JP4729815B2 - 蒸着装置の処理室内への水素ガス供給方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、長時間の蒸着処理を行う場合であっても、処理室内にO2が存在することによる悪影響を解消し、希土類系永久磁石などの被処理物の表面に金属蒸着被膜を安定に形成することができる蒸着装置の処理室内への水素ガス供給方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Nd−Fe−B系永久磁石に代表されるR−Fe−B系永久磁石などの希土類系永久磁石は、高い磁気特性を有しており、今日様々な分野で使用されている。
しかしながら、希土類系永久磁石は、大気中で酸化腐食されやすい金属種(特にR)を含む。それ故、表面処理を行わずに使用した場合には、わずかな酸やアルカリや水分などの影響によって表面から腐食が進行して錆が発生し、それに伴って、磁気特性の劣化やばらつきを招くことになる。さらに、磁気回路などの装置に組み込んだ磁石に錆が発生した場合、錆が飛散して周辺部品を汚染する恐れがある。
上記の点に鑑み、希土類系永久磁石に優れた耐食性を付与することを目的として、その表面にアルミニウムやチタンなどの金属蒸着被膜を形成することが行われている。
特に、アルミニウム蒸着被膜は耐食性や量産性に優れていることに加え、部品組み込み時に必要とされる接着剤との接着信頼性に優れている(接着剤が本質的に有する破壊強度に達するまでに被膜と接着剤との間で剥離が生じにくい)ので、強い接着強度が要求される希土類系永久磁石に対しても広く適用されている。
ここで接着剤としては、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、反応性アクリル樹脂系、変性アクリル樹脂系(紫外線硬化型接着剤や嫌気性接着剤)、シアノアクリレート系、シリコーン樹脂系、ポリイソシアネート系、酢酸ビニル系、メタクリル樹脂系、ポリアミド系、ポリエーテル系などの各種樹脂系接着剤、各種樹脂系接着剤(例えば、酢酸ビニル樹脂系接着剤やアクリル樹脂系接着剤など)のエマルジョン型接着剤、各種ゴム系接着剤(例えば、ニトリルゴム系接着剤やポリウレタンゴム系接着剤など)、セラミックス接着剤などが耐熱性や耐衝撃性などの目的に応じて適宜選択されて使用される。
【0003】
希土類系永久磁石表面にアルミニウム蒸着被膜を形成する場合、一般に、処理室内のO2分圧をできる限り低くすることが要求される。なぜなら、処理室内のO2分圧が高い雰囲気下で蒸着処理を行った場合、溶融蒸発部から蒸発したアルミニウムが希土類系永久磁石に到達するまでの間に処理室内に存在するO2によって酸化されてしまって良質のアルミニウム蒸着被膜が形成されなかったり、溶融蒸発部内のアルミニウム溶湯の表面に酸化アルミニウムの被膜が形成されてしまってアルミニウムが十分に蒸発しなかったり、溶湯表面における酸化アルミニウム被膜形成の進行によってアルミニウムの安定な蒸発が阻害されて溶湯の突沸が生じてしまったり、希土類系永久磁石表面が酸化されてしまって密着性に優れたアルミニウム蒸着被膜が形成されなかったりするからである。このため、従来、処理室内に存在するO2の除去を目的として、処理室内を高い真空度にするために長時間の真空排気を行ったり、大掛かりな排気装置を使用したりしていた。
【0004】
以上のような状況において、処理室内にO2が存在することによる悪影響を解消する方法として、本発明者は、処理室内に水素ガスを供給し、水素ガス存在下で蒸着処理を行う方法を提案した(特開2001−32062号公報参照)。この方法によれば、処理室内にO2が存在することによる悪影響を水素ガスの存在により解消することができ、安定な蒸着処理が可能となる。
【0005】
