JP4763651B2 - 含浸用原紙 - Google Patents

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Description

本発明は含浸用原紙に関し、特に薬剤等の含浸性、及びカット適性に優れ、防虫剤等の担体に主に使用される含浸用原紙に関する。
例えば特許文献1に示される衣類用防虫剤の担体などには、液体防虫薬剤等の薬剤を所定量吸収させるために、吸液性の高い非木材パルプであるコットンリンターパルプを使用した含浸用原紙が使用されている。このような含浸用原紙は、薬剤を含浸させた後に所定の大きさにカットされるが、コットンリンターパルプが使用されているため、断裁部分からヒゲ状の毛羽立ちが多く、カット適性が悪いという問題があった。また、このような毛羽立ちした含浸用原紙は見た目も低下するため、品質の悪い下級品であるかのように見えてしまうという問題もあった。
また、このような防虫剤等の担体に用いられる含浸用原紙は、薬剤等の吸液性、すなわち薬剤等の含浸性を持たせるため低密度にする必要がある。しかしながら、コットンリンターパルプを使用し、さらに密度を低くした含浸用原紙は、断裁面に毛羽がより立ちやすく、また紙粉も発生しやすいため、見栄えがさらに低下するだけでなく、作業性も低下してしまうという問題があった。すなわち、薬剤の含浸性とカット適性は相反する性能であるため、両者を満足することは困難であった。
また、例えば特許文献2〜7等に示されるように、コットンリンターパルプを使用しない原料パルプ中に熱発泡性粒子を含有させて、加熱して熱発泡性粒子を発泡させることにより、低密度にした紙が提案されている。しかしながら、このような低密度紙の熱発泡粒子の発泡によって低密度化された部分は、パルプ繊維と熱発泡性粒子との間に十分な空隙が得られないため、薬剤を吸収する能力が極めて低く、上述したような衣類用防虫剤の担体に用いることが難しかった。
特開平7−203822号公報 特開2002−20996号公報 特開平8−92898号公報 特開平7−243196号公報 特開平5−339898号公報 特開2003−105693号公報 特開平8−226097号公報
本発明は、上述したような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、木材パルプを主原料とし、薬剤の含浸性及びカット適性に優れる含浸用原紙を提供することにある。
本発明の上記目的は、少なくとも2層以上の複数層からなる含浸用原紙であって、全原料パルプ中に針葉樹クラフトパルプを80〜100質量%配合し、前記原料パルプは、JIS P−8220に準拠して離解したパルプ繊維の濾水度(JIS−P8121に準拠)を600〜760mlに調整し、前記全原料パルプ中に熱発泡性粒子をパルプ固形分に対して固形分換算で2〜20質量%含有し、紙厚を700〜1400μmとし、坪量を300g/m 以上とすることを特徴とする含浸用原紙を提供することによって達成される。
さらにまた、本発明の上記目的は、JAPAN TAPPI No.32−2に記載の「紙―吸収性試験方法−第2部:滴下法」に準拠し、JAPAN TAPPI No.41に記載のキットナンバー6の試験液を用いて測定した吸液度が、1〜16秒であることを特徴とする含浸用原紙を提供することによって、より効果的に達成される。
本発明に係る含浸用原紙によれば、木材パルプである針葉樹クラフトパルプを主原料とするとともに、原料パルプ中に熱発泡性粒子を含有させることにより、薬剤等の含浸性が高く、また優れたカット適性を有するようになる。
以下、本発明に係る含浸用原紙について、表層、中間層、及び裏層の3層の紙層から成る場合を例に、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明に係る含浸用原紙は、以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲内において、その構成を適宜変更できることはいうまでもない。
本発明に係る含浸用原紙は、表層、中間層、及び裏層の3層の紙層により構成されており、全原料パルプ中に針葉樹クラフトパルプを80〜100質量%配合し、この全原料パルプ中に熱発泡性粒子をパルプ固形分に対して固形分換算で2〜20質量%含有した原料パルプスラリーを用い、紙厚が700〜1400μmとなるように構成されている。これにより、非木材パルプであるコットンリンターパルプを配合しなくても、カット適性が低下することなく、コットンリンターパルプを多量に配合した紙と同等以上の薬剤の含浸性を得ることができる。また、本発明に係る含浸用原紙をこのように構成することにより、熱発泡性粒子の外殻にある合成樹脂エマルジョンがパルプ繊維間の結合を強くするので、含浸用原紙のカット適性の低下をより抑制することができる。
