JP4743804B2 - 非水系リチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法 - Google Patents

非水系リチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、正極活物質にスピネル型構造のリチウムマンガン複合酸化物を用いた非水系リチウム二次電池の正極活物質及びその製造方法に関し、ここで使用する正極活物質の出力放電特性、高温放置特性及びサイクル安定性等の改善に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、化石燃料依存による地球温暖化、そして排ガスCO2、NOXによる大気汚染などの環境問題が顕在化し各国で各種規制が検討あるいは実施されている。また21世紀後半には石油資源枯渇によるエネルギー不足が憂慮されている。
このためエネルギーの利用効率向上や石油依存率を下げた社会への移行が検討されている。例えば自動車においてはガソリンエンジンとモータを併用した各種ハイブリッド型自動車が開発されガソリンエンジン単独車よりエネルギ効率を50%程度上げている。また、電源としては効率が高い燃料電池が開発され家庭用電源や電気自動車の電源として実用化が検討されている。
これらのハイブリッド型自動車のエネルギー貯蔵用としては、他の二次電池より電池電圧が高くエネルギー密度が高いリチウム二次電池が適しており開発が盛んである。特に、ハイブリッド型自動車のエネルギー貯蔵用としては高い出力密度が必要であり、高出力放電特性と高いサイクル安定性が要求されている。
【0003】
一般に、リチウム二次電池は正極、負極およびセパレ−タを容器内に配置し、有機溶媒による非水電解液を満たして構成される。正極活物質はアルミニウム箔等の集電体に正極活物質を塗布成形したもので、この正極活物質はLiCoO2、LiNiO2、LiMn24等に代表されるようにリチウムと遷移金属の酸化物からなる粉体が主として用いられ、例えば特開平8−17471号公報にはその製法が詳しく開示されている。これら正極活物質の合成は、一般にリチウム塩粉末(LiOH、LiCO等)と遷移金属酸化物(MnO、CoO、NiO等)粉末を混合し、焼成する方法が広く採用されている。また、この正極活物質の電気伝導性は10−1〜10 6S/cmと一般の導体と比べて電気伝導が低い値であるため、アルミニウムの集電体と正極活物質間もしくは活物質相互間の電気伝導性を高めるように、正極活物質より電気伝導性の良い炭素粉等の導電助材が使用される。実際には、正極材に重量比で数〜数十%程度の炭素粉を混ぜ、さらにPVdF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポチテトラフルオロエチレン)等の結着材と混練した後、ペ−スト状に練り上げて集電体箔に厚み20μm〜100μm程度で塗布、乾燥、プレス工程を経て正電極が製造される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、最近のリチウム二次電池の正極活物質としては安価で安全性が高いことからスピネル構造を持ったリチウムマンガン複合酸化物を用いることが多い。しかし、このリチウムマンガン複合酸化物はスピネル構造をとっていることから、充放電により結晶格子が膨張収縮して結晶構造の崩壊が起こりやすく、このため充放電を繰り返すとサイクル安定性が低下し、容量低下が起こるとされている。
【0005】
従来のリチウムマンガン複合酸化物からなる正極活物質を集電体箔に塗布形成した後の正極活物質の粒形態を見ると、図11に示すように粒径はサブミクロンオーダーの一次粒子が凝集した二次粒子からなっている。通常、その粒形態は様々な大きさと形状を持ち、さらに凝集の仕方のバラツキにより二次粒子径も0.1μm〜100μm程度のバラツキがありその分布にも均一性が見られなかった。この材料を用いたときのサイクルと容量維持率の特性及び放電レートと容量維持率の特性を調べてみると、サイクルが進むにつれて急速な容量の低下がみられ、また高放電レート領域でも容量低下が観察された。
【0006】