蒸着装置の処理室内への水素ガス供給方法としては、水素ガスを含有する金属蒸着材料を用いて希土類系永久磁石に対する蒸着処理を行う方法がある。この場合、水素ガスを含有する金属蒸着材料は、磁石表面に形成される蒸着被膜源であるとともに水素ガスの供給源として機能する。従って、この方法によれば、磁石に対する蒸着処理を開始することによって水素ガスが処理室内に供給され、磁石表面に安定して金属蒸着被膜を形成することができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記方法では蒸着処理開始時には処理室内に水素ガスが存在しないので、蒸着処理開始時から終了時までに時間を要する場合には、蒸着処理の途中において処理室内にO2が存在することによる悪影響を解消するだけの十分な量の水素ガスが供給されなくなってしまうという事態が起こりえる。また、水素ガスを含有する金属蒸着材料を電子ビーム加熱方式にて蒸発させた場合、溶湯内部から気化した水素ガスが突沸してスプラッシュが生じてしまい、スプラッシュによって飛散したアルミニウム溶湯の一部が形成される金属蒸着被膜に付着することがある。従って、電子ビーム加熱方式を採用する場合には金属蒸着材料には水素ガスは含まれないかできるだけその含有量が少ないことが望ましい。以上のような点を補うために蒸着処理開始時や蒸着処理中に処理室外部から水素ガスを導入する方法もあるが、さらなる改善の余地がある。
そこで、本発明においては、長時間の蒸着処理を行う場合であっても、処理室内にO2が存在することによる悪影響を解消し、希土類系永久磁石などの被処理物の表面に金属蒸着被膜を安定に形成することができる蒸着装置の処理室内への水素ガス供給方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の点に鑑みて種々の検討を行う過程において、水素ガスが有する特有の性質、即ち、多くの金属と進入型固溶体を形成して金属中に固溶される性質、金属中に吸蔵される性質、金属表面に吸着される性質、以上のようにして金属中やその表面に取り込まれる一方で、これらから容易に放出される性質などに着目した。そして、これらの性質を利用して、被処理物に対する蒸着処理を行う前に、処理室内に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させる蒸着処理を行うこと、そして、被処理物に対する蒸着処理を行うための処理室内の減圧時に該被膜中に含有させた水素ガスを放出させて処理室内に水素ガスを供給することに思い至った。
【0008】
本発明は、上記の検討の結果に基づいてなされたものであり、本発明の蒸着装置の処理室内への水素ガス供給方法は、請求項1記載の通り、蒸着装置の処理室内に被処理物を収容していない状態で、該処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるための蒸着処理を行った後、該処理室内に被処理物を収容し、該処理室内を減圧することにより、該金属蒸着被膜から水素ガスを放出させることを特徴とする。
また、請求項2記載の水素ガス供給方法は、請求項1記載の水素ガス供給方法において、少なくとも処理室内に配置された被処理物を保持するための被処理物保持部材に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させることを特徴とする。
また、請求項3記載の水素ガス供給方法は、請求項1または2記載の水素ガス供給方法において、前記蒸着処理を水素ガスを含有する金属蒸着材料を使用して行い、水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させることを特徴とする。
また、請求項4記載の水素ガス供給方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の水素ガス供給方法において、被処理物表面に形成させたい金属蒸着被膜と同じ材質の金属蒸着材料を使用して蒸着処理を行い、水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させることを特徴とする。
また、請求項5記載の水素ガス供給方法は、請求項1乃至4のいずれかに記載の水素ガス供給方法において、金属蒸着被膜がアルミニウム蒸着被膜であることを特徴とする。
また、請求項6記載の水素ガス供給方法は、請求項1乃至5のいずれかに記載の水素ガス供給方法において、金属蒸着被膜中の水素ガス含有量が0.5ppm〜20ppmであることを特徴とする。
また、請求項7記載の水素ガス供給方法は、請求項1乃至6のいずれかに記載の水素ガス供給方法において、被処理物が希土類系永久磁石であることを特徴とする。