原料パルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、または離解・脱墨・漂白古紙パルプ、あるいは、ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを使用することができる。
しかしながら、本発明に係る含浸用原紙に用いられる原料パルプは、繊維長が長く、剛直なパルプ繊維である針葉樹クラフトパルプ(NKP)を80質量%以上、好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上含有されたものである。なお、この針葉樹クラフトパルプは、バージンパルプであっても、古紙由来の針葉樹クラフトパルプであっても良い。
これにより原料パルプ中に含有させた熱発泡性粒子が加熱により膨張し、パルプ繊維間、及び熱発泡性粒子とパルプ繊維との間に空隙が形成され、この空隙が優れた薬剤吸液性を発揮するため、本願の所定の品質(薬剤の含浸性)を得ることができる。また、木材パルプを主原料とするため、コットンリンターパルプを使用した含浸用原紙に比べ、カット適性に優れるため作業性が良好である共に、安価に製造することができる。
なお、例えば繊維長が短く、柔軟な広葉樹パルプなどが多量に含有された原料パルプを使用し、この原料パルプ中に熱発泡性粒子を含有させ、所定の密度になるように調整したとしても、パルプ繊維間や、熱発泡性粒子とパルプ繊維との間に十分な空隙が得られないため、所定の薬剤等の吸液性(薬剤の含浸性)が得られない。
また、針葉樹クラフトパルプの配合率が80質量%未満では、熱発泡性粒子が発泡した状態であっても、紙中に充分な空隙を確保することができないため、所定の吸液性を確保することが難しくなる。
さらに、本発明に係る含浸用原紙に用いられる原料パルプは、JIS P 8220に準拠して離解したパルプ繊維の、JIS P 8121に準拠して測定したカナダ標準濾水度(CSF)が600〜760ml、好ましくは650〜760ml、最も好ましくは680〜750mlとなるように調整する。これにより、防虫剤などの薬剤をグラビア印刷機などで所定時間内に所定量含浸させることができ、かつ、その後の加工工程におけるカット適性を付与することができる。すなわち、相反する性質である薬剤の含浸性及びカット適性のバランスをより良好なものとすることができる。なお、濾水度(CSF)が600ml未満では、原料パルプ中に熱発泡性粒子を含有させても、含浸用原紙中に充分な空隙を形成することができず、所定の吸液性(薬剤の含浸性)を確保することができない。一方、濾水度(CSF)が760mlを超えると、含浸用原紙中に空隙を設けるという点では優れるものの、パルプ繊維同士の絡み合いが弱くなるため、カット適性が悪化し、またカット後の層間剥離の問題を生じやすい。
また、原料パルプは、重量平均繊維長が2.0〜2.7mm、好ましくは2.3〜2.7mmになるように調整する。重量平均繊維長はOpTest Equipment社の「ファイバークオリティアナライザー」で測定した。なお、コットンリンターパルプの繊維長は2〜12mmである。
また、本発明に係る含浸用原紙の原料パルプ中には、熱発泡性粒子がパルプ固形分に対して固形分換算で2〜20質量%、好ましくは3〜10質量%、より好ましくは3〜6質量%含有されている。これにより、パルプ繊維間の空隙を広げることができ、含浸用原紙の密度を下げることができるので、吸水性、吸液性が向上する、すなわち薬剤の含浸性を向上させることができる。
なお、熱発泡性粒子の含有量が2質量%未満であると、熱発泡性粒子が発泡した状態であっても、パルプ繊維を十分に押し広げることができず、所定の密度とすることが難しくなる。一方、熱発泡性粒子の含有量を20質量%より多くしても、吸液性(薬剤の含浸性)の向上は期待できず、製造コストが高くなるだけである。さらに、熱発泡性粒子を含有させることによる層間強度の低下の問題がより大きくなるため、断裁加工時に断面や角部から層間剥離を生じ易いという問題を生じる。