これらの原因としては、正極活物質のうちサブミクロンオーダーの微粉は導電助剤と接触不良を起こし易くなること。また、上記したように充放電により結晶格子が膨張収縮して結晶構造の崩壊が起こりやすくなること。さらに、リチウムマンガン複合酸化物は電解液と接触するとマンガンが溶出しやすいという問題があることから、凝集した二次粒子はその粒径が大きく活物質と電解液との接触部分が大きくなるため、マンガンが溶出し易く特に高温下に放置された場合には著しい放電容量の低下が生じるためと考えられる。
【0007】
そこで、例えば特開平11−149926号公報に開示されたリチウムマンガン複合酸化物では、粒子構造と粒子サイズを均一にすることによって充放電容量の増加を図っている。すなわち、粒子構造を八面体形態となし、粒子サイズを0.3〜1μmとしたものである。この例ではリチウムマンガン複合酸化物のLi/Mn比は0.5〜0.525と低い値に設定し、粒結晶の成長を抑制することによって均一な微細粉体を形成したものである。しかしながら、この様な微細粉体であると集電体に塗布し加圧成形しても正電極材としての電極密度が上がらず、上記した従来例と同様に自動車用等としての充放電特性およびサイクル特性を満足することは到底出来ないものであった。
【0008】
本発明は安全性が高く、安価なリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として用いて、正電極材としたとき高い出力放電特性と高温下においてもマンガンが溶出し難くサイクル特性が安定して寿命の長い非水系リチウム二次電池用正極活物質を、ひいてはこれらの特性の良好な非水系リチウム二次電池を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
一般的な酸化物活物質の粒子は、活物質の結晶形を反映して成長した一次粒子と、これが凝集(例えば静電気力や機械的な接触によって集合している形態)または焼結(例えば結晶的に繋がって成長している形態)等で構成された二次粒子からなる。尚、本発明では凝集形態と焼結形態等をまとめて「凝集」と言う。本発明は正極活物質であるリチウムマンガン複合酸化物の一次粒子の形状を原料粉合成の段階で制御すること。さらに、実際集電材に塗布成形した際の当該活物質の密度と粒形態及び占有量を所要の範囲に規定することによって放電容量特性と放電レート特性が改善されることを見出し本発明に至ったものである。
【0010】
即ち、本発明は、Li及び遷移金属からなる複合酸化物を正極活物質として塗布成形した正極を備えたリチウム二次電池において、前記正極活物質はスピネル型構造のリチウムマンガン複合酸化物であって、この正極活物質の原料粉は一次粒子と一次粒子が凝集した二次粒子とからなり、前記一次粒子は平均粒径1〜50μmの略八面体様(以下、単に八面体とか八面体粒子と言うことがある。)の粒子を含んでいる非水系リチウム二次電池用正極活物質である。このとき前記一次粒子及び二次粒子を構成する粒子は結晶の(111)面が成長したものであること。また、少なくとも3%以上が略八面体様の粒子であることが望ましいものである。
【0011】
出力放電特性の向上、言い換えると単位時間当たりに電池から取り出せるエネルギーを増やすには、スピネル型構造のリチウムマンガン複合酸化物の場合、放電の際の結晶へのLiイオンの挿入を効率良くおこなう必要がある。充放電の際の結晶へのLiイオンの挿入と脱離は結晶面の(111)面または(110)面で行われることが分かった。よって、なるべく(111)面または(110)面を結晶の周囲にある電解液や導電材、集電体に触れLiイオンの挿入と脱離を促し電子の授受ができる位置に配置する必要がある。ところが通常の手段で得られるスピネル型構造のリチウムマンガン複合酸化物は球状であるから、結晶の(111)面または(110)面はランダムになっておりLiイオンの脱離と挿入を効率良く行うことができないものであった。
【0012】
そこで、結晶の(111)面を成長させて粒子の表面に(111)面(110)面を規則正しく表れるようにするため一次粒子の結晶性を高める条件の検討を行うと共に電極特性への影響を調べた。まず、一次粒子の形状が異なる4種類の材料、すなわち八面体の材料、八面体と球体の混ざった材料、六面体の材料、球体の材料とそれぞれ作製し、一次粒子の形状と電極特性の関係を調べ鋭意検討した。その結果、従来の球体の一次粒子に比べ八面体形状の一次粒子を含む材料は放電特性が特に優れることが判明した。六面体の材料も僅かに特性の向上が見られたが八面体の材料には及ばなかった。八面体が六面体より勝る理由は、(111)面が成長したものであること、そしてその結晶性が高く充放電に伴う結晶の膨張収縮による結晶の破壊がされ難いということ、及び体積当たりの比表面積が八面体の場合は六面体より多く、(111)面が配列し易く充放電によってリチウムが挿入、離脱する機能が増えるためであると考えられる。