また、本発明の被処理物表面への金属蒸着被膜形成方法は、請求項8記載の通り、請求項1乃至7のいずれかに記載の水素ガス供給方法によって処理室内に水素ガスを供給した後、被処理物に対して蒸着処理を行うことにより、その表面に金属蒸着被膜を形成することを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の蒸着装置の処理室内への水素ガス供給方法は、蒸着装置の処理室内に被処理物を収容していない状態で、該処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるための蒸着処理を行った後、該処理室内に被処理物を収容し、該処理室内を減圧することにより、該金属蒸着被膜から水素ガスを放出させることを特徴とするものである。
この方法によれば、被処理物に対する蒸着処理開始時から処理室内に水素ガスを供給することができるので、長時間の蒸着処理を行う場合であっても、処理室内にO2が存在することによる悪影響を解消し、希土類系永久磁石などの被処理物の表面に金属蒸着被膜を安定に形成することができる。
【0010】
本発明の蒸着装置の処理室内への水素ガス供給方法においては、まず、蒸着装置の処理室内に被処理物を収容していない状態で、該処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるための蒸着処理を行う。この工程は、例えば、水素ガスを含有する金属蒸着材料を使用した蒸着処理により行うことができる。具体的には、水素ガスを含有する金属蒸着材料を溶融蒸発部に供給してこれを蒸発させることにより、処理室内に金属蒸着被膜を被着させるとともに、気化した水素ガスを該被膜中に固溶させたり吸蔵させたり、該被膜表面に吸着させたりして該被膜に水素ガスを含有させる。この方法によれば、処理室外部から水素ガスを導入するための配管設備などを必要とすることもなく、処理室内に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を容易に被着させることができる。
【0011】
しかしながら、処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるための蒸着処理は、必ず水素ガスを含有する金属蒸着材料を使用して行わなければならないというものではなく、処理室外部から水素ガスを導入しながら蒸着処理を行うものであってもよい。この場合においても、処理室外部から導入した水素ガスを金属蒸着被膜に含有させることができる。
【0012】
また、水素ガスを含有する金属蒸着材料を使用した蒸着処理を処理室外部から水素ガスを導入しながら行い、金属蒸着材料に含有されていた水素ガスとともに処理室外部から導入した水素ガスを金属蒸着被膜に含有させるようにしてもよい。
【0013】
処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるために使用することのできる金属蒸着材料は、高速度での蒸着が可能なものであって、処理室内に被着させた金属蒸着被膜が、水素ガスを高い含有量で被膜中に固溶させたり吸蔵させたりすることができるものや被膜表面に吸着させたりすることができるものが望ましい。具体的にはアルミニウムやチタンが挙げられる。ここで特筆すべき事項は、金属蒸着材料は、被処理物に対する蒸着処理において使用する金属蒸着材料と同じ材質のものを使用することが望ましいということである。処理室内に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるために使用する金属蒸着材料が被処理物に対する蒸着処理において使用する金属蒸着材料と異なる材質の場合、被処理物に対する蒸着処理時に処理室内に被着させた水素ガスを含有する金属蒸着被膜が再蒸発し、被処理物表面に形成される金属蒸着被膜の汚染源となる恐れがあるからである。
【0014】
