特性を示す場合には、定常特性よりも出力振幅を低減する処理を行うため、定常特性曲線よりも傾きが大きい特性曲線にて補正を行うことと等価である。
次に、特性(B)は、図4中の低出力振幅時のように過渡応答期間中に所定値を超えることなく収束する場合の補正の概念を示す。すなわち、過渡応答期間中に所定値を超えることなく収束する場合には、定常特性よりも出力振幅を増幅する処理を行うため、定常特性曲線よりも傾きが小さい特性曲線にて補正を行うことと等価である。
なお、第二の係数選択部35は、第一の係数選択部15と同様に、入力信号(|r(t)|)に対応したテーブルを用意しておき、その入力信号に応じて出力する係数情報(func2)を切り替える構成や、送信周波数、環境温度に対応したテーブルを用意しておき、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いた場合に、図示しない送信装置の制御部より送信される送信周波数情報や、図示しない温度センサーからの温度情報、あるいは、前記温度情報と等価となる、例えば、電力増幅器の消費電流(コレクタ電流など)情報をモニターする回路からの消費電流情報に応じて、出力する係数情報(func2)を切り替える構成を有することが好ましい。
ここで、本発明の第3の実施形態では、送信装置の送信効率が低下することを避けるため、電力増幅器4からの出力信号を分岐することなく、制御電圧の変化に対する電力増幅器4の出力線形化を実現する方法について説明してきたが、送信装置の送信効率が低下することが許容される場合、あるいは、極座標変調回路に電力増幅器4からの出力信号の分岐回路が既に接続されている場合には、送信レベル情報S1、送信周波数、環境温度に対応したテーブル、温度センサーを具備せず、図示しない手段にて、電力増幅器4の出力スペクトラムの隣接チャネル漏洩電力を直接モニターしながら、あるいは前記スペクトラム復調後のベースバンド信号をモニターしながら、もしくは、前記ベースバンド信号と送信データとの誤差が最小となるように、係数情報(func2)を適宜切り替える構成でも、同様な効果を実現可能である。
ここまで、過渡特性補償回路34の効果として、制御電圧印加時のステップ応答特性の改善による制御電圧に対する電力増幅器の出力線形化を、実現する方法について説明してきた。
次に、電力増幅器の対周波数特性、対温度特性などを補償するために、電力増幅器のAM−AM特性の傾きを、簡易に調整する方法について、説明する。
電力増幅器4への入力高周波信号の周波数が異なる場合と、環境温度が変わった場合とには、前記過渡応答特性だけでなく、例えば、電力増幅器のAM−AM特性における傾き自体が変化する可能性がある。
しかし、過渡特性補償回路34を構成する第二の振幅情報調整部33での乗算処理は、AM−AM特性における傾きを調整することと等価になるため、AM−AM特性の傾き調整方法として適用可能であり、対周波数特性の改善効果、対温度特性の改善効果も有する。
すなわち、送信周波数、環境温度に対するAM−AM特性の傾きの変化を表現するように、係数情報(func2)をテーブルとして用意しておき、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いた場合に、図示しない送信装置の制御部より送信される送信周波数情報や、図示しない温度センサーからの温度情報、あるいは、前記温度情報と等価となる、例えば、電力増幅器の消費電流(コレクタ電流など)を、モニターする回路からの消費電流情報に応じて出力する係数情報(func2)を切り替える構成を備えることで、対周波数特性、対温度特性を改善効果可能である。
なお、送信装置の送信効率が低下することが許容される場合、あるいは、極座標変調回路に電力増幅器4からの出力信号の分岐回路が既に接続されている場合には、送信周波数、環境温度に対応したテーブル、温度センサーを具備せず、図示しない手段にて、電力増幅器4の出力スペクトラムの隣接チャネル漏洩電力を直接モニターしながら、あるいは前記スペクトラム復調後のベースバンド信号をモニターしながら、もしくは、前記ベースバンド信号と送信データとの誤差が最小となるように係数情報(func2)を適宜切り替える構成でも、同様な効果を実現可能である。
また、本発明の第3の実施形態の極座標変調回路の他の例として、図10に示す構成を備えてもよい。図10は、本発明の第3の実施形態の極座標変調回路の概略構成の他の例を示す図である。この例の極座標変調回路では、図8(b)から、直交座標変換手段5b、位相情報補正手段17を削除するとともに、直交変調手段6への入力IQ信号をI32(t)、Q32(t)から、図示しない送信装置のベースバンド信号生成部より入力されるIQ信号(I(t)、Q(t))へと変更することで、位相変調信号の位相補正を省略した構成としている。すなわち、本発明の第3の実施形態にて示す発明は、電力増幅器4の制御電圧に関わる部分に対してのみ補償を行うものである。
なお、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いる場合には、図8(a)における振幅情報補正手段12と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5と位相変調手段3との段間、図8(b)における振幅情報補正手段12と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5bと直交変調手段6との段間、図10における振幅情報補正手段12と振幅変調手段2との段間、直交変調手段6の前段には、図示しないDAコンバータを配置する。
以上のように、本発明の第3の実施形態によれば、定常特性補償回路11に格納する定常特性でのAM−AM特性、AM−PM特性を用いた歪補償に関して、振幅補正信号生成時のアドレス指定信号に対して、過渡応答を表現する係数情報(func2)を乗算することで、極座標変調方式において、補償データの増大を抑制しながら、変調信号に関する振幅・位相情報を正確に表現すること、すなわち、電力増幅器の低歪特性を実現することが可能である。