【0013】
また、本発明では原料粉の状態では一次粒子は、凝集しない一次粒子と凝集した二次粒子の二通りの形で分布しているが、何れにしても元になる一次粒子が八面体であることが好ましい。八面体粒子は概略八面体形状であることを確認できれば良く、例えば頂点や辺が欠けた形状であってもこれに含まれるものでこれらを含めて八面体様と呼ぶことにする。また現実には球状や六面体形状また不定形状の粒子も含まれているのであるが、八面体粒子が増加するほど上記した効果は期待できる。八面体粒子の粒径は電極材密度を上げるためにもその平均粒径が1〜50μm、さらに好ましくは1〜20μmの中にあり比較的大小粒子が混在したものであることが望ましい。一次粒子の平均粒径は、好ましくは1.3〜16μmである。このとき単位面積当たりの八面体粒子の個数が3%以下では放電特性の面で効果が少なく、少なくとも3%以上が八面体粒子であることが好ましい。この比率は高い程よく、より好ましくは80%以上である。尚、ここで粒子の占有率については、(株)日立製作所製の走査型電子顕微鏡によるSEM写真をとり、ここでの代表的な視野における単位面積当たりの粒子の個数をカウントして比率を求めたものである。
【0014】
さて、上記は原料粉体のことを述べたものであるが、次に、この正極活物質を集電体に塗布し成形(加圧成形を含む。)した後の正電極について考えると、この状態での活物質は電解液や導電材また集電体に触れる面積や塗布性等が性能に影響すると考えられる。本発明は、電極材密度、粒子形状、平均粒径、占有面積を制御することによってサイクル特性等が改善されることを見出したものである。
即ち、本発明は、Li及び遷移金属からなる複合酸化物を正極活物質として塗布成形した正極を備えたリチウム二次電池において、前記正極活物質はスピネル型構造のリチウムマンガン複合酸化物であって、この正極活物質の原料粉は一次粒子と、一次粒子が凝集した二次粒子とからなり、この正極活物質を集電体に塗布し加圧成形した後の正電極密度は2.47g/cm3以上であると共に一次粒子の平均粒径は1〜20μmの範囲にあり、この一次粒子は略八面体様の粒子を含んでおり、その面積比は60%以上であることを特徴とする非水系リチウム二電池用正極活物質である。
【0015】
以上のように、粒子は八面体形状を含むものであってその粒径は平均粒径が1μm以上で20μm以下が望ましい。好ましくは3μm〜15μm、さらに好ましくは5μm〜10μmである。一次粒子の平均径が1μm以下の材料は集電体と結着剤を添加し集電体に塗布した際の塗布性が悪く均一な電極密度が得られないため実用的ではない。また、塗布後の様子をSEMで観察すると導電材や結着剤の分散性が悪くなっており電極特性が悪い。一方、平均粒径が20μm以上の材料は焼成温度が1100℃を越えており電極特性が悪くなる。通常活物質の塗膜厚さは20μm〜100μm程度に仕上げるのでこれよりも粒径の大きな粒子が多く含まれているとペースト状態で塗布した膜がかすれたり偏ったりと均一な塗膜が得られないため好ましくない。かかる平均粒径は、よりいっそう好ましくは1.2〜13μmである。
本発明の正極活物質のもう一つの特徴は二次粒子から一次粒子の凝集が解かれ、ボロボロと剥がれるようにして一次粒子が分散されることにある。従って、ペースト状にして塗布した後プレスで加圧成形する際には、二次粒子から粒子がほぐれ一次粒子が分散することになる。このときの加圧成形によって二次粒子はほとんどが確認ができない状況になっている。
【0016】
この一次粒子も八面体様であることが望ましく、これによって放電容量特性や放電レート特性が改善される。また一次粒子は、正極活物質が導電材や結着剤と混合し集電体に塗布し加圧して正電極として形成されるため、平均粒径ばかりではなく電極に塗布された一次粒子の分布により電極特性に影響を与える。そこで、正極材作製後、その表面に正極活物質が占める面積比をSEMで撮影した写真から求めると、一次粒子が電極の単位面積当たり60%以上占めていれば特性が安定していることが判った。好ましくは65%以上が良い。60%以下であると容量低下やサイクル特性の低下が著しく見られることがわかった。尚、残りは導電材や結着材が主として占めることになる。ここで一次粒子の占有面積比については、(株)日立製作所製の走査型電子顕微鏡によるSEM写真をとりここでの代表的な視野における単位面積当たりの八面体粒子の面積比を画像処理して比率を求めたもので、平均粒径については同じ視野における一次粒子200個の大きさの平均とした。
