ここで、通常空気入りタイヤは、使用時に空気入りタイヤの接地部に作用する荷重によって、接地部分が変形しながら路面に接地する。特に、トラックやバスなど比較的重量が重い車両に用いる空気入りタイヤでは、その使用時に大きな荷重が作用するため、接地に伴って大きな変形が発生し、特に曲げ変形は、タイヤ幅方向におけるトレッド部の中央域と比較してショルダー部側で大きく発生する。そして、このような空気入りタイヤでは、その使用に伴う摩耗が、中央域よりもショルダー部の方が進行し易くなり、トレッド部の中央域とショルダー部との半径差が大きくなるため、タイヤ寿命の末期に近づくにつれてこの半径差が拡大し、接地時のショルダー部の変形も大きくなってしまう。
また、空気入りタイヤは、その表面にタイヤ周方向に沿って延びる複数本の周方向溝が所定間隔で形成されたトレッドパターンを有しているものが数多く存在する。このようなトレッドパターンにおいて、タイヤ周方向の両端に位置する周方向溝、即ち、ショルダー部側に設けられた周方向溝であるショルダー側周方向溝では、上述したようにショルダー部側の変形が大きくなっていることにより、ショルダー側周方向溝に大きな圧縮力が繰り返し作用する。
さらに、近年の空気入りタイヤでは、車両の走行に伴う径成長を抑制するために、ベルト層の少なくとも1層に、タイヤ周方向、或いはタイヤ周方向に近い角度で形成されたコードを有したベルト層を用いているものがある。このようなベルト層を有する空気入りタイヤの場合には、タイヤ赤道面に対して傾斜したコードを有するベルト層である傾斜ベルトを設ける場合でも、タイヤ内部の温度上昇を防ぐ目的から1層程度である場合が多くなっている。このため、このような空気入りタイヤでは、ショルダー側周方向溝周辺の剛性が確保され難くなる虞があり、上述したようにショルダー側周方向溝に大きな圧縮力が繰り返し作用した場合には、ショルダー側周方向溝が繰り返し変形する虞がある。
ショルダー側周方向溝周辺の剛性、つまり、ベルト層の両端部の剛性を向上する手法としては、特許文献1に記載の空気入りタイヤでもこの部分の剛性を向上させており、この空気入りタイヤでは、上述したようにベルト層のタイヤ幅方向における両端部に、2以上の屈曲部を形成して剛性を向上させている。しかし、このような形状では、高周波域のロードノイズを低減させることを目的とした場合には効果を得ることができるが、ショルダー側周方向溝に大きな圧縮力が繰り返し作用した場合に対する剛性としては不足する虞がある。このため、ショルダー側周方向溝に大きな圧縮力が繰り返し作用した場合には、溝底にクラックが発生する虞があった。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ベルト層の数を抑えつつ、周方向溝のクラックを抑制できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明に係る空気入りタイヤは、トレッド部のトレッド表面にタイヤ周方向に形成された周方向溝を複数有すると共に前記トレッド部のタイヤ径方向内方に複数のベルト層を有する空気入りタイヤにおいて、前記複数の周方向溝のうち、タイヤ幅方向の両端に位置する前記周方向溝はショルダー側周方向溝となっており、前記複数のベルト層のうち、前記ショルダー側周方向溝のタイヤ幅方向の位置と同じ位置において、最もタイヤ径方向外方に位置する前記ベルト層は補強ベルト層となっており、前記補強ベルト層は、タイヤ周方向に対して65°〜85°の範囲内の角度で傾斜したコードを有しており、さらに、前記補強ベルト層は、タイヤ幅方向における両側の2箇所に位置していると共に、2箇所の前記補強ベルト層は、互いに他方の前記補強ベルト層から離れており、2箇所の前記補強ベルト層は、タイヤ幅方向における幅が前記ショルダー側周方向溝の溝開口部の幅以上の幅でタイヤ径方向外方に向けて突出した補強部を、少なくとも前記ショルダー側周方向溝のタイヤ径方向内方の位置に有していると共に、タイヤ幅方向における前記補強部の両側の部分で、前記補強ベルト層のタイヤ径方向内方に位置する前記ベルト層に接していることを特徴とする。
