従来から、紙や合成樹脂等の基材表面に、文字や数字、模様、絵柄等の様々な画像を構成する下側インキ層が印刷形成されると共に、かかる下側インキ層の上に、それを隠蔽可能な有色の上側インキ層が積層されるように印刷形成されて、上側インキ層が硬貨や爪等によって擦り取られることにより、下側インキ層にて構成された画像が現れるようにした、所謂スクラッチ式の印刷物が、各種のくじやゲームカード等に好適に使用されている。
また、そのようなスクラッチ式の印刷物の一種として、基材の表面に、例えば酸化チタン等、硬貨を構成する金属よりも硬度の大きい硬質材料を含む、基材表面と同色のインキを用いて、所定の画像を構成するインキ層が印刷形成されてなるものが、知られている(例えば、下記特許文献1参照)。この印刷物においては、印刷面が硬貨にて擦られると、硬貨の金属が、基材表面上に形成されたインキ層中の硬質材料にて削り取られて、この削り取られた金属によりインキ層が着色乃至は変色せしめられ、以て、かかるインキ層にて構成された画像が現出せしめられるようになっている。
かくの如き印刷物にあっては、所定の画像を構成する下側インキ層の上に積層するように印刷形成された上側インキ層を擦り取って所定の画像を現出せしめる印刷物とは異なって、擦り取られたインキ層部分によってゴミ屑が生ずるようなことが有利に回避され得るといった利点があるものの、基材表面を硬貨で擦らなくとも、基材表面を様々な角度で見ると、基材表面とインキ層との光沢の差異等によって、インキ層にて構成される画像が視認されてしまうといった欠点が、存していた。
そのため、基材の表面上に、酸化チタン等からなる白色顔料を含む白色印刷インキによる白色ベタ印刷層が印刷形成されると共に、この白色ベタ印刷層の上に、酸化チタン等からなる白色顔料を、白色印刷インキ中の含有量よりも少ない量で含む白色オーバープリントニスによるオーバープリント層が、所定の画像(機密情報データ)を抜きパターン若しくはパターンにて構成するように印刷形成され、印刷面が硬貨にて擦られることにより、オーバープリント層の抜きパターンと対応する白色ベタ印刷層部分、若しくはオーバープリント層のパターン部以外の部分と対応する白色ベタ印刷層部分のみが着色されて、それら抜きパターン若しくはパターンにて構成される画像が現れるようにされた印刷物が、近年、提案されている(例えば、下記特許文献2参照)。
このような印刷物においては、白色ベタ印刷層の上に、それと同色の白色のオーバープリントニスによるオーバープリント層が、所定の抜きパターン若しくはパターンをもって積層形成されていることにより、かかるオーバープリント層の抜きパターン若しくはパターンにて構成される画像と白色ベタ印刷層との判別が困難とされて、画像の隠匿性の向上が図られているのである。
ところが、本発明者が、この白色ベタ印刷層と白色のオーバープリント層の二層のインキ層を有する従来の印刷物における画像隠匿性について検討を加えたところ、白色ベタ印刷層における白色顔料の含有量と白色のオーバープリント層における白色顔料の含有量との差異に基づいて、それら白色ベタ印刷層と白色のオーバープリント層との間に、色合いと光の反射率とにおいて微妙な違いが生じており、そのため、オーバープリント層の抜きパターン若しくはパターンにて構成される画像と白色ベタ印刷層とが、光の反射等によって区別され得ることが、認められた。これによって、かかる従来の印刷物が、オーバープリント層の抜きパターン若しくはパターンにて構成される画像と白色ベタ印刷層との判別において困難なものであるとは言い難く、従って、画像の隠匿性において未だ改良の余地を有しているものであることが、判明したのである。
このため、本発明者は、画像の隠匿性について改良を図るべく、種々検討した結果、所定の画像を、白色顔料を含むベースインキ層上に部分的に形成された無色のオーバーコートインキ層にて構成すると共に、かかるベースインキ層を、網点印刷により印刷形成することによって、ベースインキ層の表面が凹凸形状とされ、これにより、照射された光が乱反射せしめられ、以て、オーバーコートインキ層にて構成された画像とベースインキ層との判別が容易に行われるようなことが、有利に解消され得ることを見出し、そのような印刷物について、先に、出願を行なったのである(特願2005−182669号)。
しかしながら、網点印刷によりベースインキ層を形成する場合には、網点印刷に起因する問題、即ち、網点のスクリーン線数や面積率を設定したり、製版時や印刷時に刷版の壊れを確認する等の管理が必要となり、ベタ印刷よりも手間やコストがかかるといった問題がある。