熱発泡性粒子としては、熱可塑性合成樹脂で構成された微細粒子外殻内に低沸点溶剤を封入したものを用いることができる。なお、この熱発泡性粒子は、体積平均粒径が5〜30μmであり、80〜200℃での加熱により直径が4〜5倍、体積が50〜130倍に膨張する。
外殻を構成する熱可塑性合成樹脂としては、例えば塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の共重合体を挙げることができる。また、かかる外殻内に封入される低沸点溶剤としては、例えばイソブタン、ペンタン、石油エーテル、ヘキサン、低沸点ハロゲン化炭化水素、メチルシラン等を挙げることができる。
このような熱発泡性粒子としては、例えば松本油脂製薬株式会社製造の「マツモトマイクロスフェアF−20シリーズ」、「同F−30シリーズ」、「同F−36シリーズ」、「同F−46シリーズ」や、日本フィライト株式会社販売の「エクスパンセルWU」、「同DU」などが使用できるが、本発明に係る含浸用原紙に使用する熱発泡性粒子はこれらに限定されるものではない。
しかしながら、一般的に紙乾燥工程の温度が130℃程度であることから、本発明に係る含浸用原紙においては、熱発泡性粒子の膨張開始温度は90〜130℃の低温膨張タイプが好ましい。
熱発泡性粒子は、外殻を構成する熱可塑性合成樹脂の軟化点以上に加熱され、同時に封入されている低沸点溶剤が気化し蒸気圧が上昇し、外殻が膨張して粒子が膨張し、膨張時は内圧と殻の張力・外圧が釣り合って膨張状態が保持される。熱発泡性粒子は、一般的にはこの状態まで膨張させ、軽量化剤、嵩高化剤、クッション剤、断熱剤などとして利用されている。しかしながら、この膨張状態の熱発泡性粒子にさらに熱が加えられた場合、すなわち過剰に熱が加えられた場合には、膨張して薄くなった殻からガスが透過拡散し、内圧よりも殻の張力・外力が大きくなってしまい、発泡した粒子が収縮してしまう。
本発明に係る含浸用原紙に使用される熱発泡性粒子は、乾燥工程でドライヤにより発泡させるため、上記理由により、膨張開始温度が90〜130℃の低温膨張タイプの熱発泡性粒子を用いることが好ましい。すなわち、膨張開始温度が90℃未満の熱発泡性粒子であると、一旦膨張した粒子が再び収縮してしまい、所定の空隙を確保することができず、本願の所望とする薬剤の含浸性を得ることができない。
また、熱発泡性粒子を含有させた層は空隙が形成されるため吸液(吸水)性が高くなる。従って、本含浸原紙のように防虫剤の薬剤等を含浸させた後、乾燥させると、紙が大きく伸縮してしまい、含浸用原紙の表面にシワが発生してしまう。
従って、表層及び裏層の熱発泡性粒子の含有量をほぼ同量にすることが好ましく、これにより薬剤の含浸性及び加工時のカット適性が向上するとともに、また、例えば防虫剤の薬剤等を含浸させて、防虫剤の担体等に加工された場合、含浸用原紙の加工後である防虫剤の担体の使用中に紙のカールやシワが発生しにくいという点で好ましい。
さらに、本発明に係る含浸用原紙が3層以上抄き合わせて形成されている場合には、各層にほぼ同量の熱発泡性粒子を含有させることがより好ましい。
すなわち、所定の吸液性(薬剤含浸性)を得るために、表層及び裏層のみに熱発泡性粒子を含有させたり、表層及び裏層の熱発泡性粒子の含有量を多くすると、加工時のカット適性が低下するおそれがある。従って、表面強度を要求されるオフセット印刷などを施すことが少ない本含浸用原紙においては、各層にほぼ同量の熱発泡性粒子を含有させることがより好ましい。
また、熱発泡性粒子は自己定着しないため定着剤を用いることが好ましい。この定着剤としては、ポリアクリルアミド系紙力剤、ポリアミドエピクロロヒドリン系紙力剤、ポリエチレンイミン系紙力剤、澱粉,酸化澱粉,カルボキシメチル化澱粉等の澱粉類、植物ガム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等、公知の種々のものを用いることができる。
これらの中でも特にポリアクリルアミド系又はポリエチレンイミン系の高分子薬品が好ましい。具体的には、例えばハクトロンKC−100(伯東株式会社製)などのカチオン性の定着剤、またはアニオン性のセラフィックスST(明成化学工業社製)とカチオン性のファイレックスM(明成化学工業社製)とを併用してものが好ましく用いられる。
