JP4743814B2 - コンクリート構造体の補修方法及びコンクリート構造体の補修液 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、無筋コンクリート構造体、鉄筋やPC鋼材を補強材とする鉄筋コンクリート構造体、又はプレストレストコンクリート構造体等のコンクリート構造体の補修方法に関し、特に、電気泳動の原理を用いるコンクリート構造体の補修方法に関する。また、本発明は、このような補修方法に用いられるコンクリート構造体の補修液に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンクリートは、一般的に水や火に強く、日光等による劣化も生じにくく耐久性があるため、種々の用途に使用されてきた。特に、鉄筋コンクリート構造物やプレストレスト構造物は、圧縮強度の強いコンクリートと引張強度の強い鋼材とを組み合わせることによって、力学的に圧縮強度と引張強度のバランスのとれた構造体となっている。また、コンクリートはpH11〜pH14の強アルカリ性であるため、内部の鋼材の表面に不動態皮膜を形成して鋼材の腐食を防ぐことができるという利点もあるため、重要な構造物に広範囲に利用されてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、コンクリートにひび割れ等の欠陥が生じると、漏水や中性化・炭酸化、塩害等の種々の要因によるコンクリート構造体の劣化が進み、構造物としての機能が損なわれるおそれがある。
【0004】
例えば、鉄筋コンクリート構造体やプレストレスト構造体においては、コンクリートのひび割れは補強材としての鉄筋やPC鋼材の劣化を生じる原因となる。また、桟橋や橋梁等の橋柱、河岸壁や護岸壁、貯水槽等のように水と接し、遮水機能を要求されるコンクリート構造体では、ひび割れの劣化は遮水機能を低下させ、漏水の原因となる。特に、鉄筋等の拘束がない無筋コンクリート構造体では、ひび割れがコンクリート構造体内で大きく成長するので、コンクリート構造体としての機能が著しく損なわれる。
【0005】
コンクリート構造体のひび割れを補修する方法としては、例えば、ひび割れにエポキシ樹脂等を注入する方法、止水用急結セメントを用いて修復する方法、ウレタン樹脂等の瞬結材料をひび割れ等の空隙に注入して、空隙内で膨張させる方法等が知られている。しかし、従来のこれらの方法では、コンクリートに対する止水材等の付着力が弱いので、ひび割れ等の空隙内において、コンクリートと止水材との境界部分に隙間が生じてしまい、補修効果が十分に得られない。
【0006】
桟橋や橋梁等の橋柱のようなコンクリート構造物は、水中や土中に埋められており、ひび割れ等の欠陥部分が地表に表れることは殆どない。従って、上記のような補修方法をそのまま採用することは難しい。また、採用しようとすると、多大なコストがかかる。
【0007】
特開平8−2982号公報には、電気泳動現象を利用して、コンクリート構造体の欠陥部に可溶性の無機化合物を供給して析出付着させることにより補修を行う方法が開示されている。しかしながら、この方法では塩化ストロンチウム等の可溶性の無機化合物を使用するので、陽極近傍の溶液が酸性となり、付近のコンクリートの表面が溶けやすくなるという不十分点があった。
【0008】
そこで、本発明は、かかる不十分点がなく、かつ、良好な補修効果が得られるコンクリート構造体の補修方法を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような補修方法に用いられるのに好適な、コンクリート構造体の補修液を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、上記課題を解決するため、本発明のコンクリート構造体の補修方法は、ひび割れ等の空所又は断裂などの欠陥部を有するコンクリート構造体の表面に、溶解してアルカリ性を発揮する、アルカリ土類金属の水酸化物及び/又は酸化物である帯電性粒子又は帯電性粒子及びイオンを含む補修液を当て、コンクリート構造体の表面から奥に向かう泳動電場を形成し、帯電性粒子及び/又はイオンを欠陥部内に進入させて付着させ、これにより欠陥部をふさぎ、ここで、補修液が、中性水と混合した場合、実質的に難溶性の帯電性粒子であって、電解反応による酸の発生によって、溶解してプラスイオンを生じる帯電性粒子を含むことを特徴とする。
ここで、アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが使用できる。
【0010】