【0017】
次に、本発明の非水系リチウム二次電池用正極活物質の製造方法について説明する。製造工程の中で八面体の粒子を得るために最も重要な製造過程は、焼成工程の熱処理条件と造粒と解砕の工程を設けたことである。適切な焼成を行うことによって八面体様の粒子の成長を促すことができる。この焼成温度が600〜700℃では一次粒子の中に八面体の結晶は確認できず、電極特性も劣る。八面体の粒子が確認できるのは焼成温度800℃以上の場合であり電極特性も優れる。更に焼成温度を上げると粒子の中の八面体の比率は増すが、1100℃で焼成した材料では結晶の溶融が始まり正極活物質としての特性が低下する。以上のことより、焼成温度は大気中雰囲気で800℃以上1100℃未満の範囲が良い。望ましい焼成温度は950〜1080℃である。更に望ましくは1050℃である。正極活物質は導電体、バインダー等と混合して集電体に塗布後、加圧し電極とされるため、電極の密度向上は単位体積当たりの容量向上につながる。このことからも、なるべく高い焼成温度の900〜1080℃が良い。焼成時間は1時間以上行うことが好ましく、更に好ましくは4時間以上である。
【0018】
ここで900℃以上で焼成を行った材料については、材料が還元してしまい電極特性の低下が著しいため酸化させる必要がある。そこで、焼成後に再度第2の焼成を行うことが有効である。この焼成温度は格子定数を小さく均一に揃えるためのもので、これが出来るのが600℃±100℃であることが確認されている。以上より八面体様の一次粒子を得て、さらにこの一次粒子の格子定数を抑制するためには800℃以上1100℃未満の温度で行う第1の焼成の工程と、さらに600℃±100℃で行う第2の焼成の工程を含むことが重要である。第2の焼成を行わないとLi2MnO3やMn3O4等が残存しやすいので、第2の焼成はLi2MnO3やMn3O4の分解温度以上である600℃±100℃としている。
また、第2の焼成の代わりに900℃以上で焼成した場合は、その後、酸素雰囲気中で焼成することで酸化を行う処置をとることでも性能を改善することが出来る。
【0019】
次に、八面体様の粒子を得るために重要なポイントとしては、上記した焼成を行う前に粉体の造粒を行い適当な顆粒を作り、上記第1の熱処理を行った後にあえて解砕を行うことである。すなわち、原料粉を混合した後、単に焼成を行った場合より、混合後スプレードライヤー等を用いて10〜200μ程度の顆粒を作ったのち焼成した場合の方が八面体の一次粒子を生成しやすい。スプレードライヤーとは、原料粉体にPVA(ポリビニルアルコール)等の有機物質と純水を加えスラリーとし、このスラリーを所要の速度で回転する円盤上に滴下すると、滴下されたスラリーはコリオリの力を受け円盤から外径方向に飛散し、空中で自身の表面張力でほぼ球状の粒子を得ることである。粒子径はスラリーを滴下する円盤の回転数を適宜選ぶことにより制御でき、高速で回転するほど粒子径は小さくなる。
【0020】
この粒子を乾燥して上記した条件で焼成すれば、焼成完了時に一次粒子が八面体状の粒形態をなし、この一次粒子が凝集して二次粒子を形成している。このときの二次粒子は丁度ぶどうの房のようにほぼ一定の粒径を持つ一次粒子が寄り集まって凝集した形態をとっている。そして、さらにこの二次粒子から構成された原料粉体を解砕する。そうするとぶどうの房からぶどうの粒がボロボロと解かれるように一次粒子となって分散し、一次粒子と二次粒子が混在した状態となっており、このときの二次粒子は凝集がほどけやすい状態となっている。
以上の焼成温度、焼成前の粉体制御により八面体を含有する正極活物質が得られる。
【0021】