定着剤の含有量は、パルプ固形分に対して固形分換算で0.2〜1.0質量%、好ましくは0.2〜0.7質量%含有させる。なお、アニオン性の定着剤とカチオン性の定着剤とを併用する場合には、その合計量が前記含有量となるようにする。定着剤の含有量が1.0質量%を超えると、熱発泡性粒子の定着性は向上するものの、熱発泡性粒子が膨張しても、パルプ繊維間、熱発泡性粒子とパルプ繊維との間に充分な空隙を確保することができず、薬剤の吸液性(薬剤の含浸性)を阻害することとなる。
また、熱発泡性粒子の含有量を2〜20質量%としても、加工方法により、断裁加工時に含浸用原紙の断面や角部から層間剥離を生じ易い場合がある。従って、本発明に係る含浸用原紙の層間強度を向上させるために、原料パルプ中に熱溶融性繊維を含有しても良い。なお、熱溶融性繊維の含有量はパルプ固形分に対して固形分換算で1〜10質量%、好ましくは3〜8質量%である。熱溶融性繊維の含有量が1質量%未満であると、熱発泡性粒子を含有させることによる層間強度の向上効果を得ることができないため、パルプ繊維間結合の低下を抑制することができず、層間剥離の改善効果が少ない。一方、熱溶融性繊維の含有量を10質量%より多くしても、層間強度の向上効果は頭打ちとなり、製造コストが高くなるだけである。さらに、熱溶融性繊維の含有量が10質量%を超えると、含浸用原紙の吸液性(薬剤の含浸性)が低下する傾向となり、本発明の本来の目的の達成を阻害することとなる。
熱溶融性繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)系繊維、ポリエチレン(PE)系繊維、ポリビニルアルコール(PVA)系繊維、EVAビニロン系繊維、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、炭素繊維、レーヨン系繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維、ガラス系繊維などが知られている。本発明に係る含浸用原紙においては、熱発泡性粒子との接着性、パルプ繊維との接着性、原料としてパルプ繊維に混合して抄紙できること、抄紙機の乾燥工程で適切に溶融し熱発泡性粒子、パルプ繊維と接着することなどの点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)系繊維、ビニロン系繊維、ポリエチレン(PE)系繊維、EVAビニロン系繊維等を好適に使用することができ、これらの中でも特にポリエチレンテレフタレート(PET)系繊維が、層間強度の向上効果に優れるので好ましい。
また、熱溶融性繊維は、繊維表面の溶融温度が90〜130℃であるものが好ましい。具体的には、ソフィットN720/クラレ製、TJ04CN/帝人製、ビニロンバインダーSML/ユニチカ製、EA−CHOP/チッソ製、エステル4080/ユニチカ製、NBF/ダイワボウ製などが好適に使用できる。
本発明に係る含浸用原紙は、上述したように針葉樹クラフトパルプを80〜100質量%含有させ、本含浸用原紙を離解した時の原料パルプのカナダ標準濾水度(CSF)を600〜760mlに調整し、熱発泡性粒子を2〜20質量%含有させることにより、密度が0.31〜0.55g/cm、好ましくは0.33〜0.47g/cmとなるように調整することが好ましい。これにより、単に原料パルプ中に熱発泡性粒子を含有させ、膨張させることにより低密度にした従来の紙とは異なり、熱発泡性粒子の膨張に伴い、パルプ繊維間や、熱発泡性粒子とパルプ繊維との間に空隙ができ、この空隙が優れた薬剤吸収性(薬剤の含浸性)を発揮する。
なお、例えば繊維長が短く、繊維が柔軟な広葉樹パルプなどが多量に配合された原料パルプを使用し、この原料パルプ中に熱発泡性粒子を含有させ、所定の密度になるように調整したとしても、本願発明の所望とする空隙を得ることができないため、本願発明の所望とする含浸性を得ることができない。
また、本発明に係る含浸用原紙の坪量は、使用用途、薬剤含浸量などによっても変化するが、300g/m以上、好ましくは300〜500g/m、より好ましくは350〜450g/mの範囲となるように調整する。また、本発明に係る含浸用原紙の紙厚は、使用用途等に応じて700〜1400μm、好ましくは800〜1000μmに調整する。このように本発明に係る含浸用原紙の坪量を300g/m以上とし、紙厚を700〜1400μmとすることにより、薬剤の含浸性に優れるようになり、所定量の薬剤を、薬剤含浸工程の一定時間内で吸収させることができる。
なお、含浸用原紙の坪量が300g/m未満であると、含浸用原紙を上述したように構成しても、所定量の薬剤を含浸させることが難しくなる。一方、含浸用原紙の坪量を500g/mより大きくすると、薬剤の含浸量は増えるものの、含浸用原紙の製造コストが高くなるだけである。
