JP4758532B2 - 印刷用巻取り紙 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷用巻取り紙に関し、特に湿し水を使用する多色刷平版輪転印刷機で印刷する際のペースター(印刷中の紙巻取りから次の新しい紙巻取りへの紙継ぎ)直後における画線のズレに基づく損紙の発生量が少ない印刷用巻取り紙に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、印刷技術は、オフセット印刷化、カラー印刷化、高速大量印刷化、自動化等大きな進歩を遂げてきている。これに伴い印刷用紙に対しても作業性、印刷性の面から各種の物性の改良が求められている。
【0003】
印刷に供せられる紙は、メカニカルパルプ又はケミカルパルプのパルプ繊維を叩解した水中分散液を脱水・乾燥し、繊維同士を水素結合により相互に接着したものであり、その種類としては、メカニカルパルプ及び古紙を主体とした新聞用紙あるいは中質紙、ケミカルパルプを主原料としサイズ剤、填料を配した上質紙、更に表面に白色顔料をバインダーと共に塗被し、乾燥後スーパーカレンダーで仕上げたコート紙がある。
【0004】
平版印刷は画線部と非画線部がほぼ同一の高さの版による印刷であり、取扱いが容易で多色の重ね刷りも高精度で行えることから最も広く使われている版式であって、油性のインキと水とが反発し合う性質を利用して印刷する方法である。平版印刷機にはインキ供給部と版面に薄く水を供給する湿し水供給部とが組み込まれている。平版印刷では、紙が印刷部を通過するときに画線部をインキで印刷すると共に非画線部は水を付与される。パルプ繊維は、吸水や吸湿によって伸長するが、繊維の断面方向は長さ方向より数十倍も伸長するため、パルプ繊維がより抄紙方向に強く配列した機械抄き紙は、吸水や吸湿によって抄紙方向と直角である抄紙幅方向に大きく伸長する。すなわち、抄紙方向と印刷方向が一致している場合、紙は印刷幅方向(抄紙幅方向)に伸長し、印刷された画線部もそれにつれて伸長して変形する。従って、印刷部を2個所以上有する多色刷平版印刷機によって同一の紙に順次連続して印刷すると、印刷部を用紙が通過する際に印刷幅方向に伸長し、用紙の幅が扇のように広がっていくので、ファンアウト現象と呼ばれる。ファンアウトが起こると、最初の印刷部で印刷された画線と2番目以降の印刷部で印刷される画線とにズレが生じる。
【0005】
このファンアウトによる用紙の伸長に起因する印刷画線のズレをなくす方法として、特開平6−134959号公報には印刷部に向かって走行している紙の幅方向の適宜の部位を押圧して長手方向と略平行な波打ちを形成し、用紙を印刷幅方向にみかけ上収縮させて修正する方法が開示されている。また、特開平7−186374号公報には、印刷機に印刷時の画線のズレを一定の誤差以内に自動修正するため印刷された見当マークを読み取る検出器と、これにより印刷部の見当を制御する見当制御手段とにより、分割した軸方向に版胴を移動させて印刷見当のズレを自動的に調整する手段が開示されている。
【0006】
このような手段によって、一つの印刷用巻取り紙におけるファンアウトによる画線のズレ制御は良好に行うことができるようになった。しかしながら、このような画線のズレ制御を行う装置を有する多色刷平版印刷機においても、画線ズレ制御が不十分な場合があり、特に印刷中の巻取り紙から次の巻取り紙へと紙継ぎを行うペースターの際に、ペースター直後の次の巻取り紙の最初の印刷時に大きな画線ズレが生じるという問題があった。