ここまでの本発明の第3の実施形態では、データ送信時の変調信号に関する振幅情報を、正確に表現する効果について説明してきたが、この過渡応答を表現する係数情報(func2)を、起動時間に対して調整することで、バースト動作を行う電力増幅器の起動特性(ランプ制御)を、安定化できることは言うまでもない。したがって、本発明の第3の実施形態の歪補償回路を用いて、電力増幅器のランプ制御回路を構成してもよい。
また、上述したように、本発明の第3の実施形態での、第二の振幅情報調整部33が行う乗算処理と特性曲線の傾きを調整処理とが等価であることから、第二の振幅情報調整部33が行う乗算処理を、あらかじめ定常特性補償回路11に格納するデータに実施しておいても、同様な効果が得られることは言うまでもない。
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態は、従来技術4にて解決できなかった、極座標変調方式において、フィードバック系を用いることなく、信号変化点での位相特性の変化を補償する方法について説明するものである。
図11及び図12は、本発明の第4の実施形態の極座標変調回路の概略構成を示す図である。本発明の第1の実施形態で説明した図1、あるいは図2の極座標変調回路と重複する部分については、同一の符号を付す。
図11及び図12に示すように、本発明の第4の実施形態の歪補償回路40は、図1、あるいは図2の歪補償回路10での第一の振幅情報調整部13、第一の振幅情報調整部13を有する過渡特性補償回路14、第一の係数選択部15の代わりに、それぞれ、第三の振幅情報調整部43と、第三の振幅情報調整部43を有する位相補償回路44と、第三の係数選択部45とを備える。
第三の振幅情報調整部43は、振幅情報補正手段12からの出力信号r11(t)に対して所定の係数情報(func3)を乗算して振幅情報r4(t)を出力する。
第三の係数選択部45は、第三の振幅情報調整部43の係数情報(func3)を設定する。
定常特性補償回路11は、本発明の第1の実施形態と同様のデータ形式にてAM−AM特性、AM−PM特性をメモリに格納し、第三の振幅情報調整部43からの出力信号r4(t)をアドレス指定信号として位相補正信号S42を出力する。なお、振幅補正信号S11の生成方法は本発明の第1の実施形態と同様であり、説明を省略する。
位相情報補正手段17は、定常特性補償回路11から出力された位相補正信号S42に基づいて位相情報θ(t)に対する補正を行い、補正後の位相情報θ4(t)を直交座標変換手段5または5bに出力する。
図11の直交座標変換手段5は、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI41(t)、Q41(t)を位相変調手段3に出力する。
図12の直交座標変換手段5bは、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI42(t)、Q42(t)を直交変調手段6に出力する。
なお、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いる場合には、図11における振幅情報補正手段12と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5と位相変調手段3との段間、図12における振幅情報補正手段12と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5bと直交変調手段6との段間には、図示しないDAコンバータを配置する。
次に、増幅器の制御電圧に対する通過位相特性について説明する。
背景技術にて説明した図27に示されるとおり、電力増幅器4及び振幅変調手段2の特性により、制御信号を増加させていく場合と、減少させていく場合とで、通過位相特性が異なる。したがって、補正誤差を低減するためには、この上り特性、下り特性の両方を考慮して位相補正を行う必要がある。
例えば、変調信号を正確に表現するために、r11(t)のダイナミックレンジが、図27における正規化制御電圧の0.4〜1.0の場合に、上り特性カーブ(実線)に基づいた位相補正を実施すると、制御電圧の最大−最小値間で、約11°の位相補正を行うことになるが、下り特性カーブ(点線)に基づいた、位相補正の場合には、同区間で約8°の補正を行うことになる。したがって、振幅情報r(t)の振幅が、減少方向にある場合に、上り特性カーブを参照した位相補正を行うと、補正誤差を生じることとなる。
この補正誤差を低減する簡易方法の一つとしては、上り特性カーブと下り特性カーブを平均化(必要に応じて重み付けを実施)することが考えられるが、ここでは、上り特性、下り特性の取得が、容易ではないことを考慮して、定常状態にある制御電圧に対する出力振幅、位相特性を用いて、上り及び下り特性に追従した補正を行う方法を説明する。
図13は、制御電圧入力後の定常状態にある制御電圧に対する通過位相特性を示す図である。図13において、横軸は正規化した制御電圧、縦軸は通過位相回転量であり、図中の実線は、電力増幅器4が飽和動作するレベルの入力高周波信号振幅を与えた条件下での、制御電圧振幅に対する通過位相特性を示している。なお、本データは、例えば、ネットワークアナライザを用いて取得できるものである。
ここで、図27に示された上り特性カーブは、制御電圧の変化速度を低速化すると、図13に示された特性に近付く。そこで、本発明の第4の実施形態では、図13に示された定常状態の特性カーブとして、図27にて、実線で示す上り特性カーブを参照して説明する。
以下、本発明の第4の実施形態の歪補償回路40の動作について説明する。
例えば、r11(t)の所要ダイナミックレンジが、先ほどの例と同様に、正規化制御電圧の0.4〜1.0の場合に、正規化制御電圧1.0を基準として、横軸(制御電圧)方向に、ダイナミックレンジを圧縮(例えば圧縮率20%)して位相補正を行うことを考える。