この発明では、ショルダー側周方向溝のタイヤ径方向内方に補強ベルト層を設けている。この補強ベルト層は、タイヤ周方向に対して65°〜85°の角度で傾斜したコードを有しているため、断面方向の曲げ剛性が高くなっている。このため、ショルダー側周方向溝周辺の曲げ剛性の向上を図ることができる。また、この補強ベルト層は、タイヤ径方向外方に向けて突出した補強部を形成しており、補強部のタイヤ幅方向における両側の部分で、補強ベルト層のタイヤ径方向内方に位置する他のベルト層に接している。このため、補強部の部分では、断面方向の曲げ剛性がさらに高くなっていると共に、タイヤ径方向における剛性が高くなっている。これらにより、補強ベルト層付近の曲げ剛性を向上させることができるので、ベルト層の数を少なくした場合でも、ショルダー側周方向溝の周囲の剛性を向上させることができる。従って、空気入りタイヤの使用時に荷重が作用し、ショルダー側周方向溝に大きな圧縮力が作用した場合でも、ショルダー側周方向溝が変形することを抑制することができる。この結果、ベルト層の数を抑えつつ、周方向溝のクラックを抑制することができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記補強ベルト層のタイヤ径方向内方に位置する前記ベルト層と前記補強ベルト層とは、前記補強部が形成されている位置で離間していると共に、前記ベルト層と前記補強部とにより中空部を区画していることを特徴とする。
この発明では、補強ベルト層のタイヤ径方向内方に位置する他のベルト層と、補強ベルト層の補強部とは離間しており、これらの間には中空部が形成されているので、その分、ベルト層の体積を小さくすることができ、軽量化を図ることができる。この結果、軽量化を図りつつ、周方向溝のクラックを抑制することができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記補強ベルト層のタイヤ径方向内方に位置する前記ベルト層と前記補強部とが離間している部分は、タイヤ径方向において最も離れている部分の距離が、前記補強ベルト層が有するコードの1本分以上の距離となっていることを特徴とする。
この発明では、補強ベルト層のタイヤ径方向内方に位置する他のベルト層と、補強ベルト層の補強部との距離が、補強ベルト層のコード1本分以上離れているので、より確実に補強部の剛性を向上させることができる。この結果、より確実に周方向溝のクラックを抑制することができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記中空部には、硬質ゴム、若しくはタイヤ周方向に対して0°〜10°の傾きを有する有機繊維の少なくともいずれか一方が設けられていることを特徴とする。
この発明では、中空部に硬質ゴムや有機繊維を設けているので、補強部周辺の剛性を、より確実に向上させることができる。この結果、より確実に周方向溝のクラックを抑制することができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記補強部は、タイヤ径方向外方に向かうに従ってタイヤ幅方向における幅が狭くなっている台形状の形状で形成されていることを特徴とする。
この発明では、補強部を台形状の形状で形成しているので、補強部の断面方向の曲げ剛性を、より確実に向上させることができ、これにより、ショルダー側周方向溝の周辺の剛性を、より確実に向上させることができる。この結果、より確実に周方向溝のクラックを抑制することができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記補強部は、最もタイヤ径方向外方に位置し、タイヤ幅方向における幅が最も狭くなっている部分のタイヤ幅方向における幅が、前記ショルダー部周方向溝の溝開口部の幅以上の幅になっていることを特徴とする。
この発明では、台形状の形状で形成された補強部のうち、最もタイヤ径方向外方に位置し、タイヤ幅方向における幅が最も狭くなっている部分のタイヤ幅方向における幅を、ショルダー側周方向溝の溝開口部の幅以上の幅にしているので、ショルダー側周方向溝に作用する圧縮力を、ショルダー側周方向溝のタイヤ径方向内方に位置する補強部で、より確実に受けることができる。これにより、ショルダー側周方向溝が変形することを、より確実に抑制することできる。この結果、より確実に周方向溝のクラックを抑制することができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記補強部は、タイヤ径方向外方に向かうに従ってタイヤ幅方向における幅が狭くなり、最もタイヤ径方向外方に位置する部分に角部を有する三角形状の形状で形成されていることを特徴とする。
この発明では、補強部を三角形状の形状で形成しているので、タイヤ径方向外方に突出した補強部を、容易に形成することができ、容易にショルダー側周方向溝の周辺の剛性を向上させることができる。この結果、容易に周方向溝のクラックを抑制することができる。