特公平6−78039号公報
特開2004−34384号公報
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係る印刷物の具体的な構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1及び図2には、本発明に従う構造を有する印刷物の一実施形態が、その横断面形態と縦断面形態とにおいて、それぞれ概略的に示されている。それらの図からも明らかなように、本実施形態の印刷物は、被印刷シート10を有し、その上面に、ベースインキ層12とオーバーコートインキ層14とが、ベースインキ層12を下側にして、積層形成されて、構成されている。なお、図2、更には後述する図3、図6のそれぞれにおいては、本実施形態の印刷物の構造の理解を容易とするために、ベースインキ層12、オーバーコートインキ層14等が、誇張されて、極端に厚い厚さをもって示されていることが、理解されるべきである。
そして、本実施形態では、被印刷対象である被印刷シート10として、表面に所定のコーティング処理が施された塗工紙ではなく、表面にコーティング処理が施されていない非塗工紙が、用いられており、そこに大きな特徴を有しているのである。即ち、非塗工紙は、コーティング処理が施されていないところから、パルプ繊維がその表面に露出しており、それ故、表面11が平滑ではなく凸凹している(図3参照)と共に、塗工紙と比べて基本的に艶が無く、水や溶剤等の液体が染み込み易い紙質となっているのである。このため、後述するように、非塗工紙の被印刷面16にベースインキ層12を印刷形成すれば、たとえベタ印刷で印刷形成した場合であっても、網点印刷を実施した場合と同様に、ベースインキ層12の表面が、凹凸形状となるのであり、また、印刷形成されたベースインキ層12が剥離してしまうようなことも有利に回避され得るのである。
なお、上記非塗工紙としては、上質紙やケント紙、中質紙、上更紙、更紙等を挙げることができ、これらのうちの少なくとも一種が、用途等に応じて適宜に選択され得るのである。これらの非塗工紙の中でも、上質紙やケント紙にあっては、下級紙よりもパルプ繊維の目が詰まっているところから、ベースインキ層12をムラなく印刷形成することができ、画像がより一層鮮明に視認されるようになるため、特に好適に採用され得るのである。
そして、このような非塗工紙からなる被印刷シート10は、その上面が被印刷面16とされており、この被印刷面16の中央部における円形領域の全面に対して、ベースインキ層12が、形成されている。
かかるベースインキ層12は、ここでは、白色顔料18を含む印刷インキを用いた、例えば凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、及びスクリーン印刷等の公知の印刷方式の何れかによって、印刷形成されているのである。また、ベースインキ層12の内部には、図3に示されるように、粒状の白色顔料18が、多数分散せしめられている。
そして、図3に矢印で示されるように、ベースインキ層12の表面に照射された光が、その表面において乱反射せしめられて、ベースインキ層12の表面において発せられる光沢が低く抑えられ、以て、ベースインキ層12の全体が、艶のない白色を呈するようになっている。
また、ここでは、特に、かかるベースインキ層12中に分散せしめられる白色顔料18としては、硬貨に使用される金属、例えば銅や、鉄、アルミニウム、亜鉛、鉛等よりも高い硬度を有する、酸化チタンや硫酸バリウム、炭酸カルシウムが、それぞれ単独で、若しくはそれらのうちの2種類以上が組み合わされて、使用されている。
これによって、ベースインキ層12の表面が硬貨にて擦られると、硬貨を構成する金属がベースインキ層12の表層部に存在する白色顔料18にて削り取られるようになり、そして、この削り取られた金属にて、ベースインキ層12の表面のうちの硬貨にて擦られた部分が、白色から、例えば黒色乃至は黒ずんだ灰色等に変色せしめられるようになっているのである。
しかも、上述せる如く、ここでは、ベースインキ層12が、表面が凸凹した非塗工紙(被印刷シート10)上に形成されていることで、より十分に大きな表面積を有するようにされている。それ故、ベースインキ層12の表面が硬貨にて擦られたときに、硬貨が、ベースインキ層12の表層部に位置する、より多くの白色顔料18に接触せしめられて、かかる硬貨の金属が、より確実に且つ十分に多く削り取られ、以て、ベースインキ層12の表面が、より濃い色に変色せしめられるように構成されている。