現在の多色平版輪転印刷機は印刷速度500m/分という高速であり、このような印刷機の版胴を瞬時に移動させることは不可能であるから、紙継ぎ後に生じた大きな画線ズレは徐々に調整せざるを得ず、調整完了までの間に大量の不良印刷紙が生じ、損紙とせざるを得ないという大きな問題となっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、湿し水を使用する2個以上の印刷部を有する印刷機、特に多色刷平版輪転印刷機による印刷において、画線ズレ、特にペースター直後における画線ズレを小さくし、印刷品質の向上とともに、画線部のズレが限度を超えることによる損紙の量を少なくすることができる印刷用巻取り紙を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、平版輪転印刷の画線ズレについて更に詳細に検討した結果、ペースター直後における画線のズレは、湿し水が付着した紙の画線部が印刷幅方向に単純に伸長するのではなく、紙が印刷幅方向(版胴の軸方向)に対して角度を持って伸長することが原因であることを見出した。紙が印刷幅方向に対し角度を持って伸長すれば、紙は印刷方向に対し直角に進行せず、斜めに進行することになる。すなわち、1番目の印刷部で印刷した後の紙は巻取りの両端が傾いた平行四辺形に変形する。2〜4番目の印刷部でも同様なことが生じる。従って、印刷の進行に伴い、印刷後の巻取り紙の走行方向(パスライン)が印刷前の巻取り紙の走行方向から一定の角度でズレていくことになる。本発明者らは、このズレ角度は巻取り紙の吸水時における紙の伸びが最も大きくなる方向と関係しており、紙の伸びが最も大きくなる方向と紙の幅方向との角度が大きいほど、巻取り紙の走行方向が大きくズレることを見出した。特に、ペースター前後の巻取り紙で吸水時の伸びの最も大きくなる方向が異なると、印刷の進行に伴うパスラインがズレるため、版胴と紙の位置関係が変わる画線ズレが生じることを見出した。
【0009】
これらの知見より本発明者らは、紙のズレの大きさを表わす新しい指標として、巻取り紙の浸水伸度の最も大きい方向と巻取り紙の抄紙幅方向(巻取り紙の幅方向と抄紙幅方向は一致しているので、抄紙幅方向と印刷幅方向は同じである。)との角度(以下吸水時の最大伸び角度と呼ぶ)が有効であり、この角度の絶対値が大きい場合に大きな画線のズレが生じることを見出し、吸水時の最大伸び角度が特定の範囲内にあればペースター後の紙のパスラインの変化量が小さく、版胴の位置とのズレ量が小さくなることを見出した。すなわち、紙の吸水時の最大伸び角度の絶対値が15度以下であれば画線のズレは問題がないレベルであり、特に色ズレを小さくして画線部の鮮明度を向上させたい場合には10度以下であることが望ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
紙の吸水時の伸長率は、抄紙時の乾燥工程における収縮率と顕著な相関関係を示す。紙を構成するパルプ繊維は、含有水分の増減に伴い伸長や収縮といった寸法変化が起こり、この寸法変化はパルプ繊維の長軸方向より短軸方向の方が大きい。従って、抄紙機で抄造した紙の乾燥時の収縮は繊維の主配向方向(繊維配向角)と直交方向が最も大きく、同様に吸水時の伸長は乾燥時の収縮方向と同じになるので繊維配向角と直交方向となるはずである。しかしながら、実際の抄紙機上では、抄紙方向には紙シートを引っ張る力(ドロー)があり、また、ドライヤー部におけるドライヤーシリンダーと紙シート間の摩擦や紙シートとカンバス間の摩擦が乾燥時の収縮に対しての抵抗となるため、乾燥時の収縮方向は繊維配向角の直交方向とは必ずしも一致しない。さらに、近年の抄紙速度は1000m/分以上の高速であるため、走行中の紙やロール等が随伴空気を伴うことにより、紙の両端部に煽り(バタツキ)、あるいはバルーニングやブローイング(袋状の変形)が生じ易い。特に、プレドライヤーの前半部のシングルカンバス部においては紙中水分が高く紙が柔らかいため、乾燥時の収縮変形に随伴空気による変形が加わり、収縮変形を複雑化する。従って、抄紙機で製造される紙の乾燥時の収縮方向は必ずしも繊維配向角の直交方向ではなく、そのため吸水時の紙の伸長方向も繊維配向角の直交方向と一致していない。