また、コンクリート構造体の表面に、補修液を当てる方法は、補修液を内部に貯留する液溜パネルをパッキンを介して当てるか、又は補修液を含浸した保湿材を当てることなどが可能である。
【0011】
本発明のコンクリート構造体の補修液は、アルカリ土類金属の水酸化物及び/又は酸化物である帯電性粒子又は帯電性粒子及びイオンを含むコンクリート構造体の補修液であって、 中性水と混合した場合、実質的に難溶性の前記帯電性粒子であって、電解反応による酸の発生によって、溶解してプラスイオンを生じる前記帯電性粒子を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、帯電性粒子あるいはイオンは電場に従って欠陥部の奥に進んで付着する、あるいは析出するので、欠陥部の細部まで埋めることができる。そして、陽極部で発生する水素イオン濃度の増加を、粒子の溶解により生じるアルカリ性で中和することができるので、付近のコンクリート表面を溶かすこともない。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のコンクリート構造体の補修方法は、ひび割れ等の空所又は断裂等の欠陥部を有するコンクリート構造体の表面に、電気泳動性の帯電性粒子又は帯電性粒子及びイオンを含む補修液を当て、コンクリート構造体の表面から奥に向かう泳動電場を形成し、帯電性粒子やイオンを欠陥部内に進入させて付着させる。
【0014】
本発明において、欠陥部には、塩害、中性化、アルカリ骨材反応、凍害、外部圧力等のような、コンクリート構造体に作用する内的又は外的因子により発生した、ひび割れ、浮き、剥落等、又はコンクリート打設時の施工不良等に起因するジャンカ、巣、クラック、コールドジョイント等の空所や断裂等が含まれる。
【0015】
本発明のコンクリート構造体の補修方法に使用される補修液は、電気泳動性の帯電性粒子又は帯電性粒子及びイオンを含む。この帯電性粒子は、実質的に中性の水の中では難溶性の粒子であり、酸性下では溶解してプラスイオンを生じアルカリ性を発揮する粒子である。
実質的に中性の水の中で難溶性の粒子としては、例えば、アルカリ土類金属の水酸化物及び酸化物が挙げられる。本発明に好ましく用いられるアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0016】
補修液の帯電性粒子の含有量は、飽和水溶液となる量を超える量であり、例えば、少なくとも1種のアルカリ土類金属の水酸化物の溶解度を超える量であることが好ましい。帯電性粒子の含有量がかかる量以下であると、pHが容易に低下してしまうので、コンクリート表面が酸で損傷されることになる。帯電性粒子の含有量が上記した量より多ければ、電解反応によって発生した酸を中和することができるので、pHの低下を抑えることができ、また、帯電性粒子が欠陥部へ充填される。
【0017】
上記帯電性粒子が水等の溶媒に分散して補修液となる。例えば、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を水に分散させると、溶解度が9.8mg/飽和水溶液1dm3(18℃)であるので、溶解度を超えた濃度では帯電性粒子が懸濁状態で水中に存在してスラリー状になる。以下に、泳動電場内で水酸化マグネシウム等の帯電性粒子又は帯電性粒子とイオンが欠陥部内に進入して付着するメカニズムを、水酸化マグネシウムのスラリーを例示して説明する。
【0018】
水酸化マグネシウムの水溶液はアルカリ性を示すが、陽極側(補修液供給側)では、水の電気分解に伴う水素イオン(H+)濃度の増加によって中和され、pHが低くなりスラリー中の水酸化マグネシウムの一部が溶出してマグネシウムイオン(Mg2+)となる。一方、溶けなかった水酸化マグネシウム粒子も帯電する。これらのマグネシウムイオン及び帯電性粒子は、直流電圧を印加した泳動電場中で陰極側(コンクリート構造体奥側)に電気的に引き寄せられる。このマグネシウムイオンは、コンクリート中に存在する水から発生した水酸イオン(OH-)と反応してMg(OH)2となり、析出、付着する。また、水酸化マグネシウム粒子も欠陥部の奥に進んで付着する。従って、ひび割れ等の欠陥部の細孔内に水酸化マグネシウムが析出、付着する。ひび割れ等の欠陥部は電気抵抗が小さいので、優先的に帯電性粒子やイオンが流れやすく、それらが奥まで進入しやすくなっている。
なお、水中で溶解性の粒子を多く含む補修液を使用すると、陽極側で酸性となって長時間通電したまま補修作業を行うとコンクリート表面が溶解するおそれがあるが、本発明によれば、陽極側の酸性を中和することができるので上述のような不十分点も解消される。