一方、ベースインキ層12の上に積層形成されたオーバーコートインキ層14は、無色の印刷インキを用いた、例えば凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、及びスクリーン印刷等の公知の印刷方式の何れかによって印刷形成されて、無色透明とされている。このオーバーコートインキ層14にあっても、表面が凹凸形状とされたベースインキ層12上に形成されていることで、表面が凹凸形状となっており、しかも、ここでは、そのようなオーバーコートインキ層14中に、それを形成する無色インキに含有せしめられた公知のマット材等の粒状の光沢調整材20が、分散せしめられている。
これにより、無色透明のオーバーコートインキ層14の表面に照射された光が、その表面の凹凸形状や、オーバーコートインキ層14中の光沢調整材20によっても乱反射せしめられるようになっている。そして、ここでは、そのようなオーバーコートインキ層14中に分散せしめられる光沢調整材20の量が適宜に調節される等して、無色透明のオーバーコートインキ層14の光沢が、ベースインキ層12の光沢と同程度にまで低く抑えられるように調整されている。
また、このオーバーコートインキ層14は、図1及び図2から明らかな如く、ベースインキ層12の上面の中心部に積層された円形形状を呈する中心側オーバーコートインキ層部分14aと、ベースインキ層12の上面の外周部に積層された広幅のリング形状を呈する外周側オーバーコートインキ層部分14bとからなっている。そして、かかるリング状の外周側オーバーコートインキ層部分14bの内径が、円形の中心側オーバーコートインキ層部分14aの外径よりも所定寸法だけ大きくされており、それによって、ベースインキ層12上における中心部と外周部との間に、オーバーコートインキ層非形成部分22が、円形の凹溝形態をもって、設けられている。
換言すれば、ここでは、ベースインキ層12の上面の中心部と外周部とに対して、それらの部位を被覆するように、オーバーコートインキ層14が部分的に印刷形成されている一方、ベースインキ層12上の中心部と外周部との間に、オーバーコートインキ層14によって被覆されることなく、ベースインキ層12の表面が剥き出し状態とされた、オーバーコートインキ層非形成部分22が存在せしめられている。そして、そのようなベースインキ層12上において、その表面が露呈せしめられた、オーバーコートインキ層非形成部分22によって、円形凹溝形態に対応した図柄であるところの○を描く画像24が、構成されているのである。
かくして、本実施形態においては、被印刷シート10の被印刷面16の全体が、硬貨にて擦られると、図4に示されるように、ベースインキ層12上における中心側オーバーコートインキ層部分14aの形成部分と外周側オーバーコートインキ層部分14bの形成部分では、それら中心側及び外周側オーバーコートインキ層部分14a,14bのそれぞれの表面上を硬貨が滑って、硬貨を構成する金属が削り取られることがなく、従って、何等変色せしめられないようになっている。一方、ベースインキ層12上におけるオーバーコートインキ層非形成部分22では、硬貨の金属が、表面が露呈せしめられたベースインキ層12中の白色顔料18にて削り取られて、この削り取られた金属により、オーバーコートインキ層非形成部分22において露呈せしめられたベースインキ層12の表面部分が白色から黒色乃至は黒ずんだ灰色に変色せしめられるようになっている。そして、それによって、被印刷シート10の被印刷面16上に、○を描く画像24が現出せしめられるようになっているのである。
また、ここでは、かかる画像24を構成するオーバーコートインキ層14が無色透明とされていることによって、この無色透明のオーバーコートインキ層14と白色のベースインキ層12との間で色合いに違いが生ずるようなことが有利に解消されている。そして、それに加えて、前述せるように、ベースインキ層12の表面において光の乱反射が生ぜしめられるようになっており、更には、オーバーコートインキ層14中に分散せしめられた光沢調整材20によって、オーバーコートインキ層14の表面の光沢が、ベースインキ層12の表面の光沢と同程度とされている。そのため、印刷された面が硬貨にて擦られる前には、オーバーコートインキ層非形成部分22からなる○を描く画像24と、中心側オーバーコートインキ層部分14aや外周側オーバーコートインキ層部分14bとを、色合いの違いや光の反射等によって区別することが困難とされて、かかる画像24が、巧みに隠匿され得るようになっているのである。