上述したようにして形成された本発明に係る含浸用原紙は、試験液としてキット6液を用い、JAPAN TAPPI No.32−2に記載の「紙―吸収性試験方法−第2部:滴下法」に準拠して測定した吸液度(以下、「吸液度」という。)が1〜16秒、好ましくは1〜10秒、より好ましくは1〜6秒である。なお、キット6液とは、JAPAN TAPPI No.41に規定されるひまし油:トルエン:ヘプタン=2:1:1のキットナンバー6の試験液である。また、試験液として軽油1号を用いて場合の吸液度は0〜5秒、好ましくは0〜3秒である。
キット6液による吸液度が16秒、あるいは軽油1号による吸液度が5秒を超えると、薬剤の含浸性に劣るため、グラビア印刷機などで薬剤を含浸加工する際に所定量の薬剤を含浸させることができなくなる。
また、JIS P 8141に基づいて測定したクレム吸水度が90〜150mm、好ましくは100〜150mmである。クレム吸水度が90mm未満であると、薬剤の含浸性に劣るため、グラビア印刷機などで薬剤を含浸加工する際に所定量の薬剤を含浸させることができなくなる。
本発明に係る含浸用原紙の抄紙方法については、特に限定されるものではないので、酸性抄紙法、中性抄紙法、アルカリ性抄紙法のいずれであってもよい。しかしながら、熱発泡性粒子を定着剤で定着させ、薬剤の含浸性を発揮させるため、熱水抽出PHが5〜9.0となるように中性抄紙で製造することが好ましい。熱発泡性粒子の定着剤が中性領域で効果的に機能を発揮しやすいからである。
また、抄紙機も特に限定されるものではないので、例えば長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機等の公知の種々の抄紙機を使用することができる。
以上、本含浸用原紙について、紙層が表層、中間層、及び裏層の3層から成る場合について説明したが、本発明はこのような含浸用原紙に限らず、中間層の層数を増やして4層、5層・・・の紙層から成る含浸用原紙や、表層及び裏層の2層の紙層から成る含浸用原紙であっても良い。
本発明に係る含浸用原紙の効果を確認するため、以下のような各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行った。なお、本実施例において、配合、濃度等を示す数値は、固形分又は有効成分の質量基準の数値である。また、本実施例で示すパルプ・薬品等は一例にすぎないので、本発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではなく、適宜選択可能であることはいうまでもない。
本発明に係る19種類の含浸用原紙(これを「実施例1」ないし「実施例19」とする)と、これらの実施例1ないし実施例19と比較検討するために、4種類の含浸用原紙(これを「比較例1」ないし「比較例4」とする)を、表1に示すような構成で作製した。
また、参考例1として一般的な基板熱プレス用に用いられるクッション紙を評価した。
(実施例1)
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)95質量%と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)5質量%とを配合し、離解カナダ標準濾水度(CSF)を700mlに原料パルプを調整する。この原料パルプ中に硫酸バンドを原料パルプの固形分に対して有効成分で5質量%添加し、また原料パルプ中に熱発泡性粒子を、紙中の熱発泡性粒子(商品名:マツモトマイクロフェアー F−46、松本油脂製薬株式会社製)含有量が4質量%になるように添加する。その後、原料パルプのPHを7.0に調整し、熱発泡性粒子の定着剤として、ハクトロンKC−100(伯東株式会社製)を原料パルプ固形分に対して有効成分で0.08質量%添加して原料スラリーを作成した。
これらの原料スラリーを表層、中間層、及び裏層の原料として用い、円網3層抄紙機にて表層、中間層、及び裏層の紙層を抄き合わせて、坪量が400g/mである3層抄きの含浸用原紙(実施例1)を得た。
(実施例2〜4)
原料パルプのNBKPとLBKPの配合比率を表1に示すとおりに変更したことを除くその他の点は、実施例1と同様にして得た含浸用原紙。
(実施例5〜9)
原料パルプのフリーネスを表1に示すとおりに変更したことを除くその他の点は、実施例1と同様にして得た含浸用原紙。