【0011】
吸水時の最大伸び角度の測定方法は、JAPAN TAPPI No.27−78「紙及び板紙の浸水伸度試験方法A法」に準じ、巻取り紙の抄紙幅方向を0度として時計回りで全方位でサンプリングした紙サンプルの全方位の浸水伸度を測定し、得られた測定値から最も浸水伸度の大きい方向を求める。
【0012】
本発明の紙の吸水時の最大伸び角度は、前述したように吸水時における紙の伸びが乾燥時の収縮と相関しているので、抄紙工程における乾燥時の最大収縮角度を調整することにより紙の吸水時の最大伸び角度を調整することが可能である。一般に、抄紙機上の紙はドローにより抄紙方向へ引っ張られているため、他の力が作用しなければ、ポアソン比的な収縮により、乾燥時の最大収縮方向は抄紙幅方向と一致する。乾燥時の最大収縮方向を調整する手段として、抄紙機上の紙シートとドライヤーシリンダー及びカンバスとの摩擦力を直接操作することは困難であるので、随伴空気の巻き込みを減少させることによりバタツキ、バルーニングやブローイングの防止がある。さらに具体的には、シングルデッキ式ドライヤーの採用、随伴空気を遮断するブローボックスの設置、乾燥工程のドロー(抄紙方向の歪み量)の調整が有効である。特に、シングルデッキ式ドライヤーは、紙のフリーランの部分が少ないためバタツキ、バルーニングやブローイングが生じ難く、紙が袋状に変形することが減少するので、抄紙幅方向に対する吸水時の最大伸び角度のズレを低下させることが可能となる。
【0013】
【実施例】
次に本発明を実施例によって更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。実施例及び比較例にて製造した新聞巻取り紙に対して下記の方法により吸水時最大伸び角度、繊維配向角、画線ズレについて測定した。
【0014】
<吸水時最大伸び角度>
JAPAN TAPPI No.27−78「紙及び板紙の浸水伸度試験方法A法」に準じて、抄紙幅方向を0度として時計回りで175度まで5度間隔でサンプリングした試料の浸水伸度の測定を行い、最も浸水伸度の大きい方向、すなわち吸水時最大伸び角度を求めた。なお、吸水時最大伸び角度は抄紙幅方向を0度とし、時計回りで180度までを+、反時計回りで180度までを−で示した。
Y(θ)=K〔1+ηcos2(θ−α)〕
ここで、Y(θ)は紙の測定角度θにおける浸水伸度値、Kは浸水伸度の平均値、αは浸水伸度の最も大きい時の角度すなわち吸水時最大伸び角度、ηは浸水伸度異方性指数である。
【0015】
<繊維配向角>
引張り試験における試料長(スパン長)が0の引張り破断強度を、抄紙方向を0度として時計回りで175度まで5度間隔で測定し、得られた測定値を下記の式を用いて演算して繊維配向角βを求めた。吸水時最大伸び角度と同様に繊維配向角も抄紙幅方向を0度とし、時計回りで180度までを+、反時計回りで180度までを−で示した。
Z(θ)=C〔1+cos2(θ−β)〕
ここで、Z(θ)は紙の測定角度θにおける引張り破断強度、Cは引張り破断強度の平均値、βは繊維配向角、ζは繊維配向指数である。
【0016】
<画線ズレ>