処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるための蒸着処理は、少なくとも溶融蒸発部の近傍に位置する、例えば、被処理物保持部材(バレルや吊り下げ治具など)に該金属蒸着被膜が被着するように行うことが望ましい。被処理物保持部材に該金属蒸着被膜を被着させることにより、処理室内を減圧することで、溶融蒸発部と被処理物間の空間に対して優先的に水素ガス供給を行うことができるからである。従って、溶融蒸発部から蒸発したアルミニウムが希土類系永久磁石に到達するまでの間に処理室内に存在するO2によって酸化されてしまって良質のアルミニウム蒸着被膜が形成されなかったり、溶融蒸発部内のアルミニウム溶湯の表面に酸化アルミニウムの被膜が形成されてしまってアルミニウムが十分に蒸発しなかったり、アルミニウムの安定な蒸発が阻害されて溶湯の突沸が生じてしまったり、希土類系永久磁石表面が酸化されてしまって密着性に優れたアルミニウム蒸着被膜が形成されなかったりすることを効果的に抑制し、被処理物表面に金属蒸着被膜を安定に形成することが容易となる。また、被処理物保持部材に該金属蒸着被膜を被着させることには、被処理物保持部材を処理室内から出し入れしたことや洗浄したことに起因して被処理物保持部材に残存する水分を蒸着処理時に揮散除去することができるという副次的な効果もある。
なお、処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるための蒸着処理は、処理室内全体に該金属蒸着被膜が被着するように行ってもよい。
【0015】
処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるための蒸着処理の様式は、通常、その後に行われる被処理物に対する蒸着処理の様式と同じものとなる。一般には、例えば、真空蒸着法やイオンプレーティング法などが採用される。処理室内の溶融蒸発部への金属蒸着材料の供給は、インゴット形態のものなどを供給する態様であってもよいし、ワイヤー状や粒状の金属蒸着材料を溶融蒸発部に連続的に供給する態様であってもよい。
【0016】
被処理物に対する蒸着処理は、処理室内に被処理物を収容し、該処理室内を減圧して行われるが、上記方法で予め処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させておくことにより、該処理室内に被処理物を収容してから該処理室内を減圧することで、該処理室内の温度が上昇することに伴って水素ガスを含有する金属蒸着被膜自体の温度も上昇し、該金属蒸着被膜に含有されていた水素ガス、即ち、該被膜中に固溶したり吸蔵したりしていた水素ガスや該被膜表面に吸着していた水素ガスが該被膜から放出され、該処理室内に水素ガスが供給されることになる。
【0017】
処理室内に供給される水素ガス量は、上記方法で処理室内の少なくとも一部分に被着された水素ガスを含有する金属蒸着被膜中の水素ガス含有量や、処理室内に被処理物を収容した後に行う該処理室内の減圧条件などにより、所望する供給量に設定することが可能である。また、必要に応じて、処理室内を加熱することにより、水素ガスを含有する金属蒸着被膜からの水素ガスの放出を促進させてもよい。上記方法で処理室内の少なくとも一部分に被着された水素ガスを含有する金属蒸着被膜中の水素ガス含有量に特段の制約などはないが、該被膜の形成容易性などの観点からは、0.5ppm〜20ppmであることが望ましい。
【0018】
なお、処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるための蒸着処理は、処理室内に古い金属蒸着被膜が被着している場合にはそれを予め完全に除去してから行うことが望ましい。これにより、処理室内に供給される水素ガス量を常に所望する供給量に設定することが可能となることに加え、古い金属蒸着被膜が被着していることによる悪影響(金属蒸着被膜に水分が残存する可能性など)の回避も可能となる。
【0019】
本発明によれば、被処理物に対する蒸着処理開始時から処理室内に水素ガスを供給することができるので、長時間の蒸着処理を行う場合であっても、処理室内にO2が存在することによる悪影響を解消し、希土類系永久磁石などの被処理物の表面に金属蒸着被膜を安定に形成することができるが、通常、処理室内に被処理物を収容し、該処理室内を減圧した後、被処理物に対する蒸着処理を行う前処理として被処理物表面の清浄化(例えば、被処理物が希土類系永久磁石の場合はその表面に生成した酸化層の除去などを目的とする)のためのアルゴンガスのような不活性ガスを使用したグロー放電によるスパッタリングが行われる。このような被処理物表面の清浄化工程を行う場合、清浄化工程の段階で処理室内に水素ガスが供給されているので、処理室内に供給された水素ガスは、この工程を行う際における処理室内にO2が存在することによる悪影響(例えば、被処理物が希土類系永久磁石のような場合、その表面が酸化されてしまって密着性に優れたアルミニウム蒸着被膜が形成されなかったりするといったこと)の解消や、その他、安定した蒸着処理を阻害する恐れのあるH2Oなどに起因した悪影響の解消にも寄与するものと考えられる。