ところで、かかるベースインキ層12を被印刷シート10の被印刷面16上に形成するのに用いられる印刷インキは、白色顔料18を含むものであれば、その組成が何等限定されるものではない。然るに、ここでは、被印刷シート10の被印刷面16上で固化せしめられることにより、ベースインキ層12を被印刷面16上に形成すると共に、白色顔料18を、かかるベースインキ層12の内部に埋設せしめて、被印刷面16上に固着する、例えばインキ用樹脂やワックス等のベースインキ層形成主要素と、それを溶解する溶剤とを含み、且つそれらベースインキ層形成主要素と溶剤とが、前者の100重量部に対して、後者が10〜350重量部となる範囲内の量において含有せしめられたインキが、ベースインキ層12を形成する印刷インキとして、好適に用いられる。
このような組成の印刷インキにおいては、粘性が効果的に低減せしめられ得る。そのため、かかるインキを用いてベースインキ層12を印刷形成すると、図3に示されるように、ベースインキ層12の表層部に位置せしめられた白色顔料18が、ベースインキ層12の表面から部分的に突出せしめられるようになる。これにより、印刷面を硬貨で擦ったときに、硬貨の金属が、白色顔料18にて、更に確実に且つより十分な量において削り取られて、オーバーコートインキ層非形成部分22において露呈せしめられたベースインキ層12部分が、削り取られた金属にて、より十分に変色せしめられ、以て、○を描く画像24が、更に一層鮮明に現出せしめられることとなる。また、ベースインキ層12の形成用の印刷インキが上記の如き組成とされて、その粘性が低くされることによって、例えば、形成されるインキ層が比較的に厚肉となるスクリーン印刷方式により、ベースインキ層12を形成する場合にあっても、ベースインキ層12の薄肉化が可能となって、ベースインキ層12の表面が、より一層効果的に、非塗工紙の凹凸形状に対応した凹凸形状となるのである。
なお、ベースインキ層12を形成するのに用いられる印刷インキ中におけるベースインキ層形成主要素と溶剤のそれぞれの含有量の割合が、ベースインキ層形成主要素の100重量部に対して、溶剤が10重量部未満とされている場合には、溶剤の含有量が少な過ぎるため、インキの粘性を十分に低下させて、ベースインキ層12の中の白色顔料18を、ベースインキ層12の表面から部分的に突出させることや、ベースインキ層12を薄肉化することが困難となり、それ故に、溶剤の含有量の増大に伴うインキの粘性低下によって得られる上記の如き優れた特徴が十分に得られなくなる恐れがある。また、かかるインキ中におけるベースインキ層形成主要素と溶剤のそれぞれの含有量の割合が、ベースインキ層形成主要素の100重量部に対して、溶剤が350重量部を超える場合には、インキ中におけるベースインキ層形成主要素の含有量が過少となって、被印刷シート10の被印刷面16上への白色顔料18の固着強度が低下せしめられる。そのため、被印刷シート10の被印刷面16を硬貨で擦ったときに、白色顔料18がベースインキ層12中から離脱せしめられるようになり、その結果、○を描く画像24を鮮明に現出させることが困難となる場合が生ずる。
また、そのようなベースインキ層12の形成用に用いられるインキ中に含まれる白色顔料18の量も、特に限定されるものではないものの、かかるインキから溶剤が消失せしめられた状態で、被印刷シート10上に形成されるベースインキ層12中に、5重量%以上の割合となる量において含有せしめられていることが、望ましい。何故なら、かかるベースインキ層12中における白色顔料18の含有量が、5重量%未満の割合となる少ない量であると、被印刷シート10の被印刷面16を硬貨で擦ったときに、ベースインキ層12における白色顔料18にて削り取られる硬貨の金属量も少なくなり、それによって、オーバーコートインキ層非形成部分22において露呈せしめられたベースインキ層12部分の、削り取られた金属による変色が不十分となって、現出せしめられる画像24が不鮮明となってしまうといった問題が生ずる可能性があるからである。