圧縮後のダイナミックレンジは、0.52〜1.0である。制御電圧の最大−最小値間で、8°の位相補正を行うことになり、下り特性カーブに近づけることが可能である。よって、係数情報(func3)を調整することで、上り特性カーブをもとに、平均化相当のカーブを得ること、下り特性カーブ相当のカーブを得ることが可能となる。
本発明の第4の実施形態では、第三の振幅情報調整部43にて、振幅情報補正手段12から出力された出力信号r11(t)に対して上述の圧縮を行い、圧縮後の振幅情報r4(t)を、アドレス指定信号として定常特性補償回路11に出力する。そして、定常特性補償回路11は、位相補正信号S42を出力して、位相補正手段17にて位相情報θ(t)に対する位相補正を実施する構成とした。
なお、図13及び図27の正規化制御電圧の正規化の基準点(1.0)は、設定送信レベルでの最大振幅を出力する制御電圧であり、定常特性補償回路11では、送信レベル情報S1をもとにした制御電圧の正規化を行っている。
係数情報(func3)について、振幅情報r(t)の瞬時振幅値に関わらず一定の場合を説明したが、振幅判定部16から出力される|r(t)|をもとに係数情報(func3)を調整することで、より正確に上り特性カーブから下り特性カーブを表現することが可能であり、第三の係数選択部45には、|r(t)|に応じた係数情報(func3)を格納しておき、|r(t)|に応じて係数情報(func3)を切り替える構成を有することが好ましい。なお、送信レベル情報S1に応じた係数情報(func3)を格納しておき、送信レベル情報に応じて係数情報(func3)を切り替える構成も有効である。
また、振幅情報r(t)の増減(Δr(t))に応じて前記係数情報(func3)を切り替えることで、制御電圧に対する出力位相の上り特性、下り特性をより正確に表現可能であり、第三の係数選択部45にΔr(t)に応じた係数情報(func3)を格納しておき、Δr(t)に応じて係数情報(func3)を切り替える構成を有することがより好ましい。
さらに、電力増幅器4への入力高周波信号の周波数が異なる場合、環境温度が変わった場合にも、通過位相特性が異なる可能性があるため、第三の係数選択部45には、送信周波数、環境温度に対応したテーブルを用意しておき、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いた場合に、図示しない送信装置の制御部より送信される送信周波数情報や、図示しない温度センサーからの温度情報、あるいは、前記温度情報と等価となる、例えば、電力増幅器の消費電流(コレクタ電流など)をモニターする回路からの消費電流情報に応じて出力する係数情報(func3)を、切り替える構成を有することが、さらに好ましい。
ここで、本発明の第4の実施形態では、送信装置の送信効率が低下することを避けるため、電力増幅器4からの出力信号を分岐しない方法について説明してきたが、送信装置の送信効率が低下することが許容される場合、あるいは、極座標変調回路に電力増幅器4からの出力信号の分岐回路が既に接続されている場合には、送信周波数、環境温度に対応したテーブル、温度センサーを具備せず、図示しない手段にて、電力増幅器4の出力スペクトラムの隣接チャネル漏洩電力を直接モニターしながら、あるいは前記スペクトラムを復調後のベースバンド信号をモニターしながら、もしくは、前記ベースバンド信号と送信データとの誤差が最小となるように係数情報(func3)を適宜切り替える構成でも、同様な効果を実現可能である。
以上のように、本発明の第4の実施形態における歪補償回路は、定常特性補償回路11に格納する定常特性でのAM−AM特性、AM−PM特性を用いた歪補償に関して、位相補正信号生成時のアドレス指定信号に対して上り/下りの制御信号に対するAM−PM特性の差異を表現する係数情報(func3)を乗算することで、極座標変調方式において、補償データの増大を抑制しながら、変調信号の信号変化点で位相変化が生じても位相情報を正確に表現すること、すなわち、電力増幅器の低歪特性を実現することが可能である。
ここで、従来技術4における課題であった遅延手段とフィードバック系に関して、本発明の第4の実施形態では、前者が不要となること、後者が必須ではないことから、信号変化点でのAM−PM特性を補償するのにあたり、従来技術4よりも回路規模を低減することが可能である。
また、上り/下りの制御信号に対するAM−PM特性の差異を表現する係数情報(func3)を用いた本発明の第4の実施形態の歪補償を、本発明の第1の実施形態の図1及び図2、本発明の第2の実施形態の図6及び図7、本発明の第3の実施形態の図8(a)及び図8(b)に適用することで、さらなる電力増幅器の低歪特性を実現可能である。
なお、本発明の第4の実施形態では、定常特性補償回路11への格納データの元となるデータの取得方法としてネットワークアナライザを用いた場合を記載しているが、他の測定手段にて電力増幅器4の特性を取得してもよいことは言うまでもない。
さらに、本発明の第4の実施形態においては、AM−PM特性の調整方法について説明してきたが、AM−PM特性を調整することと、振幅信号−位相信号間の同期を調整することとが、同様な作用を有することから、係数情報(func3)を切り替えることで、振幅信号−位相信号間の同期調整にも適用することが可能である。ここで、AM−PM特性の調整方法の説明時には、制御電圧に対する所要ダイナミックレンジを圧縮する例を用いたが、同期調整にあたっては、圧縮するだけでなく、伸張する場合も存在することは言うまでもない。
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態は、従来技術4にて解決できなかった極座標変調方式において、フィードバック系を用いることなく、信号変化点での位相特性の変化を補償する方法に関して、本発明の第4の実施形態と異なる方法を説明するものである。
図14及び図15は、本発明の第5の実施形態の極座標変調回路の概略構成を示す図である。本発明の第3の実施形態で説明した図8(a)、図8(b)に重複する部分については、同一の符号を付す。