【0019】
以下、図面を参照しつつ、欠陥部を有するコンクリート構造体の表面に、補修液を供給する方法、及び泳動電場を形成し、帯電性粒子を欠陥部内へ進入させて補修する方法を具体的に説明する。なお、同一の構成要素については同一の参照番号を付して、以下の説明を省略する。
図1は、本発明の補修方法に用いられる装置を説明するための模式的断面図である。図1において、コンクリート構造体1とその中のひび割れ2が示されている。ひび割れ2はコンクリート構造体1の右側の表面1aに出ている。同面1aに、ゴムパッキン7を介して、補修液を入れた液溜パネル3を設置する。液溜パネル3の内部には、コンクリート構造体面1a上に沿ってチタンメッシュ5が設置されている。このチタンメッシュ5は直流電源8のプラス側に接続されており陽極となる。この例では、コンクリート構造体1の内部に鉄筋6が存在しており、この鉄筋6は直流電源8のマイナス側に接続して陰極とする。鉄筋の入っていないコンクリート構造体の場合には、別途の電極を配置する。
【0020】
直流電圧を印加すると、陽極であるチタンメッシュ5の近傍では水の電気分解に伴う水素イオン濃度の増加によって中和され、pHが低くなり、補修液中の難溶性物質の溶解が生じる。一方、溶解しなかった難溶性物質も帯電する。溶解した難溶性物質及び帯電した難溶性物質は直流電圧を印加した泳動電場中で陰極6側へ引っ張られ、コンクリート構造体内部のひび割れ2へ進入し、コンクリート中に存在する水の水酸基と反応して不溶物を形成し、ひび割れ2の壁に付着する。進入する帯電性粒子は小さいので、欠陥部の細孔にも進入し付着する。このようにして、コンクリート構造体内部のひび割れ等を緻密に補修することができる。なお、陽極となる金属、ここではチタンメッシュには、腐食防止の観点から貴金属メッキ等の処理を施しておくことが好ましい。
【0021】
図2は、本発明の補修方法に用いられる別の装置の原理を説明するための模式的断面図である。
図2には、土層20と、その側面のコンクリート構造体21が示されている。このような構造は、橋脚の台座(アバット)等で多くみられる。このような構造体を補修する場合、コンクリート構造体21の表面21aに、保湿材23を当てる。保湿材23には補修液を貯蔵してある液溜容器24を接続し、連続的に、あるいは逐次的に補修液を補充する。コンクリート構造体21の裏側の土層に鋼材25を打ち込み、鋼材25及び保湿材23間に直流電圧を印加し、保湿材23を陽極、鋼材25を陰極とする。
【0022】
ここで、保湿材としては、セルロース繊維、樹脂ネット、グラスウール、織布、不織布、モルタル等、又は発泡ビーズ等の無機多孔質材料、有機多孔質材料、吸水性の有機高分子化合物等の1種又は2種以上が挙げられる。また、土中に埋設されているコンクリート構造体の場合には、保湿材を使用せずに直接コンクリート構造体表面近傍の土中に、補修液を供給しても良い。
【0023】
【実施例】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
セメント(電気化学工業株式会社製普通ポルトランドセメント)280kg/m3、水道水168kg/m3、細骨材として姫川産の川砂860kg/m3、粗骨材として姫川産の砕石(Gmaxは20mm)1,002kg/m3、及びAE減水剤(エム・エム・ビー社製、商品名「ポゾリスNo.70」)0.7kg/m3を配合してコンクリートを調製した。調製したコンクリートを用いて縦30cm×横40cm×厚さ10cmのコンクリート試験体を作製した。ただし、コンクリート試験体の横40cm×幅10cmの面のほぼ中央に、面と垂直な方向に鉄筋(D13、かぶり5cm)を埋めこみ、図1に示すようなコンクリート試験体を作製した。
【0024】
得られたコンクリート試験体を縦30cm×横40cmの面(正面)に曲げ応力がかかるように力を加えた。コンクリート試験体のこの面(正面)から裏側の対向面に向けて貫通ひび割れ(ひび割れ幅0.2〜0.3mm)が生じた。
【0025】
内部にチタンメッシュ(エルテックコーポレーション社製、商品名「エルガードメッシュ#210」)を設置した液溜パネルを、コンクリート試験体の正面に配置した。また、コンクリート試験体の裏面に水圧供給装置を配置して、同面にかける漏水圧力を0.02MPa(106N/m2)とした。
【0026】
次いで、水酸化カルシウム(和光純薬社製、試薬1級品)を水道水に入れ、攪拌してスラリー濃度10質量%の補修液を調製した。
【0027】