また、この発明に係る空気入りタイヤは、前記複数のベルト層は、前記ベルト層が有するコードがタイヤ周方向に沿って形成される前記ベルト層である0度ベルト層を、少なくとも1層含んでいることを特徴とする。
この発明では、複数のベルト層のうち、少なくとも1層を0度ベルト層としているため、この0度ベルト層によってタイヤ周方向における張力の向上を図ることができるので、
ベルト層の数を低減できる。この結果、より確実にベルト層の数を抑えつつ、周方向溝のクラックを抑制することができる。
本発明に係る空気入りタイヤは、ベルト層の数を抑えつつ、周方向溝のクラックを抑制することができる、という効果を奏する。
以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。また、空気入りタイヤのトレッドパターンは、リブパターンやブロックパターン、リブラグパターン等があるが、以下の説明は、本発明に係る空気入りタイヤの一例として、トレッドパターンがリブパターンで形成される空気入りタイヤについて説明する。
(実施の形態)
以下の説明において、タイヤ幅方向とは、空気入りタイヤの回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内方とはタイヤ幅方向において赤道面に向かう方向、タイヤ幅方向外方とは、タイヤ幅方向において赤道面に向かう方向の反対方向をいう。また、タイヤ径方向とは、前記回転軸と直交する方向をいい、タイヤ周方向とは、前記回転軸を回転の中心となる軸として回転する方向をいう。図1は、この発明に係る空気入りタイヤの要部を示す子午断面図である。同図に示す空気入りタイヤ1は、子午面方向の断面で見た場合、タイヤ径方向の最も外側にゴム材料からなるトレッド部5が形成されており、このトレッド部5のトレッド表面、即ち、当該空気入りタイヤ1を装着する車両(図示省略)が走行した場合に、路面と接触する部分はトレッド面6として形成されている。このトレッド面6には、トレッドパターンを形成する周方向溝20が複数設けられており、さらに、この周方向溝20によって区画された陸部であるリブ25が複数設けられている。
また、トレッド部5のタイヤ径方向内方側には、ベルト層30が複数設けられている。さらに、トレッド部5のタイヤ幅方向における端部からタイヤ径方向内方側の所定の位置までは、サイドウォール部7が設けられている。また、前記ベルト層30のタイヤ径方向内方、及び前記サイドウォール部7の赤道面3側には、カーカス11が連続して設けられており、このカーカス11の内側、或いは、当該カーカス11の、空気入りタイヤ1における内部側には、インナーライナ15がカーカス11に沿って形成されている。
また、トレッド部5のタイヤ幅方向における両端には、ショルダー部8が位置している。さらに、トレッド部5は、当該空気入りタイヤ1を子午面断面で見た場合に、ショルダー部8付近よりもトレッド面6の赤道面3付近の方がタイヤ径方向外方に位置するように、トレッド面6がタイヤ径方向外方に向けて凸となった曲面の形状で形成されている。つまり、トレッド部5は、トレッド面6のうち、赤道面3近傍の部分が最もタイヤ径方向における径が大きくなり、タイヤ幅方向における端部であるショルダー部8の方向に向かうに従って径が小さくなるような曲面の形状で形成されている。
また、前記周方向溝20は、タイヤ周方向に沿って形成されており、トレッド面6には、このようにタイヤ周方向に沿って形成された周方向溝20がほぼ平行にタイヤ幅方向に並んで複数形成されている。なお、この周方向溝20は、正確にタイヤ周方向に形成されていなくてもよい。周方向溝20は概ねタイヤ周方向に形成されていればよく、タイヤ幅方向に斜めに形成されている場合や、曲線、またはジグザグ状などの形状で形成されていてもよい。
このように複数設けられた周方向溝20のうち、タイヤ幅方向両端に位置する周方向溝20はショルダー側周方向溝21となっている。詳しくは、ショルダー側周方向溝21は、トレッド面6の接地幅のタイヤ幅方向における端部から、タイヤ幅方向内方に接地幅の1/4となる位置よりも、タイヤ幅方向外方に位置している。また、このショルダー側周方向溝21は、複数のリブ25のうち、タイヤ幅方向の両側に位置するリブ25であるショルダーリブ26に隣接してショルダーリブ26のタイヤ幅方向内方側に位置している。さらに、複数のリブ25のうち、ショルダー側周方向溝21を介してショルダーリブ26のタイヤ幅方向内方に位置するリブ25は、セカンドリブ27となっている。つまり、ショルダー側周方向溝21は、ショルダーリブ26とセカンドリブ27との間に形成されている。