色ズレ評価のための新聞巻取り紙はマシン幅方向の同一巻取り採取位置で、巻取りの上面がF面品とW面品との2種類を作成した。この新聞巻取り紙について、新聞用タワー型オフセット輪転機(東京機械製作所社製、商品名:カラートップ6000)を用い、使用インキ及び湿し水条件共に一定として印刷速度12万部/時間、印刷順序墨、藍、赤、黄の順序で印刷を行った。新聞用紙の実施例及び比較例の画線ズレの評価は、巻取りの上面がF面品からW面品にペースターした後の1色目と4色目の見当マークの位置より評価し、0.1mm以下を◎、0.2mm以下を○、0.2mmを超えるものを×とした。巻取りの上面がF面品とW面品とでは吸水時最大伸び角度及び繊維配向角が逆方向になるので、2倍の値で異なる。従って、画線ズレも実質的に2倍になるから、測定の正確性を増すことができる。
【0017】
[実施例1〜4]
DIP(脱墨パルプ)70重量部、TMP(サーモメカニカルパルプ)10重量部、GP(グランドパルプ)5重量部、NBKP(針葉樹クラフトパルプ)15重量部を混合離解した後、叩解したろ水度(カナダ標準フリーネス)160mlの紙料をプレドライヤーにシングルデッキドライヤーを備えた抄紙機で、抄速1000m/分で抄造し、プレドライヤーで乾燥した後、澱粉を主体とする塗布液をゲートロールコーターにより塗布量0.7g/m2となるように塗布し、アフタードライヤーで再び乾燥した後にカレンダー処理を行い、坪量43g/m2の新聞用紙を製造した。製造したジャンボ巻取りをワインダーにより、新聞印刷用のA巻取り50連入の巻取りにした。ここで、巻取りはマシン幅方向における同一巻取り位置で、色ズレ評価のために巻取りの上面をF面up品とW面up品との2種類を作成した。この時、ジェットワイヤー比(J/W比)及びヘッドボックス(三菱重工業社製コンバーフローヘッドボックス)の再循環弁開度を変化させて、吸水時の最大伸び角度及び繊維配向角の異なる新聞巻取り紙を製造した。この新聞巻取り紙について印刷試験を行い、結果を表1に示した。
【0018】
[実施例5〜8]
実施例1〜4で使用したプレドライヤーにシングルデッキを備えた抄紙機からプレドライヤーに2段多筒式ドライヤーを備えた抄紙機に替え、さらにプレドライヤーのシングルカンバス部にブローボックスを設置し、J/W比及びヘッドボックスの再循環弁開度を変化させ、実施例1〜4と同様に新聞巻取り紙を製造し、印刷試験を行い、結果を表1に示した。
【0019】
[比較例1〜4]
実施例5〜8で使用した抄紙機のプレドライヤーのシングルカンバス部にブローボックスを設置せず、J/W比及びヘッドボックスの再循環弁開度を変化させ、実施例1〜4と同様に新聞巻取り紙を製造し、印刷試験を行い、結果を表1に示した。
【0020】
【表1】
Figure 0004758532
表1に示すように、吸水時の最大伸び角度は15度以下である実施例1〜8の新聞巻取り紙の画線ズレは良好であった。一方、吸水時の最大伸び角度は15度を超える比較例1〜4の新聞巻取り紙の画線ズレは不良であった。また、繊維配向角と吸水時の最大伸び角度は相関しておらず、画線ズレは吸水時の最大伸び角度の大きさに依存していた。

Claims (3)

  1. 紙料をドライヤーカンバス部にブローボックスを備えた抄紙機によりジェットワイヤー比(J/W比)96〜101%、ヘッドボックスの再循環弁開度25〜55%の範囲として抄紙し、浸水伸度の最も大きい方向と紙の抄紙幅方向との角度の絶対値が15度以下である多色刷平版輪転印刷機用新聞巻取り紙を製造する方法。
  2. さらに澱粉を主体とする塗布液を塗布する請求項1記載の多色刷平版輪転印刷機用新聞巻取り紙を製造する方法。
  3. 多色刷平版輪転印刷機が新聞用タワー型オフセット輪転機である請求項1または2記載の多色刷平版輪転印刷機用新聞巻取り紙を製造する方法。
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