図14及び図15に示すように、本発明の第5の実施形態の歪補償回路50は、図8(a)、図8(b)における歪補償回路30での定常特性補償回路11、第二の振幅情報調整部33、第二の振幅情報調整部33を有する過渡特性補償回路34、第二の係数選択部35の代わりに、それぞれ、定常特性補償回路11bと、第四の振幅情報調整部53と、第四の振幅情報調整部53とを有する過渡特性・位相補償回路54と、第四の係数選択部55とを備える。
第四の振幅情報調整部53は、振幅情報r(t)に対して所定の独立した2つの係数情報(func2)、係数情報(func4)を乗算して、振幅情報r31(t)及び振幅情報r51(t)を出力する。
第四の係数選択部55は、第四の振幅情報調整部53の2つの独立した係数情報(func2)及び係数情報(func4)を設定する。
定常特性補償回路11bは、ネットワークアナライザ等を用いて取得できる、所定レベル(一定値)の無変調1キャリアを高周波入力信号として、電力増幅器4に入力した場合の、電力増幅器4の制御電圧(定常状態)に対する基本波成分の出力信号振幅特性と通過位相特性とから、AM−AM特性として、本発明の第1の実施形態の定常特性補償回路11と同様に、出力信号振幅に対する制御電圧の絶対値形式のデータ、または、入力制御信号振幅に所定値を乗算後、あるいは除算後、前記絶対値となるように、前記入力制御信号にて正規化した前記所定値(差分値形式のデータ)を格納する。
また、制御電圧に対する前記出力信号振幅特性と通過位相特性とから、AM−PM特性として、本発明の第1の実施形態の定常特性補償回路11における前記制御電圧に対する通過位相特性データという形式と異なる形式にて、すなわち、前記出力信号振幅に対する通過位相特性データの形式にて格納する。これは、図13における横軸を出力信号振幅に置き換えたものに等しい。
次に、定常特性補償回路11bにおける入出力信号の関係は、第四の振幅情報調整部53より出力される振幅情報r31(t)及びr51(t)をアドレス指定信号として、振幅補正信号S31、位相補正信号S52をそれぞれ出力する。さらに、定常特性補償回路11bでは、送信レベル情報S1をもとにしたAM−AM特性、AM−PM特性の正規化処理を行っている。
具体的には、所望出力レベル(平均電力)に対して、変調方式に応じた振幅情報の最大値−平均値(ピークファクタ)を考慮した最大送信電力をもとに、格納AM−AMデータ、AM−PMデータにおける出力信号振幅の正規化を実施することで、所望出力レベルごとに補正を行うものである。この正規化によって、振幅情報r31(t)、r51(t)をアドレス指定信号としたAM−AMデータ、AM−PMデータへのアクセスが可能となる。
位相情報補正手段17は、定常特性補償回路11bから出力された位相補償信号S52に基づいて位相情報θ(t)に対する補正を行い、補正後の位相情報θ5(t)を直交座標変換手段5または5bに出力する。
図14の直交座標変換手段5は、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI51(t)、Q51(t)を位相変調手段3に出力する。
図15の直交座標変換手段5bは、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI52(t)、Q52(t)を直交変調手段6に出力する。
なお、図14における振幅情報補正手段12と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5と位相変調手段3との段間、図15における振幅情報補正手段12と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5bと直交変調手段6との段間には、図示しないDAコンバータを配置する。
このように、本発明の第5の実施形態では、本発明の第3の実施形態と比べ、位相補正信号生成時のアドレス指定信号の与え方、及び、この変更に起因して定常特性補償回路に格納するAM−PM特性のデータ形式が異なる。ここでは、本発明の第3の実施形態と異なる部分のみ説明し、共通する部分は説明を省略する。
本発明の第5の実施形態では、本発明の第4の実施形態にて説明したように、電力増幅器4及び振幅変調手段2の特性により、制御信号を増加させていく場合と、減少させていく場合とで、通過位相特性が異なることに対応して、上り特性、下り特性の両方を考慮して位相補正を行う方法のうち、本発明の第4の実施形態と異なる方法を説明する。
本発明の第5の実施形態にて、出力信号振幅に対応する振幅信号r(t)を求め、前記r(t)に所定の定数(func4)を乗算して、振幅信号のダイナミックレンジを圧縮することは、アドレス指定信号のダイナミックレンジを圧縮する本発明の第4の実施形態での効果と同様な効果を発揮する。
また、従来技術4における課題であった遅延手段とフィードバック系に関して、本発明の第5の実施形態では、前者が不要となること、後者が必須ではないことから、信号変化点でのAM−PM特性を補償するのにあたり、従来技術4よりも回路規模を低減することが可能である。
次に、本発明の第5の実施形態における圧縮方法を具体的に説明する。
本発明の第4の実施形態では、正規化制御電圧における所要ダイナミックレンジのうち、最大値を基準として最大値方向への圧縮を行ったが、本発明の第5の実施形態では、前記正規化制御電圧を出力信号振幅に対応させた振幅信号r(t)に置き換えたものになる。すなわち、振幅信号r(t)の所要ダイナミックレンジのうち、最大値を基準として最大値方向に圧縮するよう、式(11)にて示す係数情報(func4)を振幅信号r(t)に乗算する。
func4<1 ・・・・(11)
以上のように、本発明の第5の実施形態によれば、定常特性補償回路11bに格納する定常特性でのAM−AM特性、AM−PM特性を用いた歪補償に関して、振幅補正信号、位相補正信号生成時のアドレス指定信号に対して、過渡応答及び信号変化点特性を表現する係数情報(func2)、係数情報(func4)を乗算することで、極座標変調方式において、補償データの増大を抑制しながら、変調信号に関する振幅・位相情報を、正確に表現すること、すなわち、電力増幅器の低歪特性を実現することが可能である。