また、複数のベルト層30は、タイヤ幅方向の両端に位置するショルダー部8のうちの一方のショルダー部8におけるタイヤ径方向内方の位置から、他方のショルダー部8におけるタイヤ径方向内方の位置にかけて形成されたベルト層30を、2層有している。この2層のベルト層30のうち、タイヤ径方向外方に位置するベルト層30は、当該ベルト層30を形成するコード(図示省略)が、タイヤ周方向に沿って形成された0度ベルト層31となっている。また、もう1層のベルト層30は、当該ベルト層30を形成するコード(図示省略)が、タイヤ周方向に対して、タイヤ幅方向に傾いて形成された傾斜ベルト層32となっている。
また、複数のベルト層30のうち、ショルダー側周方向溝21のタイヤ幅方向の位置と同じ位置において、最もタイヤ径方向外方に位置するベルト層30は、補強ベルト層35となっている。つまり、複数のベルト層30は、タイヤ径方向における最外方、或いは、0度ベルト層31のタイヤ径方向外方に、補強ベルト層35を有している。この補強ベルト層35は、タイヤ幅方向における両側の2箇所に位置しており、2箇所の補強ベルト層35は、互いに他方の補強ベルト層35から離れている。また、補強ベルト層35は、ショルダー側周方向溝21のタイヤ径方向内方に、タイヤ径方向外方に突出した補強部36を有している。
図2は、図1のA部詳細図である。補強ベルト層35に形成された補強部36は、補強ベルト層35が屈曲することによって形成されており、概ねタイヤ幅方向に沿って形成された補強ベルト層35がショルダー側周方向溝21のタイヤ径方向内方の位置付近でタイヤ径方向外方に突出している。補強部36の詳しい形状は、補強ベルト層35において、ショルダー側周方向溝21のタイヤ幅方向における位置と同じ位置の、タイヤ幅方向における両側の2箇所の部分で補強ベルト層35がタイヤ径方向外方に向けて屈曲している。この屈曲している方向は、タイヤ径方向外方に向かうに従って、2箇所で屈曲している部分同士のタイヤ幅方向における間隔が狭くなる方向に屈曲しており、この部分は傾斜部38となっている。つまり、補強部36は2箇所に傾斜部38を有している。
また、補強部36は、傾斜部38のタイヤ径方向外方の端部でさらに屈曲しており、その屈曲の方向は、2箇所の傾斜部38から、互いに他方の傾斜部38に向かう方向に屈曲している。つまり、2箇所の傾斜部38は、タイヤ径方向外方の端部間が、ほぼタイヤ幅方向に沿って形成されている部分によって接続されており、この部分は補強部外方部37となっている。このため、補強部外方部37は、補強部36において最もタイヤ径方向外方に位置しており、タイヤ幅方向における幅が最も狭くなっている。
換言すると、補強部36は、タイヤ径方向内方からタイヤ径方向外方に向かうに従ってタイヤ幅方向における幅が狭くなっている台形状の形状で形成されている。このような形状で形成される補強部36が有する補強部外方部37のタイヤ幅方向における幅は、当該補強部36のタイヤ径方向外方に位置するショルダー側周方向溝21がトレッド面6に対して開口している部分である溝開口部22の、タイヤ幅方向における幅以上の幅になっている。つまり、補強部外方部37は、当該補強部外方部37のタイヤ幅方向における幅をWとし、ショルダー側周方向溝21の溝開口部22のタイヤ幅方向における幅をW1とした場合に、W1≧Wの関係となるように形成されている。このため、補強部36全体でも、タイヤ幅方向における幅がショルダー側周方向溝21のタイヤ幅方向における幅よりも広くなっており、つまり補強部36は、タイヤ幅方向における幅が、ショルダー側周方向溝21の溝開口部22の幅以上の幅でタイヤ径方向外方に向けて突出して、補強ベルト層35に形成されている。
また、補強ベルト層35は、0度ベルト層31のタイヤ径方向外方に設けられているが、補強ベルト層35の補強部36は、タイヤ径方向外方に突出している。このため、この補強ベルト層35は、補強部36以外の部分が、当該補強ベルト層35のタイヤ径方向内方に位置するベルト層30である0度ベルト層31に接している。つまり、補強ベルト層35は、タイヤ幅方向における補強部36の両側の部分で、0度ベルト層31に接している。これにより、補強ベルト層35と0度ベルト層31とは、補強部36が形成されている位置で離間しており、0度ベルト層31と補強部36とにより区画されている部分は、中空部45となっている。