次に、正極活物質の放電特性およびサイクル安定性の向上には、上述してきた一次粒子の形状と同様にその組成が重要である。スピネル型構造のリチウムマンガン複合酸化物の場合、組成は原子数の比であるLi/Mn比で0.5〜0.8が一般的であるが、本発明では特に0.56≦Li/Mn≦0.62としたものである。Li/Mn比が0.56以下ではサイクル特性が悪く500サイクルで充放電容量が初期の70%以下になり実用的でない。他方0.62を越えると充放電容量が100mAh/g以下になり実用的でない。より好ましい範囲は0.56≦Li/Mn≦0.60であり、更に好ましくは0.57≦Li/Mn≦0.59である。このように原料粉のときから組成を厳密により好ましく選定することによってマンガンの溶出を抑えることに効果がある。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に実施例を挙げ、本発明を説明する。尚、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
(実施例A)
図1に本発明の正極活物質の原料粉のSEM写真(3000倍)を示し、図2にその模式図を示す。正極活物質は八面体様に成長した一次粒子1と一次粒子が凝集することによって二次粒子2を形成している。従って、この状態での正極活物質3は八面体状に成長した粒径の異なる一次粒子1と二次粒子2の集まったものである。一次粒子の平均粒径はほぼ1〜50μm程度となっている。尚、図2は理解しやすいように模式的に示したものであって、その縮尺や密度等については実際とは異なる。また粒子は必ずしも八面体ばかりではなくその一部が欠けたものや不定形のものも含まれている。
【0023】
次に、図3に本発明で作成した正極活物質を使って塗布、加圧成形した後の正電極表面のSEM写真(3000倍)を示し、図4にその模式図を示す。正極活物質は圧力で潰されたところが見られるが八面体粒子を含んでいることが分かる。八面体に成長した粒径の異なる一次粒子1が均一に塗布されている。この状態での正極活物質は八面体粒子(一次粒子)4と八面体であった(変形した)粒子と電極組織(導電材及び結着材)5が集まったものである。尚、模式図4は理想的な状態を示している。図2と同様その縮尺や密度等については実際とは異なる。
【0024】
本実施例では、原料として二酸化マンガンと炭酸リチウムを使用し、原子比でLi/Mn比が0.58になるよう秤量し、樹脂製のボールミルにより湿式で50時間混合した。混合液にはPVA溶液を固形分に換算して1wt%添加混合後、スプレードライヤにより造粒し乾燥させて10〜100μmの顆粒を作成した。
次に1回目の焼成について、第1の焼成温度(第1の熱処理)をそれぞれ600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃と変えて、持続時間は共に10時間とした。
【0025】
その後、ライカイ機によりスプレードライヤで作成した顆粒の形態が残らぬよう解砕し、その後で解砕時に傷付いたり変形した八面体状粒子を補正するために2回目の熱処理焼成を第1の焼成と同じ条件で行った。尚、この2回目の焼成については状況によるもので必ずしも行う必要はない。
さらに、第1の焼成において焼成温度が900〜1100℃の実施例については酸化させて格子定数を小さくするために600℃で5時間の第2の焼成(第二の熱処理)を行った。これらの製造工程を図5に示す。
本実施例により、得られた正極活物質原料粉体をSEMにより観察したところ、第1の焼成温度が800℃以上の実施例については八面体の結晶が確認された。さらにそのSEMによる観察像から八面体と確認できる一次粒子の個数比率と平均粒径を測定した結果とBET比表面積計で測定した結果を表1に示す。尚、ここで一次粒子は、(株)日立製作所製の走査型電子顕微鏡によるSEM写真をとりここでの代表的な視野における単位面積当たりの一次粒子の個数をカウントして比率を求めたもので、平均粒径については同じ視野における一次粒子200個を写真上での大きさを水平計測しその平均とした。
【0026】
【表1】
Figure 0004743804
【0027】
表1に示すように、八面体の結晶は焼成温度600〜700℃の比較例1〜2では確認できないが、焼成温度800℃以上の実施例3〜4と比較例3で確認することができた。八面体の個数比率は焼成温度を上げるほど高くなり、1000℃以上で殆どが八面体の一次粒子と一次粒子が凝集した二次粒子になることが確認された。しかし、焼成温度が1100℃の比較例3では結晶の溶融が生じて実用に供さないものであった。また一次粒子の平均粒径は比較例1〜2では成長が見られないが焼成温度が高くなるほど大きくなることがわかる。焼成温度800℃〜1080℃で1μm〜20μmの平均粒径が得られることが確認された。但し、上限温度が1100℃未満であればこれに近い結果が得られると考える。また、比表面積については粒径が成長するほど小さくなるので、表に示すような数値であり約1m2/g以下が望ましいと言える。