また、本発明の第5の実施形態では、データ送信時の変調信号に関する振幅情報を正確に表現する効果について説明してきたが、この過渡応答を表現する係数情報(func2)を起動時間に対して調整することで、バースト動作を行う電力増幅器の起動特性(ランプ制御)を安定化できることは言うまでもない。したがって、本発明の第5の実施形態の歪補償回路を用いて、電力増幅器のランプ制御回路を構成してもよい。
さらに、本発明の第5の実施形態での、第四の振幅情報調整部53が行う乗算処理を、あらかじめ定常特性補償回路11bに格納するデータに実施しておいても同様な効果が得られることは言うまでもない。
なお、本発明の第5の実施形態においては、AM−PM特性の調整方法について説明してきたが、AM−PM特性を調整することと振幅信号−位相信号間の同期を調整することが同様な作用を有することから、係数情報(func4)を切り替えることで、振幅信号−位相信号間の同期調整にも適用することが可能である。ここで、AM−PM特性の調整方法の説明時には、制御電圧に対する所要ダイナミックレンジを圧縮する例を用いたが、同期調整にあたっては、圧縮するだけでなく、伸張する場合も存在することは言うまでもない。
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態は、本発明の第1の実施形態における極座標変調回路と、本発明の第5の実施形態における極座標変調回路を組み合わせて構成することが可能であることを示すものである。
図16及び図17は、本発明の第6の実施形態の極座標変調回路の概略構成を示す図である。本発明の第1及び第5の実施形態で説明した図1、図2、図14、図15と重複する部分については、同一の符号を付す。
図16及び図17に示すように、本発明の第6の実施形態の歪補償回路60は、図14、図15の回路構成に、図1、図2に示した第一の振幅情報調整部13と、振幅情報調整部13を有する過渡特性補償回路14と、第一の係数選択部15とをさらに備える。
第一の振幅情報調整部13は、振幅情報補正手段12からの出力信号r32(t)に所定の係数情報(func1b)を乗算して、振幅情報r61(t)を振幅変調手段2に出力する。係数情報(func1b)の設定にあたっては、本発明の第1の実施形態での係数情報(func1)と同様な考え方であり、ここでは省略する。
歪補償回路60では、電力増幅器4のAM−AM特性の過渡応答補正パラメータを第一の振幅情報調整部と、第四の振幅情報調整部とに分散することで、本発明の第1及び第5の実施形態よりも補正誤差を低減することができる。
また、本発明の第6の実施形態の極座標変調回路の他の例として、図18に示す構成を備えてもよい。図18は、本発明の第6の実施形態の極座標変調回路の概略構成の他の例を示す図である。この例の極座標変調回路では、図17から、直交座標変換手段5b、位相情報補正手段17を削除するとともに、直交変調手段6への入力IQ信号をI52(t)、Q52(t)から、図示しない送信装置のベースバンド信号生成部より入力されるIQ信号(I(t)、Q(t))へと変更することで、位相変調信号の位相補正を省略した構成としている。
なお、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いる場合には、図16における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5と位相変調手段3との段間、図17における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5bと直交変調手段6との段間、図18における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交変調手段6の前段には、図示しないDAコンバータを配置する。
(第7の実施形態)
本発明の第7の実施形態は、電力増幅器4からの出力電力レベルを設定する方法に関して、本発明の第1から第6の実施形態と異なる方法について説明するものである。
図19及び図20は、本発明の第7の実施形態の極座標変調回路の概略構成を示す図である。本発明の第6の実施形態で説明した図16、図17と重複する部分については、同一の符号を付す。
図19及び図20に示すように、本発明の第7の実施形態の歪補償回路70は、図16、17での定常特性補償回路11bの代わりに定常特性補償回路11cを備え、また、乗算回路71を新たに備える。
乗算回路71は、送信レベル情報S1に対して、送信レベル情報S1の基準値S0を除算したレベル制御係数(S1/S0)を求める。また、前記レベル制御係数を、極座標変換手段1からの出力振幅情報r(t)に乗算することで、送信レベル情報を重畳した振幅情報r71(t)を出力する。
第四の振幅情報調整部53は、振幅情報r71(t)に対して所定の独立した2つの係数情報(func5)、係数情報(func6)を乗算して、振幅情報r72(t)及び振幅情報r73(t)を出力する。ここで、係数情報(func5)、係数情報(func6)はそれぞれ係数情報(func2)、係数情報(func4)の設定方法と同様であり説明を省略する。
定常特性補償回路11cは、例えば、送信レベル情報の基準値S0に対して、変調方式ごとのピークファクタ(例えば8−PSK変調時には3.2[dB])を考慮した最大送信電力S0b(S0がdB単位であれば、S0b=S0+3.2[dB])に対応するAM−AM特性、AM−PM特性を格納データのアドレス指定信号の基準とする。なお、本発明の第5の実施形態の定常特性補償回路11bと同様のデータ形式、すなわち、AM−AM特性として、出力信号振幅に対する制御電圧の絶対値形式のデータ、または、入力制御信号振幅に所定値を乗算後、あるいは除算後、前記絶対値となるように、前記入力制御信号にて正規化した前記所定値(差分値形式のデータ)をメモリに格納するとともに、AM−PM特性として、前記出力信号振幅に対する通過位相特性データの形式にてメモリに格納する。また、定常特性補償回路11cにおける入出力信号の関係は、第四の振幅情報調整部53より出力されるr72(t)、及びr73(t)をアドレス指定信号として、振幅補正信号S71、位相補正信号S72をそれぞれ出力する。