なお、このように0度ベルト層31と補強部36とが離間している部分は、タイヤ径方向において最も離れている部分の距離が、補強ベルト層35が有する、後述するコード39(図3参照)の1本分以上の距離となっているのが好ましい。つまり、補強ベルト層35が有するコード39の幅をGとし、0度ベルト層31と補強部36とがタイヤ径方向において最も離れている部分の距離をG1とした場合に、これらの関係がG1≧Gとなるように、補強部36は形成されているのが好ましい。さらに、ショルダー側周方向溝21と補強部36とが最も接近している部分の距離Tは、4.5mm以上となっているのが好ましい。また、中空部45には、硬い硬質ゴム、若しくはタイヤ周方向に対して0°〜10°の傾きを有する有機繊維の少なくともいずれか一方が設けられていることが好ましい。ここでいう硬質ゴムとは、JIS K6251の引張モジュラス(50%モジュラス)が、トレッド部5を形成するゴムよりも大きくなっているゴムである。
図3は、図1のB−B矢視図である。また、この補強ベルト層35は、複数のコード39を有しており、このコード39は、タイヤ周方向に対して65°〜85°の範囲内の角度で傾斜している。つまり、このコード39は、赤道面3に対して65°〜85°の範囲内の角度H1でタイヤ幅方向に傾斜しており、補強ベルト層35は、このように傾斜した複数のコード39が平行に並んで形成されている。即ち、補強ベルト層35は、当該補強ベルト層35を形成するコード39がタイヤ周方向に対して大きく傾斜した、ハイアングルベルトとして形成されている。
図4は、図1に示す空気入りタイヤに荷重が作用した状態を示す説明図である。この空気入りタイヤ1を車両に装着した場合には、路面側に位置するトレッド面6が路面に接触する。これにより、空気入りタイヤ1は路面に接地する。その際、空気入りタイヤ1の重量も含めた車両全体の重量は、路面に接地しているトレッド面6で受けるため、車両走行時には、路面に接地している部分付近のトレッド面6に荷重が作用し、荷重が作用する方向は、主にタイヤ径方向に作用する。
この場合、トレッド面6は、ショルダー部8の方向に向かうに従って径が小さくなるような曲面の形状で形成されているが、路面側の接地部分では、トレッド面6のショルダー部8寄りの部分と、中央領域、即ち、赤道面3寄りの部分とのタイヤ径方向における位置が同程度になるように変形する。つまり、路面側のトレッド面6にはタイヤ径方向の荷重である圧縮力が作用するため、路面側のトレッド面6は、タイヤ径方向における位置が全体的にタイヤ径方向内方に移動する方向に変形する。このため、荷重が作用し、変形している状態のトレッド面6の形状は、無負荷時におけるトレッド面6の形状の仮想線である無負荷時トレッド面形状線50よりも、タイヤ径方向内方に位置している。
その際に、トレッド面6は、ショルダー部8寄りの部分よりも、赤道面3寄りの部分の方がタイヤ径方向における径が大きくなっているため、トレッド面6の変形量は、ショルダー部8寄りの部分よりも、赤道面3寄りの部分の方が大きくなっている。トレッド面6は、このように変形するため、ショルダー側周方向溝21付近のトレッド面6の変形量は、ショルダーリブ26よりも、セカンドリブ27の方が大きくなる。このため、ショルダーリブ26とセカンドリブ27とには、タイヤ幅方向における双方の距離が近付く方向の荷重、即ち、子午断面における曲げ方向の荷重が作用し、これによりショルダー側周方向溝21には、溝幅が狭くなる方向の荷重が作用する。
また、空気入りタイヤ1は回転軸(図示省略)を中心として回転するため、路面側に位置するトレッド面6は順次変化する。このため、トレッド面6に荷重が作用する、タイヤ周方向における位置は、タイヤ周方向に沿って順次変化し、これに伴い、ショルダー側周方向溝21に対して溝幅が狭くなる方向に作用する荷重も、タイヤ周方向に沿って順次移動する。これにより、空気入りタイヤ1を装着した車両の走行時には、当該空気入りタイヤ1が回転することにより、ショルダー側周方向溝21に対して、溝幅が狭くなる方向の荷重が繰り返し作用する。
ここで、このショルダー側周方向溝21のタイヤ径方向内方には、補強ベルト層35が配設されており、この補強ベルト層35は、補強ベルト層35を形成するコード39が、赤道面3に対して65°〜85°の範囲内の角度H1でタイヤ幅方向に傾斜している。即ち、補強ベルト層35は、当該補強ベルト層35を形成するコード39がタイヤ周方向に対して大きく傾斜したハイアングルベルトとして形成されている。このため、補強ベルト層35は、タイヤ幅方向における剛性が高くなっていると共に、子午断面方向の曲げ剛性が高くなっている。