【0020】
【実施例】
本発明を以下の実施例と比較例によってさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載に何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例と比較例は、例えば、米国特許4770723号公報や米国特許4792368号公報に記載されているようにして、公知の鋳造インゴットを粉砕し、微粉砕後に成形、焼結、熱処理、表面加工を行うことによって得られた17Nd−1Pr−75Fe−7B組成(at%)の6mm×15mm×30mm寸法の焼結磁石(以下、磁石体試験片と称する)を用いて行った。
【0021】
実施例1:
工程A:
蒸着装置(真空槽内容積が0.6m3で、内部に直径200mm×長さ400mmのステンレス製メッシュ金網で作製された円筒形バレルを1個有する、電子ビーム加熱方式のイオンプレーティング装置)の真空槽内(槽内に付着していたアルミニウム蒸着被膜は予め完全に除去)を全圧が3.0×10−5Pa以下になるまで真空排気した後、全圧が3.0×10−4Paになるようにアルゴンガスの導入量を調整した。電圧1kVを印加し、溶融蒸発部内の金属蒸着材料である水素ガス3.2ppm含有アルミニウムインゴットに電子ビームを照射して加熱し、これを溶融して蒸発させ、イオン化してイオンプレーティング法を2時間行って円筒形バレルを含めた真空槽内全体にアルミニウム蒸着被膜を被着させた。被着したアルミニウム蒸着被膜は水素ガスを2.9ppm含有していた。
【0022】
工程B:
工程Aにて水素ガスを含有するアルミニウム蒸着被膜を被着させた円筒形バレルに磁石体試験片を20個収容した。真空槽内を全圧が3.0×10−5Pa以下になるまで真空排気した後、アルゴンガスを真空槽内の全圧が5.0×10−2Paになるように導入した。その後、バレルの回転軸を1.5rpmで回転させながら、電圧0.5kVの条件下、15分間グロー放電によるスパッタリングを行って磁石体試験片の表面を清浄化した。続いて、全圧が3.0×10−4Paになるようにアルゴンガスの導入量を調整した。この時の真空槽内の水素ガス分圧を真空槽外壁に直接設置した四重極質量分析計(QIG−066:アネルバ社製)で測定したところ、4.0×10−5Paであった。
【0023】
工程C:
次に、バレルの回転軸を1.5rpmで回転させながら、電圧1kVを印加し、溶融蒸発部内の金属蒸着材料である水素ガス0.5ppm含有アルミニウムインゴットに電子ビームを照射して加熱し、これを溶融して蒸発させ、イオン化してイオンプレーティング法を1時間行って磁石体試験片表面に膜厚が3μmのアルミニウム蒸着被膜を形成した。この際の蒸着の可否を溶融蒸発部内のアルミニウム溶湯の表面状況から判定した。その結果、アルミニウム溶湯の表面は蒸着処理開始時から終了時まで良好な状態が保たれており、安定した蒸着が行われた。
【0024】
比較例1:
実施例1における工程Aを省略し、水素ガスを含有するアルミニウム蒸着被膜を被着させていない円筒形バレルに磁石体試験片を収容すること以外は、実施例1における工程B〜工程Cと同じようにして、磁石体試験片表面へのアルミニウム蒸着被膜の形成を試みた。この際の蒸着の可否を溶融蒸発部内のアルミニウム溶湯の表面状況から判定したところ、蒸着処理開始時からアルミニウム溶湯の表面に酸化アルミニウムの被膜が徐々に形成され、30分後にはアルミニウム溶湯の表面のほぼ全面が酸化アルミニウムの被膜で覆われてしまい、それ以降、安定した蒸着が行われなかった。
【0025】