振幅情報補正手段12は、定常特性補償回路11cから出力された振幅補正信号S71に基づいて、乗算回路71から出力された振幅情報r71(t)に対する補正を行い、振幅情報r74(t)を出力する。
第一の振幅情報調整部13は、振幅情報補正手段12から出力された振幅情報r74(t)に対して、所定の係数情報(func1c)を乗算して、振幅情報r75(t)を出力する。係数情報(func1c)の設定にあたっては、本発明の第1の実施形態での係数情報(func1)と同様な考え方であり、ここでは省略する。
振幅判定部16は、一定間隔にてサンプリングした振幅情報r71(t)の瞬時振幅値(|r71(t)|)を計算する機能と、複数の瞬時振幅値に基づいて所定のしきい値を設けて前サンプル時点からの振幅情報r71(t)の振幅値の増減(Δr71(t))を求める機能とを有する。
位相情報補正手段17は、定常特性補償回路11から出力された位相補償信号S72に基づいて位相情報θ(t)に対する補正を行い、補正後の位相情報θ6(t)を直交座標変換手段5または5bに出力する。
図19の直交座標変換手段5は、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI71(t)、Q71(t)を位相変調手段3に出力する。
図20の直交座標変換手段5bは、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI72(t)、Q72(t)を直交変調手段6に出力する。
以上のように、本発明の第7の実施形態は、電力増幅器4の出力レベルの設定方法、特に、本発明の第1から6の実施形態での出力レベルの設定方法とは異なる方法を説明している。具体的には、本発明の第1から第4の実施形態、及び本発明の第5、第6の実施形態では、それぞれ定常特性補償回路11、11bにて、送信レベル情報S1に応じた所望出力レベル(平均電力)から、変調方式ごとの振幅情報の最大値−平均値(ピークファクタ)を考慮した最大送信電力を求め、前記最大送信電力を基準として格納データの正規化を実施することで、所望出力レベルごとに補正を行っている。それに対し、本発明の第7の実施形態では、定常特性補償回路11cに格納するデータ自体を、電力制御を考慮した構成として、レベル制御係数を用いた送信レベル情報を重畳した振幅情報(r72(t)、r73(t))をアドレス指定信号に用いることで所望の出力レベルでの歪補償を行う点が異なるものである。
また、本発明の第7の実施形態の極座標変調回路の他の例として、図21に示す構成を備えてもよい。図21は、本発明の第7の実施形態の極座標変調回路の概略構成の他の例を示す図である。この例の極座標変調回路では、図20から、直交座標変換手段5b、位相情報補正手段17を削除するとともに、直交変調手段6への入力IQ信号をI72(t)、Q72(t)から、図示しない送信装置のベースバンド信号生成部より入力されるIQ信号(I(t)、Q(t))へと変更することで、位相変調信号の位相補正を省略した構成としている。
なお、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いる場合には、図19における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5と位相変調手段3との段間、図20における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交座標変換手段5bと直交変調手段6との段間、図21における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、直交変調手段6の前段には、図示しないDAコンバータを配置する。
(第8の実施形態)
本発明の第8の実施形態は、従来技術5にて示した、電力増幅器における、低出力時の出力線形化技術において課題であった、制御精度を向上する方法について説明するものである。
図22及び図23は、本発明の第8の実施形態の極座標変調回路の概略構成を示す図である。本発明の第7の実施形態で説明した図19、図20と重複する部分については、同一の符号を付す。
図22及び図23に示すように、本発明の第8の実施形態の歪補償回路80は、図19、図20での定常特性補償回路11cの代わりに、定常特性補償回路11dを備え、また、振幅調整部81、第五の係数選択部82を新たに備える。
本発明の第8の実施形態では、電力増幅器4の出力信号振幅を低減するのに伴って、簡易に入力信号振幅を低減する方法を説明する。
振幅調整部81は、直交座標変換手段5あるいは5bからの出力IQ信号の振幅に所定の係数情報(func10)を乗算し、振幅を調整したIQ信号を出力する。
第五の係数選択部82は、振幅調整部81の係数情報(func10)を設定するとともに、前記係数情報を定常特性補償回路11dに送信する。
直交変調手段6は、振幅調整部81から出力されたIQ信号をもとに直交変調を行う。
送信レベル情報S1は、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いた場合に、図示しない送信装置の制御部より、送信される電力増幅器4の送信レベル情報であり、乗算回路71及び第一、第四、第五の係数選択部15、55、82に入力される。
定常特性補償回路11dは、複数の入力高周波信号振幅にて取得したAM−AM特性、AM−PM特性をもとに作成する補償データを、本発明の第5の実施形態の定常特性補償回路11bと同様のデータ形式、すなわち、AM−AM特性として、出力信号振幅に対する制御電圧の絶対値形式のデータ、または、入力制御信号振幅に所定値を乗算後、あるいは除算後、前記絶対値となるように、前記入力制御信号にて正規化した前記所定値(差分値形式のデータ)をメモリに格納するとともに、AM−PM特性として、前記出力信号振幅に対する通過位相特性データの形式にてメモリに格納する。
