JP4733841B2 - 磁気特性に優れた電気機器用積層鉄芯 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、モールドされたモーター、モールドトランスやダイレクトイグニッションなどの樹脂モールドコアに適した積層鉄芯に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、省エネルギーの観点から各種電気機器の効率向上が求められている。電機機器の効率は各種要因に影響されるが、モーターやトランスの積層鉄芯で発生する損失である鉄損は比較的大きな比重を占めており、従って、最近ではより鉄損の少ない電磁鋼板が積層鉄芯に使用される場合が増加している。一方、小型電機機器に対しては小型化、メンテナンスフリー化の要求も強く、積層鉄芯を金型にセットして溶融した有機樹脂を流し込み、一体成型するいわゆるモールドトランスが実用化されている。
【0003】
モーターについては騒音や振動を抑制する効果も期待できることから、特にモーターのステーターをモールドする場合が増加している。
また、自動車用電装品についても二酸化炭素削減要求から各種効率向上の取組みが為されており、その中の一つとして内燃機関の点火装置の高圧電流発生部をプラグ近傍に設置する、いわゆるダイレクトイグニッションがある。
【0004】
従来、イグニッションはエンジンシャフトに付随して設置された発電機を利用し、高圧電流発生装置で電流を昇圧した後、各プラグまで高圧電流を通電していたが、ダイレクトイグニッションでは高圧電流発生部をプラグ直前に設置することにより、高圧電流の通電距離を短くして省エネルギー化を図るものである。
そこで、電圧変換、即ちトランスとしての磁気特性は従来と同等以上の機能が要求されることから、その鉄芯材料としては磁気特性に優れた方向性電磁鋼板が使用されている。
【0005】
閉磁路型では、通常の電源トランス形状に積層鉄芯を組み合わせ巻き線後にモールドし、開放磁路型のいわゆるペンシルタイプでは、シールドと中心電極の間に樹脂を流し込んでモールドし一体化されている。
モールドされたモーターやモールドトランス、ダイレクトイグニッションのいずれの電機機器においても、積層鉄芯を樹脂モールドすることにより成形加工されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが樹脂モールドした場合には、モールドする有機樹脂が積層鉄芯に使用されている電磁鋼板に圧縮応力を付与していると推定され、電磁鋼板に張力を付与すると磁性向上効果が見られるのと反対に、鋼板に圧縮応力を付与した場合には磁性が劣化することが知られている。特に、近年よく使用される磁気特性に優れた高級電磁鋼板ほど、圧縮応力により鉄損が劣化し易い傾向にある。
【0007】
通常、樹脂モールドする場合、電磁鋼板を所定の形状に加工した後に積層して積層鉄芯とした後、モールド金型にセットし、有機樹脂を加熱溶融して流動性を持たせてからモールド金型に圧入したり流し込んだりして一体化する。一般に、モールドに使用する有機樹脂は、冷却中に収縮してモールド金型から離れると外形不良になることから、鋼板よりも若干膨張する必要があった。このとき、有機樹脂の硬化収縮や鋼板との熱膨張係数差により、積層鉄芯には圧縮応力が付与される問題があった。
【0008】
このような問題を解決する手段として、モールド樹脂と積層鉄芯の間にフィルムを挟み込んだり、あらかじめ積層鉄芯の表面に離型剤を塗布する方法が考えられる。しかし、フィルムを挿入する場合ではモールド樹脂を圧入する際にフィルムが折れ曲がったりして積層鉄芯表面から剥れたり、フィルムと鉄芯の間に樹脂が入り込んだりしてモールド樹脂と積層鉄芯の分離がうまくいかない問題があり、また積層鉄芯に離型剤を塗布する方法では、積層鉄芯とモールド樹脂を十分に分離できないと言った問題点があった。
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、あらかじめ積層鉄芯表面に特定の臨界表面張力を有する有機樹脂を塗布しておくことにより、積層鉄芯とモールド樹脂との間で分離できるだけでなく、モールド樹脂を塗布するまでの製造工程において樹脂の密着性が良好で、ガイドレールなどに擦れても樹脂が剥離したりしないようにし、作業性が良好で、かつ積層鉄芯の特性劣化を防止する方法を創案した。
【0010】
ところで、特開平5−177766号公報には、家電、建材、鋼製家具、自動車などに利用されることを目的として、外面にフッ素を含む樹脂層を有し、その表面の水滴接触角が60度未満にすることにより、耐候性、耐汚れ性に優れた樹脂被覆金属材についての技術が開示されている。
しかし、上記公報ではモールドトランスのコアやダイレクトイグニッションの積層鉄芯に使用された場合の磁性については何ら開示や示唆がなく、また、本発明で解決される積層鉄芯の鉄損改善についても何ら示唆するものがない。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記に鑑み、本発明は以下の構成を要旨とする。
(1)積層鉄芯の表面にポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂の1種又は2種以上の混合物あるいは化合物を主成分とする有機樹脂を主成分とする臨界表面張力が23〜30mN/mの被膜を0.6〜35μm形成したことを特徴とする、発粉が無く密着性に優れ、かつモールドした際に磁気特性の優れた電気機器用積層鉄芯。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
本発明は、モーター用積層鉄芯やトランス用積層鉄芯に代表される一般的な積層鉄芯に適用される。
【0013】