以上の結果から明らかなように、実施例1においては磁石体試験片に対する蒸着処理を行う前に、真空槽内に水素ガスを含有するアルミニウム蒸着被膜を被着させる蒸着処理を行うとともに、磁石体試験片に対する蒸着処理を行うに際し、該アルミニウム蒸着被膜から水素ガスを放出させて真空槽内に水素ガスを供給したことにより、蒸着処理開始時から終了時まで安定した蒸着処理を行うことができた。これは、真空槽内に存在したO2の他、H2Oなどに起因する蒸着処理に対する悪影響を十分な量の水素ガスが解消したことによる効果であると推測された。また、実施例1においては、磁石体試験片の表面清浄化を行ったが、清浄化工程の段階で真空槽内に水素ガスが供給されているので、水素ガスはこの段階におけるO2の他、H2Oなどに起因する悪影響の解消にも寄与していると考えられた。一方、比較例1においては、蒸着処理開始時には真空槽内に水素ガスが存在しなかったことから、蒸着処理において十分な量の水素ガスが供給されなかったために、溶融蒸発部内のアルミニウム溶湯の表面に酸化アルミニウムの被膜が形成されてしまい、安定した蒸着処理を行うことができなくなってしまった。
【0026】
実施例2:
工程A:
蒸着装置(真空槽内容積が2.2m3で、内部に直径355mm×長さ1200mmのステンレス製メッシュ金網で作製された円筒形バレルを真空槽内に左右平行に2個有し、円筒形バレルを回転させるとともに、水素ガスを含有するワイヤー状金属蒸着材料を溶融蒸発部に連続供給しながら蒸着処理が行えるもの:特開2001−32062号公報の図1と同様の構成)の真空槽内(槽内に付着していたアルミニウム蒸着被膜は予め完全に除去)を全圧が1.0×10−1Pa以下になるまで真空排気した後、アルゴンガスを真空槽内の全圧が1.3Paになるように導入した。その後、バイアス電圧−0.1kVの条件下、金属蒸着材料として水素ガス3.1ppm含有アルミニウムワイヤーを使用し、これをワイヤー送り速度3g/minで抵抗加熱式の溶融蒸発部に供給し、溶融して蒸発させ、イオン化してイオンプレーティング法を30分行って円筒形バレルを含めた真空槽内全体にアルミニウム蒸着被膜を被着させた。被着したアルミニウム蒸着被膜は水素ガスを3.0ppm含有していた。
【0027】
工程B:
工程Aにて水素ガスを含有するアルミニウム蒸着被膜を被着させた2個の円筒形バレルの各々に磁石体試験片を828個ずつ、合計1656個収容した。真空槽内を全圧が1.0×10−1Pa以下になるまで真空排気した後、アルゴンガスを真空槽内の全圧が1.3Paになるように導入した。その後、バレルの回転軸を1.5rpmで回転させながら、電圧−0.5kVの条件下、15分間グロー放電によるスパッタリングを行って磁石体試験片の表面を清浄化した。清浄化後の真空槽内の水素ガス分圧を測定したところ、5.7×10−2Paであった。なお、水素ガス分圧の測定は以下のようにして行った。即ち、真空槽外壁と接続した差動排気システムによって全圧を10−4Pa程度に減圧した場所に設置した四重極質量分析計(QIG−066:アネルバ社製)で測定した水素ガス分圧測定値を、同装置で水素ガス分圧測定値と同時に測定した全圧測定値が蒸着装置に直接接続した全圧真空計による計測値、即ち、1.3Paになるように換算して求めた。
【0028】
工程C:
次に、アルゴンガス圧をグロー放電時の圧力に維持し、バレルの回転軸を1.5rpmで回転させながら、バイアス電圧−0.1kVの条件下、金属蒸着材料として水素ガス3.1ppm含有アルミニウムワイヤーを使用し、これをワイヤー送り速度3g/minで抵抗加熱式の溶融蒸発部に供給し、溶融して蒸発させ、イオン化してイオンプレーティング法を15分間行って磁石体試験片表面に膜厚が7μmのアルミニウム蒸着被膜を形成した。
【0029】
工程D:
以上のようにして得られたアルミニウム蒸着被膜を表面に有する磁石体試験片をブラスト加工装置に投入し、N2ガスからなる加圧気体とともに、投射材としての球状ガラスビーズ粉末(GB−AG:新東ブレーター社製)を、投射圧0.2MPaにて5分間噴射して、ショットピーニングを行った。
ショットピーニングを行ったアルミニウム蒸着被膜を表面に有する磁石体試験片について、目視による外観観察と、外観観察を合格したものについて温度80℃×相対湿度90%の高温高湿度条件下に500時間放置して発錆の有無を観察するという耐食性加速試験を行った(n=10)。その結果、外観不良となった磁石体試験片は存在せず、耐食性加速試験はすべての磁石体試験片が合格した。
【0030】