(実施例10〜14)
熱発泡性粒子の含有量を表1に示すとおりに変更したことを除くその他の点は、実施例1と同様にして得た含浸用原紙。
(実施例15〜19)
熱発泡性粒子の含有量を表1に示すとおりとし、また熱溶融性繊維を表1に示すとおりに原料パルプ中に添加したことを除くその他の点は、実施例1と同様にして得た含浸用原紙。
(比較例1)
原料パルプのNBKPとLBKPの配合比率を表1に示すとおりに変更したことを除くその他の点は、実施例1と同様にして得た含浸用原紙。
(比較例2)
原料パルプのフリーネスを表1に示すとおりに変更したことを除くその他の点は、実施例1と同様にして得た含浸用原紙。
(比較例3〜4)
熱発泡性粒子の含有量を表1に示すように変更したことを除くその他の点は実施例1と同様にして得た含浸用原紙。
(参考例1)
本願発明品と同等の坪量、密度で、基板熱プレス用に用いられるクッション紙について評価した。
Figure 0004763651
これらの全実施例及び比較例についての品質評価、すなわち坪量、密度、吸液度、クレム吸水度、層間剥離について評価試験を行った結果は表2に示すとおりであった。なお、特に断りのない限り、これらの評価試験はJIS−P8111に記載の「紙、板紙及びパルプ−調湿及び試験のための標準状態」に基づき、温度23℃±1℃、湿度50%±2%条件下で評価試験を行った。
表2中の「坪量(g/m)」とは、JIS−P8142に記載の「紙及び板紙―坪量測定方法」に準拠して測定した値である。
「紙厚(μm)」とは、JIS−P8118に記載の「紙及び板紙―厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した値である。
「密度(g/cm)」とは、JIS−P8142に記載の「紙及び板紙―坪量測定方法」に準拠して測定した坪量と、上記の測定方法により測定した紙厚(μm)から算出した値である。
「吸液度(秒)」とは、JAPAN TAPPI No.32−2に記載の「紙―吸収性試験方法−第2部:滴下法」に準拠して測定した平均値である。なお、試験液は50μリットル滴下した。また試験液として、(1)JAPAN TAPPI No.41、「紙及び板紙―はつ油度試験方法―キット法」に記載の「キットナンバー6」(ヒマシ油:トルエン:ヘプタン=2:1:1)と、(2)JIS−K2204に規定する「軽油1号」の2種類を用いた。
「クレム吸水度(mm)」とは、JIS−P8141に記載の「紙及び板紙―吸水度試験方法−クレム法」に準拠して測定した含浸用原紙の縦方向の値である。なお、評価に用いる水は23℃±1℃に調整した蒸留水を用いた。
また、「層間剥離」とは、表層と中間層の剥がれ有無を評価したもので、各試料を押し切り型ペーパーカッターにて20cm角に切断し、切断面4辺について、表層と中間層の間の剥がれの有無を観察し、評価した。なお、その評価基準は下記の3段階とした。
(評価基準)
◎:表層と中間層の間に剥がれがない
○:表層と中間層の間に部分的に若干浮きがみられるが問題ない
×:表層と中間層の間に剥がれがあり、製品として問題である
Figure 0004763651
表2に示すように、本発明に係る含浸用原紙、すなわち実施例1〜実施例19に係る含浸用原紙であると品質評価に優れる、すなわち薬剤の含浸性及びカット適性が向上するとともに、相反する性質である薬剤の含浸性及びカット適性のバランスを良好なものとすることができることが分かる。

Claims (2)

  1. 少なくとも2層以上の複数層からなる含浸用原紙であって、
    全原料パルプ中に針葉樹クラフトパルプを80〜100質量%配合し、
    前記原料パルプは、JIS P−8220に準拠して離解したパルプ繊維の濾水度(JIS−P8121に準拠)を600〜760mlに調整し、
    前記全原料パルプ中に熱発泡性粒子をパルプ固形分に対して固形分換算で2〜20質量%含有し、
    紙厚を700〜1400μmとし、
    坪量を300g/m 以上とすることを特徴とする含浸用原紙。
  2. JAPAN TAPPI No.32−2に記載の「紙―吸収性試験方法−第2部:滴下法」に準拠し、JAPAN TAPPI No.41に記載のキットナンバー6の試験液を用いて測定した吸液度が、1〜16秒であることを特徴とする請求項1に記載の含浸用原紙。
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