また、補強ベルト層35のコード39の、タイヤ周方向に対する傾斜角を65°以上にすることにより、補強ベルト層35のタイヤ周方向における自由度をある程度確保することできるので、補強ベルト層35に対してタイヤ周方向に作用する張力を抑制できる。これにより、ショルダーリブ26とセカンドリブ27との変型量に差が生じた場合でも、補強ベルト層35は、その変型量の差に追従できる。このため、補強ベルト層35を設けた場合でも、補強ベルト層35のタイヤ幅方向における端部であるベルトエッジ40が、トレッド部5を形成するゴムから剥離してしまう現象である、ベルトエッジセパレーションを抑制することができる。また、補強ベルト層35のコード39の、タイヤ周方向に対する傾斜角を85°以下にすることにより、補強ベルト層35によってタイヤ周方向とタイヤ幅方向との剛性を両立できるので、耐久性を確保できる。
さらに、補強ベルト層35におけるショルダー側周方向溝21のタイヤ径方向内方には、補強部36が形成されており、補強ベルト層35は、タイヤ幅方向における補強部36の両側の部分で、補強ベルト層35のタイヤ径方向内方に位置する0度ベルト層31に接している。このため、補強ベルト層35の補強部36付近では、タイヤ径方向における剛性が高くなっていると共に、子午断面方向の曲げ剛性が、さらに高くなっている。
これらのため、補強ベルト層35が有する補強部36の周囲では、子午断面方向の曲げ剛性が高くなっており、また、ベルト層30が0度ベルト層31、傾斜ベルト層32及び補強ベルト層35のみからなり、ベルト層30の数が少ない状態においも、子午断面方向の曲げ剛性が高くなっている。このため、補強部36のタイヤ径方向外方に位置するショルダー側周方向溝21の溝幅が狭くなる方向に作用する荷重に対する剛性が高くなっており、ショルダー側周方向溝21付近に、この方向の荷重が作用した場合でも、ショルダー側周方向溝21は、溝幅が狭くなる方向に変形し難くなる。従って、ショルダー側周方向溝21が変形し、ショルダー側周方向溝21の溝底に応力が集中することに起因してショルダー側周方向溝21の溝底付近にクラックが発生することを抑制できる。
即ち、空気入りタイヤ1の使用時に空気入りタイヤ1に対して荷重が作用し、ショルダー側周方向溝21周辺に大きな圧縮力が作用した場合でも、ショルダー側周方向溝21が変形することを抑制することができ、この変形に起因するクラックの発生を抑制することができる。これらの結果、ベルト層30の数を抑えつつ、周方向溝20の一部であるショルダー側周方向溝21のクラックを抑制することができる。
また、補強ベルト層35のタイヤ径方向内方に位置する0度ベルト層31と、補強ベルト層35に形成された補強部36とは離間しており、これらの間にはゴム等が配される中空部45が形成されている。これにより、補強ベルト層35に、タイヤ径方向外方に突出した補強部36を設けた場合でも、中空部45の分、ベルト層30の体積を小さくすることができ、その分、軽量化を図ることができる。この結果、軽量化を図りつつ、ショルダー側周方向溝21のクラックを抑制することができる。
また、補強部36を台形状の形状で形成しているので、補強部36は、タイヤ径方向における剛性が、より確実に高くなり、また、補強部36の子午断面方向の曲げ剛性も、より確実に高くなる。これにより、補強部36のタイヤ径方向外方に位置するショルダー側周方向溝21の周辺の剛性を、より確実に向上させることができる。また、補強部36は台形状の形状で形成されているため、屈曲している部分を複数有している。このため、ショルダー側周方向溝21の周辺に作用する荷重を、台形状の補強部36が有する屈曲部分で分散することができる。これにより、ショルダー側周方向溝21の周辺に作用する荷重が、ショルダー側周方向溝21に集中することを抑制できる。これらの結果、より確実にショルダー側周方向溝21のクラックを抑制することができる。
また、台形状の形状で形成された補強部36のうち、最もタイヤ径方向外方に位置し、タイヤ幅方向における幅が最も狭くなっている部分である補強部外方部37のタイヤ幅方向における幅を、ショルダー側周方向溝21の溝開口部22の幅以上の幅にしているので、ショルダー側周方向溝21付近の曲げ剛性を、補強部36でより確実に向上させることができる。つまり、補強部36は、タイヤ径方向内方からタイヤ径方向外方に向かうに従ってタイヤ幅方向における幅が狭くなっているので、補強部外方部37の幅を、ショルダー側周方向溝21の溝開口部22の幅以上の幅にすることにより、補強部36全体の幅を、ショルダー側周方向溝21の溝開口部22の幅よりも広くすることができる。これにより、ショルダー側周方向溝21付近の広い範囲の曲げ剛性を、補強部36で向上させることできるので、より確実に、ショルダー側周方向溝21周辺に荷重が作用した場合におけるショルダー側周方向溝21の変形を抑制できる。この結果、より確実に、ショルダー側周方向溝21のクラックを抑制することができる。