なお、このベースインキ層12中における白色顔料18の含有量が増大すると、前記せるインキ用樹脂やワックス等のベースインキ層形成主要素による被印刷シート10の被印刷面16への白色顔料18の固着力が低下せしめられる傾向が認められる。それ故、かかるインキ中における白色顔料18の含有量の上限は、被印刷シート10の被印刷面16への白色顔料18の固着力の大きさに基づいて、適宜に決定されることとなる。
また、白色顔料18の一つ一つの大きさが余りに大きい場合にあっても、ベースインキ層形成主要素による被印刷シート10の被印刷面16への白色顔料18の固着力が低下せしめられることとなる。一方、白色顔料18が小さ過ぎると、被印刷シート10の被印刷面16を硬貨で擦ったときに、白色顔料18にて削り取られる硬貨の金属量も少なくなって、オーバーコートインキ層非形成部分22において露呈せしめられたベースインキ層12部分の変色が不十分となり、それによって、現出せしめられる画像24が不鮮明となってしまう。従って、それらの問題を回避する上において、白色顔料18は、その平均粒径(遠心沈降法にて測定した平均粒子径、以下同じ)が0.19〜0.9μmの範囲内の値とされていることが、望ましい。
さらに、ベースインキ層12は、その存在が容易に視認されないように為す上において、その厚さが、可及的に薄くされていることが望ましいが、余りに薄いと、被印刷シート10の被印刷面16への白色顔料18の固着力が低下せしめられる。その故、ベースインキ層12の厚さは、白色顔料18の望ましい平均粒径を考慮した上で、0.2〜1.5μm程度の範囲内の値とされていることが、好ましいのである。
一方、オーバーコートインキ層14をベースインキ層12上に形成するのに用いられる印刷インキも、無色の印刷インキであれば、その組成が何等限定されるものではない。然るに、ここでは、ベースインキ層12上で固化せしめられることにより、オーバーコートインキ層14をベースインキ層12上に形成する、例えばインキ用樹脂やワックス等のオーバーコートインキ層形成主要素と、それを溶解する溶剤とを含み、且つそれらオーバーコートインキ層形成主要素と溶剤とが、前者の100重量部に対して、後者が10〜350重量部となる範囲内の量において含有せしめられたインキが、オーバーコートインキ層14を形成する印刷インキとして、好適に用いられる。
このような組成の印刷インキにおいては、粘性が効果的に低減せしめられ得る。そのため、かかるインキを用いてオーバーコートインキ層14を印刷形成すると、図3に示されるように、オーバーコートインキ層14の表面が、極めて効果的に、オーバーコートインキ層14の下側に設けられるベースインキ層12の表面の形状に対応した凹凸形状とされ、それによって、オーバーコートインキ層14の表面に照射された光が、かかる表面やエッジ部分において乱反射せしめられるようになる。その結果、オーバーコートインキ層14と、オーバーコートインキ層非形成部分22において露呈せしめられたベースインキ層12部分とを、それぞれの表面における光の反射によって区別することが、より困難となると共に、中心側オーバーコートインキ層部分14aと外周側オーバーコートインキ層部分14bのそれぞれのエッジ部分が目立たなくされ、以て、印刷面が硬貨にて擦られる前において、オーバーコートインキ層非形成部分22からなる○を描く画像24が、より巧妙に隠匿され得ることとなる。
しかも、オーバーコートインキ層14の形成用の印刷インキが上記の如き組成とされて、その粘性が低くされることによって、例えば、スクリーン印刷方式にてオーバーコートインキ層14を印刷形成する場合にあっても、中心側オーバーコートインキ層部分14aと外周側オーバーコートインキ層部分14bのそれぞれを薄肉化することが出来る。その結果、それらのオーバーコートインキ層部分14a,14b、ひいては画像24が目立たなく為され得る。
なお、オーバーコートインキ層14の形成に用いられる印刷インキ中におけるオーバーコートインキ層形成主要素と溶剤のそれぞれの含有量の割合が、オーバーコートインキ層形成主要素の100重量部に対して、溶剤が10重量部未満とされている場合には、溶剤の含有量が少な過ぎて、インキの粘性を十分に低下させることが出来ないため、インキの粘性低下によって得られる上述の如き優れた作用・効果を有効に享受することが困難となる。また、かかるインキ中におけるオーバーコートインキ層形成主要素と溶剤のそれぞれの含有量の割合が、オーバーコートインキ層形成主要素の100重量部に対して、溶剤が350重量部を超える場合には、オーバーコートインキ層形成主要素の含有量が過少となるため、オーバーコートインキ層14中に分散せしめられる光沢調整材20の保持力が低下せしめられる。そのため、被印刷シート10の被印刷面16を硬貨で擦ったときに、光沢調整材20がオーバーコートインキ層14中から容易に離脱せしめられるようになるといった不具合が生ずる恐れがある。