また、第五の係数選択部82からの係数情報(func10)をもとに、送信動作時の電力増幅器4への入力高周波信号振幅を判定し、複数の入力高周波信号振幅にて取得したAM−AM特性、AM−PM特性のうち、適切な振幅値で取得したデータを選択して、補償を行う。定常特性補償回路11dにおける入出力信号の関係は、第四の振幅情報調整部53より出力されるr81(t)、及びr82(t)をアドレス指定信号として、振幅補正信号S81、位相補正信号S82をそれぞれ出力する。
直交変調手段6への入力IQ信号振幅を制御することで、直交変調手段6からの出力電力、すなわち、電力増幅器4への入力電力が制御可能である。よって、第五の係数選択部82は、電力増幅器4からの出力電力を低出力とする場合には、電力制御を行うパラメータである送信レベル情報S1に基づいて、高出力時の係数情報(func10(h))より小さな係数情報(func10(l))を振幅調整部81に送信する。振幅調整部81では、直交座標変換手段5、または直交座標変換手段5bからの出力信号に前記係数情報を乗算し、直交変調手段6に送信する。
ここで、係数情報(func10)の切り替えと同時に、定常特性補償回路11dは、データ取得時の電力増幅器4への入力高周波信号振幅が同一であるデータ群のうち一つのデータ群を選択する。
また、本発明の第8の実施形態の極座標変調回路の他の例として、図24に示す構成を備えてもよい。図24は、本発明の第8の実施形態の極座標変調回路の概略構成の他の例を示す図である。この例の極座標変調回路では、図23から、直交座標変換手段5b、位相情報補正手段17を削除するとともに、直交変調手段6への入力IQ信号をI84(t)、Q84(t)から、図示しない送信装置のベースバンド信号生成部より入力されるIQ信号(I(t)、Q(t))に振幅調整部81にて所定の係数情報(func10)を乗算したI85(t)、Q85(t)へと変更することで、位相変調信号の位相補正を省略した構成としている。
なお、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いる場合には、図22における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、振幅調整部81と直交変調手段6との段間、図23における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、振幅調整部81と直交変調手段6との段間、図24における第一の振幅情報調整部13と振幅変調手段2との段間、振幅調整部81と直交変調手段6の段間には、図示しないDAコンバータを配置する。
以上のように、本発明の第8の実施形態では、ベースバンド帯の信号振幅に所定の係数情報(func10)を乗算し、前記係数情報を切り替える構成により、電力増幅器4の出力信号振幅を低減するのに伴って、電力増幅器4への入力信号振幅を低減することができる。また、前記切り替えと同時に、参照する補償データを切り替える。本構成によれば、電力制御時にパラメータを切り替えるタイミングは、同期したタイミングでよく、制御が簡易になる。また、デジタル信号処理部での演算処理であり、従来技術5での課題であった、高周波帯回路による振幅制御手段を有さないため、高精度な制御が可能である。
ここで、本発明の第8の実施形態では、送信装置の送信効率が低下することを避けるため、電力増幅器4からの出力信号を分岐しない方法について説明してきたが、送信装置の送信効率が低下することが許容される場合、あるいは、極座標変調回路に電力増幅器4からの出力信号の分岐回路が既に接続されている場合であるとともに、定常特性補償回路11dに格納している電力増幅器4の補償用データ取得時と送信動作時で、電力増幅器4への入力高周波信号振幅が誤差を生じる場合には、図示しない手段にて、電力増幅器4の出力スペクトラムの隣接チャネル漏洩電力を直接モニターしながら、あるいは前記スペクトラムを復調後のベースバンド信号をモニターしながら、もしくは、前記ベースバンド信号と送信データとの誤差が最小となるように係数情報(func10)を微調整することで、補償精度を向上できる。
(第9の実施形態)
本発明の第9の実施形態は、送信装置から出力される雑音を低減する方法について説明するものである。
図25は、本発明の第9の実施形態の極座標変調回路の概略構成を示す図である。図25に示すように、本発明の第9の実施形態の極座標変調回路は、本発明の第8の実施形態での図22から、第一の振幅情報調整部13と、第一の振幅情報調整部13を有する過渡特性補償回路14と、第一の係数選択部15を削除し、図22の第四の振幅情報調整部53、第四の係数選択部55の代わりに、第五の振幅情報調整部53b、第六の係数選択部55bをそれぞれ有するとともに、低域通過フィルタ91、帯域選択部92を新たに備えた歪補償回路90を有する。本発明の第8の実施形態で説明した内容と重複する部分については、説明を省略する。
第五の振幅情報調整部53bは、振幅情報r71(t)に対して所定の独立した2つの係数情報(func5)、係数情報(func6b)を乗算して、振幅情報r81(t)及び振幅情報r91(t)を出力する。ここで、係数情報(func5)の設定方法は、本発明の第7の実施形態にて説明しており、説明を省略する。また、係数情報(func6b)の設定方法は後述する。
第六の係数選択部55bは、第五の振幅情報調整部53bの2つの独立した係数情報(func5)及び係数情報(func6b)を設定する。
定常特性補償回路11dにおける入出力信号の関係は、第五の振幅情報調整部53bより出力されるr81(t)、及びr91(t)をアドレス指定信号として、振幅補正信号S81、位相補正信号S82bをそれぞれ出力する。
位相情報補正手段17は、定常特性補償回路11bから出力された位相補償信号S82bに基づいて位相情報θ(t)に対する補正を行い、補正後の位相情報θ7b(t)を直交座標変換手段5に出力する。
直交座標変換手段5は、本発明の第1の実施形態と同様の動作にてI81b(t)、Q81b(t)を生成し、振幅調整部81に出力する。