また、ベルト層30のうちの一部を、0度ベルト層31にしているので、この0度ベルト層31によってタイヤ周方向における張力の向上を図ることができる。これにより、少ない数のベルト層30でタイヤ周方向における剛性を確保することができ、ベルト層30の数を低減できる。この結果、より確実にベルト層30の数を抑えつつ、ショルダー側周方向溝21のクラックを抑制することができる。
また、補強ベルト層35のタイヤ径方向内方に位置する0度ベルト層31と、補強ベルト層35の補強部36との距離を、補強ベルト層35を形成するコード39の幅の1本分以上離した場合には、より確実に補強部36をタイヤ径方向外方に突出させることができる。これにより、補強部36のタイヤ径方向における剛性、及び子午断面方向における曲げ剛性を、より確実に向上させることができる。この結果、より確実にショルダー側周方向溝21のクラックを抑制することができる。
また、中空部45に、硬質ゴム、若しくは、タイヤ周方向に対して0°〜10°の傾きを有する有機繊維を設けた場合には、補強部36周辺のタイヤ径方向における剛性、及び子午断面方向における曲げ剛性を、より確実に向上させることができる。この結果、より確実にショルダー側周方向溝21のクラックを抑制することができる。
図5は、実施の形態に係る空気入りタイヤの変型例を示す要部子午断面図である。なお、上述した空気入りタイヤ1は、補強ベルト層35に形成される補強部36が台形状の形状で形成されているが、補強部36は台形状以外の形状で形成されていてもよい。例えば、図5に示すように、補強ベルト層60に形成される補強部61は、タイヤ径方向外方に向かうに従ってタイヤ幅方向における幅が狭くなり、最もタイヤ径方向外方に位置する部分に角部63を有する三角形状の形状で形成されていてもよい。
つまり、上述した空気入りタイヤ1に設けられた補強ベルト層35と同様に、補強ベルト層60を子午断面で見た場合に、補強部61は、タイヤ幅方向における2箇所の部分で、タイヤ径方向外方に向けて屈曲している。これにより、補強部61は2箇所に傾斜部62を有している。さらに、補強部61は、この2箇所の傾斜部62が、タイヤ径方向外方の端部で接続されるようにタイヤ径方向外方の端部で屈曲しており、この部分は角部63となっている。このため、当該補強部61は、タイヤ径方向外方に向かうに従ってタイヤ幅方向における幅が狭くなる三角形状の形状で形成されている。
このように、補強部61を三角形状の形状で形成することにより、補強ベルト層60を屈曲させて補強部61を形成する際に、補強部36を台形状の形状で形成する場合と比べて、屈曲させる部分が低減する。従って、タイヤ径方向外方に突出した補強部61を、容易に形成することができ、容易にショルダー側周方向溝21の周辺の剛性を向上させることができる。この結果、容易にショルダー側周方向溝21のクラックを抑制することができる。
以下、上記の空気入りタイヤ1について、従来の空気入りタイヤ1と本発明の空気入りタイヤ1とについて行なった性能の評価試験について説明する。性能評価試験は、耐ベルトエッジセパ性と、ショルダー側周方向溝21に発生するクラックに対する性能の2項目について行なった。
試験方法は、435/45R22.5サイズの空気入りタイヤ1を、JATMA標準リムに組み付け、JATMA記載の標準の空気圧、及び標準の荷重を負荷させて行なった。各項目の評価方法は、補強ベルト層35のベルトエッジセパレーションに対する性能である耐ベルトエッジセパ性については、室内ドラム試験によって行なった。詳細には、速度を45km/h、スリップ角を2°に設定して試験走行を実施し、試験走行中に荷重を順次増加させて、補強ベルト層35にベルトエッジセパレーションが発生するまでの距離を測定することにより行なった。この試験による評価結果は、後述する本発明1の空気入りタイヤ1の耐ベルトエッジセパ性を100%とした指数により示し、指数が大きいほど耐ベルトエッジセパ性が優れている。また、この耐ベルトエッジセパ性は、97%以上を許容範囲とし、耐ベルトエッジセパ性が確保されているものとする。
また、ショルダー側周方向溝21に発生するクラックに対する性能も同様に、室内ドラム試験によって行なった。詳細には、速度を45km/hでスリップ角を2°に設定して試験走行を実施し、走行中の荷重は一定にし、ショルダー側周方向溝21に発生するクラックの有無と、クラックが発生するまでの走行距離を測定することにより行なった。この試験による評価結果は、後述する従来例の空気入りタイヤ1のクラック発生までの走行距離を100%とした指数により示し、指数が大きいほど、ショルダー側周方向溝21のクラックに対する性能が優れている。