また、そのようなオーバーコートインキ層14を形成するインキ中に含まれる光沢調整材20の平均粒径は、2.0〜5.5μmの範囲内の値とされていることが望ましい。何故なら、光沢調整材20の平均粒径が5.5μmよりも大きい場合には、オーバーコートインキ層形成主要素によるオーバーコートインキ層14中での保持力が低下せしめられることとなるからであり、また、かかる平均粒径が2.0μmよりも小さい光沢調整材20は、現状において入手が容易ではなく、準備するのが困難であるからである。なお、オーバーコートインキ層14中における光沢調整材20の含有量は、オーバーコートインキ層14の光沢が、ベースインキ層12と同様な光沢となるような量において、適宜に決定されるところである。
さらに、上記の記載からも明らかなように、オーバーコートインキ層14は、その存在が容易に視認されないように為す上において、その厚さが、可及的に薄くされていることが望ましい。しかしながら、余りに薄いと、光沢調整材20が含有されている場合において、オーバーコートインキ層14中での光沢調整材20の保持力が低下せしめられる。そのため、オーバーコートインキ層14の厚さは、光沢調整材20の望ましい平均粒径を考慮した上で、2.0〜6.0μm程度の範囲内の値とされていることが、好ましいのである。
このように、本実施形態の印刷物にあっては、被印刷シート10として、非塗工紙が用いられ、その被印刷面16上に、内部に白色顔料18が分散せしめられたベースインキ層12が印刷形成されると共に、かかるベースインキ層12の上に、無色のオーバーコートインキ層14が部分的に印刷形成されて、このベースインキ層12上におけるオーバーコートインキ層14の非形成部分22にて、○を描く画像24が構成されているところから、被印刷シート10の被印刷面16が硬貨にて擦られることにより、○を描く画像24が、確実に現出せしめられて、より鮮明に視認され得る一方、被印刷シート10の被印刷面16が硬貨にて擦られる前においては、かかる画像24の視認が、より困難と為され得る。従って、例えば各種のくじやゲームカード等に用いられるスクラッチ式の印刷物として、極めて有利に使用され得ることとなるのである。
そして、かかる印刷物においては、ベースインキ層12やオーバーコートインキ層14の形成にそれぞれ用いられる各印刷インキの組成等が最適化されることによって、上述の如き優れた作用・効果が、更に一層高いレベルで有効に享受され得ることとなる。
ところで、前記実施形態では、被印刷シート10の被印刷面16上において、ベースインキ層12の表面が露呈せしめられた、オーバーコートインキ層非形成部分22によって、○を描く画像24が構成されていたが、例えば、図5及び図6に示されるように、被印刷シート10の被印刷面16上において、ベースインキ層12の表面がオーバーコートインキ層14にて被覆された、オーバーコートインキ層14の形成部分によって、○を描く画像24を構成することも出来る。なお、かかる図5及び図6、更には後述する図7においては、前記実施形態と同様な構成とされた部材及び部位について、図1乃至図4と同一の符号を付すことにより、その詳細な説明は省略した。
すなわち、ここでは、非塗工紙からなる被印刷シート10の被印刷面16の中心部における円形領域の全面に、白色顔料18が内部に分散せしめられた白色のベースインキ層12が印刷形成されている。また、このベースインキ層12における中心部と外周部との間の内周部分には、無色透明のオーバーコートインキ層14が、かかるベースインキ層12の内周部分をリング状に被覆するように、部分的に印刷形成されている。そして、ベースインキ層12の中心部と外周部とには、オーバーコートインキ層14によって被覆されることなく、ベースインキ層12の表面が剥き出し状態とされた、円形の中心側オーバーコートインキ層非形成部分26と広幅のリング形状を呈する外周側オーバーコートインキ層非形成部分28とが、それぞれ存在せしめられている。これにより、被印刷シート10の被印刷面16上に、ベースインキ層12の表面を被覆するオーバーコートインキ層14の形成部分にて、かかるオーバーコートインキ層14のリング形状に対応した図柄であるところの○を描く画像24が、構成されているのである。