振幅調整部81は、本発明の第8の実施形態と同様の動作にて、IQ信号(I82b(t)、Q82b(t))を生成し、低域通過フィルタ91に出力する。
低域通過フィルタ91は、カットオフ周波数(以下fcと略す)が可変の低域通過フィルタであり、帯域選択部92からの制御信号に応じてfcを可変するとともに、IQ信号(I82b(t)、Q82b(t))から減衰帯域の周波数成分を除いたIQ信号を直交変調手段6に出力する。
帯域選択部92は、送信レベル情報S1に基づいて、低域通過フィルタ91のfcを可変するための制御信号を、低域通過フィルタ91に送信する。
なお、本発明の極座標変調回路を送信装置に用いる場合には、図25における振幅情報補正手段12と振幅変調手段2との段間、低域通過フィルタ91と直交変調手段6との段間には、図示しないDAコンバータを配置する。
以上のように構成された歪補償回路90について、以下、その動作を説明する。
動作の説明に先立ち、直交変調手段6への入力IQ信号の振幅を低減する場合に起こり得る課題を説明する。
例えば、GSMシステムにおける移動局のアップリンク送信に対して、移動局ダウンリンク受信帯域への不要信号の放射電力レベルに関する絶対値規定が存在する。本規定は、移動局送信部の設計において、一般的に、受信帯域雑音規定として注意する項目である。
直交変調方式を採用する送信装置においては、特開2003−152563に示すように、直交変調手段6の前段に低域通過フィルタを配置して、DAコンバータまでで直交IQ信号に重畳された雑音のうち、高域の雑音を除去することで、受信帯域雑音を低減することが可能である。しかしながら、極座標変調方式を採用する送信装置においては、直交IQ信号を振幅信号、位相信号に分離している関係で、通常のベースバンドIQ信号に比べ所要帯域幅が4倍以上となり、受信帯域雑音を低減するために設定する低域通過フィルタ91のfcは、直交変調方式を採用する送信装置よりも高くなる。
また、直交変調手段6では、受信帯域雑音規定、隣接チャネル漏洩電力規定、変調精度を満足するよう、入力するベースバンドIQ信号の振幅を最適化する必要がある。具体的には、デジタルフィルタにて除去した雑音に対して雑音を付加する要因を低減できること、DAコンバータにおける量子化雑音の影響を低減できることから、直交変調手段6に入力するベースバンドIQ信号振幅は大きいほどよい。一方、隣接チャネル漏洩電力、変調精度を改善するには、ベースバンドIQ信号振幅は低い方が好ましい。よって、隣接チャネル漏洩電力規定を満足する範囲内で、最大レベルのベースバンドIQ信号の振幅値に設定する。
ここで、最大電力での送信時に最適化を実施している場合、低出力電力での送信時に直交変調手段6へのベースバンドIQ信号の振幅を低減すると、前記最適点から外れた動作点にて使用することなり、デジタルフィルタにて除去した雑音に対して雑音を付加する要因が増加すること、DAコンバータにおける量子化雑音が増加することから、所望信号の出力レベルは低減しているにも関わらず、受信帯域雑音レベルが増大する可能性がある。仮に、受信帯域雑音規定に対してマージンの少ない移動局送信部においては、アップリンクの送信電力制御を行う場合に、受信帯域雑音規定を満足できないことになる。
そこで、本発明の第9の実施形態の歪補償回路90においては、最大出力電力での送信時に比べ、低出力電力での送信時には低域通過フィルタ91のfcを低減し、低出力電力時にベースバンドIQ信号の振幅を低減する場合の前記デメリットを克服する構成とした。具体的には、帯域選択部92は、最大送信レベル時のS1(max)と送信レベル情報S1を比較し、S1(max)とS1との差が所定の閾値未満の場合にはfc(1)なる制御信号を低域通過フィルタ91に送信して、低域通過フィルタのfcをfc(1)に設定する。一方、S1(max)とS1との差が所定の閾値以上の場合にはfc(1)より小さいfc(2)なる制御信号を低域通過フィルタ91に送信して、低域通過フィルタのfcをfc(2)に設定する。
しかしながら、位相信号経路に配置するフィルタのfcが変わると、振幅信号、位相信号間の同期がずれることになり、変調精度、隣接チャネル漏洩電力とも劣化する。そこで、本発明の第9の実施形態においては、本発明の第5の実施形態にて説明したAM−PM特性の調整方法を、同期調整方法として用いる構成を更に備える。
次に、係数情報(func6b)の設定方法を含め、前記同期調整方法を具体的に説明する。
帯域選択部92が低域通過フィルタ91のfcを切り替えるのと同一の閾値を設定しておき、第六の係数選択部55bは、最大送信レベル時のS1(max)と送信レベル情報S1を比較し、S1(max)とS1との差が所定の閾値未満の場合には、係数情報(func6b(1))を第五の振幅情報調整部53bに送信する。
一方、S1(max)とS1との差が所定の閾値以上の場合には、係数情報(func6b(1))と異なる係数情報(func6b(2))を、第五の振幅情報調整部53bに送信する。
このように第五の振幅情報調整部53bにて、AM−PM特性へのアドレス指定信号へ乗算する係数情報を切り替えることで、位相情報を調整することができ、結果として、振幅信号、位相信号間の同期調整を行うことになる。
なお、本発明の第9の実施形態においては、振幅調整部81はデジタル乗算回路、低域通過フィルタ91はデジタルフィルタとしたが、振幅調整部81が、例えば、DAコンバータの出力DC値を調整する構成であっても、アナログ回路にて実現する可変減衰器であっても、低域通過フィルタ91がアナログフィルタであっても、同様な効果を有することは言うまでもない。
最後に、本発明の9つの実施形態を相互に組み合わせることで、より高精度な補償が可能となることは言うまでもない。
なお、上記実施の形態に記載の極座標変調回路は、例えばシリコン半導体基板上に形成することで、集積回路として構成することができる。
また、上記実施の形態に記載した極座標変調回路は、任意のIQ信号を生成するベースバンド信号生成部からのIQ信号を極座標変換手段1に入力し、電力増幅器4の出力をアンテナに接続することで、送信装置として、構成することも可能である。