【0028】
正極活物質の特性を評価するための正電極の作製に当たっては本実施例の正極活物質、炭素系導電材及び結着剤を重量%で表してそれぞれ、90:5.5:4.5(wt%)の割合で混合し、均一に混合されたスラリーを、厚み15μmのアルミ集電体箔上に塗布した後90℃で乾燥し、プレスにて1.5ton/cm2で加圧し、約100μmの塗膜を形成した。作製した正電極表面の模式図を図4に示す。図のように活物質の二次粒子の凝集または焼結がほどけて、混在した一次粒子4が、導電材及び結着剤からなる電極組織5の中に均一に分散されていることがわかる。このときの電極密度と、一次粒子の平均粒径と、一次粒子とそれ以外の導電材及び結着材との面積比を測定した。尚、測定に当たっては(株)日立製作所製の走査型電子顕微鏡によるSEM写真をとりここでの代表的な視野における単位面積当たりの一次粒子の面積比を画像処理で比率を求めたもので、平均粒径については同じ視野における一次粒子200個の大きさの平均とした。その結果を表2に示す。
【0029】
次に、リチウム二次電池の負極としては通常炭素系材料を使用するが、本実施例では評価結果に負極の特性が加味されないようリチウム電極を用い試験用電池を作成した。電解液には1.2MLiPF6を電解質としたエチルカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒を用いた。本試験電池に使用した電極の観察結果と試験電池を2Cで放電したときの放電容量、0.33Cで放電したときの初期放電容量、50サイクル目の放電容量を表2に示す。
【0030】
【表2】
Figure 0004743804
【0031】
表1と表2のデータより電極密度2.47g/cm3以上で平均粒径1〜20μmの八面体粒子が60%以上確認される活物質を使用すると短時間(初期容量測定時の1/6の時間)で放電を行う2Cでの放電容量は初期容量の90%以上を確保しており、八面体の一次粒子が含まれない活物質と比較して高い放電容量を持つ。また初期放電容量は100mAh/g以上が得られ、50サイクル目の容量も八面体の一次粒子が含まれる場合に約100mAh/gが得られ、八面体の一次粒子が含まれる場合に優れた放電特性が得られることが判る。
図6に実施例3のサイクルと容量維持率の関係を示した。従来材で見られた放電容量の急速な低下もなく、初期容量の維持率は50サイクルで約98%有し本発明の効果が確認できる。
また、図7に実施例3の放電レートと容量維持率の関係を示す。本発明の正極活物質を使うと、放電レートを上げた場合、言い換えると短時間に放電した場合、従来の材料では放電レート2Cで約80%の放電容量維持率しかないが、本発明の正極活物質では約94%を有し本発明の効果が優れることが判る。
因みに比較例2のサイクルと容量維持率の関係を図9に示し、同じく放電レートと容量維持率の関係を図10に示す。このように比較例の場合は上記実施例のような優れた特性が得られないことが確認された。
【0032】
(実施例B)
本実施例では、原料として二酸化マンガンと炭酸リチウムを使用し、原子比でLi/Mn比が0.58になるよう秤量し、樹脂製のボールミルにより湿式で50時間混合した。混合液の乾燥は150℃に設定した乾燥機で行い、乾燥後ライカイ機により解砕した。
次に1回目の焼成について、第1の焼成温度を比較例3では700℃で、実施例5では1000℃とし、持続時間はそれぞれ10時間とした。その後、ライカイ機により100μm以下になるまで解砕した。
さらに、第1の焼成において焼成温度が1000℃の実施例5については酸化させるために酸素中600℃で5時間の第2の焼成を行った。図8にこのときの製造工程を示す。
本実施例により、得られた正極活物質をSEMにより観察したところ、第1の焼成温度が1000℃の実施例5については八面体の結晶が確認された。さらにそのSEMによる観察像から八面体と確認できる一次粒子の個数比率と平均粒径を測定した結果とBET比表面積計で測定した結果を表3に示す。尚、ここで一次粒子は、(株)日立製作所製の走査型電子顕微鏡によるSEM写真をとりここでの代表的な視野における単位面積当たりの一次粒子の個数をカウントして比率を求めたもので、平均粒径については同じ視野における一次粒子200個の大きさの平均とした。