本発明で使用する有機樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂の1種又は2種以上の混合物あるいは化合物が用いられる。 ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレンでも高密度ポリエチレンでもどちらでもよい。
フッ素樹脂の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレンエチレン共重合体、ポリビニルフルオライドなどである。
【0014】
以上の各有機樹脂を単独で用いても良いが、それらの混合、あるいは変性して化合物としてから使用することにより、さらに作業性の向上などが見込まれる。
特に、フッ素樹脂を用いる場合には、フッ素樹脂単独では濡れ性が悪く、電磁鋼板で一般的に使用されるりん酸塩系絶縁被膜やクロム酸塩系絶縁被膜上に塗布しにくい。そのような場合には、適宜界面活性剤や密着性の良好な樹脂を添加することは何ら問題ではない。また、シランカップリング剤やりん酸塩系絶縁被膜やクロム酸塩系絶縁被膜にプラズマ処理するといった密着性向上処理を施しても構わない。
【0015】
本発明では、上記有機樹脂の1種又は2種以上の混合物あるいは化合物を主成分とする有機樹脂を0.6〜35μmの厚みになるようコーティングする。0.6μm未満では本発明の効果が発現しないためであり、35μm超では、モールドするまでに発粉し易くなるためと使用する有機樹脂が多く、コスト的に不利であるためである。
【0016】
本発明では、上記有機樹脂の範囲から選択されたものであっても、臨界表面張力が23〜30mN/mの範囲にする必要が有る。23mN/m未満では、通常積層鉄芯に使用されているりん酸塩系絶縁被膜やクロム酸塩系絶縁被膜を持つ鋼板表面への塗布が事実上不可能であり、30mN/m超ではモールド樹脂との接着性が高すぎて、応力が付与される可能性があるからである。この23〜30mN/mの範囲に表面張力があると、モールド樹脂と本発明で使用する有機樹脂との間で固着することが無く、積層鉄芯とモールド樹脂との間の応力が緩和される。
【0017】
臨界表面張力は、物質の表面物性の1つで、本発明ではJIS K 6768に規定される方法で測定されるぬれ張力の値を臨界表面張力とする。濡れ張力すなわち臨界表面張力の値が大きいほど固体表面は濡れやすい傾向を持っている。
また、曲げ加工時の潤滑性を高めるために、ポリエチレンワックスなどの微粒子を有機樹脂に添加したり、酸化防止剤、レベリング剤や光沢剤といった通常のコーティング添加剤を用いても良い。
【0018】
電気機器の鉄芯は、そのままでは発錆したりして特性が劣化することから、ワニス塗布や樹脂モールドにより耐蝕性や耐熱性などの特性を持つことが要求される。樹脂モールドすることにより、ワニスよりも格段に耐蝕性を向上させたり、所定の外形を保持することにより鉄芯の固定が容易になるなどの利点がある。従って、モールド樹脂については成型時の流動性や形成後に割れが生じたり、モールド金型から取り出し易いことなどが要求され、従来は鉄芯の磁気特性に及ぼす影響はあまり研究されていない。
【0019】
本発明の詳細なメカニズムは明らかではないが、モールド樹脂は一般にエポキシ樹脂やポリエステル樹脂などの密着性の非常に良好な有機樹脂が使用されており、通常は積層鉄芯との間で強固に密着して一体化し、加熱硬化した際に積層鉄芯に使用される電磁鋼板との間の熱膨張差から、積層鉄芯との間に応力を生じて鉄芯の磁気特性を劣化させる。
【0020】
本発明では、モールド樹脂と積層鉄芯との間に応力が生じた場合、積層鉄芯表面に被覆した有機樹脂とモールド樹脂との間で剥離することにより、応力が電磁鋼板に伝播することが無く、磁気特性の劣化が防止できると推定される。
本発明は、モールドするモーターコア、モールドトランス、あるいは有機樹脂を用いてモールドするダイレクトイグニッションのコアやシールドに適用することが可能である。
【0021】
【実施例】
鋼板表面にりん酸塩系絶縁被膜が形成された0.35mmの方向性電磁鋼板を用いて、縦66mm、幅40mm積高さ50mmのEI型コアを作製し、表1に示す有機樹脂を表中に示す方法で塗布した後、ポリエステル系樹脂にシリカフィラーを添加したモールド用樹脂を用いてモールドした。モールド時の加熱温度は100℃で、150℃で後加熱を行い完全硬化させた。
【0022】
冷却後、1.5T,50Hzの条件でコア鉄損を測定した結果と密着性の評価結果を表2に示す。表2において、コア鉄損a)と密着性b)の評価方法は次の通りである。
a):従来材と比較して10%以上良好なものを◎、従来材よりも5%以上良好なものを○、従来材との差が±5%未満のものを△、5%以上劣化したものを×とした。
b):コアに塗布乾燥した後、100g重の荷重をかけながら10mmφの鋼球で擦り、鋼球n付着する樹脂量で評価し、付着の認められないものを○、若干付着するものを△、付着の激しいものを×とした。
表2から明らかな如く、本発明実施例によれば、密着性が良好でコア鉄損が向上する効果が得られている。なお上記実施例では、有機樹脂塗布後モールド工程までの発粉は全く認められなかった。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【発明の効果】
本発明により、モールドするモーター、モールドトランスのコアやダイレクトイグニッションの積層鉄芯に最適な、密着性が良好で磁気特性の劣化を防止した積層鉄芯を製造することが可能である。
Claims (1)
- 積層鉄芯表面にポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂の1種又は2種以上の混合物あるいは化合物を主成分とする有機樹脂を主成分とする臨界表面張力が23〜30mN/mの被膜を0.6〜35μm形成したことを特徴とする、発粉が無く密着性に優れ、かつモールドした際に磁気特性の優れた電気機器用積層鉄芯。
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