比較例2:
実施例2における工程Aを省略し、水素ガスを含有するアルミニウム蒸着被膜を被着させていない円筒形バレルに磁石体試験片を収容すること以外は、実施例2における工程B〜工程Dと同じようにしてショットピーニングを行ったアルミニウム蒸着被膜を表面に有する磁石体試験片を得た。この磁石体試験片について、実施例2と同じ目視による外観観察と耐食性加速試験を行った。その結果、1656個中27個の磁石体試験片についてピーニングによるアルミニウム蒸着被膜の剥れが生じた。また、耐食性加速試験を不合格となった磁石体試験片が10個中3個存在した。
【0031】
以上の結果から明らかなように、実施例2においては磁石体試験片に対する蒸着処理を行う前に、真空槽内に水素ガスを含有するアルミニウム蒸着被膜を被着させる蒸着処理を行うとともに、磁石体試験片に対する蒸着処理を行うに際し、該アルミニウム蒸着被膜から水素ガスを放出させて真空槽内に水素ガスを供給したことにより、良質のアルミニウム蒸着被膜を磁石体試験片表面に安定して形成することができた。また、実施例2においても、磁石体試験片の表面清浄化を行ったが、清浄化工程の段階で真空槽内に水素ガスが供給されているので、水素ガスはこの段階におけるO2の他、H2Oなどに起因する悪影響の解消にも寄与していると考えられた。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、被処理物に対する蒸着処理開始時から処理室内に水素ガスを供給することができるので、長時間の蒸着処理を行う場合であっても、処理室内にO2が存在することによる悪影響を解消し、希土類系永久磁石などの被処理物の表面に金属蒸着被膜を安定に形成することができる。
Claims (8)
- 蒸着装置の処理室内に被処理物を収容していない状態で、該処理室内の少なくとも一部分に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させるための蒸着処理を行った後、該処理室内に被処理物を収容し、該処理室内を減圧することにより、該金属蒸着被膜から水素ガスを放出させることを特徴とする蒸着装置の処理室内への水素ガス供給方法。
- 少なくとも処理室内に配置された被処理物を保持するための被処理物保持部材に水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させることを特徴とする請求項1記載の水素ガス供給方法。
- 前記蒸着処理を水素ガスを含有する金属蒸着材料を使用して行い、水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させることを特徴とする請求項1または2記載の水素ガス供給方法。
- 被処理物表面に形成させたい金属蒸着被膜と同じ材質の金属蒸着材料を使用して蒸着処理を行い、水素ガスを含有する金属蒸着被膜を被着させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水素ガス供給方法。
- 金属蒸着被膜がアルミニウム蒸着被膜であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水素ガス供給方法。
- 金属蒸着被膜中の水素ガス含有量が0.5ppm〜20ppmであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水素ガス供給方法。
- 被処理物が希土類系永久磁石であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水素ガス供給方法。
- 請求項1乃至7のいずれかに記載の水素ガス供給方法によって処理室内に水素ガスを供給した後、被処理物に対して蒸着処理を行うことにより、その表面に金属蒸着被膜を形成することを特徴とする被処理物表面への金属蒸着被膜形成方法。
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JP2001214081A JP4729815B2 (ja) | 2001-07-13 | 2001-07-13 | 蒸着装置の処理室内への水素ガス供給方法 |
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