【0033】
【表3】
Figure 0004743804
表3に示すように、八面体の結晶は焼成温度700℃の比較例4では比較例1〜3と同様に確認できないが、焼成温度1000℃の実施例5で確認することができた。その八面体の個数比率はスプレードライヤを使用した実施例1〜4と比べ低下した。また一次粒子の平均粒径は小さくなり比表面積が大きくなった。
【0034】
次に正極活物質の特性評価を実施例Aと同様の方法と項目で行った。その評価結果を表4に示す。
【0035】
【表4】
Figure 0004743804
【0036】
表3と表4のデータより実施例Aと同様に八面体の一次粒子が確認される活物質を使用すると短時間で放電を行う2Cでの放電容量は初期容量の90%以上を確保しており、八面体の一次粒子が含まれない活物質と比較して高い放電容量を持つ。また初期放電容量は100mAh/g以上が得られ、50サイクル目の容量も八面体の一次粒子が含まれる場合に約100mAh/gが得られ、八面体の一次粒子が含まれる場合に優れた放電特性が得られることが判る。
本実施例によりスプレードライヤーを使用しなくても一般的な乾燥機使用した場合にも、第一の熱処理を2回実施しない場合にも、また、第2の焼成を酸素雰囲気中で実施した場合にも八面体の一次粒子が含まれれば優れた特性が得られることを示すものである。
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、正極活物質であるリチウムマンガン複合酸化物の一次粒子の形状を略八面体形状に制御し、その個数比率を規定した。また、集電体における当該活物質の粒形態と含有量を所要の範囲に制御し、さらに、リチウムカンガン複合酸化物の原料粉のLi/Mn比を所要の範囲に規定した。以上のことより高い出力放電特性とサイクル特性が安定して寿命の長い非水系リチウム二次電池用正極活物質を提供することができた。そして、この正極活物質を用いた特性の良好な非水系リチウム二次電池を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の正極活物質の原料粉体の走査電子顕微鏡写真の一例である。
【図2】図1の写真の模式図である。
【図3】本発明の正極活物質を正電極材に成形した後の走査電子顕微鏡写真の一例である。
【図4】図2の写真の模式図である。
【図5】本発明の実施例Aの製造工程を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施例3のサイクルと容量維持率の特性を示す図である。
【図7】本発明の実施例3の放電レートと容量維持率の特性を示す図である。
【図8】本発明の実施例Bの製造工程を示すフローチャートである。
【図9】比較例2のサイクルと容量維持率の特性を示す図である。
【図10】比較例2の放電レートと容量維持率の特性を示す図である。
【図11】従来例の正極活物質の原料粉体の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1:一次粒子
2:二次粒子
3:正極活物質
4:一次粒子及び二次粒子の凝集が解けた一次粒子
5:電極組織

Claims (1)

  1. Li及び遷移金属からなる複合酸化物を正極活物質として塗布成形した非水系リチウム二次電池用正電極において、
    前記正極活物質はスピネル型構造のリチウムマンガン複合酸化物であって、該リチウムマンガン複合酸化物は、そのリチウムとマンガンの原子比が0.56≦Li/Mn≦0.62(但し、1/1.8及び1.05/1.85を除く)であり、この正極活物質は一次粒子と、一次粒子が凝集した二次粒子とからなり、前記一次粒子及び二次粒子を構成する粒子の少なくとも3%以上が略八面体様の粒子であり、
    この正極活物質を集電体に塗布し加圧成形した後の正電極において、正電極密度は2.47g/cm3以上であると共に、前記一次粒子の平均粒径は1.2〜13μmの範囲にあり、前記正電極単位面積に対して、この一次粒子の占める面積比は60%以上であることを特徴とする非水系リチウム二次電池用正電極。
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