かくして、本実施形態においては、印刷面の全体が硬貨にて擦られると、図7に示されるように、ベースインキ層12上におけるオーバーコートインキ層14の形成部分では、その表面上を硬貨が滑って、何等変色せしめられないようになっている。一方、ベースインキ層12上における中心側オーバーコートインキ層非形成部分26と外周側オーバーコートインキ層非形成部分28では、硬貨の金属が、表面が露呈せしめられたベースインキ層12中の白色顔料18にて削り取られて、この削り取られた金属により、中心側及び外周側オーバーコートインキ層非形成部分26,28において露呈せしめられたベースインキ層12の表面部分が白色から黒色乃至は黒ずんだ灰色に変色せしめられるようになっている。そして、それによって、被印刷シート10の被印刷面16上に、○を描く画像24が、変色せしめられたベースインキ層12の内側に、何等変色せしめられることなしに浮彫にされた状態で、現出せしめられるようになっているのである。
このような本実施形態にあっても、被印刷シート10として、非塗工紙が用いられ、その被印刷面16上に、内部に白色顔料18が分散せしめられたベースインキ層12が印刷形成されると共に、このベースインキ層12上に、無色透明のオーバーコートインキ層14が部分的に印刷形成されて、ベースインキ層12におけるオーバーコートインキ層14の形成部分により、○を描く画像24が構成されているところから、前記実施形態と同様な作用・効果が有効に享受され得ることとなる。
ところで、前記実施形態では、オーバーコートインキ層14中に光沢調整材20が分散せしめられて、オーバーコートインキ層14とベースインキ層12のそれぞれの光沢が同程度となるように調整されていたが、この光沢調整材20は、本発明において必須のものではない。
さらに、前記実施形態では、画像24が、○を描く図柄にて構成されていたが、この画像24には、○以外の図柄や図形の他、文字や数字、模様、絵等、様々なものが、採用され得る。
更にまた、かかる画像24の個数や形成位置等も、前記実施形態に示されるものに、何等限定されるものでないことは、勿論である。
また、前記実施形態では、ベースインキ層12の色が、それに含まれる白色顔料18によって白色とされていたが、ベースインキ層12を形成する印刷インキに対して、かかる白色顔料18に加えて、各種の色の顔料を添加することで、ベースインキ層12を白色以外の色と為すことも出来る。
その他、本発明は、各種の形態において実施され得るものであって、当業者の知識に基づいて採用される本発明についての種々なる変更、修正、改良に係る各種の実施の形態が、何れも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、本発明の範疇に属するものであることが、理解されるべきである。
以下に、本発明の代表的な実施例の幾つかを示し、本発明の特徴を更に明確にすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
先ず、被印刷シートとして、次の非塗工紙と塗工紙を準備した。非塗工紙としては、ケント紙[商品名:コニーケント(リンテック株式会社製)]、上質紙[商品名:ニューNPi(日本製紙株式会社製)]、色上質紙[商品名:紀州の色上質(紀州製紙株式会社製)]を準備する一方、塗工紙としては、コート紙[商品名:エスプリコート(日本製紙株式会社製)]、アート紙[商品名:特菱アート(三菱製紙株式会社製)]を、それぞれ、準備した。
また、その一方で、ポリエステル系樹脂からなるインキ用樹脂と公知の溶剤とが、重量基準で、インキ用樹脂:溶剤=10:7の配合割合で配合され、混合されてなる無色インキを調製して、所定量準備した。更に、白色顔料として酸化チタンが30重量%の割合となる量で含有せしめられた白色インキ[商品名:U−Pet450白(株式会社ミノグループ製)]の所定量を準備した。そして、かくして準備された無色インキと白色インキとを用い、それらを重量基準で、無色インキ:白色インキ=10:3の配合割合で配合し、混合した。これによって、最終組成が、重量基準で、酸化チタン:インキ用樹脂:溶剤=3:15.3:48.3とされた印刷インキの所定量を調製し、これを、ベースインキ層形成用の印刷インキとした。このようにして、ベースインキ層形成主要素たるインキ用樹脂と溶剤のそれぞれの含有量の割合が、インキ用樹脂の100重量部に対して、溶剤が316重量部とされ、且つ後述する操作にて、被印刷シートに印刷形成されるベースインキ層中に、酸化チタンが16.4重量%の割合で含むようにされたベースインキ層形成用インキを準備した。なお、かかるベースインキ層形成用インキ中に含まれる酸化チタン(白色顔料)の平均粒径は、0.35μmであった。