チタンメッシュを陽極とし、コンクリート試験体の内部に埋め込んだ鉄筋を陰極として、コンクリート試験体の正面において1m2当り1Aとなるように、直流電圧を印加した。なお、通電中は、液溜パネル内に調製しておいたスラリー濃度が10質量%のCa(OH)2スラリーを補充して液溜パネル内を満たした。
【0028】
この状態で電流を2週間流したところ、コンクリート試験体の正面に析出物が認められた。このとき、ひび割れの内部は無機化合物で充填されていた。また、電流を流し始めてから1日目〜7日目の漏水量を測定した。その結果を表1に示す。4日目から漏水量は0となり、止水が完全に行われたことが分かった。
【0029】
(実施例2、3)
実施例1において、補修液の種類を表1に示すように替えた以外は同様にして、コンクリート試験体の補修試験を行った。その結果を表1に示す。ただし、各補修液の調製は下記に示すようにして行った。
補修液の調製:
実施例2に使用される補修液として、水酸化マグネシウム(和光純薬社製、試薬1級品)を水道水に入れてスラリー濃度が10質量%の水酸化マグネシウムスラリーを調製した。
実施例3に使用される補修液として、水酸化カルシウム(和光純薬社製、試薬1級品)が5質量%、水酸化マグネシウム(和光純薬社製、試薬1級品)が5質量%となるように、水道水に入れ、攪拌して混合スラリーを調製した。
【0030】
表1から明らかなように、実施例2の補修液を用いた場合には、5日目から漏水率は0となり、実施例3の補修液を用いた場合には、4日目から漏水率が0となることが分かった。なお、電流を2週間流したところ、コンクリート試験体の正面に析出物が認められた。このとき、ひび割れの内部は無機化合物で充填されていた。
【0031】
(比較例1)
実施例1において、補修用スラリーを用いずに水道水のみを入れたパネルを用いて補修試験を行った。その結果を表1に示す。この場合には漏水率が減少することはなかった。
【0032】
【表1】
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、欠陥部内に空隙を残存させず、良好な補修効果が得られるコンクリート構造体の補修方法を提供することができる。また、本発明のコンクリート構造体の補修方法に好適な補修液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の補修方法に用いられる装置の原理を説明するための断面図である。
【図2】本発明の補修方法に用いられる別の装置の原理を説明するための断面図である。
【符号の説明】
1、21 コンクリート構造体
2、22 ひび割れ
3 液溜パネル
4 補修液
5 チタンメッシュ
6、25 鋼材
7 ゴムパッキン
8 直流電源
13 スポンジ
23 保湿材
24 液溜容器
Claims (5)
- ひび割れ等の空所又は断裂などの欠陥部を有するコンクリート構造体の表面に、溶解してアルカリ性を発揮する、アルカリ土類金属の水酸化物及び/又は酸化物である帯電性粒子又は帯電性粒子及びイオンを含む補修液を当て、
前記コンクリート構造体の表面から奥に向かう泳動電場を形成し、
前記帯電性粒子及び/又はイオンを前記欠陥部内に進入させて付着させ、これにより前記欠陥部をふさぎ、
ここで、前記補修液が、中性水と混合した場合、実質的に難溶性の帯電性粒子であって、電解反応による酸の発生によって、溶解してプラスイオンを生じる帯電性粒子を含むことを特徴とするコンクリート構造体の補修方法。 - 前記アルカリ土類金属が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造体の補修方法。
- 前記コンクリート構造体の表面に、前記補修液を当てる方法が、該補修液を内部に貯留するパネルをパッキンを介して当てるか、又は補修液を含浸した保湿材を当てることによることを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリートの補修方法。
- アルカリ土類金属の水酸化物及び/又は酸化物である帯電性粒子又は帯電性粒子及びイオンを含むコンクリート構造体の補修液であって、
中性水と混合した場合、実質的に難溶性の前記帯電性粒子であって、電解反応による酸の発生によって、溶解してプラスイオンを生じる前記帯電性粒子を含むことを特徴とするコンクリート構造体の補修液。 - 前記アルカリ土類金属が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項4記載のコンクリート構造体の補修液。
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