試験を行なう空気入りタイヤ1は、本発明が6種類、本発明と比較する比較例として5種類、そして、1種類の従来例を、上記の方法で試験する。このうち、従来例には、ベルト層30は複数設けられているが補強ベルト層35は設けられていない。また、従来例の空気入りタイヤ1が有する複数のベルト層30のうち、最もタイヤ径方向外方に位置するベルト層30を形成するコードの、タイヤ周方向に対する傾斜角度は20°となっている。
これに対し、本発明1〜6及び比較例1〜5には、全て複数のベルト層30が設けられており、複数のベルト層30のうち、最もタイヤ径方向外方に位置するベルト層30は補強ベルト層35となっている。このうち、本発明1では、補強ベルト層35を形成するコードの、タイヤ周方向に対する傾斜角度H1である補強ベルト層コード角度は85°となっている。
また、これらの本発明1〜6及び比較例1〜5に設けられる補強ベルト層35には、タイヤ径方向外方に突出した補強部36が形成されているが、補強部36の突出量G1は、補強部36の突出量G1と補強部36のコード39の幅Gとの比(G1/G)を、本発明1の比(G1/G)を100%とする指数で示してある。同様に、タイヤ幅方向における補強部36の幅W1と、ショルダー側周方向溝21の溝開口部22における溝幅Wと比(W1/W)も、本発明1の比(W1/W)を100%とする指数で示している。
これらの従来例、本発明1〜6、比較例1〜5の空気入りタイヤ1を上記の方法で評価試験をし、得られた結果を表1−1及び表1−2に示す。これらの表1−1及び表1−2のうち、表1−1は従来例、本発明1〜6の評価試験の結果を表示しており、表1−2は比較例1〜5の評価試験の結果を表示している。
表1−1及び表1−2に示した上記の試験結果で明らかなように、補強ベルト層35を設けた場合でも、タイヤ周方向に対する補強ベルト層35のコード39の傾斜角度が65°未満であったり、85°よりも大きかったりした場合には、補強ベルト層35のベルトエッジ40でセパレーションが発生し易くなる。これにより、耐ベルトエッジセパ性が低下する(比較例1〜3)。なお、上記の試験では、比較例1〜3では補強ベルト層35のベルトエッジ40にセパレーションが発生したため、ショルダー側周方向溝21のクラックに関しては測定していない。
また、補強部36のタイヤ幅方向における幅が、ショルダー側周方向溝21の溝開口部22における溝幅以下であった場合には、補強部36で十分に曲げ剛性を確保することが困難になる。このため、ショルダー側周方向溝21にクラックが発生し易くなる(比較例4、5)。
これに対し、本発明1〜6では、タイヤ周方向に対するコード39の傾斜角度が65°〜85°の範囲内となり、タイヤ径方向外方に突出した補強部36が形成された補強ベルト層35を、ベルト層30のタイヤ径方向における最外方部に設けている。さらに、補強部36のタイヤ幅方向における幅は、ショルダー側周方向溝21の溝開口部22における溝幅以上となっている。
これにより、ショルダー側周方向溝21付近の子午断面方向の曲げ剛性を向上させることができ、ショルダーリブ26付近に大きな圧縮力が作用した場合でも、ショルダー側周方向溝21が変形することを抑制することができる。従って、ショルダー側周方向溝21のこの変形に起因するクラックの発生を抑制することができる。この結果、ベルト層30の数を抑えつつ、周方向溝の一部であるショルダー側周方向溝21のクラックを抑制することができる。
なお、上記の説明では、空気入りタイヤ1の一例としてリブパターンを有する空気入りタイヤ1を説明しているが、本発明を適用する空気入りタイヤ1はリブパターン以外でもよく、例えば、トレッドパターンがリブラグパターンで形成された空気入りタイヤでもよい。本発明を適用する空気入りタイヤ1のトレッドパターンは、ショルダー側周方向溝21を有するトレッドパターンであれば、リブパターン以外でもよい。また、補強ベルト層35は、タイヤ幅方向において2分割されていなくてもよく、一体に形成されていてもよい。また、補強ベルト層35に形成される補強部36は、上述した台形状や、三角形状以外の形状で形成されていてもよい。補強部36は、これら以外の形状でタイヤ径方向外方に突出していてもよい。また、補強ベルト層35のタイヤ径方向内方に位置するベルト層30も、0度ベルト層31と傾斜ベルト層32以外のベルト層30でもよい。