また、それとは別に、ポリエステル系樹脂からなるインキ用樹脂と光沢調整材としてのシリカゲルマット剤とが混合せしめられてなる無色インキ[商品名:U−Pet931マットメジウム(株式会社ミノグループ製)]の所定量を準備した。そして、この無色インキと公知の溶剤とを、重量基準で、無色インキ:溶剤=10:7の配合割合で配合し、混合した。これによって、最終組成が、重量基準で、シリカゲルマット剤:インキ用樹脂:溶剤=1:10.25:31.25とされた印刷インキの所定量を調製し、これを、オーバーコートインキ層形成用の印刷インキとした。かくして、オーバーコートインキ層形成主要素たるインキ用樹脂と溶剤のそれぞれの含有量の割合が、インキ用樹脂の100重量部に対して、溶剤が305重量部とされたオーバーコートインキ層形成用インキを準備した。なお、かかるオーバーコートインキ層形成用インキ中に含まれるシリカゲルマット剤(光沢調整材)の平均粒径は、3.9μmであった。
そして、先に準備された被印刷シートと、上記のように調製されて、準備されたベースインキ層形成用インキと、300メッシュのスクリーンとを用いて、被印刷シートの表面における所定大きさの円形領域に、ベースインキ層形成用インキを、公知のスクリーン印刷手法によりベタ印刷し、これを乾燥固化せしめた。これによって、各被印刷シートの表面に、ベースインキ層を、それぞれ印刷形成した。
引き続き、ベースインキ層が印刷形成された被印刷シートと、先に準備されたオーバーコートインキ層形成用インキと、300メッシュのスクリーンとを用い、各被印刷シートにおけるベースインキ層上の中心部の円形領域と外周部のリング状領域とに対して、オーバーコートインキ層形成用インキを、公知のスクリーン印刷手法によりそれぞれベタ印刷し、これを乾燥固化せしめた。これによって、各被印刷シートの表面におけるベースインキ層の上に、図1及び図2に示される如き円形の中心側オーバーコートインキ層部分とリング状の外周側オーバーコートインキ層部分とをそれぞれ印刷形成すると共に、リング状のオーバーコートインキ層非形成部分を設け、以て、かかるオーバーコートインキ層非形成部分にて、○を描く画像を形成した。
このようにして、各種の被印刷シートの表面に、ベースインキ層とオーバーコートインキ層とが表面に積層形成されると共に、かかるベースインキ層上に、オーバーコートインキ層の非形成部分からなる○を描く画像が設けられた印刷物を作製した。
そして、その後、この作製された印刷物のそれぞれについて、表面を硬貨で擦る前に目視して、画像が容易に認識され得るか否かを調べ、隠匿性を評価した。また、その後、各印刷物の表面を硬貨で擦って画像を現出せしめ、そのときの画像が鮮明であるか否かを目視にて調べ、鮮明さを評価した。それらの結果を下記表1に示した。なお、かかる表1では、印刷物の表面を硬貨で擦る前の目視による画像の認識調査について、画像が容易に認識され得たものについては×、画像が認識が困難ではあるものの、それが可能であったものについては△、画像の認識が不能であったものについては○として、隠匿性の評価結果を示した。また、印刷物の表面を硬貨で擦った後の画像の鮮明さに関する調査について、画像が鮮明で、極めて明確に確認され得たものをA、画像が、容易に確認され得るものの、やや不鮮明であったものをB、画像が不鮮明で、容易には確認され得なかったものをCとして、鮮明さの評価結果を示した。
かかる表1の結果から明らかなように、非塗工紙を用いて作製された印刷物にあっては、表面を硬貨で擦る前に、画像を視認することが不可能であり、且つ表面を硬貨で擦った後に、画像が明確に又は容易に確認され得ることが、認められる。このことから、非塗工紙を用いて作製された印刷物が、表面が硬貨にて擦られる前における画像の隠匿性に優れ、しかも、表面が硬貨にて擦られた後には、画像が鮮明に現出せしめられ得るものであるがことが、明確に認識され得るのである。
これに対し、塗工紙を用いて作製された印刷物にあっては、表面を硬貨で擦る前に、画像を容易に視認することが可能であり、表面が硬貨にて擦られる前における画像の隠匿性に劣っていると共に、表面を硬貨で擦った後の画像もやや不鮮明であることがわかる。